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科学技術立国崩壊の共犯に堕したマスメディア

 英ネイチャー誌3月特集が「日本の科学力は失速」と明確に打ち出したのをマスメディアは理解できなかったと言わざるを得ません。科学技術立国崩壊を食い止めるおそらく最後の機を逃し、失政の共犯者に堕しました。ネイチャーによる日本語プレスリリースはこう述べています。世界の《全論文数が2005年から2015年にかけて約80%増加しているにもかかわらず、日本からの論文数は14%しか増えておらず、全論文中で日本からの論文が占める割合も7.4%から4.7%へと減少しています》《他の国々は研究開発への支出を大幅に増やしています。この間に日本の政府は、大学が職員の給与に充てる補助金を削減しました》《各大学は長期雇用の職位数を減らし、研究者を短期契約で雇用する方向へと変化したのです》……この国立大学法人運営費交付金の削減と世界での論文数シェア減少の相関ぶりがひと目で理解できるグラフを用意しました。


 2015年の科学技術白書に収録されている「全分野での論文数シェア」グラフは2011年までですからネイチャー指摘の2015年まで延長しました。その中に第495回「浅知恵、文科省による研究崩壊へ予算編成開始」(2015年9月)で作った交付金の推移グラフを年次が合うように縮小して取り込みました。両者の因果関係を何年も前から主張し続けてきましたが、大本営発表報道で飼いならされたメディアは政府が認めないので見てみぬ素振りです。これには国立大学協会に提出された豊田長康・鈴鹿医療科学大学長による「運営費交付金削減による国立大学への影響・評価に関する研究」と題した実証的な報告がある点も紹介します。

 4月16日付で日経新聞が《社説・科学技術立国の堅持へ大学改革を》を出しました。他のメディアがネイチャーの分析をお座なりに扱ったのに比べたら社説を書くだけマシとしなければならないでしょうか。

 《ネイチャーの警告は重く受け止めるべきだ。何が活力を奪っているのか。大学関係者からは、国が支給する運営費交付金の削減をあげる声が多い。交付金は教員数などに応じて配分され、大学運営の基礎となってきた。政府は04年度の国立大学法人化を機に毎年減額し、この10年間で約1割減った。しかし、大学予算全体はそれほど減っていない。政府は交付金を減らす代わりに、公募方式で研究者に資金獲得を競わせる「競争的研究費」を増やしてきた。本質にあるのは研究費不足ではなく、もっと構造的な問題とみるべきだ》

 そして、研究者の高齢化・年功序列、若手の研究職がなく高学歴ワーキングプア化、閉塞感の打破などをあげ、「大学の自発的な改革を加速させるときだ」が結論です。しかし、ネイチャー特集に含まれる角南篤・政策研究大学院大学副学長のコメント《多くの大学人は政府主導の改革に懐疑的であり、もはや自ら改革が出来ないほど大学財政は窮迫している》とあるのをお読みになるべきです。

 交付金は今後も年に1%ペースの継続削減が決まっており、第535回「文科省主導の大学改革が国立大の首を絞める」で取り上げた「教員1人年間研究教育費が3万円」という、何のために大学教授がいるのか理解不能な悲喜劇ぶりを知るべきです。

 大学の現場にいる一級の研究者が極めて悲観的な展望を持つ現状は第542回「ノーベル賞・大隅さんの警鐘は政府に通じまい」で伝えました。大隅さんの憂慮を再録します。《競争的資金の獲得が運営に大きな影響を与えることから運営に必要な経費を得るためには、研究費を獲得している人、将来研究費を獲得しそうな人を採用しようという圧力が生まれた。その結果、はやりで研究費を獲得しやすい分野の研究者を採用する傾向が強まり、大学における研究のあるべき姿が見失われそうになっているように思える》

 さりながら昔に戻せば良いとは思いません。2004年の国立大学独立法人化にあたって書いた第145回「大学改革は最悪のスタートに」〜急務はピアレビューを可能にする研究者の守備範囲拡大〜の問題意識は現在でも有効です。大学改革は欧米に比べて大きな欠陥を抱えた研究の仕方を改めるのではなく、むしろ学閥優先に振れてきた十余年の壮大な失政でした。それを認めてやり直さなければならないのに、この国のマスメディアは小手先の改革がまだ通用すると軽薄に思い、政府にちょっと改善を促す程度で実際は追随し続けます。


外国人大量訪日で日本理解は確実に進んでいくはず

 2016年は海外から2400万人の訪日客を迎えました。経済効果や商売の話が優先されがちな話題ですが、日本理解が進んでいく指標として各国の人口当たりの訪日客比率を調べてみると新しい発見が見えてきます。訪日客数が急速に立ち上がった2013年から昨年まで4年間、各年の各国別人口比を計算して4年累計を出しました。香港62.5%、台湾55.0%、韓国29.7%、シンガポール21.4%が高率ベスト4であり、これだけ多くの国民が訪日してナマの日本理解が進まないはずがありません。一方で、大人口の中国が1.1%、米国が1.3%に達した点も見逃せません。また、英語・中国語と日本語を自在に通訳、持ち運べるスティック型のリアルタイム翻訳機「ili(イリー)」が6月からサービス開始と報じられ、日本理解で問題の言語の壁もやがて超えられそうです。


 観光庁が2016年の推計訪日客数を発表している主要国を中心に、アジアと欧米各国で人口当たりの訪日客比を計算しました。香港、台湾、韓国、シンガポールのベスト4に続くのがオーストラリア6.1%、タイ4.1%、マレーシア4.0%、カナダ2.5%、英国1.6%などです。

 4年間の累計には複数回、来日している人も含まれます。訪日外国人旅行者消費動向調査によると、これまでは初来日客は全体の2割とされていましたが、2016年には4割まで膨らみました。1%が訪日したとして初回は0.4%だけで2回以上は0.6%、重複訪日を省いて実質比率は3分の1の0.2%と推定すると「6掛け」くらいで見れば良いでしょうか。1.6%の英国以上の国は国民の1%以上に訪日経験があると考えられるでしょう。

 中国からは爆買いの中心だった高所得層が一巡して、日本の観光ビザ発給要件「年収25万人民元(約400万円)以上」ぎりぎりの層を狙った格安フリーツアー販売が出ているそうです。こうした層まで来日して日本の実情を見れば、依然として抗日映画・ドラマ漬けになっている中国国民意識に変化が現れるはずです。ただ、抗日映画好きはもっと貧しい層だとも言われます。

 年の始から従軍慰安婦問題で緊張関係にある韓国ですが、4年で29.7%の訪日累計はとても大きな数字です。どんなに少なく見積もっても10人に1人以上がナマで日本を見た経験があると考えられます。韓国メディアまで含めた過去の反日言論の積み重ねがあるので、SNSでも反日の声ばかりが目立ちますが、その中で訪日して喜んでいる書き込みを非難するケースにたびたび遭遇するようになっています。「親日は悪」と刷り込まれた韓国社会の基盤にひび割れを見る思いです。

 ソウル聯合ニュースの《韓国人の海外旅行先 一番人気は日本=旅行サイト調べ》は《満19歳以上の韓国人ユーザー1668人のうち、今年海外旅行の計画があると答えた人は92%だった。このうち、最も行きたい国・地域として日本を挙げた人が20%で最多を占め、次いで米国とタイ(各9%)、台湾とスペイン(各7%)の順だった》と伝えました。

 世界における日本語の特殊性は来日してもらい、ナマの日本を見てもらうにしても理解の壁になってきました。株式会社ログバーが開発した翻訳機「イリー」は《【速報】世界初のウェアラブル音声翻訳デバイス「ili」(イリー)」を公開、法人向けサービスを6月から開始》にあるデモンストレーション動画、続編の体験記事を見て大いなる可能性を感じます。

 取り敢えずは各種の窓口に置いて、外国人客がする質問を日本語に翻訳する用途が想定のようです。1本では片方向の通訳しかしませんが、2本持っていけば対話が可能になります。いずれ訪日客に貸し出して各地を回ってもらう方向に進むでしょう。

 《専用の管理ソフトで入出力言語を日本語、英語、中国語に切り替えることができる。英語圏からの顧客に加え、近年増加している中国語圏からの顧客にも対応可能。韓国語も2017夏頃に対応予定で、タイ語、スペイン語にもやがて対応する予定》なのです。どれくらい使えるシステムなのか、自分で試したい気分満々です。

 なお、1年前の第512回「訪日観光客、リピーター増で質の変化始まる」では主要7空港の出入国シェアなど変化の兆しを扱っているので参照して下さい。


文科省主導の大学改革が国立大の首を絞める

 国立大に対する運営費交付金の継続的な削減が論文数・重要論文数の減少を招いている現状に、文科省主導の大学改革が決定的な打撃を与えそうです。新潟大教授が「年間研究費が3万円に激減」とブログで明かしました。独立法人化以前には研究費が40万円あり、以後やせ細りながらも昨年は10万円だったのに事務経費まで含めてこの金額では何も出来ません。毎年1%の運営費交付金削減は今年に限り見送られており、これほどの経費削減は文科省主導の改革で新学部創設が図られるからでしょう。地方の国立大は旧帝大などのように科研費が獲得できないでも、やり繰りして研究論文を生産してきたのですが、最終的に首が絞められたと言わざるを得ません。

 新潟大の三浦淳教授(ドイツ文学)が《新潟大学の話題/ ブラック化する新潟大学(その17)・・・激減する研究費と羊のごとき教員たち》でこう明かしています。

 《人文学部では教員一人あたりの研究費は3万円となった。前年度も前々年度比で激減していたわけだけど、2年続けての激減である。おさらいをすると、私が大学から1年間にもらう研究費は以下のように変遷してきている。

 2003年度まで   研究費約40万円 + 出張旅費6万円
 2004年度独法化 出張旅費を含めた研究教育費が20万円
 2015年度     同上 10万円
 2016年度     同上 3万円

 理学部の先生にうかがったところでは、理学部の教員も一人3万円だそうである。これも以前に書いたことだけど、この研究教育費には研究室で使うパソコン・プリンターのインク代など、事務的な経費も含まれている。如何ともしがたい額だ。万事に自腹を切らないとやっていけない状態になっている》

 財政難の新潟大は今年から2年間、退職する教員の補充を止めると公表しています。ところが、文科省が音頭を取っている理工系重視・社会的要請の高い分野に転換の大学改革で「創生学部」を新設すると発表しました。教育学部の文系学科を廃止し、新学部の「専任教員は、学内で再配置した10人と新規採用の8人で構成」と説明されているそうです。財政難の下での無理無茶が研究費激減を招いたと考えられます。新潟大に限った話ではなく、文科省から圧力を受けた他の国立大も一斉に学部の新設・改組に走っています。

 2年前の第435回「2016年に国立大の研究崩壊へ引き金が引かれる」、さらに1年前の第488回「国立大の2016年研究崩壊に在京メディア無理解」で心配した事態が極端な形で具現化してきました。ただでさえ疲弊しきった研究の現場には壊滅的な打撃です。


 この問題を継続的に追っていらっしゃる豊田長康さんが書いている《応用物理学会にて「日本の大学の研究競争力はなぜ弱くなったのか?」》からグラフ「人口あたり高等教育機関への公的研究資金の推移」を引用しました。「日本の高等教育機関への公的研究資金(人口あたり)は停滞し、多くの先進国との差が開いた」とのコメントが付けられています。日本より下はチェコ、スペインだけ。人口当り論文数で世界37位まで落ちたのも当然と思わせられるグラフです。


 理系論文について先進国で特異な落ち込みは知られていますが文系はどうでしょうか。文系の論文順位が出ている「主要14か国の分野別論文数の順位(その2)」も引用します。「経営・経済学や社会学でも韓国・台湾が上」とコメントされているように、人口が半分以下の韓国、5分の1の台湾に文系の研究論文数で劣っているのです。地方国立大では出張費も出ないところが多々あると聞きますから不思議ではありません。2004年の独立法人化から毎年、運営費交付金を削り続けた結果に対して文科省は危機感を見せません。世界と競える有力大学があれば良いとお考えのようですが、世界の大学ランキングから日本勢は姿を消しつつあります。


小学生にプログラミング必修、失敗必至の愚政策

 安倍首相は小学生から「プログラミング教育を必修化」と産業競争力会議で表明しました。教える人材を手当出来ない情勢から、街のパソコン教室以下とも言われる高校の必修科目「情報」の失敗を繰り返すのは必至です。「情報」はワードやエクセルなどを教えるだけの存在に成り下がったり、厄介者扱いで受験向け科目に振り替えられたりしています。2003年の必修化時にはそれなりの理想は掲げられていたのですが、情報専門の人材が高校に入ることはほとんど無く、教える先生の大半は数学などの教諭が夏休み3週間の講習会で免許取得認定を受けたのでした。今回も小中学校で同じことが起きると申し上げてはばからないのは、子どもの数が減っていく時期にぴたりと合致しているからです。


 18歳人口の推移グラフです。2003年の「情報」必修化はハイティーン人口が急速に減っていくタイミングで実施されました。高校側には新教科導入に即応する新しい人材を雇う余力など無かったのです。現在に至るまでも「情報」が専門の教員が採用される例はほとんどなく、他の教科の免許と併せ持つ先生ばかりです。そして、現在の中学3年生がグラフでどこに位置しているか、見てください。これから人口が減っていく入り口に立っていると知れます。

 安倍首相の表明を官邸19日の《産業競争力会議》から収録しましょう。《日本には、ITやロボットに慣れ親しんだ若い世代がいます。第四次産業革命の大波は、若者に『社会を変え、世界で活躍する』チャンスを与えるものです》《日本の若者には、第四次産業革命の時代を生き抜き、主導していってほしい。このため、初等中等教育からプログラミング教育を必修化します。一人一人の習熟度に合わせて学習を支援できるようITを徹底活用します》

 昨年末の第510回「米が小学校にコンピュータ科学導入は女子に効く」で米国がプログラミングを含むコンピュータ科学を教えるべく動き出したと伝えました。労働市場でプログラマーの需要に供給が追いつかない現状が背景にあります。こうした欧米の動きに刺激されたのでしょうが、日本と違って人口が増えていく米国なら子どもに教える人材を新規に雇うことも可能でしょうし、IT人材の質と量が日本に優っているのは明らかです。

 子どもが減っていく中で、現在でも学校教員の数は財務省の圧縮要請に文部科学省が激しく抵抗する状況です。安倍首相が言う十分なケアが出来るスタッフが小中学校に揃う可能性は限りなく小さいと思われます。

 日経の2014年《高校の「情報」科目、必修は名ばかり 簡単パソコン操作だけ》が《情報処理学会は8月、教員向けの講習を初めて開催し、指導力の改善に乗り出した》と伝えていますが、まさに焼け石に水としか言いようがありません。現状がまとめられているので紹介します。

 プログラミングは思いついたアイデアを数学上の手順に置き換えてコンピュータの処理として実現します。うまく作れればとても面白く、40年前に大学で希少だったディスク・オペレーティング・システム付きミニコンで対戦型麻雀ゲームを作って大学祭で遊んでもらった経験があります。隘路を突破していく発見の喜びを教えられれば子どもに刺激的な経験になるでしょうが、決まり切ったプログラミング手順を教えるだけの授業に止まるなら苦痛そのものです。長くウオッチしてきた立場からは人材・教材ともにかなり悲観的です。性急にプログラミング教育に走るより、2011年『日本人の4割はパソコン無縁:欧米と大きく乖離』で示したデジタル・ディバイド層を何とかする問題意識を持って欲しいところです。


日本衰退の米国留学、増大各国の裏事情を探る

 アジア各国に押されまくって日本の米国留学衰退が嘆かれています。質の悪い学生まで送り込む中国に注目が集まりがちですが、人口1万人当りの留学生数で見ると韓国と台湾は極めて特異であり各国の裏事情を探ります。日本の米国留学生は1990年代半ばには5万人に迫り、国別のトップだったのです。90年代末に中国に抜かれ、2000年代初頭にインド、韓国にも追い越されました。さらにカナダ、ブラジル、台湾に抜かれ、2014/15スクールイヤーでは10964人と7位にまで落ちています。

 3月下旬にウォールストリートジャーナルが掲載した《群れなす中国人留学生、米大学で不協和音》に注目しました。中国からの米国留学は30万人の大台に達し、英語をほとんど喋らないで留学生活を過ごす中国人学生まで出現したと報じました。米国で学ぶ留学生総数は97万5000人なので3割にもなります。


 現在の上位7カ国について過去の推移を「Open Doors Data」から拾い、グラフにしました。経済成長が続いた中国の伸びは凄まじく、一人っ子政策で少ない子に教育費を潤沢に注いだ結果でもあります。中国に次いで巨大人口のインドは政権交代で停滞気味だった経済成長が動き出し、中国に置いて行かれた米国留学に火がつき始めました。ここで中印以外の動向を見るために2014年の人口1万人当りで計算した留学生数の推移が次のグラフです。


 英語が話せて地続きの隣国カナダは特別として、数千万クラスの中規模人口3カ国の特異さが浮かび上がります。中でもサウジアラビアは人口1万人当り20人に迫り、日本の1.5人とは10倍以上の差です。国民500人に1人が米国留学生になった秘密は前の国王名を冠した奨学金制度です。2005年設立で授業料全額に生活費・医療保険、年1回の帰国往復運賃までが支給されてきたのです。しかし、原油収入激減で2016年からは世界で上位100校など高ランクの大学に制限することになりました。原油安が続くなら、今後は大きく減るはずです。

 10人から15人前後を維持している韓国と台湾には大学進学率が急速に高まった共通点があります。日本の5割に対して韓国は8割、台湾は20歳前後で7割あって年長での進学も多いので韓国と変わらないでしょう。おまけに国内で評価が高い大学が限られているのも共通で、多数の米国留学は進学したい大学に乏しい現状を補っていると見るべきです。

 もちろん就職難にも関係しています。2014年の第415回「留学の大変動、中国と韓国の壮絶な就職難から」で描いたように、中国では既に留学帰国組が就職で苦戦するようになっていました。2016年の大卒者は765万人、それに帰国組40万人が加わり、日本の十数倍の規模。経済成長減速もあって非常に厳しい就職事情と言われます。

 ところで、日本の米国留学衰退は深刻な問題なのでしょうか。人口1万人当りの指標を見ると「英1.67」「仏1.37」「独1.26」であり、日本の「1.50」はちょうど西欧先進国並に落ち着いたとも言えます。「3」を超えていたのが異常だったのです。韓国や台湾のように行きたい大学が無くて困る事情はなく、18歳人口が大きく落ち込み、今後さらに減る状況は第511回「科学技術立国さらに打撃、大学淘汰で研究職激減」のグラフで確認できますから、自然の成り行きと判断すべきではないでしょうか。

 一方、中国が「2.22」に達しました。人口の6割が貧しい農村部出身である点を考慮すると、日本が経験したことがない「5」を超えているとも見られ、「粗製」留学生が輩出して当然と思えます。


セウォル号の乗客待機指示、酷い「藪の中」状態

300人超の犠牲者が出た韓国セウォル号沈没、事故から2年になって乗客に退船せず待機と船内放送した事情に新証言が現れました。海運会社が指令を出したと言い、また船長は実は退船指示したと「藪の中」状態です。おまけに船員が乗客を見捨てたのは、不作為というよりも自らの身の安全を守るためだった疑いが浮上しています。最初に船が傾いた現場に駆けつけた海洋警察の救助艇は積極的な救助をしなかったのに、艇長は船が沈没するまでにインターネットに8回も接続していたと伝えられ、関係当事者の不誠実とデタラメぶりが極まります。

 セウォル号事故特別調査委の第2次聴聞会での証言をハンギョレの《セウォル号航海士、会社連絡後に退船措置せず待機命令》が伝えています。

 《操舵手のチョ・ジュンギ氏。チョ氏は特調委の調査過程でカン・ウォンシク1等航海士が会社(清海鎮海運)と通話した直後に「海上警察が来るまで船内で待機しよう」と言ったと証言した後、「船は上意下達が徹底していて、会社の指示を受けたように見えたカン氏が命令調で話したため、他の船員たちも会社の命令として受け止めた」と述べた》

 《チョ氏は「珍島(チンド)海上交通管制センター(VTS)からの『船長の判断で退船させよ』という交信直後に、パク・ハンギョル3等航海士を除いた3人と意見を交換した結果、待機させるという結論を出した」とし「パク・ギョンナム操舵手も賛同するような話をした」と述べた》

 無期懲役刑で服役中のイ・ジュンソク船長は航海士に退船命令をしたと主張とも報じられています。しかし、上の証言では航海士たちの話し合いは、海に飛び込んだら『乗客が水に濡れた場合は、低体温症になるかもしれない。海洋警察が来るまで待とう』だったようです。海運会社指令が退船遅れの原因なら賠償責任が発生するのは必至です。

 一方、市民団体などが参加した「真実の力・セウォル号記録チーム」による解明を伝えたハフィントンポストの《韓国・セウォル号沈没事故、船員はなぜ乗客より先に逃げたのか 交信記録で明らかに》は捜査過程で明かされた船員側の本音を伝えています。

 《乗客に脱出を命じれば、船員の脱出は後にならざるを得ないが、事故現場に到着した100トン級の警備艇では、船員を合わせて「500人程度」を救出するのは不可能に見えた。救命いかだもふくらませておらず、操舵室の船員ら10人のうち、救命胴衣を着ているのは3人だけだった。「当時の状況を考えると、もし乗客と乗組員が一度に海に飛び込んだ場合、救命胴衣を着用していなかった乗組員に死者が出る可能性があった」「非常に危険」だし、「死ぬと思うのが妥当」だった。(2014年5月8日、シン・ジョンフンの第6回被疑者尋問調書)》


 上の写真で一番手前の後ろ姿が救助艇のキム・ギョンイル艇長だといいます。今回、確認された写真3枚は《123艇の船長キム・ギョンイルの携帯電話に保存されていたものだ。傾いたセウォル号の船首を眺めるキム・ギョンイルの後ろ姿、船員が操舵室から抜け出す場面、救命いかだをふくらませる海洋警察の姿などだ。123艇の操舵室から撮った写真で、記念写真のようなものだ。傾いた船に飛び移って乗客を脱出させるべき海洋警察が、なぜ写真を撮っていたのか、その写真を何に使ったのかは確認できなかった。キム・ギョンイルは8時49分にセウォル号が傾いてから、10時30分に沈没するまで計101分間、インターネットに8回接続した》

 昨年の第507回「後始末にも後進性、セウォル号沈没の裁判報道」でこの艇長に懲役3年が確定した経緯を書いています。これほど傾いた船を目の前にして呆然と突っ立っているなんて、日本の海上保安官ならあり得ません。まして救助しないでインターネットに接続していたなんて論外です。救助艇からの写真を海洋警察が公開したのは事故から6日後の4月22日で、それ以前にテレビなどが類似の写真をクレジット無しで使っていた記憶があります。ひょっとするとインターネットに接続は撮った写真をアップするためだったかも知れず、この人は何を考えていたんだと言わざるを得ません。


流行のハイレゾ再生、ソフト選択で音質劣化に

 通常可聴範囲を超えた高音域まで再生して臨場感が評判のハイレゾ再生で落とし穴を発見したので報告します。ウインドウズPCで最も使われている再生フリーソフト「foobar2000」では音質劣化が発生しているのです。気付かぬままにこの1年間、使ってきましたが、ソフト側で何の加工もせずに再生するソフトと比べて「くすみ感・にじみ感の付加」や「音場感の狭まり」が観察できました。認識できれば音楽の興を大きく削ぐレベルと言え、使っている方はご一考あるべきです。

 これまでウインドウズパソコンでの音楽再生は、基本ソフトOSに含まれるミキサー部分が音質に気を使わない設計になっていたのが欠点でした。音源ファイルが上質のデジタルデータでも、アナログ音に変え出力する時に汚していました。しかし、Windows Vistaから導入されたWASAPI(Windows Audio Session API:ワサピ)を使う設定にして音の経路を独立させれば、OSに余分な手出しをさせない改善になり問題は解決したと思われていました。


 私がハイレゾ再生に使っているのは上の写真にある、パイオニアのDA変換ヘッドフォンアンプ「U-05」と独ゼンハイザーの最高級ヘッドフォン「HD800」です。購入のハイレゾファイル再生は、ほぼ1年間、プレイリストの管理などが便利なfoobar2000に頼り切っていました。一方、普通のCDからの音楽ファイル再生は以前から使っているフリーソフト「MPC-HC」が中心でした。

 ハイレゾ再生も出来ると知っていたMPC-HCを正月休みにハイレゾ向けにも使い、foobar2000と比較して驚きました。HD800はヘッドフォンとしては異例に広大な音場感が売り物ですが、foobar2000による再生では左右1割ずつ狭くなった印象なのです。音の鮮明度もMPC-HCでの再生に比べて下がっています。くすみ感・にじみ感が少し付いた感じがあり、ジャズのシンバルワークや金管音などの先鋭さがマスクされます。これではハイレゾ向けに買った機器が泣きます。

 時間を掛けて調べていくとfoobar2000の「Preferences:Output」には「WASAPI(event)」「WASAPI(push)」と二つのモードがあり、選択できます。当初は「WASAPI(event)」だったのを「WASAPI(push)」に変更すると、私のパソコンでは音質が改善されて、例えば音場の狭まり方が片側10%減から5%減少になる感じです。「event」と「push」はデータの受け渡し主導権をOS側が持つのか、ソフト側が持つのかの違いと考えれば良いようです。いずれにしてもfoobar2000はデータに何らかの加工をしてワサピに引き渡しています。

 これに対してMPC-HCは無加工でワサピに投げてしまうようです。『パソコンで音楽ならハイレゾよりまずワサピを』で解説してある「MPC-HC Audio Renderer」を出力に設定すると、選択の余地なくワサピが働き出します。音場感が自然で音が伸びやかです。絶対的な音質の良さがあります。

 HD800以外に手元にあるAKG「K712Pro」と古いヘッドフォンのグラド「SR60」でも試しました。音場の広さはHD800ほど広がらないものの「MPC-HC>foobar2000(push)>foobar2000(event)」の音質序列は同じでした。例えば『天上のオルガン』でパイプオルガンの響きがMPC-HCでは眼前から頭上空間全体を覆うのに、foobar2000(event)では箱庭的に縮む感じは、どのヘッドフォンでも分かります。昨年の第460回「ハイレゾ普及が日本人のオーディオ魂に再点火」でも書いたようにSR60は古くて安い機種ながらハイレゾの音が出ますが、今回見つけた音の差はもっと基幹部分に関わるものです。


中国の異様な言論統制、安全弁も根こそぎ圧殺

 中国共産党機関紙・人民日報の編集幹部が「政府は非建設的な批判でも一定程度受け入れるべき」と唱えてネット民に大反響を呼びました。メディアも大学も圧殺する言論統制が進む現実の中、悪い冗談か本音かです。2月14日、人民日報の下にある環球時報、胡錫進編集長が中国版ツイッター・微博につぶやき「新中国の歴史が証明するように、言論の自由は社会の活力と不可分」とまで言っています。言論の自由は中国の憲法に明文規定があるのに、習近平政権になってから4年、思想・言論の統制は厳しくなる一方です。社会的な安全弁になる意見の多様性やオルタナティブな議論など不要とされ、党と政府の言うことを聞く愚民だけいればいい方向に突き進んでいます。以下に引用したのは問題の「つぶやき」画像です。


 中国のメディアにいる記者、新聞10万人、テレビ15万人にマルクス主義の試験を通らないと記者証を更新しないと伝えられたのが2013年10月でした。さらなる記者受難の報道が今年になって重なってきました。

 1月末には時事通信《消される調査報道=記者の逮捕に波紋−「暗部」取材を警戒・中国》が甘粛省で《地元紙の調査報道記者3人が相次ぎ失踪、うち1人が月末に「恐喝」容疑で逮捕されたことが分かり、大きな波紋を呼んでいる。記者は拘束前に「社会の暗部」の取材・報道を続けており、当局から圧力や脅迫を受けていた》と報じています。金と時間が掛かる調査報道自体にも各地メディアで危機が迫ります。

 2月、朝日新聞の《中国の新聞元編集者が失踪 社内規定暴露で当局拘束か》が《「南方都市報」系のニュースサイト元編集者が1月にタイで失踪し、中国の公安当局に拘束されていることが分かった。元編集者は国外で、中国共産党の指示に沿った非公開の社内規定を暴露したため、当局に強制的に連れ戻されたとの見方も出ている》と伝えました。

 このような例は裏側を知らないと理解できません。福島香織さんが《弾圧と低賃金と闘う「中国新聞労働者」の受難》で低い収入の中で多数の記事を書き続けなければならない実態を紹介しています。日本などのメディアと大きな差があり、その上に真実に迫れば冤罪の危険まで加わります。

 かつては政府批判をする先生がごろごろいたはずの大学。2013年5月、マイクロブログで先生のつぶやきから暴露されニュースとして世界を駆け巡ったのが、大学で話してはいけなくなった「七不講」通達です。「普遍的価値」「報道の自由」「市民社会について」「市民の権利について」「中国共産党の歴史的過ちについて」「権貴資産階級(権力者・資産階級)について」「司法の独立について」いずれも語るべからずとされました。

 次いで2015年1月には中国教育相が「欧米の価値観を掲げる教科書を教室に持ち込ませてはならない」とし、「中国共産党の指導力を中傷したり社会主義を汚す見解が大学の教室に持ち込まれることがあってはならない」と語ったといいます。

 そして、今年1月、ロイター《中国当局、大学教授らの「不適切」発言を監視》がこう伝えました。《中国共産党の中央規律検査委員会が、大学の授業中に政策批判などの「不適切な」発言が行われていないかを監視するため、調査官を大学に派遣したことがわかった》《共産党員に対し、主要政策に対する批判的な発言を禁じる規則が1日から施行されたことが背景にあるとみられる》

 最初は「べからず」訓示の形に留まったものの、今年からはお目付け監視役を大学に派遣してがんじがらめにするところまで進んでいます。

 ネットなら言論の自由が生まれるかと思わせた希望もとっくに消え去っています。大規模なネット検閲が実施されているのは公然の秘密です。香港大の研究チームがどんな言葉が検閲・削除対象か、ネットを監視して割り出しています。《中国政府がいま最も恐れているのは、ネット上の「くまのプーさん」》によると、毛沢東に習う個人崇拝にまで進もうとしている習近平主席がらみが目立つようです。

 2015年の検閲《1位に輝いたのは、オープンカーにくまのプーさんが乗るかわいらしいプラスチック製おもちゃの写真》。《クルマに乗ったプーさんの写真がなぜ検閲の対象になったのかというと、実は、中国では習近平国家主席は「くまのプーさん」に似ているとバカにされているからだ》。トップ20のうち習主席がらみが4件だそうです。

 《2位は、8月に起きた天津市の爆発事故についてのポスト。少なくとも173人の死者を出した大規模爆発は政治家や警察を巡る癒着や役人の職権乱用が背景にあるとして大きな批判が噴出した》《3位は天津の事故からすぐ後に、遼寧省鞍山でも小規模な爆破と火事が起き、「鞍山で救助を待つ人はすぐにポストをしろ」と発言されたポスト》

 民衆の不満が政府に向かわないよう細心の注意が払われ、事前に芽を摘むように働いているのです。そして、中国のネット対策は2016年に更に飛躍するとの観測も出ています。

 西本紫乃さんによる《民意と向き合うために中国が進めるSFばりの超監視社会》は「インターネット・プラス」戦略に注目しています。《どうやら中国国内の有力なインターネット企業に資本を集中的に投入してネット市場における支配的な地位を占めさせ、国民生活のさまざまなサービスをそれら企業のIT技術によって提供して、ほぼすべての国民がその中に包括されるようなシステムをつくる》。《個人のデータを国家の一元的な管理のもとに置こうという戦略らしい。どうやら「インターネット・プラス」はITサービスを総動員した国家的な監視システムを作り上げるという巨大な構想のようだ》

 2016年の年明けに流れている情報を集約すると中国が進んでいる道はますます異様に見えます。第505回「中国変調、政治ばかりか経済の民主化も遠のく」で「中進国の罠に陥らずに経済発展するには政治の民主化が必要」と指摘しました。社会に備わった民の力を生かさないで国力発展は無いはずですが、経済民主化ではなく国営大企業へのさらなる集中、南シナ海問題など外交でも周辺国を無視した独善と、傍目にも困るターニングポイントを今年になって回りつつあるのです。


米が小学校にコンピュータ科学導入は女子に効く

 余り話題にならなかった12月のニュース、米国が小学校の科目にコンピュータ科学を導入が気になりました。比較的関心が低い女子へのテコ入れに効果がありそうで米国とのIT教育の格差が更に広がる恐れを感じました。情報教育が高校の必修科目になっているのに成果が出ない日本と違い、米国のほとんどの高校でコンピュータ科学は教えられていなくてもIT人材は分厚いです。ただ、米国でコンピュータ科学を学ぶ大学生は1984年には女子が37%を占めたのに近年は18%に半減しており、小学校からの教育導入に目覚まし効果があるとすると男子より女子の人材育成に効きそうです。

 ウォールストリートジャーナルの《米国でコンピューター科学が小学校の科目に?》はこう報じました。《米国の教育制度に関わる超党派の法案が10日、オバマ米大統領による署名を経て法律として成立した》《コンピューターサイエンスが算数・数学や英語(国語)と同じくらい重要な科目として位置づけられた》

 事情はこうです。《労働市場では技術をもったプログラマーの需要が増えている一方、供給が追いついていないのが現状だ。コード・ドット・オーグによると、全米でコンピューター関連の求人は60万件超ある。だが、コンピューターサイエンスの学位を持って就職した人は昨年、わずか3万8175人だった》

 女子学生の関心低下については《米国でコンピュータを学ぶ女子学生の比率が激減》が原因を伝えています。

 《パソコンが一般家庭に普及し始めたのが1984〜85年ごろだったことが背景にあるのではないかという。コンピュータにはまってゲームなどを仲間とするのは専ら男子となり、「コンピュータは男の子のおもちゃ」という認識が広がり、親も専ら男の子にコンピュータを買い与えた。その結果、大学入学時点では、男子と女子の間でコンピュータになじみ使いこなすスキルの差が生じたことが影響している》

 IT教育に熱心なワシントン大学についてのニュースで、昨年、コンピュータ科学の学士号を取得した人の30%が女性で、全米平均の2倍だったとありました。グーグルが社員の男女比を公表しており、IT企業として名高い同社でも女性は3割に留まる傾向にあります。米国にして男女差は大きいのです。日本はOECD諸国の中で理系女子大学生の比率が最低クラスであり、女性人材が少ないのは言うまでもありません。

 国内でもIT人材不足は深刻になっており、2013年閣議決定の「日本再興戦略21」で「義務教育段階からのプログラミング教育等のIT教育を推進」がうたわれています。しかし、拙稿第483回「日本のパソコン技能がOECD最低報道の誤解」でも取り上げたように、高校の情報教育がうまくいかないのも上手に教えられる人材に乏しいからと考えています。小中学校に持ち込むとしたら、同じ問題が発生します。また、欧米には存在せず、国内で大きなパソコン無縁層問題も影を落としています。


後始末にも後進性、セウォル号沈没の裁判報道

 300人を超す犠牲者の韓国セウォル号沈没事故、今月、韓国最高裁で船長に無期懲役、救助にあたった海洋警察艇長に懲役3年の刑が確定しました。その報道ぶりに司法もメディアも合わせた韓国の後進性が露わです。もし日本国内で起きたとしたら、乗客を見捨てた殺人罪で無期懲役の船長への非難もさることながら、積極的に救助しなかった海上保安官(海洋警察に相当)への批判は大変な厳しさになるでしょう。国家公務員への業務上過失致死罪が確定した重大性に韓国メディアは気付いていません。第477回「安全になれぬ韓国、手抜き勝手の国民意識が原因」で描いた構図を自覚できないからです。


 朝鮮日報が報じた事故現場の写真を引用しました。これほど傾いた旅客船に左の救助艇が到着していて、行動すべき艇員は思案投げ首の態です。赤い破線の所で艇員が一人だけ救命ボートの点検をしていますが、定期的に定められたボート展開をせずに塗装だけ塗り重ねた結果、開かなくなっており役に立ちませんでした。懲役3年の艇長が指揮を取っていました。この写真の時点でも乗客に退船を指示していれば全員が助かったとの判断が専門家から出されています。

 懲役3年確定はWoW!Koreaの《セウォル号“いい加減な”救助の海洋警察前艇長に懲役3年》だけが日本語での報道で、朝鮮日報などの日本語版は伝えていません。最高裁までの経過はこうです。

 《キム前艇長はセウォル号事故現場で救助指揮官として船内の乗客状況を確認及び乗客退船誘導措置、セウォル号との交信などの初期救助業務をおろそかにし、多数の乗客を被害に遭わせた容疑で起訴された》

 《1審では「現場指揮官として救助措置を履行していたならば、一部の乗客が船外に出てきて生存していた可能性がある」とし、懲役4年を宣告した。2審では、キム前艇長の責任を認めながらも「大型事故に関する訓練もまともに受けていないキム前艇長に全ての責任を負わせるのは過酷だ」として懲役3年に減刑された》

 検察が起訴を逡巡した状況は第447回「セウォル号沈没での不作為なければ全員助かった」で描きました。第464回「セウォル号救助失敗に国家の罪を認める判決」では、1審の地裁判決が艇長の過失による犠牲者数を56人に限定し、公務員犯罪が国家賠償につながりにくいようにした司法の後進性を伝えました。2審判決はさらに責任を薄めていると読めます。

 第477回「安全になれぬ韓国、手抜き勝手の国民意識が原因」で指摘したように、韓国民には法やルールは他人に守らせるもので、自分は自分で判断するとの個人本位の人治意識があるようです。法やルールにがちがちに拘束されているはずの公務員の業務上過失致死もありがちなことと見えているのでしょう。メディアも含めて、これに真剣に怒り、断罪していく姿勢を見せないようでは、今後も韓国社会に法治国家への変化は起きないでしょう。


天津爆発、中国の安全管理は文明国レベルにない

 12日に天津で起きた大爆発事故は中国の安全管理が消防技術、社会制度、モラル崩壊、いずれも文明国レベルに達せずと見せつけました。暴露された体質の悪さから同様の危険が地雷原のように全土に拡散と思わせます。これまで原発や環境問題でウオッチしてきた以上に酷く、改善に向かって自律的に進むとは思えません。新聞記者をした経験で言えば漏れ伝わる実態は、早々にニュースになっているべきスキャンダルであり、言論の自由、取材と報道の自由が無い国に正常な発展はあり得ません。ところが、爆発事故当初にまず中国指導部がとった措置は国営通信社へのニュース発信一本化による報道統制でした。

 TNT火薬にして3トン分くらいの爆発がまずあり、30秒後にTNT火薬21トン分の大爆発があったとされています。現場には直径100メートルの大穴が開いています。現場の危険物倉庫にどんな薬品がどれくらいあったか、事故1週間たってようやく伝え始められました。

 人民網日本語版の20日付《天津爆発、危険化学物質の種類と量が公表 約40種類・2500トン》によると《危険化学物質は大きく3つに分けられる。1つ目は酸化物(硝酸アンモニウム、硝酸カリウム)で、計約1300トン。2つ目は可燃物(主に金属ナトリウムおよびマグネシウム)で、計約500トン。3つ目はシアン化ナトリウムを中心とする猛毒で、約700トン》です。

 青酸ソーダとも呼ぶ猛毒シアン化ナトリウムについては許可貯蔵量の30倍以上と言われ、水が掛かれば爆発的に発火する金属ナトリウムや、爆薬の原料になり210度で爆発する硝酸アンモニウムにしてもこれほど大量に貯蔵しておくとは信じられません。倉庫会社の幹部役員が元・天津港公安局長の息子であり、コネで許可を得ていたとの証言が出ています。法律で住宅地区から1キロ以内には建設不可のはずが、マンション群から600メートル近くに造られました。

 人民解放軍の化学防護部隊が18日から散乱しているコンテナや容器をしらみつぶしにあたり、金属ナトリウムが入っているかどうか分別にかかっています。金属ナトリウムは遠く住宅地区まで飛んでいったようで、雨がかかると煙が出る白い粉があるとの訴えが住民多数から出ています。1万7000戸に及ぶ住宅損壊の問題はこれからです。

 最初の爆発は何らかの火災への消火放水が金属ナトリウムに掛かって起き、それによる高温が硝酸アンモニウムを大爆発させたと見てよいでしょう。化学薬品がある場所に消防士が安易に放水してしまうなんてと不審に思えますが、中国の消防士を日本のプロフェッショナル消防士と一緒にしてはいけません。

 福島香織さんの《プロの消防士がいない中国〜天津化学薬品倉庫爆発事故、悲劇の必然》が消防士研修は3カ月しかなく、《主力の公安消防隊は、解放軍傘下の武警消防隊を通じて徴用される「消防新兵」と呼ばれる兵士たちである。彼らは2年の任期でほとんど義務兵役のような形で配属される。このため、ベテラン消防士というのはほとんど存在せず、その多くが20〜28歳で、その経験不足から死傷率が高い》と中国消防士の実情を伝えています。

 しかも、このレベルの消防士ですら圧倒的に不足しているのです。今度の事故で180人を超えている死者・行方不明者の大部分が「非正規」の消防団員だったと伝えられて、政府も正規消防士と同じく「烈士」として扱うと言い出しました。千人を超す消防士が出動したと言われますが、危険な化学火災に対して、とてもお寒い内情だったようです。

 では端緒の火災はどうして起きたか、示唆的な報道があります。レコードチャイナの《<天津爆発>危険物質の利益率は40%、コスト削減のため業者が管理規定守らず―中国メディア》が業者による、とんでもない規則無視と違反を報じています。

 《天津は危険化学物質の輸出港として中国北部最大規模を誇り、その生産、輸送、保管に関しては厳格な規定が定められている。専用の車両、人員、路線、確認作業が定められ、多大なコストがかかるが、物流企業と生産企業が結託し、普通貨物として取り扱うことでコストを圧縮している。港湾付近の道路は各種の車両で混雑し、危険物質が積載された車もその中に混じっており、本来ならば積み降ろしにも厳格な規定がある。「時限爆弾を抱えて走っているようなもの」と匿名の専門家は指摘する》

 拝金主義が蔓延した結果、重大なモラル崩壊が起きています。それを止める力が日常的な利益供与を受けている共産党幹部にあろうはずがありません。一番の早道は報道の自由化によるメディアと国民の大衆的監視強化ですが、党指導部にはその気はありません。むしろ報道締め付けによる批判の封じ込め、共産党独善の道を走っています。

 中国原発については第419回「新型炉ばかりの中国原発、安全確保に大きな不安」などで、大気汚染など環境問題では第439回「中国の大気汚染、改善遅く改革に絶望的閉鎖性」などで論じてきました。中国政府は天津爆発は特異事例として逃げる方針のようですが、むしろ社会制度やモラルまで含めた安全システム構築失敗が凝縮された典型例のように見えます。


TPP大詰め報道と中身が議論できない不条理

 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の閣僚会合が最終決着一歩前で終わりました。月内にも最後の会合を開くといいます。決着することが善とする報道が目立ち、問題点が議論できないもどかしさが山積する一方です。安全保障関連法案といい、有権者は安倍政権に何をしても良いと丸投げしたつもりはありません。交渉の経過、問題点を開示すべきなのに、例えば著作権条項についてなら現行の保護期間50年から70年への延長や非親告罪化が既に合意されたと漏れ伝えられるだけです。きちんと異を唱えないマスメディアの姿勢は異様で、最終決着が延びた機会を捉えて広く議論すべきです。

 7月下旬には「TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム」が改めて緊急声明と110団体・3637人の賛同署名を内閣府TPP政府対策本部に提出しました。INTERNET Watch《TPP著作権条項への反対署名、コミケや二次創作への萎縮効果を懸念》で詳しく伝えられています。

 《TPPにおける著作権など知的財産権の条項について、各国の利害対立の大きい知財条項を妥結案から除外し、海賊版対策のような異論の少ない分野に絞ることや、条項案を含む情報公開を求める緊急声明》です。「日本の文化・社会にとって重要な決定が国民不在の密室の中で行われ、21分野一体のため事実上拒否できない妥結案だけが国民に提示される事態を、深く憂慮する」と主張されています。

 著作権消滅作品の電子テキスト化に取り組んでいる青空文庫の《TPPによる著作権保護期間延長が行われた場合の青空文庫の対応》(2014年09月15日)を見てみましょう。

 《70年への延長が今年の年内に起ったとする。来年年頭、再来年年頭から公開可能になる作家(三好達治、江戸川乱歩など)の作業受付を停止する。来年年頭から公開可能な作家は2035年年頭から、再来年年頭から公開可能な作家は2036年年頭から公開可能になるからだ。現在、進行中の作業は一時、取りやめにすることになる。遡及されなかった場合には、現在公開しているファイルに変化はない。ただ、今後20年新規作家の追加は起らないことになる》――これだけでも無視できない影響があります。

 日本の著作権法はガチガチの制約を課す法体系であり、米国流のフェアユースを認めるような柔軟さがありません。米国のNPO「Internet Archive」が世界中のウェブを蓄積しているのに、日本では公的機関が国内分ウェブだけ蓄積を検討して無理とした判断した例が端的です。第483回「日本のパソコン技能がOECD最低報道の誤解」の《ネット活用オリエンテーション》にあげた「消えてしまったホームページの検索」のように柔軟に使いこなすどころか、より強化された法律で縛り上げて国内サブカルチャーの豊かささえ犠牲にしてしまう恐れ大です。


人間の顔をしていない中国当局の転覆事故管理

 中国の大型客船「東方之星」転覆事故で最後の行方不明者発見後に、生存者の数が14人から12人に減らされる珍事が起きました。事故被害者を数として見て名前で管理せずでは本当に捜索が完了したのかも疑問です。中国当局はなぜこんな不始末になったのか明確な説明をせず、信頼が失われた点に気付きません。地元メディアに一切取材させず、捜索隊が頑張っているニュースばかり流す一方、事故から1週間を経過してようやく遺族と遺体を対面させるなど、人間の顔をしていない事故管理は、2011年の高速鉄道事故と比べられます。

 生存者が減った原因は新華社による「多くの捜索ユニットや救助部隊からデータを集約するときに重複が起きた」という木で鼻をくくった説明があるだけです。生存14人とされた段階で名前が伝えられたのは船長を含む船員5人と乗客3人、旅行ガイド1人の9人だけでした。12人に減った時点で残り5人の名前不詳生存者が3人に減ったのです。当局がこんな僅かな数の人間を名前で把握していない国があるでしょうか。

 船会社の調査で乗客と乗員の数が456人から454人になって数合わせをすると、捜索で発見した遺体数442人が多すぎる――だから生存者の方を2人減らすと言われたら、捜索活動全体がきちんと実行されたのか疑って当たり前です。しかし、生存者や家族へのメディア取材を一切認めない中国当局には何も表面化させない自信があるのでしょう。

 ウォールストリートジャーナルの《中国客船転覆、生存者数訂正で政府の透明性に疑問》が中国ネットでの不信感を伝えています。《政府の集計を疑問視する投稿は数百件に上り、ある利用者は「私の3歳の息子でも20まで数を数えられる」と書き込んだ》《災害後の混乱時には正確な数字の入手は困難だとして、数字の矛盾を擁護する声も上がった。一方、生存者数の数え間違いがどうやって起きたかについて中央テレビが説明しなかったことに疑問の声も上がっている》

 中国政府に批判的な大紀元の《長江転覆事故、当局奮闘記の讃歌へ 世界を欺く中国のプロパガンダ》がこう伝えました。《政府系マスコミの宣伝は、救助の結果とのコントラストを鮮明に浮かび上がらせている。あらゆる報道は与党への讃歌となり、煽情的内容が記事のタイトルから始まる。たとえば、「中国人に生まれてなんと幸せ!」(国営新華社通信のニュースサイト・新華網)、「救助現場、最もハンサムな男たちがここにいるよ」(中国共産党機関紙・人民日報)、「世界は客船転覆事故で中国の決心が分かる」(人民日報の国際版・環球時報)》

 こんな「自己陶酔」をしていたら事故収束の最終段階で生存者数を減らす自己欺瞞に思いを致すこともないでしょう。2011年の第271回「高速鉄道大事故でも運行停止しない中国政府」で事故原因が分からないのに運転を続行した問題点を指摘しました。これは後日の『中国高速鉄道事故、システム本質欠陥を発見できずか』で「日本などから導入、継ぎ接ぎしたシステムの本質的な欠陥を発見できなかったから、苦し紛れに人為的ミスに持ち込んだと見るべきでしょう」とフォローしています。高速鉄道事故での事故車両埋め込みと言い、普通の国ではあり得ない事故への対処、事故現場の管理は依然として改まっていません。


安全になれぬ韓国、手抜き勝手の国民意識が原因

 法治国家に対し人治国家とは時の政権が恣意的に法律解釈を変えるような状態を言います。韓国の場合は法やルールに従うかどうか誰もが勝手に判断している「5000万総人治」であり、安全になれる方が不思議と言えます。300人を超える犠牲を出したセウォル号沈没を機に韓国ウオッチを1年間、続けて得た結論です。まず、事故当初、沈没前の助けられるのに助けなかった惨状をご覧ください。


 昨年4月16日に事故があって22日に海洋警察が公開した現場写真です。これだけ傾いているのに乗客は船室待機です。救助に来た海洋警察官の無為ぶりを映し出しているので、この直後に逃げ出した船員ばかり非難していた朝鮮日報などを『沈没報道の韓国メディア、海洋警察の劣悪さ無視』と厳しく指弾しました。その後、法廷で海難専門家は写真のタイミングでも放送などで「甲板へ脱出」と指示さえすれば乗客全員助かったのではないかと証言しています。

 日本の海上保安官が船体が傾いた現場に来て思案投げ首をしている失態はあり得ません。さらに沈没後も船内突入救助がなかなか出来ません。ところが、当時の朝鮮日報《旅客船沈没:大統領の叱責恐れもたつく官僚》はこう伝えました。

 《政府や与党の関係者は「今回のセウォル号沈没事故で、専門性を備えた公務員が現場で積極的に動けずにいるのは『過ちを犯せば自分が全ての責任を負わされる』と恐れているためだ」》《「公務員は『自分ばかりが出て行って過ちを犯せば、責任を負わされる』と考えているため消極的だ。事態が終息したら誰も責任を取らない、ということを経験的に知っている」と語った》

 皆が決められたルールを守り、守らなければ罰せられる法治国家なら、他の人も最低限ここまではやってくれるはずと目処が付けられます。他の人がしている仕事の上に自分の職分をそれぞれ積み上げていくから、社会全体として機能できます。韓国社会ではそう働かないと端的に示したのが、沈没事故から半月余りで起きたソウル地下鉄追突事故です。

 正常な状態ならトラブルで止まっていた先行列車の後ろは停止の「赤」、「赤」の次は「赤」になっていて、一つ前で自動列車停止装置ATSが働くから後続列車は安全に停止できます。赤信号の次は最低でも注意の「黄」か「赤」でなければならないのは世界共通の信号ルールです。ところが、ソウル地下鉄事故では「赤」の次が「青」になる間違った設定がされてしまい、しかも毎日、信号を点検しているのに4日間も発見されずに事故に至りました。信号の状況図は『韓国で列車に乗るな:信号機の世界共通則を破る』で参照してください。

 この設定間違いと4日間の点検に何人が関与しているのか明らかでないが、少なくとも1人や2人であるはずがありません。プロの鉄道関係者である何人か何十人かが自分の職分をいい加減にして恥じない国が安全に運営されるはずがないと申し上げます。『奇怪な韓国の闇、民衆は達観する「愚政府・愚役人」』で取り上げたように検察、警察はじめ役人の能力も酷い国です。

 セウォル号事故1年を機に書かれた韓国大手メディアの社説を読んで、これまでに指摘した国民に蔓延する手抜き癖、それによる構造的な欠陥がお分かりでないと思えました。

 朝鮮日報の《【社説】無為に過ぎたセウォル号沈没事故1年》は単純に安全意識を問題にします。地下鉄以外にも続く事故の連続に《韓国での人命軽視を目の当たりにすると、依然として後進国から脱せられていないとの挫折感がわき上がってくる》《結局、韓国人はこの1年間を無駄に過ごしたことになる。大統領は国の枠組みを変えなければならないとして「国家改造」を叫んだが、響き渡ることのないまま口先だけになってしまった。海洋警察庁解体後、新たに発足した国民安全処(省庁の一つ)が社会の安全水準を引き上げるのにどれだけ貢献しているのか、我々国民にはよく分からない》

 一方、中央日報は共感能力の低さを問いました。《【社説】セウォル号から1年…いまだに何も変わっていなかった》は、安全度は変わっていないとする世論調査結果を紹介し、《マンネリズムに陥ったリーダーシップは行政府組織を変えただけ、無能と惰性は変わらなかった》と嘆きます。

 さらに言います。《韓国社会の「共感能力」は低かった。アダム・スミスは『道徳感情論』で社会を支える柱としての定義を「共感」といった。共感は他人に対する憐憫を感じる程度ではなく、相手の立場になってその感情を自分のことのように感じられる能力をいう。個人の生活でも公的活動でも、いくら理性的判断をしなければならない時でも共感を土台にした道徳的判断が発揮されてこそ社会が正常に回っていけるということだ。犠牲者と家族の悲しみに共感し、共に傷を癒そうと努力するのが真の市民精神だ》

 韓国社会は適切な判断が出来る賢者ばかりの集合体であると考え違いをしていませんか。むしろ、日々の生活に追われている個々の国民に賢者の役割を求めるから、ルールからの恣意的な逸脱が起きると見ます。ネットで流れる韓国民のニュースコメントを読んでいると、一般の国民が法律の内容を独自に評価し、従うかどうか勝手に決めている感が強いのです。法やルールは、まず額面通りきちんと実行して、問題ありと考えるなら後から異議申立てをすれば良いはずです。個人判断でされた勝手な手抜きがどこに潜んでいるか知れない社会など、危なくて付き合っていられません。


親サイトに特集「サクラ点描2015 彦根・大阪」

 親サイト「インターネットで読み解く!」に《特集「サクラ点描2015 彦根・大阪」》(2015/04/05)を掲示しています。写真のサイズが大きくて、このウェブでの制限と合いません。満開の国宝・彦根城などを訪れて撮りました。関心がある方はご覧ください。

閉鎖されて判ったソニー音楽配信サイトの功罪

 月額980円で聴き放題だったソニー音楽配信サイト「ミュージックアンリミテッド」が3月30日で閉鎖されました。2年間どっぷり利用だったので喪失への対策をせざるを得ず、その結果として意外な発見もしました。類似の配信サイトは存在しますが、2500万曲という規模は比べものになりません。ブログで「気に入ったレアな楽曲をレンタルCD屋などどこにも見つけられないだろう」と嘆いている方がいらっしゃいます。一度、聴いて気に入ってしまった以上、もう永遠に聞けなくなると思うと辛いのです。

 1月に閉鎖が公表された際、第462回「PCオーディオ生活を困惑させる日本市場障壁」で《今回の「背信」は痛いと申し上げます》と書きました。同じ思いを《Sony Music Unlimitedが終了》が実際の閉鎖経験を通してこう書いています。

 《短い期間ではあったものの、いかに音楽環境を同サービスに依存していたかがわかります。その点については素直にありがとう、と言いたいです。まぎれもなく私の生活の一部を形成してました。それが、あっけなく失われるとは》《今、他のネットサービスの終了ではちょっと味わったことのない喪失感を感じています。正直、自分でもそこまで影響はないと思っていましたし、他に利用している定額制サービス(huluやdマガジン)が終了しても、おそらくここまでの喪失感は感じないんじゃないかと思います。やっぱり音楽ってすごいわ》《ソニーさん、いろいろ事情はあったんろうけど、やっぱりこれ、やっちゃいけないことだったんじゃないかなぁ、と思うよ。音楽をライフスタイルに組み込んで、その質を向上させよう、っていうのはソニーさんが永らくテーマとして追求してきたことなんじゃないの?》


 閉鎖公表以降、レンタルで借りたCDは100枚以上、買ったのは廉価なボックス物を中心に50枚以上になりました。こうなったのは2月に上の写真、独ゼンハイザーの最高級ヘッドフォン「HD800」を買い、音楽配信サイトが提供できる「音質」にも目を開かされたからです。HD800の再生では音が立ち上がるのも消えるのも極めて俊敏で、別の音に隠されたり着色されたりしなくなります。HD800で聴くと配信サイトそのままでも、これまで聞けなかった音が色々と耳に入って驚かされます。喪失対策として本物のCDを入手して聴くと、新発見がさらに増えるのです。配信サイト提供のビットレートは320kbps程度ですが、CDは600kbps以上、1000kbps前後が当たり前です。この差は知っておくべきでした。

 細かな音に耳を傾けることが多いクラッシクやジャズではなく、エレキサウンドのベンチャーズで最初に認識しました。細かなテクニックや音作りで知られているベンチャーズCDを軽い気持ちで借りてきて配信サイトと比べました。そこで、気に入った音楽ならばオリジナルCDを持つか、借りて可逆圧縮でコピーせざるを得ないと感じました。気に入っていればこそ見過ごせない「差」が存在していると言えます。

 とは言え配信サイトの膨大多彩な曲目は魅力です。聴いたことがないCDを買うには勇気が必要です。閉鎖前日の29日から気になっていたのに聞いていない楽曲を重点的に聞きました。閉鎖数時間前に聴いたポリーニとアバドのバルトーク・ピアノ協奏曲は本当に天才同士の火花が散っている演奏で、直ちに注文しました。今度のドタバタが無ければ一生、聞き逃していたと思うともったいなさ過ぎる、あまりに秀逸な音楽です。

 こういう事情ですから、もしミュージックアンリミテッドが復活しても、これまでのような依存にはならないでしょう。膨大な音楽ソースへの玄関口として使うことになるでしょう。それにしても、何気なく流していたジャンル別の音楽チャンネルで貴重な楽曲との出会いを何度もしました。もともと歌謡曲から民族音楽まで幅広かった聞く音楽の範囲がもっともっと広がりました。ユパンキなどラテン音楽にも惹かれるようになっていたのですが、残念なことにレアな音源が多くて自前での入手は不可能です。


閣議決定の少子化社会対策大綱は甚だしい見当違い

 20日に閣議決定の少子化社会対策大綱。初めて結婚の問題まで踏み込んだそうですが、若者に一方的に自立、結婚、出産を説教しているだけです。非正規の就職が半分にもなる現状を頬かむりした甚だしい見当違いです。第384回「結婚も離婚後も危うい非正規雇用の給与格差」で紹介した年収の落差《正規職男性520万円、非正規職男性225万円》を直視しないで少子化対策を論じても無意味です。

 内閣府の「少子化社会対策大綱(案)」には『若者の自立が難しくなっている状況を変えていく。』とあって、こうです。《若者が、自己実現や社会への参画を目指しながら、自己の選択として、職業や結婚、出産、子育てを自らの人生において積極的に位置付けていくことは、自立した社会人となる上で非常に大切なことである。しかし、近年それを阻む要因として、若年失業者やいわゆるフリーターの増大など、若者が社会的に自立することが難しい社会経済状況がある》

 だから《早い頃からの職業意識の醸成のための教育や、教育と雇用との間で連携の取れたキャリア形成を支援することなどにより、若年失業の流れを転換してゆくことが求められている》とするのですが、ちゃんと就職しても非正規では結婚するに足る収入が得られない現実を伏せています。まるで若者の自覚の無さが少子化問題の核心であるかのようです。雇用の流動化を進めて、働く者に更に不利な状況を作りつつある安倍政権らしい少子化対策と申し上げます。

 これでは第368回「生涯未婚率は男35%、女27%にも:少子化対策無力」 で国勢調査を使って予測した、現在30代以下の若者世代で生涯未婚率が跳ね上がっていく恐るべき未来に全く無力でしょう。育児休業を取得しやすい環境づくり「イクメン奨励」など育児問題の改善は意味はありますが、結婚できる状況になって初めて効いてくる施策です。大企業で大幅賃上げのニュースが流れて沸いていますが、非正規職にはあまり恩恵はないでしょう。

 報道するマスメディアに政府施策を批判できる視点が無い点は、いつものことながら残念です。


セウォル号救助失敗に国家の罪を認める判決

 300人を超える犠牲者を出した韓国・セウォル号沈没事故で海洋警察の救助艇長に懲役4年の実刑判決が出されました。一線の国家公務員に大きな過失があったと認定、政府は民事上の損害賠償も迫られる見込みです。現場に到着しながら乗客の退船を誘導しない業務上過失致死と、していない退船放送を実施と艦艇日誌を改ざんした虚偽公文書作成の罪です。漫然としている救助艇員が写っている当時の現場写真(朝鮮日報掲載)を以下に引用します。


 4年の実刑判決が妥当かは議論があるところでしょう。乗客に退船指示をしないで逃げ出した船長には36年の懲役、幹部船員に15〜30年、運航担当船員に5〜10年の実刑判決が出されています。中央日報は、船員たちより艇長の過失が重いとは言えないとの量刑判断があったと伝えています。

 しかし、昨年9月の第447回「セウォル号沈没での不作為なければ全員助かった」で法廷で防災の専門家が乗客は全員脱出可能だったと証言していると伝えました。上の写真にある状態からしばらく経過して、左手に見える操舵室から船員が飛び出して来ますが、その時点でも退船指示を実施していれば10分以内に乗客は全員が抜け出せたというのです。

 写真で唯一甲板に上がっている救助艇員(破線の円内)は救命ボートが作動するか確認に行っていますが、ペンキの重ね塗りで開きません。救助艇の舳先では艇員4人が思案投げ首の風です。日本の海上保安官に当たる海難救助の第一線として、これほど船体が傾いたら直ちに乗船して乗客は甲板に出よと呼びかけるのが当然と考えられます。船員に事情を聴いている段階ではなく、海難専門家として動くべきなのは明白です。

 ハンギョレ新聞の《光州地裁「123警備艇長が退船を誘導していれば56人は脱出できた」》が裁判所側の微妙な判断ぶりを報じています。《裁判所はキム前艇長の業務上過失と被害者たちの死亡の間の因果関係を部分的にのみ認めた》《裁判所は123艇が退船命令と退船誘導措置を行った場合、「セウォル号4階船尾の3個の船室にいた乗客56人は脱出できた」と見た。 光州地方裁判所関係者は「残りの乗客は当時退船放送が聞こえなかったり、たとえ退船放送が聞こえたとしても脱出が容易でない状況だったと見た」と説明した》

 救助艇長への業務上過失致死罪適用に当初は法務省が反対した経緯も伝えていて、国家賠償につながると嫌がったといいます。救助可能性を極めて限定した裁判所判断もこれに連動しているかも知れません。司法の独立性が疑われている韓国らしい、お寒い内情に見えます。『奇怪な韓国の闇、民衆は達観する「愚政府・愚役人」』で国家としていかがなものかと思える周辺事情を追及しています。


PCオーディオ生活を困惑させる日本市場障壁

 ソニーが定額制音楽配信サービス「Music Unlimited」の3月終了を発表しました。PCオーディオ生活の多くを依存していた私に困惑の事態です。代替のサービスが日本だけは準備出来ていないからです。「KKBOX」や「レコチョクBest」といった聴き放題サービスも出来たものの、多種多様な音楽を聞くには2500万曲以上を備えるソニーのサービスが圧倒的に便利でした。ソニーは音楽配信分野で世界を席巻しつつある「Spotify」と提携して、41カ国で立ち上げる新音楽サービス「PlayStation Music」に移行するのですが、日本音楽市場の障壁がSpotify上陸を許しそうにない感じです。

 スウェーデン発のSpotifyがいよいよ日本に来るとの噂は再三流れていました。実現しない原因は、CD販売がいまだに音楽売上の主柱になっている日本市場の特殊さにあります。音楽配信の拡大がCD売上に影響するのを国内の音楽メーカーは恐れているために有料配信は認めても、無料配信の部分があるSpotifyには拒絶反応が出るのです。タダで音楽が聞けるならCDまでは買わなくなるだろうとの心配です。

 この2年間、月額980円での定額制音楽配信を利用していて、手元にCDを持っていないジャンルにも愛聴できる曲をたくさん発見しました。アルバム全体を仮想のライブラリーに加えたり、マイプレイリストとして曲名を保存しています。ところが、ソニーのサービス終了で一切が消えてしまうことになります。ネットの音楽配信はパソコン上でのコピーをさせないシステムです。これからはネット配信で9割方は間に合うと思っていたのに、是非残したい曲はCDを探さねばならないはめになりました。探しても見つからない可能性も高いでしょう。

 2013年春の『定額音楽配信サービスで音楽産業は持ち直すか』でようやく国内も本格的な配信サービスが出来たと歓迎したのに、今回の「背信」は痛いと申し上げます。世界的にはCDは売れなくなっており、新譜の発売も減っています。再発売アルバムが大きな商売になる日本は極めて特殊な市場です。ネット配信をきちんと育てていかねばならない時期に、消費者に痛手を与える事態は残念です。国内の音楽業界も遅かれ早かれネット配信が主軸になる時代が来ると覚悟して、協調するべきではなかったでしょうか。ソニーは日本市場についても準備でき次第アナウンスするとは言っていますが。

 【参照】第460回「ハイレゾ普及が日本人のオーディオ魂に再点火」で最近のPCオーディオ事情に触れています。


ハイレゾ普及が日本人のオーディオ魂に再点火

 CDでの音楽再生に物足りない愛好家向けのハイレゾ機器・音源の販売普及に火が点いたようです。かつてのオーディオブーム時代、世界の先端でお金を惜しまなかった日本人のマニア魂と共鳴しているように見えます。私も長い間、間に合わせのPCオーディオでそこそこの音質で聴いてきました。昨年秋に数万円でも目覚ましい音質の機器を手に入れ、もう一度、本格的な趣味に出来る感触を得ました。遮音性が低いマンション住まいですからスピーカを諦めて、高級ヘッドフォンに頼る使い方でもいいかと考えています。ちなみにハイレゾ音楽ソフト購入者の半分は40〜50代だそうです。


 取り敢えず入手したのが上の写真左側にある、パソコンに接続するパイオニアのヘッドフォンアンプ「U-05」とオーストリアAKGのヘッドフォン「K712Pro」です。パソコンとUSB接続するアンプで良質な製品は従来は20万円とかとんでもない値段がしていたのに、パイオニアやマランツなどから実売数万円で高性能な製品が出てきたのが大きかったと思います。私は2、3万円クラスのアンプでPCオーディオだからこんな程度の音質だろうと我慢していました。ハイレゾソフトを聴く以前に、買い替えたアンプの品位が格段に違い、昔、本格的なスピーカで楽しんでいた時代の音が蘇りました。当時の重量級プリメインアンプの音です。

 最も長く使ったスピーカはテクニクス製の大型3ウエイブックシェルフでした。やや軽い音質の「K712Pro」はケーブルをノイマン社製に付け替えたところ、テクニクススピーカを思わせるどっしりしたモニター調に変わりました。また、自分で設計したバックロードホーンスピーカが今でも印象鮮烈で、20センチコーン型スピーカは見た目はぴくりとも動かないのに顔面をひっぱたく音圧が出ました。新しいアンプで駆動したアメリカGRADOのヘッドフォン「SR60」がバックロードホーンによるバスドラムの音圧を思い出させてくれたのが驚きでした。アンプのドライブ力の違いで以前は全く駄目でした。

 もうひとつ長く使ったスピーカにビクターのソフトドームツイータによる銘器「SX3」があります。これまでメインのヘッドフォン、独ゼンハイザー「HD595」のウェットな音調が似ていました。アンプを替えて音質は向上しましたが、残念ながらハイレゾの超高音域は再生できないように感じます。健康診断聴力検査で少なくとも16KHzまでフラットに聴けると確認しています。「SR60」はドライな音調から想像できたように安い機種ながらハイレゾの音が出ます。

 ハイレゾ音楽ソフトを購入、パソコンに入れて色々と試してみました。LPレコード時代を思い出す瞬間が多々あります。ハイレゾに買い替えるべきソフトはまだ多くないので、「U-05」の192KHzオーバーサンプリングを常時オンにして聴いています。「CDの音楽はオーバーサンプリングしないで聞くのが自然だ」との意見を多数、ネットで見ましたが、長い間、CDに耳を毒された結果でしょう。一聴して私は昔、愛用したMC型カートリッジの高音域を思い出しました。CD音質のままでは鼻詰まりのように聞こえます。

 さてこれからどう進むか、独ゼンハイザー「HD700」の高域は店頭で聞くと素晴らしいものでしたし、長く故障したままになっているSTAXのコンデンサー型イヤスピーカも見直したいと思います。独ベイヤーダイナミック製品なども真剣に試聴したいと考えています。本格的に試したい領域が広がっています。

 なお、これから取り組まれる方、昨年の第417回「PCオーディオのワサピ化とタブレットで良い音」にあるようにウインドウズPCではワサピ化が大前提です。ハイレゾ音楽ソフトでもウインドウズのミキサーを通したら散々な音になってしまいます。ブルーレイ用の再生ソフトなどもワサピ化しておくとテレビ番組や音楽ビデオソフトがぐっと高音質再生になります。


中央情報癒着を無視して朝日新聞の再生は無い

 誤報問題で揺れる朝日新聞が社長以下の役員人事を一新しました。本当に再生できるのか、それは表面的な誤報問題ではなく、朝日に限らぬ中央官庁からのリークを情報源にしてきた情報癒着体質打破であると指摘します。最初にお断りして置かねばなりませんが、私は朝日新聞記者OBです。しかし、事情があって退社するまでの13年間はネット上の評論活動に半身を移して過ごし、朝日を含めた日本のマスメディアに厳しい批判を繰り返してきました。誤報を自浄できないのは中央官庁に依存すれば記事が書ける在京マスメディアの安易な体質に端を発しています。自己検証しないで記事を流す習慣を悪と感じないどころか、霞ヶ関が情報源と鼻高々なのです。東日本大震災と福島原発事故で中央官庁がいかに無力か明白になったのに、在京マスメディアはそろって「大本営発表報道」に先祖返りし、情報を自分で検証する能力の無さを天下に晒して恥じるところがありませんでした。第282回「原発震災報道でマスメディア側の検証は拙劣」で具体的に書いています。

 MSNニュースの《【朝日社長会見】「慰安婦」影響の是正は語らず…新社長「提言待って」と繰り返すのみ 部数は20万部減》は新社長の会見発言をこう伝えました。《一方、渡辺社長は、大阪社会部で事件報道などに携わり、西日本を中心に地方の現場を長く取材した点をアピール。この記者時代に関する質問には明るい表情に変わり、「私のキャリアを朝日の改革に生かす」「誤報は人間がやることだから可能性はある。社内で『おかしいんじゃないの』と言える空気が重要だ」などと語った》

 朝日の社内で昔から東京と大阪の編集局の体質差を伝えて「東京の傲慢、大阪の野党」と言われます。朝日の社長は東京の政治部と経済部の部長経験者が担ってきました。霞ヶ関の権力取材の中心セクションです。社会部出身者は稀でした。こうした在京マスメディア体質が「傲慢」を生み、一方、権力から遠い大阪編集局は野党精神を発揮した取材に徹してきました。東京編集局長を経験したことがない新社長の発言はこういう事情の上にあると解したら良いでしょう。

 しかし、新社長がどこまで考えているのかは知りません。弁護士ドットコムの《朝日新聞・渡辺新社長「誤報を前提とした対策が必要」具体的な防止策はこれから》は《渡辺社長は同日夕、大阪市内で記者会見を開き、「これまでの手法や意識を根本的に見直す改革が不可欠」「根底から作りかえる」と改革方針を表明した。しかし具体的な誤報防止対策については、「誤報が起きる前提で対策を取る必要がある」と述べるにとどまった》と報じています。

 さらに《渡辺社長は、改革方針の一つとして、言論の「広場」機能の強化をあげ、「双方向性を強く意識して、読者と議論を深めていく」と説明した。その点について、「双方向ということで、インターネットを積極的に活用していく考えはあるか?」という質問も投げかけられた。それに対して、渡辺社長は「どういう形がいいのか、いま見えているわけではない」としつつ、「(ウェブサイトである)朝日新聞デジタルの機能や新聞の投稿欄をうまく活用しながら、双方向的な仕組みを考えていきたい」と語った》とあります。

 2005年に新聞社の品質管理に当たる紙面審査メールで日々、ブログから発信されるニュース評価を集めたのが私ですし、同じ時期、大阪で読者とのネット連携を進めようとして東京本社に潰されたのも私です。読者、世間の声を聞く必要を本心からは感じていない「東京の傲慢」では駄目であることは遠い昔、1988年のマスメディア初のパソコン通信「サイエンスネット」で早くも明らかになっていました。第25回「インターネット検索とこのコラム」で取り上げています。ネットを本当に使えるか、鍵はそこにあります。

 誤報が起きるものである点に異論はありません。誤報を恐れて報道の仕事はできません。しかし、福島原発の吉田調書誤報問題で言えば、あれだけ膨大な内容を特報チームだけで理解できると考える方が不遜であり、特ダネ意識で調書を社内にも見せなかったのは異常です。『吉田調書など証言、批判派学者に見せてこそ価値』で書いているように少数記者の一知半解で勝負は困ります。

 霞ヶ関に限らぬオルタナティブな情報源を多数の専門家の間に常に確保して、情報価値を相対化できる回路を持たねばなりません。福島原発事故発生で朝日の記者が東京本社の前にある国立がん研究センターに飛び込んで、非常に偏った専門家の放射線被ばく影響評価を聞いて放射線に甘い記事を出した惨事がありました。これなどは誤報と断じて良いケースだと考えます。聞いた情報をそのままでは記事にできない記者常識を持っていれば防げたケースです。専門家見解にも実は色々あって、新聞社として伝えられる線はどこか取材網をあげて調べなければならなかったのです。

 東京を中心にした愚かな権威主義は朝日だけでなく読売新聞にも広がっています。関係者から聞くところでは東京編集局から出稿した記事の多くは、大阪編集局が紙面化する際には手を加えるのを禁じられているそうです。中身に関心を持ってくれる社内関係者が増えるほど新聞発行以前にチェックできる可能性が高まりますが、読売東京は迷惑とお考えのようです。


韓国の産経記者起訴処分は権力者による「私刑」

 産経前ソウル支局長在宅起訴は権力者による「私刑」(リンチ)です。最高権力を持つ者がメディアの言論に被害を言い立てて刑事処分に付するとは、韓国が法治国家ではないと明瞭に示しています。産経新聞の記事の品位は全く擁護しませんが、権力者に疑問を呈する言論を封殺することは許されません。むしろ、投げかけられた疑惑に明確に答えていないがゆえの暴走に見えます。

 もともと韓国は前近代の徳治国家を脱しきれず、無能な官僚組織がはびこっており、300人以上の犠牲者を出したセウォル号沈没事故の不始末もそこに端を発しました。世界に向けて恥じるべきリンチに、本来なら国連も警告すべきだと考えますが、韓国人の事務総長は感度が低いようです。

 実は韓国人自身が公正な国家を実現できていないと考える現実を《奇怪な韓国の闇、民衆は達観する「愚政府・愚役人」》で描きました。それでいて間違っていても国家の体面は保ちたいとする愚かな国民性とを、国際的な社会意識調査「International Social Survey Programme」から作成した2つのグラフでご覧ください。






セウォル号沈没での不作為なければ全員助かった

 300人を超す犠牲者が出た韓国セウォル号沈没事故で、乗船の476人が退船命令さえ出ていたら短時間で全員脱出できたと法廷で専門家が証言しました。海洋警察が到着した時点でも6分17秒で済み、不作為の罪は重大です。船長・船員による退船命令出されずもさることながら、船を見捨てた乗組員を受け入れたまま積極的な救助活動をしなかった海洋警察救助艇の責任も問われるべきです。ところが、海洋警察に対する検察の捜査は進んでいません。犠牲者遺族が特別法を作って捜査権と起訴権を渡せとまで要求しているのも理由の無いことではありません。

 船長と船員らに対する殺人容疑など公判でのパク・ヒョンジュ嘉泉大学超高層防災融合研究所所長証言を《セウォル号事故シミレーション結果、476名5分ほどで全員脱出可能》がこう伝えています。

 《事故直後である4月16日午前8時50分、セウォル号が左舷(さげん)に30度傾いた状態から全ての避難経路を利用し、左舷3階のデッキに脱出するシナリオ、近くのデュラエース号船長の勧告により午前9時24分ごろ、左舷に52.2度傾いた状態から3階のデッキに脱出するシナリオ、1等航海士が操舵室から出てきて海洋警察123艇に乗り込もうとした午前9時45分ごろ、59.1度左舷に傾いた状態から4、5階のデッキに脱出するシナリオなどだ。最初のシナリオに沿ってシミレーションを行った結果、セウォル号乗船員476名全員は事故直後船長と船員らの退船命令があったら、わずか5分5秒ほどで脱出することができたことがわかった。2つ目、3つ目のシナリオに沿ったシミレーション結果でもそれぞれ9分28秒、6分17秒ほどで全ての乗船員が安全に船を抜け出して救助されることができた》


 『沈没報道の韓国メディア、海洋警察の劣悪さ無視』で引用した朝鮮日報の現場写真です。漫然と立ち尽くしている海洋警察官が、やがて船員が出てくる目の前の操舵室に飛び込んで即刻退船を指示していたら、6分ほどで全員助かったのです。海難に対処する専門家として必死さがあれば、事態はハッピーエンドに変わっていたでしょう。

 しかし、《裁判を目前に遅々として進まぬセウォル号事故捜査(2)》は検察が苦慮していると報じるのみです。《船内に進入して乗客に脱出を指示しなかったため物議をかもした木浦(モクポ)海洋警察123艇所属の海洋警察官の起訴可否について苦悩している。123艇の艇長に対する業務上過失致死容疑の適用有無に注目が集まっている。 だが、光州地検関係者は「海洋警察123艇のキム艇長に対して拘束令状を再請求するのか」という質問に対し、「123艇が何もしなかったわけではないし…。 世界的に類例のない事例であるため、どんな法律的定規を突きつけるべきかを検討している」と話した》

 海洋警察のヘリは船の上にも到着しており、船内の高校生の証言が《‘船長ら 自分たちが生きるために退船命令下さず脱出 共謀’判断》に出ています。《「海洋警察は上から全て見ることができる状況であったのに、状況をただ見守っていた。 海洋警察官が‘上がって来れる人は上がって来なさい’と言ったと友達から聞いた」と答えた。 またKさんも「(船室から脱出して上がってきたが)甲板にいた海洋警察はじっとしていて、ある瞬間にいなくなった」と証言し、また別のOさんは「海洋警察は甲板の外壁に立っていて、ヘリコプターに引き上げるだけだったし、生存者が脱出した出入口側に行く姿は見られなかった」と証言した》

 8月に『奇怪な韓国の闇、民衆は達観する「愚政府・愚役人」』で韓国官庁の悲惨なほどの無能さを描きました。民衆はよく知っている事実なのですが、300人余という犠牲の大きさに耐えられない思いでしょう。しかし、法治国家として機能しているとは思えず、裁判を含めて適切な裁きが付けられるか、極めて疑わしいのです。


奇怪な韓国の闇、民衆は達観する「愚政府・愚役人」

 《旅客船セウォル号沈没事故から百日を過ぎて韓国は官民挙げて立て直しを図るどころか、奇怪な闇に包まれている。犠牲者を大幅に増やした海洋警察の不手際に勝るとも劣らぬポカを検察と警察が演じてしまった。セウォル号運航会社で欲得ずくの改造や運航不正を仕切ったらしい実質オーナーの行方追及が国を挙げての課題だったのに、実は死んでいて行き倒れホームレスとして処理されていた。周辺も固めずに隠れ家の捜索に入った検察、隠し部屋からこっそり逃げ出した容疑者に山狩りさえされず、後に畑で見つかった死体は数十万円するブランド物ジャンパー姿だったのに警察は無視。こうした当局者の無能ぶりを、民衆は知り抜いて達観していると国際的な社会意識調査が示している》

 朝日新聞WEBRONZAでタイトルの謎解き記事をリリースしました。セウォル号沈没事故は事故に至る不正の数々もさることながら、船が大きく傾いた現場に到着した海洋警察が傍観するのみ、乗客を甲板に誘導して積極的に救おうとしなかった点でとても非常識な海難事故でした。日本の海上保安部なら300人を超した犠牲者を少なくとも半減できたはずです。『沈没報道の韓国メディア、海洋警察の劣悪さ無視』に掲げた写真を見てください。

 海洋警察のポカはずっと後になって騒がれ始め、当該救助艇関係者の刑事責任追及や海洋警察自体の組織解体にまで進みました。これが緩んだ組織の特殊例ではなかったと知らしめたのが、セウォル号運航会社実質オーナーの行き倒れ処理でした。検察と警察の総力を上げ、さらに海軍の力まで借りて絶対に逃すまいとしていた実質オーナーの死体を見つけていながら「行き倒れホームレス」としていました。現地の検察と警察には緊張感は全くなかったのです。国立科学捜査研究院でのDNA鑑定は緊急扱いされず、42日後に照合結果が出て騒然、困惑となり、混迷の闇が韓国中に広がりました。


 韓国って国はこんな無能な役人で出来ているのか、民衆はどう考えて暮らしているのか調べたのが、今回の謎解き記事です。各国の社会学者が長年、合同で実施している国際的な社会意識調査「International Social Survey Programme」から、民衆はとても屈折した目で愚かな政府と役人を眺め、それでもおらが国家は見捨てられぬとかばっている姿が知れます。詳しくは全文を見ていただくとして、上に引用したグラフ「自国の社会における公正さと平等を誇りに思う人の割合」で韓国は16.7%しかなく、旧ソ連圏の国と最低クラスを競います。第430回「苦悩する韓国、日本の過去像か異質な国民性か」では日本との比較を試みましたが、上のグラフで日本は50.3%あるように、違いすぎる国のようです。

 また「たとえ自分の国が間違っている場合でも、国民は自分の国を支持すべきだと思いますか」と質問して「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた合計割合が韓国は56.7%もあり、逆に日本は24.7%なのです。この項目でも韓国はロシアなどに近いのです(元データはこちら)。長かった日本統治も国民性は変えられなかったと言えます。

 【参照】第447回「セウォル号沈没での不作為なければ全員助かった」(2014/09/24)


続・2016年に国立大の研究崩壊へ引き金が引かれる

 政府・文科省が主導しマスメディアが煽っている国立大改革。その結果起きた研究開発の病み方は途方もない深さまで進みました。根拠になるデータ無しに何か変えれば好結果と決めつけた上意下達がまかり通っています。6月末にリリースした第435回「2016年に国立大の研究崩壊へ引き金が引かれる」はツイッターやフェースブックなどソーシャルメディアで合計5500回以上(転載分含む)と経験したことがないほど言及されました。大学関係者以外にも多くの方に憂慮が広がっている証拠でしょう。

 この5月に横浜国大の室井尚教授が書いた《国立大学がいま大変なことになっている》が注目を浴びています。横浜国大には文科省から「ミッションの再定義」に基づいて「文系学部は不要、理系学部に再編せよ」との通達が出て、実際に動き出していると言います。《もう少し昔なら、学長と団交するとか、霞ヶ関でデモをするとか、署名運動するとかいう抵抗もあったのかもしれないが、これらの度重なる「改革」にすっかりうんざりして牙を抜かれた同僚たちは諦め切ってしまって気力を失っている》

 《敵は文科省の奴隷にされて苦労している学長ではないし、実際にプランを作った総研の社員や元社員は霞ヶ関にはそもそも居ないし、署名が集まってもそれを出したらそれ専門の処理班に回されるだけなのだから、どうしていいのかすら分からないのである。基本的に、自分の頭で考えずに国が与えた「ミッション」を忠実に遂行する者だけが大学教員に求められているような場所で、教員が良心を持って生きることなどできようもない》

 「国立大学改革プラン」に大学別「ミッションの再定義」の数々が記載されています。東大工学部出身で科学部記者を長年していた私からは言葉の遊びに見える項目多数であり、横浜国大のように「押しつけ再定義」なのだと知れば、納得できます。

 しかし、マスメディアは文科省の言う通りに信じています。京大総長選の報道が端的に表しており、誰が選ばれるかよりも、学長の国際公募の試みが機能しなかった論点が先に立っていました。大学を維持する生命線資金かつかつ、過酷財政の国立大学に「経営手腕がある」外国人学長を招いて何をさせようと言うのでしょうか。もし潤沢に資金を回すというなら、日本人の学長でも十分に仕事は出来ます。

 ここに、中央官庁の官僚から教えられないと記事が書けない在京マスメディアの弱みが顕在化しています。文科省に限らず2、3年で持ち場が変わる官庁クラブ所属記者は自分で現場を確かめず、官僚からレクチャーを受けて鵜呑みです。オルタナティブなニュースソースを持ちません。2004年の第145回「大学改革は最悪のスタートに」を書いた背景を説明しておきます。私は科学部時代の内、丸5年間は手に入る限りの国内学会・研究会の抄録集を全て読みました。十分に手間を掛けた経験と大学現場取材から大学改革の方向が間違っていると確信しています。補足すると科学部を出た後で、文系学会も1年間は同様の抄録集全読破を試みています。


 研究論文の異常な減少ぶりを指摘した元三重大学長、豊田長康氏が「何度見ても衝撃的な日本のお家芸の論文数カーブ(国大協報告書草案18)」で新たに出されたグラフです。日本が得意とし、科学技術立国の支えだった物理化学物質科学分野の論文数が「2004年という国立大学が法人化された年に一致して明確に減少に転じているカーブは、衝撃的である」と評されています。今回の分析は理系ばかりでなく社会科学まで分野別に世界の論文数動向と比較しています。多少は増えている分野もありますが、世界傾向からはどの分野も日本だけ異質な低迷カーブです。これは恐るべき事実ですが、視野狭窄に陥った文科省には関係ないのでしょう。

 現在は英国のオックスフォード大教授に転じている元東大教授で高等教育問題に詳しい苅谷剛彦氏が文藝春秋7月号で《日本の大学が世界の「落ちこぼれ」になる》との論考を書いています。「今、日本の高等教育の閉塞感のひとつは、一部の理系分野を除くと、自分たちがいま学んでいることが世界の最先端なのだ、という実感が持てないことにあります」――理系と文系を問わず世界規模で存在する評価・ランクに全く馴染まない「たこつぼ型」研究が日本でこれまで主流でした。現在進んでいる大学改革は根拠の無い恣意的な改変であり、評価の仕方を世界標準に合わせるのではなく、「たこつぼ型」研究者の自主性まで取り去りつつあります。2016年に生命線ラインを下回る大学交付金重点配分が始まれば、多数は最低基盤まで奪われるのですから無残な結果は見えています。


忘れられる権利の判断、グーグル任せは大問題

 欧州司法裁判所が認めた「忘れられる権利」によるグーグル検索結果からの削除要請が早くも波乱を呼んでいます。削除を通知されたメディアからの公表で、忘れられるどころか世界的に有名になってしまう珍事続発です。不本意な仕事を押しつけられたグーグルによる「しっぺ返し」との見方もありますが、データ収集だけをしてきた検索エンジンの会社に、削除の判断を丸投げした裁判所が無謀だったのです。取材して記事にしたメディアなら、記事の公益性とプライバシーの重さを秤に掛けられます。元の記事削除を命じないで、グーグル検索結果のリストから削除させる安易な裁判所判断は、検索エンジンが持つ現代社会の反映機能をも損なってしまいます。

 グーグルに寄せられた削除要請は7万件、さらに毎日千件のペースで増えているそうです。グーグルが実際に削除を始めた6月末から事態が動き出しました。《[FT]どこまで「忘れる」べきか グーグルの難題》は《今までは、スコットランド・プレミアリーグのダンディー・ユナイテッド対セルティック戦でレフェリーのダギー・マクドナルド氏がペナルティーキックを与えた理由について嘘をついたことを覚えていたのは、ごく少数のスコットランドのサッカーファンだけだった。だが、マクドナルド氏は3日、「忘れられる権利」に関する新しい欧州の規則を利用する最初の人たちの1人になった後、図らずも世界的な注目を集めてしまった》と伝えました。

 《グーグルは会社方針に従って、記事へのリンクをやめたことをガーディアンとメールオンラインに通知した。両媒体は当然ながら、数十万人に上る読者にこの事実を公表した。事態はさらに発展した。ガーディアンが問題の記事は公共の利益にかなうと主張してリンク削除について公に苦情を申し入れた後、グーグルが3日夜にガーディアンの記事へのリンクを元に戻したのだ》

 この事例だけでもグーグル任せは大問題と考えられます。メディアとして活動した経験がない会社にニュースの中身の吟味を委ねているのです。

 「忘れられる権利(the right to be forgotten)」の判決はスペインの男性が以前に自宅を競売に掛けられた事実があり、現在は問題なく生活しているのにグーグル検索では筆頭に出るのが不都合というものでした。今や「分からないことがあればグーグルに聞く」のが常識になりました。便利な半面で、一度検索エンジンがリスト化した情報はずっと残り、個人の不祥事情報が生涯ついて回ることになりかねません。私も「消す方策がないか」と個人的に相談を受けたことがありますが、これまでは処置無しでした。

 困っている人が存在するのは事実です。しかし、5月末に《ヨーロッパ人の検索結果削除リクエストのためにGoogleが入力フォームページを立ちあげ》がこう報じました。《今月初めには、司法裁判所の裁定に続いて、Googleには検索コンテンツの削除リクエストがいくつか寄せられていることが明らかになった。ただしそこに挙げられていた例は、古典的な三大醜聞ネタともいうべき、再選を目指す元政治家がオフィスにおけるお行儀の悪い行為を報じた記事のリンクの削除を求める; 医師が患者からのネガティブなリビューの消去を求める; 有罪となった児童性愛者が児童虐待写真を保有していたとする判決文の取り下げを求める、といったものだった》

 グーグルは削除の判断基準を明かしていません。もしかしたら要請全てに応じるかも知れません。このような削除要請が大幅に認められていくと、現代社会を映す鏡のような存在になった検索エンジンの性格を歪める恐れが大きくなります。ロボットが自動的に収集してきたデータの全体像を検索を通して見ている現状と違い、何かの恣意的フィルターが掛かった世界像が見せられることになります。フィルターがどんなものか、我々は知らされていません。報道の自由、表現の自由にとっても問題は大きいと考えられます。

 【参照】『グーグル検索独占に新聞が反撃するのは困難』
     『大英図書館の300年新聞データベースを使ってみる』――こういう利用例があるので安易に過去のニュースに手を加える愚も控えるべきかも。


2016年に国立大の研究崩壊へ引き金が引かれる

 「骨太の方針」が決定された後、読売新聞が再来年から国立大交付金を重点配分する政府方針を報じました。手を出すべきでない愚策であり、先進国で唯一、論文数が減少中の日本の研究体制が崩壊する日が見えてきました。2004年の国立大学独立法人化からボタンの掛け違いが始まっています。独立法人にすることで大学の裁量幅が広がるどころか、人件費・諸経費を賄っている国立大交付金を絞り続けて10年間で13%も減額され、研究費を外部から獲得する競争に研究者は追われるようになりました。人件費縮小は若手研究者ポスト縮小に直結しました。「重点配分」を求める財務省は大学教員は多すぎると考えているのですが、研究を担うのは人である点を忘れています。

 「骨太の方針」には「国立大学法人への運営費交付金を抜本的に見直す」と書かれており、読売新聞は1兆1千億円の4割を「学長のリーダーシップや学力向上などを評価の基準に使い、改革に積極的に取り組む大学に重点配分する」と伝えました。第363回「大学に止めを刺す恐れ大、教育再生会議提言」で掲げている、先進国中で日本の論文数だけが特異に減少しているグラフが以下です。太い赤線グラフの異様さが重点配分論者の目には入っていないのでしょうか。


 論文減少の異常ぶりを最初に指摘して反響を呼んだ元三重大学長、豊田長康氏が最近になって、世界各国のデータと比較、解析する謎解きに挑んでいます。《OECDデータとの格闘終わる・・・日本の論文数停滞・減少のメカニズム決定版!!(国大協報告書草案14)》です。各国データの中身を精査して、整備が十分でない国は除くなど苦労したあげくに「図69.主要国における大学研究開発人件費増加率と論文数増加率の相関」に到達されています。左下の赤点が停滞している日本です。


 明解な相関関係が現れています。《今回の分析結果から推定される因果関係としては、【大学への公的研究開発資金 ⇒ 研究開発人件費 ⇒ 大学研究従事者数 ⇒ 論文数】という流れが本流ということである。そして、この10年ほどの間の日本の大学への公的資金増加率、大学研究開発人件費および研究従事者数の増加率は、今回検討した国の中では最低であり、その結果、論文数の増加率も最低になっていると考えられる》

 これまでは現象面から交付金の縮小が論文数減少に結びつくと考えられましたが、この分析で因果関係は決定的になりました。それなのに交付金重点配分でさらに人件費縮小、ポスト縮小が加速されるでしょう。

 論文の数など問題ではない、良質な論文だけあればよい――と政府は考えているのかも知れません。大学の評価体制を強化するので、良質な仕事が増えるはずと算段している可能性もあります。しかし、第397回「国立大学改革プラン、文科省の絶望的見当違い」でその思い違いを指弾しました。

 《大学への評価体制を強化して行くとの方向にも、始めの一歩から間違っているのだから話にならない面があります。2004年に書いた第145回「大学改革は最悪のスタートに」で日本で評価が機能しない根本には研究者同士のピアレビューが出来ていない、たこつぼ型研究の実態があり、学閥のネームバリューに頼って恥じない研究費配分がまかり通る現状を変える必要を訴えました。文科省は評価が出来ない大学人に加え、外部からの声を入れれば機能すると考えているのだから何も見えていないと断じるしかありません》

 非効率ながらも自然発生的な多数の研究論文をピラミッドの底辺にして日本の科学技術は伸びてきました。お金を掛けないで、ちょっとした工夫で仕組みを変える魔法の杖を自分たちは持っていると政府・文科省が考えているなら、不遜の極みです。欧米で行われている王道の研究評価を国内でも確立するしか道はありません。その上でならば効率的な配分があり得るかも知れませんが、いま実施されようとしている重点配分は「思い付き・思い込み」に過ぎません。これまであった科学技術立国の文脈さえ破壊するでしょう。


海洋警察に過失致死容疑、韓国で大遅れの検察捜査

 旅客船「セウォル号」海難事故の際に現場に駆け付けた韓国の海洋警察が、乗客を脱出させる活動をすべきだったのに手落ちがあった――検察が海洋警察本庁などを家宅捜索して過失致死容疑の捜査が始まりました。事故の直後に『沈没報道の韓国メディア、海洋警察の劣悪さ無視』で取り上げた朝鮮日報の写真を掲げます。1人だけ乗船した海洋警察官は奥にある客室入り口に向かおうともせず、救命ボートが開くか点検しています。警備艇の舳先に少なくとも4人が見えている海洋警察官は手持ち無沙汰で立ったままです。


 中央日報の《<韓国旅客船沈没>船内進入しなかった海洋警察…過失致死容疑の適用を検討》は無為・不作為ぶりをこう伝えました。

 《事故現場に最初に到着した海洋警察の警備艇は事故が起きた4月16日午前9時43分に西海(ソヘ)地方海洋警察庁と木浦(モクポ)海洋警察庁に、「乗客が中にいるが出てこられない」と報告した。その一方でセウォル号に乗り込んだ海洋警察は乗客を避難させようとせず救命ボートが広がるかだけ確認し降りてきた。午前9時53分には「(乗客を脱出させなければならないので)船内に入れ」という西海地方庁の指示に「傾斜がきつく乗り込む方法がない」と答えた。しかしこれより16分後に全羅南道(チョンラナムド)の漁業指導船の乗組員は船に乗り込んで乗客を救い出した》

 《検察はこうした海洋警察の救助活動に職務怠慢または過失致死容疑を適用できるか検討する方針だ。延世(ヨンセ)大学法学専門大学院のハン・サンフン教授は、「海洋警察がセウォル号の船内に入らなかったことに対しては過失致死を適用できる。もし船内進入の指示があったのに入らなかったとすれば遺棄致死責任を問うこともできる」と話した》

 日本なら海難事故の救助手抜きの疑いで海上保安庁が捜査を受ける大失態です。私の海上保安部取材経験からすれば、乗客数百人と聞いて現場に来たケースで日本の保安官が突っ立ったまま何もしないなんてあり得ません。傾いていようが乗船して船員をつかまえるなり、乗客の誘導に走るなりします。沈没すれば海に投げ出される危険はもちろんありますが、当然のリスクとして頭に入っています。

 セウォル号海難事故では韓国の海洋警察は誰も海に落ちなかったそうです。スピーカで乗客に脱出するように呼びかけはしていたとの弁解は見ました。しかし、この写真の段階でも船内放送は「救助隊が来るまでその場に待機して」と繰り返すばかりでした。迅速に行動して乗客を甲板に出せば犠牲者300人は少なくとも半分以下になったでしょう。過失致死容疑は当然過ぎます。

 【参照】第425回「国民性悪説に至った韓国メディアと反省なき日本」
     第430回「苦悩する韓国、日本の過去像か異質な国民性か」


「美味しんぼ」騒ぎの本質は福島県への不信任

 小学館発行の漫画「美味しんぼ」にある鼻血描写などに福島県が風評被害助長と抗議しました。漫画の行き過ぎ感にメディアは同調しますが、事態の本質は過去3年間、福島県の放射線への取り組みに対する不信任です。この3月まで県は「10マイクロシーベルト/hを超さなければ健康に影響を及ぼさない」との主張をホームページに掲げ続けていたのです。このような放射線被曝に極度に無神経な行政に信頼できる健康調査が出来るのか――市民側の不信感が結果として漫画に反映されたと理解するべきです。環境省も「事故では、鼻血や疲労感に一定の影響が出るほど被曝した人はいないと県の調査で分かっている」と擁護しますが、漫画の主張はその根幹への疑問です。

 3年前、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーだった山下俊一氏が講演で「100マイクロシーベルト/hを超さなければ、全く健康に影響及ぼしません。ですから、もう、5とか、10とか、20とかいうレベルで外に出ていいかどうかということは明確です」と語りました(第278回「説明責任を果たさない政府・東電・メディア」参照)。あまりに乱暴にすぎたので、後始末として《質疑応答の「100マイクロシーベルト/hを超さなければ健康に影響を及ぼさない」旨の発言は、「10マイクロシーベルト/hを超さなければ」の誤りであり、訂正し、お詫びを申し上げます。ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありません》との訂正になっています。


 《トップページ(Home) > 組織別 > 知事直轄 > 広報課 > 東日本大震災関連情報 > 原子力災害情報 > 福島県放射線健康リスク管理アドバイザーによる講演会》にある画面で、県はこの3月末にこっそり削除しましたが、米インターネットアーカイブに保存されているものを証拠として出しました。今年2月13日にロボットが収集しています。福島原発事故発生直後から福島県が被曝影響にどのような予断を持っていたのか明確に示しています。3年間、修正もされずに生きていました。

 この文脈なら抗議に対する週刊ビッグコミックスピリッツ編集部の釈明「事故直後に盛んになされた低線量放射線の影響についての検証や、現地の様々な声を伝える機会が大きく減っている中、行政や報道のありかたについて、議論をいま一度深める一助となることを願って作者が採用したものであり、編集部もこれを重視して掲載させていただきました」は理解しやすいでしょう。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー
     第381回「福島原発事故、国家として原因不詳でよいのか」
     『福島原発事故の無為で告発さるべきはマスメディア』


国民性悪説に至った韓国メディアと反省なき日本

 旅客船沈没事故に地下鉄追突事故、当然の責務を誰も果たさない現実に韓国メディアは国民性悪説に至りました。遅すぎる「発見」ながら福島原発事故での大本営発表報道から脱却しない日本よりは救いがあるかもです。20日あまり報道をウオッチして風向きが完全に変わったと感じられたのが、ふたつの有力紙、朝鮮日報の《【社説】「いつも通り」の虚偽記載》と、中央日報の《大韓民国は「災難民国」…不正構造が「危険社会」の主犯(1)》の訴えです。

 旅客船「セウォル号」での積載貨物や救命設備の安全点検報告が慣行による虚偽記載で、公的な運航管理者が現場確認したことがない事実をベースに朝鮮日報はこう主張します。

 《韓国国内で航行する他の船はどうだろうか。セウォル号だけが特別で、他の船ではすべて安全点検がしっかりと行われているのだろうか。船舶だけではない。韓国国内で多くの人が集まる大型の施設で作成される安全点検関連の報告書は、もしかするとセウォル号と同じく全くの虚偽ではないだろうか。今回の悲惨な事故をきっかけに他の船舶はもちろん、地下鉄、空港、ガス、原子力発電所など、国民の安全と直結したあらゆる施設において改めて安全点検を行うべきだろうが、その前に、これまで提出された安全点検の報告書や内部の慣行をまずはチェックする必要があるのではないか》

 一方、中央日報は専門家からの談話としてかく断じます。《「ドイツは危険な科学技術を使うが、よく整備された先進国型の危険社会」とし「しかし韓国は危険な科学技術を使いながらも整備されていない後進的危険社会」と述べた。続いて「ドイツのように構造的な不正がほとんどなく、よく整備された社会でも、現代科学技術自体に内在する危険を除去するのは難しいというのが、ウルリッヒ・ベック氏の危険社会理論だが、韓国はここに不正構造まで蔓延した『悪性危険社会』になった」と批判した》

 大統領まで含めて誰のミスかと論じていたのでは、職業倫理総崩れの現実に追い付かなくなったのです。興味深いことに中央日報の「文化スポーツ部門次長」署名入りの《【コラム】私はマニュアルを無視していた=韓国(2)》はメディア人ですら社会のマニュアルを尊重しない精神構造を持つと告白します。待機放送を信じて沈んでいった高校生に合わす顔がないと気付きます。

 セウォル号をウオッチしたBM時評『沈没事故に見る韓国の総無責任、秩序国家は無理か』と、信号機故障4日間放置を指弾した『韓国で列車に乗るな:信号機の世界共通則を破る』をご覧いただけば、韓国社会の安全システムが破綻したのではなく、元からきちんと構築されていないのだと理解されるでしょう。

 日本のメディアには3月に『福島原発事故の無為で告発さるべきはマスメディア』で苦言を呈したばかりです。韓国のように皆が悪かったと気付く初歩段階を、日本はとっくに過ぎています。国家存亡に関わるほどの事故に対し取るべき責任は取らさねばならないのに、大本営発表報道で主体性を失ってからメディアは逃げています。原発志向の安倍政権になってますます酷くなっています。第381回「福島原発事故、国家として原因不詳でよいのか」と改めて申し上げねばなりません。


PCオーディオのワサピ化とタブレットで良い音

 流行のハイレゾよりもまずWASAPI化ですと2月に推奨して多くの方に読まれました。もう一歩進めて、全面ワサピ化してみた試みと、安いタブレットとヘッドホンで音楽を楽しめる組み合わせが出来たので紹介します。先日の『パソコンで音楽ならハイレゾよりまずワサピを』では、幅広く使えるAVプレーヤソフト「MPC-HC」を、音質へ悪影響が大きいウインドウズOSの音声ミキサーから切り離すことが出来る「WASAPI排他モード」にする話でした。これでようやくCD並みの音質がパソコンで実現します。

 パソコンにはこの他にもいろいろなオーディオソフトがあります。多くの場合に再生デフォルトになっている「ウインドウズ・メディア・プレーヤ」、ブルーレイ用の再生ソフト、それに我が家では使用頻度が高い録画テレビ番組をブルーレイ・レコーダや家庭内サーバーからLANで鑑賞するソフトです。メインにしているデスクトップPCではブルーレイには「CyberLink PowerDVD」、テレビ番組には「DiXiM Digital TV」を使っています。一部機能は「MPC-HC」で代替できるのですが、全面ワサピ化した方がずっと便利です。

 参考になるウェブは《フリーソフトを使ってビットパーフェクト再生する方法》です。「方法は少しトリッキーで、ASIO Windows Media Player Plugin と ReClock という二つのフリーソフトウェアの機能を組み合わせて実現します」

 説明されている手順を追っていただけば難しくはありません。デスクトップPCはこの方法で全面ワサピ化しました。しかし、東芝製のノートPCではウインドウズ・メディア・プレーヤがWASAPIでうまく再生できませんし、ブルーレイ再生の「WIN DVD」では無視されてしまいます。機種によって相性の問題があることだけはご承知おきください。ともあれテレビの音楽番組はどちらのPCでも断然良いクオリティになりました。

   ◆  ◆

 第396回「2014年はタブレット主流、パソコン文化変貌も並行」に写真を載せている10インチのタブレットが壊れてしまいました。音質が良いのが気に入ってベルリン・フィルのデジタル・コンサートホールなども楽しんでいた機種です。タブレットの最多用途は電子書籍を読むことですが、外出時やキッチンなどの音楽プレーヤとして良い音にこだわっています。


 店頭で試した結果、レノボの8インチ「YOGA TABLET」に決めました。上の写真で比較のため16インチの東芝ノートPCに乗せてあります。タブレットなのに自分で立つ点がユニークで、重さが10インチの6割だから片手で持てるのが便利。買値21420円、3月中に買えば4000円のキャッシュバックがあります。最近、外出時によく使うAKGの密閉型ヘッドホンK404(写真右。アマゾンで3500円弱)と良い相性なのも気に入りました。音質イコライザーがダイナミックに変動するタイプで音楽を生き生きとさせる効果があります。もっと高額のフラット特性ヘッドホンで聞くと高音に強調がありますが、やや高域不足のK404を補完してくれます。

 ソニーの定額音楽配信サービス「Music Unlimited」からかなり大量の音楽をタブレットにダウンロードして聞きました。1960年代の洋楽ヒット集もあればカラヤン・ベスト100などクラシック、最新録音のポップスもです。「HE-AACの48kbps」という圧縮形式の優秀さを再認識しました。MP3など比ではありません。前のタブレットではCDから無圧縮コピーの音楽中心でしたが、記録容量を小さくしてもそう負けていません。外出時はイヤフォン・タイプの縮こまった音場で過ごしてきたので、街角で聴いて時に豪快に響く開放的な感じがとても新鮮です。

 【参照】『定額音楽配信サービスで音楽産業は持ち直すか』


若者内向き説に疑問あり、米国留学減少は別の要因

 日本の若者内向き説の根拠である米国留学の減少が別の要因で起きていると考えられる。中韓両国の若者は壮絶な国内就職難から米国留学を強く志向し、結果として日本の若者が割りを食っているのが実態ではないか――朝日新聞WEBRONZAスペシャルでタイトルの記事をリリースしました。

 エントリーの切り口を若者内向き説の是非に振っています。海外留学そのものより、若者説に関心がある方に読みやすくしました。「留学減少傾向を論拠にして『日本の若者は内向きだ』と、国内メディアばかりでなく海外発の報道やOECDなど国際機関の報告書にまで書かれるようになったが……」

 朝日有料会員でない方は後半部分が読めませんが、そのまま第415回「留学の大変動、中国と韓国の壮絶な就職難から」につながるよう構成してあります。


留学の大変動、中国と韓国の壮絶な就職難から

 日本の米国留学が減る傾向から若者が内向き志向と言われますが、近年の留学先大変動を起こしているのは中国と韓国の壮絶な就職難でした。各国最新データがそろう2011年と2007年を比較して判明です。21世紀に入ってからの留学の大波は大規模な頭脳移動に見えたものです。留学先がOECD諸国に限った集計では2000年の158万人が2011年に331万人にもなりました。しかし、留学先国で満足がいく就職をして残れるのは限られた層であり、大膨張の先頭に立っていた中国は今、留学生帰国ラッシュと国内大学の乱造による学卒者の氾濫に直面しています。

 2009年の第190回「留学による大移動は新段階、中韓米日で見る」で整備しておいた2007年の中韓米日4カ国データを基盤にして、2011年の状況を見るグラフ「2007→2011各国留学先の変動」を作りました。人数はその年の新たな留学者数です。2011年は欧州代表のドイツを加えて5カ国にしました。OECD統計「Education at a Glance 2013」に加えて、OECDから漏れている中国の留学生受け入れ統計を合わせています。


 日中韓3カ国の中で一番目立つのは中国からの米国留学が突出して増えた点です。10万人が18万人に膨れ上がりました。韓国も8千人ほど増やし7万人なのに、日本は1万5千人も減らし2万人です。日本の留学は米国以外は横ばいか増える傾向ですから、特に米国で減ったのは中韓の激増に押し出されたとも見えます。絶対数では中国が目立ちますが、人口が日本の半分もない韓国から日本の3倍半の米国留学を出すのは尋常ではありません。日中の対比は9倍ながら人口比の10倍と釣り合っています。中国からの米国留学では成績証明や提出論文の偽造など不祥事が米国メディアからよく聞こえてきます。ドイツから米国へは1万人弱と控え目ですが、英語圏の英国に2万人以上送り出しています。

 中国は留学受け入れでも2007年の19万人が2011年に29万人、さらに50万人を目指すと宣言しています。米国から中国への留学は棒グラフの間で見えにくいですが、8千人増えて23292人になっています。2位米国をはさむ韓国62442人、日本17961人はほぼ横ばいです。2013年には日本が3位の座をタイに奪われたと伝えられたように、中国は途上国からも幅広く受け入れています。一方、受け入れ規模が小さく8割近くが中国からと特異な韓国は留学の魅力が薄い国であると見て取れます。日本も中韓を合わせると8割になり、韓国の2倍半大きな受け入れ数15万ながら考えねばなりません。

 中国の海外留学は2000年が4万人だったのに、2007年15万人、2011年35万人、2012年40万人と急伸し続け、2013年にやっと41万人と微増に止まって激増期は終わった気配です。留学帰国組はかつては厳しい就職戦線で優位に立てたのに、その状況は霧散しました。《大卒予定者727万人、中国は史上空前の就職難〜かつて重宝がられた海外留学帰国組は今や見る影なし》が大学乱造と留学事情をリポートしています。

 《1997年7月にタイから始まったアジア通貨危機による経済不況に刺激を与えようと、中国政府は1999年に高等教育システムの拡大を決定し、大学の入学枠を大幅に増大した。この結果、1999年には85万人に過ぎなかった大学卒業生は、2003年には212万人となり、2005年:338万人、2006年:413万人、2008年:559万人、2009年:610万人、2012年:680万人と年々増大し、2013年には699万人となった。そして、今年はついに700万人の大台を突破して727万人となると予定されている》

 《海外各国の留学生に対する大学卒業後の在留条件が厳しくなり、大量の海帰族が中国へ帰国するようになった。一方では中国経済の低迷により従来通りの高成長が維持できなくなったことで、海帰族の就職環境は一変した。その結果、かつての名誉ある“海帰族”はたちまちのうちに“海待族(就職できない海外帰国組)”になり果てたのである》。人民日報は2013年の留学帰国者は前年比8万人増の35万3500人と報じました。

 韓国でも留学者数は2003年の16万人が2010年に25万人に拡大しました。サムスンとヒュンダイグループしか世界で稼げる企業が存在しない国情では、国内に留まっては就職先の選択幅は極めて狭いのです。サムスンへの受験者は年間20万人に上ると言いますから、悲劇的と見るか喜劇的と笑うかです。ただ、英語教育で日本の先を行っているのは間違いなく、米国留学には大きな力になるはずです。

 2010年の第228回「若者が目指す国、捨てる国〜世界総覧を作成」にギャラップ調査による若者移住指標ランキングを収録しました。世界148カ国の若者に移住したい国を聞き、それが実現したら人口がどう増減するかのランクです。韓国はOECD諸国にしては珍しいマイナス側の国でマイナス4%、中国もマイナス10%なのでした。留学志向がこれほど強烈である背景が見えます。ちなみに日米独はプラス側の国です。

 【参照】インターネットで読み解く!「人口・歴史」分野


パソコンで音楽ならハイレゾよりまずワサピを

 PCオーディオでハイレゾ機能搭載商品が急速に増えてきました。しかし、それに手を出すならWASAPIが先でしょう。ウインドウズパソコンを使っている方、劇的に音が良くなること請け合いの使い方をお試しあれ。WASAPIとはウインドウズ・オーディオ・セッション・アプリケーション・プログラミング・インタフェースの頭文字です。Windows Vista以降のパソコンで標準搭載機能です。これまでのパソコンでもCDは聞けましたが、実は音質は良くなかったのです。WASAPIを使って初めてCDプレーヤ並になったと言えます。問題は買ってきたパソコンにWASAPIを使うソフトが備わっていない点です。

 ソニーの「Music Unlimited」などの音楽配信サービスを利用された方は音質が良いことに気づかれると思います。音楽配信サービスは音楽のデジタル盗み取りを防ぐために、ウインドウズOSのミキサーをパスして直接、音を出力します。音質への配慮が無いミキサーが音を悪くしていました。透明感の高い楽器や声を通すと、響きにニジミのようなモヤモヤ感が付与されているのが分かります。いわゆる歪で、ちゃんとしたオーディオ機器は歪率に気を配って設計されますが、ウインドウズOSのミキサーは未だに無頓着です。

 「WASAPI排他モード」を使うと音楽配信サービスソフトのようにミキサーをパスして音を出してくれます。前のウインドウズ時代からこの機能を使う面倒なセッティングをしてきました。先月、ウインドウズ7・OSが機能停止してハードディスクを買い替えインストールをやり直したのを機会に、「MPC-HC」というフリーソフトのWASAPI利用機能で間に合わせることにしました。《Media Player Classic - Homecinema》から最新版がダウンロードできます。AVCHD系の動画も見られる高機能AVソフトです。


 上の図のように、「表示」タブ一番下の「オプション」画面を呼び出します。出力の項目にあるオーディオレンダラを「MPC-HC Audio Renderer」に切り替えてOKすれば、WASAPI排他モードで音を出すようになります。「排他モード」とは音の出力を独占する意味なので、このソフトを起動すると他のソフトの音声機能が停止されますから、不要なときは起こさないでください。また「MPC Audio Rendererが壊れている、使用しないでください」とのメッセージが出るように、一時停止時などにたまに暴走しますが、停止して起動し直せば問題はありません。

 メインのデスクトップパソコンは『続・ベルリンフィルに耐えるPC用オーディオ』で紹介した2万円クラスのUSBオーディオインターフェースを使っています。今回は一般向けに、2009年の東芝ノートパソコン(15.6型)ヘッドフォン端子で音の比較をしました。ハーマンカードンの小型スピーカを積んだ音にこだわった機械で、AKGのK404という3千円台で買えるヘッドフォンでも明瞭に差が出ます。ちりちりした歪が除去されたクリアーな音になります。もちろん何万円かする上級機なら当然、明解です。

 CDよりも高精細の波形が扱えるハイレゾ機能のUSB機器に買い換えたいとも考えています。健康診断の耳の高音チェックでもあまり衰えていないので楽しみにはしていますが、アルバム1点3000円くらいを新たに買い揃えるのは大変です。月980円の「Music Unlimited」で以前に興味があったけれど聞けなかったアルバムをたくさん聞く方が面白いとも感じています。最近、美空ひばりの重厚なコレクションが加わったのも魅力です。この不世出の歌手、実はオリジナル曲はあまり聴きません。持っているアルバムは晩年に本人が選んで歌った「日本の名曲」シリーズ中心で、どれをとってもオリジナル歌手より深い読み込みと圧倒的に多彩な表現力にまいります。そのカバーソング集が大量に聴けるようになりました。ハイレゾ機器への投資は今少し待ちましょう。


国際成人力調査で優秀だった日本の欠陥がまた判明

 読解力と数的思考力でトップを得た国際成人力調査は手放しで喜べず――裏側に大きなデジタルデバイド問題を内包していたと指摘しましたが、さらに知的好奇心の面でも日本は欧米に比べ特異に低いと判明しました。OECD国際成人力調査の生データを独自分析したのが《成人の知的好奇心の国際比較》(データえっせい)です。以下に引用するグラフが示すように設問「私は新しいことを学ぶのが好きだ」に「とてもよく当てはまる」か「よく当てはまる」と回答した日本人は43%しかなく、米国人の81%とは大きな開きがあります。パソコンの苦手ぶりはわたしの『デジタルデバイド問題が表面化した国際成人力調査』で扱っています。


 好奇心についての設問は最初の背景調査の項目です。背景調査の後、パソコンで回答できるグループは「読解力」と「数的思考力」に「ITを活用した問題解決能力」を答え、パソコンが出来ないグループは紙で読解力と数的思考力だけに答えています。グラフにある数的思考力の点数は両グループを合算した結果です。北欧三国にフィンランドは成績が良い上に知的好奇心も高い特徴があります。日本は成績は平均288点とトップですが、知的好奇心では下から2番目なので先進国全体から大きく外れた場所にいます。米国やフランスなどは好奇心旺盛なのに成績は下位、英独はどちらも平均的な位置につけています。

 分析した舞田敏彦さんは《今から10年,20年先のことなんて分からない。インターネットをも超えるテクノロジーが出現するかもしれない。こういう変動社会において,躍進する可能性を秘めているのはどちらか。現在のみならず「未来」の視点も据えるなら,日本の位置に対する評価も変わってくるでしょう》と警鐘を鳴らしています。

 デジタルデバイド問題との絡みでは、イタリア人は日本以上にパソコンが苦手ですが、知的好奇心の点では8割と米国並みです。知的好奇心の最下位は韓国の36.5%で、パソコンが出来ない割合が30%と日本の36.8%に迫っています。日本と似ているとも言えます。上述『デジタルデバイド問題が表面化した国際成人力調査』で取り上げた、10代におけるPCリテラシーやネットワークリテラシーの日米格差にも視野を拡大して考えるべきでしょう。成績を見る限り若い頃の勉強は身に付いているのだが、新しいものに好奇心を持って挑む意欲が若い頃から乏しいのでは困ります。


国立大学改革プラン、文科省の絶望的見当違い

 文科省が公表した国立大学改革プランには絶望的な見当違いがあります。巨額ながら生命線資金でしかない運営費交付金に手を付けて競争的資金にする愚と、大学を評価する能力を持たないのに持っているとの錯覚です。本当に発動されたら国立大学法人化後、運営費交付金を年々絞られながらも辛うじて保たれてきた従来型バランスが一挙に崩壊するでしょう。第363回「大学に止めを刺す恐れ大、教育再生会議提言」で《「世界トップ100に10大学」という皮相な数値目標が達成された時、全体を支えるピラミッドが崩壊、高いペンシルビルがそびえて、それも長くは維持できなくなるでしょう》と指摘した「悪夢」に向かって確実に動き出したと見えます。

 国立大学法人運営費交付金は2013年で1兆792億円と額は大きく見えますが、授業料収入と合わせて教職員人件費や諸経費といった大学の基礎的な運営に充当されています。法人化初年の2004年には1兆2415億円あったのですから、10年間で13%も減額されました。以前なら少額ながら研究資金として配る余裕があったのに、今やかつかつの運営をするだけの生命線と化しています。研究費は外部から競争して獲得して来るようになりました。

 今回の国立大学改革プランの大きな柱は、その運営費交付金のうち4000億円を改革に積極的な大学に重点的に配分する点にあります。文科省が考える改革に沿わなければ、生命線以下の資金にして切り捨てもやむ無しと露骨に表明していると言えます。

 「今後10年で世界トップ100に10大学」と並んで当面の目標で掲げられた「教育研究の活性化につながる人事・給与システムに」と大幅な年俸制導入が何がしたいのか示しています。大学の教員は多すぎるから間引いて、もっと効率的に人件費を使えと言いたいのを、オブラートに包んでいます。財務省の文書「総括調査票」に「設置基準上の必要教員数と教員数の対比では、いずれの分野においても設置基準以上であり、最大で約4.7倍(常勤・非常勤教員数では約3.7倍)となる分野がみられる。特に、個々の分野の特性を勘案しても、教員数が過大となっている分野では教員数の抑制を図る」とあります。

 教員のクビを切る「間引き」が思うままに可能なはずはありません。内閣府の「2.2.4人件費削減の影響−常勤教員に関して」が「人件費削減の影響は特に35歳以下の若手教員層に強く反映される傾向があること。常勤教員給与総額の削減幅が大きい法人では当然若手教員数の減少も大きなものとなるが、総額を維持している大学でも一定程度の若手教員の減少を余儀なくされている場合がある」と報告しているように、人件費削減にさらに踏み込めば減っていくのは戦力になる若手研究者です。

 大学への評価体制を強化して行くとの方向にも、始めの一歩から間違っているのだから話にならない面があります。2004年に書いた第145回「大学改革は最悪のスタートに」で日本で評価が機能しない根本には研究者同士のピアレビューが出来ていない、たこつぼ型研究の実態があり、学閥のネームバリューに頼って恥じない研究費配分がまかり通る現状を変える必要を訴えました。文科省は評価が出来ない大学人に加え、外部からの声を入れれば機能すると考えているのだから何も見えていないと断じるしかありません。

 第363回「大学に止めを刺す恐れ大、教育再生会議提言」で取り上げている、先進国中で日本の論文数だけが特異に減少しているグラフを掲げます。


 国立大学改革プランには産業界からの共同研究受入額や特許収入が法人化後に増えたとする皮相なグラフはあるのですが、内閣府総合科学技術会議に出されたこのグラフは大学内部で何が起きているのか伺わせるのに、文科省は興味が無いようです。

 【参照】インターネットで読み解く!「大学」関連エントリー
     『安倍政権は技術立国の底辺にも目利きにも無知』


デジタルデバイド問題が表面化した国際成人力調査

 経済協力開発機構が初めて実施した国際成人力調査で日本は「読解力」と「数的思考力」でトップなど優秀でした。その半面でデジタルデバイド問題が一気に表面化、パソコンでなく紙での回答が36.8%と異例の高さになってしまいました。キーボードへの慣れが昔から欧米とは違うと言われますが、20年前から中学校で始まった技術家庭科「情報基礎」など、多くの人には不要のプログラミングにこだわる堅苦しい内容の情報教育が必ずしも成功していません。そうしたツケが、国際比較の場で数字になって現れたと見ます。

 時事通信の《日本、読解と数的思考1位=IT活用、PC利用者トップ−初の成人力調査・OECD》はこう伝えました。《日常生活や職場で必要とされる技能(成人力)を測るため、経済協力開発機構(OECD)が24カ国・地域の16〜65歳を対象に初めて実施した国際成人力調査(PIAAC)の結果が8日公表され、日本は3分野のうち「読解力」と「数的思考力」で1位だった。「ITを活用した問題解決力」でも、パソコン(PC)で調査を受けた回答者の平均点ではトップだった》

 国立教育政策研究所がまとめた「OECD国際成人力調査(PIAAC)調査結果の要約」によると、日本からは住民基本台帳から無作為抽出した5200人が参加している大規模な調査です。調査の入り口でコンピュータを使った経験を聞かれ、(1)「使った経験がない」(2)コンピュータによる調査を拒否(3)経験があっても導入試験で不合格――の3つの場合は紙による回答に回り、「ITを活用した問題解決力」の設問は受けません。日本の場合は(1)10.2%(2)15.9%(3)10.7%にものぼりました。この合計36.8%はOECD平均値24.4%を大きく上回りました。IT活用設問に答えた日本人は優秀だったのですが、そもそも答える対象外に3分の1以上の人が入っていたわけです。

 IT活用設問に答える対象外にこんなに多くの人が入るのは、日本以外ではポーランドの49.8%、イタリアの41.5%があるくらいです。米国15.6%、ドイツ17.7%などIT先進国には例がありません。

 2000年に書いた第85回「iモード狂騒に見る情報リテラシー」で「お手軽iモード」で情報リテラシー教育もなく情報の海に投げ出された若い世代の狂騒ぶりを描きました。その当時の通信白書が「特に目立つ傾向としては、10代における日米の格差であり、PCリテラシーで20.3ポイント、ネットワークリテラシーで30.7ポイント、日本の方が劣っている」としているのですから、今回の調査結果はその延長にあると見るべきでしょう。2011年には『日本人の4割はパソコン無縁:欧米と大きく乖離』とも報じています。


自炊代行違法判決で非破壊スキャン機普及に拍車か

 電子端末で読書するための画像変換「自炊」を業者に代行させるのは違法と、9月末に東京地裁が判決を出しました。著作権法の判例から予測できた判決で、これで非破壊スキャン機の改良と普及に突き進む予感がします。代行サービスの場合は本の所有者が背の部分の裁断とページのスキャンを依頼します。スキャンした裁断原本を廃棄する原則を守れば「本」の数は増えません。今年夏、登場した非破壊スキャン機は図書館から借りた本からでもスキャンした「画像本」を作ってしまいます。代行業者の駆逐が、裁判に訴えた作家ら著作権者にとって本当に良い選択だったのか疑問です。何しろ日本のメーカーは狭い市場でもニーズがあると認識したら、安くて便利な機械に進化させるのが得意なのです。

 著作権法が許している私的複製に、著作物を所有している利用者の代行サービス依頼が当たるかが問題でした。公開された判決文は極めてオーソドックスで、身も蓋もありません。「複製の対象は利用者が保有する書籍であり,複製の方法は,書籍に印刷された文字,図画を法人被告らが管理するスキャナーで読み込んで電子ファイル化するというものである。電子ファイル化により有形的再製が完成するまでの利用者と法人被告らの関与の内容,程度等をみると,複製の対象となる書籍を法人被告らに送付するのは利用者であるが,その後の書籍の電子ファイル化という作業に関与しているのは専ら法人被告らであり,利用者は同作業には全く関与していない」

 裁判官は過去の判例の積み重ねから逸脱できません。当然ながら違法の判断になり、一部の業者は不服として控訴を表明していますが、ひっくり返す展開は非常に難しいでしょう。

 7月に発売された非破壊スキャン機について『書籍流通に大波乱か、非破壊スキャン機が登場』で、予約段階で定価59800円から5万4千円前後に下がったと伝えました。価格コムの「ScanSnap SV600」価格推移を見ると、現在は最安値が更に9千円も下がって、4万5千円を割っています。需要の旺盛さを表していますし、次の新製品が見え始めているのかもしれません。

 実際に使用した人の意見があちこちで読めて、やはり本のページをめくっていくのが煩わしいようです。それでも代行サービスに頼んで蔵書のかさを減らしたい人なら、自宅にアルバイトを頼んででも処理してもらう利便性はありそうです。もちろん、技術開発でページめくり装置ができれば申し分ありません。図書館の蔵書を高速高精度で画像化するシステムが動き出していますが、あちらは値段が千倍くらい違います。多少はスピードが遅くても何とか安価に考案してしまうのが日本なのですが……。

 非破壊スキャン機が家庭や職場などにかなり普及する事態になれば、単行本や漫画本などが大きな影響を受けざるを得ません。ちょうど、カラオケサークルの愛好家たちが歌手のCD新譜を買わずにコピーし合って居るような状態が起きてしまうでしょう。


ブルーレイが個人用でDVD逆転:高画質アニメが牽引

 ブルーレイ・レコーダが世に現れて10年、6月ついに個人用ソフトの販売金額がDVDを上回りました。牽引しているのは「ヱヴァンゲリヲン」など国産の高画質アニメで、ハリウッド映画でない点が興味深いところです。家庭用テレビはほとんどが高精細タイプに置き換わってDVD画質では不満が出る状況ですから、ブルーレイが主流になるのは当然の成り行きです。

 AVWATCHの《販売用BDの単月売上金額が初めてDVDを上回る》は「6月の販売用BD/DVDの売上金額は前年同月比90.7%の147億7,300万円となったが、DVDの売上金額が同63.7%(71億9,400万円)と落ち込んだのに対し、BDの売上金額は同151.5%(75億7,900万円)の伸長となった。このため、販売用の単月売上金額で、初めてBDがDVDを上回った」と伝えました。

 日本映像ソフト協会が発表した「2013年 ビデオソフト月間売上速報」によると上半期の合計では、DVDの505億円に対してブルーレイは372億円です。2012年は1.7倍の差があったのに、この上半期で1.35倍になり、ついに単月で逆転です。

 今年前半でブルーレイの売上トップは「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q EVANGELION:3.33 YOU CAN (NOT) REDO.」で37万6000枚を売りました。DVD版の2倍も売れています。オリコンの最新ウィークリーランク8月5日付では「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [前編]始まりの物語/[後編]永遠の物語」が8万枚ですし、「宇宙戦艦ヤマト2199」や「ガールズ&パンツァー」などの国産アニメがよく売れています。

 ブルーレイソフトのレンタルが始まった2010年初めに『ブルーレイディスクの本格普及が見えた』を書いています。日本市場がブルーレイソフト普及の世界的先駆けであり、マニアックで高度な家電製品を真っ先に買う日本の消費者の特性を指摘しました。それから3年かけてのDVD逆転です。画質の差を意識されるようになるとブルーレイの普及が加速されるはずです。


書籍流通に大波乱か、非破壊スキャン機が登場

 書籍が無傷のまま電子本にスキャンしてしまえる非破壊スキャン機が登場、7月発売なのに見る見るうちに人気を上げています。限られた好事家の範囲に留まらない可能性が高まり、書籍流通に大きな波乱要因発生です。「ScanSnap SV600」が12日に発表された時点ではアマゾンでメーカー直販価格と同じ59800円での予約だったのに、既に5万4千円台まで下がり、相当な引き合いがあったと考えられます。いわゆる「自炊」の簡便化で、オフィスや家庭などへの普及具合によってはベストセラー本の売れ行きが大幅にしぼんでしまう恐れがあり、市場の縮小で苦しむ出版業界には打撃になります。


 図のようにA3サイズでスキャンは3秒です。本の厚さは3センチまでです。東大生協に置かれたデモ機をリポートした《話題の非破壊型スキャナ、ScanSnap SV600に触れた》によると《台座部分にある「Scan」ボタンを押すと、ヘッドが動き対象物に光が照射されあっという間に見開き2ページ分のスキャンが終わった。次のページのスキャンができる状態になるまで約10秒待ち、ページをめくるとその直後にまたヘッドが動きスキャンされた》とあります。200ページの新書なら見開きでスキャンして20分余り必要になります。もし指で本を押さえて写り込んだら、後から消せます。

 手持ちの本を代行業者に持ち込んで本の裁断とスキャン作業をしてもらう電子書籍化に、著作権者側から異議が出て、《本の自炊代行、基本ルール合意 業界団体と権利者団体》が伝えられたところでした。「自炊代行業者は、電子化したファイルが私的利用を超えて外部に流出しないようにするほか、電子化後は紙の書籍を溶解処分するという。こうしたルールを守るための第三者による監視組織も設ける」のですが、手頃な価格の非破壊スキャン機が普及したら尻抜けです。

 非破壊スキャンですから、図書館や友人間で本を借りたり、新刊書を買ってスキャンして直ぐに売り払ったりできます。レンタル店でCDを借りて、音楽のコピーを作るのは当たり前になっています。それが書籍で可能になる事態です。大日本印刷と東京大が昨年、ページめくりもロボット化して超高速の非破壊3Dブックスキャナを発表、図書館の貴重な蔵書の電子化を受注することになっています。そんな大掛かりな装置は要らないから手頃で安く便利に、をあっさり実現してしまうのが日本のメーカーらしいところですが、社会的な影響は大きいと思えます。


大学に止めを刺す恐れ大、教育再生会議提言

 政府の教育再生実行会議がまとめた「世界トップ100に10大学」提言は崩壊しかけている日本の大学を救うどころか止めを刺すでしょう。絶対的不足の公費支出を頂点に重点配分すれば底辺が枯渇、やがて全体も死にます。2004年の国立大学法人化以降、大学や研究機関の活力を示す論文数の伸びが止まり、減少に転じました。先進国の中で論文数が右肩上がりでないのは日本だけです。高等教育への公財政支出は、GDP比でOECD諸国平均の半分もありません。今回提言の参考資料にあるグラフで、財政支出の絶対不足をまず確認して議論しましょう。


 OECD諸国平均がGDP比1.1%なのに、日本は0.5%です。1.8%もある北欧、1%を超える水準で並ぶ西欧、米国の1%とも、公財政支出は比較になりません。学生個人についてなら日本の家計支出が大きく負担しています。この参考資料にある別のグラフ「高等教育への公財政支出の推移」を見ると、2000年比で日本は少なかった財政支出を減らし続け、2008年にやっと元に戻し、2009年で5%増しに過ぎません。この間、OECD諸国平均は138%になっています。財政支出が少ない上にますます差が開いているのです。

 日経新聞は「大学教育などのあり方」に関する提言について《「世界トップ100に10大学」 教育再生会議が提言》でこう伝えました。《海外で活躍する人材育成のため「今後10年で世界の大学トップ100に10校以上」を目指して国際化に取り組む大学を重点支援することや、英語を小学校の正式教科にすることなども求めた》《提言を受けた安倍首相は同日、「大学力こそ日本の競争力の源で、成長戦略の柱だ」と述べた。提言の一部は6月に政府がまとめる成長戦略に盛り込む》

 世界大学ランキングで日本の大学が弱い部門は国際化と論文引用です。東大と京大に続いてトップ100に押しこむためには、ここに重点的な支援が必要だとしています。提言本文も「高等教育に対する公財政支出は、国際水準に比して低く、国私立間格差も大きい現状があります」とさらりと触れ、「制度面・財政面の環境整備」に言及しますが、全体に及ぶ問題で膨大なお金が掛かり、具体的には何の改善策も書かれていませんから素通りされるでしょう。易きにつく官僚の政策的ツマミ食いは重点支援に向かうはずです。

 大学の実態は既に危機的です。論文数が特異に減少していると1年前に指摘した元三重大学長、豊田長康氏の「あまりにも異常な日本の論文数のカーブ」が反響を呼び、あちこちの議論で引用されています。内閣府総合科学技術会議「基礎研究および人育成部会」の資料として提供されたグラフを引用します。


 豊田氏は「この図をみると、少し太めの赤線で示されている日本の論文数が、多くの国々の中で唯一異常とも感じられるカーブを描いて減少していますね。いつから減少しているかというと、国立大学が法人化された翌年の2005年から増加が鈍化して2007年から減少に転じています。他の国はすべて、右肩上がりです」「法人化と同時期になされたさまざまな政策、たとえば運営費交付金の削減や、新たな運営業務の負担増、特に附属病院における診療負担増、政策的な格差拡大による2番手3番手大学の(研究者×研究時間)の減少、などが影響したのであろう」と指摘します。

 議論があるところですが、大学改革と称して足りていなかった財政支出をさらに絞り、絞った研究費を競争的に傾斜配分して研究者に無駄なエネルギーを使わせてきたと考えるべきです。日本の大学にきちんとした評価システムが無いまま、旧帝大中心の学閥的な予算配分に傾斜した結果でしょう。質的な改革を主張した第145回「大学改革は最悪のスタートに」で憂慮した以上の失敗の道をたどっていると感じます。「世界トップ100に10大学」という皮相な数値目標が達成された時、全体を支えるピラミッドが崩壊、高いペンシルビルがそびえて、それも長くは維持できなくなるでしょう。

 【参照】インターネットで読み解く!「大学」関連エントリー


村上春樹VS小澤征爾を定額制音楽配信でフォロー

 新作が評判の村上春樹さんが一昨年出した『小澤征爾さんと、音楽について話をする』も随分話題になりました。この連休、村上さんの膨大なコレクションの向こうを張って定額制音楽配信で聴きながら読み直しました。この本を楽しく読むための専用CD3枚組が発売になっていますが、序盤でお二人の話の本線になっているベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番を色々と聞き比べ得る点だけでも、音楽配信の方が断然、優位です。

 十代のころに身に付いた習慣で、ベートーヴェンというとピアノ協奏曲とチェロ・ソナタ、交響曲のいずれも第3番の3曲を最もよく聴きます。ピアノ協奏曲第3番ならバックハウスやグルダなどドイツ本筋の巨匠たち、新しいところならば若手フォークトによるベルリン・フィル定期演奏会での秀演が印象鮮烈です。ところが、村上さんはカナダ人グレン・グールドによる、とても風変わりな演奏を聴くところから説き起こしています。

 バーンスタインが「あまりにも遅いテンポはグールドの望みだから」と釈明して伴奏した演奏はCD3枚組(3000円)にも収録されています。遅すぎて指揮棒を振る間が持てなくなっている、いや待ちきれなくなっているのがありありと分かるのは面白のですが、何度も聞こうとは思わない演奏でしょう。

 この後、同じ曲でカラヤン先生と演奏したグールドは意外におとなしかったり、バーンスタインがゼルキンと演奏すると超高速テンポで走る走る、ぐんと踏ん張るところが特徴の曲なのにどこにもその気配なしと、正統派の演奏とはかけ離れた空間から演奏の在り方に踏み込み、音楽を聞く楽しさにアプローチしていきます。いわゆる名盤をコレクションしたい音楽マニアからは「何でこんな演奏を紹介しているの」と言われかねない有様です。この場合、月額980円のソニー定額制音楽配信は気楽に便利な素材を提供してくれます。

 実は名盤をコレクションしたい人にも定額制音楽配信は有効だと思います。レコードやCDをよく買っていた頃、小遣いは無制限ではありませんから、悩ましいのは自分の嗜好に合った演奏か、どう判別するかでした。『レコード芸術』などで自分の好みに近い評論家に目星をつけて評論を読むしかなかったものです。多数の演奏を自由に聴ける今になって「CLASSIC MUSEUM」のようなサイトの名演奏ランキングを、自分の耳で確かめると同意しかねるケースがかなり多いと気付きます。

 音楽の好みはとても個人的なものです。『定額音楽配信サービスで音楽産業は持ち直すか 』『音楽産業の方向転換と音楽ライフ様変わりの可能性』でも指摘した、新しい可能性が開けた点を歓迎したいと思います。


音楽産業の方向転換と音楽ライフ様変わりの可能性

 WEBRONZAで本日、「音楽産業の方向転換と音楽ライフ様変わりの可能性」 をリリースしました。 《この3月、1カ月千円までの価格で広範囲な音楽が聞き放題になる定額制音楽配信サービスが国内でも相次ぎ動き出した。違法な音楽ダウンロード摘発に躍起になって、消費者を束縛する方向ばかりが目立っていた国内の音楽産業が内外を取り巻く情勢から方向転換したのだ。洋楽を中心に1300万曲のソニー「Music Unlimited」と、邦楽中心で100万曲を提供する「レコチョクBest」が主なサイトである。前者は非常に幅広い機器で聞け、後者は今のところスマートフォンだけながら夏にはパソコンでも使えるようになる・・・》

 また、親サイト「インターネットで読み解く!」の「定額音楽配信サービスで音楽産業は持ち直すか」の文末に関連する参照サイトのリンク集を整備したので、詳しく知りたい方はお使いください。

定額音楽配信サービスで音楽産業は持ち直すか

 2012年にCDなどの売り上げが14年ぶりに下げ止まった国内の音楽産業が、今年は反転上昇を本格化させるかも知れません。急速に細る一方の音楽配信が、聴き放題サービスの立ち上がりで息を吹き返しそうなのです。業界内で商売上の勝ち負けはあるでしょうが、著作権法による締め付けの話題ばかりで嫌になっていた一般の音楽好きにとっても久々の「春」になるのではないかと思えます。「2012年世界音楽売り上げ、13年ぶりに増加」とあるように世界と同期していたことも判明しました。

 《世界約1400社のレコード会社が加盟している国際レコード産業連盟によると、2012年の世界音楽売り上げは前年比0.3%増の165億ドル(約1兆5000億円)だった。小幅ながら売り上げ増に転じたことは、衰亡に向かっていると思われながらインターネット上での著作権侵害と戦ってきた音楽業界はほとんど歌を歌い出したくなるほどの結果だろう》

 世界規模で見るとデジタル音楽のダウンロード販売などが成長してCD販売減少を補う形です。しかし、国内は携帯電話(いわゆるガラケー)向け「着うた」などダウンロード販売で先行していて、スマートフォンの急速普及で逆に市場が縮小してきました。第328回「違法ダウンロードが霞む音楽業界の末期症状」で描いたように前年比で7割、8割とつるべ落としになっています。もちろん、売る音楽の中身にも問題を抱えています。

 海外で広まっている聴き放題の定額音楽配信サービスが、この3月、ようやく国内でも本格的になります。内外の楽曲1300万曲提供をうたうソニーの「Music Unlimited」が3月1日から月額980円(旧料金1480円)に引き下げ、アクセスするとサーバーの混雑が分かるほど混み合っています。国内各社が「着うた」に代わる存在として、J-POPを中心に100万曲提供する「レコチョクbest」も3月上旬スタートがアナウンスされています。こちらも月額980円です。スウェーデン生まれのスポティファイなど海外勢の日本進出の噂で、国内各社が背中を押された格好です。

 「Music Unlimited」に登録して半日ほど遊びました。レコードやCDをよく買っていた時期にも無制限に買えていた訳ではありませんから、好みのアーティストで買おうか迷ったアルバムがいくらでも転がっている状態は、確かにチャーミングです。インターネット上に無料の音楽ソースは増えていますが、そうした間に合わせアイテムと、自分の嗜好に合う音楽とは別物です。アンドロイドのモバイル機器で4000曲まで持ち出せるので、買ったのと実用上は変わりません。

 CDレンタル屋さんで見つかる可能性が無いアルバムが多数あることも確認しました。最近、クラシックやジャズなど古いCDを10枚、20枚と束ねたセットが1枚2、3百円くらいで売られていますが、月額料金を考えると自由度が大きい定額配信にしたくなります。オペラ歌手マリア・カラスのアルバムになると483枚にも上っていて、逆に選ぶのに困る状態です。ネット検索を併用して中身を調べながら聞かないと時間の無駄になるので、試される方はご注意下さい。「Music Unlimited」の検索機能はやや貧弱なので、アーティスト名などスペルはネット検索で確認してから入力するのが結局は早道です。
 ※注:高音質モード「HQ」にする方が音楽鑑賞にはベターです。画面右上「プレミアムユーザー」をクリックして「設定」を出して高音質モードをオンにしましょう。

 【参照】村上春樹VS小澤征爾を定額制音楽配信でフォロー


スマホ等でTV録画を寝床見する楽しさ広げたい

 急速普及のスマートフォンやタブレットでテレビの録画が寝床でも見られるのを知っていますか。アップル系にもアンドロイド系にも使える無料アプリで可能になっているのに、もったいないことに広まっていません。これまでは特定のDVDレコーダーと特定のモバイル機器の間に限って可能な「夢」だったために、一般には望むべくもないと思われてきました。それもこれも日本のデジタル放送コピー制限がんじがらめのためで、そこに風穴が開いた思いです。

 無料アプリは「Twonky Beam」と聞き慣れない名前。昨年11月にアップル系で番組視聴可能になったと伝えたニュース《iOSアプリ「Twonky Beam」がDTCP-IP対応。iPhoneで地デジ番組視聴》のタイトルを見て、一般の人がこれで寝床でテレビ番組が見られるのだと想像するのは難しかったと思えます。アンドロイド系タブレット『ICONIA TAB A700』とパナソニックのDVDレコーダーDMR-BWT2100で試している限りでは、地デジだけでなくBSの録画も見られます。DRモードの録画だけ見られないのが残念。DVDレコーダー側に放送中の番組を変換して送り出す機能がある新しい機種では、生の番組も見られるようです。


 写真にある15インチのノートパソコンには、テレビの録画用ハードディスクやDVDレコーダーから読み出せる有料ソフトウエアが組み込んであります。以前に寝床に持っていきましたが、写真の10インチタブレットと違って大きく重く取り回しが難しく、座って見るしかなくて楽しめない存在でした。布団の端にでも立てかけて視聴できるタブレットでは温々と横になって楽しめます。

 スマホの普及で家庭にも無線LAN中継器(ルーター)が入ってきています。このルーターが寝床見には必需品です。ルーターとDVDレコーダーとが有線か無線かでLAN接続されていなければなりません。ルーターは3、4千円程度で買えます。インターネット接続機器の下に繋げます。

 我が家の場合はサーバー機能があるハードディスクもLAN接続してあります。ここに手持ちのビデオや音楽を入れてあって、アンドロイド用の無料アプリ「MX動画プレーヤー」などで自由に再生しています。タブレット本体にも大量の書籍やコミックスが入っていますから、寝床に持ち込んで楽しめるエンターテイメントソースが昨年から大幅に増えました。

 問題は「Twonky Beam 新しいTwonkyアプリが誕生しました!」の説明が分かる人にしか分からない難解な点です。また、ここに書いてある対象タブレットに私の機種は無いものの使えています。ルーターがある方はまずトライしてみましょう。使ってみた情報を集めている「Twonky Beam最新レビュー」などをチェックするのが有効です。特定メーカーの製品だけの機能ではなくなったので、マスメディアがきちんとした紹介をして広める労を執って良いケースです。

 【参照】「国内で来年にはスマートフォン普及率が過半か」
   インターネットで読み解く!「デジタル放送」関連エントリー


違法ダウンロードが霞む音楽業界の末期症状

 6月に私的違法ダウンロード刑罰化法案が闇討ち的に成立、10月から施行されました。このタイミングでマイボイスコムが「音楽ダウンロードの利用に関するアンケート調査(第5回)」を実施して探った動向は衝撃的です。音楽にお金を使わない、ダウンロードもしない傾向が一段と鮮明です。CD売り上げ減少を補うと期待された有料音楽配信の売上高も、つるべ落としの激減ぶり。消費者に買いたくさせる魅力的コンテンツを育てずに、刑罰の力に頼ろうとする音楽業界は末期症状露呈です。


 「あなたは音楽CD・DVDの購入やレンタル、曲のダウンロードなど、音楽を聴くために1ヶ月あたりどの程度のお金を使っていますか」に対する回答が上のグラフです。全くお金を使わない層が2007年調査までは55%程度に止まっていたのに、2010年に62.5%、2012年は68.6%と拡大しました。2割前後いた5百円未満層が16.8%へ、11%くらいいた千円未満層が7.1%に細ってしまいました。千円から3千円という上得意層は2005年頃までの半分、5.4%です。


 「あなたはここ1年以内で、音楽のダウンロードに1ヶ月あたりどの程度のお金を使っていますか」の質問に答えた上の集計グラフで、無料でもダウンロードしなくなっている傾向がはっきりします。1年以内にダウンロードしていない層が2010年の32.4%から2012年は43.9%まで増え、無料ダウンロード層が30.4%から24.2%に減りました。

 日本レコード協会の「有料音楽配信売上実績」から四半期ごとのデータを抜粋したのが下の一覧表です。

《有料音楽配信売上実績(四半期毎)》  
    (単位)数量:千回,金額:百万円
           数量 前年同期比 金額 前年同期比 
 2008/1-3   120,827 106%   22,463 128%
 2008/4-6   118,955 107%   22,502 128%
 2008/7-9   118,112  97%   22,225 111%
 2008/10-12 121,294 103%   23,360 116%
 2009/1-3   118,281  98%   22,465 100%
 2009/4-6   115,448  97%   22,149  98%
 2009/7-9   117,444  99%   23,015 104%
 2009/10-12 117,050  97%   23,352 100%
 2010/1-3   111,935  95%   22,074  98%
 2010/4-6   110,496  96%   21,376  97%
 2010/7-9   111,902  95%   21,561  94%
 2010/10-12 107,124  92%   20,978  90%
 2011/1-3   101,772  91%   19,337  88%
 2011/4-6    94,248  85%   18,637  87%
 2011/7-9    88,657  79%   17,505  81%
 2011/10-12  82,608  77%   16,482  79%
 2012/1-3    78,171  77%   15,410  80%
 2012/4-6    67,146  71%   13,173  71%

 2010年から売上高が落ち始めた勢いはどんどん加速していて、2011年後半からは前年同期比8割ペースになり、今年の第2四半期は何と前年同期比71%です。前年比1割程度の減少で推移しているCDなど「オーディオレコード総生産金額」と比べて、尋常でない印象です。

 2010年はスマートフォンが脚光を浴びた年であり、いわゆるガラパゴス携帯からの移行が始まりました。スマートフォンに移る過程で従来の配信サービスが使えなくなりました。ユーチューブなどで視聴でき、無料音楽アプリも多数ある結果、売上高が落ち込みました。しかし、《2011年度「音楽メディアユーザー実態調査」報告書公表》に「スマートフォン所有者は音楽への関心が高く、音楽への支出額が多い。新品CD購入では約3割、有料音楽配信では6割弱を占める」とあるように、スマートフォン所有者は有望な音楽消費者なのです。有料音楽配信の落ち込みが異常なまでに進むのはチャーミングなコンテンツが足りないと考えざるを得ません。「AKB48」の人気が全盛になるほど音楽配信売上減が進んで見えるのは単なる偶然なのでしょうか。下の参照記事にあげた第127回「音楽産業は自滅の道を転がる」の業界体質に改善がありません。

 【過去のインターネットで読み解く!「音楽」参照記事】
2002年……第127回「音楽産業は自滅の道を転がる」
2005年……「アップル配信で音楽業界の目は醒めるか [ブログ時評31]」
2009年……第185回「音楽不況に追い打ち、ネット配信もダウン」



20歳前後世代で気になる生活時間使い方変化

 総務省の「平成23年社会生活基本調査 生活時間に関する結果」で「交際・付き合いの時間は平成13年調査以降減少傾向で,15〜24 歳で大幅に減少」と判明しました。20歳前後世代が忙しいのか、といえば違います。休養・くつろぎの時間を過去10年間で最も増やしている世代です。また、趣味・娯楽にどの世代よりも多くの時間を費やしています。「交際・付き合い」、「休養・くつろぎ」、さらにもう一つ世代間で特徴的な「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」の時間での世代別動向グラフを並べてみます。


 自由活動時間全体では過去から大きな変動はありません。その中で20歳前後世代は「交際・付き合い」と「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」の時間を大きく減らし、「休養・くつろぎ」が顕著に増えています。時系列の変動は分かりませんが「趣味・娯楽」に1週間で15-19歳102分、20-24歳115分、25-29歳93分と年上世代より断然多くの時間を割いています。「学業以外の学習・自己啓発・訓練」という項目があり、これにも年上世代より時間を掛けています。ネットを使って情報を集めたり楽しむ行動が若者には多いはずです。どこの時間に入っているのか考えると、「趣味・娯楽」などの項目に分散しているのかも知れません。

 それにしても若者の特権とも言える「交際・付き合い」時間の目減りは強烈です。20-24歳をみると2001年の52分が、2006年に40分、2011年には36分です。過去5年、10年の動きと連動していると思わざるを得ないグラフを最近見ました。人工妊娠中絶の推移グラフです。「人工妊娠中絶数、20万件台まで減少- 厚労省統計、20歳未満では増加」(キャリアブレイン)から引用します。


 人口千人当たりの中絶率は20-24歳や20歳未満で2001年ごろにピークがあって、そこから転げ落ちています。「出来ちゃった婚」に置き換わっていればハッピーですが、男女交際自体の減少と考えざるを得ません。第311回「性交経験率低下:もっと魅力的なモノ存在?」 インターネットで読み解く!)でも、この傾向ははっきりしています。

 【参照】インターネットで読み解く!「若者」関連エントリー


深夜帰り『午前様』の父親は大幅に減る傾向

 午後10時以降の深夜や午前零時を回って家庭に帰る父親は、過去5年で大幅に減る傾向にあります。『午前様』はやがて希少種になるのかも知れません。厚生労働省の「21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)」は平成13年出生児の親を対象に毎年、継続して調べています。第10回で回収数34,124、回収率92.3%と信頼度が高いアンケート調査なので、家庭の実態を知るのに便利とみました。一例として、子どもと同居している父親の帰宅時刻にしぼって集計から抜き出してみました。


 上のグラフ「父親の帰宅時刻の推移」の数値データは以下の通り。設問は「ふだんの帰宅時間は何時か」です。

  帰宅時刻  2006  2008  2011  
  5〜10時  62.1%  64.1%  66.0%
  10〜12時  19.7%  18.7%  16.8%
  午前零時〜  7.1%   4.8%   3.8%

 『午前様』は2006年と2011年を比べると54%、ほぼ半減です。深夜帰りと『午前様』の合計でも26.8%が20.6%へ落ちました。グラフに現れていないのは昼間の帰宅や交替勤務の父親です。

 普通の時刻に帰ってくるお父さんが3分の2にもなったのは、不況のせいでかつてよりは残業が減っている影響があるでしょうが、2011年の残業時間は最近では最も多かったとされています。「サラリーマン平均年収の推移」に見られるように、15年前の1997年467万円をピークに年収が減り続けている事情がやはり大きいと考えられます。各年の該当分を抜き出すと、2006年435万円、2008年430万円、2011年は409万円でした(民間給与実態統計調査から)。

 10歳児を持つ父親といえば、40歳を中心にした中堅層でしょう。5年ほどの間にこれほど目に見えてアフターファイブの行動が変わると、夜の繁華街が寂れていくのは当然と思われます。

 【参照】インターネットで読み解く!「家庭」関連エントリー


性交経験率低下:もっと魅力的なモノ存在?

 朝日新聞が伝えた《女子も「草食化」、経験率減る 日本性教育協会調査》は、妊娠中絶減少などから推測されていた若者のセックス離れを確認する調査結果でした。昨年の第240回「若者はセックスまで避けだしているのか」に減っている中絶数や性感染症の患者数グラフを掲げています。この機会に東京都性教育研究会のデータもネット上で収集すると、やはり「地殻変動」が起きているようです。

 「1974年の調査開始以来、一貫して上昇傾向にあった女子大学生・女子高校生の性交渉の経験率が下落に転じたと、日本性教育協会が4日、公表した」「性交の経験率は男子大学生が54%、女子が47%。前回の05年と比べると、男子は7ポイント、女子は14ポイント減り、女子の減り幅が大きかった。高校生も男子が前回の27%から15%に、女子が30%から24%に減少。大学生・高校生とも男子は93年、女子は99年の水準に下がった」「キスの経験率は男子大学生が66%(前回72%)、女子が63%(同72%)、高校男子は37%(同48%)、女子44%(同52%)で、いずれも上昇傾向にあったのが今回の調査で減少した」。グラフを引用します。



 東京都のデータは2005年までのグラフが《思春期の性行動と性差/「産婦人科治療」 特集 思春期の教育と医療》にあり、「都性研’08児童・生徒の性意識性行動調査結果の概要(2008.11.12更新)」から2008年分を補って引用しました。

 東京の2008年調査で、性交経験率は高3男子47.3%、高3女子46.5%、中3男子5.5%、中3女子8.3%です。高3は全国調査と違ってほぼ大学生並の高い水準です。興味深いのは2008年調査で中学生についてです。「性交についての願望は『経験してみたい』は男子31%、女子14%となり、特に男子は99年以降40%近くも減少し続けており、この点をどのように捉えていくか課題である」との指摘です。中3男子は1999年に性交経験率のピーク15.3%を記録してから、2002年12.3%、2005年4.3%と激減、かつてない低水準になっています。セックスよりも関心を引くモノが中学生の頃から身近にあるのでしょう。例えば2000年にパソコン普及率が5割に達し、ネット利用率も34%になっています(普及率データ)。

 2010年国勢調査関連の第267回「30前後世代に明確な結婚回帰:国勢調査を分析」を見ていただくと、50歳時点の生涯未婚率予測を世代別に出しています。今、大学生の世代は男性が32%、女性が23%も未婚のまま過ごすと考えられます。性交経験率低下は、この非婚化傾向に拍車を掛けるかも知れません。

 【参照】インターネットで読み解く!《人口・歴史》


連休で遠出できない方にグーグル2新サービス

 個人情報関連で色々な物議を醸しているグーグルですが、新しいサービスに素晴らしい物が2件あります。大型連休でも遠出が難しい皆さん、これでお楽しみください。ひとつは《お金がいらない世界旅行! Googleマップが世界の1万5000以上の観光名所を回れる3D「フォトツアー」を開始》、もうひとつは世界の美術館・博物館めぐり、《Art Project》です。

 ★3D「フォトツアー」は《写真共有サービス「Picasa」と「Panoramio」に投稿された写真を組み合わせて、3D表示するという仕組みを利用しており、よりリアルな世界旅行が味わえる》サービスです。欧州が高密度に設定されていて、例えばスペイン・バルセロナで、サグラダ・ファミリアなどガウディの足跡を辿るなら文句無しです。市内のあちこちにある建築物の写真が数多くあって、次々に出てくる「次のツアー」を辿るとたっぷり楽しめます。

 アジアでは日本が特に多く設定されています。京都・三十三間堂から始めると京都タワー、東寺、東福寺、伏見稲荷大社…と京旅行を果てしなく楽しめます。なお、台湾もやや多く、中国、韓国などは少な目です。

 問題が1点あります。ブラウザがインターネットエクスプローラでは3D表示が不可能で動きません。まだ半数の方はこのブラウザでしょうから、「グーグルクローム」をインストールするなどしてください。(参照元:フォトツアーリスト……世界版日本版

 ★《Art Project》の方はどのブラウザでも構いません。早速、名画鑑賞を始めましょう。例えばレンブラントの「夜警」を選ぶと、レンブラント作品が下段にずらりと並びますから選び放題です。用意したリンクは有名作品直行にしてありますが、美術館や芸術家の名前からも入れます。上部のリンクを使ってください。日本からも美術館と博物館6館(東京国立博物館大原美術館)、台湾から故宮博物院も加わって、世界150館以上、3万件の美術品が楽しめます。自分専用のコレクションも作れます。

 「夜警」のような有名作品、絵巻物などは非常な高精細で収録されていて、望みの部分の大きく拡大できます。この機能を生かすためにも、パソコンのディスプレイはフルスクリーンにして見たいものです。さらに「F11」キーを押してブラウザの外枠を消すことをオススメします。マウスで次々に選択して前に進めばよいし、戻るなら「バックスペース」キーを使います。ブラウザの外枠を再表示するなら「F11」キーです。

 【参照】インターネットで読み解く!「文化・スポーツ」関連エントリー


米国の学資ローン返済地獄に近づく日本

 日本では名前だけ奨学金と呼ばれる学資ローンの返済地獄ぶりが、だんだん米国に近づいてきています。朝日新聞の《奨学金1万人滞納 金融・信販会社に登録》は日本学生支援機構(旧日本育英会)が「2010年度末時点で123万1378人に総額1兆118億円を貸し出し、3カ月以上の滞納額は約2660億円に上る。回収強化のため、10年度から3カ月以上の滞納者の情報を信用情報機関に登録し始めた」と滞納の多さを報じました。

 米国の学資ローン規模は借りている額も人数も格段に大きく、ニューズウィーク日本版の《米経済を圧迫する学生ローン地獄》は「アメリカの学生ローンの残高がついに1兆ドルを超えた」「借り手の多くは利率や返済期限をきちんと確かめずにローンを組むため、卒業後の返済に苦労するはめに。ニューヨーク連邦準備銀行によれば、借り手の25%以上が返済期日に遅れている」と伝えています。

 平均の数字に疑義があったので原資料である「High Debt, Low Information:A Survey of Student Loan Borrowers」にあたると、借りている人は3700万人ですから、平均すると2万7000ドルの借金になります。日本の平均80万円に対して米国220万円くらいでしょう。社会人になっていきなり2百万超の借金があるのでは大変です。マイホームを夢見て「住宅購入の頭金を貯めるより毎月の返済で手一杯になっている」人がこれだけ多数いれば住宅市場にも響きます。

 日本でも「機構や大学から奨学金を受ける学生の割合も増えており、機構の調査で初めて5割を超えた」とされている点が目を引きます。不況による親の収入減少もあって借りることが当たり前になっているのです。それなのに若者の半数は非正規の雇用になっている現状では、就職しても返済していく余力に乏しくなっています。

 実態はさらに深刻と示唆するデータが公表されました。《雇用:10年春新卒者、半数以上就職できずまたは早期離職》(毎日新聞)が「推計によると、大学・専門学校卒では、大学院などへの進学を除いた77万6000人のうち、約7割の56万9000人が10年春に就職した。しかし、このうち19万9000人が3年以内に離職。卒業後、無職・アルバイトなどの人(14万人)と、同年春卒業予定で中退(6万7000人)を加えると、無職か安定した職に就いていないとみられる人は40万6000人に上り、全体の52%を占める」と報じていて、ローンを返さねばならない人の相当多くは不安定な経済状態にあると見られます。

 《「大学無償化」国連人権規約を協議へ 外務省が留保撤回》(朝日新聞)が伝える「大学や高専など高等教育の段階的無償化を求めた国際人権規約の条項について、30年余り続けてきた留保を撤回する方針を固めた。文部科学省などと協議して手続きを進める。授業料の減額や返還不要の奨学金の導入など、条項に沿った施策に努めることを国際社会に示す意味合いがある」が真剣に検討され、実効性がある政策になるべきです。
 【参照】生涯未婚率急増への注目と日米・貧困で非婚化
     30代の『家離れせず・出来ず』は相当に深刻

明治の立体写真など3件:Facebookページの話題

 Facebookを始めていることは少し前にお知らせしていて、ブログで扱うより話題の幅を広げています。最近、私のページで面白がられた明治の立体写真を簡単に見られるウェブなど3件のトピックを紹介します。もっと多様な話題を扱っているので関心がある方はおいでください。「団藤保晴」で検索すれば直ぐに見つかります。

 ★明治初期の写真を立体視

 DDN JAPAN(DIGITAL DJ Network)の「飛び出た!4万枚の歴史的立体写真をニューヨーク公共図書館がGIFアニメ化」を見て、左右2枚を並べた写真からする面倒な立体視を、ウェブ上で簡便に実現できる点に感心しました。アニメーションGIFといって、1画像がいくつかの動作を繰り返す画像テクニックで見えた感じになるのです。残像を利用しているのでしょう。

 ところが、よく読んでみると、同じサイトで2年前に「飛び出た?GIFアニメで明治初期の写真を3Dにしてみたから見て。 21枚。」として試みられていて、日本人の感覚ならこちらがずっと興味深い素材です。日本の原風景のような景色、人物像ながら、奥行きがある立体視で見るととても新鮮です。

 ★Twitter発言で入国拒否騒動

 SPA!の《「ツイッターで入国拒否」騒動でわかった米政府のSNS検閲》が「1月末に米国ロサンゼルスに入国しようとした20代の英国人カップルが入国を拒否されたあげく、長時間事情聴取されて強制送還に遭った」「米入国管理局が入国を拒否した理由は、なんとツイッターでのつぶやきだった」と報じています。情報元の英DailyMail紙「'I'm going to destroy America and dig up Marilyn Monroe': British pair arrested in U.S. on terror charges over Twitter jokes」にあるようにスラング「アメリカを破壊してやる」が「アメリカに“お楽しみ”に行く」ととられず、ストレートに受け取られたケースでした。

 膨大なツイッターの発言内容をスクリーニングして、その結果を実際の入国管理の場で発動させている点がまず大きな驚きでした。システムを作り、実際にエネルギーを掛けている真剣さに、滑稽と思いつつも、米国土安全保障省という役所まで作らせた「911」事件の重さを感じました。それに比べると「311」は真剣に取り組まれているのでしょうか。

 ★中国は男子厨房に入るが主流

 中国についての話題はブログでもよく取り上げています。「男が料理が作るのは当然!社会主義事情が生み出した中国クッキング男子(百元)」は中国の家庭では男が料理を作るのが主流で、女性は全く出来ない人も珍しくないとのエピソードながら、隣国の曲折した現代史に触れ、強い印象が残りました。

 社会主義建国の政治闘争の過程で「一時期食事は全て職場や団体等の『単位』関係の食堂で食べるようになっていまして、その結果家庭で料理をするという習慣が一時期消滅していました」。女性がしていた家庭料理が消滅して、お袋の味が消え去ったのです。掲示板の発言はこうです。「俺の知っている限り、自分の親戚で料理できるのはほぼ全部男だわ。中にはプロの料理人もいる。そして知っている限り女性陣には料理できないのが多い。てか、俺の母親も結婚当時料理できなかった」

 お祖父さんの世代には厨房に入る男などいなかったというのですから、この変貌は過激です。現在は、男が作った方が美味しいから料理するとも主張されていますが……。


アップルの設計思想が間違い:NYの演奏中断事件

 今週火曜の夜、ニューヨーク・フィルの演奏中に、最前列の客が持っていたiPhoneのアラーム音(マリンバ)が鳴りやまず、指揮者が演奏を中断する騒ぎがありました。しんみり聴くべき弱音部分で起きた珍事で、iPhoneに買い換えたばかりの老紳士は「2日間眠れなかった」とニューヨークタイムズ紙に答えていて、サイレントモードにもしていたそうです。それでもアラーム・クロックは作動して鳴る仕組みにしていたアップルの設計思想に間違いありです。

 CNNの「NYフィルの公演中に携帯の着信音、指揮者が演奏中断」はこう伝えています。《マーラーの交響曲第9番を演奏している最中だった。会場にいた観客がツイッターやブログで伝えた話を総合すると、交響曲は最後のクライマックスを過ぎて「音楽と静寂が入り混じる」極めて繊細な場面。タイミングは最悪だったという》《音に気付いた指揮者のアラン・ギルバート氏は手を止めて演奏を中断。会場には着信音だけが響き渡った。ギルバート氏は持ち主に向かって「終わりましたか?」と尋ねたが、返事がなかったため「結構です、待ちましょう」と言い、指揮棒を譜面台の上に置いた。着信音はさらに何度か続いた後、ようやく鳴りやんだという》。着信ではなくアラームでした。

 ブラックベリーからiPhoneに買い換えた直後で、妻がアラームをセットしたことも知らなかったそうです。鳴っているのが自分の携帯電話であることにも指揮者に言われるまで気付かなかったといいます。何と言っても、サイレントモードにしてある安心を裏切った設計の方が絶対に悪いと思えます。ジョブズが生きていたら何と言うでしょうか。

 この件をフェースブックで話題にしていて、日本国内の主要な演奏会場には携帯電話の着信を阻む装置が備えられていると教えて貰いました。携帯は常に基地局と交信して制御情報を得ているので、基地局より強い電波を演奏会場に出して制御を無効にし、圏外と誤認させる仕掛けです。ただし今回の事件には効き目はありません。


離婚率が特異な減少、震災で家庭防衛意識か

 元日に公表された「平成23年(2011)人口動態統計の年間推計」で、離婚率が2011年に従来の動きから外れて特異な減少を見せました。東日本大震災と福島原発事故に直面して、家庭防衛を強く意識した結果ではないかと見られます。また、震災後には結婚を考える人が増え婚活サイトが活況との報道がありましたが、婚姻率はわずかに下がり目立った変動にはなりませんでした。



 離婚件数は2006年から年間25万組台を保ってきましたが、2011年は23万5000組と推計されました。離婚率は人口千人当たりで表され、「2」前後を維持していたのに一気に「1.86」まで下がる結果になりました。過去に遡ると20世紀末へ急降下した形であり、1997年の「1.78」、1998年の「1.94」の間に入る水準です。2002年に「2.30」のピークを記録した後、減少に転じたものの、上のグラフに見られるように下げ止まった状態でした。

 数年前には厚生年金分割制度スタートで熟年離婚が増えるのではないかとも言われていました。しかし、2009年に書いた「続・離婚減少は定着、熟年離婚の嵐吹かず」で分析した通り、2003年からの経済状況好転にシンクロして離婚率減少傾向が現れていたのです。その後、リーマンショックで不況に入り失業率が2009、2010年に5.1%まで上がりましたが、離婚率は特に増えることもなく横這いを維持しました。2011年はそこから目立って離婚が減っているのですから、経済的な要因よりも心理的な側面が強いと考えられます。

 【参照】インターネットで読み解く!「人口・歴史」分野エントリー…生涯未婚など


著作権者の強欲な録画課金認めず:知財高裁判決

 消費者の私的録画をめぐって著作権者側の横暴すぎる課金を認めない知的財産高等裁判所判決が出ました。《録画補償金訴訟、東芝が知財高裁でもSARVHに勝訴》(INTERNET WATCH)が「ダビング10」などの著作権保護技術で制約があるデジタル専用録画機は、録画による補償金を機器代金に上乗せして消費者から徴収する制度の対象外とする判決と報じました。

 「アナログチューナー非搭載のDVDレコーダー(デジタル専用録画機)における私的録画補償金をめぐって、私的録画補償金管理協会(SARVH)が販売元の東芝を相手取って起こした訴訟の控訴審判決が22日、知的財産高等裁判所であった。2010年12月に東京地方裁判所で言い渡された一審判決と同じく、SARVHの請求が棄却され、東芝が勝訴した」「知財高裁の判決では、一審で否定された『デジタル専用録画機は課金の対象外』という東芝の主張も認められた」

 アナログ番組の録画ビデオは、さらにダビングできることから著作権者の損害を補償する制度が出来ました。デジタル放送への移行ではデジタル番組は無劣化コピーが可能であるとして、「ダビング10」などの著作権保護技術で国内ではコピーを厳しく制限しました。コピーを認めないケースもあります。それなのに私的録画の補償金は取り続けると主張したことに対して東芝が異議を唱えたのでした。昨年の一審勝利で他のメーカーも同調し始めています。

 「デジタル放送録画規制は最悪、呪縛脱し思う」で指摘しているように、デジタル放送録画はアナログでの録画に慣れた消費者には思いもよらぬ不便が待っています。暇になったら鑑賞しようと番組を取り溜めしても、録画に使ったDVDレコーダーなどが壊れてしまえば、もう再生できません。本当に長く見たい録画番組はブルーレイディスクに焼くなり、面倒な手順で他のハードディスクに移して置かねばなりません。これほど不便を強いておきながら、さらに補償金を取ろうとするのですから強欲と評さざるを得ません。敗れたSARVH側は即日、最高裁に上告したそうです。


大英図書館の300年新聞データベースを使ってみる

 engadget日本版が「大英図書館が300年分の新聞データを公開、検索・購入可能」を伝えています。300万ページという膨大なデータベースです。早速、その「British Newspaper Archive」を試しに使ってみました。

 例えば日露戦争で連合艦隊が世界の予想に反して劇的勝利をおさめた日本海海戦を、日英同盟下の英国紙がどう報じているのか、です。日本海海戦が英語訳して使われているはずがありません。ロシア・バルチック艦隊は英語で「baltic fleet」なのでこれを手がかりにします。日本海海戦は1905年ですから、年代フィルターをかけたら一部では「BATTLE OF TSUSHIMA」と呼ばれたことが分かりました。

 「BATTLE OF TSUSHIMA」で検索し直すと20世紀では21件でした。先頭の2件を引用します。

《1》Western Times (Sat 07 Jul 1906)
BATTLE OF TSUSHIMA (77 Words)
“ BATTLE OF TSUSHIMA. Rodjestvensky and the Surrender of the Biedovy. The trial of Admiral Rodjestvensky and the other officers of the Baltic Fleet has begun at St. Petersburg, says Reuters Agency. Admiral Rodjestvensky, in defending himself, assume ...

《2》Tamworth Herald (Sat 17 Jun 1905)
THE GREAT NAVAL BATTLE (1216 Words)
“ naval battle in' the Tsushima Straits were as follows: On the morning of May 27th the Russian Fleet approached the eastern straits of Korea in two columns, on the left the battleships and on the right the cruisers, with the transports between them. A ...

 2番目が第一報のようです。海戦から3週間も遅れているのは、はるか極東の出来事だったからでしょう。「《大海戦》対馬海峡での海戦は次の通り:5月27日朝、ロシア艦隊は朝鮮との海峡に2列縦隊で差しかかった。左に戦艦、右に巡洋艦が並び、さらに輸送船団……」

 この先を読みたければ支払いが必要です。「検索は無料。閲覧には有料の会員登録が必要で、たとえば一年間見放題プランだと 79.95 ポンド(1万円弱)という価格設定」で、2日間だけは6.95ポンドながら閲覧量の制限があります。

 調べたいテーマがはっきりしていれば使いではあると思います。日本の新聞業界は各社ごとにデータベースが出来ていて割高で、アマチュアが使うには高すぎます。

 【参照】インターネットで読み解く!「データベース」関連エントリー


朝読に全面広告、中国嫁日記の不思議な売れ方

 1年前に「中国嫁日記がブレーク。不毛の日中対立に清涼剤」とネット上で注目されていると紹介した4コマ漫画『中国嫁日記』がこの8月、単行本になり、1カ月で20万部突破。今週は朝日新聞と読売新聞に全面広告が出ました。「日中関係が、なんだか おかしい」という大見出しコピーに、事情を知らない方は、どきっとしたかも知れません。全国通しの全面広告は広告料金ダンピング時代でも1000万円以上するはずで、版元は百万部は売るつもりでしょう。

 「40才オタク夫×20代中国人嫁」が繰り広げる、日中文化・生活習慣ギャップを笑いに織り交ぜたエピソードが微笑ましく、ウェブに毎週、見に行きます。ジャパンタイムズ「Top blogger illustrates Chinese wife's struggles」に初めてツーショットが載りました。ただし、奥さんは「月(ゆえ)さん」仮面です。

 「リアル『電車男』として 井上純一『中国嫁日記』」のような書評も出ています。これは「40才オタク夫」目線が強いのですが、ツイートを見ていると女性からも広く支持されていると知れます。「月さん」の明るいキャラクターが大いに効いているのでしょう。昨年11月末には共同通信の中国語ウェブで大きく紹介され、ダントツのアクセスを稼いだそうです。

 8月のジャパンタイムズの英語記事では「月さん」がインタビューに答えているのが注目です。子どもが出来たら幼児期までは医療環境が良い日本で育て、学校教育はしっかり勉強をさせる中国で受けさせ、日中バイリンガルにするのだそうです。昨夏の「中国との国際結婚は嫁日照りから次の段階へ」で指摘した通りに進んでいくなと感じます。変わっていく時代に沿いつつ、適度に特異なこのカップルのフレッシュさが楽しまれていると思います。

 【11/17追補】家族旅行した、この動画に月さんの声が・・・「しまわれるパンダ」


大震災時、伝説の壁新聞が国会図書館で画像公開

 東日本大震災で社屋が被災して輪転機が使えなくなり、6日間にわたって手書きの壁新聞で発行した「石巻日日(ひび)新聞」号外6点のデジタル画像公開が18日から国立国会図書館ホームページで始まりました。トップページから入ると一覧する適当なリンクが無いので「石巻日日新聞号外一覧」を利用してください。それぞれの日のメイン見出しを拾うと次のようになっています。

3月12日「日本最大級の地震・大津波」
3月13日「各地より救難隊到着」
3月14日「全国から物資供給」
3月15日「ボランティアセンター設置」
3月16日「支え合いで乗り切って!!」
3月17日「街に灯り広がる」

 台北で開かれた国際新聞編集者協会(本部・ウィーン)の第60回総会で特別賞を贈られ、米国の博物館にも展示された、伝説的な壁新聞です。石巻市内の避難所に壁新聞として張り出されました。接着テープ片や破れなど壁からはがした跡が生々しく残っています。相当に高精細でスキャンしてありますから細部まで拡大して読めます。号外画像をフルスクリーン表示にするとよいでしょう。マウスのスクロールボタンで拡大縮小が出来ます。

 【追補】石巻日日新聞には菊池寛賞も決まったそうです。


原発震災報道でマスメディア側の検証は拙劣

 東日本大震災と福島原発事故をめぐる国内マスメディアの報道ぶりは一般大衆から強い批判を浴びています。まるで「大本営発表」報道だったり、依拠する専門家が偏り放射線被曝を軽視したり、取材現場を捨てて恥じない報道の有り様に、マスメディア側の自己点検・検証がようやく始まりました。マスコミ倫理懇談会の全国大会や新聞週間の特集などです。しかし、本当に判っているのか疑わしい拙劣さ・愚劣さが見えます。

 下野新聞の《原発震災報道を検証 マスコミ倫理懇》はこう伝えました。「約50人が参加した『原発災害をいかに伝えるか』では、福島県飯舘村の菅野典雄村長、南相馬市の桜井勝延市長のインタビューを上映。原発事故直後、政府の避難指示や屋内退避指示に伴い多くのメディアが原発被災地での取材を控えたことについて、桜井市長は『メディアの役割は現場で起きている事実を正確に伝えること。被災地なのに情報も分からず、取り残された』と指摘した」「これに対し、討論では『取材陣の安全面をどう確保したらいいのか葛藤した』『放射線量を測定する専門家を同行させるなど対応策はあったはず』などの意見が出された」

 この問題で朝日新聞の15日付新聞週間特集が記者管理責任者の発言を収めています。「強い危機感を持ったのは3月12日午後の1号機水素爆発」「夜になり政府は避難指示を原発から半径20キロに拡大したが」「チェルノブイリ事故での避難と同じ半径30キロから外に出て、屋内取材を中心にするよう福島の記者に指示した」

 事故が拡大していく始まりから現場を捨て完全に引いてしまう判断です。さらにフリージャーナリストが現地取材をする例が出ても動きません。「朝日OBからは『突っ込め』という声も寄せられた。社内では『志願者に行かせたらどうか』という意見もあったが、警戒区域内での単独取材には踏み切れなかった」と、知恵がない優柔不断ぶりを長々と書いています。

 記者の低線量被曝をこれだけ怖がっているのに、3月16日朝刊紙面では「100ミリシーベルト以下なら健康上の問題になるレベルではない」との専門家談話を載せているのです。今これを書けば新聞を買ってもらえなくなるかも知れません。ダブルスタンダードと言うよりも、取材力の無さ、幹部判断力の欠如が、報道紙面と取材行動と両方を縛っています。内外多数の専門家の意見を広く集約する取材力があれば、放射線被曝影響を異様に軽視する紙面を作ることもなければ、現地の南相馬市長が呆れるほど腰が引けた電話取材を延々と続けることもなかったはずです。放射線への恐れ方を突き詰めないで記事を書き続けた点こそ問題です。(参照記事

 朝日新聞は14日付でマスコミ倫理懇談会の特集も出しています。「取材の壁・報道の揺れ」分科会で出た事故発生直後へのサイエンスライターの田中三彦さんの批判を紹介しています。「メーカーの技術者やOBに意見を求めず、過酷事故の分析や予測が得意と言えない推進派の学者を起用した。専門知識の欠如やパニックを恐れた踏み込み不足の報道も目についた」

 東電の情報統制は厳しくて、福島第一発電所内の建物配置図さえ公表されていませんでしたから、大阪にいる私などは基礎情報欠乏で苦労しました。それでも3月12日の「福島第一原発は既に大きく壊れている可能性(追補あり)」で最初から炉心溶融必至と指摘したのに、いつしか報道から炉心溶融の言葉が消え、5月半ばに突然1〜3号機とも全面溶融していたとの発表になりました。

 朝日新聞の新聞週間特集を見て納得しました。科学医療エディター(部長)の談話として「原子炉は何時間空だきするとどうなるのかなど詳しいデータを知っていたら、もっと的確に記事を書けた」があります。「知っていたら」ではなく、ニュースソースを見つけて疑問に思うことを知る、データを取ってくるのが取材なのです。部員は記者会見の放送を聞いているばかりだったそうです。新聞社の名刺を出して知らない人に会ってくる基本行動が取れなくなっているのだと知りました。

 福島事故で最初から責任を問わないと標榜している政府の事故調査委に期待が持てない中で、一般寄付を募って進行している「FUKUSHIMAプロジェクト」は事故責任の所在を明らかにしてくれそうです。国会にも国政調査権に基づく事故調査委が出来ます。マスメディア側が再生を期すならば自前の取材力で何があったのか掘り起こして欲しいものです。

 【事故半年のまとめ】「説明責任を果たさない政府・東電・メディア」


1週間後『地デジ難民』必至でも移行は強行

 震災被害の東北3県を除いて、24日にはアナログ放送停止・地上デジタル放送移行が強行されるようです。1週間前になってマスメディアは、テレビ放送が見られなくなる『地デジ難民』発生必至を伝えています。それも半端な数ではなく、数十万世帯、あるいはそれ以上にもなる恐れが大です。放送法でNHKが受信料を強制している体制下では双務的に受信できるようにする義務が発生し、これは認められない事態のはずですが……。

 総務省がしてきた移行状況調査はサンプルの取り方、数の少なさ、80歳以上の高齢者が含まれていないなど対象範囲に難があり、移行の進み具合は過大評価になっていると、専門家から批判されてきました。その前提に立っても《地デジ移行後も支援継続=視聴者の混乱抑制−総務省など》(時事ドットコム)は総務省によると「アンテナなどの受信設備が地デジに対応していないのは6月末で29万世帯。このほか、受信機をまだ買い替えていない層もいる。片山善博総務相は『当日までに(対応率が)100%になるとはなかなか言えない』と述べ、取り残される視聴者が出るのは避けられないとの見通しを示している」と報じています。

 読売新聞の《「地デジ難民」現実化?アンテナ1か月待ちも》は「総務省などは高齢者宅への戸別訪問など周知作戦を展開するが、家電量販店や役所などの臨時相談コーナーは長蛇の列ができている」「対応テレビやアンテナ工事の注文が1か月待ちのところも」と伝えます。

 毎日新聞徳島版の《地上デジタル放送:「地デジ難民」発生懸念 県内5800世帯が未対応 /徳島》はもっと具体的でこうです。山あいに位置する「『町内の約15%の世帯がまだ未対応。完全移行に間に合うか分からない』。小松島市櫛渕町。約320世帯ある町内で、テレビやアンテナの設置工事を引き受けるオク電機商会社長の越久辰一さん(70)は心配する」

 アンテナ設置が間に合わない世帯には「地上デジ放送移行巡るドタバタ、一段と混迷増す」で書いた「暫定的に衛星放送を利用して地デジ放送」という裏技まで使われているのですが、お年寄りに判ってもらうのは大変です。移行問題についての情報弱者は国が思っている以上に存在している可能性があります。


影が薄すぎる朝日の政策転換『原発ゼロ社会』

 朝日新聞が13日の朝刊1面社説で「提言 原発ゼロ社会―いまこそ 政策の大転換を」と打ち出しました。「高リスク炉から順次、廃炉へ」「核燃料サイクルは撤退」など見開き社説特集の方はネットでは見られません。ネットで見ていて、ソーシャルメディアでの影の薄さはどうしたことかと思えます。事故4カ月ではあまりに遅かったとも言えます。正午まででは、有名どころのブログでの取り上げ無し、はてなブックマークもゼロ。ツイッターは400件ほどありますが、社民党の福島瑞穂党首へのリツイートが多数あり、大した数ではありません。大手新聞の社説がいかに社会的インパクトを持たなくなってきたかを示しています。

 かつての同僚たちが書いた社説特集を一読して、書かれていないことの方が気になりました。1976年の大型連載『核燃料 探査から廃棄物処理まで』で核燃料サイクルを国策とする方向に関与した事実、そして論説幹部を中心にした原子力に対する「イエス、バット」の押しつけです。私自身はどちらにも否定的で結局は科学部を離れましたが、その影響は社内だけでなくマスメディア全体に及びました。ツイッターにも「その責任の曖昧さ反省の中途半端さに、終戦直後の同新聞を思い出した。朝日新聞は戦時報道の総括と反省に60数年もかかっていた」と厳しい発言があります。

 ブログでも《朝日新聞が「脱原発」の社説特集を組んだまでは良かったが...》(kojitakenの日記)が「問題含みなのは15面の下の方にある『推進から抑制へ 原子力社説の変遷』という欄で、それによると、第2次大戦後20年ほど、原子力の民生利用に希望を託す見方が世界の大勢だった頃には推進論だったが、1979年のスリーマイル島原発事故や1986年のチェルノブイリ原発事故を契機に『推進から抑制』へと転換したと主張している」「ここで朝日が『黒歴史』にしようとしているのは、"Yes, but" という標語で、70年代前半に活発になった原発批判論に水をかけ、石油危機を受けては広告料欲しさに東京電力の原発の巨大広告を載せ、1976年には大熊由紀子・朝日新聞科学部記者(当時)の長期連載『核燃料』を掲載した事実だ」と指摘します。

 1面社説に戻ると、「たとえば『20年後にゼロ』という目標を思い切って掲げ、全力で取り組んでいって、数年ごとに計画を見直すことにしたらどうだろうか」「今後は安全第一で原発を選び、需給から見て必要なものしか稼働させなければ、原発はすぐ大幅に減る。ゼロへの道を歩み出すなら、再稼働へ国民の理解も得やすくなるに違いない」とあって「大転換」と主張しているほど明確に現状と決別している訳ではありません。少なくとも「現状での違法性」にも目が向いていません。

 福島原発事故をめぐる朝日新聞の報道ぶりは、大衆の「命」を守ることに一生懸命という商業新聞らしい感覚も、政府・東電の隠蔽体質への怒りも感じられない淡泊なものでした。むしろ随分長く政府や御用学者の言いなりでした。昨12日、社会面に「原発報道『大本営』か 本紙4カ月の取材検証」と題した長い記事が出ました。悪条件のもとでそれなりに頑張った弁明になっていますが、直ぐに気付くのが中央官庁に依拠しないオルタナティブ情報源を持たないゆえの失敗です。チェルノブイリ事故の際は京大原子炉(大阪・熊取)に通って、亡くなられた久米三四郎・阪大講師らの突っ込んだ討論に参加させてもらいました。この際、事故2カ月で書いた「在京メディアの真底堕落と熊取6人組への脚光」をもう一度、掲げさせていただきます。


メディア現場取材が南相馬・相馬で決定的に不足

 現在も進行している福島原発事故で既成マスメディアの報道に問題があることがかなり知られるようになってきました。私も色々な観点から取り上げていますが、国内メディアが現場取材から逃げ続けている様は驚くばかりです。4月下旬、米タイム誌が「世界の100人」にユーチューブを使って政府の原発事故対応を堂々と批判した福島県南相馬市の桜井勝延市長を選びました。原発から20キロ圏の避難指示地区、30キロ圏の屋内退避地区、さらにそれ以外と市内が分断され、放射線への恐れから食料や生活必需物資が届かない惨状を訴えようにも、朝日新聞もNHKも現地記者が福島市に引き払ってしまい、訴える手段に事欠いてユーチューブに頼ったように見えます。

 朝日新聞は5月10日に新たな取材拠点を原発から遠い側に置き、記者が赴任した挨拶を福島県版に入れています。それまでは取材は電話とファックスだったと市役所側が言っています。原発有事の想定を記者現役時にしたことがありますが、このような腰が引けた取材は考えたことがありません。50歳を超えた記者ならある程度の被ばくリスクは冒してもよいと思っていました。在京メディアの東京本社がどのようなアドバイザーからどんな意見を聞いたか知りませんが、これは後世まで笑い話として語られそうです。少なくとも紙面で伝えられた放射線影響の軽微さと釣り合っていません。

 南相馬・相馬の現場に行った専門家たちからは、深刻な事態が発信され続けていました。例えば[JMM]東日本大震災関連記事 特設ページに出ている記事をメールマガジンで購読しています。今日6月2日の『低線量被曝とどう向き合うか 〜相馬市玉野地区健康相談会レポート〜』にはここに住む若い世代にどうアドバイスすればよいのか、問診で本当に悩む医師の姿があります。5月2日の『三度目の相馬・南相馬訪問記』では、脳卒中患者の救急搬送が相馬から1時間半、南相馬からなら2時間と、手遅れ必至なのに改善されない点が語られます。直ちに結論が出ないにしても、現場でいっしょになって考え、報道を繰り返すことで行政を巻き込んでいく格好の取材対象でしょう。


国会図書館が歴史的音源のネット公開始める

 古文書や絵巻など古典籍資料のインターネット公開はかなり前から進めていた国会図書館が、「歴史的音源」のネット公開も始めました。ネット公開はまだ99件しかありませんが、6月末には大幅に増えるそうですから期待しましょう。「1900年初頭から1950年前後に国内で製造された貴重な音楽・演説等のSP盤を、館内・インターネットへ公開します。当初は2500音源を公開し、順次追加していき、最終的には約50000音源を公開する予定」とのことです。

 ネット公開されているものだけ見るには「コレクション検索」ボタンを押して、「録音映像資料(99/2485)」の「99」をクリックしてください。著作権や著作隣接権の保護期間満了が確認できた資料ですから確かに古い。宮城道雄さんの箏曲とか歌謡曲、民謡、能の謡い、琵琶曲や落語も含まれています。


年間1mSvは法定の限度線量:遵法感覚はどうした

 今回の福島原発事故では被ばく放射線量の限度をめぐり、最初から大きなボタンの掛け違いがありました。今一度、確認しておかねばなりません。現行法体系では一般人の年間被ばく線量限度は1年間につき1ミリシーベルトです。緊急時に用いる運用線量「20mSV」「50mSv」を政府は現行法との関係と制約条件を説明することなく勝手に使い、「悪質」と申し上げるしかない「御用科学者」は「100mSvまでは安全」と言い続けました。既成マスメディアの遵法感覚はすっかり麻痺してしまい、東京東部が法定限度線量を超えかねないと指摘されても不感症になっています。原発付近は野戦病院状態ですから年間20mSVで一時的に運用しても、東京には現行法の年間1mSvを適用する以外の選択はありません。

 法律の書き方が一般人をずばり対象にしていない表現なので、ネットで活動している良心的な方にも法定限度ではないかのごとき誤解があるようです。例えば放射線障害防止法のどこを読んでも「年間1mSv」は出てきません。この法律は放射線源施設の認証基準をそれぞれ規制していって、外にある一般社会での線量を一定以下に落とすよう出来ています。

 法第十二条の三「認証の基準」は文部科学大臣らに省令で定める技術基準で認証するよう求めています。それに基づく施行規則第十四条の三には「当該申請に係る使用、保管及び運搬に関する条件に従つて取り扱うとき、外部被ばく(外部放射線に被ばくすることをいう。以下同じ。)による線量が、文部科学大臣が定める線量限度以下であること」とあります。そして、文部科学省の「設計認証等に関する技術上の基準に係る細目を定める告示」で「文部科学大臣が定める線量限度は、実効線量が一年間につき一ミリシーベルトとする」となるのです。

 福島の学校での被ばく規制をめぐり多くの心配する父母が文科省に押し掛け、20mSVは撤回しないものの「1ミリシーベルト以下目指す」ことになりました。学校は「野戦病院」ではありません。公務員の遵法義務はどうしたのか、と言いたくなります。この問題で在京メディアが見せた腰の引け方はまた酷いものでした。法定の限度線量であることが忘れられています。低線量なら問題ないとお考えの方、「反例:低線量でガン増加確認のスウェーデン」をご覧になってください。

 【参照】インターネットで読み解く!「在京メディア」関連エントリー


日本人の4割はパソコン無縁:欧米と大きく乖離

 パソコンが安くなれば普及率が100%に迫る欧米に比べ、日本では60%を前に頭打ちになる――《元麻布春男の週刊PCホットライン〜低価格化が進まない日本のPC事情》で不思議な傾向が紹介されました。米インテル社の投資家ミーティングで公開されたグラフを、一部トリミングして以下に掲げます。その国のパソコン価格が週給の4〜8倍くらいまで下がるとノートPCの普及が加速する様子が描かれていて、100%に迫っている黄色が北米、オレンジが西欧、離れたブルーが日本です。



 ヨーロッパ諸国の国別普及率を追加したグラフも紹介されていますが、「普及率が60%で頭打ちになる国は、日本以外ほとんどない。現時点で日本より普及率が低いのはチェコ、スペイン、ポルトガル、ギリシャといった国々だが、日本のように60%手前であからさまな頭打ちになっている様子ではない」そうです。中国はようやく普及ゾーンに入りました。

 「日本以外の先進国では、PCが不可欠なものになっているのに対し、日本ではそうなっていない、ということだ。日本では多くの人にとってPCは、あると便利なものではあっても、ないと困るものではない、ということが、普及の妨げになっているのではないか。わが国でPCは、40%の人にとって、買えないものではなく、買わないものなのだ」「もちろん、PCが不要なものであれば、それはそれでいい。しかし、他の先進国との普及率の差が40%近い状況を放置して、本当に大丈夫なのだろうか。教育や産業に与える影響を考えると、不安を感じざるをえないのが正直なところだ」と、元麻布さんは心配しています。

 私は10年近く前に書いた「インターネットで読み解く!」第118回「iモードは日本でしか成功しない?」 を思い出しました。海外にiモード携帯電話を普及させようとして結局はかなわなかった、入り口での考察ですが、パソコンについては逆パターンという気がします。「デジタル・ディバイド層にはパソコンよりずっと向いている。この層から求められているデジタル・データはそんなに複雑なものではない。普及して安価になればどこの国でも、この事情は同じだから、日本と全く同じ爆発的な展開は無理としても」と書きましたが、海外では日本式「ガラパゴス携帯」は広がりませんでした。海外では普通の人はノートパソコンを買い、それがあることを前提にスマートフォンが普及してきました。

 維持費まで考えると相当に高価な高機能携帯電話に、日本人はこだわりすぎていると感じます。その一方で、どの大学でも招かれて講義する際にサービスとしてネット利用法をざっと話すのですが、いずこの学生も知らな過ぎる印象です。パソコンでこんなことまで出来ると知らなければ使う気もしないでしょう。十代からの情報教育が硬直化していて、面白くない中身であろうことは容易に推測できます。


TV録画やブルーレイ、何でも3D視聴してみたら

 昨年の映画「アバター」や「タイタンの戦い」などで火がつき掛けた家庭の3D鑑賞ですが、現在は停滞気味です。3Dソフトが売り出されず、見るべき映像素材に乏しい点が決定的です。この春、デスクトップPCを新調した機会に3D化し、原発事故騒ぎが気になって遠出も出来ず、空いた時間に触っているうちに現状でも工夫すれば家庭のAVソースはすべて3D視聴できることに気付きました。映像鑑賞のグレードが大きく上がると感じたので報告します。

 使っているツールはパソコンでは一般的なNVIDIAの3Dメガネと、ブルーレイドライブに付属してきた視聴ソフト「PowerDVD10」、それにBENQのXL2410Tディスプレイです。このソフトはDVDや動画ファイルを3D化する機能を持っていますが、ブルーレイソフトは3Dに出来ません。実は年内にはそれも可能になると聞いて早めに3D化したものの、物足りなくなって調べてみました。「Passkey for ブルーレイ」を導入すれば、ブルーレイソフトばかりか、デジタルレコーダからブルーレイにダビングしたハイビジョンTV録画まで3Dに出来ます。有料ながら1カ月の無料お試し期間があります。

 Passkeyはドライブに入っているブルーレイディスクに手を加えず、読み出す途中でデータ変換してしまう機能を持っています。普通ならPowerDVDからブルーレイは正面玄関からしか開けず、奥にあるファイルを直接は開けない制限があるのを解除してくれます。「BDAV」フォルダの下にある「STREAM」の中に映像ファイルがあり、たいていは最大のものが本編です。TV録画なら1番組1ファイルなのでさらに簡単です。該当ファイルを開くだけならば著作権法上の問題は発生しません。

 映画・アニメでは名作「2001年宇宙の旅」「エイリアン」ブルーレイをはじめとしたSF、通常DVDながら「ロード・オブ・ザ・リング」などのファンタジー、3D映画が大ヒット中の『攻殻機動隊』WOWOWハイビジョン放映版、スタジオジブリのアニメなど、どれも一皮むけた映像美になります。モノクロでも黒澤作品の傑作「七人の侍」での野武士との戦闘シーンは、奥行き方向に人物を多数展開する演出なので効果があります。インディ・ジョーンズなどの活劇も当然ながら楽しくなります。

 ライブものではゴージャスなショー映像を見せる歌姫ビヨンセ、ステージ背景の大スクリーン像まで3D化されるのはやや意外。クラシックの三大テノールに派手な動きはないながら、歌う表情が濃くなり実在感が格段に上がります。このほか花火大会のハイビジョンをいくつか持っていて、円盤状に開く花火などに2Dで見えなかった方向感が現れ、重なり具合が表現されるので新鮮です。

 自然映像では空撮ものも距離感が出て良いのですが、水のボリューム感がリアルに表現されるのに最も驚かされます。巨大な瀑布は見飽きませんし、流体として動く波とイルカ、海鳥など動物の絡みといったシーンは特筆ものです。鳥や虫など小動物がとてもチャーミングになります。食虫植物の触手多数が捕まえた虫を包み込むのが立体的に見えるのには興奮させられました。

 止まっている対象で効果を感じた最たるものは仏像で、のっぺり映像とは異次元の存在感が備わります。興福寺の阿修羅像や新薬師寺の十二神将像など、感情移入のレベルが上がります。ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた深宇宙での様々なガス星雲像も3Dで見る価値があります。季節のサクラでは木々の重なりに距離感が加わるので、べったり桜色一色ではなく重なりながら分離して見えます。

 本物の3Dブルーレイソフトはまだまだ少なく、私の所有はパナソニックからレコーダ購入サービスで貰った「アバター」など3本だけで市販品はありません。オリジナルと3D化したブルーレイと比べると、立体感の細部や切れ味、例えば人物の前で浮遊物が舞っている点の有無などが違いますが、言うほど大きな差ではありません。今回報告したハイビジョンレベルの3D化はバラエティ豊かですし、十分、楽しめるように思えます。

 「THE世界遺産3D GRAND TOUR」などサイド・バイ・サイド方式での3Dテレビ番組も始まっていて、これを録画、ダビングしてパソコンで見るためにもPasskeyの制限解除が欠かせません。ただ、NVIDIAの3Dメガネがきちんと動き出すまでに1週間ほど手こずりましたし、サイド・バイ・サイド方式録画を一度見るまで妙に画面が暗かったりと試行錯誤させられました。ジブリのようにDVD映像がざらざらしていても3Dにしたら見るに耐えるくらいに精細感が上がるメリットもあります。左右二つの映像を、頭の中で立体像にする際に補完するようです。通常DVD映像を画素数で5倍以上あるフルハイビジョン画面に引き延ばしては粗すぎるので、もう止めようと思っています。


入試カンニング:メディアも大学も踏み外し過ぎ

 京大などで入試の際に携帯電話を使ってネットの質問サイトに書き込みをし、カンニングで正解を得ていた事件は仙台の予備校生逮捕に至りました。一報があったのは週末のニュースが薄い日でしたから、新聞朝刊の1面トップ扱いも「場合によっては、ありかな」と思っていましたが、連日のように1面を使うクレージーさに怒りを覚えています。ニュースをネットだけでしか見ない人には分かりませんが、紙の新聞は1枚の紙面の中でもニュース価値の大小を表現しますし、紙面が30ページ、40ページと連なった新聞全体としても価値を表現する機能を持ちます。長年培ってきた新聞読者とのお約束を考えれば、この事件での容疑者逮捕は1面モノではありません。

 「茂木健一郎 クオリア日記」《京都大学等におけるカンニング事件について》の「京都大学が被害届けを出し、『偽計業務妨害罪』でカンニングをした学生が逮捕されるに至ったことに、強い違和感を覚えるものである」「今回の受験生が、その手法の『目新しさ』ゆえに『警察沙汰』になってしまったとすれば、他の事例と比較しての公平性の点からも、はなはだ疑問だと言わざるを得ない」、あるいは「Matimulog」《news:カンニングで逮捕は行き過ぎだ》の「世間が、マスメディアもこぞって、ものすごく悪質な行為をしたかのように騒ぎ、ネットの闇がまたまた現れましたみたいにはしゃいでいるのは、全く見るに堪えない。手口がわかってしまえば単なる出来の悪いカンニングに過ぎず、これからは通信機器にいっそう注意しましょうというだけのことだ」のような批判的視点で書かれた記事ならともかく、大上段に1面トップで断罪する中身ではありません。

 「大石英司の代替空港」は《司法コスト》で大学側が被害届を出したことに捜査当局を頼らなければならぬ事情をくみつつも「素朴な疑問として、じゃあ普段の学内の試験は、ノートの貸し借りはもちろんそこそこカンニングもできるだろうに、そっちはせいぜい停学処分で済んで、こっちはいきなり国を挙げての晒し者にして良いのか? な疑問は残るわけです」と、出発点での疑問を提起します。教育者として取るべき行動だったのか、熟慮があったとは思えません。マスメディアに煽られて重大犯罪並にしてしまったのではありませんか。

 「ガ島通信」は《京大の入試問題漏洩の背景がネットの闇と若者の劣化という筋書きに絶句する》でメディアの取材を受けて断ったこと、さらに取材してきた記者に指摘した問題点を書いています。「一つはそもそもネットのせいではなく大学側の問題ではないのかということ、もう一つはカンニングを事件化したことの今後の影響について考えてほしいという事です」「もうひとつは警察の権限の拡大への危険性です。カンニングを警察問題にしてしまったおかげでカンニングで逮捕という実績ができてしまいました」「スムーズな業務を妨害すると罪になるという幅広い適用にしていくと、通常の期末試験でカンニングを後からツイッターで告白して、関係者が確認などに煩雑な業務を行った場合でも逮捕可能ということがあり得ます」

 この事件で1面トップを何度も使うほどに、国内情勢は問題もなく平穏に推移しているのでしょうか。ジャーナリズムを標榜している新聞社をはじめテレビも含めマスメディアの幹部には猛省を求めます。

 【参照】インターネットで読み解く!マスメディア関連エントリー


[AV事情]家庭内LANでビデオ視聴、文字通り輪(和)に

 最後にS-VHSデッキを買ってから何年経つでしょうか、久しぶりにビデオレコーダが我が家にやってきました。ブルーレイディスクに録画できるパナソニック機で、家庭内LANを使って家族が自室のパソコンから録画指示を出せて録画済み番組の視聴も出来てしまい、テレビに触れる必要がありません。これが今回の「目玉」機能です。チャンネル権の争いもなくなります。携帯機器への録画番組持ち出しも可能ですが、それほどは使わないでしょう。

 東芝レグザのテレビ直結ハードディスク録画なら最も機械音痴の妻でも使いこなせたので、しばらくテレビ録画は任せていました。1年前の第198回「デジタル放送録画規制は最悪、呪縛脱し思う」にあるようにアイ・オー・データのLANハードディスクを接続してデジタル放送規制の縛りを抜け、今度のビデオレコーダに移すとブルーレイに保存できる「輪(和)」が完成しました。もうひとつ、妻用にブルーレイプレーヤが必要そうです。

 この輪に大容量のハードディスクが家族の共有機器として繋げるので、DVDソフトなどはここに置くつもりです。家族間でパッケージソフトをやり取りしていると誰が持っているのか分からなくなりますし、棚に行って選ぶよりも簡単になります。

 メインで使っているデスクトップパソコンが壊れたので、並行してそちらの手当ても進行中です。昨夏の酷暑時に無理をしてパソコンの寿命を損なった反省があるので、水冷CPUクーラー(¥7980)を付けています。近く3Dソフトの視聴も出来るようにする計画で、ブルーレイドライブも最新型に代えました。これに付いてきた「PowerDVD 10」が、通常のDVDビデオをフルハイビジョン画面に耐えるように高精細化する機能にちょっとびっくりしました。


 上は映画「ミクロコスモス」の一場面です。左半分がオリジナルで、右半分は高精細化されています。東芝レグザにも超解像処理がありましたが、初期のもので大した効果はありませんでした。最新の処理は細かな質感まで伝えていて、かなり効いています。フィルムで撮っているよりビデオカメラで撮った感じになる副作用もありますが、ビデオ映像処理技術の進歩は目覚ましいと思います。現在、2D画面の3D化処理はDVDビデオにしかできませんが、年内にブルーレイビデオにまで広がります。それに耐えるようにマシンパワーを増強してあります。


トヨタマーケティングの敗北:SNSアプリ公募

 過去の経緯や前提をすべて無視したら「若者のクルマ離れを食い止めるソーシャルアプリを! トヨタがアイデア公募」(INTERNET Watch)は現代風の面白いニュースになるのかも知れませんが、これは『トヨタマーケティングの敗北』と指摘するしかない事態ではありませんか。トヨタ自動車は高度成長期にはクラウン、現在はレクサスといった車で所有自体が社会的ステータスとなると消費者を信じ込ませて売ってきたのです。ライバルのホンダが運転して面白い車を目指したのと全く違うマーケティング戦略でした。ハイブリッドで世界に先駆けたプリウスですら、そのステータスシンボル戦略に乗っかっている印象が強いのです。

 クルマ離れの実態を示す「生活者のクルマへの関心低下は深刻」と題したグラフが掲げられています。「よくする趣味が自動車・ドライブ」とする層が1992年は35%に迫っていたのに坂道を転げ落ちるように減っており、それが軽自動車を除く自動車販売市場縮小とぴったり合致しています。グラフ以前の1980年代なら、自分の経験からももっとクルマへの関心が強かったはずです。

 「トヨタマーケティングジャパン代表取締役の高田坦史氏は、自動車メーカーであるトヨタがソーシャルアプリのコンテストを開催するに至った理由について、生活者のクルマへの関心が離れる一方で、それとは対照的にインターネットや携帯電話などのデジタルカルチャーへの関心が高まっている背景を挙げる。そこで、『デジタルカルチャーとクルマカルチャーを対立させるのではなく、融合することができないか?』と考えたという」

 しかし、これはマーケティング専門の人によくある、言葉をもてあそぶ誤解ではありませんか。ツイッターの反応をTweetBuzz《若者のクルマ離れを食い止めるソーシャルアプリを! トヨタがアイデア公募》で見ましょう。

 「このコンテスト、天下のトヨタ自動車の企画ですが、車離れの根本理由が消えないと意味なし!車は買うのも維持するのも多額のお金が掛かるので『だったら要らない』との結論が出ても変ではない」(happy415)、「安くて楽しい車を作ったらええねん。あと、商売抜きでモータースポーツに金使って夢を見せろや! F1参戦して面白い車で優勝しろ!」(semimaru)、「ソーシャルアプリ以前に、単純に『欲しい』と思えるクルマがトヨタに無いのだが…」(akoustam)とかなり散々です。もちろんアイデアがあり応募してみようと書いている方もいらっしゃいます。

 トヨタの広告スポンサーとしての力は絶大ですからGREE、モバゲータウン、ミクシィといったプラットフォーム主要事業者の協力体制はがっちりです。アプリ企画応募は元になるアイデアだけでもよく、選定した優秀アイデア(最優秀企画賞金100万円)を年内いっぱいかけてアプリ開発し、サービス開始へ持っていくそうです。

 【参照】インターネットで読み解く!「クルマ離れ」関連エントリー


ニュースの質自体を低下させる既成メディア

 既成マスメディアの伝えるニュースが加速度的につまらなくなっている点に最近、呆れっぱなしです。仕方なくやった内閣改造が政権浮揚になるはずもないのに型通りの世論調査で得々としているなど、新聞がしていることは、知られている事柄を確かめてもらう『ご確認報道』と評してよく、新規性や意外性を感じられなくなっています。テレビはテレビでいったん速報しておきながら、新聞朝刊から『転電』する草創期からの癖を脱せず、両者ともに想定される範囲内をぐるぐる回っている印象が強まっています。年初に「『新政権を育てるのに失敗』年賀状での心配事」で恐れた以上に劣化が進んでいるのでしょう。

 今週、内田樹氏が「新聞・テレビ・雑誌よ、キミたちの言論に何の担保があるというのか | 賢者の知恵」(現代ビジネス [講談社])で「マスコミの報道ひとつで、検事総長のクビも、大臣のクビも吹っ飛ぶ。でも何かが違う」「メディアは次々と血祭りにあげる獲物を探し続けるようになる」「検察の組織改革のことなんて、メディアの眼中にはない。壊れたものを再建する仕事や破綻したシステムを再生させる仕事には、優先的に報道するようなニュースヴァリューはない、とメディアの人たちは思っている」「本来は検察組織をどうすべきかとか、日中関係をどうするか、財政再建をどう達成するかといった問題は、クールで対話的な語調で語られるべき問題だと思います」と指摘しています。

 先週はニューズウィーク日本版で「だから新聞はつまらない」の冒頭部分がリリースされ、「本当の問題は『シンブンキシャ』という人種の多くが思考停止していることにある。その原因は、失敗を過度に恐れる文化や硬直した企業体質、それに現場主義と客観報道の妄信にある。結果、日本の新聞は、世界屈指とも言えるその組織力や記者の潜在力を生かし切れていない。新聞を『マスゴミ』と批判する側も、記者クラブ問題に目を奪われるあまり、本当に処置すべき病根を見逃している」と痛切に批判されました。

 思考停止は一線記者もさることながら、各取材部門デスクやその上の管理職に蔓延しているようです。さらに駄目な点は、自分が知らないことはニュースではないと思う傲慢な層がかなり残っていることです。「自分は論説委員になったのだから、もう取材はしない」と言ってはばからない「笑い話」が恐ろしいことに現実にあるくらいです。もともと霞ヶ関周辺にしか取材源を持たない在京メディアの記者がその取材もしなければ、あとは妄想するしかなくなります。

 新しい事が起きるのが当たり前なのであり、起きてくる事象の本質を捉えるにはどのような観測をすればよいのか、常に考えていなければならない側が、過去の経験側で対処し続ければ事態の矮小化が進んで当然です。

 既成メディアが自分で正せないなら、オルタナティブであるネット社会側に頼りたいところですが、各分野の専門家たちの登場は以前に思っていた以上に遅れています。いやむしろ、有力ブログが有料メールマガジンとかに移行して表からは見えなくなる退場現象が起きていますし、医師ブログのようにかつての輝きを失くしつつあるフィールドもあって、見通しは悪くなっています。

 「自分の知らないことはニュースかもしれない」というジャーナリスト、ジャーナリズムにとっての「第0次原則」に立ち返ることが第一歩です。その上に視野の広い観測系を再建する作業を地道に進めない限り、日本の既成メディアに明日はないと考えています。


『結婚できない中国人男性』気になって調べた

 サーチナには「ミドルメディア」と題した世界各国ブログを翻訳、紹介するコーナーがあり、暇がある時にのぞいています。そこに最近、各国BBSまで追加されるようになり、「【中国BBS】結婚できない中国人男性たちの悲哀スレ」が目に留まりしました。一人っ子政策の歪みで男女の出生数差が大きいと知っていますが、日本について第152回「20代男性の3人に1人は生涯未婚の恐れ」を書いている立場からも彼の地事情に関心ありです。

 スレ主が「以前は家も車も仕事もなくても、女の子はついてきた。でも今は、何回お見合いしても家や車がなければ話にもならない。一人きりで生きていく心の準備をしなければ」と発言すれば、「今の女の子は非常に現実的だ。ロマンチックさを捨てている」「今のような混乱した時代に、車と家と仕事があればすぐに相手が見つかるとでも思うのか?結婚は子供の遊びじゃないんだ」「オレは早くに家を買ったし、去年車も買った。そこそこの給料も取ってるし、容姿だって悪くはない。でも家族は家を持ってる女性と結婚しろ、と言ってくる。つまり釣り合いの取れた人を探せということだ。離婚率が高い今、恋愛するにも勇気が必要だ」とだんだん深刻になっていきます。

 「男女比不均衡がさらに拡大、10年後は5千万人の男性が結婚できず!?―中国」が報じるように男性が女性の1.2倍も生まれています。ベースにこの不均衡があるのは事実ですが、このBBSが伝えている姿はむしろ日本国内に近づいている印象です。

 「中国の離婚率の高さに注目、『ともに白髪の生えるまで』も今は昔―米メディア」を見れば離婚までも以前とは様変わりのようです。「今の中国人は結婚生活の維持を強制しないことが、社会や家庭の矛盾を和らげるのに効果的だと考えている」「70年代の離婚は、先に職場の許可が必要だった」「離婚成立まで1年以上もかかっていた。だが、今ではほんの数分の手続きで離婚が成立する」

 「図録▽世界各国の離婚率」で拾うと、2007年の離婚率(人口千人当たり件数)は中国が1.6で、日本2.04や韓国2.6に比べるとまだ低めですが、10年間で件数倍増ペースと言いますから、追いつくのは時間の問題でしょう。「80年代生まれ多くが『恐婚族』、離婚率の高さから結婚に悲観的?―中国」では専門家が「全体的に高い教育を受け、社会環境が大きく変化する中で成長し、そして離婚が急増する中、結婚適齢期を迎えている。結婚に対して大きな心理的な圧力を感じ、結婚の失敗や離婚に対して強い恐怖を抱いているほか、結婚までの精神的な準備が不足していると感じるなど、結婚に慎重になりすぎている」と解説します。

 男女比不均衡分よりも相当に多数の生涯未婚者が出ると見てよいでしょう。もちろん女性の側にもです。人口の頭打ちを早めるかも知れません。

 【追補】書き終えてからさらにリサーチすると「2012年、中国の人口危機が爆発する」!?を見つけました。あまりに長文ですが、一人っ子政策の弊害顕在化が意外に早いと示唆しています。


『博士漂流時代』視座の優しさと事態の深刻

 年の暮れ、年内に一冊だけ取り上げておきたい本があります。私のサイトは「インターネットで読み解く!」として始まった経緯もあって、あまり書評はしていませんが、榎木英介さんの『博士漂流時代 「余った博士」はどうなるか? 』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)には話の始まりに関係しているのです。2年前、新聞社でオピニオン面を担当していた際に書いていただいた《「私の視点」2008年7月29日「博士研究員 就職難が招く科学技術の危機」》が本書のスタートになっていると献本いただく際に教えられました。

 新聞記者には記事を書く以外に編集者の役割もあります。あの時、メールでやりとりしながら、小ぶりなコラム「私の視点」に最初の原稿の2倍くらい内容を詰め込むことになりました。NPO法人サイエンス・コミュニケーション代表理事として若手研究者周辺の現場に関わってこられた経験にプラスして、近未来に向けて警鐘を鳴らしていただきました。新聞社のオピニオン投稿欄ですから新規性やニュース性がないと、部内を説得しにくいのです。

  第1章 博士崩壊
  第2章 博士はこうして余った
  第3章 「博士が使えない」なんて誰が言った?
  第4章 博士は使わないと損!
  第5章 博士が変える未来
  付録 博士の就職問題について識者に聞く

 これが本書にまとめられた構成です。榎木さんは昨年末の行政刷新会議「事業仕分け事件」から説き起こして、博士・ポスドク問題の今と過去を丹念に追っていきます。資料の豊富さは活動の幅から来るのでしょう。その視座は筆者の人柄の通り、渦中に投げ込まれて苦しんでいる人たちにとても優しいものです。博士活用を考える場面ではとことん可能性を追います。冗長かなと思えるほどなのも、優しさの故でしょう。一度ここまで広く展開してみることも確かに必要です。

 第2章にこんなエピソードがあります。「あるシンポジウムの場で、同席した著名な大学教授が、最近の大学院生はレベルが低いという発言をしたとき、思わず反論してしまった。『あなたたちに責任はないのですか』と」「自分たちがトレーニングした博士が、社会の中で低い評価を得ていることに、どうして憤らないのか」「もう大学院博士課程は科学者になる人だけを養成する機関じゃない。むしろ社会に出る方が多数派だ。なのに大学関係者の意識は変わっていない」。このトーンで押すのかと思いつつ第5章まで読んで、もっと突き放す必要を感じましたが、それは付録にある識者インタビューに委ねた形です。そこで非常に厳しい指摘を引き出しています。

 私から論点を追加させてもらえば、2004年の第145回「大学改革は最悪のスタートに」で副題とした「〜急務はピアレビューを可能にする研究者の守備範囲拡大〜」があります。使いにくい人材を作ってしまった大きな要因に、隣の研究室の仕事すらレビュー出来ない蛸壺型の研究環境があると考えています。これでは民間企業に就職しても困るはずです。

 博士・ポスドク問題が本質的には改善されない、動かない様は驚くべきで、2002年に書いた第120回「負け組の生きる力・勝ち組の奈落」の認識がいまだに現役で通用します。

 今年になって「水月昭道 blog」が「2010年版科学技術白書の怪 高学歴ワーキングプア増産か?」で痛打しています。「表面的には『博士の就職難』といった現象を採り上げてはいる。だが、なぜそういうことが起こったのか、どこに問題の本質があったのか、政策で増やしたはずの博士が十万人余りも職に就けず社会から姿を消そうとしているのはなぜなのか、それなのになぜ今また博士を増産しようとするのか、そして現在どれほどの非正規雇用状態にある博士が存在するのか。こういったことに触れず、科学技術の競争力低下を防ぐため『博士人材の育成が急務』と言われても、『すでに余りに余ってるんですけど・・』」

 今年半ば第208回「文系も理系も高学歴プアー:年上世代は身勝手」で申し上げたように、事態を動かす責任がある年上世代の目は節穴としか言いようがありません。さらに、官僚リークに頼る在京マスメディアの体質と感度の悪さがそれを許し、事態悪化を増幅していると指摘しておきます。


郵便不正事件:検証の名に値しない最高検報告書

 村木厚子・元厚生労働省局長の郵便不正えん罪事件で、最高検が24日、法相の私的諮問機関「検察の在り方検討会議」に内部検証の報告書を提出しました。持つべき危機意識を欠いた官僚的調査であり、国民が求めていた検察の在り方全体を問い直す検証ではありませんでした、

 朝日新聞の《前部長「村木氏立件が君の使命」 郵便不正事件検証報告》がこう伝えています。「報告書によると、村木氏の捜査の過程では、証拠品として押収したフロッピーディスク(FD)のデータが関係者の供述と合わなかったのに、元主任検事・前田恒彦被告(43)=証拠隠滅罪で起訴、懲戒免職=は上司に報告していなかった」「前田元検事は大坪前部長から『何とか村木氏までやりたい』『これが君に与えられたミッションだ』と言われたうえ、『村木氏の部下の独断による犯行は考えられない』と当時の大阪高検検事長ら複数の幹部からも言われていた。村木氏の立件が『最低限の使命』だとプレッシャーを強く感じていたという」

 最高検は記者会見では色々と話したようですが、完全に個人の資質と言っているようなものです。おまけに最高検が大坪前部長を起訴したストーリーを明かした形であり、第三者性に疑問があります。郵便不正えん罪事件は最高検の了承の上で展開された経緯からも、第三者組織が徹底検証すべきです。

 「Japan Blogs Net」から拾うと、「■法、刑事裁判、言語を考える」が《■最高検検証ー「検事の本分」、官僚の「作文」》で厳しく指弾しています。「そもそも最高検の今回の村木事件は、検察が密室で犯罪そのものを作り出した『でっち上げ犯罪』であったという深刻な認識がうかがえない」「結局、相変わらず、『一介の当事者』の意識が抜けていない。悪いことに、事件を都合よく処理すればよい、としか考えていない検察庁は国家権力=捜査権限を持っている、たちの悪い『事件屋』だ。そう受けとめられている、という深刻さをまったく感じない」

 マスメディアはネット上には詳しい記事を流していません。毎日新聞が「郵便不正事件:村木元局長の起訴自戒 最高検、検証報告書」のほか何本もの記事をアップして目立つ程度です。今年の大問題だっただけに残念です。


30代の『家離れせず・出来ず』は相当に深刻

 国立社会保障・人口問題研究所の世帯動態調査で30代の『家離れせず・出来ず』が相当に深刻な状況にあると判明しました。「30代前半の男性、半数が親と同居…不況背景?晩婚化も」(朝日新聞)や「未婚・不景気…30歳代後半男性4割が親と同居」(読売新聞)と報じられています。

 5歳階級別に5年ごとに実施されている調査ですから、第152回「20代男性の3人に1人は生涯未婚の恐れ」 で開発した「5歳年上世代の行動をなぞる」考え方を採用して、5年先の2014年も予測しましょう。1999年から2014年までまとめた一覧が以下の表です。

 【離家していない割合】
  男性 % 1999  2004  2009 2014  
  20-24歳 77.7  76.5  79.4
  25-29歳 58.3  64.0  64.2
  30-34歳 39.0  45.4  47.9→48.1 ?
  35-39歳 31.7  33.4  41.6→44.1 ?
 35-39歳未婚20.9 23.3 30.6
 非正規雇用 11.0  15.9  17.7

  女性 % 1999  2004  2009 2014 
  20-24歳 77.5  77.5  83.4
  25-29歳 51.3  56.1  60.3
  30-34歳 22.9  33.1  36.5→40.7 ?
  35-39歳 15.7  19.8  24.3→27.7 ?
 35-39歳未婚 9.7 14.1 16.1
 非正規雇用 45.0  52.5  53.6

 35-39歳の2014年「44.1%」は、30-34歳の2009年「47.9%」が5年後に3.8ポイント減ると予測して出されています。5歳年上世代が「45.4→41.6」と変化しているからです。男性の30代は前半が48%、後半も44%が親と同居を続ける結果ですから、従来の常識からは意外感ありです。未婚割合のデータも採られているので並べています。35-39歳で10年間に10ポイントも未婚が増えていて、その分がそっくり同居の増加になっています。女性も2014年には30代前半が同居40%に乗ってくるのですね。10年前のことを考えると大きな様変わりです。こちらも未婚割合の増加が効いています。女性の場合は男性以上に非正規雇用の割合が大きい点も見逃せないでしょう。

 国立社会保障・人口問題研究所のコメントは「未婚・晩婚が増えているほか、景気の低迷で親からの自立が経済的に厳しくなっている」です。パラサイト・シングルという言葉があります。「ちゃっかり依存」のイメージですが、結婚というきっかけも少なくなり、独立したくても出来ない感じの方が強まっているようです。こうなると40代ではどうなのか興味があります。なお、調査票の回収率が単身世帯では低くなりがちなので、親と同居が強めに出ている可能性があるとされています。

 【参照】インターネットで読み解く!「人口・歴史」エントリー


若者が目指す国、捨てる国〜世界総覧を作成

 AFPが米世論調査企業ギャラップの調査を紹介した《「日本飛び出さない若者」像、米調査でも 頭脳流出はアジア全体で問題化》のデータがとても興味深かったので、元の調査結果から「若者が目指す国、捨てる国」という観点で世界総覧を作ってみることにしました。目指す国としてシンガポールが飛び抜けて高い点や、大人口の中国、インド、あるいは隣国である韓国、台湾の位置なども面白いところです。なお、上記の記事は最近流行の切り口に無理矢理持っていった見出しのせいで、中身がスポイルされています。

 ギャラップの調査は「世界148か国の成人35万人を対象にした調査に基づき、ある国へ移住したいと回答した人数から、その国から出たいと回答した人数を引いて」人口がどう増減するかパーセントで示しています。15歳から29歳までの若者を対象にした部分と、4年制大学以上を出た高学歴層の部分とがありますが、今回は若者層に話をしぼります。個別データが示されている116カ国について、若者層人口の増減順に並べてみました。右側に付いている数字は第156回「失敗国家ランクと紙消費量のぴたり」で使った2005年の1人当たり紙消費量(kg)で、社会状態を示唆してくれます。

 《若者移住指標%と紙消費量kg》
Singapore    537 144.11 
Canada      301 241.94 
Australia    276 204.42 
New Zealand   235 189.65 
Sweden      181 219.98 
France      168 178.72 
Iceland     153 129.84 
Switzerland   153 211.53 
Norway      153 170.46 
United States  152 297.05 
United Kingdom  152 201.20 
Spain      140 169.66 
Ireland     128  90.55 
Italy       74 205.71 
Germany      66 231.65 
Portugal     62 105.48 
Denmark      47 243.67 
Botswana     46  5.67 
Austria      43 276.96 
Malaysia     34 114.78 
Japan       23 233.55 
South Africa   21  69.01 
Greece      12 105.29 
Namibia      7  0.00 
Israel       4 120.11 
Netherlands    1 227.38 
Zambia      -3  2.63 
South Korea    -4 168.86 
香港       -5 データ無し
Indonesia     -7  20.67 
Uzbekistan    -8  1.76 
Tajikistan    -8  0.17 
Venezuela     -8  36.55 
Pakistan     -9  8.07 
India       -9  4.59 
China      -10  44.66 
Turkey      -10  27.30 
Angola      -11  1.16 
Rwanda      -12  0.39 
Egypt      -13  15.68 
Russia      -13  37.53 
Benin      -13  0.85 
Iraq       -14  1.59 
Panama      -14  21.57 
Laos       -15  0.56 
Argentina    -15  55.46 
Kazakhstan    -17  15.37 
Burundi     -18  0.35 
Armenia     -18  3.97 
Togo       -20  0.73 
Hungary     -20  80.04 
Syria      -21  13.14 
Mexico      -21  64.81 
Jordan      -22  30.84 
Uruguay     -22  35.59 
Brazil      -23  39.49 
Nepal      -24  1.09 
Georgia     -24  1.34 
Niger      -25  0.29 
Kyrgyzstan    -25  3.90 
Azerbaijan    -25  20.31 
Yemen      -26  3.90 
Bosnia      -26  25.30 
Belarus     -28  34.27 
Philippines   -28  17.61 
Ecuador     -28  23.53 
Madagascar    -28  1.58 
Estonia     -28  61.56 
Poland      -28  90.38 
台湾       -28 データ無し
Guatemala    -29  24.42 
Djibouti     -29  16.51 
Paraguay     -29  13.76 
Sri Lanka    -30  13.52 
Tanzania     -30  1.88 
Mali       -30  0.38 
Afghanistan   -31  0.02 
Iran       -31  14.06 
Bolivia     -31  5.39 
Mozambique    -31  0.85 
Ukraine     -31  28.05 
Lithuania    -31  51.72 
Vietnam     -32  14.75 
Sudan      -33  1.01 
Kenya      -35  6.88 
Latvia      -35  54.52 
Chile      -35  64.57 
Algeria     -36  13.32 
Tunisia     -36  28.03 
Morocco     -37  12.75 
Romania     -38  27.27 
Cambodia     -39  2.01 
Serbia      -39  56.08 
Bangladesh    -41  2.09 
Honduras     -42  34.04 
Dominican Rep  -43  13.65 
Guinea      -45  0.32 
Uganda      -45  1.92 
Colombia     -45  25.29 
Macedonia    -46  19.96 
Rep of the Congo -47  0.08 
Malawi      -48  1.17 
Nicaragua    -48  6.60 
Peru       -48  13.03 
Liberia     -49  0.46 
Cameroon     -51  3.68 
Ghana      -51  6.36 
Moldova     -52  4.49 
Albania     -53  6.30 
Nigeria     -54  2.39 
Senegal     -56  2.44 
Somalia     -59  0.03 
Zimbabwe     -59  11.72 
Comoros     -60  0.00 
Ethiopia     -61  0.43 
Sierra Leone   -64  0.47 

 若者が目指す国、つまり希望を集計して若者人口がプラスになる国が116カ国の内で26しかない点をまずおさえておきましょう。欧米が上位独占ではなく、1位はシンガポールで537%なので6倍以上にも増える計算です。2位カナダ301%のあとにオセアニアのオーストラリア276%、ニュージーランド235%が続きます。以下は17位のデンマーク47%まで欧米諸国で、1人当たり紙消費量100〜200kgが並びます。18位に突然、アフリカからボツワナ46%が現れます。24位ナミビア7%と並んで22位南アフリカ21%の北側にある国で、いずれも貧しい国ながら地下資源の開発で脚光を浴びています。下位を占めるアフリカ諸国ではマイナス40%や50%が珍しくなく、まさに「国を捨てる」勢いの中で、この地域だけが希望が持てるようです。

 アジアの2番手は20位マレーシア34%。日本は21位23%ですが、高学歴層調査ではマイナス13%になる点は付け加えておきます。インドがマイナス9%、中国もマイナス10%と並んで現れます。並の国の10倍はある大人口国ですから、移住希望はそれぞれ並の1カ国分そっくりの規模だと思わなければなりません。華僑も印僑もいるシンガポールが人気なのは分かる気がします。オーストラリアへの留学も多いと聞きます。

 韓国はマイナス4%、香港もマイナス5%です。1人当たり紙消費量100kgを超す中進国以上でマイナス側にいるのは韓国と、70位の台湾マイナス28%だけでしょう。未来を見通しにくい、難しい国情が現れています。 ロシアはマイナス13%、やはり経済が伸びているブラジルもマイナス23%の位置にいます。

 マイナス20%台には東欧や中南米、旧ソ連邦諸国、中東のちょっと問題がある国が並びます。マイナス30%台に入るとアフガニスタンといった失敗国家がありますが、紙消費量は数十kgが多くて必ずしも貧しい訳ではありません。さすがにマイナス40%を超える23カ国では、紙消費量で見ても貧しさは歴然としてきます。バングラデシュのほかはアフリカ、南米が占めています。60%台は悲惨です。

 最後に日本で派遣の仕事を辞めて、シンガポールで10月から現地採用になったOLのブログ「LiKe A roLLinG sTonE〜シンガポール編〜Do not fear going forward slowly; fear only to stand still〜」を紹介しましょう。アメリカ留学はされていますが、それほど特別な能力はお持ちでないようです。それでもシンガポールを目指して行けるのですね。就職準備の話や現地事情、アフリカの珍しい国の人との出会いなど、人気国シンガポールの内情が見えるようで興味を持ちました。昨年、リリースした第190回「留学による大移動は新段階、中韓米日で見る」も、若者の動向を理解する資料になります。


あまりに酷い文部科学省の我が罪隠し、他人事ぶり

 「元気な日本復活特別枠」公開ヒアリングをめぐるサイエンスポータル編集ニュースの【 2010年11月11日 若手研究者の内向き思考も問題に 】を読み、憤ったので、簡単にまとめておきましょう。その場で文部科学省から「ノーベル賞のきっかけとなる業績は30代をピークとする若い時期に集中している実態があるが、大学教員に占める30-35歳の若手研究者の割合も減少している。01年に11.3%だったのが07年には9.8%まで落ちている、という数字も示された」のですが、何を寝言を――です。強引な大学院重点化を推進して、助手を中心にした若手大学教員ポストを激減させたのは文部科学省自身です。サイエンスポータルはそういう現状認識もなくて運営されていたのですか。

 2002年に書いた「インターネットで読み解く!」第120回「負け組の生きる力・勝ち組の奈落」の第3節「◆大学院重点化は一種の“詐欺”商法」を読んでいただけば一目瞭然です。このエントリーの前文で書いた「浮かび上がるのは、政策的な整合性に詳しく成り行きに責任を持つべきテクノクラートが、調子の良い、場当たり政策セールスマンになってしまった逸脱である」こそが、起きている事の本質です。8年も前に指摘した以下の問題点に、文部科学省は目に見える、本質的な手を打ったでしょうか。

「文部官僚は研究費大幅増と大学をだまし『安い投資と』大蔵をだますことに成功した。定員が増えたのだから、修了する博士課程卒業者は増える。本来はそれを収容できるアカデミックポストも増えていなくてはならないのに教官定員は変わらず、むしろ若手が就ける助手ポストは激減した。場当たりに考え出されたポスドク1万人計画で、当座の失業問題はしのいだが、ポスドクの任期が終わり、本格的に就職せざるを得ないこれからの対策は全く見えない」

 「参考データ集(第5回基本政策専門調査会)」に見やすいグラフがあったので引用しておきます。大学における37歳以下の若手教員の推移を示しています。全体は増えているのに若手は減っており、2007年の21.3%に対して2001年の23.3%、1998年の25.2%という数字があります。今すぐには数字が見つけられませんが、それ以前にはもっと若手の割合が高かったのです。学生ばかりでなく、若手研究者の海外留学も減っていますが、ポストが激減して手放せなくなっている事情を考えれば当たり前でしょう。





死刑回避、超長期日程、裁判員裁判に難題例

 裁判員裁判で非常に難しいケースが相次いでいます。東京地裁で1日に判決があった「耳かき店員」2女性刺殺事件では死刑が回避されて無期懲役になりました。こちらも死刑の可能性があって裁判日程が40日間にもなる鹿児島地裁の高齢夫婦殺害事件では、450人もの裁判員候補を用意したのですが9割に当たる404人が辞退し、結局、34人が1日の選任手続きに出席しました。これまでにも指摘してきた裁判員制度の問題点が表面化しており、放置するのは問題でしょう。

 死刑まで真剣に議論したのが、今回の事件です、毎日新聞の「東京・西新橋の2女性刺殺:地裁判決 裁判員会見(要旨)」で女性の裁判員が「この2週間、ふとした時に遺族や被告の顔が浮かび、心安らげる時間はなかった」「遺族の陳述を聞いたりして気持ちが高ぶったが、皆さんの意見を聞いて冷静に判断した」と述べています。負担の大きさが分かります。

 J-CASTニュース《「耳かき店員殺害判決」プロの裁判官でも無期懲役》にあるコメント「縁もゆかりもない、何の恨みもない人間に対し、絞首刑の踏み台を外すスイッチを押すわけですから、被害者の死と被告の死の狭間に入って感情が揺れたと思う。無期にしたからといって、遺族の方はどう考えるかという思いにずっとかられていくでしょう」「裁判員に初めから死刑だ、無期だという判断を求めるのは厳しい。小さい刑から馴らして行ったほうがいい」は妥当と思えます。

 被告が無罪を主張していて、長期裁判が必至の高齢夫婦殺害事件も裁判員裁判には馴染まないと考えます。《鹿児島・夫婦殺害:裁判員選任 「なぜ日程40日間も?」 /鹿児島》(毎日新聞)は超長期に仕事を休む裁判員の事情をこう伝えました。「選任手続き前、20代の女性保育士は『辞退も考えたが、勤め先が理解してくれた』と話した。その一方、『勤務先から”何でこんなに長いのか”と言われた。有給は4日だけで残りは普通の休み。会社もどうしていいのか分からなかったと思う』という境遇の20代のアルバイト女性もいた。さらに、鹿児島市の事務職の女性(25)は『仕事の引き継ぎはしたが、すべて任せることはできない。裁判のない土曜日は出社するつもり』と覚悟していた」

 辞退を認めているとはいえ、8週間も平日を潰せる勤め人がどれほどいるでしょう。死刑廃止論の人を選任するかどうかという問題も含めて、裁判結果にバイアスが掛かる問題点を洗い直すべきです。

 【参照】インターネットで読み解く!「裁判員」関連エントリー


視聴者のテレビ離れが歴然とするグラフが出た

 グラフ化の技が秀逸な「Garbagenews.com」から「主要テレビ局の複数年に渡る視聴率推移をグラフ化してみる」がリリースされました。テレビ主要局が軒並みゴールデンタイムの視聴率を下げている実態が一目で分かります。テレビの電源を入れている家庭が1997年に比べて1割ほど減っている事に加え、各局は強引なコストカットを進めて質の低下が言われている点も視聴率低下に結びついているようです。いよいよテレビ離れ本格化です。

 ゴールデンタイム(19時〜22時)の視聴率各年度第1四半期(4〜6月)での比較によく傾向が出ていますから、是非グラフをご覧になって下さい。そこから2005年春と2010年春のデータだけ引用します。

       2005年春  2010年春
 日本テレビ 12.6% → 11.6%
 TBS   12.7% →  9.6%
 フジテレビ 14.6% → 12.6%
 テレビ朝日 12.9% → 11.6%
 テレビ東京  8.3% →  6.0%

 2年前のエントリー「企業のテレビCM離れ、本物になった!?」でスポット広告が前年比1割も落ち込み、世界金融危機が起きる前から企業のテレビCM離れが進んでいたことを紹介しました。そこから番組製作コストの削減が強力に推し進められ、各局とも似たようなつまらない番組が並ぶ結果に直結して、軒並みの視聴率低下につながったようです。

 視聴率低下は企業のテレビCM削減に結びつきますから、完全に負の連鎖サイクルに入っています。放送業界は地デジ移行で多額の資金を要し大騒ぎしていますが、実は「本丸」が危うくなっているのです。


地上デジ放送移行巡るドタバタ、一段と混迷増す

 読売新聞が「BSで地デジ…総務省が緊急対策」で「2011年7月の地上デジタル放送への完全移行時に、アンテナ工事などが間に合わない世帯が、BS(放送衛星)放送経由で地デジ番組を視聴できるようにする緊急対策を講じる方針を固めた」と伝えました。地デジ難視聴対策で極めて限られた世帯にしか見せていないBS経由地デジ番組を、工事が間に合わない多数の世帯にも開放する措置で、デジタル化は最初からこのBS方式にしていれば現在のような大騒ぎは無かったと、国が認めたようなものです。

 BS経由で地デジ番組が見られるのを知らない人が多いと思います。「地デジ難視聴対策の衛星試験放送を22日から開始」(AV Watch)にあるように「2011年7月の地上アナログ終了までに地上デジタル放送が送り届けられない地区に居住している人を対象に、暫定的に衛星放送を利用して地デジ放送を行なうもの。スクランブルをかけているため対象地区以外は視聴不可となっている。3月11日から本放送を開始し、NHKおよび地域民放と同系列の東京キー局番組の放送を2015年3月末まで実施予定」となっています。

 電子番組表(EPG)のBSデジタル291〜298チャンネルに見られない番組があることに気付いていらっしゃれば、あのチャンネルが視聴できるようになるのです。「地デジ工事が間に合わない世帯が申請した場合に限り、BS放送経由で視聴できる地デジ番組にかけている暗号を解除し、アンテナ設置までの『時間稼ぎ』をする」そうですが、本末転倒と評すべきか、混迷の度合いはますます深まった感じです。

 毎日新聞は「地上デジタル放送:完全移行に延期論 広瀬道貞さんと坂本衛さんに聞く」で移行延期論についてまとめています。「総務省の3月調査の普及率『83・8%』は、実態をまったく反映していない。機械的に生成した固定電話の番号に電話して了解のあった人に調査票を送る方式だが、携帯しか持たない若者や、昼間自宅を留守にしている単身者や共働き世帯には電話がつながりにくいからだ。我々はせいぜい60%台とみている」など、あちこちで施策の綻びが指摘されています。

 また本当にテレビ放送が見られない世帯が発生すれば、NHK受信料を払う義務は無くなります。「『地デジ難民』問題はNHKにとっても悩みの種だ。内部調査で受信料収入が91億〜666億円減る恐れがあるとの試算も出たからだ。最悪の場合、受信料収入の約1割が失われる計算になる。福地茂雄会長は今月14日の会見で、『600億(円)も減ったら大変なことで、予算なんかできやしない』と述べた」――難視聴対策BSのスクランブル解除は広くNHK総合・教育の視聴を確保する意味を持ち、受信料支払いを止める世帯に説得材料になりますが、話の順番が逆ではありませんか。県域で電波を区切り、地域別CMを流したいという放送局のエゴを守るから、このように歪んだ経過になったのだと明かしてしまいました。

 【参照】インターネットで読み解く!「地デジ」関連エントリー


前特捜部長ら拘置延長、供述調書1通も作成されず

 大阪地検特捜部の証拠改ざん・犯人隠避事件で拘置されている前特捜部長・大坪弘道(57)と元副部長・佐賀元明(49)両容疑者が拘置延長を不服とした準抗告について、読売新聞が《「いたずらに身体拘束」…犯人隠避、前特捜部長ら準抗告で検察批判》と伝えました。最高検からのリークが連日、マスメディアで大きく扱われる中で世間の心証は有罪に振れており、検察捜査の在り方に慎重であるべき事件だけに是非とも必要な記事でした。

 「2人は最高検の調べに、故意の改ざんと伝えられたことを否定している。供述調書は1通も作成されていないという」「大坪容疑者の準抗告申立書では『逮捕前に参考人として長時間の取り調べを受け、自白するよう強く誘導された。これまでに自らが認識している事実をほぼ供述しているので、強要されない限り、新たな供述は生まれない。自供に追い込むためにいたずらに身体拘束しているに過ぎない』などと批判している」

 まさしく従来型の思いこみ検察捜査が密室で進められているのです。村木事件でこれが駄目だったのだとの認識が、まだ最高検に出来ていないことが不思議です。自分の見立て通りで最後まで突っ走る捜査は止めていただかなければなりません。今回、取り調べ状況の可視化が要請されたのに拒んだので、それなりに配慮しているのかと思いましたが、やっぱりでしたか。

 もう一度、申し上げて置かねばなりません。「逮捕の特捜幹部は最高検の見立ては間違っていると全面的に争う姿勢だといいます。マスメディアの報道も従来の検察報道パターンと変わっておらず、冤罪の可能性を担保する姿勢が希薄です。全体の構図がとても歪んでいて、奇妙だと思います」(第221回「信頼が無い最高検が特捜幹部を逮捕しても」から)


過剰なノーベル賞騒ぎ、もうお終いにするべき

 ノーベル賞の日本人受賞者が18人にもなっているのに、最初の数人の頃と変わらぬお祭り騒ぎ、あるいは準備が出来ているためにもっと過剰なマスコミ報道が続いていると感じます。無意味な騒ぎはもう終わらせ、淡々と伝える時期が来たと思います。サーチナが《【米国ブログ】ノーベル賞受賞者に殺到する日本メディア「文化の違いを感じた」》でパデュー大学や根岸教授宅周辺での、日本取材陣の過熱ぶりを目撃した米国人ブロガーの反応を伝えています。

 「日本では、多くの朝のテレビ番組が、パデュー大学の根岸教授と中継で放送を行い、さらに日本の夕方のニュースに備えて、根岸教授の周辺に残っていると驚きをもって伝えている」「米国メディアについては、地元の放送局2社が取材に訪れ、撮影を終えたらすぐに帰り、その後、正午ごろにAP通信のテレビが取材に来て、撮影した映像が全米のテレビで放映されていたが、その他の米国メディアは訪れなかった」「日本のテレビ局各社は、朝のテレビ番組で何か独占的な内容をいれようとやっきになっている様子で、カメラマンと中継車は、根岸教授の家のすぐ側にとどまり、教授が飼っている猫が出てきただけでも、その一瞬を逃がすまいと撮影に専念していたそうだ。また根岸教授の周辺の人々は、慣れないインタビューに戸惑っていたと伝えている」「筆者は、プライベートな部分にまで立ち入る日本のメディアの過熱ぶりに、驚きを隠せなかったとつづっている」

 日本国内での取材ぶりを知っているので想像が付きますが、マスメディアとして事の本質とこれだけ懸け離れた取材をしていて恥ずかしくないのでしょうか。また教訓を引き出すのが仕事とは言え、根岸教授の発言で「受験戦争の支持者」という部分を切り出して見出しにするのもいかがなものかと思えます。空騒ぎも読売新聞の「ノーベル賞・鈴木さんの座布団発見、展示へ」あたりまで来ると、もう勘弁して欲しいと言わざるを得ません。

 【参照】「インターネットで読み解く!」ノーベル賞関連ファイル


検察審再議決、マスメディアの困った論調

 小沢一郎・民主党元代表をめぐる政治資金規正法違反事件で、東京第5検察審査会が2度目の議決をし、小沢氏の強制起訴が決まりました。読売新聞の社説《検察審再議決 小沢氏「起訴」の結論は重い》をはじめとしてマスメディアは再議決に乗った形の論調を展開しています。予想はしていましたが、こうまで横並びだとはがっかりです。

 読売社説は「『有罪の可能性があるのに、検察官だけの判断で起訴しないのは不当で、公正な刑事裁判の法廷で黒白をつけるべきだ』とする検察審の指摘を、検察は重く受け止めなければならない」と主張するのですが、司法の取材を担当した経験があれば暴論としか思えないはずです。これでは起訴のハードルが限りなく下げられ、起訴される事件が大幅に増えるでしょう。日本の司法制度が根底から狂ってくることになります。

 「情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)」の《小沢起訴は、検審が「国民の責任において、公正な刑事裁判の法廷で黒白をつけようとする制度」だから》は「検察審査会は、有罪であることが明確であるにもかかわらず、起訴していない事例についてのみ、強制起訴の判断をなすべきであることも明白だ」「秘書が5年前に小沢氏に報告したか、どうかを裏付けるものはない。密室での取り調べの中で報告したとの供述があるようだが、その後訂正されている。5年前のことについて記憶がゆらぐのは当たり前であり、物的な証拠もなしに、100%近い確率で有罪にできると言い切れるだろうか」と指摘、「検察審査会は、超えてはならない一線を越えたように思う」と述べています。

 読売社説の結語は「無責任な検察審批判は慎むべきだろう」ですが、この議決をきちんと検証できない論説委員しかいないのなら、新聞社に論説委員室などという組織は全く不要です。

 【参照】第199回「政治家とマスコミの愚、公認会計士が直言」


信頼が無い最高検が特捜幹部を逮捕しても

 大阪地検特捜部の証拠改ざん事件は、当時の特捜部長らの逮捕にまで発展しました。事情を知らないでいれば最高検が身内の犯罪に厳しく襟を正しているように見えるのですが、第218回「無罪判決、検察特捜部の劣化にどう責任とる」で指摘したように、村木厚子・元局長の事件で強制捜査と起訴を容認したのは最終的に最高検なのです。国家権力を執行する当事者が、部下が全部を報告しなかったから犯罪だと騒ぎ、一方で逮捕の特捜幹部は最高検の見立ては間違っていると全面的に争う姿勢だといいます。マスメディアの報道も従来の検察報道パターンと変わっておらず、冤罪の可能性を担保する姿勢が希薄です。全体の構図がとても歪んでいて、奇妙だと思います。

 「Japan Blogs Net」で拾っても、多数の方がこの問題を取り上げていらっしゃいます。

 「大石英司の代替空港」の「検察を裁くのは誰?」は「日本の検察に於いて、このような組織的な犯行が成されることを、日本の司法制度は全く想定していない。言ってみれば、現代に於ける特高組織ですよね。彼らを監視して裁く仕組みが無い。検察が組織的な犯行に及んだ場合、やっぱりそれを裁くのは検察なのか? 泥棒に荒縄をなわせるのはやっちゃ行けないことです」「アメリカでは、ご存じのように自治体検察のトップは選挙で選ばれます。そういう仕組みをそろそろ検討すべき時期も知れないですね」と踏み込んでいます。

 「■法、刑事裁判、言語を考える」の「■特捜検事証拠かいざん事件ー特捜幹部逮捕」は「危機管理のできない正義の味方。内に敵がいた途端に、全面崩壊に近い」と指弾し、「(1)『特捜解体』をさっさと宣言すること」から「(5)上村裁判での公訴取消ー刑罰権行使不適格の宣言」まで厳しい5項目を掲げ、「こんなことを迅速に果敢に行わない限り、特捜捜査など国民が信頼しない。さらに、検察捜査も社会が拒絶する」とまで主張しています。

 「中山研一の刑法学ブログ」の「元特捜部検事の談話」は検察OBに今なお「特捜検察の原点に帰れ」といった時代の読み違えがあるとしてき、「ここまで来てしまえば、取調べの適正化のために、『全面可視化(録音・録画)』は避けられないのでないか、という意見も出ていることが注目されます」と述べています。

 「ビジネス法務の部屋」の「(元)京都地検次席検事逮捕への雑感・・・・・」は内部で告発した女性検事について「内部告発代理人や内部通報窓口業務の経験からすると、やはり女性の力はすごいなぁと改めて感じます。組織を動かすのは、やはり今回も」「もし調査をしないのであれば、私は検事をやめます」と発言した女性検事であり「組織の空気を変えることができるのは、やはり女性の力だと改めて認識したような次第であります」と感想を書いています。

 最高検がしている捜査は形だけ整っているようで、この事態に対して、国民が本当に望んでいる対処ではないと考えます。今回の捜査だけについても、弁護士や法律学者による第三者組織を早急に立ち上げて委任すべきでしょう。


京大さん、日経さん、ネット調査信頼は無茶

 8月に京都大や同志社大などのグループがインターネット調査で約1600人調べた結果、「理系は文系より年収が100万円高い」と発表したので、《「理系が文系より高給」京大さん、それは無茶》で批判しました。マスメディアがこうした発表があったと伝えるのは中身にどんな問題があろうと構わないのですが、9月20日に日経新聞が事もあろうに教育面でグループのリーダー、西村和雄・京大特任教授の寄稿を大きく掲載しました。これでは日経新聞としてオーソライズしたことになります。世論調査を手がけた経験者には当たり前の「インターネット調査はきちんとした社会調査に使えない」との常識が欠けているのは大問題です。

 日経新聞の見出しは「理系卒、職業選択肢広く/京大特任教授ら調査/年収、実は文系よりも高く/定説は誤り/文理問わず勉強を」となっています。このグループは2000年と2001年にも私立3大学の文系学部卒業生の平均年収を郵送調査し、入学試験で数学を選択した方の748万円に対し選択しなかった方は641万円(2000年分)などの結果を出しているそうです。「数学を勉強しても社会で役に立たない」と言われることへの実態調査だそうですが、文系進学でも数学を選択できた能力の高さが反映しているだけともとれます。

 今回のインターネット調査は「予備調査で約9万人のサンプルに配信した上で大卒者6870人に絞って配信し、2152人の有効回答から分析に用いる変数に欠損がない1632人を分析した」とだけ説明されています。その結果が平均年収で文系(平均41.11歳)583万円に対し、理系(平均41.05歳)が681万円と高く、これは年齢別でも大学の難易度別でも同じだったといいます。文系で数学選択の有無をみると、636万円対506万円で数学選択者が高く、前回同様といいます。

 このインターネット調査だけで結論が出せる度胸の良さに唖然としました。この1632人がどうして日本の大学卒業者全体を代表できるのか、どこにも説明がありません。たまたま調査会社に登録した人から大卒者を選び、3割もない有効回答率の下で議論をしています。年収は完全に自己申告でしょうから正確とは思えません。また、テーマが収入であることを考えると、ネット調査会社に登録してお金を得ようとしている人ばかりが対象となれば、かなりひねくれた偏り、いわゆるバイアスがあると考えられます。

 広く認められている世論調査でサンプルを集める手法は層化2段無作為抽出法と呼ばれます。調査地点を最初に選びます。全国3000人調査なら、1地点10人として300地点を全国から選んできます。その際に全国から集めてもどこも都市中心部だった、では困ります。地点の性格を商業地、住宅地、工業地帯、農林漁業地区などに分類、全国的にみてこの地区性格の割合も全国の縮図になるようにランダムに選びます。「層化」とはこういう意味で、2地点しか選ばれなかった小さな県では都市部なしの田舎ばかりというケースもあります。

 新聞社ではあらかじめいくつもの全国調査地点セットを用意しておき、必要に応じて使い分けます。面接調査をするなら有権者名簿や住民基本台帳で地点ごとにもう一度、ランダムサンプリングして対象者を確定します。最近多い電話調査の場合は、電話番号の下から3桁目以上が所在地を表しているので、調査地点に入る電話番号を集めてきて、コンピュータでその中からランダムに番号を発生させます。電話帳に載せず、誰にも知らせていない番号でも掛かることがあります。

 内閣府が2008年に調査研究「世論調査におけるインターネット調査の活用可能性〜 国民生活に関する意識について 〜」を実施しています。上述の層化2段無作為抽出法で得た20歳以上全国1万人調査と、年齢・性別の人口構成を合わせたモニタ5359人によるネット調査の結果を比較する研究です。有効回収は面接が6146人、ネットが1500人です。面接分からネットを毎日使う2088人を取り出した結果も並べられています。

 所得・収入での満足度を尋ねると、ネット調査では「満足2.2%、まあ満足25.7%、やや不満28.9%、不満38.3%」に対して、面接の世論調査は「満足5.6%、まあ満足35.2%、やや不満37.4%、不満20.3%」で、ネット側の不満の高さが目立ちます。面白いのは面接分でネットを毎日使う層が両者の真ん中に入るのではなく、不満度は一番低いのです。ネットを使う人の中でもネット調査モニタはかなり特異です。「現在の生活の充実感」などの質問でも同じ傾向です。

 研究の「比較分析」はネット調査と面接の世論調査について「結果を見ると,前回と同様に,経済面とはそれほど関連しない『時間のゆとり』においては差異が小さく,『今後は心の豊かさか/まだ物の豊かさか』,『将来に備えるか/毎日を楽しむか』など,経済面に大きく関連する分野においては差異が大きい」と述べ、「現時点で世論調査が直ちにネット調査に置き換えられる可能性はほぼない」と結論づけています。

 社会調査も科学として見れば、現実に起きている事象・現象の観測行為です。何を観測しているのか説明できないのに、結果だけを一般化してしまうのは最悪です。京大さん、日経さん、それは無茶です。


地検特捜の劣化を個人の資質としてはならない

 朝日新聞のスクープ「地検改ざん疑惑」でマスメディアは一斉に、前田恒彦・主任検事の犯罪と言うしかない証拠フロッピーの日付データ改ざんを報じています。最高検が証拠隠滅容疑で異例の捜査に乗り出し、逮捕にまで至っているのですから当たり前ではありますが、厚生労働省の村木元局長郵便不正事件での無罪判決について、検察に同調してきたマスコミの反省は十分ではないと感じているので、違和感があります。地検特捜の劣化を個人の資質として逃げることになる恐れを強く感じます。

 検事が証拠を改ざんする事態は刑事訴訟法では全く想定されていません。「ビジネス法務の部屋」が「検察の捜査資料改ざん事件(特捜検事のコンプライアンス)」で「郵便不正事件の無罪判決以上に驚くべきことであり、弁護士としては戦慄を覚えます」「もし私が弁護人だったら、まず今回の事件を枕詞として利用し、検察庁ではこういったことが行われているのです・・・これから始まる裁判でも、同様のことが行われているかもしれません・・・と、裁判員の方々に説明することになると思います」と述べるほど、法律の専門家の背筋を寒くしました。

 そうであるが故に、最高検の「捜査」で国民に対する説明責任が果たせるのか、どのような結果が出ても納得できない感じがするのです。村木裁判で最高検は、大阪地検特捜部の捜査、起訴、裁判での立証を、事前協議の上で了承してきたのであり、当事者そのものです。そして、最高検は判断を誤った今回の無罪判決に対してきちんとした自己検証をしていません。前田検事の個人的な「犯罪」がクローズアップされ、マスコミがそれを伝えることでマスコミ自身も地検に同調してきたことを免罪してしまうのは、冤罪問題の将来を見据えてとても拙いことではないでしょうか。

 3月の「地検特捜の捜査ここまで劣悪。東京も大阪も」で「大阪地検特捜部の捜査がいかに劣悪か、笑い出したくなるほど明白になってきました。しかし、こんな面白いニュースに対してマスコミは出来るだけ踏み込まず、扱いを控えめに努めているように見えます。NHKにいたっては、ここでも地検の側に立って報道する姿勢です。東京地検特捜部の小沢政治資金疑惑事件といい、検察当局とマスメディアは『心中』するつもりなのでしょうか。これから国民から生じるリアクションの大き、深刻さを思うと愚かしさに唖然とします」と指弾した立場から強い懸念を表明しておきます。

 【参照】2010/9/10……第218回「無罪判決、検察特捜部の劣化にどう責任とる」


電子書籍、登場直前?の気になる周辺情報

 相変わらず煮え切らない電子書籍の国内登場話ですが、「電子書籍出版の事なら イーパブス・ドット・ジェーピー出版」の「原稿募集のお知らせ」で「第一期で審査に合格した作品は、11月にオープンする予定のKindle日本語ストアで順次販売されます。(iBookStoreの日本語ストアのオープン時期は未定です)」と「11月」がアナウンスされています。INTERNET Watchの《書籍の電子化、「自炊」「スキャン代行」は法的にOK?〜福井弁護士に聞く著作権Q&A》とともにネット上、話題になっています。

 アマゾンはついに日本語書籍でも本格的に動くのでしょうか。印税・手数料として「Kindleの場合:作者様20%、弊社15%、Amazon65%」が提示されています。販売価格は作者が決められ、「Kindleの場合:通貨単位はドル・セントで、1セントきざみで指定できます。$0.99(約86円)や$2.99(約260円)が多いようです」とされています。募集はキンドルですから当然ながら白黒原稿に限られ、第一期審査は9月19日までです。iPadでも読めるようになるはずです。

 「著作権Q&A」は電子本の自主生産「自炊」をめぐる法律的な判断を、細かな岐路を含めて解説してくれます。これまでで最もまとまった形で法律専門家の見解が知れます。「そうなのか」と思わされたのが「Q3:家族などを除いて、自炊したデータを知人に譲渡するのは?」「A3:ハードごと渡す場合を除けば、基本的に違法です。」で「当初の“自炊”は私的複製だった場合で、これらのデータが保存されたUSBメモリーやiPadなどの機器ごと知人に譲渡する(デジタルコピーを行わないで譲渡する)ことは基本的に適法と考えられます。データを含む機器そのものを特定の知人に提供する行為は、複製権や後述する譲渡権を侵害しないためです」とあった点。「当初が私的複製なら」との前提ですが、デジタルデータ譲渡が適法とされるんですね。

 現れそうで現れない電子書籍。ハードウエアの販売が先行していますから、1カ月前にウオッチしたときと比べてオークションでの裁断済み本取引はますます盛んになっています。「裁断済」をキーワードにしてみるとヤフーでの書籍点数、種類が膨らんでいました。売り手はデジタルデータとして取り込みが済んでいますから、裁断処理料金程度の格安値付けがかなりあります。やはりコミック類がたくさんあり、需要が大きそうです。新書類をまとめて売って入札が多いケースもあります。


無罪判決、検察特捜部の劣化にどう責任とる

 これだけ無惨に地検特捜部が敗れる判決があったでしょうか。厚生労働省の村木厚子・元局長を被告とした郵便割引制度をめぐる偽の証明書発行事件で、大阪地裁は10日、無罪判決(求刑懲役1年6カ月)を言い渡しました。検察による取り調べ調書の大半が裁判所に証拠採用されなかった異例の事件ですから、控訴できるはずもないと思います。検察はどのような「けじめ」をつけるのでしょうか。検察幹部の更迭が必要です。

 冤罪事件として考えると、マスメディアも片棒を担いでいると言わざるを得ません。「村木厚子さんを支援する会」のサイトには、「事件」発生からの動き、ドキュメントが掲示されています。「7月30日(木)の毎日新聞に玉木達也記者による接見記が掲載されました」には2009年7月19日付の毎日新聞「記者の目:郵便不正の虚偽公文書作成事件」が出ていますが、大変な冤罪になりうるとの視点は希薄です。事件は終わっていないと疑問を投げるのが精一杯でした。

 村木さんの共犯者とされた部下、上村被告は取り調べ段階では上司との共謀を全面的に認めています。昔のように認めさせようと拷問をしたわけではありません。何があったのか、公判で明らかになりました。「10.02.26 ジャーナリストの江川昭子さんが、第8回公判を傍聴し文章を発表しました。」にこうあります。

 「S検事『でも、村木さんの関与について書かれている調書に、あなたは署名してますよね?』」  「上村氏『村木さんの関与なんて、自分は一度も言ってないのに、拘留期間が長引くよとか、再逮捕をちらつかされたり・・・有形無形の圧力が有って、関与について『はい』と言ってしまったんです。それだけじゃなく、あの人はああ言ってる、この人も認めてるって、外堀を埋められるような感じで言われると、弱い立場なので、もういいや・・・と諦めの気持ちになってしまいました。自分の意思とは違うけれど、大人しくしないとダメだ・・・と、ずるいかもしれないけど、自分の身を守ることだけを考えるようになってしまいました。検事さんはね、体調はどう?とか食事はちゃんと食べれてる?とか、優しく聞いてくれるんですが、僕の供述は無視して、自分の考えをどんどん冷静な態度で調書にして行くんです。この人が豹変したら僕はどうなるんだろうって・・・その冷静さがすごく恐ろしかったです。話が、どんどん大きくなって行き・・・恐怖感でいっぱいでした。』」

 被告のあまりの小心さ、検察官の思いこみの酷さに驚きますが、捜査する側が丁寧に裏をとっていけば、こんな虚構が表に出る事はないのです。捜査は単独でしているものではありません。

 3月の「地検特捜の捜査ここまで劣悪。東京も大阪も」で「私が検察官を取材した経験からは、これが事実なら、もう勝負は『終わっています』ね。事実だったことを法廷で『証明』するために、検事だけでなく都道府県警の捜査官もどれほど細部を詰めていることか。それほど要るのかと思えるほど複数の関係者から証言を集め、補強するのが、捜査では当たり前の世界だったのです。特捜部の捜査がこの程度の思いこみで進行しているのなら、検事総長の首がいくつあっても足りないと思います」と指摘しました。

 大阪高検から最高検まで協議を重ねて強制捜査に踏み切り、起訴しているのですから口をぬぐうことは出来ません。


「理系が文系より高給」京大さん、それは無茶

 朝日新聞の「『理系は文系より年収が100万円高い』 京大など調査」を見て、困ったものだと思いました。統計調査の基本、母集団の整備が出来ていないで結論を急ぐ典型的な悪例です。インターネット調査で1600人調べたと言い、京大が入ってちゃんとした研究に見えるのだから始末が悪いですね。理系と文系の収入を比較したければ、人事院が毎年している職種別民間給与実態調査が利用できます。以下に平成21年職種別民間給与実態調査「表6 職種別、年齢階層別平均給与月額」からの抜粋を掲げます。

 平均給与月額(企業規模50人以上、かつ、事業所規模50人以上)
         40−44歳     48−52歳    56歳以上  
 大学教授    650,857円    702,766円   777,336円
 事務部長    660,954円    689,061円   668,078円
 支店長     680,126円    816,230円   726,787円
 研究部長    589,116円    703,444円   711,956円
 技術部長     589,236円    663,353円   646,283円
 工場長     505,738円    660,290円   733,238円
 医科長     1,270,432円    1,304,497円  1,266,670円
 医師     1,096,285円   1,282,693円  1,209,025円
 事務課長    582,429円    596,976円
 事務係長    451,844円
 技術課長    536,488円    580,412円
 技術係長    458,603円

 いかがでしょうか。医療関係を除けば、依然として文系が理系よりも高給である状況に変化はありません。事務部長や支店長の方が技術系より優遇されています。40〜44歳の課長でも事務と技術で4万6000円の差が出ていて、これは結構大きいと思います。記事にある「20〜60代の1632人(平均年齢43歳)を分析したところ、文系出身988人の平均年収は583万円だったのに対し、理系出身644人は681万円だった」はこの調査と全く相容れません。きちんとした公的な調査があるのにインターネット調査に頼るのは無茶、無謀です。

 この表は「インターネットで読み解く!」第143回「巨額な発明対価判決が映すもの」で使った平成8年職種別民間給与実態調査と形を合わせていますから、部長級以上では過去13年をはさんだ比較が出来ます。比べてみると56歳以上の事務部長(793,534円)や支店長(807,680円)が、現在では大幅に給与カットされていると知れます。不況による幹部社員の給与カットかも知れませんが、理系側はあまり目立ちません。多少は理系・文系の給与格差が縮小しているようです。

 【続報】9/25「京大さん、日経さん、ネット調査信頼は無茶」


「自炊」電子書籍=裁断本の取引と貸本アイデア

 話だけ多数あって乱立模様、なかなか本格的に動き出さない国内の電子書籍です。そんな中で「電子書籍の普及が早いか、貸本屋の裁断本が早いか」(「走れ!プロジェクトマネージャー!」)が絶滅寸前の貸本屋さんの起死回生策として面白いアイデアを出して、注目です。「裁断本を置くことで貸本屋業が一気に復活してくるんじゃないか、なんて個人的に考えています」

 この記事の指摘にあるように、Yahoo!オークションで「裁断済」「断裁済」のキーワードを引くとかなり多くの書籍出品が見られます。例えば前者なら物理学や法律の専門書、文学作品に、漫画の「ワンピース」全59巻セットとかが並んでいます。値段は一見して安いと思えるもの、高めと様々です。

 「個人所有本のPDF化サービスは大繁盛のよう」で紹介したように、1冊100円前後で裁断サービスを受けて出品しているのでしょう。いわゆる「自炊」電子書籍です。その上で裁断サービス料金などを回収しようと考えるか、本そのものの価値を訴えるかですが、通常のオークションと違って出品者が電子データを取得済みなのは明らかで、どんな値付けが主流になっていくのか、興味があるところです。

 オークションで買われた裁断本が再びオークションに出ることも十分に考えられます。多数の裁断済み書籍がどんどん回っていくようなら、実質的に貸本のような状態が生まれます。何かゲリラ的なやり方ですが、書籍の売り買いそのものは合法的です。


大卒若者就職難のネット論議がホット展開

 読売新聞が6日に出した記事「大卒2割 就職せず…今春10万6000人」を巡って有力ブロガーらが取り上げ、ネット論議が盛り上がっています。この記事は「就職留年7人に1人、これも高学歴プアー」で紹介した今春の就職難規模が、文部科学省公表の学校基本調査ではさらに悪化していて、大学を卒業しての進路未定が10万人、留年も10万人に膨れあがっている話です。読売新聞のグッドジョブです。

 「茂木健一郎 @kenichiromogi さんの日本の就職連続ツイートとその反響」には「大学3年の夏から、実質上就職活動が始まる日本の慣習は、明らかに異常である。学問が面白くなって、これからいよいよ本格的にやろうという時に、なぜ邪魔をするのか」「新卒一括採用という慣習は、経営的に合理性を欠く愚行だとしか言いようがない。組織を強くしようと思ったら、多様な人材をそろえるのが合理的である」「日本の企業がiPadのような革新的な商品、googleやyoutubeのような革新的なサービスを出せない理由の一つに、大学3年から従順に就職活動をするような人材しかとっていないという事実がある」など。これまでもサイエンスやオピニオン系の取材をして、多くの研究者からたびたび聞いている趣旨の発言が含まれています。

 「内田樹の研究室」の「日本の人事システムについて」に多数のはてなブックマークが付きました。やはり新卒一括採用に疑問を呈しますが、従来とは目線を転換した発言です。「現行の就活は、『優秀な人材の登用』よりもむしろ、日本の若者たちを『組織的に不安にさせること』を結果として生み出していることを、企業の人事担当者はもう少し自覚して欲しい」「いまの雇用システムでは、『きわだって優秀な人間がそれにふさわしい格付けを得られない』ことよりも、『ふつうの子どもたちが絶えず査定にさらされることによって組織的に壊されている』ことの危険の方を重く見る」「正直言って、私は日本人がiPadを発明しなくても、YouTubeを発明しなくても、別に構わないし、それをとくに恥じる必要もないと思っている。それより、ふつうの人たちが等身大の自尊感情を持って暮らせる社会を確保することの方が先決ではないかと思う」

 確かに苦しんでいる若者の心に響くのでしょう。しかし、はてなブックマークを辿ると「新卒一括採用の是非」(nonomachon2ndの日記)は「新卒一括採用は悪だから廃止すべしといっても、廃止されて一番困るのは当の若者だ。新卒一括採用がなくなればアメリカやヨーロッパのように若年失業率は跳ね上がる。経験者たちと同じラインで就職活動するわけだから当然の帰結。若者が負うハンデは消えることはない」と現実問題を指摘をしています。「卒業後も自らを高める余力があるのは結局金持ちの子だけだ。貧困な大半の子は働かざるをえない。でも新卒一括採用がない。何かの専門能力を高めなければならない。でも仕事につけないのだから専門能力も高まらない。じゃあアルバイトでもするしかない。アルバイトで生活していくには正規労働者の1.5倍は働かないといけない。結局働きづめでいつまで経っても貧困から抜け出せない」

 読売新聞の記事は「国公私立の別では、私立が約9万3000人と全体の9割近くを占めた。また、進路未定者の6割超はいわゆる文系で、『私立文系男子』の苦戦が目立った」とも伝えています。「池田信夫 blog」の「大卒はなぜ職にあぶれるのか」は「経営者に『新卒一括採用はよくない』などと説教したって始まらない。それは日本的雇用慣行の中核にある年功序列システムの一環であり、人事システム全体を変えないで新卒一括採用だけをやめることはできない」と突き放していて、若者には評判が良くないようです。結論である「大学生の供給過剰は文科省がコントロールできるのだから、早急に対策をとるべきだ」は読売記事のこの部分と呼応していると観るべきでしょう。

 【参照】親サイト「インターネットで読み解く!」
   2010年「文系も理系も高学歴プアー:年上世代は身勝手」
   2002年第120回「負け組の生きる力・勝ち組の奈落」
   2000年第95回「学力低下問題の最深層をえぐる」


復讐は両親にも!? 秋葉原事件被告の心の闇

 無差別大量殺傷の秋葉原事件。27日の公判で加藤智大被告の肉声が初めて出てきました。そして、同時に明らかにされた両親への出張尋問内容を知ると、被告の心の闇、疎外感は深く、人生の節目節目にもっと普通の生き方ができる生育環境だったら違っていたろうと思わずにいられません。

 事件があった2年前、青森に住む両親が自ら記者会見をして謝罪したことに違和感がありました。子が25歳にもなれば、もう親離れはとうに済んでいます。何をいまさらという感覚でした。しかし、今回、この親子が明かした葛藤ぶりは意外と言える深刻さであり、事件の本質と絡んでいました。

 金融機関に勤める父親と母親、それに弟が家庭環境です。青森出身者であるため地元紙の東奥日報が特別に手厚い「秋葉原 無差別殺傷事件」を設けています。28日付で公判証言をまとめている「仮想の自分 冗舌に/加藤被告」は「事件を起こした原因の一つとして『私の考え方』を挙げ、『行動をして、相手に物事を気付かせること』と説明した」「その考え方は、母からの影響をうかがわせた。小さいころから理由もないまま頭ごなしにしかられたり、怒られたり。厳しい『行動』で真意を分からせる手法を、自分も他人に対して行ったことを紹介した」と伝えます。

 きちんと説明しないまま、辞めることで不満を知ってくれ――というのが被告が転々とした職場で繰り返してきた行動です。

 証言には「『母に風呂に沈められた』と被告」で「『九九ができないと、風呂に沈められた』。(食べるのが遅かったので)『床やチラシの上のご飯を食べるように言われ、必死で食べた』などと幼少期の母親との関係を述べた」とあります。「両親『事件の理由分からない』」ではこうです。「母親は被告に有名国立大学に進んでほしいと小学生時代から付きっきりで勉強を教えていたが、しつけの一環として屋根裏に閉じ込めるなど厳しく当たるようになった。父親は『わたしが子育てするから黙っていて』と言われたため、異常と思っていたが口を出さなくなった」

 家族に対しても不満を説明する能力を欠いていたが故に、大きな節目で「手痛い」判断をしていたようです。「加藤被告が進学やめた理由に言及」には「『母と、大学に行ったら車を買ってもらう約束をしていたけど、自分の行きたい大学に変更、ランクを下げたら買ってやらないと言われ、大学進学をやめた』と述べ、その理由を『母親に対して、約束を守ってほしいという意志を示したということ』と話した」とあります。

 47newsの「《資料》秋葉原殺傷・加藤智大被告の供述要旨 『掲示板だけに依存』」には「大学進学をやめ、自動車関係の短大に行くことにした。母親にはあきらめられていたと思う。挫折とは思っていない。勉強をしていないからついていけないのは当たり前。短大には失礼だが、無駄な2年。整備士の資格は取るつもりだったが、父親の口座に振り込まれた奨学金を父親が使ったので、アピールとして取ることをやめた」ともあります。

 母や父にアンフェアだと訴えられないまま、ずるずると進路を切り下げて行った不幸。事件の2カ月前、4月3日に「加藤容疑者のものとみられる携帯サイトの書き込み(原文のまま)」に「午後4時20分 親の話が出ましたのでついでに書いておきますと、もし一人だけ殺していいなら母親を もう一人追加していいなら父親を」とまで出したのを見れば、職場で積み重なった鬱憤やネット掲示板のトラブル問題だけで事件を解読するのが無理であることは明らかでしょう。

 検察の「冒頭陳述」は「『大きな事件』を起こして警察に捕まれば、自分の人生は終わりだと思ったが、『もう生きていても仕方がない』と自暴自棄になり、捕まった後のことはどうでもいいと思った。それよりも自分を無視した者たちに『復讐』することの方が重要だった」と指摘しました。人生を無惨に終わらせることで分かってもらいたかった復讐の心、その相手方に両親が含まれていた不幸な事件でした。29日にも公判廷の被告証言は続くそうです。

 【参照】秋葉原事件で思い起こす『隔離が生む暴力』


就職留年7人に1人、これも高学歴プアー

 読売新聞が「就職留年7万9000人、大卒予定7人に1人」と1面で大きく伝えました。これまでの国の調査では見えていなかった、敢えて卒業を見送る就職留年を読売新聞「大学の実力」調査で捉え「国の調査では、約3万1000人が、就職が決まらないまま卒業している。今回、明らかになった留年者約7万9000人を合わせると就職浪人は約11万人となり、その分、就職戦線が激化している計算になる」としています。

 大学卒業まで行っての受難、しわ寄せが若い世代に集まっています。先週、第208回「文系も理系も高学歴プアー:年上世代は身勝手」を書いたばかりです。企業業績は回復傾向にありますが、大衆の生活実感は就職留年の問題が象徴するにように苦しいと思います。菅首相が本来、得意なはずの生活者の感覚から離れて近未来の消費税増税問題にシフトしていては支持率低下も当然でしょう。税と財政の構造問題を語ることはタブーでも何でもありませんが、有権者に対して何の業績も上げていないのに語るべき事柄ではなかったと思います。

 大手志向が強すぎる就職難について、ブログにはこんな指摘もあると紹介しておきましょう。「就職留年7万9000人、大卒予定7人に1人」(40オヤジの独り言)は言います。「今の学生はリクナビ、毎ナビに対する依存率が非常に高く、ここの情報だけで就活やっている人が多いんですね・・」「でも基本的には広告のサイトですから、たくさんお金払う会社に人が集まる仕組みになっており、大手は当然採用費用に多く資金を投下できるので大手に人が集まるような情報操作がしやすいわけです」「就職サイト運営会社は当然ですが広告費を多く払ってくれる企業にたくさん学生が集まるような情報操作を行っています」「学生を誘導し、さらに儲かる流れを生み出した結果、かなりひずんだ構造を社会に生み出してしまった」「上述した流れは業界関係者なら皆知っていることですが、ほとんど報道されない部分ですね・・」

 中小企業へ必要な人材の流れも整備して、大きな枠組みで改善していかないと経済全体の活力回復は難しいでしょう。このニュースは、政治がするべき事はもっとあるというメディアからの示唆でした。


個人所有本のPDF化サービスは大繁盛のよう

 アップルiPadが発売になったこともあって、電子書籍を読む『夢』が一気にリアルになってきました。4月に「盛り上がるか、個人所有本のPDF化サービス」で紹介したサイトは大忙しの状態です。大和印刷の「BOOKSCAN(ブックスキャン) 低価格・書籍スキャン代行サービス」は3カ月待ち、新規参入した「1冊90円〜本(書籍)の電子化/PDF、スキャン代行サービスなら-スキャポン」も2カ月待ちといいます。

 スキャポンには依頼者が通信販売で買った書籍を直接受け取ってスキャンしてくれるサービスもあります。タイに在住の方がこれを利用した感想を書かれています。「2010年6月19日土曜日『スキャポン』のサービスを利用した感想」(ランシット日記)は「納品された本の画質は、スキャポンのページにある通り、『PDF ver1.3-1.6 カラー・グレー300dpi/ 白黒 600dpi』という品質ですが、本によって文字の濃淡に差がありました。3冊のうち、文庫本はきれいに読み取れていましたが、新書はやや薄め、ハードカバーは明らかに薄すぎて、ちょっと読みづらい程でした」と報告しています。サイズは「文庫、191ページ、25.5MB 新書、221ページ、19.1MB ハードカバー、199ページ、19,3MB」だそうです。

 やはり1冊百円程度のサービスですから画質に限界があるようです。大事な本なら濃淡や色の調整をしながらスキャンして残したいもの。となればきれいに裁断だけしてくれて高速スキャナーを貸し出す「scanbooks.jp」ですが、こちらも7月いっぱいはスキャナーの貸し出し予約が埋まっている状況です。

 米国のように電子書籍が気軽に読めるのは先のことと諦めて、皆さん、自己所有本のPDF化を追求し始めている感じでしょうか。写真が多い雑誌類なら厳選して裁断だけしてもらい、自宅のプリンター複合機できれいにスキャンして……と考え始めているところです。文庫本類はサービスに余裕が生じるまで待ちでしょうか。


文系も理系も高学歴プアー:年上世代は身勝手

 この国の高学歴プアーは文系にも広がろうとしています――11月から司法修習生への給費打ち切りの記事が、マスメディアでたびたび取り上げられています。理系ポスドクの就職難が厳しくなる中、今週は22年度科学技術白書がネット公開されて、過去の詐欺に等しい失政を反省することなく「国際的競争には博士号取得者の増大が重要だ」と厚かましくも主張しています。政策を決める年上世代は既得権益に守られて温々とし、若い世代の人生がどうなろうと知ったことかと構える身勝手さ。日本の政治家、官僚はどうかしていませんか。

 例えばMSN産経ニュースの「司法修習生はつらいよ 『給与なくさないで』支援本格化」は「新人弁護士の半数以上が法科大学院の奨学金などで平均300万円の借金を抱え、一部は弁護士になっても収入がほとんどないという実態がある。給費制がなくなればさらに借金が増えるのは確実で、『社会のための仕事ができなくなる』と訴えている」と伝えました。

 月20万円の給費が貸与制になれば、専念義務でアルバイトを禁止されている司法修習生の間にさらに借金が膨らみます。検察官や裁判官になれば収入は安定しますが、弁護士の場合は司法制度改革で数が急に増えたため司法修習を終えても職場が見つからず、家族に養ってもらうケースさえ出ています。スタート時の借金が増えればお金になりにくい人権派の仕事など、さらに手が出せなくなるでしょう。従来の弁護士像は崩壊しつつあります。

 22年度科学技術白書の「第2章人を活いかし知をつなぐ科学・技術システム」は「我が国の自然科学系の博士課程入学者数の推移を見ると、平成3年以降、大学院重点化に伴って増加していたが、近年減少傾向に転じており、平成15年の13,190人をピークとして平成21年には11,348人に低下している(第1-2-4図)。また、修士課程から博士課程への進学率の推移を見ると、近年低下傾向にあり、特に、理学及び農学分野の低下が著しい(第1-2-5図)」と表現しています。理学系の博士課程進学率は1991年の31.1%が2009年には18.6%にまで落ちています。

 博士課程が不人気なのは修了後の身分があまりにも不安定だからです。平成14〜18年度修了の理学系一般学生7513人の進路が集計されています。大学教員585人、ポストドクター2811人、教師・公務員・医師159人、民間企業1128人、公的研究機関277人、その他の就職者543人、学生(留学など)356人の他に「不明等」が全体の2割を超え、1654人もいるのです。彼・彼女の人生はどうなったのでしょう。ポスドクからもさらに不明等が生じます。農学系なども似た状況です。「博士課程修了直後に定職に就くことができない可能性や、ポストドクター期間が長期化していることは、修士課程在籍者が、博士課程進学を検討する際の懸念材料となり得る」という切実感がない分析が空しく響きます。

 「博士課程学生が同年代の就職者に比べて経済的に厳しい状況におかれ、望ましい能力を持つ修士課程在籍者が博士課程進学を避ける要因となってはならないことから、博士課程学生への支援を充実することが不可欠である。米国では、大学院生の約4割が生活費相当額の支援を受けている」しかし、日本では「年間180万円以上の支給を受けている博士課程学生の割合は15%程度にとどまっている」のが実情です。大学院時代に奨学金で何百万円かの借金を作らざるを得ない状況を改善しなければ、国全体でみても科学技術の明日は厳しいでしょう。

 司法制度改革で合格者数を急増させて、給費がかさみすぎると打ち切られる司法修習生。大学院重点化で定員を倍増した上で、大学教職の枠や無償奨学金を絞った理系博士課程修了者。どちらも制度をいじる側の身勝手な思惑から生まれた問題です。第120回「負け組の生きる力・勝ち組の奈落」 の第3節「◆大学院重点化は一種の“詐欺”商法」に詳述してあります。科学技術白書はいまだに積極的に解決する気はなく「大学教員の年齢分布を見ると、団塊の世代の大学教員数が前後の世代に比べて多く在籍しており、平成24年ごろからこれら団塊の世代の大量退職が見込まれることを勘案すると、これを契機に各大学・大学院は若手教員の採用数を増加させることも可能となる」と希望的な観測を述べています。


失われた20年を経て日米の仕事観も大逆転

 GEWELというNPO法人が実施した「ビジネスパーソンの働く意識調査〜日米比較」を見て仕事への価値観・自信など日米落差に驚き、同時に過去のいきさつを知っているので納得できることに思い至りました。東西冷戦が終わった1989年以降、失われた20年の間に何の戦略的な方向も見いだせずに日本の社会は彷徨ってきたのですから。

 働く意識調査は日米ともインターネット調査で、サンプルの概要はこちらに紹介されています。社会学的に認められる本格調査ではありませんし、日本側2471人に中小企業が多く、米国側1600人にやや大企業が多いとの差もあります。それでも次のような結果になれば十分に有意な差があると思えます。

 まず「会社・組織に愛着を感じているか」では「日本55.8%」「米国79.8%」になります。「仕事の内容に満足しているか」は「日本52.6%」「米国73.9%」です。「自分の能力は、他社に行っても十分役立つと思う」では「日本44.3%」「米国90.4%」とダブルスコアになってしまいます。職場の人間関係や報酬など、たくさんある項目から同じ傾向が読みとれます。(ダイバーシティなどカタカナ概念の設問は、日本側の対象者が理解できなかったでしょうから無視されることをお勧めします)

 働くことの意味は新聞記者の仕事としても熱心に考え、追ってきたテーマです。第120回「負け組の生きる力・勝ち組の奈落」にまとめがあり、日米欧の社会心理学者による「働くことの意味」国際調査をグラフ化した「日米、世代別の仕事中心性推移」を掲げています。週に16時間以上働く人にアンケートし「レジャー、地域社会、仕事、宗教、家庭」の5部門が、それぞれの個人生活の中でどれくらい重要に思えるか、合計100点になるよう配分してもらっています。これを1982年と91年の2回実施(米国は89年)しています。グラフを掲げます。

《日米、世代別の仕事中心性推移/100点満点》
    点|
    40|−                                          ------->
      |
      |
      |                                                  
      |                        
    35|−
      |                                  
      |              
      |
      |                        
    30|−'82日  '91日
      |    ------->
      |
      |                                                    
      |                                  
    25|−'89米
      |                    
      |                                            
      |  '82米  '89米               
      |    ------->
    20|−  
     === '91日
     0|------------------------------------------------------------
          10代      20代      30代      40代      50代    60歳以上
='82年日本 ='91 年日本  ='82年米国 ='89年米国


 社会心理学者たちは、この調査で一度身につけた仕事中心性は、ほぼ10年を経てもあまり変わらないことを知りました。日本人は年を取るほど仕事中心になっていくのかと思っていたのに、中年世代では10年後にやや落ちました。大注目は、90年前後に日米の20代で仕事中心性が逆転した点です。20年後の2010年現在に時を移してグラフを描き直しましょう。


《日米、世代別の仕事中心性推移/100点満点》
    点|    20年後→→2010年現在に時を移す
    40|−                         
      |          
      |
      |                                            
      |                                  
    35|−          
      |                                            
      |                        
      |
      |                                  
    30|−          '82日  '91日
      |               ------->
      |
      |                            
      |                                            
    25|−          '89米
      |    ?    ?    ★                
      |                            
      |            '82米  '89米               
      |               ------->
    20|−  ?    ?    ●
     ===           '91日
     0|------------------------------------------------------------
          10代      20代      30代      40代      50代    60歳以上
='82年日本 ='91 年日本  ='82年米国 ='89年米国


 20年前とはまるで異なる状況が現れます。大学在学時からベンチャーを興そう目指す米国の学生を見ていると、米国側の若手で仕事中心性はさらに高まっていると考えられます。「ビジネスパーソンの働く意識調査〜日米比較」に表現されている意識の差は不思議ではなくなります。

 調査結果を見た「Joe's Labo」の「労働市場という宝の山」は「一言でいうと、日本人サラリーマンは仕事に愛着も満足感も抱いちゃいないということだ。それでいて実労働時間だけは先進国一長いわけだから、もうほとんど人生=拷問みたいなものである」と切り捨てます。「普通、労働市場では、満足度って何かとトレードオフの関係であると思うのだけど、何一つメリットがなくて不利益だけついてくるっていうのはある意味凄い。 いや、安定性という意味ではメリットらしきものもあるのだろうけど、それは大手だけの話だし、大手にしてもいっぺん落ちてしまうと長期失業という形でロックされてしまうわけで、日本型雇用のメリットっていったいなんだろうか」と固定された閉塞感を打ち破る必要性を指摘します。

 何も考えずに従来通りを踏襲してきた、この国の政治。その間に世界の状況も、国民の意識も大きく変化してしまいました。もう、この辺りでアップデートしなければなりません。


NHKの強制執行は時限爆弾炸裂を早めるだけ

 NHKがついに、受信料支払いの法的督促後も不払いが続く5都府県の契約者5人に対して強制執行を申し立てました。福島県の1人が支払いに応じたものの、残りの4人については差し押さえに出るそうです。「支払い受け福島は強制執行取り下げ…NHK」(スポーツ報知)は「福地茂雄会長は3日の定例会見で『(強制執行の申し立ては)今後も当然続けていく』と述べた」と伝えました。一罰百戒を狙っているのなら大間違いです。ビルトインされている「時限爆弾」の炸裂が早まるだけです。

 ネット上に公開されている「ISSUE BRIEF NHKの受信料問題」は国会図書館の資料です。そこから受信契約の状況の推移を見ましょう。

    表3 各年度の受信契約の状況 (単位:万件)
        H14   H15   H16   H17   H18
 契約対象数  4,563  4,605  4,646  4,678  4,704
 契約件数   3,675  3,690  3,662  3,618  3,618
 未契約件数   888   915   984  1,060  1,086
 契約率    80.5%  80.1%  78.8%  77.3%  76.9%
 未払い件数   113   122   293   359   298
 全体の徴収率 78.1%  77.5%  72.5%  69.7%  70.6%

 一連の金銭不祥事が収まって(あるいは記憶が薄れて)平成18年度には契約者中での未払い件数は16年度並に減りました。しかし、未契約件数は着実に増え続けて4年間で200万件も増え、全体の徴収率は7割かつかつになりました。この未契約件数が急増する時期が迫っているのです。

 MSN産経ニュースの「【金曜討論】NHKの強制執行 服部孝章氏、松原聡氏」で服部孝章・立教大教授は「テレビ離れが進んでいる。10、20代のNHK番組の視聴は驚くほど少ない。そのため、彼らが30、40代となって家庭を持った時、おそらく、受信契約をする割合は低い」と指摘しています。

 大学生の下宿に上がり込んで「ワンセグ携帯を持っているから」と受信契約を迫るケースが各地で伝えられ、これもNHKをほとんど見ない若い世代の反感を買っています。比較的余裕があった団塊の世代までは受信契約にそれほどナーバスになりませんでしたが、今や若い世代の半分が非正規雇用の状態です。契約義務制で契約の自由を否定していますから、一度、契約してしまえば解除できず、滞納すれば強制執行まであると見せつけられて、新たに契約に応じようとする若い世代が多い方が不思議です。強制執行のニュースが繰り返されれば、少し先と思われていた新規契約急減を早めるでしょう。

 法律では受信機を持てば契約義務があるとされていますが、支払い義務は明記されていません。強力な徴収が出来るように法改正がされるには、NHK側に問題がありすぎです。「ISSUE BRIEF NHKの受信料問題」は6千億円の受信料に対して、徴収コストが800億円余りで13%を超えているとし、多大な無駄を示唆しています。同じ立場の英国BBCは4.9%の徴収コストなのです。人件費を含めた高コスト体質を抜本的に改める動きもありません。「NHK受信料を考える」など手厳しいブログが増えています。

 【関連】大津波で問うNHK国際TV放送の失態 [ブログ時評06]


日本は尊敬されているか――客観データで

 はてなブックマークを眺めていたら「ヨーロッパに来たけど日本尊敬されまくりワロタwwwwwwwwww」(VIPPERな俺)に結構な注目が集まっていました。例によっての対中・韓比較など勝手な感想オンパレードのコメントを読んでいる内に、最近、英国BBCが出した客観的なデータを思い出しました。「社会実情データ図録」の「図録▽日本を世界はどう見ているか」で4月末に紹介された統計です。

 世界主要28カ国でほぼ千人ずつにアンケート調査する手法がとられています。ただし、評価の対象は国です。「日本国への評価であり日本人への評価ではない」点には留意してください。きれいなグラフで見せるサイトなので、是非、リンク先に行って読んでください。ここでは注目点をいくつかピックアップします。

 「肯定的評価(概してプラスMainly positive)が53%、否定的評価(概してマイナスMainly negative)が21%であり、評価対象となった17カ国・国際機関の中では、プラス評価(肯定的評価)の割合が、ドイツの59%に次いで高かった」。欧米や南米、そして東南アジア、アフリカは概して良好。悪いのは中国、インド、そして何故か友好国のはずのメキシコ、トルコ。

 日本についてだけでなく、各国についても評価がとられています。したがって自国についてと、自国外つまり世界からの評価が比べられます。そこに、あっと驚く結果が待っています。

 「当然とも言えるが、世界からの評価より自国への評価の方が高いのが一般的である。どの国民も自信があるのだ。プラス評価の割合を比べると、韓国やロシア、ブラジル、パキスタンは自国評価が世界評価の2倍以上、中国もほぼ2倍となっている。中国人は何と8割以上が自国は世界に対して『良い影響』を与えていると考えているのだ」

 自国プラス評価が中国の81%に対して、日本はわずか43%です。「唯一、日本人だけが自国評価が世界評価より低いのである。余り自信過剰なのも問題だが、自信がなさ過ぎ、自虐的評価と見られても仕様がないであろう」


都青少年条例改正への反対請願署名募集始まる

 3月に「『非実在青少年』でメディアの権力監視に疑問符」で取り上げた都青少年条例改正案が6月都議会で審議されることになりました。ブログ「弁護士山口貴士大いに語る」で「東京都青少年の健全な育成に関する条例改正案に反対する請願署名」の募集が始まりました。都民でなくても構わないそうです。

 これを機会に《「東京都青少年の健全な育成に関する条例」が改正されることをご存知ですか?》「東京都青少年健全育成条例改正問題のまとめサイト 」をご覧いただいて、拡大解釈で「児童ポルノ単純所持」規制にまでつながりかねない問題点を考えて欲しいと思います。

 石原都知事は5月7日の記者会見で「ちょっと説明不足のところがあるのと、例えばあの中に、『非実在青少年』なんていう言葉があるんだよ。アニメに描かれている子どもっていう意味なんだよ。そういう、訳の分からない言葉。それから、よく読んでもらうと分かることなんだけど、本当に描いちゃいけない、読んじゃいけないというより、とにかく子どもの目につくところに置くなということだけの規制をしようとしているでしょう」「誤解を受けるような、訳の分からない、『非実在青少年』なんて、誰がどう解釈しても、幽霊の話かと思っちゃう、本当に。描かれたものっていうことなのだから、そういうふうにそれを書けばいいんだよ」とし、条文表現上の問題であり、大したことはないという姿勢です。

 グーグルのブログ検索では1週間内にこの条例を取り上げたエントリーが1500件余りです。再び関心が高まっていきそうです。《事実上の「非実在青少年」表現規制か──都条例改正案に批判相次ぐ》(ITmedia News)で批判の動きがレポートされています。


裁判員制度で極度の体調不良に陥った女性

 心配されていたことがやはり起きていたようです。朝日新聞の「裁判員女性、遺体写真見て体調不良 裁判後に退職、福岡」が頭部陥没骨折の写真を見せられた裁判員の「女性は、裁判で解剖写真が法廷に映されたときから動悸(どうき)が生じ、裁判後は車が運転できなくなった」「頭部の陥没骨折を説明するため、法廷のモニターと大画面に頭部の解剖写真が連続して映された。」「女性は当初体調に問題はなかったが、解剖写真を見ると動悸が生じた。それでも、『見なくてはならないと言い聞かせた』と振り返る」「昼食は進まず、午後は『頭が真っ白で最悪の体調。倒れるかもと思った』」「裁判を終えた翌日から、体調不良となり、車を運転することができなくなった。車での営業職を約4年間続けていたが、週4回ほどのパート勤務も2月中旬に退職した」と伝えました。

 制度が始まる前に「裁判員制度実施へ最高裁意識調査の偽計」の最後で「死体の写真に局部の解剖写真など普通の人には無縁のグロテスクなものを見せられ、判決で死刑を言い渡しでもしたら心に引きずるものがあります」と案じた通りです。

 最高裁が心のケアのために設置していた相談窓口が機能しなかったケースでもあります。「話すこと自体がきつく、なかなか電話はできなかったという」心境はショックの大きさを考えると良く分かります。表面化しないだけで隠れているケースが多いのではないかと心配です。「そういう人もいるさ」で片づけられる問題ではありません。

盛り上がるか、個人所有本のPDF化サービス

 大和印刷という会社が「BOOKSCAN(ブックスキャン) 低価格・書籍スキャン代行サービス」を4月下旬から始めるとのニュースが伝わり、ネット上で大きな話題になっています。アップルのiPad発売が間近になっても国内では電子書籍の動きは鈍く、欲しい本がiPadやKindleで読める可能性は極めて低い現状です。そんな折に、過去に買っている本を1冊105円でスキャンしてくれ、携帯機器に入れて持ち運べるようになるという話です。

 著作権法との絡みで問題があるでしょう。「404 Blog Not Found」の「ブックスキャン代行サービスは合法だよね?」あたりでも論じられています。実際上は侵害を受けた著作権者が、侵害に気付く可能性は薄いのでグレーゾーンとして運用されてしまうのでしょうか。また、不便なことに発売後2年以上経過した本はお断りです。「10.裁断しスキャン後5%以上読み込めない箇所がある書籍は、対象となる書籍の購入金額の全額を返金致します」との注意事項もあることから、かなり読めない部分が発生する覚悟も要るようです。

 持っている本をスキャンする話がにわかに現実味を帯びてきたので、さらに調べると、スキャンするために本をきれいに裁断だけしてくれるサービス「scanbooks.jp」がありました。高速スキャナーを無料レンタルしてくれて、所有者本人がスキャンすることで、著作権法が許す私的複製「使用する者が複製することができる」状態になる仕組みです。こちらは1冊110円です。ただし、高速スキャナーの往復送料で何千円か掛かります。百冊くらいまとめてPDF化するのなら割安かと思います。

 ブログを見回すと、裁断機とスキャナー「ScanSnap S1500」を買い込んで自分でPDF化した経験を書かれている方が何人もいらっしゃいます。「Lifehacking.jp」の「中身を捨てずに空間をすてる。漫画も本も iPhone に入れる全工程」は「場所がないから捨てなくてはいけない、でも捨てるには惜しい」漫画本を処理しています。漫画1冊がスーパーファイン(300dpi)カラーのPDF 形式で50MBくらいになり、ページの脱落がないかチェックするのに時間をかけて1冊処理時間は15分くらいだそうです。

 毎分20枚の高速スキャナー「ScanSnap S1500」は「価格.com」で調べると4万円を切っています。本以外に各種ドキュメント類も一気にペイパーレス化してしまうことも考えてよいかも知れません。「あらゆる紙資料をパソコンに取り込んで活用する技」といった情報もあります。音楽でそうしているように書籍も自宅から持ち出して、いつでも参照できる時代に突入しそうです。


「非実在青少年」でメディアの権力監視に疑問符

 著名な漫画家たちが都庁に押しかけて記者会見したおかげで、都青少年保護条例改正案に重大な問題点があることをマスメディアが一斉に報じました。「アニメ・漫画・ゲームの児童ポルノ規制 都が条例改正案」(朝日新聞)は「東京都がアニメなどに登場する18歳未満と判断される架空の人物の性描写を規制対象にする、青少年健全育成条例の改正案を都議会に提出している」「指定の基準にはあいまいな部分があり、出版界などは『表現の自由が侵される』と批判。15日は漫画家らが記者会見して規制への反対を表明した」と伝えました。

 条例案によると「十八歳未満として表現されていると認識されるもの(以下「非実在青少年」という。)を相手方とする又は非実在青少年による性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの」を取り締まるというのです。どうにでも拡大解釈できる条文であり、この問題点を条例案が提案された段階で見抜けなかったマスメディア各社の権力監視機能は死んだも同然です。

 「たけくまメモ 」の「都条例『非実在青少年』規制問題について」が問題提起で先駆けた藤本由香里・明治大学国際日本学科准教授の指摘を収録しています。見方を変えれば「国の方で何度も改正(改悪)が話題に上りながらも、反対が多く先に進まないでいる『児童ポルノ法』における、「単純所持規制」(=とくに売買する意思を持っていなくとも、『児童ポルノにあたるもの』を単純に『持っている』だけで逮捕)、『マンガ・アニメ・ゲームその他、画像として描かれる青少年の姿にも児童ポルノ法を適用する』というもくろみを、都の条例で先に決め、規制してしまおうという法律です」

 提案と審議の日程も驚くべき拙速さです。「2月24日に案が発表されて、都民が意見が言えるのは25日まで(つまり1日だけ)」「議会での質問が許されるのは3月4日(代表質問)・5日(一般質問)だけで、これも数日前には質問を提出していなければならない。(つまり議員でさえ、検討できるのは3日程度)で、18日の13:00の付託議案審査がもっとも重要で、今月末には投票、決定、ということになります」

 都庁の記者クラブに常駐している多数の記者たちは、いったい何をしていたのでしょうか。ネットで今回の記者会見を伝える記事を拾うと、質問でもフリーのライターたちに後れを取っているようですし、それでもなお都庁よりの姿勢だったとの指摘もあります。


ブルーレイディスクの本格普及が見えた

 HD-DVDとの次世代争いに勝った割には、遅々として家庭に浸透しなかったブルーレイディスクに本格普及が見えてきました。AV Watchの《マイケル「THIS IS IT」が史上初のBD/DVD 3週連続W首位〜累計売上128万枚、総額で50億円を突破。オリコン発表》にある「DVD版3種類を合わせた売上枚数は6.6万枚で、累計97.4万枚。BDを加えた総売上枚数は128.9万枚」が端的に示します。ブルーレイ分は31万枚余りです。広範囲なファンに買われる音楽映像作品の4分の1をブルーレイディスクが占めるようになりました。

 GfK Marketing Service「2009年上半期DVDソフト市場」は「2009年上半期のセルDVDソフト市場(通常DVD、Blu-ray、DVD/BD Hybrid、HD DVD、UMD全て含む)は、2,852万枚、1,160億円。数量前年比15%減、金額前年比20%減と、数量・金額ともに大きく前年を割り込んだ」と伝えています。一方で「Blu-rayソフトは、右肩下がりを続ける他規格に対し、着実な成長を遂げている。上半期の市場規模は147万枚、84億円に達し、すでに2008年通年の市場規模を超えた。全規格を含めたセルソフト市場全体のなかでの構成比は7%(金額ベース)」「前年同期比400%を超える成長率は他国と比しても非常に高く、日本 市場がBlu-rayソフト普及の先駆けであると言える」そうです。

 家庭用ビデオレコーダーがブルーレイ対応に置き換わるなどした動きがあり、累積してここに至ったのでしょう。国内のブルーレイディスク販売では国内アニメが過半を占める特異な状況でしたが、「THIS IS IT」が大きく売れたので最近の状況は違ってくると思われます。もうひとつブルーレイで特異なのは販売チャンネルです。DVDではメディアストアが主流なのに、通販/ECがメインなのです。

 普及はエンターテインメント分野の話です。パソコン用の記録媒体としては依然としてぱっとしません。私も外付けのHDDが安価なので必要を感じていませんでした。先日の第198回「デジタル放送録画規制は最悪、呪縛脱し思う」で買ったノートパソコンのおかげで記録型ブルーレイドライブに初めて触ることになりました。家庭内LANを組んであちこちのパソコン、HDDの中身が自由に使える環境では、わざわざブルーレイディスクに焼いたりしないと思います。ただ、25GB盤が200円で買えるので、ドライブを持つ他の人に長尺コンテンツを差しあげるには便利かと思い始めています。

 ブルーレイソフトは400タイトル余りのレンタルが始まっています。試しに最新映画を借りてきてDVD版と比較しています。横1366ピクセルのノートパソコンでも高精細感の差ははっきり分かります。画素数が少ないDVD版を引き延ばして見せる技術がなかなか上手になっていますが、あれはあくまで擬似的なものです。ソフト制作時にフルハイビジョン画素数の4倍を持つ2K4Kの画面を造ってから落とし込むようにもなっているので、フルハイビジョン画面から落とすDVDとの差がより出るようです。

 ちょっとマニアックな、高度な家電製品を真っ先に買うのは日本の消費者がもつ特性です。国内の電機産業はそれで発展してきたのですから、ブルーレイの普及、ソフトの販売増加は少しは景気づけになるでしょうか。


若年ホームレス急増:単身者向け政策転換を

 朝日新聞が11日朝刊で独自ネタとして「20〜30代ホームレス急増 大阪は施設入所者の3割超」を大きく報じています。ネットを見ていて、最近こうした時事問題ネタについてのブログなどの反応が鈍いなと感じています。気になって午後3時段階で調べると、ブログでの反応9件に対して、ツイッターでの反応が29件でした。

 記事は、自立支援センター5カ所を持つ大阪市のデータで最初に「希望者全員が入る自立支援センター『舞洲(まいしま)1』の年代別データによると、30代以下の割合は2006年度15.0%、07年度18.9%だった。これが09年度4〜12月の入所者500人では、33.2%と急上昇した」であり、東京都の同種データでは「09年度(4月〜10年1月)の入所者計1154人でみると、23.9%に上昇。新宿区など4区をカバーする『中央寮』など2カ所では、30%前後に達している」というものです。

 リーマン・ショックからの雇用悪化を考えると起きるべくして起きている事態です。ただ、ネット利用者が若い世代に多いことを考えると、こんな程度の反応かなと、やや不思議です。「2ちゃんねる」の「【社会】20〜30代の若年ホームレスが急増 リーマン・ショック前後の雇用情勢悪化が背景」は既に3本目のスレッドが立っていますから、10時間ぐらいで2500件の書き込みです。いつも通りの盛況でしょうか。

 こうした問題は解決の出口が考えにくい点から、ブログで取り上げても書きにくいかも知れません。ネット上に現れない新聞記事の中ですが、10日付の朝日新聞オピニオン面で高卒者の就職難をどうするかの特集がありました。「低家賃の住宅で採用支援を」で労働政策研究・研修機構の小杉礼子さんが興味深い指摘をされています。高卒の採用は構造的に落ち込んでいて、景気が回復しても求人数が戻らなくなっているといいます。これまで高卒就職の主力だった中小企業の体力が落ちてしまったのです。企業に独身寮を用意する力もなくなり、地方の高校に求人を出さなくなっているそうです。

 「単身の若者向けの低家賃の公営住宅があれば中小企業は高卒採用がしやすくなる」との結論を読んで、都市部を中心に若者向けに限らない公営住宅政策の転換が必要と感じました。先日の「生涯未婚率急増への注目と日米・貧困で非婚化」で取り上げたように、単身者人口が大きく膨らみ、窮乏化が重なっていく中で、家族持ちを主なターゲットにした従来政策から方向転換すべきでしょう。


生涯未婚率急増への注目と日米・貧困で非婚化

 私のサイトにある第152回「20代男性の3人に1人は生涯未婚の恐れ」(2006年)をはじめとした非婚化についての記事が、最近しばしば多くのアクセスを集めます。先週末もNHKスペシャル「無縁社会〜“無縁死” 3万2千人の衝撃〜」をきっかけに大量の方が検索して来られました。家族をつくらずに死んでいく人が急増していく様が伝えられ「2030年の生涯未婚は女性で4人に1人、男性で3人に1人」と予測されているというのですが、この予測を一番早く言い始めたのは私のところだと思います。

 推計は過去の国勢調査によっています。方法の詳細は上記の記事をご覧いただくとして結論部分のグラフを掲げておきます。2005年の国勢調査時点の世代別に生涯未婚率はこのようになる可能性が高いのです。


 生涯未婚率は人口学の概念で、女性が結婚しても子どもが生まれる可能性が少なくなる50歳時点での未婚率です。人口変動への影響が無視できる年齢ということです。60歳を過ぎてからの初婚もありえますが、実際の数字としてはわずかです。2030年の生涯未婚率とは2005年で25歳が50歳になる時点ですから、グラフの右端、20代後半が相当しています。男性は33.5%、女性は28.1%です。30代後半の男性でも4人に1人は生涯未婚であることが分かります。

 非婚化は以前は少子化と対で語られることが多かったのですが、最近は単独でも、あるいは若い層の貧困化と関連づけてよく論じられます。非正規雇用が半数にもなった国内の若い世代ばかりでなく、貧富の差が大きい米国でも若者の未来は明るくないとされます。「中岡望の目からウロコのアメリカ 」の「金融危機でアメリカ人の生活はどう変わったか:消えたアメリカン・ドリーム」が、労働組合のナショナル・センターであるAFL−CIO(米労働総同盟産別会議)の報告「若い労働者−失われた10年」から引用しています。

 「35歳以下の労働者の34%が十分な所得がないために家族と同居しており、10年前と比べるとはるかに大きな雇用不安を感じており、医療保険に加入するのも無理だと答えている。25%の若い労働者は毎月の支払いをするだけの収入がないと答え、半分以上が未来に希望を感じられないと答えている」「この10年間で若者の機会が失われ、彼らは生きていくのに精一杯である。結婚を断念し、子供を産むのを先延ばしし、いつまでも大人になれない状況が続いている」。この記事ではまた、金融危機が米国の大学を直撃し、雇用だけでなく学生生活も苦しくなっている状況が語られています。

 非婚化について国勢調査を利用して書き始めたのは1997年の第1回「空前の生涯独身時代」からです。このほか国際結婚や離婚の状況まで含めた人口の動きを追う記事が、インターネットで読み解く!「人口・歴史」分野に集められています。

 【参照】インターネットで読み解く!「人口・歴史」分野エントリー…生涯未婚など


デジタル放送録画規制は最悪、呪縛脱し思う

 ビデオテープへの録画なら20年を経ても鑑賞できますが、デジタル放送の録画は数年先にも見られなくなる欠陥があることを認識されているでしょうか。録画機能付きの薄型テレビやビデオレコーダーで録画した場合、暗号化して録画したその機械が壊れたら、とりだめした番組はもう見られなくなってしまいます。1年前にブラウン管テレビが壊れて買い換え、デジタル録画の番組が溜まっていくに従って、これは困るなと考え始めました。そこでこの週末、家庭内LANに録画機能付きテレビと切り離されたLANハードディスクを導入しました。他の部屋からも録画番組を自由に見られるようにするとともに、機械が壊れてもオリジナルの録画番組が生き残る方向に歩き出した訳です。

 導入した機器は2万5千円の1.5テラバイトLANハードディスク以外に、東芝のノートパソコンがあります。こちらはテレビがあるリビング以外の場所で録画番組を楽しむためのものです。家族はみなパソコンを持っていますが、DTCP-IPと呼ぶ(技術説明はこちら)著作権保護規格に適合するためには部品交換やソフトウエアの購入がそれぞれ必要になります。必要な視聴ソフトSoftDMAが組み込み済みで、我が家には無いブルーレイディスクドライブを備えながら8万円と格安に買える機種を発見したので、それぞれの改造にお金を掛けるより私の仕事補助機も兼ねて一本化しました。なおLANハードディスクに無償添付の別ソフトがあり、ソニーのゲーム機PS3にも同じ機能があります。

 ご推察の通り、移行した新しい状態も著作権規制でがんじがらめではあります。テレビは東芝のレグザZ7000で、外付けの1テラバイト・ハードディスクに録画しています。ここからLANハードディスクに番組をダビングするのに、録画時間の8割くらいの時間がかかります。一度、独自の暗号を解除してからDTCP-IP側の暗号を掛け直し、LANで送り込むから時間が掛かるのです。テレビ側の録画中などは出来ませんから、連続ドラマをよく予約録画している使い方では、長時間の映画などをダビングするのに気をつかいます。

 少しずつでもダビング番組を増やしテレビから離れて自由に見られるようになると、録画機械に縛られている現状は最悪だと改めて思い至りました。リビングのテレビを2時間、3時間と独占して見るのはやはりまずくなっています。エンターテイメントは個人持ちの画面で楽しむのが常識化した時に、デジタル放送の録画規制が現れました。時代に逆行した規制のおかげでテレビはますます見られなくなっていくのではないでしょうか。

 ブログでも「BDZ-RX100はDTCP-IP対応してる!」や、「REGZAでDLNA(DTCP-IP)」など、家庭内で試みている人がかなり増えています。

 LANハードディスクへのダビングで元の機械の制約から脱しましたが、ハードディスクの寿命問題やクラッシュ事故の恐れがあります。本当に長期保存したい場合は、LANハードディスクの電源を必要な時以外には切っておくことも考えようと思っています。LANハードディスクの増設は簡単なので長期保存用を別に用意してダビングすれば、もっと安心ですが、この愚かな規制のためにそこまでさせられるのも不本意な気分です。

 【関連】2007…デジタル放送不人気でコピー緩和だが [ブログ時評81]


続・失敗国家ランクと紙消費量のぴたり

 カリブ海のハイチで大きな震災があったと思ったら、アジアではアフガニスタンで反政府勢力タリバンによる同時多発テロが発生しました。両国共にいわゆる失敗国家ランクの上位を占める国で、不幸な印象が強まりました。ちょうど2年前に第156回「失敗国家ランクと紙消費量のぴたり」を書いて、その後も読まれ続けています。この機会にデータをアップデートしておきます。

 ランキングは2009年版になっています。「Failed States Index 2009」がオリジナルです。社会、経済、政治の12指標で評価して合算、割り出されたものです。2年前は各国の1人当たり紙消費量との相関関係を主題にしていたので、紙消費量データがある2005年で比較しました。紙消費量データの方が更新されていないので、失敗国家ランクだけワースト20を並べて比較しましょう。

 順位 2009      2005 2005紙消費(kg)
 1 ソマリア     スーダン   1.01
 2 ジンバブエ    イラク    1.59
 3 スーダン     ソマリア   0.03
 4 チャド      ジンバブエ  11.72
 5 コンゴ共和国   チャド    0.17
 6 イラク      象牙海岸   3.81
 7 アフガニスタン  コンゴ共和国 2.84
 8 中央アフリカ   アフガニスタン0.02
 9 ギニア      ギニア    0.32
 10 パキスタン    中央アフリカ 0.26
 11 象牙海岸     ハイチ    1.10
 12 ハイチ      パキスタン  8.07
 13 ミャンマー    北朝鮮    4.55
 14 ケニア      ミャンマー  1.67
 15 ナイジェリア   ウガンダ   1.92
 16 エチオピア    バングラデシュ2.09
 17 北朝鮮      ナイジェリア 2.39
 18 イエメン     エチオピア  0.43
 19 バングラデシュ  ブルンジ   0.35
 20 東チモール    東チモール  0.21

 警告レベルの国は2005では32カ国だったのに、2009には38カ国に増えていますから、このリストの倍近いことになります。このリスト中で核兵器を実戦配備しているパキスタンが指標値も順位も上げていることがとても気になります。 上位20カ国で4年間にほとんど出入りがないのが特徴的です。

 2009ランクで最悪になっているソマリアの2005紙消費量は年間1人当たり30グラムですから、当然とも思えます。アフガニスタンの20グラムと並んで多くの子供たちにノートの1冊が渡らない、極度に劣悪な水準です。

 先進国では年間1人当たり200キログラムを超えるのが普通です。「製紙産業の現状 | 世界の中の日本」によると、2008年に日本は241.5キロでした。2008年は中国が59.1キロと、世界平均57.8キロを初めて突破した年でもあります。2005年には44.66キロでしたから、この巨大人口国が毎年1人5キロずつ増やしていることになります。紙資源は森林などからの新規分と再生古紙が半々という感じです。紙資源の限界が早晩現れるでしょう。

 【関連】2005…「近未来中国が呼ぶ紙資源危機を考える」
  1997…インターネットで読み解く!第4回「紙資源・千倍の落差」


後ろ向き新聞業界のもの知らず、本当に心配になる

 新聞協会など6団体が日本版フェアユース規定導入に反対する意見書を公表しました。そこで問題例として取り上げられているのがウェブページの印刷なのです。平たく言って、広告と一緒に閲覧してもらうべきものであり勝手にプリントしてもらっては困る――との趣旨が述べられています。 早速、弁護士さんから「これからは新聞記者は資料としてウェブをプリントアウトしたりなどしない。」(benli)で「私は、新聞社のカタから、『あなたのウェブページを、取材の際の資料に使いたいので、印刷させて下さい』との許諾願いを受けたことがありません」と皮肉を投げつけられてしまいました。

 新聞業界に身を置く者としても、このもの知らずぶりには呆れ果てます。そんな些細な事柄を問題にする時ではないと、なぜ気づけないのか、です。「マスメディアはコンテンツ置き場になってしまうだろう」(Tech Wave)が「そんなイノベーションの最後尾でエネルギーを使ってる場合じゃないんじゃない。そんなことに労力を使っていると、コンテンツ置き場としての役割が確定してしまいますよ」と主張しているのに賛成しておきます。ネットで起きている実態を知らず、新聞が既にメディアの傍流に出つつあることを知らない各社幹部が新聞協会に集まっている様子が容易に想像できます。

 フェアユース規定は著作権ばかりが強く主張され、社会全体のためにならない面が出てきているから浮上しているのです。「『フェア・ユース』は著作者の権利を守らない?」(三田典玄の「体育館の裏話」 Ver.2)はこう指摘します。「日本の著作権法での一番の問題は、この法律があるために著作権者が過剰な著作の防衛を行い、結果として著作権法の目的である『文化の発展』に寄与しているとは到底思えない異常な事態が始まっている、という認識があることだ。それが日本のコンテンツ産業そのものを没落させている、という疑いが非常に濃い」「多くの人にエンターティンメントを供給する立場の会社は、『人に見てもらったり、買ってもらったり、気持ちよくしてあげてナンボ』の仕事である『河原乞食』でしかない、ということはいつの時代も肝に銘じておきたいものだ」

 最近、「売れる記事」という言葉をしばしば聞くようになっています。これも業界の認識がおかしくなっている、貧すれば鈍する例です。「売れる記事」を目指して仕事をしていくのは邪道です。結果として多くの人に読まれることは素晴らしいけれど、そのためだけにジャーナリズムが存在しているのではありません。ネット関連の側面方向ばかりでなく、正面方向も怪しい対応ぶりなのですから、本当に心配になります。


摘発基準を下げた検察に追従はメディアの自殺行為

 小沢民主党幹事長の政治資金疑惑をめぐる報道にはうんざりしているのですが、大切なことを一点だけ指摘しておきます。ロッキード事件も捜査した東京地検特捜部が、政界の事件で強制捜査に出る摘発基準を、今回は大幅に下げている異例さです。これまでなら現職の衆院議員を逮捕してまで着手したなら、相当な巨悪が潜んでいると推定されたものです。当然、世論の厳しい反応もこうした「相場観」に基づいています。ところが、言われている罪の可能性は野党にいて職務権限が無い小沢氏に対する裏献金があった程度にすぎず、当然ながら贈収賄事件には発展しません。

 ところが、マスメディアは従来の「相場観」と同じ感覚で小沢幹事長を責め立てていて、とてもプロとは思えません。これで世論調査をするから民主党の支持率が下がって当然です。最終的に事件捜査が終わったときに何の容疑が示されるのか、まだ分かりませんが、新政権を揺るがす強制捜査に世間がなるほどと納得できる可能性は極めて少ないと思います。検察は大きな痛手を負い、マスメディアへの信頼感も同様に大きく下がるでしょう。ネット公衆に批判されている局面と違って、各社がコアにしている読者・視聴者から失望を買うことになるのです。メディア各社はこれが予想できないのでしょうか。検察と心中しても構わないのでしょうか。早急に大きな距離を取るべきです。

 19日付朝日新聞のオピニオン面「国会議員の逮捕 誰もが納得できる捜査こそ」で元東京地検特捜部副部長の永野義一弁護士が現役時代に、与党の有力議員を「数百万円の収賄容疑で逮捕したい」と上司に相談して「誰が見ても納得する罪状」「数千万円のわいろでなければ無理」と断念させられた経験を書いています。今回のケースに対しては「もし、金丸信自民党元副総裁のように脱税などで立件できず、政治資金規正法違反の共犯程度で終わったとしたら、検察は大きなダメージを受けることになる」と警告しています。


[AV特集]ベルリンフィルに耐えるPC用オーディオ新春版

 昨年リリースした二つのAV特集「ベルリンフィルに耐えるPC用1万円オーディオ」「続・ベルリンフィルに耐えるPC用オーディオ」は予想外に多くの方に読んでいただきました。この年末年始休みもたっぷりとベルリンフィルの音を楽しみつつ、その後のフォローを兼ねた発展編を考えました。本格的な音楽を安く聴けるサイトも紹介します。

 ベルリンフィルの定期演奏会アーカイブは既に40本以上(日本語版曲目リスト)あり、中で出色の指揮者は、1981年ベネズエラ生まれのグスターボ・ドゥダメルでした。若き天才として名前は聞いていましたが、実際の演奏は初めてでした。プロコフィエフの交響曲第5番ではベルリンフィルがラテンバンドになったのではないかと思わせる、鮮やかで生き生きとした色彩感と躍動感を生み出して驚かされました。もっと聞いてみたいと思うのが人情で、ネット上で探してみました。

 ドイツ・グラモフォンのDG WebShopがとても便利で安価なサービスを1年ほど前から始めていました。ネット上でCDアルバムをダウンロード販売しているサイトですが、多くのCDは0.99ユーロ、130円くらいを払うと1週間だけ自由に聴けるのです。決済はクレジットカードで出来ます。ドゥダメルについてはチャイコフスキーの交響曲第5番を注文してみました。聴いてみると彼の面白さは十分には発揮されていないと感じました。ベネズエラのユースオーケストラですから、ベルリンフィルとは能力が違いすぎます。改めて指揮者と楽団の関係に思い至りました、

 さて、ではDG WebShopでベルリンフィルを聴いてみましょう。これはいくらでもあります。ベートーヴェンの交響曲全集ならカラヤン、後任のアバトほかも揃っています。しかも全集なのに料金は同じ0.99ユーロと超徳用でした。比較できるCDを持っているカラヤンを選びました。ストリームの形式はMP3の320kbpsのようです。圧縮音楽ではありますが、高いビットレートです。元のCDと比較するとかなり良く出来ていて、管楽器の艶や甘美さがやや薄まるくらいの僅かな差でした。ベートーヴェンの全交響曲演奏会が毎年末に催されていますが、130円で自室で9曲通して聴くのも一興でしょう。

 パソコンで音楽を聴くためのハードについても最近、進展がありました。二つのAV特集はUSBオーディオインターフェースを利用するもので、「AUDIO GENIE PRO」+「Fiio E5」の1万円セットと、韓国から「CARAT-RUBY」を輸入する2万円でした。新しい製品がAVウオッチの「2009年のヘッドフォン/イヤフォン事情を振り返る――超高級ヘッドフォンからiPodデジタル出力まで」で「■ ヘッドフォンアンプ/USBオーディオDACなど」としてかなり詳しく紹介されています。「フューレンコーディネートが2010年1月から発売する、米NuForceのヘッドフォン出力付き小型USB DAC「Icon uDAC」(13,650円)や、WiseTechのAudinst製「HUD-mx1」(実売22,800円前後)、フォステクスの32bit DAC採用「HP-A3」(2010年1月7日発売/38,850円)など、年末にかけてUSB接続対応のDAC/ヘッドフォンアンプの新製品発表が相次いでいる」といった具合です。

 メーカーがこの分野に本格的に目を向けてきた感じです。USB接続での音質改善に手が着いたようなので、「Icon uDAC」など期待できそうです。同種製品で「Fiio E7」が間もなく登場すると言われています。


米軍アフガン増派へ違和感と目を引いた草の根

 オバマ大統領はアフガニスタンへの米軍3万人増派と再来年夏からの撤退開始を打ち出しました。既に米軍だけで6万8000人、NATO加盟国など42カ国から5万人が駐留しているのに、対タリバンの軍事情勢は好転するどころが泥沼化しています。「政府、追加支援要請を懸念 アフガン新戦略」(47News)は「増派には1年で約300億ドル(約2兆6千億円)の費用が必要とされる。北沢俊美防衛相は」「『オバマ政権はアフガニスタンのベトナムやイラク化を懸念しており、日本にさらなる援助を要請してくる可能性が大きい』との見方を示した」と伝えています。米国民の支持もなく、多額の軍事費を浪費するだけに終わる恐れが強いと思います。

 中東報道研究機関「メムリ」が気になる緊急報告を出しています。「アルカーイダの健在と対テロ戦争の失敗」は「アメリカの愚かさと、アフガニスタンとイラクにおける戦争の失敗、さらには、アラブ人とムスリムに屈辱を与えようとした前(ブッシュ)政権のせいで、アルカーイダは世界的な組織になった」「アルカーイダは現在西側で主要な作戦を行っていない。それは、アルカーイダがアフガニスタンとイラクで容易に米軍に接近できるためだ」と手ぐすねを引いて待ちかまえているとしています。

 もうひとつの報告「パキスタンはアフガン・タリバンとアルカーイダを支援するな―アフガン人ジャーナリストの声―」は「外国部隊の増派は、タリバン排除のため駐留している部隊の助けにはなる。しかし、アフガニスタンの完全修復にはならない。そもそもアメリカやヨーロッパ、いやアフガニスタンの指導者すらも、アフガニスタンを国家として認識せず、戦場と考えている。これが根本的な問題である」「アフガニスタンの国民の安寧は二の次である」と指摘しています。

 アフガニスタンの紙消費量は年間1人当たり20グラムで、世界最低です。先進国に比べれば1万分の1、子ども達にノート1冊すら渡らない水準で、これを何とかしなければいけないと、先日の「アフガン支援50億ドル、これでノートの雨を」で訴えたばかりです。民生を考える草の根の動きが一昨日「青空教室で使ってね ランドセル2600個、アフガンへ」で伝えられました。これまでに5万個が送られており「ランドセルには寄付で集まったノートや鉛筆、クレヨンなどを詰めた。仏事などで少しだけ使われて不要になったロウソクも寄せられており、電灯がないアフガンで役に立つという」

 「JOICFP (ジョイセフ) | 想い出のランドセル募金」の「ランドセルが語るアフガニスタンの教育事情」で「今でも男女が就学年齢に達しても約 50 パーセントは学校に行けず、義務教育を受けていません。 2003 年の成人非識字者数は 1100 万人です。現在でもアフガンの国民の識字率はわずか 28.7 パーセントです」と23年間にわたる長い内戦の後遺症と惨さが語られています。

 【参照】第156回「失敗国家ランクと紙消費量のぴたり」


続・ベルリンフィルに耐えるPC用オーディオ [AV特集]

 この夏、リリースした「ベルリンフィルに耐えるPC用1万円オーディオ」は予想外に多くの方に読んだいただいています。ベルリン・フィル「デジタル・コンサート・ホール」年間会員になって定期演奏会アーカイブの高画質・高音質が自由になるのですから、深夜にかけての楽しみがぐんと増えました。ただ、仕方がないことなのでしょうが、1万円で組んだセットは十分に楽しくても、我が家の主力であるヘッドフォン上級機の切れ味、解像力を生かし切れていないことも明白になってきました。

 最近のヘッドフォンアンプには10万円を超える物も珍しくありません。昨年あたりから各社の最高級ヘッドフォン自体が10万円以上になってきているのです。昔からのオーディオファンながら、そこまでのお金の使い方はしてきませんでしたので、折り合いを付けられる機種を探しました。結局、購入したのが韓国Styleaudio社のUSBオーディオインターフェース「CARAT-RUBY」でした。韓国内向け通販サイト「Gmarket」が日本にもサイトを構えるようになり、「CARAT-RUBYの検索結果」から購入先を選びました。形としては個人輸入の代行になります。品物の入手を確認してからクレジット支払いが実行される仕組みになっていました。


 入手価格はウォン安もあり、送料込みで20,500円ほどです。Styleaudio社は韓国内向け商品であることを理由に国外でのアフターサービスは出来ないと断っています。日本向けには改良型の「CARAT-TOPAZ」がありますが、正規に購入すると5万円近い値段になります。ネット上の評判や情報を集めた結果、使われている部品の質などからも「CARAT-RUBY」に決めました。実際の音質は高域が伸びて、低域は雄大です。ひとつひとつの音の彫りが深くなり、音楽全体としての訴求力が大きく上がりました。ベルリンフィルの高い合奏力は凄まじいものですが、時にある僅かな乱れを感じ取れるようになった気さえします。50時間のエージングがコンデンサー容量回復に必要で、到着直後はオーバーシュート気味の高音ですからご注意下さい。

 オフィス環境に持ち込んでみると少し印象が変わります。静かな自室と違って背後の騒音が邪魔して細かな違いが聞き取りにくくなります。外部電源が必要なこともあり、ノートパソコンと一緒に自由に持ち運ぶことは出来ません。1万円セット「AUDIO GENIE PRO」+「Fiio E5」はUSBバスパワーで動くので新幹線の中でも使えましたが、「CARAT-RUBY」は新幹線の騒音中では電源があったとしても良さは半減してしまいそうです。新幹線に大型のヘッドフォンを持ち込むのも困りものです。また、「AUDIO GENIE PRO」は外部のレコードプレーヤやビデオデッキからパソコンに音を取り入れるデジタルソース化にも使っていますが、「CARAT-RUBY」にはその機能はありません。逆に光入力はあります。1万円セットの方は円高からか安くなっています。

 「デジタル・コンサート・ホール」の最近のヒットは10月24日、リスト作曲「ハンガリアン・ラプソディ」です。ピアノのご先祖楽器「ツィンバロン」を魔法のように鳴らす快演とオーケストラの見事なアンサンブルが融合して、楽しくてたまらない16分間を作り出します。アーカイブの無料予告編で一端は知れますが、是非、全編を聞いてもらいたい演奏です。


全国取材網の放棄は必然、毎日新聞の共同再加盟

 半世紀ぶりに毎日新聞が共同通信に再加盟するニュースは、内実がきちんと説明されていないと思います。「全国の支局の取材網は維持したうえで、脱発表ジャーナリズムを進める」という毎日・朝比奈社長の発言を額面通りに信じているOBブログもありますが、実情を知らないにもほどがあります。「毎日新聞が共同通信に再加盟する事情」(永田町異聞)が「経営陣の本心は、全国にはりめぐらした支局網と記者の数を減らし、リストラで経営悪化を食いとめたいということではないのだろうか」「共同への再加盟で、新たにいくら分担金を支払わなくてはならないのか、朝比奈社長は明言していないが、他社の例だと年間十数億円はかかるはず」と見抜いている通りでしょう。

 既に今年の収支は赤字になっているのですから、何百人分もの人件費をカットするとかしないと新たな分担金はひねり出せません。まとまった部数が出る大都市部に特化した紙面の新聞になり、地方はニュース取材、新聞販売、あるいは新聞印刷まで含めて、包括提携する地方紙に任せると考えるしかありません。徹底的に地方取材網を絞ってしまった産経新聞の後を追いかけるとみます。取材網を維持できないが故の、別の噂も聞いているからそう考えるのです。年明けにも事態はだんだん明らかになってくるでしょう。

 「毎日新聞、共同通信に半世紀ぶり再加盟」(edgefirstのメモ)は「調べてみたら、毎日新聞社の従業員数は『約3,200人』で、地方紙の中で部数トップの中日新聞社が『3,439人』といつの間にか逆転されていた。人数的にも全国をカバーするのはもう限界だったのだろうか」と指摘しています。そして、さらなる人減らしは相当な規模でなければ計算が合いません。

 マスコミ労働運動の関係者からは「生き残りが自己目的化しないことを期待〜毎日と共同、共同加盟社の包括提携に寄せて」(ニュース・ワーカー2)のような声も出ています。「企業としての新聞社の生き残りを自己目的化するのではなく、組織ジャーナリズムの成果として多様な情報、多様な言論が社会に担保されることが最終的な目的でなければならないだろう」とおっしゃるのですが、本当にメディアの生き残りが難しくなっている今現在を考えると無い物ねだりにも見えます。


仕分け騒ぎは混迷。文科省がネットで反論募集

 新年度予算の事業仕分けでばっさり斬られる事業が続出した文部科学省が16日「文科省、仕分けの“反論”募集 政務三役が指示、HPで」(47NEWS)と、ネットの知恵を借りて逆襲を試みるようです。共同通信が午後10時過ぎにリリースしているので、他のメディアも17日の朝刊などに出すのかも知れません。それにしても「川端達夫文科相ら政務三役が指示。ネットで“反論”を集め、年末の来年度予算の編成で巻き返しを図りたいとの思惑があるようだ」とは、仕分け騒ぎの混迷ぶりは失笑を買います。

 意見募集の文科省ウェブは「行政刷新会議事業仕分け対象事業についてご意見をお寄せください」です。「事業仕分けを契機として、多くの国民の皆様の声を予算編成に生かしていく観点から、今回行政刷新会議の事業仕分けの対象となった事業について、広く国民の皆様からご意見を募集いたします」とあります。その下に「廃止」「縮減」だらけの仕分け結果を一覧にしている点で意図は透けて見えます。意見提出先メールアドレスは担当の副大臣と政務官になっていて、スパム対策を考えずに実物のメアドを出しているところが急ごしらえぶりをうかがわせます。

 ネット上では「はてなブックマーク」が百数十も付いて大きな話題です。真剣に応じようとする人もいれば、当然ながら斜に構える人、「文科省には仕分け人が突っ込んだ以外に突っ込みたいことがあるぞ」と言う人と大騒ぎです。私も「仕分けで科学技術ばっさりなら本格政策を」を書いた以上、こんな予算擁護より「言わせていただきたいことが多い派」です。

 文科相ら政務三役は自分の役所が過去にどれだけ聞く耳を持っていなかったか、ご存じないのでしょう。政務三役がこんなデータ集めに一生懸命では、科学技術政策を本質的に立て直す立案など期待出来ないと申し上げておきます。


仕分けで科学技術ばっさりなら本格政策を

 新政権による新年度予算の事業仕分けで「13日の仕分け結果の詳報」(47NEWS)にあるとおり、科学技術関係項目がばっさりと削られる事態になっています。ネット上では「次世代スーパーコンピューティング技術の推進」が「(予算計上の)限りなく見送りに近い削減」になった点や、「博士課程修了者らに経済的不安を感じさせず研究に専念させることなどを狙った特別研究員事業(要求170億円)」や「若手研究者養成のための科学技術振興調整費(同125億円)と科学研究費補助金(同330億円)も削減」となったことが特に批判されています。

 《「事業仕分け」中間報告:若手支援は切り捨ての方向に向かい、最悪のシナリオが一歩現実味を帯びた》(大「脳」洋航海記)など、研究者があげる危惧の声が支持されているようです。効率が悪い物は切り捨てよ、では基礎科学の研究が出来ようはずがありませんから「若手はドロップアウトして表舞台から消えていくか、さもなくばもっと待遇と環境の良い海外へと逃げ散っていってしまうか、ともかく日本から姿を消してしまうはずです」「ポスドクを含む若手研究者が日本から姿を消し、『科学先進国ニッポン』は後継者ゼロとなって一気に崩壊に向かう」との指摘です。

 では従来の科学技術政策が今後も維持されるべきものだったでしょうか。若手やポスドクについての上記予算は、大学院定員を大膨張させ悲惨な現状を引き起こした文部科学省が、本質的な改革・改善を避けて打ち出した「つぎはぎ」策にすぎません。そこに何の未来もないことは科学技術政策に関心がある者には自明ですらあります。旧文部省のしたことは第120回「負け組の生きる力・勝ち組の奈落」の第3節「◆大学院重点化は一種の“詐欺”商法」で明らかにしています。また、大学運営の有り様や科学技術予算の大型プロジェクトには疑義が山積みです。

 《もう日本国民は「科学技術創造立国」をのぞんでいないのだろうか?》(WINEPブログ)は「『科学技術基本法』の精神に則って、日本は「科学技術創造立国』を目指してきたが、この精神は終わったのかと思わせてしまうものがある」「一通りこの人民裁判的な<事業仕分け>が終われば、民主党は頭を冷やして、冷静に総合的な判断を行い、今後の科学技術政策を構築すべきであろう」と主張しています。

 大学院重点化が動き出して20年近くになり、大学の現職教員でも現状の可笑しさがどこから来たものか、認識できていない方が多数になっています。にわか「仕分け人」に、十分な過去と現状への認識を持ってもらうことは無理でしょう。本格的に仕組みを変えていくしか、本質的な改善は出来ないのですから、見直す、あるいは立ち止まって考える――ことにまで文句を付けるべきではないと思います。その代わりに民主党連立政権に本格政策を早急に立案するよう迫るべきです。

  ※関係の親サイト分野別入り口・・・《教育・社会》 《科学・技術》


アフガン支援50億ドル、これでノートの雨を

 アフガニスタン復興に5年間で50億ドルを民生支援する方針が打ち出されました。ペルシャ湾からの海自撤退をにらみ、野党になった自民党を中心に、湾岸戦争を念頭に「小切手外交の復活」などの批判を浴びせています。しかし、このお金こそ使いようで生きるのです。昨年書いた第156回「失敗国家ランクと紙消費量のぴたり」 を見ていただければ、アフガニスタンの紙消費量が年間1人平均でわずか20グラム、世界最小であることを知っていただけるでしょう。これは公文書から本、トイレットペーパーまで全ての紙類を合わせた数字です。

 40ページもある厚い新聞なら1部200グラムもありますから、あの10分の1が20グラムです。保存すべき公文書さえ、きちんと作られていない恐れすらある数字です。まして子どもたちに勉強するためノートが行き渡るはずがないでしょう。今年、国内で公開されたアフガニスタンが舞台の映画「子供の情景」はノートが重要な役割をしています。これを撮ったイラン人女性、ハナ・マフマルバフ監督は父親でやはり映画監督、モフセン氏の言葉「多くの国がアフガニスタンに爆弾を落として、この国を救おうとした。もし、爆弾ではなく、ノートが落とされていたらこの国の文化はずっと豊かになっていただろう」から発想して映画を作ったそうです。

 20グラムは2005年の消費量です。第156回「失敗国家ランクと紙消費量のぴたり」では失敗国家10カ国について1995年消費量も調べて比べています。失敗国家として最悪といわれるスーダンですら10年間で290グラムから1010グラムに増えています。10カ国でアフガニスタンだけが唯一の減少国です。しかも1人当たり80グラムが20グラムに減っていたのでした。「ノートの雨」を降らせてあげなければならない理由がお分かりになると思います。狂信的なタリバンの勢力を削ぐためにも、民衆の生活を豊かにし、知識や情報を行き渡らせることを考えるべきです。ちなみに、たいていの先進国は1人200キロ以上を消費しています。


留学による大移動は新段階、中韓米日で見る

 社会状況の変動をグラフで見せてくれるサイト「社会実情データ図録」にはよくお世話になっています。10月に世界の留学についての動向が9件まとめてリリースされ、特に「各国の海外留学生数ランキング」は面白いと思っていました。大人口国である中国とインド、それに続く韓国からの留学生送り出しは半端ではありません。内向き指向で留学生送り出しが減っている日本には、こういう状況が届いていない観があり注目しました。ただし、使っているデータがOECD諸国への留学であるために、留学生の大量送り出し国であると同時に、近年、大きな留学生受け入れ国になった中国が見えない弱点があるとすぐに気付きました。

 ユネスコから今年、「Global Education Digest 2009」が出ていると知り、「New trends in international student mobility」にもあたりましたが、これもOECDデータの段階でした。それでも大枠をつかむには良いデータがちりばめられています。留学生の世界規模は
  1975  80万人
  1985  110万人
  1995  170万人
  2007  280万人
と拡大してきています。最近の変化は激しく、1999年から2007年にかけて受け入れシェアを比べると、トップ米国が25%強から21.4%に落ちる一方、中国が1.5%、韓国が1.1%をほぼ新規に得ています。日本も受け入れについては1ポイントほど伸ばして4.5%あります。

 中国の受け入れ状況を取り入れたデータ、しかも新しいものが欲しい、こうなると最近のニュースを検索してでも作るしかないようです。OECDデータに追加する形で、中韓米日にしぼって推定した状況を並べてみましょう。データ引用元は後で一覧を出します。中国関係ではユネスコの数字と桁違いになる物も現れます。

 中国……2007年受け入れ 19万人(2007ニュース)
     2007年送り出し 42万人?
    米国へ10万人
    韓国へ5万人(2008ニュース)
    日本へ8万人
    カナダへ4万1000人(2008ニュース)
    オーストラリアへ5万人
 韓国……2007年受け入れ 3万人?
     2007年送り出し 17万人(10万5000+中国分)
    米国へ6万3772人
    中国へ6万4481人(2007ニュース)
    日本へ2万2109人
 米国……2007年受け入れ 59万人
     2007年送り出し 6万2000人(4万8000+中国分)
    中国へ1万4758人(2007ニュース)
    韓国へ553人
    日本へ1888人
    英国へ1万5956人
 日本……2007年受け入れ 13万人
     2007年送り出し 7万4000人(5万5000+中国分)
    米国へ3万6062人
    中国へ1万8640人(2007ニュース)
    韓国へ1235人

 ユネスコのデータでは中国の受け入れシェアは1.5%ですが、実際には4倍以上あるようです。送り出しも2008年にかけて韓国やカナダで倍増の勢いですから50万人を突破するのでしょう。韓国の送り出しは中国分を合わせるとインドの15万人を抜いて世界2位になるようです。人口10万人当たりの留学生数は350人にも達し、日本の5倍以上あります。受け入れナンバーワンの米国はこれまで送り出しが少なかったのに、旧宗主国である英国に並ぶほど中国に関心を寄せている姿が現れています。中国人を中心に留学先で居着く人が増え、この数字の大きさは大規模頭脳移動でもあります。

 日本についての公式データは「我が国の留学制度の概要 受入れ及び派遣」(平成20年度版)にありますが、受け入れ側に傾いている上に2005年データが中心で古いと感じます。むしろ「留学生数の推移調査報告」が好ましいと思いました。留学先の米国離れが大きく進んできた一方、取って代わるというほど中国も伸びません。留学生受け入れ30万人計画も結構ですが、世界の留学事情が動いている中で日本も主体的にどうするか考えなければなりません。現状は思考停止状態にあると見ます。 なお、「アジアにおける留学生と留学生移動」では新たな人的ネットワークの可能性が唱えられています。

 【採用ニュースデータ】
「中国の外国人留学生、昨年19万人を突破」
「中国人留学生、韓国抜き最多に!4万1000人を突破―カナダ」
「韓国の大学、なんと留学生の8割は中国から」


また米国地方紙が廃刊、百紙が同じ運命に

 いつもの「Japan blogs Net」巡回で「メディア・パブ」が《「新聞の時代が終わった」と言い残し,East Valley Tribune紙が大晦日に廃刊へ》と伝えているのを見ました。1891年創刊の老舗紙です。「“End Of An Era” ひとつの時代が終わった・・・」を掲げた紙面イメージ付きです。ネットに浸食されてと、世界不況のダブルパンチで、また米国地方紙がひとつ消えます。

 ストレートニュースとしては4日前に廃刊決定が流れたようです。JACQUES BILLEAUD (AP)署名による「East Valley Tribune in Mesa, Ariz. to close」によると、1997年の最盛期に部数94,500部、今年、ピューリツァー賞(ローカルニュース部門)を受けたばかりだといいます。昨年終わりに4割の人員カットをし、140人の従業員で再生を目指していました。親会社自身が連邦破産法11条で再建途上であり、新たな買い手を見つけようとして果たせなかったのでした。この記事は「米国全土で百紙ほどがいつまで紙の新聞を続けられるか、日を数えている状況だ。ウェブに移行してしまう新聞もあれば、Denver's Rocky Mountain Newsなどのように完全廃刊もある」とも伝えています。East Valley Tribuneも残る140人を解雇しての廃刊です。

 同紙自身による「East Valley Tribune to shut down Dec. 31」は年代記まで付け、関係者の惜しむ声を含めた、かなり長い記事になっています。その中でアリゾナ州立大ジャーナリズム学部のStephen Doig教授は「新聞の廃刊や大幅縮小を目にするたびに、喜ぶのは監視されることが無くなる詐欺師や無法者ばかりだと思う」「ジャーナリズムは生き残るが別の形になるだろう。たくさんの実験が行われ、多くは失敗し、いくつかが成功しよう。10年後にはニュースを生み出す光景は、今と全く違っていよう」と述べています。

 米国が違う光景になって、日本だけが今と同じはずがありません。それにしても、米国の地方ではローカルニュースの書き手が存在しなくなる地域が広がっていくことになります。市民社会にとってこれは想定外の事態です。


第185回「音楽不況に追い打ち、ネット配信もダウン」

 「オリコンシングルチャート、20位が史上初の3000枚割れ…59位からは売上1000枚に満たず」(The Natsu Style)がネット上で話題になっています。ミリオンセラーが当たり前だった1990年代に比べて、あまりに寂しいCD売り上げ減への感慨ですが、気になって調べるとCDに取って代わるはずの有料ネット配信も今年になって落ち始めていました。CDの売れ行き不振は加速していますし、世界不況が個人の懐具合まで締め付けて、音楽不況に追い打ちを掛けているとみるべきでしょう。


 上のグラフは日本レコード協会の「過去10年間の生産実績・オーディオレコード総生産金額」からの引用です。これは音楽ビデオまで含む音楽ソフト全体を表しています。1999年の5695億円から2008年の2961億円まで本当に転げ落ちています。「音楽ソフト種類別生産金額の推移」も参照すると、ピークだったのは1998年の6074億円ですから、2008年は半分以下になっているのです。

 転落の勢いは今年になってさらに加速しています。2009年1〜8月の音楽ソフト生産は前年同期比で84%しかありません。2008年は2007年比で89%でしたから、一段と縮小が進んでいます。音楽ソフトをCDなどかさばる物で持つのは古い、ダウンロードしてパソコンや携帯用の機器に入れるのが最近のスタイルです。その有料音楽配信の動きを「有料音楽配信売上実績」から以下にまとめました。

  《有料音楽配信売上実績(四半期毎)》  
    (単位)数量:千回,金額:百万円
           数量 前年同期比 金額 前年同期比 
 2008/1-3   120,827 106%   22,463 128%
 2008/4-6   118,955 107%   22,502 128%
 2008/7-9   118,112  97%   22,225 111%
 2008/10-12 121,294 103%   23,360 116%
 2009/1-3   118,281  98%   22,465 100%
 2009/4-6   115,448  97%   22,149  98%

 音楽ソフトの生産額に比べ桁がひとつ下、年間900億円程度にもかかわらず、今年に入って頭打ちしてしまいました。数量ベースで減少が現れたのが2008年7〜9月期であることを見ても、リーマン・ショックから続く世界不況の影を読みとれます。夏のボーナスが大幅に減っていることを考えても、年内に上向くことはないでしょう。

 【過去の参照記事】
2002年……第127回「音楽産業は自滅の道を転がる」
2005年……「アップル配信で音楽業界の目は醒めるか [ブログ時評31]」


グーグル著作権訴訟、包囲網が急速に形成

 Google Books訴訟の和解案について、米国の司法省と著作権局が相次いで反対を表明しました。マイクロソフトやヤフー、アマゾンなどが8月末につくった「オープンブック同盟」もグーグルの独占を警戒して、書籍デジタル化は開かれた環境の下で進めるべきだと主張しています。対グーグル包囲網が急速に出来上がり、世界のほとんどの国の著作権者が参加するか、態度を決めるように求められた「和解案」が元のまま実施になる可能性は薄らいだようです。

 朝日新聞の《グーグル著作権訴訟、米司法省「和解案、退けるべきだ」》は「(1)書物へのアクセスを簡便にするのは、民事訴訟よりも立法措置がふさわしい(2)公正な市場の確保が重要(3)集団訴訟の手続きが守られるべきだ」と司法省の見解を伝えています。独禁法違反の捜査中であることも問題のようです。

 INTERNET WATCHの《「Google Books和解案は議会で扱う問題」米著作権局長が反対意見》は今回の和解案は非常に強力な権限を持ち「一種の“司法による強制許諾”とみなすことができると著作権局は主張する」「著作権法における強制許諾は、これまで議会が定める領分とされてきた。これはあまりに大きな影響を与えるため、慎重な考慮が払われてきたためだ。議会は一般に強制許諾には慎重であり、強制許諾が認められるのは市場原理が失敗した場合に限られる。その場合でも、すべての関係するステークホルダーとの間で公開の場で審議が行われ、それら関係者の要望が適切に満たされた場合に限られているとしている」と伝えています。

 一私企業が司法の場を利用して、世界中の書籍の著作権を有無を言わせずに使ってしまえるようにする今回の和解仕組み自体が異常なものでした。米国政府がこれは危険だと判断したのですから、グーグルが思うようにはならないでしょう。

 CNET Japanが8月に流した「Googleブック検索が文化にもたらす負の作用――前フランス国立図書館長が講演」も示唆に富んでいます。「今日までに1億3000〜5000万タイトルが出版・印刷されているなかで、これらの順位付けをどのように行い、取捨選択するか。また、米国の一私企業であるGoogleが主導することにより、アングロサクソン系の文化が優遇されてしまうのは自然な流れだ。これは単純な善悪の問題ではなく、文化の多様性のために避けなければならないことだった」

 【関連】「ブック検索著作権問題、Google期限まで半月 [BM時評]」


ベルリンフィルに耐えるPC用1万円オーディオ

 相変わらず暑さは続いていますし、政権交代へ世論はヒートアップ中ですが、今回は世間のアツサからちょっと離れます。AV特集として、この夏、暑さ凌ぎにお酒の量を減らすことも狙って導入したパソコン用1万円オーディオを、話題にしたいと思います。ベルリン・フィルの「デジタル・コンサート・ホール」年間会員になって、これまでモバイル環境だからと大甘に見ていたパソコンの音質を吟味した結果、耐え難くなったのです。何万円も投入すれば本格的なシステムが買えることは知っていますが、実売価格2万円前後のヘッドフォンや安価なイヤフォンで聴いているのに3万、4万、5万と投じるのは不釣り合いで居心地が悪く、予算1万円と決めました。

 「デジタル・コンサート・ホール」については、昨年の「ベルリン・フィル定期演奏会がネット中継に」で紹介しました。コンサート1回分ずつを買うことも出来ますが、2万円弱を払って年間会員になると過去1年間の定期演奏会アーカイブが何時でも自由に聴けるし、これから1年間、新たなコンサートが生中継でもアーカイブでも楽しめます。音質と画質は本当に最高級です。USBバスパワー駆動のドライブで聴く、新しいコンサートDVDより音が良いと感じます。アーカイブには無料サンプルが多数あるので視聴してください。

 比較的音質が良かった自宅のデスクトップパソコンに比べて、持ち歩くノートパソコンでの再生音は酷く、オーケストラ音楽の多彩な持ち味を出せていないことは明らかでした。ボーカル、ジャズなどは結構、楽しんで聴いていたのですが、「こんなものでしょう」という意識があって、音を吟味するような聴き方はしていなかったと思えます。


 「パソコン用1万円オーディオ」は「AMERICAN AUDIO ( アメリカンオーディオ ) / AUDIO GENIE PRO」と中国製の「Fiio E5 [ポータブル・ヘッドフォンアンプ]」に、USBケーブルとオーディオケーブルで出来上がりました。写真にあるように「AUDIO GENIE PRO」自体にもヘッドフォン端子はありますが、音楽を聴くにはやや硬い音です。響きの柔らかさや豊かさは「Fiio E5」をLINE OUT端子からつながないと出てきません。20年来、オーディオチェック用に使っている有名なソース「Cantate Domino」で確認しました。ピュアオーディオの領域に入っている音です。

 自宅のヘッドフォンは、独ゼンハイザーHD595を主力に、日本スタックスSR-001MK2、米グラドSR60で聴いています。持ち歩くのはイヤフォンで、AKGのK12PやゼンハイザーのMX400とMX500です。コンデンサー型SR-001MK2はアンプ付きですからLINE OUT端子に直結です。どの機種も個性が生かされて、とても楽しめます。いささか驚かされたのがイヤフォン達です。3000円ほどで買った機種なのに、ベルリンフィルの高音から低音まで充実した音を入力してやると、値段が信じられないほどの再生をします。音源が貧しいモバイル環境では力を発揮できていなかったんですね。

 デジタル・コンサート・ホール自体も興味が尽きません。カメラワークが緻密で、各パートの演奏を細かく追ってくれます。ハイビジョンなので遠景のままでも、奏者のしていることはよく判ります。これまで音楽だけ聴いていて、どうやってこんな音を出すのか疑問に思っていた謎がいくつも解けました。

 なお、写真のFiio E5が4センチ角ですから大きさが判ると思います。AUDIO GENIE PROの電源はUSBバスパワーで、ノートパソコンといっしょに鞄に収まります。30時間くらいは慣らし運転しないと本来の音になりませんから、試される方はご注意下さい。


国会図書館の蔵書デジタル化、あまりな時代錯誤

 日経新聞の朝刊で「国会図書館の本、有料ネット配信 400万冊対象、11年にも」を見て、「ブック検索著作権問題、Google期限まで半月 [BM時評] 」で紹介したようにグーグル・ブック検索に押しまくられた国内勢も反転、攻勢に出るのかと思いました。ところが、調べると、とんでもない時代錯誤をしていらっしゃるのです。これは頭が痛い!!

 日経の記事には、こうあります。「国立国会図書館は、日本文芸家協会、日本書籍出版協会と共同で、デジタル化した同図書館の蔵書をインターネットで有料配信するサービスを始める。両協会が著者など権利者に許可を取り、個人がネット上で同図書館の蔵書を読めるようにする」「9月に同図書館と両協会が中心となり協議会を設立する。10年3月までに利用者から著作権料をいくら徴収するかなど詳細を詰めたうえで、11年春には利用者から集めた著作権料を作家などに分配する社団法人か財団法人を発足させる」

 やるではないか、と思われるでしょうが、デジタル化の中身がグーグルとは違い過ぎるのです。「グーグル和解問題を国会図書館の動きから考える(2)」(ダイヤモンド・オンライン)はこう説明します。「国会図書館のデジタル化データは、現段階では全て画像となっています。『本』のページをスキャンしたイメージが画像データとして保存されている、ということです。もちろん、『本』のタイトルや著者名、発行年月日といった情報は別途デジタルデータ化され、画像データと関連付けて保存されています」「蔵書をカードで検索し、『本』の現物またはマイクロフィルムで中身を見る、というアナログ時代の利用方法をそのままデジタル環境に持ち込んだものです」

 一方、グーグルは画像データと一緒に、書籍の中身のテキストデータも作りだしていますから、当然ながら検索が出来ます。任意の言葉で検索が出来るかどうかで、使い勝手も存在意義もまるで違ってしまいます。麻生内閣の何でも金を付ける大型補正予算で百億円以上のお金が付いたので、デジタル化が一気に進むことになりました。しかし、これは大きな禍根を残す政策決定であると思います。予算を執行する前に中止すべきです。


始まってしまった裁判員裁判、手厚い第1例でも…

 ついに裁判員裁判が実際に始まりました。「裁判員制度は混乱必至でも開始すべきか [ブログ時評89] 」などで懸念を表明してきたのですが、本質的な改善はなく、とにかく始めてしまおうとの流れです。東京地裁での第1例についてはメディアが伝える通り、証拠である被害者の遺体写真を多くの裁判員が正視できなかったようです。昔、警察を担当していたころには、気持ちが悪くなる写真も見た記憶があります。あれは普通の人が見るべきものではありません。しかし、事件の核心がからむとなれば、残酷でも見ざるを得ない場合が出てきます。大丈夫か、心配です。

 江川紹子ジャーナルが「裁判員裁判を傍聴する」で第1日目の詳しい傍聴記を掲載しています。穏当な見方で描かれていて、明日以降、さらに続編が出るようです。

 「検察官の変わりようには驚きだ。以前の裁判では、どうせ裁判官と弁護人には書面を配っているのだからと、えらい早口で読み飛ばす検察官が少なくなく、傍聴していてもメモが取れないことがしばしば。検察官にとって、傍聴人はまったく眼中になく、必要でもないというのがあからさまだったが、なにしろ裁判員にはちゃんと理解をしてもらって、検察側の主張を認めた判決を出してもらわなければならない。私たち傍聴人は、そのおこぼれに預かっているのかもしれないが、いずれ裁判員になるかもしれないということで、前より大事にされている感じはする」「それを感じるのが、2カ所に設置された大型モニター。傍聴人も、ほとんどの証拠を大型モニターで見ることができる。かつての裁判では、証人や被告人に図面を示しても、証言台に書面を広げるだけなので、傍聴席からは何をやっているのかさっぱり分からなかった。それを考えると、これは大きな進歩だ」

 こんな風に現場を紹介されると、裁判の様変わりぶりがよく分かります。絶対に失敗できないと、裁判所も検察も万全の準備をしたのでしょう。しかし、これに関連して、江川さんは「検察官も弁護人もハイテク機能を生かし、冒頭陳述や証拠の説明は、さながらプレゼンテーション合戦だ」「特に検察側は、プレゼン用ソフトを駆使して、図面の強調したい所を丸で囲ったり、色をつけたりと、様々な工夫をして”見せて”くれる。弁護側もモニターを使って説明したが、文字が多いうえに、ソフトの機能を使いこなすとまではいかない様子で、やはりいささか見劣りがする」と、組織として劣る弁護側の不利を指摘しています。始めてみて判明する問題点がまだまだ出てくるでしょう。


NHKスペシャルがバラエティ番組になっていいのか

 NHKスペシャルの「エジプト発掘 第2集〜ツタンカーメン 王妃の墓の呪い」を見て、これまで報道番組として見ていたのに、面白ければよいバラエティ番組に堕しているのにショックを受けました。忙しくて詳しく書けませんが、「Japan Blogs Net」でウオッチしている「5号館のつぶやき」が「NHKスペシャルはどこまで信じて良いのでしょうか」で疑問を投げていただいたので紹介します。

 第1次大戦後に見つかったツタンカーメン墓以来80年ぶり、2006年に王族の新たな墓が見つかったという触れ込みで、NHKによると「調査の途上、墓の主として、意外な人物が浮かび上がってきた。あのツタンカーメンの妻・アンケセナーメンである」との前提で話は進みます。ところが、期待させて見せた最後で大きな裏切りがあります。報道番組ならそれは許されません。

 「5号館のつぶやき」はこう喝破しています。「最後の場面に来る前に、番組の中では『内視鏡で棺の中をのぞいたところの映像』なるものを2回も流し、『ここに王妃の鼻と思われるものが見える』と言っていました。それにもかかわらず、最後に棺の中には石しかなかったことが明かされるところでは、『王妃の鼻に見えたものは何か別のものを見誤ったもの』というような、あまりにも脱力させられる解説で終わらせるような番組作りというのは、いかがなものでしょう」「今回の番組を見る限り、作りの『上品さ』はあたかも報道番組風なのですが、その中にあるものは大昔にあった『川口浩探検隊』となんら変わることのないバラエティなのだと感じさせられました」

 【追記】でリンクされているウェブ「NHKガッカリ特番:ツタンカーメン 王妃の墓の呪い(KV63) へのツッコミ各種」が秀逸です。紹介されているサイトをざっと眺めると、ツタンカーメン王妃の墓と思われた新発掘現場は、新しい研究成果ではミイラを作るための作業部屋だった可能性が高まっていると考えられているようです。

 NHKスペシャルはNHKの看板番組で、膨大な制作費が投じられています。「NHKスペシャル エジプト発掘」(翻訳会社の風景)には「2年ほど前から"HNKスペシャル エジプト発掘” のための翻訳作業を請けて来た。フランス語、英語の翻訳だったが漸くこの夏、放映されている。今日は、『ツタンカーメン王妃の墓の呪い』」「大量の翻訳作業だったが、番組になるとハイビジョン特集とあわせ十数時間。膨大な資料を読み込んで、伝える価値のある情報に絞り込んでいく。スタッフの皆さんが、毎晩遅くまで仕事をされていたように覚えている」とあります。こういうブログ証言も貴重です。それだけの投資が英文の発掘関係サイト参照に及ばないとは、ネットの使い方を知らない恐れがあります。

 今回のNスペは、少なくとも私の基準では報道番組ではありません。最近、Nスペを見る機会が減っているので断定は避けますが、一つでも違うものが混じり、番組の受け手が「報道番組ではなくバラエティ」と受け取り始めたら、その後は奈落の底でしょう。


ローマ高級店ぼったくり、観光相が再訪の呼びかけ

 7月始めにローマの高級レストランが日本人カップルに、ランチの代金として695ユーロ(9万3000円相当)を請求した事件が伝えられました。その続報として朝日新聞23日付で「ぼったくり被害者さま、再訪を 伊観光相『政府が費用』」が出たのを見て、関係する情報をブログで探してみました。「イタリア政府の費用負担で再びローマを訪れてくれるよう被害者に呼びかけている。観光立国で知られるイタリアだが、日本人の旅行者はピーク時に比べて半減しており、政府は悪い印象を振り払うのに懸命だ」という実態はいかにです。

 ぼったくり被害のカップルが警察に駆け込み、149年続いた店を市長が閉店させる騒ぎになりました。ロイターの「Rome restaurant in hot soup for 700-euro lunch tab」でも流れているので、国際的ニュースになりました。料理は生かき、手長エビの前菜、パスタ、魚料理にワインで、請求書には15000円を超すチップが勝手に加えられていました。

 観光客の話を警察がよく聞いてくれたなと思っていたら、宿の日本人オーナーが強力な助っ人になってくれたのでした。「モシモシ日記 in Roma〜ローマでB&B営業中!〜」がその方のブログです。事件に触れた「口だけなら世界一のはず・・・」に多数のコメントが付いています。

 被害にあった本人も登場し、説明しています。「この件で家内と大喧嘩になり、都内の高級店で食事をしたと思えばと『泣き寝入り』するつもりでしたが、偶然、夜モシモシさんがリビング?で『今日どうでした?』と声をかけられグチを言ったところ、警察に届け出ることになりました」「日本とは違いなかなか受理してもらえなくて、たらい回し。3回目の警察でモシモシさんのご主人さんが超粘ってくれていたところ、007みたいな俳優さんの様な人が入ってきて一変、受理の方向になり、なんと4人(最大5人)の大柄な警察官に囲まれての聴取でした。その後現地に赴き実行犯を指し示して終了となりました。実行犯が見つからなければ帰国以外でローマから出られないと言われていたのでもうドキドキでした」

 コメントの中には「3年前、初の海外旅行でイタリアツアーへ二人で行き、フィレンツエのジェラート屋(ウフィツイ美術館付近)で普通にジェラート2個を頼み、大盛りにされ140ユーロを請求されて支払ってしまった苦い思い出があります」(sakasaneko)との実例報告もあります。1個9000円を超すジェラートですから、こちらのぼったくりも酷いものです。

 事件につて、イタリアに住む大阪人女性のブログ「695ユーロのランチの結末.....」(Buona giornata--フィレンツェ徒然日記)もこう書いていらっしゃいます。「イタリア在住の人間として非常に恥ずかしいと思ったし、こんなことは絶対に許せない!!と興奮状態で旦那さんにも話していました。親日家の旦那さんも”Ma, che vergogna!!!”(なんて恥ずかしいことをするんだ!!)と激怒!!!」


足利事件の衝撃。事実の『観測』には誤差

 女児殺害の犯人として17年半も逮捕、服役させられていた足利事件の菅家利和さんが再審裁判の開始を待たずに釈放されました。再審請求でのDNA鑑定やり直しにも自信満々だった検察側が、「DNA型が一致しない」即ち「犯人ではあり得ない」との鑑定結果に、完全に白旗を掲げたためです。そして、新たな報道で事件当時のDNA鑑定のいい加減さ、それに寄りかかっての自白強要があった点が明らかになってきました。人間は過去にさかのぼって事件発生現場を確認できません。様々な「観測」手段を使って当時を推し量っているに過ぎません。使える観測手段ごとに誤差があり、それをわきまえた謙虚さが決定的に欠けていたケースでした。

 「弁理士の日々」の「足利事件のDNA鑑定 」は「『当時の技術では、犯人と菅家さんは同じDNA型(仮に[A]とします。)と鑑定され、その鑑定自体は正しかったが、最新の技術では、犯人はA1、菅家さんはA2であって別人であった』という論理かと思っていました。ところがそうではなく、『当時捜査で使われたと同じ方法でDNA鑑定を行ったところ、菅家さんはBであり、犯人はCであった』というのが実態らしいですね」と驚きます。

 弁護側鑑定人の本田克也・筑波大教授はBをAと誤ったこともさることながら、BとCを同型とした二重の誤りが大きな勇み足になったと指摘しています。遺伝子DNAの鑑定は違いが分かりやすい部分を切り取って比べますが、旧鑑定書の写真では「これでよく同じ型と見えたな」というレベルだったようです。

 Japan Blogs Netから拾うと、「中山研一の刑法学ブログ」は「足利事件の教訓」で「この事件では、DNA鑑定が有罪の証拠とされただけでなく、嘘の『自白』を引き出すために利用されたという事実に注目すべきです」「菅谷さんは、DNA鑑定を突きつけられて自白を迫られ、暴行も受けたとして、当時の警察・検察官を絶対に許さないと語っています。今こそ、『代用監獄』における密室の長期間にわたる取調べそのものを廃止する決断が必要なのです」と指摘しています。捜査過程の可視化(=全面ビデオ撮影)を押し進めるべきなのですが、法務大臣は早速、消極的な姿勢を見せました。

 「小林恭子の英国メディア・ウオッチ」が「足利事件とDNA鑑定―英国関連」で英国事情を伝えているのも注目です。「英国ではDNA鑑定が初期捜査の重要な部分を占めているようだ。現在、少なくとも400万人分のDNA情報を持っている」「問題なのは、警察で取り調べを受けた人はほぼ全員がDNAのサンプルを取られてしまうことだ。例えば飲酒運転、あるいは町で10代の少年少女が喧嘩をしていて、これをつかまえた場合もサンプルを取る。ただ単に、喧嘩に巻き込まれた人、その場にいた人もとられる場合がある。つまりは、無実の人のサンプルも、『いつか悪いことを起こす人』のサンプルとして取得されてしまう」

 英国に比べ、数万人分しかないDNA情報を持たない日本は発展途上段階ですが、足利事件のような鑑定精度問題を越えた、次の場面で、DNAという究極の個人情報をどう扱うかが浮上します。日弁連は2007年末に「警察庁DNA型データベース・システムに関する意見書」を出して、プライバシー権や自己情報コントロール権を侵害することがないよう、国家公安委員会規則ではなく、法律による構築・運営をすべきだと主張しています。警察庁側では「DNA型情報の活用方策について」に資料が集められています。


ベルリン・フィル定演ネット配信の高品位を再認識

 昨年秋の「ベルリン・フィル定期演奏会がネット中継に」で紹介したベルリン・フィルの「デジタル・コンサート・ホール」を最近、何度も訪問しています。落ち着いて聴いてみると、思った以上の高画質・高音質であることに驚かされます。ツアーのストリームテストに全画面表示のサンプルがあります。本物のハイビジョン番組が1本9.9ユーロ(視聴は48時間に制限)ですから、映画館の料金並です。シーズン通し料金は最初は高かったのですが、今は8月27日までで89ユーロになっています。

 少し昔の定期演奏会も見られるのかもと思っていましたが、現状は昨年夏からの新しいものばかりです。その分、今が旬の演奏家がどんどん出てきて、音楽雑誌でしか見ない方の演奏が、アーカイブにある予告編で楽しめるのは面白いと思います。予告編ではハイビジョンとしては最小の縦480本ですが、音質は十分に高品位です。自宅のシステムでとても良かったので、会社で使っているノートパソコンでも試してみて、いささかがっかりしました。まずまずの音かなと思って深く気にせずにイヤフォンを挿していたのですが、同じ高音質のソースを聞き比べると、差の大きさにやや唖然です。細かなニュアンスの部分が消えています。これは何か対策が要ります。

 ついでにベルリンフィルをカラヤンが独裁していたころのビデオを持っているので聞き比べてみました。同じホールだし、演奏映像の撮り方も似ています。カラヤンは映像技術の進歩に応じて最新の物に加工できるよう、35ミリフィルムで残していたと聞きます。いつまでも自分が最高という人でしたが、最新のデジタル・コンサート・ホールの出来は想像できなかったかも知れません。それほどネット配信にもかかわらず鮮明な音です。鮮明すぎるのかも知れません。


SMAP草なぎさん逮捕は有名ブログで大騒ぎ

 東京・港区の公園で泥酔、裸になって騒いだことから公然わいせつ容疑で逮捕されたSMAP草なぎ剛さんの件。一夜明けて今日の午後に釈放されましたが、とても一晩、留置する悪質な事件とは思えません。おまけにおそらく麻薬常用を疑って自宅を家宅捜索までして何も出ず、その理不尽さも含めて「Japan Blogs Net」に入れている有名ブログで大騒ぎになっています。テクノラティで調べると「草なぎ」と「草」合わせて23日に3000件のブログ記事が書かれている程度で多いと言えても驚くほどではありませんから、有名ブログからの注目度の高さは異例かも知れません。

 鳩山総務相が草さんが地デジの普及推進キャラクターだったことから「最低の人間だ」と言い放ったりするものだから、ますます騒ぎが広がりました。後で撤回されたこのイレギュラー発言、「大石英司の代替空港」の「この逮捕に異議あり」に「現職の大臣が飲んだくれて国際会議に出ることに比べりゃ、今の内閣にそんなことを言う資格は無いでしょう」と切り捨てられればおしまいなのですが……。

 公然わいせつ容疑から家宅捜索までするのは理屈が通らないこと甚だしいと思います。裁判所が捜索令状を安易に出したこと、こうした警察国家ぶりにメディアはもっと批判の声を上げるべきです。そして、身柄送検で顔が映る写真を撮らせる人権侵害にもっと敏感になるべきです。

 2日続きでこの事件を取り上げた「生きるすべ IKIRU-SUBE 柳田充弘ブログ」の「隆盛のチャイナ、衰退のジャパン、消毒国家、草なぎ青年」は中国行きから帰って日本の閉塞状況を憂い「日本のような一見ぬるま湯社会なのに、この草なぎ青年に対するはげしいまでの社会的懲罰をみると社会の硬直化を強く感じざるを得ません」と指摘しています。


ブック検索著作権問題、Google期限まで半月

 グーグル・ブック検索について米国の裁判所で示された和解案に、世界のほとんどの国の著作権者が態度を決めなければならない期限が半月後の5月5日に迫っています。日本文藝家協会は15日になって「グーグル・ブック検索についての声明」を出して「今回の和解案は、私たち米国外の著作権者の協力できるような性質のものではないので、強く反対する」と抗議の姿勢を示したものの、「個々の日本の著作権者が後日になって回復しがたい不利益を蒙ることも懸念されるため、当面の最低限の防衛策として、私たちの会員や著作権管理委託者に、米グーグル社から提示された和解案に応じたうえで、個々のデータを削除する要求を選択するように勧める」と、和解からの除外・脱退は避けるとしました。

 米国で起こされた訴訟の和解に米国外の著作権者が巻き込まれるのは、主にベルヌ条約に加盟しているためです。「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」は加盟国に他国の著作権者にも自国民と同じように遇することを求めています。結果として「米国と著作権関係を現在持っていない数国において書籍を出版し、居住または本拠地をおいていることが確実ではないかぎり、米国における著作権を有していると考えるべきでしょう」と、和解案を説明する「合衆国南ニューヨーク地区連邦地方裁判所通知書」は指摘しています。期限までに態度表明しなければ和解に応じるとみなされます。組織に属していない多くの著作権者は、なし崩しに和解に参加する事になるのでしょう。

 和解案では米国で絶版になったり、市販されていない本を図書館などの協力でスキャンし、一部をブック検索で表示したり、書籍全体を見せるアクセス権を売ったり出来ます。米国で本を出版していなくても著作権を持つ意味があるわけです。ただし、それが出来るのは米国でのブック検索に限定されています。米国外からはアクセスできません。

 同通知書には「Googleは、レジストリを通し、これらの使用によるすべての収入の63%を権利保持者に支払います。レジストリは、以下の問9(K)および10で説明される配当プランおよび著者/パブリッシャー手続きに基づきそれらの収入を権利保持者に分配します」とありますから、国内の印税10%に比べて破格の好条件になります。

 もちろんグーグルは米国外に広げることも狙っているようです。「Google ブック検索和解契約」は「この和解契約は米国における訴訟の解決となるもので、和解契約の影響を直接受けるのは、米国内でブック検索にアクセスするユーザーのみです。米国外におけるブック検索の機能は和解契約による変更はなく、これまでと全く同一です。しかし、Google では将来的には各国の業界団体や個々の権利者と協力して、この和解契約がもたらすメリットを世界中のユーザーに広めたいと考えています」と表明しています。

 ブログでの解説としては「グーグル『ブック検索』和解は作家と出版社の関係を見直す好機」(海難記)が「これまで自分たちの著作権管理をまともにやりもせず、いわば出版社に丸投げしておいて、しかも新しいメディア環境における著作権のあり方についてきちんと状況分析もしないままで、ヒステリックに『抗議』すれば済むと思っている日本文藝家協会のあり方はじつに救いがたい」と、国内の状況を批判しています。

 国内の「ブック検索」はどうなっているのでしょうか。個別に版元の許可を得て、本の一部を閲覧できる仕組みにしています。「インターネット」で引くと1857件、「女」なら1908件です。まだまだ大した収録数にはなっていません。米国の場合、フェア・ユースと呼ぶ著作権を侵害しない利用行為がかなり大きく認められており、グーグルは著作権が生きている本にも、それを使って大規模なブック検索を構築しています。同じブック検索を名乗っても、日米間の落差はさらに拡大することになります。


舞鶴女子高生殺害の捜査・報道と裁判員導入

 裁判員制度導入の5月21日を前にした舞鶴女子高校生殺害容疑での逮捕・捜査と、それにまつわる一連のメディア報道は、裁判員制度に対する疑問を明るみに出しました。このまま導入して良いものなのか、問いかけねばならないと思います。犯行に結びつく有力な物証が無く状況証拠しかない事件であり、裁判員を納得させることが困難であろうから現在の裁判官による裁判に滑り込ませようとしている恐れがひとつ。起訴する時点が延びて裁判員制度導入後なら裁判員を意識した報道に切り替えねばならないマスメディアが、従来通りに読者が犯人と思ってしまう伝え方をしている点も大問題です。

 捜査側が持つ情報は小出しに漏れ伝えられるのですが、これまでのところ証拠らしいものは事件の直前に容疑者と被害者が並んで歩いていたとされる防犯カメラの映像しか無いと考えてよいでしょう。家宅捜索でも凶器は見つからず、容疑者は否認を続けています。「弁護士会が容疑者を重点支援 舞鶴女子高生殺害事件で」は京都弁護士会が「女子高生が殺害されて埋められた重大事件で世の中の注目度が高いうえ、犯行を直接裏付ける物証が乏しく、中容疑者が否認を続けていることから自白を強要される恐れなどがあるとして、輪番の当番弁護士ではなく、刑事弁護に慣れた弁護士」を派遣したと伝えました。

 ブログ上でも捜査を批判する厳しい声が上がっています。法律専門家が説明可能と言い出しながら、読者からの批判にたじたじの例「捜査批判に少し突っ込みを入れてみました。」すらあります。メディア多数からコメントを求められる「法、刑事裁判、言語を考える」の「舞鶴女子高生殺害事件ー各紙コメントから by Gishu」はこんな風に本音を書いています。

 「今後の捜査によっては、有力で、市民である裁判員にも解りやすい有罪証拠がでてくるかもしれない。そのときには、5月21日までなお慎重捜査をしてから起訴してもよい。その場合には、すでに別件窃盗で服役中なので、殺人容疑での勾留中にあえて起訴しなくともすくなくとも逃亡は防げる。無理な捜査をする必要はない」「しかし、万が一にも、今マスコミで紹介されている範囲の間接証拠―間接事実とその延長線上の証拠の積み上げによって犯人性、犯行態様をすべて立証しなければならないとすると、これはそうした証拠の取扱いと、きめ細かな事実認定に習熟しているプロの裁判官に判断を委ねるのが妥当だろう」

 玄人はそう判断するのか――で納得してよいのでしょうか。メディア側「47news」から「【47コラム】シロウトの裁判員は頼りにならない? 捜査当局も私たちも疑ってはいないか」が疑問を呈しています。「ここで問題なのは、『シロウト』の裁判員たちの判断をバカにする考えが、こういう観測の底に潜んではいないか、ということである。警察や検察にも、裁判所にも、そしてメディアの側にも、もっといえば社会全体でも、裁判員裁判が出す結論が信用できないで困っている、という事情があるのではなかろうか」「もしシロウトが頼りにならないという気持ちが私たちの中にあるなら、もしそういう心配が私たちの気持ちの中につのっているのなら、裁判員制度の実施は延期ないし中止したほうがいい。それを決めるのは今からでも遅くはない」

 日本新聞協会は「裁判員制度開始にあたっての取材・報道指針」を発表し、その第1項は「捜査段階の供述の報道にあたっては、供述とは、多くの場合、その一部が捜査当局や弁護士等を通じて間接的に伝えられるものであり、情報提供者の立場によって力点の置き方やニュアンスが異なること、時を追って変遷する例があることなどを念頭に、内容のすべてがそのまま真実であるとの印象を読者・視聴者に与えることのないよう記事の書き方等に十分配慮する」です。新聞各紙が容疑者逮捕の第一報を朝刊トップで並べたのを見て、配慮があるとはとても考えられませんでした。こうした事件の報道、扱い方そのものを縮小しないといけない時期が来たと思いました。

 犯人と強く思わせる報道例は、読売新聞の「容疑の60歳、事件後にバール消える…舞鶴女子高生殺害」を見てください。「事件当夜、現場周辺の防犯カメラに小杉さんと一緒に映っていた『自転車の男』が押していた自転車とよく似た自転車数台を中容疑者も、自宅に所有。自転車のフレームのすきまに長さ約40〜60センチのバールを載せ、側溝に落ちたものを拾うために使っていたという」「事件後に複数の自転車の色が塗り替えられていたほか、中容疑者は自転車にバールを載せなくなったことも判明した」

 こういう情報が勾留期限が終わるまでの3週間、小出しに流され続ければ、多くの裁判員の心証は形成されてしまうでしょう。裁判員制度導入時期すれすれの事件だからこそ、メディア側の準備が本当に出来ているのかが見えてしまいました。このまま突入するのは非常に危険です。延期して、準備の仕切りを直しすべきだと考えます。


CDでは滅多に聴かなくなった昨今の音楽事情

 最近、CDを回しながら音楽を聴くことが無くなってきました。先月は一度も無かったかも知れません。ゼンハイザーのヘッドフォンHD595を少し前に購入してエージングが出来た頃で、各種の音楽を聴き倒しているのにです。ウインドウズメディアプレーヤーの「ライブラリ」を使うと、パソコンに取り込んだ音楽多数を際限なく垂れ流し再生できると気付いてから、「ながら」の習慣になりました。そんな折に「音楽の聴き方が変わってきた、というかCDが売れなくなった件」(CROSSBREED)に出会って、妙に納得させられました。

 「itunesによる音楽ファイルの管理が便利すぎる為、アナログレコードを買って来ても、一々PCに録音してitunesへ取り込みしている始末」「一枚のCDが見つからなくて棚を何度も行ったり来たりするよりも、itunes上で検索するほうがずっと便利ですし」。CDを取り替える手間も無いしね。

 家族の間でCDやDVDを貸して現在、行方不明ということもありました。部屋のどこかに埋もれているのでしょう。それだったらまずパソコンに入れてから貸せば良かったわけです。先月半ば、外付け1TBのHDDを9480円で買い、テレビ録画用にしています。昨日、同じショップを見たら9280円でした。AV用として買えば、ロスレス圧縮にしてCD1枚400MBなら2500枚。そんなには持っていませんからDVDもかなり入れられると思い始めています。

 音楽業界は行き詰まりかと問えば、そうでもありません。「音楽CDの売れ行き推移をグラフ化してみる」が音楽CD販売が減少し、逆に音楽DVDや有料音楽配信が伸びている様子を見せてくれています。ソフト売り上げは落ちても、有料音楽配信を加えると全体では売り上げを伸ばしています。2007年はソフト3991億円に対して、配信755億円です。有料音楽配信ではモバイルの比重が大きく、シリコン・オーディオをイヤフォンで聴く人が支えているのでしょう。


ブッシュ大統領への靴投げ事件その後

 イラクの「靴投げ記者」ザイディ氏には3月12日、禁固3年の判決が言い渡されました。3月末、事件後のアラブ世界について「中東報道研究機関 メムリ」から、「靴投げ事件にみるアラブ世界の屈折心理」と題した長文報告が出されたので紹介しておきます。アラブの熱狂だけが伝えられていましたが、立ち止まって見直しておきましょう。報告には風刺画も多数収録されています。

 「ザイディの靴投げ事件以来、靴投げが抗議のシンボルになっている。ヨーロッパ各地で、アメリカの政策に反対するデモ隊がアメリカ大使館に靴を投げ、反イスラエル派は靴をふりまわして、イスラエルのガザ攻撃に抗議した。さまざまな国の要人もターゲットにされた。2009年2月2日、中国の温家宝首相は、ケンブリッジ大で講演中靴を投げられ、イスラエルのベニー・ダガン駐スウェーデン大使も、ストックホルム大で講演中靴を投げられた。一方イランでは、2009年3月5日に西部のウルミア市訪問時、イランのアフマディネジャド大統領搭乗車に、ひとりのイラン人が靴を投げつけた」「アラブのメディアはブッシュ靴投げ事件に興奮し、大々的な反応をひきおこした。イラク当局は本件を非難し、イラクの衛星テレビAl-Baghdadiyya記者ザイディを逮捕した。しかしながら一般大衆はザイディに感情移入し、その行為を赦したのみならず、本人を英雄視した。この大衆支持は、無数のデモで表明された」

 この騒ぎ、アラブ大衆は圧倒的にザイディ絶賛なのですが、批判する見方もバランス良く取り上げられています。「社会の熱狂はアラブの弱さを示す―エジプト紙」は「異様なのは、大西洋から(ペルシア)湾岸までアラブ共同体を包みこんだ感情移入と熱狂ぶりである。この事件をアメリカに対する勝利とか、イラクを占領し四分五裂した(アメリカに対する)復讐と考えたのである」「それは間違っている。アラブは論争という習慣から逸脱して、我々の問題を(解決する機会を)逸してしまった…政治煽動に走り、法とルールから逸脱するのが我々の常套手段である」「この熱狂ぶりは、多くの分野で救い難いお手上げ状態にあることを物語る―ザイディの靴がまるで自国解放と諸問題解決の唯一の手段であるかのように、靴をあがめたてまつるのである」と手厳しい。

 「靴を投げて死刑にならないのは民主主義のおかげ―改革派サイト」は「まともな市民生活を送り、或いは指導者を譴責することなど、イラク人民にとって夢のまた夢であった。しかし今日、これまで発揮できなかった勇気を以て行動できる。民主々義のおかげである。(靴投げを)占領者に踏みにじられたイラクの名誉の勝利と見る者は、ブッシュを初めとする当の占領者が、このようなことを可能にする状況をつくった事実に考えがいかない」と、米国のイラク政策成功の現れとまで指摘します。

 ただ外国指導者への暴行で禁固3年の実刑は厳しすぎます。国内のブログでも「イラクと英国の靴投げ事件の顛末」が「同様な事件が英国でも中国の温家宝首相の講演中に起きていますが」「中国側は一過性の事件として問題視しない方針とみられます」「英国側は謝罪した上で法律に基づき靴を投げた人物を処分することを表明」「英国も良識ある判断を下しています」と二つの事件の処分に大差があるとしています。


第175回「続・離婚減少は定着、熟年離婚の嵐吹かず」

 1月末に第172回「離婚減少は定着、熟年離婚の嵐吹かず」を書いてから気になり続けていた離婚率減少傾向について、先週土曜日の朝刊3面に記事を書きました。今回はウェブでの問題意識が先行しているケースですから、本業の仕事と抵触しない範囲でウェブ版の続報を書いてみます。結論は次のグラフの通り、2003年からの経済状況好転にシンクロして減少傾向が現れたのでした。


 1980年代にも83年をピークにして離婚率減少が現れています。グラフから判るように、この時も好況下でした。今回減少はその再現だろうとみられています。特に失業率とピークがぴたりと合っているのが特徴的です。前回はピークがずれていました。調べる上で離婚率増加についての研究は多数、見つかるのに、減少傾向についての研究がなかなか出てこないで難儀しました。社会学の方でも減少そのものに懐疑的な立場をとる場合もありました。有配偶者の離婚率が国勢調査の年にしか計算できないので、2000年と2005年では顕著な差が出ないためです。

 結局、「Google Scholar」も使って国立社会保障・人口問題研究所に「少子化の要因としての離婚・再婚の動向、背景および見通しに関する人口学的研究 第2報告書」なるものがあると知りました。これは所内研究報告で第1、第2報告がありますが、図書館などにも配られておらず、ネットからはもちろん読めません。この研究プロジェクトが離婚率減少傾向を分析してくれていたのでした。

 2005年に離婚率減少傾向が見えだしたころ、2007年、2008年の厚生年金分割制度スタートが準備されていました。「潜伏する離婚予備軍〜年金分割待ち予備軍だけでも2.3万組、潜在離婚率は現実の1.5倍」のように、2007年を待ち受けて熟年離婚の嵐が吹く――と言われたものですが、2007年も2008年も離婚率は下がりました。分析によると熟年夫婦に特別な動きは観察されなかったのでした。最高裁の「離婚時年金分割に関する事件の概況 平成19年4月〜12月」でも分割の申し立ては7千件台でした。

 さて、経済激動、大不況突入で失業率急増は必至です。これからどうなるのでしょう。不況が酷すぎれば、離婚しても職がないので離婚できないという事もありそうです。また、近年の社会意識調査の多くが家族を守り、維持する方向を示している事実もあります。博報堂生活総研が最近、提唱している「第三の安心・社会を修理する生活者」は「98年の金融ビッグバンを契機に、GDPは急落。実収入も減少し、完全失業率も4%台へ」「しかし生活者は【賢力】を駆使し、この環境変化に対応します。子供への教育投資や夫婦関係、家族関係の深化、地域生活の見直し」という「まわり固め」があって、さらに「みんなでつくる世の中の安心」へと関心が向いてきたとします。日本の家族の行方を注視しましょう。

 【参照】インターネットで読み解く!「人口・歴史」分野エントリー…生涯未婚など


ミシュラン日本ガイドの不思議な選択ぶり

 フランス語の「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」が16日に発売になり、9月には英語版も出るそうです。日本の観光地に、例によって最高三つ星の格付けをしています。フランス人と日本人のスタッフ12人が協力して国内を歩き回り、日本政府観光局(JNTO)まで一枚かんでいるというのですが、何か不思議な選択ぶりです。「Michelin Green Guide Japon 掲載地リスト」に全部で1141項目載っています。1月末の「ニュースリリース」での紹介も見てください。

 「東京とその近郊」「関西」「中国」「四国」「九州」「沖縄」「中部」「東北」「北海道」という並び方からして独特ですね。一見して落ちていると気付く大物があります。日本三景の京都「天橋立」、日本三名園の水戸「偕楽園」、そして、何と何と「東京ディズニーランド」です。これを入れなかった日本人スタッフとは、どういう方たちでしょうか。

 京都は好意的に見れば、社寺仏閣を余りに多く入れすぎて北端にある「天橋立」を忘れたのかもしれません。しかし、「偕楽園」と「東京ディズニーランド」が落ちたのは、千葉県と茨城県が全く無視されたからでしょう。大阪の「ユニバーサルスタジオジャパン」は星なしでもリストには載っています。各地の名園は概ね高い評価を得ているのに、なんで水戸だけ??

 細部を眺めると、なかなか良く見ていると思うところもあれば、雑だなと思うところが混在しています。旅慣れていそうな《「ミシュラン」日本の観光地の格付け》は「本当に調査したのかなぁぁぁ」「というか、結果を見る限り明らかに『見た目だけ』で判断しているという感じがしてなりません」「ただ、二つ星を取った竹富島は頷けます」と評しています。沖縄に非常に手厚い印象が残り、明らかに沖縄好きのスタッフがいたのでしょう。

 星3つは「わざわざ訪れる価値がある観光地」とされています。じゃらんネットに「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン三つ星観光地特集」が出ています。こちらは写真・資料つきです。


非常識な検察捜査とメディア報道の愚劣

 政治資金規正法違反容疑での小沢一郎民主党代表の秘書逮捕をめぐる、メディア報道の愚劣さには目を覆うものがあります。犯罪として実質的な悪質さがあるのか疑問なのに、司法担当記者に検察側から意図的にリークされる情報で「ここまで分かった」と大げさに報じるばかりです。果ては官房副長官がオフレコの懇談で「西松建設からの政治献金では自民党に捜査は及ばない」と漏らした重要な場面に遭遇しながら、記者クラブ制度の約束事に足を取られて明解な記事が書けない有り様です。読者や視聴者、つまり市民社会の側よりも権力の側に向いているスタンスが透けて見えてしまいました。

 西松建設からの政治献金の虚偽記載容疑は極めて形式的な容疑です。小沢代表が釈明したように、企業からと判っていれば政党支部で受ければ何の問題もありません。司法を担当した記者の常識として、これで強制捜査が発動されるとしたら、その奥に実質的な「巨悪」があるのでガサを掛けて証拠品を押さえる場合なら許されると思います。ところが、今のところ何も臭ってきません。

 ビデオニュース・ドットコムの「理解に苦しむこの時期の小沢氏秘書の逮捕〜元検事・郷原信郎氏インタビュー」で、郷原・桐蔭横浜大学法科大学院教授が強制捜査には「次」があることが常識なのに、今回は考えにくい状況と疑問を投げかけています。さらに、逮捕の容疑そのものについてすら「政治資金収支報告書には政治団体の名前を記載しても違反にはならない。政治団体がなんら実態の無いダミー団体で、しかも寄付を受け取った側がその事実を明確に把握していたことが立証されない限り、政治資金規正法違反とは言えない」と懐疑的です。

 「情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)」は「小沢代表の説明に納得できない人多数という毎日新聞の世論調査に異議あり」と、「代表を辞めるべき=57%」を引き出した世論調査に抗議しています。電話による調査では複雑な状況を説明することが出来ませんから事件への印象で答えることになります。その印象を形作っているのが検察寄りの報道なのです。進行していく事実を伝えることに汲々として、「それはおかしいのでは」と立ち止まって考えることが苦手な国内メディアの悪い体質が増幅されています。

 官房副長官を匿名の「政府高官」としながら問題発言を報じた一件について「池田信夫blog」は「記者クラブの2ちゃんねらー」で「今回のような『記者懇』の話は、複数の記者の前で話したことだから、もともとbackgroundではありえない。どこの社も同じ話を引用して公然の秘密になっているのに、本人が誰か報じることができないという滑稽な状況は、世界のどこにも見られない」と痛烈に批判しています。

 率直な話、今回の政治資金規正法違反容疑での逮捕を先例とするなら、逮捕しなければならない政治家の秘書は何百人といるはずです。検察は今後も同じ基準で強制捜査を発動しなければいけませんし、当然ながら自民党の方が多くの逮捕者を出すはずです。「国策捜査」との批判に反論すべく、逮捕者の山を築いていただきたいものです。


映像生活、私的にもある最近の変転事

 日本映画製作者連盟から「2008年映画産業統計」が発表になっています。詳しい分析は「TRiCK FiSH blog.」の「2008年度日本映画産業統計を読む」でご覧になって下さい。私が気になったのは末尾に置かれた「劇映画のビデオソフトによる販売と鑑賞人口推定 平成20年(2008年)」で、売り上げ、鑑賞人口とも前年比9割程度に縮小している点でした。以下に引用します。

1. 小売店舗売上 3,613億円 (前年比88.8%)
2. 映画鑑賞人口 6億9,733万人 (前年比91.3%)
3. メーカー売上 2,174億円 (前年比87.3%)

 2008年、映画の劇場入場者は1億6049万人で、前年比98.3%とまずまずの成績でした。しかし、ビデオソフトによる鑑賞人口の減り方は7億6377万人が6億9733万人に減ったのですから、半端ではありません。日本映像ソフト協会のウェブにある「ビデオソフトの売上金額の推移グラフ」を見ると、2004年をピークに縮小傾向にあります。このグラフには、レーザーディスクが20世紀の間はかなりの力を持っていたのにDVDの登場で一気に駆逐された様子が描かれています。レーザーディスクプレーヤーの生産終了をパイオニアが告知したのが、先月半ばのことでした。

 ビデオソフトによる鑑賞人口の減り分がどこに行ったのか、それはネット上のオンデマンド・ビデオサイトだったり、動画共有サイトだったり、あるいは第155回「テレビ局独占から脱したHDビデオ番組」で紹介した「ビデオポッドキャスト」や、そこから発展した「HDポッドキャスト」あたりなのでしょう。

 最近、伝説の名歌手マリア・カラスの日本公演の録画テープを棚の奥から見つけだしました。亡くなる数年前、1974年のこと、カラー映像が極めて少ないカラスですから貴重品です。録画してあるのは、90年代にFM放送用のステレオ音声とドッキングして再放送されたものです。久しぶりにカラスにはまってきて、YouTubeならもっとあるだろうと探してみました。面白いように出てきます。日本公演の映像は赤い衣装ですから直ぐに見分けられます。他は50年代、60年代のモノクロ映像ばかりかと思いきや、もう1系統のカラー映像が出てきます。

 日本公演は世界ツアーの最後でした。日本に来る途中のコンサート映像がアップされています。こちらは白いドレスに紺色のケープです。彼女のファンなら愛してやまない「Suicidio!」もあります。この劇的な曲をピアノ伴奏だけで歌うのは痛々しい感じがします。そこで一工夫した方がいらっしゃり、「Maria Callas - Suicidio! - New! Wonderful video!」の登場です。音声だけは最盛期のオーケストラ伴奏録音から取ってきてカラー映像と見事にシンクロさせています。全盛期にもこんな表情で歌っていたのだろうと、納得してしまいました。良い映像記録が無いカラスだけに掘り出し物と申し上げておきましょう。


専横のJASRACに落日?公取委、排除命令へ

 日本音楽著作権協会(JASRAC)に、公正取引委員会が独占禁止法違反(私的独占)で排除措置命令を出すと事前通知したニュースは、ネット上、かなりの期待感をもって受け止められたようです。2001年の「著作権等管理事業法」施行までは、JASRACが音楽著作権管理事業を公的に独占していて、ここで新規参入が出来るようになったのに実効が上がらなかった――そこにメスが入ろうとしている訳です。

 年間1000億円と言われる楽曲使用料の徴収・分配の不透明さはこれまでも耳にしてきました。今回、問題になっている放送局との場合、「包括契約」と呼ばれる形態の契約を締結し、JASRACが管理する楽曲は使い放題とする代わりに、放送事業収入の1.5%を得ることになっています。それが2007年には265億円に上りました。誰のどの曲が何回使われたか、全く把握しないで巨額収入があり、どうやって権利者に配分するのか、傍目にも心配です。

 「JASRAC:新規参入を制限 公取委が排除命令の方針」は「『包括的利用許諾契約』とは、要はグロスで幾らのどんぶり勘定。例えば、JASRACに管理委託した自分の曲がいま見ているテレビ番組のバックで流れたとしても、その一回の使用に対してきちんと対価が支払われるわけではない、ということ。ラジオ局で何月何日に放送された、ってことまできちんと報告をしてきたGEMA(ドイツの著作権管理団体)の明細書を見たことがあるが、そんなものはJASRACは発行しない」と、杜撰な仕事ぶりを指摘します。

 昨年、公取の検査を受けた際に、JASRAC側は「『いったいどこが問題なのか』――JASRAC加藤理事長、公取委の立ち入りに『不満』」で、利用側の利便性を考えているだけだと釈明していますが、実は放送局との間で楽曲使用の記録を残すための準備作業を始めているようです。「JASRAC独占、なぜ崩れないのか――JRCの荒川社長に聞く」にそうした情報が出ています。

 全く孤立した店で使われる昔のカラオケ装置なら別ですが、いまや全国のカラオケ・ランキングが集計されて流れる時代です。まして放送局ならプロが使う仕事ですから記録を残せない方がおかしいのです。使用料を受け取る権利者側にも、演歌偏重で公正な分配でないとの不満があると聞いています。

 ネットで語られた「JASRACの暴挙をまとめるページ(増田出張版)」がちょっと古いけれど色々な情報を集めています。ただし、信憑性は保証されていません。「週刊ダイヤモンド」の2005年9月17日付「企業レポート 日本音楽著作権協会(ジャスラック)」が官僚天下りの実態を明らかにして大きなインパクトを与えましたが、損害賠償の訴訟では1、2審とも敗訴しています。

 ひとつ、これはあんまりだと多くの方が思えそうなケースを。「いい加減にしろ、JASRAC!(ピアノバーに有罪とは‥)」は「ビートルズを弾いたピアノ演奏者がついに有罪判決を受けてしまった。著作権法違反だという。ここ数年、全国各地でジャズ喫茶が同様の方法で閉店に追い込まれている。違法といえば違法かもしれないが、いくらなんでも逮捕して有罪にするかねえ」と批判しています。音楽文化が広まり豊かになってこそ、楽曲を作りだした人たちの値打ちが高まるはず。権利者の代行者と称して潰して回ってどうするです。


雑誌不況、マンガ不況、出版不況…

 読売新聞が出版科学研究所の推定として「昨年の雑誌販売、11年連続の減少…落ち込み幅は過去最大」と伝えています。雑誌の4.5%減少は確かに大きいですね。昨年はかつては有力だった雑誌の廃刊が相次ぎ、業界全体が地滑り的な縮小に向かっている感じです。同研究所の「日本の出版統計」にあるグラフを見ると1997年から落ち始めていて、インターネットの普及との関係が言われるのですが、よく見ると週刊誌やコミック誌はそれ以前から下降し始めています。

 ブログから拾うと「海難記」の「2兆円割れ寸前〜2008年の出版市場」が「2009年には出版市場が2兆円割れするのは確実だろう」とする一方で、世間に言われているような「日本人の読書離れ」はないと主張しています。「年間9000億円もの書籍販売額が維持できるはずがない。この額はおおよそ1975年の2倍、1964年の10倍、そして1959年の30倍である。本はますます読まれるようになり、そのなかで純文学や思想書といった堅い本の比率が相対的に減っただけだろう。かつては選択肢が少なかったから、しかたなく、こうした堅い本を読んでいた読者だっていたはずである」

 ネット上の電子書籍としてリリースされた中野晴行著の「まんが王国の興亡」〜なぜ大手まんが誌は休刊し続けるのか〜が評判になっているようです。無料でかなり長い立ち読みも出来ます。また、ITmediaの《「旧世代の漫画屋、最後の冒険」――雑誌不況下で創刊した「good!アフタヌーン」》も興味深かった記事です。「漫画家の原稿料は通常、漫画雑誌の売り上げから支払う。単行本は原稿料なしで、印税のみを作家に支払うのが一般的。雑誌をなくしてWebで無料公開すると、漫画家に支払う原稿料の出元がなくなってしまう」。そうだったらコミック誌が止めていく現状は大変なことです。水源地が干上がっていくようなものですから。

 論創社の「出版状況クロニクル 8」(2008年11月26日〜12月25日)は雑誌が出版業界全体の牽引役だったと指摘、自動車販売の激減が日本経済を揺さぶっているように、雑誌の急減は出版業界の垂直落下状態を招くとしています。データが豊富です。印象的な記述は97年以前の週刊誌黄金時代についての部分でした。

 「この時代に週刊誌が商店街の書店の集客の柱だったとこと示していよう。それにつけても思い出されるのは、まだ町の商店街が元気であった時代には書店だけでなく、多くの喫茶店、食堂、飲み屋、床屋、美容院などがあり、それらは町の社交場を兼ね、またかならず週刊誌が置いてあった。つまり自ら買うことに加え、週刊誌を読むインフラが町の中に整えられていたのである。しかし21世紀に入り、それらを含む商店街は壊滅状態になってしまった」

 この構造変化に加えての今回の大不況です。既に大企業を中心に広告費カットの動きが急です。2009年、書籍は微減でも、雑誌はさらに大きな波をかぶってしまうのかも知れません。


中国のブログ記事に見る対日感覚の揺れ

 中国情報を流してくれるニュースサイトとして「サーチナ searchina.net」は便利な存在です。そこでは【今日のブログ】として中国のブログ記事が翻訳されており、昨年末から年始にかけての日中両国マスメディアの報道への反応が現れて興味深いので紹介します。

 中国青年報に年末、「日本がなければ改革開放は異なっていた」が出た時、ちょっと驚きました。「日本は中国にとって最大の援助国で、中国が外国から受けた援助の66.9%、金額にして2000億元余りが日本からのものだ。これらは中国の鉄道・道路・港湾・空港などのインフラ整備、および農村開発・環境保護・医療・教育などに幅広く用いられている」と明記してあったからです。故意に隠し続けてきた円借款の事実を国民に明かした意図は、対日感情の転換でしょうが、どう受け止められるかです。

 2005年5月の「反日デモ始末に苦渋の続きを思う [ブログ時評20]」で親日派の知識人が3兆円にのぼる対中国の円借款を数年前まで知らなかったエピソードを書いています。そこでは「北京の地下鉄に乗る時に『円借款のお陰』」とも思えるようになったが、「中国人の屈辱感」を長引かせるODAは廃止してよいと考える、屈折した心情が現れていました。親日派にして、出来れば円借款の存在をあからさまにしたくないのでした。

 「【今日のブログ】日本が最大の援助国だという事実を知って」はどうでしょうか。「『日本が中国にとって最大の援助国』との事実を発見し、しばし呆然とする思いであった」「ここで疑問なのは、改革開放から30年という時間が経過し、その間も日本は対中援助を行い続けてきたはずであるが、日本が最大の援助国であるという事実は、なぜ今になって公になったのであろうか」「つい先日、日本国民の対中感情がかつてないほどに悪化しているとの報道も目にした。以前であれば、日本と中国の間には積年の恨みがあるのだから、日本が中国に好感を持っていなくても何の不思議もないと、特に気にかけることもなかったであろう。しかし、日本が中国にとって最大の援助国であったという事実を知った今となっては複雑な思いがしてならない」

 やはり両国間の政治的思惑を完全に消化するのは無理なようですが、ようやく相互理解の芽は現れたと感じます。もちろん、このような方向の理解に進んでいかない人もいらっしゃいます。年明けの「【今日のブログ】日本人が中国に『親しみを感じない』理由は?」は、その理由として一つは毒ギョーザ事件など食の安全問題だとし、「もう一つの原因は、飛躍する中国を目の前に感じる複雑な心境に起因するものであろう。国際的な影響力を失いつつある日本を尻目に、国際社会での地位を確立し、日中間の距離を縮める中国を前に、日本人は優越感を失いつつあるのではないか」とします。やや唖然ですね。

 でも「【今日のブログ】日中経済の距離は50年?100年?」のような冷静なブログ記事があると知れば、やがて大きな谷も埋まるのではないかと思えます。「中国は『世界の工場』と言われて久しいが、この地位は全く胸を張れるものではない。中国社会科学院の研究員は、『日本企業はキーテクノロジーとなる基幹技術を有しているが、我々はそうではない。我々は手間賃を稼いでいるに過ぎない』と話していた。なぜ我々が現在の地位にとどまるっているか、それは基幹技術や先進技術を有していないからに他ならない」

 やはり冷静な目を持つ「【今日のブログ】地理的に近い日本、心理的に遠い日本」も「かつて日本にとって中国は学ぶ対象であったが、現代はそれが逆転しているのだ。我々は『大中華、小日本』という概念を捨て去らなければならない。それが出来てこそ、迅速に学習することも出来るというものである。そして、これこそが改革開放30年以来の最大の収穫であり、我々の心の持ちようが我々の未来を決定するのである」と主張しています。パートナーシップへの第一歩でしょう。


『派遣村』叩きと派遣労働報道の不毛

 東京・日比谷公園の「年越し派遣村」に集まった失業者で生活保護を申請した207人に、千代田区は8〜9日に1カ月分の保護費支給を決めました。大半の申請者には所持金がほとんど無かったそうです。住宅費を含めて10〜13万円で、とりあえず寒空の下に放り出される事態は避けられました。今回の騒ぎでネット大衆の在りようと、派遣労働に対するマスメディアの報道ぶりに疑問を感じました。

 ネット上では今なお、「派遣村」運営者と集まった失業者に対する批判や揶揄が続いています。《「派遣村」叩きに日本の国民性を思う》(玄倉川の岸辺)が「強者が世間の波に溺れる失業者を『稼ぎもしないのに助けてくれと要求ばかりする連中はゴミだ』と考えるのはそれなりに合理的だ(倫理的に立派なことではないが)。だが、ネットで弱者叩きにいそしんでいる人たちがそのような強者であるとはとても信じられない。『溺れて必死に助けを求める人を手漕ぎボートの主が小突き回し、そのすぐ横を大型船が行く』という絵が目に浮かぶ。手漕ぎボート氏は大型船の引き波で自分のちっぽけな船が転覆する可能性に気付いていない」と指摘します。

 踏みつけられている人にしか見えない構図を、ホームレス作者のブログ「ミッドナイト・ホームレス・ブルー」が《「自分に比べてあいつらは……」 〜「妬む」現代人〜》で「ホームレスにしろネットカフェ難民にしろワーキングプアにしろ、社会の最下層を生きていると、いろいろと風当たりも強い。中にはひたすら非難の姿勢を取る人たちもいて、これはもう振り払っても振り払ってもあとからあとからわいてくるので手に負えないが、この手の人たちは大半が下層の人間である」と書いています。

 この視点で「痛いニュース」の「派遣村の人々、12日から旅館で暮らすことに…生活保護、申請223人中大半が受給決まる」を見ると理解しやすいでしょう。

 派遣労働について連日、新聞記事を読んでいて「派遣村」騒ぎから一気に製造業への派遣労働禁止論議に飛んでしまった印象です。どうして派遣労働者にセーフティネットが張られていなかったのか、説明されないままです。「禁止論議」とそれが失業を増やすとの反論に焦点が移っていますが、安全網の欠陥を直ちに修復するのが先決でしょう。「派遣労働者への雇用保険の適用について」(EU労働法政策雑記帳)に行き当たって、ようやく現状が理解できました。

 雇用保険適用について「少なくとも法文上は、フルタイムの派遣労働者について雇用期間による特別の適用除外規定は存在しません。ところが、現在の運用では、登録型派遣労働者についても『反復継続して派遣就業する者であること』が要件とされているのです」「この取扱いの源泉は、上述の1950年通達の『反復継続して就労しない者であつて、臨時内職的に就労するに過ぎないもの』にあるわけですが、『家庭の婦女子、アルバイト学生』をもっぱら想定してこの要件を設定していた当時の状況に比べれば、現在のフルタイム登録型派遣労働者の大部分はまさに『その者の受ける賃金を以て家計費の主たる部分を賄』う存在になっているのですから、あまりにも実態に合わない運用になってしまっているといえましょう」

 つまり雇用保険という安全網をかぶせるには法律改正は必要ないのです。通達で変更すればよいだけです。もちろん、守旧型の厚生労働省官僚は抵抗するでしょうが、マスメディアがジャーナリズムとしての責任を果たすには格好の回路が開いていると言えます。

 しかし、メディア報道は事前想定内の「ご確認報道」に止まっています。その悪しき典型を《「名古屋越冬闘争突入集会」…派遣切り難民はたった3人?》(dr.stoneflyの戯れ言)が指摘しています。名古屋・笹島の炊き出し現場を踏んだ筆者は「派遣切りされた方ですか」と聞かれて記者に逆質問しています。「記者が『らしき人』に声をかけていった結果……3人。たった3人なのだ。全国でも突出した派遣切りの数を記録する名古屋の越冬闘争に、たった3人。その3人は代わる代わる各社の記者の取材を受けていた」

 翌日のエントリーでは、派遣切り労働者が多数集まったかのように大きく扱われた新聞記事を掲示しつつ、取材、記事執筆のありようを批判しています。言うまでもなく、なぜ3人しかいなかったのか追究して、背後にある事実を明らかにするのがメディアの本来業務です。


2011年以降もアナログ放送の視聴可に。でも…

 読売新聞が伝えた「地デジ移行後3〜5年、CATVはアナログ放送受信可能に」には、何という知恵の無さと思いました。景気悪化もあって地上デジタル受信機器の普及がまだ47%にとどまることを受けて「政府は今年3月までに、CATV会社約330社が加盟する『日本ケーブルテレビ連盟』などに新対策の実施を要請し、夏までに詳細を詰める。CATV会社には設備への追加投資などで計30億円を超える負担が見込まれており、政府として支援策を検討する」というのです。

 ちょっと考えたら、この措置がテレビが見られなくなるお年寄りらへの対策になっていないことは直ぐに分かります。「泥縄の地上波デジタル対策だねぇ・・・」は「だいたいCATVに加入をするの?」「それとも電波障害扱いで無料なの?」「ましてや区域外再送信の問題や僻地における設備の問題はどうするのかなぁ」と問います。ケーブルTVに加入できない田舎や、加入料金や月額利用料も払えない所帯はどうするのでしょう。

 現在のケーブルTVでは、アナログ放送とデジタル放送はそれぞれ専用の端末機器を貸与され、視聴しています。アナログ波が停止するとアナログ放送端末は止まってしまい、そこにデジタルからアナログに合成し直した放送を流そうとするものです。一方、デジタル放送端末はセットトップボックス(STB)と呼ばれ、例の悪名高いB−CASカードが付いています。これによる制限がなければ、アナログとデジタルはもっと自由に行き来できるのです。数年のために設備に国費から30億円もかけて、それで最終期限が来ても買い換えられない家庭が多数残るでしょう。

 ※参照=「デジタル放送の元凶『B-CAS』に見直し論議 [BM時評] 」


メディアが黙殺した与野党合作の年金改革案

 夕方の恒例にしているJapan Blogs Netの巡回で、「貞子ちゃんの連れ連れ日記」が《報道されない超党派による「最高の年金改革案」》を出しているのを見つけました。昨年末、クリスマスに、自民党3人に民主党4人の年金問題に明るいメンバーが半年かけて練り上げた改革案を発表したのに、日経新聞以外のメディアはほとんど無視したといいます。「その『まっとうな最高水準の誠実な年金改革案』は報道されなかったのだ!!!」「マスメディアが報道してくれないのなら、私たちブロガーがリンクを張り巡らして、一人でも多くの日本人に、この『最高の年金改革』を広く知らしめようではありませんか!!!」と呼びかけています。

 私も発表に気付いていませんでした。確かに今回の改革案は新聞各社が相次いで出した案に比べてすっきりしていて、検討に値すると思えます。メンバーは自民は野田毅、河野太郎、民主は岡田克也、枝野幸男の各氏らですから相応の重みもあり、無視して良いはずもありません。「自民・民主両党による年金の抜本改革案」に概要が、年金提言最終版.doc(ワードファイル)に全文があります。

 どうして無視されたのか――ひとつ気になったのはわざわざ厚生労働省にまで行って発表した点です。河野さんたちには、厚労省クラブの各紙記者が年金の専門家であるとの誤解があったようです。確かに宙に浮いた年金記録問題などの年金不祥事は手慣れているかも知れませんが、制度問題の専門家ではないのです。では各紙の改革案は誰が作ったのかです。ほとんどは現場を離れている論説委員たちが鉛筆をなめながら作文したのです。新聞社が提唱するのなら、在野を含めてもっと研究者らから多くの知恵を集め、数字も詰めながら作成すべきであり、私は各紙の「作文」改革案を評価していません。

 ブログの声、例えば「灼熱の中に・・日記・・そして各新聞社の年金改革案のまとめ記事」にあるように、素人が見ても、あちこちおかしなプランなのです。新しい改革案を各メディアは真剣に検討すべきだと思います。今回の「事件」は、そういうことを指示する司令塔がどの社も不在であることを見せつけました。これでジャーナリズムでござい、と言ってもらっては困ります。


日台ラブストーリー異色映画「海角七號」、中国公開は

 メールをチェックしていると、JMMからメルマガ《『大陸の風−現地メディアに見る中国社会』「海角七號」》が届き、異色の日台ラブストーリー映画が中国大陸で公開される可能性について書いていました。詳しくは12月22日(月)に原文が「大陸の風−現地メディアに見る中国社会 / ふるまいよしこ」にアップされるので読んでください。

 台湾での興行記録を塗り替える異例の大ヒット、9月の日本の「アジア海洋映画祭イン幕張」でグランプリ、11月末の香港での公開でも成功が伝えられ、気になっていた映画です。「60年前、日本人男性教師が台湾から日本へ向かう引揚船の上で、残してきた台湾人の恋人に宛てて書いた手紙」の日本語ナレーションから始まり、現代の日台カップルの物語と交錯して展開します。政治的な映画ではないのですが、日本と絡む台湾内部を映し出し、日本語、中国語、台湾語が入り交じるといいます。このメルマガほど詳しい紹介と解説は初めてでした。

 内容から中国本土での公開が危ぶまれるとも聞いていたのですが、可能性が高まっているようです。どうなるのか、年末の注目ものです。主演女優、田中千絵さんのインタビュー記事《「台湾ってかわいい!」―『海角七号』主演女優・田中千絵》や2ちゃんねるの【大ヒット】海角七號【ブロガー】もご参考に。ただ、日本国内公開がまだ決まっていないのですね。


お騒がせ橋下知事、ブログでは賞味期限切れ

 この春、大阪府知事に就任して以来、物議を醸す発言をし続けている橋下徹知事が、府内の小中学校への児童生徒による携帯電話の持ち込みを原則禁止する方針を打ち出しました。府立高校では、校内では使用禁止にするものです。ネット規制にもかかわる話なので、ブログでも関心が高かろうと思ったのですが、「常識派」の規制賛成論が多く並ぶ不思議な光景です。気になってテクノラティのブログ記事数グラフで調べて判りました。ブログ大衆には「お騒がせ橋下知事」の賞味期限は切れたのでした。


 10月半ばごろに記事数が大きなピークを作ったのが最後で、11月になってからは、「お騒がせ」にほとんど反応が無くなっていました。10月のピークとは何かさかのぼると、朝日新聞社説とのバトルとか、高校生と意見交換をして私学助成削減をめぐり泣かせてしまった件でしょう。「もう飽きた」という気分、よく分かります。誰が論評したって、この人が聞く耳を持っているとは到底、思えないからです。

 さて携帯電話禁止問題ですが、「比べてわかる橋下提言」は「ある程度信用のおけるデータに基づいた上で『賢くなりたいならケータイを使うのをちょっと控えてみないか』と提案するこの方針は、再生会議や懇親会の雰囲気語りとはワケが違う」と福田内閣のレベルとは違うと認定し、とても高い評価をしています。

 「携帯電話 持ち込み禁止令」は「子供に有害と思えるものは全て排除する。学校側としたらこれが一番簡単な方法です」「しかし、それでは今までと何も変わらない。また同じような現象に陥るのは明白だと思います」「あれもダメこれもダメでは生徒が理解できないし、生徒が先生を信用できなくなるのは当然です。納得できない親もいるはずです」と考えを進めています。

 マスコミは論争が起きている風に伝えていますが、ブログは白けきっている様子。普通ならば「反文明主義かよ@携帯禁止令」のようなタッチの発言があちこちに現れそうなものですが……。


ベルリン・フィル定期演奏会がネット中継に

 読売新聞の「ネットで聴けます、ベルリン・フィルが演奏会を同時中継」が来年1月からベルリン・フィルの定期演奏会、年間30回がハイビジョンレベルでネット中継されると伝えています。有料の配信事業で、「1シーズン(9月から翌年8月まで)の全定期演奏会の生中継や、シーズン中の映像がオンデマンドで繰り返し見られる『シーズン会員券』は149ユーロ(約1万8000円)。1回分の演奏会を見る『1回券』が9・90ユーロなど」だそうです。音楽ファンには大ニュースですね。

 ベルリン・フィルのサイトに「デジタル・コンサート・ホール」という予告ビデオが掲示されています。このレベルの動画にはなるということでしょう。メールアドレスを登録しておくと情報を送ってくるそうです。

 英語サイトを検索してみると「TRIP TO ASIA | OUT NOW ON DVD!」に、過去のコンサートや背景を伝えるドキュメンタリー、ダンスや教育のプロジェクトも提供すると書いてあるので、定期演奏会ばかりでなく色々なビデオが高画質・高音質で流されるようです。どれくらい昔のコンサートが出てくるのかも注目です。シーズン会員券の値段でも来日コンサートなら1回分ですから、ファンにはリーズナブルでしょう。

【追補11/24】ニューヨークのメトロポリタン・オペラが一足先にハイビジョン画質の配信サービスを始めていました。有料ですが、フリーで見られるお試しビデオもあります。デュアルコア2.0GHz以上とパソコンへの性能要求は高いものの、質は極上です。「Met Player」で試してください。


ホームレス・ブロガーからの休筆通知

 「日本で最初の現役ホームレスブロガー、武州無宿・健次郎の公式ブログ」と名乗っている「ミッドナイト・ホームレス・ブルー」「当ブログ休止のお知らせ 」を書いていると、「Japan Blogs Net 《社会・医療》」で気付いて1週間になります。もうリストのおしまいの方に並んでしまいました。「Japan Blogs Net」を作る際に、このサイトは入れようと決めていたひとつなので、残念です。

 「2004年6月以来、ネットカフェを中心におよそ4年半にわたって情報を発信しつづけてきましたが、ぼくは現在、大半を路上で過ごしており、それ以前の生活に逆戻りしつつあります。また、今年の春ごろからつづく体調不良(主にうつ状態)が回復しないことも重なり、これ以上記事を書きつづけることは困難であると考えました」

 最初にどのエントリーが検索で見つかったのか、もう記憶がはっきりしません。何度か訪問している間に、こういう目線で見ることが必要と、たびたび認識させていただきました。最近のエントリーでは「自分に比べてあいつらは……」〜「妬む」現代人〜で「金持ちはふつう、自分とは無関係な問題だと思っているので、とおりいっぺんの感想を抱いて次の日には忘れてしまうものだ。最下層を眼の敵にして噛みついてくるのは、似たり寄ったりの、自分も下層だと信じている層が多い」と、体験を踏まえて書いていました。このエントリーのコメント欄は風俗嬢まで(真偽は不詳)出てきて、そのやりとりも合わせて今の社会の情景がよく現れ、オススメです。

 11月7日のエントリーでは明け方の寒さを書いていましたが……。

【追補】11/22に「書き残したことをいつもの減らず口で最後に」と「The Long Goodbye」という長文を書いていらっしゃいます。


新聞社説書き論説委員の世間知らず

 東京で起きた脳内出血の妊婦死亡を、各紙が社説で取り上げました。おしなべて出来が良くなく、「毎日新聞社説10/23〜医療機関の悲鳴は聞こえてますか?」(ツルのはきだめ)が「各紙とも社説では『信頼を取り戻せ』だの『態勢づくりに努力せよ』などと述べておりますが、果たしてこれらの弁は、医療機関の現状を真に鑑みてのものなのかが疑問です」「今の医療の現場からは、各紙が主張するような事を実行する余裕など、とうの昔に失われてしまっているのではないでしょうか」と評しているのが正解です。

 一般紙3紙の中でみると読売「妊婦搬送拒否 一刻も早い医療改革が必要だ」が比較的まし、次いで毎日「妊婦受け入れ拒否 事実究明し安心の体制作れ」、最悪が朝日「妊婦死亡―救急医療にもっと連携を」になると思います。医師不足による医療崩壊については、安易な解決策が存在する段階を通り過ぎているので、記事を書く際に慎重でなければならない――という意識が編集局の取材現場には浸透しています。「もっと連携を」なんて書く記者はいなくなっています。

 論説委員は編集局に属さない、別格組織にいますから、取材現場に浸透した「常識」から遠いのです。ならば自分で取材して書けば良さそうなものですが、自分たちが一番知っているという思いこみからか、なかなか取材に走る気にならないようです。今回の件でもこちらあたりで、大いに呆れられています。

 私の持論として、新聞記事である以上は新しい事が何か書かれていなければならないと思います。新聞各紙の社説には、ほとんどそれがありません。とすれば、社説なんて無用です。新聞メディアの経営は今後、厳しくなる一方ですから、真っ先に廃止すべきが論説セクションでしょう。無くても困らないし、現実には世間を迷わす害の方が大きいのですが、この構図が見えている新聞経営者がいらっしゃらないようです。論説委員にはネットで調べるのも不得手の方がいるので、先日つくった「Japan Blogs Net」を社内一部に紹介しておきましたが……。


速報:B-CAS体制に風穴。維持へと出荷停止

 この数日、地上デジタル放送(衛星デジタルも含むのだけれど)の元凶「B-CAS」体制に大きな風穴が開こうとしていました(B-CASについては「デジタル放送の元凶『B-CAS』に見直し論議 」参照)。エスケイネット製USB接続タイプのデジタルチューナ「MonsterTV HDUS」のドライバーを書き換えると、デジタル放送の暗号化がなくなった状態で録画できることが判明し、マニアの間ではこの2、3日、大騒ぎになっていました。台湾製の規制すり抜けデジタルチューナの半値以下と安く、しかも最初から公式のB-CASカード付き国内製品とあっては大変です。

 どうなることかと見守っていると、エスケイネットから30日付けで「一時出荷停止のご案内」が出てしまいました。この製品は暗号化をソフトウエアで行っているために、ドライバーの書き換えで、機能を停止させることが出来たようです。

 ブログでは当然ながら非難ごうごうです。例えば「冗談抜き! 凶悪B-CASの素早い規制でHDUSが出荷停止に」は「やはり利権の温床は甘くなかった。HDUSが我々に開放の道を開いてわずかに三日、なんと出荷停止の発表がなされてしまったのだ」「B-CASはユーザーの声は聞かないが、規制を守るための行動はどこよりも迅速である」と抗議しています。

 B-CAS体制を終わらせるための、象徴的な事件になるでしょうか。

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毎日新聞の「おわび」は不成立ではないか

 英文サイト不適切記事問題で毎日新聞が20日朝刊で1面肩に掲載した「英文サイト出直します 経緯を報告しおわびします」と、2ページに特設した検証記事・「開かれた新聞」委員会の評価を読んで、中身は予想外に率直だなと思うと同時に、これは「おわび」として成立していないと感じました。

 「日本についての誤った情報、品性を欠く性的な話題など国内外に発信すべきではない記事が長期にわたり、ほとんどチェックなしで掲載されていました」と認めた時点で事態の深刻さは明らかです。さらに「内部調査の結果、問題のコラムは掲載の際にほとんどチェックを受けず、社内でも問題の大きさに気づかずにいたことがわかりました。何度もあった外部からの警告も放置していました」と、具体的な外部指摘があったのに放置していたことまで認めています。

 「昨年10月、米国在住の大学勤務の日本女性から内容を批判する英文メールがデジタルメディア局に届いている。『正確さについて保証しない』との断り書きがあっても掲載すべきでないというもので、理由として▽論理的に考えれば記事はウソに違いないと思う▽日本文化をよく知らない人たちに誤解を与える――ことを挙げた」という事実まで明らかにされると、新聞社全体としての管理責任放棄は免れ得ないと思います。誤報ではなく、虚報を書いて、読者に指摘され、さらに無視して、虚報を書き続けたのです。

 「検証踏まえ2人追加処分」として「99年4月から04年6月まで総合メディア事業局長だった渡辺良行常務について役員報酬20%(1カ月)返上の追加処分」などとあるのですが、今回の検証を踏まえて処分を全面的に見直すのが普通の在り方でしょう。新たに明らかになった問題点の大きさに追加処分が追いついていないのは明白です。

 また、ネット上で毎日批判が燃え上がったことについて「『開かれた新聞』委員会委員に聞く(2)」で作家・柳田邦男氏が「失敗に対する攻撃が、ネット・アジテーションによる暴動にも似た様相を呈しているのは、匿名ネット社会の暗部がただごとではなくなっていると恐怖を感じる」と述べています。この発言は本当なのでしょうが、当事者の新聞社が掲載するコメントではないと思います。「おわび」不成立の印象を強くする大きな要因です。

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国立大の運営費削減は医療費以上に過酷

 しばらく医療の問題に目を奪われていたら、3日の日経朝刊で「国立大運営費、学部ごと評価し交付金に差 文科省方針」を見て唖然としてしまいました。話題になっている社会保障費の毎年2200億円削減は、7000億円ほどの自然増に対するものですが、国立大運営費は毎年1%一律に純減する枠組みが押しつけられており、「それでも無理」との声が大きいのです。ところが「2010年度から、教育や研究の実績を学部ごとに評価して交付金の配分額に差を付ける方針だ。交付金を一律に年1%削減する現行制度を見直し、大学ごとに削減率を変えることも検討する。配分にメリハリを付けるとともに、成果主義を採り入れて大学間の競争を促す」とは1%を超える削減をされる大学が出ることを意味します。

 「日本の大学の現在―競争による競争のための競争の減失?」が「法人化以後、国立大学の運営費交付金は毎年1%ずつ削減されており、交付金だけで人件費を充当することができない大学がほとんどである。大学は自助努力で『競争的研究資金』を獲得して、運営の資金をも確保しなければならない。それは、いわば『基本給』が削減され、足りない部分は『歩合制』となり、同じ仲間との競争のなかで『能力のある者』が高い報酬を獲得できるというドラスティックな仕組みである」と指摘しています。おまけに競争がさらに激化するとしても、どこが勝かは実績主義で評価している以上、旧帝大中心の有力大に決まっています。

 昨年の今ごろ「基本給」に当たる国立大運営費の競争資金化には無理があるとの悲痛な叫びを聞いた記憶がありますが、文科省には全く届かなかったようです。医師の人件費が賄えないケースと違って、大学運営費が足りないなら教員を減らしてでも授業の形を取り繕えるからでしょうか。「学校教育費の対GDP比」を見ていただければ分かるように、日本の公的支出は3.5%と29カ国で最低から2番目なのです。まだ引き下げよ、しかも毎年、不安定に続くというのは過酷に過ぎます。


日韓で起きたマスメディア×大衆の激突

 民主主義国家で大手新聞社の玄関にデモ隊が押しかけ、社名の看板文字を削り落とす荒業に出ようとは思いませんでした。米国産牛肉の輸入をめぐり大衆の抗議運動が起き、揺れている韓国で6月26日、朝鮮日報と東亜日報がほぼ同時に襲われました。朝鮮日報の日本語サイトで「米国産牛肉:デモ隊が新聞社襲撃、社名引きはがす(上)」「米国産牛肉:デモ隊が新聞社襲撃、社名引きはがす(下)」が詳しく伝えています。保守系の大手新聞は、輸入解禁の圧力に負けた政府に同調しているとみなされました。購読ボイコットや広告主へ圧力を掛ける運動もあるようです。

 激高しやすい韓国の人たちの性分を考えると、よく続くと思っていた平和的な「ろうそく集会」ですが、過激化すると参加者は減り、ますます過激化に走ったパターンのようです。しかし、市民側の牛肉への不安を、愚か者扱いで済ませる見方にも疑問があります。騒ぎが大規模になった後、22日付の「米国産牛肉:輸入解禁を一時見送りへ」によると、「韓米双方はまた、生後30カ月未満の牛に関しても脳、目、脊髄(せきずい)、頭蓋骨など4部位の輸入を禁止することに合意した。これらの部位は国際獣疫事務局(OIE)の基準では生後30カ月以上に限り特定危険部位(SRM)に分類されている。しかし、国民の狂牛病に対する不安を解消するため、生後30カ月未満についてもこれらの部位を輸入対象から除外することにした」とあります。この危険部位除去は日本なら当然の処置です。その根拠は「BSEはメディアリテラシー力を問う [ブログ時評15]」を見てください。韓国メディアの取材と論調はこれを理解していない形跡があります。

 日本では毎日新聞・英語サイトの「WaiWai」コーナーであった「不適切記事」問題です。国内雑誌から引用、リライトしていたといい、あまり深入りしたくない内容ですが、ITmediaは「毎日新聞が謝罪、関係者処分 『低俗過ぎ』英文記事への批判で」で「日本人女性の55%は、出会ったその日に男と寝る」「六本木のレストランでは、食事の前に材料となる動物を獣姦する」などと伝えています。騒ぎが始まった5月下旬から批判のブログ記事が毎日数百本は書かれ続けていますが、圧倒的に盛り上がっているのは「2ちゃんねる」掲示板です。いつもの釣りかとも思えますが、「毎日新聞を潰そう」という趣旨で広告主に圧力を掛ける運動もしているようです。「毎日新聞の英語版サイトがひどすぎる まとめ@wiki」にデータは揃っています。

 毎日新聞の個人プレーは業界では有名で、それ故に新聞協会賞も多いのですが、今回のケースは明らかに虚偽報道です。ネットで海外から検索されやすくするために「hentai」(変態)というキーワードを仕込むなど意図的です。筆が滑ったとか、出来心とかの範囲で済まないでしょう。6月27日の「毎日新聞社:『WaiWai』問題で処分」にある、筆者である英文毎日編集部記者を懲戒休職3カ月、編集部長を役職停止2カ月などの処分は、最近の業界不祥事例に比べて軽すぎます。加えて不都合なことに「当時のデジタルメディア局長の長谷川篤取締役デジタルメディア担当が役員報酬の20%(1カ月)、当時の常務デジタルメディア担当の朝比奈豊社長が役員報酬10%(1カ月)を返上する処分とした」が不思議な処分なのです。いずれも社長・役員に大昇進した人が大元の責任者で、役員報酬1〜2割1カ月返上が意味のある処分なのか、世間は首を傾げるでしょう。ブログでも疑問・批判の声が多数出ています。

 日韓ともに、これからどう動くのか注目です。7月2日昼前には毎日新聞東京本社に抗議行動が呼びかけられています。韓国の場合、「頑張れ」と小切手を持って激励に来た読者もいたそうですが……。


デジタル放送の元凶「B-CAS」に見直し論議

 「ダビング10」が7月実施で決着した後、情報通信審議会の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」(デジコン委)で24日、デジタル放送を暗号化している仕組み「B-CAS」を見直す議論があったとIT系のメディアが伝えました。日経BPの「B-CAS見直しが本格始動、『2011年までに改善策決め運用開始』」とか、AV Watchの「法制度導入やB-CAS見直しなど放送の著作権保護を議論−見直しの具体案を求める声も」とかがそうです。一方、大手マスメディアは記事掲載を見送りました。

 上記2件の記事を読んだだけでも方向が見えず、訳が分からなくなる混沌ぶりです。日経BPはB-CAS見直しにポイントを置いていますが、AV WatchはむしろB-CASに代わる「法制度による著作権保護の仕組みを検討」に重みがある構成です。共通しているのは消費者団体などからB-CASに痛烈な批判が出た点です。本当の会議内容がどうだったか知るよしもありませんが、すんなり読める紹介記事を書けるはずがなく、大手マスメディアのライターは諦めたのでしょう。3000万枚ものB-CASカードが配られている現実を考えると残念です。

 B-CAS問題については今年初めに書かれた「池田信夫 blog」の「B-CASは独禁法違反である」が成立の経緯まで踏み込んで鮮烈な批判をしています。

 「CAS(conditional access system)は、有料放送のシステムとしてはどこにもあるが、無料放送にCASをつけている国は日本以外にない」。BSデジタルの有料放送化を狙ってB-CASを100億円かけて入れたが「BSデジタルの出足は悪く、各社は数百億円の赤字で、とても有料化できる情勢ではなかった。おかげで受像機の出荷も少なく、B-CASは赤字を垂れ流していた。そこで彼らが考えたのが、無料放送である地デジにB-CASを導入するという方針だった」「無料放送にCASを入れる大義名分がない。そこで出てきたのが、コピーワンスによって『著作権を守る』という理由だった」

 さらにB-CAS社の役員ポストがNHKの天下り先になっていると指摘、「NHKが今の曖昧な受信料制度を正当化するには、BBCのように『受信料制度だからこそ個別の番組から料金をとらないでオープンに配信できる』というならまだしも、私的な有料放送システムであるCASを使うのは矛盾している」と公共放送の根幹が揺らいでいると主張しています。

 B-CAS社の存在の怪しさ、気持ちの悪さは相当な物です。上場会社でもなく、少し前までは会社所在地まで隠していました。Wikipediaの「B-CAS」に基礎データや多方面の批判がまとめられています。株主筆頭は確かにNHKで、電機大手やBS放送各社などが並びます。この一民間企業に家庭に入るデジタルテレビやデジタルレコーダー全てのユーザー情報が集められていること自体に、大きな疑問があります。2011年にデジタル放送完全移行がもし済めば、ほとんど全世帯の個人情報を持つことになるはずです。事実上、強制的に個人情報は集められており、その法的根拠は存在しないのです。

 コピーワンスの不便、それを改良したというのに不人気で一般の注目度が低いダビング10、いずれもB-CASを存続させるために無理矢理つくられた仕組みです。B-CASカード1枚に500円程度の費用がかかります。これをまだ何千万枚も作るのかです。2011年の見直しでは当然、全廃を望みますが、一般消費者の声が極めて通りにくい場所で決定される恐れが強く、全く楽観できません。「消費者が見たダビング10(あるいは情報通信審議会)」が「無料の地上放送に対する暗号化とコピーガードは、悪名高い禁酒法を連想するほどメリットのない制度(業界の自主規制だが実質は法律に近い)です」と抗議しているのですが……。


秋葉原事件の衝撃度を測るブログ記事グラフ

 無差別大量殺傷・秋葉原事件の余韻が続いている気がします。テクノラティが提供するブログ記事の頻度グラフで確認しておきましょう。現在進行形のグラフとし、キーワード「秋葉原」と、このところ話題の「後期高齢者」のグラフを並べます。縦軸の目盛りが大きく違うことにご注意。「秋葉原」ピークは17000件に達し、「後期高齢者」の2700件に比べて6倍の高さのピークがあります。

過去90日間に書かれた、秋葉原を含む日本語のブログ記事
テクノラティ グラフ: キーワード「秋葉原」に関するグラフ

過去90日間に書かれた、後期高齢者を含む日本語のブログ記事
テクノラティ グラフ: キーワード「後期高齢者」に関するグラフ


 テクノラティ社がこのサービスを始めて1年半余、私が見た最大のピークは安倍前首相の退陣表明時で、30000件です。記録として残してあるグラフを以下に掲げます。さすがにこの記録的な高さに比べると、秋葉原事件のピークは半分余りですが、翌日もほぼ同数で、三日目、四日目……と記事数が多く、反応が分厚いのが特徴でしょう。




秋葉原事件で思い起こす『隔離が生む暴力』

 秋葉原の通り魔・無差別殺傷事件を論じたブログで、最も資料性がある注目ファイルは「【秋葉原無差別殺傷】人間までカンバン方式」でしょう。犯人が派遣工員として働いていた工場で、父親が正社員という方が現場の労働状況を語っています。

 「東富士工場は非常に広く、人の配置もまばら。親父いわく、『隣の人と100mは離れている』ウチの親父はいつだって大げさなので、そんなに離れちゃいないだろうけど、数十メートル単位で離れていると見ていいだろう。休憩時間や出入りの時間などに意識しなければ人と会話をすることも無いそうだ」「犯人の環境は、他者と関われないシステムとして存在している。見知らぬ土地に連れて来られ、社員からは顔を覚えてもらえず、あたかも部品の一部として明日の生活を奪われる」「他者と関わりと持てず、漫然とモチベーションの上がらない仕事をしながら明日の生活に怯える。他者のいない生活の中で、自分ばかりが肥大してしまう」

 とてつもない孤独な空間に25歳の犯人は生きていたことになります。しかも近くクビになる話が流れ、犯行の直前に工場に行くと自分の作業服「ツナギ」が消えていたことで、俺はもう要らないのかと感情を爆発させました。

 犯人の頭の中で何が起きたのか、説明することは不可能です。しかし、考える端緒のようなものを持っています。20年ほど前に新聞に脳内物質の連載を書きました。その中の1編『隔離が生む暴力』がこうした不条理な事件が起きるたびに思い起こされます。『心のデザイン』として本になっていますが、既に図書館でしか見られない本なので、以下に収録しましょう。

 <<隔離が生む暴力>>

 川崎市で1980年に起きた金属バット殺人事件の判決が84年4月に言い渡され、両親を殺した元予備校生は懲役13年の実刑に服した。

 世に大きな衝撃を与えた事件の原因は何であったのか。二浪生活での不安、家族へのひけ目、自分の城への逃避。そして盗みや飲酒をとがめられ、父親から「出ていけ」と言われ、膨れ上がった憎悪……。

 「心の病気ではなく被告の激情にかられての犯行だ」と断じた判決も、両親撲殺にまで暴走した心の動きを十分に解き明かせなかった。元予備校生自身「なぜあんなことをしたのかを考えたが、今でも分からない」と法廷で述べた。

 仲間に対する攻撃は、友情と裏腹の関係にあるとする説もあるが、人間だれでもにひそむ暴力について、現在、脳の科学はほとんど語ってくれない。しかし、動物が攻撃行動する時に、脳内で何が起きているのかを描く力は持ち始めた。

 乳離れしたばかりのネズミを数週間仲間から離して育てると、かなりの割合で攻撃的な性格になる。普通ならばそんなことをしないシロネズミでも、隔離しておくと同じ檻に入れた小型のハツカネズミをかみ殺してしまう。シロネズミ同士にすると猛然と戦う。

 佐賀県東部の東背振村にある国立肥前療養所の内村英幸所長(精神医学)のグループは、ネズミの脳で起こる物質の変化を調べている。内村さんらの道具は、かみそりの刃をペンチで細かく砕いてガラス管の先に植え込んだマイクロナイフと、頭髪をループ状にしてやはりガラス管の先端に付けた「フォーク」だ。摘出した脳を凍結、まずカミソリで1ミリの数十分の一に薄く切って真空乾燥する。それを顕微鏡で見ながら、特製のナイフとフォークで、嗅覚を中心に、必要な部分を切り分けていく。

 ネズミは、仲間がいるかどうかを嗅覚で見分ける。鼻でとらえた仲間の情報は、まず脳の前部に突き出た嗅球という部分に入り、その後ろにある嗅結節と呼ぶ神経細胞の塊を経て大脳前部に届く。情報が伝わるといっても、神経細胞のつなぎ目にわずかなすき間があり、一方の細胞からいろいろな物質が放出されて、それを次の細胞が受け取ることで信号が伝わっていく。この物質を神経伝達物質と呼ぶ。

 「隔離ネズミは嗅結節で神経伝達物質が増産され、異常な興奮状態になっている。ネズミは嗅覚を頼りに生きる動物なのに、仲間から離されたために、入ってくるはずのにおいが来ないので、嗅球に『早く情報を送れ』と懸命に催促しているようだ」と内村さん。

 情報を総合的に判断する大脳前部も興奮状態にある。また、嗅覚の神経経路や周辺の神経細胞は、情報が来るのを、いまかいまかと待ち構えている。隔離が続くと、この異常な状態が保たれる。そこにハツカネズミや仲間(シロネズミ)が現れると、嗅覚系は新しい刺激で火がついたように活動を始め、普通のネズミに比べて神経伝達物質を2倍も放出する神経が現れる。異常な攻撃行動への暴走である。

 阪大人間科学部の糸魚川直祐教授(比較行動学)はニホンザルで隔離飼育の実験を続けている。霊長類のサルが仲間を確認するのは、目で見ることと、皮膚の触れ合いだ。「この二つを絶って隔離飼育すると、半数以上は攻撃的になる。人間なら小学校高学年にあたる2、3歳まで隔離し続けると元に戻りにくい。そうしたサルを数匹いっしょにすると、殺し合いを続ける」という。

 サル以上に高度化した人間でも、仲間と生活するために欠かせぬ感覚情報があるはずだ。荒れる学校などの暴力的な世相をみると、何かを得られぬいらだちが見え隠れする。


 当時の脳の科学から現在がどれほど進んだか、この分野から長く遠ざかっていて分かりません。ただ、記事は古くなってもサイエンスのファクトは変わるはずもなく、示唆するところは今なお鮮やかだと思います。


秋葉原事件、両親の会見をめぐる違和感

 歩行者天国の東京・秋葉原で起きた通り魔・無差別殺傷事件で、犯人の両親が10日、青森市の自宅前で記者会見し、被害者に謝罪しました。ほとんどのメディアが流した記事を読んで、25歳にもなった息子はもう両親とは完全な別個人だから、私は会見をする必要なしと思いましたし、ブログでも多数の方が同じような意見を述べられています。しかし、事態はメディア主導とは違うようです。

 弁護士さんが開かれているというブログ「元検弁護士のつぶやき」「秋葉原事件に関する毎日の記事」が「両親が自ら会見したかのような書きっぷりだが、どうなんだろう?」「この記者は、誰のどのような社会的責任を問うたのか?」「犯人に対する憎悪の念は抑えがたいものがあるが、この記事には腹立たしいものを感じる」と書かれています。ブログ主宰者の記事に呼応して、以下、多数のコメントがメディアの横暴という紋切り型の主張を展開をされています。

 この会見に限れば、毎日の地方版「東京・秋葉原通り魔:『申し訳ない』繰り返し 容疑者の両親が謝罪 /青森」でも「◇父自ら会見申し出」と見出しを立てていますし、さらに共同通信発の本紙ニュースとして「容疑者の両親 頭下げ謝罪/無差別殺傷事件(2008/06/11)」で「父親(49)が同日、青森県政記者会に電話をかけ、『おわびがしたい』と申し出た」と明記されています。地方紙は多くがこう流したのです。

 少し前まで全国紙の記事審査委員をしていた立場に立つと、こうした特別なケースで会見が誰の主導であったのかは非常に重要な記事要素であり、それを明記していない全国紙各紙の記事は軒並み落第です。しかし、Googleニュースで検索する手間を掛けるだけで真相が判明するケースですから、ネット評論だけに限ればブログのみなさんも一手間掛けるべきだったと思います。限られたニュースソースに依存しないことが、この時代を生きるメディアリテラシーの原則です。

 ★続報です【2010/7/28New!! 復讐は両親にも!? 秋葉原事件被告の心の闇


NHKには責任を取る文化は存在しない?

 3日の衆院総務委員会でインサイダー取引事件に関するNHK第三者委による調査結果が議論され、読売新聞「NHK会長、インサイダー問題で再調査行わない考え…衆院委」のように報道されています。調査に株取引を申告していながら詳細調査に非協力がはっきりした943人の存在など、一般人から見て納得しがたい結果ですが、福地会長は「報道局員と報道情報システムにアクセスできる職員らの株取引の原則禁止、それ以外の職員も6か月以内の短期売買の禁止という新たな対応策を説明。再調査については『今のところ考えていない』と述べるにとどまった」とのことです。

 第三者委と執行部の取り決めで調査で得られた氏名など細部はNHK執行部には引き渡されず、勤務時間中に株取引をした81人と、非協力が特に悪質な135人に第三者委経由で会長名の反省を促す手紙が送られて収束するようです。単なる手紙一枚であり、氏名を捕捉されていないのだから怖くも何ともないですね。先日の「NHK第三者委の報告書は悲惨で面白い [BM時評]」で「第三者委はインサイダー取引に止めず『国民の受信料で得られた報道情報を私的に利用するのは国民全体への背信行為だ』との立場を明確にしています」と紹介したのに、あまりに情けない終わり方です。

 報道記者のインサイダー取引事件として摘発された3人を懲戒免職にした以外は、実質的な処分は無しになります。前の会長は再任を拒否されていますが、これは責任を取ったことにはならないでしょう。チェック機能を果たさなかった経営委員会を含めて幹部を一新するしかないと思います。摘発当初よりももっと印象は悪くなっており、この問題を理由に受信料の支払い拒否を言い出されたときに、どう説得するつもりなのでしょう。責任を取ると言って辞任、半年もしたら別のポストで復活してしまうケースが企業の不祥事ではしばしば見られますが、最初から誰も責任を取らないのはもっと不思議です。

 普通の会社の常識に照らすと、順法規定の整備を怠った執行部、その尻を叩くべき立場にあった外部監査役の経営委、双方の責任は免れないと思えます。「新たな対応策」もメディア他社では何年も前から実施されていることです。他のマスメディアもこのまま放置して態度を鮮明にしないのなら同類とみなされるでしょう。


NHK第三者委員会の報告書は悲惨で面白い

 NHK記者らによるインサイダー取引事件で第三者委員会が報告書を公表したとの28日朝刊記事を読んで、隔靴掻痒の思いをされた方が多いでしょう。勤務中の株取引が81人あったなど、新味はあるけれどインサイダー取引でもなく、それがどうした、です。批判するブログ記事も呆れるばかりで、今ひとつピンとこないものが多い感じです。この報告書は「職員の株取引に関する第三者委員会 調査報告書」で全文が公開されていて、長文の(2)「調査報告書(本文)」を拾い読みしたら、細部がなかなか面白い、いや、こういう行動をする報道機関の仲間を持っていたのかと悲惨な気分になります。

 調査に強制力はありませんから、株を本人・家族が持っていることを申告してもらわねばなりません。その一方で、情報提供窓口を設けて、職員からの通報を募っています。16人が株取引を名指しで通報され、自主申告していたのは7人だけでした(71ページ)。残る9人のうち5人は聞き取り調査で認めたそうですが、4人は否認のままのようです。保有の有無を申告した後、自己修正を認めました。これは「やはり持っていた」と応じてくるのを期待しての措置ですが、逆に否定するケース続出です。いったん株取引まで認めておきながら持っていなかったとしたケース「本人口座で14名、家族口座で81名もあるが、その信憑性は低いといわざるを得ない」と断じています。

 さらに取引履歴調査に進むには証券会社に出す委任状を貰わねばなりません。ここで株保有を認めた2724人中の943人が有効な委任状を出さず、一部は明白にサボタージュしていることが読みとれます。中でも75〜76ページには<プライバシー侵害><プライバシー・財産権が優先><報道機関の特性><株保有調査への不満>について拒否理由が載っています。一つ拾うと「社会正義の実現を目指してジャーナリズムの世界を40年近く過ごしてきたものとして、私有財産を他人に開示したりプライバシーが侵害されたりする恐れがあるような理不尽な要求には、安易に従う気になれません」だそうです。驚くべき理屈です。

 要するにこの調査は、潔白か灰色までの方が、ちょっと良心的に応じて出来上がったもので、黒の方は参加していないのです。

 第三者委員会は報道の自由との関係を重視した、しっかりした立ち位置を持っているようですが、NHK執行部からはそれが感じられません。「NHKはジャーナリズムを」は「残念ながら福地会長は『就業規則に違反があれば処分する』というだけで、ジャーナリストとしての言葉は微塵もない。ただの民間企業経営者を公共放送のトップにすえてしまった。ジャーナリストでないものを経営トップにもってきたNHKの不幸がこうも簡単に露呈している。第三者委員会は職員と同時に会長を監査しなければならない」と批判しています。

 第三者委はインサイダー取引に止めず「国民の受信料で得られた報道情報を私的に利用するのは国民全体への背信行為だ」との立場を明確にしています。


地上デジタル普及遅れ消費者軽視を連発

 地上デジタル放送(地デジ)をめぐるニュースが立て続けに流れましたが、どれもが視聴者(消費者)軽視なので、本当にびっくりしました。まずは2011年7月24日に地上アナログ放送(現在、普通に見ているテレビ)を全国一斉に停止するとの、総務省方針決定です。しかし、昨年の同省調査「地デジ受信機普及率は27.8%。2011年停波も6割が認知」によると、世帯普及率は28%程度ながら実際の視聴は22%しかなく「停波についての感想は、『できればアナログ放送を続けて欲しい』がトップで43.1%(昨年度47.9%)」と出ているのです。本当なら停波延期を検討すべき時なのです。

 次は「『アナログ放送終わります』テレビ画面に常時字幕へ」です。NHKや民放各社が夏頃から、アナログ放送の画面に放送終了の字幕スーパーを流し続けるといいます。例えば映画番組を録画し後日、楽しむとしても「放送終了スーパー」は消えないのです。とっても盛り上がった場面で、震度3程度の地震情報が延々と出てきて興醒めしたことはありませんか。この夏から何を録画してもスーパー入りになる――とんでもない話だと思われませんか。

 地デジ受信機の普及が遅れている原因に、録画とコピーの制限があまりにも厳しいことが挙げられます。「コピーワンス」と表現される制限で、実際にはコピーを許しておらず、ハードディスクに最初に録画したとしたら、DVDに保存すると元のデータは消えてしまいます。途中、トラブルが発生してコピーできていなくても消えます。なおかつ地デジ・ハイビジョン画質のままでは持ち出せない制限もありました。録画とコピーが自由なアナログテレビを、現に楽しんでいる視聴者が乗り換えたいとは思いません。だから地デジ機を購入しているのに使っていない世帯が6%もあるのでしょう。

 この対策として考え出されたのが「ダビング10」でした。9回のコピーと1回の「ムーブ」(移動)を認める仕組みに変えるのです。6月2日には遂に実施とアナウンスされていたのに、「デジタル放送コピーワンス改善策『ダビング10』の運用開始が事実上延期に」となりそうです。25日の総務省情報通信審議会で委員の合意がまだ出来ていないことが示唆されました。北京オリンピックを控えて地デジ受信機売り込みのセールスポイントになるはずだったのですが……。

 地デジ・チューナ内蔵のパソコンは「2008年地上デジタルテレビ放送受信機国内出荷実績」によると累計で104万台しか出荷されていません。これもコピー制限のためで、放送業界がハイビジョン番組がコピーされて出回っては困ると考えた点が響き、防御が堅い大手メーカー製しか認めなかったのです。4月になってアイ・オー・データやバッファローなどの周辺機器メーカーが既存のパソコンに組み込めるチューナを5月に発売すると発表しました。既に予約を受け付け、まとまった台数が売れそうといいます。

 この制限緩和は、台湾製でネット購入できる、コピー制限フリーの地デジ・チューナ「Friio」に背中を押されたからでもあるでしょう。無視できない数が個人輸入として入ってきているようです。合法的に使える国産品があるのなら、消費者はそちらに向かうはずですよね。国内各社は自社製品が使えるかどうか、事前にチェックするソフトをネットに出しています。興味があって試してみましたが、1年前に新調した私のパソコンでは見られないのです。マシンパワーなどは問題ありません。20インチのディスプレイが著作権保護機能「HDCP」対応ではないことが決定的です。詳しくは「規制ガチガチ! PC用デジタルチューナーの条件を回避せよ!」などをご参照下さい。

 こんな地デジなんて、相手にするのは止めましょう。ハイビジョン映像を見たければ、例えば「JAPAN-GEOGRAPHIC.TV」から「桜の情景」の案内が来ていました。会員登録(無料)さえすれば、全国各地で取材、撮りためているハイビジョンのサクラがたっぷり楽しめます。

◆過去の関連記事です。
 無理を重ねた地上デジタルの副産物 [ブログ時評29]
 第132回「テレビ地上波デジタル化の読み違い」


『男も痩せ型』若者変貌と非正規雇用

親サイトでは、インターネットで読み解く!第158回)

 若い男性が急速に痩(や)せ型に移行している事実を伝える「若い男は体形も生活もオヤジ世代と決別 [ブログ時評84] 」を昨秋に書いてから、ずっと宿題になっていたのが急拡大している非正規雇用との関係を調べることでした。海外から見て特異な対立「太る男とやせる女」構図が終焉を迎えたのには、社会的な必然があったのか、押さえて置かねばなりません。「平成18年版 労働経済の分析」(労働経済白書)の「若年者の就業機会をめぐる問題(若年層における非正規雇用の拡大)」に「第3−(2)−2図 役員を除く雇用者に占める非正規の職員・従業員割合(非農林業)」などのデータを見つけることが出来ました。

 話の順番として、まず20代前半男性が年上世代と際立って違う痩せ型に移行したグラフを見ましょう。経済産業省の人体計測データ「size-JPN 2004-2006」調査結果についてにある「今回と前回(1992年〜1994年)の平均値グラフ」から、その一部「BMI」と「臀突囲」を切り出しました。


 「ボディマス指数」BMI値は体重(キログラム)を身長(メートル)の二乗で割った数値で、肥満・痩せの指標として使います。年上世代でほぼ増大する中、20〜24歳男性だけで急減し、女性の領域に接近しました。身長170cmを想定すると1992〜94年の数値は標準そのもので体重は64kg程度だったのに、最近では61kgまでにも落としたことになります。その結果がヒップ周りでも女性並になったのです。これと男女世代別の非正規労働者の割合変化を比べましょう。


 1990〜95年と2005年とを比べると、15〜24歳で非正規の割合が10%から30%近くに跳ね上がっています。25〜34歳も上がっていますがこれほど劇的ではありません。女性に目を転じると15〜24歳で非正規は15%前後が40%にも増え、25〜34歳でも大きな増加です。女性については年上の世代でも非正規雇用化へ大きく変わったわけです。この十年余りを安穏としていたのは、期間を通して太り続けた男性の中高年世代だけだったのです。

 もう一つ、「社会実情データ図録」から「図録▽パート・アルバイト等非正規雇用者比率(年齢別)の推移」を見てください(クリックすると別窓で開きます)。グラフの描き方が上とは違いますが、若い世代での増え方がもっとストレートに出ています。最後の数表を見ると男性15〜24歳で非正規の割合が1995年の23.6%から2005年に44.2%へ、女性の同世代で28.4%から51.5%へ――と、驚くべき数字が紹介されています。総務省にある「年齢階級,雇用形態別雇用者数」とほぼ合致した数字です。

 「太る男とやせる女」構図について、女性側は美容への意識が強すぎて痩身願望に傾いていると理解されてきました。20〜24歳男性にもその願望はあるのでしょうが、雇用の不安定化、将来への不安により生活をタイトにせざるを得ない経済的側面が大きいのではないでしょうか。翻って女性側でも経済的理由が側面にあるから中年世代まで含めてこれほど痩せ続けるのではないか、それなら納得できる気がします。以下に傍証データを集めています。

 農林中央金庫が最近、東京近郊の20代独身男女400名を対象に「『現代の独身20代の食』その実態と意識」というアンケート調査をしています。1カ月の食費は「平均は月に『36,658円』で、日に換算すると『1,222円』。エンゲル係数は30.6%」、最も高い単身男性でも1日1,471円です。全体としてつつましく、節約モードにあるのは間違いないでしょう。カロリー・ダイエットに関心がある男性は18%しかいないといいますから、やはり男性には痩せたい願望はそんなに大きくないのです。

 マクロミルが実施したインターネット調査「若者の生活意識調査 2008」も南関東の20代312人を調べています。8割が貯蓄をしており、9.6%が月平均で10万円を超えます。その目的も65%が「いざという時のために」(複数回答)を選んでいます。現状でお金に余裕がある層でも貯蓄に向かうのです。休日の過ごし方やお酒の飲み方なども控えめで、休みは車でドライブといった昔風の若者像は極めて少数派です。

 「平成18年版 労働経済の分析」の「若年者の就業機会をめぐる問題(経験を積んでも高まらない非正規従業員の年間収入)」は正規雇用では年齢が上がると収入も上がるが、非正規では変わらないか、高齢になると逆に減る姿をグラフ化しています。これほどに非正規雇用が増えた以上、それが集中している若い男性や女性の多数が、将来への不安から食まで含めて消費を控え、身構えてしまうのは当然のことでしょう。


裁判員制度実施へ最高裁意識調査の偽計

 裁判員制度が来年5月21日に実施されると報じられました。最高裁が全国規模の意識調査をして、有権者の6割は消極的な人を含めて裁判員になる意向だったことが根拠になっているそうです。信濃毎日の社説「裁判員制度 不安解消の課題はなお」が「市民の理解と関心は本当に深まったのだろうか。意識調査で参加の意向を示した人の内訳を見ると、『参加したい』『参加してもよい』と答えた人は合わせても16%にしかならない」と異議を唱えるなど、少数のメディアは疑問としています。

 詳しくは「裁判員制度に関する意識調査」結果でご覧になれます。「『参加したい』『参加してもよい』という方のほか,『義務なら参加せざるを得ない』という方まで含めると,20代〜60代の約65パーセントの方が参加意向を示していることが明らかとなりました」と主張するのですが、以下の集計グラフを見てください。選択肢が「参加したい」「参加してもよい」「あまり参加したくないが義務なら参加せざるを得ない」「義務であっても参加したくない」「わからない」の5本しかなく、3本は「参加する」結論、「参加しない」結論は1本しかないのです。このような非対称の選択肢設定は「わからない」層を中間的な答えに誘導する偽計です。二流メディアが自分の主張に説得力を持たせようと予定調和を意図する世論調査によく現れます。裁判員制度タウンミーティングでの「やらせ」多数発覚といい、最高裁が世間常識を知らないことに驚くばかりです。


 職業別に参加意向の割合をみると、比較的時間に余裕がある「学生」を除いて壊滅的ですね。専業主婦やパート・アルバイトからも拒否されている感じです。普通に職業を持つ人には「減収をどうしてくれるのだ」といった思いだってあるでしょう。最高裁は1日の日当を最高1万円とする意向のようです。弁護士さんの書く「裁判員の日当」は「報道によれば、日当を1万円以下とするという方向で検討がなされているようですが、どうしてそのような話になるのか不思議でなりません」「刑事裁判の法廷の中で、そのような低い時間単価に甘んじているのは、被告人と証人を除けば、弁護人しかいないではないですか。裁判長が1日あたり4〜5万円の給料をもらっている状況の中で、なぜ裁判員の日当が1万円以下なのでしょうか」と疑問を投げています。

 ちょっと気になったので、陪審員制が定着している米国の例を取り上げているウェブを探してみました。「皆さん、こんにちは。=ダラスの知人より(四)=」が「従業員への陪審員活動中における給与は雇用者が支払う義務はありませんが、殆どが支払っているようであり、わが社も当然支払います。(わたくしの給料は誰が払ってくれるん?)そうでないと社員は生活が出来ません。陪審員選出期間の日当は従来は$4でしたが、前回行った時は$6でした。終わりの日に小切手をもらうわけですが、ここでもまたアメリカらしいのですが、寄付するかどうか聞かれます。3日分でも$12ですから、ガソリン代、昼飯代にもなっておりません」とレポートしてくれています。

 最高裁によると「裁判員裁判の9割は5日以内に終わる」との触れ込みですが、この期間で終わらない、法廷で自白を撤回する大型否認事件に遭遇したら、どこまで続くのか誰にも分からなくなります。米国のように会社が負担する習慣がない訳ですから、日当1万円を貰っても損害が大きくて話にならないでしょう。今日の日経朝刊1面に、裁判員が受ける心の傷をケアするシステム導入の話が出ていました。死体の写真に局部の解剖写真など普通の人には無縁のグロテスクなものを見せられ、判決で死刑を言い渡しでもしたら心に引きずるものがありますよね。残り1年になってからの最高裁「泥縄」ぶりに加え、大手メディアにはジャーナリズムとして論ずるべき責任を放棄した印象があります。


映画「靖国」騒ぎ、結局は大宣伝効果に

 中国人監督のドキュメンタリー映画「靖国YASUKUNI」の上映をめぐり議論沸騰です。東京・大阪で封切り予定だった5映画館が上映中止を決めた後、メディアで非常に大きく取り上げられて新たに上映を申し込む館が現れ、5月から全国21館で上映されることになりました。最初に自民党の稲田朋美衆院議員らが芸術文化振興基金から助成金を根拠に事前に試写させたころは、新聞の社会面でもベタ記事の扱いだったのに、もの凄い宣伝効果を生んだことになります。

 「大騒ぎになればなるほど観に行きたくなるな。」が「国会議員の先生方が中国人監督のドキュメンタリー映画『靖国』に検閲かけて、けしからんなんて言ってるうちは、観に行きたいなんて思わなかったのに、日本のオピニオンリーダー宮台真司、勝谷誠彦の左翼、右翼の論客が『靖国』は良いと発言され、大物右翼の先生があれは、愛日映画だということを宮台真司氏の口から聴いて、『靖国』を観に行きたいと思うようになってしまった」「国民に見せたくないことは大騒ぎしないことです。騒げば騒ぐほど自分たちが宣伝活動してることに気がつくことが一番ですよ」と嗤っています。

 名古屋での上映に圧力を掛けた実例が「『靖国』映画五月上映中止決定 名古屋シネマテーク 」にあり、談判の結果、「靖国映画放映に関しての今日の結論は 1 五月三日からの上映予定は取りやめ、五月中は放映計画を中止する。2 支配人、社長共に靖国及び遊就館に行った事がない。よって早急に上京し、参拝及び拝観する。3 今後に関しては配給会社と相談の上検討する」としていました。しかし、3日後には「抗議したのが敗北?しないのが敗北?勝者は決まっていたのでは。ほんとの勝者とは」で「総理や文科省大臣や司法関係者が言論の自由を守れとご発表され、マスコミの格好の主張材料を提供してしまった。総じてマスコミの戦術にはまったといえるのかもしれません」と嘆いています。

 ブログの意見も上映中止そのものについては批判する意見が圧倒的に多いのですが、映画助成への批判の声を聞くのなら「後編・映画『靖国』上映中止と参院内閣委での有村議員の質問」コメント欄あたりをどうぞ。まだ映画を見ていないはずなのに、憤懣やるかたない意見が並んでいます。