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『博士漂流時代』視座の優しさと事態の深刻

 年の暮れ、年内に一冊だけ取り上げておきたい本があります。私のサイトは「インターネットで読み解く!」として始まった経緯もあって、あまり書評はしていませんが、榎木英介さんの『博士漂流時代 「余った博士」はどうなるか? 』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)には話の始まりに関係しているのです。2年前、新聞社でオピニオン面を担当していた際に書いていただいた《「私の視点」2008年7月29日「博士研究員 就職難が招く科学技術の危機」》が本書のスタートになっていると献本いただく際に教えられました。

 新聞記者には記事を書く以外に編集者の役割もあります。あの時、メールでやりとりしながら、小ぶりなコラム「私の視点」に最初の原稿の2倍くらい内容を詰め込むことになりました。NPO法人サイエンス・コミュニケーション代表理事として若手研究者周辺の現場に関わってこられた経験にプラスして、近未来に向けて警鐘を鳴らしていただきました。新聞社のオピニオン投稿欄ですから新規性やニュース性がないと、部内を説得しにくいのです。

  第1章 博士崩壊
  第2章 博士はこうして余った
  第3章 「博士が使えない」なんて誰が言った?
  第4章 博士は使わないと損!
  第5章 博士が変える未来
  付録 博士の就職問題について識者に聞く

 これが本書にまとめられた構成です。榎木さんは昨年末の行政刷新会議「事業仕分け事件」から説き起こして、博士・ポスドク問題の今と過去を丹念に追っていきます。資料の豊富さは活動の幅から来るのでしょう。その視座は筆者の人柄の通り、渦中に投げ込まれて苦しんでいる人たちにとても優しいものです。博士活用を考える場面ではとことん可能性を追います。冗長かなと思えるほどなのも、優しさの故でしょう。一度ここまで広く展開してみることも確かに必要です。

 第2章にこんなエピソードがあります。「あるシンポジウムの場で、同席した著名な大学教授が、最近の大学院生はレベルが低いという発言をしたとき、思わず反論してしまった。『あなたたちに責任はないのですか』と」「自分たちがトレーニングした博士が、社会の中で低い評価を得ていることに、どうして憤らないのか」「もう大学院博士課程は科学者になる人だけを養成する機関じゃない。むしろ社会に出る方が多数派だ。なのに大学関係者の意識は変わっていない」。このトーンで押すのかと思いつつ第5章まで読んで、もっと突き放す必要を感じましたが、それは付録にある識者インタビューに委ねた形です。そこで非常に厳しい指摘を引き出しています。

 私から論点を追加させてもらえば、2004年の第145回「大学改革は最悪のスタートに」で副題とした「〜急務はピアレビューを可能にする研究者の守備範囲拡大〜」があります。使いにくい人材を作ってしまった大きな要因に、隣の研究室の仕事すらレビュー出来ない蛸壺型の研究環境があると考えています。これでは民間企業に就職しても困るはずです。

 博士・ポスドク問題が本質的には改善されない、動かない様は驚くべきで、2002年に書いた第120回「負け組の生きる力・勝ち組の奈落」の認識がいまだに現役で通用します。

 今年になって「水月昭道 blog」が「2010年版科学技術白書の怪 高学歴ワーキングプア増産か?」で痛打しています。「表面的には『博士の就職難』といった現象を採り上げてはいる。だが、なぜそういうことが起こったのか、どこに問題の本質があったのか、政策で増やしたはずの博士が十万人余りも職に就けず社会から姿を消そうとしているのはなぜなのか、それなのになぜ今また博士を増産しようとするのか、そして現在どれほどの非正規雇用状態にある博士が存在するのか。こういったことに触れず、科学技術の競争力低下を防ぐため『博士人材の育成が急務』と言われても、『すでに余りに余ってるんですけど・・』」

 今年半ば第208回「文系も理系も高学歴プアー:年上世代は身勝手」で申し上げたように、事態を動かす責任がある年上世代の目は節穴としか言いようがありません。さらに、官僚リークに頼る在京マスメディアの体質と感度の悪さがそれを許し、事態悪化を増幅していると指摘しておきます。


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