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絶対的医師不足の激化しかない新専門医制度導入

 医療崩壊が言われ始めて10年余、ウォッチして来た立場から来年導入の新専門医制度は絶対的な医師不足を激化させるしかないと考えます。大学の医局が再び研修医を抱え込む新体制は潤沢な医師数が無ければ無茶です。医学部の新増設に反対してきたのが医学界の大勢の中、2004年の初期研修医制度導入で研修医が大学を離れて自分で研修先病院を選ぶようになって、医局の力は地に落ちました。新専門医を育てる基幹施設は大学が中心とすることで復活したいとしか見えません。自前の努力で研修医を集めてきた自治体や中小病院が先行きを危惧して当然です。残念なことに、マスメディアは推進側と反対派の主張を両論併記する報道で逃げておく姿勢がありありです。

 2006年6月に《医療崩壊が産科から始まってしまった [ブログ時評59]》を書き、翌年には《お産の危機は首都圏にこそ迫っている [ブログ時評83]》で医師数が足りなくて地元で出産できなくなっている県があると指摘しました。最も医師不足が深刻な領域の一つ、産婦人科で調べれば新専門医制度の問題点が明らかになるでしょう。


 日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会が2014年に出した「わが国の産婦人科医療再建のための緊急提言」から引用したグラフ「資料2 2008-2013年度の都道府県別新規産婦人科医数(人口十万対)」です。学会と医会は年間500人の新規医師が欲しいと願っていて、それが真ん中の赤線です。全国的にとても足りていません。特に赤い棒グラフの県は希望レベルの半分以下で「極度の重症」と申し上げるしかありません。

 《過去6年間の都道府県別の人口あたりの新規産婦人科専攻医数には明らかな地域格差がある。東京、京都、大阪、岡山、徳島、福岡の都府県で研修開始した医師は相当数が周辺県に派遣されるなどして、その県の産婦人科医療に貢献しているものと考えられるが、そのような広域連携を考慮しても、資料2で赤で示した県については、絶対的不足状況に対する、緊急のてこ入れが必要と考えられる》

 赤グラフでも全国最低レベルにある福島で初期研修をした山本佳奈さんが《Vol.043 「基幹施設は大学が基本」が招く産科医療の危機 〜地方から考える産婦人科専門医制度〜》でこれから何が起きるか示しています。

 《私が初期研修を行った福島県の南相馬市立総合病院の産婦人科の常勤医は、たった一人だ。年間約230件ものお産を、常勤医一人でこなしている。一方、福島県立医科大学は常勤医18人に対し、年間分娩数は499件だ(2015年度)。常勤医一人当たりの分娩数はたったの24件である。どちらの施設で研修する方が、より経験を積むことができるかは一目瞭然だ。だが、南相馬は一人しか指導医がいないため、福島県立医大の連携施設の扱いだ。専門医を取得したければ、基幹病院である福島県立医大に所属しなければならない。どうすれば南相馬で研修ができるのかと、福島県立医大の産婦人科教授に相談したところ、「産婦人科医師が一人しかいない病院に専攻医は派遣することはない」と断言されてしまった》

 このままでは「地域医療に支障をきたす」と懸念する全国市長会に対して、日本専門医機構は大学への研修医吸い上げがあっても研修過程で関連施設に派遣するから支障はないとの立場です。でも、年間230件ものお産で孤軍奮闘している一人医長の病院は対象ではないのです。

 厚生労働省はまだ来年実施に必ずしも同意していません。6/13付、メディ・ウォッチの《専門医機構、地域医療への配慮について「必ず」都道府県協議会の求めに応じよ?厚労省検討会》はこう伝えています。

 《新たな専門医制度によって地域・診療科の医師偏在が助長されないよう、専門医機構は、研修施設群の状況などを「必ず」都道府県協議会に情報提供し、かつ都道府県協議会で「是正の必要がある」などとの求めがあった場合には「必ず」協力するべきである?。12日に開催された「今後の医師養成の在り方と地域医療の確保に関する検討会」(以下、検討会)では、荒井正吾構成員(奈良県知事)からこうした強い要請が出され、日本専門医機構の理事長である吉村博邦構成員(地域医療振興協会顧問、北里大学名誉教授)は関連規定の修正を約束しています。厚生労働省医政局医事課の武井貞治課長は、「検討会では、機構や学会が地域医療へどう配慮しているかをフォローしていくことになる。今般指摘された規定修正の状況や、都道府県協議会の状況などを見ながら、次回の検討会開催を考えたい」とメディ・ウォッチにコメントしています》

 これまでは専門医と称しても各学会で養成と認定の仕組みはばらばらであり、質を揃えたい趣旨は理解できます。しかし、絶対的な医師不足の中でおやりになるのは国民医療に重大な背信を招きかねません。医師免許を得たら一生安泰という医師のエゴが捨てられる程度に医師数を増やしてから、向上心がある医師は専門医に取り組むシステムにすべきです。医学部を作らせないで医師が足りないのに研修医は大学中心に集める――余りに自己中心的だと思われませんか。


福島の甲状腺がん、低年齢増えチェ事故化の恐れ

 福島の甲状腺がんは1巡目検査に比べ2巡目で事故当時10歳以下が2.7倍に膨れ上がっています。チェルノブイリ事故で10歳以下が顕著に増え始めた事故6年目が昨2016年に相当すると指摘して警鐘を鳴らします。「第5回放射線と健康についての福島国際専門家会議」の2016年10月提言は「福島におけるこの明らかな甲状腺異常の増加は、高性能な超音波診断機器を導入したために引き起された集団検診効果であると考えられる」と相変わらず現状を無視していますが、事故1〜3年目に実施の1巡目結果と事故4〜5年目の2巡目結果を比べることすら怠る「専門家」とは何なのか、ほとほと情けなくなります。福島の1、2巡目検査結果と、チェルノブイリ事故で汚染が深刻だったベラルーシ・ゴメリ州の1〜5年目と6年目の甲状腺がん登録を比較できるようグラフで並べました。


 できるだけ最新の県民健康調査「甲状腺検査」公表資料に基づいて「悪性ないし悪性疑い」とされた1巡目109例と2巡目69例を、事故当時の年齢で並べました。1巡目では10代後半にピークがあって集団検診効果と言わしめたものです。しかし、2巡目結果を重ねると10歳以下に顕著な異変が現れました。1巡目でわずか7例が2巡目で19例に、つまり2.7倍になっています。「放射線の影響なら低い年齢で現れるはず」と主張する専門家なら、1巡目は集団検診効果が大きかったとしても2巡目は別物ではないかと考えるべきです。

 ゴメリ州では1986〜90年は各年齢に散発的でしたが、6年目の1991年から0〜5歳、次いで6〜10歳の甲状腺がんが急速に増えました。チェルノブイリでは原子炉が爆発して放射性物質の飛散が激しく、空気中や雨で環境に定着したセシウムが被曝主体の福島とは状況が違います。全く同じ推移とは限らないものの福島の10歳以下の異変は、チェルノブイリであった1991年以降、爆発的ながん増加再現を強く懸念させます。

 原発があった浜通り、放射能の雲が再三流れた中通り、それ以外の地区とのがん発生に差が見られないというのも集団検診効果説の根拠でした。しかし、2015年12月の第508回「甲状腺がん、2巡目で明瞭な放射線影響に気付け」で2巡目に限って地図で分布を見ると汚染地域に集中していると初めて指摘しました。

 2巡目結果が出揃った現時点で検討すれば、いわき市を汚染地域から外して分類したのが間違いの始まりだったと分かります。2011年10月の『この放射能の雲の下に膨大な人がいた事実に戦慄』に掲げた放射能汚染ルート地図で福島市など北方面、郡山市など中通りに流れた以外に、首都圏に向かう雲がいわき市を通っています。

 汚染地域を原発周辺・福島市・郡山市・いわき市など、それ以外の会津地区などを対照地域としましょう。甲状腺がん発生率は1巡目で計算すれば汚染地域0.040%に対して対照地域0.025%になります。2巡目は汚染地域0.029%に対して対照地域0.015%でした。集団検診効果が薄れた2巡目で、より明確に放射線影響が出ていると考えます。

 2016年末のourplanet-tv.org《福島の小児甲状腺がん疑い含め183人〜2巡目で68人》は岡山大の津田敏秀教授の見解を伝えています。《「2巡目の検診結果は、相馬地区を除き、すでに桁違いの甲状腺がんの多発を示している。もちろん、統計的有意差が十分にある。」とした上で、「もはや2巡目について、スクリーニング効果」や「過剰診断仮説」は原理上は使えず、むしろ1巡目における「スクリーニング効果」や「過剰診断仮説」を評価をするにあたっての基準になる」と指摘する》

 2016年から福島では3巡目の検査が実施されています。まだ最終結果は出ませんが、その受診率が大きく下がっている点が危惧されます。今年2月の第26回「県民健康調査」検討委員会の資料では主に汚染地域で4-7歳42.1%、8-12歳53.5%、13-17歳63.2%しかありません。2巡目の受診率は4-7歳80.2%、8-12歳93.3%、13-17歳87.1%もありました。2016年9月の「福島県民健康調査」検討委員会で希望者のみを対象にするなど検査の縮小が提案され、異論が多く出て議論の末に現状継続となりました。受診率激減で分かる通り実質的に検査は縮小されているのです。これからが心配される時期なのにです。


中国の鳥インフルエンザH7N9型流行が過去最大に

 2013年に中国で発生した鳥インフルエンザH7N9型のヒトへの流行が今シーズンは過去最大になっています。中国政府が15日に発表した第6週(2/6-2/12)の患者数が69例に達し、死者が8人でした。既に中国本土だけで370例を超える患者数であり、2013〜2014年シーズンの310例余を軽く上回りました。パンデミック、感染爆発の新型発生ポテンシャルを秘める中国だけに注目です。


 発表データをグラフにしました。今シーズンは週ごとの発生数が際立って大きく、2013〜2014年シーズンのピークが43例(2014年第4週)だったのに、年明け第1週に107例のピークを記録しました。1月の死者数が79人と発表されており、新たな8人を加えて何人になるのか不詳ですが、15日付のロイターによると国家衛生計画出産委員会は今シーズン累計死者数を100人としているようです。過去の1月の死者数は20〜31人だったので大幅に上回っています。

 鳥インフルエンザウイルスに大きな異変はなく、地域コミュニティの中で伝染していく力は獲得していないとされています。生きた鳥類からの感染が主なので、そうした鳥の市場に閉鎖が命じられました。しかし、上がっている症例報告の中には親子や同じ病院の入院患者同士の発生例があり、WHOでもヒト感染の可能性が否定できないと見ています。

 2013〜2014年シーズンについては同年3月の第414回「鳥インフルエンザ、終息せず散発発生を継続」で詳報しています。H7N9型は鳥にとっては高病原性ではなく感染しても死に至りませんから、生きた鳥は厄介です。鶏肉などを4度以下のチルド状態で流通させる方向が図られていたはずですが、実現していないようです。

 パンデミック、感染爆発に至る新型インフルエンザを生み出すのに中国南部は格好の条件を備えています。大量の豚と鳥と人間が一緒に住んでいる地域だからです。鳥インフルエンザの流行が散発的に起きていますが、今のところヒトとヒトの間で感染力があるウイルスは現れていません。ところが、豚は鳥インフルエンザウイルスとヒトインフルエンザウイルスのどちらにも感染でき、体内で遺伝子組み換えを起こして本格的なヒト・ヒト感染を起こせる新型インフルエンザを作り出す可能性があります。


実は24億人が安全な水を飲めず、経済負担も大

 3月22日の「世界水の日」に関連したリポートで興味深い指摘を幾つか見つけました。汚れた水を飲む人が6億6300万人と伝えられていますが、実は改善水源でも大腸菌汚染があり18億人が安全な水を飲めません。水を得るための費用は途上国では収入の半分にも及ぶともされています。改善水源が得られない人口だけとってもインドが最多で7577万人、次いで中国の6316万人、アジア・アフリカを中心に膨大です。

 ユニセフの《3月22日は『世界水の日』 気候変動が安全な水を脅かす》にこう指摘されています。

 《ミレニアム開発目標(MDGs)が終盤を迎えた2015年には、6億6,300万人を除く世界中のすべての人々が、排泄物との接触がないはずの改善された水源から得られた飲料水を利用することができました。しかし、新たに利用可能となった検査技術のデータによると、推定18億人が、改善された水源を利用していてもなお、大腸菌に汚染された、つまり便の成分を含んだ水を飲んでいる可能性があることが示されました》

 つまり改善水源が無い人と合わせれば未だに24億人以上が「安全な水」を得られていないのです。指摘はこう続きます。

 《便による水の汚染をもたらす主な要因の一つは、衛生環境の不足です。世界中で24億人が適切なトイレを利用できず、そのうち10億人弱が屋外で排泄しています。これは、多くの国やコミュニティで排泄物が広く蔓延している可能性があり、改善された水源すらも汚染されてしまうことを意味しています》

 ウォーターエイドジャパンによる《水の価値とは? 2016年の世界の水》は「家庭で安全な水を手に入れられない開発途上国の貧しい人にとって、わずかな収入の中から、推奨されている量である1日あたり50リットルの水を購入するのは、大きな負担です。多くの人は健康と尊厳を犠牲にしてはるかに少ない量を使用するか、安全ではない水源から水をくんでいます」として、収入の半分にもなるパプアニューギニアやマダガスカルなどを例示しています。

 改善水源が無い人口についても取り上げていて、インドや中国に次ぐのはナイジェリア5775万人、エチオピア4225万人、コンゴ3390万人、インドネシア3228万人などです。

 インドの場合、改善水源が無い人たちは「ほとんどが、1日あたりおよそ3ポンド(495円)で生活しています。給水車から水を買う場合は、1リットルあたり1ルピー(1.7円)」なので経済負担が大変です。汲み上げによる急速な地下水低下がインドでは大問題になっています。一方、富んできた沿岸部では膜技術による海水淡水化や浄化再利用がビジネスになってきました。中国同様に一国内での格差・落差が深刻です。

 中国については第402回「南水北調は中国経済成長持続の難題を解けずか」〜大気汚染と並び未来占う鍵〜で毛沢東が発想した巨大通水事業が出来ても水問題は解けそうにない事情を探っています。


40兆円超え医療費膨張に厚労省は無策なまま

 2014年度医療費が40兆円の大台を超えます。年に7千億円と増勢は鈍ったものの膨張持続は財政にとって危機的です。しかし、厚労省は切り札と言っていたメタボ検診の効果分析を投げ出すなど、あまりに無策です。政府は価格が安い後発医薬品の活用などを対策にあげる程度であり、病院のベッド数が多い西日本を中心に医療費がかさんでいるとの昔からの見方を変えていません。先月、近畿大とハーバード大のグループが医療の質と医療費の相関を分析した論文を出しており注目すべきです。1人当たり医療費が低い首都圏と東北は満足な医療が受けられていない一方、西日本でも高医療費が生きていない県があります。情報社会にふさわしい分析が医療費については出来ていません。広く研究者に詳細データを公開して質を保ちながら抑制するアイデアを考えてもらうべきです。


 8月に英科学誌に掲載された《医療費と心肺停止患者の生存率の関わりを初解明〜都道府県ごとの正しい医療費の目標設定に貢献〜 近畿大学医学部救急医学教室×ハーバード大学》にある相関データをグラフにしました。研究手法と結果の概要は次の通りです。

 《2005〜2011年に日本国内で発生し、救急搬送された院外心肺停止の全患者618,154人のデータを解析しました。各県の医療の質の指標として、院外心肺停止患者の1カ月生存率および1カ月後の神経学的予後を用いました》《低医療費の都道府県と比べて医療費が中等度の都道府県では1カ月生存率が統計学的に有意に高いことが明らかになりました》《医療費が中等度と高い都道府県では患者の予後に差はありませんでした。1カ月後の神経学的予後を用いた解析でも同様の結果が認められました》

 1人当たり医療費は2005〜2011年の平均値で、高医療費の県として引き合いに出される高知が図抜けています。高知は1カ月生存率で6.4%と好成績ですが、同じ四国で医療費が高い徳島は3.5%と振るいません。8.4%とトップなのは富山ですが、6.3%の石川、3.9%の福井と、医療費がそろって高めな北陸三県なのに成績はばらばらです。

 グラフの左下方面に3.4%の東京など首都圏と東北の都県が集中しています。医師不足、病院不足が言われる地域であり、救急医療の成績が悪くなるのもやむを得ないでしょう。関西の中心部、大阪・京都・兵庫は医療環境に恵まれていますから、そろって6%前後とまずまずの成績になっています。

 医療の質は救急医療の成績だけでは決められないと思いますが、ひとつの切り口としては有用でしょう。研究者が指標になる色々な切り口を考えていく上で、医療データの電子化が足りないのは致命的です。こんな時に時事通信の《メタボ健診、効果検証できず=データ数十億件宙に―厚労省対策放置か・検査院》を見て、本当にがっかりしました。

 《健康改善や医療費抑制の効果について、健診や指導の結果とレセプト(診療報酬明細書)の情報を照合し、18年度に検証するとしていた。今年2月末までに、レセプト情報約87億9000万件、健診データ約1億2000万件を収集した。検査院が11、12年度の実態を調べたところ、照合できたデータの割合は12年度で25%、11年度は19%に過ぎなかった》《入力文字の全半角や漢字・カタカナ書きの違いで同一人物と認識しないシステムになっていたためで、入力の統一マニュアルもなかった。個人情報保護でデータが暗号化されるため、再照合も困難という》

 昨年の『メタボ健診重視政策は医療費膨張危機からの逃避』ではメタボリック症候群健診そのものを批判しましたが、「健康政策に活用する」と言っていた健診データをメチャメチャにしていたとは呆れます。人間ドック学会が打ち出した健診基準の見直しは大いに期待されたのに第441回「医師の患者水増し阻む新健診基準は立ち消えか」で伝えたように陽の目を見ません。日本医師会など利害関係者の顔色をうかがいながら官僚の狭い視野で考えたって埒が明かないのは当然です。もっと情報をオープンにして、広い範囲で議論すべきです。


韓国MERS対応のズサン、防護服を17日まで着けず

 収束が長引く韓国の中東呼吸器症候群(MERS)で26日、聯合ニュースが多くの患者を出したサムスンソウル病院で17日まで防護服を着けないで患者に対応と伝えました。セウォル号事故などのズサン体質そのままです。26日の新たな患者は医師で、同病院の医師感染者は4人になりました。全体の患者数は181人、死者は31人に上っています。


 防疫当局による発表日での患者と死者の累計グラフです。サムスンソウル病院での3次感染源になった患者は第485回「朴大統領の訪米に止め刺した大病院の不始末」にあるように、単なる肺炎患者と考えて先月27〜29日の3日間も通常の病室に置かれ、院内を自由に動いたとされます。グラフを見てもその後の患者急増に大きく響いた点が見て取れます。

 現在はサムスンソウル病院などソウルや周辺の4病院を中心に、4次感染と見られる患者発生が続いています。南に離れた釜山でも散発的に患者が出ています。こうした中で最高レベル医療機関とされるサムスンソウル病院が防護服を17日まで医療スタッフに渡していなかったのは驚きです。「Dレベル」を防疫当局が指示していますから、呼吸まで守る厳重な防護服ではなく皮膚を完全に遮断出来る程度のものです。グラフを見ても17日には患者は160人を超えて、あまりにも遅い配備です。181番目の患者になった医師は防護不十分で患者を診療して感染したと見られます。接触があった医療スタッフ多数の隔離を迫られそうです。

 聯合ニュースによると、患者181人のうち医師は7人、これに看護師、介護者などを合わせると病院関連従事者は35人になるといいます。サムスンソウル病院以外でも防護が不十分であった点がうかがえます。第477回「安全になれぬ韓国、手抜き勝手の国民意識が原因」で《韓国の場合は法やルールに従うかどうか誰もが勝手に判断している「5000万総人治」であり、安全になれる方が不思議》と指摘しました。防護服の未着用も勝手な判断があったと見られます。


一気に噴き出した韓国当局管理外のMERS感染

 連日2桁の新患者を出し続ける韓国MERSで13日、感染の質的変化が顕著になりました。防疫当局が管理できていない場面での感染が目立ちだしたのです。病室内3次感染の段階で収束させる目論見が破綻しかけています。各病院の医療スタッフの疲弊が酷くなり、軍からも応援が出される中、長期戦化は大きな負担になります。13日発表患者には初の4次感染者が含まれ、12人増えて患者138人、死者も14人に増えました。

 中東呼吸器症候群(MERS)12人の新患者の内、これまでのように病室内での感染が確認されたのは6人だけです。4次感染は残る6人の1人で救急車の運転士、ほかの5人はサムスンソウル病院関連とされるものの経路が不詳で調査中になっています。4次感染を詳しく伝える《救急車運転士がMERSに感染…感染者計138人に》が問題点を露わにしています。

 《当時76人目の感染者は、サムスンソウル病院の救急救命室で14人目の感染者に接触後、観察対象になったが、当局の監視網をくぐり抜け、5日から6日の間、江東(カンドン)慶煕(キョンヒ)大学病院の救急救命室と、建国(コングク)大学病院の救急救命室に行った。その際、救急車で搬送されたのだった。当局は3日から76人目の感染者名簿を確保し、管理してきたと言ったが、監視はたった2回の電話だけで、患者は他の病院に移ったのだった》

 76人目の感染者は7日に感染が確認されて、10日に亡くなるのですが、感染の恐れを自己申告してくれなければ救急車運転士には自分を守るすべがありません。第485回「朴大統領の訪米に止め刺した大病院の不始末」で述べた、患者による医療機関「はしご」習慣がウイルスをまき散らした実例になりました。

 サムスンソウル病院の救急救命室が3次感染の中心であり、60人以上を感染させる「スーパー伝播者」だった14人目の感染者は29日にはここを離れたので潜伏期間2週間はもう終わりました。サムスンソウル病院関連で経路不詳の5人は、この14人目の感染者との接触が確認できないだけでなく、救急救命室外での4次感染も疑われます。1565人参加の外部集会に出た同病院の感染医師は院内でも自由に動き回りました。また、救急でない外来患者で14人目感染者との接触が確認できないのに感染した例があります。

 病院から外のウイルス地域拡散が起きていると疑わせる例もここに来て発生しています。警察官である119番目の患者(35)と女性介護者である126番目の患者(70)は患者が通過した病院に行っているものの、すれ違っていて接触は考えられないと言われます。現在、調査に入っているWHOのスタッフも「韓国の場合、地域拡散があっても驚かない」と言っていました。問題は小規模で収まるかどうかでしょうか。

 最初の「震源地」平沢聖母病院、3次感染の中心サムスンソウル病院に続いて患者数が増えている病院がいくつかあり、当局は神経を尖らせているが、管理と収束のシナリオが破れるならどうにもならない事態になります。


朴大統領の訪米に止め刺した大病院の不始末

 中東呼吸器症候群(MERS)流行でも14日からの訪米はするとしていた韓国の朴大統領が突然中止を発表しました。最高レベルの大病院サムスンソウル病院で最大の3次感染があり、勢いが止まらないからでしょう。10日に患者数は百人突破して108人、死者9人に増えました。9日の新患者数がわずかに減ったことを根拠に「今週中に収束見込み」としていた保健当局のファンタジーは打ち砕かれました。香港は9日、全ての韓国ツアー中止です。

 サムスンソウル病院での感染による患者数は7日までに17人いて、8日に17人も発生しましたが、9日には新規は3人になりました。「発生の峠は過ぎた」と見た大統領府は訪米に強気だったのですが、10日に10人の新患者が出て、一夜明けて方針転換せざるを得なくなりました。

 9日までのデータをもとに医療専門家に聞いた中央日報の《<MERS>今後の運命、2日後に決まる=韓国》が「サムスンソウル病院の接触者の潜伏期がほぼ終わる今週金曜日まで多数の患者が出てこなければ、小康局面につながる可能性がある」という安心寄り見解と、「今週が過ぎればサムスンソウル病院の感染者が出てこないというのが防疫当局の考えだが、それはその病院の応急室にいた人が防疫レーダー網にすべて入っている場合だ。不幸にも他の病院でも患者が出ている状況では決して安心できない」との不安な見方を伝えています。

 韓国最高レベルと言われる医療機関、サムスンソウル病院のミスは、先月27日に救急車で運ばれた患者を単なる肺炎患者と考えて3日間も通常の病室に収容し、感染を広げてしまった点です。この3次感染で発生した患者は既に47人で、患者全体の44%にもなりました。4次感染の確認例はまだ無いものの、ウイルスに暴露した可能性がある患者と職員は2000人に達すると見られ、病院側は隔離と監視に必死です。

 先日の第484回「韓国MERS危機は共同体の安全を考えぬ国民性から」で取り上げた1565人が集まった屋内集会に参加した感染医師も、このサムスンソウル病院の医師です。彼が隔離対象から外れていたのは、3次感染のもとになった患者との接触が軽いと考えられたからです。不手際は二重三重に重なっていて完全に感染の範囲を網羅できているか疑問があります。

 韓国の患者には診断が確定するまであちこちの医療機関を「はしご」する習慣があります。発熱などの症状を持ったままですから、MERSのような場合は危険極まりないのです。「はしご」した病院での感染が伝え続けられており、隔離対象の完全な把握は大変です。

 朝鮮日報は社説《無責任な韓国社会が招いたMERS感染拡大》で《MERSの感染拡大がここまで拡大した第一の責任は、当初からずさんな対応を続けた韓国政府にあるのは間違いない。ただその一方で、自らが伝染病を広める恐れがあるにもかかわらず、あまりにも軽々しい行動を取る個人にも大きな責任があると言わざるを得ない》と認めています。《韓国社会には法律やルールを「自分ではなく他人が守るもの」という意識が広くまん延している》と嘆きます。

 大病院から個人の患者まで守るべき、するべき規範を外れているからの流行と言わざるを得ません。香港政府は韓国に対して渡航安全情報で2番目に重い「赤色警報」を出し、香港旅行業協会が9日、全ての韓国ツアーを中止したと報じられました。


韓国MERS危機は共同体の安全を考えぬ国民性から

 韓国の中東呼吸器症候群(MERS)流行が病院内感染の枠を超え、地域拡散の様相すら見せ始めています。この危機を生んだのは無能な役人と医療関係者、そして共同体の安全を考えぬ手前勝手な国民性にあると見えます。患者発生か滞在の病院公表を渋っていた政府が7日に初めて明かした24病院は「ソウル、京畿道、忠清南道、大田、全羅北道」で、17ある第一級行政区画の東部5区までに広がっており、離れた西南部の釜山で60代男性に陽性反応が出て2次最終判定にかけられています。《釜山で初のMERS感染者か…1次検査で陽性》は「陽性反応が出たこの男性は先月、京畿道富川市の斎場に行って来た後、MERS感染が疑われる症状を見せたという」と伝え、病院での患者との接触に限られていた感染経路ではなくなっており患者と確定すれば深刻な事態です。

 最初の男性患者(68)が自らMERS検査を求めたのに、政府の疾病管理本部が「訪問国はバーレーンだけ」と聞いてMERS発生国でないとして一度拒否しました。このため症状が出てから4病院を転々とするのですが、サウジアラビア訪問を最初から聞き出せなかった病院も、結果的に感染確認を2日遅らせた政府側もズサンすぎます。さらに感染力を甘く見て十分な防護措置をしなかったために大量に2次感染者を生みました。7日現在の患者は3次感染まで含めて64人、死者5人です。

 イ・ジョングソウル大学病院グローバルセンター長・元疾病管理本部長が中央日報に寄稿した《【時論】MERS危機を育てたのは安全不感症=韓国》が厳しく叱責しています。

 《韓国の行政当局の初期対応が失敗だったのだろうか。韓国の中小病院の病院感染管理が問題なのか。韓国国民の安全文化が誤っているのか。この質問の相当部分が事実である。まず、最初の患者の足取り調査に失敗した。最初に症状が出て病院4カ所を回ってから申告された。そのため、その病院の接触者に対する逆追跡を速やかに行えず、今まで1400人余りを隔離措置するほかなかったのだ。これは外国の疫学資料ばかり信じて緩い措置を取ったためだ》

 《隔離にともなう弊害を懸念して、隔離を躊躇したためでもある。韓国当局は数多くの病院医療スタッフの手や劣悪な病室のドアの取っ手、水道の蛇口について考えることができなかった。換気ができない施設によって同じ部屋・同じ階の患者や看病した家族に広まりうる危険性を現場で見いだせなかった。臨床検査中心に調査していたため、広範囲の接触者を遮って疫学的つながりを遮断する措置を取ることができなかった。これがMERSの流行を統制できていない直接的な原因だ。専門家がおらず、組織も貧弱で権限もあまりなかったと言うだろう。しかし弊害があるとしても幅広く防疫網を張り、捜査をするかのように行動すべきだった》

 専門家の側に欠陥があり、受け止める一般国民側の公共心の欠如、自分勝手も第477回「安全になれぬ韓国、手抜き勝手の国民意識が原因」で指摘した通りに恐るべきものです。大量の隔離対象者を出しているのに隔離施設が貧弱であるために大半が「自宅隔離」になり、1日2度の確認電話で所在を確かめている状況です。「自宅では息が詰まるからゴルフに行った」ソウルの女性は警察まで動いて連れ戻す騒ぎになりました。

 住民105人がいる全羅北道淳昌郡淳昌邑の村全体が5日から、村から出ることも外部から村に立ち入ることも禁止されたケースも72歳女性の身勝手からです。最初に患者が出た京畿道の平沢聖母病院に入院していて、退院しても自宅から出ないように保健所から指示されていたのに高齢者施設に出入りして村民ほぼ全員と接触する始末でした。MERSの第1次検査でこの女性に陽性反応が出て、村全体の隔離が決まりました。

 ソウルの男性医師(38)が症状が出てから1500人を超える参加者の集会に出るなどしたと、ソウル市長が緊急記者会見で暴露した騒ぎも、医師にもあるまじき公共意識の欠如例に数えられるでしょう。《「MERS確診のソウル医師、1565人集まった総会に出席」》はこう報じています。

 医師は《1日に確診判定を受けた35人目の患者だ。ソウルの大型病院の医師であるA氏は、14人目の患者と接触した後に先月29日から軽い症状を見せていた。彼は翌30日午前9時から正午まで病院の大講堂シンポジウムに参加した》《せきと高熱が次第に激しくなり始めたのは30日からだという。彼は同日午後6時から7時間、ショッピングモール「ガーデンファイブ」の飲食店で家族と夕食をとった。そしてすぐに午後7時から良才洞(ヤンジェドン)Lタワーで開かれた「開浦洞(ケポドン)住公アパート再建築組合総会」に約30分間参加した後、帰宅した。総会に参加した人数は1565人だった》《症状は先月31日から急激に悪化した。だが彼は再び午前9時から10時間、病院の大講堂で行われたシンポジウムに参加した。症状が激しくなった彼はこの日午後9時40分には病院に隔離された》

 症状のある医師と接触した市民の数はいくらになるのか、空恐ろしくなります。ソウル市長が暴露したのは政府が事実を知りながら沈黙していたためです。市長と政治的に対立関係の大統領が暴露を非難すれば、市長もやり返す展開になっています。病院名の公表が遅れたように政府は必要な情報を公開せず、市民はネットの情報に依存する有り様になっています。

 3次感染者が出ただけで終息するなら良いのですが、3次感染の外側に広がるようならパンデミック、感染爆発の危機です。大手紙は大統領に直接、指揮を取れと求め始めています。今月中旬に予定の大統領訪米どころでなくなる可能性が見え始めました。


エボラ出血熱の脅威、米国の感染が蟻の一穴か

 エボラ出血熱の二次感染があろうことか米国で起きてしまいました。国連が「あと60日が勝負」と訴えるほど差し迫っている人類への脅威です。しかし、最新情報では米国はまだ本気で取り組んでいなかったようです。CDC(米国疾病対策センター)と言えば感染症対策では世界中から一目置かれる組織であり、そこが感染防止に失敗したなら手の施しようが無くなると思えたのですが、感染した看護師の防護ガウンは手首や首が露出する簡易タイプで、実地訓練もされていなかったと言います。看護師は微熱がある状態で隔離される前日に民間機に搭乗したことも明らかになっており、米国での感染が蟻の一穴にならぬよう願いたいものです。

 WHOの感染状況リポートによると、10月13日現在で患者9216人、死者4555人です。9月14日現在が患者5335人、死者2622人ですから、1カ月足らずで患者が3881人、死者が1933人も増えています。国連のエボラ出血熱対策チーフが国連安全保障理事会に西アフリカからテレビ中継で「エボラ出血熱を今止められなかったら、世界は完全に未曽有の事態になる」と警告しました。12月までの60日間に「感染者の70%を療養施設に収容し、死亡者の70%を二次感染なく埋葬しなければ、感染拡大は止まらない」と言うのです。

 医療ガバナンス学会のメールマガジンでベイラー大学病院ベイラー研究所の滝田盛仁医師が《Vol.239 現地レポート(2): 拡大した米国でのエボラウイルス感染》を出しています。死亡したトーマスさんは1回目の受診では抗生剤をもらって帰宅になり、容態が悪化して2回目で入院でした。詳細を知ると、オバマ大統領のエボラに掛ける意気込みとは落差がありすぎてショックでした。

 《なぜ、病院で2次感染?――具体的にどのような作業が原因で、2人の看護師がエボラウイルスに感染したか未だ不明である。病院の説明では、2回目にトーマスさんが救急搬送されて以降、医療スタッフは全員、CDCのガイドラインに沿って、ガウンや手袋、マスクなどの血液・体液感染を想定した感染防御対策をしていたという。エボラウイルスに感染した2人の看護師は、1回目にトーマスさんが救急外来を受診した際に診療に携わっておらず、感染防御対策を開始した2回目の来院からトーマスさんの治療に当たっている。
 これに対し、全米看護師連合 (National Nurses United)の調査によれば、(1)トーマスさんは救急搬送後、数時間、個室に隔離されていなかった, (2)手首や首が完全に締まらない簡易タイプのガウンが看護師に支給された, (3) 看護師を対象とした実地訓練は実施されていなかったなど、病院の受け入れ体制に不備があったと言う。病院長はトーマスさんの1度目の救急外来受診について対応のミスを認め、公式に謝罪した。現在、CDCが真相を究明中だ》

 微熱があった看護師が搭乗したクリーブランドからダラスへの飛行機にはオハイオ州とテキサス州の小学校児童が乗り合わせており、臨時休校措置がとられています。スペインでの二次感染も心配ですが、米国でのウイルス拡散の恐れはより深刻です。やはり感染爆発が心配された中国の鳥インフルエンザについては3月の第414回「鳥インフルエンザ、終息せず散発発生を継続」で発生状況を集約しました。


医師の患者水増し阻む新健診基準は立ち消えか

 人間ドック学会と健保連による大規模調査で生まれた新しい健診基準が医師側の反発で立ち消えになりそうです。医師は臨床判断で患者の範囲を広く取るのですが、「健康な患者」が大きな負担を負う現実は見直すべきです。社会的にも毎年1兆円も増え続ける国民医療費の急膨張は、国家財政からも放置できない段階に達しています。ところが政府は『メタボ健診重視政策は医療費膨張危機からの逃避』で指摘したように、抜本的な対策から逃げています。新健診基準を生かさないのでは、もったいなさも極まります。

 人間ドック学会は《4月4日報道機関へ公表した内容について》で「予定として5月をめどに最終報告書を取りまとめることになっております」「この事業実施報告書を受けて、私どものガイドライン委員会、役員会等にて議論した上で健診の現場で使える判定基準をこれから作成していくと言うこととなります」と説明していました。

 しかし、現実には最終報告書は出されず、学会のホームページで「基準範囲について」と題したページが出来て、釈明している説明用ポスターと日本医師会からのコメントなどへのリンクがはられているばかりです。肝心の文書《新たな健診の基本検査の基準範囲〜日本人間ドック学会と健保連による150万人のメガスタディー》へのリンクさえ遠慮している有り様です。

 7月25日付けの日医白クマ通信《日本人間ドック学会・健保連が示す検診の検査基準に対する見解(補足)―高久日本医学会長、松原日医副会長》で医師側の主張を見ましょう。

 《高久日本医学会長は、通常、検査の「基準値」と言われているものには「基準範囲」と「臨床判断値」があるが、両者は意味するところが全く違っており、明確に区別すべきものであると説明した上で、先般、人間ドック学会・健保連が公表したのは「基準範囲」で、これは、多くの健常人から得られた検査値を集めて、その分布の中央95%を含む数値範囲を統計学的に算出したものであり、疾病の診断、将来の疾病発症の予測、治療の目標などの目的に使用することは難しいとの考えを示した》《「疾病の診断、将来の疾病発症の予測、治療の目標に用いられるべきは臨床判断値である」と強調した》


 説明用ポスターに掲載の図を引用しました。人間ドック学会の調査は健康人を対象にしており、左側の手法です。これに医師が主張する「予防医学的閾値」と本当の発病者を加筆すると右側の図になります。健康人でも臨床判断としてオレンジ色の部分が患者側に取り込まれています。

 例えば動脈硬化学会の基準は、悪玉コレステロールと呼ばれる「LDL―コレステロール」が血液1デシリットル中に140ミリグラム以上で病気としています。人間ドック学会の新基準値は女性だと年齢ごとに変わり、65歳以上では190ミリグラムまでは健康とします。男性は178ミリグラムまでです。両者のギャップに大量の「健康な患者」がいてコレステロール値を下げる薬を飲まされている訳です。それが本人のためになっているのか、疑問が大きいから困るのです。

 朝日新聞の《悪玉コレステロールの適正値は 人間ドック学会、健診基準値緩和案》はこう伝えます。《動脈硬化学会の指針によると、日本人の中高年者は高血圧などの問題点がなければ、10年以内に冠動脈疾患で死亡する確率は1、2%かそれ以下。LDL―C値の高い人が、それを下げても死亡率は0にならない。2、3割減るという疫学研究があることから、1%の死亡率が0・7%に下がる程度とみられる。また、LDL―Cを含む総コレステロール値が低いと、日本人にはもともと少なかった冠動脈疾患は減るものの、多かった脳卒中などが増えるという疫学研究もある。病院に通い、薬を毎日飲むという経済的、時間的な負担に見合う利益が、LDL―C値を下げることにあるのかどうかは意見が分かれている》

 実はあろうことか、悪玉コレステロールの高い人ほどトータルの死亡率は下がるとの研究結果が出ています。特に男性では悪玉コレステロールが低いグループほど癌や呼吸器系疾患の死亡率が高いのです。大櫛陽一・東海大医学部教授らによる総説「日本人はLDL-Cの高い方が長生きする」 (脂質栄養学:2009)がその論文です。


 「図3 LDL-Cレベルと死亡率」を引用しました。「神奈川県伊勢原市で1995年度から2005年度まで男性9.949人(平均年齢64.9才)、女性16、172人(平均年齢61.8才)を追跡して、LDL-Cレベルと原因別死亡率を調べた結果」で、平均追跡期間は8年を超します。《「悪玉コレステロール」なのですから増えるほど、つまりグラフの右側ほど死亡率が高くならなければいけません。一目瞭然、話が逆でグラフは右下がりです。コレステロールが問題になるであろう虚血性心疾患などが棒グラフ中央の白っぽい部分です。男性の一番高いグループでやや増えていますが、LDL−Cが低いグループは悪性新生物つまり癌や呼吸器系の疾患が多くて遙かに高い死亡率になっています。LDL−Cが足りないと抵抗力が弱まるからです。一方、女性でいずれのグループもあまり変わらず、「LDL-Cを下げる必要性は全く無い。従って、女性では120mg/dl以上が最適値である」》

 詳しくは第217回「男性で逆だったコレステロールの善玉と悪玉」で取り上げているので参照してください。第160回「年3000億円の大浪費・コレステロール薬」で指摘したように医療保険財政の危機からも、この際、総点検して見直すべきなのです。人間ドック学会の今回の健診基準見直しが立ち消えになるのは、あまりに惜しいと考えます。


メタボ健診重視政策は医療費膨張危機からの逃避

 政府の「健康・医療戦略」素案を読売新聞が報じ、その柱がメタボリック症候群健診の受診率アップだというのです。国民医療費が3年連続で1兆円増えている危機的状況から目をそらす逃避政策と言わざるを得ません。健診と称してウエスト測定値が減った増えたと騒いでいますが、『小太り長生きは日本で調査済み。WSJ報道に驚くな』で指摘したように、少なくとも男性に限れば小太りの方が長生きとの大規模追跡調査があるのです。社会保障費対策として消費税率をいくら上げても追いつかないペースの医療費膨張を前に、抜本的な対策にはなり得ません。

 読売新聞の《メタボ受診46%を80%にする…政府戦略素案》はこう伝えます。《健康寿命を2020年までに今より1年以上延ばすことや、生活習慣病を引き起こす恐れのある「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」の人の割合を4分の1減らす目標を掲げた》《40〜74歳を対象とした特定健診(メタボ健診)の受診率が12年現在で46・2%と低率であることから、80%に引き上げるとの数値目標も明記した》

 さらに素案は医療機器市場を3兆2千億円まで拡大して、輸出を倍増させると華々しく打ち上げています。しかし、これは2013年度には40兆円を突破すると見られる国民医療費をむしろ増やす方向に繋がるはずです。医療は社会保障費の3割強を占めており、年金・介護などを含む社会保障給付費総額は2012年度の110兆円が2025年度に149兆円に膨らむ厚労省推計があります。消費税率が10%になったとしてもとても賄えない大きさです。

 医療費削減については高齢者医療の自己負担を上げる案がありますが、もっと本質的な対策――無用な医療を止める方向に舵を切るべきです。日経BPネットで《米国医学会が出した「衝撃のリスト」〜全米8割の医師が示した無駄な医療とは》がこう述べています。《「精神病でない子供にいきなり抗精神病薬は禁物」「風邪に抗菌薬は使わない」「ピルをもらうのに膣内診は不要」「PETガン検診は控えよ」「胃ろうは認知症では意味なし」》医療費を抑制するために《全米から出てきたこの衝撃のリストは真っ先に参考になるだろうと思えた。そのまま採用するかは別として、全米の国際的な学会が無駄と認定した医療が並んでいるのだ。日本での適用を考えない手はないだろう》

 実は政府は医療の本質に切り込む改革を、当然起きるであろう摩擦の大きさから避けてきました。しかし、第420回「人間ドック健診基準値の大幅緩和は遅すぎた結論」で紹介しているとおり機は熟しつつあると考えます。無駄な検査、無駄な投薬、すべきでない医療行為――こちらにこそ目を向けねばなりません。思い付きで始まったメタボ健診万能の怠惰な健康政策では、危機はもう乗り切れないと知るべきです。


川崎病の流行ピークと中国農業改革の節目が一致

 中国北東部の穀倉地帯から来る風に運ばれる毒素が、日本で川崎病の原因になっているとの推定が国際研究チームから発表されました。中国の農業改革で生産が高まった時期と川崎病の流行ピークが合致していると判明。中国原因説を補強する傍証として注目されます。重篤スモッグの中心物質、微粒子PM2.5は肺の奥まで入り込んで体内に侵入、一部は血流に乗ると考えられます。小児血管の病気、川崎病でも毒素が同様に粘膜から侵入して心臓冠動脈などに後遺症を残します。両者も関係があるかも知れません。


 自治医科大学公衆衛生学教室の《川崎病全国調査からみた川崎病疫学の特徴とその変遷》にある罹患率推移グラフには過去3回あった全国規模の流行ピークが現れています。1979年、1982年、1986年で、そのころ中国の農村で何が起きたか調べました。1979年には中国政府が農産物買付価格を18年ぶりに大幅に引き上げました。生産の刺激策を取ったのです。最も大きなピーク1982年の元日には個別農家への請負制を認める中国共産党中央の文書が発表され、集団営農だった人民公社制度が一気に解体に向かいました。3番目のピーク1986年にかけて農産物と副産物の統一買付けと割当買付け制度廃止など生産自由化が次々に打ち出されました。

 流行ピークはその後は見られなくなるものの、小児人口10万人当たり罹患率は上がって行き、既に1982年のピークを凌いでいます。実は中国共産党が2004年から2008年にかけて再び農業刺激策を毎年打ち出します。農民収入増加促進や農業インフラ整備などで、農村に生気を呼び戻したとされます。川崎病の流行推移は中国の農業生産とリンクしていると考えてよいようです。

 国際研究チーム発表の報道で最も詳しいのが《川崎病は中国から風に乗って日本へ?》です。《川崎病は、農業の手法が同地域や世界中で劇的に変化していた1960年代に初めて報告された。「これら病原となる粒子の生成が、農薬または化学肥料によるものなのか正確に突き止めるため、より焦点を絞った調査が必要になるだろう」と、研究の筆頭著者でバルセロナにあるカタロニア気候科学研究所の気候科学者、ザビエル・ロドー(Xavier Rodo)氏は語る。また、「農業がこの病気に重要な関係を持つことは間違いない」と同氏は付け加えた》

 中国農業での農薬や化学肥料の使い方が滅茶苦茶であることは広く知られています。全国各地の土壌汚染も政府が調査結果公表を拒むほど悲惨です。第345回「中国で暴露、ぼろぼろの環境行政と水資源管理」第346回「『がん村』放置は必然、圧殺する中国の環境司法」で司法と行政が問題の表面化を阻んでいる実態を明らかにしました。中国でも川崎病がかなり発生しているのかもしれません。中国農村部は健康保険制度が無いに等しいので、農村の子は日本のようには医者にかかれないのではと疑われます。


人間ドック健診基準値の大幅緩和は遅すぎた結論

 人間ドック学会が健康診断の基準値を大幅に緩和と発表のニュースが流れています。学会ホームページに詳細情報が出ていないものの、医療費の無駄遣いや個人への負担軽減が見込まれ、遅すぎたくらいであり歓迎します。これまでにも2008年に書いた第160回「年3000億円の大浪費・コレステロール薬」を始め、医療関係者「常識」のおかしさをたびたび指摘してきました。実はもっと緩和して良いはずなのです。

 一番詳しいNHKの《人間ドック学会「健康診断の正常値 緩めるべき」》を引用します。同学会と健保組合で健康人5万人のデータから正常とされる数値の範囲を調べると正常値が次のように見直されました。 《血圧は、現在正常とされる数値が、上の値は129まで、下の値は84までですが、上の値は147まで、下の値は94までとなった》
《肥満度を表すBMIの値は、現在男女ともに25までですが、男性は27.7まで、女性は26.1まで》
《中性脂肪は、現在149までですが、男性では198まで》
《悪玉コレステロールとも呼ばれるLDLコレステロールは、現在男女とも119までですが、男性は178まで、女性は30歳から44歳が152まで、45歳から64歳が178まで、65歳から80歳が185まで》
《総コレステロールも、現在男女とも199までですが、男性は254まで、女性では30歳から44歳が238まで、45歳から64歳が273まで、65歳から80歳が280まで》

 昨年の『小太り長生きは日本で調査済み。WSJ報道に驚くな』に掲げたBMI値と全循環器疾患死亡リスクを示すグラフでは、日本男性の場合は「27.0〜29.9」の小太り群が最も死亡率が低くなっていました。今回の改定で「25」から「27.7」へ引き上げたものの、さらに上でも構わないのです。

 第160回「年3000億円の大浪費・コレステロール薬」では英国の調査結果を引いてコレステロール薬で「心筋梗塞が減ると言ってもプラセボ、つまり偽薬群の12%が投薬群で10%になる程度のことです。一方で癌の発生と死亡が明らかに増えますから、死亡総数では偽薬群と投薬群で差が無くなります。お金を掛けた医療がこの集団全体に対しては何をしたのか、首を傾げる結果になりました」と指摘しました。米国でも「“悪玉コレステロール”の値が大幅に下がったにもかかわらず、死亡したり入院が必要になったりする疾患の総数は減らなかった」のです。

 さらに第217回「男性で逆だったコレステロールの善玉と悪玉」『メタボリック症候群を冷静に眺めよう』などをお読みいただければ日本の健康診断基準が、海外に比べて異様であることが理解いただけるでしょう。今回の緩和はまだ不十分です。


鳥インフルエンザ、終息せず散発発生を継続

 中国の鳥インフルエンザH7N9型流行は3月に入っても終息せず、散発発生を続ける傾向になっていることがWHOの定期リポートで明らかになりました。生きた鳥を料理に使う食習慣を絶たないと根絶は難しそうです。大きな都市では生きた鳥を扱う市場を鳥インフルエンザ流行に応じて一時的に閉めるのではなく、永久停止する動きになっています。WHOの「Report 14」にある週ごと発生例数グラフに、人民日報で報道されている最新データを加筆して以下に掲げます。


 昨年の第1波流行が患者135人で終わったのに対して、今の第2波は既に患者256人にもなっています。1週間に40例前後も発生したピークが旧正月の帰省ラッシュをはさんで存在しました。現在は週に10例程度の発生になっています。昨年第1波流行でのピークは第14、15週にあり、今回はまだ第10週なので気が抜けない状況です。死亡者は第1波が44人だったのに対し、第2波は2月末で72人もいて今後さらに増える見込みです。

 第1波と第2波の患者数を、主な市と省で北から並べて比較します。
  北京 2 → 2
  江蘇 27 → 15
  安徽 4 → 6
  上海 34 → 8
  浙江 46 → 89
  湖南 3 → 15
  福建 5 → 16
  広東 0 → 91
  全体 135 → 256

 上海市から北側は全体の流行規模が拡大したのに良く発生を抑えた印象ですが、浙江省から南では第2波流行の激しさが出ています。特に香港の北にある広東省は最大の患者数91人になっています。第1波では江蘇、上海、浙江で生きた鳥を扱う市場を閉鎖したら流行が終息しました。今回の第2波もそれに習った措置が取られました。北京と上海はさらに進めて永久停止を打ち出し、江蘇省の南京市も追随しました。浙江省でも杭州など主要都市は永久停止の方向ですが、小規模な市は漏れています。広東省では2週間の都市部市場閉鎖で患者発生が下火になっています。

 H7N9型は鳥にとっては高病原性ではなく感染しても死に至りません。このため生きた鳥に一般市民が接触しうる市場を閉じるしか無いのです。患者発生に伴う鶏やアヒルなどの殺処分で養鶏業界に莫大な被害が発生しており、鶏肉などを4度以下のチルド状態で流通させるシステムに移行が図られています。旧正月にはお祝いで生きた鳥をさばく料理の習慣があり、流行に拍車をかけたと見られています。

 しかし、中国全土で食肉チルド状態流通を実現するのは先のことでしょう。依然として中国南部では鳥と豚と人間の生活圏が非常に近い環境が残り続けます。鳥と豚と人間のウイルスが入り混じってパンデミック、感染爆発に至る新型が現れる危険があります。第356回「感染爆発寸前、鳥インフルエンザの困った事情」で指摘した中国医療事情の貧困問題があり、表に出ている患者数が実は氷山の一角にすぎない可能性を、WHOも別の報告で認めています。


鳥インフルエンザ流行第2波、200人突破し拡大

 昨年の第1波に続く中国の鳥インフルエンザH7N9型流行第2波が9日、患者数200人を突破しました。ウイルス感染は拡大の一方であり、防疫に努めている中国当局にも制御出来なくなっていると見られます。ヒト・ヒト感染が疑われる家族内での多発例が3件あり、死者数も40人に迫っています。WHOが先月出したリポートにある週ごとの発生例数グラフに、人民日報などが報じている最新のデータを加筆して掲げます。


 1月第3週ごろから毎日の発生数が膨らみ続け、各地の衛生庁が発表した日でまとめると1日11例になった日もあります。最近の3週間は40人を超える患者が出ています。旧正月の帰省による人の移動が大規模にあり、感染の機会が増えたのは間違いありません。お祝いに生きた鳥をさばいて料理する食習慣も悪影響を与えています。

 《<鳥インフル>中国はウイルスまん延の制御に失敗した、専門家が指摘―独紙》が《独紙ディ・ヴェルトは、ウイルスまん延の制御に失敗したとの専門家の声を紹介している。中国は1月31日から旧正月休み。数億人が移動する帰郷ラッシュに伴ってウイルスが拡散した可能性が懸念されている》と伝える通りです。

 高齢者から若い世代に拡大する傾向はますます強くなり、最近1週間で10歳未満の患者が6人も報告されました。また、死亡してから鳥インフルエンザと確定診断されるケースも跡を絶ちません。第356回「感染爆発寸前、鳥インフルエンザの困った事情」で指摘した中国医療保険制度の貧しさに起因する悲劇です。

 【参照】インターネットで読み解く!第405回「再流行の鳥インフルエンザ、患者規模が昨年を超す」


再流行の鳥インフルエンザ、患者規模が昨年を超す

 昨年春から初夏に流行した鳥インフルエンザH7N9型が中国で再流行し、30日午前に患者140人と昨年を超えました。今回の流行は終息の気配を全く見せておらず、帰省大移動が始まる旧正月を迎えて拡大必至です。昨年の流行(患者135人)は2月に始まり3月下旬から4月中旬までがピーク、5月以降は散発的になりました。今回は10月からさみだれ式に患者が発生、新年になって一気に膨れ上がりました。WHOの21日付リスク評価にある週別発生グラフに加筆して現在の発生状況を示します。


 週に20人以上の患者があったのは前回は3週でしたが、今回はすでに4週になっています。ピークも高まっており、今後の予断は許さないでしょう。前回、最も患者が多かった浙江省で2日前に前回を超え、患者49人時点の集計で死亡12人、治癒1人、治療中はなんと36人でした。全体で44人が亡くなった前回に比べて現在の死者は22人に止まるものの、危篤や厳しい状態と伝えられたケースが多く、浙江省でも「死亡の割合上昇中」と伝えられています。また、前回よりも発生地域の面積が拡大、高齢者中心から若い人に感染が広がりつつあります。


 市省別の患者発生状況地図を掲げました。上海の南、浙江省で62人、次いで香港の北にある広東省で43人、両省の間にある福建省11人、上海8人、その北の江蘇省7人、香港4人、北京と内陸の貴州省、湖南省に広西チワン族自治区、台湾がそれぞれ1人です。14日までの数字に比べて沿岸部は数倍に膨れ上がりました。この数には入れませんが、福建省の西、江西省でH10N8型の患者が2人出ています。

 本格的なヒト・ヒト感染には至っていないものの、浙江省で夫婦と娘の家族3人、広東省で父と娘の2人が相次いで発病しています。生きた鳥に接触する生活環境が広がっているために断定は難しそうですが、「非持続的なヒト・ヒト感染」といった表現がされています。ヒトから感染するとしても濃厚な接触が必要と考えられているようです。今後、ウイルスが突然変異する可能性はありますが、現状ではヒト・ヒト感染によるパンデミック、感染爆発の恐れは少ないとWHOもみています。

 旧正月(春節)のお祝いで生きた鳥をさばいて料理する食習慣が感染を広げているのは間違いありません。生きた鳥を持って帰省することも珍しくなかったそうです。中国政府は防疫体制を強化するとともに、38度以上の熱があって1週間以内に生きた鳥と接触した人は旅行を中止するよう、緊急通知を出しています。香港は本土から鳥の搬入を禁じ、生きた鳥の市場を閉鎖してしまいました。各地で同様の市場閉鎖が続いています。

 もう一つ、感染を広げて重篤な患者を増やす問題が昨年、第356回「感染爆発寸前、鳥インフルエンザの困った事情」で指摘した中国の医療保険制度の貧困です。特に農村部では医療保険は無いに等しく、発病しても医療費を心配して受診できない間に抗ウイルス剤で効果的に叩ける初期期間を過ぎてしまう恐れがあります。


鳥インフルエンザ再流行、患者100人突破へ

 中国で鳥インフルエンザH7N9型の再流行が本格化しています。北京にも飛び火、人民日報の報道を拾う限りで昨年10月から患者97人が出ており、浙江省では連続15日も患者発生が続き100人突破が迫っています。昨春から夏の流行が135人だった点を考えると流行規模は匹敵します。ヒト・ヒト感染には至らずとされますが、広州では父と娘の感染が報告されています。昨年に比べて、感染爆発を心配する海外に対し十分な情報提供がされない状態がますます顕著になってきました。14日までに患者39人と伝えられた分布地図に24日現在の患者数を付加して掲げます。


 北京で8カ月ぶりに患者が出ました。ハトを購入して食用にしていたと伝えられています。市省別で最も多くの患者を出しているのは上海の南にある浙江省で39人(14日現在は11人)。ついで香港の北にある広東省の33人(同16人)と、過去10日間で急拡大です。23日は浙江省だけで1日5例も発生しました。上海と福建省も8人ずつに増え、東南部全体が鳥インフルエンザウイルスに広く汚染されていると知れます。

 NHKの《H7N9型 中国研究者「厳重な監視必要」》は対策を話し合う国際会議の状況を伝えています。《中国の衛生当局の研究者は、H7N9型はヒトに感染しやすいように変化しているとしたうえで、ヒトからヒトに次々と感染する新型インフルエンザにはなっていないものの、ウイルスは今後さらに変化する可能性もあり、厳重に監視していくことが必要だと述べました》

 人民日報の伝える現地の記事によると、広州の父親が発病と診断されてから6日後に娘が軽症インフルエンザになっています。父親は診断前からインフルエンザ症状があり、家族との濃厚接触は避けていたとされています。家族も食事のために市場に出掛けるので鳥との接触は避けられないと説明されます。

 感染が広がる中で旧正月(春節)の帰省大ラッシュが迫っています。生きた鳥を扱う食習慣を変えないと感染拡大を防ぐのは難しいと、現地の医療関係者も言っています。旧正月に向けて生きた家禽を扱う市場取引が活発になり、ウイルスへの暴露可能性が高まります。この時期の流行発生の背景だそうです。

 食習慣問題と第356回「感染爆発寸前、鳥インフルエンザの困った事情」で指摘した中国の医療保険制度の貧困が、大きなネックになると考えられます。昨年は3月からの流行でした。今年は旧正月を前にして100人規模で起きているのですから、日本国内なら相当に緊張感が高まると思えますが、中国政府は高を括っている感じがあって心配です。


鳥インフルエンザ患者、秋以降で40人超と再流行入り

 中国での鳥インフルエンザ患者は昨春の流行が一度は収束した後、秋以降に再発、15日で40人に達しました。困ったことに中国政府の衛生当局は収束後は知らん顔をし、患者数もメディアが地方当局から集めています。H7N9型インフルエンザがパンデミック、感染爆発に移行するか、世界が注目している中で、WHOにもきちんと報告しない中国政府の態度は無責任と言わざるを得ません。次に中国メディアによる患者発生マップを引用します。昨年10月以降で14日までに39人の患者があったとされており、これとは別に15日に浙江省で12人目が報告、少なくとも40人は超えて完全に再流行入りとみられます。昨年7月までの流行では患者135人死者45人でした。


 最多は広東省16人、15日に伝えられた2人が新規患者ならば18人になります。次いで浙江省12人、上海市と香港の各3人、江蘇省と福建省の各2人、それに貴州省と台湾の1人ずつです。幸い、ヒト・ヒト感染には至らず、鳥からヒトへの感染しか見つかっていないようです。しかし、第一報段階から危篤で伝えられるケースが相変わらず目立ちます。第356回「感染爆発寸前、鳥インフルエンザの困った事情」で指摘したように、健康保険制度の不備から医療費支払いを心配して具合が悪くなっても医者にかからない住民が多いのです。感染したら直ぐに抗ウイルス剤で叩いてしまう医療常識が役に立ちません。

 WHOは「鳥インフルエンザH7N9型の確定患者報告」ページを用意して、流行状況を世界に提供しています。ところが、報告は10月に2人の患者発生を伝えたのを最後に途絶えたままです。インフルエンザに罹りやすい寒い季節、旧正月の帰省大移動を前にして、患者発生情報も出さなければ何の防止対策も無い中国政府の無気力ぶりは困ります。外部で見ていると新年になってからの患者数や死者数が何人なのか、きちんと把握できません。

 《追補》15日夜の中国テレビニュースで「上海1人」「浙江省4人」「福建省1人」の新規患者があるように伝えられています。これが事実ならば秋からの患者は一気に48人にもなります。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国」関連エントリー


鳥インフルエンザ秋の流行10人に:まずい初動治療

 H7N9型鳥インフルエンザの感染者が中国広東省で拡大、10月以降で浙江省2人、香港2人と合わせ10人に。今年前半の流行時と同様に発症時に抗ウイルス薬で叩く治療が出来ておらず、重篤な患者が続出です。第356回「感染爆発寸前、鳥インフルエンザの困った事情」で指摘した医療をめぐる貧しい内情に変わりがないのは遺憾です。なお今月、別の新型鳥インフルエンザH10N8型による1人死亡が、世界で初めて中国江西省で確認されています。

 広東省の感染者は6人で、恵州市1人、東莞市2人、陽江市2人、深セン市1人。香港の患者は隣接する深センに出かけて鳥料理を食べていると報じられています。香港を含めた地域的な流行が案じられています。最新の深セン患者例では、男性38歳、9日に発熱と咳の症状が出て住んでいる南嶺村の診療所を受診、12日に悪化して南湾人民病院の救急へ。17日に肺から取った検体でH7N9型と確定、現在危篤です。

 日本新華夏株式会社のリポート「中国・広東省、H7N9対策会議を開催 関係当事者の責任を追及」は《広東省衛生計画生育委員会の陳元勝主任は、「高熱といったいわゆるインフルエンザ様症状が出た者及び感染家禽に接触した者が発症から48時間以内にタミフルといったノイラミニダーゼ阻害薬を服用しなければならない。もし、タイムリーに抗ウイルス薬を服用せず、症状が重症化したら、病院の指導者及び当事者(医師)の責任を追及する」と強調した》と伝え、後手に回って躍起になっている様子がうかがえます。健康保険が無いに等しい農民は少々の病気では受診をためらうところから改善する必要があるので大変です。


無形文化遺産「和食」の核心は「だし」パワー

 ユネスコ無形文化遺産に「和食」が登録されました。提案書で日本の四季や多様な食材を活かした社会的慣習と説明されたものの、料理としての核心は「だし」であり、油脂の魅力に対抗できる稀なパワーを秘めています。これは京都大での動物実験で証明されています。欧米などの料理と違って油脂が少なくて済むヘルシーさを、和食が誇れる秘密こそ「だし(出汁)」にあるのです。日本人が発見した、甘味、酸味、塩味、苦味に次ぐ5番目の味覚「うま味」がそれに欠かせない存在になっているのも偶然ではありません。

 農水省が準備した「和食ガイドブック」は料理の項でこう説きます。《水を豊富に使えることで発達した蒸す、茹でる、煮るなどの調理法や、種類豊富な魚を処理するのに適した包丁などの調理器具、そして野菜と魚介中心の食事をおいしく食べるために工夫されただし(出汁)などが、「和食」の料理を支えている》

 出汁について動物実験しているのは京大の伏木亨教授です。「おいしさの科学と健康」で紹介されている実験があります。ネズミにとって油脂と砂糖水と出汁がどのくらい渇望の対象になるか比較するために、それぞれの一滴をもらうためにタッチパネルを何回まで触るかを測りました。《コーン油 150回:砂糖水 50〜60回:出汁・醤油溶液 50〜60回》がその結果です。油と糖分が動物に好まれるのは自明ですが、出汁が砂糖水と拮抗し、油の3分の1までもあったのでした。別の実験で油脂と出汁を両方とも得られるように設定すると、油脂の摂取量が減ることが分かっています。

 油と糖と出汁の美味しさは、脳内でβエンドルフィンといったモルヒネ様物質を生じて快感を与えるメカニズムである点も解明されています。

 「出汁を最も巧みに修飾してくれるものこそ塩分である」と第112回「食塩摂取と高血圧の常識を疑う」(インターネットで読み解く!)で指摘しています。欧米のように油脂を大量摂取しなくて済む食事が和食なのに、欧米基準で減塩食を勧めるのは大きな間違いです。「『健康日本21』のスローガンは洋風の高動物性脂肪食も、塩分が多い日本食もどちらも退けるものである。いいとこ取りしているようでいて、現実の人間のことを考えていない」と思いますから、詳しくは参照して下さい。

 肥満に悩む欧米では、植物性蛋白や線維質に富む食品、魚の良質油脂が豊かな和食に羨望の目が集まっています。現実の日本は若者を中心に欧米風ファストフード店が繁盛し、家族の外食でも油脂リッチなメニューがもてはやされています。伏木教授は出汁の美味しさを幼児期に刷り込む重要さも研究し、指摘しています。若い頃は脂ぎった食事でも病気が心配な中高年になったら和食に回帰してもらうには、良い出汁の魅力を体験しておくことが大事なのです。

 【参照】インターネットで読み解く!「食・健康」分野


再び中国に鳥インフルエンザ禍、秋2人目ともに重症

 鳥インフルエンザの患者が中国浙江省で10月になり相次ぎました。死者45人を出した春の大流行が、寒冷な季節になって再燃する恐れ大です。2人の容態はともに重く医療体制の改善が十分でない可能性もあります。H7N9型鳥インフルエンザの発生は3、4月の集団発生の後、WHOへは7月27日の報告を最後に途絶えていました。春の流行で伝えられた患者数は137人以上で、報告があった2市10省の中で浙江省が最も多くの患者を出していました。

 10月15日に浙江省衛生庁から報告された最初の患者は紹興県在住、35歳男性の会社従業員で、8日に病院にかかっています。国慶節の大連休中に出歩いて感染した可能性もありそうです。ついで23日の発表は嘉興市に住む67歳の農家の男性で、16日に病院にかかりました。いずれも重症で病院側が積極的に救命治療にあたっているとされます。

 春の流行で重症患者が多く出ました。感染初期に抗ウイルス剤で徹底的に叩いてしまえば重症化は防げることが多いのです。第356回「感染爆発寸前、鳥インフルエンザの困った事情」で紹介しているように、高額の医療費を恐れて受診が遅れるケースがあったと確認されています。春の流行では公的な医療費支援を当局が掲げてから収束に向かった面もあったようです。もともと地方の農業籍住民には健康保険制度は極めて貧弱ですから、ちょっと具合が悪い程度では病院にかからないのです。

 【参照】インターネットで読み解く!第359回「鳥インフルエンザ、死者減れど重症化が深刻」


揚げ物・炭水化物だらけ米学校給食を縛る二重の貧困

 米国の学校給食写真を各地の高校生が公開、揚げ物・炭水化物だらけぶりに食の質を問う声が上がっています。この高カロリー食、家庭で十分に食べられない多数の子供には命の綱になっている貧しさが裏側にあります。日本人の感覚からは食事ではないとも見える米国給食を変えていくにはネット上の公開は有力な手段です。若者の非営利組織「DoSomething.org」が音頭をとっている行動が持続するならば本格的な変革が来るかもしれません。ネットの世界は昨年、9歳の英国少女が世界から大量アクセスを集めて地元の給食を変え、募金を募ってアフリカの子供への給食支援に発展したケースを知っています。

 ランチの写真をアップしようと呼びかけているページは「SHOW US YOUR SCHOOL LUNCH」、その写真をハフィントンポストの「The Sad State Of School Lunch In The U.S. (PHOTOS)」が紹介して、2000件近いコメントが付いて議論になっています。そこから写真を引用します。


 ジャンクフード給食から抜けだそうとする動きが2010年にありました。英国の学校給食改革をしたシェフ、ジェイミー・オリヴァーが米国の地域社会に力を貸し、大統領夫人ミシェル・オバマが児童の肥満撲滅キャンペーンに乗り出しました。上の写真を見る限り、あまり効果が上がっていないようです。添えることになっている野菜類は貧弱です。ハフィントンポストの記事は米農務省からのデータとして2100万人の生徒が無償あるいは低価格のランチに1日の主要な食を依存しているとし、学校が供給しているカロリーは65%にものぼるとしています。週末に十分に食べられず空腹で登校する子供のために、月曜日はお腹の張るスパゲッティとかにするシェフがいるようです。

 写真には引用しませんでしたが、ハンバーガーやピザは主流中の主流派です。現地に暮らす日本人母親のブログ「フライドポテトは生野菜!? 米国の学校給食事情は理不尽!」はフライドポテトを生野菜に認定してしまうニュースが気になって学校の出す献立をチェックします。「正直、落ち込みました。次女の通う小学校では、なんと1カ月のメニューに6回もピザの日がありました。しかも、その中の数日にいたっては、朝ご飯にピザ! その他にも、ホットドッグやら、ハンバーガーやら、チキンナゲットやら……。ファストフードと変わりません(涙)」

 ハフィントンポストのコメントには学校の現場にいる方から「きちんと野菜も付けている。この写真集はミスリードになる」との批判がありました。写真投稿はまだ続いていて、希少ながら模範的な給食例を見つけたので引用します。メインは肉入りソースのかかったパスタにパン、煮野菜の大きな皿と生かピクルス風野菜が添えてあり、デザートに果物、そして乳飲料です。比べると最初の写真の貧しさが際立ちます。




日米ともに若者はビール嫌い:正統な飲み方は

 若者は苦味があるビールが嫌いと言われます。米国ではギャロップ世論調査が30歳未満の若年層で嗜好変化を伝えています。日本でも家計調査が同じ傾向を示し、他の調査では若い世代ほど甘いお酒を好むようです。連日続いている暑さを乗り切るにはビール万能とは思いません。爽快感があるチューハイやリキュール類、カクテルもいいのではないでしょうか。でも正統派のビールの飲み方知っていれば、ビールに対する見方が変わるはずです。

 IRORIOの《若者のビール離れが加速!? アメリカ世論調査で明らかに》は「30歳未満の若年層でワインやリキュールよりもビールを選ぶ人の割合は1992〜1994年には71%に達していたが、今回の調査では41%と大幅に減少していた」「若年層の好みはこの20年で劇的に変化しており、ワインを好む割合は14%→24%、リキュールは13%→28%と、こちらは大幅アップする結果となっている」と伝えました。


 これは総務省統計局が出している家計ミニトピックス《ビール・「発泡酒・ビール風アルコール飲料」への支出》から引用したグラフです。2人以上世帯の昨年の家計調査で、世帯主が29歳以下家庭は、30歳以上の世代に比べてビールやビール風飲料の年間購入量に歴然とした差があります。60歳代の60リットルに対して29歳以下は27リットルです。日米の若者嗜好は同じと見て良いでしょう。日米で食い違っているのは年上世代の嗜好で、米国の50代以上ではワインが最も好まれ、日本ではワインはまだ少数派です。

 若者はどんなお酒がいいのか、M1F1総研のアンケート調査《若者の“ビール離れ”の検証》によると、20代前半は20代後半に比べてもチューハイ・サワーや梅酒などの果実酒といった甘いお酒が好きと出ています。30代後半よりも年上の世代で甘いお酒を好む割合は、20代に比べれば半分以下になります。

 苦味を感じるビールをますます苦くさせるのが、缶ビールをそのまま飲む最近の習慣です。『缶ビールそのまま飲まないで:若者のビール離れ』で紹介しているように、コップに注いで泡をたてることで苦味成分を泡に移せるのです。本来は甘みがあるビール本体液に、自分が好む程度の苦味を残して飲むのが正統な飲み方です。温度も冷やせば冷やすほど良い訳ではなく、味の濃いビールは室温に近い温度で、薄いビールはギンギンに冷やして飲みます。

 【参照】インターネットで読み解く! 「ビール」関連エントリー


クロマグロ規制を好機に漁業資源持続へ転換を

 北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)が強力な資源回復策を勧告すると伝えられています。日本が逃げてきた本格的な漁業規制を始める好機と受け止めて、クロマグロに限らぬ漁業資源持続利用へ行動を起こす時です。乱獲漁業が続けば国際的な研究で21世紀半ばには世界の食卓から魚が消えるとの予測があり、現実にニホンウナギが日本の食卓から消える日が見えてきつつあります。国際的な監視の枠組みを持たないニホンウナギは警鐘を鳴らす時期を失しました。クロマグロは下の地図で示す日本の海で生まれ、回遊するのです。数百グラムしかない幼魚ヨコワを採って食べる食習慣を抑制するだけで資源回復効果はあるはずです。(地図引用元


 東京新聞の《太平洋クロマグロ規制へ 漁獲量削減を勧告 国際機関》はこう報じています。《報告書を受け、関係国は年末に開かれる資源管理機関の「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」総会で対策をまとめる。厳しい国際規制の導入は避けられない情勢となりつつある。報告書は特に近年、漁獲の大半を占めている若い魚の漁獲量削減を求めた》

 幸い日本はクロマグロの完全養殖で先行していて、採卵条件を制御できる陸上大型養殖施設がこの夏、稼働を始めました。海中の産卵では自然条件調整が難しく、当たり外れが大きかったのですが、陸上養殖でうまく行けば大量の幼魚を自前で用意して養殖に使えるようになります。

 長崎新聞の《陸上採卵施設にマグロ搬入》が詳しく伝えています。《採卵用親魚になる2歳の「成魚」が搬入された。卵を計画的に安定採取する技術開発を目的に、7月3日から本格稼働する。4年後をめどに、年間1千万粒の採卵を目指している》《主施設の試験棟には、産卵に適した水温や光などを調整できる直径20メートル、深さ6メートルの大型水槽を2基設置。各水槽に成魚約100匹を収容し、2年ほどかけて産卵可能な「親魚」に育てる。採取した受精卵は、西海区水産研究所奄美庁舎(鹿児島・加計呂麻(かけろま)島)へ空輸し、海面いけすで成魚まで育て再び長崎庁舎へ戻す》

 世界のマグロ資源では大西洋と地中海のクロマグロ、インド洋のミナミマグロが深刻な資源枯渇に直面しています。日本が大量に輸入し、新興国でも食べられ始めたからです。太平洋もこれに続く今回の事態ですが、まだまだ資源量がある今だからこそ持続可能な漁業への転機にすべきです。大西洋マグロの危機が表面化した2010年に『クロマグロ禁輸で漁業と水産養殖を見直せ』で「マグロだけに気を取られてはいけない」と訴えました。「世界の海産食品資源は1950年に利用できたものの29%が2003年時点で失われており、残ったものも2048年までにはすべて消えてしまうだろう」との予測を、2013年の今、噛み締めてみるべきです。中国漁船の乱獲などでいっそう資源は海洋悪化している現実があります。


食べられぬ心配だけで保護意識が無いウナギ報道

 土用の丑の日が近づいてウナギ不足による高騰が話題になる中、メディア報道は食べられぬ心配をしても絶滅危惧種になったウナギを守る視点がありません。もう手遅れと言われながらも大規模禁漁なら可能性はあるはずです。マグロなども含め本格的な規制がないまま各種漁業資源を食べ尽くしつつある日本。これに対して海外では持続的漁業を目指して漁獲規制に成功した国があります。悪くすればニホンウナギ絶滅はあるかもしれぬものの、ウナギ保護を転換点にするくらいの見識をマスメディアに持って欲しいもの。幸か不幸か、関東河川のウナギが放射性セシウムで汚染されている今、禁漁の網を掛けるチャンスです。

 ニホンウナギは国内の河川に上がってくる稚魚シラスウナギを捕獲して養殖します。最盛期には250トンも採れたのに、2013年には5.6トンに激減しています。水産総合研究センターウナギ総合プロジェクトチームによる「ニホンウナギの資源状態について」からグラフを引用します。


 50分の1にもなっては消費を満たせませんから、当初は中国・台湾から。さらにヨーロッパウナギ、アメリカウナギ、そして最近では東南アジアのウナギの稚魚まで輸入して養殖するようになりました。その輸入先のどこでも資源枯渇が心配され、ニホンの蒲焼のために食べ尽くされようとしているのです。平成24年水産白書も心配を表明していますが、「今後とも国民へのウナギの安定供給を確保することを目的として、水産庁では、関係機関と連携し、平成24(2012)年6月より、養殖業者向け経営対策、河川生息環境の改善、国内外の資源管理、調査・研究の強化等から成る総合的な対策(ウナギ緊急対策)を実施しています」と保護の観点は希薄です。

 三重大准教授の「勝川俊雄 公式サイト」で「ウナギの乱食にブレーキをかけられるのは誰か?」はノルウェーやニュージーランドなど漁業管理に成功した世界各国に学んでいます。メディアにも、ウナギに限らぬ漁業全体の再生に向けて、この視点を持っていただきたいと思います。

 《「行政や漁業者が主導で資源管理を始めた国は無い」ということだ。漁業者は魚を獲るのが仕事だし、現状でも生活が厳しいのに、漁獲規制など賛成するはずが無い(実は、漁獲規制がないから、生活が厳しいのだけど)。行政は、業界が反対していて、調整が難しいことを、自ら進んでやるはずが無い》《ノルウェーでも、ニュージーランドでも、環境保護団体が強い。彼らが非持続的な漁業の問題点を指摘した結果、乱獲に反対をする国民世論が高まり、漁獲規制が導入されたのである。選挙では、与党も野党も、漁業管理を公約にして、選挙を戦い、意欲のある政治家が中心となって、政治主導で資源管理を始めたのである》

 太平洋マグロの資源量が過去最低と伝えられて、大西洋に続いて国際的な漁獲規制が検討されそうです。しかし、日本には近畿大が先駆けたマグロ完全養殖の技術があり、大規模に稚魚を得るための大型陸上養殖施設が最近、長崎で稼働し始めました。第201回「マグロに続きウナギも完全養殖の国産技術」で紹介しているようにウナギも続いています。ウナギの場合、生まれたばかりの幼生に与える餌がなんとか分かった段階であり、マグロに比べ、まだまだ難関はありそうです。


医師数過小県は国民健康保険料が高く二重に損

 新たに更新された医療関係の統計を眺めるうちに奇妙な傾向を発見。西高東低といわれる、医師数が少なすぎる県ほど国民健康保険料が高くなっています。医療サービスが悪いほど保険料が高い最悪のパターンです。国民健康保険料が高いのは首都圏、静岡から岐阜までの東海各県です。1人当り医療費は医師数にほぼ比例しているので医師が少ない該当県はぐっと少な目になっており、医療費負担が保険料を押し上げているのではないようです。

 以下のグラフでは、国民健康保険料は1世帯当たりの医療給費分と後期高齢者支援分を足した年間金額です。「国民健康保険実態調査 平成23年度調査結果の概要」にある「表12 都道府県別、平均所得、平均課税標準額及び保険料(税)調定額」から採りました。介護分が別にあるので実際にはもっと多額です。人口当たり医師数は「平成23年(2011)医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」にある「病院の都道府県別にみた人口10万対常勤換算医師数」を使いました。


 グラフの真ん中、京都以下沖縄まで西日本は医師数が多くて世帯保険料が安くなっています。グラフ上半分では、関東・東海だけ保険料が軒並み15万円を超え、東京を除けば人口当たり医師数が貧弱です。東北は医師数が西日本ほど無いものの保険料も控え目で、北陸3県は西日本パターンです。

 厚生労働省の地域差分析を見ると、国民健康保険料には地域的な癖があるようです。関東は収入に比例する分を多く、東海は均等割の部分を多く徴収する構造と読めます。いずれにせよ関東・東海は医師数が足りなくて医療サービスに欠けます。1人当り医療費は関東は26〜28万円しかなく、36万円前後が当たり前の中四国・九州とは比べ物になりません。それで保険料が高いのは、医療費が低めだったために組織や制度の合理化が遅れている恐れがあるか、他の財源から援助が少ないのかも知れません。

 【参照】インターネットで読み解く!「医療」関連エントリー


鳥インフルエンザ終息に向かうも死者情報隠し

 中国の鳥インフルエンザが流行終息に向かいつつあるようです。しかし、WHOに報告されたグラフから死者情報が隠されてしまい、中国のことだから情報隠しがまだあるのではと疑われ、スッキリしません。中国本土の感染者は131人、死者は33人。退院した人が少なくて感染者の半数はまだ入院中、つまり重症であり、今後、死者となっても表に出したくない意図が透けて見えます。


 5月9日に集計された発症日が判明している感染者のグラフ(原資料)です。第359回「鳥インフルエンザ、死者減れど重症化が深刻」に掲載した以下のグラフと比べれば死者の情報が消し去られています。


 5月に入って患者発生が急減しているのは歴然です。20日間、患者が出なかった上海市政府は4月2日に発動した警戒態勢を10日に解除しました。ただし、集中発生した上海での患者死亡率は非常に高率で、これまでに4割にもなっています。流行初期に軽症の患者で受診しなかった人が相当数いたことを伺わせます。他の省と比較して流行全体像を考える材料にもなる死者データであるだけに、恣意的に隠してしまう中国式の不透明さが批判されるでしょう。

 【参照】インターネットで読み解く!「インフルエンザ」関連エントリー


鳥インフルエンザ、死者減れど重症化が深刻

 中国の鳥インフルエンザは患者発生が止まず、死者の発生は減ったものの回復した患者が少なく重症化が深刻な模様。警戒ムードも薄く大型連休期間に入っており、潜伏期1週間後の動向が注目になっています。2日の新華社電によれば、中国本土で確認の感染者は127人、このうち26人が死亡し、26人が回復となっています。死亡・回復とも患者の20%程度で、残る60%が入院したままの状態です。


 WHOが公表している「発症時期確定患者報告」から、4月24日集計と5月1日集計分のグラフを並べました。割愛した3月6日以前の分には死者2人が含まれます。5月1日で合計の患者116人、うち死者21人(赤ブロック)が表示されています。見比べると、1週間で発生した死者は3月から発症の長期患者ばかりである一方、新規患者発生の勢いは持続しています。回復者の数は赤の死者数とほぼ同じですから、入院して長期療養になっている重症ケースが増え続けているようです。

 ロイターの《中国で拡大する鳥インフルエンザ、「深刻な脅威」と科学者が警鐘》はこう報じました。《WHOは、この型を「最も致死性の高いウイルスの1つ」と位置づけている》《初期研究ではウイルスにいくつかの懸念要素があることが分かっていると指摘。人から人への感染がおきやすいタイプへの2件の遺伝子変異もみられるという》《感染すると、重篤な肺炎、敗血症、臓器不全を引き起こす可能性が指摘されている》

 北京市初感染の男児のように軽症者で回復する例が最近増えています。初期に多発の死者周辺に患者が多くいて受診しなかった可能性が考えられます。健康保険が整っていない中国、特に不利な農業籍の地方出身者は受診をためらわれると見られます。

 サーチナの《鳥インフル、中国政府が恐れる「治療費なく、病院に行けない人々」》は李克強首相が治療に滞りが無いよう現場を督励したと伝えています。

 《同通達は、貧困な人がH7N9型鳥インフルエンザにかかって治療を受けた場合には補助金制度の適用対象になり、身分が特定できない患者に対しても、緊急基金による補助金支払いの対象になると説明した。これまでに、個別の地方政府が、H7N9型鳥インフルエンザの治療についての予算を計上したとの報道も相次いだ。しかし、低所得層の人々にとっては、インフルエンザの症状が出ても自分自身でH7N9型鳥インフルエンザに感染したかどうかを知る手立てはなく、医療機関に出向いて診察を受けることに二の足を踏むケースが多発するであろうことは、十分に考えられる》

 上海市だけは新規患者発生が激減と言われますが、「鳥インフルエンザ感染源の探索は方向違いか」で指摘した感染源問題は未解決です。全体には第356回「感染爆発寸前、鳥インフルエンザの困った事情」で心配した通りの状況であり、大型連休後の経過をにらんで、まだ警戒を怠れないようです。

 【参照】インターネットで読み解く!「インフルエンザ」関連エントリー


台湾に鳥インフルエンザ、中国も含め警戒弱すぎ

 鳥インフルエンザが遂に中国国外に出てしまい、24日に台湾の男性(53)が発症確認です。男性は重体となり、ヒトからヒトへの感染が確認されていないからと言って、中国本土を含めて警戒体制が弱すぎます。インフルエンザウイルスは変異を繰り返し、環境に適応進化するものです。

 時事通信が伝えた《台湾で患者を初確認=中国本土外に拡大、江蘇省で感染か―鳥インフル》によると、「男性はビジネスで蘇州と台湾を往来。直近の蘇州滞在は3月28日〜4月9日で、上海経由で台湾に9日戻り、3日後の12日から発熱や発汗、体のだるさなどの症状が出た。16日に入院したが、19日夜から病状が悪化したため、隔離された。いったんは陰性反応が出たが、24日の検査で陽性と確認された」となっています。

 重体になっている経緯からから考えると、発症初期に投与すべき抗ウイルス剤使用のタイミングを失しています。ウイルスが大量に増殖してからは効果がないために、このような危機に瀕しては抗ウイルス剤で積極的に叩いて、流行に至る芽を摘まねばなりません。台湾と中国の人的交流の膨大さを考えると衛生当局はスタンバイすべきでした。日本もようやく強制的な入院などを可能にするよう動き出しました。

 中国では新たに22日に山東省にも感染が飛び火、2市5省に拡大しました。36歳の建材卸売従事者で発熱と咳が6日間続いてから病院に行き、鳥インフルエンザウイルスH7N9型陽性の判定が出ました。第356回「感染爆発寸前、鳥インフルエンザの困った事情」で指摘したように、医療費の心配があって大流行が心配されるのに積極的に受診しない人が多いとも考えられます。これでは流行初期に叩くことは覚束なくなります。

 また、『鳥インフルエンザ感染源の探索は方向違いか』で感染源を鳥類と決めつけるのは危険と紹介しました。中国の患者の半数は生きた鳥と接触していませんし、新たな台湾の患者も同様です。

 【参照インターネットで読み解く!「インフルエンザ」関連エントリー


鳥インフルエンザ感染源の探索は方向違いか

 患者は増え続けるのに感染源が見つからない中国の鳥インフルエンザ。日本の国立感染症研究所が19日に公表したリスク評価は感染源探索が方向違いであると示唆しています。鳥ではなく哺乳類を疑うべきと読めます。中国農業省は8万以上のサンプルを集めて分析中ですが、哺乳類については豚の屠殺場が入っているだけです。

 感染症研が公表したのは「中国における鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスによる感染事例に関するリスクアセスメントと対応」です。ウイルス学的所見の中で、「上海市鳥市場のハト、ニワトリおよび環境からの分離ウイルス3株」は患者から分離したウイルスと「明らかに異なる塩基配列もあり、今回報告された鳥分離ウイルスが、今回報告された患者に直接に感染したものであるとは考えにくい」と断定しています。

 決め手は、ウイルス増殖の最適温度を「鳥の体温(41℃)から哺乳類の上気道温度(34℃)に低下させる変異が観察」されているのに、鳥から分離したウイルスにはこの変異が無いのです。

 分離ウイルスの遺伝子解析で「鳥に対して低病原性であり、家禽、野鳥に感染しても症状を出さないと考えられる」とします。「一般的に、H7亜型のインフルエンザウイルスはブタにおいても不顕性感染であることが知られている。従って、この系統のウイルスがこれらの哺乳動物の間で症状を示さずに伝播され、ヒトへの感染源になっている可能性がある」と哺乳類に目を向けるよう述べています。

 農業省の17日付とりまとめでは、全国473の生きた家禽の市場、32の家禽処理場、896の養鶏場など、79の野鳥生息地、36の豚屠殺場、137の環境ポイントから84444サンプルを採取しています。47801サンプルを処理済みで、家禽市場9カ所と野生ハトの39サンプルからウイルスを検出しましたが、上の指摘の通り、ヒト向けに変異していないのです。

 「生きた家禽との接触」が当初から注目され続け、上海市が市街地での家禽飼育を禁止する措置を命じるなど、依然として鳥に眼が向いています。分析の結果からは、野生あるいは飼われている哺乳類にも探索の範囲を広げないと「犯人」は出て来ないのではないでしょうか。

 【参照】第356回「感染爆発寸前、鳥インフルエンザの困った事情」
     インターネットで読み解く!「インフルエンザ」関連エントリー


感染爆発寸前、鳥インフルエンザの困った事情

 中国南東部から北部の北京まで広がった鳥インフルエンザが本格的な感染爆発、パンデミック前夜の様相です。野鳥からも発見、鳥には弱毒なのに人は重篤の特性に加え、中国の貧しい医療事情から患者潜伏の可能性あり。16日までに公表の感染患者77人、死者16人で本当に網羅しているのか疑問が残ります。新型インフルエンザで記憶に新しい2009年のH1N1型は、過去に流行したウイルスと共通部分があって高齢者を中心に免疫が残っていましたが、今回のH7N9型は人間にとって全くの新型です。感染を広げながら進化するウイルスの特性も睨みながら、ウイルスが苦手とする夏まで目が離せません。もし日本に来るならば都議選があった4年前と同じ条件になり、「新型インフル5千人。お寒い都の監視体制」で指摘したように、公式発表と違い7月まで患者発生は続きました。


 人民網の「H7N9型最新情報」などで公表の感染・死亡データをグラフにしました。13日に北京で初めて7歳女児の患者が見つかりました。15日にはこの関連で4歳男児からもウイルスが検出されたニュースが流れましたが、潜在患者として扱われ、グラフの数字に入っていません。最も多いのは上海市の患者30人、死者11人で、周辺の江蘇、浙江、安徽の3省が続きます。14日に内陸部の河南省でも2人の患者発生が報告されました。16日には中国農業省から南京市の野生のハトからウイルス初検出が発表されました。

 少数の回復者も出ていますが、概して症状は重いようです。医学誌に投稿された52歳女性の進行状況を、日経メディカルの「中国のH7N9型鳥インフルエンザ、死亡例の臨床像が明らかに」から引用します。「第1病日=悪寒と発熱40.6度で発症。他の症状はみられず。服薬せず」。第2病日に救急受診するも投薬のみで帰宅。「第3病日=胸部X線施行、右下肺野に斑状陰影。抗生剤の経静脈的投与が3日間行われている。咳や呼吸困難は認められず」。そして、第7病日に「咳、呼吸困難の症状が急速に悪化し」転院。この時点で急性呼吸不全を伴う「重症インフルエンザを疑われ、気管内挿管・人工呼吸器開始」。そして呆気無く第8病日には「抗生剤・免疫グロブリン・ステロイド継続するも状態悪化」し死亡です。H7N9型感染と確定したのは、その翌日でした。

 重症インフルエンザを疑った時には既に手遅れになるのは、これまでの常識に反しているからです。抗ウイルス剤投与の機を逸しています。「要注意! H7N9はステルス型インフルエンザウイルスだ」がこう指摘します。「今までの新型鳥インフルエンザウイルスの対策は、暗黙の前提として鳥などの中間宿主に対しても強毒性のウイルスを想定していました。鳥や豚などの大量死の報告を受けて、ヒトへの感染を防御する対策を打つ、というのが防疫の手順でした」「WHOによれば、近代的な疫学研究が始まって以来、H7N9は鳥などの中間宿主に対して弱毒性インフルエンザウイルスがヒトに感染し、強毒性を示した初めての例となりました」

 日本の常識ではあり得ない話になりますが、治療費が患者自己負担になっていると、「上海市の隠蔽工作疑惑が浮上=鳥インフルエンザについて今わかっていること―中国」(kinbricksnow)が伝えています。「H7N9型鳥インフルエンザにかかると隔離病棟に入れられるということもあってか、1日1万元(約15万円)以上という法外な治療費が必要になるという」「南京市の感染者は治療費が支払えないため家を売る予定とも報じられた。これほどの治療費を支払える人はそうそういないし、死んでもいいから自力で治すことにチャレンジする人も多そうだ」

 「ヒト・ヒト感染が確認されていないため、SARSほど危険な病気ではない」というのが、無償治療にしない当局の説明のようです。毎月数万円で暮らしている人が普通なのに、社会全体の防衛を考える意識の無さにおそれいります。上海市が2月に新型ウイルスの端緒をつかみながら、グズグズしていたのも3月に北京で新指導部選出の全人代が開かれていたから遠慮していた疑惑があります。新型の封じ込めには立ち上がりを徹底的に叩くしか無いとされているのにです。

 最初の患者が出た上海など中国南部地域は新型インフルエンザの「火薬庫」です。人と膨大に飼われている豚と家禽類が日常的にかつ濃厚に接触しているために、種をまたぐ感染を起こす新型が生まれやすいからです。4年前には感染爆発と言えるほどの規模にはなりませんでしたが、今度の新型は中国国外に出るようなら非常に危険です。ブルームバーグの「中国の鳥インフル拡大なら世界的流行の恐れも−シノバック」が中国ワクチンメーカートップの意見として《今回の鳥インフルエンザの感染が「パンデミックとなるリスクが高まっている」と述べ、03年から広がった「H5N1型」ウイルスと比べると今回は「ずっと深刻な発生状況」だとの認識を示した》と報じています。

 【参照】インターネットで読み解く!「インフルエンザ」関連エントリー


日本への中国重篤スモッグ流入ぶり連続アニメ

 中国からの汚染微粒子を含む有害スモッグ日本流入が30日、ピークになっています。環境省の「そらまめ君」サイトにアクセスが集中して、なかなか見られない状態でしたので、連続アニメーションを作りました。今回は西日本でも近畿に濃厚に飛来しています。九州大応用力学研究所の「大気汚染微粒子および黄砂の飛来予測」ウェブ予測動画から、30日正午の状況をまず引用します。


 濃い汚染大気は中国から朝鮮半島を越えて29日未明から西日本に迫り、30日正午前後が最も酷い状態だったようです。大気汚染物質広域監視システム「そらまめ君」で29日午前3時から30日正午まで3時間置きPM2.5測定状況を取得して、アニメにしました。


 空気1立方メートル当たりで1年平均値が15マイクログラム以下、かつ、1日平均35マイクログラム以下が日本の大気環境基準です。アニメの黄色が16〜25マイクログラム、茶色が26〜35マイクログラム、赤色が36マイクログラム以上の測定局になっています。最高がいくらに達したのかは分かりませんが、29日午前9時から赤色の地点が現れ始めます。29日の午後6時以降はほとんど黄色以上の汚染になり、30日午前6時には大阪府内はほぼ赤と茶色になりました。午前9時になると近畿の山地を越えて三重県にも赤色が現れました。正午には兵庫の瀬戸内海沿岸まで赤色です。

 この後、2月1日に北海道が濃厚な汚染大気に襲われると予測されています。

 【参照】「インターネットで読み解く!」
     第336回「中国で突出の微小粒子汚染は環境汚染無視のツケ」
     第337回「中国の重篤スモッグは経済成長に大ブレーキ」
     第338回「中国の最悪大気汚染は韓国や日本へ飛来する」
     『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない


小太り長生きは日本で調査済み。WSJ報道に驚くな

 米国政府機関の研究で「軽い肥満の人の死亡リスクは標準体重の人より低いことがわかった」とするウォール・ストリート・ジャーナル報道に驚くのは愚かです。日本国内では以前から健康調査で知られている事実です。メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)健診を国民健康増進の切り札と決めつけて、わずかなウエスト測定値増減に血道を上げている政府が隠しているだけです。

 WSJ日本版の記事はこう伝えました。「研究によると、体格指数(BMI)が25から30の人は標準(18.5から25)の人よりも死亡リスクが6%低かった。このグループの人は肥満(1度)とされ、米国人口の30%以上を占める」「初期段階の肥満とされるBMIが30から35の人は標準と比べて死亡リスクが5%低かったが、この数字は統計的に有意とされなかった」「BMIが35以上の高度に肥満の人の死亡リスクは29%高いという」。BMIは体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割って計算します。

 メタボリックシンドローム騒ぎが異常に感じられた4年前に「メタボリックS健診は男性短命化政策」を書いて警鐘を鳴らしました。国内で実施された大規模な健康追跡調査を見る限り、少なくとも男性については小太りの方が長生きだからです。茨城県が10年間、40歳以上の10万人近い県民を追跡した「健診受診者生命予後追跡調査事業報告書」の16ページからBMIと死亡リスクのグラフを引用します。


 「*」マークが統計的に有意差があったところです。日米の調査で標準とするBMIの値が違います。日本の「23.0〜24.9」に対して、米国側「18.5〜25」はやや低めに設定していますから、やや痩せすぎで危険な群を含んでいます。日本調査を見れば米国で比べている肥満1度「25〜30」の群で死亡リスクが低く出て当然でしょう。日本調査で「27.0〜29.9」の小太り男性グループは全死亡以上に、全循環器疾患死亡で歴然とリスクが下がっています。国内調査では女性については小太りはあまり勧められない結果になっていますが、米国では標準に危険な痩せすぎグループを含んでいるので男女差が出なかったと考えられます。

 日本調査は総コレステロールと全死亡リスクの関係でも、あまりコレステロール高値を恐れる必要がないことを教えてくれます。教科書的な形式論理でなく、こうした本音の分析をベースにして、余分なコレステロール低下薬剤投与を減らしていくなどしないと国民医療費の異様な膨張は止められないと思います。

 【参照】インターネットで読み解く!「メタボリックシンドローム」関連エントリー


9歳少女の給食告発ブログが世間を動かす

 貧弱で食べ足りない英国の学校給食を毎日、写真撮影してブログで採点と合わせ公開した9歳少女が、本当に世間を動かすことになりました。ツィッターやCNNの《英国小学生の「給食」ブログに世界が注目 地元では政治論争も》などで、少女に対して写真撮影の禁止命令が報じられると、お終いと告げるブログ「Goodbye」に異例と言える200万件ものアクセスが発生しました。

 この少女マーサさんは14日、当日の新聞ヘッドラインに記事が出たことを理由に撮影禁止を言い渡されました。CNNは《地元アーガイル・アンド・ビュートの協議会は、学校給食サービスへの不当な攻撃がマスコミで大きく取り上げられ、給食調理スタッフの間で仕事への不安が高まっているとしてマーサさんに食堂での写真撮影を禁じた。マーサさんはブログ上で「写真が撮れなくなって悲しいし、給食に関する意見交換やみんなの給食の写真が見られなくなるのは寂しい」と不満を述べた》と伝えました。


 ブログ記事が始まった5月8日分と、6月の高採点分の給食を並べてみました。5月8日分の投げやりな感じは、日本のネット上で「コーンは数が数えられるほどしかない」と失笑を買いました。一方で6月分の充実ぶりは一見して明らかです。マーサさんには世界中から学校給食の写真が届けられ、ブログは貧困な世界を含めて子どもと食べ物を考えるグローバルな交流の場にもなっていました。

 撮影禁止になる前でも毎日数万人が訪れていた人気ブログに、当局の撮影禁止命令が火をつけた格好です。「建設的な批評をどうして禁じるのだ」など応援のコメントは2000件以上に上ります。200万件アクセスとも合わせて、少女の父親から当局側にも伝えられたのでしょう。最新のブログでは来週からは写真が出せると書かれています。

 ★その後の話:”あなたは食べるものがあるだけ幸せ”とのメッセージに出会い、少女は食べるものがない途上国の子どもに目を向けて募金を募ることになります。2億円近い寄付が集まり、アフリカの給食施設建設の支援などが実現します。少女のブログ・リポートなら「Lirangwe Report」を、または【あなたの良心が、世界を変える】を御覧ください。

 【参照】インターネットで読み解く!「給食」関連エントリー


SPEEDIデータ隠しで乳児を犠牲にした政府

 食品大手「明治」が製造した乳児用の粉ミルクから1キログラム当たり最大30.8ベクレルの放射性セシウムが検出された問題で、日刊スポーツは《粉ミルク、乾燥工程でセシウム汚染か》と伝えました。政府が原発事故時には発表すべき緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム「SPEEDI」のデータを隠した結果、明治・埼玉工場(埼玉県春日部市)が高濃度の放射能の雲通過を全く警戒しないで乳児向けミルクを造ってしまったのです。

 「工場内に取り込んだ大量の外気に液体の乳原料を霧状にして当てて乾燥させ、粉ミルクに加工している。今回放射性セシウムが検出された製品は、福島第1原発事故直後の3月14〜20日にこの乾燥工程があった」「原乳を粉状にした原材料は北海道や米国、オーストラリア、欧州から工場に搬入。水と栄養分などを混ぜて再び液体にし、約200度に熱した空気に当てる」と報じられています。

 賞味期限は「2012年10月」で40万缶の無償交換を申し出ていますが、なるべく新鮮な製品を与えたい親の心理を考えると既に消費された恐れが大でしょう。乳製品の国の暫定規制値である1キロあたり200ベクレルは下回っているものの、放射能に感受性が高い乳児には遙かに低い基準が必要と考えられます。

 放射能の拡散データを集め、分析している「早川由紀夫の火山ブログ」から「汚染ルートとタイミング(9月30日改訂)」を引用します。



 明治・埼玉工場は春日部市役所の近くにあり、3月15日の「群馬ルート」が問題の製造工程と合致します。「この放射能の雲の下に膨大な人がいた事実に戦慄」で「3月15日には原発周辺から放射能の雲に沿うルートで大量の避難民が逃げた惨状がありました。程度の差こそあれ首都圏でも事情は同じだったのです。本来ならば外出を制限して屋内に止まるよう努めるべきでした。半年遅れでこのような地図を見せられると、この国は主権者である国民のことなど何も考えていないと改めて思わされます」と指摘した怒りが蘇ります。

 このルートでは雨が少なかったので埼玉や東京都心などの放射能沈着量が目立ちにくいのですが、実際には相当に高濃度の放射能の雲が通過していたことが粉ミルク製造禍から逆に証明されました。放射能がどの方角に拡散するか予測するSPEEDIは、まさにこうした局面用に備えた仕組みだったはずです。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


放射性物質で食品安全委の変節にメディアも異議

 国の食品安全委員会が一生を通じた累積線量基準「100ミリシーベルト」を、従来の「内部被曝+外部被曝」から内部被曝のみに変えて、報告を厚生労働省に送りました。福島原発事故の収束が出来ず、今後の外部被曝の見通しがつかない現状での勝手な変更にネット上では不満が噴出しています。マスメディアもさすがに放置できないと異議を伝えていますが、遅いようです。NHKニュースで時系列をたどります。

 27日19時47分の《内部被ばく健康影響で新見解》はこう問題点を指摘しています。「27日の委員会では、自然から受ける放射線を除き、一生を通じて累積でおよそ100ミリシーベルト以上被ばくするとがんの発生率が高まるなど健康に影響するおそれがあるというワーキンググループの審議結果が報告されました」「これまで消費者を集めた説明会などで、『累積で100ミリシーベルト』という値には内部被ばくのほか、体の表面に放射線を受ける外部被ばくも含むという説明をしてきました。27日の見解はこれを内部被ばくの限度とすることで、これまでの説明より被ばくの許容量を引き上げる方向になることから、今後、消費者に対する説明や議論のあり方が問題になりそうです」

 28日5時7分の《食品安全委の姿勢に疑問の声》ではこうです。「専門家からは、十分な議論がないままこれまでの説明が変更されたとして、委員会の姿勢に疑問の声が上がっています」「食の安全の問題に詳しい消費者問題研究所の垣田達哉代表は『本来、こうした変更がされる場合は十分な議論がなされるべきで、今回の答申には疑問を抱かざるをえない。食品安全委員会は消費者に分かりやすく説明する必要がある』と指摘しています」

 ところが、28日4時2分の《食品による被ばく量限度引き下げへ》は「食品に含まれる放射性物質の基準値について、厚生労働省は現在の暫定基準値の目安とした被ばく量の限度を来年4月をめどに5分の1に引き下げ、年間1ミリシーベルトにする方針を固めました。これによって食品ごとの基準値は厳しくなります」と事実上、政府側が動き出していると伝えます。

 新しい基準が年間1ミリシーベルトで内部被爆しか考えないとすると、現在の公衆に対する法定年間線量限度1ミリシーベルトを超えてしまいます。またまた厄介な問題を抱えそうです。先週の「今年の福島県産米を食べるべきか考えたら」では、年間5ミリシーベルトがもとになっている食品の暫定基準「500Bq/kg」について、まず5分の1にし、さらに安全率2倍を追加して、10分の1の「50Bq/kg」にするよう提唱しました。安全率分を外部被曝の分とみて、事故収束の動向を見ながらですが、取り敢えず、この考え方で自分を守る方向しかないと思います。外部被曝が大きくなるようなら食品分をさらに半分にする判断もあり得るでしょう。


今年の福島県産米を食べるべきか考えたら

 Facebookの公開グループ「福島第一原発を考えます」で《二本松のコメ、初出荷 市長「ぜひ食べてほしい」 福島》をめぐって討論に加わっていました。福島原発事故をうけて今年の福島県産米は食べるべきでないと主張する方が多数のようなので、データを集めて考えてみました。私の結論は、法定の年間線量限度1ミリシーベルトに収まる見込みなので食べたらよい――となりました。先日書いた「市教委から無視される国の食品放射線暫定基準」を前提にした模索です。

 「福島県の米の検査まとめ_10月14日発表分まで」に、測定された米1328サンプルが一覧表になっています。国の暫定基準ぎりぎり、1キロ当たり470ベクレルが出た二本松市旧小浜町分は地区全体を市場から隔離すると報じられています。これが前提なら103〜163Bq/Kgが5点、52〜99Bq/Kgが15点ある以外は50Bq/Kg以下で、大半は「検出されず」(20Bq/Kgあるいは10Bq/Kg未満)です。

 暫定基準がどう計算して出来たか――簡単に言って年間5ミリシーベルトをあらゆる分野に分配して出てきたのが暫定基準「500Bq/Kg」だということです(参照ウェブ)。従って米の分が5分の1の「100Bq/Kg」以下なら、線量も年間線量限度1ミリシーベルトの範囲におさまるはずです。安全率2倍をみて、50Bq/Kgにおさえたらまず大丈夫ではないか、と考えました。

 メディアの報道は国の暫定基準500Bq/Kg以下だから安全と紋切り型で、家族の食を預かる主婦たちの不安を解消できていません。しかし、法定の年間線量限度1ミリシーベルトには一定の信頼があります。放射線の利用について利便と危険性を秤に掛けて、かなりの安全率も見込んで出来た社会的合意だからです。福島県産米の汚染分布を考えると同じ土地の米ばかり食べ続けるのを避ければ、50Bq/Kg以下にするのは容易です。汚染レベルがずっと低いはずの西日本の米も食べればいいでしょう。

 しかしなお、福島事故以前のように1Bq/Kg以下でなければ駄目だと主張する方たちがいらっしゃいます。一つの根拠は元ゴメリ医大学長、バンダジェフスキー博士の研究です。「人体に入った放射性セシウムの医学的生物学的影響」に、ざっとした要約があります。年間限度1ミリシーベルトよりはるかに低い線量を問題にしている研究で、長年付き合っている京大原子炉の皆さんをはじめとして私の周囲の研究者でこれに依存して論じている方はいません。

 放射線レベルは低ければ低いほど善いのは間違いありませんが、汚れてしまった国土・海洋を相手に生きねばならない一次産業の生産者を見殺しには出来ません。その意味で福島県産米の汚染分布が上記の程度で済んだことを喜ぶべきでしょう。福島県産米は知名度が低く、業務用の需要が大きいと聞いています。外食用に汚染が高い米が出回っていないか、不安を持たずに済みます。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


市教委から無視される国の食品放射線暫定基準

 福島原発事故による食品放射線汚染で政府が設けた暫定基準に不信の声が渦巻く中、学校給食の現場を預かる市教委が国基準を無視してチェルノブイリ事故があったウクライナ基準を採用する事態になりました。中日新聞の《松本市、学校給食で放射線測定 ウクライナ基準を採用》は「松本市教育委員会は3日、市内4カ所の学校給食センターで、給食用食材の放射性物質の測定を始めた」「食品を対象にした国の暫定基準値は1キロ当たり500ベクレルだが、松本市教委はチェルノブイリ原発事故の汚染地となったウクライナの基準である1キロ当たり40ベクレルを採用した」と伝えました。

 ネット上などで政府不信が言われ始めたきっかけは、チェルノブイリ事故当時での食品輸入規制値が1キロ当たり370ベクレルだったのに、今回の暫定基準はそれを緩めてしまった点です。さらに中国新聞の《乱発の暫定基準値、根拠もバラバラ》にあるように、各省庁から「乳牛の餌となる牧草は300ベクレル」「海水浴場の海水は50ベクレル」と一般消費者にはにわかに納得しがたい数字が飛び出してしまいました。

 政府不信の結果、Facebookなどのソーシャルメディアで、とんでもない流言飛語がいくつも飛び交いました。例えば東北のある大学教授を名乗る人物が「放射性セシウム137が500Bq/Kgも含まれた食品を3年食べたら致死量に達します」と発言し、相当多数の支持を得ました。ツイッターでも広がっていきました。WHOの基準に根拠があると言い張っていましたが、そのような根拠があるはずもなく、現在は素知らぬ顔で発言原文を削除しています。

 この暫定基準がどのようにして出来たのか、事故半年を経過して暫定のままでよいのか、マスメディアがきちんと報道しない怠慢が社会の混乱に輪を掛けています。メディア報道だけよく見ていると暫定基準が年間の被曝線量5ミリシーベルトを基にしているらしいと見えますが、一般大衆にはアピールされていません。その結果、上記のような3年致死説に飛びつく人が続出しました。

 「勝川俊雄 公式サイト」の「食品の放射性物質の暫定基準値はどうやって決まったか」は説明されていない暫定基準の算出過程をフォローした労作です。資料としてあげられている《「飲食物摂取制限に関する指標について」 原子力安全委員会 平成10年3月6日》が防護対策を導入するか判断する線量としている年間5ミリシーベルトでの計算とだいたい合うようです。

 しかし、文部科学省が子どもの被曝線量として法定の年間限度線量1ミリシーベルトを目指すと公表しているように、「暫定」の季節は終わりつつあります。汚染の存在自体はどうしようもありませんが、年間1ミリシーベルトを目指すなら食品の放射線基準値はいくらになるのか、政府は早急に示すべきです。松本市教委が1キロ当たり40ベクレルを採用したのも、法定年間限度1ミリシーベルトを担保してくれる基準が無いからだと思います。「基準見直しで子どもに配慮して厳しくする」と野田首相は発言していますが、親子で食卓を分けられるはずもなく、現在の法律に戻るしかありません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


食の安全も特権:中国で幹部専用農場暴かれる

 原発事故に目を奪われている間に、食の安全が危機的になっている中国で特筆モノの報道があったようです。ブログ「幹部専用の食糧生産基地が存在した」(中国という隣人)によると、専用農場では「化学肥料を一切使わず、農薬の使用もかなり制限した野菜が栽培されていました。洗わずにそのまま直に食べられるレベル」といいます。「南方周末」が《「こっそり」野菜を栽培》で報じました。

 報道のきっかけは記者が北京税関専用の農場を聞き込んだ事に始まり、「各省へ提供するためだけに作られた食料基地が同じく順義区や全国各地に存在するんだとか」「野菜以外にも、豚、鶏、アヒルや魚の養殖などが行われる『基地』もあり、実際に従事しているのは周辺に住む農民。これらはすべて党機関や政府機関の食堂や、職員が自宅で使う食材用に育てられます」と広がっていて、中華人民共和国建国以来続いている幹部特権としています。

 5月はじめのニューヨーク・タイムズ報道を転載した《中国の「食の安全」事情はまだまだ厳しい》は「この数週間だけでも、違法薬物の『痩肉精(塩酸クレンブテロール)』入りのブタ肉、カドミウムに汚染されたコメ、亜ヒ酸入りの醤油、抗生物質入りのモヤシなど食の安全を脅かす事件が相次いだ。そして、それは『不可侵領域』と思われるタマゴにまで広がった。化学品やゲル、パラフィンを使い、ニセタマゴを作ったものと思われる」とまとめています。1年前には「混沌の現状と将来像を占う中国異聞3件」で下水から再生したリサイクル食用油が年間300万トンも使われている、胸が悪くなる報道を紹介しました。

 中国政府の反応が私たちには意外に見えるほど鈍い原因は、自らの食の安全が完全に保証されていたからなのですね。庶民と幹部では所得格差があるからと解釈していましたが、同じ中国に住んでいると言いつつ、実は別世界に生きていたわけです。

 「南方周末」の記事はグーグルで調べると数百のブログなどにそのままコピーされています。漢文の知識に機械翻訳の力も借りてコメント欄を見てみました。「中国産品は一流品は官僚に、二流品は輸出に回り、三流が庶民のものだ」「権力は腐敗するものだ。中国歴代王朝の衰亡期が証明している」と相当に手厳しいものがありました。ただ、ネットでも表現規制が厳しい中国ですから、本当に強烈な批判は削除済みかも知れません。


若者はセックスまで避けだしているのか

 お酒は飲まない、車は買わない――最近の若者に対して言われる風潮に「セックスも避ける」が加わりそうです。日経メディカル「日本では主な性感染症の報告数が減少傾向に」で性感染症(STD)と人工妊娠中絶がこの十年来急減しているとする、とても気になるグラフを見たので以下に引用します。


 「京都大健康医学系社会疫学教授の木原正博氏らが厚生労働省が定点観測している性感染症のデータを基に解析したところ、例えば2008年の淋菌の報告数は、ピークである2002年に比べて半減。性器クラミジアも、約30%減少している」「日本の若年層の性行動自体は米国の若年層に比べると無防備ではあるが、性経験率が減少しており、その影響が大きいのではないか」と見られています。人工妊娠中絶のピークは2000年前後にあり、2009年は3、4割減っている感じです。そして「先進国の中で、日本以外にSTDが減少している国はまずない」のだそうです。

 性感染症と妊娠中絶の減少傾向がここまで一致している以上、日本の若者には他の先進国にはないセックス回避指向が出現したと考えるべきでしょう。年齢が低いハイティーンで最も顕著ではあるものの、若年層に非正規雇用が急速に広がった経済的不安定事情が背景にあるはずです。昨年のエントリーなら「生涯未婚率急増への注目と日米・貧困で非婚化」第233回「30代の『家離れせず・出来ず』は相当に深刻」が該当します。

 しかし、米国や欧州でも貧困や就職難の問題は多かれ少なかれ共通にあると思いますから、日本の性感染症の発生状況が欧米とここまで違う理由を説明できるファクターは何なのでしょうか。最近になって流行の「男子の草食化傾向」あたりでは弱いでしょう。


ディープな日本にまで入り込む外国人観光客

 日本政府観光局が公表した「訪日外客数、過去最高の861万2千人」が目を引いたのを機会に、最近のぞいて面白かった外国の方の日本旅行ブログ記事を紹介してみます。従来から定番の観光地だけでなく、随分とディープな日本にまで入り込むようになっていると感心しました。

 公表の2010年訪日外客数(推計値)からグラフを引用しておきます。中国が141万人で初めて台湾126万人を上回り、香港も50万人ですから36%余りが中国人となります。秋葉原とか京都とか、本当に中国人の姿が目立ちます。


 しかし、たっぷり日本を楽しむのはお金に余裕がある欧米客のようです。世界各国を回っている米国人夫婦のブログ「surroundedbythesoundのYummy things」をのぞきましょう。世界で出会った魅力的な事柄を集めたカテゴリーです。日本に1カ月も滞在しているのですから「日本での食の冒険」1、2集に「Sayonara to all our yen」などの充実振りは他国での記事を圧倒しています。ただ、安めのビジネスホテルチェーンで泊まりながら1日200ドルの予算が日本では守りきれなかったようです。神戸まで行って神戸牛ステーキに143ドル払い、クレージーな値段と思いつつ味に納得します。食事情について「Food and drink is another category where Japan can empty your wallet if you are not careful」と記し、財布が空っぽになる勢いだそう。

 「Street Food」と題したブログを書いているオーストラリア人夫婦の冒険精神にはちょっとびっくりです。バイクに乗ってでしょうか、関西を重点的に歩き、京都の錦市場から大阪路地裏の居酒屋、デパ地下の食料品売り場、繁華街の屋台の探訪まで書いていて「Japanese Street Food Tour」に好奇心旺盛に撮りまくった写真をちりばめて並んでいます。「Tour Day 7− Sashimi, Curry, Izakaya, Crepes, Ramen - Happy Happy!」といった感覚です。私も行ったことがある店も出てきますが、大阪の人でも知らない人はそうそう行かない場所にあります。旅行に行った先の国をこれだけ堪能できたら素晴らしいなと思えました。


青春18切符で讃岐うどん店巡り [食のメモ]

 讃岐うどん店巡りはこれまで仕事のついでなどにしてきましたが、昨7日は青春18切符を初めて使い、大阪から日帰り行を試みました。特急が使えない中で、大雪の影響があって列車ダイヤが乱れ、予定が大幅に狂いました。それでも子どもを連れて午前8時頃に出発、午後10時半帰宅と、そう無理をしないで3軒を楽しんできました。全行程1人2200円(スタンプ店で5回分11000円)は本当にお値打ちでした。

 坂出の「蒲生うどん」が第一目標だったのですが、列車遅れ1時間で早々に諦め、近くにある「山下うどん店」に変更しました。携帯電話からグーグル検索で地図を割り出し、讃岐府中駅から10分余り歩いてあっさり到着です。150円のぬくい「かけうどん」と冷やの「醤油うどん」を1杯ずつ、素朴でしみじみとしているけれど芯には強いものがある味わい。素晴らしいイリコ出汁を含め、最近、大阪で大いに増えている讃岐うどん店ではなかなか味わえないタイプです。

 ついで目指したのが善通寺の「長田in香の香」だったのですが、店まで来たら臨時休業の様子。長めの正月休みをとっている感じでした。やむなく店が多い琴平まで行ってしまうことにしました。そこで目に付いたのが「元祖細切りうどん」を掲げる「おがわうどん」です。冷や麦より少し太いくらいの細切りうどんながら、うどんらしい膨らみとコシを持っているうどんでした。「細切釜あげうどん」の大(480円+150円)と「細切生じょうゆうどん」の大(550円+150円)ともに予想を裏切る美味。斬新さを感じました。

 夕方になるとマニア好みのお店は店じまいですから、予定していた宇多津の「おか泉」へ。大阪の讃岐うどん店のような値段付けで観光客も多いと聞きますが、5時過ぎなので行列はなしです。「ひや天おろし」(945円)が看板の品で、そそり立つ超特大エビ天2本に野菜の天ぷらが添えられています。麺のタイプは大阪の多く讃岐うどん店が目指しているような剛麺です。噛んで押し返す太い麺は完成されている感じがありますし、たっぷりして食べきれないほどある巨大エビ天との組み合わせですから、この値段でも満足感は十分です。

 今回は3軒ともにたっぷり食べました。5軒、6軒と回る場合や時間が無いと「かけうどん小」で食べ繋ぐのですが、連れとシェアしながら複数品目をゆったりと味わい尽くすのも楽しいものです。青春18切符の残り1回分は10日に岡山・日生でカキたっぷり入りお好み焼き、「カキオコ」を食べるのに使う計画です。10日がこの冬の青春18切符最終期限ですから、スタンプ店で投げ売りしているのがあれば狙い目です。


男性で逆だったコレステロールの善玉と悪玉

 毎日新聞の「コレステロール値:『高い方が死亡率低い』 日本脂質栄養学会で研究成果発表」や読売、中日の同じ報道が週末に出て、ネット上で半信半疑の反応が見られます。2008年に第160回「年3000億円の大浪費・コレステロール薬」を書いて既に検証済みの私としては目新しい話ではありませんが、この機会に最新の研究成果をあたってみました。通説で言われるコレステロールの善玉と悪玉は男性ではほぼ逆転、女性ではほとんど気にする必要なしになっていました。巨額医療費が投じられている悪玉コレステロール低下薬は真っ青でしょう。

 大櫛陽一・東海大医学部教授らによる総説「日本人はLDL-Cの高い方が長生きする」 (脂質栄養学:2009)がその論文です。通常のグーグル検索では出てきませんが、グーグル学術文献検索なら簡単に手に入ります。

 まず悪玉コレステロールとされているLDL−コレステロールを見ましょう。「神奈川県伊勢原市で1995年度から2005年度まで男性9.949人(平均年齢64.9才)、女性16、172人(平均年齢61.8才)を追跡して、LDL-Cレベルと原因別死亡率を調べた結果」を下に引用します。平均追跡期間は8年を超します。

 「悪玉コレステロール」なのですから増えるほど、つまりグラフの右側ほど死亡率が高くならなければいけません。一目瞭然、話が逆でグラフは右下がりです。コレステロールが問題になるであろう虚血性心疾患などが棒グラフ中央の白っぽい部分です。男性の一番高いグループでやや増えていますが、LDL−Cが低いグループは悪性新生物つまり癌や呼吸器系の疾患が多くて遙かに高い死亡率になっています。LDL−Cが足りないと抵抗力が弱まるからです。一方、女性でいずれのグループもあまり変わらず、「LDL-Cを下げる必要性は全く無い。従って、女性では120/dl以上が最適値である」と指摘されています。ところが、実際のLDLコレステロール健診では日本動脈学会のガイドライン
  適性域 120mg/dl未満
  境界域 120〜139mg/dl未満
  高LDLコレステロール血症 140mg/dl以上
の診断基準が用いられています。病気とされる「140mg/dl〜」のところに、男性では死亡率の最低値があるではありませんか。

 次は「善玉コレステロール」のHDL−コレステロールで、正常とされる基準値は40〜119mg/dlです。高いほど死亡率が下がらなければなりませんが、これも死亡率との関係をグラフに掲げます。

 女性では高いほど死亡率が下がる通説通りの関係ですが、男性はU字型カーブを示しています。「男性にとってHDL-Cは善玉とは言えない。男性でHDL-Cか80mg/dl以上の群についてLDL-Cを調べると、他の群より低く、中央値が100mg/dlであった。つまり、 LDL-Cが100mg/dl未満の人が半数存在する。先に、男性でLDL-Cが100mg/dl未満になると死亡率が上昇ずることが判明している。その原因は悪性新生物と呼吸器系炎患であったので、男性での高HDL-Cは組織破壊や炎症を意味している可能性が示唆される」と分析されています。HDLコレステロールは余ったコレステロールを肝臓に運んだり、血管壁についたコレステロールを除去したりするはずなのですが、男性での作用は通説通りではありません。

 毎日新聞の記事で発表者の浜崎智仁・富山大学和漢医薬学総合研究所教授は「日本でコレステロール値を下げる薬の売り上げは年間約2500億円。関連医療費も含めると7500億円を上回る。この中には多額の税金も投入されており、無駄と思われる投薬はなくすべきだ」と主張しています。「マスメディアの怠慢極まる1.3兆円自然増報道」で社会保障費の自然増を当たり前と考えるべきでないと指摘しました。欧米でのコレステロール低下薬投与基準は日本よりずっと高いLDL-Cで190mg/dl以上なのですから、大きな疫学調査で今回のような結果が出ている以上、製薬業界と医学界の暗い部分に目を向ける必要があります。

 【参照】インターネットで読み解く!「食・健康」分野


缶ビールそのまま飲まないで:若者のビール離れ

 本格的に暑い季節になって、《若者のビール離れ 「喉が渇いた状態で無理やり飲んでみたけどどう考えても不味い。どうすればうまくかんじんだよ?」》のようにネット上でビールが話題になっています。私も先日、何年かぶりに缶ビールをそのまま飲まざるをえない機会があり、苦みと炭酸の強さにおやっと感じました。ビール好きであっても、ビールはグラスで飲むべきなのです。ビールの飲み方の基本が意外に知られていないようです。

 ビールの苦みはホップが演出しています。ホップは糸状に繋がる性質があり、泡をうまくたてると液の本体から泡に多く移行します。泡をたてると炭酸のきつさも和らぎます。ビールの本体には主原料である麦芽の甘み成分が残っていますから、適度に苦さを抑えれば甘く感じられるのです。

 先日の缶ビールはアサヒ・スーパードライでした。これはもともとホップが利いたラガービールを苦みが苦手な若者向けにするべく、うんとホップを減らして生まれた銘柄です。それでもグラスに注がないで飲むと駄目なのです。

 ビールには冷やす温度も大事です。味が淡泊なビールはぎんぎんに冷やさないと飲めませんが、濃厚なビールを冷やしすぎると味を殺します。日本より涼しいドイツでは濃いビールは全く冷やさないで飲みます。

 第163回「ビールはこんなに遠くに来てしまった」で「スーパードライが呼び起こしたビール革命は革新として評価すべきだったと考えていますが、それから後に起きた日本ならではの小手先の改良、税制の歪みによる無用の修飾が、ビールを、ビールから切り離してしまいました」と評したように、訳が分からないほどビールもどき飲料が乱立しています。しかし、選べば美味しいビールはあります。

 そして、苦みが駄目な方はビールを諦めて、夏ならジントニックの爽快感をオススメします。紹介すると「ビールよりこっちが善い」ともよく言われます。ポイントは2点。トニックウォーターに甘みが少なめのシュベップスを使い、ライムを4分の1個は搾りましょう。

 【参照】インターネットで読み解く!「ビール」関連エントリー


危うい改正臓器移植法施行、医療現場に難題

 15歳未満の脳死体から臓器提供を可能にした改正臓器移植法が7月17日に施行されました。昨年の国会で実質的な審議を欠いたまま、いきなりの採決で可決成立してから、従来と大転換になる全面施行に向けて準備周到とは到底思えません。臓器提供意思表示カードなどでの明らかな意思表示を求める以前の法律に比べて、改正法は医療現場が患者家族に臓器提供を促す仕掛けになっています。医療崩壊と言われて久しい、繁忙を極める救急医療現場にそれを求めているのに、実質的な手当てはされていません。

 日経新聞は昨年来、強力な法律改正推進側に立ってきました。社説「臓器移植普及にまだ医療体制が伴わぬ」は「器はできたが、中身が伴わない。移植医療の要である移植コーディネーター(仲介者)を増やし、臓器提供を担う救急病院の態勢充実が急務だ」は相変わらず推進の旗を振っています。しかし「子どもの脳死判定は大人より難しく、より慎重な判断が要る。多くの患者の救命に忙殺されている今の救急病院では対応が難しいとの声もある。厚生労働省は、救急医療の充実などの対策を早期に講じるべきだ」と述べたところで、無茶な注文をしていることに気付くべきでしょう。どこに予算原資があって、どういう名目で配れるのでしょうか。それも恒常的な底上げが必要です。

 読売新聞の「小児臓器提供、4割『困難』…認定病院の体制整わず」が厚生労働省が臓器提供施設に認定した小児専門病院29施設のうち「脳死判定と臓器提供の両方に対応できるのは12施設で、さらに施行日から対応できる施設に限ると5施設(17%)に減った」と伝えました。5施設もあるとは、現場を知る者としては驚きです。果たして実行できるか、です。

 毎日新聞の「記者の目:改正臓器移植法」は小児脳死判定の重さをこう書いています。「脳死臓器提供には、脳死判定を6時間以上間隔を空けて2回実施する必要があり、臓器摘出手術などを含め、6歳以上は約45時間前後かかる。蘇生力の高い6歳未満は脳死判定の間隔を24時間以上空けるため、さらに18時間長くかかる。施設の規模によっても異なるが、日常の救急医療業務の一部またはすべてを止めなくてはならない」。同紙のアンケートに対して「脳死下での臓器提供により現場は48時間以上にわたって救急医、麻酔科医、主治医がかかわり、ICU(集中治療室)、手術室の機能が止まる」と悲痛な声が寄せられたといいます。

 もし現場の態勢が整っていたとしても、「体温がある死体」つまり温かい我が子を前にした親御さんを説得しなければなりません。その場で「脳死=人の死」を認めさせる説得は、押しつけがましいものでは困ります。昨年の国会採決前、「臓器移植のドナー不足は本当に悪なのか」の最後で「様々な代替え技術が進んでも移植でしか救えないケースは存在し続けますが、その少数に合わせて大多数の国民の死生観に変更を求めるのは僭越に過ぎると言うべきです」と書いた通りです。


医師の違法長時間勤務へ刑事処分と異例報告書

 医療の現場で公然と行われている超長時間の医師勤務に、厳しい拘束が課せられそうです。読売新聞の「産科医当直は違法な時間外労働…労基署、奈良県を書類送検」に気付いて医師ブログをあたると、日本小児科学会・小児科医のQOLを改善するプロジェクトチームが「小児科医に必要な労働基準法の知識」という異例に厳しい報告書を出し、医師の過労を防ぐ呼びかけをしていました。

 奈良県の容疑は県立奈良病院の「産科医らが当直中に分娩(ぶんべん)や緊急手術など通常業務を行っているが、病院は労基法上は時間外労働に相当するのに割増賃金を支払っていなかったうえ、同法36条に基づき、労使間で時間外労働や休日労働などを取り決める『36協定』も結ばず、法定労働時間を超えて勤務させた疑い」です。昨年4月に産科医2人が当直勤務への割増賃金を求めた民事訴訟判決で1540万円が認められ、県が控訴中の事件ですが、刑事処分にもなる見込みとなりました。

 「東京日和@元勤務医の日々」の「No More過労死!Stop医療崩壊!厚労省は医療現場の監視せよ」が取り上げている小児科学会報告書は「勤務医の当直や休憩時間、宅直オンコールは労働時間に当たるとし、その法的根拠を示した」「休憩についても、即応が求められる状態にある場合は、仮眠をしていたとしても労働時間と認められ得るとし、休憩時間として扱われることが多い実態に注意を促した」内容です。「救急病院の当直は宿日直業務ではなく通常勤務」としている項で時間外割り増しを計算しています。「深夜勤務を含む16時間の当直を行うとすれば,通常は101,137円を支払う必要がある」ほどなのに、これまでは不当に安い手当で済まされてきました。

 ただし、昨年4月の「月120時間まで残業の労使協定:滋賀の病院」のように過労死ラインとされる月間80時間を超える、驚くほど長時間の時間外勤務協定を労使合意で結んでしまうケースも現実に存在します。最高裁で8日、過労死自殺について「小児科医自殺:『医師不足生じさせない』最高裁で和解」(毎日新聞)が出来たばかりです。医療現場の疲弊をこれ以上進行させないために、病院の理事者側はこれまでの「甘え」を捨てなければなりません。


『米軍に若者肥満の脅威』と各国ランチ事情

 朝日新聞の「米軍に思わぬ大敵 肥満の若者増え、新兵確保の脅威に」が「入隊適齢期(17〜24歳)の若者の27%にあたる約900万人が肥満のため、入隊できない」「1980年代の5%から急速に悪化しており、世界最強とされる米軍も、内なる『脅威』に直面する」と伝えました。

 これは過去に見た記事と似ていると思い、探し出したのがWired Visionの「青少年の75%が軍に不適格:『肥満』『軟弱』が急増」でした。「医療的・身体的理由」35%が肥満・軟弱に相当するようです。「『不適格の主要原因は肥満だ』と、米国防総省の採用責任者であるCurt Gilroy氏は、Army TimesのWilliam McMichael氏に語っている。『腕立て伏せができないだけではない……懸垂ができないし、走れないのだ』」とぼろぼろです。

 朝日新聞の記事は例によって依拠している文献を明記しない欠陥記事ですが、ネットで調べるとArmy Timesの「School lunches impact recruitment」がオリジナルでした。ストレートに学校でのランチ改善を求める記事です。第2次大戦までは栄養不足で徴兵できないことが問題だったのに、いまや全く逆の事態が生じています。連邦議会に対して、ジャンクフードや高カロリーの飲み物を学校から排除して、子どもを健康に育てる戦略を立てるように求める動きがあります。近い将来、国家の安全に関わるからと…。

 ジャンクフードが出る給食なんてと思われるでしょうから、私の「学校給食事情〜飽食国の貧困から始めて [ブログ時評36]」を参照してください。そこでも紹介した「アメリカ学校見学?自動販売機&給食?」(The New York Walker)は「アメリカでは普通に自動販売機が校内においてあり、販売時間などの制限はある程度ありながらも、子供達は自由に飲み食いが出来るようになっているのです。しかも、学校区にとってはこの売り上げが、かなり重要な学校区の歳入となっているのです。自動販売機を撤去したりする事は、歳入を減らす結果となり、学校区の教育行政のレベル低下を招く事になるのですね。なので、この自動販売機での売り上げを下げるような事は本来学校区はする事は有り得ない」とレポートしていました。そしてお菓子がずらり並んだ自動販売機の写真、脂っこそうなメニュー例と、それにピザが毎日つく給食です。

 私の記事で取り上げた英国事情報告でも「ずらずらずら〜っと並ぶポテチとチョコとコーラ類の自販機を見て、しかもそれでお昼を済ませることも可能だと知って、最初は眩暈(めまい)がした」とあるように、欧米ではジャンクフード自販機が学校にあって全く不思議でありません。

 少し前に、日本の高校生が食べる、どうということもないお弁当の動画が世界中から注目され、羨望のコメントが殺到する「事件」がありました。「日本の高校生が教室でお弁当を食べる映像の海外反応【YOUTUBE動画】」(誤訳御免!!)にあるコメント「俺はアメリカのスクールランチが嫌いだ。最初にチーズの付いたプレッツェルを出された時はとても全部食いきれなかったよ。マッシュポテトが出た時もそうだったな。うぇっ」にあるのが先様のランチ事情です。


幼児虐待に積極応用したいオキシトシン効果

 「47Nes」がオキシトシンという「ホルモンで自閉症改善 金沢大が臨床例発表」と伝えました。このホルモン、5年前にも人を信頼させる物質として出たりと時折、浮かび上がってきます。20年ほど前、科学面「心のデザイン」シリーズで最も早い時期にオキシトシンを紹介した者として、この際まとめておこうと思います。

 金沢大の発表は「3歳から自閉症とされてきた20代男性で、会話ができず、人と交流ができずにいた。両親が2008年、スイスからオキシトシンの点鼻薬を輸入し服用すると、男性は診察で担当医の目を見て笑い『はい』『いいえ』と答えるようになり、担当医が驚いた」というものです。「重度の知能障害がある自閉症患者が長期間服用し、改善が確認されたのは初めて」

 オキシトシンは女性が赤ちゃんに乳首を吸ってもらうなどすると脳からリリースされます。男性の血液中にも存在するのですが、自閉症患者には少ないとも言われていました。「心のデザイン・脳内物質」のシリーズでは「母性行動」についてこう書いています。

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 処女ネズミのそばに、生まれたばかりの赤ちゃんネズミを置いて、1週間近くいっしょにすると、母性本能に目覚め、体を丸め赤ちゃんを抱きかかえるようになります。この不思議な行動の秘密は、1979年に米国で解き明かされました。脳の視床下部で造られているホルモン、オキシトシンを処女ネズミの脳に注入してやると、46%のネズミが2時間以内に完全に「母親化」し、あらかじめ女性ホルモンで発情させておけば、その割合は85%にも増えました。「オキシトシン」は出産のための子宮収縮や射乳の作用があるホルモンで、脳内では母性行動をとらせる作用もしていたのです。

 オキシトシンには構造がよく似たバソプレシンという兄弟分があります。こちらは血圧上昇などの作用をします。このふたつのホルモンは、下等な動物の「バソトシン」というホルモンから、ほ乳類に進化する際に分化したと見られています。バソトシンも鳥類などで輸卵管の収縮などの作用をします。

 興味深いことに、バソプレシンは記憶を良くする、物覚えがよくなる働きをするのに対して、オキシトシンは記憶を作ることを阻むのです。さらに、オキシトシンは一度できた記憶を思い出させる作用が強いらしいことも分かってきました。わき目もふらずに子育てに専念し、子のためには少々の危険や困難も厭わない母親の愛情。その裏側を示唆していると思われませんか。そして、母乳で育てることが母性を強化していることも。

   ◇

 「科学に佇む心と身体」の「オキシトシン:これが愛情と信頼のホルモン」が「人を信用させる物質オキシトシンを鼻にスプレーしたら効いた」との記事紹介から始めて、【オキシトシンで「かわいい」!】【オキシトシンで愛の対象を記憶に刷り込む】【警戒しないこと、信頼すること、愛すること】など関連分野別に書籍も取り上げてくれています。

 「赤ちゃんにオッパイをあげているときに、親が赤ちゃん怖いとか、吸われてキモイとか感じてくれてはまずいわけで、親の赤ちゃんに対する警戒心はグッと下がってもらわないと困る。『たまらない』ほど、愛おしんでもらわないと赤ちゃんは生きられず人類滅びてしまう。ゆえに、オキシトシンはせっせとヒトの母性本能を刺激する」

 近年、新聞の社会面を賑わせている事件に多数の幼児虐待があります。自分が幼児期に母親から虐待された女性が、我が子の虐待行為に走る例もかなりあります。心理学的な解説もあるのですが、オキシトシンをつくる能力が低い遺伝的な基盤があるのではないかと疑っています。金沢大の点鼻薬は母乳分泌促進用だったようですが、幼児虐待傾向にある母親にも積極的に投与することを検討してよいのではないでしょうか。名目は母乳用でも構いません。母乳で育てて自分の脳内でオキシトシンをつくだすように指導するだけでは間に合わないほど、虐待事件は頻発しているようです。母の日(5月9日)を前に考えたところです。


低いガン検診受診率をメタボ健診が押し下げ

 OECD諸国の中で最低レベルである日本のガン検診受診率が、2008年度にあろうことか下がってしまいました。47Newsの「市町村のがん検診受診低下 メタボ健診で混乱か」が伝えている通り、厚生労働省のメタボリックシンドローム健診推進は、国民の寿命を伸ばすために本当に必要なガン検診をブロックしたと言うべきです。メタボ健診が始まるときに私が「インターネットで読み解く!」第159回「メタボリックS健診は男性短命化政策」で指摘したように、過去の大規模健診追跡データは標準より小太りの男性の方が長生きだと示しているのです。多少太いウエストサイズを問題にすべきではなく、求められるべきは低いガン検診受診率改善の方なのです。

 47Newsは「大腸がん検診は前年度まで受診率が上昇傾向にあったが、2・7ポイント下がり16・1%に低下。前年度唯一20%を超えていた肺がんは17・8%(3・8ポイント減)、胃がんは10・2%(1・6ポイント減)と下がった。子宮がんは19・4%(0・6ポイント増)、乳がんは14・7%(0・5ポイント増)とわずかに上昇した」「07年度までは、市町村が基本健康診査とがん検診を実施。しかし、08年度に基本健診が廃止され、代わりに始まった特定健診は市町村運営の国民健康保険(国保)に実施が義務付けられ、がん検診と実施主体が分かれた」としています。

 特定健診とはメタボ健診のことで、受診率が低かったり保健指導での改善が無かったら、市町村や健康保険組合に対して後期高齢者医療制度への支援額を増やすペナルティを課しました。このインセンティブは強烈ですから、本当は重要であるガン検診よりもメタボ健診に力が入って当然でしょう。

 ところが、国の「低い日本の検診受診率|がん検診受診率50%達成に向けた集中キャンペーン」はこう記載しています。「日本の乳がん検診、子宮頸がん検診は、OECD(経済協力開発機構)加盟国30カ国の中で最低レベルに位置しています。欧米の検診受診率が70%以上であるのに対し、日本は20〜30%ととても受診率が低いのが現状です。例えば、米国では子宮頸がん検診の場合、83・5%の女性が検診を受診しているのに対して、日本では21・3%にとどまっています」

 実は2007年の閣議決定で2012年には「がん検診の受診率50%以上」が打ち出されているのです。キャリアブレインnewsの《がん検診受診率、「なかなかショッキング」》は受診率低下に接した「がんに関する普及啓発懇談会」の模様をこう伝えます。「中川座長は『なかなかショッキング。危機感というか、もう土俵際という感じ』と述べ、受診率向上に向けた個別勧奨の重要性を指摘した」。韓国は受診率53%を達成していて「2年後に50%達成するんだ、がん検診が大事だ、予防医療が大事なんだということを、日本政府にはっきり打ち出していただくことが必要かなという気がしている」とも。

 2007年の「第2回がん検診事業の評価に関する委員会」に出された「資料3:がん検診受診率向上に向けた取組方策について」などには、受診対象者をうまく調整してメタボ健診と同時に受診する仕組みにしたら受診率が上がるとの知恵が書かれています。しかし、現実は小太り男性にとっては無意味、有害なメタボ健診「命」と突っ走ったのですから、厚生労働省の罪は重いと思います。


お産をめぐる現場の危機がいびつな形で表面化

 産科領域での医療崩壊を象徴する事件のひとつ、奈良・大淀病院での民事賠償訴訟は医師の過失を認めない大阪地裁判決が出され、一区切りついたのですが、思わぬ方向から産科診療所が閉鎖に追い込まれる危機がクローズアップされています。少子化対策の一つとして、妊婦が出産時にまとまったお金を用意しなくてもよいようにした施策の結果なのだと言います。

 キャリアブレインの「一時金直接支払制度の影響?『黒字』で閉院に追い込まれる産院が増加」は「調査によると、2009年9月から10年2月までに、閉院や分娩の取り扱いの中止を決定した病院や産科診療所は、明らかになっているだけでも全国で25施設。そのうち10施設は採算ラインとされる1か月で20回以上の分娩を扱っていたにもかかわらず、閉院や分娩中止に追い込まれていた。中には、1か月で67件もの分娩を手掛けていたのに閉院した診療所もあった」と伝えています。

 出産一時金として42万円が健保などから渡されます。従来は出産時に数十万円の費用を妊婦がまず支払い、その後で一時金を受け取っていました。この一時金を分娩施設に直接、支払ってしまうのが新制度の趣旨です。昨年10月から導入され、医療機関への支払いが2カ月程度遅れることから反発が強く、3月末まで完全実施は猶予されています。

 日経ビジネスの「『お産難民』――医者も妊婦も救われない少子化対策」が危機の実例をとらえています。「直接支払い制度の欠陥は、そもそも分娩施設が費用を肩代わりするところにある。現場では、書類作成など手続きが煩雑になり、そのためだけに事務員を1人雇わないと仕事が回らなくなるという」。最大の問題は立て替え金による負担増で「池下院長の場合、経営する2つのクリニックでは月平均で70件近くのお産があり、2カ月分を立て替えるとなれば、その分だけでも5880万円に上る」。こんな現金を持っているはずもないので継続的に借金をすれば利息が要るし、税金の取られ方でもかなり不利になります。

 それでなくとも絶対的な人手不足で勤務が大変な産科の医師に余分な心配をさせなくて済むように、政策立案が出来なかったのでしょうか。お役人達が考えている以上の深刻な影響を現場にもたらしそうです。

 【関連】インターネットで読み解く!「医学・医療」に多数。


タバコ追放、厚労相が周回遅れの全面禁煙通知へ

 朝日新聞が伝えた「『公共の場は全面禁煙』 厚労相、2月中に全国通知へ」によると「飲食店など多くの人が利用する施設は、全面禁煙にするよう求める」「罰則はないが、喫煙区域を設ける『分煙』では不十分との考え方をはっきり示し、全面禁煙化を促す」「厚労省は、飲食店を含めたすべての職場について、受動喫煙防止を義務づける労働安全衛生法の改正を検討している」というのですが、世界の動向からみると周回遅れの観があります。

 英国政府が2月1日に発表した方針をロイターが「英国の禁煙法、建物の入り口にも適用を検討=政府」として報じています。「若者を中心に、人口の21%を占める喫煙者の割合を10%まで減らすことを目指している」「英国の喫煙者数は、広告規制などの政策が実施されてきた過去10年間で、4分の3に減少」といいますから、さらに徹底して受動喫煙を減らし、喫煙者を公衆の目から隔離するのでしょう。

 もっと進んだ完全禁煙国を目指す動きが「メディアサボール」の「世界初!『たばこ撲滅の国』を目指すフィンランド」に最近出ました。6月、フィンランド国会に新しい反喫煙法が掛けられるのだそうです。「この法案が採択された暁には、大小全ての販売店の軒先からたばこの陳列が無くなる。消費者は店員に、自ら希望のたばこの銘柄を指定し、購入することはできるが、日常的にたばこやたばこ関連商品が国民の目にさらされることが無くなる」

 世界各国の喫煙率がどうなっているのか、あまり新しいデータがありませんが、各国成人喫煙率(WHO:Tobacco Atlas 2002)はフィンランドについて男性27%、女性20%、英国は男性27%、女性26%、そして米国は男性25.7%、女性21.5%としています。同じ統計で日本は男性52.8%、女性13.4%です。国内データでは国民栄養調査結果(2008年)が最新で、男性36.8%、女性9.1%です。各国がこの数年で喫煙率をかなり減らしていることを考えると、4割近い男性喫煙率は異例に高いと言えます。

 2002年統計では途上国、中進国を見ても男性喫煙率が日本より高い国は数少ないのです。今年のタバコ値上げも中途半端なものになりそうですし、民主党政権のタバコ政策は腰が据わっているとは言い難いと思います。


医療崩壊阻止へ疑問あり、中医協診療報酬改定

 中央社会保険医療協議会(中医協)が2年に一度の診療報酬改定を答申しました。医療崩壊問題について自公政権の感度が悪すぎ()、崩壊阻止に向け今回の政権交代に大きな期待が集まっていました。10年ぶりに診療報酬総枠をプラス改定した上での配分見直しですが、医師ブログの間では不評です。制度の根幹を変えずに係数だけいじるのでは現状を変える力が弱すぎます。

 各紙の社説が一斉に取り上げていて、読売新聞の「診療報酬改定 中医協の変化を医療改革に」は「急性期入院医療には、このうち4000億円が振り向けられ、救急や産科、小児科など過酷な勤務を強いられる分野に手厚く配分された。難しい手術の報酬を3〜5割引き上げるなど、ある程度のメリハリをつけた」診療所と病院」の再診料の690円統一と、受けた医療の費用細目が分かる診療明細書の発行義務づけの「長年の懸案も二つ、決着させた」「進展したのは、政権交代が結果として中医協での日医の影響力を低下させたことによる」と一応の評価をしています。

 メディアの評価が「一歩動き出した」であるのに対して、医師ブログは現場を変えられるかをみています。「勤務医の待遇改善にはほど遠い・・・」(東京日和@元勤務医の日々)は「どうせダメとは思いましたが、今回の再診料統一では、勤務医の待遇が改善することはないでしょう」「確実に医療機関側は、今回の改定で、お金を受け取りますが、一方、勤務医の残業時間が削減するとは思えないのです」と断じます。正式な労働協定も結ばないで医師に長時間の残業を強いている医療現場、さらに診療報酬は診療機関の懐に入り、医師の待遇を直接改善するものではない仕組みが壁になっています。

 再診料が下がる診療所側では「予想通りのヒドい話...」(元気に明るく生きて行ける社会のために、医者のホンネを綴りたい)が「最初から、こうなるとは思っていた」「事業仕分けの際、財務省は、例のデタラメデータ(開業医が2500万、勤務医が1400万の収入がある、ってやつだ...)を振りかざして、医療費をほとんど実質的に上げないようにたくらんだ。民主党には、これをひっくりがえす力がまだ足りなかった」と指摘します。再診料20円の引き下げでも、借金を重ねてやりくりに苦労している診療所には響くと言います。「私の経験から言えば...(つい最近、ほんの数年前のことですよ..)患者が20人/日くらいになって、やっと診療報酬で年間約2000万売り上げるようになったとき、年間の経費の支払は1800万円くらい」「その差額、なんと年間200万!」「つまり、年収200万だった」

 民主党が総選挙で言っていたことを実現するなら、今回を相当上回る規模の診療報酬引き上げが必要でしょうし、それが医師に回るように担保されなければ医師立ち去り型の医療崩壊を防ぐことは出来ません。開業医に24時間態勢で電話相談に応じるなら再診料30円加算するとか、過酷勤務を助長する仕組みが導入されるなど気になるところもあります。早急に仕組みそのものを変えなければなりません。


[食のメモ]北陸紀行〜海鮮丼と干しホタルイカほか

 新しいシリーズ[食のメモ]を時に交ぜようと思い立ちました。「食」について経験したこと、思ったことを「インターネットで読み解く!」風でお届けします。第1回は11月末に行った北陸・金沢の味です。

 中心部にある近江町市場は、金沢行きでいつも足を運ぶ所です。そこでのランチで最も多く食べるのが「山さん寿司」の海鮮丼です。撮ってきた写真をご覧ください。


 20種類以上のぴちぴちした寿司ネタが器からこぼれるように並んでいます。お店の人から「お刺身感覚で食べてください」と言われます。その心は「丼」なのに、しばらくは器の中にあるご飯に到達しないのです。

 近江町市場は完全に観光客向けの価格だと思っています。鮮度で評判の回転寿司もそれなりに食べるとお得感は乏しくなくなります。もちろん5千円以上、ランチに出す気があれば豪華な食事になりますが、ちょっと違うのではないかな――です。2625円で良質な寿司20貫を一盛りにし、自分好みの順番を考えながらゆっくり食すのが、この海鮮丼の妙味だと思います。

 山さん寿司から数軒先にある「まるか」近江町店で買ってきたのが下の「干しホタルイカ」です。本店は福井にあるそうで、通信販売もしています。100グラム(70〜100匹)が千円です。冷蔵庫で2、3カ月は保存できるようです。


 店頭の試食ではライターで炙ってくれます。能登半島特産の「いしる醤油」で漬け込んでから干してあり、炙ることでイカの内臓を使った醤油の風味が引き立ちます。しかし、タバコを吸わない私はライターを持っていないので、電子レンジの活用を思い立ちました。写真はそのために小皿に入れた状態です。透けて見える内臓が美味しそうでしょう。レンジの出力で変わりますが、1匹10秒内外です。

 失敗してレンジの時間を掛けすぎ、苦くしたこともあります。でも、たまたま飲んでいたシングルモルトスコッチには合いました。日本酒か焼酎が正統派の相手、強い味のウイスキーやバーボンでも決して悪くありません。

 北陸の味と言えばもうひとつ幻の高級魚「のどぐろ一夜干し」を近江町市場から持ち帰り、家族で食べて滅茶苦茶、好評でした。これも通信販売があるようです。魚の開き、干物と侮ってはいけません。こんな濃厚な味と上品な油分は驚きで、骨までしゃぶって食べることになります。


受験生らに回したい新型インフル・ワクチン接種

 小学校以下の子どもへの新型インフルエンザ・ワクチン接種が11日から各地で始まりましたが、困ったことにほとんどの子どもは既に感染済みのようなのです。妊婦から始めた優先順位にこだわると、結果として何の役にも立たない恐れが出てきました。大学受験生ら順位が低い希望者にも、どんどん受けてもらうよう方向転換すべきだと思いますが、メディアは順位違反の報道ばかりやっています。

 朝日新聞の「新型インフル、2割は症状なし 集団感染の中高生ら検査」は5月に集団感染があった学校関係者の血液検査から感染と症状の実態を伝えています。「98人を分析すると、38度以上の発熱やせき、のどの痛みなどインフルエンザ特有の症状を経験していたのは44人(44.9%)にとどまった。」「18人(18.4%)はまったく症状がなく、36人(36.7%)はインフルエンザ特有の症状まで至らない軽症だった」

 つまりインフルエンザ症状があって受診した人以上の感染者がいるということです。11月末、国立感染症研究所が推計した累計患者数は1070万人で、0〜4歳が95万人、5〜9歳が285万人、10〜14歳が309万人、15〜19歳が168万人とみられています。5歳から14歳については同世代の半数に相当しますから、ほとんどの子が感染済みと考えられます。

 中学、高校生らは2回接種の対象者で、4週間の間隔を置くことが推奨されています。受験生らのニーズを考えると、小さい子が不要になった分を早く回してあげるべきなのです。


人の会食は当たり前ではなく、霊長類中で特異〜秋葉原連続殺傷事件の根底とは

 今日、大阪本社版の朝刊3面に「理由なき殺人なぜ増加〜個食化、共感力失った現代」とのタイトルで山極寿一京大教授(人類進化論)の大型インタビューを載せました。東日本の方は見られませんし、折角なので私なりにかみ砕いた要旨を紹介しておきます。秋葉原や土浦での連続殺傷事件は、人間らしい共感を育て損なった結果ではないかと考えられるのです。

 家族で向かい合って食事をすることは当たり前すぎて、われわれには特別な行為との意識はありません。しかし、霊長類の研究者からみると極めて特異なことなのです。身近な例ではニホンザルは決して見つめ合いません。下位のサルが上位のサルを注視すると反発になるので、餌場に上位のサルが来ると下位のサルは目を合わせずに譲ります。DNAが人間に近いゴリラやチンパンジーでは小さい方が見つめたり、ねだったりすることがあります。それでも食事は個食が基本です。

 人間だけが一人で食べきれない食材を集めてきて、請われもしないのに分け与え、一緒に食べようとします。サルの目には白目の部分がありませんが、人間にはあり、瞳の動きから何に関心があるのか心の動きが読み取れます。サルの世界では競合やトラブルの原因になる「食事」を、人間はコミュニケーションの手段に変え、何も知らない子どもに人間らしい共感を育む場にしました。命をつなぐ食に、隠れた本来機能があったのでした。

 秋葉原の犯人はネット掲示板にしか身の置きどころが無く、それさえ壊して犯行に及び、土浦の犯人は食事も家族と別々でした。相手は誰でもいい――不条理な殺人の背景には共感の欠如した社会があり、生活が便利になった代わりに、サルに似て目も合わせずに食べる食事風景がその根底にあるという訳です。最近ではせっかく会食しているのに携帯電話を見ながら食べている人をよく見かけるようになりました。

 【参考】「秋葉原事件で思い起こす『隔離が生む暴力』 [BM時評] 」


人間ドック学会も禁煙宣言、でもメディアは

 11月に入って男性喫煙率が36%と、過去5年で10ポイント下がったニュースや、来年度予算に向けて大幅増税の議論が表面化するなど、たばこ関連の動きが目立ってきました。この秋、一番の注目は日本人間ドック学会が9月の大会で「禁煙宣言」をしたことだと思っています。タバコによる健康被害がこれほど言われる中、遅れに遅れてです。ところが、なお及び腰なのがマスメディアです。記者個人の嗜好や思いこみと、市民社会の中でメディアが果たすべき役割がごちゃごちゃにされています。

 日本禁煙学会がまとめている「禁煙宣言学会等の一覧」をご覧になってください。1997年の日本呼吸器学会を先頭に臨床系の学会はあらかた宣言しているのに人間ドック学会は、「営業上の問題」から躊躇していたのでしょう。しかし、ちょっとばかりコレステロール値が高いことは問題にしながら、ヘビースモーカーであることを不問にするなんて、人間ドック本来の在り方からはとても可笑しいのです。重篤な症状が出てきたところで治療する方針で良ければ、人間ドックは不要です。

 WHOが2008年に世界規模で初めてまとめた報告「Global TOBACCO Epidemic」のメッセージは強烈でした。「20世紀の間にたばこによる死者は世界で1億人だった。各国政府が手を打たなければ21世紀には10億人の死者が出る」です。先進国の中で日本の喫煙率は突出しているのですが、現在は所得が低い国で喫煙率が急増する傾向にあります。これは人口増加が著しい国に売り込む販売戦略のためで、日本たばこ産業が国内を穴埋めするように海外のタバコ事業を買収して大きく収益を伸ばしていることから分かるように、我々とも無縁ではありません。

 日本生活習慣病予防協会の《たばこ値上げで喫煙率を減少 「1箱500円」は世界的な流れ》がたばこ価格と税率について、日本と先進各国の違いをまとめています。「米国や英国の最近の男性の喫煙率である23%に比べると、日本の喫煙率はまだまだ高い。欧米のたばこ1箱の価格は、英国843円、フランス556円、ドイツ466円、米国706円と、日本よりも大幅に高い」「日本の1箱300円のたばこにかかる税は175円で税率は58%、増税すると75%に増加すると見込まれる。これに対し、海外諸国の現在のたばこ税率は英国77%、フランス80%、ドイツ76%、カナダ69%、米国37%、ノルウェー76%、インド69%などとなっている」 >

 これまで述べた基礎データを知っていらっしゃるはずの地方紙の雄、北海道新聞のコラム「卓上四季」の「喫煙率低下(11月15日)」は「喫煙派にとって、次のハードルは鳩山政権が検討するたばこ増税となる。拍手する非喫煙派も多いが、大衆増税だ。分煙する限り、喫煙という『ささやかな自由』の機会は狭めなくていいと思うが、いかがだろう」と結んでいます。誰も自由を奪おう何てしていませんよ。「狭めなくていい」とは言い回しの貧しさに呆れます。

 あるいは毎日新聞の「たばこ税:増税、効果は 税収、消費減り減収も/禁煙促進、がん減少?/生産者は反対」です。増税は健康増進のためにするのであり、税の減収大いに結構です。税収が減らないようにじわじわ上げていく方法は、密売組織が麻薬患者から金を搾り取っていくのと同じ発想です。それに「がん減少?」と疑問符を打つ勇気は相当なものですよ。所得が減るタバコ生産農家には税収から所得補償をすれば良いだけです。WHOは「世界で毎年20兆円ものタバコ税収がありながら、タバコ規制に使われているのは0.002%にすぎない」と批判しています。

 【関連】第71回「新・たばこをめぐる日米の落差」(1999/06/03)
     第135回「たばこ依存脱せぬ日本人を考える」(2003/06/12)


インフル接種回数、「混乱」報道はメディアの無知

 新型インフルエンザの予防接種回数をめぐり、16日の専門家会議で2回とされた方針の撤回が合意されて1回で済ませると報道されたのに、今週になって健康な成人以外はやはり2回に戻りました。毎日新聞の「新型インフルエンザ:ワクチン「原則2回」 行政判断で方針転換−−厚労省」は「足立政務官は19日の会議について、16日の結果に異論があったため新たなメンバーを指名したと説明し『科学的、医学的に正しいとされたものが、すべて行政判断にならない部分はある』と述べた」と伝え、あたかも政務官の非科学的なごり押しがあったかのようです。他のメディア報道もこのニュアンスを含んでいます。

 ところが、「新型インフル 議論そのものを公開 足立政務官ヒヤリング」(ロハスメディカル)を読めば、事情が逆であることが分かります。医師でもある(「足立信也氏プロフィール」)政務官が専門家を招いて、200人の健康な成人に対して実施した臨床試験結果を、健康成人以外の対象にまで広げるのは無理であることを当たり前に議論しています。こういう議論の議事録がそのまま読めるようになったのも、政権交代の雰囲気かなと思えました。

 一般のブロガーは「新型インフルエンザのワクチン接種回数は何回?接種を受けられる時期は?」が「別の専門家を加えた会議を招集し、最終的にはまた『原則2回』と当初の方針に逆戻り。二転三転する方針に、医療現場からは困惑の声が上がっているそうです」と書いているようなに受け取ります。しかし、これはメディアの伝え方が悪いのです。いや、それ以上に上の議論を聞いたメディアの記者が議論の意味を理解できなかったとは、恐ろしく無知だと言えましょう。自分の頭で理解しないで「専門家」の発言を右から左に垂れ流すだけのジャーナリストなんか必要ない、と申し上げておきます。

 ロハスメディカルの記事は「緊急ヒヤリングは、大変に白熱して面白かった。しかし終了後の記者たちの顔を見ていると、金曜日の専門家会議について旧来型取材の常識に則って記事を書き、結果的に"誤報"とされて面白くなかったらしい」と皮肉っています。


不思議でない新型インフル流行に驚く厚労相

 1週間で患者11万人と伝えた読売新聞の《新型インフル「流行期入り」1週間で11万人…厚労省推計》を始め、メディアは一斉に新型インフルエンザ流行を流しました。舛添厚労相は総選挙で飛び回って問題意識の外にあったのか、真夏の流行に本当に意外感を持ったようです。冗談ではありません。「新型インフル5千人。お寒い都の監視体制 [BM時評]」で書いたように、患者5000人の節目で全数把握を止めたからその後、世間の話題から消えただけで、、直前の5日間で患者が1000人も増え、勢いは加速していました。ウイルスが地域に蔓延したから全数把握の意味がなくなったとの理解が厚労相にないとすれば、行政の責任者失格です。

 25日には朝日新聞《新型インフル「米国民の半数感染、死者9万人」予測》が「最悪の場合、180万人が入院する。また30万人が集中治療室(ICU)で治療を受ける可能性があり、子どもや若者を中心に3万〜9万人が死亡すると予測」「米国では季節性インフルエンザで毎年約3万6千人が死亡しており、最悪の場合、その2倍強」とオバマ米大統領の科学技術諮問委員会が出した報告を伝えました。人口比で3分の1として、国内でも最悪3万人の死者ということでしょうか。

 「WHO発表の症例数(累計) update 62」によると「冬が終わりつつある南半球の温帯地域全般に言えたことは、パンデミックH1N1が流行すると、H3N2を代表とするこれまで重要な季節性インフルエンザがほとんどの国で、流行が収まりパンデミックH1N1が主流となった」そうです。この秋は新型がこれまでのウイルスを圧して主役になるのでしょう。


新型インフル5千人。お寒い都の監視体制

 新型インフルエンザ感染者数が7月24日、5千人を突破して午後6時現在で5023人になりました。19日午前6時の集計で4千人を超えたばかりですから急速な感染の拡大が進んでいます。再流行がはっきりしてきた大阪府では1023人を数えるありさまです。ところが、この節目の発表を契機に大阪府は「24日以降は、国の新たな方針に沿って全数把握を行わなくなりました。大阪府内の新型インフルエンザの新規感染確定者数の公表は本日で終了します」と告知しました。今後に向けて、これでいいのか、後述する東京都など、かなりお寒い監視体制です。感染症情報センターにある「日本の流行地図(7月24日午前6時現在)」を掲示しておきます。5千人直前、4986人段階です。


 「WHO発表の確定例(累計) (日本時間 2009年7月6日 午後6時現在)」は94512例に達していますが、数千人規模になって相当の死者まで出ているイギリス、オーストラリア、アルゼンチンなどは少し前から患者数の把握を取りやめています。蔓延期に入ったので対処方法を変えるとの判断なら理解できます。ところが、国内は蔓延期突入とのアナウンスもなく、格段の感染注意を呼びかけるでもなく「集団発生を監視する体制に移行します」とだけ説明されています。

 今後は全国にあるインフルエンザ定点医療機関を中心に、集団発生が疑われるときに遺伝子検査をして新型か確定することになりますが、都道府県ごとの「やる気の違い」あるいは「及び腰度」で、適切な流行把握が出来るかどうか、疑わしいのです。例えば東京の「ウイルスサーベイランス(更新日 2009年7月22日)」を見ると、新型インフルエンザ感染者を5、6月は発見できず、7月に入って、やっと1人見つけただけです。それどころか、6月以降は新型以外もほとんど出ていない状況です。


 全国の有志医師が自主的に診断データを集積している「MLインフルエンザ流行前線情報DB」から、東京でのインフルエンザ発生グラフを引用します。東京の有志医師は53人で人口を考えると決して多くはありません。それでも7月に入って都議選前後に、全国動向と違う発生ピークが出来ています。遺伝子検査まではしていませんが、いずれもA型ですから新型の可能性は高いと思います。はるかに数が多い「定点」は何をしていたのでしょうか。


 大阪府で感染者千人を突破したのも、保健所や医療機関に調べる意欲があればこそだと思います。都が把握した感染者は200人余りで、しかも4割は渡航歴がある国外感染です。学校などの集団発生も、神奈川や千葉などから通学する生徒が自宅のある自治体で感染が確定、都内にある学校を調べて集団発生が分かった例がほとんどなのです。東京都の役人は有能なのか無能なのか、平時なら色々な見方が出来ますが、本当に恐ろしい感染爆発、パンデミックへの予行演習と言われた今回の新型騒ぎについては、落第点は間違いなしでしょう。

 【参照】第179回「新型インフル、国内の持続的感染が確定」
     第181回「都議選が新型インフル爆発の引き金に?!」


第181回「都議選が新型インフル爆発の引き金に?!」

 東京都議選が告示されました。総選挙をにらんだ政局がらみもさることながら、新型インフルエンザ感染爆発の引き金を引くのではないかと危惧しています。国内の感染者は1500人を突破しましたが、報道は極めて地味で、都民の関心は低く、予防などどこ吹く風に見えます。ところが、過去1週間に感染確認された数は愛知の95人に次いで東京が48人にも上り、感染源の存在を示唆しています。国内全体としても「日本の発症別発生動向」が示す通り、神戸・大阪での最初の集団発生をはるかに凌ぐ第2の山が築かれつつあります。「感染のくすぶり」がある上に、無警戒でされる選挙運動と投票での濃厚接触が多数加わればどうなるかです。

 国会議員選挙を衛生関係者が止めるのを無視して強行したアルゼンチンが、感染爆発の制御に失敗し、苦しんでいます。首都ブエノスアイレスでは「首都全域に非常事態=新型インフルでアルゼンチン」が宣言され、学校は冬休みを前倒しにして6日から閉鎖です。選挙を延期できなかった問題はニューヨークタイムズの「Argentines Question Vote During Outbreak 」が詳しく伝えています。「衛生当局者は先週、非常事態宣言をして大衆が集まる選挙を延期、感染の問題に目を向けさせようとした」しかし、政治的理由で強行され、衛生相は辞任してしまいます。

 アルゼンチンの感染者数は公式報告は1500人余りなのに死者が43人もいて、極めてアンバランスです。地元紙LA NACIONの「Ya hay en el pais 100.000 contagiados por la gripe A」は、実は感染が10万人とも5万人とも、と伝えています。死者が百人を超す米国に次ぐ流行ぶりが明らかになったのですが、ニューヨークタイムズによると4000万人の人口に対してタミフルなどの抗ウイルス薬の備蓄が226万人分しかないお寒い事情が背景にあって死者が増えているようです。

 南半球で冬に入るアルゼンチンは、日本とは全く別でしょうか。3日、ロイターは「再送:英国が新型インフル対策見直し、感染者1日10万人も視野」で英国では「新型インフルエンザの感染報告が毎週倍増している」「8月末までに国内の新型インフルエンザ(H1N1型)の新規感染者が1日当たり10万人を超えるペースになると予測」と伝えています。英国はこれまでに7477人の感染を確認しています。

 日本も各地の保健所が、渡航歴がない発熱者は遺伝子検査を避ける「サボタージュ」をしていなければ、人口規模や米国との人的交流の大きさから見て、英国程度に膨れあがっていておかしくありません。同じ北半球にある先進国、英国と大きく事情が違うと考える方が非常識です。日本の「サボタージュ」の結果、初期に捕捉すべき患者が見失われ、そこからの感染経路も見えなくなりました。水際作戦として検疫だけに血道を上げた政府は、大都市圏で蔓延に近い現実を認める訳にもいきません。厚生労働省は「秋からの本格流行に備える」と称して、7月半ばからは集団発生以外は捕捉しない方針を打ち出しました。自分たちの失敗を隠して逃げ切れると考えているようですが、都議選が巻き起こす濃厚接触の大きさを考えてみたこともないとは寂しい限りです。


新型インフル、4大都市圏がレッドゾーンに

 この週末、新型インフルエンザ感染が拡大し、29日午前11時現在で感染症情報センターがまとめた「日本の流行地図」で4大都市圏がレッドゾーン(感染者100人以上)入りしました。大阪・兵庫は最初からで、新たに加わったのは東京・千葉、愛知、福岡です。地図を引用します。これはニュースだと思うのですが、テレビ・新聞ともメディアには出ません。ニュース感覚を疑います。



 例えば1週間前は33人だったのが101人にも増えた愛知県があります。爆発的ではありませんが、あちこちの大学などで集団発生していて、無視できない小流行に見えます。ところが、地元紙の中日新聞の「愛知の感染者100人に」は「愛知県で28日、10代の男女7人に新型インフルエンザ感染が確認された。いずれも容体は安定。県内での感染確認者は、1日の初確認から数え、100人に達した」と淡々としたものです。

 厚生労働省の「新型インフルエンザに関する報道発表資料」では、数日前から午前6時を節目に24時間の感染確認分をまとめて発表するようになっています。毎日50人前後のリストを見ると、渡航歴無しが増えています。しかし、これまで「新型インフル感染爆発、豪ビクトリア州の失策 [BM時評] 」などで見てきたとおり、科学的にきちんとした新型感染モニタリングは国内ではただの一度も実施されていないのです。各地の保健所が感染を確定する遺伝子検査を積極的にしない方針であっても、ここまで数字が積み上がりました。実態はどうなっているのか、非常に気になります。

 6月26日ワシントン発の共同通信「米国で推計100万人感染 新型インフルで保健当局」は米疾病対策センター(CDC)が「ウイルスがまん延している地域では住民の6%が感染したとの評価で、特にニューヨーク市だけで全住民の約7%、約50万人が感染したとみている」と伝えています。


ジェット風船復活、警告すべきメディアの怠慢

 新型インフルエンザ流行のため阪神甲子園球場と広島・マツダスタジアムで先月から自粛していたジェット風船が、26日から解禁になるとマスメディアがあっさり、淡々と報じています。毎日新聞の「ジェット風船:甲子園とマツダで解禁」がその一例です。国内の感染者数が千人を超えた節目の日に、この国のマスメディアの目は何を見ているのでしょう。毎日、50人前後増えているというのに、文字通り「節穴」ではないでしょうか。

 「兵庫県や西宮市の安心宣言が出て、市民生活も感染確認以前の状況を取り戻していることから、自粛解除を決めた」――観光客減少で痛手を負ったので、行政としては無理矢理でも「安心」の気分に持ち込みたいだけです。ジェット風船がウイルス飛沫感染にどれくらい効くか、きちんとした研究があるはずもありませんから、定量的な議論は出来ませんが、国内各地で感染源不明な患者が続々と出ている時期に、ジェット風船で何が起きるか、想像したくもありません。

 厚生労働省を先頭に東京都の保健所など行政側は極力、新型インフルエンザ患者を「発見しまい」と努めているのが現状です。既に新型かどうか、遺伝子検査による確定は全国に500しかない定点観測医療機関にかかった患者しかしないように指導し始めました。球場で新型感染が広がっても、どこかの学校や職場で歴然とした集団発生が起きなければ表面化しない仕組みに移行しつつあるのですが、こんな国家的スキャンダルを伝えられず、飛沫感染が心配なジェット風船復活に警告できなくて、市民社会のために存在しているジャーナリズムとは到底、思えません。

 この一方、ヤクルトは24日に神宮球場でのジェット風船禁止を継続すると発表しました。福岡ソフトバンクも福岡県内の集団感染でヤフードームでのジェット風船自粛を続けています。こんなに狭い国土に多くの人口がひしめき合う国内です。都道府県境でインフルエンザ流行状況に差があろうはずがないでしょう。


新型インフル感染爆発、豪ビクトリア州の失策

 新型インフルエンザで2000人を超える患者を出しているオーストラリアでも、その半数以上はビクトリア州に集中しています。何があったのか、感染症の専門家が州当局を批判している論文を、「科学ニュースあらかると」の《「新型インフルエンザ」の感染拡大にどう対処すべきか?》が紹介しています。5月末に「新型インフル検査、厚労省の非科学と杜撰 [BM時評]」で指摘した、検査すべき人を検査しない構造的な欠陥が豪でもあったのでした。

 「彼らは、ビクトリア州のガイドラインでは現場の医師達に対して、感染が疑われる人達が外国からオーストラリアに戻ってきた場合、もしくはそういった人達との密接な接触が確実に有った人達に限定して、テストを行うように要請していたが、『それは、実際にしなければならなかった事とは正反対だった』、と指摘しています」。加えて検査機関をひとつに限定したので結果が出るのに5日もかかるなどの不手際がありました。

 これはまさに日本の厚生労働省の指針でした。東京の保健所などは目の前にインフルエンザと疑われる患者がいても、渡航歴がなければ無条件で「季節性」として検査もせずに処理してきました。こんな季節に集団発生するのは異常だと、神戸と大阪の医師は指針に逆らって遺伝子検査を要請、新型の集団発生をつかまえたことは周知の通りです。しかし、大部分の都県は指針を守り続け、今になって感染源不明の散発的な患者発生が全国各地で起きています。間もなく1000人に達するでしょうが、実際にどれくらいの患者が隠れているのか、推定する手掛かりは失われました。神戸・大阪の集団発生時よりも大きな2番目の山が出来ています。感染症情報センターのグラフを参照。



 日経メディカルが「米国ニューヨークで重症化例が急増中」で、押谷仁・東北大微生物学分野教授の国内でも感染拡大の見方を伝えています。

 「ヾ鏡源が特定されない例が多数見つかっている感染していても、症状が軽く本人が気づいていない可能性がある自宅待機などを避けるため、感染の恐れを自覚していても名乗り出ていない人がいる可能性があるぐ貮瑤亮治体が新型インフルエンザへの感染を確定するPCR検査を積極的に行っていない――などの理由から、日本でも感染拡大が続いているはずだと訴えた」。い痢岼貮瑤亮治体」はもちろん「大部分の自治体」です。岡山県のように人の移動の軸に位置しながら、今日現在でも患者発生ゼロになっている所は「意図的」と申し上げてかまわないと思います。

 押谷教授の報告で「ニューヨークの医師から聞いた」「剖検した5例のいずれも、上気道から下気道まで高度にウイルスが増殖しており、ウイルスの複製量が通常の季節性のインフルエンザより桁はずれに多かったという」「ほとんどの人が新型インフルエンザに対する免疫を持っておらず、基礎疾患がある人や免疫が落ちている人は、ウイルスの増殖を全くコントロールできなくなっている可能性があるのではないか」との部分は、弱毒性といっても決して甘く見てはならないと教えてくれます。

 【追補】山陽新聞は「新型インフル 倉敷の女性感染か 〜中国入国時に発熱、入院中」で「倉敷市役所で曽根啓一・市保健所長が記者会見し、『潜伏期間から倉敷市内で感染した可能性が高いが、感染ルートは確認できていない』と述べた」と24日に報じました。実は岡山県も既に新型インフルエンザ蔓延状態なのでしょう。


臓器移植法改正A案可決:衆院議員の認識不足に呆れる

 「脳死は人の死」とする臓器移植法改正案「A案」が18日、衆院で大差で可決されました。提案者は審議の過程で臓器移植の局面に限ったことだと釈明したようですが、各メディアが報じるとおり、死の定義そのものを変更しているようにとれるのです。1997年の第8回「臓器移植法と脳死・移植の行方」から最近の「臓器移植のドナー不足は本当に悪なのか [BM時評] 」まで、ずっと見守り続けてきた立場からすれば、これは拙いと考えます。国会で議論した末に法を変えるのは当たり前のことですが、それなら既存の法律多数との整合性をとる作業をしなければなりません。臓器移植法改正案と称してほんの手直しですと言いつつ、根本から変更してしまうのは酷すぎます。衆院議員にそれくらいの認識が無かったとは驚きです。

 いまさら保守・革新とは言いませんが、それでも自民党に特に賛成が多かったというのも「良き保守主義」を標榜する党でなくなった証拠でしょう。国民の死生観が本当に変わっているのなら、それに合わせたら結構ですが、変わっていないのに国会が新・死生観を押しつけるなど、噴飯物です。麻生首相と共産党が、まだ民意が固まっていないとみていると表明したのは妥当な判断だと思えます。

 各論についての異議は、自然科学と社会科学から有力な研究者がそろう生命倫理会議が「衆議院A案可決に対する緊急声明」を出しているので、参照されたらよいでしょう。参院では7月末までの会期できちんと議論して方向を打ち出してもらいたいものです。衆院の解散を縛るとかの議論もありますが、麻生首相がここで解散に踏みきれるようなら、もっと条件が良かった時期に解散しています。任期満了解散・総選挙と達観して、参院は十分に審議すべきです。


新型インフルは暑さに強い!! タイなどで急増

 夏に向かえば新型インフルエンザは自然に収束すると考えられていたのですが、どうやら暑さにとても強いようなのです。不思議なことに日本よりもずっと暑いフィリピンやタイでこの数日、感染者が急増しています。国内でも遺伝子検査の対象を海外渡航歴の無い人に少しずつ広げていくとともに、福岡・千葉・東京・愛知などで感染者が目に見えて増えるようになりました。10日以降の1週間で150例以上も増えています。

 IBTimesの「【タイ】新型インフル、新たに95人の感染者を確認し累計で405人に」と、フィリピン在住の「ぱんぱんが日記」「新型インフルエンザ感染者、フィリピンは一気に300人突破 」を参照して下さい。WHO発表の確定例(累計)(日本時間 2009年6月12日 午後4時現在)では、タイはたったの8例だったのが405例、フィリピンは77例が311例に膨れあがりました。ほんの5日間の出来事です。

 タイの場合は、感染した「添乗員がバンコクから戻った後に多くのタイ人観光客グループを引率し県内の観光地を回った際にウィルスを拡散させた恐れがある」そうです。それにしても暑さや湿気に弱いはずのインフルエンザ・ウイルスらしくありません。これまで言われていた、暑さ本番とともに収束するというシナリオは信用できないと思えます。国内でも流行はだらだら続いて、秋のシーズン本番に突入するのではないでしょうか。


米の新タバコ規制法「マイルド」「ライト」禁止

 米国でタバコ業界から長らく反対されていた、強力なタバコ規制法案が議会で12日に可決されました。オバマ大統領は「勝利だ」と述べた推進側ですから、すぐに署名、成立でしょう。ブッシュ時代には、こうはいかなかったでしょう。

 AFPの「米で新タバコ規制法案成立へ、FDAに強力な規制権限」は「ニコチン含有量の制限 風味の添加の禁止、若者を対象とする広告に健康への影響に関する警告を記載することを義務化する権限などがFDAに与えられる」「10代の未成年者の読者が多い出版物へのタバコ広告が厳しく制限されるほか、タバコが健康に与える影響の印象を和らげる『マイルド』『ライト』といった単語の使用が禁止」と伝えました。

 「タバコってなんですか?」の「米たばこ規制法成立へ マイルド、ライト表示は禁止」は大歓迎で「警告表示も文字だけではなく下記のような写真つき警告文になるでしょう」と「世界のタバコ警告表示」を紹介しています。「EUのタバコパッケージ警告表示」だけ眺めても、強烈な写真や図案のオンパレードです。たばこの箱に張らせたら、相当な効果が期待できそうです。

 次は国内です。健康への警告表示も手ぬるいとしか言いようがありません。大幅値上げや実質がある規制に踏み出すべきです。


第179回「新型インフル、国内の持続的感染が確定」

 福岡と千葉・船橋で新型インフルエンザ集団感染が急拡大しています。6月5日時点では福岡1例、千葉6例に止まっていた感染者数は、10日昼には福岡42例、千葉24例に膨れあがりました。やるべき遺伝子検査を極力制限して患者の多くを季節性インフルエンザと誤魔化し、やり過ごそうとしている厚生労働省の対応が破綻しました。神戸・大阪が独自の判断で新型蔓延を検出し、収拾したのを迷惑そうに見ていた政府は、今度は自らの問題として蔓延する局面に対処しなければなりません。

 特に福岡では地元のメディア「データマックス」が「福岡市、遺伝子検査拒否で新型インフル感染拡大!」で「板付中学校の生徒に新型インフル感染が確認されたのは今月6日土曜日。板付地区ではその1週間ほど前から感染が疑われる患者が続出、診察した複数の医療機関は博多保健所に対し、遺伝子検査を要請していたという。しかし、保健所側は遺伝子検査を実施しようとせず、季節性インフルエンザとして対応するよう指示を繰り返したとされる」と感染拡大を放置した「行政の犯罪」を告発しました。

 西日本新聞は「福岡市の新型インフル集団感染 中学生と米国人のウイルス遺伝子ほぼ一致」と報じました。「米国人は発症前日の5月23日に中学生が通う板付中校区内の飲食店で食事をしており、県は『場所的に(飲食店で)感染が広がった可能性が一番高い』と予測。また、米国人の感染確認から中学生の感染確認まで10日以上あいていることから、米国人と中学生の間に1―2人の感染者が介在したとみている」というのですから、これは世界的大流行(パンデミック)の認定条件になる「地域社会レベルの人から人への持続的感染」そのものです。

 船橋で集団感染した中学生は3〜5日に岩手県に修学旅行に行っており、現地で会食した飲食店の女性従業員にも感染者が出ました。東北では初めて感染例です。滋賀県の男性大学教員が2〜6日に東京都内で開かれたイベントへ出張して感染した例が示すように、首都圏は新型インフルエンザの巣窟になっている可能性があります。なにしろ都の保健所は主に汚染国に渡航していた発熱者しか遺伝子検査をしてこなかったのですから、感染の広がりは全く掴めていません。

 都がどれほど遺伝子検査をしてこなかったか、「東京都インフルエンザ情報」という資料があります。第20号を見ると、渡航者を検査した東京感染症アラート以外には、5月の4〜10日に21検体、11〜17日に31検体、18〜24日に25検体ですから、合計77人分しか調べていないのです。東京都発熱相談センターに寄せられた相談件数は10日には8万件を超えています。第19号を見ると18〜24日には中央区、杉並区、葛飾区でインフルエンザ様疾患で学級閉鎖があったことになっています。上記のわずかな検査数から遺伝子検査をしなかったことは明らかでしょう。この時期に学校で集団発生があっても、東京の保健所には新型を疑って遺伝子検査をするセンスが無いとは呆れてしまいます。これが故意のサボタージュでないのなら、都の役人の頭は空っぽとしか言いようがありません。果敢に検査をした神戸・大阪とは大違いです。実は25〜31日の週にも3区1市で学級閉鎖が起きています。

 東京ディズニーランドが千葉県西部にあるように、船橋は千葉と言うより我々の感覚では東京の一部でしょう。そこで感染源不明の集団発生が確認されても、都には動く構えは見えません。10日更新の「東京都における新型インフルエンザの発生状況」は例によって例の如しです。「6月9日、東京都に報告のあった確定患者は3名です」「これまで報告された確定患者13名全て、新型インフルエンザの蔓延している国又は地域の滞在歴もしくは新型インフルエンザ患者との接触歴が確認されています」では、あざ笑う対象でしかありません。この条件に当てはまらない対象を把握することが「出来ない」システムで運用しているのですから。

【6/14追補】6月11日分までの発症日報告数の推移です。2番目の山が姿を現しました。感染症情報センターのまとめは届け出日ではなく発症日なので数日のタイムラグがあります。



新型インフル、国内侵入は遥か以前に

 毎日新聞の「新型インフルエンザ:4月末、既に国内発生?−−感染研」など各紙が「国立感染症研究所(感染研)は29日、関西で最初に新型インフルエンザの感染が確認された5月16日より2週間以上前の4月28日ごろ、神戸市、大阪府内で患者が発生していた可能性があるとの見方を示した」と伝えています。薬局でのタミフルなどの治療薬処方箋の数を調査して、B型の流行が終わった後、4月末に「神戸市中央区の薬局で治療薬の処方が例年を上回って急増し、流行レベルに達した。大阪府内でも5月1日に池田、枚方市、13日に池田市で同様の状態になった」といいます。

 これで、ひたすら検疫に奔走していた政府の愚かしさがはっきりしました。「蔓延を遅らせる効果があった。体制を整える時間的な余裕を稼げた」とはよくも言ったものです。成田の検疫で見つかる遥か以前に新型ウイルスは国内に潜入して、どんどん感染者を増やしていたのでした。

 「感染症診療の原則」の「参議院予算委員会 その2 戦略編」は国立感染症研究所の岡部信彦感染症情報センター長らの専門家が繰り返し、水際対策は効かないと指摘していた事実を列挙しています。「最後に残るブログ編集部の疑問は、その岡部先生をはじめとする専門家がアドバイスをしてもなお、この現状はなぜ?です。ここから先はジャーナリストの仕事ですね」

 まさしく在京メディアは検疫ごっこを追うことしかしなかったのでした。関西の蔓延を見ても東京に患者が出ないことを不思議に思えないセンスには、ほとほと愛想が尽きました。今回の感染研の発表は、京都や茨木で感染患者発見の前後に治療薬処方箋が同じ市内で多数出ていることも明らかにしています。「患者発見」は氷山の一角であり、周辺には遺伝子検査に回らなかった患者が多数いたのです。この蔓延状態が関西に止まるはずがありません。現在なお、遺伝子検査を制限して「患者を見つけたくない東京都」と「それをスキャンダルとして告発しない在京メディア」はいずれ真相が明らかになるに従って、社会的信用を失うでしょう。


新型インフル検査、厚労省の非科学と杜撰(ずさん)

 読売新聞の《新型インフル患者数、「新規発症は減少」と厚労省》をはじめマスメディアは、厚労省が「ピークは20日で、ここ数日は新規の発症者が減ってきた」とみていると伝えました。厚労省はまだ、新型インフルエンザの流行状況を自らの管理下に置いていると信じているようです。驚くべき非科学性です。政府が取ってきた流行阻止対策の前提は悉く崩れ去っています。新規発症者が減っているのは、するべき患者に遺伝子検査をしないからにすぎません。

 感染者は指定の汚染国からやって来て、水際の検疫作戦である程度は食い止められ、政府が気付かない内に国内に蔓延する事など無い――との前提に立ち、発熱者がいれば汚染国に行ったかを問い、行っていれば簡易検査でインフルエンザA型かB型か調べ、A型なら遺伝子検査をする――このフローを守るよう指示してきました。神戸、続いて大阪で高校生の患者が見つかったのは、学校での季節はずれの集団発生を不審に感じた医師が「海外渡航歴なし」でも遺伝子検査をするように求めた結果です。京都の小学生で見つかった例は最近、遠出さえしていないのですから、国内蔓延をさらに疑わせます。

 厚労省の「指示」が頑なに守られてきたことは、感染症情報センターの「新型インフルエンザA(H1N1)の流行状況−更新5」を見れば歴然とします。「11日10時現在で、感染症発生動向調査に関連して疑い症例調査支援システムに入力された情報では、新型インフルエンザ疑似症の報告は、全部で15例であった」。検疫以外で遺伝子検査まで進んだ例が、大型連休明け5月11日でも極めて少なかったのです。

 20日に米国から帰った女子高校生2人が、検疫で簡易検査「陰性」となりながら都内などの自宅で発病してしまいました。簡易検査の信頼性は「2009年5月19日現在の神戸市における新型インフルエンザの臨床像(暫定報告)」ですでに否定されていました。「43例全例の新型インフルエンザ検査確定例」で「迅速検査A型陽性の診断は23例(53.5%)」「陰性の診断は20例(46.5%)」と、遺伝子検査で確定した患者にしていた簡易検査の結果は陽性・陰性が半々なのですから、無用の長物です。

 神戸と東京の発熱相談センターに寄せられた電話相談件数の推移を並べてみましょう。人口比が8倍余りあることに留意しても、大型連休明けの状況は似通っています。神戸だけに発熱者が多かったのではありません。

 ●神戸市発熱相談センターに寄せられた電話相談件数
5月11日(月)   144件  累計1172
5月12日(火)   103件 
5月13日(水)    61件  累計1336
5月14日(木)   (不明)件 
5月15日(金)   (不明)件 (神戸市で新型インフルエンザ患者発生)
5月16日(土)   (不明)件 
5月17日(日) 1,875件  累計3557
5月18日(月) 2,089件 
5月19日(火) 3,640件 
5月20日(水) 2,836件 
5月21日(木) 2,820件 
5月22日(金) 2,179件 

 ●東京都発熱相談センターに寄せられた電話相談件数
5月11日(月)   593件  累計8697
5月12日(火) 1,143件 
5月13日(水)   816件 
5月14日(木)   601件 
5月15日(金)   480件 (神戸市で新型インフルエンザ患者発生)
5月16日(土)   450件 
5月17日(日)   889件 
5月18日(月) 1,425件 
5月19日(火) 4,563件 
5月20日(水) 4,895件 (東京で初の感染者。米国帰り高校生)
5月21日(木) 4,749件 
5月22日(金) 6,124件 (東京3人目。大阪観光から帰った直後)
5月23日(土) 5,654件

 神戸がやや落ち着いてきているのに対して、東京は23日の土曜日も殺到している感じです。では、この多数の相談者に適切な検査がされているのでしょうか。18日に至って、汚染国や汚染地域に行っていない場合にも検査対象を拡大をするとした「都内での感染者発生早期探知に向けての東京都の対応方針」は病院については「38度以上の発熱及び呼吸器症状のある入院患者又は医療従事者が3名以上発生し、迅速診断キッド判定がA(+)であった場合」、学校では「学級又はクラブ単位で38度以上の発熱及び呼吸器症状のある生徒、児童が3名以上発生し、迅速診断キッド判定がA(+)であった場合」に遺伝子検査をするというものです。これでは神戸や大阪で最初に見つかった、医師が現場の勘を働かせたケースは遺伝子検査に回りません。1人の医師の所に3人もの同級生が相次いで来る想定に無理があります。集団発生しても別々に医師にかかれば網にかかりません。そして、簡易検査(迅速診断キッド判定)は無意味どころか、このケースでは感染者の半数を見落とす結果につながります。

 公式に報告されているデータを集めただけでも、厚生労働省の新型インフルエンザ検査体制は破綻しています。患者発生状況を原理的に把握できないのです。これで「ここ数日は新規の発症者が減ってきた」とのコメントは失笑を買うだけです。奈良県は週初めに1100人もの異常を把握しながら「指示」に従って遺伝子検査に回したのは7人で、いずれも「陰性」だから問題なしと発表したようです。

 起きている現象を的確に観測できなくなっている恐れがあれば、観測システムを切り替えるのがサイエンスの常道です。全数検査までする力がなければ、発熱相談者に適切なサンプリングをして遺伝子検査を実施すべきです。そもそも人類未経験の新型インフルエンザ流行が、最初に描いたシナリオ通りに進むと考える方が傲慢不遜ですし、ここまで来て簡易検査を外そうともしない杜撰さには驚き入ります。


新型インフル、東京の感染ゼロに間もなく終止符

 新型インフルエンザは神戸・大阪では19日、感染症指定の病院だけでは受けきれないほど患者が増えて「蔓延期」の扱いが認められました。つまり一般の診療機関でも季節性のインフルエンザと同様に診療してくれ、という訳です。この措置と同時に、新型と疑いがある症例全てについて遺伝子検査(PCR)をするのも止めることになりました。ここに至ってももう一つの大都市圏、東京で患者がゼロなんですね。不思議を通り越して、都の衛生当局はさぼっているのではないか、あるいは大騒ぎが起きるのを見越して隠しているとか、色々な観測がありました。実は厚生労働省の指針に基づいて、東京都は海外渡航歴が無い発熱症例ではPCRはしないと頑なだっただけなのでした。

 「2ちゃんねる」掲示板内にある、医師と保健所のやり取りの記録を一部引用します。真偽は不明ですが、官僚的な雰囲気がよく出ています。

《18日昼間、東京都のある保健所とのやりとり

医「感染が拡大していますが、海外渡航歴や、神戸、大阪への旅行歴、感染者と思われる者との濃厚接触など無くとも、インフルエンザが強く疑われる症状の患者様がいた場合、発熱外来に紹介したいのですが・・・」

保「渡航歴や旅行、接触が無い患者さんは、普通に診察してください」

医「いやいや、そういうことではなくて。診察した上で、疑いが強かったら紹介したいといってるんですけど」

保「保健所の発熱相談センターは一般向けの回線ですので、そういった場合は結核予防課に電話してください」

医「いやいや、もう疑いが濃厚な人と診断したら、発熱外来に紹介してPCRなどをしていただきたいんですよ」

保「そういった場合でも、渡航歴などがない方はそのまま普通に治療してください」

医「だ〜か〜ら〜もう、神戸とかいってなくても感染してる人が来る可能性が高まってるでしょうに。発熱外来の連絡先を教えてください。それだけでいいですから」

保「そういった場合でも、まず医療機関様は保健所の結核予防課に連絡してください。そちらの方で発熱外来への誘導が必要か判断します」・・・》


 関西の状態から見て、人口がさらに多い関東も蔓延状態にあるのは確実です。それでも新型患者1人も把握できない東京の保健所。大阪の保健所も海外渡航歴なしでの集団発生例を見逃していたのですが、神戸で患者発生を見て、見直すだけの柔軟性はありました。東京都の役人には、それすら無いんですね。

 毎日新聞が今日になって「新型インフルエンザ:都が早期探知へ新方針 無渡航でも遺伝子検査 /東京」を出し「これまでとは異なり、新型インフルエンザの広がっている国への渡航歴がないケースを想定。同一病院の患者や職員、あるいは学校内の同一学級やクラブ内で、38度以上の発熱などがありA型インフルエンザに3人以上感染したと確認された場合、遺伝子検査を実施して新型かどうかを判明させる」と伝えました。

 これで東京の患者ゼロは終了です。いまさらではありますが、もっと恐ろしい感染症が襲来する未来に向けて行動パターンを修正する反省材料だけは得ておいて欲しいと思います。


新型インフル感染確認は氷山の一角の一角

 新型インフルエンザの国内二次感染者が確認と伝えられた途端、感染者数は一気に膨れあがってしまいました。兵庫も大阪も高校での集団感染です。神戸も大阪・茨木も11日からインフルエンザの欠席が目立ち始めたといいますが、兵庫の場合、8日にあったバレーボール部の交流試合が感染の場になっていますから、連休中には既に二次感染による発病が始まっていたのでしょう。国外から持ち込まれたのは、潜伏期を考えるとさらに数日前です。政府が検疫による水際作戦に夢中になっているとき、既に地域での感染は始まっていたのです。そして、表面化してみると、具合が悪い生徒の数は数十人、あるいは100人を超える勢いで、全員入院させて隔離するのが無理な規模に迫っています。

 最も名の知られた医師ブログのひとつ「新小児科医のつぶやき」は神戸で開業している方なので、この事態を「いきなり爆心地」と表現、いやはやという印象。感染確認当日のエントリー「足らんだろうな」「爆心地情報」「新型インフルエンザ第二段階の対策」と翌17日の「感染地情報」にはコメント欄を含めて、ここまで広がってからの現場の対処の難しさがよく出ています。神戸市医師会新型インフルエンザ対策緊急会議の討議で「もう既に感染はかなり広がっていると考えられるので、通常の季節性インフルエンザと同様の対処としてはどうかの意見も」との情報もあります。感染者が入院する病院の勤務医は「もう入院患者は神戸市内で40人をこえており、感染者が隔離入院される措置もあとわずかとおもいます。隔離する場所がありません、というか隔離しても無駄ということで」とコメントしています。

 「今の厳戒態勢のままにしておけば、新型インフルエンザに対する政治評価として傷は付きません。一方で厳戒態勢の継続は医療にも、国民生活にも大きな影響を及ぼします。医療的には発熱患者をすべて発熱外来で対応し続ける事への無理です。たとえば小児科患者の多数はそもそも発熱患者ですから、渡航歴の縛りがなくなれば、どっと押し寄せます。長期間対応できるかの問題は必ず出てきます」

 新型は鳥インフルエンザで想定したほどの強毒性ではなく、通常の季節性に比べ数倍程度の毒性と言います。それでも、それなりの死者は出ますが、国民生活ががたがたになる被害とどうバランスをとるか、考えるべき時期が早くもやってきています。

 共同通信の「新型インフル3分の1が発熱せず 米医師が報告、早期発見困難に」が「発熱はインフルエンザの感染を見分ける重要な指標とされる。報告が事実なら、感染の早期発見と拡大防止が、これまで考えられていた以上に困難になる可能性がありそうだ」と伝えたように、新型インフルエンザは厄介な性質を持つようです。これでは軽症で発熱無く治まってしまった患者は全く見えない存在です。厳戒態勢にどういう意味があるのか考えさせられます。

 「感染症診療の原則」の「推定10万人 (米国CDC試算)」は4700人と報告された米国の患者数が実際は10万人くらいと米疾病対策センター(CDC)がコメントしていると書いています。どういうことでしょう。「感染症サーベイランス」に、報告された症例以外に多数の未確認例が存在することを表す模式図があります。「受診したが未検査」が大阪の例で、保健所に集団発生を届け出たのに「海外渡航歴なし」だったために相手にされなかったケース。発熱のない軽症者は「症状はあるが未受診」に入るでしょうか。

 「"新型インフル患者発生"で、ハイリスク組は・・・ 」(一歩一歩!振り返れば、人生はらせん階段)が「症状は、通常の季節性インフルエンザと同程度ということなので、健常者はそんなに恐れることはないだろうが、慢性病を抱えている患者はそうはいかない」「"健常者は感染しても死に至るようなことはない。アチラで感染して死んだのは、喘息や自己免疫疾患などの患者です。"と報じられたハイリスク組には緊張が走る」と案じ、持病薬の備蓄など万一の時の心配をされています。

 免疫がない新型の罹患率の高さは高校での集団発生で明らかです。専門家の間では来るべき新型鳥インフルエンザへの格好の予行演習だったと、ちょっとほっとした見方が広まっているようですが、収束をどうするのかまでは道筋は見えていません。

 ※注=上記の医療系ブログの最新更新状況は「Japan Blogs Net《社会・医療》」でご覧になると便利です。


新型インフルエンザ対策は非常な的外れ


 大型連休での海外への旅行者の帰国ラッシュが始まっています。厚生労働省は水際での阻止、検疫一本にかける構えです。そしてA型が疑われれば診断がつく前に公表するのですが、これが非現実的であることをJMMメールマガジン「絶望の中の希望〜現場からの医療改革レポート」第30回「新型インフルエンザ対策を考える 〜検疫よりも国内体制の整備を!」で、東大医科学研准教授の上昌広さんが書いていらっしゃいます。今日配信のメルマガで、ウェブに反映されるには数日掛かるでしょうから、いくつか論点を引用しておきます。

 「新型インフルエンザの潜伏期間は長く見積もって約10日間ですが、空港利用者の大部分が短期間の旅行や出張から帰ってくる人でしょうから、ほとんどがこの期間中にあると予想できます。空港に着いた時に症状がなければ、どんなに検疫を強化しても発見できませんから、すり抜けて国内に入っていることになります」

 「厚労省は乗客の体温を検知するサーモグラフィーを大量に整備しました。しかしながら、サーモグラフィーでの有症者発見率は0.02%すなわち1000人に2人で、99.8%はすり抜けます」

 これが現実なのですね。世界の多くの国が検疫を重視していない理由が分かると思います。そして、上さんは「常識的に考えれば、日本にも新型インフルエンザは入ってくるでしょう。わが国の緊急の課題は、医療現場に新型インフルエンザの可能性がある人が大量に押し寄せても対応できる体制を整えることです。その場合、問題は病院の体制整備です」と、本来するべきは医療体制の整備だと指摘しています。

 読売新聞が「発熱患者の診察拒否続出…過剰反応?都に苦情92件」と伝える状況が既に起きています。自治体が設けた発熱相談センターから新型の疑いなしとされたケースですら診察拒否が発生しています。このまま体制整備に力を入れることなく本当に新型患者があちこちで現れたら、もっと酷い混乱が起きるでしょう。未確認例の公表で患者のプライバシーが無用に暴かれる恐れも強まっています。

 産経新聞が《【新型インフル】都の独自検査「疑い例」9件、「国への届け出基準に該当せず」》と報じているように、東京都は「混乱を招きかねない」などの理由で未確認段階での公表をしない方針であることが分かりました。

 ブログの声、例えば「新型インフルエンザが日本中に広がったら!」などは「東京が1番海外帰国者が日本で多いんじゃないですか!」「もし、新型インフルエンザが広まったら、それは東京都のせいですね!」と怒っています。

 しかし、実際には実効性があるとは思えない検疫に血道をあげて、末端の医療体制整備に目が向いていない厚労省にこそ問題があると思えます。

 再び、上さんの指摘です。「感染を広げないための基本は『隔離』です。感染したら死ぬ確率の高い他の患者を守るために、他の患者と接しないように、個室に入ってもらわなければなりません。ところが、外来に、他の患者と接しない個室や陰圧室を持っている病院は日本では非常に少ないのです」「発熱外来を設置するために、入口の外にテントを張った病院もありますが、2人目の患者が来たら、どこで待っていてもらえばいいのでしょうか。同じ部屋の中で、検査結果を待つ6〜8時間の間に、可能性のある人同士でうつしあってもよいというものではありません。今のままでは、病院に押し寄せた患者さんが待っていてもらう部屋はない病院が多く、外で待っていてもらうことになります」

 各地の病院で起きそうな、こうした事態を想定して手を打つべき時が来ています。マスメディアも検疫騒ぎを追うよりも、新型侵入必至と覚悟したうえで現場の体制が出来ているのかに目を向けるべきでしょう。

 5/16=遂に二次感染患者確認です。「新型インフル感染確認は氷山の一角の一角」をご覧下さい。


新型インフル、WHO初動遅れと国内の前のめり

 メキシコから発した新型インフルエンザの騒ぎは拡大・長期化が必至の情勢になってきました。ここに至って《新型インフル、WHOの初動遅れに批判も 「報告に対応せず」》(日経新聞)のような指摘が表面化してきました。メキシコの国立感染症センター長が「インフルエンザの発生を4月16日にWHOの地域組織に報告したが、WHOは対応しなかった」といい、新聞紙面にある情報では「チャン事務局長に情報が入ったのは、別の用件で米国を訪れた4月24日」だそうです。この24日から直ちに立ち上がったのは立派ですが、1週間以上、メキシコ情報は店晒しになっていたのでした。確かに何か打つ手はあったでしょう。

 この騒ぎを機に「Japan Blogs Net」に入れさせてもらっているブログ「感染症診療の原則」の「学内で感染が広がった高校での調査結果(ニューヨーク)」で教えてもらった高校の「ニューヨーク市の調査結果」を見ましょう。メキシコに行った生徒は6人、教師は1人なのに、全体の3分の1、700人を超える生徒・教師が風邪の症状を起こしていました。生徒の発症ピークは4月23日の254人です。上の数字は確定診断をしていないので正式な患者数とカウントされていない方が多いものの、米国の患者は大半がこの高校関係です。メキシコからの発生情報を生かして注意を呼びかけることは出来たかと思えます。そして、新型だけあって罹患率は確かに高いです。

 一方、国内の情報の出方は前のめりが過ぎると感じます。横浜の高校生、名古屋の会社員、横田基地の乳児と、患者発生国から来ていてインフルエンザの症状があるだけで診断も出来ていない段階で、厚生労働相まで出て発表するのは行き過ぎです。翌日にはいずれも在来インフルエンザと判定されました。これからゴールデンウィークの終わりには多数の観光客が帰ってきます。風邪の症状を訴える人がかなりいて不思議ではありません。それを一々発表して騒ぐのでしょうか。

 「怖いのは深夜の記者会見と報道」(感染症診療の原則)は厳しい。「フェーズ4以降訓練ではプレス発表訓練も入っていましたが、こういうのやっちゃだめですよ、というサンプルで示した記者会見そのものです」「まず、深夜に大臣が言うほどの内容か?」「それから、すごーーーーーく基本的なことですが、感染症で『シロ』『クロ』という表現はしないというのは常識。どういう印象を与えるか」「NHKはNHKで疑い患者が『確認』された、疑い患者がいることが『確認』された、などかなり混乱してしゃべっています。しかもずーっと繰り返し」「この時間にこのレベルの内容を伝えるのに10−15分遅れても世の中的には何もかわらないので原稿をちゃんとつくってから読んでほしいものです」

 もっとも、朝日新聞の2日付3面を読むとリスクマネージメントの専門家らしい人が「政府は情報を全部国民に流し、国民はあまり敏感になり過ぎずに受け止めるべきだ」と恐ろしいとコメントをしているようです。普通に生活している人に次々に流れる生情報を読み解いて考えろとおっしゃいますか。マスメディア関係者を含めて、この国の専門家は本当の修羅場で大丈夫なのかなと、心配になるこの数日でした。


臓器移植のドナー不足は本当に悪なのか

 4月26日付、日経新聞社説「他国に頼る移植医療から抜け出せ」には、いかに経済紙だからと言って、移植臓器を自国で潤沢にまかなうことが前提の議論をされては困ると感じました。この日の社説は通常の2本構成ではなく、臓器移植だけをテーマにした1本社説ですから、なおさら問題があります。「本質論を避けるな」との中見出しを掲げて「脳死は人の死かという命題と、真正面から向き合わないと、話は前に進んでいかない」「技術論や制度論を超えて、この機会にもう一度脳死とは何か、移植医療とは何か、きちんと議論を重ねるべきだろう。誤解や思い込みや偏見はまだ議論の随所にみられる」では「脳死=人の死」を認めないのは無知蒙昧と言っているのと同じでしょう。

 世界保健機関(WHO)が5月に、海外に渡航しての移植を規制する見通しになり、臓器移植法改正案を長年、店晒しにしてきた国会が不作為の責めを問われたくなくて動き出しました。現在は3案、週明けには4番目の案も出されます。現在は不可能になっている15歳未満の臓器提供者(ドナー)をどう生み出すかがポイントです。大幅変更案では年齢を制限せずに「脳死=人の死」とし、本人が予め拒絶していなければ家族の同意で提供可能としています。これに対して、15歳以上が書面で提供の意志を残している場合に限って法的な脳死判定をするのが現行法です。

 第4案は15歳以上は現行法のままとし、15歳未満に限って第三者が児童虐待がなかったと認定した上で、家族の同意で提供できる不思議な折衷案です。大幅変更案も含めて、現行法が出来た経緯や脳死患者の実態についてあまり詳しくないのではと考えてしまいます。ご自身がドナーカードを持っている女性の「難しい問題」は「もし自分の子供が脳死の状態になって、まだ心臓は動いているのに、体を切り刻まれることを了承してくれる親がどれだけいるんだろうか」「移植が必要な子供の親が、どんなことをしても自分の子供を助けたいと思うように、脳死と判定された子供の親もまた、どんなことをしても自分の子供を助けたいと思うんとちゃうんかな」と疑問を投げています。

 日経社説を見ていると「脳死による臓器提供が年間十数件程度に止まっていると、日本における移植医療の水準が向上することは期待できない。渡航移植の増加は、患者ばかりか医療関係者の海外流出をも招くと、心配されている」とまで書かれていて、医療取材の経験者が執筆に加わっていないのが丸見えです。脳死臓器移植など世界的に見て、何の手柄でもありません。現行法が出来た1997年に書いた第8回「臓器移植法と脳死・移植の行方」 で、「脳死体からの移植は例外的な医療に長くとどまると決まった」と断じた上で医療不信が背景にあることや生体部分肝移植などの医療技術開発を紹介しました。様々な代替え技術が進んでも移植でしか救えないケースは存在し続けますが、その少数に合わせて大多数の国民の死生観に変更を求めるのは僭越に過ぎると言うべきです。


産科医の時間外手当、奈良地裁が支払い命ず

 夜間や休日の宿日直勤務に正常分娩や帝王切開までしていた県立奈良病院の産科医2人が、低額の手当ではなく正当な時間外賃金を支払うよう求めていた民事訴訟で22日、時効に掛かる分を除いて1539万円を支払うよう命じる判決を奈良地裁が出しました。訴訟が提起されたときからカルテに分娩の時刻がきちんと残されている産科医療では夜間に見回りする程度の「断続的な労働」との言い訳が通るはずもなく、県側の敗訴は確実と見られてきました。それでも初めて正式な判決が出たことで、少なくとも産科医については正当な時間外賃金支払いが全国的に進むはずです。

 読売新聞の《医師の当直勤務は「時間外労働」、割増賃金支払い命じる判決》にある県側にコメント「厳しい労働環境で頑張っているのは認識しているが、これまで医師の志に甘えていた」はまさにその通りでしょう。

 問題は現在、厳しい勤務状態にある点で産科医に近い他科の勤務医にも待遇改善が及ぶかという点です。判決は当直時間の4分の1は通常業務をしていると認定しています。これはカルテの分娩記載が大きく効いているのだと思います。厚生労働省は労働行政の中央官庁でもあるのですから、ひとつひとつ判決が出るまで座して待つのではなく、ガイドラインを示すなど指導に乗り出すべきだと思いますが、官僚が別の縄張りに手を出すのはタブーなのでしょうね。

 医師からの反応は「医師の当直勤務は時間外労働」です。急な帝王切開手術に備えて他の医師が自宅待機しているオンコール問題などに詳しく触れています。今回の判決ではこれは医師らが自主的にしていたとし、時間外勤務とは認めていません。


月120時間まで残業の労使協定:滋賀の病院

 病院の医師不足、人手不足はますます顕在化していますが、労使協定で月120時間まで残業を許すとは、目がくらむような驚きです。中日新聞の「勤務医の労働改善に高い壁 時間外勤務の上限“過労死ライン”超」は「県立3病院の医師らの時間外勤務で労働基準法違反があった問題で、県病院事業庁などは先月末までに労使間の協定を結び、大津労働基準監督署に届け出た。協定内容は現場の実態を考慮して、厚生労働省が示す過労死の認定基準を超える時間外勤務を労使ともに認めるしかなかった」と報じました。

 1日8時間の法定労働時間を超えての勤務には労使協定が必要なのに、滋賀県立3病院は法を無視した運用を長年続けてきました。内部告発からの是正勧告を受けて労使で協定を作ったら、過労死ラインと呼ばれる月80時間まででは病院が運営できず、120時間という恐ろしい数字で折り合ったというのです。

 医師ブログでは議論が巻き起こっています。「先例は作られた」(新小児科医のつぶやき)は「滋賀では医師側が自ら進んで提案し受け入れた経緯があるようで、これも画期的な先例になりそうです。今後に36協定を結ぶ病院で、120時間とか200時間とか300時間の36協定を病院側が提示し、これを医師側が渋ったら『滋賀では医師が自ら受け入れたのに拒否した』としてマスコミにリークし『患者のことを考えない、冷血でワガママな医者たち』のバッシング・キャンペインをいつでも行なう事が出来ます」と批判し、超・長時間残業が病院以外にも広がっていく恐れを指摘しています。

 このブログのコメント欄には滋賀の関係者も登場して「特別協定 120時間x6か月 36協定 45時間x6か月」だったことも明かしていますが、集まっている医師らはそれすら守られるのか、懐疑的です。結局「720時間+270時間=990時間の年間協定」が前例になる恐れは確かに大でしょう。


快感をもたらすアルコールはやはり麻薬だった

 三連休は家庭で部屋の模様替えをしていて、体を使う作業の連続で完全にへばっています。少しあいた時間に「Japan Blogs Net」を見ていると、「5号館のつぶやき」が「適度な量のアルコールは脳内エンドルフィンを放出させる」をリリースしていて、とても納得でした。昨夜も今も強めのバーボンで疲れをごまかし何とか凌いでいます。

 アルコールには、ある種の快感作用があること、お酒飲みの皆さん、異論がないところでしょう。でも、その実体が学問的に解明されていなかったのです。アルコール中毒をこれほど輩出する仕組みは謎でしたが、やはり内因性の麻薬物質を作りだしていたのです。「少量あるいは適量の飲酒によって、脳内に『気持ちよく感じさせる』麻薬(エンドルフィン)が放出される」ことがラットの脳内から細胞を浸している液を採取する実験で確認されたそうです。「脳の部位である中脳のVTA(腹側被蓋部)と呼ばれる場所です」

 「βエンドルフィンだけが、低濃度と中濃度(1.2, 1.6, 2.0 g ethanol/kg体重)のアルコールに対して有意な増加を見せました」

 「アルコール2グラム/キログラム体重」とすれば、65キロの人なら130グラムのアルコールとなります。350ミリリットルの缶ビールには5.5%濃度として19.25グラムのアルコールが含まれます。量的にも何ともいい感じの実験結果に見えますね。

 ただし、多すぎるお酒は別の効果を生みます。「適量のアルコールは脳に高揚感を与え、不安感を取り除く『報酬』効果をもたらすことが予想されます。ところがアルコールの量が増えると、麻酔・鎮静・睡眠作用が強くなってしまうようです」。飲み過ぎではラットの実験でもβエンドルフィンの分泌は無くなるようです・


第173回「臨床研修制度手直しで知る官僚・報道の理解度」

親サイトでは、インターネットで読み解く!第173回)

 2004年に導入されたばかりの医師臨床研修制度の見直しが事実上、決まり、2010年からの改訂に向けて動き出します。見直しの決定的な動機は地方を中心にした病院での医師不足顕在化でした。医師免許取得後に研修先の選択が自由化されている現状に制限を加えます。都道府県、病院ごとに研修医の募集定員に上限を設け、人手不足に陥っている大学病院には定員枠を多く配分する仕組みとします。医師不足が顕著な産科や小児科を研修の必須科目から敢えて外し、各自が専門にする科目の勉強に早く移行させて即戦力としての活用を狙います。厚生労働省と文部科学省による「臨床研修制度のあり方等に関する検討会」のページには昨年9月に第1回検討会を開いてから毎月1回ペース、わずか6回で結論に至ってしまう「拙速」ぶりが記録されています。

 その「08/12/17 第4回臨床研修制度のあり方等に関する検討会議事」のやりとりは率直すぎて笑えるほどです。聖路加国際病院長の福井次矢委員は「2年間の中で、研修医が自由に選択する期間を長くすること自体が、診療科偏在を解消することになるかどうか、ちょっと考えていただきたいのです。というのも、少なくとも私たちの調査結果に基づけば、あまりプログラムを変えよう、変えるべきだという論理構造にならないものですから。データはないのだけれども、現在のプログラムよりより良いプログラムになるだろうという説得力が、申し訳ないのですが、ないように私には聞こえます」と訴えると、自治医大学長の高久史麿座長は「私自身も迷っています。先ほどの小川先生のお話を聞いても、研修医はいまのままでいいという返事をしてます。研修病院と大学病院でプログラムの評価も随分変わってきて、指導医の評価も変わっているし、研修医も変わっています。しかし、この委員会はもともと少し変える必要があるのではないかということでスタートしました。ですから、変えなくてもいいというのなら、私は極めて気が楽です」と答えます。

 専門家が「根拠があまり無い」と言い合って2カ月後には改訂の方針が出てしまうのですから、事務局を務める官僚主導で検討会が進められたことは明白です。同じ日の議事録にある「むつ総合病院」からの現状報告「弘前大学に限って言いますと、どこの教室もスカスカと言いますか、本当に人がいません。そういうことで、教育、診療にさえも差し支える状況です。でも、私はやはり大学がしっかりしなければ医療制度そのものもおかしくなると考えています」が背景があるにせよ、理屈が通らない不思議な話です。

 「ある麻酔科医のつぶやきBlog」の「医師の臨床研修が実質1年に短縮?」は「それならはじめから新研修制度を導入すべきでなかったと思いますし、もっと言うなら今完全に廃止してもいいと思います」「このシステムの表向きの目的は医師が全てプライマリーケアの素養を持つということですが、裏の目的として医局支配を弱体化させて国が直接医師を支配するというものもあります」「表の目的の方はご利益はまだまだわかりません。裏の目的はある程度達成されましたが、当初から考えられていたデメリット(医師不足、過疎地医療問題)の方が非常に強く出てきました。誰も責任をとらないのでしょうね」と、政府・官僚の無責任ぶりに声を上げます。

 全国紙、地方紙とも多くの新聞が社説で取り上げました。地方紙からでは過疎地医療の悩みを抱える北海道新聞が「臨床研修制度 医師不足は解消されぬ(2月21日)」と批判を加えました。「今、研修先として大学病院を避ける医師が多いのは、経験できる症例数が民間病院に比べて少ないうえ、雑用が多かったり、処遇が民間より低かったりするためだ」「この根本的な原因が解消されなければ、大学病院を志望する研修医は増えないだろう。魅力的な研修プログラムを組む努力も、大学側に必要ではないか」と安易な大学優遇策に異を唱えます。さらに「地域医療では初期診療や、いくつもの疾病に対応できる総合診療を担う医師が欠かせない。見直し案がこうした医師の養成につながるか疑問が残る」と警鐘を鳴らします。

 中国新聞は「医師研修見直し 地方への定着促したい」では見直しは当然との立場です。「研修先として地元の大学病院を選ぶ医師を増やし、かつて大学医局が担っていた地域への医師派遣機能を立て直す―。見直しにはそんな思惑もうかがえる。大都市と地方の偏りをなくすには、選択の自由をある程度、制限することもやむを得まい」とまで言い切ります。こちらも地方紙の雄なのですが、《広島大小児科医師、年度末に10人辞職 「体力もたぬ」》の報道で現れている、足下の異変に対処できる発想にはほど遠いように見受けます。

 全国紙については「ぐり研ブログ」が「臨床研修制度に関するマスコミのスタンス」で取り上げています。中国新聞以上の論調の読売新聞社説「臨床研修見直し 医師不足の主因を見誤るな」から「医師不足の根本的な原因は研修制度ではなく、人材の配置に計画性がないことにある。義務研修を終えた若手医師を、必要な地域と分野にきちんと割り振る仕組み作りを急ぐべきだろう」に対して、「かねて医師強制配置の持論を展開してきた読売新聞です。要するに『医師は中央集権的に強権をもって強制的に配置すべし』という話なんですが、ここまで持論まっしぐらというのも潔くていっそ清々しいほどのものがあります」と苦笑いです。

 朝日新聞社説「医師研修見直し―良医を増やすためにこそ」は「臨床研修の見直しは、あくまで患者が医師に何を求め、そうした医師を育てるのに何が必要か、という観点から進められるべきではないか」との結論になっているのですが、昔はともかく現在の医学教育について取材の機会が少ないことが透けて見えます。「ぐり研ブログ」は「『患者の求めるような医師を育てるべき』と言うのもまた議論を呼びそうな話ですが、こういうことを主張するからには朝日新聞社には国民の求める医師像というものの詳細なデータも蓄積されているのだろうと推測します」と皮肉っぽい。いやいや、論説委員室という現場から遠い場所にいて、昔の牧歌的な取材経験で書いているだけのことでしょう。

 事実上見直しが決まる直前に日本医師会が「グランドデザイン2009」という改革案を打ち出しました。「現行制度では各臨床研修病院が研修単位になっているが、改革案では地域医療研修ネットワークを研修単位とする。研修医は初期研修の1年間、出身大学が所在する都道府県の地域医療研修ネットワークに所属し、都道府県内で施設間をローテーションして、地域医療の全体像を経験する」と、研修医を大学がある都道府県に縛り付けてしまおうとの発想です。開業医主体で勤務医のことを知らない日本医師会の面目躍如です。

 昔の大学医局が支配していた時代が終わり、一度、パンドラの箱が開いて自由な移動が出来てしまった現在、全ての前提は変わりました。官製の手直しでも副作用が必ず起きます。「レジデント初期研修用資料」の「臨床研修制度見直し」は見直しが実施されると「今まで以上に『東京一極集中』が進んで、地方の医療は止めを刺されるような気がする」と予言します。「『東京の研修医』に、上限が設けられると、首都圏の研修病院は、競争試験で定員を削らざるを得なくなる。競争試験はたくさんの敗者を生んで、『負けた』人たちは、しかたがないから田舎で働く」「負けっ放しなのは嫌だから、みんなもちろん、ある程度の経験年次を積んだら、もう一度東京を目指して、結果としてたぶん、田舎はみんなの『腰掛け』になる」

 繰り返された大学入試制度の手直しが、受験産業を太らせるだけで大学教育を良くすることに繋がらなかった過去を見てきました。今回の無理な手直しも歪みの方を大きくするだけに終わるのではないかと危惧しています。医師にも職業や住居選択の自由があると言いつつも、「公共の福祉」から制限が出来ると安易に考える官僚と追随するマスメディアの現状理解度がどの程度か見ていただけたと思います。


第168回「若者と女性の痩身化は雇用不安が主因」

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 女性のようにスリムな若い男性が増えています。日本の女性と同様に痩身願望があるとも考えられてきたのですが、若者と女性の痩身化は雇用不安が主因であると考えるべき証拠が出てきました。海外から大変に奇妙と見られていた日本の男女対立「太る男とやせる女」は、雇用不安の強弱が食生活に反映した結果だったのです。

 経済産業省が2007年秋に発表した人体データの計測結果「size-JPN 2004-2006」が、この謎解きの発端でした。前回調査(1992〜94年)に比べて30歳以上では男性が太り、女性が痩せる傾向が顕著でした。ここに特異現象が現れました。肥満度を示す「ボディ・マス指数」BMI値とヒップサイズで、20〜24歳の男性は前回を大きく下回り、女性の値に急接近しました。身長170cmを想定すると前回の数値なら標準体重に近い64kg程度だったのに、最近では61kgまで痩せたことになります。発表されたグラフを掲げましょう。


 痩せたいと願う若者は存在しているでしょう。しかし、全国規模で人体計測をして、こんな特異な変動が現れるには社会的な要因が背景にあると考えるべきです。ますます太っていく中年世代と違う環境が、若者にはあるはずです。総務省の「年齢階級、雇用形態別雇用者数」でパートタイマーやアルバイト、派遣労働者など、非正規雇用の割合を調べ、人体計測の期間の1992〜94年と2004〜06年で年齢別に平均値を出しました。まず男性についてのグラフを見てください。


 この間に15〜24歳の若者だけ、非正規雇用率が21.7%から43.8%に急上昇しています。年上世代でもわずかに上がっているものの、25〜34歳が12.9%、35〜44歳が6.9%、45〜54歳が8.4%と雇用の安定ぶりは明らかです。では、女性の非正規雇用率はどう動いたのでしょうか。グラフを掲げます。


 女性でもこの間に15〜24歳で倍増して51.1%になりました。年上の年齢層でも非正規の割合は増加しました。もともと高かったことと相まって25〜34歳が40.6%、35〜44歳が54.8%、45〜54歳が57.0%にまで増えています。ほぼ半数以上が非正規雇用で働く厳しさになっているのです。痩せ気味なのに「自分は太っている」と思いこんでいる女性が多いとの調査結果があり、スリム化には痩身願望が確かに働いているのでしょう。しかし、BMI値の変動は、ほぼ全ての年齢層で体重が何キロも減っていることを示しています。若者男性と同じ背景、雇用不安があるからこそ、これだけ大きな体重減少を生んでいると考えるべきです。

 厚生労働省の2006年版「労働経済の分析」は正規雇用では年齢が上がると収入も上がるが、非正規雇用では変わらないか、高齢になると逆に減る姿をグラフ化しています。例えば派遣労働者では39歳までは年収分布のピークは200〜249万円にありますが、40歳以上になると50〜99万円が一番多くなってしまいます。半数が非正規雇用の状態にある若い男性や女性の多数が、将来への不安から食まで含めて消費を控え、身構えてしまうのは当然のことでしょう。

 (注:この記事は英語版サイトの英訳用テキストとしてに、第158回「『男も痩せ型』若者変貌と非正規雇用」などを元に新たにグラフを起こして作成しました。英語版は近くリリースします)


柴田倫世さん「おっぱいマッサージ」の話

 東大法学部卒、無職25歳の文部科学省官僚殺害予告、逮捕を少し調べて嫌気が差しました。これがほぼ全マスメディアで主要なトップラインに並ぶものか――あんまりです。土曜日はいつもニュース枯渇で、ちょっとした要素で大きくなることはよく承知しています。それでも、あまりに過分すぎます。

 気を紛らわせに私の「Japan Blogs Net」に行って、ほっとするエントリーに出会いました。柴田倫世さんの「アメリカになくて日本にあるもの」です。大リーガー、ボストン・レッドソックス松坂大輔投手の奥さんで今年3月にアメリカで第2子を出産されている方です。《芸能・趣味》のフィールドに、うまくはまるブログが無くて、第2グループから選んだブログです。これはいい味です。

 日本では広まっている「おっぱいマッサージ」を知らずに、おっぱいが張っているのに赤ちゃんに飲ませられないで苦しんでいた娘さんに自宅に来てもらい「1時間ほど蒸しタオルを使いながらしこりを取っていくと、『ああ、すごく体が楽になるのが分かる』と言います。マッサージの後は赤ちゃんも上手におっぱいが飲めるようになりました」

 たくさん届いているコメント欄も、日米両国にいるお母さんたちの経験と温かな思いで埋まっています。いいですね。


医師不足問題での麻生首相発言は致命的

 麻生首相が19日の全国知事会議で、医師には「はっきり言って社会的常識がかなり欠落している人が多い」「(医師不足が)これだけ激しくなってくれば、責任はお宅らの話ではないですかと、お医者さんの。しかも『医者の数を減らせ減らせ、多すぎる』と言ったのはどなたでした、という話を党としても激しく申しあげた記憶がある」と述べた「事件」を、各メディアが一斉に流しています。こういう認識だったのかと、まず唖然です。もしこういう認識を持っていたにせよ、社会問題化して、こじれている重要問題で、全く無意味に医師側を刺激するとは、首相として資格無しと断罪されるでしょう。医師の政治団体がそう言ったこともあるでしょうが、医師数抑制を計画し、主導してきたのは政府・厚生労働省である点は誰の目にも明らかです。

 会議後に「まともなお医者さんが不快な思いしたっていうんであれば、申し訳ありません」と謝罪したそうですが、これも見当違いの謝り方です。国民が安心できる医療体制を整備し、提供する責任が自分にあることをまず明らかにして、それが出来ていないことを謝罪すべきなのです。

 これでは医師ブログの多くで「もう話にならない。逃散だ」との声が上がるのではないかと予想できます。いち早く取り上げている《「やぶ医師のつぶやき」〜健康、病気なし、医者いらずを目指して》の「社会的常識欠けた医者多い?」は「多分、『社会的常識欠けた医者多い』なんて事を言っている病院のトップがいれば、そんな病院には医者はいきません。そっちの方が、はるかに問題がありますからね」とジャブを返し「自民党の政策のせいで医療崩壊が進んだにも関わらず、自分たちの事は棚に上げて、人のせいにするだけ。という態度には、かなり問題があると思います」と、まだ穏当な表現に止まっていますが……。明日からの「Japan Blogs Net 社会・医療」を注目しましょう。

【追補】この舌禍事件で内田樹さんが「いいまつがい」で卓見を提示されています。麻生首相の舌禍・行動パターンを分析すると未知の「危機的状況」は乗り越えることが出来ず、政治家に求められる「荒海を進む船の船長のような資質」は持たないのだと。


東京の妊婦死亡、やはり首都圏こそお産危機

 朝日新聞の「妊婦搬送7病院が拒否、出産後に死亡 東京」を見て、やはり首都圏こそ危機と思いました。脳内出血の症状があったのに、都指定の総合周産期母子医療センターが当初は対応できなかったのです。昨年9月に書いた「お産の危機は首都圏にこそ迫っている [ブログ時評83]」そのものです。

 そこに掲げている表から関東だけ抜き出します。

     産科医数 出生/医師 人口/医師 
 茨城  149  176   19,967 
 栃木  153  116   13,179 
 群馬  108  164   18,741 
 埼玉  231  268   30,535 
 千葉  306  173   19,791 
 東京  733  127   17,150 
 神奈川 506  157   17,373 

 東京は余裕があるようでいて、完全にパンクして地元出産できない埼玉など隣県の分をカバーしているのですから、何が起きても不思議ではありません。


驚くべき不勉強記事「少し太めお勧め」に唖然

 20日の朝日新聞夕刊に出た《シニア男性「ちょい太」お勧め 死亡率低下、茨城で調査》を読んで、唖然としました。「長生きのためには、高齢の男性に限っては『少し太め』がお勧めなことが、茨城県の約9万人を対象にした調査でわかった」というのですが、この元データは私が5月に書いた第159回「メタボリックS健診は男性短命化政策」と同じとしか思えません。茨城県が出した「健診受診者生命予後追跡調査事業報告書」の日付は「平成17年10月1日」ですから、何と3年前です。

 仮に自分だけの新発見と信じ込んで記事を書いたとしても、今、太めが良いと書いてメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)健診との関係が全く触れられていないなんて、医療系の記者とは到底思えません。私が提示した見方「実は男性短命化政策」を書くために持ち出してくるのなら理解しますが、そういう切り口は全く見えない記事でした。

 少なくとも現在では、記事を取材する時にまずネット上のデータをざっと洗い出してから、独自色を出すべく取材対象を探し、取材にかかるべきです。これが出来ていない記事も残念ながら、まだ多数あります。今回の記事は記事審査委員をしているときなら社内でも酷評することになったでしょう。


速報:後期高齢者医療制度を廃止の方針

 日経新聞が19日深夜に「後期高齢者医療制度を廃止へ、厚労相が方針」をウェブで流しました。「新医療制度は政府・与党で1年程度かけて議論する。(1)年齢のみで対象者を区分しない(2)年金からの保険料天引きを強制しない(3)世代間の反目を助長しない仕組みを財源などで工夫する――という3原則に基づいて制度を設計する」というものです。後期高齢者医療制度に関わり、苦労した人たちは唖然としているはずです。

 制度撤回を求める茨城県医師連盟が公然と民主党支援を打ち出すなど、逆風は相当なものになっていました。総選挙を前にして制度廃止を言わねば戦えないと思い詰めたのでしょう。しかし、政権選択選挙の直前に言い出すのは、政治の世界のルール違反にも見えます。自民党総裁選で言われている政策は限りなく民主党ににじり寄っている観があり、これはその頂点でしょう。

たばこ1箱1000円でも税収大幅増の結論

 「急浮上!たばこ1箱1000円を実現させよ」で取り上げた「税収増か、逆に税収減か」論争に結論が出ました。日経新聞の「たばこ1箱1000円で最大年1.3兆円の税収増 厚労省が推計」などが今日17日、厚生労働省研究班(主任研究者・高橋裕子奈良女子大教授)の発表として伝えました。

 「来年1月に値上げした場合、500円では37.0%、1000円で96.3%の人が禁煙に挑戦するが、再び喫煙したり、本数を減らす『節煙』だけの人も多く、需要は2010年時点で今年のそれぞれ68.0%、44.0%にしか減らない」「500円で最大で年5794億円、1000円で同1兆2740億円の増収」との推計です。主任研究者の高橋教授は禁煙マラソンなどで有名な方で、禁煙成功率を詳しく検討したのでしょう。

 「1000円になれば9割が禁煙するだろう」と発表している京大の依田高典教授もその後、禁煙成功率を勘案して修正していらっしゃいます。「たばこ1000円の経済学−税収の大幅な増加には疑問−」の6月29日改訂版です。禁煙継続率を54%と設定し、500円なら20%強が禁煙に成功、1000円なら50%強が禁煙できると考えれば、税収増は500円時に1.4兆円、1000円時に2.8兆円になります。しかし、多くが禁煙する可能性も捨てきれないので「減収もあり得ると考えている」そうです。

 多数の人間がどう行動するか、完全に読み切るのは確かに不可能です。でも、大幅値上げ、やるべしという空気が強まるのは間違いありません。


農水省は事故米ビジネスを容認していた?

 米販売会社「三笠フーズ」などが事故米(農薬・カビ毒汚染米)を工業用として国から安く買い取り、食用に転売していた事件で、食品についての倫理観がここまで落ちていたのかと、大きなショックを受けました。14日にマスコミを通じて流された同社社長の説明文書には「2002年に福岡県内の米穀飼料製造販売会社『宮崎商店』を買収した際、元経営者から『(事故米は)上手にやればもうかる。私はその方法を熟知している』と教唆され、利益の上がる商売になりそうだと見込んで買い取りを決断した」とあり、以前から業界内で不正な転売が横行していたことを認めています。

 メディアのこれまでの報道で、農水省が主張するような「工業用のり」に事故米が使われることはなく、タピオカやコーンスターチが原料となっていると伝えられています。

 また、「9日の農水相記者会見」で「三笠フーズは、大阪が本社で工場が福岡であるにも関わらず、北は北海道から南は沖縄までの全国津々浦々の農政事務所から事故米を購入しておりまして、その理由としては、実は農政事務所の方から事故米がある度に、おたく買いますかという連絡があったという情報もある」との質問が出て、大臣は調査中としか答えられませんでした。

 12日の記者会見では「長年、不正な事実を見抜けなかったということは、大変残念なことであります。それもあり、再発防止の体制を一日も早く構築をすることであり」と弁明していますが、農水省側が本当に何も知らなかった可能性は極めて薄いでしょう。事実上、食用に転売されるのを容認していたとしか考えられません。三笠フーズなど3社が不正をしたばかりでなく、食の元締めである農水省官僚の倫理観が希薄になっていたとは恐ろしいことです。

 【追補】ブログでは「はてなブックマーク > メタミドホスよりアフラトキシンB1の方が危険だが、 - 食の安全情報blog」などでメディアの安全性認識に議論が起きています。しかし、少なくとも国内では「口に入れる食品」に対しては別格の扱いをするとの信義則があったはずなのに、易々と破られていたことが、本質的な問題です。比べれば、これまで発覚した「食の偽装」など可愛らしい出来心でした。「急性中毒が起きていないから多分、安全」では済まない毒物を、濃度レベル不詳のまま、子ども達にまで食べさせたのです。

第164回「膨大な食品廃棄と家庭料理の衰え」

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 「世界中で生産された食物の半分が食べられることなくムダに捨てられている 」というGIGAZINEの刺激的な記事に出会いました。加えて、先日、服部幸應・服部栄養専門学校校長の文章を読んでいて、日本の食糧自給率はカロリー・ベースで40%しかないのに、自給分の9割近い価値の食品を残飯などとして捨てている――との指摘が目に付きました。コンビニなど流通過程を含めた食品廃棄の膨大さはよく耳にするところです。ここで集められるデータをまとめておくことにします。というのも、簡単な検索で引っかかるのは誰かの書いたものの孫引きばかり(ブログの時代になって強まった傾向)で、意外にきちんとしたデータが見つかりにくかったからです。

 GIGAZINE記事の引用元は「Half of All Food Produced Worldwide is Wasted」です。「作物の15〜35%は田畑で失われ、10〜15%は加工、運搬、貯蔵の段階で廃棄される」としています。米国なら30%の食品が捨てられ、その価格は483億ドル、5兆円余りになるとします。「これは5億人の家庭を満たすのに必要な40兆リットルの水を垂れ流しにしているのに等しいそうです。というのも、食物を生産するには大量の水が必要であるため。食物をムダにすることは水をムダにしていることにもなっている」

 国内で相当する記述を探すと、事務局を兵庫県庁に置いている「ごはんを食べよう国民運動推進協議会」の「日本の食料事情」は「日本で残飯などとして捨てられる食べ物は年間2000万トン、食料供給量の約1/4にもなります。金額では、11兆円に上るともいわれており、その量は年々増えています」と述べています。2002年の1人1日当たり供給熱量2600カロリーに対して、摂取熱量は1875カロリーしかなく、28%は製造・流通段階以降で捨てられています。

 価格にして米国の2倍もの食品を日本は捨てているのか――との疑問がすぐに浮かびます。「Stop The Waste!」には「96 billion pounds of food are wasted each year」とあり、計算すると4390万トンの食品が米国では捨てられているそうです。日米の人口格差2.3を考えると日本なら1900万トンになる数字で、よく合っています。価格差2倍の問題は推計する際の前提の置き方が違うからでしょう。日米ともに飽食ぶり、無駄捨てぶりは同じなのです。

 国内の食品廃棄2000万トンという数字は実は10年くらい前の記事から繰り返し使われています。最近、どう動いているのか見たいので数字を探しても、直ぐには出てきません。家庭の廃棄物は環境省、製造・流通・外食の廃棄物は農水省の管轄に分かれているためです。環境省の「家庭における生ごみ排出量の推移(推計)」をみると、1999年(平成11年度)には台所から出る生ごみは1245万トンもあったのに、2005年には1054万トンに下がっています。農水省には「平成19年食品循環資源の再生利用等実態調査結果の概要」があり、食品産業は毎年1130万トン前後の廃棄物を出していますが、近年はその59%が再生利用されているとあります。


 お役所を相手にしていると実に煩わしいですね。どこかに一目で判る資料はないかと探すと、保存料メーカー、上野製薬の「食品廃棄の現状について」に行き当たりました。8月にデータを更新したばかりのものです。食品廃棄量は年々減って2000万トンを割りました。食品ロス統計調査からのデータが面白く、家庭では5%近くあった食品ロス率が年々下がって4%を切りました。食べ残しの減り方が特に大きいのですが、「家庭における生ごみの減少については、外食・中食を含む食の外部化率の高まりが影響していると推測されています」との注が付いています。

 服部幸應さんもこういうエピソードを紹介していました。調理師になろうと入学してくる学生に「家庭の母親の料理を作ってみろ」と命じると、韓国など海外から来た学生は出来るのに、日本人学生はまるで出来ないそうです。家庭できちんと調理する事が減り、加工食品ばかり子どもに与えているからではないかと推測されています。膨大な食品廃棄量に家庭も業界も何もしないでいる訳ではないと知れましたが、見かけの豊かさと違う、家庭食の貧困も浮かび上がってきました。


コーヒーはがん発生抑制記事から探ると

 突然の首相退陣劇で失念していましたが、同じ日に「コーヒー3杯以上、子宮体がんリスク大幅減」というニュースがあり、はてなブックマーク で、「新聞社・記者の科学リテラシーが低く自ら知見の意義を評価できない以上、研究班がこう発表したというだけの記事なら価値がない。論文の出典を示すべき。論文になってないなら・・・S/N比が下がるから記事にすんな」(shin_emon)と評されていました。こんな半端な記事は困るなと思って読んだので、なるほどという意見でもあり、同時に甘えるのもいい加減に、でもあります。なぜなら、学術論文用のGoogle Scholarが使えるようになった今では、論文になっているのなら自分で探すのも難しくなくなっています。

 厚生労働省研究班主任研究者名の「tsugane」に「cancer」「coffee」を入力するだけで、2005年にもやはりコーヒーを日常的に飲むと肝臓がんの発生を引き下げるとの論文を出していることが知れます。「the JPHC Study Group」が厚生労働省研究班のことと推察できましたから、日本語サイトを調べるとJPHC Studyに行き着きました。厚生労働省がん研究助成金による指定研究班「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究」なのだそうです。

 「現在までの成果」には79項目も並んでいて、非常に多方面から調べていらっしゃいます。コーヒーとがんの関係を扱っているのは肝臓がんと子宮体がん、大腸がん、膵臓がんの4件です。疫学調査で発生を引き下げているように見えるだけである点が、弱いですね。コーヒーの成分がこう働くとは言えていません。ただ、海外にも類似研究はあるようです。

 個人的にはコーヒーの関係よりも、「タイプA行動パターンと虚血性心疾患発症リスクとの関連」で、欧米での調査と完全に反対の結果が出ていることに驚きました。男性ではタイプBの方が有意に虚血性心疾患が多いというのです。こっちがニュースでしょうと思いました。


民間健保への国財政の寄生、限界を超す

 西濃運輸グループの健康保険組合解散のニュースは、猛烈な勢いで拡大してきた国医療財政の民間健保への『寄生』が行き詰まったことを象徴するものでした。健保連がまとめている「平成20年度健保組合予算早期集計結果の概要」の「表5 保険料収入に対する拠出金・納付金の割合別組合数」を見て、ここまで来ていたのかと驚きました。前期高齢者と後期高齢者への拠出金を合計した部分を抜き出してみます。

  《保険料収入に対する拠出金等負担》
      20年度 割合% 19年度 割合% 
 20%未満    1  0.1   13  0.9
 20〜30%   15  1.2   175  11.5
 30〜40%   190   14.8   619  40.7
 40〜50%   623  48.5   590  38.8
 50〜60%   370  28.8   101  6.6
 60%以上   86  6.7   22  1.5
  計    1285組合    1520組合  
 平均負担率  46.5%     39.4%

 高齢者医療を前期と後期に制度を分けた今年度「改正」で、これまで以上に健保が拠出する分を増やした結果です。前年度比5094億円増の2兆8423億円が拠出されます。健保が組合員から集めた保険料の半分に近い46.5%が、健保の外にいる高齢者用に「上納」されている訳です。それも国によって強制的に吸い上げられる形です。余裕があって支えているのならともかく、今年度は9割の健保が赤字を見込んでいるのですから、過去の余剰金が大きく積み立てられているのでなければ長く続けられません。

 「西濃健康保険組合の解散の影響」が説く危惧が本物になる可能性が高いでしょう。健保組合が本来の業務では「赤字でもないのに解散するということは、健康保険制度の財政政策を崩壊させることになります」「健康保険組合の解散が続けば、健康保険料が上がるのは必至ですし、自己負担金の割合も現在は3割負担ですが、もっと上がるでしょう。健康保険制度の崩壊が近いかもしれません」

 来年度の厚生労働省予算について、日経は23日付けで「社会保障費の増加は8700億円の伸びと見込まれているが6489億円に抑えた。ただ、具体的な抑制策は示さず」と伝えました。はっきり言うと安定財源のめどは立っていないのです。1年限りの約束で、政管健保の国庫負担削減分750億円を健保連に肩代わりさせた措置を恒久化する画策もあるようですが、2007年度には社会保障費は1兆年も増えたのですから、焼け石に水とも思えます。

 ここまで危機が深まれば、民間の健保組合など要らないと言う考え方も出て来ます。「西濃運輸の健保の解散」は「私も規制撤廃による民活導入には一般的に賛成だが、健保の話しは筋が違う。国民全体の社会保障制度をどうするかという話しだから、大企業関係者や公務員だけが利益を享受している今の制度はすべて撤廃すべきであろう」と主張します。高額療養費の補助など、かなり大きな差があるのは事実です。政管健保も国民健康保険も組合健保も一本化して、国民に広がる不公平感を無くせと説きます。

 当然ながら健保連は「医療保険制度における財政調整と財源負担に関する調査研究 中間報告書(概要)」で一元化論について「所得捕捉が明確な職域保険と、所得捕捉が必ずしも十分でない地域保険を統合した韓国で、結果として保険料率の上昇を招き、特に職域保険加入者への負担が増大したことは、示唆的である」と懐疑的です。

 百年の計とは言いませんが、せめて10年、20年先まで見通せる健康保険制度をつくるのが、政府の責務です。それなのに、来年度予算要求の段階で整合する数字を出せない現状です。首相も厚労相も別に不思議と思われていないところが、とても不思議ですね。

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福島判決:医療界の安堵と患者側の不信

 福島県立大野病院・帝王切開死での20日福島地裁判決を巡って、ブログに様々な声が飛び交っています。産科医無罪の判決そのものは論理的に妥当なものでしょう。「ある産婦人科医のひとりごと」の「大野病院事件 産婦人科医 加藤克彦被告に無罪判決 (詳細)」が「もしも、今回の裁判で有罪の判決だった場合は、『癒着胎盤を少しでも疑ったら、何でもかんでも、直ちに子宮摘出を行わねばならない!』という判例となってしまうところで、産科臨床の実際とはとんでもなくかけ離れた判決になるところでした」と指摘している通りです。非常に稀な症例を心配して、数多く子宮摘出してしまう恐ろしいことになる恐れ大でした。もちろん、摘出してしまえば、もう子どもは産めません。

 今回のメディア報道で気になったのは、亡くなった妊婦の父親の不信感の強さです。当初はメディアが強調しすぎかとも思ったのですが、どうも本気のようです。「大野病院でなければ、亡くさずにすんだ命」という言葉が読売にも産経にも出ています。父親は大病院に移されていたならば助かったと信じ、移すよう助言する助産師らがいたのに産科医が耳を貸さなかった点に不審を感じ、裁判にその解明を求めていたようです。

 例によって1面から社会面まで展開されている新聞記事のほんの一部しか、ネットに提供されていません。ネットに出ない中で朝日の朝刊2面「時時刻刻」にある症例記事は注目ものでした。2006年11月、都内の大学病院で癒着胎盤と診断された20代の女性が、大量出血を避けるために帝王切開から、直ちに子宮摘出手術に移ったのに出血死してしまいました。今回の裁判で検察側が求めた通りに処置した例です。この病院は最もレベルが高い総合周産期母子医療センターだったのですから、福島のケースも大学病院に移っていても必ずしも助かっていなかったことを暗示します。それにしても何年も経つのに、病院側が遺族を納得させる説明が出来ていないことが残念でなりません。

 このあたりの問題と背景について「法医学者の悩み事」の「大野病院事件無罪判決」はこう分析しています。「遺族は、かなり辛いだろう。しかし、遺族の心のケアが、刑事裁判でされるものではないというのは、この事件でよくわかる。背景には、刑事手続で得られた情報が、全く非開示となり、裁判でしか出てこないという日本独特のあしき風潮がある」「情報開示がないので、示談もとまってしまう。問題の本質は、そうした日本の刑事手続き上の秘密主義を改善しない限り、改善しないだろう。事故調を作るとしても、それと並行してそうした部分の改革は必要なはずだ」

 今回の判決は検察側完敗の形ではありますが、論理構成まで否定はしていません。むしろ、大枠では検察の考え方を認めています。足りなかったのは、この産科医が取った行動を否定するだけの学問的な裏付け、あるいは専門家による証言です。産婦人科の学会をあげて被告の産科医に肩入れする中で、検察側は適切な証人を見つけるのに苦労する有り様でした。こうなるとは予想外だったと漏らす検察幹部もいるようですが、潰されたメンツにかけて控訴して戦う可能性もかなりあると思えます。

 いずれにせよ、ひとつの判決が大きな解決策になるはずもなく、影響は限定的でしょう。関係者の合意形成で制度を急いで直さなければならないのに、あっちの分野もこっちの分野も進まないのが日本の現状です。


うどんのコシは素人でも自由自在

 エキサイトのニュースをたまたま見て「うどんはなぜ『冷凍』が美味いのか」が目に付きました。自分で茹でるうどんは乾麺でも生麺でもやわらかくなってしまうが、冷凍うどんはコシがあって良いとの疑問から出発しています。トラックバックもたくさん来ていますが、元記事筆者を含めどれも、うどん、麺類の科学がお判りでない方ばかりです。

 遠い昔に科学面記事にしたので、現在では記事データベースにも収録されていませんが、うどんのコシは顕微鏡で観察可能です。茹で上がったうどんを素早く切断して瞬間冷凍します。手打ちうどんの店で、うどん生地を何度も伸ばしては畳み、あるいは足で踏んでいるのをご覧になっているでしょう。小麦粉にはグルテンというタンパク質がたくさん含まれており、デンプンの部分と折り重なって複雑な組織を形成します。

 デンプンは茹でる前は全て硬いベータの状態ですが、茹でることで消化がよいアルファ状態に変わります。断面の観察でデンプン粒の何割がアルファ化していれば、どれくらいのコシがあるか判断できるのです。グルテンとデンプンによる組織をどれくらい複雑に造るかで、味わいは変わります。極端なケースとして、全く組織を造らず、ところてんのようにお湯の中に1本で押し出してしまえば全部アルファ化した、ぼわっとした麺になります。手延べ素麺の場合は、時間を掛けて伸ばしていくことでグルテン組織が縦に通っていくそうです。

 食す上で大事なことは、良い組織が出来上がっている麺は一度、アルファ化した部分でも氷水で必要なだけ締めてベータに戻せるのです。茹ですぎたと慌てて食べることなく、ボールに氷水を入れて麺を締め直しましょう。どれだけ締めるかは、つまみ食いしながら判断してください。もし氷水に入れっぱなしにすれば、食べられないくらい硬く出来ます。そうです。素人でも自由自在なのです。

 冒頭の記事は「残念ながら、『冷凍うどん』が乾麺よりも生麺よりも美味しいのは、製法も茹で方も研究されたうえで、『すでに完成された状態』をつくってくれているから」「乾麺や生麺は、美味しさを『茹で方』に委ねられる部分が多く、自分で台無しにしちゃってるようです」とギブアップしていますが、とんでもないことです。冷凍うどんより遙かに美味い麺を我が家は何十年も食べています。大量の氷が使えなかった昔は、経験から得た予定調和で早めに火を止め、水にさらすのが腕でしたが、氷が豊富な今では何の心配もありません。

 この暑さです。冷えて、きりきりした素麺、冷や麦、冷やしうどんは素敵ですよ。


第163回「ビールはこんなに遠くに来てしまった」

親サイトでは、インターネットで読み解く!第163回)

 この夏、大変な暑さなのに、ビール大手は春に価格を据え置いたサントリーを除いて苦戦、アサヒとキリン、サッポロビールは今年の販売量を前年比3〜6%減少と目標に置いているそうです。加えて消費者の節約指向をうけて、各社揃って今年後半は値段の安い「第3のビール」に力を入れると、昨日から今日、メディア各社が報じました。もはや本物のビールなど、どうでもよくなって来ているのでしょう。

 1997年に始めた私の連載は第3回「ビール戦争・地ビール・自ビール」以来、折にふれてビールの話題を追いかけてきました。2000年の第89回「ビールから離れつつある発泡酒」のころに既にこの業界の動向に危うさを感じ、2005年の「食文化に背を向けたビール業界の悲劇 [ブログ時評25] 」で「自ら築いてきたビール文化を貶めているように見える」と批評したものです。

 先日、サイエンスポータルの「オピニオン」で、脂質膜による味覚センサの研究をされている都甲潔・九大教授の「おいしさを目で見る」を見て、大いに腑に落ちた気分になりました。味覚センサが数値化して割り出す一つの例として、ビール類の味地図を見せてくれます。ビール各社の主要銘柄を「苦味雑味(モルト感)」を横軸に、「酸味(キレ・ドライ感)」を縦軸にしてプロットしています。とても興味深いので、以下に引用します。


 昔、苦味が強い右下あたりに集まって、ビール各社ともほとんど味の差が無かった所から出発し、有名なアサヒ・スーパードライの登場が最初の地殻変動です。キリンが「一番搾り」で追随したころは、まだ可愛い変化だったと読みとれます。第2世代発泡酒と第3世代その他雑酒のワイドバリエーションぶりが歴然としています。ビール本来の苦味を離れた左のフィールドで、酸味(キレ・ドライ感)の変化をつけて新製品が「垂れ流された」ことが判ります。(ビールとは何か、関心がある方は上記の過去の連載でご覧下さい)

 他社とひと味違う飲み物、気の利いた宣伝コマーシャルさえ打てれば何でも造る――それをビールと呼ぶ必要はないはずです。ところが、ビールをもじった飲料を続々登場させている間に、気が付けば各社「本丸」の純粋ビールをじっくり味わおうとうする雰囲気まで薄れてしまいました。「1杯目はまず生ビール」が国内の宴席で注文されるお酒の飲み方です。その後は、和洋様々なお酒に移るのが普通です。家庭でも最初の乾きを潤すだけの存在になっていて、それなら第3のビールでも十分です。

 ここで思い出したのが、京大農学部・伏木亨教授の「ネズミにビールの味がわかるか:美味しさの研究と動物実験」です。ビールは本当に乾き対策だけのものなのか、です。ドイツを中心に「ビールの多飲量特性は、たくさん飲んでもまだおいしく飲める性質のことで、飲み飽きないといい表すこともできる」「ヨーロッパのあるビール会社では、醸造技師ができあがったビールの評価をするのに、まず数リットルを飲んでそれからおいしいかどうかを判断するということを実際に現地で聞いたことがある」というほど、欧州でのビールの旨さは飲み続けて評価するものです。

 そこでネズミです。ネズミはビールが好きで、ただの水よりも、5%アルコール水よりも明らかに好きなのです。「ラットはビールの銘柄を的確に識別する。たくさん飲まれるビールは、何回実験してもよく飲まれる。再現性が非常に高い」「同じ銘柄を今度はヒトに与えた実験を行って驚いた。ヒトもラットとほぼ同じ選択をしたからである」「両者の選択が一致するということから、この実験系がヒトの味覚ではなくて、動物としての生理によってビールを選択させたと考えられる。ビールの多飲量性には味ではなくて生理が支配的な要因となることを示している」

 ドイツの醸造元直営、というより工場の前にあるビアハウスで飲んだことがあります。ほとんど選択の余地がない2種類のビールを、多くのドイツ人が愉快に長時間、飲み続けます。スーパードライが呼び起こしたビール革命は革新として評価すべきだったと考えていますが、それから後に起きた日本ならではの小手先の改良、税制の歪みによる無用の修飾が、ビールを、ビールから切り離してしまいました。こんなに遠くに来てしまった――先月末から10種類余りのビール系飲料を立て続けに飲んだ感想です。


久しぶりに笑った高校生のお弁当、国際反響

 ユーチューブの、何て事もない高校生のお弁当風景ビデオに海外から400件ものコメントが付いていて、それを和訳しただけの「日本の高校生が教室でお弁当を食べる映像の海外反応【YOUTUBE動画】」です。でもなぜか笑ってしまったので、紹介しておきましょう。世界中から見て、日本の食生活は羨望の的なのですね。へええー、そう見えるのか、という驚きばかりです。(私も大学生の子ども2人に週に1回、お弁当を作っています。このところ卵の出汁巻きを欠かしていません)

 ランチの記事なら「学校給食事情〜飽食国の貧困から始めて [ブログ時評36]」が欠かせないところです。まだリンクも生きているようです。飽食の欧米と違って、貧しい国への給食援助活動で使われる「FBFは、穀物と、その他の材料(たとえば、大豆をはじめとする豆類や乾燥させたスキムミルク、砂糖、植物油)とを混ぜ合わせたものです。これらを製粉、ブレンド、調理した後、ビタミンやミネラルを混合させることで栄養価を強化しています」。その写真を見ると、胸に来るものがあります。最近も、国連の給食活動の昼食を持ち帰って難民家族を支える話がニュースになっていました。


前年度比1兆円増で伸びる医療費の裏側

 厚生労働省が2007年度の「医療費の動向」をまとめたとのニュースが流れました。「中央社会保険医療協議会 医療費の動向等について」に詳しい資料があります。33兆4000億円で前年度比3.1%、約1兆円の増加です。厚労省は「2007年度は制度改正がなく、医療費の伸びは従来と同水準となった」と分析しているのですが、こういう中身のない、客観的に分析できない言い方にはうんざりです。「平成19 年度の医療費について」からひとつ表を引用します。「表10-2 1施設当たり医療費の伸び率(対前年度比)」です。


 「地方公営病院は末期的状況」にあるとおり、2006年度には「制度改正」で無理矢理、医療費は抑制され地方公営病院は77%が赤字のありさまになりました。上の表で公的病院の「平成18年度 ▲1.0%」という数字がその痛みを表していると思います。収支とんとん、格段、経営努力をする余地がない状況で1%も売り上げが落ちれば、どんな企業体でも赤字転落が増えます。厚生労働省は「制度改正」が無かった2005年度(平成17年度)並になったと主張するけれど、大学病院も公的病院も法人病院も2007年度は随分、大きな伸び率になっていると見えます。

 医療費の単価をいじって赤字転落にさせるような無茶をしたら、人間が働き、生きている組織である以上、病院にも自己防衛の本能は働きます。全体として治療に掛かる日数は減ったけれど、1日当たり医療費が伸びて結果として全医療費は増えてしまうことになっています。それを「医療技術の高度化」と呼ぶのはためらわれます。先日の「医療水準は全員参加の見積書で決定を」で指摘したように、国民全体で納得して支える医療体制を作らないと、年に1兆円も訳が分からなく医療費が増え続ける事態は収まらないでしょう。


医療水準は全員参加の見積書で決定を

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 日経が朝刊トップに「概算要求基準、社会保障2200億円抑制を堅持 財務省方針」を掲げました。「社会保障費の自然増分を2200億円抑制するほか、公共事業関係費を3%削減する方針だ。医師不足対策などの重点施策には『要望枠』を08年度よりも拡大し、各省庁が上乗せ要求できるようにする」というのですから、医療崩壊が言われる時期なのに、ほとんど変わらない予算編成になりそうです。

 2200億円抑制の根拠になっているのが、自然増だけで7〜8千億円あるとの見方です。ではどういう仕掛けでこれだけの自然増が生まれるのか、詳細について政府は明かしません。日本では官僚がデータを握って、アカデミックな研究者にすら見せようとしないのです。「これきわ雑記」というお医者さんのブログが「グラフで見る 医療費の将来推計」で色々と前提を置いてグラフ化する試みをされています。ひとつグラフを引用させてもらいましょう。


 70歳以上の高齢者と一般を分けて、1人当たり医療費の伸び率が変わるとどう変化するかを見ていて、上のグラフは2003〜2005年度の平均値(一般0.9%,高齢者1.1%)を採用していますから、かなり蓋然性が高そうな例です。2065年に63兆円のピークになります。もっと大きく伸びると仮定したら「一般1.4%,高齢者1.6%だと、2095年に86兆円でプラトーになりました」。

 見方を変えると医療費の将来推計など、さじ加減ひとつで、いかようにも変えられるのです。国が危機的とする説明に納得できかねるゆえんです。「平成19年7月の『第5回医療費の将来見通しに関する検討会』の資料を見て」「平成18年度の医療制度改革の結果、2025年の医療費が56兆円から48兆円に抑制される、という推計です」「しかし、厚労省(旧厚生省)は、平成6年には同じ口で、2025年の医療費は141兆円と言っているんですよね。元データや算出方法が明示されていませんので見当もつきませんが、なんでこんなに推計値が大きくズレるのでしょうか? 変ですねえ」と疑問を投げています。

 この隘路を抜け出して広く納得してもらうには、慶応大の権丈善一教授が唱えている「“医療崩壊”阻止には『見積書』が不可欠」との考え方を拡大して、医療水準を決めることで医療費の見積もりもきちんと出し、それを賄える財政措置を考えるようにするしかないでしょう。「医療者に求められていることは、あるべき医療や介護の姿を描くことです。専門家集団として、『公的医療費として、いったいいくら必要なのか』、つまり『見積書』を出してもらいたいのです。必要な医療費増が数百億円の単位なのか数千億円の単位なのか、それとも数兆円の単位なのかにより、財源をどこから調達するかが全く異なってくる」「『見積書』は、総額だけではなく、医療内容まで具体的に提示することが必要です。年金と異なり、例えば『医療費を国民1人当たり約4万2000円上げて総額5兆円増』と試算しても、それにより、どんな医療を享受できるようになるか、それが具体的に見えないと国民の納得を得るのは難しいでしょう」

 権丈教授は医療者集団に見積書作成を求めていますが、支払い側を含めた全員参加で作成していくしかないと思います。もしも画期的な新薬が現れたとしても、何千億円も医療費を膨らませるのだとしたら、使い方を極めて限定することだって考えざるを得ません。現在のように薬や診断機器の改善・改良があればノーチェックで医療費を膨らませる実態を改めるべきです。第160回「年3000億円の大浪費・コレステロール薬」などがその最たる物でしょう。


医療再生へ、無意味な『打開への道』

 今日22日の朝日新聞3面を開いて、どっと脱力感に襲われてしまいました。「医療再生へ 危機感共有、あとは実行」「打開への道は明らか」と見出しだけは躍っていますが、どうやって実行するのか全く分かりません。ネット上での記事紹介がないので、図示している「シリーズを通して示した対策は」を引用しましょう。

 《すぐに効果が望めること》
・看護師の業務拡大や医療事務職の導入などで医師は治療に集中を
・子育てや介護に配慮した短時間勤務の導入を
・病院ごとに医療の質がわかるよう情報公開を
・救急外来への集中を減らすため24時間電話相談窓口を
 《将来に向けて取り組むこと》
・医学部の定員増を。特定の診療科に偏らないよう専門ごとに定員を。
地域を支え、医師を派遣できる病院を
・総合的な診療ができる「家庭医」を地域に
・安全向上のため、事故死などの原因究明制度を
・健康保険料を支払えない所得層に軽減策を
・医療費抑制策の見直し。医療費の無駄を省き、財源を含めて国民的議論を

 記事最後に置かれたまとめの文章はこうです。「崩壊を防ぐためにやるべきことははっきりしている。あとは、本気になるかだ」

 前半の直ぐにやるべき項目にせよ、誰がどう予算を付けて実行するかが難しいから実現しないものばかりです。もし全ての病院が国立病院ならば一気に突っ走れる可能性はありますが、実態は私立病院をはじめとした様々な経営体であり、病院収入は結局は患者の医療費としてしか入ってこないので職場環境の改善ですら一律に進むことはないでしょう。「本気に」と書くのなら、どういう道筋で実現できるのかまで踏み込まないと、無意味だと思えます。

 情報公開の部分はこの記事の識者談話に出ている川渕孝一・東京医科歯科大教授の所から派生したものでしょう。しかし、問題は病院の情報公開ではなく、医療費全体の情報公開です。官僚が勝手に主張する医療費膨張論について、最近、毎日新聞が「医療クライシス:脱『医療費亡国論』/1 かさむ費用」で「医療経済学の専門家らが参加し、06〜07年に開かれた厚生労働省の『医療費の将来見通しに関する検討会』」「世間が国から聞かされてきた『高齢化で医療費はどんどん膨張する』という“常識”とは正反対の内容を語った」と伝えています。「厚労省の担当課長すら『医療費の自然増の最大の要因は、(高価な薬や機器、治療手段が開発される)医療の進歩であることは明白だ』と明言した」

 高齢化によって医療費が際限なく膨張するとの議論は、増税のためにする議論だと疑ってみるべきです。先月リリースの第160回「年3000億円の大浪費・コレステロール薬」はまさに高価な薬の無駄を証明するために書いた仕事です。時間を見つけてさらに発展させるつもりです。厚生労働省や医学界が製薬会社などとの繋がりを断って、こういう無駄を省けないのならジャーナリズム側が立ち入っていくしかないと思います。

 そして、気になるのが朝日の記事に出ている川渕教授の発言。「医療に『ムリ、ムダ、ムラ』はないのか。それを明らかにする責任は医療界にあるのではないか」です。それなりに正しいとは思いますが、この方は国立医療・病院管理研究所で医療経済研究部主任研究官などをされていますから、医療費分析の専門家ではないのでしょうか。それでも医療費の闇が見えていないのだとしたら、個人情報以外は洗いざらい公開させるよう求めていくしかないですね。

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厚労相の率直、医師ブログの可笑しさ

 医学書院のサイトに6月16日付で掲載された「【対談】医療崩壊を防ぐために」は、岡井崇・昭和大教授(産婦人科学、日本産科婦人科学会常任理事)と舛添要一・厚生労働相の対談でした。 舛添さんは決して及第点には達していませんが、それでも前任者に比べれば(「安倍内閣は産科医療崩壊とは思わない」)良く頑張っていると思います。

 今回、特に率直だなと感じたのは診療関連死因究明制度をめぐる次の部分です。岡井さんは「刑事罰だけは間違いです。個人に刑罰を科しても事故の再発防止という医療の向上には全くつながりませんから。逆にそれが,社会にどんな悪い影響を及ぼしているか」と多くの医師の声を代弁します。厚労相は「業務上過失致死という罪が日本の法体系にあって,医師だけをそこから免責することには国民的な合意がないといけません」「医師と看護師だけを除外するわけにはいかないのです」「岡井先生のおっしゃることはよくわかります。それを国民に説得するための努力は,医療提供者側がやらないと駄目だと思います」と返しています。

 私も昼間はマスメディアの内側にいますから、厚労相の言っていることはよく分かります。最近のマスメディアに対して「医師の肩を持ちすぎる」との批判が読者からかなり多いのです。同じような声が厚労相に届いていると思えます。どう評価するかは別にして、これがいま現在の現実です。

 先月、書いた「医療崩壊と医師ブログ林立、勢いと隘路」のコメント欄には、医師ブログ主流に常駐と思われるコメンテーターから、お相手できないようなコメントが多数飛んできました。一騒ぎが終わって、現在、大賑わいの医師ブログはいわば「裸の王様」状態であると気付きました。取り巻き連多数の、小さなコップの中にいて、厚労相の問題意識にあるような「国民に説得」が出来ようはずがありません。

 医療崩壊は必然、崩壊してから後のことを考えるのがスマートなのだ――と主流派はお考えのようですから、厚労相の問題意識など毛の先ほども気にしていないとは思っています。私はいまや医師ブログの多くに期待していない立場に変わっていますので、はっきり言いますと、医師ブログのコメント欄では医師でないのに医師を装って発言している人が相当数いるようです。先日の騒ぎのアクセスログを見ていると、1、2時間に1回も見回りに来ている方が相当数いました。そんな暇なお医者さんはいませんよね。そういう醒めた目で医師ブログや関連ブログのコメント欄を見ると、不毛な議論が多く、敢えて時間を掛けて読む必要なしと思えてきます。

 ご注意=このエントリーだけコメント欄に特別ルールを設けます。「email」か「url」欄に正規の記入がある方、つまり実在する方にだけコメントを認めます。その他の方は内容のいかんを問わず、非公開とします。プロフィールに書いてあるルールも当然、適用です。

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急浮上!たばこ1箱1000円を実現させよ

 与野党にまたがって、たばこ税の大幅引き上げを求める動きが急浮上しています。6月6日の日経朝刊で最初に「1箱1000円」を見た後、各メディアを打ち上げ花火のように賑わせています。有力銘柄が1箱千円を超えている英国、500円は超えて800円前後にあるフランス、ドイツの現状に照らして、300円程度の日本は見直すべきとの主張です。仮に1000円になっても禁煙する人がいなければ、現在、2兆2000億円程度のたばこ税が8兆円も上積みされる、深刻な財政難時代に美味しい話です。

 当然ながら、そこまで値上がりすれば禁煙する人が増えます。1年前に「ニコチン依存度別に見た喫煙・禁煙の行動経済学的研究」で1000円になれば9割が禁煙するだろうと発表している京大の依田高典教授が16日、メディアの求めに応じた新しい推計を発表しています。「たばこ1000円の経済学−税収の大幅な増加には疑問−」がそれです。

 とってもホットな文書から紹介すると、禁煙しようと思う人の割合は500円なら40%、1000円なら97%。個人がどのような行動をするか判然としないものの、結論から言うと、500円なら禁煙率は余り増えず、税収は単純計算した1.5兆円増加の方向に寄っていく。しかし、1000円ならほとんどの人が禁煙してしまい、税収は最大1.9兆円減になるのではあるまいか、という見立てです。

 しかし、たばこ価格と禁煙率の関係を推定している研究者はほかにもいます。「タバコ価格550円への値上げで,現在喫煙者の約50%が禁煙する可能性が高い」をネット検索で見つけました。星城大学リハビリテーション学部・長崎大学医学部保健学科などの研究です。こちらの推定禁煙率は価格が1000円以上に上がっても80%程度で頭打ちになってしまいます。これなら1000円でも税収は増えます。

 朝日新聞に少し前に「40歳時点で喫煙・余命は4年短く 30万人調査で判明」との記事が出ています。これを紹介するブログ「タバコ吸い 余命縮めて 税払い」は前々回のたばこ税値上げの際に禁煙した経緯を書いています。「禁煙を決意したきっかけは タバコの増税です。国鉄の債務はまだ○○兆円くらい残っていて、予定より債務の返済が進まないということでタバコを25円値上げして、それを債務の返済原資にすることが決定されました。”何で喫煙者だけが国鉄の債務を負担しなくてはいけないのだ!!!”という怒りが禁煙を決意したきっかけです」

 第71回「新・たばこをめぐる日米の落差」で「『我が国たばこ産業の健全な発展を図り、もつて財政収入の安定的確保及び国民経済の健全な発展に資することを目的とするとを目的とする』と謳う『たばこ事業法』の国では、手も足もでないのだろうか」と書いた通り、税収減、つまりたばこ産業の壊滅を伴う政策変更は許されない日本国なのですが、もういい加減にしましょう。先日の第159回「メタボリックS健診は男性短命化政策」でも、はっきり書いています。全死亡に対する各リスク因子の寄与率で、男性では喫煙が24%を占めるのです。多少の税収減に見合う以上に病気は減り、税金が投入されている国民医療費は大きく減るはずです。

6/23追補=コメント欄に加えた医療費問題について手近なデータをこちらにも。
「医療費分析による保健医療の効率評価に関する実証研究」は「国民健康保険加入者約5万人を9年間追跡した結果、その集団の総医療費の13.4%が喫煙・肥満・運動不足という3つの基本的なリスクによることが示唆された。これを平成15年度の国民医療費は31兆5,375億円に当てはめると、これら健康リスクにより4兆2,260億円の過剰医療費が生じていることになる」と示しています。
 喫煙だけに限ると、「喫煙による過剰医療費割合(表1)は、男性で大きく、医療費の7.4%が喫煙によるものであった。女性の喫煙による過剰医療費割合は1.2%と、小さかった」と分析しています。

9/17続編「たばこ1箱1000円でも税収大幅増の結論」


『コメ減反見直し』は救う相手を間違ってる

 風邪気味の東京一泊出張帰り、お疲れ気味で日経朝刊1面に「減反政策見直しを 官房長官表明 『食糧問題に貢献』」を見つけました。ネットでは「減反政策見直しを」官房長官表明と短行ですが、新聞では解説記事も付けた長い物です。国際的な穀物価格高騰への対策として、政府高官が減反見直しに初めて言及です。ブログでも何か期待する感じのエントリー記事が出ていますが、ちょっと待ってください。

 ネットに出ない部分で「生産を増やせばコメの値段は下がるが、専業農家がつぶれてしまっては意味がない」とも指摘したことになっています。昨年末に「専業農家の救出を急がねば稲作は崩壊 [ブログ時評87] 」で書いた通り、「いま起きている収入激減はコメの商業生産をしている専業農家に廃業を迫る」もので、日本の稲作専業農家は既に壊滅寸前なのです。食糧不足の国にコメを輸出するという発想をする前に、自前の専業農家を救うことを優先して考えねばならない時ですが、全くお判りでないとみました。

 加藤紘一・元自民幹事長の「コメ減反見直し」で波紋 町村発言に加藤氏反発は旧来の農協・多数派兼業農家保護を念頭に置いているようですし、コメ政策はますますおかしな方向に振れそうな雲行きです。

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年3000億円の大浪費・コレステロール薬

親サイトでは、インターネットで読み解く!第160回)

 国内だけで毎年3000億円分以上が飲まれているコレステロール低下薬。疑問視する声はこれまでにも聞いていましたが、自分がコレステロール低下薬を飲むべき対象になったのを機会に、ちょっと真剣に調べてみました。学術論文を検索するGoogle Scholarの力を試す狙いもありました。結論から言えば、無駄遣いとしか言いようがないものでしたし、癌を増やす副作用が指摘されているので国民医療費の増やし方は3000億円に止まりません。しかし、医療保険財政の危機が叫ばれる時代なのに政府も医学界主流も放置、傍観のようです。

 一般によくされる説明として「おもにコレステロールを下げるくすり 」を挙げておきます。「コレステロールを下げる効果の強いHMG-CoA還元酵素阻害薬を飲んだ人と飲まなかった人に分けて死亡率を比べると、飲んだ人のほうが2〜3割がた死亡率が下がったことが明らかになりました」と言われると、飲まないわけにいかない心境になりますね。

 実は日本人にはこうした調査データはありません。食生活が大幅に違う欧米人の調査です。国内の場合、栄養状態がやや悪い東北などでは逆にコレステロール値が高い方が長生きする結果になっています。今回、関連文献を調べてショックを受けたのが、低下薬プラバスタチンについての英国の調査です。「コレステロール医療の方向転換−緊急の課題」(薬学雑誌2005)で奥山治美さんが「A Prospective Study of Pravastatin in the Elderly at Risk (PROSPER)」から引いて作成したグラフを引用します。


 心筋梗塞が減ると言ってもプラセボ、つまり偽薬群の12%が投薬群で10%になる程度のことです。一方で癌の発生と死亡が明らかに増えますから、死亡総数では偽薬群と投薬群で差が無くなります。お金を掛けた医療がこの集団全体に対しては何をしたのか、首を傾げる結果になりました。もちろん低下薬で心筋梗塞から救われた人と癌になった人とは別人でしょうし、誰がその「くじ」を引くのかは神のみぞ知る世界です。この薬は一生、飲み続けますから、癌発生を長期に追跡すればもっと多発の可能性があります。

 今年1月に「コレステロール低下薬で大論争」が日経ビジネスに出ました。先の英国調査は心臓病がある人を対象にしていますが、米国で心臓疾患がない人を調べてのデータが示されています。「65歳以上では効果を確認できなかったのである。コレステロール値がどんなに下がったとしてもである。また年齢にかかわらず、女性には効果がなかった」「“悪玉コレステロール”の値が大幅に下がったにもかかわらず、死亡したり入院が必要になったりする疾患の総数は減らなかった」

 ページの最後にある「劇的とも言える“心臓発作のリスクが36%下がります”の数字のところに星印が付いており、小さい文字でただし書きがある」「大規模な臨床試験で、偽薬(砂糖の錠剤)を投与した患者の3%が心臓発作を起こしたのに対し、リピトール投与患者では2%でした」を見て、最初に紹介した「飲んだ人のほうが2〜3割がた死亡率が下がった」の出典が分かりました。「3%が2%になる」と言ってもらえたら、飲もうと思わない方がぐんと増えたでしょう。

 余談ながら私の主治医は「後になって、あの時、服薬を強く勧めて欲しかったとは言わないでくださいね」とマイルドな物言いです。それが麻薬でなくとも、薬に依存するのは好みません。体重の半年6kg減に成功していますし、一駅前に降りて歩き運動量を確保しています。私の場合、やや厄介な症例で人間ドックではねられたのですが、「虚血性心疾患の一次予防ガイドライン」などで報告される調査データを読み込む限り、現状で問題なしです。皆さん、何の基準も無しには不安でしょうから、「脂質異常症について」で書かれている脂質検査値を参考にされるのも良いでしょう。人間ドックなどより大幅に緩い正常値ですが、広い範囲の研究結果を踏まえ、さらに見直されるべきです。


自民総務会長が理解せず:後期高齢者医療

 朝刊を読んでいて、ふき出してしまったのが、今日5月21日の朝日新聞政治面です。ネットに提供されている記事は新聞記事の何分の一でしかありません。この記事「後期高齢者医療制度に欠陥、行き詰まる 堀内光雄・元自民総務会長に聞く」もネットでは全く読めません。改革の発端、2003年の医療制度改革基本方針決定時に、自民党三役の総務会長を務めていた人が「説明不足ではなく、制度自体が問題。改めないと騒ぎが大きくなる」と、「制度は悪くないが、説明不足だ」と言っている福田首相に進言しているというのですから、廃止法案を出す野党と同じ考えの人が自民党幹部にいる訳です。

 「今ある保険制度は若い人だけにして、医療費のかかるお年寄りには出て行ってもらう。保険制度を守るためにはあなた方は外に出てください、というのは『姥捨て山』以外の何ものでもない」とはっきり言われています。それにしても2003年にはどう思っていたのでしょうか。「よく精査しなかったのかもしれない。忸怩たるものがある。実を言うと、私も(制度を告知する)通知が来るまでわからなかった」そうです。これが当時の与党大幹部なのですから、ほぼ唖然と言うしかありません。これほど明確な反対論でなくとも、自公与党内では制度手直し議論の真っ最中です。政治面はかなり詳しく伝えています。

 JMM [Japan Mail Media] の5月13日号に中村利仁・北大大学院医療システム学分野助手の投稿「読者投稿編:Q:910への読者からの回答」が掲載されていて、「この制度の合理性を巡る議論は2年前に既に終わったはずの話です。専門家の間でということであれば、さらにそのちょっと前に終わっています。国会内での取り引きや審議も為されました。それなのに特に与党代議士の過半が、ただ小泉改革の勢いに引っ張られたというだけでなく、本当にどういう内容なのかを全く理解していなかったらしいということが報道されるにつけ、報道内容を疑うと同時に、もし本当だとしたらどう考えればいいのか、ちょっと途方に暮れている気持ちがあります」とあります。

 同感です。これは何と言っても、お約束違反です。議院内閣制で政策決定しているのですから、今になってこんな発言が出るのは酷すぎます。それにしても、医療費がかかり、収入が少ない後期高齢者だけを切り出して別の保険にしたのはやはり筋が悪すぎると言うべきです。「保険」ではありえませんし、嵩む赤字をこれ見よがしにして医療の実質的制限に走るのが見え見え――悲惨でしょう。

 JMM投稿の結論部分に「以上見てきたように、後期高齢者医療制度については、この合理性を享受できる立場と享受できる特徴の組合せが複数あります。他方、ほとんどメリットがなく、デメリットばかりが目につく場合も少なくありません」とあります。熟知している専門家がそう言うのならば、この制度が次の国政選挙を経て生き残っていく可能性は薄いと見ました。


医療崩壊と医師ブログ林立、勢いと隘路

 少なくとも3000万件以上はありそうな国内のブログで、最も不足感があるのは各方面の専門家ブログです。3000万という数字は、昨年4月にテクノラティ社が日本語ブログが世界で2600万はあるとはじき出したことがベースです。常識的には増加ペースが極端に落ちるとも思えず、1年後なので4000万に迫っても不思議ではありません。現状の専門家ブログの中で最も強力な一団を形成しているのが、医師ブログです。対抗するのが多分、弁護士ブログでしょう。ただ、弁護士ブログが実名中心なのに、医師ブログの有力なものは匿名です。

 医師ブログには「m3.com」という強いバックボーン、職能サイトが存在しています。医師免許を持たないと加入できない医療サイトで、昨年9月末で15万4000人の会員医師がいるそうです。2004年の統計で医師数は27万人ですから過半数が参加している計算です。ここにある掲示板ではマスメディア側も見たい議論がされていると聞きます。

 そこにある「Doctors Blog | 医師が発信するブログサイト」が医師ブログ発信拠点の筆頭です。月間アクセスランキング1位の「ななのつぶやき」や5位の「東京日和@元勤務医の日々」などがよく覗くブログです。それぞれ16万とか9万のアクセスがありますから、個人ブログからミディメディアに化けかけている段階です。産科の現場を淡々と、かつ迫真の緊張を感じさせて扱う「ななのつぶやき」は秀逸です。

 医師ブログが林立するきっかけは、産科医療崩壊が現実のものとなったからでしょう。私の連載なら、2006年の「医療崩壊が産科から始まってしまった [ブログ時評59] 」や2007年の「安倍内閣は産科医療崩壊とは思わない [ブログ時評75]」「お産の危機は首都圏にこそ迫っている [ブログ時評83]」などで伝えてきた危機に反応し、医師ブログ読者もどんどん増えていった印象です。

 m3.comサイト以外でも「新小児科医のつぶやき」「ある産婦人科医のひとりごと」「産科医療のこれから」など多数が厚い支持を得ているようです。産科医療の崩壊を目の前にしたマスメディアの報道ぶりには、事実の誤認、医療知識の欠如が目立ちました。通常の「ご確認報道」「パターン報道」では通用しない「現実のむごさ」に、いま現在でも十分には気付いていないでしょう。

 医療崩壊の正面に出てきた医師不足問題について、4月19日の毎日社説が「医師の団体は指導力を発揮して、医師不足・偏在対策に手を打ってもらいたい」と結んで、医師ブログを始めとした多数のブログから大ブーイングを浴びました。産科から医療全体に拡大しつつある医療危機に手軽な解決策を示せるはずがなく、私も新聞社内で「今は危機の事実を伝えるのが先。読者を安心させる解決策があるように見せるのは罪が深い」と言っています。毎日の論説レベルが各紙の中でそう悪いとは思いませんが、読者の皆さんの常識と違って、各紙論説委員の中に「もう取材することなど無い」と思い上がっていらっしゃる方が少なくないのです。取材するとしても霞ヶ関周辺ならという方はもっと多いでしょう。

 ブログ側の問題としては、これほど林立し、読者を多数獲得している医師ブログを現実を変える力にすることです。医師ブログ側にあるマスコミ不信は強烈です。しかし、ブログの世界だけに止まって議論していて、行政まで変えられるはずがありません。メディアの力も借りてでも動かして行かねばならないことに早く気付いて欲しいと思っています。そして、その段階では匿名から実名に切り替わらねばなりません。私が扱っているオピニオンのページなど、新聞メディアで行政の無様さに対し真っ正面から発言をしていただくためには実名で登場してもらうしかないのです。今年がその転機にならなければ、いま医師ブログ最大関心事の、医療死亡事故の死因究明制度(現状では第3次試案)についても遅きに失する恐れを感じています。


メタボリックS健診は男性短命化政策

親サイトでは、インターネットで読み解く!第159回)

 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)健診の案内が届き始めました。こうした「特定」健診の受診率や保健指導、その減少効果に照らして、責任を負う医療保険者から後期高齢者医療制度への支援金がプラスマイナス10%の範囲で増減されます。罰則付きの国民健康増進政策に見えるでしょうが、蓄積された医学調査データからは明らかに「男性短命化政策」なのです。陰謀説は好まないところですが、医療保険制度の崩壊を食い止める意図が隠れていなくもないと感じます。

 まず発表されたばかりの「平成18年 国民健康・栄養調査結果の概要」34ページで、どれくらいの対象者がいるのか確かめましょう。健診対象40〜74歳の男性はメタボリックシンドロームが強く疑われる者24.2%、予備軍27.1%と、これで過半数になってしまいます。同世代の女性では合わせて2割程度しかありません。診断の基準は腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上であることに加えて、血中脂質、血圧、血糖値の3項目で異常2個あれば強い疑い、1個で予備軍です。


 この診断基準は男性の太り過ぎに極めて神経質です。身長170cm、体重67kg弱の私の腹囲が85cmです。85cmは日本人中年男性の腹囲平均値と言われており、それが基準になっているのですから男性の過半数が疑い対象になって当然です。それではちょっとした太り過ぎが、そんなに体に悪いことなのでしょうか。茨城県が10年間、40歳以上の10万人近い県民を追跡した調査があります。「健診受診者生命予後追跡調査事業報告書」の16ページから、肥満・痩せの指標として使われる「ボディマス指数」BMI値(体重kgを身長mの二乗で割った数値)で分けた、全循環器疾患死亡のリスクを見ましょう。


 BMIが23.0〜24.9、身長170cmなら体重が66〜72kg程度の人の死亡リスクを「1」として肥満と痩せでの危険度が描かれています。男性についてBMIが21.0を割ると(身長170cmなら体重60kg割れ)「1.4」「1.6」と危険度が高まります。体力がなく免疫力が弱くなると考えられます。太る方はどうでしょうか。BMIが27.0(身長170cmなら体重78kg)を超えると危険度は「0.8」に下がってしまいます。30.0(同体重87kg)を超えるとさすがに「1.8」に激増しますが、男性の小太りは死亡全体からみてもプラス要因です。女性とは明らかに違う様相です。男女共通でハイリスクであるBMI30.0以上こそ、欧米でメタボリックシンドロームが問題と言われる領域で、日本のそれは場違いです。

 では全死亡に対して何が寄与しているのでしょうか。上田耕蔵さんというお医者さんが講演録「なぜ今、メタボリックシンドロームなのか?」で茨城県のデータを集計し直してくれています。以下がその「全死亡に対する各リスク因子の寄与率」です。

 男性……喫煙24%、運動不足13%、やせ5%、肥満5%、アルコール4%、高血圧8%、高血糖2%、ストレス13%、その他26%

 女性……喫煙9%、運動不足14%、やせ5%、肥満7%、高血圧5%、高血糖2%、アルコール0.1%、ストレス13%、その他45%

 何と言っても男性で24%も占める喫煙を放置した健康管理はあり得ないのですが、この連載第71回「新・たばこをめぐる日米の落差」などで指摘した通り、厚生労働省は腰が引けたままです。今回のメタボリックシンドローム騒ぎで喫煙問題はますます影が薄くなってきました。

 「●メタボリックの背景に何がある?」の節で上田さんも「本命は薬剤メーカーの仕掛けと思われる。高コレステロール血症が見直されつつあるのを受けて、新しい病気の創設が必要となった」とし、「たばこ産業は国民の関心がメタボリックにそらされることを期待しているだろう」と付け加えています。

 手を着けるべき最も大きな死亡要因「喫煙」を放置し、プラス面が大きい小太りは排除しようというのです。もっと言えば「肥満が諸悪の根源だ」と心理的圧力を掛けて、ストレス面からも中高年男性を叩きたいのかも知れません。メタボリックシンドローム健診は医療費削減に寄与することになっています。しかし、早期発見・早期治療で高齢者が長生きしたとして、最後に残るのはガンと、介護の手間を掛けた末の老衰です。将来まで含めたトータルの医療費が減る可能性は少ないでしょう。高齢者が増え続ける中で医療保険制度を守るには短命死を増やすのが一番――科学的データで翻訳すると、厚生労働省の政策はそう言っています。

※関連=メタボリック症候群を冷静に眺めよう [ブログ時評64]

※ブログの世界で比較的よく知られた方でも、宣伝に流されてこういうふうに思うのだと見つけた例を追加します。


やっぱり負担増、後期高齢者の保険料

 朝日新聞が今日5日朝刊で「新高齢者医療 低所得の75歳以上夫婦、負担増も」と報じました。ネットでのリリース時刻が午前3時1分ですから「特ダネ」として扱っていることになります。4月29日の当ブログ「後期高齢者の保険料はむしろ上がる?!」でブログの試算では負担増の場合が相当多いと伝えました。マスコミ側もようやく、政府の言い分を自前で検証する作業を始めたようです。

 「東京都区部や名古屋市などでは、低所得者の保険料が新制度に移って大幅に増えており、厚労省の説明に疑問を示す声もあった」「国民健康保険(国保)の保険料の算定方式は三つあり」厚労省が試算に使わなかった「二つの方式で計算すると、国保の保険料は2万4100円、2万500円となり、新制度移行後は、それぞれ900円、4500円の負担増となる。この結果を厚労省も認めている」というのが、報道の要旨です。東京や名古屋の実態が記事に出ていない点が大いに不満です。

 政府は次の年金引き落としが発生する6月半ばまでに実態調査をすると言っています。もし私が報道機関の責任者だったら、直ちに全国の取材網を動員して各市区町村に出向いて調べさせます。1週間もあれば十分でしょう。政府の言っていることが信用できない▽それが現下の国民の関心事でもある――となれば直ちに自前で取材を実行するのがマスメディアの役割だと思うのです。


後期高齢者の保険料はむしろ上がる?!

 衆院山口2区補選は、民主党候補が予想以上の差をつけて与党側を破ってしまいました。与党の敗因分析は「後期高齢者医療制度の不評が大きかった」というものです。彼らなりに世論調査をしていますから、本当なのでしょう。「後期高齢者の保険料は7、8割の人で下がる」との政府説明を知っていると、選挙の投票行動で「負担が下がった」人が批判票を投じるとは、とても不思議です。大きく負担が上がる人には激変緩和措置があり、4月には見えないと説明されました。

 ネット上の投票分析「タケルンバの衆院山口2区補選分析 - 福田政権は長くない」が同選挙区で、岩国市などに合併されずに残った郡部5町の票を過去3回の衆院選で比較しています。当然、自民党が強くなければならない保守地盤です。

    03票数 05票数 08票数 03シェア 05シェア 08シェア
 自民 19,468 20,025 18,814  53.1%  54.7%  49.9%
 民主 17,179 16,567 18,888  46.9%  45.3%  50.1%

がその結果です。風が吹いた郵政民営化解散の05年以前から自民党地盤なのに一気にひっくり返されたようです。ただし前回まで候補者を立てていた共産党が今回は不在です。05年には5町で2000票足らずを得ていて、共産票の行方で説明できる部分もありそうですが、やはり別のファクターも効いている感じです。

 先日のエントリーでも紹介した「後期高齢者医療保険制度」に怒ってください!」シリーズの《番外編「大方の高齢者の保険料は安くなった?」福田首相は嘘つきだ!》が国民健康保険料の計算方法が公開されている各地の自治体で保険料がどう変わったか、シミュレーションしています。国保料は所得のほか資産保有も算定根拠にしているので持ち家の有無、副収入などで20のパターンを作り、それで新しい後期高齢者保険料と比較する労作です。

 試算結果は、持ち家の有無に関わらず、本人年金250万円・配偶者70万円クラスの中堅層が軒並み負担増になってしまうそうです。逆に国保時代の「資産割」がなくなるので富裕層には比較的、恩恵が出ます。このシリーズは6回まで来ていて、4月15日の年金で天引きされなかった場合に来月以降別途、保険料納付書が送られ、その額に驚く人が続出する恐れも指摘しています。「制度そのものは良いが、説明が足りなかった」とする福田首相の態度には、選挙の結果でも、ブログ試算でも疑問ありです。


後期高齢者医療制度の騒ぎ混迷深まる

 後期高齢者医療制度は騒ぎになっているけれど、本当は何が問題なのか、マスメディアも明確に出来ない事態が続いています。保険証の送付遅れや保険料の誤徴収とかのミスに属する部分が記事として多く書かれている割に、本質的な問題事例が上がってこないのです。地方紙の中でも取材力に定評がある中国新聞が3回シリーズの「老後は安心か 検証・後期高齢者医療制度 <上>」で「滞納なら保険証没収 無年金者に広がる不安」を取り上げ、1年以上滞納したら保険証を取り上げられ、受診をためらうお年寄りが倒れるまで我慢する可能性を指摘したのが良い例です。

 実施直前まで様々な手直しが続き、その過程も不透明だったこともあります。ネットには公開されていない記事ですが、朝日新聞の4月15日朝刊は、昨年8月に東京広域連合の議員への説明会で保険料の試算が1人平均15万5千円(平均的な厚生年金受給者対象)と提示され、国の試算の倍で騒然となったと伝えています。「これでは地元に帰って説明できない」と市区町村が手数料や葬祭費など様々な負担をし、さらに東京都が17億円を補助して全国最低の53,800円にした経緯があるといいます。移行すると国民健康保険のときに各自治体が独自にしていた補助が消える分も手伝って、プラス、マイナスの計算が容易ではないようです。

 こうした中で、私のブログにトラックバックされた■「一定数の不具合」なのか,「痛みを痛みと思っていない証拠」なのか,後期高齢者医療制度という「騒ぎ」、あるいは「後期高齢者医療制度に文句を言ってる人たちは、調べて理解してから言え」など「何を騒いでいるの」と言いたげなブログも目立ちつつあります。

 税務に詳しい方が「後期高齢者医療保険制度」に怒ってください! そのというシリーズを書き始めていらっしゃいます。1回目は典型的な家族経営の町工場を例に「新制度のおかげで、T氏一家6人の保険料が昨年まで56万円で済んでいたのが、今年から50+59=109万円も支払うという大幅な負担増を強いられている」と指摘し、同居している息子夫婦が別居する事になるかも知れないと伝えています。2回目は障害を持った妻を扶養する夫の例で、昨年に比べ10万円の負担増が書かれています。

 ここに来て大爆笑してしまったのは日経の後期高齢者医療「山口補選で小泉氏が説明を」・自民総務会です。苦戦が伝えられる衆院山口2区補欠選挙について、新制度の「2年前に導入を決めた小泉純一郎元首相が現地に入り説明してほしいとの要望が相次いだ」そうです。小泉人気は健在で、彼なら説得できるというのですが……。


後期高齢者医療制度で厚労省のKYに唖然

 静かに流れていた4月15日時限爆弾説の予測通りに、後期高齢者医療制度による高齢者年金からの保険料天引き開始は大ブーイングを浴びています。テクノラティが提供するブログ記事頻度グラフでも、キーワード「後期高齢者」が15日1日で2500件を超えました。この立ち上がり方は宙に浮いた年金記録問題発覚の時と似た激しさです。


 後期高齢者医療制度「選挙では勝てませんよ!」は「送られてきた年金振込み通知を見て驚愕した。年金43,550円から介護保険料など15,000円を控除し、振込み額が28,550円であった」「こんな状況では保守は選挙になったら絶対勝てません。社民や共産もチャンスかも」と脅しています。全く的はずれということもないでしょうね。

 医師が書く「報道は後手に」が「マスコミも騒ぐのが遅すぎます。なにかしら医師、医師会側が文句を言うと開業医の既得権益が損なわれるから、という理由と思われてしまいます」「一昨年のリハビリテーションの大幅な改定のときもリハビリ難民が出現してやっと大きく報道されました。これだけの情報化社会と言われても、特に高齢者には大事な情報でも耳に入ってくるのは地上波のテレビ、新聞の1面でなくてはなりません」と批判するように、マスメディアも事前の構えがまるで出来ていませんでした。

 しかし、それ以上に騒ぎを目前にしての不感症、流行り言葉で言えば「KY」ぶりに唖然とさせられるのが厚生労働省です。15日になってマスコミ向けに従来と保険料がどう変わるのかモデルを示して説明したのですが、保険料が減額される場合だけが具体的で、大事な保険料が増える例の説明が無かったそうです。余裕が少ない年金生活をしている高齢者にとって、千円、2千円の増額が痛いのですから、事前に理解を求めて置かねばならなかったと思います。

 この痛みを痛みと思っていない証拠があります。5日前の4月10日に厚労省は後期高齢者の保険料が2015年度に年間8万5000円になるとの試算を公表しているのです。08年度の全国平均7万2000円から1万3000円も増えると始まる前から宣言していたのには、開いた口がふさがらぬ思いでした。

 また、政府が本当に狙っている高齢者医療費の圧縮はこれから動き出します。「後期高齢者医療制度 医療費 月6千円」が取り上げている「後期高齢者診療料6千円」がその一番手でしょう。1カ月6千円で医学管理、検査、画像診断、処置をしてくれる便利な仕組みに見えますが、既に一部の県の医師会はボイコットを決めています。「病院側からすると、月6千円を超えた分は、利益にならないので、治療を断る病院は、出てこないのでしょうか?」という危惧は本物になる可能性ありです。

 毎日などの社説は16日になって強く批判を始めましたが、霞ヶ関周辺でしか情報収集が出来ない在京メディアの体質では、中央官庁に先んじて警鐘を鳴らすことが出来ない根本的な欠陥を露呈してしまいました。

 ※追補=トラックバックに出ているように町村官房長官は「保険料は7、8割の人は下がるのに、上がる人の声だけ取り上げるのはおかしい」という趣旨の報道批判をしました。個々人の痛みが判らない発言にびっくりです。