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科学者の責任に余波、地震学者実刑判決理由

 イタリア・ラクイラ地震について地震学者6人が禁錮6年となった判決理由が公表。「地震予知に失敗した」からではなく政府と癒着して法に定められた通りにしなかった認定です。原発など類似ケースに波及ありです。昨年秋の判決後には世界中から様々に考えるアピールが出ました。例えば日本地質学会は「ラクイラ地震裁判における科学者への実刑判決を憂慮する」声明で「もし優秀な地球科学者が、地震危険度評価に善意で参画した結果として、その後に発生した地震の災害に対する責任を取らなければならないなら、将来だれがこの重要な役割を引き受けようとするだろうか」と根源的な疑問を投げています。

 300人以上の死者を出した地震です。朝日新聞の「政府との癒着を厳しく指弾 伊地震学者への有罪判決理由」が詳しく伝えています。《群発地震が続き、「大地震が来る」という在野の学者の警告がネットで広まっていた。市民の不安を鎮めようと政府防災局が開いた検討会で、学者らは「大地震がないとは断定できない」としつつ、「群発地震を大地震の予兆とする根拠はない」と締めくくった。検討会の前後にデベルナルディニス氏は「安心して家にいていい」と述べた。判決理由はこうした経緯を認め、ボスキ氏ら学者が以前からラクイラ付近での大地震を予測していたことを指摘。検討会でのリスクの検討は、知見をすべて提供しない、表面的で無意味なものだったとした。「メディア操作」を図る政府に学者が癒着し、批判せずに従ったことで、法や市民によって課された「チェック機能」としての役割が失われたと厳しく批判した。「被告らの怠慢が市民に安心感を広げ、慎重に対応していれば救えた命を失わせた」と認定した》

 《「地震予知に失敗した科学者が裁かれた」との誤った認識に釘を刺す意図からか、「裁判は、地震についての知識の正しさ、確かさを証明することを目的としていない。法に定められたとおりのリスクの検討がなされたかどうか判断した」と記している》と補足しています。

 行政との癒着事情については、東大地震研助教の大木聖子さんが「ラクイラ地震 禁錮6年の有罪判決について(4)なぜ『安全宣言』になったのか」で詳しいリポートを書いています。検察提出の電話テープのやり取りからは「行政はパニック状態の市民をおさめるために,はなから安全情報を出すつもりだったこと,そしてそれは行政判断ではなく,科学者からのお墨付きという形で遂行することを,委員会を開催する前から決めていた」としています。

 実に我々の目の前で地質学者が重要な決定を下そうとしています。各地の原発の直下を通る断層が活断層かどうかの認定です。活断層と認められば運転再開はなく廃炉に進むしかなくなります。逆のケースで将来、運転中に断層が動いたら、判断を誤った学者の責任は問われるのか、です。福島原発事故では事故の進展過程で原子力安全委の専門家によるミスリードを呆れるほど見ました。あれが不問になっているなら地質学者は大丈夫でしょう。しかし、炉心溶融や水素爆発に至る、原子力専門家によるミスリードは不問のままでいいのでしょうか。しかし、しかし、ミスリードは知識不足に起因していて、知らない本人はベストを尽くしていたのが実態かも知れません。それでも、信頼できる専門家を呼び寄せるくらいの「注意義務」を求めていいのでは……。ラクイラの責任追及では、行政マンと科学者は分けるべきだとする議論もありました。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


iPS大虚報へNatureからの叱責と科学詐欺師対策

 読売新聞などによるiPS細胞「世界初の臨床応用」の大虚報へ、英国の科学誌「ネイチャー」が「Bad press」と厳しい日本メディア批判を掲載しました。翻訳を掲載している「世界有数の科学ジャーナルもあきれる日本のメディアのレベルの低さ」は「読売新聞の森口氏の『功績』に関する報道には大変失望したし、日本経済新聞など他の新聞もこの10年の長きに渡り裏を取らずに森口氏を記事に載せてきてしまったということを認めている」と指摘、嘘を見抜くための手法を紹介しています。

 「何より重要なのは論文執筆者とは協力していない他の研究者にその研究の重要性や実現可能性について話を聞くということだ」と日本メディアに求めると同時に、「日本の科学者は自分たちの同僚に対して批判的な思考をすることが余りない。これは日本では欧米などと比較して内部告発者に対する保護が薄く、せっかくのキャリアをふいにしたくないと思うからかもしれない」と、日本の科学者も切っているところがネイチャーらしいと思います。2004年の第145回「大学改革は最悪のスタートに」インターネットで読み解く!)で「ピアレビュー能力を欠く国内研究者」と評した通りです。

 しかし、時事通信が伝えた「森口氏の論文2本取り消し=卵巣凍結と肝がん細胞初期化−英科学誌」を見て、ネイチャーもきれい事だけ言っても、との思いもしました。ネイチャー系と言われる英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」が大虚報の当人、森口尚史氏の論文を取り消していますが、この雑誌は閾が低めながら研究者による査読があるのです。「ヒト肝がん細胞を化合物だけで直接初期化する手法」は眉唾物ですが、この論文掲載がある種の説得力を付与して、大虚報の伏線になったとも考えられます。

 一方で科学ジャーナリストの小出五郎さんが《科学詐欺師に騙されるメディア 「誤報」の背景(1)》で「今回の『誤報』に関しては、科学の世界で常態化している不正の問題、メディアのビヘイビアの両方から見ることが必要です」と論評しています。科学者の側も何らかの不正行為を容認する風潮があると米国のデータを示しています。

 ネイチャーからは「日本のジャーナリストたちも科学者を前にすると借りてきた猫のようにお行儀よく、何も突っ込んだ質問をしなくなる」と皮肉られています。取材中に喧嘩ばかりしていても前に進めませんから、相手の話をよく聞くのが基本です。しかし、いざとなったら、相手の言い分を全てひっくり返すのがジャーナリストの仕事と構えていなければなりません。これは取材先を科学者ではなく、権力とした場合の付き合い方でも同じなのです。

 【参照】大虚報の後始末が不可解に過ぎる読売新聞 [BM時評]


大虚報の後始末が不可解に過ぎる読売新聞

 iPS細胞のノーベル賞受賞決定後に余りにもタイミングが良すぎた「世界初の臨床応用」ニュースが大虚報だったことが確実視されています。12日夜のNHKニュース「“移植実施”報道の2社が見解」が報道した読売新聞と共同通信の見解を伝えています。「研究データの点検など裏付け取材を十分尽くさず、誤った情報を読者にお伝えしたことをおわびします」とした共同通信に比べて、読売新聞は誤報だった1面トップ記事などをウェブから削除し、他のメディアがしているその後の事実関係フォローも避ける不可解な対応をしています。

 読売新聞で現在読める記事は《「iPS心筋移植」報道、事実関係を調査します》との釈明だけです。ニューヨークでの口頭発表取り止めを受けて《読売新聞は11日朝刊1面「iPS心筋を移植」の見出しで、森口尚史氏らが、あらゆる種類の細胞に変化できるiPS細胞から心筋の細胞を作り、重症の心不全患者に細胞移植する治療を6人の患者に実施したことが分かったと報じました》《本紙記者は、事前に森口氏から論文草稿や細胞移植手術の動画とされる資料などの提供を受け、数時間に及ぶ直接取材を行った上で記事にしました》《現在、森口氏との取材経過を詳しく見直すとともに、関連する調査も実施しています。読者の皆様には、事実を正確に把握した上で、その結果をお知らせいたします》

 毎日新聞の《iPS臨床問題:「共同研究者」直接関与を否定》など続報で「森口氏の共同研究者とされる東京大学や東京医科歯科大学の研究者が12日相次いで記者会見した。いずれも共同研究への直接的な関与を否定し、臨床研究自体が実施されなかった可能性が高まってきた」とされています。読売新聞は沈黙したままです。

 世界的な大ニュースであるとの認識がありながら、東大などの「共同研究者」に裏付けをとる取材が為されていません。既に消されているインタビュー記事《iPS心筋移植、日本なら書類の山…森口講師》を読んで、無茶を書くなと感じました。日本では規制があって難しいが、米国ならどんどんやれるとの趣旨です。国際的に権威がある雑誌などに論文を載せるなら、世界で同じように研究内容が各施設の倫理委で承認されるよう求められます。これも裏をとるのは難しくありません。医学研究の事情に疎い記者が直接取材を信じ込んだケースかも知れませんが、担当デスクや編集責任幹部から裏付けを求める指示がなかったとは驚きです。

 ネット上で大きな話題になっており、《【iPS心筋移植】 Web上の記事を全て消して逃亡していた読売新聞、誤報を認める 「事実関係を調査する」》には消された元の記事保存先が掲示されています。

 【追補】日経新聞「本社も2年前に森口氏の記事掲載 事実関係調査」が《東京医科歯科大学が12日、「このような実験、研究が行われた事実はない」と否定したC型肝炎の創薬について、日本経済新聞社は2010年6月2日付日経産業新聞に「ハーバード大研究員ら C型肝炎治療 副作用少なく iPS細胞活用」と題した記事を掲載していたことが判明した》《医科歯科大はiPS心筋の臨床応用を「大学で行われた事実はない」とするとともにiPS細胞を使ってC型肝炎の新たな治療法を見つけたとの2010年5月1日付大阪読売新聞の記事について事実関係を否定した。日経の記者は同年4月に森口尚史氏を直接取材し執筆していた》と伝えました。これも裏付けを欠いた取材のようです。

 【追補2】朝日新聞「森口氏、iPS研究の詳細説明あいまい 朝日新聞も取材」は《10月3日、東大病院の敷地内の会議室で3時間、話を聞いた。「研究はすべてハーバード大で行った」との説明。「17日か18日に英科学誌電子版に論文が掲載される」とした。だが渡された草稿の共著者はいずれも日本の研究者で、iPS細胞の研究者も臨床医もおらず、移植手術の実施場所も明示されていなかった。ニューヨークでの国際学会で発表するというが、学会のウェブサイトには発表予定がなかった。森口氏は「東京大特任教授だ」と言ったが、東京大や東大病院に確認すると「東大病院特任研究員」と判明した》と、信頼に足りなかった要因を列記しています。

 【追補3】読売新聞13日朝刊の検証記事「論文・動画、記者にメール…東大病院で取材」
《記者は常に科学部の医学担当次長らに取材経過を報告、相談しており、4日の取材後も内容を伝え判断を求めた。森口氏は論文をランセットやネイチャーなどの有力専門誌に掲載したと主張しており、医学担当次長らは同氏の業績に一定の評価を与えていたが、さらに慎重に、この研究の評価を専門家に仰ぐよう記者に指示した。
 再生医療の第一人者である大学教授に森口氏の論文草稿について意見を聞いたところ、「本当に行われたのなら、6か月も生存しているというのは驚きだ」とのコメントを得た。こうした取材を踏まえて9日昼、担当次長が部長に概要を説明。部長は記者に「物証は十分か」と確認したうえ、できるだけ早い掲載を指示した》

 相手の主張の真偽を第三者にあたって検証するのではなく、信じ込んで前のめりになっています。これをチェックできないのでは素人と評するしかありません。


インテルのPCプロセッサ支配に黄昏が訪れた

 永遠に続くかに思われたインテルのコンピュータ・プロセッサ業界支配に、ようやく黄昏の時が来ました。《プロセッサの売れ行きの主流がARM系SoCになりIntelは売上予測を下方修正》(jp.techcrunch.com)が第3四半期の売上高は「売上の当初予想142億ドルに対して、今回の修正予想は138億ドルだ。それはAMDとの競合によるものではなく、AMDも同じ問題に直面している」と伝えました。インテルのマイクロプロセッサはウィンドウズPCやマックPCに使われている頭脳部分で、AMDと覇を競ってきました。

 台頭した競争相手は携帯電話に使われてきたARM系SoCで「SoC:Systems on a Chip」が示すようにワンチップに機能を統合しながら低消費電力であり、かつ高い演算能力を持ちます。パソコンの潜在的な対抗馬スマートフォンからパソコンと直接競合し始めたタブレット、さらに小型のパソコンにまで搭載されています。開発元のARM社(英国)は技術をライセンスするだけで自社生産はしておらず、プロセッサ生産は世界で数十社が手掛けています。

 もちろんパソコンの市場が消えることはありませんが、売り上げは落ちていてヒューレットパッカード社は第3四半期に89億ドルの赤字を見込んだそうです。インテルの主力商品の市場は斜陽化していく一方です。実は何年も前からインテルのPCプロセッサはオーバースペックではないかと思われ始めていました。そんなに高速で演算する用途は個人ユーザーには存在しないと言われつつも、2年ごとに約2倍、トランジスタの集積度が上がるという「ムーアの法則」の看板は掲げたままで高集積高速化は高発熱を生みました。夏場にエアコンが使えない我が家では冷却ファンでは足りず、水冷式のプロセッサ・クーラーを付けないと不安定でたまらない状況です。「どこでもコンピュータ」の時代にインテルは合っていません。

 「あいふぉんす。」の「iPad以前とiPad以後」が2011年のタブレットとパソコンの相克についてまとめています。「さらに興味深いことは、pad(=tablet)の出荷台数である。2011年Q4のDesktopPCの出荷台数は2千9百万台。一方tabletの出荷台数は、2千6百万台を越えた。2011年を通すと、まだDesktopPCの出荷台数はtabletの出荷台数を上回っているが、tabletがDesktopPCの出荷台数を追い抜くのは時間の問題であろう」

 「今なぜtabletが爆発的に普及し始めたのだろうか」。もともとタブレットは特定用途向けにあちこちで使われていたが「iPadはこの壁を打ち壊したのである。iPadは、この壁を打ち壊し、特定用途ではなく、どの様な用途にも変化を遂げるデバイスとしてtabletを蘇らせたのだ」「ただそれを実現する為には、いくつかの技術的な要素が揃わないければならない。思うに、その技術的要素とは、次の3つであろう。まずは、マルチタッチというUI技術。次は、低消費電力を常に目指してきたARMのCPU性能の向上。3点目は、無線通信インフラの整備を基盤としたインターネットの普及」

 ARM社の日本法人は横浜市にあって、そのホームページで技術情報を提供しています。「モバイル コンピューティング ― ネットブック、スマートブック、タブレット、およびeリーダー」には桁違いの低い電力消費で済む優位ぶりが書かれています。「ローカルおよびWebベース アプリケーション向けの超低消費電力プロセッサ・コア」の性能は「最大電力消費200mW(今日のPCの10W台に対して)」「アイドル時の電力消費約10mW(今日のPCの数W台に対して)」

 ARM社の創業は1990年で、アップルなど3社のジョイントベンチャーです。それから20年余り、インテル全盛の時代を日陰で生き抜いてきて、ついに表舞台に登場してきました。

 【参照】インターネットで読み解く!「パソコン」関連エントリー


科学者・技術者への不信感と原子力学会の欺瞞

 東日本大震災と福島原発事故を受けた平成24年版科学技術白書はかなり苦渋に満ちたトーンになっています。メディア報道は科学者・技術者への国民の信頼が揺らいでいると伝えましたが、不信感の段階まで進みつつあると感じます。過去の失敗を認めて挽回すべく率先して努力しているならまだしも、原子力学会は政府や国会の事故調査委が報告を出すこの時期に、これから事故調を立ち上げ、来年末の報告を目指します。それで自己満足以外に何の役に立つのか、科学技術者の社会的な責任はどうしたと国民から思われて当然です。

 白書第1章第2節「科学技術政策に問われているもの」に震災前後での国民意識の断絶が現れています。《今回の地震・津波や原子力発電所事故により、科学者や技術者に対する国民の信頼感は低下したと言わざるを得ない。科学技術政策研究所の調査によると、震災前は12〜15%の国民が「科学者の話は信頼できる」としていたのに対して、震災後は約6%と半分以下にまで低下している。「どちらかというと信頼できる」を含む肯定的回答の割合を見ても、震災前に76〜85%だったものが、震災後は震災前より10ポイント強も低い65%前後で推移している》とあります。次はもう一歩、踏み込んだ設問です。


 《震災前は「科学技術の研究開発の方向性は、内容をよく知っている専門家が決めるのがよい」との意見について、「そう思う」と回答した者が59.1%であったのに対して、震災後は19.5%へと1/3程度にまで激減している。「どちらかというとそう思う」を含む肯定的回答の割合を見ても、震災前は78.8%であったのに対して、震災後は45.0%へと大幅に低下している》

 震災前の回答ならば、ほぼ専門家に丸投げの意識と見てかまわないと思います。しかし、震災後には肯定派45.0%に対し前は極小だった否定派が半分の22.3%もあります。「どちらともいえない」が29.6%まで増えているので、これでは専門家に判断を委任しているとは到底言えません。

 この不信感は地震予知の失敗もあるでしょうが、原発事故対応の底なしの無惨さや放射線被曝影響について出された情報のいい加減さなどが非常に大きく働いたと思います。政府の出す食品や環境の基準を信頼しない市民が多数、存在するようになりました。専門家の否定そのものです。

 世界最大級になった福島原発事故を専門領域に抱える日本原子力学会は、3月の定期大会で事故の真剣な究明をしてこなかったと身内から批判を浴びました。アリバイ作りのような取りまとめ作業を専門委で始めたものの、結局は「福島原発:原子力学会が調査委 発生1年3カ月でやっと」(毎日新聞)となりました。

 《発生から1年以上たってからの発足について、調査委員長に就任する田中知(さとる)・東京大教授は「遅いとの批判もあろうが、廃炉作業の過程で判明する事実もある。今だからこそ俯瞰(ふかん)的に事故を見つめられる」と説明した》

 《東電や政府が公表したデータを活用して》調査とあるので、新しいデータを発掘する気はないようです。それなら専門スタッフが手薄な政府や国会の事故調に全面協力して、専門家の視点で切り込んでいくべきでした。国の事故調が夏場に報告を出し、それに基づく公的措置が採られた後の来年末に報告を出す意義が説明されていません。国の事故調報告を踏襲するのなら意味はありませんし、それを否定する画期的な中身になるのなら「証文の出し遅れ」として、逆に社会的な批判を受けるのではありませんか。どちらのケースも国民からの不信を増幅するだけです。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


目が離せぬ5月の太陽:直径を観測、寒冷化

 金環日食で太陽への関心が一気に高まり目が離せなかった5月でした。国内研究者がリードして「太陽の直径 金環日食で計算」(NHK)されたばかりか、4月の《太陽観測衛星「ひので」、太陽極域磁場の反転を捉えた》で予測された「四重極構造」化と寒冷化が始まっていると考えられます。

 《今月21日の金環日食の際には「ベイリービーズ」と呼ばれる月の谷間からこぼれた小さな光が玉のように連なる珍しい現象が全国で観測されました》《光の玉が月のどの谷間によってできているのかを月探査衛星「かぐや」のデータと照らし合わせて割り出し、観測地点からその谷間を通る直線を引いて太陽の中心との間で直角三角形を作りました。その結果、太陽の半径が求まり、最終的に太陽の直径は139万2020キロと精度よく計算できたということです》

 太陽の直径は望遠鏡の直接観測では1300キロものばらつきがありました。金環日食の限界線は日本を縦断しており、多数のアマチュアにも呼びかけて限界線を現場に行って確定することで太陽直径を決めようとしました。国立天文台の相馬充助教らによる学会発表のプレプリント「2012年5月21日の日本における金環日食限界線」を見ると、限界線を確定するのも簡単ではなく、定義の仕方を変えると2キロも動いてしまうもののようです。

 現場の観測も難しく「皆既日食とは違って周りからの強い光のノイズを受ける厳しい環境下での観測になるため,金環日食になったかどうかを判断するのが困難で,限界線の位置が正確には定められないということが起こりうる.そのため,太陽の半径を正確に求めるためには,限界線決定のための観測と並行して,ベイリーの数珠が現れたり消えたりする時刻を正確に測定する観測を行うことも必要」となりました。苦労がしのばれる話ですが、国産のアイデアを生かし、ともかく測定に成功したのを喜びたいものです。

  ◆  ◆

 太陽磁場の「四重極構造」化については冒頭にあげた、国立天文台やNASAなどによるプレスリリースのほかに、《「ひので」による今回の観測の意義と最近の太陽活動について》に詳しくまとめられています。太陽観測衛星「ひので」が4年間にわたり安定した観測を続けた成果です。

 《予想される時期より約1年早く、北極磁場がほぼゼロの状態に近づいていることが、2012年1月の観測で発見されました。すなわち、北極の磁場を担う斑点状の磁場の数が急速に減少し、低緯度から逆極性の斑点が現れました。この結果、現在太陽の北極域では、逆極性の磁場の大規模な消滅と極性の反転が発生していると考えられます。この観測の結果から、太陽の北極磁場がまもなくマイナスからプラスに転じると予想されます。一方、驚くべきことに、南極では極性反転の兆候がほとんどみられず、安定してプラス極が維持されていることを、「ひので」は確認しています》以下がそうして生まれる四重極構造(北極プラス・南極プラス)です。


 太陽の黒点数が減って活動が弱まった時期に最近ではマウンダー極小期やダルトン極小期があり、その開始時期前後に四重極構造が現れたと考えられています。それぞれの極小期に京都では冬の気温が2.5度下がりました。



 「最近の太陽活動についてのまとめ」はこう述べています。「太陽周期が10.6年から12.6年に2年伸びている」「太陽活動は上昇しているが、黒点の数は以前のサイクルより少なく、また北半球に偏って発生している」「北極の負極磁場が大幅に減少し、現在正極に反転中。予想された反転の時期より約1年早い」「一方、正極磁場が卓越していた南極は安定な状態を維持しており反転の兆候はない」「以上から、太陽の基本的対称性が崩れていると考えられる」「同様の事象は、マウンダー極小期、ダルトン極小期の開始前後に発生していたと推定され、太陽が従来と異なる状態になっていると推測される」

 このほか補強する観測事実として「過去45年間の観測史上最多の宇宙放射線量」が指摘されています。太陽風活動が活発ならば宇宙放射線は太陽圏内に侵入しにくいのですが、低下しているために入ってくると考えられます。 今後は10月ごろに北極域の集中観測をして予測の推移を確かめることにしています。


『はやぶさ』が作った国民的希望を政治が潰す

 7年ぶり60億キロの苦難の旅路から昨年6月に帰還して、国民に感動と希望を与えた小惑星探査機『はやぶさ』の後継機プロジェクトが、政治の思惑で実質的に潰されようとしています。初代のプロジェクトマネージャ、川口淳一郎さんが「はやぶさプロジェクトサイト トップ」で「はやぶさ後継機(はやぶさ-2)への政府・与党の考え方が報道されている。大幅 に縮小すべきだという信じがたい評価を受けていることに驚きを禁じ得ない」と悲痛な訴えをしています。天体の相互関係で後継機打ち上げ時期は限られており、中途半端な予算縮小は中止に等しいのです。

 「はやぶさ-2は、実は、これが本番の1号機なのである」「初号機はあくまで、往復の宇宙飛行で試料を持ち帰ることができるという技術が、我々の手の届く範囲にあるということを実証しようとした、あくまで実験機」「我々の水と有機物に覆われた環境の起源と進化を探ることが、はやぶさ-2の目的である。まったく異なる天体(C型小惑星)を探査し、試料を持ち帰ろうという計画なのである」「政府・与党の意見には、はやぶさ-2に科学的な意義を見いだせないというものまであったという。まことに信じがたいことである」

 米国のNASAなどに比べれば僅かな予算で、世界に先駆けて小惑星から地球に試料物質を持ち帰った『はやぶさ』の意義評価は、世界では全く違います。科学ジャーナリストの松浦晋也さんが「はやぶさ2で野田事務所に嘆願書を送った」で「日本の成果を知り、その科学的価値を認識したアメリカは今年度からはやぶさと同様の小惑星サンプルを持ち帰る探査機『オシリス・レックス』の開発を開始しました。予算総額ははやぶさ2の3倍です。小惑星サンプル採取と持ち帰りには、それだけの価値があるとアメリカも認識したわけです」と野田首相に訴えます。

 『はやぶさ』の帰還は、ほとんど擬人化しての熱烈な歓迎でした。資料採取カプセル展示巡回は大好評でしたし、《探査機「はやぶさ」の快挙、しみじみ嬉しい》で紹介したように、持ち帰った微粒子1500個が小惑星イトカワ由来と発表された昨年11月には、同じ頃に話題だった「尖閣ビデオ流出」なみの反応をツィッターで得ました。科学技術立国への希望、手応えを感じさせる存在でした。

 成功に至った長年の技術開発をどう取り組み、何が得られたのか、《未来は決まっていない,挑戦なくして未来は開かない─「エンジニアの未来サミット for students 2011」第3回レポート》に『はやぶさ』の不屈のイオンエンジンを手掛けた國中均・宇宙科学研究所教授のエピソードがあります。

 米国が10年以上先に研究を進めていた分野で「後発の不利を挽回するため,國中教授たちは最初から消耗品となる電極のないエンジンの開発を目指します」「電極の代わりにマイクロ波を使い,電子を選んで加速させてプラズマを発生させる方式の開発に成功します。最初は推進利用効率が上がりませんでしたが,10年以上の研究の末」に、宇宙空間で使える非常に高効率のエンジンを達成しました。また、エンジン制御ソフトウェアは「こんな事もあろうか」と実に様々な想定をして多くのオプションを持った開発になっており、それが度重なる苦難を乗り越える力となりました。

 これだけの技術開発をして世界が注目する中で、本番の小惑星飛行を実施しないで初代『はやぶさ』のデモ飛行だけで終わらせるのか――来年度予算要求は、ほんの73億円です。自公政権下でも『はやぶさ』後継機プロジェクトは冷遇されてきましたが、本来の目標が実現出来うる今の段階になってこの話題を書こうとは思いませんでした。


高速炉もんじゅ落下装置引き上げに工学的無理

 福島第一原発事故の影響もあって福井県敦賀市にある高速増殖原型炉「もんじゅ」の運転も廃炉も出来ない惨状に関心が集まっています。そして、重量3.3トンもあり落下したままになっている炉内中継装置の再引き上げが来週にも実施されそうですが、昨秋の失敗に続いて今回も不可能ではないかとの工学的疑問を投げかけておきます。これで失敗したら東の福島に西の福井と、長年にわたり尾を引く原子力の厄介者を東西に抱え込む事態になります。

 昨年の引き上げ失敗は、落下の衝撃で筒状の炉内中継装置が曲がってしまい、原子炉上蓋の穴から抜けなくなって起きました。この穴は燃料出入孔スリーブと呼ばれる外径640ミリ、内径465ミリの筒状部品です。今回の引き上げではこのスリーブごと蓋から外してしまう大がかりな方法が考案されました。原子炉内部には200度以上の危険な高温液体ナトリウム、それを空気から遮断するアルゴンガスがあるために、安全に引き上げるための工夫が色々と凝らされているようですが、日本原子力研究開発機構は肝心な点を忘れています。

 20年前にこの原子炉を造った際には高温液体ナトリウムはまだ入っておらず、室温の環境で建設が進みました。200度もの高温が存在すると鋼材は無視できない膨張をします。最近になって炉内中継装置の関連資料をネットで見つけ、蓋とスリーブの構造を推定することで定量的な検討が可能になりました。


 上の図は「図12.2-2強度評価部位」を加工したものです。固定プラグと呼ぶ原子炉上蓋にスリーブが組み込まれ、その中に炉内中継装置がはまっています。装置がスリーブにぶつかった際の衝撃を評価する図で、赤く塗られた鋼材骨格の太さと熱伝導性の良さを考えると、赤い部分はほぼ室温に近いと考えます。その下にスリーブの中間段差があり、蓋側の内部には断熱材と思われる層が幾重にも重なっています。スリーブは上部と下部に空洞を持つようです。

 話の見通しを良くするために簡単なモデルを考えます。スリーブは段差がない直径500ミリ、建設時の蓋側の穴は片側0.1ミリのすき間があるとして500.2ミリ、中間段差部は最上部の室温より50度プラス、最下部の原子炉側は室温プラス200度とすれば、スリーブと蓋の穴の直径は鋼材の膨張を考えると現在、以下のようになっています。

           温度  スリーブ直径  蓋の穴直径
   スリーブ頂部  室温   (500.0ミリ) (500.2ミリ)
    中間段差部  +50度  500.3ミリ  500.5ミリ
      最下部  +200度  501.2ミリ  501.4ミリ

 スリーブ最下部を引き上げていけば、中間段差部に到達する以前に蓋の穴より直径が大きくなって抜けなくなります。もしスリーブだけ抜いていくのなら時間を掛けて温度が周囲の穴の温度まで下がるのを待つ手があります。しかし、スリーブは炉内中継装置を抱いていて、装置の下部は液体ナトリウムに浸かっていますから200度以上の高温は絶えず伝わってきます。スリーブと蓋の穴の間に最初からコンマ何ミリものすき間があれば抜けますが、アルゴンガスを封じ込める機能を考えれば、すき間はずっと小さく造られた可能性が高いとみるべきでしょう。機構側には建設時のすき間データが残っているはずですし、蓋の穴について裏側構造や熱容量のデータなども検討すべきですが、公開されていません。

 【参照】高速炉もんじゅ関連エントリー


『もんじゅ』課長自殺周辺の不審な巨額費用

 高速増殖炉『もんじゅ』(福井県敦賀市)で原子炉容器内に落下した燃料交換用の炉内中継装置を担当していた燃料環境課長(57)が自殺していたことが今週、伝えられました。自殺の理由について日本原子力研究開発機構は何の説明もしていませんが、前後して報道された事項を並べると不審な巨額費用が目に付き、ありがちな鬱病症状からの自殺とは思えません。何かが隠されていて、それが自殺の引き金になっている可能性があります。

 毎日新聞の《もんじゅ:現場課長自殺 “要”失い無念 「影響出ないように」》は「もんじゅの燃料取り扱いは、ナトリウムと空気が触れないようにするため、軽水炉よりも装置の構造や動作が複雑になる。このため今回落下した炉内中継装置のように、もんじゅ特有の機器も多い。課長は燃料の取扱設備についての特許もあり、この分野に長年一貫して携わってきた“スペシャリスト”だった」と報じています。本来、この現場に欠くことができない人物だったようです。

 自殺があった13日前後の出来事を整理しましょう。変形して炉内から抜けなくなった炉内中継装置を、原子炉蓋の一部ごと引き抜く復旧作業を請け負うことになった東芝と契約したのが10日です。14日にはその記者発表が予定されていました。旧動燃の時代から第130回「もんじゅ判決は安全審査を弾劾した◆手続きの公正さ、技術レベルへ疑念」を参照していただけば判るように、『もんじゅ』では自前の設計などせず、完全に業者「丸投げ」で仕事をしてきました。契約が終わって課長の肩の荷は下りたはずでした。ところが日曜日の13日に家族に「ちょっと出てくる」と言い残して課長は外出し、山中で自殺したのでした。

 14日に発表されたのは《もんじゅ復旧に13億8千万円 装置落下事故》(福井新聞)でした。「原子力機構によると、変形して使えなくなった装置を新造するのに約4億4千万円、装置回収に使う器具の製造などに約9億4千万円が必要で、いずれも東芝と契約を結んだ」

 そして15日になると朝日新聞が《もんじゅ装置落下、復旧に17億円》と大きく違う金額の記事を書きました。「落下した装置の状態を観察する3億7千万円の作業を同社と随意契約したほか、計9億4千万円に達する装置本体の引き抜きと復旧作業も随意契約で発注した。4億4千万円かかる新しい炉内中継装置の製作は一般競争入札にしようとしたが、同社しか応札しなかった」

 「落下した装置の状態を観察する3億7千万円」はなぜか当初の記者発表から隠されていたようです。そして、穴から抜けなくなっている炉内中継装置を詰まっている穴周りの大型金属リングごと引き上げるために、こんなに巨額の事前観察費用が必要でしょうか。既に1月18日には「炉内中継装置のこれまでの状況及び今後の進め方」が公表されて、詳細な観察結果は表に出ています。

 撤去作業の妥当性を助言する検討委員会の第1回は1月18日、第2回は2月24日でした。下の工程図では「落下状況等の調査・分析」はもう終わりに近づいていますし、実務作業は始まっています。どこで3億7千万円も使う場面があるのでしょうか。



 これだけ大きなお金は人件費では使い切れず、かなりの装置を作ることが前提でしょう。本当は別な事柄をするための隠れ蓑になっている可能性があります。ここに隠された重大問題があって、自殺した課長の心労になっていたストーリーなら理解できます。

 【参照】インターネットで読み解く!『もんじゅ』関連エントリー


もんじゅ落下事故に甘い認識、文科省の死角

 (2011/6/10お知らせ:この問題を検討した最新記事は「高速炉もんじゅ落下装置引き上げに工学的無理」です)

 高速増殖炉もんじゅ(福井・敦賀)は落下した炉内中継装置を引き上げるために出力40%の試験運転日程を半年延期すると発表したのですが、47NEWSの《副大臣「大きな事故ではない」 もんじゅ装置落下で》が「笹木竜三文部科学副大臣は17日、高速増殖炉原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)で職員らに訓示し、8月に起きた燃料交換用装置の落下事故について『安全上、大きなトラブルではない』と述べた」と伝え、監督官庁である文科省の甘い認識が露呈されました。炉内中継装置を抜きとる大がかりな工事が無事に終わっても、落下事故によって炉心内に出来た損傷が冷却材ナトリウム液の中で確認できるかどうかすら不明です。

 日本原子力研究開発機構が16日に発表した引抜き工程は次の図です。


 取り出し口の燃料出入孔スリーブの上には高さ7メートルにわたって各種機材が積み上がっていますから、まずそれを撤去します。そこに4階建てのビルほど高さがある簡易キャスクを設定し、アルゴンガスを満たして原子炉内と同じ状態にした上で、変形して抜けない炉内中継装置と燃料出入孔スリーブを一体で引き上げるというものです。炉内中継装置に付着している冷却材ナトリウムが空気と激しく反応して燃えるため、簡易キャスクに収容してから後の処理もナーバスになります。

 この図で注目点はナトリウム液位です。引き上げ作業の失敗で空気が炉内に入ることを心配して、ナトリウム液位をぎりぎりまで下げるはずです。その状態で炉内中継装置が落下してぶつかった場所は液中に隠れています。金属ナトリウム液は不透明ですから、引き上げが成功しても第215回「もんじゅの炉心用装置落下、死んだも同然に」 での「破損を見つけられない」指摘はそのまま有効です。

 もともと今回の落下事故は核燃料交換という、原子炉管理では初歩的な作業で起きました。「超々楽観主義!! もんじゅの事故トラブル想定」で検証したように、炉内に物が落ちる想定が全くされていません。文科省は想定になかったから『大きなトラブルではない』と思っているのですから、技術的にはもう笑い話の世界です。これまで全く経験がない引き上げ作業が本当に無事済むのか、過去の失敗の数々からも疑わしいと思います。

 ただ、これが成功すれば本格運転はそのままで出来なくとも、廃炉にする事は可能になるはずです。動かなくても年間200億円以上を食いつぶす怪物を早く廃止したいものです。ブログでも廃止待望の声は数多く聞けます。


探査機「はやぶさ」の快挙、しみじみ嬉しい

 宇宙航空研究開発機構が16日、「はやぶさカプセル内の微粒子の起源の判明について」で小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰った微粒子1500個は「そのほぼ全てが地球外物質であり、小惑星イトカワ由来であると判断するに至りました」と発表しました。月以外の天体に初めて行って、その物質を持ち帰った、文字通りの快挙です。太陽系の原初的状態を残す物質を地球にもたらしたのですから、科学的な価値は極めて高いと思います。

 7年間に及ぶ苦難に満ちた旅からの奇跡的な帰還で、6月にはほとんど擬人化しての大歓迎でした。持ち帰った物が無くても――という感覚もあったのですが、これで胸を張ってよくなりました。しみじみ嬉しい思いです。

 【追補11/17】記者会見での「はやぶさ」スタッフの生の声がいっぱいあるレポートが「大塚実の取材日記」から出ていますので紹介します。「はやぶさ記者会見 微粒子1,500個はイトカワ由来と判明!」「私は1粒でいいと思っていたが、中村先生から1,500粒と聞いて そんなにたくさんいらないのにと思った。正直そう思った。本当に信じられない」

 先日の「尖閣ビデオ」で開発したTwitterでの反応測定をしてみました。「はやぶさ OR イトカワ」で「buzztter(バズッター)」サイトを検索すると、以下のようにピークが「711」のグラフです。「尖閣ビデオ」のグラフも並べましょう。


 8時間で「2345」のtweetがあったようです。「尖閣ビデオ」で最初の8時間なら「3772」です。「はやぶさ」の快挙もかなりのインパクトでした。


韓国核融合記事で改めて気付く日本勢の独善

 先週、朝鮮日報が「韓国の人工太陽『KSTAR』、核融合に成功(上)核融合研、2000万度で6秒間プラズマを維持」と報じたのを見て、20年以上前に核融合を取材していた頃にタイムスリップした感じで目眩がしました。何億度到達が問われている現在、ニュースは超電導コイルを使った点だけですが、核融合による高速中性子を検出したと胸を張っていらっしゃいます。これを機に久しぶりに日本の核融合「業界」をサーベイしてみると、こちらも我田引水の独善ぶりでくらくらする思いでした。

 核融合研究は大型化にするにしたがってお金が掛かりすぎるようになり、各国ばらばらではたまらないのでフランスに建設する「国際熱核融合実験炉(ITER)」計画(1兆6000億円)に一本化されたはずでした。そこで超電導コイルが使われるので、韓国はその走りになります。サムスンの当該部門がそっくり移行して製作したそうで、やる気は買いましょう。しかし、微量の核融合中性子線が検出されたと騒いでいるのはあまりに時代遅れです。今や実験装置ながら膨大に出る中性子線による周辺物質の放射化が問題になっており「ITERや核融合炉の放射能は?」が「ITERでは、約20年間の運転終了後には約3万トンの放射化物があるとの試算がなされています。 100年後にはその放射能は、50万分の一になります」と説明しているほどです。

 実験装置でこれですから、定常運転する核融合発電炉と周辺の放射化には空恐ろしいものがありますが、低放射化材料がそのうち開発されるだろうとして発電装置を備えた原型炉への道筋が「核融合開発ロードマップと今後の原型炉開発への展望」(2009)で描かれています。核融合反応を最も低いプラズマ温度で起こせるのは重水素と三重水素(トリチウム)の組み合わせです。ITERは2020年代にこの反応を初めて本格的に使い、DT燃焼で大量の中性子を生んで熱に変え、発電につなげます。日本の原型炉はITER実験が全てうまく進む前提に立って設計を前倒しし、DT燃焼実験が終わる2020年代末には建設に入る性急さです。

 また、かつての「旗艦」実験装置JT60は役目を終わったはずでしたが、「JT60SA」としてもう一度建設される話になっています。SAは「super, advanced」の略で、こちらも超電導コイルを使い、ITERの相似形装置として運転条件の模擬に役立てるとか。運用は国際協力の枠内ですが、建設と実験は「国内のトカマク重点化装置としての費用は別枠で必要」といいますから、呆れてしまいます。国際的にITERに一本化したはずなのに、巨額を要するミニチュアを欲しがっているのです。「原子力政策大綱等に示している核融合研究開発に関する取組の基本的考え方の評価に関する報告書(案)に対する御意見」(原子力委員会)の冒頭で「JT60SA に期待するが、核融合エネルギー開発への貢献が見えにくい」と言われて当然です。

 昔から予算の分捕りには強い研究者が集まった日本の核融合「業界」で、独りよがり、独善は後発の韓国以上のものがあります。しかし、説明責任が果たせない巨大科学プロジェクトに大きな予算が付く時代は去ったと気付くべきです。

 【参照】親サイト、インターネットで読み解く!「科学・技術」分野


高速炉もんじゅに出た『生殺し』死亡宣告

 福井県にある高速増殖原型炉もんじゅで原子炉内に落下してしまった炉内中継装置(直径46cm、長さ12m、重さ3.3トン)を引き抜く作業が13日、失敗に終わりました。毎日新聞が「もんじゅ:誤落下、中継装置抜けず 運転休止長期化も」と伝えましたが、技術的常識に従えば本格運転も廃炉措置も出来ない袋小路に追い込まれたと言えます。『生殺し』死亡宣告が出されたのです。

 炉内中継装置は「2本の筒を8本のピンで上下に接合した構造で、下から約5メートルの部分に接合部がある。この接合部あたりで抜けなくなっている」「引き上げ作業では、設計上の限界4・8トンまで引く力を段階的にかけて24回試したが、抜けなかった。もんじゅは構造上、装置を引き抜かなければ原子炉の運転ができない。現状では接合部が原子炉容器内部にあり、アルゴンガスやナトリウムで覆われているため、目視で調べることができない」

 10月1日に日本原子力研究開発機構から出された中間報告で「落下による影響はない」としたばかりでした。15日に開かれた県原子力環境安全管理協議会で、「委員の『炉内の傷の有無はどう確認するのか』との質問に、もんじゅの向和夫所長は『物理的に装置は真っすぐ落ちており、炉内や燃料にぶつからない』と強調した」(「もんじゅ、国の管理不備指摘 県安管協、炉内装置落下で」=福井新聞)のですが、落下した装置側に変形がある以上、ぶつかった先の炉内が無傷と考えるのは工学的に非常識です。

 読売新聞が「もんじゅ炉内装置落下 長期化恐れ/原因究明を 福井大・竹田所長に聞く」で今後の対処法を聞いています。「最終的には原子炉容器の上ぶたを外さないと、装置を取り出せないかも。しかし、冷却材用のナトリウムが空気と反応して燃えないよう、容器内にはアルゴンガスを満たしており、簡単にはふたを外せない。装置を壊して取り出すなどの方法を考えた方がいい」

 「装置を壊して取り出す」とまで言い出す点に、専門家がいかに困惑しているのかが現れています。原子炉容器の上蓋を外すにも、この炉内中継装置が健全である必要があります。なぜなら上蓋を外すとアルゴンガスが抜けて空気と触れた液体ナトリウムが激しく反応して燃え出しますから、まずナトリウムを抜いて置かねばなりません。冷却材のナトリウムを抜く前には、炉心から燃料棒を全て引き抜く必要があり、燃料棒を炉外に出す装置がこの炉内中継装置なのです。第215回「もんじゅの炉心用装置落下、死んだも同然に」に引用した図「原子炉内での燃料交換と移送」をご覧ください。燃料移送の要の位置にあります。

 では原子炉容器の上蓋を開けるのを避けて、装置を壊せるのかです。下の図は原子力機構が公表しているもので、厚さが3.695メートルもある上蓋の穴に炉内中継装置がはまっています。

 直径46cmのパイプ状ですから、内部に何らかの切断機械を押し込んで壊すだけなら可能でしょう。しかし、パイプの下は原子炉内ですから、大きな破片はもちろん小さな切削片すら落とすことは許されません。不透明なナトリウム液中で回収は不可能で、本格運転した際に物理的な損傷や炉心中性子分布の異常を引き起こします。滅茶苦茶に厳しい条件で、現状では壊して引き上げる方法を知りません。ロボット装置のようなものを研究開発すれば何年もかかるでしょうし、出来ない可能性が高いと思います。

 運転も廃炉も出来ない『生殺し』を避けるわずかなチャンスが残っています。健全でないと判っている炉内中継装置、その下の炉内にも何かの異常があることに目をつぶって燃料棒を炉外搬出するのに使ってしまうのです。もし全て搬出できればナトリウムを抜いて作業が出来ます。しかし、燃料搬出の途中で止まりでもしたら、旧ソ連チェルノブイリ原発のような『永遠のお荷物』が出現します。

 (2011/6/10お知らせ:この問題を検討した最新記事は「高速炉もんじゅ落下装置引き上げに工学的無理」です)

 【参照】インターネットで読み解く!高速炉もんじゅ関連エントリー


ノーベル化学賞らしい地味な研究に日本人2人

 ノーベル賞の中でも化学賞は特に地味な分野で、研究の面白さを一言で言い表しにくいことが多いのです。この賞が今年、根岸英一・米パデュー大特別教授(75)、鈴木章・北海道大名誉教授(80)、リチャード・ヘック・米デラウェア大名誉教授(79)に与えられると発表されました。メディアからネット上にも色々な情報が提供され始めています。狙いを絞った化合物を的確にかつ容易に合成できる方法を開発されたのですが、共通して特許を取られなかったと知って、研究者魂のようのものを感じました。

 根岸さんの声は《根岸さん「受賞は現実的な夢だと思っていた」》(読売新聞)にあります。ストックホルムのノーベル賞発表会場から電話でつないだインタビューで「――特許は取りましたか?」と聞かれ「クロスカップリングについて意図的に取っていません。多くの人が使いやすくするためです」と答えています。

 鈴木さんについては日経新聞が昨年の記事「新合成反応、30年経て脚光――有機ELや医薬、日本の技術貢献(日曜版)」を掘り起こしています。「鈴木名誉教授は、クロスカップリング反応に関して特許を出願しなかった。米国の研究者仲間からは『もったいないことをした』と指摘されるが、『当時、大学の教官が特許を出す雰囲気は全くなかったから』と振り返る」「仮に特許を出願していれば、企業はこの方法を回避する道を選んだかもしれない。『特許にしなかったので使いやすかったのでしょう』(鈴木名誉教授)。応用が広がった隠れた要因といえそうだ」

 人生万事塞翁が馬――なのですね。医学生理学賞を受けた体外受精開発のロバート・エドワーズ英ケンブリッジ大名誉教授と同様に、1970年代からの仕事が評価されての受賞です。ある研究分野が大盛況を迎えているとき、その分野のブレークスルーを起こした第一人者を特定して顕彰するのがノーベル賞の王道です。だから良い仕事をしても長生きしなければいけません。逝ってしまった惜しい人を思いながら、ニュースを聞きました。


お隣の惑星、火星の驚異に満ちた高解像写真

 政治も経済もぱっとした話がありません。「DDN JAPAN」の「想像を超えていた、再び。火星表面写真 29選」を覗いて、異様な光景の連続にびっくりしました。引用元になっている「Martian landscapes」(www.boston.com/bigpicture)の方がずっと高画質で、説明は英語ながらクレーターの大きさなども書かれて参考になります。高解像度ならでは発見もありますから、是非、オリジナルでご覧になって下さい。最初の写真、砂丘に描かれた模様から一部分を切り出してみました。

 ウィキペディアによると火星の大気圧は地球の0.75%しかなく、希薄ですが、火山活動があります。大気の95%が二酸化炭素で、冬になるとドライアイスの厚い氷が張ります。「極に再び日光が当たる季節になると二酸化炭素の氷は昇華して、極地方に吹き付ける400km/hに達する強い風が発生する。これらの季節的活動によって大量の塵や水蒸気が運ばれ、地球と似た霜や大規模な巻雲が生じる」といった激しい気象変化があるので、地球にいる我々の想像を絶した現象が起きているのでしょう。

 写真はNASAのMars Reconnaissance Orbiter (MRO)が2006年から撮っているものです。高度は300キロ前後と言います。Google Marsでの地点とリンクがはって対照できるようになっています。遠くから見れば茫漠とした地形の中に、画家やデザイナーが作りだしたようなシュールな模様が存在している訳です。


2年延期でも完成は無理?六ケ所再処理工場

 2兆2000億円を投じながら完成が13年遅れている青森の六ケ所核燃料再処理工場について、さらに2年の延期をする見通しとマスコミが一斉に報じました。朝日新聞の「六ケ所・核燃再処理工場、完成2年延期へ 原燃方針」は「処理過程で出る高レベル放射性廃棄物をガラスに閉じこめる『固化試験』でトラブルが続出。このため、炉の温度を細かく調整するための大幅な改修が必要と判断」としています。しかし、この延期で完成が保証されるのか、極めて疑わしいのです。

 朝日新聞青森版の「原燃 試運転終了を2年延期へ」は「原燃は、溶融炉内の温度管理のノウハウをさらに高めるとして、模擬廃液を使った試験でデータを蓄える方針。県幹部は『れんが落下は、放射性廃液をいきなり使って試験をしたため起きたのではないか。模擬廃液での検証に長期間かけ、工場完成につながる試運転には当面入るべきではない』と指摘した」とも伝えています。日本原燃の技術レベルの悲惨さがあらわになって、行政側も不信感を高めています。

 昨年の第180回「敗因は何と工学知らず:六ケ所再処理工場」で高レベル放射性廃液のガラス溶融炉に「実証されていない新方式を採用した時点で、工学とはかけ離れた『ロマンの世界』に移ってしまいました。ブレークスルーすべき要素技術があるなら、実プラントの建設ではなく、まず研究室で実証すべきです」と指摘したように、実用技術として確立していない方式を大型の実機に採用した点に根本的な問題があるのです。

 最近になって、東海村にある実規模試験装置で細かな温度管理をすればうまく動作する場合があると知れたようです。その細かな温度管理のために大幅な改修をしようというのですが、プラントの現場は既に高レベル放射性廃液で汚染され、人間が立ち入れない「死の空間」になってしまいました。大幅改修を遠隔操作でしなければなりません。これまでの試運転でのドタバタぶりを見れば、改修が成功し、安定した運転が続けられる可能性は低いと思えます。昨年、津島衆院議員が「なぜ国産技術にこだわるのか。自信がなかったら外国の技術を取り入れるべきだ」と主張しました。2年も延期するなら運転実績がある方式を新規に導入するべきです。

 高速増殖炉「もんじゅ」での炉心装置落下事故への対処が行き詰まっている問題といい、国策原子力開発には技術的な常識を持つ人材が欠けていると断ぜざるを得ません。巨費を投じているのですから、民間なら失敗を許されないケースです。


超々楽観主義!! もんじゅの事故トラブル想定

 重さ3トンもの装置を原子炉内に落下させた高速増殖炉「もんじゅ」では、落下による損傷は大丈夫か確認するにも不透明な高温の金属ナトリウム液の中では調べようがないことを「もんじゅの炉心用装置落下、死んだも同然に」でお伝えしました。こんな大きなモノでなく、小さな部品などを落とすことは軽水炉ではしばしばあります。冷却材は秒速数メートルの高速で炉内や配管を巡るので小部品でも炉内を傷つけ、危険です。回収せずに運転するわけにいきません。軽水炉なら透明な水の中ですから発見は容易ですが、もんじゅではどう考えられているのか、運転再開を前に公表されている「事故・トラブル等の事例とその対応集」で確認してみると、驚くべき事に全く考慮されていないのでした。

 何かのモノが落下して行方不明になる事態がどの項目にも見あたりません。「燃料出入機グリッパの故障」や「燃料集合体の変形」の項目では今回のようなつかみ損ねや引き抜けないケースが扱われていますが、落としてしまう事態は全く想定されていません。操作をやり直せばよいとの想定です。また、小部品が落ちてしまうような失敗はありえないと考えられているようです。この超々楽観主義で巨大設備の原発を長期に運転する気なのでしょうか。

 軽水炉の例ではこんな落下物もあります。「5号機 燃料装荷作業中における原子炉内への異物落下について」(中部電力)は「午前3時45分頃、燃料装荷作業中に、燃料交換機上で燃料の移動状況の監視に使用していた双眼鏡から接眼部の部品(大きさ直径約2cm)が外れ、原子炉内へ落下しました」とし「当該部品は炉心シュラウドの上部フランジ部で発見され、同日午前9時20分に回収しました」と報告しています。

 あらゆる部品に落下防止策を施していたとしても、何が起きるか分からないのが現実のプラントです。3トンの重量装置落下でなくて、ちょっとしたミスで物を落としても発見不能になり、もんじゅの運転は出来なくなるようですから、運転不能の事態は遅かれ早かれ到来する運命でした。マスメディアはつかみ部の異常など落下原因の方に目を向けていますが、問題にすべき点を間違えています。


もんじゅの炉心用装置落下、死んだも同然に

 福井県敦賀市にある高速増殖炉「もんじゅ」で26日、重さ3.3トンの炉心用装置が原子炉容器内に落下する事故がありました。福井新聞が28日、「もんじゅ、復旧作業長期化も 炉内中継装置落下」と伝えるなど、深刻になる兆しが現れています。現時点では異常は現れていませんが、運転を再開して原子炉容器が大丈夫か調べることが至難なのです。

 この炉内中継装置はもんじゅ特有のもので、ネット上で調べると高度情報科学技術研究機構にある「図3 原子炉内での燃料交換と移送」 が分かりやすそうです。
 炉内中継装置と示されている筒の下に落ちた本体があり、移送ポットや中継ラックを支えているのでしょう。核燃料を交換する装置から受け取って炉外へ搬出する中継ぎ役の装置です。作業が終わって撤去する際に、途中でグリップが外れて落下していますから、おそらく図の位置付近まで戻っているはずです。

 「状態確認は、原子炉容器内にファイバースコープやCCDカメラを挿入し、グリッパーの外観をまず調べる。異常がなければ、グリッパーを操作し、開閉などの作動に問題がないかを確かめる」「その上で、落下したとみられる炉内中継装置上部の状態をファイバースコープなどで確認し、さらにグリッパーを下げて同装置の位置を調査する。これらの後に、グリッパーが付いた同装置の収納設備を取り外し、目視でグリッパーを詳しく点検する」「原子力機構は『すべての状態確認を終えるめどは分からない』としている」

 原子炉容器内は軽水炉のように水で満たされているのではなくて、高温の液体金属ナトリウムですから不透明で目視するなど困難です。それでも装置の上部は対象範囲が狭いので何とかなるでしょうが、落下で衝撃音がした炉心周辺部の損傷状況をどうやって確認するのでしょうか。そんな深い場所までファイバースコープやCCDカメラを下ろしての細かい位置制御は難しく、不透明な液体中で目視確認をして意味があるのか、大きな疑問があります。

 気になってTwitterを見たら、批判の嵐です。その中に「高速増殖実験炉『常陽』の事故とその重大性」の参照を求める発言がありました。もんじゅと同じナトリウム冷却の常陽でも機器の破損事故があったのに、不透明であるために発見も対処も遅れたといいます。「そもそも『もんじゅ』では、究極の事故=炉心崩壊事故対策として、ナトリウム液位を炉心上面が見えるところまで下げられない構造になっている。破損を見つけること自体できない」。今回の損傷場所はさらに深いのです。

 この落下事故で、もんじゅは事実上、死んだも同然になりました。

 【参照】第187回「信頼性無し、もんじゅ運転再開は愚の骨頂」

 【続報】2010/10/17「高速炉もんじゅに出た『生殺し』死亡宣告」


10月完工は厳しさ増す六ヶ所再処理工場

 昨年の6月に第180回「敗因は何と工学知らず:六ヶ所再処理工場」で「完成は絶望的」と指摘した青森・六ヶ所村の核燃料再処理工場ガラス溶融炉で、天井から落下したレンガが2カ月半かけて取り除かれ(当初予定は10日間)、溜まっていたガラス溶液の抜き取りが2日に終わったそうです。1年余りかけて原状復帰状態になりました。8回目の延期をした完工目標は10月ですが、計画より既に6カ月遅れともいいます。

 2兆2000億円の巨費を投じた再処理工場が稼働するかどうかは、高レベル放射性廃液のガラス固化が成功するかどうかで決まります。今回、改めて日本原燃の技術レベルを検証するために「定例記者懇談会挨拶概要」を読み、対応する技術レポートを経済産業省サイトなどで探しました。社長の話だけ読んでいると、事態は改善の方向に進んでいるかに見えます。

 6月29日には白金族の炉底部沈降=ガラス流下阻害という、完工を遅らせている一番の不具合について述べています。東海村にある実規模試験装置「KMOCを使った試験につきましては、今月9日から前回起こった流下不調の時に近い炉内の温度状態を再現する試験を先週末まで実施いたしました」「この結果、予想どおり、ガラス温度が高くなると白金族が炉底部に沈降するという、流下不調の時と同じような状態変化が起こることを確認いたしました」「白金族の挙動への対応、つまり、温度管理がいかに大切であるかということと、KMOCに追加設置した温度計の有効性を実感した次第であります」

 実規模試験装置で新知見が得られて、これで完工見通しが立ったかのようです。ところが「ガラス固化設備の開発、試験等の経緯」の6ページ「KMOC#6(1)(H16.3〜5)」の項に「(ハード改造)・ 炉底ガラス温度計設置【KMOC】」とあり、「KMOC#6(2)(H16.7〜11)」に「炉底ガラス温度計設置【実機】」ですから、温度計設置は6年前です。温度管理の重要性は試運転で失敗する前から分かっていたことです。また、実機の試運転で失敗した条件を試験装置では試していなかったように読めますから、ずさんな準備態勢であることは間違いありません。

 このレポートの冒頭では、原研機構で開発された実験炉(ガラス量880kg)を、六ヶ所の実機ではガラス量4800kgと強引に大拡張した事情も説明されています。「ガラス溶融炉の処理能力は溶融表面積に依存し、ほぼ比例の関係にある」と「開発の過程で確認」したので拡張し、ガラスもカートリッジタイプからコストが安いビーズ状に変えたとしています。エンジニアリングの常識では「確認」ではなく「推定」したのであり「別途確認する試験を実施」すべきなのです。最終試運転と並行して、いま確認試験がされているかのよう。

 天井のレンガが落ちたのは想定外の運転中断が相次ぎ、温度変動が大きくなって割れてしまったと国に報告しています。今後は温度変動を抑えるし、落ちても安全には影響しないとの建前をとっています。しかし、落下レンガ片がガラス流下ノズルに入るような小さなものなら、運転の安定性は損なわれます。社長自身が「当初、白金族の堆積やレンガの破片等による詰まりによって流下や通電が上手くいかない心配もありましたが」と言っているとおりです。

 高レベル放射性廃液漏れなどで悲惨な状態だった現場が、1年以上費やしてきれいになっただけ。本質的な打開策が出来たのかと問えば「ノー」でしょう。


7年ぶりの地球帰還「はやぶさ」に熱い視線

 50億キロの長い旅の苦難を乗り越えて、小惑星探査機「はやぶさ」が今夜遅く地球に帰ってきます。再突入で本体は燃え尽きるのですが、小惑星で採取したはずの試料カプセルはオーストラリアの砂漠に投下します。自前のエンジンを動かして惑星間を航行し、地球からの遠隔操作もままならない場所で採取作業をこなして帰ってくる点だけでも世界初の快挙です。相次いだトラブルにあの手この手を工夫して対処した宇宙航空研究開発機構(JAXA)技術陣も凄いと思いますが、それに奇跡的に応え続けた「はやぶさ」のストーリーは既に伝説化しつつあります。

 「はやぶさ帰還ブログon Twitter」は約4万人がフォローする状態で再投入を待ちます。午後12時45分からは《「はやぶさ」帰還日のイベント情報》にあるようにライブ中継などが準備されています。「はやぶさ、地球へ! 帰還カウントダウン」公式サイトのほかに、読み物として《祝帰還!「はやぶさ」7年50億kmのミッション完全解説【その1】》などもあります。

 【追補】「松浦晋也のL/D」が2カ月ぶり更新でした。オーストラリアで現地取材中だそうです。「オカエリナサイ――南オーストラリア・ク−バーペディにて」。「はやぶさは世界初の壮挙を成し遂げつつある。それは終わりではなく始まりだ。より深く太陽系を理解するためにより様々な場所へ、より遠くへ」「後継機『はやぶさ2 』は、開発が開始できるかぎりぎりのところにある。当初2010年を予定していた打ち上げは、奇妙なことに引き延ばされるだけ引き延ばされ、現状では2014年である」

 【大気圏再突入する「はやぶさ」=午後11時ごろ和歌山大チームの中継から】
 解説を聞いていると画面下中央をよぎる光は試料カプセルのよう。  

 ※録画はこちらに(6/13)
 ※NASAの撮影動画から見てやはり本体の燃焼のようです。(6/14)


もんじゅ報道、マスコミまで旧動燃品質!

 11日にお伝えした「もんじゅ驚愕の運転再開、制御棒の操作知らず」の真相がようやく明らかになってきました。やはり運転員に対して旧動燃品質の「ずさん訓練」しかできていなかったのです。そして、今回の報道ぶりはマスコミまで旧動燃品質と申し上げるしかなく、ポイントを外しまくっています。

 高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)には「もんじゅシミュレータ(MARS)」が設置されていて「中央制御室及びプラント全般をフルスコープで模擬しており、マンマシンシステムとしての評価・検証、十分な臨場感をもった運転訓練、種々のプラント挙動の検証等を行うことができる」と誇らしげにうたっています。

 ところが、朝日新聞の「もんじゅ操作ミス 『継承』課題置き去り」は制御棒の操作失敗について「記者会見した原子力機構は、運転員が未熟だったことと、操作方法をまとめた試験要領書に長押しの操作が不記載だったことが原因と説明した。運転員らが使っていたシミュレーターは、微調整棒の速度変化が再現されてなかった」と明記しています。 これが「十分な臨場感をもった運転訓練」の実態です。

 原子力発電所のシミュレーターで制御棒の操作を忠実に再現しないモノが実在していることこそ、驚愕の大ニュースです。この模擬装置でどんなに訓練しようが、制御棒の動きすら完全に模擬していない以上、訓練の価値はありません。シミュレーターは現実に起きる事象をすべて尽くそうと必死になって作るモノです。運転操作の根幹である制御棒操作が実機と同じに出来ないなら、異常時に秒を争って原子炉を止めることが経験できないではありませんか。朝日の「ナトリウム漏れ事故から続く、長期の運転停止。実地の操作経験がない運転員が8割を占め、現場の技術やノウハウの継承が以前から課題とされていた」とは手ぬるすぎて話になりません。

 読売新聞「『もんじゅ』再開1週間、トラブル連鎖…長期停止の〈ツケ〉」のピンぼけぶりも劣悪です。識者コメントとして「福井大国際原子力工学研究所の望月弘保教授は『停止期間が長かっただけに、世代を超えた技術継承がうまくいかなかった面はあるだろう。動かしていく中で経験を蓄積していくしかない』という」とは、絶対に安全な運転を求めている国民を愚弄しています。運転しながら訓練していく――何と噴飯物の発言――直ちに運転を停止して、安全な運転が出来るまで準備をし直せ、シミュレーターを作り直せと求めるのが筋です。


もんじゅ驚愕の運転再開、制御棒の操作知らず

 14年も停止していた高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)が運転を再開、早速、驚きいっぱいの低技術ぶりを披露しました。読売新聞の「もんじゅミス 運転員、基本操作知らず…ボタン長押し 手順書に明記なし」などにあるとおりです。「原子力機構によると、試験終了後に原子炉の出力を落とした状態にしようと、制御棒19本のうち2本を挿入しようとしたが、1本が入りきらなかった」「原因を調べたところ、制御棒を最後まで挿入するには操作ボタンを長押しする必要があるが、運転員は制御棒の全挿入操作は初めてで、長押しが必要と知らなかった。原子力機構は運転手順書にこの操作に関する詳しい記述を追加した」

 他紙によると、この運転員は短く何度もボタンを押したそうです。原発運転の基本である制御棒操作を知らなかったことも驚愕ですが、一連の事実から容易に推定できる大欠陥に気付いて背筋がぞっとしました。もんじゅ運転チームは、本格的な運転シミュレーターを持たずに、座学で運転を学んでいる事実です。模擬制御盤があれば「長押し」と「短いプッシュ」の差を体感できるようにしないはずがありません。14年の空白期間に何をしていたのでしょう。

 まともな運転シミュレーターが無いということは、事故事象への対応も本格的に模擬した経験がない――と結論できます。これは大変です。原発の主流である軽水炉では、運転員を育てるために様々な工夫をしてリアルな模擬制御を訓練に使ってきました。デジタル時代の現在では簡単な模擬でも昔はかなり大変だったのですが、もんじゅが動き出す前から電力会社は使っていました。止まっている間、年間200億円もの維持費を使いながら、現代的な運転シミュレーターを新設する知恵さえ、日本原子力研究開発機構(旧・動燃)にはなかったのです。私の第187回「信頼性無し、もんじゅ運転再開は愚の骨頂」にその体質が描いてあり、不思議としません。

 11日の各紙朝刊には「原子力機構が10日、午後1時までの24時間に施設内で警報が75回出たと発表」との記事が出ました。「配管室の圧力計が低気圧による気圧変化に反応した(40回)とか、大した不具合ではない」としています。試運転段階の超低出力で何も起きていないと知っているから「不具合でない」と言えるだけです。高出力運転で各機器がフル回転している際に、警報が頻繁に鳴って、それが不具合でないと断定できるでしょうか。普通の技術者なら一生懸命、考え始めます。それが何十回もの警報になれば、本当の異常が埋もれる恐れがあります。もし異常事象が起きていると分かった後での警報多発なら、運転チームはパニックになるでしょう。

 3月の「口に出来ぬほどの技術的愚劣、もんじゅ再開」でこう書きました。長い休止で「各パーツを発注しただけの技術者すら退職してしまいました。安全確保のために点検すると言って、実は何をしたら善いのか、現場がどのようになっていれば正解であり、安全なのか判然としない技術陣が、巨大で危険な高速増殖炉をこれから動かすのです」――運転再開早々に現れている、笑うに笑えない愚かしさの本質はここにあると思います。

 【追補】読売新聞が夜遅くなって「もんじゅ手順書に操作法書かず、訓練もなし」を掲示し、より詳しく伝えました。「長押し」ではなかったにせよ、事態の本質は変わりません。「操作ミスした運転員は、『微調整棒』とよばれるこの特殊な制御棒の操作訓練を受けたこともなく、実物をこの日、初めて操作した」「もんじゅは、出力を下げるために制御棒を最下部まで挿入する際、残り6ミリ・メートルからはボタンを小刻みに押し、慎重に下ろす手順を定めている。ところが、操作ミスのあった微調整棒は、残り3ミリ・メートルになると挿入速度が他の制御棒の4分の1に落ちる。したがって、運転員はふつう、ボタンを余計に押し続けて挿入を完了する」「そのような操作方法が手順書に明記されていなかったため、微調整棒に異常が起きたと考え、挿入作業を中止したという」


再生不能は商品失格、AVATARブルーレイD

 大連休中にするべき仕事に一区切りついたので、楽しみに残していた大ヒット映画「AVATAR」のブルーレイディスクを再生しようとしたら、なんと「WARNING:お使いのブルーレイ製品をアップデートする必要があります」と出てしまいました。「WinDVD」が組み込まれた東芝ノートパソコンなので調べると、「OEM版 (バンドル/プリインストール) WinDVDをお使いのお客様へ」で「一部のBlu-ray Discタイトルで正常に再生ができないケースが報告されておりますが、現在アップデートプログラムを準備しておりますので、準備が出来次第、本ウェブページにてご案内いたします」とする状況です。4月23日発売ですから、10日が経過しています。

 ブログで見ると「AVATAR は Blu-ray で観るべし」では「Pioneer BDP-320 で再生すると、この通り再生できませんでした。LAN 接続していたので、バージョンアップして無事に再生できましたが、バージョンアップが用意されていないと再生できない人もいるらしい」と報告しています。

 スラッシュドットの「WinDVD9とAvatarのBD」は「商品としてこれは法律の範疇で許されるんだろうか?」「Discの強化が理由って完全に製造(規格)側の問題ですよね。こういう問題が出てくるとBlu-rayはちょっとお勧め出来ない規格に入るなぁ・・・」と批判しています。

 ソニー製BDレコーダーでも不具合があり、まだ対応がとれていないそうです。きちんと買った正規品が機能しないなんて、いくら違法コピー対策を強化したいからといって無茶苦茶ですね。ブルーレイの高精細感は評価しますが、これでは商品失格です。実は通常のDVD版も一緒に付いています。これはお得感ありの演出というより、ブルーレイが正常に見られなかったときのエクスキューズだったのではないかと疑いたくなりました。


マグロに続きウナギも完全養殖の国産技術

 暗いニュースが多い中で水産総合研究センターの「世界初の『ウナギの完全養殖』、ついに成功!〜天然資源に依存しないウナギの生産に道を開く〜」といったサクセスストーリーに接すると、ほっとします。前に書いた「国際規制強化に間に合ったマグロ完全養殖」と合わせて、海外に比べて圧倒的な差をつけている国産の養殖技術です。

 「完全養殖が実現しても、国内のウナギ養殖に必要な億単位の種苗を生産する技術は確立されていないので、今すぐに養殖用種苗を人工生産によってまかなえるということにはならないが、この成果は、資源の減少が危惧されている天然ウナギに依存せずに飼育下でウナギを再生産できることが示されたという点、および飼育環境に適応したウナギを選抜して世代を重ねることによって安定的大量生産技術開発に向けての進歩が期待できるという点で大きな意義を持っている」

 国際的にマグロ資源の心配が言われていますが、ウナギ資源の方がもっと深刻かも知れません。農水省の「ウナギ人工種苗の実用化を目指して」にあるグラフと解説を引用(国や自治体の資料は引用元を明記すれば転載は自由)してみます。「世界的に見ても各種ウナギの資源水準が低下していると言われています(図3)。一方、中国のウナギ養殖ではヨーロッパウナギも種苗として利用されていますが、資源の枯渇を懸念して2007年のワシントン条約締約国会議において、ヨーロッパウナギの国際的な取引が規制されることになりました」。日本より欧米ウナギの枯渇が大変で禁輸の動きもあります。 ヨーロッパウナギはニホンウナギよりも大ぶりです。


 人口生産の稚魚から育てたウナギを成熟させ、これから稚魚を得て完全養殖のサイクルが出来たのですが、実用化への道のりはまだ長いとも言えます。と言うのもウナギの稚魚は人工環境では、なかなか大きくならないからです。平たく言えば何がエサなのか、まだ判然としないのです。「(4)ウナギ仔魚の正常な育成のための飼料の開発と飼育環境」はこう説いています。稚魚「ウナギレプトケファルスはゼラチン質プランクトンなどを起源とするマリンスノーを主に食べているという説が有力ですが、その構成要素や栄養成分の特定には至っていません。最近始められた消化管内容物のDNA解析によるアプローチでは、これまでに真菌、珪藻、クラゲ類などのDNA配列がわずかに得られていますが、餌生物を特定するにはさらなる研究が必要です」

 親ウナギはグアム島の西側に当たる海域の深海で産卵、誕生した稚魚は少し大きくなってから黒潮に乗り、「白いダイヤ」とも呼ばれるシラスウナギとして日本列島にやって来ます。この回遊状況が解明されたのも最近のことです。特定の深海で育つので、そこの環境条件がウナギには大事なのでしょう。本当はその現場を見に行きたいところですが、人間には簡単ではありません。


iPad発売、見えてきた新用途や幅広い性格

 米国で3日、アップルのタブレット型パソコンiPadが発売になりました。予約制なのに前の晩から泊まり込みで店頭に並ぶ行列が出来るなど、人気ぶりは相当なものです。グーグルのブログ検索を見ていただけば分かるとおり、手にした人たちが続々とレビューをあげたり、便利ツールを紹介したりと賑やかなことになっています。

 ITmediaの《ELECTRIBEもハモンドもiPadアプリに 「楽器としてのiPad」は一気に開花するか》がシンセサイザーやキーボードなどの楽器として人気を得そうだと伝えています。「初代モデルであるELECTRIBE・R(ER-1)は生産が終了しており、中古以外入手することができない。その機能をiPadに実装してわずか1200円で売り出したのだ」そうですから、好きな方にはとても魅力的でしょう。発表時にスクリーン上の仮想キーボードを見てマルチタッチなのだから「これは携帯ピアノになる」と思っていたので、楽器の話は納得です。

 新しく画期的なプラットフォームが提供されたのですから、どんどん新しい用途が開発されてアプリとして追加されていくでしょう。iPhoneより格段に大きいだけに向き不向きに差が出ます。携帯楽器アプリは、iPhoneでは画面が小さすぎて実用にならなかったと言われています。ゲーム機としても、あの画面の大きさは車のハンドルに近いので、操作する側にリアルな感覚を持たせそうです。

 電子書籍リーダーのKindleとは対抗するようにも言われましたが、《アップル、iPadに対応した「Kindle 2.0」を承認〜App Storeで公開》となりました。iPadアプリのひとつとしてKindleが使える訳です。「これにより、iPadのユーザーは購入初日から『iBookstore』だけでなく、45万タイトルを揃える『Kindle』のコンテンツも同時に楽しむことができるようになります」。日本国内では電子書籍の大きな動きがまだ見えないだけに羨ましいところです。

 発売を前に米国メディアには試用機が渡されており、レビューが出ています。ロイターの「著名レビュアー、iPadの使い勝手とバッテリーを評価」は使いやすさを認めつつもこう言います。「New York Times(NYT)とWall Street Journal(WSJ)によると、同製品はまだノートPC市場を壊滅させるほどではないという」「要するに、フルキーボード、DVDドライブ、USBポート、メモリカードスロット、カメラ、仕事用の機能が備わったノートPCをiPadより安く買えるということだ」「iPadは、機械恐怖症の人や高齢者、若者に適した、誰でも使えるコンピュータとしていいかもしれないと言った人がいた。まったくその通りだ」

 ヘビーなパソコンユーザーには当然ながらもっと適した機器があります。そうした人でも気楽にネットを見たり、音楽や映像ソフトを楽しみたい場合の機械だと思います。さて、国内では発売までに出版ソフトの準備は出来るのでしょうか。ユーチューブで、米国漫画を画面を回して縦長、横長にどんどん変えながら見ている動画があり、便利だと思いました。紙とは違う世界と割り切ると面白いことになりそうです。

 【関連】iPad登場目前、電子新聞など内外で動き急


日経電子版の客寄せ特ダネ、いただけない素人騙し

 国内の有力紙として本格的な電子版を23日スタートさせた日経新聞さん、朝刊トップの”特ダネ”「ゲイツ氏、東芝と次世代原発 私財数千億円投入も」を電子版に誘導する客寄せに使ったのは感心しませんでした。「ゲイツ、原発挑戦の真相」へと読み進ませて、原子力分野の素人さんには大変な原発が出来ると大いなる幻想を持たせたと思います。しかし、これが簡単に出来るくらいなら核融合実用化の大きな障害がひとつ取り除けるのだと申し上げたら、いかに困難な話なのか理解していただけるでしょう。

 いつもはもう少し醒めている「木走日記」あたりが「ビルゲイツを有料電子版販促に使う日経の姑息」と題名では皮肉りながら、「『核燃料を交換せずに最長100年間の連続運転を実現』とはすごい技術です、これが実現できれば新興国などこれから原発需要が見込まれる中でゲイツ氏の新たなビジネスチャレンジが世界規模で展開されるかも知れませんね。すばらしい」「お陰で不肖・木走も電子版購読者登録(最初の一ヶ月は無料ですが)してしまいました」と釣られてしまっているのが可笑しくて、笑いました。

 協力を求められた東芝の「小型高速炉(4S)」はナトリウム冷却高速炉ながら、出力1万キロワット級とコンパクトさが売り物です。小さいが故に中性子の発生も少なくて、核燃料体交換無しに30年運転をうたいます。ところが、今回取り上げられた米テラパワー社の「TWR」は10万〜100万キロワット級といいます。これで100年間連続運転すると原子炉は膨大な中性子線を浴びます。

 TWRと非常に似た発想の炉を国内で関本博・東工大教授が研究されていて「CANDLE」と名付けています。その「革新的原子炉CANDLEの研究」はウランを「いっきに40%燃焼した場合、一般に使用されている材料では持たない。材料を変更し、温度を下げることによりこの燃焼度を達成することも可能であるが、温度を下げることは原子炉の性能を落とすことに繋がることから、ここでは、被覆材への高速中性子の照射量が限界になる前に被覆材を交換する方法を採用する。この作業は高い放射線レベルで行なうことになる」と記述しています。炉の材料がもたないから途中で交換する訳です。

 言われるように100年間も連続運転して中性子線に耐える材料は、核融合炉開発で求められているものに近いのです。そうそう出来ると楽観的には考えられていませんし、もし耐えたとしても高度に放射化して非常に厄介な存在に化します。これくらいは少し原子力を取材していれば見えてきます。素人を騙すような「客寄せ」は、国内新聞メディアの将来にかかわる電子版スタートにふさわしくなかったと考えます。


口に出来ぬほどの技術的愚劣、もんじゅ再開

 1995年、ナトリウム漏れ事故から停止したままの高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)が3月中にも運転再開になる見通しとなりました。読売新聞の「もんじゅ再開 安全重視で事故再発を防げ」ほか、各メディアの論調を見ていると、安全確保に疑問を抱きつつも原子力安全委員会のお墨付きなどにもたれかかっています。「運転再開がこれだけ遅れたのは、事故そのものの重大性に加え、現場を撮影したビデオの核心部分の存在を隠すなど、事故後の対応に問題があったからだ」とするあたりで再開問題の本質が見えていないと告白しています。

 もんじゅを運営する日本原子力研究開発機構に統合、吸収された元日本原子力研究所労働組合委員長の告発があります。《原発「もんじゅ」、関係者の苦言》(さとう正雄 福井県政に喝!)は「基盤とすべき技術水準が低い。すべてが業者まかせになってしまい、技術の要をおさえることができない」「旧サイクル機構では、隣の人の仕事がおかしいと思っても、間違いを指摘したり議論したりする雰囲気がない」「ねじを締めたり、施設の腐食を管理したりを確実にできることなどの常識的センスを持つことなしに『世界の先端』といっても砂上の楼閣」と喝破します。

 私のサイトも「もんじゅ」の技術的愚劣について多くを指摘してきました。「既視感ばりばり、もんじゅ低技術の恐怖」は燃えやすいナトリウム漏れを検出する電極が設計よりも13.5ミリも長く作られて、10ミリの隙間で足りずに無理矢理押し込まれていた事実を取り上げています。第187回「信頼性無し、もんじゅ運転再開は愚の骨頂」は内部証言をもとに、機構が一貫して自ら設計せず、パーツごとに脈絡無く下請け業者に丸投げしてきた結果、全体をつかんで目を光らせる技術者がいないと指摘しました。

 そして、15年の空白があって、各パーツを発注しただけの技術者すら退職してしまいました。安全確保のために点検すると言って、実は何をしたら善いのか、現場がどのようになっていれば正解であり、安全なのか判然としない技術陣が、巨大で危険な高速増殖炉をこれから動かすのです。例えばナトリウム漏れ検出電極の異常は誤警報続出の結果、判明したのであり、多数の施工ミスがあることは、その際の点検結果で表面化しました。自主的な安全点検で調べ得たものではないのです。どれほどのミスが隠れているのか想像を絶します。

 「青森・福井の核燃サイトで初歩的ミス連発」では「日本原子力研究開発機構は配線を洗いざらい調べ直した方がよいと思えます。原発内の配線は本当に複雑で、運転する側の『つもり』と違う配線になっているようなら有事には悲惨です。前回も今回も、なぜか電源が切れてしまう――のでは危なくて見ていられません」と書きました。高速増殖炉の経済性とか高尚な議論をする以前の、技術的愚劣の山盛りが「もんじゅ」なのです。故障・異常の山を築くための運転再開など見たくありません。高出力の運転に移っていて無事に止められるのか、技術陣が欠陥の予想も出来ていない以上、予想外の方向に転がっていく可能性があり、安全の保証はないのです。


トヨタにあった安全技術思想の独善に驚く

 米国での「踏み込んだアクセルが戻らない」リコールに続いて、いまや主力になったハイブリッド車「プリウス」でブレーキが効かない瞬間が出来る問題が相次いでトヨタ自動車を襲っています。4日に記者会見で安全担当の常務が「運転者と車の感覚の違い」という弁明をしているのを聞いて、工学部出身で科学部が長く、人間と機械のヒューマンインターフェースに関心を持ってきた私には違和感がありました。5日夜、これから豊田章男社長が記者会見する段階で、気になる情報をまとめておきます。まずメルマガJMMの第446回 「疑惑のアクセルペダル、どうしたトヨタ?」(from 911/USAレポート / 冷泉 彰彦)で読んだ指摘です。

 クルマの歴史で「長い間ブレーキを踏むと『油圧』によって、その力が四輪に伝えられるようになっていたのですが、最近の車はブレーキも電気仕掛けになりました」「アクセルもブレーキも電子化された車の場合に、仮に『アクセルが引っかかって暴走した』場合に、ブレーキを踏むとどうなるでしょう? ここに設計思想の問題が出てきます。多くのメーカーは、『アクセルとブレーキが同時に踏まれるのは異常だから、ブレーキを優先して車を停める』方向に動くような仕様にしています。ところが、トヨタの場合は違うらしいのです」「加速中にブレーキを利かせると『ブレーキが焼き付いて制動力を失う危険』があるからと、アクセルと同時に踏まれた場合はブレーキの利きを弱くしているようなのです」

 新たに問題化したブレーキ無効については、このように説明されています。凍結した路面でブレーキをかけると滑りが発生する場面では、通常路面でクルマの運動エネルギーを電気として回収する回生ブレーキから、効きが良い油圧ブレーキに変えねばなりません。この切り替えのタイミングに遅れがあって運転者にブレーキが効かない瞬間があると感じられるようなのです。それが1秒間に満たない時間であってもクルマは確実に動いています。これをトヨタは欠陥ではなく、クルマの仕様だと言い張っていました。

 二つのケースを並べると、広く消費者に提供している商品、製品について、起きる事態は常に安全側に倒れるようにしておく思想が欠けていたことは明白です。トヨタにこのような安全技術思想の独善があったのです。

 「Japan Blogs Net」での巡回なら「トヨタプリウスリコールに見る日本的問題、抗がん剤の副作用」(生きるすべ IKIRU-SUBE 柳田充弘ブログ)はこう主張しています。

 「素晴らしい製品ならすばらしい物作りの成果をうることができればあとは無言でもいいのだ、素晴らしい修理能力と整備能力があれば、無言でもいいのだ、こういう日本の海外での伝統はもう百年前からあるのです」「今回のように、いっぽうで米当局がとことんのところで何を考えているのかそれをつかむ能力がトヨタはかなり弱かったのでしょう。そして自己の物作りの能力への過信があったに違いありません。コンピュータと実際のブレーキ部分の接点でのトラブルと聞くとまさに弱点の部分でしょう。しかしそれでも外国での折衝能力、危機への研ぎ澄ました感覚があればここまでの大問題にならなかったでしょう。でもこれはトヨタだけの問題でなく、日本の全体での問題なのでしょう」


アップル以外もタブレット端末ラッシュ、でも国内は…

 先日の「本当にタブレット型PCの年になった」でアップルが長期戦略『30年ロードマップ』に基づくタブレット端末を発表予定と伝えた後で、各社が似たような端末を次から次へと発表しました。ITmediaが「HP、Dell、Motorolaも乗り出す――『タブレット革命』は始まるか?」でまとめてくれています。「Thomas Weisel Partnersのアナリスト、ダグ・レイド氏は、タブレットマシン市場はAppleにけん引され、2010年は35億〜53億ドル規模、2014年には300億ドル規模に拡大すると見積もっている」

 マルチメディア対応の「タブレット」あるいは「スレート」マシンばかりでなく電子書籍リーダーとして注目のキンドルに「キンドルDX」が発表されました。これがタブレットと似た大きさです。キンドルのオリジナルは日本語に使うには小さすぎると思ってきたので、これも大いに注目です。池田信夫ブログは「キンドルDX」で「これはもしかすると、絶滅危惧種の活字メディアを救うかもしれない。それなのに、日本ではハードウェアもコンテンツも入手できない」と嘆いています。

 ソニーは「Sony Reader」でキンドルを追いかけているとは言え、一連の新しい動きから国内メーカーは取り残された印象です。経営者がますます近視眼的になり、新しい分野に打って出ることが出来なくなっていますね。タブレット端末は以前には失敗しましたが、現在の技術をもってすれば魅力的な商品にすることは十分に可能です。マシンだけでなくコンテンツの整備、無線LAN環境が進んできているからです。新聞を読む、読書をする、映像ソフトを楽しむ端末になりうるのでマスメディアにも大きな影響を与えるでしょう。


本当にタブレット型PCの年になった

 昨年から騒がれつつあったアップルのタブレット型パソコンが本当に発売されるようです。「アップル、タブレット型端末を3月以降に出荷へ」(The Wall Street Journal日本版)が報じられました。「新しいタブレット型デバイスは10〜11インチのタッチスクリーンを搭載」「動画やテレビ番組の視聴、ゲームやインターネット、電子書籍や新聞の閲覧などが可能なマルチメディア型デバイスとなる見込み」とあり、「Appleタブレットは3月1000ドルで発売!?」には予想イラストまで掲載されています。まさに特大のiPhoneです。

 ブログでは「タブレットの年になる」(MIZの日記)が「おととしの年末あたりから既に胎動はあった」「携帯性を追求したeeePCなどのネットブック。amazon発の電子ブックリーダー、Kindle。そして言わずもがなな、iPhone。今年はその流れが1つにまとまる年かもしれない」と指摘しています。入力はあまりしないで専ら閲覧する使い方でしょう。

 値段がちょっと高めの気がするかも知れませんが、《「iPhone 3G S」の価格や解約時の費用が気になってなかなか購入できない人のためのまとめ》(らばQ)によればiPhoneだって2年間で7〜9万円は覚悟しなければならないそうですから同じような価格です。

 画面の解像度情報はまだですが、現在のノートパソコン程度はあると考えてよいでしょう。新聞の閲覧は可能です。少なくともiPhoneで産経新聞紙面を見るよりは遙かに快適に読めるはずです。国内のマスメディアも、新聞はもちろんテレビも出版社もこの事態に早急に対処するべきです。無線LAN接続で使う大型タブレットPCで新聞を読む、読書をする、映像ソフトを楽しむ生活スタイルが大きなシェアを占めるのは確実だと思います。

 【関連】注目したい『アップルの30年ロードマップ』

 《1/10追補》GIGAZINEがその後の情報Appleの新型タブレットPC「iSlate(仮)」について現時点でわかっていることまとめを出しています。


科学界の仕分け批判大合唱、愚かさに気付け

 ノーベル賞学者まで引っ張り出す科学界の「仕分け」批判大合唱に、それこそ既存の利権を温存するだけの動きだと呆れていたら、NPO「サイエンス・コミュニケーション」から「研究よ変われ!巻頭言」(科学政策ニュースクリップ)が出て、少し救われた気分になりました。「そもそも今回の事業仕分けは、科学技術自体の評価をしておらず、予算に無駄がないか、という点を評価している」「一度計上された予算項目に対し、外部の視点も入れて、妥当性、必要性、有効性、効率性の観点から公開の場で吟味していくというものだ」「残念ながらそれを理解して批判や抗議をしている声明は少ない」

 学会あげての批判もたくさん出ています。それが科学技術政策の現状を是とし、変えること自体を拒んでいる点で、長く科学技術分野をウオッチしてきた私には信じられない思いです。そこまで問題意識が欠如しているのなら、事業仕分けをもっと徹底的にやって目を醒まさせるべきではないかとも思えます。

 例えば天文学会の声明「国民の皆様へ 事業仕分けと科学研究の将来について」は文部科学省の「科研費は、多数の研究者が審査員となり、公平、厳正、透明な審査で配分が決定され、終了時点の評価も行われるなど、諸外国にも類を見ない」とおっしゃいます。それこそ国民を欺く声明です。米国の同種研究費がどのように審査、配分されているのか、比べれば決定的な立ち後れがあると知っている人も読むことをご存じないようです。今すべきことは悪しき現状を固定することではなく改革していくことです。

 もし疑問に思われる方があれば、2004年に書いた「インターネットで読み解く!」第145回「大学改革は最悪のスタートに」 をお読みください。英国の日本研究電子ジャーナルに載せるために書いたので、国内学術研究の問題点をかなり包括的に整理しています。


注目したい「アップルの30年ロードマップ」

 いつもの「Japan Blogs Net」巡回で見つけた「Life is beautiful」の「アップルの30年ロードマップ」が読んでから非常に気になってきたので、メモとして記録しておきます。スティーブ・ジョブズ氏の側近だった日本人から「今のAppleのビジネス戦略は、倒産寸前だった97年当時に作った『30年ロードマップ』に書かれた通りのシナリオを描いている」と聞いた話です。

 「映像・画像・音楽・書籍・ゲームなどのあらゆるコンテンツがデジタル化され、同時に通信コストが急激に下がる中、その手のコンテンツを制作・流通・消費するシーンで使われるデバイスやツールは、従来のアナログなものとは全く異なるソフトウェア技術を駆使したデジタルなものになる。アップルはそこに必要なIP・ソフトウェア・デバイス・サービス・ソリューションを提供するデジタル時代の覇者となる」

 この路線の途上としてiPodの成功があり、Apple TVはまだ売れていないけれど将来の位置づけがありそうだし、「ある時点でAppleが書籍・雑誌のデジタル配信ビジネスに本気で出て来ることがほぼ確実」と考えられているようです。そして、さらにはゲーム機まであるらしい……。30年ロードマップはまだ12年しか過ぎていません。後の18年分に何があるのか考えるとき、昨年春に出された《稀代の発明家Ray Kurzweil氏による基調講演〜とてつもない未来を語る、「The Next 20 Years of Gaming」》(GAME Watch)の問題意識も視野に入れておきたいものです。

 「【2029年:融合の時代】1,000ドルの計算力=人間の脳の1,000倍。人間の脳の完全解析が完了」「Kurzweil氏は、20年後に大規模なパラダイムシフト、『技術的特異点』がくると予測している。『技術的特異点』とは、同氏自身が唱えている概念のひとつで、進歩の原動力が人間の生物学的知能から人工知能に置き換わり、それ以前の進歩の法則が通用しなくなる地点のことだ」

 実現性は定かではありませんが、そのころ人間と変わらない人工知能が出来ているとの技術予測です。長期戦略を練る企業経営者でないとしても、ある程度、先読みしていないと対応しきれない時代が来ています。現状が続くことを前提に考えるなんてことをしていませんか。


青森・福井の核燃サイトで初歩的ミス連発

 初歩的ミスの中には重大事態発生時での対応能力を疑わせるケースが含まれます。今週、青森と福井の核燃料サイクル開発サイトで連発されたミスは、危機管理の視点から見れば「失敗しました。ごめんなさい」では済まないものだと考えられます。いずれも、よほど根本的な態勢整備をするのでなければ「来年からの運転はお止めなさい」です。

 まず、六ケ所再処理工場で22日に高レベル放射性廃液を流す配管から約20ミリリットルの液体の漏れがありました。東奥日報の「人為ミス3たび/六ケ所配管液漏れ」は「作業員の不注意で遠隔操作機具の一部が配管に接触したのが原因だった。今年1、2月に発生した同配管からの漏えいも作業員の思いこみなどが原因で、人為的ミスが同じ個所で三たび繰り返された」と伝えました。漏れた液体は高レベル放射性廃液の濃度の半分ですが、原子力安全・保安院は「漏れた中身が何であろうと、高レベル廃液が通る配管が閉じ込め機能を失ったことは問題だ」と言っています。

 漏れた場所は、配管の円筒にドーナツ型の円盤を付けた「フランジ」を向かい合わせて締め付け、管を密閉している所です(参考:ウィキペディア「フランジ」)。遠隔操作中に誤って触れたために液漏れを起こしたとの説明ですから、フランジを締め付けて密閉することなく漫然と作業をしていたことになります。高レベル放射性廃液は厚いコンクリートで密閉された再処理工場内でも漏れれば手を焼く厄介者です。現に今回の遠隔作業も前回廃液漏れの後始末に当たる洗浄作業をしようと準備していたものです。「核燃再処理工場に安全思想の設計無し!! [BM時評]」で「フェールセーフ思想なしに作られている」と指摘しましたが、運用面でも初歩的安全確保すらなかったのでした。

 福井の高速増殖原型炉「もんじゅ」では、23日にまた電源関係のトラブルでナトリウム漏れ監視できずです。朝日新聞の「> 原子炉ナトリウム漏れ 一時監視できない状態 もんじゅ」は「ナトリウム測定用の気体を取り込んで検出器に送るサンプリングポンプの仮設電源を入れたところ、このポンプと一緒に、別の2種類の検出器についているサンプリングポンプの電源も切れ、ナトリウム漏れが監視できなくなった。仮設電源から本来の電源に戻し、55分後に復旧させた」と報じました。

 今月始めの「高速増殖炉もんじゅの危うさ、早速また誤警報」でも点検作業中に電源を切ったら、別の検出装置の電源も切れてしまったトラブルを取り上げています。日本原子力研究開発機構は配線を洗いざらい調べ直した方がよいと思えます。原発内の配線は本当に複雑で、運転する側の「つもり」と違う配線になっているようなら有事には悲惨です。前回も今回も、なぜか電源が切れてしまう――のでは危なくて見ていられません。


銀河系を地球から見た360度パノラマ荘厳写真

 WIRED VISIONの9月15日付「天の川全景の動画とパノラマ」に、「らばQ」さんのトピックが出て気付きました。民主党中心の新政権発足1カ月余り、全てが整合して動けるはずもないのに、あちこちやり玉に挙げている細かい報道やブログにうんざりしていると、「The Milky Way panorama 」は俗世を離れて、荘厳な気分にさせてくれます。カット写真の右にある欄から選択すると横が800、1280、1600、4000ピクセルの写真が現れるので、自分のディスプレイに合わせて全画面表示でじっくり見てください。


 われわれの太陽系は銀河系の辺縁部に位置しています。国立天文台の「『天の川全国調査』キャンペーン」から「銀河系(想像図)」を下に引用します。


 この絶妙な位置のためにパノラマ写真で円盤状の銀河をイメージできるのです。もし銀河系の中心部にいたのなら、360度見回しても厚い星の壁が続くだけでしょう。もっとも撮影は簡単ではなく、天の川の半分は足下の大地、つまり地球で隠されています。2人のフランス人写真家は北半球と南半球で何カ月も掛けて1200枚の夜空を撮影し、合成したそうです。横1800万ピクセルという、恐ろしく高精細な写真が出来ており、ネットで見られるのは一部になります。

 パノラマ写真で全体の感じをつかんでもらったら、今度は宇宙空間の中に浮かんで、地球の位置で前後、左右、上下を見回してみましょう。「One thousand billion worlds」の一番上の写真では、まるでQUICK TIMEパノラマ写真のように、マウスの操作で視野を移動できます。まず、右でも左でも動かして、星が多く明るい銀河系中心部から反対側に目を移しましょう。確かに暗い宇宙に変わり、われわれが辺縁部に位置することが確認できます。マウスのスクロールを使うと拡大・縮小も可能ですから、拡大してみましょう。すると星がまだまだ現れてきます。暗いと思った空間に数限りない星が埋まっています。その輝きのひとつは星1個ではなくて、遠い銀河の姿かもしれません。マウスの操作で頭の上や足の下にも視野は転じられます。そこにも暗い空間と拡大すれば見える星の数々があります。


高速増殖炉もんじゅの危うさ、早速また誤警報

 第187回「信頼性無し、もんじゅ運転再開は愚の骨頂」で危惧を指摘した高速増殖炉「もんじゅ」(敦賀市)でまたナトリウム漏れ誤警報です。不調だった検出器は全部を交換したばかりで、今度は全く違うタイプのトラブルです。

 メディア報道では毎日新聞の「もんじゅ:ナトリウム漏れ誤警報、装置点検で電源切り 想定外、液面計が停止 /福井」が最も詳しく「警報を発したのは原子炉容器から漏れたナトリウムを受ける『ガードベッセル』に取り付けられた液面計。同日から別の1次系漏えい検出器の点検を始めており、作業でこの検出器の電源を切った際に、液面計の電源も切れて鳴った」と説明されています。

 「原子力機構は、液面計の電源が切れることは予測しておらず」という点が重要です。別の検出器と液面計の電源が共通になっていることを、事前に、配線図から読みとれなかったミスが最もありそうです。二番目が液面計の電源が切れて感知不能になっても警報が出る仕組みを知らなかった可能性です。そして最後が、配線図と現場の配線が違っていた、あって欲しくないケースです。

 建設した旧動燃の技術者は歳月の経過でどんどん退職してしまい、本当の中身を知らない人たちが運転することになっています。今や開けてみることが出来ない密閉部分だらけの装置です。今回は小さなミスに見えても、上記のどれが原因であったにせよ、現在の技術水準には大きな疑問符が付きます。大きなトラブルが起きたとして、それを収拾する修羅場を任せられるとは思えません。下手をすると事故を大きくしてしまう可能性を感じます。


ウィニー開発者逆転無罪、児童ポルノとも関係

 ファイル共有ソフト「Winny(ウィニー)」開発が著作権法違反ほう助になるとされた事件で、大阪高裁は一審の有罪判決を破棄、元東京大大学院助手の金子勇被告に無罪を言い渡しました。京都地裁判決は不当との批判が多かったネット上では、歓迎するブログ記事が圧倒的です。しかし、運営している「Japan Blogs Net」でウオッチしているブログから拾うと、なかなか厄介な問題をはらんでいます。

 ソフトの使い手ではなく、ソフト開発者を罰する捜査や判決は、国内のソフトウエア技術開発を阻むものでした。「『有罪なら萎縮』訴え実る…ウィニー開発逆転無罪」(読売新聞)に「金子被告は1審公判中の2004年12月、東京大を退職。ウィニーの技術を応用したコンテンツ配信事業を行うIT会社で技術顧問を務める。今ではウィニーを開発したときのように趣味で無料ソフトを作ることもないといい、判決前には『面白い発想が浮かぶこともあるが、捜査で萎縮し、動けない』と話していた」とあるように、天才的と言われた金子氏に空白の期間を強いる結果になっています。

 「Winny事件第2審判決について」(benli)は「ベータマックス事件米連邦最高裁判決以来の『実質的な非侵害用途があるか否か』という基準に、『違法な利用を誘引していたか否か』という基準を加えて判断しています」と見立てています。ソニー・ベータマックス事件とはビデオテープレコーダーの販売がテレビ録画を促し、映画の複製権を侵害すると訴えられたのに対して、技術は中立で侵害の可能性を認識しただけでは問題にならないとの判例です。今回の判決が、こうした筋を通しているのなら妥当でしょう。

 ところで実態として、ファイル交換ソフトでの違法なやり取りは収まっていません。特に日本で盛んな理由について、「Winny事件を振り返る」(高木浩光@自宅の日記)に興味深い指摘があります。「もうひとつの理由があると気づいた。それは、欧米諸国では、P2Pファイル共有が登場するより早い段階で、児童ポルノが強く規制されていたこと、その結果ではないかという点である」「欧米諸国では、児童ポルノの単純所持が重罪化されているので、無差別にファイルのダウンロードをして、不用意に児童ポルノを入手してしまったら、児童ポルノ罪で摘発されかねない」という事情です。

 児童ポルノの単純所持禁止は今、議論の真っ最中です。確かに禁止となればウィニーや他の交換ソフトも怖くて使えないものになります。日本の特殊性がこういうところにも影響しているとは思いませんでした。

 【参照記事】「警察・司法の功利主義が歪ませる社会(Winny判決考) [ブログ時評71]」


信頼性無し、もんじゅ運転再開は愚の骨頂

 液体ナトリウム漏れ事故を起こし、13年も停止している高速増殖炉「もんじゅ」の運転再開を目指す動きが急です。総選挙のさなかに年度内に再開の方針が伝えられ、9月半ばに「もんじゅ運転再開審議でPT設置 原子力安全委」(福井新聞)が報じられました。超長期に止めていた原発を動かす不安が大きい上に、建設した旧動燃の技術水準が信頼できぬ証拠は積み上がるばかり。運転再開は愚の骨頂です。

 安全委のプロジェクトチームは六ケ所核燃再処理工場に次ぐ異例の設置で「10月中旬か下旬に、保安院が確認すべき『視点』を提示する。その上で、11月以降にもんじゅで現地調査も行い、原子力機構の報告や保安院の評価が視点に沿ったものかどうかを確認する」といい、自ら乗り出して行かざるを得なくなっています。

 これほど心配されるのには理由があります。9月8日開催の「政策評価・独立行政法人評価委員会 独立行政法人評価分科会」で「今度のもんじゅの再開というのは、次に問題を起こすと日本から高速増殖炉が消えてしまうという危険性も含んでいる。そういう意味でも万全を尽くしていただきたい。文部科学省から機構に対してどのような指示を出し、どこが改善されて見直し当初案として出てきたのか」「もんじゅについては、13年間も止まっていたものが急に動き出すと不具合が起きても不思議ではない。文部科学省としても自信を持って再開できるという宣言を出していくような意気込みでやっていただきたい」と強い危機意識が噴出しました。

 運転再開は何度も延期になり、一番新しいトラブルは「もんじゅ:漏えい検出器の交換すべて終了−−敦賀 /福井」(毎日新聞)が取り上げているナトリウム漏えい検出器の誤警報作動です。不具合は4割を超す148本にも上り、1年半かけて全部を改良型に交換しました。検出器は電極の先に10ミリの隙間が必要なのに、電極を無理に押し込んで隙間を無くしていたのが原因でした。施工時にこれほど多数のミスがあるのは異常です。いや、ミスではなく、取り付け作業をした側が検出器の技術と構造を理解していなかったと考えるべきでしょう。

 高速増殖炉という先端技術を担っているはずの機関(現在は日本原子力研究開発機構)に、そんな愚かしいことがあり得るのでしょうか。2003年に書いた第130回「もんじゅ判決は安全審査を弾劾した」で、旧動燃内部にいる「読者」から、機構が自ら設計をしないで外部に丸投げする体質が告発されたと伝えました。読者と幹部職員とのやり取りは秀逸なので以下に再録します。

 「ちゃんと設計した上で、発注すべきだ!」
 「そんな設計できない。」
 「ならば,外部に出して設計し詳細設計を機構の所有として、あらためて発注できるでしょ!」
 「機構の設計としてもし何か有った場合、責任が持てないからダメだ!!」

 ナトリウム漏れを起こした段付きさや管でも、事故があってから「そんな風に使うと説明は無かった」と下請け側が言い出していました。驚くべきことに、丸投げすると言っても周到な設計条件を示さずに発注しているのです。プラモデルを作るように、部品を発注して組み合わせれば何とかなると、旧動燃は考えていたようです。冷却系に高温の液体ナトリウムを使う、日常的にはありえない厳しい条件下ですから、全体を理解した上で細部の設計・施工にも目を光らせる技術者が必要です。上記のやり取りを見れば、そんな能力がある技術者が存在するはずがないでしょう。

 もんじゅは「トラブルの伏魔殿」と称してよいと思います。次にどんな破綻があるのか、想像できません。こんな怖い巨大装置をよく動かす気になるものです。ダム問題と同様に、これまで大きな資金を投下したから続けているだけです。大幅な完工延期が決まった第180回「敗因は何と工学知らず:六ヶ所再処理工場」といい、国策原子力開発は悲惨な様相です。


ブラウン管TV国内終息、世界規模で変化加速

 9月30日にパナソニックが「ブラウン管製造事業の終息について」というプレスリリースをひっそりと出しました。「1954年以来、55年にわたり継続してきたブラウン管の製造事業を終息します。全世界でPDPや液晶などの薄型テレビへの需要シフト、ブラウン管需要の急減を受け、中国側合弁パートナー」に、何と譲渡価格100ドルで事業を譲り渡すそうです。同社が国内最後でした。この数年、言われていた予測より変化は加速していて、今年、世界で売れるテレビのうちブラウン管は3分の1にまで減る見込みです。

 ネット上で調べてみると、国内でブラウン管テレビが逆転されたのは、ほんの少し前、2006年3月だったのです。「大画面薄型テレビが出荷好調、液晶がついにブラウン管を逆転」が詳しい。今年の世界状況は「世界の液晶TV需要1.3億台 米調査会社が上方修正 」(U.S. FrontLine)に「ブラウン管テレビなどすべての方式のテレビを合わせた09年の全世界の販売予測は1億9500万台で、前年比5%減少すると見込んだ。ブラウン管テレビの販売減少が予想以上に進む一方で、薄型テレビの売り上げの伸びが追いつかない」とあります。世界で液晶がブラウン管を抜いたのは、つい昨年のことでした。

 科学部にいたころAV技術に首を突っ込み、三菱電機・京都が37型テレビを開発して旋風を巻き起こした話を取材したことがあります。あれだけ大きなブラウン管になると、内部を真空にしているために何トンもの力がガラス面に掛かります。必然的にガラスは冗談ではないほど厚くなります。製品の重さは大変なものになりましたが、開発された皆さんは喜々としていらっしゃいました。現在の薄型テレビ開発にも別の苦労があるのですが、牧歌的で良かったと思い出します。

 純粋に画質から言えばブラウン管の方が優れています。色の正確な再現性もそうですし、動きが速い画像で液晶には残像が出るうらみがあります。サッカーなどスポーツ番組が好きな方、あるいは激しい動きのゲームをする方にはブラウン管に未練が残ります。「ブラウン管テレビ、どんどん縮小。」(フォルツァ! トロ・ロッソ!!)が「いずれ、こいつが壊れてしまうまでに、液晶やプラズマ(もしくは新方式?)の画質の改善がされれば良いですけどね」と案じる気持ちは良く分かります。先頭を切る国内の技術陣が、この注文に数年でこたえられるかどうかです。


2700億円の最先端研究費は国費乱用の典型

 大盤振る舞い補正予算のばらまき対象に、最先端の研究をしている30人に平均90億円を与える最先端研究開発支援プログラムの話を聞いたとき、科学技術の取材を長くしている者として「研究の現場を知らないにもほどがある」と思いました。次いで麻生首相が「自分が選定する」と意気込んでいると伝えられ、この時点で駄目さ加減が決定的になったものです。先日、政権交代が決まってから、どさくさ紛れに30人が発表されました。さんざん話題になったテーマと有名研究者のオンパレードです。内閣府の「中心研究者及び研究課題」の選定結果(PDF)がリストです。

 朝日新聞が11日の科学面「審査1カ月、駆け込み決着」で「選考では、最終の60件に絞り込む前に95件でヒアリングを実施」「ある研究者によると、ヒアリングは説明、質疑とも10分」「研究の内容に立ち入った質問も批判的な質問もなかった」と実態を明かしています。

 海外から応募した方からの批判をまず紹介しましょう。《「国民への還元につながらない」―最先端研究支援プログラムに、米ベイラー研究所の松本慎一氏》にこうあります。「日本も大型の研究費が配布されるようになったと期待していた分、選考の仕方があまりにも未熟なので寂しく思っていた。今回選ばれた医学系の研究はすべて基礎医学で、臨床につながらない分野のため、国民への還元につながっていかないと思う」「米国で同じ規模のプロジェクトがあったとすると、それぞれのプロジェクトに2日をかけて審議する。プレゼンテーションと質疑応答で1日、施設見学で1日の合計2日。アメリカ方式がよいと言っているわけではないが、今回の審査は成熟したものになっていないと考えているし、こんな短時間で本当に内容を見ることができたのかとも思う。米国の場合は各応募者に対して具体的な改善点が示されるので、例え選ばれなくても将来に大きく成長する可能性が高くなる」

 「生きるすべ IKIRU-SUBE 柳田充弘ブログ」の「研究費配分は国民の選択にゆだねることが可能だろうか」はプログラムの立て方自体に疑問を投げます。「生命科学のような分野では、給与と研究費込みで年間一千万円あれば、独創的な研究が可能と考える人達はたくさんいます。日本中にそこそこの研究施設を備えた大学や研究所がありますから、これくらいでも十分に研究が出来るはずです。そうすると、5年間で5千万円ですから、90億円あれば180人の研究者が5年間独自の研究を進められます。30倍すれば、5400人となります。つまり、同じ金額を使って、30人の特別エリートの5年間のプロジェクト研究を進めるのと、5400人の5年分の給与と研究費を与えるのと、どちらかを実行するのか。これを決めるのに官僚と政治家がおもいつきで決めればそれでいいのでしょうか」

 このプログラムにも選ばれている山中伸弥京大教授のiPS細胞は、日本で開拓した仕事なのに、既に世界的な研究前線から立ち後れ始めています。非常に広範囲な生命現象と関係する仕事であるほど、日本は必ず負けます。国内にオリジナルな研究フィールドを持つ研究者が非常に少ないからです。生命科学で欧米の研究者には流行を追わず、自分だけの実験系を持つことを誇る流れがあります。個々の実験系は小さな存在でも、画期的な仕事の成果を落としてやると新たな生命現象の意味が見えてきます。それが数千、数万とあれば、流行を追って、にわか仕立てで研究する国内勢を圧倒しないはずがありません。最先端を支えるには何にお金を掛けて誘導すべきか、考えねばなりません。これまでにも第145回「大学改革は最悪のスタートに」などで研究評価の在り方を論じています。

 民主党は批判の動きを見せています。《民主党の最先端研究開発支援プログラムの申し入れを評価―嘉山孝正国立大医学部長会議常置委員》には「このプログラムは自民党の単なるばら撒きだった。(申請内容が)箱物で、工業系や化学系などの中小企業にお金が行くようになっていて、経団連が喜ぶ内容」「医療系の研究は選ばれにくかった」との指摘があります。毎日新聞の「最先端研究開発支援:対象に山中教授ら 民主『凍結も』」によると「『金額が大きいだけに、もっと時間をかけるべきだ』との意見も出たが、事務局の内閣府は『選定に時間をかければ、研究をする期間が短くなる』と押し切った」そうです。税金の無駄遣いとして、話になりません。景気対策の名の下に進行していた乱用の実態です。


六ヶ所再処理工場、完工せずの目処が立った!?

 6月の第180回「敗因は何と工学知らず:六ヶ所再処理工場」で国策原子力事業の技術音痴ぶりを断罪した核燃料再処理工場の試運転完了、即ち完工が1年以上と大幅に延期される事になりました。「47News」の「試運転、終了延期は1年以上 再処理工場、原燃が計画変更」が「1月に発生した高レベル放射性廃液漏れや、廃液の洗浄作業に使う機器の故障やトラブルが続発し、洗浄作業も3月から行われていないことが大きく影響した。2006年3月の試運転開始以降、終了時期が延期されるのは8回目。原燃は7月に当初予定の8月終了の延期を表明していた」と伝えています。その後の続報では来年10月完工とも言われます。

 再処理工場の技術についてウオッチしていれば、この延期が無意味であると見てとれます。高レベル放射性廃液をガラス固化体に溶融する国産技術にこだわって失敗を続けている訳ですが、実証されていない技術を実用に使うことこそ、全ての失敗の原因です。国産にこだわるならば同じ規模の実証試験をどこかでしてこなければなりません。成功する可能性は少ないでしょう。津島雄二・前衆院議員が「なぜ国産技術にこだわるのか。自信がなかったら外国の技術を取り入れるべきだ」とアドバイスしたのに従うなら、フランスに溶融炉を発注しなければなりません。この程度の延期ではどちらも出来ません。

 いま何から手を着けたらよいか分からないほど滅茶苦茶になった現場の状態を、元に戻すのに1年掛かるのなら理解できます。そして、本質的な見直しをしないまま再び同じ轍を踏むことが確実です。2兆円以上の巨費を投じた国策工場に「完工せず」の目処が立ったと申し上げるゆえんです。この愚かさも、政権交代があれば見直されるのかしら。


アポロ11号の月着陸40年、月面の足跡など撮影

 40年前の1969年7月、月面着陸に成功したアポロ11号を回顧する企画が進行中です。40周年行事があることは知っていましたが、いまひとつ新味に欠けるなと思っていたら、NASAの月周回衛星LRO(Lunar Reconnaissance Orbiter)が往時の月着陸船の残骸や宇宙飛行士が残した足跡を撮影し、「LRO Sees Apollo Landing Sites」で公開しました。40年前の7月16日の打ち上げから同じ時刻進行で当時の音声記録を放送する「Real-Time Replay of Mission Audio (July 16-July 24) 」も進行中です。

 月着陸船の残骸は形が見えるモノではなく、長い影を引いているので見分けられる程度の映像です。むしろ足跡の方が興味深いと思います。アポロ14号の活動跡です。科学機器があるところから月着陸船の方へ、100メートル以上に渡って、足を引きずったような跡が見えます。月周回衛星には高解像度カメラも2基積まれているので、これからしっかり形が見える映像が狙われるのでしょう。期待が持てます。

 なお、11号の月面映像を現在の技術で補正し、見やすくした「Apollo 11 Partial Restoration HD Video Streams」は縦720、横1280の高精細画像になっており、確かにノイズが減って良くなっています。


皆既日食まで半月。2012年には金環日食も

 22日に日本全土で見られる日食の話題があちこちで盛り上がりつつあります。皆既日食になるのはトカラ列島や屋久島などですが、本土の大都市部でも非常に大きな「食」になるので期待されている方も多いでしょう。以前に天体観測を専門にする「つるちゃんのプラネタリウム」を取材したことがあり、ウェブ主さんは「日食の時に向けて充実させます」とおっしゃっていました。お邪魔してみると、以下の東京での日食の見え方をはじめ、日々どんどんデータが増えています。各地でどう見えるのか、ここで事前準備が十分できると思います。無料の「日食ソフト」もあります。


 このウェブでの最近の閲覧数トップは、今回の皆既日食ではなく2012年にある「金環日食」関連記事のようです。そうです、今回遠出して皆既食が見に行けなくとも、3年後の5月21日には、太陽がリング状に見える金環食が、東京・大阪など日本列島中央部ほとんどで見られるのです。5月だから晴天になる期待は今回以上に持てます。

 日食の公式なガイドとしては「世界天文年2009 日食観察ガイド」があります。こちらは観察方法や危険回避に重きを置いています。前回の46年前には、ロウソクの煤を付けたガラスを通して見た記憶があります。今思うと、かなりいい加減でした。

 「Wiseknightの雑談的日記」の「日食観測の罠 〜安易な観測方法に警鐘」が「部分食でも70%も隠れれば肉眼でも眩しさをそれ程感じないかもしれませんが、すべてNGです。『眩しくない』=『安全』という図式は必ずしも成り立つ訳ではありません」と警告しています。「何故なら『眩しくない』は可視光線がカットされている状態であり、赤外線や紫外線は降り注いでいるからです」「こういう状態で日食を観測すれば『日食網膜症』、つまり網膜が赤外線によって灼けてしまい最悪の場合失明に至ります」

 日食を観察するには急ごしらえではなく、きちんと準備しておきましょう。3年先にも、また使えますよ。

 【追補】屋外に出られない人に・・・PCの前でも日食を観察できるサイトまとめ


第180回「敗因は何と工学知らず:六ヶ所再処理工場」

 試運転終了(完工)を延々と繰り延べている六ヶ所再処理工場について、東奥日報の17日付「新たな工程は原因確定後/再処理 」は青森県の蝦名武副知事が「『ガラス溶融炉の安全を精査した上でなければ、将来の完工時期は立てられない』と語り、仮に8月を過ぎても炉のトラブル原因がはっきりするまでは、日本原燃は新たな工程を示すべきではない−との認識を示した」と伝えました。恐ろしい高放射能廃液を扱うガラス溶融炉について、安全性に本質的な疑問を抱いた地元行政側が突き放したとみるべきでしょう。

 やはり東奥日報12日付「津島氏『自信ないなら海外技術導入を』/再処理トラブル問題視 」は、津島派(旧橋本派)を率いる津島雄二衆院議員がガラス固化体製造トラブル続出を問題視して「なぜ国産技術にこだわるのか。自信がなかったら外国の技術を取り入れるべきだ」と主張したとも報じました。「津島氏の発言に対し経済産業省の担当者は『別の方式を導入すると時間がかかる』などと答え、国産技術からの転換を否定した」ことになっていますが、これから述べるように、大局を見ている政治家の方が、崩壊する現状を糊塗する役人より優れている好例になります。

 六ヶ所再処理工場については2月末の「核燃再処理工場に安全思想の設計無し!! [BM時評] 」で触れたきりになっています。ガラス溶融炉の運転失敗が別の失敗を呼び、さらに最も避けるべき高レベル廃液漏れまで起こしたところまでお伝えしました。この廃液が曲者で配線にかかり、炉の給電性能を損なって加熱できなくなっています。きれいに洗い流せば良いのですが、人間が全く立ち入れない「死の空間」です。遠隔操作でどう洗い流し、その洗い流し液(もちろん放射性)をどう回収するのか、汚染を広げるだけかも知れず、今後の見通しが見えてきません。将棋で言えば、もう詰んでいるのです。

 昨年書いた第162回「青森の再処理工場は未完成に終わる運命」でガラス溶融炉について、以前に原研機構の実験炉で開発された技術と比べ「仕組みと言い、スケールと言い、全くの新規開発です。崩壊熱を自ら発する多数の物質が入り交じった溶融炉の中の物質挙動が、これほど仕組みも物質量も変えて同じになるはずがありません。一国の核燃料再処理を担うのですから、当然、実物大の実験炉で成功させてから実機に組み込むべきです」と述べました。経済産業省と日本原燃のラインは、工学とは何か知らないとしか思えません。

 工学、エンジニアリングとは、それぞれに確立された要素技術を組み合わせて新たな目標を達成するものです。要素技術である高レベル廃液のガラス溶融炉に実証されていない新方式を採用した時点で、工学とはかけ離れた「ロマンの世界」に移ってしまいました。ブレークスルーすべき要素技術があるなら、実プラントの建設ではなく、まず研究室で実証すべきです。遅れに遅れて研究室に戻れないとしたら、次善の策です。六ヶ所再処理工場は2系統で出来ており、もう一つのガラス溶融炉は無傷ですから、そこで人間が目視できる疑似廃液から始めて、期待された性能を本当に持つのか検証すべきです。1年は楽にかかる作業になるでしょう。

 しかし、高レベル廃液本番まで成功する確率は試運転の失敗続きからみて、かなり低いのではないでしょうか。それが既に2兆円を投じた再処理工場のキー技術です。日本原燃は2012年から導入する次代のガラス溶融炉も同じ方式と決めていますが、実証されていない技術を発展させるというのですから、これまた工学の常識から外れています。津島議員が言う「自信がなかったら」を工学の言葉で言い直すと「実証データがなかったら」になります。日本原燃幹部の言動には未だに「落ち着いてやれば出来る」「なせばなる」といった精神主義が散見されますが、あまりの工学知らずぶりに、21世紀に生きているとは到底、思えません。


ヘッドフォンの音は実はもっと豊か:E5導入記

 円高の恩恵を活かそうと独ゼンハイザー社のヘッドフォンHD595を、わたしと家族用に2本買ったおかげで面白い経験をしました。このクラスの上級機になると安物のアンプでは真価を発揮しにくいと知ってはいたのですが、家族が使うリビングの装置では音が寂しすぎました。私の部屋と聞き比べできるので差が歴然です。手軽な解決策を探す内に見つけた中国製の廉価携帯アンプ「Fiio E5」が予想外の性能を発揮してくれました。久しぶりにオーディオマニアに戻って簡単な工作もしました。ヘッドフォンの音はもっともっと豊かに聞けるはずという話をレポートします。

 E5は3月に輸入が始まったばかりで、通信販売のほか東京・秋葉原、大阪・日本橋なら店頭で買えます。店頭なら3780円、中国現地なら2000円程度の値段といいます。米国製ICを2個、充電可能な電池も搭載しながら4センチ角の薄い金属ボディに納めています。ポータブルのオーディオプレーヤのヘッドフォンジャックに繋ぎ、増幅した音をヘッドフォンで聴くのが主な使い方のようです。この使い方でも音が豊かになるのですが、家庭のCDプレーヤのラインアウト出力に繋いだ方が格段に良い音になります。

 通常、プレーヤのヘッドフォンアンプ部分は音についてあまり吟味していないので、かなり劣化した音を平気で出しています。音が悪いと定評がある初期のiPodを借りてE5を繋いで、やはりわずかしか良くなりません。劣化した音を増幅しても効果は限られるのに対して、ラインアウト出力からなら正味の能力を発揮できます。リビングのプレーヤには国産で5000円程度のヘッドフォンアンプを付けていたのですが、上級ヘッドフォンの音の楽しさ、豊かさを表現できないのでした。E5を繋ぐと値段からは想像できない、見違えるような生き生きした音を聞かせます。

 問題があります。ラインアウト出力が大きすぎてE5のステップ式ボリュームではちょうどの音量にすることが出来ません。とても大きいか、小さすぎるかになります。オーディオメーカーのカタログでスライド式ボリューム付き延長コードを見つけて購入しましたが、音全体にベールが掛かったようになり、使い物になりません。電気信号の通り道に入る部品を吟味しないと悲惨な目に遭う実例でした。自前で減衰回路を付けようと検討、ヘッドフォンのインピーダンスと同程度の抵抗を直列に入れれば4分の1程度の出力になるはずと考えました。

 スライド式ボリューム付き延長コードで失敗していますから、高音質の抵抗を探さねばならないことは明かです。検索すると「抵抗の音質を正しく評価する」(nabeの雑記帳)が見つかりました。こんなご苦労なテストをされる方が居て、有り難い限りです。結局、「REYオーディオ用金属被膜抵抗 1/4W 51Ω±1%」が日本橋の千石電商で昨年末から売られていると知り、1本30円で買ってきました。

 ステレオのピンジャックとピンプラグも買い(1個100円くらい)、その間を抵抗2本とアース線で接続、ハンダ付けすれば完成で、想定通りに働いています。絶縁処理や補強は適当にお願いします。抵抗にもエージングが必要と知り、音楽を鳴らしてみると最初はざわざわした音でしたが、3時間くらいで落ち着きました。ヘッドフォンアンプに何万円もかける方からすれば不満は残るでしょうが、合計4000円の投資で音の芯に力強さが加わり、全域で厚みがある音に変身するのですから文句なしです。定価38000円のHD595を並行輸入18000円で買っているのに、アンプに何万円投入というのも筋違いな感じですし……。

 イヤフォンはゼンハイザーのMX400とMX500を大事に使っています。通常は携帯用にしていますが、リビングのE5を通して聞き直すとおやおやと思うほど豊かな音になり、改めて名機だなと再認識しました。国産5000円のヘッドフォンアンプでは真価を発揮させられなかったようです。日本橋でイヤフォンの試聴コーナーに寄り道してみましたが、手頃な値段では対抗できる機種はありませんでした。国内で絶版になったのが惜しまれます。ゼンハイザーの出した後継機種はどれも魅力に欠け落第です。韓国では絶大な人気があって、まだ売られているそうです。


弾頭無しで北朝鮮ミサイル?!―言葉は大事に

 北朝鮮が政府発表によれば「飛翔体」を発射し、日本列島の上空を越えていきました。明日の新聞紙面がどうなるのかは知りませんが、国内メディアは「ミサイル」派と「飛翔体」派に分裂しました。正午過ぎにウェブで収集した限りでは、主なメディアは以下の見出しでした。(確認してもらうために別画面で「切り抜き」を用意しました。臨時・特別扱いとし1カ月くらいしたら削除します)

■朝日新聞 北朝鮮がミサイル発射 11時32分政府発表「飛翔体」
■毎日新聞 北朝鮮ミサイル:11時半ごろ発射 落下物迎撃せず
■読売新聞 北朝鮮、東に飛翔体1発発射
■日経新聞 北朝鮮、飛翔体発射のもよう 政府発表
■産経新聞 【北ミサイル発射】日本政府、「飛翔体」発射を確認
■共同通信 北朝鮮、ミサイル発射 東北上空を通過、迎撃措置とらず
■時事通信 北朝鮮がミサイル発射=日本上空を通過―破壊措置は取らず―政府、国民に発表へ
■朝鮮日報 韓国政府も「長距離ロケット発射」確認
■CNN  北朝鮮、飛翔体発射 日本上空を通過

 午後になって確認すると、読売新聞は「ミサイル」派に転向、日経新聞は「飛翔体」を維持しています。読売新聞によると、北朝鮮は「衛星打ち上げ成功」と報道、「軌道傾斜角は40・6度で、近地点490キロ・メートル、遠地点1426キロ・メートルの楕円軌道。周期104分12秒で地球の周りを回って」将軍様の歌を送信しているそうです。こうなると、弾頭を積んでいなかったことは確実です。

 きつい言い方をすればミサイル見出しは誤報です。本文中でどう補足してあろうと、見出しだけ見て次の記事に移る読者が多数いるのですから、見出しはそれ自体で完結していなければなりません。先端の衛星を弾頭に替えればミサイルになると抗弁するのなら、種子島から打ち上げているロケットはすべてミサイルになります。事前報道で伝える側の認識を「ミサイル」と書くことで反映させるのは構いませんが、事実として起きていることを伝える段階になっても主観的な表現を続けていてはマスメディア失格です。

 CNN米国は「ロケット発射」を使い始めています。事実認識としてはロケットが一番妥当だったようです。私が運営する「Japan Blogs Net」【保守・右】は《「飛翔体」とはなにごとか》というオールド・ジャーナリストの意見も収集していますが、とても賛同できません。政治・軍事・衛星科学方面からのブログ発言が次々に集まっていますので、ご覧下さい。

 「Japan Blogs Net」から毛色が変わっているものを一つだけ。メディア・パブの《「北朝鮮のミサイル発射」のニュースを、Twitterでリアルタイム追跡してみた》です。起きているニュース関連の情報をTwitterでつかまえるのは、先日の「『ハドソンの奇跡』に見る米ネットの活性 [BM時評] 」でもあった話です。米国と違って日本語のTwitterは今回、活発ではなかったそうです。


2019年の世界〜Microsoftのムービーに納得?

 きょう「Japan Blogs Net」の巡回で見つけたトピック。「Ad Innovator」が「Microsoftによる2019年の世界」というムービーをアップしていて興味深かったですね。「情報を機器が読んで理解できる環境になり、機器同士が情報を交換するようになるとどうなるかというビジョン」。引用先のサーバーは混み合って断続的になっていますから、こちらのムービーで見られたらよいでしょう。10年後の銀行や買い物、学校のシーンがどうなっているのか、Microsoftが考えた姿が実写化されています。総集編のほか各論ムービーもあるのでお見逃し無く。

 映画「マイノリティレポート」風の場面あり、SF映画でお馴染みの電子ペーパー風ボードに周囲の情報を写し取ったり……。じつに上手に映像化していて、10年後には出来そうかなと思う半面、そうそう実現できないでしょうとも考えました。うまく使える人以外にデジタルデバイド層は絶対に残るのだから、どうするんだい――とも。

 「Microsoft Office Labs vision 2019」(安藤日記)は「印象は、何も新しくないけど、実は凄く新しい。何気なく動いているように見えるけど、本当に使えるところまで実現するのは難しいぞってこと」と読み込んでいます。

 昨年の今ごろですが、米国の発明家レイ・カーツワイル氏が、2019年からさらに10年経った2029年には機械の知能が人間以上になって、技術開発は機械がするという趣旨の講演をあちこちでしていました。《稀代の発明家Ray Kurzweil氏による基調講演〜とてつもない未来を語る、「The Next 20 Years of Gaming」》がそのひとつです。コンピューティングパワーの増大と脳のリバースエンジニアリングが進んで可能になるストーリーだったと記憶しています。そのペースが本物なら、2019年にはこの程度は実現するかも。


核燃再処理工場に安全思想の設計無し!!

 国内の『官製』原子力事業はいかに技術水準が低いか、「既視感ばりばり、もんじゅ低技術の恐怖 [BM時評]」などで指摘してきました。今度、明らかになった六ケ所再処理工場の高レベル放射性廃液漏れトラブルの原因は、さらに愕然とさせるものでした。最悪の放射性物質を扱う核燃再処理工場にフェールセーフ思想が欠如していたのです。この工場は起きうる事象の系統的な解析をしないで、非常に恣意的に、つまり超・楽観的に設計された「非常識施設」と申し上げてよいでしょう。

 東奥日報の「廃液漏れ 人的要因の可能性高い」を読んで目がくらむ思いがしました。漏れた廃液タンクへの圧縮空気の流入は、作業員が空気調節弁に誤って触れたために起きたとされました。床から70センチの高さにあり、軽く触れても弁は動く状態でした。「再発防止のため原燃は今後、数万個に上るとされる工場内の弁の中で同じように作業員が触れやすいものを抽出し、カバーを掛けるなどの対策を講じる」とあります。これが当初の完成予定時期1977年から30年余りも経過して採用する緊急対策とは、民間企業の研究者なら笑い転げる、悪いジョークです。「自縄自縛の悪連鎖、六ケ所再処理工場 [BM時評]」もご一読下さい。

 フェールセーフ思想なしに作られた核関連施設にはどんな落とし穴が潜んでいるのか、予測不可能です。「2月25日、保安院に高レベル廃液漏洩事故への抗議のアピール行動」などブログの大衆が懸念するのは当然のことです。

 読売新聞の「組織改善計画策定へ」は今回の人為的ミスを受けて、日本原燃の児島伊佐美社長は「組織的な問題点の根本原因を分析するアクションプラン(行動計画)を4月末までに策定する方針を明らかにした」と伝えました。「社員の意識改革の一環として、再処理工場の運転や保守に携わる社員を、日本航空とJR東日本の整備工場に派遣する社員研修を始める方針も明らかにした」とも言うのですが、明らかに方針が間違っています。問題は社員意識ではなくて、設計の安全思想欠如にあるのです。


自縄自縛の悪連鎖に陥った六ケ所再処理工場

 青森県で建設中の六ケ所再処理工場が最終試運転段階で大きな暗礁に直面したようです。目立つ形の全国ニュースとして取り上げられないので気付きにくく困るのですが、第162回「青森の再処理工場は未完成に終わる運命」で取り上げた最終段階の高レベル放射能廃液ガラス固化工程でのトラブル対処が次々にトラブルを呼んで、自縄自縛の悪連鎖に陥りました。

 ガラス固化するために高レベル放射能廃液とガラスチップを混ぜて溶融します。それを細いノズルから特殊なガラス容器に流下させますが、もともと設計上の対策不十分で炉の底に白金族元素が堆積しやすくなっていました。堆積問題に対処するために、当初の設計には無かった撹拌棒を導入し一生懸命混ぜていました。昨年末、その撹拌棒が抜けなくなったのです。東奥日報の「攪拌棒に曲がり/ガラス固化」に見取り図があります。真っ直ぐな棒が原因不明で曲がっていました。やむなく撹拌棒を力任せに引き抜くと、炉の天井を覆う耐火レンガの一部、長さ24センチ、幅14センチ、高さ7センチ、重さ6キロが脱落していました。原子力資料情報室の「六ヶ所 : 再処理工場・ガラス溶融炉:耐火レンガ脱落!」に詳しい図があります。曲がった棒を無理に引き抜いた際に天井を傷つけたのでしょう。

 溶融炉下部には温度が下がった溶融ガラス900リットルが溜まったままです。レンガはその中にありますが、ガラス溶液が流れ出る底部中心をふさいでいる可能性が高く、年が明けて炉の下からドリルを入れて削り、レンガに穴を開けることになりました。そして、1月13日付の「耐火れんが穴開け作業中断/原燃」になる訳です。「入り口の流下ノズル内にガラスが残っており、無理にドリルを入れるとノズルを傷付ける恐れがあるという」「現在、模擬装置でノズル内のガラスを削る練習をしており、作業再開までには数日かかるとしている」

 そもそもドリルを差し込む流下ノズルは非常に微妙な部品で、こんな「工事」をすることなど考えられていない所です。「ガラス固化技術開発施設(TVF)における溶融炉技術開発」の「図2」を見ていただくと、改良型になってますます複雑な形状になったことが分かります。白金族元素が途中で堆積して詰まったりしないよう、単純な丸い穴ではなくし、立体的にした隙間の形に工夫が凝らされています。そこにドリルを入れるのです。放射能汚染区域ですから遠隔操作するしかなく、名人芸的な作業は無理です。また、耐火レンガに穴が開いたとしても付近の流れの状態は一変します。設計者が見たら目を覆いたくなる惨状でしょう。

 今すぐ工場周辺に汚染を呼ばない点で原燃が「安全」と言っているのは間違っていませんが、トラブルを乗り越えて再処理工場の最終試運転が完全に終わる可能性は極めて薄くなったと思います。


連日のノーベル賞、違う研究者人生

 物理学賞の3人に続いて日本人、今度はノーベル化学賞に米ウッズホール海洋生物学研究所・元上席研究員の下村脩さん(80)です。オワンクラゲから発光物質、緑色蛍光たんぱく質(GFP)を取りだし、細胞が生きたままの状態で、その中でタンパク質を観察する手段になり、世界中の研究者が広く恩恵にあずかっている仕事になりました。

 下村さんはアカデミックな世界では、特に日本的な意味では恵まれない生き方をされて来たようです。受賞歴で2007年の朝日賞が特に光るというのも、これまでのノーベル賞受賞者が分厚い受賞歴を持っているのと違います。朝日新聞の電話インタビュー「『化学賞は意外』『クラゲ85万匹採取』下村さん語る」が少しその実像を明かしてくれます。「米国に居続けたのは?」の質問に「昔は研究費が米国の方が段違いによかった。日本は貧乏で、サラリーだってこちらの8分の1。それに、日本にいると雑音が多くて研究に専念できない。一度、助教授として名古屋大に帰ったんだけど、納得できる研究ができなかったので米国に戻った」と語っています。長崎医科大付属薬学専門部(現・長崎大薬学部)卒業の下村さんには、アカデミックな世界でのし上がる気はなかったのでしょう。

 今年のノーベル賞報道をネット上に限れば、MSNと組んでいる産経新聞が早い時間からかなり多数の記事をリリースして目立ちます。紙の紙面では各紙ともに1面から社会面まで大量の記事を出していて、それほど秀逸とは思えませんが。化学賞でも21時過ぎに【ノーベル化学賞】「自分はアマチュア・サイエンティスト」下村脩氏をリリースしていて特筆ものでしょう。

 「上の人の話を素直に聞くような人間じゃない。そうかといって、人と争う気もないし、競争は嫌い」「自分はアマチュア・サイエンティスト。それがかえって良かったのかも」――なかなか良い言葉を拾っています。1年前に下村さんに講演で来て貰った母校の教授のコメント「心の底から感激している。こんな地方の大学を出たノーベル賞受賞者は初めてではないか。ここで学ぶ生徒たちにも励みになる」もいいですね。

 物理学賞の3人とはまるで違う研究者人生が見えて、今年はこれも収穫の一つでしょう。

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快哉!日本人3人にノーベル物理学賞

 このところ暗くよどんだニュースが多かったので、このノーベル賞受賞ニュースはスカッとして良かったです。3人の業績を組み合わせて受賞のパターンは最近の通例ですが、日本人3人というのがとても新鮮です。近年の理系の受賞例では3人の一角を日本人が占めるというのが通例でした。南部陽一郎・米シカゴ大名誉教授・大阪市立大名誉教授(87)、小林誠・高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所元所長(64)、益川敏英・京都大名誉教授・京都産業大理学部教授(68)の皆様、おめでとうございます。

 南部さんも小林・益川理論も前々から候補に挙げられていたのですが、この組み合わせになるというのはちょっと意外でした。「対称性の破れ」というキーワードは同じですが、完全に一世代離れた研究者で、かなり違う研究なので、それをうまく切り取って評価する「知恵者」がノーベル賞推薦者にいらしたのでしょう。

 「ノーベル賞、南部・小林・益川3氏の略歴」を見てください。よく観察すると違いが見えます。南部さんは1978年に文化勲章を受けています。小林さんと益川さんは2001年になって「文化功労者」なんですね。南部さんの場合は早くからノーベル賞当然の感じですが、他のお二人はボーダーだと、少なくとも日本政府は考えていたことを示しています。

 それにしても、南部さんは87歳です。長生きされていて本当に良かったと思います。ノーベル賞の選び方は、ある研究分野が非常に発展しているとして、それを拓いたのは誰の仕事だったか、根源的なブレースルーは誰の手で行われたのかを見極めるものです。しかも存命でなければなりません。意外に早く逝かれた有力な研究者が日本人にも多々いらっしゃいます。

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青森の再処理工場は未完成に終わる運命

親サイトでは、インターネットで読み解く!第162回)

 日本原燃が青森県六ヶ所村で建設している再処理工場は、最終段階の高レベル放射能廃液をガラス固化するところで暗礁に乗り上げてしまいました。7月2日、半年ぶりに試運転再開して、その直後にノズルが詰まって緊急停止したと聞き、尋常の事態でないと感じていました。ところが、マスメディアはどこも詳しいレポートをしてくれません。21日になって日経が朝刊の奥の方にある科学面で「日本原燃の再処理試験トラブル 原因究明は長期化 未完成の国産技術採用 コスト重視に落とし穴」を書いてくれました。もう原子力を見ている記者はいなくなったのかと本当に心配していましたが、川合智之記者のグッドジョブです。

 例によって、こうした価値が高い記事でもネット上に出ることはありません。ネットで受けるのは「ひとくち話のようなもの」という誤解が国内のマスメディア側にありますし、確かにネット読者の多くはそういう行動パターンです。ニューヨークタイムズのようにネットで利用できるようになるのは何時のことでしょう。

http://www.jnfl.co.jp/press/pressj2008/080711sanko.pdf

 今回の記事の核心は次の部分です。廃液とガラスを混合、溶融してノズルからステンレス容器に落としていくのですが、そのノズルが簡単に詰まってしまうのです。この部分は原研東海の実験炉で実績があると聞かされていました。「日本原燃は原研機構の溶融炉をそのまま導入したわけではない。原研機構の実験炉では、濃縮装置で廃液濃度を一定に保ち、スポンジ状のガラスに廃液を染み込ませてから溶融炉に入れる。日本原燃は低コスト化のために濃縮装置を省き、ガラスも低コストの粒状のものに替えた。溶融炉の大きさも原研機構の5倍に拡張するなど、実質的に新規開発に近かった」

 これを読んで絶句しました。仕組みと言い、スケールと言い、全くの新規開発です。崩壊熱を自ら発する多数の物質が入り交じった溶融炉の中の物質挙動が、これほど仕組みも物質量も変えて同じになるはずがありません。一国の核燃料再処理を担うのですから、当然、実物大の実験炉で成功させてから実機に組み込むべきです。エンジニアリングの基本を外しています。

 今度の再処理工場本番がその実証実験のようです。原発の核燃料棒から最悪、最強の放射能廃液を絞り出して集めた場所です。ここは通常の原発の放射線レベルとかけ離れた死の空間になり、遠隔操作しかあり得ません。ノズルが詰まったからと人間が覗きに行ける場所ではありません。また、ガラス固化が滞ると前の処理工程が動いていれば高レベル廃液がどんどん溜まります。これが通常の工場廃液のようにタンクに置いておけば済む性質ではないのです。自らの崩壊熱でどんどん熱くなり、強制冷却しないと爆発さえありえます。

 「欠陥ガラス溶融炉の悲痛な叫びが六ヶ所再処理工場は動かしてはならないと訴えている」は「調査の過程で根本的な欠陥が明らかになったにもかかわらず、原子力安全・保安院は6月30日に運転再開を容認しました。今回のトラブルは、この再開容認が間違っていたことを明らかにしました。日本原燃は、前例がなく原因は不明、再開の目処は立っていないとしていますが、前回のトラブルで下部に溜まった白金族元素を含む残留物が流下ノズルに残り、これが影響したような場合には手の打ちようがないでしょう」と指摘し、運転中止を訴えています。

 日経記事によると当初の完成時期は1997年だったのに13回延期され、「現在の計画は7月完成だが、今回の不具合で絶望的となった」とあります。10年以上も完成がずれこんで、今になって根本的な欠陥が明かされる恐ろしさ。マスメディアはきちんと向き合わねばなりません。「既視感ばりばり、もんじゅ低技術の恐怖」と並べてみると、日本の「官製」原子力開発には人材がいないことが明らかです。競争の世界にさらされている基幹産業のエンジニアが知ったら笑い転げるか、憤慨するか、どちらでしょうか。


日本発の海洋技術冒険「Wave Power Boat」

 半世紀ほども前、初の太平洋単独横断航海「太平洋ひとりぼっち」を成功させたヨットの堀江謙一さん(69)がいま新しい冒険の真っ最中です。波の力を推進力に変える「波浪推進船:Wave Power Boat」を造って、ハワイから紀伊水道まで約6000キロメートルを波の力だけで航海しています。波浪推進船による初めての実用航海です。既に日付変更線を通過しました。詳しい記録は彼のホームページでご覧下さい。歩くような速さでゆっくり走っています。

 これまでのヨット航海と違う新奇さにニューヨークタイムズなども注目して、結構多くの英語メディアに紹介されました。ブログではWave Powered Boat Begins Voyageとか、ハワイの地元紙によるWaveriderとかが写真満載でいいです。

 堀江さんが東回り単独無寄港世界一周航海をした際に取材を担当した縁で、お付き合いを続けています。彼はケープホーン沖の風向きが悪い故に難しい西回りを先に成し遂げ、東回りと合わせて両周り達成という珍しい記録を持っています。両周りの先人はオーストラリア人一人ですが、北半球から出発しないと意味が薄いので、実質的に堀江さん一人の記録だと思っています。

 彼は禁欲的な航海者で、大きなクルーザーには冷蔵庫などの電気製品を備えるのが常識なのに、ほとんど持たないでやってきました。今回、太陽電池を増強して初めて電子レンジを入れたので、毎日、ガスでご飯を炊く手間が省けたという具合です。航海中、ビールも飲みますが、冷蔵庫がないので常温です。

 これまでは「風と波の音」だけを聞いて航海してきました。その中で波で走れないかという発想が膨らんでいったのです。そして、東海大海洋学部で水槽実験だけで埋もれていた技術を船の形にし、大航海に持っていってしまったのですから、冒険者として面目躍如です。ヨットで帆を張って走っていると操船の手間はかなり多いのですが、今回は帆は緊急時限定です。したがって少しはのんびり出来るのでしょう。パソコンで視聴できるDVDやCDを持っていき、外付けスピーカーも初めて積みました。


月面に出入りする地球画像の正しい見方

 宇宙航空研究開発機構が4月11日に月周回衛星「かぐや(SELENE)」のハイビジョンカメラ(HDTV)による「満地球の出」撮影の成功についてと題したプレスリリースを出しました。もし人が月面に立てたとしても、地球は同じ位置に見えるので月面に沈んだり、月面から上ったりはしません。月を回っている衛星だけからしか見えない、それも軌道の関係で年に2度という特殊な「月面に出入りする地球画像」なのです。

 早速、リリースの中ごろに置いてある《「満地球の出」ハイビジョンカメラによる映像》《「満地球の入り」ハイビジョンカメラによる映像》のリンクを押して動画を見ました。しかし、がっかりです。美しい、きれいな画像なのですが、解像度は480×270ピクセルと何ともしょぼいのです。ハイビジョンと銘打っているのは何なのだと言いたくなります。「はてなブックマーク」でも不満の声多しです。

 「かぐや」画像ギャラリーに行ってみると、フルハイビジョン1920×1080静止画しか置かれていませんでしたが、「2008/04/09」の項に「ハイビジョンカメラがとらえた、地球の出と入りのDVD品質動画を追加しました」とあるではありませんか。今回、撮影に成功した4月6日の半年前、11月7日の「出と入り」が動画になっていました。地球が大きく見えるのは半年前は「入り」の方です。画像をクリックすると、横幅700ピクセルくらいのフラシュプレーヤーが立ち上がって見せてくれます。

 かなり満足したところではありますが、ダウンロードが出来ると書いてあるので落としてパソコンで見ると、854×480の大画面になるのでした。元データが720×480、アスペクト比16:9なので、横幅を引き延ばしてくれるのです。是非、ダウンロードして楽しんでください。青い地球がクレーターだらけの月に沈む、何とも不思議な感覚が味わえますよ。それにしてもハイビジョンのデータなら1280×720では見たいですね。


Vista短命確定で「Windows 7」論議沸騰

 この数日で次期OS「Windows 7」の話が一気に盛り上がっています。4月初めにマイアミであったセミナーで、マイクロソフトのビル・ゲイツ会長が「『Windows 7』は来年にもリリース」と漏らしたのがきっかけです。ITmediaの「Vistaに見切りをつけたMicrosoft 」は早速、「今や問題は『Vistaは死んだのか?』ではない。もう死んでいるのだ。本当の問題は、Microsoftがデスクトップ市場の支配を守るのに間に合う時期に『Windows 7』をリリースできるかということだ」と不人気OS「Vista」に死亡宣告をしています。

 実際にパソコン市場でアップル社のMacが見直されて好調です。iPodとの相乗効果もあるのでしょうが、理由の一番はVistaにうんざりしたからではないかと思っています。それで気を付けて見ると3月のCNET Japanに「MS、次期OS『Windows 7』のテスト版を米国の技術委員会に提供--独禁問題で」が出ていたりして、水面下で事態が動いていたと知れます。

 9日付、GIGAZINEの「マイクロソフト、新OS『Windows 7』は2010年に登場するとコメント」は「マイクロソフトの広報は次のOS『Windows 7』について、現在まだ計画段階でしかなく」「発売されるのはWindows Vistaが発売されてから3年後にあたる2010年になると述べたそうです」と報じています。「Windows 7(Vistaの次)は2010年」のように「そりゃ、そうですよね。来年じゃ、早すぎます」と一安心している方もいらっしゃいますが、Vistaの短命確定には何ら変わりはありません。

 1年前に「奇怪、不可解、Windows Vista肥大化 [ブログ時評76] 」で抱いた疑問に間違いはなかったようです。個人的には会社で仕事に使う貸与ノートパソコンが更新期にあり、XP Professional入りのマシンが届くことになって、ほっとしています。秋以降の更新機種はVista入りの可能性が高いと思っていますが、この情勢では短命のVistaにしてソフトの整合に苦労する必要があるのか疑問ですね。自宅のマシンは昨年、XP機に買い換えたばかりですから、Vistaには触れることなくパソコン人生を全うしたいものです。