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原発次世代炉への幻想が崩壊、原子力存続に暗雲

 電機の名門東芝の屋台骨を揺さぶる原発事業の大損失は一企業の失敗に留まらないでしょう。次代の原子力を担う新型炉への幻想が崩れ、やはり新型の欧州加圧水型炉も高コストで苦戦する中、原子力の未来は暗いのです。東芝・ウエスチングハウスの新型炉「AP1000」と仏アレバの欧州加圧水型炉「EPR」だけが「第3世代プラス」の次世代炉ではなく、韓国の「APR1400」もあってアラブ首長国連邦(UAE)に輸出され建設も順調だと「エコノミスト」誌は持ち上げています。しかし、欧米に比べて韓国の規制当局の眼が節穴である点は第498回「来年は中韓で危うい新大型原発の運開ラッシュ」で紹介した窒素ガス漏れ警報機不備による死亡事故で明確になっています。建設順調は規制が緩いだけであり、出来上がった原発は「伏魔殿」である可能性が高いと申し上げておきます。


 ATOMICAサイトの《AP600及びAP1000 (02-08-03-04)》から引用した「AP1000の受動的炉心冷却システム」の図です。高い位置に燃料取替用水タンクを置いて、電源喪失時や冷却系の故障時でも弁が開いて炉心に注水され崩壊熱除去は運転員が何もしなくても3日間は大丈夫となっています。福島原発事故で海水炉心注入に苦労した事態を思い起こして下さい。安全への取り組みが軽減されて《ポンプ、弁、配管、電線等の減少が著しい。すべてのポンプ類とディーゼル発電機が非安全系となったことも単純化に寄与している》とされ、コスト低減、工期短縮に威力発揮のはずでした。

 ところが、7000億円以上の巨額損失が米国での原発4基建設の遅れから発生してしまいました。中国でも4基が建設中で、ウォールストリートジャーナルの《東芝の苦境を物語る中国原発事業の誤算》はこう報じています。

 《三門1号機の建設は遅れに遅れている。例えば、冷却システムの基幹部品に問題があり、作業が2年余りも遅延した。しかも、ウエスチングハウスが三門1号機の設計作業を完了するまでに何年もかかったため、建設はさらに遅れ、顧客である中国国家核電技術公司の怒りを買った。三門1号機の建設は当初の計画から少なくとも3年の遅れが生じている》

 《その後、より根本的な問題が発覚する。それは技術的な作業が完了する前に建設作業を開始してしまったことだ。ウエスチングハウスは現在、この決定は誤りだったと認めている。同社が設置済みの機器をわざわざ取り外し、技術面での再検査を長期にわたって実施したのは一度や二度のことではなかった》

 米国の規制当局が基盤鋼材の強度不足を見つけて、交換のためにコンクリートの基礎を壊して打ち直す作業をしたり、新型になった冷却材ポンプ内部の羽根車が試験で破損、設計のやり直しを迫られたりもしました。ウエスチングハウスは加圧水型炉の開発者ですが、米国では30年近くも原発の新設が無くて建設の経験が失われ、しかも全く新しい設計の新型炉となると苦戦せざるを得なかったと評すべきです。

 今回の東芝騒ぎを受けたワールドニュークリアニュースの《What's really killing America's nuclear plants》は2030年までには米国で稼働する原発99基の3分の2が停止するだろう、建設中はAP1000の4基だけであるのに軌道修正は難しい――と憂いています。

 フィンランドとフランス、中国で建設中のアレバEPRは出力165万キロワットの大型原発ですが、過酷事故時の安全対策に凝っているために建設コストが当初の3倍にも跳ね上がり、工事べた遅れでいずれも未完成ながら1基1兆円を超える見込みです。これでは原子力の未来は担えません。さらに東芝と子会社ウエスチングハウスのAP1000までも巨額損失を出す事態は、リーズナブルで信頼できる次世代原発の建設者が存在しなくなる恐れを意味するのです。


ノーベル賞・大隅さんの警鐘は政府に通じまい

 ノーベル医学生理学賞に決まった東京工業大の大隅良典栄誉教授が日本の科学研究に警鐘を鳴らしているのが印象的です。メディアも社説などで同調していますが、大学いじめが自己目的化した政府に通じると思えません。東京新聞の《ノーベル賞・大隅氏 「科学が役に立つのは100年後かも」》で「今、科学が役に立つというのが数年後に企業化できることと同義語になっているのは問題。役に立つという言葉がとっても社会を駄目にしている。実際、役に立つのは十年後、百年後かもしれない」と語っています。現実に第535回「文科省主導の大学改革が国立大の首を絞める」で指摘したように国立大学は疲弊しきっており、研究論文数では先進国中で目を覆うばかりの地位低下を招いています。

 大隅さんの仕事の意味はご本人が朝日新聞のインタビューで答えている言葉で明解です。「たんぱく質の合成が大事だというのは異論がないわけですが、たんぱく質が作られた分だけ壊れないといけないので、分解はそれと同じくらい大事」。適切に細胞内で分解されないと様々な病気の原因になるとして近年、大注目されるようになりましたが、大隈さんはたった一人で単細胞生物の酵母を対象に研究を始めました。オートファジー(自食作用)は難しすぎる用語です。


 ノーベル賞級の仕事を説明する模式図を書いてみました。人類の持つ知の地平の一角で、新たな突破口を開く研究が現れます。そこから後続する研究で拡大していく知見の大きさでブレークスルーした研究のインパクトが測れます。大隅さんは酵母でたんぱく質を壊す仕組みを解明し、後続の研究者がパーキンソン病やアルツハイマー病など人間の病気との関連に到達しました。何処で突破口が開かれるかは予め分かるはずもないと、大隅さんは考えていらっしゃるから「役に立つ」研究志向に疑問を投げるのです。

 昨年夏、大隅さんは「科研費について思うこと」を公表して基礎研究の危機を訴えています。国立大に対する運営費交付金の継続的な削減で従来はあった研究できる環境が消え、科研費等の競争的資金が「研究費」そのものになってしまいました。

 《競争的資金の獲得が運営に大きな影響を与えることから運営に必要な経費を得るためには、研究費を獲得している人、将来研究費を獲得しそうな人を採用しようという圧力が生まれた。その結果、はやりで研究費を獲得しやすい分野の研究者を採用する傾向が強まり、大学における研究のあるべき姿が見失われそうになっているように思える》

 《安倍首相「日本人として誇り」 大隅さんノーベル賞》を見れば大隅さんの憂慮が理解されていないと読み取れます。

 《首相は「先生は常々、だれもやっていないことに挑戦するとおっしゃっておられ、そうしたチャレンジする姿勢が今回の受賞につながったのではないかと考える」と述べた。また、「今後とも政府としてあらゆる分野でイノベーションを起こし続けることを目指し、独創的で多様な研究をしっかり支援していくとともに、研究を担う人材育成に力を入れていきたいと考えている」と語った》

 政府が「選択と集中」のさじ加減が出来るとの不遜さをがノーベル賞学者の憂いの対象になっているのに、国立大運営費交付金削減を毎年1%ずつ積み増ししてきた失政への反省など何処にもありません。実用研究志向が強烈な韓国には1人もノーベル賞科学部門受賞者がいません。ある意味でオタクのような若き日の大隅さんの仕事ぶりを支えた環境が大学から失われたと指弾します。

 【10/7追補】元基礎生物学研究所長・元岡崎国立共同研究機構長 毛利秀雄名誉教授による《隣のおじさん−大隅良典君(ノーベル生理学・医学賞の受賞を祝して)》が素晴らしい内容です。なかなか論文にしなかった研究の経緯なども面白いし、次のコメントで無理解な政府をバッサリです。

《大隅君はインタビューで、基礎研究の重要性を訴え、現状を憂い、そして一億に近い賞金をあげて若手を育てるために役立てたいとコメントしています。それに対してマスコミや首相は応用面のことにしか触れず、文科相は競争的資金の増額というような見当はずれの弁、科学技術担当相に至っては社会に役立つかどうかわからないものにまで金を出す余裕はないという始末です。なげかわしい。これでは科学・技術立国など成り立つはずがありません。それにもめげず、より多くの若い人たちが大隅君の受賞に刺激されて、すぐに役立つわけではない基礎研究に、そしてどちらかというとこれまで恵まれてこなかった生物学(生命科学)の研究に進んでくれるようになることを大いに期待したいと思います》


隠蔽は東電だけか、在京メディアも責任を取れ

 福島原発事故で炉心溶融が隠蔽された問題の報告を読んで、東電の語るに落ちる無能さが再認識されました。無批判に隠蔽に乗っかった在京メディア各社も他人事のように報道すべきではなく、自らの責任も取るべきです。原発事故に際して公式の発表は福島現地の住民や国民に広く事態の真実を知らせるためにあるのです。その本分を外れて重大事態を軽く見せようとした東電、炉心溶融を口にした原子力安全・保安院の審議官を発表から外した政府も同罪ですし、メディア内部でも疑問の声が握りつぶされていたと聞きます。報道の自由世界ランキングを大幅に下げた国内メディアの覇気の無さはここから始まったのです。

 マニュアルに「炉心損傷割合が5%以上なら炉心溶融」と定められていたのに、5年後の今頃になってその判定基準が「発見」された不思議は、21日に公表された東電の《福島第一原子力発電所事故に係る通報・報告問題に関する当社の対策について》でこう解明されています。

 《福島第一原子力発電所では、防災訓練は、予め日時が決められ、シナリオも用意されていたため、防災訓練に参加する緊急時対策班の要員らは、その都度、原災マニュアルを確認しなくても、対応することが可能であった》《本件事故当時の原災マニュアルに「炉心溶融」の判定基準が記載されていたことを知っていた者もいたが、限られた範囲の社員に止まっており》

 防災訓練で緊急時対策班員は原災マニュアルを読むなど自分で頭を使うことなく、シナリオに書いてある通りのお芝居をしていたと告白しています。だから少数の社員しかマニュアルの規定を知らなかったのです。「やったふり」をするものでしかない緊張感なし訓練が役に立つはずがありません。最初に爆発した1号機で、緊急時の命綱である「非常用復水器」を動かした経験者が皆無だった東電らしい、脱力感いっぱいの新「珍事実」です。

 事故当時の清水社長が「炉心溶融」など記載のメモを渡して「官邸からの指示によりこの言葉は使わないように」指示したとされる問題は、当時の枝野官房長官らが事実無根と猛反発していて尾を引きそうです。当時の菅首相も《東電第三者委員会委員長から「説明する義務はない」との返事》とブログで怒っています。当時の首相や官房長官に事情聴取せず、社長も指示を受けた詳しい経緯を説明できないままで「官邸からの指示」だけが一人歩きするのは異様です。ただし原子力安全・保安院が炉心溶融を知らないはずがなく、保安院内部で自主規制があったのは確かでしょう。


 事故発生から3日目に書いた第245回「福島第一原発3号機も炉心溶融、後手の連続」で掲げたグラフです。原発敷地境界で測定された放射線量(マイクロシーベルト毎時)が2日目「1050」と3日目「882」と大きく制限値500を超え、1号機に続き3号機でも炉心溶融は明確としています。これは当時、誰でも入手出来たデータです。

 朝日新聞の大阪本社で専門家に取材した結果をもとに東京本社に炉心溶融をアピールしたが、握りつぶされたと聞いています。朝日だけでなく在京メディアは政府・東電の発表以外は取材する気がなく、内部からの指摘さえ聞く耳を持たない状態を続けたのでした。いわゆる「大本営発表報道」に堕してしまい、2011年9月の第278回「説明責任を果たさない政府・東電・メディア」で指弾しました。東電を笑えない不始末が在京メディアにはあったのです。政治経済分野を含めて報道の自由は記者の精神的自由を構造的にスポイルしたために大きく損なわれたままです。


スマホやタブレットで手軽に科学的測定が可能に

 グーグルが身近にあるスマホやタブレットで光や音、力を表す加速度の測定ができるアプリを公開しました。概略紹介があるばかりで実践した例が少ないので、手軽にどんなデータが取れるのか、ちょっと試みてみました。アプリはアンドロイドOS用に作られた「サイエンスジャーナル」です。もともとスマホなどがカメラ撮影や通信、姿勢制御のために備えているセンサーを科学的測定に活用しています。その場でグラフが出来るのが面白いですね。子どもの「科学ごころ」を育てる趣旨のように見受けますが、大人が関心を持てるレベルですし、大人から子どもに使わせる提案をしてあげるべきでしょう。まずは自宅周辺の道に80メートルの直線区間を設定、歩いたり走ったり自転車でと……。


 加速度(m/s2)は左右、前後、上下の3軸方向で測定できます。今回は80メートルを進む際の力を測るので前後方向(y軸)を見ています。使ったのは8インチのタブレットで、カメラマンベストの胴回りにある大きなポケット入れて測定しました。歩いて42秒、走って26秒、自転車でも最後はブレーキを掛けてゆっくり止めているので26秒でした。ポケットに入れたり出したりする時間が要るので前後にロスタイムが付いています。出し入れと操作ボタンを押す時間です。

 加速度は体重を掛け算すると掛けた力になります。最大値が早足で「26」なのに駆け足で「39」と50%増しでした。自転車ならスタート時に最大「25」と踏み込んで加速してしまうと惰性が働くので後はあまり力が要らない様子が見えます。使ったエネルギーはグラフの山を足した値だと思えばいいでしょうから、自転車に乗ると歩く場合と走る場合に比べて圧倒的にエネルギーを使っていません。走っているとエネルギーの大きな追加はずっと必要です。駆け足の後半は前半に比べてペースを落としているのも見えます。


 次に音を測ってみました。身近な騒音といえば電車や地下街です。阪急電車に乗って十三と中津の駅間2分間と、阪神デパートの地下食品売り場の2分間を測定してみました。最大レベルは電車が「80」デシベル、地下が「81」デシベルであまり変わりません。電車の場合、中間の騒音が高くなっており、これは淀川をまたぐ鉄橋の区間です。平均値が「62」でデパ地下の「67」より低く、鉄橋区間を除くと地下街よりもうるさくないと見ていいでしょう。デパ地下でも売り子さんの声が多い場所に近づくと騒音レベルが一段と上がります。

 WIREDの《グーグル「スマホで科学実験を楽しむプロジェクト」を開始》はこんなデータを載せています。《『WIRED』UKはこのアプリケーションを試すため、複数のスタッフに、クローゼットの中で可能な限り大きな声で叫んでもらった。アプリケーションの録音機能を使ったこの「実験」の目的は、叫び声が最も大きい人を知ることだ。結果は80〜83デシベルだった》

 光の測定はもっと手軽にできるでしょう。我が家のリビングはLED照明になっており、フル照明では明るすぎるのでいつもは調光状態です。175センチ下のテーブル上で測ると「456」ルックスでした。フル照明だと「1000」ルックスを超え、保安灯状態なら「1」ルックスでした。仕事場のパソコンのキーボード上では「100」ルックス程度になっていました。

 グーグルが英語版ながら「Making & Science」《Science Journal》で使い方解説をしています。米国では風を測定するキットが買えます。スマホに備わるセンサーとしてもうひとつGPSがあり、今回は使われていないもののユーザーフォーラムを見ると「使えるようにして」と要望があり、検討されるようです。

 これまでも『本格的に空中散歩が味わえるグーグル3Dマップ』『グーグルアースの3Dマップが地方都市にも拡大』で紹介したように実践的に使えるツールを提供してくれるのは素晴らしいと思います。今回の測定アプリで例えば電車やバスの発進・停止の加速度を調べれば乗り心地が分かり、運転者の熟練度が見えるはずです。アイデア次第で生活の中や身近な自然の測定に活かせるでしょう。


日本列島を揺する地震軸エックス交差を地図に

 富士川河口断層帯の位置を産総研が特定したニュースを見て、日本列島を震撼させている地震の中心軸が二つである点を思い起こしました。エックスに交差している2大軸を一緒に見せる地図が無いので自ら作成しました。ひとつは西端で今回の熊本地震の震源になっている中央構造線で東の端は関東に至ります。もうひとつは東海地震や南海地震が心配されている南海トラフで、その延長が富士川河口断層帯で上陸して富士山の西を北上、長野県諏訪湖付近で中央構造線と交差し日本海に抜けます。グーグルマップ「中央構造線」の上に南海トラフなどのデータを書き込んだのが次の地図です。濃い青が中央構造線で空色は推定部分、南海トラフと延長は赤い線です。


 中央構造線から南側の陸地は、列島がまだ大陸の一部だったころ南方からプレートに乗ってやってきて元の列島北部と接合した部分です。その後、大陸の辺縁が割れ始めて列島が大陸から分離する際に、南海トラフと列島東側を南北に走る日本海溝とが強い力を及ぼして中央で折れた状態になりました。陥没したフォッサマグナ、大地溝帯の出現です。有名な糸魚川静岡構造線はその西側境界で、東側境界は新潟から東京東部・千葉に南下するラインにあります。

 産総研(2016/05/18)の《富士川河口断層帯の位置を陸・海で連続的(シームレス)に特定》はこう言います。

 《2013年に駿河湾北部沿岸域で地質・活断層調査を行い、沿岸部の陸域から海域にかけて連続的(シームレス)に富士川河口断層帯の地質構造を明らかにした。特に、富士川河口断層帯と駿河トラフは、雁行して配列する位置関係にあり、連続性があることが判明した》《富士川河口断層帯は、南海トラフで大地震が発生した場合に、連動して大きな被害をもたらす可能性がある》

 南海トラフの延長はフォッサマグナの境界ではなく中を走る形になっています。この付近の断層分布詳細をご覧になりたければ産総研の《起震断層・活動セグメント検索[GoogleMaps版] 》を見て下さい。延長が日本海に落ちた先は北上して日本海東部地震の震源域に繋がるようです。太平洋では南海トラフから中央構造線までの間には西から南海地震震源域や東南海地震震源域、さらには東海地震の推定震源域が連なっています。危惧されているのはこうした大地震が連鎖する事態です。

 こうして地図にしてみると日本列島の地震が連鎖しないわけがないと改めて思えます。第524回「熊本の大地震が関西にも地震を呼んだ観測結果」で熊本地震が関西地域に及ぼした観測結果を紹介しました。個々の地震について吟味しなくても地域として大づかみすれば見えるのです。地図で2大軸が交差した諏訪湖付近の地下は地表から見えないものの、折れ曲がりからして錯綜した構造になっているでしょう。南海トラフで巨大地震が起きる時には、平行している西日本の中央構造線だけでなく、交差している関東甲信越の部分にも響く可能性を考えたほうが良いと思います。


ワイヤレスで騒音カットのヘッドフォンは絶品

 初代ウォークマンの頃からヘッドフォンやイヤフォンを持ち歩いて来て、決定版と思える製品に出会えた思いです。ワイヤレスで騒音カットできるヘッドフォンは交通機関や地下街でも音楽の細かな味わいに没入できます。ソニーの新製品で「MDR-100ABN」です。既に百時間以上、慣らし運転をしながら試して素性の良さが分かりました。接続コードが無いのは確かに快適ですし、流行のハイレゾを掲げてもいますから、色々な場面の使い勝手を報告してみます。


 購入したのは5色ある内の青系で、3万円くらいで入手できます。折りたためる構造で幅18センチ、奥行き15センチの携帯ケースが付いてきました。Bluetooth 4.0に対応したワイヤレスで、私の場合はタブレットに蓄えた224kbpsのMP3ファイルを主に聴いています。圧縮音楽ファイルの高音域を回復させる機構が常時ONになっており、結構効いている感じです。写真左下のケーブルでも接続可能です。本体が電池切れの場合にも使いますが、音質は鈍くなります。右側部の下に曲送りやボリュームの操作部が見えます。

 ノイズキャンセリング機能が付いたヘッドフォンを前々から狙っていたものの、ノイズ打ち消し作用から癖が出る製品が多くて試聴して気に入る製品に出会えませんでした。このヘッドフォンはエージングを済ませると音楽を楽しめる高い品質があります。最低で30時間は必要で、これで楽器には十分ですが、最初きつい感じがあるボーカルは100時間くらい経過しないと滑らかになりません。普通の振動系だけでなく電気系統まで含めたエージングが要るのでしょう。

 大阪・梅田の地下街はゴーという大きな騒音に人の話し声などが乗っている環境です。このヘッドフォンを着けると密閉型であるためにぐっと騒音が減ります。さらに電源をONにしてキャンセリング機能を効かせると、おやっと思うほど静かになり、普段は意識しない耳の底にあるシーンという耳鳴りが表に出ます。《音楽を聞いて仕事に集中に最強! ソニー「MDR-100ABN」》に詳しい解説や類似製品との比較があり、周辺の騒音状態に合わせて3つあるキャンセリングのモードを自動的に切り替えているようです。

 家庭のリビングルームなら誰かがテレビを見ていても、あまり気にならずにタブレットで音楽やWOWOWなどのビデオ・オン・ディマンドを楽しめます。10メートルまでは離れて使えますから、飲み物を取りに行く場合など装着したままです。パソコンのそばでキャンセリングONにしてみると、換気ファンの騒音が消えたのにびっくりでした。パソコンにUSBで繋いだパイオニアのDA変換ヘッドフォンアンプ「U-05」と有線接続でハイレゾ・ファイルを聴いています。『流行のハイレゾ再生、ソフト選択で音質劣化に』で問題にした音質劣化もきちんと確認できて、ハイレゾの性能も間違いないようです。

 ベルリン・フィルのデジタルコンサートホールがこの春からハイレゾ・ファイルのネット配信を始めています。パソコンのヘッドフォン端子に有線接続するだけで良質状態で聞けた点も報告しておきます。

 我が家のメインヘッドフォンであるゼンハイザー「HD800」ほど先鋭な表現力はありませんが、その分、聴きやすいと思います。密閉型らしい骨太な低音を持つのでジャズやポップス系はHD800よりも楽しい感じがあります。ずっと静かな環境で聞いている感じになるので音楽のボリュームを上げる必要を感じません。埋もれていた弱音の微妙さが聴き分けられ、ダイナミックレンジが十分に取れているからです。

 これまでは騒がしい地下街で音楽を聴くならイヤフォンを大きな音にしないとダメでした。このヘッドフォンを着けて自分だけ静かな環境にいて、クラッシクの器楽曲など細かい音楽表現を楽しんでいるのは不思議な感覚です。ただし問題もあります。周囲の人の気配が耳から感じられなくなるのでぶつからないよう注意して下さい。クルマが来る屋外は危険です。屋外だと風が強い日は風切音が気になりますが、川沿いの散歩道を歩きながらゆったり楽しむのはいいと思いました。


2016年はタブレットがパソコンを逆転する年に

 円安による部品代上昇などが響いてパソコンの国内出荷が2015年に急減し、2016年中にタブレットがパソコンを逆転しそうになっています。円安の特殊要因で世界全体より一足早くタブレット優位実現の雲行きです。個人的にも仕事をする時はやはりパソコンながら、インターネットを軽くブラウズする用途や読書用の端末、動画の視聴などに使うなら常時オンになっているタブレットが便利です。現在の2代目タブレットの次候補は考えつつありますが、デスクトップパソコン更新は当分は無いと思っています。MM総研の調査による国内出荷推移をグラフにしました。


 プレスリリース《2015年国内タブレット端末出荷概況》と同《2015年国内パソコン出荷概要》が元のデータです。

 2015年の《国内パソコン市場の総出荷台数は前年比31.9%減の1,016.5万台》、《Windows XP機入れ替え特需の反動に加え、円安による部品代等の原価上昇がパソコン本体価格の値上げにつながり、大幅な減少となった。値上げの影響を受け、単価は8万5,962円と5年ぶりに8万円台に上昇した》。一方でタブレットは《総出荷台数は前年比8.4%増の943万台となり、出荷統計開始以来5年連続の成長》でした。今後も持続的拡大要因として《一般消費者向けは(1)キャリアのタブレット販売施策の強化 (2)MVNOサービスとの相乗効果によるSIMフリータブレットの増加があげられる。また、法人市場では(1)Windowsタブレットの拡大 (2)会員向けサービスや教育・高齢層など特定ターゲット向けB2B2Cモデルによる裾野の広がりが期待される》とされています。

 もともとタブレットは2015年にも1000万台突破が期待されていたので、2016年もこれまでの勢いが続けば933万台と予測されているパソコン出荷を軽く上回るでしょう。2010年初め、アップルiPad発売を前に『本当にタブレット型PCの年になった』を書きました。最初はかなり高価でしたが、いま持っているアンドロイド2代目タブレットは2万円台なのに必要な機能は満たしています。5年間で恐ろしく進化しており、ハードウエアのスペックよりも、どんなソフトが使えて何が出来るかが重要になりました。

 世界の動向は《日本と世界のPC市場〜東芝・富士通・VAIOでPC事業統合はあるのか?》で紹介されています。《IDCは2016年1月12日に2015年の世界パソコン出荷台数は2億7,620万台で、前年実績から10.4%も減少したことを明らかにした》《2014年通年での世界でのタブレット出荷台数は前年比4.4%増の2億2,960万台だった。PCの年間出荷台数が3億863万台であることを考えると、タブレットの出荷台数もPCに迫っていることがわかる》

 今月もう一つ、パソコンとタブレットの利用にに関する話題が提供されました。《日本はPC利用が中心の国であることが判明/各国で変わるメディア消費【カンタ―・ジャパン調査】》です。世界のモバイル・タブレットでのネット接続状況を50カ国で調べると、日本は飛び抜けて低く、依然としてパソコンからのネット接続が主流の国でした。日本に続くのはフィンランド、チェコ、ウクライナ、カナダなどで、米国や西欧はモバイル・タブレットでの接続とパソコン接続が半々という状況でした。

 私がいわゆるガラケーを使い続けている理由はスマートフォンの画面が小さすぎるからで、8インチのタブレットだと眼がとても楽です。年上の方でもタブレットの大画面なら楽に扱えますから、今年、国内でタブレット優位が確立すればパソコンからの乗り換えが加速するでしょう。気軽に外出時に持ち出せる点で、手持ちのノートパソコン2台は顔色無しの状態です。8インチタブレットが入る大型ポケットを持つベストを見つけたので、旅行やハイキングの際にはそこに突っ込んでグーグルマップをナビに使い、携帯用音楽プレーヤにしています。


原子力ムラの対極、熊取6人組の安全ゼミ終わる

 福島原発事故で原子力ムラが見せた狼狽と無責任の対極にある存在が、京大原子炉実験所を拠点にした批判科学者集団「熊取6人組」でした。2月10日、彼らが35年余り続けてきた原子力安全問題ゼミが幕を閉じました。グループで最後の実験所職員、助教の今中哲二さん(65)が定年退官するためです。最後の講演で今中さんが「行政の意思決定や政策実行に係る人々、つまり役人や政治家に間違いや不作為があった場合には個人責任を問うシステムが必要だ」と締めくくりました。世界の原子力史で未曽有の惨状を招きながらぬくぬくとしている原子力ムラの政治家・官僚・学者への痛烈な非難です。


 泉佐野市のホテルで開かれたサヨナラ懇親会での写真です。左から海老沢徹さん(77)、亡くなった瀬尾健さんの遺影を持つ今中さん、川野真治さん(74)、小林圭二さん(76)、それに昨年まで現職だった小出裕章さん(66)の5人が並びました。皆さんそれぞれとの様々な取材経験が脳裏に駆け巡りました。(参考サイト:原子力安全研究グループホームページ)

 私が熊取と深く関わるようになったのは1986年のチェルノブイリ事故がきっかけですから、ちょうど30年になります。83年に朝日新聞大阪本社科学部員になった頃、熊取6人組は「西の科技庁」と呼ばれていました。国の原子力政策、科学技術庁を批判するにしても徹底的に自分で取った実験・実測データを基礎にしていた実証主義で、全国の原発反対グループから厚い信頼を得ていました。

 福島原発事故でこうしたデータ主義と現場主義が鮮やかだった例は『飯舘村南部に広い高汚染地域:現地調査で確認』(2011/04/04) で伝えたケースです。飯舘村での高い汚染が今中さんたちの現地踏査で初めて目に見える地図になりました。これには前段があって第253回「高汚染無視で飯舘村民を棄民する国とメディア」(2011/04/01)で「国際原子力機関(IAEA)が福島原発の北西40キロ、飯舘村で測定した土壌の放射線レベルが極めて高かったのに、原子力安全・保安院は無視を決め込み、マスメディアは事態の意味を理解しようとしません。国とメディアが一体になった文字通りの棄民です」と指摘した状況を打ち破る実測データでした。

 その飯舘村の今について今中さんは「除染という名の環境破壊が進み、惨憺たる有様です。国は来年には村民を帰す方針ながら、村民1人当りで何千万円という無駄な除染費用を使っています」と主張します。個人の生活再建こそが目的のはずなのに、村の再建に目標がすり替わり、除染しても放射能レベルは半分にしかならないのですから多くの村民は帰村しないでしょう。

 今中さんや小出さんたちと福島原発事故の関わりは第258回「在京メディアの真底堕落と熊取6人組への脚光」(2011/05/11)でまとめています。原子力ムラが発する「がん発生のリスクが高くなるという明確な証拠があるのは100ミリシーベルト以上」とする恐ろしく一方的な断定を当時のマスメディアが臆面もなく報道する中で、中央官庁に依拠しないオルタナティブ情報源としての熊取6人組の価値が大きく見直されたのです。

 この第112回安全ゼミの最後で小出さんが厳しい発言をしています。「福島原発事故で出された原子力緊急事態宣言は5年経っても未だに解除されていません。この宣言があるために放射線防護関連法令が停止され、これから何十年もこのままでしょう。それなのに経済優先の安倍内閣は『アンダーコントロール』と嘘をついてオリンピックを誘致しました。こんな国なら私は喜んで非国民になります」。他の地域なら放射線管理区域並の汚染として禁じられる場所に、福島では人が住み、飲食をして寝ているのです。

 チェルノブイリ事故当時は優れた運動組織者だった阪大理学部講師の久米三四郎さんが元気で、毎週のように熊取の会議室に集まって事故の進展を睨みながら分析をしたのを記憶しています。私も83年の欧州取材で知り合った研究機関などからドイツやスウェーデンの汚染データを入手して討論に加えてもらいました。福島原発事故ではこうした活動が出来なくて残念でしたが、事故翌日に書いた第244回「福島第一原発は既に大きく壊れている可能性」など一連の分析記事は、チェルノブイリ当時の経験、その後、科学部員でなくなっても通った安全ゼミがなければ不可能だったと思えます。


危機の現状に対策が噛み合わぬ科学技術基本計画

 1月下旬に閣議決定された新年度からの第5期科学技術基本計画の駄目ぶりに呆れています。論文数・重要論文数の減少顕著と認識するのに原因たる政府の失政を見ず、基盤改善無しに小手先で対策が打てると主張します。計画検討段階で出された科学技術・学術政策研究所による《研究論文に着目した 日本の大学ベンチマーキング2015》の参考資料からグラフ「日本の論文数、Top10%補正論文数、Top1%補正論文数の世界ランクの変動」を引用します。全領域でこんなに国別ランクが下がり地盤沈下したのを放置して、夢物語のイノベーションを語ってどうするのでしょうか。


 左から「全体」「化学」「材料科学」「物理学」「計算機科学・数学」「工学」「臨床医学」「基礎生命科学」の分野が並んでいます。各分野ごとに3つに分かれ、「ALL」は論文数、「Top10」は他の論文に引用された件数が世界のトップ10%に入る注目の論文数、「Top1」は世界のトップ1%に入る更に重要な論文数です。

 2001〜2003年のランクと比べて2011〜2013年のランクがどう動いたか赤い矢印が示しています。日本は全体のALLで見て2位から5位に、Top10で4位から8位に、Top1では5位から12位にも下がっています。順番に右へ見ていただけば分かる通り、どの分野・カテゴリーでも赤い矢印は下向きで軒並みにランクを落としています。今後、世界を引っ張れるはずがなく、無残と申し上げます。

 2001〜2003年と2011〜2013年の間に何があったのか、2004年の国立大学法人化とそれに続く運営経費毎年1%削減による「国立大学いじめ」を指摘せざるを得ません。この報告はグラフに続けて以下のように指摘します。

 《世界における我が国の位置の相対的な低下に対し、国の中の構造の変化がどのように起きているかをモニターしたところ、我が国の論文産出において主力となるのは大学部門であり、国公私立大学全体で論文産出の72.6%(全分野)を占めることが明らかとなった。つまり、我が国の論文産出においては、大学の勢いが国全体の勢いに大きな影響を及ぼす》

 2001〜2003年から2011〜2013年の間、世界的には研究論文は増え続けているのに日本の論文数は3%減りました。国立大が4%も減らし、私立大は12%増加、特法・独法の研究機関が8%増やしても国立大の減少の大きさには太刀打ちできませんでした。

 第5期科学技術基本計画の本文も「今世紀に入り、我が国の自然科学系のノーベル賞受賞者数が世界第2位である」と誇りつつも問題点を認めます。「まず重視すべき点は、我が国の科学技術イノベーションの基盤的な力が近年急激に弱まってきている点である。論文数に関しては、質的・量的双方の観点から国際的地位が低下傾向にある。国際的な研究ネットワークの構築には遅れが見られており、我が国の科学技術活動が世界から取り残されてきている状況にあると言わざるを得ない」。まさに危機的です。

 それでいて対応策は「問題点の背景には、科学技術イノベーション活動の主要な実行主体である大学等の経営・人事システムをはじめとする組織改革の遅れや、組織間、産学間、府省間、研究分野間等の壁といった様々な制度的要因などが存在する。こうした点について、改善を速やかに進めていく必要がある」とするだけで、政府・文科省の失政「国立大学いじめ」には言及しません。

 それどころか第511回「科学技術立国さらに打撃、大学淘汰で研究職激減」で伝えているように、予算編成でこれからは国立大学への交付金毎年1%削減がルール化されてしまいました。また「科学技術イノベーション活動を担う人材に関して、若手が能力を十分に発揮できる環境が整備されていない、高い能力を持つ学生等が博士課程進学を躊躇しているといった問題点もある」と他人事にように憂うだけで、研究職ポストの激減が近未来に迫っている現実を見ません。

 対策としては科研費などの効率的な配分で対処できるとの議論があります。これは「我が国の科学技術活動が世界から取り残されてきている状況」の根本原因を無視した議論です。2004年の第145回「大学改革は最悪のスタートに」で問題提起したように、依然として多数を占める「たこつぼ型」研究者を、広い視野を持つ自立した研究者に変えていくしか道はありません。たこつぼを出てお互いの研究を評価し合えるピアレビューが出来るようにしなければなりません。こうした研究姿勢の根本のところで欧米に追い付いておらず、科研費審査なども学閥のネームバリューに頼る現状で効率的な配分が出来るはずがありません。


科学技術立国さらに打撃、大学淘汰で研究職激減

 先進国で稀な研究論文数の減少・大学ランクの退潮と科学技術立国が危ぶまれる事態の中、間もなく18歳人口減少で大学淘汰が起きます。政府の失政による若手研究者のポスト不足に、研究職激減の大波が加わります。2018年以降の大学淘汰時代が見えやすいよう、文部科学統計要覧・学校基本調査など公開資料からグラフを作りました。平成に入った1989年から2024年まで35年間の18歳人口の推移と、2015年までの4年制大学進学率の実績です。


 18歳人口は団塊ジュニア世代がピークを作った1992年に比べると半減する勢いで減っています。2024年以降さらに18歳人口減は加速しますが、2024年に限っても2015年から14万人も減ります。大学進学率は男女合計で51.5%と頭打ち状態になり、これから伸びる余地はほとんどありません。減少分14万人の半分、7万人が大学に進まなくなると仮定して、現状に比べて学年定員1000人の大学が70校も不要になる計算です。10年もせずに起きる大変化です。

 現在でも私立大学の100校ほどで定員充足率が8割を切っています。こうした大学を中心に閉校と大学規模の大幅縮小が急速に進まざるを得ません。当然、多数の教員ポストが消えてしまいます。現状でさえ少ない若手研究者の就職先がなくなります。研究活動の基盤が損なわれるでしょう。

 研究論文数の減少や国際的な大学ランクの退潮については第500回「大学ランク退潮は文科省が招いた研究低迷から」第503回「国を滅ぼす機械的予算削減しか能がない財務省」で、国立大学法人化以降、自由を与えるどころか大学を締め付け続ける政府の失政であると論じました。

 この傾向は改善されるどころか、悪化の一途のようです。2016年度の予算編成について《国立大学の運営費交付金 17年度以降は毎年削減》が報告しています。2016年こそ交付金減額を一年停止したものの、《毎年、人件費など最も基盤的な経費にあてる基幹運営費交付金を約1%にあたる約100億円を削減》するルールが出来てしまいました。財務省の意向が通ったようです。

 《毎年削減される100億円の半分を「機能強化経費」に再配分するとし、残りの財源で設備整備むけの補助金を新設するとしていますが、これらは人件費などの基盤的な経費に充てることはできません。ある地方大学の学長は、「これでは教職員数を削減するしかない」と語っています》。財務省は大学教員は多すぎると認識していて、教育のためだけならもっと減らせる、研究活動は一部の優れた大学に集中すれば十分と考えているようです。

 毎年のように日本がノーベル賞の科学部門受賞者を出しているのは、大学の研究活動が自由で伸び伸びしていた時代に拾い出されたタネが芽吹いた結果です。国内の研究者は「たこつぼ型」と称されるように視野が狭いのですが、自分のフィールドを職人的に追求する作業は地道にやってきました。そうした職人仕事ピラミッドの上に現在の科学技術立国は築かれているのです。

 本当に研究を効率化するには職人から研究者になってもらう必要があります。第145回「大学改革は最悪のスタートに」〜急務はピアレビューを可能にする研究者の守備範囲拡大〜で論じた研究者の体質改善しか道はありません。現状を放置して「優れた研究者」にだけ資金を集中する文部科学省の手法が失敗に陥ると断言できる根拠は、学閥的権威に依存して優れているかどうかを判断するしかないからであり、欧米のような真っ当な研究評価が出来ない体質だからです。これでは「選択と集中」が成功するはずがありません。

 こうした政策的な錯誤の上に、さらに人口減という社会的な変動が加わり、科学技術立国は危機的です。防戦一方になっている大学側は余裕を失い、社会から求められる、現代にふさわしい人材供給の役割を果たしているとは言えません。


東アジア4カ国のノーベル賞事情と論文数推移

 ノーベル賞の科学部門で東アジア4カ国から日中3人が受賞しました。日本21人、台湾3人、中国1人、韓国0人が累積です。中国の受賞は日本以外で初の純国産の研究であり、取り残された韓国のショック大です。ノーベル賞は当該分野研究の突破口を開いた仕事に与えられます。科学的トライの総量が大きくなると画期的な仕事が現れる確率が高くなると考えられます。その国での学術論文の生産量が目安になるので、1995〜2011年で4カ国の論文数推移をグラフにしました。日本の将来の危うさが見えます。


 3人の受賞者を出している台湾は人口2300万人と少ないこともあり一番下です。1957年に物理学賞で2人、1986年に化学賞で1人の受賞ですが、いずれも米国の大学教授であり台湾産の仕事とは言えません。中国はいまや米国に次ぐ世界2位の論文生産国ですが、累積量を考えるとこのグラフの期間でも日本よりまだ少ないと言えます。日本には1980〜1990年代にも大きな蓄積がありますから、ほとんど国産の研究で21人もの受賞者を出しているのは当然でしょう。

 この観点から言えば、韓国の論文生産累積量は大した量ではなく受賞ゼロは無理からぬ所になります。しかし、中央日報の《【社説】中国までノーベル賞の隊列に…落ち着かない韓国は》には、ひとり取り残された無念が漂います。

 《毎年ノーベル賞が発表されるこの時期になると韓国の私たちは、競争国である日本と受賞実績を比べながら神経を尖らせた》《ところが今回は中国までも登場した。それでも産業化ではまだ韓国に遅れているとみていた中国が科学分野のノーベル賞をもらい始める現実を目の前で見ることになったのだ。日本は昨日、物理学賞も再び受賞した》

 韓国の研究活動は実用研究志向に過ぎ、ノーベル賞が出るような基礎科学分野が軽んじられているとは韓国メディアでも指摘されていました。《これはやばすぎる:日本の工学系論文数はすでに人口5千万の韓国に追い越されていた!!》に学問分野別の各国論文数ランクがまとめられています。

 韓国は物質科学、エンジニアリング、コンピュータ科学の工学系分野で日本を追い越すまでになりました。しかし、物理、化学、生物など基礎分野では日本と歴然とした差があると知れます。一方、中国は物理、化学、数学のほか物質科学、エンジニアリングでも米国も抜いて1位です。これからは侮れない存在になると確認できます。

 ただし、今回、マラリア治療薬「アルテミシニン」発見で受賞した屠ユーユー氏(84)のケースでは素晴らしい仕事を自国内で評価できないシステム欠陥も露呈しました。毛沢東が指示した532プロジェクトが1978年にアルテミシニンを発見とした際に、発見者の名前は明かされませんでした。各種の圧迫の下で博士号も持たず共産党・政府機関へのコネもない彼女は発見者として主張を貫き、ラスカー賞受賞で国内より先に国際的に認められました。

 人口が日本の10倍もある中国で膨大な科学的トライが進行すればブレークスルーになる仕事が現れて当然です。これに対して日本では第500回「大学ランク退潮は文科省が招いた研究低迷から」で指摘したように、2004年の国立大学法人化から論文生産が減り続けています。

 普通の企業経営で言われる「選択と集中」が学問分野で出来るとの安易な不見識が政府にはびこっています。再びグラフを見て下さい。韓国との人口比は2.6倍、台湾とは5.6倍です。人口あたりの論文数で両国に張り合おうとすれば日本の論文数は現在の5割増しにもならねばなりません。それが減っているのですから、この10年はともかく、近未来ではノーベル賞は激減すると断じて構わないと考えます。


大学ランク退潮は文科省が招いた研究低迷から

 英国の教育専門雑誌が発表した世界の大学ランキングで日本勢の退潮が顕著に。政府はトップ100に10校の目標を掲げるのにトップ200にいた5校が2校に激減。これは国立大の研究活動を低迷させた文科省の責任です。読売新聞によると《下村文部科学相は2日の閣議後記者会見で、「論文引用の日本の地位が低下傾向にある。留学生や外国人教員の比率も国際的な評価が低く、文科省も大学も危機感を持たないといけない」と述べた》のですが、元凶がご自身である点に気付きません。

 工学系の論文数で日本が韓国にも負けるようになったのでは、世界に伍していけるはずがありません。《これはやばすぎる:日本の工学系論文数はすでに人口5千万の韓国に追い越されていた!!》(ある医療系大学長のつぼやき)の分析をご覧ください。かつては得意としていた物質科学、エンジニアリング、コンピュータ科学の分野で韓国に置いて行かれました。

 論文数全体でも先進国の中で日本は特異な減少傾向にあります。論文引用とは研究者が新たな論文を書く際に参照した研究を挙げるもので、研究対象や手法の斬新さが物を言います。国内の研究全体が衰え、低迷傾向にあるのですから斬新な仕事が減って当然です。第495回「浅知恵、文科省による研究崩壊へ予算編成開始」で掲げた国立大学法人運営費交付金の推移グラフをもう一度掲げましょう。


 2004年の国立大学法人化以降、大学の人件費がほぼ半分を占める交付金を減らし続け、弱小大学ではもう研究どころではなくなっています。企業経営では「選択と集中」の手法がよく言われますが、研究活動でそれをしようとするならば物凄い目利きが多数必要です。科学記者が長かった私から見てそんな人材は日本では希少です。やはり研究のフィールドを広く取って草の根の仕事をこつこつ積み上げるべきです。「つまらない研究は要らない」と切り捨てる現在の政策は自殺行為です。

 東京大が昨年の23位から43位、京都大も59位から88位と大きく順位を下げました。ノーベル賞を受賞したiPS細胞の研究だって京大で生まれた仕事ではありません。底辺から新しい芽がどんどん出て来なければ東大・京大の二強だって活力が無くなります。200位圏から去ったのは東工大、阪大、東北大です。

 大学ランキングにも色々あり、トムソン・ロイターによる同社最初の国際大学ランキング「イノベーティブ大学ランキング」では、日本は100位内に阪大の18位など9校が入ったそうです。こちらは大学が持つ特許や論文の引用、産業界との連携などを分析しています。言わば過去の資産を重んじている感じで、現在の活性度とはすこし違います。


来年は中韓で危うい新大型原発の運開ラッシュ

全く新設計の大型原子炉、それも実証炉など造らずいきなり商業炉建設に突き進んでいる新型原発が2016年、中韓で相次いで運転開始になります。原発管理に危うさがある両国だけに隣国民として注視せざるを得ません。いずれも100万キロワットを大きく上回る大型炉です。世界原子力協会のデータベースや報道をまとめると、運開一番手は米ウエスチングハウスによるAP1000型(125万キロワット)が中国・山東海陽サイトで、次いで韓国開発のAPR1400型(140万キロワット)が韓国・新古里サイトで、最後が仏アレバによるEPR型(175万キロワット)が中国・台山サイトでとなりそうです。


 3種の新型原発が建設されているサイトを地図にまとめました。上記3サイトのほか中国・三門のAP1000、韓国・新蔚珍(シンウルチン)のAPR1400はそれぞれ2017年の運開を予定しています。5サイトいずれも2基まとめて造られています。

 2014年春に書いた第419回「新型炉ばかりの中国原発、安全確保に大きな不安」でAP1000型とEPR型は2014年中の運転開始としていましたが、機器の設計に問題が発生して延び延びになっていました。AP1000は米国でもまで出来ておらず、中国が最初の建設サイトです。またEPRは先行してフィンランド・オルキルオトと仏・フラマンビルでも建設されていますが、トラブル続きで2018年にならないと運転できないと報じられています。EPRについてはトラブルでの建設費高騰が伝えられています。

 APR1400型については第469回「韓国のサウジ向け小型原発は韓流ファンタジー」で触れています。アラブ首長国連邦(UAE)に輸出されて現地で4基を建設中です。売り込みの条件として今年9月までに新古里3号機を運転する約束になっていました。違約すると毎月3億ウオンを支払わねばならないのですが、制御バルブを納入している米GEがリコールを申し入れて、韓国政府の運転許可審査が秋以降になりました。

 新古里3号機では昨年12月、地下ガスバルブ室で窒素ガスが漏出、作業員3人が窒息死する事故が起きています。窒素ガスは冷却水を原子炉に送り込む圧力を高めるために用いられています。死亡事故自体も大変ですが、窒素ガス漏れ警報機が備わっていなかった点が原発の安全上、大きな欠陥と考えられ、運転開始が遅れる一因になりました。独自設計の落とし穴を象徴しています。180億円のほどの開発費で設計しただけで大型商業炉にしてしまう、しかも稼働寿命を現在標準の40年から60年に延ばす強引さに、原子力の取材が長かった者として懐疑的にならざるを得ません。

 AP1000型を設計したウエスチングハウスは加圧水型炉の開発メーカーであり経験は豊富です。しかし、中国にはAP1000を拡大したバージョンCAP1400型を独自開発して世界に売り込む計画があって、AP1000でも主要機器の中国国産化が急がれています。まず1号機を動かして具合をみてからではなく、建設中から次々に国産化です。第478回「未運転の新型原発を売る商売に中国と韓国が熱中」でも指摘しましたが、原子力の安全確保よりも商売が先行した前のめり姿勢はどう考えても不安です。中国の原発管理基準が国際的に見て劣っていると技術幹部が認めているのですから。


浅知恵、文科省による研究崩壊へ予算編成開始

 文部科学省の2016年度概算要求が公表され、恐れていた国立大の研究崩壊へ予算編成の歯車が回り出しました。この問題について在京マスメディアはあまりに鈍感であり、科学技術立国が危機に瀕する事態に気付きません。86校ある国立大を3つのランクに方向付けする予算編成ですが、教育研究の基盤になっている国立大学法人運営費交付金に大きく手が付けられます。それでなくとも世界の中で日本の論文数だけが異様に停滞している傾向を第479回「無残な科学技術立国、人口当たり論文数37位転落」などで伝えてきました。2004年の国立大学法人化がきっかけになったのは明らかで、間違った政策の総仕上げがされようとしています。


 2004年から国立大学法人運営費交付金がどう推移したかグラフにしました。法人化にあたり国会で「法人化前の公費投入額を踏まえ、従来以上に教育研究が確実に実施されるよう必要な所要額を確保」との附帯決議があったのに、毎年1%程度は減額され続けてきました。文科省は《教育研究の基盤的な経費として、人件費・物件費を含めて使途を特定せず、「渡し切り」で措置》との建前をとりますが、2013年度に東日本大震災に対処する国家公務員給与一律削減で425億円がカットされています。この事実から交付金の半分は教職員の人件費と考えられます。毎年続く減額で自由に使える研究費などとうに払底したと見られます。

 2016年度概算要求と同時に各国立大が3つのランクのどれに向かうか判明しました。旧七帝大など16校が「世界トップ大学と伍して卓越した教育研究を推進」に、北陸と奈良の先端科学技術大学院大学など15校が「分野毎の優れた教育研究拠点やネットワークの形成を推進」に、その他55校が「地域のニーズに応える人材育成・研究を推進」へと分かれました。

 3ランク方向付けを支援するために404億円の新規予算枠が設けられ、運営費交付金総額で今年度比420億円増の要求です。この要求に財務省がそっくりオーケーを出すはずがありません。現に2015年度予算では11530億円の概算要求に対して10945億円が認められたにすぎません。

 文科省自身が新規に特別枠を作るには交付金総額を絞って捻出するのを建前にしてきましたし、予算を付ける財務省が「大学の先生は多すぎる」と考えている事実を第397回「国立大学改革プラン、文科省の絶望的見当違い」で指摘しました。予算編成本番を待つまでもなく、404億円の3ランク方向付け新規予算は既存の交付金を削って実現されるでしょう。

 さらに概算要求では「共同利用・共同研究拠点が行う国内外のネットワーク構築、新分野の創成等に資する取組や附置研究所等の先端的かつ特色ある取組に対して重点支援」として388億円が設定されています。今年は83億円しかなかった枠ですから305億円の増額であり、交付金総額が毎年100億円以上も減額されてきた実績を勘案すると従来の交付金から800億円が消えるはずです。ランクが下の大学を中心に教職員の給与減額や首切り必至の状況に陥りますから、ますます研究どころでなくなります。

 政府は教育再生実行会議がまとめた「世界トップ100に10大学」提言が示すように、トップレベルに予算を集めて支援したいと考えています。近年のノーベル賞受賞者続出に気を良くして、雑多な研究などどうでもよく、優れたタネだけ育てたいのです。ところが、優れた研究が出てくるためには広い底辺が必要であり、次に脚光を浴びている仕事がどこから現れるかは誰にも分かりません。トップレベル10大学だけが聳え立つペンシル型の大学分布状況になったら、今が良くても明日は無いと知るべきです。

 大学改革の本当の問題点は絶対的に足りていない政府予算をいじくり回して解決するものではありません。科学記者としての経験を基に2004年の国立大学法人化にあたって第145回「大学改革は最悪のスタートに」〜急務はピアレビューを可能にする研究者の守備範囲拡大〜を書いています。


国立大の2016年研究崩壊に在京メディア無理解

 中央官庁の官僚から教えてもらって記事を書く在京マスメディアは2016年に迫った国立大学改革による研究崩壊を理解できません。ところが今年の科学技術白書は「基礎研究力の低下が懸念」と明記しているのです。人文社会科学系や教員養成系の学部・大学院に対し社会的要請の高い分野に転換するよう見直しを迫った点だけがクローズアップされ、国立大を3ランクの枠組みに再編し、取り組みを評価した大学に運営交付金を重点配分する方針が持つ破壊的な作用が見えなくなっています。世界のトップクラスを目指す有力大学に資金が集中され、その他大勢は人件費も危うくなって研究どころではなくなるはずです。


 文部科学省が作った平成27年版科学技術白書から論文数の世界シェアグラフを引用しました。2000年頃に10%くらいまで高まったシェアが最近は7%ほどに落ちています。第435回「2016年に国立大の研究崩壊へ引き金が引かれる」に掲げた論文数の推移グラフは日本だけが特異に減少していました。シェアにすると英独仏も下がり気味になりますが、日本の下降カーブは極端で、このまま将来まで下降を延長すると恐ろしい結果になると思わせます。まさに科学技術立国どころでなくなります。

 科学技術白書も「論文数の国際的なシェアを見ると、いずれの指標も相対的に低下傾向にあり(第1-2-3図)、我が国の基礎研究力の低下が懸念される」と率直に認めています。「こうした状況の背景として、量的側面に関しては、主に大学の研究開発費の伸びが主要国と比較して低い」とし、「国立大学法人化及び独立行政法人化以降、国立大学及び国立研究開発法人の運営費交付金がほぼ毎年減少してきている(第1-2-17図及び第1-2-18図)。大学においては、これを理由として、教員や研究者等の安定的なポストの減少や事務機能の低下、研究者が腰を据えた研究ができるような経常的研究経費の減少などの問題が生じている」とまで明記しています。白書の主題と離れた部分ではあるものの、よく正直に書いたと言えます。

 文科官僚が上記のように説明していたならメディアも間違わないのですが、読売の社説《国立大学改革 人文系を安易に切り捨てるな》を見ると、全く違う話を聞いているようです。《2004年度の国立大学法人化により、大学の運営や財務は自由度が高まった》とは、大学の現場を知らないで書いている愚かさが歴然です。《大学が、グローバルに活躍する人材や地方創生の担い手を育成する機能への期待は大きい。文科省が今回の通知で、各大学に改めて、強みや特色を明確に打ち出すよう促したのは理解できる》と持ち上げ、《厳しい財政事情を踏まえれば、メリハリをつけた予算配分も大切だろう。ただ、「社会的要請」を読み誤って、人文社会系の学問を切り捨てれば、大学教育が底の浅いものになりかねない》と批判のふりをして見せます。

 社説では北海道新聞の《国立大「改革」 無理ある要請だ。撤回を》が真っ当な主張をしています。《文科省の方針の下敷きには政府の産業競争力会議からの要請がある。4月の会議で、大学の役割を明確にし交付金の配分にメリハリを付ける方向を打ち出した。そもそもそれが筋違いで無理がある。04年に国立大学が法人化された際、各大学が独自性を発展させ、主体的に研究を切磋琢磨(せっさたくま)する将来像を多くの教員が描いたはずだ。その期待を裏切るばかりか、反対の方向に向かうようでは大学の未来は危うい》

 既に人材は離れつつあります。第480回「瓦解していく科学技術立国、博士進学者は激減」で指摘した通りです。科学技術白書はこの点でも信じられぬほど率直です。「大学や研究開発法人の基盤的経費の減少等を理由として、若手が挑戦できる安定的なポストが大幅に減少している」「こうしたことにより、近年、博士課程への進学者が減少傾向にあり、望ましい能力を持つ学生が博士課程を目指さなくなっているとの指摘もある」

 白書にここまで書くのなら、メディアの記者にもどうして説明してやらないのかです。書いたのは文科省の主流ではないのかも知れませんが、自分で勉強しない記者側の不甲斐なさを思わずにいられません。


日本のパソコン技能がOECD最低報道の誤解

 経済協力開発機構(OECD)が発表した『技能アウトルック』2015年版をもとに日本人のパソコン技能が最低レベルと報道されています。スマートフォン流行が若者を駄目にしたとか、これまでの経緯を知らぬ誤解が散見です。もともとの発信源が日本を知らぬ中国メディアの騰訊科技で、日本の現状を「発見」してしまい、国内ネットのあちこちで同調が見られるようです。しかし、2011年の拙稿『日本人の4割はパソコン無縁:欧米と大きく乖離』で指摘したように日本人にはパソコン無縁層が厳然として存在しているのです。まずOECD報告から該当部分のグラフ「Figure 2.5. Youth who lack basic ICT skills」を引用します。


 騰訊科技の報道は《日本人の「ICT能力」が最低水準!・・・多くの技術革新を成し遂げた国で「驚くべき結果」と中国メディア》などで見られます。16〜29歳の青年層で「約10%がOECDの基本技能評価テストに合格できなかったと紹介。さらに約15%がテストそのものを拒否した」と伝えています。棒グラフの右端が日本で、OECD諸国中で最低をポーランドと競っている状況です。北欧諸国やドイツ、オランダでは落ちこぼれが5%もいませんから格差歴然です。

 スマホしか使えず、パソコンには見向きもしない若者が溢れだしている現状と結び付けて、スマホ流行の結果だとする論調になるわけです。しかし、直接の原因は2003年から高校の必修科目になっている情報教育の失敗でしょう。さらに、『日本人の4割はパソコン無縁:欧米と大きく乖離』で描いたように世界の大部分では収入があればパソコンは買うものなのに、日本ではお金があっても買わないデジタル・ディバイド層がいて、不思議と思われないのです。

 パソコンって面白いもので色々と使えるのだ――と教えられる先生が、高校で決定的に不足しているようです。今年も立命館大で、300人ほどの大教室講義に招かれて《ネット活用オリエンテーション》を話してきました。メディア論に入る前のサービスとして30分くらい、多数の興味深いウェブを実際に画面に出して使って見せています。ある4年生は「1年の時にこれを聞いておきたかった」と言っていました。情報教育では面白く使えると知らせる前に、小難しい教材でスポイルしているのではないかと疑っています。参考までに立命館で使ったリンク付きレジュメを原文のまま掲示しておきます。

  ◆  ◆  ◆

《ネット活用オリエンテーション》

 ネットを知的なツールとして活用することが、この時代に生きる一般市民に求められているのだが、大学で話してみると必要な基礎知識が意外に知られていない。お気に入りのページをいくつか持ち、気になれば検索エンジンを使う程度でネットを使えていると思う人が学生の皆さんにも多い。今回の講義ではネット活用法を導入部にしたい。ネットだけに限らず情報リテラシーの能力は現代を生きる必須の力だと思う。例えば「ヤフーニュース」と「グーグルニュース」はどう違うか知らないで使っていないか。

 ☆消えてしまったホームページの検索……「検索デスク」から「WayBack Machine」を使う。米国にあるNPO「Internet Archive」が1996年以来、世界のウェブを蓄積している。
     例:アップルの過去ウェブを調べる
    「科学をなめている『あるある大事典』捏造」 は見せたくなくも消せない過去

 ☆便利な社会データ集……膨大で丹念な更新「社会実情データ図録」
    多彩な相関分析ができる「国際日本データランキング」

 ☆過去と未来の年表類……「広告景気年表」「未来年表」
     年表は歴史物だけではない。広告大手の電通と博報堂による年次データ収集。

 ☆イメージで知る世界……
   5千年の世界史を90秒で見せる「マップス・オブ・ウオー」History of Religion
   日常品300種の出来るまで工場見学「THE MAKING」
   3Dパノラマ「panoramas.dk」
   世界の美術を細部まで拡大鑑賞「Google Art Project」(例:Gogh星月夜)
    世界中の今吹いている風を見られる――
     「earth :: an animated map of global wind and weather」
     3Dパノラマ風景例=「ニューヨーク・ビル群パノラマ」
         「ベルサイユ宮殿・鏡の間パノラマ」(天井壁画も是非)

 ☆訳語がポップアップするなど高機能の辞書……「POP辞書」「Weblio辞書」




瓦解していく科学技術立国、博士進学者は激減

 知的な営みを象徴する論文数が減少し、人口当たりで見れば東欧の小国にも抜かれています。研究者の供給源、博士課程への進学者が激減しているのですから、国是のはずの科学技術立国は瓦解と申し上げて良いでしょう。ポスドク1万人計画に乗った結果、定職がないまま30代後半から40代にもなった研究者からは悲痛な声があがっています。この事態にも政府は異常を感じ取れないと見えます。国立大学運営費交付金の重点配分が2016年から強化されると、中小の大学は人件費が賄えなくなって定員を減らさざるを得なくなります。退職者が出ても新規採用の見送りで対処するでしょうから研究者のお先真っ暗感は深まるばかりです。


 文部科学省の学校基本調査から大学院博士課程への入学者数を拾いました。2003年には18232人もいた入学者が2014年には15418人にも減りました。しかし、実は社会人からの入学者が急増しているために嵩上げされています。社会人を除いた進学者のグラフも作成すると、2003年の14280人が2014年は9608人まで減りました。何と3分の2です。人口当たりの博士号取得者は日本は欧米の半分以下ですが、今後さらに差が開くでしょう。

 博士号を取得したのに展望が無いのですからやむを得ません。生物科学学会連合のポスドク問題検討委員会が4月に《<重要なお願い>生物科学学会連合より行政(国、地方)、企業、大学・研究機関、および研究者コミュニティーに対するお願い》を出しました。そこから「図3:大学院博士課程修了者数と大学教員(25〜35才)の採用数の推移」を引用します。


 1991年には博士課程修了者数6201人に対して大学教員(25〜35才)採用数が5428人とほぼ見合っていたのに、90年代に進んだ「大学院重点化」で博士課程修了者数が急増しました。2013年には修了者16446人に対して、大学教員採用数は4982人しかありません。溢れている多くはポスドクになり、2013年段階で35才以上のシニアポスドクが37%を占めるほど高齢化しています。40才以上は16%です。《今、次世代を担う若手研究者が窮地に陥っています。ポスドク(任期付博士研究員)の雇用促進と研究者育成に是非ご協力ください》と訴える所以です。

 ポスドク1万人計画から「卒業生」が出始めた2001年に読者共作2「ポスドク1万人計画と科学技術立国」を書いています。日本のポスドクの仕組みが将来への展望を欠いており、大学の封建的な運営にも問題があると指摘しました。顧みて当時の心配がほとんど解消されていません。

 2011年閣議決定の第4期科学技術基本計画が使う現実と乖離した言葉の虚しさ、空々しさを見てください。《優秀な学生が大学院博士課程に進学するよう促すためには、大学院における経済支援に加え、大学院修了後、大学のみならず産業界、地域社会において、専門能力を活かせる多様なキャリアパスを確保する必要がある。このため、国として、博士課程の学生に対する経済支援、学生や修了者等に対するキャリア開発支援等を大幅に強化する》

 シニアポスドク問題がここまで深刻になると打つ手はあるのか、もう手遅れではないかと思えます。政府・文科省は10年、20年先を考えるスタンスを持たず、その場凌ぎを繰り返していると断じて良いでしょう。


無残な科学技術立国、人口当たり論文数37位転落

 科学技術立国を唱えてきた日本の無残な実情が見えました。人口当たり論文数を指標にすると東欧の小国にも抜かれて世界で37位に転落です。国立大学法人化で始まった論文総数の減少傾向が根深い意味を持つと知れます。国際的に例が無い、先進国での論文長期減少の異常を最初に指摘して反響を呼んだ元三重大学長、豊田長康氏が新たに作成したグラフを《いったい日本の論文数の国際ランキングはどこまで下がるのか!!》から引用します。


 グラフは「人口当たり全分野論文数の推移(3年移動平均値)。日本は多くの東欧諸国に追いぬかれた。」です。年単位の凸凹をならすために前後3年間の平均を採用しています。右端に並ぶ国名が2014年での世界の人口当たり論文数ランクになります。この数年でクロアチア、セルビア、リトアニア、ハンガリー、ポーランド、スロバキアといった東欧の小国に追い越されたばかりでなく、欧米先進国との差が開くばかりである惨状が分かります。

 世界的な論文数増加の勢いに取り残される傾向が、バブル崩壊があった1990年代から始まっている経過も見えます。北欧の小国はもともと上位を占めている上に、2000年前後の世界的伸長ペースに取り残されて西欧の小国にも置いて行かれました。さらに東欧諸国にもという次第です。

 2014年の論文総数は「昨年と同様に世界5位で順位は変わっていませんでした。ただし、人口が半分のフランスに接近されており、このままのペースが変わらないと仮定すると3年後にフランスに追い抜かれて6位になります」。人口当り論文数は「国ではありませんが香港を加えますと、国際順位としては37位」、「このままの政策が継続されれば、さらに国際競争力が低下する」と豊田氏は主張します。

 昨年6月の第435回「2016年に国立大の研究崩壊へ引き金が引かれる」続編で政府・文部科学省が採っている大学「改革」政策の無謀さを指摘しました。論文総数の異常減少グラフはそちらで見てください。

 豊田氏の分析が、論文数は大学への公的研究開発資金に左右されることを示しており、それは日本では国立大学運営費交付金です。交付金が2004年の国立大学独立法人化から10年間で13%も減額され、自由な研究に充てられる余裕がほぼ消滅しました。

 文科省の今年4月8日付《第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方について》はこれまでの重点配分方式では「大学改革促進係数により財源を確保した部分と、重点配分した部分の関係が不明確」「選択の幅が広すぎ、結果として各国立大学の強み・特色をより伸ばすことにつながっていない」と不十分とします。2016年から始まる第3期でもっと抜本的に重点配分していくと宣言しています。

 ここまで交付金総額を減らした上に重点配分を強力にすれば旧帝大クラスはともかく、中小の大学にはカツカツ以下の資金しか回らなくなります。「無駄な研究などしないでよい、学生の教育だけやりなさい」との含意があちこちに見えます。もともと財務省は教育のために配当すべき教員数よりも多くを抱えている現状が不満でした。しかし、重点配分でいま目立っている研究成果に資金を集中して早く果実を得ても、将来に育てるタネが草の根の研究者群から出て来る基盤を失ってどうするのか、とても大きな疑問があります。国家百年の計にかかわる論文数減少の意味を、自分の代で何か成果を出したい文科省官僚が全く考えていない愚かさが明らかになっています。


未運転の新型原発を売る商売に中国と韓国が熱中

 新型自動車を設計したメーカーが走らせる前に売り出すことはしません。多数の部品からなり、どこに異常が潜むか分からないからです。ところが、膨大な部品からなる原発を中韓両国は設計図だけで売る無謀な商売に熱中です。他国のことながら重大事故を起こせば地球規模での災害になり得る原発だけに、心配でなりません。現に韓国自ら運転経験がない韓国型の新大型炉がアラブ首長国連邦(UAE)で完成しつつあり、韓国が先に運転実績を作るように要請されています。


 手広く商売を広げているのは中国で、今年に入ってアルゼンチンとパキスタンからの受注が報じられました。それが上の写真「華竜一号」(環球網から引用)で、百万キロワット級の大型原発です。中国が自主開発し、知的財産権を全て掌握していると主張しています。福島原発事故をうけて重大事故予防機能を強化した第三世代の原発といいます。しかし、原発建設ラッシュの中国本土でも、この新型炉の建設はまだ始まっていません。パキスタンでは人口1000万を超す最大都市カラチの近郊に建設する予定で、不安を持つ住民から反対の声が出ています。

 中国本土で最も建設が進んでいる新型原発は米ウエスチングハウス社が開発した第三世代炉「AP1000」です。実はこの炉も本国の米国でまだ建設されていません。浙江省の三門原発と山東省の山東海陽原発でウエスチングハウス自身が建設にあたっています。同社はもともと加圧水型原子炉の開発者であり、豊富な開発と建設の経験を持っていますから設計図をいきなり現場に持ち込むのも許されるのかもしれません。それでも、2014年中の運転開始予定が、循環ポンプなどに技術的な支障が発生して3年遅れになっています。

 まだ出来上がっていない新型炉AP1000をベースに、更に大型化した原子炉「CAP1400」を中国は独自開発すると言っています。その新・新型炉に南アフリカなどが強い関心を示していると伝えられるのだから、長年、原子力をウオッチしてきた者として、とても大きな違和感を持ちます。知的財産権を掌握とする以上は、新しい設計でなければなりません。その新設計が確実に機能する実績を作らないで輸出の話が先に出来てしまうとは常識外れと言わざるを得ません。

 ロイター《〔焦点〕中国原発輸出、問われる「メード・イン・チャイナ」の信頼性》が伝えたような疑問が出ない方がおかしいのです。

 《先月には独自モデルの原子炉「華龍一号」をアルゼンチンに輸出することで基本合意。しかし、国営メディアが同モデルの「初航海」と表現したにもかかわらず、中国国内ではまだ華龍一号は1基も建設されていない。世界市場に原子炉を出荷できるのか、中国の輸出能力に懐疑的な見方が強まっている。中国の国家核電技術公司(SNPTC)でシニアエキスパートを務めるシュー・リェンイー氏は「われわれの致命的な弱点は、管理基準があまり高くないことだ。国際基準とは大きな差がある」と話す》

 中国の原発事情については1年前に第419回「新型炉ばかりの中国原発、安全確保に大きな不安」にまとめました。

 中国の場合、新設計と言ってもよく知られた加圧水型原子炉に変わりはないのですが、先日、韓国大統領とサウジアラビア国王の間で輸出覚書締結のニュースが流れた小型原発は、まるで違う形態の炉です。主な配管を省いて原子炉内に主要な機器を収納するコンパクト設計、9万キロワット発電の他に海水を脱塩し1日4万トンの真水を作るのが売りになっています。第469回「韓国のサウジ向け小型原発は韓流ファンタジー」でUAEで出来つつある新型炉と合わせて詳しく論じています。


司法の流れは逆流:裁判官が原発稼働を恐れる

 福井地裁が原子力規制委の審査をパスした高浜原発3、4号機の再稼働を差し止めました。長く原発訴訟を見続けていれば不思議ではありません。原発を止めるのが怖かった裁判官が、福島以後は稼働が怖くなったのです。司法の世界は世間から隔絶しているように見えて、実は世間的な打算と密着しています。例えば大きな詐欺や横領など経済事件があるとします。巨額の被害が出ても発覚後に犯人が返済を完了したならば、判決は執行猶予付きの有罪に止まり、実害があったかどうかが裁判官を左右します。福島原発事故以前は判決で原発を止めて発生する経済損失の大きさに耐えられない思いがありましたが、事故から4年を経ても10万人以上が避難している現状を見れば、安易に稼働を許して重大事故が発生したら言い訳が出来ない思いになるはずです。

 朝日新聞の《「新基準、合理性欠く」高浜原発差し止め仮処分決定要旨》がその思いを伝えています。

 起きうる地震の大きさを評価している《基準地震動は原発に到来することが想定できる最大の地震動であり、基準地震動を適切に策定することは、原発の耐震安全性確保の基礎であり、基準地震動を超える地震はあってはならないはずである》

 《活断層の状況から地震動の強さを推定する方式の提言者である入倉孝次郎教授は、新聞記者の取材に応じて、「基準地震動は計算で出た一番大きな揺れの値のように思われることがあるが、そうではない」「私は科学的な式を使って計算方法を提案してきたが、平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある」と答えている。地震の平均像を基礎として万一の事故に備えなければならない原子力発電所の基準地震動を策定することに合理性は見いだし難いから、基準地震動はその実績のみならず理論面でも信頼性を失っていることになる》

 福島原発事故が起きた後では、裁判官は以前の安全審査を争った裁判であったように国側の専門家による裁量を大幅に認めるような「甘い」判断を採れなくなったのです。そうさせたのは東電のあまりに無様な事故対処だったのですから電力業界としては黙って認めるべきです。

 関西電力は「承服できない」として不服申し立ての手続きに入りますが、裁判官が何でも味方してくれた時代は去った点だけは理解されるよう、忠告しておきます。逆流の時代に入りました。

 決定要旨は更に最高裁の伊方判決を引いて《新規制基準に求められるべき合理性とは、原発の設備が基準に適合すれば深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないといえるような厳格な内容を備えていることであると解すべきことになる。しかるに、新規制基準は上記のとおり、緩やかにすぎ、これに適合しても本件原発の安全性は確保されていない》と原子力規制委を厳しく指弾します。

 2年前の第342回「大風呂敷に信頼が託しかねる原発新安全基準」でも指摘しました。新規制基準は金に糸目は付けない多層防護増設の大風呂敷が実態であり、それでも安全万全と見えないのです。福島原発事故の原因を究明してそれを完全に防ぐ構図にもなっていません。以前の安全審査と断絶して、色々な装置や設備を付加しただけ、しかも付加には相当の猶予期間が付いているのですから、いま直ちに厳格な安全性を担保したい裁判官の眼鏡に叶おう筈がありません。


インフルエンザ感染爆発、心配な変異警告2件

 中国の鳥インフルエンザとインドの豚インフルエンザで、流行性や毒性を強める遺伝子変異の研究報告が相次いで発表されました。どちらもマスメディアが日本には現地流行状況をきちんと伝えていない、心配な状態です。中国では話題になった2013年の第1波の流行規模を今年の第3波が凌いでいますし、インドの医療体制はスタッフ、型判定キットや薬が足りず、患者は貧困から医者に掛かるのが遅れることが知られています。


 WHOが2月25日まででまとめた中国鳥インフルエンザの患者発生推移を、「WHOリスクアセスメント(2/23付)」にあるグラフに加筆して引用しました。患者総数は2013年から数えて600人を超え、死者は212人以上です。2014年秋からを第3波と見ると患者は160人以上で、2013年第1波の135人を既に上回ります。第2波は300人程度と見られます。第3波は2月末から3月に入っても各地で患者増加が伝えられますが、中国メディアの報道が抑えられているのか、昨年3月の第414回「鳥インフルエンザ、終息せず散発発生を継続」のようにWHOデータと照合して合算するのが困難です。つまり人民日報の記事データベースに多くの患者報道欠落があります。

 12日にロイターが伝えた《H7N9型鳥インフル、突然変異でパンデミックの恐れ=研究報告》は香港大チームの研究です。《中国の5省15市で、H7N9型インフルエンザの進化と拡大を調査。ウイルスが鶏の間でしばしば突然変異し、パンデミックに発展する可能性のある遺伝子変異を獲得しながら存続、多様化、拡大していることが分かった。人での再発の恐れが強まっており、脅威が増大しているという》

 《研究報告は「(ウイルスの)拡大と遺伝子の多様性、地理的拡大は、有効な制御措置が講じられなければH7N9型ウイルスが地域を越えて存続・拡大する可能性を示唆している」と述べ》パンデミック(世界的大流行・感染爆発)の恐れを危惧しています。

 インドで流行っている豚インフルエンザH1N1型は、2009年の世界的流行で最初の年で1万数千人の死者を出しました。その後、毎年流行するようになり、新型ではなく季節性インフルエンザの扱いになっています。それが今年のインドで特異な動きを見せています。カナダCBCが伝えるところでは昨年のインドでの死者は218人だったのに、PTI通信によれば3月8日の時点で今年は1370人の死者が出ているといいます。

 時事通信の《豚インフルの死者1500人=強毒性に変異か―インド》は流行が始まる昨年12月から数えた死者は3月13日までで1537人とし、死者数が3月半ばで昨シーズンの10倍にもなっている計算です。《米マサチューセッツ工科大(MIT)は、2009年に世界中で大流行したH1N1型ウイルスが強毒性に変異した可能性があると指摘。「流行の状況をより厳密に監視し、対策を講じるために詳細なデータを集める必要がある」と警告している》と報じました。インドのウイルス変異が本物なら中国の新型と同様に世界規模で大きな影響があるでしょう。


韓国のサウジ向け小型原発は韓流ファンタジー

 韓国大統領とサウジ国王の間で小型原発の輸出覚書締結のニュースが流れました。韓国メディアは中小型原発市場を切り開いたと興奮気味です。興味があって調べると、韓流ドラマ「こうであったら」願望の塊に見えます。設計だけでまだ実験炉もない原発をサウジアラビアで20億ドルで2基建設して、試験運用の後で第三国に共同で輸出する夢の様な話です。加圧水型炉の技術を踏襲するものの、主要機器を大口径配管で繋ぐのを止めて原子炉容器内に集約して安全性を高めるという触れ込みです。まずは主要部を図で見てください。


 図中のように略称「スマート(SMART)原子炉」と呼ばれています。蒸気発生器4系統と加圧器も循環ポンプも炉心がある圧力容器に組み込まれています。電気出力は真水化プラントが無ければ10万キロワット、1日4万トンの真水を造るなら9万キロワットに落ちます。発電用蒸気を分けて、熱で海水を蒸発させる古典的な脱塩プラント付きです。(図はIAEAのウェブから)

 一体化すると確かに有利に見えますが、炉心の近くにあるために運転を始めると機器はいずれも中性子を浴びて放射化されます。故障や不具合が発見されても人間による修理や手直しは不可能になります。実験炉で機能や性能を確かめる段階を踏まずに「完璧に動く」実用炉が出来ると考えるとはファンタジーそのものです。おまけにこの炉は60年運転を標榜しています。40年運転が世界の標準である今、韓国単独で膨大な部品や資材のレベルを60年運転に引き上げる力があるとは思えません。

 10万キロワット1基が1200億円程度かかる点も疑問です。100万キロワットの標準的大型原発に比べると数分の1ですが、10万キロワットの石炭火力なら230億円で建設できます。1000億円投じれば100万キロワットの天然ガス火力が出来るのです。また、原子力と無縁だった国が導入すると厄介な核廃棄物や放射線管理など問題が発生します。世界に小型炉需要はいっぱいあるとの主張ですが、小国が導入するにはハードルは高く、10万キロワット石炭火力に脱塩プラントを付けた方がずっとお手軽です。

 実験炉も造らない悪い癖は、韓国の新型炉「APR-1400」が設計図だけでアラブ首長国連邦(UAE)に売れて2基建設中だからでしょう。140万キロワットの大型炉ですからUAEも怖いので率先して新型炉の運転をする気はなく、同型の新古里3号機をまず完成させて運転性能が実証されたら動かすつもりです。今年9月までに運転させる約束になっていて実現できないと毎月、違約金を払わせられるのですが、行き詰っています。重要部品の制御ケーブルの耐火性が偽造されて保証されないと判明、代替え品が見つけられない状況です。送電線も地元の反対で出来ていません。

 UAEもサウジも韓国のズサン体質に気が付いていないのが不幸です。大型フェリー沈没事故をめぐる第464回「セウォル号救助失敗に国家の罪を認める判決」や、国民性を解き明かした『奇怪な韓国の闇、民衆は達観する「愚政府・愚役人」』が能弁に語っていると思います。


日本の原子力推進派は手抜きを上手とまだ誤解

 六ケ所村の核燃料再処理工場の安全審査を3月末で済ませ設備改善工事にかかる目論見を日本原燃が放棄しました。重大事故にも余裕があるとの定性的評価に対し、規制委は定量的に議論しなくては駄目だとすっぱり拒絶。来年3月末まで完工を延期していて、審査が終わり次第工事に入って間に合わせるとの釈明を信じる人はいないでしょう。本当の始末を付けぬ逃げ腰・曖昧が原子力の世界で横行しています。福島原発事故がどうして起きたのか、どう悲惨に展開したか、手抜きだらけだった事実をまたも忘れているようです。


 原燃の放棄が伝えられた2月27日には大阪・熊取の京大原子炉で第111回原子力安全問題ゼミが開かれていて、4年ぶりの会に出席していました。上は過去最大140人参加でぎっしりの会場です。川野眞治さんが熊取6人組で先見性を発揮してきた過去を振り返った後は、小出裕章さんの定年退職に伴う最終講義のようでもありました。題して『原子力廃絶までの道程』から、従来の安全基準から規制基準に変わった問題で「新規制基準は破局事故を前提にする」の項を引用します。

 《原子力推進派は、大飯原発運転差止判決がゼロリスクを求めていて科学的でないと批判している。しかし、原発が絶対に破局的事故を起こさないと言って、ゼロリスクを宣伝してきたのは、原子力推進派である。もちろん、「ゼロリスク」の機械はなく、非科学的だったのは原子力推進派である》

 《今回の基準も「安全」基準ではなく「規制」基準、そのため、それに合格したからと言って「安全だとは申し上げない」と田中俊一規制委員会委員長自身が言っている。ところが政治の場に行くとすり替えが行われ、安倍首相は「安全を確認した」と言い、誰一人責任を取らなくていい形になる。そして、出来ない避難計画は各自治体に押し付ける》

 実際、最初に「合格」の川内原発再稼働では避難計画も周辺自治体の同意問題も驚くほどいい加減で推移しています。本当に事故が起きた時に、住民に対して恥じない釈明と対処が出来るとは思えません。2番手の高浜原発など若狭湾について詳しく見た『原発事故時の避難計画、具体化するほど無理目立つ』を2013年末に書いているので、ご参照ください。

 困ったことにマスメディアがその手抜きの共犯になっています。原発事故後の除染で出た大量の汚染土を保管する中間貯蔵施設について、安全ゼミ席上で今中哲二さんが「30年後に福島県外に撤去するなどあり得ないと誰もが思っている。ところが、地元メディアの記者に聞くと『あれはタブーですから書けません』との返事が返ってくる」と批判していました。また、放射線管理区域に指定せざるを得ない広大な汚染地域に住民を住まわせている惨状に、在京マスメディアは目をつむり続けています。(参照:第358回「福島市街地の半分は居住不適。報道されぬ不思議」

 核兵器をいつでも持てるようにするために原子力開発を続けている――これが公然とは口に出来ない日本の国家的タブーです。六ケ所再処理工場にして1997年完工予定がこれほど延び延びになっても止めません。第448回「死に体の核燃料再処理、政府の救済人事も無理か」で新規制基準適合審査について見ています。現状でも規制委の出した重大事故がらみの宿題は回答できずに多く残り、冒頭の厳しいやり取りが1月末にあったのですから、この安全審査を容易にパスするはずがありません。

 原発汚染水の管理も泥沼状態です。上手に誤魔化す手法に決別すべき時期に至っていると主張します。こんなボロボロの意思決定しか出来ない国家に核兵器の戦略・戦術決定、核の発射ボタン管理が可能でしょうか。溶融炉心がどこに行ったか知れない3原子炉の廃炉に取り組むだけで、今後に十二分な困難が待っています。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


STAP小保方ファンタジーに実験ノートの罪は大

 STAP細胞問題で理研調査委がネイチャー論文を全面否定する結論を出しました。基になったデータに「小保方元研究員のものがほとんど存在せず」とは、こうあったらとのファンタジーが科学論文になったと示します。実験ノートがポエムと言われるなど実質的に存在しなかった点について「実験ノートがないことはねつ造でも改ざんでもないが、研究者の責任ある行為ではない」との甘い指摘ですが、膨大なデータが発生する実証実験が統制できるはずがなく、架空論文に直結したと考えるべきです。

 NHKの《理研「STAP細胞はES細胞の混入」》はこう伝えました。《STAP細胞の証拠とされた緑に光るマウスやテラトーマと呼ばれる細胞組織などはES細胞が混入した可能性が高いとし、小保方元研究員らが主張してきたSTAP細胞の作製の成功という論文の内容を否定しました》《さらに、小保方元研究員が新たに2つのねつ造を行ったと認定し、論文の多くの図や表のオリジナルデータについて特に小保方元研究員のものが一部を除きほとんど存在せず、本当に行われたのか証拠がない実験もいくつか存在することも明らかにしました》

 6月に第432回「STAP細胞疑惑=小保方ファンタジーの闇を推理する」で主張した「発見全体が小保方氏の脳内妄想による虚構だった疑い」が現実のものになったと言わざるを得ません。

 毎日新聞の《STAP論文:「ほぼすべて否定」理研調査委が結論付け》はこう報じています。《新たに小保方氏による捏造と認定されたのは、主論文中の細胞の増殖率を比較するグラフと、遺伝子の働き方が変わる現象を示す図。さらに小保方氏が担当した実験では基になるデータがほとんど存在せず、「研究の基盤が崩壊している」と指摘した。不正認定された図表は「氷山の一角」に過ぎないとした。調査委によると、小保方氏は1点の捏造について「(共著者に)もとのデータでは使えないと言われ、操作した」との趣旨の発言をしたという》

 共同研究者の過大な期待に応えてデータを捏造したわけです。ES細胞混入については小保方氏は「自分でない」と否定していると伝えられますが、きちんとした実験ノートがあって実験データと結びついていれば、どこで混入したかはトレースできたはずです。第432回「STAP細胞疑惑=小保方ファンタジーの闇を推理する」で《「ハーバードで敏腕」と伝え聞いただけで「実験ノートを見せろ」と言えなくなる国内有数の研究者たち》《実験による実証科学の作法を知らない初心者の発想が、輸入学問の伝統で崇められてしまった日本的悲劇》と断じた通りでした。

 ネットにSTAP疑惑をすっぱ抜かれたマスメディア側の杜撰さは第458回「STAP『根無し草』報道の始末は付いていない」で論じています。


STAP『根無し草』報道の始末は付いていない

 STAP細胞騒動は論文作成段階の疑惑を顕在化させず、再現が出来なかった結果だけで幕引きになりつつあります。さらに一つ、科学報道としてのお粗末さにマスメディアが向き合う気が無い点も見逃せない大問題です。論文がネイチャー誌に掲載された免罪符が有るとはいえ、初報段階の理研発表垂れ流し報道は福島原発事故での「大本営発表」報道そのままであり、当然なされるべき科学的裏付けを確認する取材が各社ともありませんでした。その結果、ネット社会の集合知がSTAP疑惑をすっぱ抜き、既存メディアが大きく後れを取る無様な事態になりました。検証実験結果に関連して今日の各社社説が言っている「自戒」で済ませられる程度の過ちではないと指摘します。

 1月の発表直後に書かれたNHK解説委員室の《時論公論 「新しい"万能細胞" STAP細胞 可能性と課題」》を見ましょう。当時から不満でしたが、この研究がどのような経緯で生まれたのか、全く書かれていません。ある日突然、小保方氏の頭の中にアイデアが閃いたかのようです。ハーバード大のバカンティ教授の下に留学して手法を学んだことすら書かれていないのです。そのくせ《小保方さんは、趣味はペットとして飼っているカメの世話とショッピング、理科系の女子「リケジョ」の研究成果は、イギリスの科学雑誌「ネイチャー」に掲載されました。STAP細胞は、どんな細胞にもなれる万能性をもっています》との説明が最初に出るのですから、科学の専門記者の仕事かと、我が目を疑いました。

 《実験による実証科学では「先行研究群という巨人の肩」に乗って初めて未知の地平が拡大するものです。一人だけで、ある日突然、巨人になることなど無いのです》とは第432回「STAP細胞疑惑=小保方ファンタジーの闇を推理する」で強調した研究の常識です。他社と同じようにNHK解説委員記事も先行研究についても全く触れていません。どこも取材しなかったと判断せざるを得ません。私の科学記者現役時代を振り返ると、あり得ない手抜きです。いや、科学に対する理解が浅すぎます。その後の分子生物学会の否定的反応を見れば、取材の網を広げていれば早い段階で「何かおかしいぞ」と気付き得たでしょう。

 小保方氏は早稲田での博士論文の当時から先行研究群の検討を疎かにし、ウェブサイトからのコピーを使って済ませる点に実証科学者として大きな欠陥が見て取れます。

 米国で得た思い付きが本物だったらいいな――との願望が事実を歪めていったようです。きちんとした実験ノートを作成しないのですから、実験で得たデータや写真の取り違えや流用は「容易」になります。理研に移ってからも上司・共同研究者の望むデータを出し続け、有能と評価されたと見られます。しかし、これを若手研究者一般にプレッシャが掛かっている世情と同一視してはいけないでしょう。杜撰過ぎる実験ノートがあってこそ可能になるからです。

 19日に理研がしたSTAP細胞の検証実験結果記者会見で、論文共著者の丹羽・副検証チームリーダーは論文作成前に「実際にSTAP現象を見たわけですよね」と問われて、こう答えました。「今回、実際に検証してみると、なるほど緑色蛍光は出ます。それが自家蛍光であるかどうかはさておき、です。出るんだけれど、その先の道がなくなった」「見た物は何だったのかとすると、見た物は見た物で、その解釈が変わったというふうに理解している」

 小保方氏がどんな実験をしているのか実験ノートで確かめず、鵜呑みだった点が改めて明らかになりました。上記、第432回「STAP細胞疑惑=小保方ファンタジーの闇を推理する」でこう指摘しました。「ハーバードのバカンティ先生の右腕」と言われただけで、小保方氏に「実験ノートを見せなさい」なんて言えなくなったのです。明治以来の輸入学問の伝統から抜け出せない悲しい現状が生んだ悲劇です。


ノーベル物理学賞でも理系冷遇社会は変わらずか

 日本人3人に与えられた今回のノーベル物理学賞。学究派メンバーと色違いな中村修二・カリフォルニア大サンタバーバラ校教授の青色LED特許訴訟を振り返ると、理系冷遇社会の枠は本質的に変わりそうもありません。中村さんは日亜化学工業(徳島県阿南市)で青色LEDを製品化しながら、国際的な研究者仲間から「会社の奴隷」と言われたほど冷遇だったため特許訴訟を起こしましたが、政府は企業で開発された特許の権利を研究者個人から企業に移す方向に動いています。

 2005年の『青色LED和解で理系冷遇は変わるか』で特許訴訟が「発明対価を8億4千万円として和解」になった経過を描いています。中村さんの訴訟戦略に誤りがあり、前年2004年の第143回「巨額な発明対価判決が映すもの」で発明対価200億円の判決を得たのと比べるとささやかな金額に落ち着いてしまい、発明対価にある種の相場感が形成されていると指摘しました。人事院調査でも技術研究管理職の給与は事務系の部長や支店長に比べて見劣りしています。生涯賃金も大差がつくでしょう。発明対価はたまにしか得られぬ成功への報酬として高額でもおかしくはないのです。

 ところが、政府は第444回「安倍政権は科学技術立国を破壊:企業特許に大学」で紹介したように企業の特許にする方針です。見返り報酬の規定を設けると言うものの、それが裁判で争われたレベルに達するはずもありません。中村さんは、同時受賞の赤崎勇名城大教授や天野浩名古屋大教授のようなアカデミックな研究者とは違う小さな企業の研究環境にいました。ノーベル物理学賞の受賞が企業研究者を力づけるようになって欲しいものですが、現実は発明へのインセンティブが貧しくなるとしか見えません。


やはり脳内妄想だったか、小保方STAP細胞

 STAP細胞論文の検証実験をしている理化学研究所が27日、再現できていないと中間報告をしました。撤回されたネイチャー論文による手法では作成は不可能と見てよく、小保方氏個人の願望が科学論文に化けたようです。第432回「STAP細胞疑惑=小保方ファンタジーの闇を推理する」で、このような虚偽虚飾を世界一流の研究スタッフが支えてしまった日本的構造を指摘しました。

 メディアの速報では毎日新聞の《STAP細胞:検証実験 理研「現段階では再現に至らず」》が詳しく、《実験は、小保方氏らがネイチャー誌に投稿した論文(7月に撤回)に記述した方法で再現を試みた。マウスの脾臓(ひぞう)から取り出した細胞を、酸性の溶液に浸して7日間観察したところ、普段は見られない細胞の塊のようなものが現れた》と言います。

 ところが、万能性を示す《遺伝子発現の根拠とした「目印代わりの緑色蛍光たんぱく質が光った」という現象について詳細に検証したところ、緑色の発光は遺伝子由来のものとは言い切れず、細胞が死ぬ際に起きる「自家蛍光」の特徴を備えていたという》。別手法で遺伝子発現量を調べる《実験は22回実施したが、いずれも細胞が初期化されて万能性を帯びる「STAP現象」の再現には至っていないという》

 朝日新聞によると「実験に使うマウスの種類や臓器、細胞を刺激する方法などの条件を変えてさらに検証するため、実験は継続」とされています。小保方氏自身による再現実験は今回のチームとは別室で行われており今回の報告に含まれませんが、記者会見で「200回も成功した」と述べたのが虚しく思い出されます。再現実験が完全に潰えた段階では単に出来なかっただけでなく、『世界3大研究不正』とされた後始末を真剣に考えねばなりません。


どうして猛暑、仕掛けがリアルタイムで見える

 地球上の風を流線表示してくれるサイトに気温と風速から割り出した体感温度をリアルタイムで表示する画面が加わりました。夏の盛り、どうしてこんなに暑いのか、いや風があれば意外に凌げるものと、見せてくれます。「アース・ウインド・マップ」から2日午後2時現在の日本付近を切り出しました。


 関東では体感温度35度の地点が現れていますが、台風12号に向かって強い風が吹き込む西日本では30度を超えません。高気圧の縁にあってほとんど無風の東日本の厳しい暑さが赤で表されています。中国大陸の内陸部や朝鮮半島西部にも赤の領域が広がります。南の沖縄や奄美周辺には黄色の領域があり、風はあっても周辺の海水温が高いのでしょう、37度前後の体感温度です。

 WIREDの《猛暑なのは日本だけじゃないのがわかる、「体感温度」リアルタイムマップ》に「Global Forecast Systemから取得したデータを使って、相対湿度、雲水量、海面更正気圧などを、カラフルに表示することができる」と解説があります。画面の「地球」バナーをクリックして機能を選択します。もともとの風マップについては昨年末の『地球上の風の流れをリアルタイムに流線表示』を参照してください。


小保方論文でネット公衆から逃げた早大調査委

 STAP細胞問題から派生した小保方博士論文のコピペ疑惑で早大調査委は「学位取消に該当しない」と結論を出しました。外部に見えない密室で処理してしまう手法は、告発者のネット公衆を恐れているとしか見えません。公開されている博士論文は草稿段階論文を誤って製本と認定、本物は別とし、騒がれた画像やデータ、論文リストの盗用は無かったか、学位授与へ影響するほど大きな問題ではないと身内をかばう論理展開です。

 博士論文は従来ならば一般の人が入手することは難しかったのですが、2012年5月から国会図書館が大量に収集して一般公開を始めました。相当数はネット上にも公開しています。小保方論文「三胚葉由来組織に共通した万能性体性幹細胞の探索」はネット公開には至っていないものの、国会図書館まで足を運べば誰でも見られます。この基盤があったからネット公衆からの疑惑告発が可能になりました。

 早大調査委はまず、この公開版博士論文は本物ではないと認定してしまいます。今年5月に小保方氏から提出を受けた「本物」論文は「小保方氏が最終的な博士論文として真に提出しようとしていた博士論文と全く同一であるとの認定をするには、証拠が足りない」としつつも、こちらを対象に検討していきます。告発されている公開論文から、密室にある「本物」論文に対象が移された段階で第三者の検証可能性は無くなりました。

 学位取り消しにならない論理展開を《早稲田はコピペしても「博士号」が取れる?小保方さんが「学位取消」にあたらない理由》から抽出してみます。

 「心情的にはおかしいと思っても学位は取り消すことができない」「不正の方法があったとしても、その『不正の方法』によって『学位の授与』を受けたという要件を満たさなければいけない。つまり、『不正の方法』と『学位の授与』との間に因果関係が必要になる」「学位の授与に一定程度の影響を与えたという事実はあるけれど、重要な影響を与えるとまではいかない、科学の論文なので、実験結果の部分で盗用がない以上、重要な影響とまでは言えない」

 実験など論文の核心でない部分にコピー&ペーストがあったとしても、最初から無視できる理屈になっています。大量公開の博士論文でネット公衆にコピペを発見されるのは避けられないから門前払いできる仕掛けが必要――と考えたと推察します。

 【参照】第432回「STAP細胞疑惑=小保方ファンタジーの闇を推理する」
     第431回「STAP細胞が『世界3大研究不正』とされた衝撃」


STAP細胞疑惑=小保方ファンタジーの闇を推理する

 STAP細胞疑惑の点と線が繋がりつつあり、発見全体が小保方氏の脳内妄想による虚構だった疑いが濃厚です。実験による実証科学の作法を知らない初心者の発想が、輸入学問の伝統で崇められてしまった日本的悲劇です。「ハーバードで敏腕」と伝え聞いただけで「実験ノートを見せろ」と言えなくなる国内有数の研究者たち。小保方氏の研究者としての危うさは博士論文段階でも察知できたのに、漫然と通した早稲田大の審査。「こうであったら」とのファンタジーが実証科学論文になる危険が今後も再発する可能性はあると言わざるを得ません。

 1月末のSTAP細胞発表の報道を見て、長年にわたり科学記者をした者として猛烈に違和感を感じたのは先行研究に全く触れていなかった点です。実験による実証科学では「先行研究群という巨人の肩」に乗って初めて未知の地平が拡大するものです。一人だけで、ある日突然、巨人になることなど無いのです。

 この分野のメイン学会である分子生物学会の理事長、東北大の大隅典子教授が《続・小保方会見で解明されなかった問題は何か〜研究の文脈に注目せよ》でこう指摘しています。

 《オリジナルのiPS細胞のような遺伝子導入を用いない方法については、この他にもある種の低分子化合物を加える方法、細菌を用いる方法などもあるので、STAPだけが素晴らしい、夢のような方法、という訳でもありません。このあたり、他の方法で多能性幹細胞を誘導している日本人研究者も表立って声を挙げていませんが、仮にSTAPが本当だったとしても「酸処理でうまくいくなら、とても簡便な新しい誘導方法の一つですね」という扱いのように思います》

 STAP細胞発表の当事者にはこうした周辺の研究事情が認識されていなかったのです。「先行研究群という巨人の肩」のどこに乗るかで研究の行方は大きく左右されます。その意味で先行研究の探索は単なる文献検索ではなく中身の吟味が必要であり、大きな意味を持ちます。ところが、小保方氏の博士論文では「小保方晴子の博士論文の疑惑まとめ」の指摘のように、バックグラウンド部分の大半が盗用でした。先行研究への本来持つべき敬意が小保方氏には欠けていました。

 小保方氏は2年間のハーバード留学の間、バカンティ教授の下で細胞をごく細い管に通して含まれているかもしれない多機能細胞を選別する実験をしているうちに、管を通すストレスが細胞を機能分化する前の状態にリフレッシュされるとの着想を得たようです。さらに、弱い酸処理でも同様になると考えるようになりました。バカンティ教授を細胞の「選別派」からiPS細胞のような「誘導派」に変えたのでしょう。バカンティ教授にも新たな展開になり、畑違いによる先行研究の探索不足が起きたと考えられます。

 秘密裏に小保方氏の囲い込みを図った理研の上司、笹井氏は第431回「STAP細胞が『世界3大研究不正』とされた衝撃」で描いたように、実験ノートを持ってくように言う「ぶしつけな依頼をすることが難しい」状況を非難されています。2013年春以前の所属長だった若山教授も《「実験ノート一度も見たことない」若山教授会見3》で《言い訳になるかも知れませんが、早稲田大を出ている研究者で、ハーバードのバカンティ先生の右腕だと言われているぐらい優秀な研究者という触れ込みで紹介されて引き受けた研究員。大学の4年生に言うように、「実験ノートを見せなさい」なんて言うようなことはできませんでした》と言っています。

 かつて東大は3カ月遅れで世界の研究潮流を国内に導入するのが使命の一つと言われたのを思い出しました。ハーバードという名前が出るだけで、輸入学問の伝統、負い目からはそう簡単に抜け出せないようです。

 決定的な捏造に至らせたのは、小保方氏の「ポエム」とも言われた実験ノートの貧弱さでしょう。根本である日付を含めて必要事項が残されていない実験ノートでは、膨大になる実験データの統制は不可能です。論文疑惑が明らかになったあとで論文画像の差し替えを申し出ていますが、それが適切な画像かどうか、もはや判断できないと言われます。

 サイエンス誌への論文投稿がデータの不整合で却下されたのに、却下の本質的な意味を考えるよりもネイチャー誌に載せようと必死でした。この状況では「こうあって欲しい」との脳内妄想で、現実の実験データの方を取捨選択する、過去の博士論文を含む異なる実験系列から持ち込んで整合させるように進んで不思議ではありません。なぜなら当人ですら、どの実験データか確実に分類できていないようだからです。実証科学にして、本当ならば恐るべき研究実態です。実験ノートの記入法を教えなかった教員の罪は重いと考えます。


STAP細胞が『世界3大研究不正』とされた衝撃

 STAP細胞論文疑惑の取り扱いに転機が来ました。『世界3大研究不正』との認識が改革委員から示されてみると、「ふとした過ち」のニュアンスではなく「故意捏造」として全体像を世界に提供せざるを得ないからです。「研究不正再発防止のための改革委員会」が出した理研の組織改革への提言書は非常に厳しい内容です。これまでは「割烹着」小保方さんのキャラクターからか、何かの間違いが積み重なった感覚が抜け切れませんでした。理研の調査も一部の間違いを確定してネイチャー論文撤回で止まっています。それでは説明責任が果たせていない状況と認識すべきです。

 日経メディカルの《ドイツ人物理学者、韓国人生物学者の研究不正に並び…STAP論文を「世界三大研究不正」の1つに認定》は改革委記者会見をこう伝えています。

 《委員長を務める新構造材料技術研究組合理事長の岸輝雄氏が、「世界の三大研究不正に認定されたと、海外の友人から聞いた」と話し、科学界で重大な問題と受け止められていることについて、危機感を口にした。委員の1人で研究倫理を専門とする信州大教授の市川家國氏も、「実際にSTAP問題は、Schon氏、黄氏と並ぶ研究不正と考えられている」と指摘。加えて、画像の加工や使い回しなど、「不正の種類が多様であり、かつ、それに対する組織の対応にも問題があったという意味で、最も深刻な研究不正になるのではないか」との考えを述べた》

 ヤン・ヘンドリック・シェーン氏の場合、高温超電導など2000年からの画期的論文でセンセーションを巻き起こし、数々の受賞をした挙句に、データの捏造・使い回しが判明して大量の論文が撤回されました。米ベル研とスイスの大学を兼任、同僚が実験設備を確かめたいと申し入れても「こちらには無い」ですり抜けました。黄禹錫氏のヒトES細胞論文は2004年、ヒト体細胞由来のクローン胚から胚性幹細胞(ES細胞)を作ったとし、霊長類でも成功していないのにと世界を驚かせました。クローン牛なども発表されましたが、調査の結果はいずれも捏造でした。

 「研究不正再発防止のための提言書」はSTAP細胞論文の作成過程での組織的ズサンさを指摘します。発生・再生科学総合研究センターは急遽採用した小保方さんが「研究者としてのトレーニングが不足」「STAP細胞の研究内容や意見の重要さに比して論文を完成させる経験が不足」と認識していました。笹井グループディレクター、丹羽プロジェクトリーダーを小保方氏の助言担当に指名し「STAP研究の成果を記した論文がNature誌に採択されるよう、論文の作成指導を笹井氏に依頼した」。笹井氏は論文共著者であることに加え助言担当でもあったから「データの慎重なチェックを行うことがむしろ通常であり、かつそうすべき職責を負っていたというべきであった」。小保方さんに自分のところに研究ノートを持って来させるような「『ぶしつけな依頼をすることが難しい』としてその職責を回避できるような問題ではなかったというべきである」

 理研の規定では研究ノートも実験データも理研の所有であり、作成や保存手法も所属長が指導するとされていましたが、同センターではないがしろにされていました。

 第421回「理研調査も科学にあるまじき杜撰:小保方釈明を聞く」でも心配した調査の不十分に加えて、構造的ないい加減さが存在する点は間違いありません。理研で進められているSTAP細胞の確認実験も中途半端なものになっていると指摘があります。何らかの科学的な発見があったのか無かったのかはっきりさせ、論文捏造過程など全体像を解明して世界に説明しなければなりません。


ドルビーデジタルプラスでイヤホンの銘器復活

壊れて買い替えたタブレットに付属のドルビーデジタルプラスで往年のイヤホン銘器ゼンハイザーMX500が復活です。高品位の中音域を持つものの音域・音場の狭さからお蔵入りだったのが嘘のように変貌しました。2万円のタブレットですから本格オーディオの切れ味とかは無理ですが、音楽を聴かせる楽しさではそのあたりの携帯用ソリッドプレーヤはとても追い付けません。CPUが高速化してリアルタイムで音質補正できるようになった成果です。音楽プレーヤとして革命的です。

 MX500はボーカルや楽器がサビのあたりに使う中音域の密度が特に高い特質を持っています。歌手や奏者の個性を描き出せるので銘器と言われたものです。その代わりに高音域や本当の低域は足りません。好きな歌手のボーカルに集中して聴いている分にはそうは気になりませんが、ステレオフォニックな広がりも欠いていました。最近はケースに入れたまま、ほとんど持ち出さなくなっていました。


 レノボの8インチ「YOGA TABLET」に搭載のドルビーデジタルプラス画面です。ドルビーデジタルプラスはWindows8にも採用されているそうですが、この画面があるかは知りません。左側「映画」「音楽」「ゲーム」「ボイス」の選択で基本が決まり、中央のインテリジェントイコライザーで「オープン」「リッチ」「フォーカス」の3傾向か「マニュアル設定」を選びます。リアルタイムで音楽や音を分析しつつ好みの傾向に仕上げる仕組みが良く出来ています。下のサラウンドバーチャライザーは音場を広げるのにとても有効です。ダイアログエンハンサーは映画のセリフ強調機能です。元の音楽を壊さない範囲で機能を組み合わせると、中音域高密度のMX500の特質をそのまま延長してワイドレンジでダイナミックになります。

 第417回「PCオーディオのワサピ化とタブレットで良い音」でAKGの密閉型ヘッドホンK404と相性が良い点も書きました。豊かな低域の割に高音が足りないのをドルビーデジタルプラスで積極的に補正できます。この値段のオーディオパーツですから浸透力のある高音など質感は無理にせよ、ボリューム感は十分に補えます。質感はMX500が上です。どの機種にせよ単純な音質イコライザーでは実現し得ない音質補正が出来ます。


理研調査も科学にあるまじき杜撰:小保方釈明を聞く

 STAP細胞論文の真偽騒ぎで小保方さんの釈明を実況中継で聞くと、捏造とした理研調査も科学の世界にあるまじき杜撰なものだったと判明しました。ネイチャーに掲載した後始末をオール日本として取り組むべきです。STAP細胞の存在確認がどうしても必要です。

 最初の報道から科学的冷静さを欠く展開でうんざりさせられたSTAP細胞ですが、理研の調査まで的確に実施されてないと言うべきです。最大の問題は小保方さんからの聞き取りすら十分でない点です。調査委員会の正式な聞き取りは1回しか無かったと言えます。論文で取り違えた画像の由来について本人の釈明を聞いていないと言わざるを得ません。実験ノートの提出も、その場にあったノート2冊を出しただけで「さらに4、5冊はある」と釈明しています。真偽の判定をする上で必要なデータ確認が尽くされていません。

 科学の常識を覆すほど画期的とされたSTAP細胞の存在・不存在を確認することが、日本として世界へ責任を取る道でしょう。小保方釈明でも「今回論文は現象論として書いたもので、次の論文でSTAP細胞を作る最適条件を示すつもりだった」としています。再現実験が成功していない現状を打開するためにも、小保方さん自身を加えたチームで実験を先行し、最適条件を学問的に明確にする必要があります。その上で第三者による再現実験を広げるべきです。

 どうして誤りについてきちんとした処理が出来ないのか――欧米の研究者にとって当たり前のピアレビュー、専門家同士による研究評価が日本の研究者では乏しい点が背景にあるように思えてなりません。第145回「大学改革は最悪のスタートに」〜急務はピアレビューを可能にする研究者の守備範囲拡大〜を参照いただけたらと思います。


新型炉ばかりの中国原発、安全確保に大きな不安

 福島原発事故で一時足踏みしていた中国の原発建設が一気に進み始めました。今年2基目が運転を開始、年内に続々と運開です。中国での運転が世界初の2機種を始め主流国産型も新型炉で他人事と思えぬ危うさ満帆です。日本の原発ならフルパワーで長期継続運転が当たり前ですが、電力事情が悪く停電が発生しがちな中国では、無計画停電すなわち外部電源喪失のたびに原子炉の緊急停止、非常用発電機を含む炉心冷却用電源の確保、再立ち上げと煩雑な操作を繰り返さなくてはなりません。安定稼働実績が無い新型炉でこれを頻繁にするのは実地テストにはなるものの対応する運転員も含めて過酷です。3月末時点での原発建設と運転開始の動きをまとめたマップをご覧ください。


 2011年末現在、14基稼働の地図に26日運開の広東省・陽江原発で18基になるまでを書き加えました。福島原発事故の後では2013年2月、遼寧省の紅沿河原発が最初の運開、次いで福建省の寧徳原発、2014年に入って紅沿河2号、そして陽江1号です。以上の4基は「CPR1000」と呼ぶ仏アレバ社の加圧水型原発を国産化した百万キロワット炉です。最初に造られた嶺澳3号(広東省)から数えて4年に足りぬ稼働実績しか無いまだ新しい機種です。陽江原発の写真を引用します。


 CPR1000は年内さらに福建省の福清原発が運開予定です。そしてこの後、浙江省の三門原発と山東省の海陽原発で、世界でまだここだけの第3世代加圧水型炉「AP1000」が運転されることになっています。115万キロワットの大型炉です。東芝グループのウェスチングハウス・エレクトリック社がこれまでの経験を注ぎ込んで、運転員の操作や電源がなくても安全システムが働くように設計したといいます。三門1号と内部構造の写真を並べて引用しておきます。特徴的な点は格納容器の上に巨大円筒の水タンクが載っかっていて、上から水を注入できます。でも普通の運転員は最後の手段に頼らずに事態を収拾しようとするものです。


 広東省の台山原発では年内に「EPR 欧州加圧水型炉」と呼ぶこれも大型160万キロワット新型炉が運開予定です。世界で最初に着工したフィンランドのオルキルオト原発で完成していますが、運転開始には慎重になっていて「2016年までには」との意向ですから、3番目着工の台山1号が運転の先陣になる展開です。全くの新型炉を初めて動かすならフィンランドくらいの姿勢は不思議でも何でもありません。

 三門原発AP1000運転員訓練は2013年初から1年半の日程で始められました。それが終わる今年半ばには直ぐに運転しようとしているのですから、ウェスチングハウスが教育にあたるにしても首を傾げます。各地で原発が次々に運開していく中ですからベテラン運転員を集められるはずもなく、初心者に教えていく期間として1年半は短いと思います。2011年の第271回「高速鉄道大事故でも運行停止しない中国政府」で「ドイツ人が2−3カ月かけて学ぶ高速鉄道運転を中国は10日で学ばせた」エピソードを紹介しました。本当に謙虚さに欠けます。複雑系技術の現場にはマニュアル通りに対処できない修羅場がある恐ろしさを考えもしないのでしょう。

 福島原発事故後に中国政府は新規の原発計画はAP1000に一本化する方向に変えました。国産CPR1000は第2世代改良型炉で不安があるからです。それでも着工済みのCPR1000は冒頭のマップのように次々、大量に商業発電に入っていきます。大震災前日に書いた第243回「中国の原発、無謀とも見える大増設は大丈夫か」で見た、「2年余り準備し、建設を始めれば5年以内に商業運転に入れる」考え方でAP1000一本化を免罪符にして突っ走っていると見ます。PM2.5越境スモッグ騒ぎで中国との一衣帯水ぶりが実感されています。大きな原発事故だけは起こして欲しくない、しかし、ここまででお分かりのように信頼感はありません。

 原発増設は確かに大気汚染対策になる面があります。しかし、人口で世界の2割しかない中国が、石炭では世界の半分を消費している粗放・浪費の経済産業構造を変えるほど劇的な効果は無理です。重篤スモッグ問題についてはやはり「『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない」です。関連リンクを参照ください。


地球上の風の流れをリアルタイムに流線表示

 年の瀬、忙しい中ですが、一見に値する面白ツールを発見しました。地球上で吹いている風の流れをリアルタイムに流線表示してくれるマップです。最近、東京版から世界版にスケールアップした「earth wind map」です。これは見飽きません。日本付近を切り出した瞬間を以下に引用します。


 午後5時、北海道の北東にある強い低気圧による巨大な渦がある一方、本州から沖縄まで大陸から吹き出す風に吹き洗われています。シベリアから届く日本海側、中国北部から朝鮮半島越えに届く風も表現されています。この時間、中国北部では例の大気汚染、重篤スモッグは薄れていますが、1年間、話題になり続けた微粒子PM2.5がこうやって流れてくるのだと納得です。(『西日本各地でPM2.5による重汚染の異常事態 [BM時評]』

 「earth wind map」についての使用データなど自己説明は《地球 世界中の気象状況がビジュアライズ〜スーパーコンピュータが予報〜3時間ごとの更新》にあります。作者のCameron Beccario氏の話は《風の動きを可視化する「Tokyo Wind Map」がバージョンアップ、世界版「Earth」が公開》で読めます。「以前見た US Wind Map が素晴らしかったので、それに習って、JavaScript を学ぶかたわら、東京版が作れると思ったのです。東京版が完成すると、次は世界版を作りたいと思うのは自然な流れでした。世界版はこれまでに見たことがありませんが、地球上の空気の流れを見る上で便利だと考えたのです」。これは風のイメージを伝えるためのもので精密な情報ではありません。


2014年はタブレット主流、パソコン文化変貌も並行

 タブレットPCが急速膨張して2014年にはPC類世界販売の過半を占めると予測されます。モバイル市場で影が薄かったインテルまで新チップで大攻勢です。便利な「お仕着せ端末」が自作PC派を淘汰する日が迫っています。ネット閲覧や電子書籍で有利なアップルiPadやアンドロイドタブレットだけでなく、マイクロソフトオフィス搭載のWindowsタブレットが8インチなら400グラム前後の重さ、4万円余りで続々と登場するのですから、持ち運びの良さを考えるだけで重いノートPCは顔色を失います。

 TechCrunchの《2014年にはついに台数でタブレットが従来型のPCを抜く…Canalysの調査報告書より》は「売上台数でもタブレットがPCを抜く臨界点が近づいてきたようだ。そのときには、今のPCよりも安くて可搬性に優れたタブレットが、いわばデファクトのPCになるのだ。調査会社Canalysによると、2014年には全世界で発売されるPC類の50%がタブレットになり、トップはAndroid機でタブレットの総発売量の65%(1億8500万台)を占める」と伝えました。

 2013年のタブレット世界出荷は1億8400万台になるとも報じられていますから、来年までタブレット前年比5割増しが継続していくとの予測です。「2014年にタブレットがPC類全体の50%とは、発売台数では2億8500万台となる。そして2017年には、この数字は3億9600万台になる」そうです。

 PCプロセッサの支配者だったのに、モバイル市場では片隅に追いやられていたインテルが大方針転換して市場に送り出した「Bay Trail」と呼ぶ新チップが一方の主役です。このチップを使ったタブレットだけで4000万台を新たに売ろうと計画されています。激安タブレットを売っている中国勢も来年は一段上の製品を狙うと見られ、上級機まで競争が激しさを増します。使い方も広がり下の写真はベルリン・フィルのデジタル・コンサートホールを台所に置いたタブレットで楽しんでいる例で、良質のヘッドフォンさえあれば好きな場所をAVルームに出来ます。


 こうした中でZDNetの《PC時代に終止符を打とうとする者たち》はパソコン文化が様変わりしてしまう明日を予見しています。「PCの販売は減少の一途をたどっている。もう増加に転ずることはない。その理由は、われわれがタブレットやスマートフォンを好んでいるからというだけではない。ほとんどのベンダーが、PCではなくクラウドベースのクローズドなアプライアンスにわれわれを移行させようと(しかもできるだけ早く)しているのだ」

 気がつけば自作PCのためのパーツ類選択の幅は狭まり、値段も上がっています。汎用パソコンの時代は終わり、便利に機能特化したお仕着せ端末時代が見えて来ました。これから大学に入る学生たちの大多数には自作PCなど無縁でしょう。便利に使えていれば善いものの、マシンの中でどう動いているのか全く見えなくなれば、パソコンのイメージそのものが変貌します。薄くて軽い端末とネット上とのデータやり取りで結果が手に入るパソコン文化――現在以上にブラックボックス化してしまうでしょう。第335回「スマホ等でTV録画を寝床見する楽しさ広げたい」を書いて感じた便利過ぎる危なさを思い出します。


ウィニー開発者の急死:技術立国阻む司法の闇

 ファイル共有ソフト・ウィニー開発者で2004年に逮捕、2011年の最高裁で無罪確定まで司法の闇に苦しんだ金子勇さんが6日夕、急性心筋梗塞で死去。東大に特任講師として今年戻ったばかりの惜しまれる死でした。誕生日不詳ながら42か43歳のはず。天才と言われた研究者個人の貴重な30代を奪ったばかりか、国内のソフトウエア開発の自由全体を萎縮させる司法の定見の無さが強く印象に残っています。最近のPC遠隔操作事件でいま再び、思い込みによるゴリ押しが見られる現状は、検察・警察には技術に関わる事件捜査に反省がないようです。

 死去の報はWinny弁護団事務局長だった『壇弁護士の事務室』ブログに「訃報:将星隕つ」として掲載されています。「誰かが、不特定多数の人が悪いことをするかもしれないとを知っていて、技術を提供した者は幇助なんだということを、裁判所が真っ向から認めてしまった。これは絶対変えなければならない」と指摘して知られる方です。

 2006年の京都地裁有罪判決の後、『警察・司法の功利主義が歪ませる社会(Winny判決考) [ブログ時評71]』でこう書いています。「同種ソフトの事件で世界各国では開発者が有罪になったことはなく、日本の社会を歪ませていく警察・司法の功利主義の流れとして際立つ。福島県立大野病院・妊婦死亡事故での産婦人科医逮捕・起訴と並んで2006年を代表すると思える。ささやかな功名が不可逆的な社会変化を起こし、報じるマスメディア側はばらばらで、動いていく事態を見送るばかり」

 ウィニー事件も大野病院事件も無罪には終わるのですが、社会に与えた傷の大きさは甚大でした。司法の闇と敢えて指弾する所以です。

 【参照】「ウィニー開発者逆転無罪、児童ポルノとも関係」


安倍政権は技術立国の底辺にも目利きにも無知

 《安倍政権が掲げる成長戦略の柱「科学技術創造立国の復活」で担当大臣が「革新するか死か」と叫んでいる。研究の現場を知らぬ見当違いに見えてならない。アベノミクスを応援する日経新聞が6月19日付社説《「技術立国」復活へ研究費配分を見直せ》を打ち出しているが、これまた上っ面の競争を煽る視点しか持たない。科学技術イノベーションを起こしたいのなら、広く底辺に水をまいてタネを育てるのが第一。その中から光る発想を目利きが拾い上げてプロジェクトにし、世界と本格的に戦わせる仕組みしかない。当たり前の「育成・選抜」が学閥体制ゆえに欧米よりも劣っていると『インターネットで読み解く!』第145回「大学改革は最悪のスタートに」(2004/05/13)で指摘した》

 26日にWEBRONZAで「安倍政権は技術立国の底辺にも目利きにも無知」をリリースしました。第363回「大学に止めを刺す恐れ大、教育再生会議提言」で論じたりなかった、イノベーションを阻む日本独特の学閥的隘路をはっきりさせておきたかったのです。後半部分は有料会員のみになりますが、結語の部分を以下に収録しておきますから、第145回「大学改革は最悪のスタートに」〜急務はピアレビューを可能にする研究者の守備範囲拡大〜と併せてお読みただければ大意は掴めるはずです。

 《学閥依存体制を改めるどころか、学閥でできた有名大学だけ残せば良いとも見える政策だ。イノベーション実現は確率的な世界であり、狙って出来るほど安易にはいかない。もし手持ちのネタに良いアイデアがあれば実現させれば良い。しかし、ネタ切れになった時に底辺から上がって行かなければ、技術立国など死に体と化してしまう。安倍政権を支える官僚は学閥依存に問題があることなど、既得権益から口が裂けても言えないだろう。しかし、ジャーナリズムは真実を見つめなければならない。中央省庁官僚からのリークを記事にしているだけの在京マスメディアに、ジャーナリズムの矜持と覚悟はあるだろうか》


科学者の責任に余波、地震学者実刑判決理由

 イタリア・ラクイラ地震について地震学者6人が禁錮6年となった判決理由が公表。「地震予知に失敗した」からではなく政府と癒着して法に定められた通りにしなかった認定です。原発など類似ケースに波及ありです。昨年秋の判決後には世界中から様々に考えるアピールが出ました。例えば日本地質学会は「ラクイラ地震裁判における科学者への実刑判決を憂慮する」声明で「もし優秀な地球科学者が、地震危険度評価に善意で参画した結果として、その後に発生した地震の災害に対する責任を取らなければならないなら、将来だれがこの重要な役割を引き受けようとするだろうか」と根源的な疑問を投げています。

 300人以上の死者を出した地震です。朝日新聞の「政府との癒着を厳しく指弾 伊地震学者への有罪判決理由」が詳しく伝えています。《群発地震が続き、「大地震が来る」という在野の学者の警告がネットで広まっていた。市民の不安を鎮めようと政府防災局が開いた検討会で、学者らは「大地震がないとは断定できない」としつつ、「群発地震を大地震の予兆とする根拠はない」と締めくくった。検討会の前後にデベルナルディニス氏は「安心して家にいていい」と述べた。判決理由はこうした経緯を認め、ボスキ氏ら学者が以前からラクイラ付近での大地震を予測していたことを指摘。検討会でのリスクの検討は、知見をすべて提供しない、表面的で無意味なものだったとした。「メディア操作」を図る政府に学者が癒着し、批判せずに従ったことで、法や市民によって課された「チェック機能」としての役割が失われたと厳しく批判した。「被告らの怠慢が市民に安心感を広げ、慎重に対応していれば救えた命を失わせた」と認定した》

 《「地震予知に失敗した科学者が裁かれた」との誤った認識に釘を刺す意図からか、「裁判は、地震についての知識の正しさ、確かさを証明することを目的としていない。法に定められたとおりのリスクの検討がなされたかどうか判断した」と記している》と補足しています。

 行政との癒着事情については、東大地震研助教の大木聖子さんが「ラクイラ地震 禁錮6年の有罪判決について(4)なぜ『安全宣言』になったのか」で詳しいリポートを書いています。検察提出の電話テープのやり取りからは「行政はパニック状態の市民をおさめるために,はなから安全情報を出すつもりだったこと,そしてそれは行政判断ではなく,科学者からのお墨付きという形で遂行することを,委員会を開催する前から決めていた」としています。

 実に我々の目の前で地質学者が重要な決定を下そうとしています。各地の原発の直下を通る断層が活断層かどうかの認定です。活断層と認められば運転再開はなく廃炉に進むしかなくなります。逆のケースで将来、運転中に断層が動いたら、判断を誤った学者の責任は問われるのか、です。福島原発事故では事故の進展過程で原子力安全委の専門家によるミスリードを呆れるほど見ました。あれが不問になっているなら地質学者は大丈夫でしょう。しかし、炉心溶融や水素爆発に至る、原子力専門家によるミスリードは不問のままでいいのでしょうか。しかし、しかし、ミスリードは知識不足に起因していて、知らない本人はベストを尽くしていたのが実態かも知れません。それでも、信頼できる専門家を呼び寄せるくらいの「注意義務」を求めていいのでは……。ラクイラの責任追及では、行政マンと科学者は分けるべきだとする議論もありました。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


iPS大虚報へNatureからの叱責と科学詐欺師対策

 読売新聞などによるiPS細胞「世界初の臨床応用」の大虚報へ、英国の科学誌「ネイチャー」が「Bad press」と厳しい日本メディア批判を掲載しました。翻訳を掲載している「世界有数の科学ジャーナルもあきれる日本のメディアのレベルの低さ」は「読売新聞の森口氏の『功績』に関する報道には大変失望したし、日本経済新聞など他の新聞もこの10年の長きに渡り裏を取らずに森口氏を記事に載せてきてしまったということを認めている」と指摘、嘘を見抜くための手法を紹介しています。

 「何より重要なのは論文執筆者とは協力していない他の研究者にその研究の重要性や実現可能性について話を聞くということだ」と日本メディアに求めると同時に、「日本の科学者は自分たちの同僚に対して批判的な思考をすることが余りない。これは日本では欧米などと比較して内部告発者に対する保護が薄く、せっかくのキャリアをふいにしたくないと思うからかもしれない」と、日本の科学者も切っているところがネイチャーらしいと思います。2004年の第145回「大学改革は最悪のスタートに」インターネットで読み解く!)で「ピアレビュー能力を欠く国内研究者」と評した通りです。

 しかし、時事通信が伝えた「森口氏の論文2本取り消し=卵巣凍結と肝がん細胞初期化−英科学誌」を見て、ネイチャーもきれい事だけ言っても、との思いもしました。ネイチャー系と言われる英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」が大虚報の当人、森口尚史氏の論文を取り消していますが、この雑誌は閾が低めながら研究者による査読があるのです。「ヒト肝がん細胞を化合物だけで直接初期化する手法」は眉唾物ですが、この論文掲載がある種の説得力を付与して、大虚報の伏線になったとも考えられます。

 一方で科学ジャーナリストの小出五郎さんが《科学詐欺師に騙されるメディア 「誤報」の背景(1)》で「今回の『誤報』に関しては、科学の世界で常態化している不正の問題、メディアのビヘイビアの両方から見ることが必要です」と論評しています。科学者の側も何らかの不正行為を容認する風潮があると米国のデータを示しています。

 ネイチャーからは「日本のジャーナリストたちも科学者を前にすると借りてきた猫のようにお行儀よく、何も突っ込んだ質問をしなくなる」と皮肉られています。取材中に喧嘩ばかりしていても前に進めませんから、相手の話をよく聞くのが基本です。しかし、いざとなったら、相手の言い分を全てひっくり返すのがジャーナリストの仕事と構えていなければなりません。これは取材先を科学者ではなく、権力とした場合の付き合い方でも同じなのです。

 【参照】大虚報の後始末が不可解に過ぎる読売新聞 [BM時評]


大虚報の後始末が不可解に過ぎる読売新聞

 iPS細胞のノーベル賞受賞決定後に余りにもタイミングが良すぎた「世界初の臨床応用」ニュースが大虚報だったことが確実視されています。12日夜のNHKニュース「“移植実施”報道の2社が見解」が報道した読売新聞と共同通信の見解を伝えています。「研究データの点検など裏付け取材を十分尽くさず、誤った情報を読者にお伝えしたことをおわびします」とした共同通信に比べて、読売新聞は誤報だった1面トップ記事などをウェブから削除し、他のメディアがしているその後の事実関係フォローも避ける不可解な対応をしています。

 読売新聞で現在読める記事は《「iPS心筋移植」報道、事実関係を調査します》との釈明だけです。ニューヨークでの口頭発表取り止めを受けて《読売新聞は11日朝刊1面「iPS心筋を移植」の見出しで、森口尚史氏らが、あらゆる種類の細胞に変化できるiPS細胞から心筋の細胞を作り、重症の心不全患者に細胞移植する治療を6人の患者に実施したことが分かったと報じました》《本紙記者は、事前に森口氏から論文草稿や細胞移植手術の動画とされる資料などの提供を受け、数時間に及ぶ直接取材を行った上で記事にしました》《現在、森口氏との取材経過を詳しく見直すとともに、関連する調査も実施しています。読者の皆様には、事実を正確に把握した上で、その結果をお知らせいたします》

 毎日新聞の《iPS臨床問題:「共同研究者」直接関与を否定》など続報で「森口氏の共同研究者とされる東京大学や東京医科歯科大学の研究者が12日相次いで記者会見した。いずれも共同研究への直接的な関与を否定し、臨床研究自体が実施されなかった可能性が高まってきた」とされています。読売新聞は沈黙したままです。

 世界的な大ニュースであるとの認識がありながら、東大などの「共同研究者」に裏付けをとる取材が為されていません。既に消されているインタビュー記事《iPS心筋移植、日本なら書類の山…森口講師》を読んで、無茶を書くなと感じました。日本では規制があって難しいが、米国ならどんどんやれるとの趣旨です。国際的に権威がある雑誌などに論文を載せるなら、世界で同じように研究内容が各施設の倫理委で承認されるよう求められます。これも裏をとるのは難しくありません。医学研究の事情に疎い記者が直接取材を信じ込んだケースかも知れませんが、担当デスクや編集責任幹部から裏付けを求める指示がなかったとは驚きです。

 ネット上で大きな話題になっており、《【iPS心筋移植】 Web上の記事を全て消して逃亡していた読売新聞、誤報を認める 「事実関係を調査する」》には消された元の記事保存先が掲示されています。

 【追補】日経新聞「本社も2年前に森口氏の記事掲載 事実関係調査」が《東京医科歯科大学が12日、「このような実験、研究が行われた事実はない」と否定したC型肝炎の創薬について、日本経済新聞社は2010年6月2日付日経産業新聞に「ハーバード大研究員ら C型肝炎治療 副作用少なく iPS細胞活用」と題した記事を掲載していたことが判明した》《医科歯科大はiPS心筋の臨床応用を「大学で行われた事実はない」とするとともにiPS細胞を使ってC型肝炎の新たな治療法を見つけたとの2010年5月1日付大阪読売新聞の記事について事実関係を否定した。日経の記者は同年4月に森口尚史氏を直接取材し執筆していた》と伝えました。これも裏付けを欠いた取材のようです。

 【追補2】朝日新聞「森口氏、iPS研究の詳細説明あいまい 朝日新聞も取材」は《10月3日、東大病院の敷地内の会議室で3時間、話を聞いた。「研究はすべてハーバード大で行った」との説明。「17日か18日に英科学誌電子版に論文が掲載される」とした。だが渡された草稿の共著者はいずれも日本の研究者で、iPS細胞の研究者も臨床医もおらず、移植手術の実施場所も明示されていなかった。ニューヨークでの国際学会で発表するというが、学会のウェブサイトには発表予定がなかった。森口氏は「東京大特任教授だ」と言ったが、東京大や東大病院に確認すると「東大病院特任研究員」と判明した》と、信頼に足りなかった要因を列記しています。

 【追補3】読売新聞13日朝刊の検証記事「論文・動画、記者にメール…東大病院で取材」
《記者は常に科学部の医学担当次長らに取材経過を報告、相談しており、4日の取材後も内容を伝え判断を求めた。森口氏は論文をランセットやネイチャーなどの有力専門誌に掲載したと主張しており、医学担当次長らは同氏の業績に一定の評価を与えていたが、さらに慎重に、この研究の評価を専門家に仰ぐよう記者に指示した。
 再生医療の第一人者である大学教授に森口氏の論文草稿について意見を聞いたところ、「本当に行われたのなら、6か月も生存しているというのは驚きだ」とのコメントを得た。こうした取材を踏まえて9日昼、担当次長が部長に概要を説明。部長は記者に「物証は十分か」と確認したうえ、できるだけ早い掲載を指示した》

 相手の主張の真偽を第三者にあたって検証するのではなく、信じ込んで前のめりになっています。これをチェックできないのでは素人と評するしかありません。


インテルのPCプロセッサ支配に黄昏が訪れた

 永遠に続くかに思われたインテルのコンピュータ・プロセッサ業界支配に、ようやく黄昏の時が来ました。《プロセッサの売れ行きの主流がARM系SoCになりIntelは売上予測を下方修正》(jp.techcrunch.com)が第3四半期の売上高は「売上の当初予想142億ドルに対して、今回の修正予想は138億ドルだ。それはAMDとの競合によるものではなく、AMDも同じ問題に直面している」と伝えました。インテルのマイクロプロセッサはウィンドウズPCやマックPCに使われている頭脳部分で、AMDと覇を競ってきました。

 台頭した競争相手は携帯電話に使われてきたARM系SoCで「SoC:Systems on a Chip」が示すようにワンチップに機能を統合しながら低消費電力であり、かつ高い演算能力を持ちます。パソコンの潜在的な対抗馬スマートフォンからパソコンと直接競合し始めたタブレット、さらに小型のパソコンにまで搭載されています。開発元のARM社(英国)は技術をライセンスするだけで自社生産はしておらず、プロセッサ生産は世界で数十社が手掛けています。

 もちろんパソコンの市場が消えることはありませんが、売り上げは落ちていてヒューレットパッカード社は第3四半期に89億ドルの赤字を見込んだそうです。インテルの主力商品の市場は斜陽化していく一方です。実は何年も前からインテルのPCプロセッサはオーバースペックではないかと思われ始めていました。そんなに高速で演算する用途は個人ユーザーには存在しないと言われつつも、2年ごとに約2倍、トランジスタの集積度が上がるという「ムーアの法則」の看板は掲げたままで高集積高速化は高発熱を生みました。夏場にエアコンが使えない我が家では冷却ファンでは足りず、水冷式のプロセッサ・クーラーを付けないと不安定でたまらない状況です。「どこでもコンピュータ」の時代にインテルは合っていません。

 「あいふぉんす。」の「iPad以前とiPad以後」が2011年のタブレットとパソコンの相克についてまとめています。「さらに興味深いことは、pad(=tablet)の出荷台数である。2011年Q4のDesktopPCの出荷台数は2千9百万台。一方tabletの出荷台数は、2千6百万台を越えた。2011年を通すと、まだDesktopPCの出荷台数はtabletの出荷台数を上回っているが、tabletがDesktopPCの出荷台数を追い抜くのは時間の問題であろう」

 「今なぜtabletが爆発的に普及し始めたのだろうか」。もともとタブレットは特定用途向けにあちこちで使われていたが「iPadはこの壁を打ち壊したのである。iPadは、この壁を打ち壊し、特定用途ではなく、どの様な用途にも変化を遂げるデバイスとしてtabletを蘇らせたのだ」「ただそれを実現する為には、いくつかの技術的な要素が揃わないければならない。思うに、その技術的要素とは、次の3つであろう。まずは、マルチタッチというUI技術。次は、低消費電力を常に目指してきたARMのCPU性能の向上。3点目は、無線通信インフラの整備を基盤としたインターネットの普及」

 ARM社の日本法人は横浜市にあって、そのホームページで技術情報を提供しています。「モバイル コンピューティング ― ネットブック、スマートブック、タブレット、およびeリーダー」には桁違いの低い電力消費で済む優位ぶりが書かれています。「ローカルおよびWebベース アプリケーション向けの超低消費電力プロセッサ・コア」の性能は「最大電力消費200mW(今日のPCの10W台に対して)」「アイドル時の電力消費約10mW(今日のPCの数W台に対して)」

 ARM社の創業は1990年で、アップルなど3社のジョイントベンチャーです。それから20年余り、インテル全盛の時代を日陰で生き抜いてきて、ついに表舞台に登場してきました。

 【参照】インターネットで読み解く!「パソコン」関連エントリー


科学者・技術者への不信感と原子力学会の欺瞞

 東日本大震災と福島原発事故を受けた平成24年版科学技術白書はかなり苦渋に満ちたトーンになっています。メディア報道は科学者・技術者への国民の信頼が揺らいでいると伝えましたが、不信感の段階まで進みつつあると感じます。過去の失敗を認めて挽回すべく率先して努力しているならまだしも、原子力学会は政府や国会の事故調査委が報告を出すこの時期に、これから事故調を立ち上げ、来年末の報告を目指します。それで自己満足以外に何の役に立つのか、科学技術者の社会的な責任はどうしたと国民から思われて当然です。

 白書第1章第2節「科学技術政策に問われているもの」に震災前後での国民意識の断絶が現れています。《今回の地震・津波や原子力発電所事故により、科学者や技術者に対する国民の信頼感は低下したと言わざるを得ない。科学技術政策研究所の調査によると、震災前は12〜15%の国民が「科学者の話は信頼できる」としていたのに対して、震災後は約6%と半分以下にまで低下している。「どちらかというと信頼できる」を含む肯定的回答の割合を見ても、震災前に76〜85%だったものが、震災後は震災前より10ポイント強も低い65%前後で推移している》とあります。次はもう一歩、踏み込んだ設問です。


 《震災前は「科学技術の研究開発の方向性は、内容をよく知っている専門家が決めるのがよい」との意見について、「そう思う」と回答した者が59.1%であったのに対して、震災後は19.5%へと1/3程度にまで激減している。「どちらかというとそう思う」を含む肯定的回答の割合を見ても、震災前は78.8%であったのに対して、震災後は45.0%へと大幅に低下している》

 震災前の回答ならば、ほぼ専門家に丸投げの意識と見てかまわないと思います。しかし、震災後には肯定派45.0%に対し前は極小だった否定派が半分の22.3%もあります。「どちらともいえない」が29.6%まで増えているので、これでは専門家に判断を委任しているとは到底言えません。

 この不信感は地震予知の失敗もあるでしょうが、原発事故対応の底なしの無惨さや放射線被曝影響について出された情報のいい加減さなどが非常に大きく働いたと思います。政府の出す食品や環境の基準を信頼しない市民が多数、存在するようになりました。専門家の否定そのものです。

 世界最大級になった福島原発事故を専門領域に抱える日本原子力学会は、3月の定期大会で事故の真剣な究明をしてこなかったと身内から批判を浴びました。アリバイ作りのような取りまとめ作業を専門委で始めたものの、結局は「福島原発:原子力学会が調査委 発生1年3カ月でやっと」(毎日新聞)となりました。

 《発生から1年以上たってからの発足について、調査委員長に就任する田中知(さとる)・東京大教授は「遅いとの批判もあろうが、廃炉作業の過程で判明する事実もある。今だからこそ俯瞰(ふかん)的に事故を見つめられる」と説明した》

 《東電や政府が公表したデータを活用して》調査とあるので、新しいデータを発掘する気はないようです。それなら専門スタッフが手薄な政府や国会の事故調に全面協力して、専門家の視点で切り込んでいくべきでした。国の事故調が夏場に報告を出し、それに基づく公的措置が採られた後の来年末に報告を出す意義が説明されていません。国の事故調報告を踏襲するのなら意味はありませんし、それを否定する画期的な中身になるのなら「証文の出し遅れ」として、逆に社会的な批判を受けるのではありませんか。どちらのケースも国民からの不信を増幅するだけです。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


目が離せぬ5月の太陽:直径を観測、寒冷化

 金環日食で太陽への関心が一気に高まり目が離せなかった5月でした。国内研究者がリードして「太陽の直径 金環日食で計算」(NHK)されたばかりか、4月の《太陽観測衛星「ひので」、太陽極域磁場の反転を捉えた》で予測された「四重極構造」化と寒冷化が始まっていると考えられます。

 《今月21日の金環日食の際には「ベイリービーズ」と呼ばれる月の谷間からこぼれた小さな光が玉のように連なる珍しい現象が全国で観測されました》《光の玉が月のどの谷間によってできているのかを月探査衛星「かぐや」のデータと照らし合わせて割り出し、観測地点からその谷間を通る直線を引いて太陽の中心との間で直角三角形を作りました。その結果、太陽の半径が求まり、最終的に太陽の直径は139万2020キロと精度よく計算できたということです》

 太陽の直径は望遠鏡の直接観測では1300キロものばらつきがありました。金環日食の限界線は日本を縦断しており、多数のアマチュアにも呼びかけて限界線を現場に行って確定することで太陽直径を決めようとしました。国立天文台の相馬充助教らによる学会発表のプレプリント「2012年5月21日の日本における金環日食限界線」を見ると、限界線を確定するのも簡単ではなく、定義の仕方を変えると2キロも動いてしまうもののようです。

 現場の観測も難しく「皆既日食とは違って周りからの強い光のノイズを受ける厳しい環境下での観測になるため,金環日食になったかどうかを判断するのが困難で,限界線の位置が正確には定められないということが起こりうる.そのため,太陽の半径を正確に求めるためには,限界線決定のための観測と並行して,ベイリーの数珠が現れたり消えたりする時刻を正確に測定する観測を行うことも必要」となりました。苦労がしのばれる話ですが、国産のアイデアを生かし、ともかく測定に成功したのを喜びたいものです。

  ◆  ◆

 太陽磁場の「四重極構造」化については冒頭にあげた、国立天文台やNASAなどによるプレスリリースのほかに、《「ひので」による今回の観測の意義と最近の太陽活動について》に詳しくまとめられています。太陽観測衛星「ひので」が4年間にわたり安定した観測を続けた成果です。

 《予想される時期より約1年早く、北極磁場がほぼゼロの状態に近づいていることが、2012年1月の観測で発見されました。すなわち、北極の磁場を担う斑点状の磁場の数が急速に減少し、低緯度から逆極性の斑点が現れました。この結果、現在太陽の北極域では、逆極性の磁場の大規模な消滅と極性の反転が発生していると考えられます。この観測の結果から、太陽の北極磁場がまもなくマイナスからプラスに転じると予想されます。一方、驚くべきことに、南極では極性反転の兆候がほとんどみられず、安定してプラス極が維持されていることを、「ひので」は確認しています》以下がそうして生まれる四重極構造(北極プラス・南極プラス)です。


 太陽の黒点数が減って活動が弱まった時期に最近ではマウンダー極小期やダルトン極小期があり、その開始時期前後に四重極構造が現れたと考えられています。それぞれの極小期に京都では冬の気温が2.5度下がりました。



 「最近の太陽活動についてのまとめ」はこう述べています。「太陽周期が10.6年から12.6年に2年伸びている」「太陽活動は上昇しているが、黒点の数は以前のサイクルより少なく、また北半球に偏って発生している」「北極の負極磁場が大幅に減少し、現在正極に反転中。予想された反転の時期より約1年早い」「一方、正極磁場が卓越していた南極は安定な状態を維持しており反転の兆候はない」「以上から、太陽の基本的対称性が崩れていると考えられる」「同様の事象は、マウンダー極小期、ダルトン極小期の開始前後に発生していたと推定され、太陽が従来と異なる状態になっていると推測される」

 このほか補強する観測事実として「過去45年間の観測史上最多の宇宙放射線量」が指摘されています。太陽風活動が活発ならば宇宙放射線は太陽圏内に侵入しにくいのですが、低下しているために入ってくると考えられます。 今後は10月ごろに北極域の集中観測をして予測の推移を確かめることにしています。


『はやぶさ』が作った国民的希望を政治が潰す

 7年ぶり60億キロの苦難の旅路から昨年6月に帰還して、国民に感動と希望を与えた小惑星探査機『はやぶさ』の後継機プロジェクトが、政治の思惑で実質的に潰されようとしています。初代のプロジェクトマネージャ、川口淳一郎さんが「はやぶさプロジェクトサイト トップ」で「はやぶさ後継機(はやぶさ-2)への政府・与党の考え方が報道されている。大幅 に縮小すべきだという信じがたい評価を受けていることに驚きを禁じ得ない」と悲痛な訴えをしています。天体の相互関係で後継機打ち上げ時期は限られており、中途半端な予算縮小は中止に等しいのです。

 「はやぶさ-2は、実は、これが本番の1号機なのである」「初号機はあくまで、往復の宇宙飛行で試料を持ち帰ることができるという技術が、我々の手の届く範囲にあるということを実証しようとした、あくまで実験機」「我々の水と有機物に覆われた環境の起源と進化を探ることが、はやぶさ-2の目的である。まったく異なる天体(C型小惑星)を探査し、試料を持ち帰ろうという計画なのである」「政府・与党の意見には、はやぶさ-2に科学的な意義を見いだせないというものまであったという。まことに信じがたいことである」

 米国のNASAなどに比べれば僅かな予算で、世界に先駆けて小惑星から地球に試料物質を持ち帰った『はやぶさ』の意義評価は、世界では全く違います。科学ジャーナリストの松浦晋也さんが「はやぶさ2で野田事務所に嘆願書を送った」で「日本の成果を知り、その科学的価値を認識したアメリカは今年度からはやぶさと同様の小惑星サンプルを持ち帰る探査機『オシリス・レックス』の開発を開始しました。予算総額ははやぶさ2の3倍です。小惑星サンプル採取と持ち帰りには、それだけの価値があるとアメリカも認識したわけです」と野田首相に訴えます。

 『はやぶさ』の帰還は、ほとんど擬人化しての熱烈な歓迎でした。資料採取カプセル展示巡回は大好評でしたし、《探査機「はやぶさ」の快挙、しみじみ嬉しい》で紹介したように、持ち帰った微粒子1500個が小惑星イトカワ由来と発表された昨年11月には、同じ頃に話題だった「尖閣ビデオ流出」なみの反応をツィッターで得ました。科学技術立国への希望、手応えを感じさせる存在でした。

 成功に至った長年の技術開発をどう取り組み、何が得られたのか、《未来は決まっていない,挑戦なくして未来は開かない─「エンジニアの未来サミット for students 2011」第3回レポート》に『はやぶさ』の不屈のイオンエンジンを手掛けた國中均・宇宙科学研究所教授のエピソードがあります。

 米国が10年以上先に研究を進めていた分野で「後発の不利を挽回するため,國中教授たちは最初から消耗品となる電極のないエンジンの開発を目指します」「電極の代わりにマイクロ波を使い,電子を選んで加速させてプラズマを発生させる方式の開発に成功します。最初は推進利用効率が上がりませんでしたが,10年以上の研究の末」に、宇宙空間で使える非常に高効率のエンジンを達成しました。また、エンジン制御ソフトウェアは「こんな事もあろうか」と実に様々な想定をして多くのオプションを持った開発になっており、それが度重なる苦難を乗り越える力となりました。

 これだけの技術開発をして世界が注目する中で、本番の小惑星飛行を実施しないで初代『はやぶさ』のデモ飛行だけで終わらせるのか――来年度予算要求は、ほんの73億円です。自公政権下でも『はやぶさ』後継機プロジェクトは冷遇されてきましたが、本来の目標が実現出来うる今の段階になってこの話題を書こうとは思いませんでした。


高速炉もんじゅ落下装置引き上げに工学的無理

 福島第一原発事故の影響もあって福井県敦賀市にある高速増殖原型炉「もんじゅ」の運転も廃炉も出来ない惨状に関心が集まっています。そして、重量3.3トンもあり落下したままになっている炉内中継装置の再引き上げが来週にも実施されそうですが、昨秋の失敗に続いて今回も不可能ではないかとの工学的疑問を投げかけておきます。これで失敗したら東の福島に西の福井と、長年にわたり尾を引く原子力の厄介者を東西に抱え込む事態になります。

 昨年の引き上げ失敗は、落下の衝撃で筒状の炉内中継装置が曲がってしまい、原子炉上蓋の穴から抜けなくなって起きました。この穴は燃料出入孔スリーブと呼ばれる外径640ミリ、内径465ミリの筒状部品です。今回の引き上げではこのスリーブごと蓋から外してしまう大がかりな方法が考案されました。原子炉内部には200度以上の危険な高温液体ナトリウム、それを空気から遮断するアルゴンガスがあるために、安全に引き上げるための工夫が色々と凝らされているようですが、日本原子力研究開発機構は肝心な点を忘れています。

 20年前にこの原子炉を造った際には高温液体ナトリウムはまだ入っておらず、室温の環境で建設が進みました。200度もの高温が存在すると鋼材は無視できない膨張をします。最近になって炉内中継装置の関連資料をネットで見つけ、蓋とスリーブの構造を推定することで定量的な検討が可能になりました。


 上の図は「図12.2-2強度評価部位」を加工したものです。固定プラグと呼ぶ原子炉上蓋にスリーブが組み込まれ、その中に炉内中継装置がはまっています。装置がスリーブにぶつかった際の衝撃を評価する図で、赤く塗られた鋼材骨格の太さと熱伝導性の良さを考えると、赤い部分はほぼ室温に近いと考えます。その下にスリーブの中間段差があり、蓋側の内部には断熱材と思われる層が幾重にも重なっています。スリーブは上部と下部に空洞を持つようです。

 話の見通しを良くするために簡単なモデルを考えます。スリーブは段差がない直径500ミリ、建設時の蓋側の穴は片側0.1ミリのすき間があるとして500.2ミリ、中間段差部は最上部の室温より50度プラス、最下部の原子炉側は室温プラス200度とすれば、スリーブと蓋の穴の直径は鋼材の膨張を考えると現在、以下のようになっています。

           温度  スリーブ直径  蓋の穴直径
   スリーブ頂部  室温   (500.0ミリ) (500.2ミリ)
    中間段差部  +50度  500.3ミリ  500.5ミリ
      最下部  +200度  501.2ミリ  501.4ミリ

 スリーブ最下部を引き上げていけば、中間段差部に到達する以前に蓋の穴より直径が大きくなって抜けなくなります。もしスリーブだけ抜いていくのなら時間を掛けて温度が周囲の穴の温度まで下がるのを待つ手があります。しかし、スリーブは炉内中継装置を抱いていて、装置の下部は液体ナトリウムに浸かっていますから200度以上の高温は絶えず伝わってきます。スリーブと蓋の穴の間に最初からコンマ何ミリものすき間があれば抜けますが、アルゴンガスを封じ込める機能を考えれば、すき間はずっと小さく造られた可能性が高いとみるべきでしょう。機構側には建設時のすき間データが残っているはずですし、蓋の穴について裏側構造や熱容量のデータなども検討すべきですが、公開されていません。

 【参照】高速炉もんじゅ関連エントリー


『もんじゅ』課長自殺周辺の不審な巨額費用

 高速増殖炉『もんじゅ』(福井県敦賀市)で原子炉容器内に落下した燃料交換用の炉内中継装置を担当していた燃料環境課長(57)が自殺していたことが今週、伝えられました。自殺の理由について日本原子力研究開発機構は何の説明もしていませんが、前後して報道された事項を並べると不審な巨額費用が目に付き、ありがちな鬱病症状からの自殺とは思えません。何かが隠されていて、それが自殺の引き金になっている可能性があります。

 毎日新聞の《もんじゅ:現場課長自殺 “要”失い無念 「影響出ないように」》は「もんじゅの燃料取り扱いは、ナトリウムと空気が触れないようにするため、軽水炉よりも装置の構造や動作が複雑になる。このため今回落下した炉内中継装置のように、もんじゅ特有の機器も多い。課長は燃料の取扱設備についての特許もあり、この分野に長年一貫して携わってきた“スペシャリスト”だった」と報じています。本来、この現場に欠くことができない人物だったようです。

 自殺があった13日前後の出来事を整理しましょう。変形して炉内から抜けなくなった炉内中継装置を、原子炉蓋の一部ごと引き抜く復旧作業を請け負うことになった東芝と契約したのが10日です。14日にはその記者発表が予定されていました。旧動燃の時代から第130回「もんじゅ判決は安全審査を弾劾した◆手続きの公正さ、技術レベルへ疑念」を参照していただけば判るように、『もんじゅ』では自前の設計などせず、完全に業者「丸投げ」で仕事をしてきました。契約が終わって課長の肩の荷は下りたはずでした。ところが日曜日の13日に家族に「ちょっと出てくる」と言い残して課長は外出し、山中で自殺したのでした。

 14日に発表されたのは《もんじゅ復旧に13億8千万円 装置落下事故》(福井新聞)でした。「原子力機構によると、変形して使えなくなった装置を新造するのに約4億4千万円、装置回収に使う器具の製造などに約9億4千万円が必要で、いずれも東芝と契約を結んだ」

 そして15日になると朝日新聞が《もんじゅ装置落下、復旧に17億円》と大きく違う金額の記事を書きました。「落下した装置の状態を観察する3億7千万円の作業を同社と随意契約したほか、計9億4千万円に達する装置本体の引き抜きと復旧作業も随意契約で発注した。4億4千万円かかる新しい炉内中継装置の製作は一般競争入札にしようとしたが、同社しか応札しなかった」

 「落下した装置の状態を観察する3億7千万円」はなぜか当初の記者発表から隠されていたようです。そして、穴から抜けなくなっている炉内中継装置を詰まっている穴周りの大型金属リングごと引き上げるために、こんなに巨額の事前観察費用が必要でしょうか。既に1月18日には「炉内中継装置のこれまでの状況及び今後の進め方」が公表されて、詳細な観察結果は表に出ています。

 撤去作業の妥当性を助言する検討委員会の第1回は1月18日、第2回は2月24日でした。下の工程図では「落下状況等の調査・分析」はもう終わりに近づいていますし、実務作業は始まっています。どこで3億7千万円も使う場面があるのでしょうか。



 これだけ大きなお金は人件費では使い切れず、かなりの装置を作ることが前提でしょう。本当は別な事柄をするための隠れ蓑になっている可能性があります。ここに隠された重大問題があって、自殺した課長の心労になっていたストーリーなら理解できます。

 【参照】インターネットで読み解く!『もんじゅ』関連エントリー


もんじゅ落下事故に甘い認識、文科省の死角

 (2011/6/10お知らせ:この問題を検討した最新記事は「高速炉もんじゅ落下装置引き上げに工学的無理」です)

 高速増殖炉もんじゅ(福井・敦賀)は落下した炉内中継装置を引き上げるために出力40%の試験運転日程を半年延期すると発表したのですが、47NEWSの《副大臣「大きな事故ではない」 もんじゅ装置落下で》が「笹木竜三文部科学副大臣は17日、高速増殖炉原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)で職員らに訓示し、8月に起きた燃料交換用装置の落下事故について『安全上、大きなトラブルではない』と述べた」と伝え、監督官庁である文科省の甘い認識が露呈されました。炉内中継装置を抜きとる大がかりな工事が無事に終わっても、落下事故によって炉心内に出来た損傷が冷却材ナトリウム液の中で確認できるかどうかすら不明です。

 日本原子力研究開発機構が16日に発表した引抜き工程は次の図です。


 取り出し口の燃料出入孔スリーブの上には高さ7メートルにわたって各種機材が積み上がっていますから、まずそれを撤去します。そこに4階建てのビルほど高さがある簡易キャスクを設定し、アルゴンガスを満たして原子炉内と同じ状態にした上で、変形して抜けない炉内中継装置と燃料出入孔スリーブを一体で引き上げるというものです。炉内中継装置に付着している冷却材ナトリウムが空気と激しく反応して燃えるため、簡易キャスクに収容してから後の処理もナーバスになります。

 この図で注目点はナトリウム液位です。引き上げ作業の失敗で空気が炉内に入ることを心配して、ナトリウム液位をぎりぎりまで下げるはずです。その状態で炉内中継装置が落下してぶつかった場所は液中に隠れています。金属ナトリウム液は不透明ですから、引き上げが成功しても第215回「もんじゅの炉心用装置落下、死んだも同然に」 での「破損を見つけられない」指摘はそのまま有効です。

 もともと今回の落下事故は核燃料交換という、原子炉管理では初歩的な作業で起きました。「超々楽観主義!! もんじゅの事故トラブル想定」で検証したように、炉内に物が落ちる想定が全くされていません。文科省は想定になかったから『大きなトラブルではない』と思っているのですから、技術的にはもう笑い話の世界です。これまで全く経験がない引き上げ作業が本当に無事済むのか、過去の失敗の数々からも疑わしいと思います。

 ただ、これが成功すれば本格運転はそのままで出来なくとも、廃炉にする事は可能になるはずです。動かなくても年間200億円以上を食いつぶす怪物を早く廃止したいものです。ブログでも廃止待望の声は数多く聞けます。


探査機「はやぶさ」の快挙、しみじみ嬉しい

 宇宙航空研究開発機構が16日、「はやぶさカプセル内の微粒子の起源の判明について」で小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰った微粒子1500個は「そのほぼ全てが地球外物質であり、小惑星イトカワ由来であると判断するに至りました」と発表しました。月以外の天体に初めて行って、その物質を持ち帰った、文字通りの快挙です。太陽系の原初的状態を残す物質を地球にもたらしたのですから、科学的な価値は極めて高いと思います。

 7年間に及ぶ苦難に満ちた旅からの奇跡的な帰還で、6月にはほとんど擬人化しての大歓迎でした。持ち帰った物が無くても――という感覚もあったのですが、これで胸を張ってよくなりました。しみじみ嬉しい思いです。

 【追補11/17】記者会見での「はやぶさ」スタッフの生の声がいっぱいあるレポートが「大塚実の取材日記」から出ていますので紹介します。「はやぶさ記者会見 微粒子1,500個はイトカワ由来と判明!」「私は1粒でいいと思っていたが、中村先生から1,500粒と聞いて そんなにたくさんいらないのにと思った。正直そう思った。本当に信じられない」

 先日の「尖閣ビデオ」で開発したTwitterでの反応測定をしてみました。「はやぶさ OR イトカワ」で「buzztter(バズッター)」サイトを検索すると、以下のようにピークが「711」のグラフです。「尖閣ビデオ」のグラフも並べましょう。


 8時間で「2345」のtweetがあったようです。「尖閣ビデオ」で最初の8時間なら「3772」です。「はやぶさ」の快挙もかなりのインパクトでした。


韓国核融合記事で改めて気付く日本勢の独善

 先週、朝鮮日報が「韓国の人工太陽『KSTAR』、核融合に成功(上)核融合研、2000万度で6秒間プラズマを維持」と報じたのを見て、20年以上前に核融合を取材していた頃にタイムスリップした感じで目眩がしました。何億度到達が問われている現在、ニュースは超電導コイルを使った点だけですが、核融合による高速中性子を検出したと胸を張っていらっしゃいます。これを機に久しぶりに日本の核融合「業界」をサーベイしてみると、こちらも我田引水の独善ぶりでくらくらする思いでした。

 核融合研究は大型化にするにしたがってお金が掛かりすぎるようになり、各国ばらばらではたまらないのでフランスに建設する「国際熱核融合実験炉(ITER)」計画(1兆6000億円)に一本化されたはずでした。そこで超電導コイルが使われるので、韓国はその走りになります。サムスンの当該部門がそっくり移行して製作したそうで、やる気は買いましょう。しかし、微量の核融合中性子線が検出されたと騒いでいるのはあまりに時代遅れです。今や実験装置ながら膨大に出る中性子線による周辺物質の放射化が問題になっており「ITERや核融合炉の放射能は?」が「ITERでは、約20年間の運転終了後には約3万トンの放射化物があるとの試算がなされています。 100年後にはその放射能は、50万分の一になります」と説明しているほどです。

 実験装置でこれですから、定常運転する核融合発電炉と周辺の放射化には空恐ろしいものがありますが、低放射化材料がそのうち開発されるだろうとして発電装置を備えた原型炉への道筋が「核融合開発ロードマップと今後の原型炉開発への展望」(2009)で描かれています。核融合反応を最も低いプラズマ温度で起こせるのは重水素と三重水素(トリチウム)の組み合わせです。ITERは2020年代にこの反応を初めて本格的に使い、DT燃焼で大量の中性子を生んで熱に変え、発電につなげます。日本の原型炉はITER実験が全てうまく進む前提に立って設計を前倒しし、DT燃焼実験が終わる2020年代末には建設に入る性急さです。

 また、かつての「旗艦」実験装置JT60は役目を終わったはずでしたが、「JT60SA」としてもう一度建設される話になっています。SAは「super, advanced」の略で、こちらも超電導コイルを使い、ITERの相似形装置として運転条件の模擬に役立てるとか。運用は国際協力の枠内ですが、建設と実験は「国内のトカマク重点化装置としての費用は別枠で必要」といいますから、呆れてしまいます。国際的にITERに一本化したはずなのに、巨額を要するミニチュアを欲しがっているのです。「原子力政策大綱等に示している核融合研究開発に関する取組の基本的考え方の評価に関する報告書(案)に対する御意見」(原子力委員会)の冒頭で「JT60SA に期待するが、核融合エネルギー開発への貢献が見えにくい」と言われて当然です。

 昔から予算の分捕りには強い研究者が集まった日本の核融合「業界」で、独りよがり、独善は後発の韓国以上のものがあります。しかし、説明責任が果たせない巨大科学プロジェクトに大きな予算が付く時代は去ったと気付くべきです。

 【参照】親サイト、インターネットで読み解く!「科学・技術」分野


高速炉もんじゅに出た『生殺し』死亡宣告

 福井県にある高速増殖原型炉もんじゅで原子炉内に落下してしまった炉内中継装置(直径46cm、長さ12m、重さ3.3トン)を引き抜く作業が13日、失敗に終わりました。毎日新聞が「もんじゅ:誤落下、中継装置抜けず 運転休止長期化も」と伝えましたが、技術的常識に従えば本格運転も廃炉措置も出来ない袋小路に追い込まれたと言えます。『生殺し』死亡宣告が出されたのです。

 炉内中継装置は「2本の筒を8本のピンで上下に接合した構造で、下から約5メートルの部分に接合部がある。この接合部あたりで抜けなくなっている」「引き上げ作業では、設計上の限界4・8トンまで引く力を段階的にかけて24回試したが、抜けなかった。もんじゅは構造上、装置を引き抜かなければ原子炉の運転ができない。現状では接合部が原子炉容器内部にあり、アルゴンガスやナトリウムで覆われているため、目視で調べることができない」

 10月1日に日本原子力研究開発機構から出された中間報告で「落下による影響はない」としたばかりでした。15日に開かれた県原子力環境安全管理協議会で、「委員の『炉内の傷の有無はどう確認するのか』との質問に、もんじゅの向和夫所長は『物理的に装置は真っすぐ落ちており、炉内や燃料にぶつからない』と強調した」(「もんじゅ、国の管理不備指摘 県安管協、炉内装置落下で」=福井新聞)のですが、落下した装置側に変形がある以上、ぶつかった先の炉内が無傷と考えるのは工学的に非常識です。

 読売新聞が「もんじゅ炉内装置落下 長期化恐れ/原因究明を 福井大・竹田所長に聞く」で今後の対処法を聞いています。「最終的には原子炉容器の上ぶたを外さないと、装置を取り出せないかも。しかし、冷却材用のナトリウムが空気と反応して燃えないよう、容器内にはアルゴンガスを満たしており、簡単にはふたを外せない。装置を壊して取り出すなどの方法を考えた方がいい」

 「装置を壊して取り出す」とまで言い出す点に、専門家がいかに困惑しているのかが現れています。原子炉容器の上蓋を外すにも、この炉内中継装置が健全である必要があります。なぜなら上蓋を外すとアルゴンガスが抜けて空気と触れた液体ナトリウムが激しく反応して燃え出しますから、まずナトリウムを抜いて置かねばなりません。冷却材のナトリウムを抜く前には、炉心から燃料棒を全て引き抜く必要があり、燃料棒を炉外に出す装置がこの炉内中継装置なのです。第215回「もんじゅの炉心用装置落下、死んだも同然に」に引用した図「原子炉内での燃料交換と移送」をご覧ください。燃料移送の要の位置にあります。

 では原子炉容器の上蓋を開けるのを避けて、装置を壊せるのかです。下の図は原子力機構が公表しているもので、厚さが3.695メートルもある上蓋の穴に炉内中継装置がはまっています。

 直径46cmのパイプ状ですから、内部に何らかの切断機械を押し込んで壊すだけなら可能でしょう。しかし、パイプの下は原子炉内ですから、大きな破片はもちろん小さな切削片すら落とすことは許されません。不透明なナトリウム液中で回収は不可能で、本格運転した際に物理的な損傷や炉心中性子分布の異常を引き起こします。滅茶苦茶に厳しい条件で、現状では壊して引き上げる方法を知りません。ロボット装置のようなものを研究開発すれば何年もかかるでしょうし、出来ない可能性が高いと思います。

 運転も廃炉も出来ない『生殺し』を避けるわずかなチャンスが残っています。健全でないと判っている炉内中継装置、その下の炉内にも何かの異常があることに目をつぶって燃料棒を炉外搬出するのに使ってしまうのです。もし全て搬出できればナトリウムを抜いて作業が出来ます。しかし、燃料搬出の途中で止まりでもしたら、旧ソ連チェルノブイリ原発のような『永遠のお荷物』が出現します。

 (2011/6/10お知らせ:この問題を検討した最新記事は「高速炉もんじゅ落下装置引き上げに工学的無理」です)

 【参照】インターネットで読み解く!高速炉もんじゅ関連エントリー


ノーベル化学賞らしい地味な研究に日本人2人

 ノーベル賞の中でも化学賞は特に地味な分野で、研究の面白さを一言で言い表しにくいことが多いのです。この賞が今年、根岸英一・米パデュー大特別教授(75)、鈴木章・北海道大名誉教授(80)、リチャード・ヘック・米デラウェア大名誉教授(79)に与えられると発表されました。メディアからネット上にも色々な情報が提供され始めています。狙いを絞った化合物を的確にかつ容易に合成できる方法を開発されたのですが、共通して特許を取られなかったと知って、研究者魂のようのものを感じました。

 根岸さんの声は《根岸さん「受賞は現実的な夢だと思っていた」》(読売新聞)にあります。ストックホルムのノーベル賞発表会場から電話でつないだインタビューで「――特許は取りましたか?」と聞かれ「クロスカップリングについて意図的に取っていません。多くの人が使いやすくするためです」と答えています。

 鈴木さんについては日経新聞が昨年の記事「新合成反応、30年経て脚光――有機ELや医薬、日本の技術貢献(日曜版)」を掘り起こしています。「鈴木名誉教授は、クロスカップリング反応に関して特許を出願しなかった。米国の研究者仲間からは『もったいないことをした』と指摘されるが、『当時、大学の教官が特許を出す雰囲気は全くなかったから』と振り返る」「仮に特許を出願していれば、企業はこの方法を回避する道を選んだかもしれない。『特許にしなかったので使いやすかったのでしょう』(鈴木名誉教授)。応用が広がった隠れた要因といえそうだ」

 人生万事塞翁が馬――なのですね。医学生理学賞を受けた体外受精開発のロバート・エドワーズ英ケンブリッジ大名誉教授と同様に、1970年代からの仕事が評価されての受賞です。ある研究分野が大盛況を迎えているとき、その分野のブレークスルーを起こした第一人者を特定して顕彰するのがノーベル賞の王道です。だから良い仕事をしても長生きしなければいけません。逝ってしまった惜しい人を思いながら、ニュースを聞きました。


お隣の惑星、火星の驚異に満ちた高解像写真

 政治も経済もぱっとした話がありません。「DDN JAPAN」の「想像を超えていた、再び。火星表面写真 29選」を覗いて、異様な光景の連続にびっくりしました。引用元になっている「Martian landscapes」(www.boston.com/bigpicture)の方がずっと高画質で、説明は英語ながらクレーターの大きさなども書かれて参考になります。高解像度ならでは発見もありますから、是非、オリジナルでご覧になって下さい。最初の写真、砂丘に描かれた模様から一部分を切り出してみました。

 ウィキペディアによると火星の大気圧は地球の0.75%しかなく、希薄ですが、火山活動があります。大気の95%が二酸化炭素で、冬になるとドライアイスの厚い氷が張ります。「極に再び日光が当たる季節になると二酸化炭素の氷は昇華して、極地方に吹き付ける400km/hに達する強い風が発生する。これらの季節的活動によって大量の塵や水蒸気が運ばれ、地球と似た霜や大規模な巻雲が生じる」といった激しい気象変化があるので、地球にいる我々の想像を絶した現象が起きているのでしょう。

 写真はNASAのMars Reconnaissance Orbiter (MRO)が2006年から撮っているものです。高度は300キロ前後と言います。Google Marsでの地点とリンクがはって対照できるようになっています。遠くから見れば茫漠とした地形の中に、画家やデザイナーが作りだしたようなシュールな模様が存在している訳です。


2年延期でも完成は無理?六ケ所再処理工場

 2兆2000億円を投じながら完成が13年遅れている青森の六ケ所核燃料再処理工場について、さらに2年の延期をする見通しとマスコミが一斉に報じました。朝日新聞の「六ケ所・核燃再処理工場、完成2年延期へ 原燃方針」は「処理過程で出る高レベル放射性廃棄物をガラスに閉じこめる『固化試験』でトラブルが続出。このため、炉の温度を細かく調整するための大幅な改修が必要と判断」としています。しかし、この延期で完成が保証されるのか、極めて疑わしいのです。

 朝日新聞青森版の「原燃 試運転終了を2年延期へ」は「原燃は、溶融炉内の温度管理のノウハウをさらに高めるとして、模擬廃液を使った試験でデータを蓄える方針。県幹部は『れんが落下は、放射性廃液をいきなり使って試験をしたため起きたのではないか。模擬廃液での検証に長期間かけ、工場完成につながる試運転には当面入るべきではない』と指摘した」とも伝えています。日本原燃の技術レベルの悲惨さがあらわになって、行政側も不信感を高めています。

 昨年の第180回「敗因は何と工学知らず:六ケ所再処理工場」で高レベル放射性廃液のガラス溶融炉に「実証されていない新方式を採用した時点で、工学とはかけ離れた『ロマンの世界』に移ってしまいました。ブレークスルーすべき要素技術があるなら、実プラントの建設ではなく、まず研究室で実証すべきです」と指摘したように、実用技術として確立していない方式を大型の実機に採用した点に根本的な問題があるのです。

 最近になって、東海村にある実規模試験装置で細かな温度管理をすればうまく動作する場合があると知れたようです。その細かな温度管理のために大幅な改修をしようというのですが、プラントの現場は既に高レベル放射性廃液で汚染され、人間が立ち入れない「死の空間」になってしまいました。大幅改修を遠隔操作でしなければなりません。これまでの試運転でのドタバタぶりを見れば、改修が成功し、安定した運転が続けられる可能性は低いと思えます。昨年、津島衆院議員が「なぜ国産技術にこだわるのか。自信がなかったら外国の技術を取り入れるべきだ」と主張しました。2年も延期するなら運転実績がある方式を新規に導入するべきです。

 高速増殖炉「もんじゅ」での炉心装置落下事故への対処が行き詰まっている問題といい、国策原子力開発には技術的な常識を持つ人材が欠けていると断ぜざるを得ません。巨費を投じているのですから、民間なら失敗を許されないケースです。


超々楽観主義!! もんじゅの事故トラブル想定

 重さ3トンもの装置を原子炉内に落下させた高速増殖炉「もんじゅ」では、落下による損傷は大丈夫か確認するにも不透明な高温の金属ナトリウム液の中では調べようがないことを「もんじゅの炉心用装置落下、死んだも同然に」でお伝えしました。こんな大きなモノでなく、小さな部品などを落とすことは軽水炉ではしばしばあります。冷却材は秒速数メートルの高速で炉内や配管を巡るので小部品でも炉内を傷つけ、危険です。回収せずに運転するわけにいきません。軽水炉なら透明な水の中ですから発見は容易ですが、もんじゅではどう考えられているのか、運転再開を前に公表されている「事故・トラブル等の事例とその対応集」で確認してみると、驚くべき事に全く考慮されていないのでした。

 何かのモノが落下して行方不明になる事態がどの項目にも見あたりません。「燃料出入機グリッパの故障」や「燃料集合体の変形」の項目では今回のようなつかみ損ねや引き抜けないケースが扱われていますが、落としてしまう事態は全く想定されていません。操作をやり直せばよいとの想定です。また、小部品が落ちてしまうような失敗はありえないと考えられているようです。この超々楽観主義で巨大設備の原発を長期に運転する気なのでしょうか。

 軽水炉の例ではこんな落下物もあります。「5号機 燃料装荷作業中における原子炉内への異物落下について」(中部電力)は「午前3時45分頃、燃料装荷作業中に、燃料交換機上で燃料の移動状況の監視に使用していた双眼鏡から接眼部の部品(大きさ直径約2cm)が外れ、原子炉内へ落下しました」とし「当該部品は炉心シュラウドの上部フランジ部で発見され、同日午前9時20分に回収しました」と報告しています。

 あらゆる部品に落下防止策を施していたとしても、何が起きるか分からないのが現実のプラントです。3トンの重量装置落下でなくて、ちょっとしたミスで物を落としても発見不能になり、もんじゅの運転は出来なくなるようですから、運転不能の事態は遅かれ早かれ到来する運命でした。マスメディアはつかみ部の異常など落下原因の方に目を向けていますが、問題にすべき点を間違えています。


もんじゅの炉心用装置落下、死んだも同然に

 福井県敦賀市にある高速増殖炉「もんじゅ」で26日、重さ3.3トンの炉心用装置が原子炉容器内に落下する事故がありました。福井新聞が28日、「もんじゅ、復旧作業長期化も 炉内中継装置落下」と伝えるなど、深刻になる兆しが現れています。現時点では異常は現れていませんが、運転を再開して原子炉容器が大丈夫か調べることが至難なのです。

 この炉内中継装置はもんじゅ特有のもので、ネット上で調べると高度情報科学技術研究機構にある「図3 原子炉内での燃料交換と移送」 が分かりやすそうです。
 炉内中継装置と示されている筒の下に落ちた本体があり、移送ポットや中継ラックを支えているのでしょう。核燃料を交換する装置から受け取って炉外へ搬出する中継ぎ役の装置です。作業が終わって撤去する際に、途中でグリップが外れて落下していますから、おそらく図の位置付近まで戻っているはずです。

 「状態確認は、原子炉容器内にファイバースコープやCCDカメラを挿入し、グリッパーの外観をまず調べる。異常がなければ、グリッパーを操作し、開閉などの作動に問題がないかを確かめる」「その上で、落下したとみられる炉内中継装置上部の状態をファイバースコープなどで確認し、さらにグリッパーを下げて同装置の位置を調査する。これらの後に、グリッパーが付いた同装置の収納設備を取り外し、目視でグリッパーを詳しく点検する」「原子力機構は『すべての状態確認を終えるめどは分からない』としている」

 原子炉容器内は軽水炉のように水で満たされているのではなくて、高温の液体金属ナトリウムですから不透明で目視するなど困難です。それでも装置の上部は対象範囲が狭いので何とかなるでしょうが、落下で衝撃音がした炉心周辺部の損傷状況をどうやって確認するのでしょうか。そんな深い場所までファイバースコープやCCDカメラを下ろしての細かい位置制御は難しく、不透明な液体中で目視確認をして意味があるのか、大きな疑問があります。

 気になってTwitterを見たら、批判の嵐です。その中に「高速増殖実験炉『常陽』の事故とその重大性」の参照を求める発言がありました。もんじゅと同じナトリウム冷却の常陽でも機器の破損事故があったのに、不透明であるために発見も対処も遅れたといいます。「そもそも『もんじゅ』では、究極の事故=炉心崩壊事故対策として、ナトリウム液位を炉心上面が見えるところまで下げられない構造になっている。破損を見つけること自体できない」。今回の損傷場所はさらに深いのです。

 この落下事故で、もんじゅは事実上、死んだも同然になりました。

 【参照】第187回「信頼性無し、もんじゅ運転再開は愚の骨頂」

 【続報】2010/10/17「高速炉もんじゅに出た『生殺し』死亡宣告」


10月完工は厳しさ増す六ヶ所再処理工場

 昨年の6月に第180回「敗因は何と工学知らず:六ヶ所再処理工場」で「完成は絶望的」と指摘した青森・六ヶ所村の核燃料再処理工場ガラス溶融炉で、天井から落下したレンガが2カ月半かけて取り除かれ(当初予定は10日間)、溜まっていたガラス溶液の抜き取りが2日に終わったそうです。1年余りかけて原状復帰状態になりました。8回目の延期をした完工目標は10月ですが、計画より既に6カ月遅れともいいます。

 2兆2000億円の巨費を投じた再処理工場が稼働するかどうかは、高レベル放射性廃液のガラス固化が成功するかどうかで決まります。今回、改めて日本原燃の技術レベルを検証するために「定例記者懇談会挨拶概要」を読み、対応する技術レポートを経済産業省サイトなどで探しました。社長の話だけ読んでいると、事態は改善の方向に進んでいるかに見えます。

 6月29日には白金族の炉底部沈降=ガラス流下阻害という、完工を遅らせている一番の不具合について述べています。東海村にある実規模試験装置「KMOCを使った試験につきましては、今月9日から前回起こった流下不調の時に近い炉内の温度状態を再現する試験を先週末まで実施いたしました」「この結果、予想どおり、ガラス温度が高くなると白金族が炉底部に沈降するという、流下不調の時と同じような状態変化が起こることを確認いたしました」「白金族の挙動への対応、つまり、温度管理がいかに大切であるかということと、KMOCに追加設置した温度計の有効性を実感した次第であります」

 実規模試験装置で新知見が得られて、これで完工見通しが立ったかのようです。ところが「ガラス固化設備の開発、試験等の経緯」の6ページ「KMOC#6(1)(H16.3〜5)」の項に「(ハード改造)・ 炉底ガラス温度計設置【KMOC】」とあり、「KMOC#6(2)(H16.7〜11)」に「炉底ガラス温度計設置【実機】」ですから、温度計設置は6年前です。温度管理の重要性は試運転で失敗する前から分かっていたことです。また、実機の試運転で失敗した条件を試験装置では試していなかったように読めますから、ずさんな準備態勢であることは間違いありません。

 このレポートの冒頭では、原研機構で開発された実験炉(ガラス量880kg)を、六ヶ所の実機ではガラス量4800kgと強引に大拡張した事情も説明されています。「ガラス溶融炉の処理能力は溶融表面積に依存し、ほぼ比例の関係にある」と「開発の過程で確認」したので拡張し、ガラスもカートリッジタイプからコストが安いビーズ状に変えたとしています。エンジニアリングの常識では「確認」ではなく「推定」したのであり「別途確認する試験を実施」すべきなのです。最終試運転と並行して、いま確認試験がされているかのよう。

 天井のレンガが落ちたのは想定外の運転中断が相次ぎ、温度変動が大きくなって割れてしまったと国に報告しています。今後は温度変動を抑えるし、落ちても安全には影響しないとの建前をとっています。しかし、落下レンガ片がガラス流下ノズルに入るような小さなものなら、運転の安定性は損なわれます。社長自身が「当初、白金族の堆積やレンガの破片等による詰まりによって流下や通電が上手くいかない心配もありましたが」と言っているとおりです。

 高レベル放射性廃液漏れなどで悲惨な状態だった現場が、1年以上費やしてきれいになっただけ。本質的な打開策が出来たのかと問えば「ノー」でしょう。


7年ぶりの地球帰還「はやぶさ」に熱い視線

 50億キロの長い旅の苦難を乗り越えて、小惑星探査機「はやぶさ」が今夜遅く地球に帰ってきます。再突入で本体は燃え尽きるのですが、小惑星で採取したはずの試料カプセルはオーストラリアの砂漠に投下します。自前のエンジンを動かして惑星間を航行し、地球からの遠隔操作もままならない場所で採取作業をこなして帰ってくる点だけでも世界初の快挙です。相次いだトラブルにあの手この手を工夫して対処した宇宙航空研究開発機構(JAXA)技術陣も凄いと思いますが、それに奇跡的に応え続けた「はやぶさ」のストーリーは既に伝説化しつつあります。

 「はやぶさ帰還ブログon Twitter」は約4万人がフォローする状態で再投入を待ちます。午後12時45分からは《「はやぶさ」帰還日のイベント情報》にあるようにライブ中継などが準備されています。「はやぶさ、地球へ! 帰還カウントダウン」公式サイトのほかに、読み物として《祝帰還!「はやぶさ」7年50億kmのミッション完全解説【その1】》などもあります。

 【追補】「松浦晋也のL/D」が2カ月ぶり更新でした。オーストラリアで現地取材中だそうです。「オカエリナサイ――南オーストラリア・ク−バーペディにて」。「はやぶさは世界初の壮挙を成し遂げつつある。それは終わりではなく始まりだ。より深く太陽系を理解するためにより様々な場所へ、より遠くへ」「後継機『はやぶさ2 』は、開発が開始できるかぎりぎりのところにある。当初2010年を予定していた打ち上げは、奇妙なことに引き延ばされるだけ引き延ばされ、現状では2014年である」

 【大気圏再突入する「はやぶさ」=午後11時ごろ和歌山大チームの中継から】
 解説を聞いていると画面下中央をよぎる光は試料カプセルのよう。  

 ※録画はこちらに(6/13)
 ※NASAの撮影動画から見てやはり本体の燃焼のようです。(6/14)


もんじゅ報道、マスコミまで旧動燃品質!

 11日にお伝えした「もんじゅ驚愕の運転再開、制御棒の操作知らず」の真相がようやく明らかになってきました。やはり運転員に対して旧動燃品質の「ずさん訓練」しかできていなかったのです。そして、今回の報道ぶりはマスコミまで旧動燃品質と申し上げるしかなく、ポイントを外しまくっています。

 高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)には「もんじゅシミュレータ(MARS)」が設置されていて「中央制御室及びプラント全般をフルスコープで模擬しており、マンマシンシステムとしての評価・検証、十分な臨場感をもった運転訓練、種々のプラント挙動の検証等を行うことができる」と誇らしげにうたっています。

 ところが、朝日新聞の「もんじゅ操作ミス 『継承』課題置き去り」は制御棒の操作失敗について「記者会見した原子力機構は、運転員が未熟だったことと、操作方法をまとめた試験要領書に長押しの操作が不記載だったことが原因と説明した。運転員らが使っていたシミュレーターは、微調整棒の速度変化が再現されてなかった」と明記しています。 これが「十分な臨場感をもった運転訓練」の実態です。

 原子力発電所のシミュレーターで制御棒の操作を忠実に再現しないモノが実在していることこそ、驚愕の大ニュースです。この模擬装置でどんなに訓練しようが、制御棒の動きすら完全に模擬していない以上、訓練の価値はありません。シミュレーターは現実に起きる事象をすべて尽くそうと必死になって作るモノです。運転操作の根幹である制御棒操作が実機と同じに出来ないなら、異常時に秒を争って原子炉を止めることが経験できないではありませんか。朝日の「ナトリウム漏れ事故から続く、長期の運転停止。実地の操作経験がない運転員が8割を占め、現場の技術やノウハウの継承が以前から課題とされていた」とは手ぬるすぎて話になりません。

 読売新聞「『もんじゅ』再開1週間、トラブル連鎖…長期停止の〈ツケ〉」のピンぼけぶりも劣悪です。識者コメントとして「福井大国際原子力工学研究所の望月弘保教授は『停止期間が長かっただけに、世代を超えた技術継承がうまくいかなかった面はあるだろう。動かしていく中で経験を蓄積していくしかない』という」とは、絶対に安全な運転を求めている国民を愚弄しています。運転しながら訓練していく――何と噴飯物の発言――直ちに運転を停止して、安全な運転が出来るまで準備をし直せ、シミュレーターを作り直せと求めるのが筋です。


もんじゅ驚愕の運転再開、制御棒の操作知らず

 14年も停止していた高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)が運転を再開、早速、驚きいっぱいの低技術ぶりを披露しました。読売新聞の「もんじゅミス 運転員、基本操作知らず…ボタン長押し 手順書に明記なし」などにあるとおりです。「原子力機構によると、試験終了後に原子炉の出力を落とした状態にしようと、制御棒19本のうち2本を挿入しようとしたが、1本が入りきらなかった」「原因を調べたところ、制御棒を最後まで挿入するには操作ボタンを長押しする必要があるが、運転員は制御棒の全挿入操作は初めてで、長押しが必要と知らなかった。原子力機構は運転手順書にこの操作に関する詳しい記述を追加した」

 他紙によると、この運転員は短く何度もボタンを押したそうです。原発運転の基本である制御棒操作を知らなかったことも驚愕ですが、一連の事実から容易に推定できる大欠陥に気付いて背筋がぞっとしました。もんじゅ運転チームは、本格的な運転シミュレーターを持たずに、座学で運転を学んでいる事実です。模擬制御盤があれば「長押し」と「短いプッシュ」の差を体感できるようにしないはずがありません。14年の空白期間に何をしていたのでしょう。

 まともな運転シミュレーターが無いということは、事故事象への対応も本格的に模擬した経験がない――と結論できます。これは大変です。原発の主流である軽水炉では、運転員を育てるために様々な工夫をしてリアルな模擬制御を訓練に使ってきました。デジタル時代の現在では簡単な模擬でも昔はかなり大変だったのですが、もんじゅが動き出す前から電力会社は使っていました。止まっている間、年間200億円もの維持費を使いながら、現代的な運転シミュレーターを新設する知恵さえ、日本原子力研究開発機構(旧・動燃)にはなかったのです。私の第187回「信頼性無し、もんじゅ運転再開は愚の骨頂」にその体質が描いてあり、不思議としません。

 11日の各紙朝刊には「原子力機構が10日、午後1時までの24時間に施設内で警報が75回出たと発表」との記事が出ました。「配管室の圧力計が低気圧による気圧変化に反応した(40回)とか、大した不具合ではない」としています。試運転段階の超低出力で何も起きていないと知っているから「不具合でない」と言えるだけです。高出力運転で各機器がフル回転している際に、警報が頻繁に鳴って、それが不具合でないと断定できるでしょうか。普通の技術者なら一生懸命、考え始めます。それが何十回もの警報になれば、本当の異常が埋もれる恐れがあります。もし異常事象が起きていると分かった後での警報多発なら、運転チームはパニックになるでしょう。

 3月の「口に出来ぬほどの技術的愚劣、もんじゅ再開」でこう書きました。長い休止で「各パーツを発注しただけの技術者すら退職してしまいました。安全確保のために点検すると言って、実は何をしたら善いのか、現場がどのようになっていれば正解であり、安全なのか判然としない技術陣が、巨大で危険な高速増殖炉をこれから動かすのです」――運転再開早々に現れている、笑うに笑えない愚かしさの本質はここにあると思います。

 【追補】読売新聞が夜遅くなって「もんじゅ手順書に操作法書かず、訓練もなし」を掲示し、より詳しく伝えました。「長押し」ではなかったにせよ、事態の本質は変わりません。「操作ミスした運転員は、『微調整棒』とよばれるこの特殊な制御棒の操作訓練を受けたこともなく、実物をこの日、初めて操作した」「もんじゅは、出力を下げるために制御棒を最下部まで挿入する際、残り6ミリ・メートルからはボタンを小刻みに押し、慎重に下ろす手順を定めている。ところが、操作ミスのあった微調整棒は、残り3ミリ・メートルになると挿入速度が他の制御棒の4分の1に落ちる。したがって、運転員はふつう、ボタンを余計に押し続けて挿入を完了する」「そのような操作方法が手順書に明記されていなかったため、微調整棒に異常が起きたと考え、挿入作業を中止したという」


再生不能は商品失格、AVATARブルーレイD

 大連休中にするべき仕事に一区切りついたので、楽しみに残していた大ヒット映画「AVATAR」のブルーレイディスクを再生しようとしたら、なんと「WARNING:お使いのブルーレイ製品をアップデートする必要があります」と出てしまいました。「WinDVD」が組み込まれた東芝ノートパソコンなので調べると、「OEM版 (バンドル/プリインストール) WinDVDをお使いのお客様へ」で「一部のBlu-ray Discタイトルで正常に再生ができないケースが報告されておりますが、現在アップデートプログラムを準備しておりますので、準備が出来次第、本ウェブページにてご案内いたします」とする状況です。4月23日発売ですから、10日が経過しています。

 ブログで見ると「AVATAR は Blu-ray で観るべし」では「Pioneer BDP-320 で再生すると、この通り再生できませんでした。LAN 接続していたので、バージョンアップして無事に再生できましたが、バージョンアップが用意されていないと再生できない人もいるらしい」と報告しています。

 スラッシュドットの「WinDVD9とAvatarのBD」は「商品としてこれは法律の範疇で許されるんだろうか?」「Discの強化が理由って完全に製造(規格)側の問題ですよね。こういう問題が出てくるとBlu-rayはちょっとお勧め出来ない規格に入るなぁ・・・」と批判しています。

 ソニー製BDレコーダーでも不具合があり、まだ対応がとれていないそうです。きちんと買った正規品が機能しないなんて、いくら違法コピー対策を強化したいからといって無茶苦茶ですね。ブルーレイの高精細感は評価しますが、これでは商品失格です。実は通常のDVD版も一緒に付いています。これはお得感ありの演出というより、ブルーレイが正常に見られなかったときのエクスキューズだったのではないかと疑いたくなりました。


マグロに続きウナギも完全養殖の国産技術

 暗いニュースが多い中で水産総合研究センターの「世界初の『ウナギの完全養殖』、ついに成功!〜天然資源に依存しないウナギの生産に道を開く〜」といったサクセスストーリーに接すると、ほっとします。前に書いた「国際規制強化に間に合ったマグロ完全養殖」と合わせて、海外に比べて圧倒的な差をつけている国産の養殖技術です。

 「完全養殖が実現しても、国内のウナギ養殖に必要な億単位の種苗を生産する技術は確立されていないので、今すぐに養殖用種苗を人工生産によってまかなえるということにはならないが、この成果は、資源の減少が危惧されている天然ウナギに依存せずに飼育下でウナギを再生産できることが示されたという点、および飼育環境に適応したウナギを選抜して世代を重ねることによって安定的大量生産技術開発に向けての進歩が期待できるという点で大きな意義を持っている」

 国際的にマグロ資源の心配が言われていますが、ウナギ資源の方がもっと深刻かも知れません。農水省の「ウナギ人工種苗の実用化を目指して」にあるグラフと解説を引用(国や自治体の資料は引用元を明記すれば転載は自由)してみます。「世界的に見ても各種ウナギの資源水準が低下していると言われています(図3)。一方、中国のウナギ養殖ではヨーロッパウナギも種苗として利用されていますが、資源の枯渇を懸念して2007年のワシントン条約締約国会議において、ヨーロッパウナギの国際的な取引が規制されることになりました」。日本より欧米ウナギの枯渇が大変で禁輸の動きもあります。 ヨーロッパウナギはニホンウナギよりも大ぶりです。


 人口生産の稚魚から育てたウナギを成熟させ、これから稚魚を得て完全養殖のサイクルが出来たのですが、実用化への道のりはまだ長いとも言えます。と言うのもウナギの稚魚は人工環境では、なかなか大きくならないからです。平たく言えば何がエサなのか、まだ判然としないのです。「(4)ウナギ仔魚の正常な育成のための飼料の開発と飼育環境」はこう説いています。稚魚「ウナギレプトケファルスはゼラチン質プランクトンなどを起源とするマリンスノーを主に食べているという説が有力ですが、その構成要素や栄養成分の特定には至っていません。最近始められた消化管内容物のDNA解析によるアプローチでは、これまでに真菌、珪藻、クラゲ類などのDNA配列がわずかに得られていますが、餌生物を特定するにはさらなる研究が必要です」

 親ウナギはグアム島の西側に当たる海域の深海で産卵、誕生した稚魚は少し大きくなってから黒潮に乗り、「白いダイヤ」とも呼ばれるシラスウナギとして日本列島にやって来ます。この回遊状況が解明されたのも最近のことです。特定の深海で育つので、そこの環境条件がウナギには大事なのでしょう。本当はその現場を見に行きたいところですが、人間には簡単ではありません。


iPad発売、見えてきた新用途や幅広い性格

 米国で3日、アップルのタブレット型パソコンiPadが発売になりました。予約制なのに前の晩から泊まり込みで店頭に並ぶ行列が出来るなど、人気ぶりは相当なものです。グーグルのブログ検索を見ていただけば分かるとおり、手にした人たちが続々とレビューをあげたり、便利ツールを紹介したりと賑やかなことになっています。

 ITmediaの《ELECTRIBEもハモンドもiPadアプリに 「楽器としてのiPad」は一気に開花するか》がシンセサイザーやキーボードなどの楽器として人気を得そうだと伝えています。「初代モデルであるELECTRIBE・R(ER-1)は生産が終了しており、中古以外入手することができない。その機能をiPadに実装してわずか1200円で売り出したのだ」そうですから、好きな方にはとても魅力的でしょう。発表時にスクリーン上の仮想キーボードを見てマルチタッチなのだから「これは携帯ピアノになる」と思っていたので、楽器の話は納得です。

 新しく画期的なプラットフォームが提供されたのですから、どんどん新しい用途が開発されてアプリとして追加されていくでしょう。iPhoneより格段に大きいだけに向き不向きに差が出ます。携帯楽器アプリは、iPhoneでは画面が小さすぎて実用にならなかったと言われています。ゲーム機としても、あの画面の大きさは車のハンドルに近いので、操作する側にリアルな感覚を持たせそうです。

 電子書籍リーダーのKindleとは対抗するようにも言われましたが、《アップル、iPadに対応した「Kindle 2.0」を承認〜App Storeで公開》となりました。iPadアプリのひとつとしてKindleが使える訳です。「これにより、iPadのユーザーは購入初日から『iBookstore』だけでなく、45万タイトルを揃える『Kindle』のコンテンツも同時に楽しむことができるようになります」。日本国内では電子書籍の大きな動きがまだ見えないだけに羨ましいところです。

 発売を前に米国メディアには試用機が渡されており、レビューが出ています。ロイターの「著名レビュアー、iPadの使い勝手とバッテリーを評価」は使いやすさを認めつつもこう言います。「New York Times(NYT)とWall Street Journal(WSJ)によると、同製品はまだノートPC市場を壊滅させるほどではないという」「要するに、フルキーボード、DVDドライブ、USBポート、メモリカードスロット、カメラ、仕事用の機能が備わったノートPCをiPadより安く買えるということだ」「iPadは、機械恐怖症の人や高齢者、若者に適した、誰でも使えるコンピュータとしていいかもしれないと言った人がいた。まったくその通りだ」

 ヘビーなパソコンユーザーには当然ながらもっと適した機器があります。そうした人でも気楽にネットを見たり、音楽や映像ソフトを楽しみたい場合の機械だと思います。さて、国内では発売までに出版ソフトの準備は出来るのでしょうか。ユーチューブで、米国漫画を画面を回して縦長、横長にどんどん変えながら見ている動画があり、便利だと思いました。紙とは違う世界と割り切ると面白いことになりそうです。

 【関連】iPad登場目前、電子新聞など内外で動き急


日経電子版の客寄せ特ダネ、いただけない素人騙し

 国内の有力紙として本格的な電子版を23日スタートさせた日経新聞さん、朝刊トップの”特ダネ”「ゲイツ氏、東芝と次世代原発 私財数千億円投入も」を電子版に誘導する客寄せに使ったのは感心しませんでした。「ゲイツ、原発挑戦の真相」へと読み進ませて、原子力分野の素人さんには大変な原発が出来ると大いなる幻想を持たせたと思います。しかし、これが簡単に出来るくらいなら核融合実用化の大きな障害がひとつ取り除けるのだと申し上げたら、いかに困難な話なのか理解していただけるでしょう。

 いつもはもう少し醒めている「木走日記」あたりが「ビルゲイツを有料電子版販促に使う日経の姑息」と題名では皮肉りながら、「『核燃料を交換せずに最長100年間の連続運転を実現』とはすごい技術です、これが実現できれば新興国などこれから原発需要が見込まれる中でゲイツ氏の新たなビジネスチャレンジが世界規模で展開されるかも知れませんね。すばらしい」「お陰で不肖・木走も電子版購読者登録(最初の一ヶ月は無料ですが)してしまいました」と釣られてしまっているのが可笑しくて、笑いました。

 協力を求められた東芝の「小型高速炉(4S)」はナトリウム冷却高速炉ながら、出力1万キロワット級とコンパクトさが売り物です。小さいが故に中性子の発生も少なくて、核燃料体交換無しに30年運転をうたいます。ところが、今回取り上げられた米テラパワー社の「TWR」は10万〜100万キロワット級といいます。これで100年間連続運転すると原子炉は膨大な中性子線を浴びます。

 TWRと非常に似た発想の炉を国内で関本博・東工大教授が研究されていて「CANDLE」と名付けています。その「革新的原子炉CANDLEの研究」はウランを「いっきに40%燃焼した場合、一般に使用されている材料では持たない。材料を変更し、温度を下げることによりこの燃焼度を達成することも可能であるが、温度を下げることは原子炉の性能を落とすことに繋がることから、ここでは、被覆材への高速中性子の照射量が限界になる前に被覆材を交換する方法を採用する。この作業は高い放射線レベルで行なうことになる」と記述しています。炉の材料がもたないから途中で交換する訳です。

 言われるように100年間も連続運転して中性子線に耐える材料は、核融合炉開発で求められているものに近いのです。そうそう出来ると楽観的には考えられていませんし、もし耐えたとしても高度に放射化して非常に厄介な存在に化します。これくらいは少し原子力を取材していれば見えてきます。素人を騙すような「客寄せ」は、国内新聞メディアの将来にかかわる電子版スタートにふさわしくなかったと考えます。


口に出来ぬほどの技術的愚劣、もんじゅ再開

 1995年、ナトリウム漏れ事故から停止したままの高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)が3月中にも運転再開になる見通しとなりました。読売新聞の「もんじゅ再開 安全重視で事故再発を防げ」ほか、各メディアの論調を見ていると、安全確保に疑問を抱きつつも原子力安全委員会のお墨付きなどにもたれかかっています。「運転再開がこれだけ遅れたのは、事故そのものの重大性に加え、現場を撮影したビデオの核心部分の存在を隠すなど、事故後の対応に問題があったからだ」とするあたりで再開問題の本質が見えていないと告白しています。

 もんじゅを運営する日本原子力研究開発機構に統合、吸収された元日本原子力研究所労働組合委員長の告発があります。《原発「もんじゅ」、関係者の苦言》(さとう正雄 福井県政に喝!)は「基盤とすべき技術水準が低い。すべてが業者まかせになってしまい、技術の要をおさえることができない」「旧サイクル機構では、隣の人の仕事がおかしいと思っても、間違いを指摘したり議論したりする雰囲気がない」「ねじを締めたり、施設の腐食を管理したりを確実にできることなどの常識的センスを持つことなしに『世界の先端』といっても砂上の楼閣」と喝破します。

 私のサイトも「もんじゅ」の技術的愚劣について多くを指摘してきました。「既視感ばりばり、もんじゅ低技術の恐怖」は燃えやすいナトリウム漏れを検出する電極が設計よりも13.5ミリも長く作られて、10ミリの隙間で足りずに無理矢理押し込まれていた事実を取り上げています。第187回「信頼性無し、もんじゅ運転再開は愚の骨頂」は内部証言をもとに、機構が一貫して自ら設計せず、パーツごとに脈絡無く下請け業者に丸投げしてきた結果、全体をつかんで目を光らせる技術者がいないと指摘しました。

 そして、15年の空白があって、各パーツを発注しただけの技術者すら退職してしまいました。安全確保のために点検すると言って、実は何をしたら善いのか、現場がどのようになっていれば正解であり、安全なのか判然としない技術陣が、巨大で危険な高速増殖炉をこれから動かすのです。例えばナトリウム漏れ検出電極の異常は誤警報続出の結果、判明したのであり、多数の施工ミスがあることは、その際の点検結果で表面化しました。自主的な安全点検で調べ得たものではないのです。どれほどのミスが隠れているのか想像を絶します。

 「青森・福井の核燃サイトで初歩的ミス連発」では「日本原子力研究開発機構は配線を洗いざらい調べ直した方がよいと思えます。原発内の配線は本当に複雑で、運転する側の『つもり』と違う配線になっているようなら有事には悲惨です。前回も今回も、なぜか電源が切れてしまう――のでは危なくて見ていられません」と書きました。高速増殖炉の経済性とか高尚な議論をする以前の、技術的愚劣の山盛りが「もんじゅ」なのです。故障・異常の山を築くための運転再開など見たくありません。高出力の運転に移っていて無事に止められるのか、技術陣が欠陥の予想も出来ていない以上、予想外の方向に転がっていく可能性があり、安全の保証はないのです。


トヨタにあった安全技術思想の独善に驚く

 米国での「踏み込んだアクセルが戻らない」リコールに続いて、いまや主力になったハイブリッド車「プリウス」でブレーキが効かない瞬間が出来る問題が相次いでトヨタ自動車を襲っています。4日に記者会見で安全担当の常務が「運転者と車の感覚の違い」という弁明をしているのを聞いて、工学部出身で科学部が長く、人間と機械のヒューマンインターフェースに関心を持ってきた私には違和感がありました。5日夜、これから豊田章男社長が記者会見する段階で、気になる情報をまとめておきます。まずメルマガJMMの第446回 「疑惑のアクセルペダル、どうしたトヨタ?」(from 911/USAレポート / 冷泉 彰彦)で読んだ指摘です。

 クルマの歴史で「長い間ブレーキを踏むと『油圧』によって、その力が四輪に伝えられるようになっていたのですが、最近の車はブレーキも電気仕掛けになりました」「アクセルもブレーキも電子化された車の場合に、仮に『アクセルが引っかかって暴走した』場合に、ブレーキを踏むとどうなるでしょう? ここに設計思想の問題が出てきます。多くのメーカーは、『アクセルとブレーキが同時に踏まれるのは異常だから、ブレーキを優先して車を停める』方向に動くような仕様にしています。ところが、トヨタの場合は違うらしいのです」「加速中にブレーキを利かせると『ブレーキが焼き付いて制動力を失う危険』があるからと、アクセルと同時に踏まれた場合はブレーキの利きを弱くしているようなのです」

 新たに問題化したブレーキ無効については、このように説明されています。凍結した路面でブレーキをかけると滑りが発生する場面では、通常路面でクルマの運動エネルギーを電気として回収する回生ブレーキから、効きが良い油圧ブレーキに変えねばなりません。この切り替えのタイミングに遅れがあって運転者にブレーキが効かない瞬間があると感じられるようなのです。それが1秒間に満たない時間であってもクルマは確実に動いています。これをトヨタは欠陥ではなく、クルマの仕様だと言い張っていました。

 二つのケースを並べると、広く消費者に提供している商品、製品について、起きる事態は常に安全側に倒れるようにしておく思想が欠けていたことは明白です。トヨタにこのような安全技術思想の独善があったのです。

 「Japan Blogs Net」での巡回なら「トヨタプリウスリコールに見る日本的問題、抗がん剤の副作用」(生きるすべ IKIRU-SUBE 柳田充弘ブログ)はこう主張しています。

 「素晴らしい製品ならすばらしい物作りの成果をうることができればあとは無言でもいいのだ、素晴らしい修理能力と整備能力があれば、無言でもいいのだ、こういう日本の海外での伝統はもう百年前からあるのです」「今回のように、いっぽうで米当局がとことんのところで何を考えているのかそれをつかむ能力がトヨタはかなり弱かったのでしょう。そして自己の物作りの能力への過信があったに違いありません。コンピュータと実際のブレーキ部分の接点でのトラブルと聞くとまさに弱点の部分でしょう。しかしそれでも外国での折衝能力、危機への研ぎ澄ました感覚があればここまでの大問題にならなかったでしょう。でもこれはトヨタだけの問題でなく、日本の全体での問題なのでしょう」


アップル以外もタブレット端末ラッシュ、でも国内は…

 先日の「本当にタブレット型PCの年になった」でアップルが長期戦略『30年ロードマップ』に基づくタブレット端末を発表予定と伝えた後で、各社が似たような端末を次から次へと発表しました。ITmediaが「HP、Dell、Motorolaも乗り出す――『タブレット革命』は始まるか?」でまとめてくれています。「Thomas Weisel Partnersのアナリスト、ダグ・レイド氏は、タブレットマシン市場はAppleにけん引され、2010年は35億〜53億ドル規模、2014年には300億ドル規模に拡大すると見積もっている」

 マルチメディア対応の「タブレット」あるいは「スレート」マシンばかりでなく電子書籍リーダーとして注目のキンドルに「キンドルDX」が発表されました。これがタブレットと似た大きさです。キンドルのオリジナルは日本語に使うには小さすぎると思ってきたので、これも大いに注目です。池田信夫ブログは「キンドルDX」で「これはもしかすると、絶滅危惧種の活字メディアを救うかもしれない。それなのに、日本ではハードウェアもコンテンツも入手できない」と嘆いています。

 ソニーは「Sony Reader」でキンドルを追いかけているとは言え、一連の新しい動きから国内メーカーは取り残された印象です。経営者がますます近視眼的になり、新しい分野に打って出ることが出来なくなっていますね。タブレット端末は以前には失敗しましたが、現在の技術をもってすれば魅力的な商品にすることは十分に可能です。マシンだけでなくコンテンツの整備、無線LAN環境が進んできているからです。新聞を読む、読書をする、映像ソフトを楽しむ端末になりうるのでマスメディアにも大きな影響を与えるでしょう。


本当にタブレット型PCの年になった

 昨年から騒がれつつあったアップルのタブレット型パソコンが本当に発売されるようです。「アップル、タブレット型端末を3月以降に出荷へ」(The Wall Street Journal日本版)が報じられました。「新しいタブレット型デバイスは10〜11インチのタッチスクリーンを搭載」「動画やテレビ番組の視聴、ゲームやインターネット、電子書籍や新聞の閲覧などが可能なマルチメディア型デバイスとなる見込み」とあり、「Appleタブレットは3月1000ドルで発売!?」には予想イラストまで掲載されています。まさに特大のiPhoneです。

 ブログでは「タブレットの年になる」(MIZの日記)が「おととしの年末あたりから既に胎動はあった」「携帯性を追求したeeePCなどのネットブック。amazon発の電子ブックリーダー、Kindle。そして言わずもがなな、iPhone。今年はその流れが1つにまとまる年かもしれない」と指摘しています。入力はあまりしないで専ら閲覧する使い方でしょう。

 値段がちょっと高めの気がするかも知れませんが、《「iPhone 3G S」の価格や解約時の費用が気になってなかなか購入できない人のためのまとめ》(らばQ)によればiPhoneだって2年間で7〜9万円は覚悟しなければならないそうですから同じような価格です。

 画面の解像度情報はまだですが、現在のノートパソコン程度はあると考えてよいでしょう。新聞の閲覧は可能です。少なくともiPhoneで産経新聞紙面を見るよりは遙かに快適に読めるはずです。国内のマスメディアも、新聞はもちろんテレビも出版社もこの事態に早急に対処するべきです。無線LAN接続で使う大型タブレットPCで新聞を読む、読書をする、映像ソフトを楽しむ生活スタイルが大きなシェアを占めるのは確実だと思います。

 【関連】注目したい『アップルの30年ロードマップ』

 《1/10追補》GIGAZINEがその後の情報Appleの新型タブレットPC「iSlate(仮)」について現時点でわかっていることまとめを出しています。


科学界の仕分け批判大合唱、愚かさに気付け

 ノーベル賞学者まで引っ張り出す科学界の「仕分け」批判大合唱に、それこそ既存の利権を温存するだけの動きだと呆れていたら、NPO「サイエンス・コミュニケーション」から「研究よ変われ!巻頭言」(科学政策ニュースクリップ)が出て、少し救われた気分になりました。「そもそも今回の事業仕分けは、科学技術自体の評価をしておらず、予算に無駄がないか、という点を評価している」「一度計上された予算項目に対し、外部の視点も入れて、妥当性、必要性、有効性、効率性の観点から公開の場で吟味していくというものだ」「残念ながらそれを理解して批判や抗議をしている声明は少ない」

 学会あげての批判もたくさん出ています。それが科学技術政策の現状を是とし、変えること自体を拒んでいる点で、長く科学技術分野をウオッチしてきた私には信じられない思いです。そこまで問題意識が欠如しているのなら、事業仕分けをもっと徹底的にやって目を醒まさせるべきではないかとも思えます。

 例えば天文学会の声明「国民の皆様へ 事業仕分けと科学研究の将来について」は文部科学省の「科研費は、多数の研究者が審査員となり、公平、厳正、透明な審査で配分が決定され、終了時点の評価も行われるなど、諸外国にも類を見ない」とおっしゃいます。それこそ国民を欺く声明です。米国の同種研究費がどのように審査、配分されているのか、比べれば決定的な立ち後れがあると知っている人も読むことをご存じないようです。今すべきことは悪しき現状を固定することではなく改革していくことです。

 もし疑問に思われる方があれば、2004年に書いた「インターネットで読み解く!」第145回「大学改革は最悪のスタートに」 をお読みください。英国の日本研究電子ジャーナルに載せるために書いたので、国内学術研究の問題点をかなり包括的に整理しています。


注目したい「アップルの30年ロードマップ」

 いつもの「Japan Blogs Net」巡回で見つけた「Life is beautiful」の「アップルの30年ロードマップ」が読んでから非常に気になってきたので、メモとして記録しておきます。スティーブ・ジョブズ氏の側近だった日本人から「今のAppleのビジネス戦略は、倒産寸前だった97年当時に作った『30年ロードマップ』に書かれた通りのシナリオを描いている」と聞いた話です。

 「映像・画像・音楽・書籍・ゲームなどのあらゆるコンテンツがデジタル化され、同時に通信コストが急激に下がる中、その手のコンテンツを制作・流通・消費するシーンで使われるデバイスやツールは、従来のアナログなものとは全く異なるソフトウェア技術を駆使したデジタルなものになる。アップルはそこに必要なIP・ソフトウェア・デバイス・サービス・ソリューションを提供するデジタル時代の覇者となる」

 この路線の途上としてiPodの成功があり、Apple TVはまだ売れていないけれど将来の位置づけがありそうだし、「ある時点でAppleが書籍・雑誌のデジタル配信ビジネスに本気で出て来ることがほぼ確実」と考えられているようです。そして、さらにはゲーム機まであるらしい……。30年ロードマップはまだ12年しか過ぎていません。後の18年分に何があるのか考えるとき、昨年春に出された《稀代の発明家Ray Kurzweil氏による基調講演〜とてつもない未来を語る、「The Next 20 Years of Gaming」》(GAME Watch)の問題意識も視野に入れておきたいものです。

 「【2029年:融合の時代】1,000ドルの計算力=人間の脳の1,000倍。人間の脳の完全解析が完了」「Kurzweil氏は、20年後に大規模なパラダイムシフト、『技術的特異点』がくると予測している。『技術的特異点』とは、同氏自身が唱えている概念のひとつで、進歩の原動力が人間の生物学的知能から人工知能に置き換わり、それ以前の進歩の法則が通用しなくなる地点のことだ」

 実現性は定かではありませんが、そのころ人間と変わらない人工知能が出来ているとの技術予測です。長期戦略を練る企業経営者でないとしても、ある程度、先読みしていないと対応しきれない時代が来ています。現状が続くことを前提に考えるなんてことをしていませんか。


青森・福井の核燃サイトで初歩的ミス連発

 初歩的ミスの中には重大事態発生時での対応能力を疑わせるケースが含まれます。今週、青森と福井の核燃料サイクル開発サイトで連発されたミスは、危機管理の視点から見れば「失敗しました。ごめんなさい」では済まないものだと考えられます。いずれも、よほど根本的な態勢整備をするのでなければ「来年からの運転はお止めなさい」です。

 まず、六ケ所再処理工場で22日に高レベル放射性廃液を流す配管から約20ミリリットルの液体の漏れがありました。東奥日報の「人為ミス3たび/六ケ所配管液漏れ」は「作業員の不注意で遠隔操作機具の一部が配管に接触したのが原因だった。今年1、2月に発生した同配管からの漏えいも作業員の思いこみなどが原因で、人為的ミスが同じ個所で三たび繰り返された」と伝えました。漏れた液体は高レベル放射性廃液の濃度の半分ですが、原子力安全・保安院は「漏れた中身が何であろうと、高レベル廃液が通る配管が閉じ込め機能を失ったことは問題だ」と言っています。

 漏れた場所は、配管の円筒にドーナツ型の円盤を付けた「フランジ」を向かい合わせて締め付け、管を密閉している所です(参考:ウィキペディア「フランジ」)。遠隔操作中に誤って触れたために液漏れを起こしたとの説明ですから、フランジを締め付けて密閉することなく漫然と作業をしていたことになります。高レベル放射性廃液は厚いコンクリートで密閉された再処理工場内でも漏れれば手を焼く厄介者です。現に今回の遠隔作業も前回廃液漏れの後始末に当たる洗浄作業をしようと準備していたものです。「核燃再処理工場に安全思想の設計無し!! [BM時評]」で「フェールセーフ思想なしに作られている」と指摘しましたが、運用面でも初歩的安全確保すらなかったのでした。

 福井の高速増殖原型炉「もんじゅ」では、23日にまた電源関係のトラブルでナトリウム漏れ監視できずです。朝日新聞の「> 原子炉ナトリウム漏れ 一時監視できない状態 もんじゅ」は「ナトリウム測定用の気体を取り込んで検出器に送るサンプリングポンプの仮設電源を入れたところ、このポンプと一緒に、別の2種類の検出器についているサンプリングポンプの電源も切れ、ナトリウム漏れが監視できなくなった。仮設電源から本来の電源に戻し、55分後に復旧させた」と報じました。

 今月始めの「高速増殖炉もんじゅの危うさ、早速また誤警報」でも点検作業中に電源を切ったら、別の検出装置の電源も切れてしまったトラブルを取り上げています。日本原子力研究開発機構は配線を洗いざらい調べ直した方がよいと思えます。原発内の配線は本当に複雑で、運転する側の「つもり」と違う配線になっているようなら有事には悲惨です。前回も今回も、なぜか電源が切れてしまう――のでは危なくて見ていられません。


銀河系を地球から見た360度パノラマ荘厳写真

 WIRED VISIONの9月15日付「天の川全景の動画とパノラマ」に、「らばQ」さんのトピックが出て気付きました。民主党中心の新政権発足1カ月余り、全てが整合して動けるはずもないのに、あちこちやり玉に挙げている細かい報道やブログにうんざりしていると、「The Milky Way panorama 」は俗世を離れて、荘厳な気分にさせてくれます。カット写真の右にある欄から選択すると横が800、1280、1600、4000ピクセルの写真が現れるので、自分のディスプレイに合わせて全画面表示でじっくり見てください。


 われわれの太陽系は銀河系の辺縁部に位置しています。国立天文台の「『天の川全国調査』キャンペーン」から「銀河系(想像図)」を下に引用します。


 この絶妙な位置のためにパノラマ写真で円盤状の銀河をイメージできるのです。もし銀河系の中心部にいたのなら、360度見回しても厚い星の壁が続くだけでしょう。もっとも撮影は簡単ではなく、天の川の半分は足下の大地、つまり地球で隠されています。2人のフランス人写真家は北半球と南半球で何カ月も掛けて1200枚の夜空を撮影し、合成したそうです。横1800万ピクセルという、恐ろしく高精細な写真が出来ており、ネットで見られるのは一部になります。

 パノラマ写真で全体の感じをつかんでもらったら、今度は宇宙空間の中に浮かんで、地球の位置で前後、左右、上下を見回してみましょう。「One thousand billion worlds」の一番上の写真では、まるでQUICK TIMEパノラマ写真のように、マウスの操作で視野を移動できます。まず、右でも左でも動かして、星が多く明るい銀河系中心部から反対側に目を移しましょう。確かに暗い宇宙に変わり、われわれが辺縁部に位置することが確認できます。マウスのスクロールを使うと拡大・縮小も可能ですから、拡大してみましょう。すると星がまだまだ現れてきます。暗いと思った空間に数限りない星が埋まっています。その輝きのひとつは星1個ではなくて、遠い銀河の姿かもしれません。マウスの操作で頭の上や足の下にも視野は転じられます。そこにも暗い空間と拡大すれば見える星の数々があります。


高速増殖炉もんじゅの危うさ、早速また誤警報

 第187回「信頼性無し、もんじゅ運転再開は愚の骨頂」で危惧を指摘した高速増殖炉「もんじゅ」(敦賀市)でまたナトリウム漏れ誤警報です。不調だった検出器は全部を交換したばかりで、今度は全く違うタイプのトラブルです。

 メディア報道では毎日新聞の「もんじゅ:ナトリウム漏れ誤警報、装置点検で電源切り 想定外、液面計が停止 /福井」が最も詳しく「警報を発したのは原子炉容器から漏れたナトリウムを受ける『ガードベッセル』に取り付けられた液面計。同日から別の1次系漏えい検出器の点検を始めており、作業でこの検出器の電源を切った際に、液面計の電源も切れて鳴った」と説明されています。

 「原子力機構は、液面計の電源が切れることは予測しておらず」という点が重要です。別の検出器と液面計の電源が共通になっていることを、事前に、配線図から読みとれなかったミスが最もありそうです。二番目が液面計の電源が切れて感知不能になっても警報が出る仕組みを知らなかった可能性です。そして最後が、配線図と現場の配線が違っていた、あって欲しくないケースです。

 建設した旧動燃の技術者は歳月の経過でどんどん退職してしまい、本当の中身を知らない人たちが運転することになっています。今や開けてみることが出来ない密閉部分だらけの装置です。今回は小さなミスに見えても、上記のどれが原因であったにせよ、現在の技術水準には大きな疑問符が付きます。大きなトラブルが起きたとして、それを収拾する修羅場を任せられるとは思えません。下手をすると事故を大きくしてしまう可能性を感じます。


ウィニー開発者逆転無罪、児童ポルノとも関係

 ファイル共有ソフト「Winny(ウィニー)」開発が著作権法違反ほう助になるとされた事件で、大阪高裁は一審の有罪判決を破棄、元東京大大学院助手の金子勇被告に無罪を言い渡しました。京都地裁判決は不当との批判が多かったネット上では、歓迎するブログ記事が圧倒的です。しかし、運営している「Japan Blogs Net」でウオッチしているブログから拾うと、なかなか厄介な問題をはらんでいます。

 ソフトの使い手ではなく、ソフト開発者を罰する捜査や判決は、国内のソフトウエア技術開発を阻むものでした。「『有罪なら萎縮』訴え実る…ウィニー開発逆転無罪」(読売新聞)に「金子被告は1審公判中の2004年12月、東京大を退職。ウィニーの技術を応用したコンテンツ配信事業を行うIT会社で技術顧問を務める。今ではウィニーを開発したときのように趣味で無料ソフトを作ることもないといい、判決前には『面白い発想が浮かぶこともあるが、捜査で萎縮し、動けない』と話していた」とあるように、天才的と言われた金子氏に空白の期間を強いる結果になっています。

 「Winny事件第2審判決について」(benli)は「ベータマックス事件米連邦最高裁判決以来の『実質的な非侵害用途があるか否か』という基準に、『違法な利用を誘引していたか否か』という基準を加えて判断しています」と見立てています。ソニー・ベータマックス事件とはビデオテープレコーダーの販売がテレビ録画を促し、映画の複製権を侵害すると訴えられたのに対して、技術は中立で侵害の可能性を認識しただけでは問題にならないとの判例です。今回の判決が、こうした筋を通しているのなら妥当でしょう。

 ところで実態として、ファイル交換ソフトでの違法なやり取りは収まっていません。特に日本で盛んな理由について、「Winny事件を振り返る」(高木浩光@自宅の日記)に興味深い指摘があります。「もうひとつの理由があると気づいた。それは、欧米諸国では、P2Pファイル共有が登場するより早い段階で、児童ポルノが強く規制されていたこと、その結果ではないかという点である」「欧米諸国では、児童ポルノの単純所持が重罪化されているので、無差別にファイルのダウンロードをして、不用意に児童ポルノを入手してしまったら、児童ポルノ罪で摘発されかねない」という事情です。

 児童ポルノの単純所持禁止は今、議論の真っ最中です。確かに禁止となればウィニーや他の交換ソフトも怖くて使えないものになります。日本の特殊性がこういうところにも影響しているとは思いませんでした。

 【参照記事】「警察・司法の功利主義が歪ませる社会(Winny判決考) [ブログ時評71]」


信頼性無し、もんじゅ運転再開は愚の骨頂

 液体ナトリウム漏れ事故を起こし、13年も停止している高速増殖炉「もんじゅ」の運転再開を目指す動きが急です。総選挙のさなかに年度内に再開の方針が伝えられ、9月半ばに「もんじゅ運転再開審議でPT設置 原子力安全委」(福井新聞)が報じられました。超長期に止めていた原発を動かす不安が大きい上に、建設した旧動燃の技術水準が信頼できぬ証拠は積み上がるばかり。運転再開は愚の骨頂です。

 安全委のプロジェクトチームは六ケ所核燃再処理工場に次ぐ異例の設置で「10月中旬か下旬に、保安院が確認すべき『視点』を提示する。その上で、11月以降にもんじゅで現地調査も行い、原子力機構の報告や保安院の評価が視点に沿ったものかどうかを確認する」といい、自ら乗り出して行かざるを得なくなっています。

 これほど心配されるのには理由があります。9月8日開催の「政策評価・独立行政法人評価委員会 独立行政法人評価分科会」で「今度のもんじゅの再開というのは、次に問題を起こすと日本から高速増殖炉が消えてしまうという危険性も含んでいる。そういう意味でも万全を尽くしていただきたい。文部科学省から機構に対してどのような指示を出し、どこが改善されて見直し当初案として出てきたのか」「もんじゅについては、13年間も止まっていたものが急に動き出すと不具合が起きても不思議ではない。文部科学省としても自信を持って再開できるという宣言を出していくような意気込みでやっていただきたい」と強い危機意識が噴出しました。

 運転再開は何度も延期になり、一番新しいトラブルは「もんじゅ:漏えい検出器の交換すべて終了−−敦賀 /福井」(毎日新聞)が取り上げているナトリウム漏えい検出器の誤警報作動です。不具合は4割を超す148本にも上り、1年半かけて全部を改良型に交換しました。検出器は電極の先に10ミリの隙間が必要なのに、電極を無理に押し込んで隙間を無くしていたのが原因でした。施工時にこれほど多数のミスがあるのは異常です。いや、ミスではなく、取り付け作業をした側が検出器の技術と構造を理解していなかったと考えるべきでしょう。

 高速増殖炉という先端技術を担っているはずの機関(現在は日本原子力研究開発機構)に、そんな愚かしいことがあり得るのでしょうか。2003年に書いた第130回「もんじゅ判決は安全審査を弾劾した」で、旧動燃内部にいる「読者」から、機構が自ら設計をしないで外部に丸投げする体質が告発されたと伝えました。読者と幹部職員とのやり取りは秀逸なので以下に再録します。

 「ちゃんと設計した上で、発注すべきだ!」
 「そんな設計できない。」
 「ならば,外部に出して設計し詳細設計を機構の所有として、あらためて発注できるでしょ!」
 「機構の設計としてもし何か有った場合、責任が持てないからダメだ!!」

 ナトリウム漏れを起こした段付きさや管でも、事故があってから「そんな風に使うと説明は無かった」と下請け側が言い出していました。驚くべきことに、丸投げすると言っても周到な設計条件を示さずに発注しているのです。プラモデルを作るように、部品を発注して組み合わせれば何とかなると、旧動燃は考えていたようです。冷却系に高温の液体ナトリウムを使う、日常的にはありえない厳しい条件下ですから、全体を理解した上で細部の設計・施工にも目を光らせる技術者が必要です。上記のやり取りを見れば、そんな能力がある技術者が存在するはずがないでしょう。

 もんじゅは「トラブルの伏魔殿」と称してよいと思います。次にどんな破綻があるのか、想像できません。こんな怖い巨大装置をよく動かす気になるものです。ダム問題と同様に、これまで大きな資金を投下したから続けているだけです。大幅な完工延期が決まった第180回「敗因は何と工学知らず:六ヶ所再処理工場」といい、国策原子力開発は悲惨な様相です。


ブラウン管TV国内終息、世界規模で変化加速

 9月30日にパナソニックが「ブラウン管製造事業の終息について」というプレスリリースをひっそりと出しました。「1954年以来、55年にわたり継続してきたブラウン管の製造事業を終息します。全世界でPDPや液晶などの薄型テレビへの需要シフト、ブラウン管需要の急減を受け、中国側合弁パートナー」に、何と譲渡価格100ドルで事業を譲り渡すそうです。同社が国内最後でした。この数年、言われていた予測より変化は加速していて、今年、世界で売れるテレビのうちブラウン管は3分の1にまで減る見込みです。

 ネット上で調べてみると、国内でブラウン管テレビが逆転されたのは、ほんの少し前、2006年3月だったのです。「大画面薄型テレビが出荷好調、液晶がついにブラウン管を逆転」が詳しい。今年の世界状況は「世界の液晶TV需要1.3億台 米調査会社が上方修正 」(U.S. FrontLine)に「ブラウン管テレビなどすべての方式のテレビを合わせた09年の全世界の販売予測は1億9500万台で、前年比5%減少すると見込んだ。ブラウン管テレビの販売減少が予想以上に進む一方で、薄型テレビの売り上げの伸びが追いつかない」とあります。世界で液晶がブラウン管を抜いたのは、つい昨年のことでした。

 科学部にいたころAV技術に首を突っ込み、三菱電機・京都が37型テレビを開発して旋風を巻き起こした話を取材したことがあります。あれだけ大きなブラウン管になると、内部を真空にしているために何トンもの力がガラス面に掛かります。必然的にガラスは冗談ではないほど厚くなります。製品の重さは大変なものになりましたが、開発された皆さんは喜々としていらっしゃいました。現在の薄型テレビ開発にも別の苦労があるのですが、牧歌的で良かったと思い出します。

 純粋に画質から言えばブラウン管の方が優れています。色の正確な再現性もそうですし、動きが速い画像で液晶には残像が出るうらみがあります。サッカーなどスポーツ番組が好きな方、あるいは激しい動きのゲームをする方にはブラウン管に未練が残ります。「ブラウン管テレビ、どんどん縮小。」(フォルツァ! トロ・ロッソ!!)が「いずれ、こいつが壊れてしまうまでに、液晶やプラズマ(もしくは新方式?)の画質の改善がされれば良いですけどね」と案じる気持ちは良く分かります。先頭を切る国内の技術陣が、この注文に数年でこたえられるかどうかです。


2700億円の最先端研究費は国費乱用の典型

 大盤振る舞い補正予算のばらまき対象に、最先端の研究をしている30人に平均90億円を与える最先端研究開発支援プログラムの話を聞いたとき、科学技術の取材を長くしている者として「研究の現場を知らないにもほどがある」と思いました。次いで麻生首相が「自分が選定する」と意気込んでいると伝えられ、この時点で駄目さ加減が決定的になったものです。先日、政権交代が決まってから、どさくさ紛れに30人が発表されました。さんざん話題になったテーマと有名研究者のオンパレードです。内閣府の「中心研究者及び研究課題」の選定結果(PDF)がリストです。

 朝日新聞が11日の科学面「審査1カ月、駆け込み決着」で「選考では、最終の60件に絞り込む前に95件でヒアリングを実施」「ある研究者によると、ヒアリングは説明、質疑とも10分」「研究の内容に立ち入った質問も批判的な質問もなかった」と実態を明かしています。

 海外から応募した方からの批判をまず紹介しましょう。《「国民への還元につながらない」―最先端研究支援プログラムに、米ベイラー研究所の松本慎一氏》にこうあります。「日本も大型の研究費が配布されるようになったと期待していた分、選考の仕方があまりにも未熟なので寂しく思っていた。今回選ばれた医学系の研究はすべて基礎医学で、臨床につながらない分野のため、国民への還元につながっていかないと思う」「米国で同じ規模のプロジェクトがあったとすると、それぞれのプロジェクトに2日をかけて審議する。プレゼンテーションと質疑応答で1日、施設見学で1日の合計2日。アメリカ方式がよいと言っているわけではないが、今回の審査は成熟したものになっていないと考えているし、こんな短時間で本当に内容を見ることができたのかとも思う。米国の場合は各応募者に対して具体的な改善点が示されるので、例え選ばれなくても将来に大きく成長する可能性が高くなる」

 「生きるすべ IKIRU-SUBE 柳田充弘ブログ」の「研究費配分は国民の選択にゆだねることが可能だろうか」はプログラムの立て方自体に疑問を投げます。「生命科学のような分野では、給与と研究費込みで年間一千万円あれば、独創的な研究が可能と考える人達はたくさんいます。日本中にそこそこの研究施設を備えた大学や研究所がありますから、これくらいでも十分に研究が出来るはずです。そうすると、5年間で5千万円ですから、90億円あれば180人の研究者が5年間独自の研究を進められます。30倍すれば、5400人となります。つまり、同じ金額を使って、30人の特別エリートの5年間のプロジェクト研究を進めるのと、5400人の5年分の給与と研究費を与えるのと、どちらかを実行するのか。これを決めるのに官僚と政治家がおもいつきで決めればそれでいいのでしょうか」

 このプログラムにも選ばれている山中伸弥京大教授のiPS細胞は、日本で開拓した仕事なのに、既に世界的な研究前線から立ち後れ始めています。非常に広範囲な生命現象と関係する仕事であるほど、日本は必ず負けます。国内にオリジナルな研究フィールドを持つ研究者が非常に少ないからです。生命科学で欧米の研究者には流行を追わず、自分だけの実験系を持つことを誇る流れがあります。個々の実験系は小さな存在でも、画期的な仕事の成果を落としてやると新たな生命現象の意味が見えてきます。それが数千、数万とあれば、流行を追って、にわか仕立てで研究する国内勢を圧倒しないはずがありません。最先端を支えるには何にお金を掛けて誘導すべきか、考えねばなりません。これまでにも第145回「大学改革は最悪のスタートに」などで研究評価の在り方を論じています。

 民主党は批判の動きを見せています。《民主党の最先端研究開発支援プログラムの申し入れを評価―嘉山孝正国立大医学部長会議常置委員》には「このプログラムは自民党の単なるばら撒きだった。(申請内容が)箱物で、工業系や化学系などの中小企業にお金が行くようになっていて、経団連が喜ぶ内容」「医療系の研究は選ばれにくかった」との指摘があります。毎日新聞の「最先端研究開発支援:対象に山中教授ら 民主『凍結も』」によると「『金額が大きいだけに、もっと時間をかけるべきだ』との意見も出たが、事務局の内閣府は『選定に時間をかければ、研究をする期間が短くなる』と押し切った」そうです。税金の無駄遣いとして、話になりません。景気対策の名の下に進行していた乱用の実態です。


六ヶ所再処理工場、完工せずの目処が立った!?

 6月の第180回「敗因は何と工学知らず:六ヶ所再処理工場」で国策原子力事業の技術音痴ぶりを断罪した核燃料再処理工場の試運転完了、即ち完工が1年以上と大幅に延期される事になりました。「47News」の「試運転、終了延期は1年以上 再処理工場、原燃が計画変更」が「1月に発生した高レベル放射性廃液漏れや、廃液の洗浄作業に使う機器の故障やトラブルが続発し、洗浄作業も3月から行われていないことが大きく影響した。2006年3月の試運転開始以降、終了時期が延期されるのは8回目。原燃は7月に当初予定の8月終了の延期を表明していた」と伝えています。その後の続報では来年10月完工とも言われます。

 再処理工場の技術についてウオッチしていれば、この延期が無意味であると見てとれます。高レベル放射性廃液をガラス固化体に溶融する国産技術にこだわって失敗を続けている訳ですが、実証されていない技術を実用に使うことこそ、全ての失敗の原因です。国産にこだわるならば同じ規模の実証試験をどこかでしてこなければなりません。成功する可能性は少ないでしょう。津島雄二・前衆院議員が「なぜ国産技術にこだわるのか。自信がなかったら外国の技術を取り入れるべきだ」とアドバイスしたのに従うなら、フランスに溶融炉を発注しなければなりません。この程度の延期ではどちらも出来ません。

 いま何から手を着けたらよいか分からないほど滅茶苦茶になった現場の状態を、元に戻すのに1年掛かるのなら理解できます。そして、本質的な見直しをしないまま再び同じ轍を踏むことが確実です。2兆円以上の巨費を投じた国策工場に「完工せず」の目処が立ったと申し上げるゆえんです。この愚かさも、政権交代があれば見直されるのかしら。


アポロ11号の月着陸40年、月面の足跡など撮影

 40年前の1969年7月、月面着陸に成功したアポロ11号を回顧する企画が進行中です。40周年行事があることは知っていましたが、いまひとつ新味に欠けるなと思っていたら、NASAの月周回衛星LRO(Lunar Reconnaissance Orbiter)が往時の月着陸船の残骸や宇宙飛行士が残した足跡を撮影し、「LRO Sees Apollo Landing Sites」で公開しました。40年前の7月16日の打ち上げから同じ時刻進行で当時の音声記録を放送する「Real-Time Replay of Mission Audio (July 16-July 24) 」も進行中です。

 月着陸船の残骸は形が見えるモノではなく、長い影を引いているので見分けられる程度の映像です。むしろ足跡の方が興味深いと思います。アポロ14号の活動跡です。科学機器があるところから月着陸船の方へ、100メートル以上に渡って、足を引きずったような跡が見えます。月周回衛星には高解像度カメラも2基積まれているので、これからしっかり形が見える映像が狙われるのでしょう。期待が持てます。

 なお、11号の月面映像を現在の技術で補正し、見やすくした「Apollo 11 Partial Restoration HD Video Streams」は縦720、横1280の高精細画像になっており、確かにノイズが減って良くなっています。


皆既日食まで半月。2012年には金環日食も

 22日に日本全土で見られる日食の話題があちこちで盛り上がりつつあります。皆既日食になるのはトカラ列島や屋久島などですが、本土の大都市部でも非常に大きな「食」になるので期待されている方も多いでしょう。以前に天体観測を専門にする「つるちゃんのプラネタリウム」を取材したことがあり、ウェブ主さんは「日食の時に向けて充実させます」とおっしゃっていました。お邪魔してみると、以下の東京での日食の見え方をはじめ、日々どんどんデータが増えています。各地でどう見えるのか、ここで事前準備が十分できると思います。無料の「日食ソフト」もあります。


 このウェブでの最近の閲覧数トップは、今回の皆既日食ではなく2012年にある「金環日食」関連記事のようです。そうです、今回遠出して皆既食が見に行けなくとも、3年後の5月21日には、太陽がリング状に見える金環食が、東京・大阪など日本列島中央部ほとんどで見られるのです。5月だから晴天になる期待は今回以上に持てます。

 日食の公式なガイドとしては「世界天文年2009 日食観察ガイド」があります。こちらは観察方法や危険回避に重きを置いています。前回の46年前には、ロウソクの煤を付けたガラスを通して見た記憶があります。今思うと、かなりいい加減でした。

 「Wiseknightの雑談的日記」の「日食観測の罠 〜安易な観測方法に警鐘」が「部分食でも70%も隠れれば肉眼でも眩しさをそれ程感じないかもしれませんが、すべてNGです。『眩しくない』=『安全』という図式は必ずしも成り立つ訳ではありません」と警告しています。「何故なら『眩しくない』は可視光線がカットされている状態であり、赤外線や紫外線は降り注いでいるからです」「こういう状態で日食を観測すれば『日食網膜症』、つまり網膜が赤外線によって灼けてしまい最悪の場合失明に至ります」

 日食を観察するには急ごしらえではなく、きちんと準備しておきましょう。3年先にも、また使えますよ。

 【追補】屋外に出られない人に・・・PCの前でも日食を観察できるサイトまとめ


第180回「敗因は何と工学知らず:六ヶ所再処理工場」

 試運転終了(完工)を延々と繰り延べている六ヶ所再処理工場について、東奥日報の17日付「新たな工程は原因確定後/再処理 」は青森県の蝦名武副知事が「『ガラス溶融炉の安全を精査した上でなければ、将来の完工時期は立てられない』と語り、仮に8月を過ぎても炉のトラブル原因がはっきりするまでは、日本原燃は新たな工程を示すべきではない−との認識を示した」と伝えました。恐ろしい高放射能廃液を扱うガラス溶融炉について、安全性に本質的な疑問を抱いた地元行政側が突き放したとみるべきでしょう。

 やはり東奥日報12日付「津島氏『自信ないなら海外技術導入を』/再処理トラブル問題視 」は、津島派(旧橋本派)を率いる津島雄二衆院議員がガラス固化体製造トラブル続出を問題視して「なぜ国産技術にこだわるのか。自信がなかったら外国の技術を取り入れるべきだ」と主張したとも報じました。「津島氏の発言に対し経済産業省の担当者は『別の方式を導入すると時間がかかる』などと答え、国産技術からの転換を否定した」ことになっていますが、これから述べるように、大局を見ている政治家の方が、崩壊する現状を糊塗する役人より優れている好例になります。

 六ヶ所再処理工場については2月末の「核燃再処理工場に安全思想の設計無し!! [BM時評] 」で触れたきりになっています。ガラス溶融炉の運転失敗が別の失敗を呼び、さらに最も避けるべき高レベル廃液漏れまで起こしたところまでお伝えしました。この廃液が曲者で配線にかかり、炉の給電性能を損なって加熱できなくなっています。きれいに洗い流せば良いのですが、人間が全く立ち入れない「死の空間」です。遠隔操作でどう洗い流し、その洗い流し液(もちろん放射性)をどう回収するのか、汚染を広げるだけかも知れず、今後の見通しが見えてきません。将棋で言えば、もう詰んでいるのです。

 昨年書いた第162回「青森の再処理工場は未完成に終わる運命」でガラス溶融炉について、以前に原研機構の実験炉で開発された技術と比べ「仕組みと言い、スケールと言い、全くの新規開発です。崩壊熱を自ら発する多数の物質が入り交じった溶融炉の中の物質挙動が、これほど仕組みも物質量も変えて同じになるはずがありません。一国の核燃料再処理を担うのですから、当然、実物大の実験炉で成功させてから実機に組み込むべきです」と述べました。経済産業省と日本原燃のラインは、工学とは何か知らないとしか思えません。

 工学、エンジニアリングとは、それぞれに確立された要素技術を組み合わせて新たな目標を達成するものです。要素技術である高レベル廃液のガラス溶融炉に実証されていない新方式を採用した時点で、工学とはかけ離れた「ロマンの世界」に移ってしまいました。ブレークスルーすべき要素技術があるなら、実プラントの建設ではなく、まず研究室で実証すべきです。遅れに遅れて研究室に戻れないとしたら、次善の策です。六ヶ所再処理工場は2系統で出来ており、もう一つのガラス溶融炉は無傷ですから、そこで人間が目視できる疑似廃液から始めて、期待された性能を本当に持つのか検証すべきです。1年は楽にかかる作業になるでしょう。

 しかし、高レベル廃液本番まで成功する確率は試運転の失敗続きからみて、かなり低いのではないでしょうか。それが既に2兆円を投じた再処理工場のキー技術です。日本原燃は2012年から導入する次代のガラス溶融炉も同じ方式と決めていますが、実証されていない技術を発展させるというのですから、これまた工学の常識から外れています。津島議員が言う「自信がなかったら」を工学の言葉で言い直すと「実証データがなかったら」になります。日本原燃幹部の言動には未だに「落ち着いてやれば出来る」「なせばなる」といった精神主義が散見されますが、あまりの工学知らずぶりに、21世紀に生きているとは到底、思えません。


ヘッドフォンの音は実はもっと豊か:E5導入記

 円高の恩恵を活かそうと独ゼンハイザー社のヘッドフォンHD595を、わたしと家族用に2本買ったおかげで面白い経験をしました。このクラスの上級機になると安物のアンプでは真価を発揮しにくいと知ってはいたのですが、家族が使うリビングの装置では音が寂しすぎました。私の部屋と聞き比べできるので差が歴然です。手軽な解決策を探す内に見つけた中国製の廉価携帯アンプ「Fiio E5」が予想外の性能を発揮してくれました。久しぶりにオーディオマニアに戻って簡単な工作もしました。ヘッドフォンの音はもっともっと豊かに聞けるはずという話をレポートします。

 E5は3月に輸入が始まったばかりで、通信販売のほか東京・秋葉原、大阪・日本橋なら店頭で買えます。店頭なら3780円、中国現地なら2000円程度の値段といいます。米国製ICを2個、充電可能な電池も搭載しながら4センチ角の薄い金属ボディに納めています。ポータブルのオーディオプレーヤのヘッドフォンジャックに繋ぎ、増幅した音をヘッドフォンで聴くのが主な使い方のようです。この使い方でも音が豊かになるのですが、家庭のCDプレーヤのラインアウト出力に繋いだ方が格段に良い音になります。

 通常、プレーヤのヘッドフォンアンプ部分は音についてあまり吟味していないので、かなり劣化した音を平気で出しています。音が悪いと定評がある初期のiPodを借りてE5を繋いで、やはりわずかしか良くなりません。劣化した音を増幅しても効果は限られるのに対して、ラインアウト出力からなら正味の能力を発揮できます。リビングのプレーヤには国産で5000円程度のヘッドフォンアンプを付けていたのですが、上級ヘッドフォンの音の楽しさ、豊かさを表現できないのでした。E5を繋ぐと値段からは想像できない、見違えるような生き生きした音を聞かせます。

 問題があります。ラインアウト出力が大きすぎてE5のステップ式ボリュームではちょうどの音量にすることが出来ません。とても大きいか、小さすぎるかになります。オーディオメーカーのカタログでスライド式ボリューム付き延長コードを見つけて購入しましたが、音全体にベールが掛かったようになり、使い物になりません。電気信号の通り道に入る部品を吟味しないと悲惨な目に遭う実例でした。自前で減衰回路を付けようと検討、ヘッドフォンのインピーダンスと同程度の抵抗を直列に入れれば4分の1程度の出力になるはずと考えました。

 スライド式ボリューム付き延長コードで失敗していますから、高音質の抵抗を探さねばならないことは明かです。検索すると「抵抗の音質を正しく評価する」(nabeの雑記帳)が見つかりました。こんなご苦労なテストをされる方が居て、有り難い限りです。結局、「REYオーディオ用金属被膜抵抗 1/4W 51Ω±1%」が日本橋の千石電商で昨年末から売られていると知り、1本30円で買ってきました。

 ステレオのピンジャックとピンプラグも買い(1個100円くらい)、その間を抵抗2本とアース線で接続、ハンダ付けすれば完成で、想定通りに働いています。絶縁処理や補強は適当にお願いします。抵抗にもエージングが必要と知り、音楽を鳴らしてみると最初はざわざわした音でしたが、3時間くらいで落ち着きました。ヘッドフォンアンプに何万円もかける方からすれば不満は残るでしょうが、合計4000円の投資で音の芯に力強さが加わり、全域で厚みがある音に変身するのですから文句なしです。定価38000円のHD595を並行輸入18000円で買っているのに、アンプに何万円投入というのも筋違いな感じですし……。

 イヤフォンはゼンハイザーのMX400とMX500を大事に使っています。通常は携帯用にしていますが、リビングのE5を通して聞き直すとおやおやと思うほど豊かな音になり、改めて名機だなと再認識しました。国産5000円のヘッドフォンアンプでは真価を発揮させられなかったようです。日本橋でイヤフォンの試聴コーナーに寄り道してみましたが、手頃な値段では対抗できる機種はありませんでした。国内で絶版になったのが惜しまれます。ゼンハイザーの出した後継機種はどれも魅力に欠け落第です。韓国では絶大な人気があって、まだ売られているそうです。


弾頭無しで北朝鮮ミサイル?!―言葉は大事に

 北朝鮮が政府発表によれば「飛翔体」を発射し、日本列島の上空を越えていきました。明日の新聞紙面がどうなるのかは知りませんが、国内メディアは「ミサイル」派と「飛翔体」派に分裂しました。正午過ぎにウェブで収集した限りでは、主なメディアは以下の見出しでした。(確認してもらうために別画面で「切り抜き」を用意しました。臨時・特別扱いとし1カ月くらいしたら削除します)

■朝日新聞 北朝鮮がミサイル発射 11時32分政府発表「飛翔体」
■毎日新聞 北朝鮮ミサイル:11時半ごろ発射 落下物迎撃せず
■読売新聞 北朝鮮、東に飛翔体1発発射
■日経新聞 北朝鮮、飛翔体発射のもよう 政府発表
■産経新聞 【北ミサイル発射】日本政府、「飛翔体」発射を確認
■共同通信 北朝鮮、ミサイル発射 東北上空を通過、迎撃措置とらず
■時事通信 北朝鮮がミサイル発射=日本上空を通過―破壊措置は取らず―政府、国民に発表へ
■朝鮮日報 韓国政府も「長距離ロケット発射」確認
■CNN  北朝鮮、飛翔体発射 日本上空を通過

 午後になって確認すると、読売新聞は「ミサイル」派に転向、日経新聞は「飛翔体」を維持しています。読売新聞によると、北朝鮮は「衛星打ち上げ成功」と報道、「軌道傾斜角は40・6度で、近地点490キロ・メートル、遠地点1426キロ・メートルの楕円軌道。周期104分12秒で地球の周りを回って」将軍様の歌を送信しているそうです。こうなると、弾頭を積んでいなかったことは確実です。

 きつい言い方をすればミサイル見出しは誤報です。本文中でどう補足してあろうと、見出しだけ見て次の記事に移る読者が多数いるのですから、見出しはそれ自体で完結していなければなりません。先端の衛星を弾頭に替えればミサイルになると抗弁するのなら、種子島から打ち上げているロケットはすべてミサイルになります。事前報道で伝える側の認識を「ミサイル」と書くことで反映させるのは構いませんが、事実として起きていることを伝える段階になっても主観的な表現を続けていてはマスメディア失格です。

 CNN米国は「ロケット発射」を使い始めています。事実認識としてはロケットが一番妥当だったようです。私が運営する「Japan Blogs Net」【保守・右】は《「飛翔体」とはなにごとか》というオールド・ジャーナリストの意見も収集していますが、とても賛同できません。政治・軍事・衛星科学方面からのブログ発言が次々に集まっていますので、ご覧下さい。

 「Japan Blogs Net」から毛色が変わっているものを一つだけ。メディア・パブの《「北朝鮮のミサイル発射」のニュースを、Twitterでリアルタイム追跡してみた》です。起きているニュース関連の情報をTwitterでつかまえるのは、先日の「『ハドソンの奇跡』に見る米ネットの活性 [BM時評] 」でもあった話です。米国と違って日本語のTwitterは今回、活発ではなかったそうです。


2019年の世界〜Microsoftのムービーに納得?

 きょう「Japan Blogs Net」の巡回で見つけたトピック。「Ad Innovator」が「Microsoftによる2019年の世界」というムービーをアップしていて興味深かったですね。「情報を機器が読んで理解できる環境になり、機器同士が情報を交換するようになるとどうなるかというビジョン」。引用先のサーバーは混み合って断続的になっていますから、こちらのムービーで見られたらよいでしょう。10年後の銀行や買い物、学校のシーンがどうなっているのか、Microsoftが考えた姿が実写化されています。総集編のほか各論ムービーもあるのでお見逃し無く。

 映画「マイノリティレポート」風の場面あり、SF映画でお馴染みの電子ペーパー風ボードに周囲の情報を写し取ったり……。じつに上手に映像化していて、10年後には出来そうかなと思う半面、そうそう実現できないでしょうとも考えました。うまく使える人以外にデジタルデバイド層は絶対に残るのだから、どうするんだい――とも。

 「Microsoft Office Labs vision 2019」(安藤日記)は「印象は、何も新しくないけど、実は凄く新しい。何気なく動いているように見えるけど、本当に使えるところまで実現するのは難しいぞってこと」と読み込んでいます。

 昨年の今ごろですが、米国の発明家レイ・カーツワイル氏が、2019年からさらに10年経った2029年には機械の知能が人間以上になって、技術開発は機械がするという趣旨の講演をあちこちでしていました。《稀代の発明家Ray Kurzweil氏による基調講演〜とてつもない未来を語る、「The Next 20 Years of Gaming」》がそのひとつです。コンピューティングパワーの増大と脳のリバースエンジニアリングが進んで可能になるストーリーだったと記憶しています。そのペースが本物なら、2019年にはこの程度は実現するかも。


核燃再処理工場に安全思想の設計無し!!

 国内の『官製』原子力事業はいかに技術水準が低いか、「既視感ばりばり、もんじゅ低技術の恐怖 [BM時評]」などで指摘してきました。今度、明らかになった六ケ所再処理工場の高レベル放射性廃液漏れトラブルの原因は、さらに愕然とさせるものでした。最悪の放射性物質を扱う核燃再処理工場にフェールセーフ思想が欠如していたのです。この工場は起きうる事象の系統的な解析をしないで、非常に恣意的に、つまり超・楽観的に設計された「非常識施設」と申し上げてよいでしょう。

 東奥日報の「廃液漏れ 人的要因の可能性高い」を読んで目がくらむ思いがしました。漏れた廃液タンクへの圧縮空気の流入は、作業員が空気調節弁に誤って触れたために起きたとされました。床から70センチの高さにあり、軽く触れても弁は動く状態でした。「再発防止のため原燃は今後、数万個に上るとされる工場内の弁の中で同じように作業員が触れやすいものを抽出し、カバーを掛けるなどの対策を講じる」とあります。これが当初の完成予定時期1997年から10年余りも経過して採用する緊急対策とは、民間企業の研究者なら笑い転げる、悪いジョークです。「自縄自縛の悪連鎖、六ケ所再処理工場 [BM時評]」もご一読下さい。

 フェールセーフ思想なしに作られた核関連施設にはどんな落とし穴が潜んでいるのか、予測不可能です。「2月25日、保安院に高レベル廃液漏洩事故への抗議のアピール行動」などブログの大衆が懸念するのは当然のことです。

 読売新聞の「組織改善計画策定へ」は今回の人為的ミスを受けて、日本原燃の児島伊佐美社長は「組織的な問題点の根本原因を分析するアクションプラン(行動計画)を4月末までに策定する方針を明らかにした」と伝えました。「社員の意識改革の一環として、再処理工場の運転や保守に携わる社員を、日本航空とJR東日本の整備工場に派遣する社員研修を始める方針も明らかにした」とも言うのですが、明らかに方針が間違っています。問題は社員意識ではなくて、設計の安全思想欠如にあるのです。


自縄自縛の悪連鎖に陥った六ケ所再処理工場

 青森県で建設中の六ケ所再処理工場が最終試運転段階で大きな暗礁に直面したようです。目立つ形の全国ニュースとして取り上げられないので気付きにくく困るのですが、第162回「青森の再処理工場は未完成に終わる運命」で取り上げた最終段階の高レベル放射能廃液ガラス固化工程でのトラブル対処が次々にトラブルを呼んで、自縄自縛の悪連鎖に陥りました。

 ガラス固化するために高レベル放射能廃液とガラスチップを混ぜて溶融します。それを細いノズルから特殊なガラス容器に流下させますが、もともと設計上の対策不十分で炉の底に白金族元素が堆積しやすくなっていました。堆積問題に対処するために、当初の設計には無かった撹拌棒を導入し一生懸命混ぜていました。昨年末、その撹拌棒が抜けなくなったのです。東奥日報の「攪拌棒に曲がり/ガラス固化」に見取り図があります。真っ直ぐな棒が原因不明で曲がっていました。やむなく撹拌棒を力任せに引き抜くと、炉の天井を覆う耐火レンガの一部、長さ24センチ、幅14センチ、高さ7センチ、重さ6キロが脱落していました。原子力資料情報室の「六ヶ所 : 再処理工場・ガラス溶融炉:耐火レンガ脱落!」に詳しい図があります。曲がった棒を無理に引き抜いた際に天井を傷つけたのでしょう。

 溶融炉下部には温度が下がった溶融ガラス900リットルが溜まったままです。レンガはその中にありますが、ガラス溶液が流れ出る底部中心をふさいでいる可能性が高く、年が明けて炉の下からドリルを入れて削り、レンガに穴を開けることになりました。そして、1月13日付の「耐火れんが穴開け作業中断/原燃」になる訳です。「入り口の流下ノズル内にガラスが残っており、無理にドリルを入れるとノズルを傷付ける恐れがあるという」「現在、模擬装置でノズル内のガラスを削る練習をしており、作業再開までには数日かかるとしている」

 そもそもドリルを差し込む流下ノズルは非常に微妙な部品で、こんな「工事」をすることなど考えられていない所です。「ガラス固化技術開発施設(TVF)における溶融炉技術開発」の「図2」を見ていただくと、改良型になってますます複雑な形状になったことが分かります。白金族元素が途中で堆積して詰まったりしないよう、単純な丸い穴ではなくし、立体的にした隙間の形に工夫が凝らされています。そこにドリルを入れるのです。放射能汚染区域ですから遠隔操作するしかなく、名人芸的な作業は無理です。また、耐火レンガに穴が開いたとしても付近の流れの状態は一変します。設計者が見たら目を覆いたくなる惨状でしょう。

 今すぐ工場周辺に汚染を呼ばない点で原燃が「安全」と言っているのは間違っていませんが、トラブルを乗り越えて再処理工場の最終試運転が完全に終わる可能性は極めて薄くなったと思います。


連日のノーベル賞、違う研究者人生

 物理学賞の3人に続いて日本人、今度はノーベル化学賞に米ウッズホール海洋生物学研究所・元上席研究員の下村脩さん(80)です。オワンクラゲから発光物質、緑色蛍光たんぱく質(GFP)を取りだし、細胞が生きたままの状態で、その中でタンパク質を観察する手段になり、世界中の研究者が広く恩恵にあずかっている仕事になりました。

 下村さんはアカデミックな世界では、特に日本的な意味では恵まれない生き方をされて来たようです。受賞歴で2007年の朝日賞が特に光るというのも、これまでのノーベル賞受賞者が分厚い受賞歴を持っているのと違います。朝日新聞の電話インタビュー「『化学賞は意外』『クラゲ85万匹採取』下村さん語る」が少しその実像を明かしてくれます。「米国に居続けたのは?」の質問に「昔は研究費が米国の方が段違いによかった。日本は貧乏で、サラリーだってこちらの8分の1。それに、日本にいると雑音が多くて研究に専念できない。一度、助教授として名古屋大に帰ったんだけど、納得できる研究ができなかったので米国に戻った」と語っています。長崎医科大付属薬学専門部(現・長崎大薬学部)卒業の下村さんには、アカデミックな世界でのし上がる気はなかったのでしょう。

 今年のノーベル賞報道をネット上に限れば、MSNと組んでいる産経新聞が早い時間からかなり多数の記事をリリースして目立ちます。紙の紙面では各紙ともに1面から社会面まで大量の記事を出していて、それほど秀逸とは思えませんが。化学賞でも21時過ぎに【ノーベル化学賞】「自分はアマチュア・サイエンティスト」下村脩氏をリリースしていて特筆ものでしょう。

 「上の人の話を素直に聞くような人間じゃない。そうかといって、人と争う気もないし、競争は嫌い」「自分はアマチュア・サイエンティスト。それがかえって良かったのかも」――なかなか良い言葉を拾っています。1年前に下村さんに講演で来て貰った母校の教授のコメント「心の底から感激している。こんな地方の大学を出たノーベル賞受賞者は初めてではないか。ここで学ぶ生徒たちにも励みになる」もいいですね。

 物理学賞の3人とはまるで違う研究者人生が見えて、今年はこれも収穫の一つでしょう。

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快哉!日本人3人にノーベル物理学賞

 このところ暗くよどんだニュースが多かったので、このノーベル賞受賞ニュースはスカッとして良かったです。3人の業績を組み合わせて受賞のパターンは最近の通例ですが、日本人3人というのがとても新鮮です。近年の理系の受賞例では3人の一角を日本人が占めるというのが通例でした。南部陽一郎・米シカゴ大名誉教授・大阪市立大名誉教授(87)、小林誠・高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所元所長(64)、益川敏英・京都大名誉教授・京都産業大理学部教授(68)の皆様、おめでとうございます。

 南部さんも小林・益川理論も前々から候補に挙げられていたのですが、この組み合わせになるというのはちょっと意外でした。「対称性の破れ」というキーワードは同じですが、完全に一世代離れた研究者で、かなり違う研究なので、それをうまく切り取って評価する「知恵者」がノーベル賞推薦者にいらしたのでしょう。

 「ノーベル賞、南部・小林・益川3氏の略歴」を見てください。よく観察すると違いが見えます。南部さんは1978年に文化勲章を受けています。小林さんと益川さんは2001年になって「文化功労者」なんですね。南部さんの場合は早くからノーベル賞当然の感じですが、他のお二人はボーダーだと、少なくとも日本政府は考えていたことを示しています。

 それにしても、南部さんは87歳です。長生きされていて本当に良かったと思います。ノーベル賞の選び方は、ある研究分野が非常に発展しているとして、それを拓いたのは誰の仕事だったか、根源的なブレースルーは誰の手で行われたのかを見極めるものです。しかも存命でなければなりません。意外に早く逝かれた有力な研究者が日本人にも多々いらっしゃいます。

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青森の再処理工場は未完成に終わる運命

親サイトでは、インターネットで読み解く!第162回)

 日本原燃が青森県六ヶ所村で建設している再処理工場は、最終段階の高レベル放射能廃液をガラス固化するところで暗礁に乗り上げてしまいました。7月2日、半年ぶりに試運転再開して、その直後にノズルが詰まって緊急停止したと聞き、尋常の事態でないと感じていました。ところが、マスメディアはどこも詳しいレポートをしてくれません。21日になって日経が朝刊の奥の方にある科学面で「日本原燃の再処理試験トラブル 原因究明は長期化 未完成の国産技術採用 コスト重視に落とし穴」を書いてくれました。もう原子力を見ている記者はいなくなったのかと本当に心配していましたが、川合智之記者のグッドジョブです。

 例によって、こうした価値が高い記事でもネット上に出ることはありません。ネットで受けるのは「ひとくち話のようなもの」という誤解が国内のマスメディア側にありますし、確かにネット読者の多くはそういう行動パターンです。ニューヨークタイムズのようにネットで利用できるようになるのは何時のことでしょう。

http://www.jnfl.co.jp/press/pressj2008/080711sanko.pdf

 今回の記事の核心は次の部分です。廃液とガラスを混合、溶融してノズルからステンレス容器に落としていくのですが、そのノズルが簡単に詰まってしまうのです。この部分は原研東海の実験炉で実績があると聞かされていました。「日本原燃は原研機構の溶融炉をそのまま導入したわけではない。原研機構の実験炉では、濃縮装置で廃液濃度を一定に保ち、スポンジ状のガラスに廃液を染み込ませてから溶融炉に入れる。日本原燃は低コスト化のために濃縮装置を省き、ガラスも低コストの粒状のものに替えた。溶融炉の大きさも原研機構の5倍に拡張するなど、実質的に新規開発に近かった」

 これを読んで絶句しました。仕組みと言い、スケールと言い、全くの新規開発です。崩壊熱を自ら発する多数の物質が入り交じった溶融炉の中の物質挙動が、これほど仕組みも物質量も変えて同じになるはずがありません。一国の核燃料再処理を担うのですから、当然、実物大の実験炉で成功させてから実機に組み込むべきです。エンジニアリングの基本を外しています。

 今度の再処理工場本番がその実証実験のようです。原発の核燃料棒から最悪、最強の放射能廃液を絞り出して集めた場所です。ここは通常の原発の放射線レベルとかけ離れた死の空間になり、遠隔操作しかあり得ません。ノズルが詰まったからと人間が覗きに行ける場所ではありません。また、ガラス固化が滞ると前の処理工程が動いていれば高レベル廃液がどんどん溜まります。これが通常の工場廃液のようにタンクに置いておけば済む性質ではないのです。自らの崩壊熱でどんどん熱くなり、強制冷却しないと爆発さえありえます。

 「欠陥ガラス溶融炉の悲痛な叫びが六ヶ所再処理工場は動かしてはならないと訴えている」は「調査の過程で根本的な欠陥が明らかになったにもかかわらず、原子力安全・保安院は6月30日に運転再開を容認しました。今回のトラブルは、この再開容認が間違っていたことを明らかにしました。日本原燃は、前例がなく原因は不明、再開の目処は立っていないとしていますが、前回のトラブルで下部に溜まった白金族元素を含む残留物が流下ノズルに残り、これが影響したような場合には手の打ちようがないでしょう」と指摘し、運転中止を訴えています。

 日経記事によると当初の完成時期は1997年だったのに13回延期され、「現在の計画は7月完成だが、今回の不具合で絶望的となった」とあります。10年以上も完成がずれこんで、今になって根本的な欠陥が明かされる恐ろしさ。マスメディアはきちんと向き合わねばなりません。「既視感ばりばり、もんじゅ低技術の恐怖」と並べてみると、日本の「官製」原子力開発には人材がいないことが明らかです。競争の世界にさらされている基幹産業のエンジニアが知ったら笑い転げるか、憤慨するか、どちらでしょうか。


日本発の海洋技術冒険「Wave Power Boat」

 半世紀ほども前、初の太平洋単独横断航海「太平洋ひとりぼっち」を成功させたヨットの堀江謙一さん(69)がいま新しい冒険の真っ最中です。波の力を推進力に変える「波浪推進船:Wave Power Boat」を造って、ハワイから紀伊水道まで約6000キロメートルを波の力だけで航海しています。波浪推進船による初めての実用航海です。既に日付変更線を通過しました。詳しい記録は彼のホームページでご覧下さい。歩くような速さでゆっくり走っています。

 これまでのヨット航海と違う新奇さにニューヨークタイムズなども注目して、結構多くの英語メディアに紹介されました。ブログではWave Powered Boat Begins Voyageとか、ハワイの地元紙によるWaveriderとかが写真満載でいいです。

 堀江さんが東回り単独無寄港世界一周航海をした際に取材を担当した縁で、お付き合いを続けています。彼はケープホーン沖の風向きが悪い故に難しい西回りを先に成し遂げ、東回りと合わせて両周り達成という珍しい記録を持っています。両周りの先人はオーストラリア人一人ですが、北半球から出発しないと意味が薄いので、実質的に堀江さん一人の記録だと思っています。

 彼は禁欲的な航海者で、大きなクルーザーには冷蔵庫などの電気製品を備えるのが常識なのに、ほとんど持たないでやってきました。今回、太陽電池を増強して初めて電子レンジを入れたので、毎日、ガスでご飯を炊く手間が省けたという具合です。航海中、ビールも飲みますが、冷蔵庫がないので常温です。

 これまでは「風と波の音」だけを聞いて航海してきました。その中で波で走れないかという発想が膨らんでいったのです。そして、東海大海洋学部で水槽実験だけで埋もれていた技術を船の形にし、大航海に持っていってしまったのですから、冒険者として面目躍如です。ヨットで帆を張って走っていると操船の手間はかなり多いのですが、今回は帆は緊急時限定です。したがって少しはのんびり出来るのでしょう。パソコンで視聴できるDVDやCDを持っていき、外付けスピーカーも初めて積みました。


月面に出入りする地球画像の正しい見方

 宇宙航空研究開発機構が4月11日に月周回衛星「かぐや(SELENE)」のハイビジョンカメラ(HDTV)による「満地球の出」撮影の成功についてと題したプレスリリースを出しました。もし人が月面に立てたとしても、地球は同じ位置に見えるので月面に沈んだり、月面から上ったりはしません。月を回っている衛星だけからしか見えない、それも軌道の関係で年に2度という特殊な「月面に出入りする地球画像」なのです。

 早速、リリースの中ごろに置いてある《「満地球の出」ハイビジョンカメラによる映像》《「満地球の入り」ハイビジョンカメラによる映像》のリンクを押して動画を見ました。しかし、がっかりです。美しい、きれいな画像なのですが、解像度は480×270ピクセルと何ともしょぼいのです。ハイビジョンと銘打っているのは何なのだと言いたくなります。「はてなブックマーク」でも不満の声多しです。

 「かぐや」画像ギャラリーに行ってみると、フルハイビジョン1920×1080静止画しか置かれていませんでしたが、「2008/04/09」の項に「ハイビジョンカメラがとらえた、地球の出と入りのDVD品質動画を追加しました」とあるではありませんか。今回、撮影に成功した4月6日の半年前、11月7日の「出と入り」が動画になっていました。地球が大きく見えるのは半年前は「入り」の方です。画像をクリックすると、横幅700ピクセルくらいのフラシュプレーヤーが立ち上がって見せてくれます。

 かなり満足したところではありますが、ダウンロードが出来ると書いてあるので落としてパソコンで見ると、854×480の大画面になるのでした。元データが720×480、アスペクト比16:9なので、横幅を引き延ばしてくれるのです。是非、ダウンロードして楽しんでください。青い地球がクレーターだらけの月に沈む、何とも不思議な感覚が味わえますよ。それにしてもハイビジョンのデータなら1280×720では見たいですね。


Vista短命確定で「Windows 7」論議沸騰

 この数日で次期OS「Windows 7」の話が一気に盛り上がっています。4月初めにマイアミであったセミナーで、マイクロソフトのビル・ゲイツ会長が「『Windows 7』は来年にもリリース」と漏らしたのがきっかけです。ITmediaの「Vistaに見切りをつけたMicrosoft 」は早速、「今や問題は『Vistaは死んだのか?』ではない。もう死んでいるのだ。本当の問題は、Microsoftがデスクトップ市場の支配を守るのに間に合う時期に『Windows 7』をリリースできるかということだ」と不人気OS「Vista」に死亡宣告をしています。

 実際にパソコン市場でアップル社のMacが見直されて好調です。iPodとの相乗効果もあるのでしょうが、理由の一番はVistaにうんざりしたからではないかと思っています。それで気を付けて見ると3月のCNET Japanに「MS、次期OS『Windows 7』のテスト版を米国の技術委員会に提供--独禁問題で」が出ていたりして、水面下で事態が動いていたと知れます。

 9日付、GIGAZINEの「マイクロソフト、新OS『Windows 7』は2010年に登場するとコメント」は「マイクロソフトの広報は次のOS『Windows 7』について、現在まだ計画段階でしかなく」「発売されるのはWindows Vistaが発売されてから3年後にあたる2010年になると述べたそうです」と報じています。「Windows 7(Vistaの次)は2010年」のように「そりゃ、そうですよね。来年じゃ、早すぎます」と一安心している方もいらっしゃいますが、Vistaの短命確定には何ら変わりはありません。

 1年前に「奇怪、不可解、Windows Vista肥大化 [ブログ時評76] 」で抱いた疑問に間違いはなかったようです。個人的には会社で仕事に使う貸与ノートパソコンが更新期にあり、XP Professional入りのマシンが届くことになって、ほっとしています。秋以降の更新機種はVista入りの可能性が高いと思っていますが、この情勢では短命のVistaにしてソフトの整合に苦労する必要があるのか疑問ですね。自宅のマシンは昨年、XP機に買い換えたばかりですから、Vistaには触れることなくパソコン人生を全うしたいものです。