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韓国新大統領のヌエ政策が早くも破綻しつつある

 9年ぶりの左派政権、韓国新大統領が同盟関係の米国と親近感を寄せる中国の間で二枚舌を使う政策は早くも暗礁に乗り上げています。保守系の朝鮮日報の社説に同盟解体から北朝鮮による赤化統一への恐れさえ見えます。ワシントンを訪れての米韓首脳会談では、北朝鮮の核ミサイルに対処するTHAAD(高高度迎撃ミサイル、サード)の配備問題は表立った議題とせず、早期配備完了を求める米国に「配備撤回はない」と誤魔化しました。サード撤回を強く求める中国主席とG20サミットでの首脳会談では環境影響評価に時間を掛けている間に解決策が出来ないかと持ちかけたものの「北朝鮮とは血盟」とはねつけられました。一部の配備が終わった現地では周辺住民がサード発電燃料油を持ち込ませないために警察車両さえ検問する「無法事態」が発生と伝えられます。政権の意向忖度無しにはあり得ず、第477回「安全になれぬ韓国、手抜き勝手の国民意識が原因」で描いた法治は見せかけだけ「人治国家」の面目躍如です。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領のこの間の外交についてルポした中央日報の9日付韓国語版《息詰まる2週間の外交舞台「外交がこんなに難しいのか知らなかった」という言葉の重さ》はこう伝えました。

 習近平主席との会談で《大統領が「環境影響評価に時間を確保し、その期間中に北朝鮮の核問題の解決策を見つけた場合はサード問題が解決されないのか」と発言した事実も確認された。これまで、大統領府が明示的に明らかにしなかった「サード解決法」である。米国では「サード撤回はない」と安心させながら、中国には「サード配置の原因を取り除いてほしい」と要求する二枚舌が明らかになった》

 サードの強力なレーダーが自らの安全保障の妨げとする中国は第550回「中国のやり過ぎ韓国いじめで反中が起きないなら」で紹介したように韓国への団体旅行を禁じ、中国内での韓国企業の営業も締め付けています。経済的打撃は大きくなっており、こうした報復措置撤回も首脳会談の大きなテーマでしたが、中国はにべもなく断りました。それどころか、団体旅行だけでなく新たに個人旅行も制限する動きすら伝えられます。干渉を許すべきでない国防問題で譲って、かえって足元を見られています。

 韓国内でもサード配備に疑問の声が大きかったのですが、最近の世論調査は57%が賛成で27%が反対と国論は固まりつつあります。そうした中で慶尚北道星州郡の基地前での住民による検問騒ぎは異様です。大きな電力を要するサードレーダーへの送電線設置が反対もあって間に合わないので発電燃料油を使っているのですが、地上からの運び込みを反対派住民が阻止しています。現在はヘリでのドラム缶空輸しか出来ず、5月の北朝鮮ミサイル発射の急場には間に合わなかったとも伝えられます。30人程度の住民の「無法行動」に対し警察は傍観しているそうです。サードを運用しているのは米軍であり、韓国軍は我関せずを決め込んでいます。

 朝鮮日報の10日付《【社説】朝鮮戦争以来最悪の危機、北朝鮮に対する幻想を捨てよ》には悲痛なトーンさえあります。

 《このような形で北朝鮮におもねれば南北による核交渉につなげられると本当に考えているのであれば、これはもはや純真というよりも危険な考え方だ。また北朝鮮も自分たちがいかなる行動を取っても、最終的には自分たちの思い通りの結果になるのだから、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の頭の中にはもはや米国との直接交渉しかなく、韓国はその交渉の場で北朝鮮が手にした単なる戦利品にすぎなくなるだろう》

 米韓同盟の解体、駐留米軍の韓国からの引き揚げが将来に見え始めたのです。米韓首脳会談で、現在は米軍が持つ戦時の指揮権を韓国軍に引き渡す話が進められ、文大統領は成果として誇りました。米軍司令官が副司令官になるだけの変更と軽く見ていますが、米軍が何万という兵士の命を他国の司令官の戦争指揮に委ねることは考えられず、少なくとも陸軍部隊の撤退は必至です。また、無礼な二枚舌を使われるのなら、米国が韓国を見放すのに配慮無用になります。


時間との競争になった韓国内の反中感情形成

 高高度迎撃ミサイル(THAAD、サード)韓国配備で中国が韓国に加えている報復が反中感情の数字として現れてきました。5月の大統領選有力候補は親中であり、反中世論が引き返せない地点まで進むか焦点化です。韓国シンクタンクの峨山政策研究院による月例調査で3月の対中好感度が大きく落ちて、釜山の慰安婦像設置問題で駐韓大使を召喚している日本以下になりました。この一方で韓国調査会社が実施のネットアンケートで、中国内では圧倒的多数の国民がサード配備を国際問題として重視していると判明しました。中国政府が行き過ぎ気味に国民を煽っており、簡単には方向転換できないでしょう。大統領選後の新政権発足時に韓国世論がどうなっているか、時間との競争になりました。


 峨山政策研究院の調査を伝えた《サード報復で対中好感度急落、日本以下に(韓国語)》のデータをグラフ化しました。10点満点の好感度は対米が最も高く、次いで対中、対日、対北朝鮮の順番が維持されてきたのに、3月は日本の「3.33」より中国が「3.21」と低くなりました。1月が対中「4.31」だったのですからまさに急落です。3月の対米は「5.71」、対北朝鮮が「2.17」でした。60歳以上が「2.72」と大きく落としたのが注目されているものの、30代も50代も日本以下でした。

 韓国聯合ニュースによる《中国人の56%「ロッテマート営業停止は誤った政策」(韓国語)》が韓国調査会社ナイスR&Cによる中国人2100人アンケート結果を報じています。《今回の調査で回答者の84.2%が中国が直面している国際問題の中で最も重要なのが、朝鮮半島へのサード配置と答えた。南シナ海の領土紛争(6.2%)、北朝鮮の核問題(5.1%)、米国の自国中心主義(4.4%)を大きく上回った》

 消防当局の査察などによる《中国政府のロッテマートの営業停止について「非常に誤った政策」(37.2%)、「誤った政策」(19.0%)など否定的な評価が56.2%を占めた》ものの《韓国観光商品の販売禁止については、「非常によくやった政策」(54.1%)、「よくやった政策」(33.1%)などの肯定的な意見が多数であった》とされました。第550回「中国のやり過ぎ韓国いじめで反中が起きないなら」で取り上げた韓国旅行禁止措置は韓国に非常に大きな経済損失を招く一方で中国の痛みは少ないと言えます。しかし、百店舗近いロッテマートの営業停止は中国の雇用・消費者の利便に響きます。

 朴前大統領の弾劾決定を受けて保守派の混乱は続き、力がある大統領選候補が見当たりません。世論調査では親中左派系への支持が上位です。新政権で配備が決まっているサードを撤回する事態になれば、北朝鮮の核ミサイルから在韓米軍が丸裸になり、70年間も韓国を守ってきた米軍の撤収に繋がるとの危機感が保守派にはあります。

 博打が好きでカモになりやすい人に対して「コケの一眠り」という言葉があります。コケにされ巻き上げられても、一眠りして起きてきたら博打の味が忘れられず、またカモにされる愚かな状態です。習近平主席による再三の反対表明を無視してメンツを潰したサード配備だとは言え、今回の中国の激しい報復が「コケの一眠り」で済まない反中感情を呼び起こしている点は間違いないでしょう。しかしSNSでウオッチしていると、韓国にはサード配備撤回の声も相当あります。朴前大統領の外交のように、米国と中国の間をどっち付かずでフラフラするのが良いと考える意見も根強くあります。第551回「グーグル翻訳の劇的進化で中韓現地情報が面白い」を参考にウオッチしていただくと良いでしょう。


中国のやり過ぎ韓国いじめで反中が起きないなら

 作用があれば反作用がある――この道理を習近平政権になってから中国が無視するようになりました。韓国観光禁止措置は4〜5百万人も中国人客数を減らしますが、売国の汚名を着てまで中国に屈するはずがありません。反日運動には熱心な韓国の人たちが近年、中国に近寄るのはある意味で不思議でした。しかし、朝鮮戦争で人民解放軍の義勇軍がほぼ韓国全土を蹂躙した事実を思い出して反中機運に目覚めざるをえないはずです。THAAD(高高度迎撃ミサイル)の配備をめぐって、中国が比較的ソフトな韓国企業締め付けをしている間は左派から配備異議を唱えやすかったでしょうが、韓国観光禁止措置の後も続ければ腰抜けとみなされます。

 報道によれば今回、中国政府が2日に口頭で伝えた禁止措置は、中国国内の旅行会社による韓国への団体旅行と個人旅行のいずれも取り扱いを禁ずるものです。個人が航空会社から直接、チケットを買う旅行は出来ます。韓国聯合ニュースによると、昨年、韓国を訪れた外国人は1720万人、この内で中国人が806万人であり、禁止措置の影響で50〜60%減ると見れば403〜483万人にも及ぶとされています。外国人向け免税店の売上だけで年間4000億円以上が失われる可能性があるそうです。

 2011年に尖閣諸島の国有化を契機に反日騒ぎが中国で起き、今回の様な日本観光禁止措置が発動されたといいます。2010年の中国人客141万人が2011年には104万人に減りましたが、今回の韓国にもたらされる影響に比べるべくもありません。第320回「中国政府主導だった反日デモと愛国教育の正体」で当時の反日デモの内幕を扱いました。2013年の習近平政権登場以前で、いびつであっても現在のゴリ押しよりは可愛らしかったものです。

 禁止措置の前日付けで左派系のハンギョレ新聞が《[コラム] 独立運動家がTHAADを見たならば》を社説に準じた扱いで掲載しています。《今や保守勢力はTHAAD配備反対を「中国の介入」フレームに追い込んで宣伝し、「THAADが本当に私たちに必要なのか」という正当な問題提起を非愛国、従北、韓米同盟破壊に追い立ててしまおうとしている。「THAADが果たして韓国の安保に必要なのか」を確かめてみる社会的議論の過程は失踪してしまった。外交・安保政策は、朝鮮半島と北東アジアの平和とより良い暮らしのためでなければならないという基本も忘却された》

 左派系の大統領候補者を含めて、こうした議論が出来る前提として、これまでの中国のTHAAD配備での企業嫌がらせは安全保障問題への国民感情の発露との建前を取ってきました。THAADに基地用地を提供するロッテの商品は買いたくない国民感情があると言ってきました。しかし、韓国観光禁止措置は「外部に漏らすな」と旅行会社に口止めしたとは言え、中国政府が前面に出ました。隠然とした嫌がらせとは次元が違い、国と国の対決になります。トウ小平が唱えた「爪を隠して時期を待つ」外交態度から逸脱しています。

 保守系の朝鮮日報は《THAAD:中国政府が「観光報復」、団体客の韓国渡航を全面禁止》で《観光業界関係者は「特定国に対する観光禁止措置は尖閣諸島の領有権紛争当時の日本、反中傾向の蔡英文政権が発足した台湾に対して下されたレベルの措置だ」と述べた。中国がTHAAD配備に対する報復のレベルを一気に引き上げた格好だ》と伝えています。これで反中にならないなら清朝時代の朝貢国に自らを貶める愚行です。


英EU強硬離脱は議会阻止可能、米新政権は暴れ馬

 年明け早々、トランプ政権に移行の米国とEU強硬離脱表明の英国から大騒がせですが、全く違う先行きと考えるべきです。英国の無茶は議会に阻止させる伏線であり、米国のは無謀無展望の波乱時代幕開けと言うべきです。トランプ大統領が就任する前の発言は諸外国からは本意かどうか不明、あるいは手加減して受け止められていて、米国内外の自動車メーカーのトランプ発言への順応は商い人ゆえの過剰反応です。一方、英国のメイ首相表明は名分が立ってとても格好が良い半面、実行は無理です。首相が離脱には議会の承認を求めるとしただけでポンド急騰を生み出しました。

 昨年の第533回「永遠に言い出せぬEU離脱通告、現状凍結しかない英」で指摘したように、マイルドな離脱になるよう条件面で厄介な交渉をして2年の交渉期限を超えて破談になり、英国が裸でEUから放り出されるのが最も深刻な結果を生みます。日経新聞の《「開かれた英国」守れるか EUから強硬離脱へ》が伝えるように、《正味の交渉期間は1年半ほど。EU側の交渉責任者、欧州委員会のバルニエ首席交渉官は英側との最終合意の目標を「18年10月」としている。EUと英国の双方の議会の承認手続きに半年程度はかかるためだ》としたら、すっきり強硬離脱が良いのです。

 国民投票でEU離脱判断した民意に沿えますし、強硬離脱では例えば貿易協定を世界各国と離脱後に結び直さねばならず、金融機関が英国で許可を取ればEU域内で自由に営業できる制度が利用できなくなるなど経済的な打撃があまりに大きすぎると考える議会が実際には阻止してくれます。

 一方のトランプ氏、新政権の閣僚が米国議会の承認を得るために公聴会で述べている発言とはかけ離れたトーンでツイートしまくっています。20日の就任式以降はアメリカ大統領としての発言になるのに数日間で軟着陸できるのか疑問です。先日の記者会見を契機に大統領選挙からのマスメディアとの戦争が再開されましたし、自分の商売への外国からの利益供与が疑惑にならないか、ガードは著しく甘いと報じられています。


国にも原発事故責任、無原則な東電救済を許すな

 福島原発事故の対処費用が21.5兆円にも膨れ上がり、その7割は東京電力が負担する絵空事が閣議決定されました。疑問符を付けるしか能がない日本のメディアは、国にも原発事故責任がある事実を忘れたようです。事故後に東電が全ての費用負担をする枠組みが造られて国の責任が隠されました。今回も仕切りをしている経済産業省こそ無能な規制機関だった原子力安全・保安院を抱えていた「原発事故の戦犯」です。既に除染に直接の税金投入が始まり、将来は東電負担分が国民負担に転嫁されるのが必至なのに、「福島原発事故の責任は誰にも取らせない」との原子力ムラの総意が貫徹されている現実をマスメディアは看破すべきです。社会の木鐸として役に立たないこと夥しいと申し上げます。

 20日に出された東京電力改革・1F問題委員会の《東電改革提言(案)》から引用した資金繰り図です。総額22兆円あって閣議決定の21.5兆円が違うのは、除染に含まれている国負担の中間貯蔵施設費2兆円を1.6兆円に減額、さらに賠償金も7.9兆円に圧縮したからです。《廃炉は東京電力の改革努力で対応し》《賠償は、原発事故への対応に関する制度不備を反省しつつ、託送制度を活用した備え不足分の回収はするものの、託送料金の合理化等を同時に実施し、新電力への安価な電力提供を行う》《除染・中間貯蔵は、東京電力株式の売却益の拡大と国の予算措置によって対応する、ことから、今回の対応を全体で見れば、総じて電力料金の値上げとならない》と苦しい言い訳が付いています。

 東電負担15.9兆円が実現できると真面目に考えている官僚がいるとは思えません。除染の4兆円は政府が買った東電株1兆円を大幅に高く売れると想定したものだし、廃炉の8兆円は東電の事業合理化で生み出す「打ち出の小槌」があるとの説明になっています。出来ないことが目に見えており、将来、国民負担に転嫁されるでしょう。

 9月の第541回「東電破綻を救済なら福島原発事故の責任を明確に」でこう主張した全体状況は変わりません。

 《確かに事故は東電が起こしましたが、安全審査をして運転にゴーサインを出し、日常的にも運転・訓練の監督をしていたのは国です。また、事故後1年で書いた第300回「福島事故責任は誰にあるか、判明事実から究明」で具体的に挙げただけでも、するべきことさえしていれば事故の進展が食い止められる可能性がありました。その後、論点は増えています。誰にも責任を取らせないのが政府から原子力学会まで原子力ムラの総意でしたが、何兆円も新たに国民が持つなら国にも大きな責任があったと認めるべきです。それなら国民も理解するでしょうし、では過失の責任者は誰だったかが当然、問われます》

 ところが、メディアの反応が奇妙です。政府擁護が使命になっている読売新聞は《【社説】原発事故処理費 東電改革の実行力が問われる》で「未曽有の事故を完全に収束させるためには、資金の手当てなどで持続可能な仕組みとすることが何より重要だ」「有識者会議が指摘した改革の方向性は妥当である」と全く問題が無いとする姿勢です。

 朝日新聞は《東電へ3度目救済策 閣議決定》で《数千億円かかると見られる帰還困難区域の除染は「例外」だ。「まちづくり」の名目で復興予算を投じ、汚染者負担の原則を適用せず、東電に負担を求めない。山本公一環境相は20日、「避難された方の強い思いを受け止めての決定だ」と述べた。賠償でも、今回の新電力を巻き込んだ負担発生で、加害者が「無限」に責任を負う大原則は明確に崩れた。原発事故から来年で6年。責任の所在は、あいまいになるばかりだ》と憂うだけです。

 辛うじて毎日新聞が《帰還困難区域 除染に国費300億円投入…来年度予算計上》で《大阪市立大の除本理史(よけもと・まさふみ)教授(環境政策論)は「東電が負担すべき費用を国が肩代わりするのなら、国は原発事故の責任を認め、政策の転換や事故の検証を進めた上でないと理屈が通らない」と指摘する》との識者談話を盛り込んでいます。

 東電がもう負担に耐えられないとギブアップして始まった議論が、形だけさらに大きな負担を負わせて決着する――ジャーナリズムがこんな虚偽虚飾に加担してはいけません。正面から国の政策が行き詰まった点を問い質し、国の福島原発事故責任を明確にするよう求めるのがマスメディアの仕事です。


大統領弾劾、韓国メディアは権力監視失敗に責任を

 朴槿恵(パク・クネ)大統領と崔順実(チェ・スンシル)友人による国政壟断で弾劾が発動されました。しかし、報じる韓国メディアの他人事ぶりに目を覆いたくなります。権力監視に失敗したメディアの責任こそ問われるべきです。報道に《チェ・スンシルがこの国の大統領だった》《秘書室長にも会わずに政権を運営していた朴大統領》と恐るべき見出しが掲げられていますが、この4年、大統領を身近で取材して何も見えなかった、嗅ぎつけられなかった、おのれの不明を恥じる姿勢がありません。セウォル号事故をめぐって『沈没報道の韓国メディア、海洋警察の劣悪さ無視』[BM時評] で批判したのが想起されます。韓国メディアには大きな欠陥がありそうです。

 ハンギョレ新聞の《チェ・スンシルがこの国の大統領だった》は《2014年チョン・ユンフェ文書流出事件当時、パク・グヮンチョン元警正は検察で「我が国の権力序列はチェ・スンシルが1位、チョン・ユンフェが2位、朴大統領は3位に過ぎない」と供述した。検察関係者は「(少なくとも)チェ氏が1位というのは当たっている」として、「チェ氏が事実上の大統領だった。国家を運営していた」とまで話した》と伝えました。過去に感じ取るべき兆候はあったのに自らは何もしなかったと告白しているだけです。

 朝鮮日報の《【社説】秘書室長にも会わずに政権を運営していた朴大統領》の憤慨も虚しい気がします。

 《金淇春(キム・ギチュン)元大統領秘書室長は7日に行われた国会での聴聞会(証人喚問)で、朴槿恵(パク・クンヘ)大統領への業務報告について「必要なときは週に2回やっていた。週に1回も顔を見ないこともあった」と証言した》《国民が抱く大統領の1日の生活のイメージは、朝一番は本館の執務室で秘書室長から報告を受けて始まるというものではないだろうか。朴大統領以外の全ての大統領は実際にそうしてきた。9年3カ月にわたり故・朴正熙(パク・チョンヒ)大統領の秘書室長を務めた金正濂(キム・ジョンリョム)氏によると、在任中は毎朝金氏が主席秘書官会議を開催し、朴正熙大統領が登庁するとその内容を直ちに口頭で報告していたという。ところが今の朴大統領在任中にこの常識は覆されたのだ》

 政治の中枢から遠い庶民が嘆くなら理解出来ます。市民社会で権力監視を任務にしている大手メディアが嘆くなら「愚か者」と呼ぶしかありません。私も元新聞記者として、政権がどう運営されているのか、関心を持たなかったのか、問いただしたくなります。細部への関心から重大な問題が掘り起こされることがしばしばあるのです。

 韓国の国民には他人に法を守れと要求しても自分の行動は勝手とする傾向があると指摘したのが第477回「安全になれぬ韓国、手抜き勝手の国民意識が原因」 でした。大統領弾劾を「名誉革命」とか「市民革命」とか韓国では盛り上がっていますが、海外メディアで同調して評価するところはありません。歴代の大統領周辺で繰り返される腐敗を根絶するには、国民もメディアも法治国家として整然と自らの務めを果たす当たり前の状態にならねばなりません。


東電破綻を救済なら福島原発事故の責任を明確に

 経済産業省が「東京電力改革・1F問題委員会」を立ち上げ、事実上破綻している東電の救済に乗り出しました。東電が事故のツケを全て払うから、誰にも事故の責任を取らせず済ませた責任所在が再浮上せざるを得ません。政府の狙いは責任あやふやな現状を変えずに何兆円もの資金を用立てる「妙案」をひねり出すことでしょう。《東電の経営改革 有識者の委員会で検討開始へ》と報じたNHKなどメディアの多くは事態の本質を覆い隠す政府に同調する動きですが、先月の第536回「東電資金破綻の現実を認めぬ政府と既成メディア」で指摘したように、もともとの枠組みが間違っており、電気料金しか収入がない東電が全て払う虚構を維持できなくなっただけなのです。

 経済産業省の《東京電力改革・1F問題委員会(東電委員会)の設置について》は回りくどい言い方しか出来ません。

 《原発事故に伴う費用が増大する中、福島復興と事故収束への責任を果たすため、東京電力はいかなる経営改革をすべきか。原子力の社会的信頼を取り戻すため、事故を起こした東京電力はいかなる経営改革をすべきか。自由化の下で需要の構造的縮小が続く中、世界レベルの生産性水準を達成し、福島復興と国民への還元につなげるため、東京電力はいかなる経営改革をすべきか》

 《これらの課題への回答について、福島県の方々が安心し、国民が納得し、昼夜問わず第一線を支え続ける「現場」が気概を持って働ける解を見つけなければなりません。東電改革の姿は、電力産業の将来を示し、この改革とパッケージで整備する国の制度改革は、被災者救済と事故炉廃炉促進のための制度となります。東電改革は、福島復興、原子力事業、原子力政策の根幹的課題です》

 しかし、10日ほど前にテレビ朝日が暴露していました。《“国民負担”8兆円超を検討 原発の廃炉・賠償で》はこう伝えました。

 《政府は、原発の廃炉費用などのために新た 8兆円余りという莫大(ばくだい)な費用を利用者に負担させる形で調整に入ったことが分かりました。そのうち、福島第一原発の廃炉に4兆円、賠償に3兆円。また、今後、原発の廃炉費用が足りなくなるとして1.3兆円を充てるとしています》

 これが「東京電力改革」の内実なのです。利用者に負担とは主に電気料金を上げる方法であり、広く国民負担になるしかありません。

 確かに事故は東電が起こしましたが、安全審査をして運転にゴーサインを出し、日常的にも運転・訓練の監督をしていたのは国です。また、事故後1年で書いた第300回「福島事故責任は誰にあるか、判明事実から究明」で具体的に挙げただけでも、するべきことさえしていれば事故の進展が食い止められる可能性がありました。その後、論点は増えています。誰にも責任を取らせないのが政府から原子力学会まで原子力ムラの総意でしたが、何兆円も新たに国民が持つなら国にも大きな責任があったと認めるべきです。それなら国民も理解するでしょうし、では過失の責任者は誰だったかが当然、問われます。


もんじゅ廃炉より決定的な核燃再処理工場の迷走

 高速増殖炉もんじゅは年内に廃炉決定の見通しとメディアが報じています。それでも核燃料サイクル政策は維持だと伝えられますが、六ケ所村の再処理工場が新規制基準適合審査で迷路にハマった現実が見えないようです。2015年11月に完工時期を2018年度上期に延期し、2年前に当たる来月には日本原燃から原子力規制委に重大事故の想定や安全対策の説明を終えるつもりだったのに見通しは立っていません。普通ならば事業者の説明に対して規制委側から突っ込みがあり、施設の改善や追加が生じるのですが、審査の流れを見ていると規制委が求める技術レベルに原燃側が達していない感があります。国策会社として大甘に遇されてきたツケが噴出です。

 重大事故時には核爆発に至りかねないほど危険と主張してきたのですから、もんじゅ(福井・敦賀)にケリが付く点は歓迎します。しかし、廃炉にしてもMOX燃料としてプルトニウムを燃やすとか、新しい高速炉を開発するから構わないと伝えられる政府の議論はサイクル政策維持には枝葉末節です。再処理工場の23回目の完工延期が決まる直前に書いた第504回「核燃サイクルは破綻目前、国策に責任者なし」で新規制基準適合審査の「日暮れて道遠し」ぶりを指摘しました。その後はどうなっているでしょうか。

 8月29日の第142回核燃料施設等の新規制基準適合性に係る審査会合での議事録が公開されています。2カ月間も審査を中断して準備をやり直しており、冒頭に原燃側から「本来、申請書に基づいて審査をいただくところ、検討が終了していることを条件に、申請書でお約束する内容を資料に記載し、それに沿って審査をいただいているにもかかわらず、お約束した事項を検討の進捗に応じて変更するなど、本来のお約束に沿っていない対応をしてしまったことに対しても指摘をいただきました。大変申し訳ございませんでした」とお詫びがあります。

 規制委に突っ込まれたらズルズルと対応策を変更し、また突っ込まれて変更を繰り返す審査過程がよく現れています。「10月中には何とか説明を終了させていただきまして」と述べてもいますが、規制委は「スケジュールありきということではなくて、厳正に審査を行っていくということでございますので、もし、審査会合を頻度高くやりたいということであれば、それにできる限り沿うように我々としてはやっていくつもりではありますけれども、会合を開いても中身がないということでは困るので、しっかりと中身のほうも詰めていただいて持ってきていただくということをしないと、御希望のスケジュールどおりにはいかないということになるかと思います」と甘い対応はしないと言明しています。

 この適合審査は原発に課した安全対策に準じた厳しいものです。審査会合のたびに参考資料《再処理施設 前回までの審査会合における主な論点と対応について》が提出されており、これまでウオッチしていると規制委が指摘の論点項目は増えるばかりです。一応は対応ができた項目は色付けされているものの未対応な白地の項目が多数残っています。今回の議事録でも原燃側が対応策を出すと、それに対する突っ込みがあって、また課題が残る悪循環に陥っています。

 廃炉にしたら終了のもんじゅよりも大変な状況なのです。核燃サイクルにとって再処理工場こそが根幹であるのに、大本営発表型の報道に堕してしまった在京メディアには見えていません。


急拡大する中国ロボット産業は脅威か実態探る

 中国は世界最大の産業用ロボット市場になり、国をあげてロボット産業を育成し千社もメーカーが出来ました。独ロボット大手クーカの買収にも手を出す急拡大ぶりが脅威になるか、最近続く報道から実態を探ってみます。2015年に世界の産業用ロボット市場で売られたのは24万8000台、この内、6万7000台が中国に導入されています。中国が世界一の市場になったのは2013年からであり、2018年には15万台と2倍以上になると予測されています。世界産業用ロボット市場の推移と2015年の各国シェアをグラフで見ましょう。


 今世紀に入ってしばらく停滞していたのに2011年から世界市場が急拡大しています。2011-2012年は日米が引っ張ったのに対して2013年からは中国が躍り出ました。2015年で中国が27%を占め、今後はさらに大きな市場になっていきます。

 しかし、2015年に導入された中国のロボットは海外製品が圧倒的でした。サーチナ《中国の産業用ロボット市場は世界最大、だが市場は外資メーカーのもの》がこう伝えました。

 《15年の中国の産業用ロボット市場におけるシェアは、日本のファナックが18%、ドイツのクーカが14%、スウェーデンのABBが13.5%、安川電機が12%、中国を除くその他のメーカーが合わせて34.5%であり、中国メーカーのシェアは合計でも8%に過ぎない》

 アップルからiPhone組み立てを請け負うフォックスコンが単純労働による人海戦術で増産を凌いだ結果、多数の自殺者を出した悲劇は記憶に残っています。そのフォックスコンが従業員11万人が働く崑山工場で6万人を何千台もの産業ロボットで置き換えると5月に発表しています。製品の質を安定させるためにも、また生産年齢人口が頭を打ち減少期に入った人手不足対策としても活用され始めたのです。

 しかし、全体では好意的に見ているウォールストリートジャーナル《【寄稿】到来する中国のロボット革命 成長力と競争力に貢献か》の記述を見ても、現在のロボット導入が初歩的な段階にある点は明瞭です。

 《中国がロボット革命を支持したのは遅かった。中国では製造業労働者1万人当たりロボット台数は依然としてわずか36台だ。これに対し日本では、1万人当たり315台、韓国では同478台だ。しかし中国はこの差を縮めるべく大胆に動いている。中国政府は労働者1万人に対するロボット台数を2020年までに100台以上に引き上げる目標を設定した》

 昨年の第481回「中国の夢、技術強国化は構造的に阻まれている」で指摘したように、中国の自主ブランド自動車メーカーの多くが自前のエンジンを生産できません。ロボットで言えば、力を伝え動きを制御する高度な減速機を造れていません。形にならないアフターサービスにお金を払わない国民性も大きな妨げになるでしょう。それにもかかわらず40ものロボット工業団地が地方で相互に連絡もなく作られ、バラバラに動き出しています。中国自身には世界と戦える技術はありません。

 そんな中で中国家電大手の美的集団が今月、大手ロボットメーカー、独クーカへの株式公開買い付けで94.55%の株を獲得したのは衝撃的でした。美的集団は本社としてクーカに干渉せず、独占禁止法に関する審査を経て来年3月にも買収完了の意向だといいますが、ニューズウィーク《中国美的の独クーカ買収、自由貿易派メルケル首相のジレンマに》が伝える大問題が残っています。ドイツ政府が強力に進めたい「インダストリー4.0(第4次産業革命)」の鍵になる企業だからです。

 《ドイツは自由貿易を掲げているものの、国内の一部ビジネスリーダーは、美的によるクーカ買収計画が「インダストリー4.0」を推し進める国の努力に水を差すのではないか、と懸念している。独IT業界のある幹部は匿名を条件に、クーカの技術が「インダストリー4.0」の中核であるにもかかわらず、もっと大きな騒動になっていないことに驚いていると語った》

 例えば日本大手のファナックを中国が買収となれば黙って見過ごされるとは考えにくいと断言できます。ドイツの対外貿易法には戦略的に重要な企業を保護するための拒否権があり、今は沈黙しているメルケル政権がどう出るかは分かりません。


東電資金破綻の現実を認めぬ政府と既成メディア

 もはや電気料金しか収入が無い東電が廃炉に掛かる何兆円もの追加負担を電気料金に転嫁しないで実現する不思議な記事が日経新聞に出ました。経済産業省の言い分をそのまま書いたとは言え経済紙として杜撰に過ぎます。福島原発事故の後始末は絶望的になっており、炉心溶融した原発の石棺化が言われ始めたり、原発建屋への地下水流入を遮断する周囲1.5キロの凍土壁は完全凍結が困難になったりしています。これには福島の地元から猛反発が出ているものの、収拾費用全体に関わる負担構図が破綻している現実を国民に知らせるべきです。ところが日経に限らず在京の既成メディア各社は見て見ぬふりをするばかりです。

 7月末の記者会見で東電の数土文夫会長が廃炉に関して政府に支援を求める考えを表明しました。これまでに資金の目処を付けている2兆円程度ではとても収まらない状況が見えて来て「経営に与えるインパクトが大」と経営者として放おっておけないと考えたからでしょう。

 これに対する続報として日経新聞が《福島廃炉、公的基金で支援 東電が長期で返済 経産省検討》を掲載しました。

 《経済産業省は東京電力福島第1原子力発電所の廃炉に向けた新たな支援措置の検討に入った。原子力損害賠償・廃炉等支援機構に公的な基金をつくり、廃炉費用を一時的に援助。東京電力ホールディングス(HD)の事業者負担を原則に、長期間かけて国に資金を返す。結果的に電気料金に転嫁されないよう東電HDには徹底した経営改革を求める》

 《福島第1原発は2011年3月の東日本大震災に伴う事故で、1〜3号機の炉心溶融(メルトダウン)が発生した。溶け落ちた核燃料の取り出しなど廃炉の完了には、数十年にわたる時間と数兆円規模に上る資金が必要とされる。ただ、東電HDがこれまで資金手当てのメドをつけたのは約2兆円にとどまり、会計上も約2500億円分しか処理が済んでいない》

 廃炉費用ばかりではありません。立て替えられている巨額な除染費用だって東電に請求されています。賠償も続いています。電気料金には転嫁しない、経営改革で長期的に返済――とキレイ事が言われますが、原発事故後に資産の総整理をして吐き出した東電のどこに何兆円ものお金を生み出す余力があるのでしょうか。

 2012年に作られた東電ひとりが責任を負って費用を負担する建前を見直すべきです。当時書いた第329回「国の巨額支援でなく東電の国有化と電力改革を」でこう指摘しました。

 《もともとの枠組みが間違っています。政府は福島原発事故の収束と廃炉を東電の責任とし、発生した除染費用も立て替えた後で東電に請求するとしています。事業者責任を問う法律の建前と東電前経営陣の企業存続希望によって現在の枠組みが出来ました。しかし、1兆円を投入した「実質国有化」後、百日を経過して第三者が冷静に見れば、全く展望が無いと知ったに過ぎません。東電がこうした費用を負担し続けるならば、原資は東電管内の電気料金です。東電管内だけが止めどなく高い電気料金になっていき、国内経済が歪みます》

 原発事故を起こしたのは東電ですが、原発の安全審査をして運転にゴーサインを出したのは国です。東電だけでなく国にも大きな責任があったのに誰も原発事故の責任を取らないで済ませてしまいました。責任を取らないから費用負担も無くなりました。東電ひとりで巨額負担に耐えるという虚構には最早無理があるので、国民負担せざるを得ない部分を明確にするべきです。既に9兆円の無利子資金枠は使い果たしつつあり、10兆円かそれ以上にもなろうと考えられます。はっきりさせると国の責任を問われ、脱原発への道筋になるから政府は隠しているのです。


低い投票率続きでは自公政権を揺さぶれない

 参院選で民主党から党名を変えた民進に多少は復調の気配は見えましたが、自公政権に揺るぎはありません。政権交代があった2009年総選挙から国政選を並べると投票率の低下が著しく変動を起こす票が足りないのです。現政権への評価が高いのではなく、政権交代しても、ほとんど業績をあげられなかった民主党政権への失望がまだまだ尾を引いています。


 NHK調査の政党支持率と比例区での党派得票率を対比して、2009総選挙から2010参院選、2012総選挙、2013参院選、2016参院選と並べました。政党支持で目につくのは今回、無党派層が44.2%とかつて無い多さになっている点です。改憲の自民から離れる層があり、民進は民主の時代からの低迷を脱せず、維新の分裂もあって行き場がない無党派層が膨張しました。

 党派別得票率では自民35.9%・公明13.5%が3年前と変わらぬ強さを見せます。一方、民進が21.0%と前回13.8%のどん底を脱して上向き、共産は10.7%と国政選で着実に積み上げています。政党支持率以上の票積み上げに政権批判のトーンが読み取れます。

 朝日新聞の《参院選、「野党に魅力なかった」71% 朝日世論調査》は選挙結果について2択で質問し、《「安倍首相の政策が評価されたから」は15%で、「野党に魅力がなかったから」が71%に及んだ》と伝えました。この2択が適切か議論があるでしょうが、低投票率は説明されています。

 東京での復調を開票途中に『参院選速報、東京では民進党が自民党を逆転か』で伝えましたが、結局、東京の比例区得票率は自民34.4%に対して民進19.8%に終わりました。個人票で蓮舫候補の人気が高かった結果になっています。

1年半前に第461回「IMFは『失われた30年』認定、首相の強気は虚構」で紹介したようにアベノミクスは国際的には虚構に近いものです。最近の経済変動以前に馬脚は現れていました。しかし、そのアベノミクスに代わる経済政策を打ち出せない野党ではどうにもなりません。マスメディアも小手先の批判をするばかりでなく、本格的な政策提言が出来る体質に進まねばなりません。

 軍事力を捨てた戦後の日本が歩んできた科学技術立国の歩みが崩壊しつつあるのは第500回「大学ランク退潮は文科省が招いた研究低迷から」など一連の検証記事で明白にしました。この十年、知的な営みを象徴する論文数が減少し、人口当たりで見れば東欧の小国にも抜かれてどうするのかです。トップクラス大学だけ育てれば世界に勝てる――自公政権の恐るべき錯誤をマスメディアはきちんと批判できません。


参院選速報、東京では民進党が自民党を逆転か

 参院選の大勝に酔う自民党に冷水が浴びせられるかもしれません。有権者の1割がいる首都・東京でこれまでの国政選挙とはトーンが変わったのです。民主党から変わった民進党が自民を逆転したと考えられ速報します。全国区の集計には時間が掛かりますが、東京選挙区の候補者別得票を開票率99.07%の段階で主要党派別に合計して、過去の国政選での比例区党派別得票数と比較するグラフにしてみました。


 自民から民主へ政権交代があった2009年総選挙から2010年参院選、自民・公明に政権に戻る2012年総選挙、続く2013年参院選、それに今回の参院選候補者別得票計を比べています。2009総選挙での圧勝の後、民主党の東京での得票は下がり続け、2013参院選に至っては公明・共産・維新・みんなの党にも及ばぬ惨憺たる水準に落ち込みました。しかし、維新がかつての勢いを失くし、みんなの党が消える状況の中で変化が起きました。

 民進党代表代行で個人的な人気がある蓮舫候補がいるとはいえ、前回の東京選挙区で民主党候補2人を共倒れさせた状況とは明らかに違います。自民の2候補の合計票「1518043」を民進2候補の合計票「1627087」が上回っています。自民は選挙のたびに1524848全国的に議席数は伸ばしているのですが、実際の得票数はさして伸びておらず、今回は東京で減少に転じたようです。

 今回の参院選を改憲の是非、衆参「3分の2」と強引に結びつけるマスメディアの報道姿勢は私には違和感があるところです。改憲の手続きや党の姿勢には随分と差があります。有権者の反応は民進の復調に向かうとともに、得票数を増やしている与党の公明党にも改憲を阻む「平和の党」としての役割を付託しているように見えます。

 全国での状況は開票が全て終わってから試みますが、民進党の前途はそれでも楽観できません。2011年初、3月の東日本大震災の前に「『新政権を育てるのに失敗』年賀状での心配事」で警鐘を鳴らしました。《政権発足から1年以上を経過して、きちんとした政策ブレーンを形成できない民主党は叱責されるべきですが、既成メディアも自民党政権時代と違って政権批判ばかりでは駄目なことを知るべきでした》

 政権に就いたのに官僚を敵視するばかりで、官僚の使い方を知らない状況、政策ブレーンの形成不足はさほど改善されていないのではないでしょうか。安倍政権の暴走を止めるには心もとない限りです。マスメディアが政権の飼い犬化され、なすべき仕事をしていない現状では、2011年賀状の危惧は続いています。


永遠に言い出せぬEU離脱通告、現状凍結しかない英

 英国の国民投票でEU離脱が多数になったのはベルリンの壁崩壊に匹敵する衝撃を世界に与え経済激震かとも思わせたのですが、伝えられる情報を集約するとEU離脱通告は英首相が誰でも永遠に言い出せぬと考えられます。EU離脱派が離脱手順をきちんと考えていなかった杜撰さが明らかになっていますし「公約」が投票後に撤回されるなどボロボロです。スコットランドの独立、EUへの残留なども取り沙汰されているものの英国本体が動けないなら余波もあり得ません。離脱成立を前提にした各種の論説・予測は無意味になるでしょう。

 離脱派の中心人物でカリスマ的人気を誇るジョンソン前ロンドン市長が、キャメロン首相の後継を選ぶ保守党の党首選で6月末の登録締め切り直前に出馬を見送りを表明しました。党首選で残留派を中心に支持を集めているメイ内相は離脱派議員などでEUとの交渉を担う専門の省を作り交渉の準備を進めるとしていますが、これでは肩透かしもいいところです。

 EU離脱を実行したいのなら1972年のEU参加を決めた法律を変えるのが最初のハードルです。現状では英国下院の3分の2を残留派議員が占めると言われており、個々の議員は自分の政治的信条に則ればよく国民投票の結果に縛られていませんから、そもそもの出発点から危うい所です。

 さらにもしEUとの交渉は始めてしまえば2年でケリは付かないのは明白です。既にEU側から「英国はEU域内労働者の移動の自由を認める場合に限り、単一市場に参入することができる」とする強硬な声明が発表されており、英国国民投票の建前からは受け入れられません。交渉が難航するなら延長もありえますが、EU加盟27カ国の内で1国でも反対なら不可能です。交渉を始めてしまえば包括的な貿易協定なしにEUから追い出される結果が見えているのに、誰が英首相でもEU離脱通告は出来ないでしょう。

 国民投票で結果が出たのに従わないのは民主主義の否定とも言われますが、EUから裸で放り出された場合に生じる国民が受ける巨大な損失を前にEU離脱通告を急かす世論は形成されないでしょう。総選挙も再度の国民投票も難しいなら現状凍結しかないとい言わざるを得ません。宙ぶらりんが続くのは困ると言われても決めようがありません。

 30日付のフィナンシャル・タイムズの《英離脱、最善策は何もしないこと》は《現時点で最善の策は何もしないことだ。英国は、自らが望むものを考え抜いて決めなければならない。EUは移動の自由が果たして不可侵なのかどうか考えなければならない。英国は50条を発動するのを避けるべきだ。発動したら英国は影響力を失い、恐らくさらなる貿易協定がないまま2年以内にEUから追い出される》と主張しています。

 今回の国民投票の経緯を見ていると、問題とされたEUへの分担金と見返りの恩恵への精査や、移民問題での検証があまりにも杜撰に過ぎます。EUに加盟しているから生じている問題と大英帝国時代から引きずっている問題の切り分けも出来ていません。英国のマスメディアが読者・視聴者に果たすべき役割を怠ったと申し上げて良いでしょう。


独裁志向は挫折するか、習政権の変調があちこち

 中国共産党と国家、軍の実権を一身に集めて独裁志向を強めている習近平主席に、スーパーマンぶりは無理と示す変調が伝えられています。経済が右肩上がりの成長期でなくなった今、独裁で万事さばくのは不可能です。ウォールストリートジャーナルの《中国、エコノミストの経済見通しにも圧力》は《政府当局は、経済についての公的な発言が政府の楽観的な声明とずれているコメンテーターたちに口頭での警告を発してきた》と報じています。さらには下がり続ける株価に苛立って主要証券会社などに株の売買を頻繁にしないように指令するなど、無理無茶を言わなければならなくなっています。


 上海株式総合指標の過去1年間チャートをヤフーファイナンスから引用しました。昨年6月の大暴落から何度もテコ入れをしても結局は下がり続け、当面の落とし所と目論んでいると言われる「3000」をも割り込んでいます。昨年7月の第490回「中国の無謀な株式市場介入に海外批判止まず」で指摘したように「市場に任せるしか無い」のに、全く逆方向に介入と統制一辺倒で進んできた結果です。

 国家主席が一人で笛を吹いていてもどうにもならないと示すのがダイヤモンドオンラインの《中国の公務員にサボり、無責任、非効率が横行する訳》です。商標登録証用の用紙がずっと届かないから国家商標局が業務を停止していたと言います。

 《国家商標局が7ヵ月間で一度も商標登録証を発行していないため、多くの企業がビジネスチャンスを失い、重大な損失を被っている》《商標局の用紙切れは去年8月からだが、今年1月になってようやく商標局は用紙サプライヤーの入札募集を行った。この4ヵ月以上にわたる空白期間について、政府からは何の説明もない》

 日経新聞の《中国版AKB、文革賛歌で“詐欺”騒動》が伝えた少女アイドルグループが「毛・習」礼賛を歌った騒ぎにも注目です。毛沢東が発動した文化大革命の惨状を経験した中国共産党は、二度と個人崇拝に陥らないよう集団指導体制を守ってきました。個人崇拝に踏み込もうとしているかのような習主席に「褒め殺し」を仕掛けた形跡が匂います。

 中国の財政相の懸念を伝える《エリート幹部も懸念する「中所得国の罠」》は経済実務家の問題意識が習主席指向の強権体制とかけ離れていると示しています。

 《楼財政部長が提起したのは、中国は今後5年から10年にわたって「中所得国の罠」からの脱却について真剣に考えざるをえない、という点である。しかも彼は、中国がその罠に陥る可能性は五分五分だとまで述べる。罠に陥らないためには労働市場を再び柔軟なものにし、知的財産権を保護し、土地の流動性や開放的な経済体制をとるべきだと言う》《楼部長はスピーチの最後に、2020年までの間にこうした任務が完了できなければ、「中所得国の罠」を乗り越えることはできない、と結んだ。そして感想として、債務が過大であること、もうひとつは、いまや社会の安定と改革の進捗とのバランスがきわめて苛酷な現実として浮き出ているとの認識を付け加える》

 1年前に読んだ《コラム:中国の習近平氏「独裁」阻む3つの壁》を思い出しました。《第1に、中国経済の構造的欠陥が足かせとなっている》《第2に、習氏の政治的地位は、見掛けほど強力ではない》とし《中国の社会構造や経済構造のシステム的な欠陥を考慮すれば、習氏が国家を動かしているのと同じぐらい、習氏が社会に動かされていることは明らかだ。もし習氏が党のルールと社会の安定を保ちたいなら、これらの問題すべてに対処しなくてはならない》と結びます。

 巨大になった中国こそ「神の見えざる手」に任せるべきであり、その市場を機能させるには自由な情報流通、言論の自由が不可欠です。しかし、第515回「中国の異様な言論統制、安全弁も根こそぎ圧殺」で示したように習近平政権になってからの4年間は全く逆行してきました。


中国の新5カ年計画は韓流ドラマ並み虚飾願望

 2020年までの中国の歩みを決める新5カ年計画と関連報道を注視していると、色とりどりに飾っても現実感が皆無な韓流ドラマを見ているようです。エネルギー消費動向からは経済発展が曲がり角にある事実が隠せません。中国の二酸化炭素排出量は2014年がピークで2015年には減少に転じたと分析されているのに、「年6.5%の経済成長を続ける以上、増え続ける」と全人代で説明されています。イノベーションを起こして製造業を強化するとお題目を唱えても、現実に中国発の製品やサービスで世界で認められる画期的なモノが全く無いのです。こうであって欲しいとのファンタジーとしか読めません。

 二酸化炭素排出量はすでに頭打ちと伝えたのは、ウォールストリートジャーナルの《中国のCO2排出目標、すでに達成=英研究所》です。

 《中国の二酸化炭素(CO2)排出量はすでにピークに達したのか。英国の2つの気候研究所は、最も楽観的なシナリオでは2014年がピークだったとする報告書を発表する。中国はCO2排出量を2030年にピークにすることを目標に設定しているが、現在の経済成長率やエネルギー需要を基に試算した同報告書によれば、それよりはるかに前に達成される可能性がある》

 中国当局者は「そんなことはない。増え続ける」と反論しましたが、中国の国内からエネルギー消費量が2015年、過去30年間で初の減少と報告されました。朝日新聞《中国、エネルギー爆食に異変? 30年で初の減少と報告》が次のように伝えています。

 《国有大手の中国石油天然ガス集団(CNPC)のシンクタンク部門の報告書によると、2015年の中国の1次エネルギー消費量は標準炭換算で42・4億トンとなり、前年を0・5%下回った。中国ではエネルギーの消費量を、石炭に換算した独自の「標準炭」という単位で表す。同社は「30年来で初の減少」としている》

 これに対して「中国国家統計局は0.9%増の43億トンと発表」の報道もあります。6.9%の経済成長と発表している以上、当局側はマイナスはまずいと判断したのではないでしょうか。国家統計値の信頼度は大きく失われています。

 ロイターの《コラム:中国の非現実的な成長目標、「改革の痛み」先送り》が計画の虚飾ぶりを鋭く指摘しています。

 《李首相は、16年に中国全体の成長率が目標の6.5─7%を下回った場合、20年までの10年間でGDPを倍増する計画を達成するために、17年以降はさらにGDPを拡大する必要が出てくると述べた。こうした目標は石炭・鉄鋼業界で数百万人の労働者を解雇したり、大気汚染を解消したりしようとしていることと矛盾しているように思える》《成長鈍化か債務拡大。どちらを受け入れるかという選択肢に直面し、中国の官僚らは後者を選んだ。このことが意味するのは、意義ある改革の痛みをさらに5年間先送りするということだ》

 昨年の第505回「中国変調、政治ばかりか経済の民主化も遠のく」で国内的にも奇怪なゴリ押しをしている習近平指導部に疑問を投げました。虚飾の上に虚飾を重ねていく新5カ年計画の危うさを知ると、破綻した時の恐ろしさ、世界への波及の深刻さを思わざるを得ません。


訪日観光客、リピーター増で質の変化始まる

 2015年に1973万人に達した訪日外国人客。リピーター獲得が課題と言われる中、国別に見ると既に飛び越えた動きがあります。空港間のシェア変動が東京・大阪間のゴールデンルートからはみ出しつつあると示します。特に注目は客数3位367万人の台湾、4位152万人の香港です。訪日外国人旅行者消費動向調査で訪日1回目が2割に満たず、10回以上と答えた人が2割以上いるのです。主要な国別に2013年と2014年の客数実績・伸び率、2015年推計値と各国・地域の人口に対する割合を一覧にしました。


 人口比で台湾15.7%と香港18.9%は際立っています。国民のほぼ6人に1人、5人に1人が2015年中に訪日したことになるからです。続く韓国8.3%、シンガポール6.1%も驚くに値する数字です。2014年に日本から中国へは271万人、韓国へは228万人ですから、日本の人口比では2%のレベルです。シンガポール並になれば800万人ですから、もしそれだけ日本から中国を訪れたら国内で「大中国ブーム」と騒がれるはずです。中国の訪日客数も人口の0.4%に達し、1%に迫るに従い質的変化が大きくなるでしょう。

 2015年10−12月実施の訪日外国人旅行者消費動向調査では全体でも訪日1回目は39.2%しかなく10回以上が14.6%を占めました。10回以上が多い順に並べると香港21.9%、台湾20.2%、韓国19.4%、シンガポール16.8%、米国14.1%です。初めて100万人を突破した米国を含めて、東京・富士山・京都・大阪といったゴールデンルートから外れた日本旅行の多様化が進まないはずがありません。

 ビザの緩和などで訪日客数が2015年に人口比で1%を超したタイ、マレーシアなどが多様化を追い掛けています。現地取材した東洋経済の《日本への旅行熱が止まらない、タイ人の本音 中国人とはちょっと違う「好き」の理由》はこう伝えています。

 《個人旅行で気軽に日本へ行く人が増え、年1回は必ず日本に鮨を食べに行くという人がいるくらい、リピーターが続出している》《取材目的で話し掛けると、反対に色々なことを質問されるのだが、その内容はかなり細かい。そして、ここまでバラエティに飛んだ都市名が出るのかと驚くほど、北海道から沖縄まで、様々な観光地の名前が出てくる》《40代の奥様グループ3人組は、それぞれが家族旅行で日本を訪れることを計画中。いずれも、5回以上は日本を訪れているという》

 訪日外国人旅行者消費動向調査は調査員による聞き取りで、主要空港利用者シェアを推計できそうです。2013年から2015年まで10−12月期調査から主要7空港間の出入国シェアをグラフにしました。


 羽田の滑走路が増強されたのに成田と合わせた首都圏のシェアが5割を切るまで落ちています。中部も落としている一方、関西・福岡・那覇の西日本と新千歳は伸びています。脱ゴールデンルートの質的変化を表す傾向と見てよいでしょう。関西は2015年に初めて外国人客1000万人を達成しました。中国から九州などに直行する格安航空路線が増えた効果も出ています。

 アジア諸国中心に日本旅行ブームを巻き起こしたのは円安の力が大ですが、1ドル80円の円高時代にも決まり切った日本観光に飽きたらない動きはありました。『ディープな日本にまで入り込む外国人観光客』(2011/01/26)で紹介しています。ホスト側としてメニューを多様化する必要はあるものの、現実にはインターネットの情報で外人客は気になる観光資源を発掘しています。


イスラム選民教義が危険、テロに責任とイラク紙

 大部分のイスラム教徒は同時多発テロと無関係のはずですが、イスラムの選民教義がテロを招いているのであり「ムスリム全員がテロの直接責任者」との厳しい主張が、アラブ世界に属するイラク紙から発信されました。ワシントン・ポスト紙もイスラム研究者による「教義は何かしらテロに関係ある」とする主張を記事にしています。預言者ムハンマド以来のイスラムの教義は動かせないものと考えられてきましたが、21世紀の世界を安定に導くには大改革が必要と言うのです。

 中東報道研究機関メムリの《アラブとムスリムは世界に荒れ狂うテロの直積責任を認めよ ―イラク紙編集長の主張― 》はこう述べます。

 《小学校、中学校、高等学校そして後になると大学でも、宗教と歴史の教科で我々は選民であり、至高且つ栄光の民であるとか、我々の宗教が真の宗教であり、(地獄の業火から)救われる正しい民は我々であるとか、ほかの民は偽りの民で地獄に落ち業火に焼かれる不信心の民であり、その民の殺害は許され、その民の財産と妻を我々がとっても構わないなどと教えている》

 《我々の子供達と孫達は、他者の宗教や民族或いは国籍などに関係なく、すべての他者を敵視して、世界聖戦をやっているのである。この環境が過激イスラム集団を生みだした。この集団は、貧困と失業という土壌で発芽し、汎アラブ主義の名においてそして又時には宗教と宗派の名において犯される拝斥、人権強奪、個人及び集団の自由の侵害そして信義の侵害によって育っていく》

 《我々はテロに対する我々の責任からのがれることはできない。言い訳も役に立たない。まず我々は責任を認め、我々自身と他者に謝罪し、今から我々の生き方を改めていかなければならない。そのためには、教育のカリキュラムを再検討し、初等教育から大学レベルまでそれを根本からかえなければならない。それをやらないと何も前に進まない》

 ワシントン・ポストの「Shadi Hamid」署名による《Does ISIS really have nothing to do with Islam? Islamic apologetics carry serious risks.》について、東京大学先端科学技術研究センターの池内恵・准教授がフェイスブックで解説してくれています。ジハード「聖戦」が問題です。

 《イスラーム教の教義の中に厳然として存在するジハードの規範が、近現代の国内法・国際法とは異なる原理に基づいている》

 《イスラーム教の教義の中には、イスラーム教の観点からあってはならない国内・国際秩序を武力で制圧することが義務であるという主張が正統化される余地があるという事実は、直視しなければ対峙できない》

 《メディアの報道は、教義の面を誰一人理解せずに報じているので、「差別と偏見が原因だ」と言ったものになりがちだ》

 《教義の一部が、一部の信者をテロに走らせているという因果関係は見つめないといけない。こちらが先にあるものだからであり、「根本原因」を探るのであれば、こちらにも取り組まなければならない》

 2003年の拙稿第139回「イスラム、自爆テロそして自衛隊」では中東で生まれたユダヤ教、キリスト教、イスラム教は同じ神を信じる一神教の宗教であり、三つの宗教は対立していなかった歴史から説き起こしています。

 しかし、イスラム教では地上に神の国を実現するイスラム共同体を防衛するジハードが成人男性の義務とされ、殉教者は最後の審判を受けることなく天国へ導かれるとコーランは記します。 イラク戦争で《政治的にも軍事的にも八方塞がりであったフセイン大統領は、ジハードによる戦いに持ち込むために、敢えて早々に敗れた》可能性があり、そのイラク軍残党が現在のIS(イスラム国)の中心メンバーを構成しています。


中国変調、政治ばかりか経済の民主化も遠のく

 中国が中進国の罠に陥らずに経済発展するには政治の民主化が必要と見られているのに、経済の民主化まで遠のく事態が進行しています。株式信用取引の証拠金率を100%に引き上げ、巨大国有企業の寡占強化などです。ネットでの言論の自由、大学での教育の自由まで奪ってきた中国共産党・習近平指導部は、あらゆる自由化・民主化を押しつぶす時代錯誤に突き進むようです。国土全体に広がる深刻な大気汚染が改善されない点に象徴されるように、国民の下からの批判を封印して官僚組織が真っ当に機能するはずがありません。

 信用取引の証拠金率は50%ですから、現在は証拠金の2倍の売買ができていますが、23日から100%にすればもう信用取引とは呼べない事態です。融資残高は22兆円の規模でした。ウォールストリートジャーナルの《上海・深セン取引所、信用取引の証拠金率引き上げ》はこう伝えました。

 《上海証券取引所は声明で「相場の回復に伴い、信用取引の規模や売買代金が再び急増している」と指摘。今回の措置は「投資家の正当な権利を保護するとともに、システミックリスクを回避する」ことが狙いだと説明した。また、市場の健全な動きを促すだろうと述べた》。何が健全か当局の見解は以下のようです。

 《中国の株式取り締まり強化は「みせしめ」−萎縮する証券業界》が報じる通りなら、海外で見られる普通の売りも買いも出来ません。《ファンドマネジャーらによれば、規制当局者は、株式取引所からブローカーへの警告書簡を通じて、当局が何を好み何を好まないかを告げている。例えば株価が上昇しているときに買い注文を積み上げるのは悪いことだ。市場が下落している時に、株を投げ売りすることも警告対象になるという》

 7月の株式市場暴落の際に書いた第490回「中国の無謀な株式市場介入に海外批判止まず」の市場に任せる方向とまるで反対に進んでいます。株の売りも買いも当局の顔色を見ながらしなさいと、市場関係者を縛っています。信用取引も機能しなくなっては一般投資家の足は遠のくでしょう。

 10月に開いた共産党中央委第5回全体会議(5中全会)には民主化へ期待がありましたが、出てきたのは一人っ子政策の見直しだけでした。巨大国有企業を改革して民間企業の活力に任せるどころか、さらに寡占化を進める方向になっています。計画経済への逆行です。

 中国現地の声を拾っている《実名!中国経済「30人の証言」 日系企業が次々撤退、大失速の真相〜こんなに異変が起きていた》には注目される証言があります。

 《「中国の景気は悪いなんてもんじゃない。以前は政府が、石橋を叩いて渡るような慎重かつ的確な経済政策を取っていたが、いまの政府が進めているのは、石橋を叩いて割る政策だ」(南楠・食品卸会社社長)》《「3年前まで国有企業には手厚い福利厚生があったが、習近平時代になってすべて消え、初任給も毎年1000元ずつ減っている。それで優秀な若者から辞めていく」(胡麗芳・別の大型国有企業社員)》

 南シナ海でゴリ押ししている習近平指導部は、国内的にも奇怪なゴリ押しをしているように見えます。北京も含む中国の東北部はこの数日、重篤なスモッグに覆われています。『虚飾の青空剥がれ北京に重篤な大気汚染が戻る』で人為的に作った青空が剥げ落ちたと指摘しました。暖房に石炭を使うシーズンに入って一気に深刻化したのです。環境対策への投資で経済成長が拡大するとか楽観的な意見など消し飛んでいます。


核燃サイクルは破綻目前、国策に責任者なし

 高速増殖炉もんじゅに「安全の番人」原子力規制委が運営機関交代を突き付けました。核燃サイクルのもう一方の柱、核燃料再処理工場も安全基準で行き詰まっています。国策が破綻目前なのに政府の責任者が見えません。20年前の超ずさんナトリウム漏れ事故の際に抜本見直しがあるべきだったのに国策だから放置されました。核燃料再処理工場についても福島原発事故を契機にした安全基準見直しで原子力規制委の審査が難航しています。2016年完工の現目標など無理で、当初の1997年完工予定から20年遅れは確定、いや完工はしないと観測しています。

 もんじゅ(福井・敦賀市)について毎日新聞の《クローズアップ2015:もんじゅ運営交代勧告へ 文科省、手詰まり感》が政府・文科省の駄目ぶりを詳しく伝えています。

 《今回の勧告は、原子力規制委員会設置法に基づき、原子力施設の安全が確保されない場合は他省庁に改善を求めることができる「伝家の宝刀」(文科省幹部)だ。前身の旧原子力安全・保安院にはこうした勧告権はなく、2012年9月の規制委発足後、初めての行使となる》《規制委は、勧告権行使の理由について、(1)もんじゅを保守管理できない原子力機構に運転能力はない(2)解決のゴールが見えない本質的な問題を文科省に認識させる(3)設備と人の技術が劣化し放置できない――などとする》

 もんじゅを建設した元の動燃を継承する原子力機構に代わる存在は国内にありません。《規制委の田中俊一委員長は4日の記者会見で、もんじゅについて「原子力機構に安心して任せられない」と指摘。廃炉の可能性については「(監督する)文科相がいろいろ考えて判断する」と突き放した》とあるように、「実質的に終わった」感が滲んでいます。

 もんじゅは全く発電をしたことがないですが、1日の維持管理に5000万円もかかり、これまでに投入された国費は1兆円にのぼります。それでいて第353回「高速炉もんじゅ稼働を絶望にする安全設備要求」で指摘したように福島原発事故後の安全要求に応えるのは原理的に不可能です。技術的には潰すしか無いけれど、日本が48トンも蓄えてしまった原爆原料プルトニウムの使いみちとして国際的には高速増殖炉路線の旗を下ろせないので置いてある存在です。

 青森・六ケ所村の再処理工場はもっと金食い虫で年間維持費が1100億円です。もちろん完工していないので再処理実績はありません。第491回「核燃サイクルの愚図ぶり、官民ともあんまりだ」で描いたように当事者の日本原燃も、監督者の経済産業省も国策ゆえの大甘な対応を続けてきました。

 規制委による重大事故対策の安全審査は《再処理施設 前回までの審査会合における主な論点と対応について》の後半部に一覧がまとめられています。原燃側が説明できていない空白部だらけです。10月5日の審査会合議事録が公開されていて規制委側から重大事故に関する《今回のこの説明は、基本方針とか条件なんで、個別具体的なやつがないと、善し悪しというのはなかなか難しいかなと思っているんで、これは今後細かい一個一個の事象とともに確認をしていきたい》との発言が出ています。2015年も終わりが見えてきているのに「日暮れて道遠し」そのものです。


国を滅ぼす機械的予算削減しか能がない財務省

 財務相の諮問機関、財政制度等審議会分科会で了承された国立大学法人運営費交付金の機械的削減とそれに見合う授業料の引き上げには唖然とさせられました。科学技術立国を根底から破壊する亡国の政策と言うしかありません。たかだか1兆円規模の大学交付金を減らしてきた上に更に削減する前に、40兆円にもなる医療費を何とかしろと言わねばなりません。財務省に予算の中身に踏み込み質を問うて削減するだけの能力が無いから、機械的予算削減に頼る恐ろしい事態です。

 大手マスメディアはいまひとつ事情を飲み込めておらず、反応が悪いのですが、《国立大授業料 40万円値上げ 財務省方針 小中教職員3.7万人削減も》が明確に主張しています。《財務省は26日、国立大学に対する運営費交付金を削減し、授業料の大幅値上げを求める方針を打ち出しました。減額分を授業料でまかなうと、現在53万円の授業料が16年後に93万円にもなり、憲法26条が求める「教育を受ける権利保障」を投げ捨てる暴挙です》


 日本の高等教育への政府支出が各国に比べて低い事実はよく知られています。《第3章 高等教育への公財政支出》からグラフを引用しました。日本の《公財政支出のレベルは低いが、民間支出が高いため、GDPに対する投資の比率はOECDの平均レベルとなる。イギリス、ドイツの投資は、それぞれ1.3と1.1で、日本よりも少ないが、対GDP公財政支出は、両者0.9と日本よりも多い。フランスの投資は1.3と日本とほぼ同じであるが、公財政支出1.1であり、日本よりも多い。イギリス、ドイツ、フランスの公財政支出は、日本のそれのほとんど2倍といえる》

 この公的支出をもっと減らして、民間支出つまり家庭の学費負担をもっと大きくさせようとする政策が今回、了承されたのです。国立大がそこまで授業料を値上げすれば私立大も追随するでしょう。現在でも学費ローンの返済に悩む若い世代が多いのに、とんでもないと言わねばなりません。

 2004年の国立大学法人化をきっかけに起きている研究崩壊については第495回「浅知恵、文科省による研究崩壊へ予算編成開始」で論じています。十年続いた毎年1%交付金削減が研究の一線を痛めつけ、先進国中で特異な論文数の減少を招いています。第496回「40兆円超え医療費膨張に厚労省は無策なまま」ではこれも医療費の中身に踏み込めない官僚の姿を問題にしました。

 国立大学協会の《財政制度等審議会における財務省提案に関する声明》は国立大学を危うくし教育格差を広げる点に危惧と疑念を表明しています。《国立大学法人の基盤的経費である運営費交付金は、平成16年度の法人化以来12年間で1,470億円(約12%)の大幅な減額となっており、各国立大学においては規模の大小を問わず、その運営基盤は急激に脆弱化しており、諸経費の高騰も相まって危機的な状況にある》

 そんな無茶苦茶な政策はないと言っているのですが、妙に弱々しく、断固として抗議しているようには見えません。マスメディアの反応も弱い中、このまま現実になる恐れがあると指摘します。


中共テクノクラートも日本同様、経済後退で無能

中国株式の暴落に続く人民元の切り下げ騒動で中国指導部の経済運営への信頼感が一挙に崩壊しました。日本のバブル崩壊の轍は踏まないと言ってきた中共テクノクラートが経済後退局面では日本の官僚同様に無能でした。前兆は2013年に顕在化した深刻な大気汚染騒ぎにあったと見ます。いま世界陸上競技大会が開かれ、間もなく国威発揚の軍事パレードがある北京の空は青く晴れ上がっているとニュースになっていますが、このために北京と周辺の6省市で1万の工場と4万の建設現場が操業停止になったと伝えられています。システム的に誘導するのではなく、場当たりの強権発動でしか事態を動かせない体質を象徴しています。日本の官僚も右肩上がりの時代には経済の各種調節弁を巧みに使って優秀だったものですが、いま必要なのは調節ではなく改革です。

 中国経済は明らかに減速しているのに政府発表のGDP成長率は7%維持です。日経新聞の《中国経済の行方(中)》が経済実態との乖離をこう指摘します。

 《李首相がかつて注目していると発言した銀行融資残高、電力消費量、鉄道貨物輸送量をもとに、「李克強指数」が作成されている。同指数ではこの3つの指標のウエートは電力消費量が40%、鉄道貨物輸送量が25%、銀行融資残高が35%になっている。15年上期(1〜6月)の同指数の伸び率は2%台に下落している(図参照)。個別にみると、銀行融資残高は14%前後伸びているが、電力消費量の伸び率は1.3%しかなく、鉄道貨物輸送量はマイナス10%程度と大きく落ち込んでいる》

 電力消費量はGDP2桁成長時代には前年同月比で10%以上増加が当たり前でしたが、今年に入ってマイナスになる月が増えています。製造業から三次産業への比重移動があるにせよ、電気消費が落ちるのは異様です。低成長どころかマイナス成長に落ち込んだのではないかとまで疑われる要因です。詳しいグラフが《中国経済の減速と電力消費量・鉄道貨物輸送量の推移》で提供されています。

 大気汚染騒ぎの始まりで国民的な関心を呼んだ米国大使館によるPM2.5濃度測定公表に対し、中国政府の立場は「迷惑な活動」でした。資源の超浪費型経済成長への危機感がなく、世界の石炭消費の半分を中国が占める恐ろしさを知らず、むしろ誇っていました。2014年の第412回「中国重篤スモッグの巨大さが分かる衛星写真」で論じたように、ドライブできないほど事態は重篤化しました。

 思うままの制御が効かないのは大気汚染など環境問題だけではなく、株式市場や為替市場も同じと知らない中国指導部は第492回「中国の妄想、市場の美味しい所だけ取り逃げ」で指摘した「食い逃げ」の愚行に出ました。

 ロイターの《アングル:元切り下げの影響に驚く中国当局、相場安定図る意向》が狼狽ぶりを報じています。

 《代表的な政府系シンクタンクの有力エコノミストは、政策担当者は人民元切り下げが世界経済に及ぼす影響を過小評価していたと説明する。李克強首相と先月、政策について協議したというこのエコノミストは「経済が減速し株価が急落したタイミングを選んでしまったため、切り下げを通じた景気テコ入れを狙っているとの間違ったシグナルを諸外国に送り、切り下げ競争を招いてしまった」と明かし、「そういうわけでわれわれは守りの姿勢に入った」と続けた》

 中国網の《中国経済は「ジャパン・シンドローム」をどう回避するか=北京大学国家発展研究院院長》は内陸部の発展はこれからで「中国の経済成長に大きな潜在力がある」との立場です。可能性があるとしても賃金上昇などで生産コストが既に米国並みに高くなってしまった中国に新たな投資が来るのか、疑問大です。逆に人民元切り下げで資本流出が想像以上に大きくなり、人民元相場を買い支えているのが実情です。第481回「中国の夢、技術強国化は構造的に阻まれている」で指摘した発展阻害要因にもお気付きでないと見えます。


中国の妄想、市場の美味しい所だけ取り逃げ

 3日連続で拡大する中国人民元切り下げを中国メディアは一挙両得感覚で伝えています。輸出産業へ支援になり、人民元国際化も果たすと。しかし、市場が思惑通りに動いて果実が手に入る場面しか考えていないようです。市場が逆流したらどうなるか、先の中国株暴落で手痛い目にあったのすら忘れ、美味しい所だけ取り逃げ出来るとの妄想が中国指導部を支配していると申し上げざるを得ません。一度、為替市場自由化を言い出したら、人民元高や想定以上の元安で苦しむ場面も必ず到来します。

 人民元の相場は中国人民銀行がその日、基準になる中間値を設定、上下2%の変動幅でしか取引を認めていません。その中間値設定を恣意的でなくして前日の終値近くにすると透明化したために、毎日最大2%ずつの切り下げが可能になりました。3日間では5%近い切り下げになっています。人民元はドルと組んで為替は安定していると思い込まれていただけに、世界的にショックが大きくなりました。

 中国網の《人民元の適度な切り下げは、一挙両得の措置》は新興国に及ぼすはた迷惑などお構いなし、《中央銀行は衝撃的かつ賢明な手段により、人民元の積極的な切り下げを実現した》と意気揚々としています。切り下げ1%で輸出は1%増加する一方、5兆円の資本流出になるとの推計があります。

 《中国が巨額の外貨準備高を保有する状況下、適度かつ積極的な人民元切り下げは、経済の安定という大局にとって有利であり、一国の通貨のソフトパワーを示している。また合理的な範囲内の切り下げは、資金の大量の外部流出を促さない。人民元の適度かつ合理的な切り下げは一挙両得の措置である。これによって、人民元相場が長期的に低下する可能性は低い》

 人民元高で苦しむ場面など考えてもいないのでしょうが、ブルームバーグの社説《中国自身も知らない人民元切り下げの意義−社説》は先行きの不安を指摘します。

 《今回の切り下げは中国の輸出を促し、海外からの輸入を割高にする景気刺激策の一形態でもあり、中国指導部が市場の力のプラス面を認めるには好都合なタイミングと受け止められる。こうした市場の力が先行き反転して元高方向に働き、中国の輸出部門が不利な立場に置かれるような事態となれば、同国当局はジレンマに直面する。その時に一連の疑問への答えは明らかとなるだろう。現時点では部外者は何が起こるか確信が持てず、中国指導部もたぶん分からないはずだ》

 中国社会科学院金融研究所の研究員による《なぜ人民元を切り下げた?・・・「輸出促進でも経済疲弊でもない」と政府系専門家見解》に本音が垣間見えるので引用します。

 《人民元が国際通貨基金(IMF)の国際準備資産SDR(特別引出権)の通貨バスケットに採用されるか否かのタイミングで、中国が切り下げを行ったのは「国内外の経済環境の変化を考慮してのこと」と主張。中国株式市場における大規模な実験は「失敗に終わった」と伝え、中国は金融市場の改革の道筋を変えようとしているとし、「改革の新たな突破口こそ為替制度なのだ」と主張した。さらに、中国の金融市場の改革における新たな突破口が「良い成果を収められるようであれば改革を深化させるであろうし、危険を伴うようであれば為替を通じた改革も限定的にとどまるであろう」と論じた》

 株で駄目だから為替で、しかし、本来の市場機能を活かすつもりはなく、手に負えなくなったら打ち切りの、腹が座らぬ愚かな姿勢です。先月の第490回「中国の無謀な株式市場介入に海外批判止まず」で示した世界からの批判と期待が実現することはないと見られます。中国国内でほぼ完結していた株式市場ならともかく、世界への影響が大きな為替市場で中国独善のマネーゲームが拡大するのは怖すぎると指摘します。


核燃サイクルの愚図ぶり、官民ともあんまりだ

 核燃体制見直し作業部会で日本原燃へ批判集中と報じられました。十年前に言われるべき指摘がやっと記事になり、新規制基準審査で来春の工場完成が絶望的になっているのを見ると、この愚図ぶりは官民とも酷すぎます。経済産業省の見直しも核燃料サイクルそのものに触れる気はなく、電力自由化で電力業界のお荷物になる機運を前にして、国策として関与する権限を明確にしたいだけのよう。核燃料再処理工場(青森県六ケ所村)完成予定は1997年だったのに、20年も遅れる不始末の責任を取る人が誰もいない不思議です。この工場は運転していないのに年間維持費が1100億円も要るバケモノです。

 東京新聞の《日本原燃の経営感覚に批判集中 核燃体制見直し議論で》はこう伝えました。

 《原燃の再処理工場は相次ぐトラブルなどで運転開始を22回延期し、当初6900億円と想定した建設費も2兆円を超えている。この日の会合で原燃は運転開始が遅れている原因として、事業の特殊性や技術確立の困難さを繰り返し強調した。作業部会の委員の一人は「民間企業の感覚では信じられない。経営や目標設定で外部組織の関与、監視が必要だ」と指摘した》

 7月にあった第69回核燃料施設等の新規制基準適合性に係る審査会合の議事録が公開されました。昨年10月に書いた第448回「死に体の核燃料再処理、政府の救済人事も無理か」で「重大事故についての項目が多数あるのにほとんど対応できていない点が目につきます」と指摘しました。そこからどれほど進んだか、サイクル推進派から言わば救済役として原子力規制委に起用された田中知委員のまとめ発言を読むと、審査のために来年3月まで完工を延期したのも無意味と知れます。

 《個別の重大事故については本日で一通り説明を受け、あとは個別の重大事故以外の放射性物質の漏えいによる重大事故が残っている状況ではありますが、いずれの事故においても、まだ入り口の段階であって、それぞれが単独で発生した場合の範囲内にとどまっているものもありまして、重大事故の重畳など、まだ論点が残っているかと思いますので、その辺についても十分検討の上、説明いただけたらと思います》

 大きく5つの分野がある重大事故をようやく並べ終わった段階です。その対策について原子力規制委からの疑問に答え切れていない項目も多数ありますし、「重大事故の重畳」と言われたら日本原燃の技術的想像力が対応できるか、おそらく無理でしょう。例えば当日の審査でこんな指摘が出ていますから、新規制基準をパスするのは至難です。

 《もう少し先の議論をすると、重大事故が起こっているときに、多分、通常運転時と違ったいろいろな移送が行われたりすると。そういうときの誤操作も含めて、非常に混乱している中、確実な操作ができるようになっているのかというところの検討も含めた、我々は誤移送とか、そういったものをお尋ねしているという意味で、かなり幅広の通常運転時以外の重大事故が起こっていて、いろいろなことが各所でやられている中の状態も含めた誤移送の可能性というのが、設計基準を超えた世界で起こる可能性を御質問している》

 核燃料再処理工場の年間維持費が1100億円は、2012年に東京新聞が発掘した実態です。『動かぬ再処理工場に年維持費1100億円:東京新聞』で紹介しました。核燃サイクルは原爆の潜在的保有能力を裏付けており、いくらお金がかかっても目をつぶるのが政府の方針と推察されています。


中国の無謀な株式市場介入に海外批判止まず

 中国政府公認で4500ポイント回復を目指した上海総合指数が27、28日の2日間だけで10%も値を下げました。市場に任せることで適切に機能する資本市場を作れないなら経済成長に大きな障害と批判されています。売買できる株式銘柄をしぼり、政府系資金まで投入しても、23日の4123ポイントから28日終値の3663ポイントへずるずると下がりました。海外の証券会社には2500ポイント程度が妥当な水準と判断するところもあると伝えられるのですから、国を挙げて4500ポイントを目標にする無茶さが分かります。5月以降、出来高を終値と合わせてグラフ化してみましょう。


 6月12日に5166ポイントの高値を付ける過程で大きな売買が続きました。しかし、6月24日以降、7月8日の底値3507ポイントに至る急激な下げ局面でも商いは大きく、一般投資家の売り圧力がいかに大きかったか分かります。その後の官製相場による上昇局面では出来高は控え目であり、むしろ、下げに入ってから出来高が膨らんでいます。自由な売買を制限して株価を吊り上げる副作用が見える感じです。

 フィナンシャル・タイムズの《中国政府、株価は市場に任せよ(社説)》は《中国政府が株価下落を食い止めるために市場に介入してから3週間たったが、上海総合指数が8年ぶりに1日当たり最大の下落率を記録し、株価が再び暴落し始めた。中国政府はいま、憂鬱な選択に直面している。ここからさらに市場を下支えして深みにはまるのか、それとも不死身の仮面がはがれ落ちるのに任せるかだ》と批判します。

 辛いことだが、ここは本気で市場に委ねるしか無いとのアドバイスです。

 《市場原理にコントロールを委譲することは、共産党が気に入らないだけでなく、中国政治にいまだに響き渡る干渉主義にも反する。だが、ある著名投資家の言葉によると、株式市場がより強固になるためには「数週間にわたって怖い思いをする必要がある」という。仮に株価が低迷し、消費者心理に打撃を与えたとしても、中国は株価を買い支える以外に需要を喚起するほかの手がある。もし中国の支配者が賢明ならば、投資家はこれからもっと落ち着かない数週間を迎えることになるだろう》

 しかし、実際には中国網《上海総合指数が8年ぶりの下げ幅を記録 市場は「カンフル剤」が必要》などが言うように、官製メディアは国家の介入・支援を煽っています。29日の市場は少し値を戻す動きです。

 暴落直後に書いた第489回「中国指導部は株式市場の無政府性を理解せず」で上海市場の株価を1年前の水準から2.5倍に急上昇させた確信犯が中国政府である点を指摘しました。過度な借り入れや不動産投資への依存を株式市場の活用で転換できる政策的な思惑があったのでしょう。それが逆風になり、消費心理まで締め付ける、痛い展開になった訳です。


中国指導部は株式市場の無政府性を理解せず

中国株式の暴落が止まらず、6月半ばからの3週間で10兆ドル規模の市場から3割の価値が失われる惨状になりました。更に2割のダウンもあり得ると観測され、成長が鈍化した実体経済に響く可能性が高まっています。中国政府は市場を制御できると思い込み、暴落局面では報道を控えるようにとメディア規制にまで乗り出しましたが、打ち出す株価維持政策がどれも効きません。経済成長失速を隠す株式市場の好況演出がとんだ副作用をもたらしかねません。

 上海市場の株価は1年前の水準から2.5倍にも急上昇していました。ウォールストリートジャーナルの《極度に荒れる中国株、当局の気まぐれがあだに》が政府が招いたものと主張しています。

 《2012年後半に中国の最高指導部で権力の移行が行われているさなかに、中国株式市場の低迷が共産党の面目をつぶすかもしれない場面があった。政府当局はそのとき、新規株式公開(IPO)の扉を閉じてしまった。現在、10兆ドル(約1230兆円)規模に上る中国株式市場でボラティリティ(変動率)が極度に高まっているのは、こうした政府介入の一つの結果だ。共産党が習近平氏を国家主席に任命する準備を進めていた当時、IPO停止の目的は株価を守ることだった。だが、供給を絞ったことは、今年発生した買い需要の急増を吸収する準備期間を市場に与えないという結果につながり、主要指数を急伸させた》との分析です。

 機関投資家よりも個人投資家の比重が大きい中国株式市場で株価が暴騰した今年は株に縁がなかった市民も殺到、業績が良くない会社の株まで買われたといいます。信用取引が40兆円の規模にもなり、暴落の局面では手仕舞いのために売りが売りを呼ぶ状態です。当局は取引手数料引き下げといった緩和措置を取り、年金基金が株を購入できるよう規則を改めたり、新株発行の制限も発表しましたが、見向きもされません。逆にネットでは今年の相場高騰は共産党機関紙、人民日報が煽ったとの恨み声が聞けます。

 2007〜2008年にも株価が急騰、直後に暴落してしまうバブル崩壊がありました。当時の中国経済は力強い2桁成長の最中であり、実体経済には何の問題も生じませんでした。現在は政府発表でも年率7%成長が危ぶまれています。政府GDP統計の信頼性は疑われており、実体を映す指標は芳しくありません。最近の国家発展改革委の発表によると、今年1〜5月の中国の鉄道貨物輸送量実績は前年同期比9.8%も減っています。電力消費もマイナスと言われ、安定成長の軌道に入れたのか疑問だらけです。

 株のために無理に資金を借りた投資家が暴落で債務不履行になると、連鎖反応が広がる恐れがあります。日本総研の《2015〜16年の中国経済見通し》は《中国でも企業の資産と債務は急速に拡大しており、2014年9月末における企業債務残高の対GDP比は151.6%と1989年末の日本の132.2%を上回っている》と指摘しています。バブル崩壊前の日本よりも借金漬けなのです。借金を財テクに回している企業も多く、債務不履行の連鎖があれば大きな破綻を呼びます。

 実体としての中国経済はそんなに強いのか、近未来はどうか、第481回「中国の夢、技術強国化は構造的に阻まれている」で『中所得国の罠』に陥ってしまうかを論じました。


国家のエゴが歪ませた中国年金制度は大火薬庫

 60歳以上が2億人に達した中国の年金制度は20年で1331兆円の資金不足になるなど憂う報道が続きます。実は昨年、金沢大で書かれた中国人研究者による学位論文が現状で破綻同然であると主張しているのを発見しました。中国の年金制度と財政事情には不透明な点が多く、官僚の説明と報道している中国メディアとも故意かズサンかは知りませんが、内容の信憑性に疑いがありました。2年前に書いた第357回「年金制度欠陥と高齢化が中国財政破綻を呼ぶ」での疑問を解き明かしてくれる専門家にやっと出会えた訳です。

 まずは今年3月の報道《中国の年金制度、今後20年で1331兆円もの資金不足に陥る可能性―海外メディア》を見てください。

 《中国人力資源・社会保障部の尹蔚民(イン・ウェイミン)部長は10日、第12期全国人民代表大会第3回会議の記者会見で中国の年金制度の現状について語った。それによると、公務員を除く都市の企業就業者と個人事業主を対象とした都市就業者年金(=企業職工養老保険)の14年の総収入は2兆3300億元(約45兆4350億円)、支出は1兆9800億元(約38兆6100億円)、差し引き3458億元(約6兆7400億円)の黒字で、累計の残高は3兆600億元(約59兆6700億円)だった》――将来はともかく現状は黒字で、累計資金残高は増えていますよ――との説明です。

 王逸飛さんの博士(経済学)論文《中国における公的年金制度の構造的問題―経済・労働システムと政府間関係の視点から―》が2011年現在で説いている文章と並べると、カラクリが見えてきます。中国の制度では労働者収入の20%が社会プールに預けられて過去の退職者への年金支払いに充てられ、8%が個人口座に入ることになっています。この社会プールに余裕がありません。

 《2011年の社会プールの積立金は実際にはない。2012年版の『中国統計年鑑』によれば,2011年度の基本養老保険基金の総収入は1兆6895億元で,総支出は1兆2765億元で,当期余剰金は4130億元である。しかし,この4130億元は,政府財政補填の部分が2272億元で,いままで滞納した保険料の繰り上げ納付金が1968億元を占めている。すなわち,政府財政補填と繰上納付した保険料を除くと,当期の余剰金はゼロになる》

 とすれば累計の残高が有るなら個人口座の分であろうと分かります。しかしながら、名目として存在しても実は無い部分が大きいのです。《個人口座積立金の流用問題(空口座)が深刻である。2011年末まで,個人口座積立金から流用された金額は2兆元を超えている。本来は個人口座積立金の累計は2.5兆元であるはずであるが,実際に個人口座の積立金は2703億元である。流用された金額は2.22兆元を超えている》

 年金資金は北京・上海など直轄市や各省の地方政府が管理しています。1997年の改革から個人口座積立が始まったのでここから年金を貰う人はまだ少なく、大きな資金が目の前に有るのは魅力的ですから禁じられていても地方政府の事業などに流用する結果になってしまうのです。今年の政府説明「累計の残高は3兆600億元(約59兆6700億円)」が実際に存在しているとは考えられません。

 各地方政府は資金管理ばかりでなく独自の年金制度も作り上げているので地方ごとにシステムが異なります。労働者が直轄市や省をまたいで移動すると、個人口座の積立金は貰って行けても、もっと大きな社会プール分の年金は放棄せねばなりません。中央政府が地方政府に丸投げした結果、非常に厄介な制約が発生しています。全国統一ルールを作るべきですが、地方政府は資金にまつわる権限を手放しません。

 この学位論文はもっと大きな「巨悪」があると指摘します。それは計画経済時代に政府が約束していた年金支給債務に何の手当もしないで、新制度に移行した措置です。本来なら何十兆円も資金を積んで新制度を始めるべきなのに、国家負担を嫌ってゼロから始めたので過去の退職者への年金支給がいきなり社会プールの役割になりました。労働者収入の20%という高率な負担に耐えられないので加入しない企業も多く、加入率は6割を切ります。また、李克強首相が2013年に「社会保険加入者は3億人いるが、今年までに累計3800万人が支払いを中断している」と明かしたように、実質的に脱退してしまうのです。


 先日の第481回「中国の夢、技術強国化は構造的に阻まれている」から中国の年齢別人口推移グラフを再掲します。都市部の退職年齢が男性60歳、女性50歳(管理職は55歳)で日本よりも若いため60歳以上層の拡大が年金対象として問題になります。2015年で2億人、2030年に3億5千万人、2050年には4億5千万人もです。

 中国メディアの報道では2030年ごろに制度崩壊しかねないとされますが、現状でもボロボロと申し上げて良いでしょう。このままなら都市部労働者の半分は無年金で老後を迎えるしかありませんし、農村部で新たに始まった年金制度は月額で千円もなく社会保障になりません。社会主義国の看板を下ろしていない以上、見捨てるわけには行きません。今の中国政府財政に余裕が有るように見えるのは当然の財政義務を果たさずに来たからであり、直ぐ近未来に巨大過ぎて不可能な尻拭いを余儀なくされると考えられます。


中国の夢、技術強国化は構造的に阻まれている

 中国が先進国になれるか、『中所得国の罠』に陥ってしまうかの分かれ目は製造大国から技術強国に変身できるかです。知的財産権無視のパクリ社会では独創性が困難である上に、構造的に阻まれる要因が見えてきました。形の無いものにはカネを払わない国民性です。人口ボーナス期が終わって生産年齢人口が減少に転じ、中国政府には焦りの色が見え「中国製造2025」計画で「2025年までに製造業の競争力をドイツ、日本レベルまで高めたい」と言い出しました。


 国連統計から作成した、2050年までの中国の年齢別人口推移グラフです。生産年齢人口は15歳から64歳までが一般的ですが、中国の場合、都市部で決められた退職年齢が男性60歳、女性50歳(女性管理職は55歳)であり、均すと53歳程度と言われます。一方で年金制度が立ち遅れた農村部では高齢者はいつまでも農業をしているようです。退職年齢の引き上げが言われ始めましたが、新卒者の就職を阻むのでためらわれています。

 15〜59歳グラフを生産年齢人口の推移と見ると、2015年に減少段階に入って急速に減っていきます。2015年で60歳以上人口は15%、実数で2億人を超えます。2050年の段階では33%、4億5千万人に達し、15〜59歳は7億2千万人ですから現役1.6人で高齢者1人を支える恐るべき構図になります。日本との比較は第378回「日本に続き中国も超特急で超高齢社会へ突入予定」をご覧ください。

 一方、1995年から2010年にかけては生産年齢人口の急増があり、近年の中国の経済発展が人口ボーナスに負っているところが大であると知れます。人口ボーナスの立ち上がり期は改革開放以前で、まだ発展の準備が出来ておらず、チャンスを空費した点も見て取れます。十分に富む前に社会が老いてしまう恐れが語られる今にしてみると手痛い失着でした。

 昨年の第13次5カ年計画が中所得国を超えて高所得国を目指すとし、今年の「中国製造2025」計画が日独並みと言い出しますが、可能なのでしょうか。そもそも製造業の変調を指摘する報道があちこちで見られます。

 《中国製造業の衰退・・・「重大な危機に直面」=中国メディア》はこう伝えています。《中国国家統計局のデータを引用し、中国国内で製造業に従事している労働者の数も12年以降、前月比ベースで減少することが「常態化」していると伝えたほか、税収の伸びも同時期から鈍化していることを指摘し、「中国の製造業が重大な危機に直面していることを懸念せざるを得ない」と論じた。また、鉄道貨物輸送量も鈍化していると指摘し、「12年から前年比でマイナス成長になっている」と伝え、12年は前年比0.9%減、13年も同0.9%減、14年は同7%減だったと指摘、「これだけの指標が中国の製造業にとっての“曲がり角”が2012年だったことを示している」と伝えた》

 経済発展を続けるには粗製乱造から質的転換を図る以外にないのですが、中国の自主ブランド車の多くが自前のエンジンを持たない事実を知らされると首を傾げたくなります。《「三菱製エンジン」なくして、「中国ブランド車」はありえない!?=中国メディア》はこうです。《中国の自動車エンジンに関する技術が立ち遅れており、奇瑞汽車など自社で研究開発を行っている企業ですら世界のレベルから8−10年は遅れているとし、「成熟した技術を持つ三菱製エンジンを導入するほうが自社で生産するより安価で導入できる」と論じた》。これでは世界に向かって輸出する展開などあり得ません。

 中国のパソコンのOSはほとんどがWindowsXPの海賊版と言われます。具体的な形がないモノに金を払う習慣がありません。それが製造業発展に深刻な影を落としている例を《中国調達:見えないものにはカネを払わない中国》に見つけました。中国では機械を売った後のアフターサービスは無償でするしかないというのです。

 《日本国内では、カスタマーサービス部門は、一部の例外を除くと、競争にさらされることなく高収益を計上している。メーカーは本体販売の損失をカスタマーサービス部門の利益でバランスをとっている一面もある。実際、バイヤーの立場からしても、自社が受けるカスタマーサービス費を値切るというのはむずかしい。ところが中国では、その逆なのである。特定の顧客が支払を拒むのであれば、そのような顧客を相手にしなければよいが、どの顧客もそうなのであるから、そんなことを言っていたら、商売にならなくなってしまう。知的財産権の侵害でもそうだが、中国人は目に見えないもの、カタチの残らないものにはカネを払わないのである》

 《それでは、中国で逞しく商売しているローカルメーカーはどうしているのかというと、はっきり言って、彼らの商売は“売り切り御免”なのである。つまり、売ったあとのメーカーの供給者責任などという概念を持ちあわせていない》

 このような商売の仕方では製造業の技術を日本やドイツ並みにレベルアップするのは原理的に不可能です。不動産バブルの崩壊とか懸念が伝えられる中国経済ですが、真の危機は技術強国には到底なれない点にあると考えられます。国民1人当たりGDPが7000ドル近くに上昇し、1万2000ドルを超える高所得国になれるかは、資源浪費・環境破壊型の発展モデル転換も必要です。第439回「中国の大気汚染、改善遅く改革に絶望的閉鎖性」で指摘した通り、これも遅々として進みません。


労働人口急減の恐怖を無視する国内メディア

 OECD対日審査報告書の発表報道で国内メディアが見せた異様な危機感の無さに驚き呆れました。労働人口が急速に減っていく恐ろしさを前提に女性労働力活用を提唱しているのに、状況の困難さに全く気付いていません。「そんな良いアイデアもあるんだね」といった軽い気分で書かれています。実現できなければ経済のマイナス成長は確実です。日本記者クラブで会見、公表した報告を「ロイター東京発」の外電記事で間に合わせる朝日新聞などは論外ですが、NHKの《OECD 「抜本的な構造改革 至急強化を」》からも危機感は読み取れません。

 《日本経済に関する報告書を発表し、ことしの経済成長率の見通しを1%に上方修正したうえで、成長戦略の実施が遅れを取っているとして、女性の労働参加などについて抜本的な構造改革を至急強化する必要があると提言しました》では、経済成長が続く前提でとしか読めません。


 OECDが主な提言の先頭に「労働力の減少傾向を遅らせる」を置いた意図は、上のグラフから明らかです。このままでは推定労働人口が2011年の6千万人から2030年には5千万人ほどに減ってしまいます。これでは多少の技術革新があっても大幅な経済縮小は免れません。

 報告書はこう述べます。《労働力人口の減少を緩和するため、男女平等の推進が必要である。男性の労働参加率は85%と女性よりも20%ポイント高い水準にある。もし女性の労働参加率が2030年まで男性の労働参加率と同レベルに追いつけば、労働供給の減少は5%に留められ、労働参加率に変化がなかった場合に比べ GDPは約20%高まるだろう》。つまり現在の歩みであるグラフの赤い線から青い線に移行するのですが、なにせ相手の政府は女性は家庭で子どもを育てるのが美風と考える保守的な与党幹部がいる安倍政権です。

 実際にこの大変革は容易ではありません。《雇用における男女間格差は、出産後労働市場に残る女性が38%に過ぎないという事実に表れている。日本は子育てや学童保育に対する支出(対GDP比)がスウェーデンや英国の3分の1に過ぎない。ただし、支出を増やすためには税もしくは社会保険料収入が必要》であり、子育て支援の拡充は遅々として進みません。もう一つの労働力確保手段である外国人労働者の活用問題では、近年の日本政府のやる気の無さにさじを投げている感があります。


 2050年までのロングスパンで年齢別3区分の推移を見たグラフです。15〜64歳の生産年齢人口はOECDグラフにある2030年の先にもう一段さらに急速な減少が待っています。国立社会保障・人口問題研究所の推計は出生率中位を前提としていますが、最近の非正規雇用拡大は若い男性から結婚の機会を奪っており、出生率改善どころか更なる低下も考えられます。第474回「先進国で稀な人口減少と高齢化をグラフで見る」で先進7カ国でドイツ以外は日本しか人口が減らない特異さ、それを放置している政府の無為無策を描きました。OECDの対日審査提言が具体化される可能性は薄いでしょう。


先進国で稀な人口減少と高齢化をグラフで見る

 海外から移民を受け入れもしないし非婚・少子化対策に本腰を入れるでもない――先進国で稀な我が国の人口減少と高齢化の進行をグラフにすると、政府は無能で、そもそものやる気が無いと思われてなりません。政治家は言わずもがな、中央省庁の官僚たちも右肩上がりの時代の政策運営しか経験がないので、右下がりに転じて膨張を続けた財政など政策の始末をつける必要が生まれたのに呆然と見送っている感があります。

 ダイヤモンド・オンラインの《未曽有の人口減少がもたらす経済、年金、財政、インフラの「Xデー」(上)》には以前から気になっていた論点がたくさん含まれて参考になりました。例えば第461回「IMFは『失われた30年』認定、首相の強気は虚構」では2020年まで名目GDP推移が横ばいを続けるのが、国際的な日本経済の評価です。その後はどうなるかです。

 《どの程度の成長率になるのかというと、現在の実質1.0〜1.5%の成長率が、これから年々低下して、2020年過ぎにはマイナスとなり、その後は▲0.5〜▲1.0%のマイナス成長が続くであろうと思われます。その場合、先進国でマイナス成長となるのは日本だけです。つまり世界経済のなかで、日本経済だけが縮小します。労働者の減り方があまりにも大きいため、技術の進歩をもってしてもカバーし切れないということです》


 先進7カ国の人口推移を2000年から10年毎に2050年まで並べたグラフです(総務省統計局「世界の統計2015」から)。人口が減るのは日本以外ではドイツだけで、他の先進国は増え続けます。移民受け入れはするし、社会保障が手厚いから出生率が日本より高いのです。減少のドイツは50年間かけて1100万人減るくらいの緩いペースです。日本は2010年からの40年間だけで3100万人も減らす急激な人口減です。しかも、次の年齢別3区分の推移グラフを見てください。


 15〜64歳の生産年齢人口がまさに釣瓶落としに減ります。2010年の8173万人が2050年には5001万人にもなってしまいます。これは国立社会保障・人口問題研究所による将来推計です。働き手が39%も消えてしまえば、政府が言う「働く女性を増やす」方向への誘導など焼け石に水です。

 さらに2022年頃には生産年齢人口の2人で65歳以上の高齢者1人を支えなければならなくなります。2050年には1.33人で1人を支える状態まで突き進みます。年金の負担を考えると非常に厳しい事態です。他の先進国では2人強で1人を支えるところまでしか進みません。

 3月の『閣議決定の少子化社会対策大綱は甚だしい見当違い』で指摘したように、若い世代では半分を占め始めた非正規で就職の男性は結婚できる年収に届きません。これではますます結婚しなくなるばかりです。打つべき手を打たずに徒手空拳のまま――これが現在の日本政府であると申し上げましょう。


消費税を上げたら実質消費が縮んだ家計調査報告

 総務省の家計調査報告を見て、消費増税での消費者対策にマジックは存在しないと改めて感じました。家計の収入が増えていないから増税分だけ実質消費が減る――アベノミクスがどうだろうと無から有は産めないのです。消費は回復基調と言われても、増税分の壁は厳として存在するでしょう。サンプリングがいい加減なインターネット調査などをさんざん見せられた後で、きちんとした家計調査を手にすると胸に落ちます。《家計調査報告(家計収支編)―平成26年(2014年)平均速報結果の概況―》から以下のグラフを作りました。いずれも4月が増税時期だった前回1997年と今回2014年との月別比較です。


 2人以上の世帯での「消費支出(季節調整済実質指数)の推移」です。前回1997年は消費増税の裏で所得税の減税などがあって、庶民の実質的な懐具合はあまり変化しなかったとされます。ところが2014年は年間8兆円をそっくり国庫に取り上げてしまう増税でした。1997年グラフが消費の落ち込みをほとんど見せていないのも当然です。しかし、2014年は5月が「92.5」と大幅に落ち、12月になっても「96.5」ですから3%増税の壁の下に留まっています。

 2人以上の世帯の月平均支出額と実質増減率を過去5年並べてみます。

  2010  290244円  0.3%
  2011  282966円  −2.2%
  2012  286169円  1.1%
  2013  290454円  1.0%
  2014  291194円  −2.9%

 庶民は自分の財布にあるお金を使うしかないのです。「増税後、節約くっきり」とか、やや見当違いな報道がありましたが、使えるお金は使っています。また、厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、2014年は4年ぶりに給与総額が増えて0.8%増加と報じられました。それでも物価上昇も込にしてしまうと実質賃金は2.5%減でした。

 実質的な経済成長を成し遂げないまま次の2%を増税していけば、実質消費はさらに縮んで行くしかありません。安倍政権が経済成長に「第三の矢」と唱えて久しいのですが、どこにも見当たりません。国際的にも成長策が信用してもらえていないのは第461回「IMFは『失われた30年』認定、首相の強気は虚構」で明示した通りです。


本質に触れぬ働き方改革、メディアは理解せず

 日本人の働き方がこのままで良いのかと問われれば手直しは是非ものです。しかし「残業代ゼロ」が目玉になる厚労省改革案は本質を改めるものでなく、報道するメディアも表面をなぞるばかりで改革の視点を持ちません。この構図はウワツラの思い付き政策押し付けで大学の基盤を壊しつつある文科省の大学改革と似てきました。第435回「2016年に国立大の研究崩壊へ引き金が引かれる」で憂慮したのと歩調を合わせて、労働の現場でも来年から大きな崩壊がありそうな気がしてなりません。

 6日に出された「残業代ゼロ」となる働き方の創設など厚労省報告案について、日経新聞の《日本型労働に風穴〜生産性向上へ厚労省報告書案 脱「年功」、企業の課題》は「脱・時間給」と読み替えて明確に応援団です。《内閣府の推計によると、このままでは日本の労働力人口が2030年までにいまより約900万人減る。労働力が少なくなるのを補おうと労働時間を延ばせば、家庭がおろそかになって少子化に拍車がかかるおそれがある。メリハリのきいた効率的な働き方を広げて、生産性を上げるしかない。脱・時間給の対象も、厚労省が示した5職種から広げる必要がある》。一方、朝日新聞などの報道は労働側の反発を伝えるだけの皮相なものです。

 問題の核心を個人の働き方感覚に見るのは間違いです。ジョブとして仕事の中身を明確にし企業と契約を交わしている欧米の労働者と違い、日本企業では正社員というメンバーになることしか決まっていません。日本のメンバーシップ型だと仕事はいくらでも増やせるのです。

 《メンバーシップ型日本教師の栄光と憂鬱》の例を見れば分かりやすいでしょう。経済協力開発機構の中学校教員の勤務状況調査を取り上げて、国際的比較では《日本の教師が、教師のジョブの中核であるはずの教える時間(teaching)がとても少ない方なのに、事務仕事(Administrative work)がとても多く、とりわけ課外活動(Extracurricular activities)が飛び抜けて多い》と論じます。今回、「残業代ゼロ」となるやや高給な専門職が教員のような仕事の押し付けから逃れられる法律的な保証はありません。

 非正規雇用の問題も本当の「同一労働同一賃金」になっていれば、低い給与が改善される可能性があります。ところが、メンバーシップ型に慣れきっている日本の管理職は、業務全体をジョブとして切り分ける能力に欠けます。いざとなれば「総動員して何とかこなしてしまえ」です。業務の切り分けが生産性を上げる道であるはずで、日本の働き方が根本のところで変わらなければならない時期に来ています。第384回「結婚も離婚後も危うい非正規雇用の給与格差」の問題にも効いて来るのです。


IMFは『失われた30年』認定、首相の強気は虚構

アベノミクスが成長を達成と言えるのか、IMF(国際通貨基金)が昨年10月に公表したGDP推移見込みをグラフにすれば現実は『失われた30年』が認定されたも同然です。首相の強気は国際的評価を知らぬ虚構です。下に掲げる日米中3国の名目GDP推移をご覧ください。バブル崩壊があった1990年代初頭から今回のIMF予測の最終年2019年まで30年間、日本のGDPは5兆ドル前後に張り付いたままです。成長を続ける米中との差は歴然です。


 データはIMFの「World Economic Outlook Database」から採りました。米ドル建ての名目GDPは「実質成長プラス物価上昇プラス対ドルレート上昇」の3要素で出来ています。民主党政権時代は猛烈な円高でGDPが押し上がっていましたが、安倍政権になってからの円安で2012年の59378億ドルが2013年に48985億ドルまで下がりました。2019年には10%伸びて54333億ドルまで戻すと予測されるものの、物価上昇を年に2%見込むなら実質成長分はほとんど無くなります。国際的に第三の矢など信じられていません。

 2010年に中国が日本を抜き去り世界第2位になり、ほんの4年後の2014年には中国は日本の2倍半規模にも達しました。大きな実質成長率に5%前後の物価高と元高が毎年加わって実現したのです。これに対して安倍政権になって成長率がプラスだった時期はわずかしか無い有り様です。「アベノミクスの果実を広く国民に」と喧伝している果実が見当たりません。政府が経済界に要望している賃上げの広がりを期待するほど楽観的になれません。

 為替を円安に振って物価を上げることでデフレ脱出と称しながら、企業輸出や生産は増えません。増税への景気対策として財政支出が膨らむばかりです。JMM(Japan Mail Media)メルマガの特別座談会「アベノミクスと日本の現在」で河野龍太郎・BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミストがこう厳しい批判をしています。

 《私は2013年の終わり、もしくは2014年の初頭からアベノミクスはもう破綻していると思っています。山崎さんが消費増税はやってはいけなかったとおっしゃって、それは増税のあった4〜6月、7〜9月がマイナス成長になっているからだと思うのですが、実は過去1年で、プラス成長になったのは、消費増税前の駆け込み需要が起こった去年の1〜3月だけなんです。あとは2013年の10〜12月からマイナス成長でした》

 《前政権がビジネスにまったく無関心だったので、今回の政権はプロビジネスでいいと思っている人がいるのですが、私からすると、既存の企業をサポートすることで新規参入のハードルを高めているだけなので、政府がやるべきことは、新規参入のハードルを下げる規制緩和だけだと思っているんです。この文脈で、繰り返しになりますが、財政政策や金融政策で極端なことを続けてしまうと、結局は既存の企業をサポートするだけになる。この20年間の極端な財政政策や金融政策の継続や長期化が、めぐりめぐって新規参入を阻んでいると思います》

 既存の企業や高齢者に顔を向けた実に古めかしい政策が幅を利かせ、真に新しい成長戦略など見当たりません。第435回「2016年に国立大の研究崩壊へ引き金が引かれる」で指摘したように、本質とは乖離した薄ぺらな効率化施策ばかりです。おまけに次世代の若者対策などはほぼ後回しです。

 最初のグラフに見る中国の問題も考えておかねばなりません。この調子なら2024年に名目GDPで中国が米国抜くとの予測が米調査会社から昨年語られました。2008年の北京五輪からの5年間で大気汚染がどれほど進んだことか、第412回「中国重篤スモッグの巨大さが分かる衛星写真」で見ていただく通りです。2008年に比べてGDPは2013年までで2倍になり、2018年には3倍にもなります。現在でも手に負えない汚染物質の増加なのに、過去5年分がこれから汚染物質ひと山も積み上がるなんて信じられません。資源浪費と汚染拡大の経済成長を許してはなりません。

 また中国には社会の急速な老齢化がビルトインされています。第378回「日本に続き中国も超特急で超高齢社会へ突入予定」で示しているように、日本に30年遅れで追随しています。2025年には中国も高齢社会に突入なのですから、調査会社の予測通りになるか疑問を持っています。2025年の段階では生産年齢人口に対して65歳以上人口は2割にもなり、年金資金の蓄積に乏しい中国社会は悲惨な状況に陥るのではないかと思われます。


無党派層は政権交代までも安倍政権を脅かすか

 自民党支持層まで納得がいかない解散総選挙。強力野党が存在せず自民1強であっても、安倍政権の2年間で自民党を離れて急速に拡大した純・無党派層の投票動向によっては、政権交代までも起き得ると見られます。無党派からの異議があれば、沖縄や滋賀など首長選挙で続いている与党敗北のように小選挙区すら万全ではありません。比例区についても朝日新聞と読売新聞の緊急世論調査では政党支持率に近い回答結果が得られていますが、実際の得票率は政権を持っている側に厳しい結果が最近の国政選挙で続いています。


 多くのメディアは政党支持の質問は1回きりですが、日経新聞は「支持政党なし」「いえない・わからない」と回答した人にさらに「どの政党に好意を持っていますか」と質問して「弱い支持」模様を引き出し、最初の「強い支持」に加算して政党支持率としています。上のグラフはその集計による支持率推移です。政権発足後、昨年10月の消費増税決定までは、非常に多くの無党派層を自民が取り込んでいました。昨年12月の安倍首相靖国神社参拝、この7月の集団的自衛権の閣議決定と反発を招く節目を追って、無党派層の自民離れ、純・無党派化が進みました。

 政権交代があった2012年12月総選挙、やはり自公で大勝した2013年7月の参院選の当時では無党派層は20%も無く、現在とは全く違う支持模様になっています。今では自民支持率37%に対して無党派層が45%の逆転状態が定着しました。この間、民主党支持率は6%前後と低迷を続けました。首長選での与党敗北は無党派層の自民離れと大膨張の基盤があって起きていると考えられます。強力野党がなく、野党の選挙協力も不十分である点で自民が有利との見方もありますが、政権を失った際の民主党の不人気ぶりを考えると「自民対民主」の構図にならない「自民対野党」の方が無党派層は動き易いでしょう。

 最近の国政選挙での政党支持率と実際の選挙結果の違いについては第372回「自民の超大勝を有権者は望んでいなかった:参院選」でグラフを掲げています。例えば昨年の参院選ではNHK世論調査で42%もの支持率を持つ自民が比例区で35%程度の得票しか得ていません。NHK調査は日経と違い政党支持で「強い支持」だけを集計していますから、投票になると本当の自民支持層まで目減りしていると示しています。今回の緊急世論調査で比例区の投票先を自民としたのは、朝日新聞で37%、読売新聞では41%でした。朝日調査によるとこの時期の解散総選挙に自民支持層ですら半分近くが反対としており、足元が危うい中で比例区投票をまとめきれるか不透明です。

 なぜ総選挙なのか、納得出来ない「もやもや感」が広がっています。衆参両院で圧倒的多数を握る与党です。数の論理で何でも押しきれるのに重要課題に果断を示すこと無く、ずっと続いてきた「決められない政治」を脱却できませんでした。それがここに来て少なくとも与党議席を減らすことが確実な解散に打って出る不思議です。来年になって総選挙をしたら負ける可能性が高まるから、準備出来ていない野党に先手を打って今後4年間の長期政権維持を確実にしたい――安倍首相の本音はそんな打算でしかないと透けて見えます。自民離れした純・無党派層が首相の勝手な思惑にどう反応するか、呆れ果てて投票率が大きく下がるのでなければ最終結果はまだ見えていないと言えます。

 原発再稼働などなし崩しにされてはならない問題も争点と認識すべきです。無党派層は若い世代や女性に多く、朝日調査で安倍政権の経済政策について無党派層では18%対46%で「失敗」が「成功」を上回っている認識ぶりも見逃せません。中間層以下の庶民に安倍政権の2年間は冷たく、富裕層や大企業優遇だったと言われても仕方ないでしょう。


日中敵意の連鎖、止むどころか増幅の恐れ大

 2年半ぶりの日中首脳会談、両首脳の情けないほど悲惨な表情の握手写真ばかりが印象に残りました。友好の輪が拡大するどころか、日中間で敵意の連鎖の方がさらに拡大する今後を暗示していたと理解すべきでしょう。国内メディアは詳しく伝えませんでしたが、朝鮮日報が引用した国営新華社通信の南京大虐殺教育全国拡大報道は深刻なものです。反日映画やドラマが氾濫している現状の上に、小中高校での教育に取り組むというのですから、反日意識の刷り込みは強烈にならざるを得ません。南京大虐殺が存在した事実に違いはありませんが、中国側の並べる虐殺被害数字は非常に大きく設定されており、教育現場で「事実化」されるでしょう。

 中国は今年、「南京大虐殺追悼日」(12月13日)を初めて国の記念日としました。朝鮮日報の《笑顔なき中・日会談直後、中国の学校で「南京大虐殺」授業》はこう伝えました。

 《日本が南京で行った残虐行為を記録した小中高校教科書を作成・配布した。小学校教材の名前は「血火記憶(血と火の記憶)」、中学校教材は「歴史真相(歴史の真相)」、高校教材は「警示思考(警告に対する考え)」だ。小学校では9月から授業に入っており、高校でも年末ごろには始まる予定だ》《中国国営の新華社通信は14日「現在は南京のある江蘇省の中学校でだけ『歴史の真相』を学んでいるが、近く全国の中学校でこの教科書を使用する予定だ。南京防衛戦闘や戦後審判などの歴史を綿密に記録している」と報じた。中学校の教科書だが、日本軍が行った大虐殺・強姦(ごうかん)・放火などを写真と共に紹介しているという。南京外国語中学校のウィ・ウェイ主任は「生徒たちが衝撃を受けないように教科書の文章や写真や慎重に選んだ」と語った》

 「生徒たちが衝撃を受けないように」との表現が含意しているどぎつい内容は容易に想像できます。2012年の第320回「中国政府主導だった反日デモと愛国教育の正体」で暗い将来を予測しました。現在、表面上は反日デモは収まっても、もっと舞台深くで暗転が進むと考えなければなりません。

 朝日新聞が《(インタビュー)政治化するナショナリズム 米シートン・ホール大学准教授、汪錚さん》で今更感があるものの愛国主義教育運動を取り上げました。

 《「1949年以降の毛沢東時代は、階級闘争から中日戦争を語っていました。戦争は日本の資産階級と統治者が起こしたもので日本人民も被害者だ、人民の中国は勝利者だ、と」「ところが執政党(中国共産党)は、天安門事件と東欧の共産主義国家の崩壊で大きな衝撃を受けました。民主化運動は鎮圧したが、人々の信認や支持を失った。社会主義や共産主義も含めて(統治の)合法性に極めて重大な挑戦を受けた。中国社会の核となる『信仰』が真空となり、それを埋めようとトウ小平氏が、歴史の物語を変えたのです」》

 《「人民による階級闘争ではなく、国家と国家、民族と民族の闘争に勝ち抜いたのが共産党である、と。その中核をなすのは、共産党がなければ国は独立できず、再び外国からばかにされ、分裂してしまう、という点です。歴史は勝利者から被害者の物語に変わり、中国の人々と国家が戦争で受けた苦難や血なまぐさい暴力が強調され始めました。そして、この物語に基づいた愛国主義教育運動を始めました。愛国とはいえ、愛党運動です」》

 「中国は、ナショナリズムが両刃の剣であることを知る必要があります。日本が歴史教育を薄めていくことに反対すると同時に、自国の歴史教育も反省すべきです」との主張ながら、現実の方は上に述べた通り残念ながら逆行することになりそうです。言論NPOと中国日報社による日中共同世論調査では、相手国に良くない印象を持っている人は日本側が過去最悪の93%、中国側は86.8%に上っています。時事通信が新華社通信(英語版)から伝えた首脳会談後でのネット利用者20万人対象の対日意識調査も83%が日本に否定的とされています。


核燃サイクル推進の読売も見放せぬ原燃に苛立ち

 核燃料再処理工場(青森県六ケ所村)の完成予定が2016年3月に延期されました。1997年完成予定でしたから20年遅れが視野に入り、推進の読売新聞ですら冷えた態度ありありで苛立ちを隠せなくなったのが印象的です。朝日や毎日が淡々と伝えたのに読売が完成時期の不透明ぶりを強調したのは、第448回「死に体の核燃料再処理、政府の救済人事も無理か」で指摘した、民間企業ながら国策として存在する日本原燃の甘え体質が我慢の限界を超えつつあるからでしょう。認可法人化して政府が強力にドライブすべきとの議論が高まりそうです。

 《再処理工場完成延期 審査期間、なお不透明》は原燃側の言い分は書いた上で強い叱責を与えます。《主要論点の放射性物質や放射線が外部に大量放出される重大事故対策については「原発に比べて複雑だ。時間がかかる」(工藤社長)として、規制委の要求にかなう具体策をいつ示せるかも定かではない。原燃が耐震性を考慮する上で参考とする「出戸西方断層」や、活動性を否定する太平洋沖の「大陸棚外縁断層」の本格的な議論もこれからだ。関係者からは「いつ審査が終わるかは誰も分からない」(規制庁関係者)との声も出ている》

 《エネルギー資源を海外に依存している日本にとって、ウラン資源の有効利用などの利点を考えれば、核燃料サイクルは重要な政策だ。核燃サイクルの要となる再処理工場の稼働に向け、規制委は審査の迅速化を図るべきだが、原燃も万全の対策を講じて真摯に説明を尽くさなければならない》

 重大事故対策で原子力規制委から出された多数の疑問に回答はゼロに等しく、大問題の地震対策についてはこれから議論が始まる段階ですから、事情を知っている記者なら1年半の延期期間で具体的な対策を示し、対応する改善工事が出来るとは到底思えないはずです。

 青森地元紙の《電力各社、高まるリスク 原燃認可法人化議論に影響も/再処理工場完成延期》は《経済産業省は2016年4月にも始まる電力小売り全面自由化を見据え、同工場の事業主体である日本原燃について、認可法人化を検討中だ。原燃に出資する電力各社の経営リスクを遠ざけるのが狙いとみられるが、今回の延期は、電力会社にとってリスクを上積みした結果となり、経産省内の議論に影響を与える可能性もある》と報じました。

 《工場の廃止措置や返還放射性廃棄物の管理などを含め、再処理事業に必要な費用は約12兆円。だが、電力各社の積立金は現在2・5兆円にとどまる。従来の地域独占が崩れ、厳しいコスト競争下に置かれた場合、巨額の費用負担は各社の重荷になりかねない》との主張や読売の書き方に経済産業省の意向が反映していると見られます。しかし、こうした「体制内」的な叱咤激励はあまりに遅すぎたと申し上げます。再処理工場はやはり駄目だったと見込んで、大量に貯まっているプルトニウムや使用済み核燃料の処分など核燃サイクルを看取る準備に掛かるべきです。


兼業稲作農家の退場迫る。傍観のメディアよ動け

 3割にもなる米価大幅値下がりが稲作経営を直撃しています。零細な兼業稲作農家は退場するしかない局面なのに、マスメディアは政策に斬り込みません。コメ作りを支える専業農家には保護策があり、傍観する姿勢です。米価と言っても消費者への小売価格ではなく、集荷する農協が農家に払うコメ代金概算金です。店頭価格も下がっているものの「3割も下落」とは聞きませんから中間にいる農協の取り分が肥大していると推測でき、農協も農家の存在を本当には心配していない怪しい事態です。政府は稲作の構造改革を正面から議論する気はなく、農協と波風立てずに流れるままにしておきたいと見えます。これにメディアも同調していては困ります。

 農業協同組合新聞の《米価下落で緊急要望 北海道東北地方知事会》に、政府の「心配はない」とする対応ぶりが出ています。

 《西川農相は、収入減少影響緩和対策(ナラシ対策)について米価が「1万5000円」基準で交付が考えられていると現在の仕組みを説明。「概算金が8000円、9000円でも米価が1万3500円まで回復したとして、1万5000円との差額の1500円、この9割を補てんする。つまり、1割の150円だけが減るということ。(この)ナラシ対策で対応したい」と話し、また、ナラシ対策に加入していない生産者は26年産に限って国庫で差額の5割を補てんする予算も要望していると指摘したうえで、「現実には概算金が低くても農家の手取りには影響しない。こういう仕組みだからあまり心配されなくていいと思う」と吉村知事の要請に応じた》


 農水省ウェブから引用した収入減少影響緩和対策の仕組み図です。農協の概算金が事実上の米価である実態があっても、いくら下がろうと過去収入との差額を9割まで補填する保険のような仕組みが4ヘクタール以上の専業農家などには出来ています。その過去収入がコメ60キロ1万5000円と算定されており、今年産米に限っては対策に加入していない零細農家にも、今年の収入との差額半分の国費補填を考えるというのです。

 しかし、河北新報の《14年産米 概算金暴落/東北の農家懸念 減反廃止でさらに下落も/農政激変 東北から》に《東北農政局によると、コメ60キロ当たりの生産費調査(12年産、地代などを含む)は平均1万4094円、耕作面積5ヘクタール以上の大規模農家で1万1432円。14年産米の概算金はほとんどの品種がこれを下回った》とあります。

 全国的に概算金が60キロ当たり1万円を超えた品種が数えるほどしか無かったのですから、生産費が高い零細農家は来年からは稲作を続けられません。今年の収支を国の臨時措置でしのげても、来年以降は全く違います。もう先祖の水田を守るためだけの零細稲作は不可能です。一方、大規模農家は収入減少影響緩和対策で取り敢えず営農継続が可能でしょう。

 経済専門紙の日経が両者の差を書き分けないのは不思議です。《米価下落、コメ農家に廃業の危機》はミスリードになる記事です。《日本人の主食であり、ずっと農業と農政の中心にあり続けた「聖なる作物」、コメが重大な転機を迎えた。きっかけをつくったのは農協だ。今年とれたコメに払う代金を大幅に引き下げ、各地の農家に動揺が広がっている。採算割れに直面したコメ農家が稲作をあきらめる可能性が出てきた。「このままでは稲作を続けられなくなる」。千葉県のある大規模農家はこう嘆く。農協の上部組織、全国農業協同組合連合会(全農)が農家に示す「概算金」は千葉産のコシヒカリの場合、60キログラムで9000円。去年より2700円少ない》

 その後も補助金が拡充された飼料米作りへの転換も出口にはならない、今までの政策の延長では駄目と指摘するばかりです。編集委員の署名記事なのに、具体的にどうすればいいのか、提言がありません。

 2007年の『専業農家の救出を急がねば稲作は崩壊』では専業農家にセーフティネットが必要と議論しました。一応のセーフティネットが動く今、零細農家が米価大幅下落で稲作を放棄するこのチャンスに水田を大規模農家に集約するべきです。さらに大規模農家には、欧米のような財政による農家への直接支払いで支援する仕組みに転換すべきなのです。減反など効率が悪い巨額の補助金で成り立っている農政を抜本的に改め、農業の高コスト体質に責任がある農協にも全面的に出直してもらい、専業農家には思う存分に作らせて消費者には安いコメを届けるビジョンを示すのが、この秋のメディアの仕事と考えます。


死に体の核燃料再処理、政府の救済人事も無理か

 青森県六ケ所村の核燃料再処理工場が長期の完工延期に追い込まれそうです。原子力規制委による新規制基準に適合が困難なためで、政府が規制委員に推進派の元原子力学会長を送り込んでも無理を通すことは出来ません。工場の原型である原研機構・東海再処理施設が新規制基準適合には1000億円以上掛かるとして廃止を決めているのに、六ケ所再処理工場は大規模な改修なしで適合審査に臨んでいます。日本原燃は2016年春ごろまで完工を延ばすつもりと言われますが、審査により工場設備の改造が必要になるのは確実ですから設備設計・認可・施工がそんなに短期間で済むはずがありません。核燃料サイクルの中核施設はいつまで経っても完成しそうもなく、やはり稼働が絶望的な高速増殖炉「もんじゅ」と共に核燃サイクル撤退を真剣に考えるべきです。

 再処理工場はもともと1997年完工予定だったのに、これまでに20回の完工延期を繰り返してきました。純粋な民間企業ならあり得ない失態ですが、国策会社として許されてきました。福島原発事故による原子力規制強化にもこれまでのような甘えで対処した実態が《原燃再処理完工「新工程を検討」》に出ています。《原燃は再処理工場の完工に向け、1月7日に規制委に適合性審査を申請。審査期間を6カ月、使用前検査などに4カ月かかると見込み、10月完工を設定した。ただ、規制委から申請書の不備を指摘されるなど審査対応に手間取り、審査は現在も続いている。重大事故対策について補正申請が必要となっているほか、地震対策の審査でも複数論点を積み残している》

 適合審査の現状は《再処理施設 前回までの審査会合における主な論点と対応について》にまとめられています。重大事故についての項目が多数あるのにほとんど対応できていない点が目につきます。規制委が出した疑問に全く答えられず、どんな重大事故を考えるべきなのか、その第一歩から出来ていません。実際には各種重大事故を具体的に想定して現有設備で足りなければ改造なり追加なりしなければならないのに、そこまで進んでいません。「申請書の不備を指摘」といった生易しい審査状況ではないのです。審査開始直後のやり取りを書いた第407回「核燃料再処理工場の不合格確定、核燃サイクル崩壊」の延長上で進行しています。

 核燃料サイクル推進の研究者である元原子力学会長の田中知氏が9月から審査担当の規制委員になりました。政府が委員に押し込んだのは、自分の専門分野を駄目と言うはずもないからでしょうが、審査状況はちょっと色を付けて規制強化したと誤魔化せるような段階から遥かに進んだと見ます。ただ、前任の更田豊志委員が厳しく踏み込んだ論点をぼかしていかないか、注視する必要があります。こんな利益相反人事をマスメディアが厳しく批判しないのも驚きです。

 この「救済」人事に加えて政府は日本原燃に国の関与を強める方策を考え始めました。北海道新聞が社説《核燃料サイクル 延命より撤退の議論を》で「本来、撤退を含め抜本的に見直すのが筋だが、政府の後ろ盾で存続させるというのである。事実上破綻した事業を国民負担で維持するような案は、断じて認められない」と批判しました。

 「もんじゅ」については第353回「高速炉もんじゅ稼働を絶望にする安全設備要求」で規制対策は不可能であると指摘しましたし、核爆発を起こす恐ろしい「炉心崩壊事故」があり得ます。技術的に行き詰まっている核燃料サイクルを政府が引っ張り続けるのは、撤退となったら大量に貯まっているプルトニウムや使用済み核燃料の処分などの難題に手を付けねばならないからです。官僚任せにして進むはずもなく、政治的な決断をすべき時が迫っています。


成長戦略なき安倍政権は再増税で国を潰す恐れ大

 有力な安倍応援団、日経新聞まで「実質マイナス成長で再増税できるのか」と書き出しました。打ち出されるはずの「第三の矢」の核心が希薄なまま、無理矢理の財政出動に走って辻褄合わせする未来が見え始めました。多くのエコノミストは財政再建の見通しをつけるために再増税の目は消したくないと自縄自縛に陥っています。その中でBNPパリバ証券の河野龍太郎氏は《コラム:アベノミクスに転換迫る「不都合な真実」》で「政府は2%の潜在成長率の目標を掲げているが、無謀と言わざるを得ない。今後の純資本ストックや国民純貯蓄の動向を考えると、潜在成長率はそう遠くない段階で、マイナスの領域に入る可能性がある」と痛烈な批判を浴びせました。

 日経の《実質マイナス成長で再増税できるのか  編集委員 滝田洋一》は4〜6月期が年率マイナス7.1%に下方改定を受けて「政府は2014年度の実質GDPについて、前年度に比べ1.2%の成長を見込んでいるが、下方修正は必至だ。1.2%成長するというのは、13年度の4四半期平均で528.9兆円だった実質GDPが、14年度は535.2兆円に増えるという意味だ。なのに4〜6月期のGDPは年換算で525.3兆円まで減ってしまった。政府のもくろみ通り14年度に535.2兆円のGDPを達成するためには、7〜9月期以降の3四半期は、年換算で平均538.6兆円を稼がないといけない」と、ほとんど駄目を出す形になっています。

 それでも応援団の立場上、「幸いにも、14年4〜7月の税収実績は上振れしており、国債発行に頼らずに補正予算を組むことは可能だ。財政政策に合わせて追加の金融緩和に踏み切れば、景気下支えの効果は大きいだろう。潜在成長力を高める成長戦略を急ぐべきなのはいうまでもない」と期待をつなぎます。

 既に経済財政諮問会議の民間議員である伊藤元重東大教授が《消費再増税を前提に今年度補正を》で「消費増税で経済が悪化するという心理効果が出るといけない。補正を打つなら年末だ。補正をやるというメッセージが重要だ」と主張しています。安倍首相が執念を燃やす来年度からの法人税引き下げについては「仮に消費税を上げないという決断になれば、当然、法人税を下げるのは難しい」との見通しを述べています。

 今年度で0.1%マイナス成長を予測している河野氏は財政出動のような小手先の対策が効く局面ではなくなっているとの立場です。「10―12年度の潜在成長率は0.3%まで低下したと述べたが、寄与度を分解すると、労働投入がマイナス0.4ポイント、資本投入が0.1ポイント、全要素生産性(TFP)が0.6ポイントとなる。今後も労働投入が年率0.8ポイント程度で減少することを考えると(寄与度はマイナス0.6ポイントまで悪化)、資本投入とTFPを高めていかなければ、0.3%の潜在成長率を維持することは難しい」と、生産年齢人口が減り続ける基調の影響が大きいと指摘します。

 国民純貯蓄は社会保障費の膨張に食われて資本投下に回る余裕がなくなっており、さらにまともに評価できる成長戦略が出てこない以上、全要素生産性が改善されるはずもありません。無理矢理の財政出動をしても建設業など人手不足で予算消化がおぼつかない有り様になるでしょう。結果として財政規律は今以上に緩み、何のために増税しているのかすら分からなくなるだけです。

 先日の第444回「安倍政権は科学技術立国を破壊:企業特許に大学」は勝算もなく思いつきで大学や企業の研究開発に手を突っ込む安倍政権と官僚の姿を描きました。年収1000万円以上に限っての「残業代ゼロ」施策導入といい、結果に責任を取るつもりもなく火遊びをしているようにしか見えません。本来なら大学は成長戦略の柱になり得るのですが、先進国で日本だけ特異な研究論文数減少傾向で明らかなように政策失敗の場になっています。


安倍政権は科学技術立国を破壊:企業特許に大学

 朝日新聞が社員が発明した特許を無条件で企業のものとする政府の方針転換を報じました。安倍政権の発足以来、国立大の研究を崩壊させる施策が加速、企業の研究でも意欲を奪うので科学技術立国の基盤が失われます。順調に国力が伸びていた時代とは違い、大学にも企業にも余力がありません。この状況で勝算もなく既存のバランスを大きく崩す政府のやり方は自殺行為ですが、何かを変えた実績を誇る政策セールスマンばかりになった中央省庁官僚には痛くも痒くもありません。10年後にどうなっていても、誰も責任を取らないで済むからです。

 《特許、無条件で会社のもの 社員の発明巡り政府方針転換》は《政府は、社員が仕事で発明した特許を「社員のもの」とする特許法の規定を改め、無条件で「会社のもの」とする方針を固めた。これまでは、十分な報償金を社員に支払うことを条件にする方向だったが、経済界の強い要望を踏まえ、こうした条件もなくす。企業に有利な制度に改まることになり、研究職の社員や労働団体は反発しそうだ》としています。特許庁は来年の通常国会に特許法改正案を提出する構えです。

 2005年の『青色LED和解で理系冷遇は変わるか』で紹介したように、中村修二氏の青色発光ダイオード訴訟が和解した結果、文系に比べ冷遇されてきた企業研究者に特許について得られる報酬の相場感が出来てきたところでした。中村氏が国際学会などの場で欧米研究者に社内待遇を話すと「お前は奴隷か」と驚かれたそうです。その後の経済成長足踏みを見ても、企業が研究者待遇を劇的に改めたとは思えません。特許が無条件で会社のものになれば研究者のインセンティブは大きく減じてしまうでしょう。

 大学については世界のトップグループに伍していける少数精鋭だけ育てて、残りは切り捨ててよいとの判断が見えます。切り捨てる大半から人件費さえ削り取って、上位大学に集中投資すれば効率的だと政府は考えているのです。

 この問題を第435回「2016年に国立大の研究崩壊へ引き金が引かれる」とその続編第437回で検討しました。2004年の国立大学独立法人化を契機にして先進国で日本にだけ特異な論文数の減少が起きている上に、追い打ちを掛ける資金配分の傾斜化志向です。背景には研究評価が十分出来ているとの事実誤認があります。

 ドイツをお手本にして海外研究者を積極的に呼び込むつもりですが、ドイツでは同じ大学での教授の昇任は法律で禁止されています。米国ハーバード大は日本と似ていて同じ大学出身者が教授になるケースが多めながら、一度は外部の研究機関を経験させます。「旧七帝大」を中心にした学閥が堅固に維持され、内部持ち上がりで教授になる日本は、目利きの部分さえも学閥依存になっているのです。疑わしい「目利き」で傾斜配分されて効率的であるはずがありません。資源小国日本が生きる唯一の道、科学技術立国は幻になるでしょう。


ねじ曲げられる原発事故の反省、法外な安全対策

 福島原発事故の反省が風化していませんか――住民避難の指針だったSPEEDIが予算削減で格下げされることになりました。安全対策費用は原発資産総額を上回ってしまい、それでも原価算入して電気料金から徴収できると平気な顔です。時事通信世論調査では8月には「6割が原発再稼働反対」、5月には「脱原発志向、84%」と出ています。有権者の意識がはっきり読み取れるのに安倍政権は無視して再稼働に走るばかり。根本のところで政府と有権者には齟齬があり、その結果として福島事故反省のねじ曲げがまかり通るように見えます。

 朝日新聞の《SPEEDI、予算大幅減へ 放射線量の予測に限界》はこう伝えています。《福島第一原発事故で初期の住民避難に活用されず問題になった「SPEEDI(スピーディ)」(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)について、原子力規制委員会は来年度予算を半額以下に大幅減額する方針を固めた。放射性物質の広がりを即座に予測するには技術的な限界があるため、代わりに放射線量を実測するシステムを強化する。これまでSPEEDIを前提にしてきた自治体の避難計画は見直しを迫られることになる》

 《大量の放射性物質が放出されるおそれが生じた時点で、5キロ圏は放出の有無にかかわらず即避難。5〜30キロ圏は屋内退避を原則とし、実測値をもとに避難の必要性とタイミングを地域ごとに判断》と言われて納得するようでは福島原発事故をあまりに知らないと言えます。屋内退避になった南相馬市などは物資の流入が絶えて、住民は飢餓状態にすらなりました。多いところで30キロ圏に数十万人規模の避難対象住民を抱えます。食料供給など無理です。また、実測線量値が危ういレベルまで上がったら大混乱は必至です。

 西日本新聞の労作《原発安全対策に2・2兆円 40年運転では回収困難 電力9社アンケート》は、現在進められている新規制基準をクリアする安全対策の怪しさ・愚かしさを浮かび上がらせました。《電力9社が原発(47基)に投じる安全対策の総額が約2・2兆円に膨らみ》《原発の資産価値は9社総額で約2兆800億円。安全投資額も施設が完成した後に上乗せされ、資産価値は倍増する計算だ》。総括原価方式ならではです。運転年数の原則40年を稼働しても回収不可能が想定されるケースが発生、その場合は廃炉になっても引き続き電気料金から徴収して減価償却をします。

 例えば九電なら2100億円の原資産に3000億円超の安全対策を追加するのです。加圧水型の九電の場合は原子力規制委の審査をほぼパスしたので見通しは立っています。ところが、危険性が一段高いために審査が後回しになっている沸騰水型の東電などは手前味噌の安全対策が了承されるとは考えにくいのです。中部電の浜岡原発は1711億円に3000億円、中国電の島根原発は751億円に2000億円と資産に倍する安全投資です。安全性の面からも消費者負担増を避けるためにも、稼働を諦める決断をするべきです。

 2兆円と言えば、福島原発事故直後に東電の株価が暴落、ほぼ2兆7千億円の企業価値が失われた騒ぎを《最悪レベル7より日経の原発『見切り』記事》に記しました。大事故を起こせばこれだけの騒ぎになる原発はたまらない、経営の視点からも見切るしか無いという覚めた視点が3年半後の今は失われています。東電の事故責任と経営責任をウヤムヤにしたために、各電力は安直な原発延命策にすがりついています。

 【参照】第381回「福島原発事故、国家として原因不詳でよいのか」


安倍政権へ不満明確、総選挙は純・無党派の乱へ

 日経新聞が「無党派層が自民を上回る高水準で推移」と伝えています。日経方式の集計はいわゆる隠れ自民などを含まない純・無党派層で安倍政権に明確な不満があり、自民盤石と思われた次期総選挙に大波乱が必至です。最近の地方選挙で自公与党が立てた候補者が敗れるケースが相次いでおり、これは総選挙波乱の先駆けと見るべきです。民主など野党側の支持率は相変わらず低迷しているものの、小選挙区の比重が大きい総選挙で最大勢力になった純・無党派層が与党批判に回れば与党の過半数割れだって起き得ます。

 多くのメディアは政党支持調査で「支持政党無し」と「答えない・分からない」の回答分をまとめて無党派層としています。日経の場合は「支持政党なし」「いえない・わからない」と回答した人にさらに「どの政党に好意を持っていますか」と質問し、各党の支持率に上乗せしています。無党派と集計するのは2回の質問とも「支持・好意政党なし」とした非常に限定された層であり、「いえない・わからない」層すら含めていません。安倍政権発足以来の推移を日経集計と一般的なNHK集計をグラフにして比べました。



 当初は順調だった安倍首相の政権運営で、有権者の批判を呼ぶ節目になったのは昨年10月の消費増税決定、12月の靖国神社参拝、そして今年7月の集団的自衛権の閣議決定でしょう。どちらのグラフでも政党支持率に影響が読み取れます。この間に、自民支持層から多くが地滑り的に純・無党派に移行した状況が日経集計でより鮮明です。NHK集計でも無党派層が5割に達する勢いです。

 日経の《無党派層46%、高水準続く 本社世論調査》は《無党派層は若い年代で多く、20〜30歳代で58%、40歳代で61%に達した。女性では無党派層が51%で、男性の39%より多かった》と伝えています。若い層と女性から安倍政権は見限られたようです。もともと脱原発が有権者の過半を占める基調は変わっておらず、原発の再稼働を推進する安倍政権とは齟齬があります。

 無党派層の投票が国政選挙に与えた影響を第372回「自民の超大勝を有権者は望んでいなかった:参院選」でグラフ化してあります。このまま進めば、かつて無い大勢力になった純・無党派層が政党支持率の分布とは違う選挙結果をもたらすでしょう。時の政権側に厳しい結果になるトーンは継続していますから、野党側が弱体であっても前回総選挙のような自公圧勝は不可能です。


世論調査設計のお粗末でブレる集団的自衛権の賛否

 世論調査がこれほど恣意的に設計されて大きな政治判断を歪める例を知りません。集団的自衛権をめぐる調査は回答誘導にならないために選択肢を対称の形に設定する世論調査大原則を外し、自己正当化するから呆れます。3択方式で尋ねたメディアは「賛成優位」を報じ、2択方式の場合は「反対多数」になっています。3択の中間選択肢が「中立」でなければ調査する前から結果は見えています。

 毎日新聞は3択と2択の両方を実施して《Listening:<記者の目>集団的自衛権と世論調査=大隈慎吾(世論調査室)》で分析しています。

 まず読売・産経の中間選択肢を見てください。《読売新聞は、5月9〜11日の調査で「全面的に使えるようにすべきだ」8%、「必要最小限の範囲で使えるようにすべきだ」63%、「使えるようにする必要はない」25%だったことから「容認派多数」と報道した。産経新聞・FNNの調査(5月17、18日)では、「全面的に使えるようにすべきだ」10・5%、「必要最小限度で使えるようにすべきだ」59・4%、「使えるようにすべきではない」28・1%》

 バイアスが掛かったと言うよりも安倍政権の意向そのものを中間選択肢にしているのですから、政権御用達メディアの面目躍如です。産経は《2択方式の毎日新聞や朝日新聞、共同通信は、賛成が3割前後、反対が5割台後半となった。政府・与党が目指す「限定」に相当する選択肢がなく、「限定」と回答したい人が反対に回った可能性もある》との分析を1日付で出しています。世論調査大原則など眼中になかったと告白しています。

 毎日は4月《「全面的に認めるべきだ」は12%、「限定的に認めるべきだ」は44%、「認めるべきではない」は38%だったことから「行使『限定容認』44%」と報道》し、ついで《3月と5月の二択調査で賛否の割合はそれぞれ賛成が37%、39%、反対が57%、54%とほぼ変わっていない》とします。

 それでも国民世論の実態はそれぞれ映しているとの分析ですが、この中間選択肢も妥当でないとすぐに分かります。3択の中間にあいまい度が高い選択肢があると、そちらに誘導される傾向が強いのは調査経験者の常識です。各社とも勉強し直してください。

 【参照】ネット調査が世論調査の代わりになると誤解している方も多いようなので、第220回「京大さん、日経さん、ネット調査信頼は無茶」


原子力規制委員に前学会長は完全な骨抜き人事

 原子力規制委員に前原子力学会長の田中知・東大教授を推す国会同意人事案は規制の完全骨抜きを意図しています。同氏が中心の福島事故学会報告はみんなが悪かった、誰の責任でもないと原子力ムラの意向そのものです。原子力学会は「関西電力大飯原発3、4号機運転差止め裁判の判決に関する見解」で福井地裁判決を批判しています。学会報告で直接原因のみならず、根本原因まで明らかになっていると胸を張るのですが、報告を読むと小学生の作文のような無内容に驚かされます。マスメディアが学会報告を取り上げなかったのは当然ですが、こうした考え方の人物を原子力規制委員に充てる人事については明確に批判すべきです。

 学会見解は地裁判決の「事故原因が究明されていないとの指摘は事実誤認であります」と言い、明らかになっているとします。政府や国会など各種事故調の結論が一致しない中、原子力学会が専門性を発揮して切り込んでくれたのかと思いきや、学会ウェブにある報告の中身を見て愕然とします。

 事故の直接要因は「1. 不十分であった津波対策 2. 不十分であった過酷事故対策 3. 不十分だった緊急時対策,事故後対策および種々の緩和・回復策」とした上で、「過酷事故の現場対処に不手際が認められるが、それは事前準備に起因するもので、直接要因とは言えない」と具体的な問題点の指摘を一切しません。1号機の非常冷却システムの使い方を誰も知らなかったのも準備不足で片付けられるようです。誰が準備をしなかったか問われるべきですが、全ては「不十分」で片付けます。

 根本原因としては事故の背後要因を並べます。「専門家の自らの役割に関する認識の不足」「事業者の安全意識と安全に関する取組みの不足」「規制当局の安全に対する意識の不足」「国際的な取組みや共同作業から謙虚に学ぼうとする取組みの不足」など淡々と不足項目があがります。これでは不始末を犯した弁解書を書いているだけです。専門性のかけらもありません。

 これに対して、学会に批判されている地裁判決は例えば「いったんことが起きれば、事態が深刻であればあるほど、それがもたらす混乱と焦燥の中で適切かつ迅速にこれらの措置をとることを原子力発電所の従業員に求めることはできない。特に、次の各事実に照らすとその困難性は一層明らかである」と地震から始めて津波や外部電源喪失などを詳しく検証しています。真剣度は段違いです。

 田中氏が会長の原子力学会は事故当初から個人責任を追及しないよう声明で求めました。さらに『自分で福島事故を究明しなかった原子力学会』で指摘した通り、福島原発事故から1年間、何もしなかった無様を身内から批判されて、田中氏が委員長の学会調査委が立ち上がりました。それから2年掛けて「不十分」と「不足」でまとめたアバウト報告を出して平然としている人物が原子力規制委員に適任とは考えられません。全てを曖昧にしたい政府・原子力ムラの意向に沿った人事です。メディアは維新や民主の不同意の動きを報じるだけで済ませるべきではありません。

 【参照】第381回「福島原発事故、国家として原因不詳でよいのか」
     第309回「科学者・技術者への不信感と原子力学会の欺瞞」


骨太方針の寝言、人口減対策は男性正規雇用拡大を

 「経済財政運営の基本方針(骨太の方針)」の原案が明らかになり、人口減対策に本格的に取り組むと伝えられます。女性の育児・出産対策が柱とは相変わらずの寝言です。統計が示す有効策は男性の正規雇用拡大です。安倍内閣お得意の雇用の流動化はこれに逆行します。15〜34歳男性の有配偶率は、正規雇用が40.3%あるのに、非正規雇用は11.1%に過ぎません。出産の前提になる結婚そのものを増やさなくて何が人口減対策でしょうか。


 『結婚離れは非正規雇用増の結論避ける厚生労働白書』で取り上げた厚生労働白書のグラフ「年齢別・雇用形態別にみた男性の有配偶率の比較」を掲げました。非正規雇用の男性にはこれだけ歴然とした結婚のしにくさ、あるいは結婚に手が届かない収入の低さ・不安定さがあるのです。

 一方、読売新聞の《人口減克服、次の最大のハードル…骨太方針原案》はこう報じます。《デフレ脱却と経済再生の次に乗り越えなければならない最大のハードルとして「人口減問題の克服」を位置付けた。50年後も1億人の人口を保つため、抜本的な少子化対策を進め、人口減と低成長の悪循環を断ち切る必要があると強調した》《女性が育児をしやすい環境を整えるため、社会保障や税制など、あらゆる分野で制度を見直す》

 生涯未婚率予測を昨年の第368回「生涯未婚率は男35%、女27%にも:少子化対策無力」で示し、非常の多くの方に参照されています。5年ごと国勢調査の結果をもとに予測する手法であり、調査のたびに生涯未婚率が上がっています。結婚観や恋愛観などが変わった要因もあるでしょうが、近年の非正規雇用の拡大がベースになっていると考えざるを得ません。もし正規雇用へ戻すことが難しいならば、「同一労働・同一賃金」の原則に従って非正規雇用収入の底上げを目指すべきです。


原子力規制委は安倍政権の圧力に屈しつつある

 福島原発事故の反省から独立組織になった原子力規制委が政府・東電の圧力にさらされています。原発建屋を取り巻く「凍土遮水壁」に否定的だったのに一転して認めたり、厳しい地震対策を求めた島崎委員が退任です。原子力規制庁職員は原子力推進の出身省庁には戻らない「ノーリターン」を原則にしたはずが、発足から1年半の4月1日までに職員132人が出身の経済産業省や文部科学省などに戻っており、既に原則は形骸化しています。出来たばかりの規制組織が早くも疑念を持たれる有り様です。

 凍土遮水壁については第423回「行き詰まる福島事故原発建屋の遮水壁での隔離」でまとめた通り、4月の検討会は大荒れであり、日本陸水学会からも強い異論が出されていました。

 ところが、《凍土壁、来月着工へ=規制委で異論出ず−福島第1》はこう報じました。《原子力規制委員会は26日、外部の専門家らによる検討会を開き、安全性を議論した。専門家から大きな異論は出ず、予定通り6月中に着工される見通しとなった》《専門家からは「全体的には合理的と考える」と東電の説明を評価する意見も出て、座長役の更田豊志委員は「東電に一部(工事に)着手する考えがあれば、妨げるものではない」と述べた》

 朝日新聞によると「地下に配管などの埋設物がある場所については、まだ着工を認めない。建屋内の汚染水が地中に流出する危険性は、今後も検討を続ける」と一応の制限付きです。しかし、遮水壁が出来て地下水が遮断されれば原発建屋地下にある非常に高レベルの放射能汚染水が建屋周辺地下に溢れ出すのは避けられません。電気で維持される凍土遮水壁に停電でもあれば遮水機能を失い、大惨事になります。

 島崎委員退任は《規制委員に元原子力学会長ら 「審査厳格」の1人退任》でこう伝えられました。《安倍内閣は27日、原子力規制委員に田中知(さとる)・東京大教授(64)=原子力工学=と石渡(いしわたり)明・東北大教授(61)=地質学=を任命する国会同意人事案を衆参の議院運営委員会理事会に示した。田中氏は日本原子力学会の会長を過去に務め、原発は必要との立場。一方、審査が厳格だとして再稼働を求める議員らから交代を求める声が出ていた地震学者の島崎邦彦委員長代理(68)は退任する》

 原子力推進の安倍政権から圧力が掛かっているのは明白です。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー
     「《美味しんぼ》騒ぎの本質は福島県への不信任」
     第424回「福島原発廃炉は実現不能まで含めた見直しが必要」


来年は一気に日本並み原発容量、中国は大丈夫か

 中国の原子力発電が急拡大、2015年には一気に日本の48基並み発電容量になる。福島原発事故による足踏みを脱して大型新型炉ラッシュだ。未経験炉に運転員の即席養成、運営の透明性不足、安全確保には疑問符だらけ。3月に運開した広東省・陽江原発1号で18基1586万キロワットの現状を、来年には40基4000万キロワット、2020年までには6000万キロワットにする計画が進む――朝日新聞WEBRONZAスペシャルで、タイトルの記事をリリースしました。

 インターネットで読み解く!第419回「新型炉ばかりの中国原発、安全確保に大きな不安」を一般向けに大幅加筆しました。中国政府は福島原発事故後の安全性検討から新規の原発計画は第3世代加圧水型炉「AP1000」に一本化する方向に変え、国産の第2世代改良型炉「CPR1000」は落第になりました。しかし、大量に建設中だった同炉が次々に運転開始です。来年で倍増の急ピッチぶりは非常識なほどです。透明性が疑われるエピソードとして次のような件も入れました。

 《米クリスチャン・サイエンス・モニター紙が「3.11」の1年後、2012年3月に伝えたエピソードが象徴的だ。国会に当たる全人代開催にあたり記者会見が持たれた。福島原発での炉心溶融事故を受けて中国の原発についても安全性がレビューされた。国営原子力建設会社のトップが当時は14サイトだった原発について、「いずれにも問題が見つかり、解決を要する。対処には3年かかるケースもある」と述べた。ところが、居合わせた記者たちは誰もそれ以上、詳細に問い質そうとしなかったのである。メディア報道が権力と馴れ合っている国では、例えば原発事故があっても真実が伝えられるか疑わしい》


エネルギー基本計画合意、虚構破綻は見えている

 エネルギー基本計画で自公与党合意、近く閣議決定が伝えられました。福島原発事故の反省に立つと言いつつ、原発ゼロを放棄、核燃サイクルを維持します。従来から守る虚構が目の前で破綻しようとしているのにです。「原子力発電は重要なベースロード電源」だから原発再稼働ですが、立地自治体にカネをばらまく仕組みではもう不可能です。事故時避難計画の対象が30キロ圏135市町村に大幅拡大した今、周辺自治体の同意取り付けは大間原発差し止め提訴の函館市のように困難になりました。核燃サイクルの中核、再処理工場は原子力規制委の新規制基準審査会合で重大事故への備えが欠落していると指摘が続いています。

 NHKの《函館市が大間原発差し止め提訴》は《訴えの中で函館市は「安全性が確保されたとは言えず、事故になれば自治体の機能が失われるほどの大きな被害を受ける」などと主張しています。合わせて「函館市は事故の際に避難などの対象となる半径30キロ圏内に含まれており、函館市が同意するまでは建設をやめるべきだ」と求めています。自治体が原告となって原発の建設差し止めを求める裁判を起こしたのは、全国で初めて》と伝えました。

 昨年末の『原発事故時の避難計画、具体化するほど無理目立つ』で指摘しているように、20万人以上を避難対象にする自治体があるなど、いざ過酷事故発生となって周到で実行可能な避難計画を用意するのが非常に難しくなりました。エネルギー基本計画政府案は「世界で最も厳しい水準の」新規制基準による審査が進んでいると称していますが、それだけでは周辺自治体から同意を取り付けられなくなっています。

 「原子力政策の再構築」と掲げ「もんじゅのトラブル、六ヶ所再処理工場の度重なる計画遅延、高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定の遅れ等、原子力政策をめぐる多くのトラブルやスケジュールの遅延が国民の不信を招いてきたことも事実」としているのに、核燃料サイクル政策に実質的には手を付けないで済ませます。

 しかし 第407回「核燃料再処理工場の不合格確定、核燃サイクル崩壊」で「新規制基準の適合性審査が始まった青森・六ケ所再処理工場は、早くも不合格が確定したとお伝えすべき惨状になっています」とした通りです。その後の審査でも重大事故への備え欠落が言われ続けて、事業者である日本原燃は重大事故への考え方をまとめ直すことなっています。もんじゅに至っては第353回「高速炉もんじゅ稼働を絶望にする安全設備要求」にある原子力規制委の考え方なら今後、運転は不可能です。


働く高齢者増加はやはり若者の職を奪っている

 日経新聞朝刊トップ《高齢者が働く人の1割に 636万人、世界に先行》が気になって、元になっている労働力調査速報を見直しました。年齢別就業率の推移から、やはり若者の職を奪っていると言わざるを得ません。「日本が高齢者雇用で世界に先行していることを裏づけた」と前向きにうたっていますが、高齢者の視点ばかりでは困ります。若者層への影響には65歳以上の高齢者以外に、60〜64歳の層が過去10年で8.2ポイントも就業率を上げた点も見逃せません。最も割を食っている15〜24歳の男性と並べてグラフにしたのでご覧ください。


 2008年のリーマン・ショックで15〜24歳男性の就業率が目減りしたのに、60〜64歳と65〜69歳の層は影響を受けず、就業率を伸ばし続けました。60歳定年制での再雇用が中心でしょうから給与は大幅に減っているはずです。それが職業経験がない若者の新規雇用を阻んだと考えられます。過去10年間で65〜69歳は5.2ポイント、70〜74歳でも2.2ポイントも就業率を増えました。これに対して15〜24歳男性は1.2ポイント、25〜34歳男性は0.6ポイントそれぞれ減らしています。

 就業者と完全失業者を合わせた労働力人口の対人口比率が、65歳以上の高齢者で20.5%ある点も「人口減少下で日本経済が成長するには、海外に比べて遅れている女性の活用に加え、高齢者雇用をさらに促すことが必要になる」と手放しで歓迎できるか疑問です。欧州諸国ではこの数字は1桁が当たり前です。高齢になってまで働きたくないけれど、やむを得ず働く層が相当多数いると考えられるからです。

 【参照】インターネットで読み解く!
     第403回「暗雲続くアジアの若者層、失業率は高止まり」
     第368回「生涯未婚率は男35%、女27%にも:少子化対策無力」


エネルギー基本計画の錯誤、核燃サイクルは瀕死

 政府策定中のエネルギー基本計画をめぐり高速増殖炉もんじゅに言及するニュースが続いています。まだ活用できるとの錯誤は、再処理工場を含め核燃料サイクルが技術的瀕死状態にあると知らないから出来る愚かな議論です。イエスマンだった原子力安全委員会時代ならば、政府が核燃サイクルを動かす決定ができました。しかし、独立した原子力規制委員会は航空機テロによる破壊まで考えて重大事故時の安全性を厳しくチェックする姿勢です。第407回「核燃料再処理工場の不合格確定、核燃サイクル崩壊」で重大事故を考えない再処理工場は新規制基準をパスする見込みが無くなったと指摘しました。水を掛けて冷やせない金属ナトリウム冷却の高速炉もんじゅは、重大事故に至ったら打つ手を無くして爆発的に暴走します。どう使うにせよ、運転を許可される見込みは極めて薄いのです。

 2月8日の日経新聞《もんじゅ転用 壁高く 「増殖炉」エネ計画に盛らず》が口火を切った感があります。《政府は新たなエネルギー基本計画で2050年までに高速増殖炉を実用化する従来目標を盛り込まない方針。原子力発電所から出る核のゴミを減らす研究機能を前面に出す案も検討している》

 16日の朝日新聞《もんじゅの研究機能強化、自民が検討 3月に最終決定》は《自民党の高市早苗政調会長は16日のNHK番組で、高速増殖原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)の役割について「高レベル放射性廃棄物の減容化、毒性期間の短縮化を実現できるか、党内で検討させている」と述べ、核のごみを減らす研究開発機能を強化する考えを示した》と伝えています。

 北海道新聞などが「もんじゅの単なる延命策であり、廃炉にして核燃サイクルから撤退する方策を示すのが筋」と批判しています。ナトリウム漏れ事故以降のずさんな保守管理状況から、原子力規制委はもんじゅの運転準備さえ禁じているのが現状です。もんじゅの技術的な問題は第353回「高速炉もんじゅ稼働を絶望にする安全設備要求」に詳しく書きました。

 いまエネルギー基本計画を作るならば、核燃料サイクル計画全体に正面から向き合うべきです。2兆円も投下して完成できない核燃料再処理工場、1995年から停止したままで年間200億円の維持費がかかる高速増殖炉もんじゅ、そして何よりも外国への再処理委託でプルトニウムを44トンも所有してしまった始末です。8キロあれば原爆が1発できるプルトニウムをこんなに膨大に持ってどうするのか。過去の路線失敗を隠すために、もんじゅを延命する小細工をしても始まりません。完工延期を17年も続けている再処理工場が現設備では運転できないと判明する、全面的な行き詰まりが年内に露呈します。


核燃料再処理工場の不合格確定、核燃サイクル崩壊

 福島原発事故をうけた新規制基準の適合性審査が始まった青森・六ケ所再処理工場は、早くも不合格が確定したとお伝えすべき惨状になっています。高速増殖炉もんじゅも動く可能性はなく、核燃料サイクルは崩壊です。原子力規制委での審査会合は2月3日の第3回から実質審査に入りました。再処理工場は使用済み核燃料からウランとプルトニウムを分離、その過程で被覆管に封じ込められた大量の放射性希ガスや高レベル廃棄物を解放してしまうので非常な危険が伴います。これまで考えなかった重大事故を想定せよとの新規制基準は、第369回「再処理工場、新規制基準は設計やり直さす大鉄槌」で指摘したように重たすぎる課題です。

 審査開始とは言え被覆管のせん断からの本工程は先の話、使用済み核燃料をプールに受け入れる段階が対象になっただけです。まだ早いが、念のためにとユーチューブ動画中継「第3回核燃料施設等の新規制基準適合性に係る審査会合」を視聴して、事業者である日本原燃の技術レベル、理解レベルの貧しさに唖然とさせられました。この頭の固さなら、最初の再処理工場完成予定から17年も遅れているのも無理からぬと改めて思いました。

 核燃料プール受け入れ段階で日本原燃側は重大事故の想定をしなかったと言えます。遠い昔の工場設計段階で並べていた事故事象から、プール冷却水配管に穴が開いてちょろちょろと水が漏れ出すケースなどをリストアップしただけです。こんなのんびりした事故なら現有設備で十分に対応できますから、貯水槽・貯水池から臨時のホースラインを敷設してポンプで水を送るので「問題ありません」と答えて平然としています。

 日本原燃の説明が大半終わった頃、原子力規制委から堪りかねたように疑問が出ました。「プールから水の大量漏えいで燃料が危うくなった場合を想定するのではないのか」「ポンプでの送水は高温になった燃料を冷やせる能力があるか検証すべきではないか」「放射線量が上がった環境が考えられていない。水蒸気が充満して監視カメラは使えないはず。現有タイプの水位計も使えないのではないか」「被覆管が溶け出すジルコニウム火災、それによる放射性希ガスの放出は考えないのか」

 日本原燃側は「深層防護としてどこまで考えるべきか検討したい」と、しどろもどろになります。原子力規制委の更田委員が「この段階にこだわらず、ひと通りやり取りしてから重大事故の網羅性に戻ってもいい。後の段階にもっと大きな問題があるかも知れない」と引き取りました。

 福島原発事故では何が起きているのか全く見えなかった――新規制基準はその深刻な反省に立って、従来の想定で扱わなかった重大事故に踏み込んでいます。大規模自然災害や航空機テロまでも含めて、思いがけぬ事態に至って設備と人がどこまで対応できるかストレステストの意味合いも含みます。その理解の上で、燃料受け入れプール段階のやり取りだけで、再処理工場側の新規制準備は適合性審査を受ける段階に至っていないと申し上げます。今年10月の工場完工予定など、夢のまた夢です。

 【参照】インターネットで読み解く!第353回「高速炉もんじゅ稼働を絶望にする安全設備要求」


政治の閉塞破るには自公選挙複合体の解体が必要

 安倍政権の右ぶれ・横暴ぶりが目立つ中、歯止めをかけられる野党がなくなりました。連立を組んでいる公明党の存在も霞む一方です。内政でも外交でも無視され続けるなら本来の中道政党として連立政権を出るべきです。選挙の足腰が弱くなった自民を組織力の公明が下支えする「自公選挙複合体」を解体する機会が来たと言えます。本来なら民主党が政権を取って下野した際に解消さるべきだったのに、選挙上の都合からしっかりした政策合意の担保もなしに継続して政治を歪めています。次に掲げる政党支持率推移グラフにあるように、自民には次の総選挙を心配する必要が無くなりました。


 時事通信の《率直さ目立つ安倍首相答弁=持論展開、高支持率で自信?−参院予算委》が《「安倍色」の強い政策には連立を組む公明党に抵抗があるが、同党の反応を気にしている様子はうかがえない》と首相の「独善」ぶりを伝えています。これに対して公明はこうでしかありません。《こうした首相の姿勢は公明党を刺激している。同党幹部は「今後の選挙協力を考えれば、首相も強引なことはできないはずだ」と話すが、首相の真意をつかみ切れていないのが実態だ》

 集団的自衛権や改憲問題、教育委員会の改組、中韓との外交など、平和と福祉の看板を掲げる公明との摩擦を引き起こす問題が目白押しです。その公明が与党であるために議論に遠慮していては政治を閉塞させてしまいます。なにせ直近の国政選挙で得票率第2党なのですから。

 昨夏の参院選比例代表の主な政党得票率は次の通りでした。
  自民党  34.68% 
  公明党  14.22% 
  民主党  13.40% 
  維新の会 11.94% 
  共産党   9.68% 
  みんなの党 8.93% 

 安倍政権が擦り寄りつつある維新の会やみんなの党を取り込めれば、公明と離れても構わないと考えている可能性があります。安倍色を出すには公明の平和主義は迷惑であり、自公選挙複合体は以前の民主党のような強力な対立政党が無くなった現在、無用なのです。過去4回の国政選挙における政党支持率と得票率との関係を、第372回「自民の超大勝を有権者は望んでいなかった:参院選」でグラフ化しているので参照してください。


暗雲続くアジアの若者層、失業率は高止まり

 国際労働機関(ILO)が世界の雇用情勢は改善されていない、いや危機的とする報告を公表しました。地域別の項目も読んでみると、成長が持続しているアジアでも若者層の失業率は近い将来も10%超の高止まりです。マイナス成長の南欧諸国で若者に職が無い事実はよく知られるようになりました。成長しているアジアには大人口の重石がある上に、経済成長が必ずしも職を増やすように働いていない政策的な、あるいは技術的な隘路があるようです。アジアと言っても戦乱と政治的混乱が続く中東は若者層の失業率が28%もあるので除外して、ASEAN諸国から「東」と、インド・バングラデシュなどの「南」のデータを次のグラフにしました。


 15〜24歳の若者失業率の今後は南で10.4%と横ばいになるのに対して、東では2014年の10.5%が2018年の11.6%へとじりじり上がっていきます。雇用増加率が南では0.4%とわずかなプラスが維持されるのに、東では2014年のマイナス5.7%など厳しい状況が続きます。多くの国の金融と財政との政策協調の欠如が、企業に安定した長期雇用創出をためらわせていると言えますし、中国でiPhoneなどアップル製品の大量生産を請け負っているフォックスコンがロボット化に注力しているように職の創出そのものが阻まれています。原報告は20日公表の「Global Employment Trends 2014〜Risk of a jobless recovery?」です。2013年の世界の失業者数が前年比490万人増えて2億180万人になったと推計されています。

 最大の人口を持つ中国では、これまでも言われてきた大学卒の過剰が就職戦線をいっそう激しくしています。「大卒予定者727万人、中国は史上空前の就職難」は「1997年7月にタイから始まったアジア通貨危機による経済不況に刺激を与えようと、中国政府は1999年に高等教育システムの拡大を決定し、大学の入学枠を大幅に増大した。この結果、1999年には85万人に過ぎなかった大学卒業生は、2003年には212万人となり、2005年:338万人、2006年:413万人、2008年:559万人、2009年:610万人、2012年:680万人と年々増大し、2013年には699万人となった。そして、今年はついに700万人の大台を突破して727万人となると予定されている」と伝えています。

 2013年の最終就職率を85%とみて、大学院進学者などを差し引いて2014年は就職浪人と合わせて824万人が新規採用を求めて競うと見立てます。こんな急拡大ペースで大卒にふさわしい職が増え続けるわけがありません。

 2番目の大人口国インドでも大学進学率はまだ中国の半分、15%程度ながら急上昇中です。古来からの閉鎖的階級社会を飛び越える個人の能力発揮は注目されていますが、それは例外的なようです。「変革迫られるインドの大学教育」はこう説きます。《難関大学の卒業生が米欧の大企業から年俸1000万円を超える高給で採用される、という事例もよく報道される。8月上旬にもインド情報技術大学(IIIT)アラハバード校の卒業生2人がSNS大手の米フェイスブックに年俸600万ルピー(約900万円)で採用された、とのニュースが流れたが、これらはごく一握りの極めて特殊なケース。一流理工系大学の卒業生でさえ、年俸50万ルピー(約75万円)ももらえればかなりの「成功者」の部類に入る。現実はそう甘くはない》

 人口3番目の米国に次ぐ4番手インドネシアも2010年の大学進学率が23%に達して大衆化時代に入っています。当然のことながら大学卒の質と職とのミスマッチが各国あちこちで顕在化しています。そして、若者とって次の課題、結婚がアジアでは大変になっています。国際結婚問題も含めて第276回「アジア工業国の非婚化は日本以上に進んでいる」や「インターネットで読み解く!」「人口・歴史」分野を御覧ください。


南水北調は中国経済成長持続の難題を解けずか〜大気汚染と並び未来占う鍵〜

 「水と空気と安全はタダ」と思っている日本と違い、中国ではどれも貴重な資源です。中国が経済成長を持続できるか、今年は長江水の北部転送事業による答えが出そう。既に大気汚染問題で赤信号が点きつつあります。南部の豊かな水を乾燥した北部で使う「南水北調」事業の1期分が昨年末に完工、今年から本格運用です。毛沢東が発想した巨大事業がついに出来たのですから国をあげてのお祝いになって良いはずが、控え目な扱いが不思議です。ひとつには水質汚染で飲用になる水を送れない恐れが高まっている点があり、地下水を汲み上げるよりも数十倍も高い単価になる水が広く使われるか、今後の維持費用も含めて疑問があります。まず完工した東と中央のルートを地図で見ましょう。


 東ルートは江蘇省で取水、古来の運河や湖を経由して北上する幹線水路1156キロです。天井川になっている黄河付近が最も高度があるために、低い位置にある長江最下流から合計65メートルもポンプアップして、黄河の下に造ったトンネルを通します。中央ルートは長江の支流、漢江の丹江口ダムから北京まで標高差100メートルを利用した自然流下の幹線水路1246キロです。勾配は極めて緩やかで、水路幅は200メートルにもなります。既に工費に5兆円は投じられています。

 年間取水量は東ルートで150億立方メートル程度、中央ルートは146億立方メートルながら、途中の地域も水不足なので最終目的地の北京や天津に届くのは何分の1かです。長江の流量豊富さから取水しても心配ないとされますが、長江河口から海水が逆流して重要都市・上海の水源を侵す恐れや東シナ海の海洋環境影響に議論があります。2期工事以降では、さらに取水増強の予定です。なお、富士山頂並みの高地で難工事になる西ルートは未確定です。

 水も土も空気も環境汚染が深刻な中国できれいな水が送れるのか、従来の中国メディア報道は汚染改善は進んでいるとの紋切り型でした。昨年末になって中国環境保護省が厳しい判断を出しました。「環保部:南水北調の汚染規制項目、完成は10%」(原文は中国語)が「江蘇、山東、河南、湖北、陝西の5省に展開する南水北調の東・中央ルートを調査したところ、全部で474件の汚染防止規制項目の内、完成は51件しか無かった」と伝えました。

 東ルートは工場が密集してパルプ廃液汚染などで名高い地域を通っています。古来の運河や湖には生活汚水も流れ込んでいました。中央ルートの水源、丹江口ダムの水質悪化は中国メディアも「下水の水を送るようだ」と報じてきました。水豊かな漢江の天然の希釈効果に頼って下水処理などしないで暮らしてきた地域住民の頭を切り替えさせるのは容易ではありません。汚染企業の閉鎖が命じられ始めましたが、既に最終消費地、天津市は転送された水を飲用には使わないと宣言しています。第346回「『がん村』放置は必然、圧殺する中国の環境司法」にある汚染マップと見比べて下さい。

 北京がある華北平原は雨に乏しい地域で、黄河から水が無くなることもしばしばあり、地下水の大量汲み上げで地下水位は著しく低下しています。深さ40メートルの井戸を掘らねば水が出ない状況です。この結果、天津市で3メートルを超えるなど広範囲の地盤沈下があり、地下水に工場廃水を注入する不心得な企業が多発して44%の地下水が重金属など汚染、経済成長を続ける上で限界が迫っています。南水北調は切り札になるべき存在でした。

 この分野の専門家、神戸女子大の小林善文教授による『南水北調政策の課題と展望』が用水コストとの関係を論じています。膨大な電力を使ってポンプアップし続ける東ルートはもちろん、莫大な工費をかけた中央ルートも水の値段は安く出来ません。

 「南水北調の三工程ともに用水価格は高いものとならざるを得ず、調水が始まっても、地方の用水戸や企業などは黄河からの引水やコストの安い地下水を汲み上げ続けて、南水北調の調水能力がフルに活用されることはなく、工事関係の銀行融資の返済が困難になり、受水区の付属工事も進まず、工程の運用に困難を来すようになっるであろう。結局のところ、調水しても地下水の過剰な汲み上げと、それに伴う生態環境の悪化や住民の健康への悪影響を防止できないと考えられる」

 中国がやがて世界一の経済体になるとの予測が、OECDなどで臆面もなく語り続けられています。人間が生きていく上で必須の水と空気が足りない現実が見えていない欠陥予測です。中央ルートは増水期になる9月か10月に運用開始、東ルートは既に水を送り始めました。改善が見えない重篤スモッグの始末と並んで、中国の未来を予測できる年が動き出しました。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国」関連エントリー
     「『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない」


了解しかねる対中ODA継続、NGO支援に限定を

 人民日報日本語版で対中ODAをめぐる不思議な扱い――日本語版で伝えても中国語ではニュースにしない――を見た年の暮です。考えるに中国政府がするべき民生案件は即時中止し環境NGOなどへの支援に限定すべきです。尖閣諸島での中国のゴリ押しを横目に見て国民から無償援助継続に理解が得られるとは思えませんし、中国自身がアフリカの民生支援を大規模に推し進めているのに、日本が中国貧困地域の民生支援をする必要はないはず。3月に書いた第349回「中国になお無償援助、国内報道しない人民日報」をフォローしてデータを集めてみました。

 外務省は表向きは「2.中国に対する現在の我が国ODA概況」で「中国は経済的に発展し、技術的な水準も向上しており、ODAによる中国への支援は既に一定の役割を果たした。このような状況を踏まえ見直しを行った結果、純粋な交流事業は ODA による実施を終了し、草の根レベルの相互理解の促進や、両国が直面する共通の課題への取組(例えば、我が国への越境公害、黄砂、感染症といった問題の対策や、進出企業の予見可能性を高める制度・基準づくり)といった、限定され、かつ我が国にとっても利益となる分野に絞り込んでいる」と説明しています。

 しかし、北京の日本大使館ウェブで「対中経済協力ニュース」の一覧を見る限り、公衆衛生計画は上水道を引く事業だし、医療環境改善は診療所の設置、そして圧倒的に多いのが小学校の校舎建築や改修です。本当の問題意識があるNGO支援は僅かです。

 2013年だけで29件の事業イベントが並びますが、人民日報は検索で調べる限りほとんど報道しません。今年珍しく地方紙から転載で報じた中国語ニュースの1件、4月、タイトル仮訳で「日本の草の根無償援助が信宜市に」は広東省信宜市の小学校改修(1千万円規模)の調印式についてでした。この学校改修は大使館のイベント表にはありませんから来年完成したら出すのでしょう。中国の地方政府がすべき事業・施策の肩代わりをこれからも延々と続ける腹のようです。大使館の応募規定が示唆している、施設が出来上がったら銘板に「中日友好」の文字が入っていればオーケーでは、日本の納税者として到底、納得できません。

 3月のエントリーで吟味した結果、人民日報日本語版は政治的な意図を持って作成されており、日本語版にある記事が中国語版にあるとは限らないと分かっています。そのひとつが8月の「日本車の命運は中日関係次第」です。「国際商報・汽車周刊」編集長の署名で、《戦争賠償については、41年前に中国側が請求権の放棄を宣言したものの、多くの中国人にとっては釈然としないわだかまりとなっている。実は日本側は長年にわたり「対中政府開発援助(ODA)」を通じて、形を変えて戦争賠償を行なってきた。このうち3兆2000億円規模の円借款は30年の超長期、金利3%以下の優遇借款であり、中国側のある専門家は「インフラなどの要因を総合的に考慮すると、円借款は約57%が実質的贈与にあたる」と試算する。このほか、1472億円規模の対中無償援助と1505億円規模の技術援助もある。こうした援助は1980年代、90年代に中国が受けた外国からの援助総額の半分近くを占め、中国経済のテイクオフに軽視できない役割を果たした》とここまでは珍しく正論です。なお、この記事、中国語版には発見できません。

 ところが、議論を持っていく先が《だが中国の民間人でこうした事を知っている人は、今にいたるもまれだ。そのうえデータにも食い違いがあり、戦争賠償との関係も曖昧だ。したがって双方は整理し、しっかりと計算し、日本側が事実上一体どれほど「賠償」したのか、まだどれほど「借りがある」のか、あとどれほど「賠償」すべきなのかを確認して、戦争賠償問題を清算し、民間に説明すべきだ》なのです。戦争賠償の総額を双方納得して確定する作業は、南京大虐殺の被害者数が時を経るほど膨張し続けている1件を見てもまず不可能です。この記事は日本への「揺さぶり」と考えるべきでしょう。

 対中援助については《「対中援助は必要か」「国民が驚愕」=月面着陸成功で経済援助に疑問の声―英紙》のように英国でも疑問視されています。英国側でも「気候変動や経済成長といった世界的な問題で非政府組織と連携することは正しい」との姿勢です。例えば第346回「『がん村』放置は必然、圧殺する中国の環境司法」で描いているように、未発達な中国の法制と恣意的な実務の間で苦労しているNGOがあれば助けてあげる価値はあります。しかし、外交官の自己満足で貧困地区を支援するのはもう止めましょう。対中ODAは2011年度までの累計で円借款3兆3164億円、無償資金協力1566億円、技術協力1772億円にのぼっています。今後、例えば重篤スモッグで大気汚染改善の技術協力をするとしても、広く中国国内にアナウンスされないなら乗るべきではありません。


権力側が設けた『土俵』を疑わぬ報道は公害に

 特定秘密保護法を巡って主要メディアが久しぶりに政府批判に足並みをそろえました。しかし、日常報道では用意された土俵の上で、例えば東電負担軽減策や国立大改革案が重大な欠陥があるのに無批判に報じられました。福島原発事故で1〜3号炉の炉心溶融が2カ月間も政府・東電から明確にされず、ピント外れの報道を余儀なくされた反省は消え去ったかのようです。東電問題で言えば、問題視する論調は税金の投入が東電救済になるとの薄っぺらいものしかありません。東電が負担に耐えられないのは周知の事実ながら、それを政府が助ける構図がマヤカシなのです。原発事故の責任の半分は安全審査をした政府にあります。今回の軽減策で政府は自らの責任を表沙汰にしないで東電責任論のまま逃げ切ります。原発の再推進に向け、第334回「原発事故責任者の1人と自覚が無い安倍首相」で指摘した不明の罪は葬り去りたいのです。

 日経新聞の14日付朝刊トップ《政府、東電向け融資枠9〜10兆円に倍増 除染加速》はこう伝えました。「原発事故処理では、賠償、廃炉、除染・中間貯蔵施設の費用がかかる。これらを東電の全額負担にすると、除染が進まず福島の復興も遅れかねないと、政府・与党は判断。費用の一部に国費を投入する方針に転じた。5兆〜6兆円に上る見込みの賠償は東電が全額払う。中間貯蔵施設(約1兆円)の費用は国が全額支払う。実施済みや計画済みの除染(2.5兆円)の費用は国と東電が分担し、追加の除染費用は国の負担とする。東電の負担は最大8兆円に限定する」

 国が負担すると言っても、原資は原子力損害賠償支援機構が保有する1兆円の東電株売却益や電気料金にかける電源開発促進税の投入、特別税徴収している復興財源からです。そして、東電が負担する内実は将来の電気料金への転嫁でしかありません。国民・消費者に隠れた負担として流れていきます。この政府の方針を何の注釈も無しに垂れ流して、経済の専門紙として恥じないのでしょうか。

 福島原発事故の事故原因は政府事故調と国会事故調の見解が違うなどして、誰がどうしたからとピンポイントで明かされることはありませんでした。細部が確定することは、そこに至った筋道が読み取れて、安全審査を含めた問題点をあからさまにする展開につながります。第381回「福島原発事故、国家として原因不詳でよいのか」で問題提起したように、この曖昧化は「原子力ムラ政府官僚」がほくそ笑む展開です。今回の軽減枠組みで、細部どころか、大枠としても政府の責任はもう問われません。

 2004年の国立大学法人化以降で疲弊を重ねさせた末に、かつて無い大学破壊に導く国立大学改革プランが公表されました。朝日新聞WEBRONZAに寄稿した《マスメディアも文科官僚も発想貧しい国立大学改革案》で「メディア報道の一知半解ぶりに唖然とさせられた。年俸制導入という小手先の施策を大手メディア横並びで伝えるだけであり、歓迎しているかのようだ。無理矢理の人件費削減を目指す文科官僚の意図を見抜く能力も無ければ、これから国立大学で起きる改革と称した惨事を予測する分析力も無い」と批判させてもらいました。

 上記の寄稿は読める部分だけ読まれて、視点を変えて対になっている、第397回「国立大学改革プラン、文科省の絶望的見当違い」に移っていただけば大意は通じるはずです。国立大の現場は昔と違い「教員にお金も時間も無い」悲惨な日常と化しています。しかし、官僚の短期成果主義は大学での教育研究をひたすら安上がりに、かつ効率化しようとしています。「世界トップ100に10大学」という皮相な数値目標を掲げ、人件費維持かつかつの底辺大学の予算から削り取って学閥大学に注ぎ込もうとしています。実現したら、全体を支えるピラミッドが崩壊、高いペンシルビルがそびえ立つだけで、それも長くは維持できなくなると予見します。既に歪は先進国中で日本だけ研究論文件数が減る現象として現れています。本当になすべき大学改革の道筋は学閥からの脱却であり、大学と人の評価を全面刷新する世界水準のシステムです。

 「土俵」設定の意味を理解できる専門記者が主要マスメディアにいなくなったのでしょうか。玄関ダネを追っている駆け出し記者、横書きのプレスリリースを縦書きに直す記者しかいなくなったかのようです。お手軽に情報が手に入る記者クラブ担当を2、3年のサイクルで回し続けた結果、似非「ジェネラリスト記者」ばかりになった恐れもあります。特定秘密保護法のように社論として反対でないと安心して論陣を張れなくなった、デスクレベルの見識欠如はわたしの現役時代から見えていました。

 福島原発事故以降の既存の権威が疑われる時代だからこそ、権力側がお膳立てした「土俵」の吟味が欠かせません。問題のたて方根本を疑う力が無ければ、メディアが市民社会から期待されている役割は果たせないでしょう。官製「土俵」の垂れ流しは権力への加担、報道の公害と指弾せざるを得ません。

 【参照】インターネットで読み解く!
     「福島原発事故」関連エントリー
     「大学」関連エントリー


大気汚染も法治化も解決遠い中国の新改革方針

 中国共産党が習近平政権下で打ち出す改革方針を決めた「三中全会」の全貌が明らかになりました。経済面では自由化に動くとの見方があるものの、注目の課題、大気汚染も法治国家化も真の解決にはほど遠い印象です。三中全会决定には労働教養制度を廃止するなどの具体的な改善が盛り込まれている一方で、新設される国家安全委員会のきな臭さが暗雲漂うように見えます。警察、司法、軍、外交部、宣伝部門を集中管理して国家の安全を保つとは、警察国家として締め付けるという意味ではないかと考えられます。三中全会を前にして起きた「テロ事件」の再発を許さない、不満を封殺する体制こそが狙いでしょう。

 「市場による価格決定の仕組みを整備」や「民間資本の中小型銀行設立を許可」などが自由化の柱です。一人っ子政策の緩和も労働教養制度廃止と並んで改革の目玉として報じられました。しかし、現在の国家と社会の枠組みはいじらないと決めたようです。戸籍に都市籍と農村籍があって、農民は都市に出稼ぎに出て、子どもが出来ても教育や福祉のサービスを受けられません。戸籍制度は維持したままにし、地方の中小都市に出ることは進めますが、大都市の人口管理は厳格化がうたわれています。

 旧ソ連の「収容所群島」に対比される人間の尊厳を奪い強制労働させる労働教養所は廃止になります。人民日報の「決定要旨」では人権司法保障制度を改善し「拷問による自供の強要や体罰、虐待を厳しく禁じ、違法な証拠は排除するという規則を厳しく実行」とした上で「労働教養(労働を通じた再教育)制度を廃止し、違法犯罪行為に対する処罰と矯正の法律を改善し、地域社会における矯正制度を整備する」とあります。拷問禁止など額面通りなら素晴らしいのですが、代わりになるシステムを整備する点が警察国家化ではないかと恐れます。

 今年になってネット言論の規制が強化され、大学で言論の自由など教えてならないと制限されました。《「党崩壊」強まる危機感=安定・改革へ集権体制−習総書記就任1年・中国〔深層探訪〕》が《ネット上での言論統制は一層強くなり、「(反体制的な言動で)習総書記就任後1年間で拘束された活動家らは、胡錦濤前政権の後半5年間の人数を大きく超えた」(人権活動家)という》と伝えているように、中国社会全体が自由化・民主化よりむしろ労働教養所化の方に向かっていく前触れが存在します。

 国民生活を脅かすまでになった大気汚染に関しては次のようですが、具体的ではありません。「全体会議は、エコ文明の建設のためには、系統的で整ったエコ文明制度体系を構築し、生態環境を制度によって保護しなければならないとした。自然資源資産の財産権制度と用途管理制度を整備し、生態保護のためのレッドラインを引き、資源の有償使用制度とエコ補償制度を実行し、生態環境の保護管理体制を改革する必要がある」

 もう一つ関連して、経済成長第一だった官僚の考課制度を資源、環境、生態、健康、エネルギーなどに基いて見直すとされました。重篤な大気汚染は無謀な経済成長第一主義が招いた点は「『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない」で指摘しました。これを改める必要性は中国共産党も感じているものの、13億人を食べさせていく、富ませていく前提が変わらない以上、打つ手は限られますし、改善効果も知れています。重篤スモッグを早期に克服するには、成長どころか生産量を減らすなど非常な痛みが伴いますが、そんな泥をかぶるつもりはないようです。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国」関連エントリー


円安が輸出増加に結び付かぬ9月貿易統計の衝撃

 アベノミクスがもたらした円安で輸出は順調に回復と思い込んでいたら9月貿易統計が冷水を浴びせました。見かけの輸出額が前年比11.5%増えても、輸出数量は1.9%のマイナス。産業弱体化が深刻な様相です。大幅な円安なので同じドル建て輸出を日本円に換算したら輸出金額が膨らむのは当然です。問題の数量で見ると自動車を中心にした輸送用機器や化学製品は好調ですが、日本が得意としていたはずの電気機器や一般機械が足を引っ張っています。大和総研の「9月貿易統計」から「海外景気と輸出数量、貿易収支」グラフを引用します。


 主要な先進国の輸出がリーマンショック前の水準に戻ったのに日本の輸出数量は回復せず、昨年、一段の下落を経験しました。アベノミクスが発動されても僅かな持ち直しでもみ合っている状況で、海外景気の波から外れて沈んだままです。「輸出数量指数を季節調整値で見ると(季節調整は大和総研による)、前月比▲1.2%と、2カ月ぶりの低下となった。地域別に見ると、EU向けが増加したものの、米国向けおよびアジア向けの減少が全体を押し下げた。欧州の景気底打ちを受けて、EU向けの輸出数量についてはこのところ持ち直しつつある。一方で、米国向け、アジア向けの輸出数量が伸び悩んでおり、輸出数量全体としては概ね横ばい圏での推移となっている」

 内閣府から10月末にマンスリー・トピックス「輸出の増勢に一服感がみられる背景について」が出されています。比較的順調だった8月までのデータしかありませんが、輸出数量指数の品目別分析が見える「輸出数量指数の要因分解(地域別、品目別)」グラフを引用します。


 電気機器や一般機械がしばしばマイナス要因になっていることが見て取れます。「品目別寄与をみると、鉱物性燃料の輸出が3月から5月にかけて一時的に急増してプラス寄与となる一方、電気機器の輸出が6月及び7月にマイナス寄与となっている。また、輸送用機器は2012年1月にプラス寄与が大幅に拡大し、それ以降は緩やかな伸びとなっているものの、一貫して増加に寄与している」

 このリポートは地域別にも「輸出数量の持ち直しの動きが緩やかになった背景」を検討、「中国については、日本が優位性を保っていた電気機器や輸送用機器などがこのところ相対的に低迷」「アメリカについては、大手自動車メーカーの主要車種の生産が2013年春ごろから現地に移管され始めたことに伴い自動車の輸出台数・同関連部品のシェアが低下傾向にある」「タイについては、自動車・同関連部品における日本のシェアが高いため自動車初回購入支援策終了の影響を受けやすかった」など、日本側の低迷理由をあげています。工場海外移転による空洞化もやはりあります。

 2011年末の『底は打った貿易収支、残る余裕を再建に生かせ』で心配した経常収支の赤字が急速に迫ってきています。9月の経常収支は5873億円の黒字でしたが、これは円安メリットで海外子会社が多額の本社送金をした結果であり、本当は1252億円の赤字でした。貿易外の所得収支に頼れる期間は短そうです。輸出数量の回復・拡大が出来なければ国債の国内消化が危ぶまれるようにもなります。未だに実効性がある政策を打ち出していないアベノミクスで株高になったと浮かれている場合ではありません。成長戦略を真剣に考えねばなりません。

 なお、比較資料としてドル円為替レートと輸出数量指数の詳細グラフを付けておきます。




減反廃止に躊躇不要、選挙が心配無い安倍政権

 減反廃止をめぐり数日来、踏み込んだり揺れ戻したりの報道が続いています。衆参両院で圧倒的な多数を持ち、久しぶりに選挙の心配が無い安倍政権が出来たのに積年の農業政策課題に踏み込めなくては価値がありません。相変わらずマスメディアからは数が多い中小農家の不満の声が表面に出ていますが、本筋は日本の稲作を本当に支えているコメ専業農家をどうして維持・持続させるかにあります。その意味で減反廃止だけでなく農地の集約と大規模化、農家補助の手法を含めたパッケージを早く示さねばなりません。農業を諦めてもらう可能性が高い兼業農家へのケアも含めて、決着を長引かせる方が罪が重いはずです。

 25日の林農相「減反見直し、補助金は大規模農家重点」表明から、26日の「減反、5年後廃止案 政府・与党で浮上 慎重論も」と積極的ながらぶれている日経新聞に対して、読売新聞は「減反、10年内の廃止検討…支援は大農家中心に」と深刻な調整難航を予測します。


 NHK世論調査による政党支持率の推移を掲げました。10月段階では自公政権党の40%に対して5%の民主党、4%の共産党がある程度です。これは3年後、2016年の参院選すら心配する必要が薄い状況を示しています。自民の伝統的基盤だった農協系の得票を心配する必要が無くなったのです。TPPでの選挙公約無視といい、この政治状況無しには無理でした。

 2007年の『専業農家の救出を急がねば稲作は崩壊』で、かつての豊作貧乏から進んで、経営持続困難が迫る専業農家問題を指摘しました。この時点で抜本的な対策が取られるべきだったのですが、政権交代した民主党は農家の票を目当てに小規模零細農家まで救う戸別所得補償制度を導入しました。結果的には第219回「戸別所得補償が米専業農家救出に効き始めた」で紹介したように、コメ価格が下がっていく中で専業農家の切迫感に一息つかせつつ、小規模零細農家には超緩慢な「死」をもたらしました。

 野党として民主党政策を厳しく批判した自民が政権を取った以上、かつて出来なかった政策転換をするのが当然です。TPPでコメの関税が維持できるかもしれないとか躊躇している場合ではありません。今、果断にやらなければもう機会は来ません。


結婚も離婚後も危うい非正規雇用の給与格差

 国税庁の民間給与実態統計調査が初めて正規雇用と非正規雇用を区別して公表されました。非正規雇用男性の平均年収は225万円で結婚の壁とされる300万円を大きく下回り、非婚化傾向に拍車をかけているのは明白。非正規の女性平均年収143万円も大きな問題をはらんでいます。結婚した3組に1組は離婚する状況が定着している中で、シングルマザーとして子供と生活できないレベルだからです。正規雇用へ戻すことが難しいならば、同一労働同一賃金の原則に従って非正規雇用収入の底上げを目指すべきです。無原則な雇用流動化は進めるべきではありません。

 国税庁の「平成24年分民間給与実態統計調査結果」は、給与所得者でも民間企業に勤める人を対象にし、日雇いで給与を受け取る労働者は除外しています。役員を除く正規従業員の平均年収は467万円(男性520万円、女性349万円)。非正規では168万円(男性225万円、女性143万円)でした。それぞれの所得者数は正規が男性2080万人、女性931万人、非正規が男性293万人、女性694万人です。


 年収300万円の壁を焦点にした『結婚離れは非正規雇用増の結論避ける厚生労働白書』に対応する男性年収データをグラフにしました。厚生労働白書は300万円で区切って、それ以下の男性の既婚率は10%を下回っているとしました。しかし、今回調査が示す非正規平均225万円は300万円を大きく割り込んでいます。非正規雇用の割合は過去10年間で全体の30%が36%に拡大しました。リーマン・ショック以降の平均給与全体の落ち込みに非正規化が寄与しているはずです。これでは結婚・子育ては難しいでしょう。規模もここにある293万人にとどまらず、日給制の労働者まで含めた幅広い問題です。

 第339回「夫婦3組に1組は離婚時代定着。米国は2に1」で2000年以降、国内の婚姻と離婚の件数比が35%前後に定着していると分析しました。米国の50%までにはなりませんが、離婚によるシングルマザーの発生は大きな問題になっていきます。離婚した男性側が養育費をきちんと払わない傾向が強いこともあり、女性が自立出来る環境を整備しなければなりません。非正規女性694万人には若い層も含まれますが、結婚後に離婚した場合、正規職に就くのはますます難しいでしょう。

 【参照】「インターネットで読み解く!」「人口・歴史」分野


不思議論議の法人減税、メディアの批判精神どこへ

 消費増税と同時実施の法人税減税分の使い道を企業に公表させ、賃上げに回すよう促すとの朝日新聞1面記事は不思議に過ぎます。減税分を庶民に回すには複雑手順は不要です。消費税率上げ幅を下げれば済むだけです。自由に使えない減税分をもらう企業側も迷惑でしょう。大規模大衆増税に本来慎重であるべきマスメディアが政権と結託して増税をあおっている今回の成り行き。連立政権の一方、公明党代表まで法人税減税に疑問符をつけているのに、メディア本来の批判精神が働かないとは落ちるにもほどがあります。

 朝日新聞の《減税分の使途、企業に公表要請 政府方針、批判回避狙う》はこうです。《政府は、これから決める法人税減税の恩恵を受ける企業に対し、減税分の使い道を公表するよう要請する方針を固めた。政府は来春の消費増税と一緒に法人減税も行う方針だ。「消費増税したお金を企業優遇に回している」との批判をかわすため、減税分のお金を賃金に回すよう企業に促す狙いがある》

 70万社ものお金の使い方を誰がどうチェックして、さらにどのように公表するのか、と考えただけでも非現実的だと判断できます。何が何でも企業減税がしたい安倍政権だから、このような本末転倒、倒錯した議論が語られるのです。

 震災復興のための法人税率上乗せを1年早く打ち切ることで法人減税への道筋がついて、日経、朝日と8%への増税が確定したかの報道が続いています。日経は編集委員に《「個人には消費増税を課し、企業には法人減税を施すのは不公平だ」と批判してばかりもいられない。企業の負担軽減は個人のためでもあることを忘れてはならない》とまで言わせています。

 しかし、公明党の山口那津男代表はウォールストリートジャーナルの《法人税率引き下げに慎重―山口公明代表インタビュー》で「(消費増税の実施で)広く国民に負担を求めるわけだ。同じタイミングで法人税の実効税率を下げるとか、あるいは復興増税を前倒しでやめるとか、法人の負担を軽くするということになると、結局は国民一般の負担で法人を優遇するというふうに理解されかねない」と指摘しました。

 連立政権を担う片方の党がここまで異議を唱え、「公明党軽視」と不快感を表明しているのに、既成事実のように主要メディアが伝えるのも異常です。日本のメディアの習性として官僚からリークを貰って事態を進展させる取材手法が行き過ぎた例でしょう。「それは世間一般からは認めがたいですよ」と投げ返すべきなのです。昨年7月の『余る税金。増税への疑問が言えぬ大手メディア』で復興増税が必要だったか、疑問を投げました。個人増税分は引き続いて払わせて、法人分だけ前倒しで止めるとの今回合意を見て、メディアが疑問を提起しないのが不可解でなりません。

 【参照】インターネットで読み解く!「安倍」関連エントリー


自民の超大勝を有権者は望んでいなかった:参院選

 世論調査と実際の選挙結果を比べると意外な事実が浮かびます。参院選で大敗した民主党はむしろ超大敗を免れており、自民党は期待ほど勝てなかったのです。時の政権への批判票が力を発揮する構図がまだ継続中です。総選挙が昨年末で、これから3年間は国政選挙が無くなりそうですから、この時間を使って野党側にどのような受け皿を構成できるかが問われます。ただし、民主党が2大政党の一方である時代は終わりました。公明党以下の比例区得票数に落ちたのですから、参院選の2人区で他党が容赦なく候補を立ててくるでしょう。このままなら2010参院選の貯金は3年後に消滅、公明なみの党勢になります。


 NHKが実施した世論調査の政党支持率と、国政選挙の比例区得票率を2009年総選挙以降でまとめ、グラフにしました。今回の参院選で目立つのは42%もの支持率を持つ自民が35%程度の得票しか得ていない点です。自民支持者も他党に流れた可能性を示します。逆に8%の支持しか無い民主が14%に迫る得票率ですから、議席の多くは失ったものの実は大健闘です。政権への批判票は維新の会やみんなの党にも流れていると読みとれます。公明や共産が政党支持率以上の得票率になるのは昔から「隠れ支持者」がいるからですが、今回は政権批判の要素もあったと見ます。

 4回の国政選挙を見通すと、2009年には自民と民主の支持率差はわずかでしたから、政権交代は無党派層が民主に肩入れして実現しました。2010参院選で民主は少し議席を減らすも支持率並みの得票はしています。批判票は自民とみんなの党に向かっています。2012総選挙では批判票は維新の会などに大量に流れ込み、自民と民主は支持率相当の得票でした。民主大敗の理由はそもそも15%しかない支持率で解散に打って出たからです。これでは公明という下支えがある自公複合体にはかないません。もちろん支持率を下げたのは政権運営の失敗によります。

 今回参院選で自公が大勝したのは政権批判票がかなり発生しても問題にならないほど高い支持率を得ていたからです。第332回「有権者の信賞必罰投票とマスメディアの漂流」で指摘した、小泉郵政解散選挙以降に生まれた有権者行動パターンは変わっていないと思います。『政治から降りずパスした有権者ゲーム感覚に問題』でも述べたように、非常に低い投票率が続く中、敢えてパスを続ける有権者が多いのが問題です。支持政党を育てる有権者の行動が無ければ、既存の自公共しか組織政党は存在しなくなります。

 国民が安倍政権の有り様に全幅の信頼を置いているのではない点は、中国新聞の「内閣支持率56%に急落 共同通信世論調査」でも明らかです。「安倍内閣の支持率は56・2%で、前回6月調査の68・0%から11・8ポイント急落した。支持率が50%台となったのは昨年12月の第2次安倍内閣発足以来、初めて。不支持率は31・7%で、前回(16・3%)からほぼ倍増」です。国民の意識を選挙の結果に反映できるような政党の枠組みが崩れてしまっている現状が問題です。


民主支持層は依然としてパス、一部は山本太郎へか

 大幅に議席を伸ばし続ける自民党は東京の票推移で見る限り、絶対得票数は伸ばせず、民主党に政権交代させた層の多くが投票をパスしているようです。一部は東京選挙区で山本太郎氏に向かった可能性が高いと考えられます。投票率が低迷する中、既成政党で票を増やしているのは公明党がトップです。支持層の高齢化から選挙のたびに目減りの一方だったのに、与党内で改憲など安倍政権の暴走を止める歯止め役として期待が掛かっていると感じられます。


 有権者の1割がいる東京で主要党派別の得票数がどう推移しているか、2009総選挙以降をグラフにしました。過去の国政選挙は比例区の得票で、今回参院選は選挙区の票です。前の政権交代があった2009年には民主は283万票も獲得したのに、期待はずれを反映してどんどん下がり、実質的に2候補を立てて共倒れした今回は公明、共産なみの80万票程度に落ちました。自民党は2候補の合計では2009総選挙に達していません。みんなの党と維新の会は先月の都議選とほとんど変わらずです。

 既成政党票の枠組みは大きく変わっていないので、無所属当選・山本太郎氏の票は都議選と比べて90万票増えている票の半分以上を獲得した上、生活ネットワークなど小グループの票が流れ込んだ計算になります。この90万の大半は民主に入れていた票でしょう。第367回「都議選で再び大量パスした有権者、自公に乗り換えぬ」で指摘した「自民への乗り換えなし現象」はまだ続くようです。政党支持率が政権交代後に大きく上がっている点と矛盾しています。


新潟知事発言は個性的かつ的確、規制委は驕るべからず

 原子力規制委の田中俊一委員長が3日の記者会見で東電柏崎刈羽原発が立地する新潟の泉田裕彦知事について「かなり個性的な発言」としました。知事発言は過去の流れから見れば的確で、規制委こそ驕るべからずです。読売新聞によると田中委員長は原発の安全を担保する新規制基準について「他の自治体の首長が納得しているなか、かなり個性的な発言をしている」。記者に対して「どちらが正しいか、あなたたちが判断したらよい」と述べたとしています。

 毎日新聞の《柏崎刈羽原発:新潟知事、新基準を否定 再稼働は困難に》は次のように報じています。《泉田知事は新規制基準について「福島第1原発事故の検証・総括なしに、(設備面などに特化した)ハードの基準を作っても安全は確保できない。新規制基準は、残念ながら国民の信頼を得られない」と批判。規制委についても「地方自治行政のことを分かっている人間が一人も入っていない」と指摘、緊急時の住民の避難計画などに関し規制委が県の意見を聞かなかったことを問題視し、「こんなデタラメなやり方は初めて」と厳しく批判した》

 安全設備を造ってしまえば済む考え方には反対です。第366回「迷宮型原発事故は装置依存の新規制基準で防げず」で「もともと原発で過酷事故が起きるとすれば、熟練した運転チームでも対処しきれない迷宮型が最もあり得ると考えられてきました。福島原発事故のような全電源喪失はそうそう起きるものではないと思われていたから手抜きがあり、その穴を一気に塞ぐのが新基準です。しかし、福島原発事故によって運転チームの熟練度が考えられていたより恐ろしく低いと判明しました」と指摘した通りです。

 設備を動かす人間をほとんど視野に入れていない、安全設備さえあればよい原子力規制委の考え方は、福島原発事故が起きる前の東電の驕りに近いと見えます。運転する人間の能力が深く関わる原発は、津波を防ぐ防潮堤をいかに高くしても万全ではありません。いや、福島原発事故ですら運転チームやサポートする東電・政府の対策本部が最善の対処をしたら無傷で終わった可能性が高いのです。第347回「無傷で終わる可能性が十分あった福島原発事故」を挙げておきます。


都議選で再び大量パスした有権者、自公に乗り換えぬ

 都議選での自公の圧勝劇は過去2番目の低投票率の中、組織が堅かった自公共が強かっただけです。昨年末の総選挙に続いて非自公の有権者はゲーム感覚で大量に投票をパス、自公に乗り換えぬ意思表示をしました。全員当選で大勝ちした自公政権には、票の移動が無かった点で不気味ですらあるはずです。7月の参院選までの期間が短すぎるので同じ傾向が続く可能性が高いと見られますが、その後は政治的受け皿の出来次第でいつでも大きな様変わり、政権交代があり得る状況が継続します。

 昨年の総選挙比例区東京ブロックで、民主が100万票、維新が130万票、みんなの党が76万票を得ています。これと今回の都議選で得た得票数を比べると、失った票は民主40万票、維新100万票、みんな46万票に達します。総選挙から都議選の投票総数の落ち込み197万票が3党の失った票でほぼ説明がついてしまいます。結果としての当選者数は圧倒的ながら、自公に大して票が動いていません。

 昨年の「政治から降りずパスした有権者ゲーム感覚に問題」で紹介した石破自民党幹事長の談話「民主党に逆風は吹いているが、『自民党頑張れ』というのとは違う感じを持っている。仮に自民党が多数の議席を獲得しても、錯覚を起こしてはいけないというのが実感だ」は、依然として有効だと思われます。各地の首長選で自民が負けている事実も自民に追い風を感じさせません。

 総選挙と比べて大きく票を失った3党の行方はどうでしょうか。民主党は総選挙大敗の上に、総選挙時点からもう一段の有権者離反です。共産に抜かれた第4党15議席の数以上に深刻です。海江田代表の党再生は評価されなかったと見るべきでしょう。細野幹事長のぼそぼそした発言も愚痴にしか聞こえない場面が多いと思います。

 比例東京ブロック得票率20%の実績から大躍進を狙った維新は、現有3議席を2議席に減らしました。総選挙から100万票を失い、党としてほとんど終わったと評すべきです。従軍慰安婦をめぐる橋下代表発言が決定的でしたが、その前から何のために存在する政党か説明できなくなっていました。みんなの党は7議席を得たものの失った票は大きく、維新と合わせた第三極運動はしぼんでしまう勢いです。

 【参照】インターネットで読み解く!「有権者」関連エントリー


投資呼び込みは絵空事、内部留保99兆円の活性化を

 アベノミクス3本目の矢「成長戦略」が軽薄すぎて大きな失望感が広がっています。最も望まれた方向、大手企業100社で99兆円もと報道された内部留保を生かしてイノベーションを起こさせる道筋がありません。海外からの投資を呼び込むために教育や医療の環境を整えるとか、絵空事もいいところです。人口減少と高齢化社会の日本に海外大手が乗り込んでくるはずがありません。自前で持っている巨額内部留保を研究費として生かし、疲弊している大学との共同研究を奨励するなど、知恵を出すべきです。法人税率引き下げなど、無意味な企業優遇策では、これは達成出来ません。

 4月に共同通信の《大手企業の利益温存加速 100社調査、内部留保99兆円》は《大手企業100社が、利益のうち人件費などに回さずに社内にため込んだ「内部留保」の総額は2012年3月末(一部2月末なども含む)時点で総額約99兆円に上ることが7日、共同通信の調査で分かった。リーマン・ショック直後の09年3月末からの3年間で10%増。労働者の賃金は下落傾向が続く中、企業が経営環境の変化に備え、利益を温存する姿勢を強めている実態が浮き彫りになった》と伝えました。

 お金があるからイノベーションを起こせるとは限りません。しかし、国内大手が押しなべて投下できる余裕資金を持っているのです。革新的な技術や製品が生まれるのは確率的な世界ですが、国内の企業がみんなで挑めばどこかで「当たり」が出るはずです。いや、いくつも出てもらわねば困るのです。

 長い縮こまったデフレ状態はジリ貧ながら、得もしなければ損もしない状態でした。この状態を壊してリスクに満ちた海原に押し出したのは安倍政権です。成長戦略を成功させて税収大幅増で財政再建を可能にする道筋がかなわなければ、金利の上昇だけが残りかねません。それでは国と地方でGDPの2倍、1000兆円に近い大借金を返すどころではなくなります。失敗したら後の人に託すは許されません。

 成長戦略は要の中の要です。安倍首相はちまちました選挙遊説に走る時間があったら、本筋の中の本筋を練り直すことに全力を注ぐべきです。官僚からの安直な献策は遠ざけるべきです。「骨太の方針」に取り入れられた「世界トップ100に10大学」提言なども事情を知らないで聞けば上策に見えるかもしれませんが、第363回「大学に止めを刺す恐れ大、教育再生会議提言」で論じた通り、自殺行為になりかねません。


民主化あり得ず、中国市民意識調査で強い保守色

 全国規模の選挙も世論調査もない中国で、政治意識が探れる市民意識調査が公表されました。結果は驚くほど保守色が強く出ており、国民が自発的に民主化を成し遂げる可能性はゼロに等しいと読めます。自由化を求めるネット上の声が目立ってもあだ花にすぎず、11日の報道ではさらなら大学での思想統制が伝えられました。改革開放が始まった1988年の調査と比較して西洋化の受け入れは後退しており、中国共産党による政治意識「刷り込み」が大きな成果をあげていると知れます。深刻な大気汚染や河川・土壌の汚染など人間の生存を脅かす環境問題しか、民主化の糸口は残らないとみるべきでしょう。

 kinbricksnow.comの《中国に“右派”は8%しかいない、『中国人はどんな民主を求めているのか』著者インタビューを読む》は2011年に北京など規模が違う大小4都市で、18歳以上の市民1750人を対象に実施された30問のアンケート調査について、中国社会科学院政治学研究所政治文化研究室主任、副研究員の張氏から聞いています。

 西欧民主主義・自由主義志向を右派、毛沢東時代に郷愁を持つ全体主義志向を左派とすると「現在、中国社会において左派38.1%、中間派は51.5%、右派は8%」との結果になりました。中間派とは「民主が良いものであれ悪いものであれ、中国の国情に合致しているかを見なければならない。米国と中国を簡単に比較してはならない」とする主流メディアの見解を支持するグループです。これにより「中国人が求める民主とは、法治よりも徳治を優先、市民の権利と自由の保障よりも汚職の解決と市民による政府監視の実現を優先」など中国独自のものと言います。

 調査の対象は都市だけで、人口の6割を占める農業籍の地方住民は含まれていません。地方は更に保守色が強固と見られますから、国民全体としてみれば自由化を志向する割合は僅かになります。

 張氏は1988年にも設問20問が共通の調査をしています。「1988年の調査では、調査対象の西洋化の水準は現在よりもよっぽど高かったのです。当時は改革開放が始まったばかりで、社会は西洋のものに対して受け入れる姿勢を示していました」と、今回の後退した調査結果は意外だったと答えています。

 1990年代初めに小平から権力を受け継いだ江沢民政権は、中国共産党による統治の正統性を確認させるべく、反日教育を含む愛国主義教育を徹底して行きました。個人の身上調書に当たる「人事档案(とうあん)」を職場の上司が書いて、職場を変えても一生ついて回る仕組みが維持されている中国ですから、思想信条についても目に見えない縛りが張り巡らされているのも同然です。第320回「中国政府主導だった反日デモと愛国教育の正体」で刷り込み教育の証言・実態について書いています。

 新たに思想統制を強める動きが出ています。共同通信の《中国当局「報道の自由」教えるな 大学に指示》はこう伝えています。《北京や上海の大学に対し、「報道の自由」や「公民権」、民主や人権の尊重を意味する「普遍的価値」など7項目について授業で教えてはならないとする指示を出した》《ほかに禁じられたのは「公民社会」「共産党の歴史的誤り」「司法の独立」》。残り1項目は「権貴資産階級」で権力と癒着して富を蓄えている新たな社会階層を指します。

 一般市民に対して西欧型の見方・考え方をさらに覆い隠す動きです。ネット上では監視網を大量動員した言葉狩りが実施されており、メディアも検閲下にあり、さらに大学の授業でも語るなと進んできました。「司法の独立」まで語るなとは、第346回「『がん村』放置は必然、圧殺する中国の環境司法」で描いたように環境問題のアキレス腱にもなっているからでしょう。


中国高速鉄道に新たな危険、路盤に凍結ひび割れ

 中国の高速鉄道に新たな危険が露呈しました。昨年末に開業した酷寒の東北部を走る路線でコンクリート基盤の凍結膨張が報じられました。暖かくなったら時速200キロから300キロに上げるはずが延期の見込みです。2011年7月に死者40人の追突事故を起こし、安全性をめぐる疑義が解明されぬまま建設が進んで営業距離9千キロと日本の新幹線網の3倍に達していますが、急ピッチな工事は特別な配慮が必要な寒冷地対策を満たしていないと考えられます。

 レコードチャイナの《ハルビン・大連間高速鉄道、手抜き工事で高速運行延期か―中国》が「本来ならば4月1日から時速300キロで走る予定だったが、延期される可能性が高いという。問題は手抜き工事だ。2011年7月、ハルビン・大連間旅客路線のトップ・杜厚智(ドゥー・ホウジー)が汚職で失脚している。さらに2012年後半からは凍結膨張の影響が確認されている。その影響で線路が歪めば高速での運行は致命的な事故をもたらしかねない」と伝えました。

 コンクリートの中には自由水が存在していますから、当然ながら凍結して体積が膨張します。その影響を殺すために5%前後の微妙な割合を決めて空気を含ませているはずです。空気が少なすぎれば凍結での体積膨張がひび割れになり、多すぎればコンクリート強度そのものが低下します。そんなクリティカルな仕事をビルの倒壊など「おから工事」が続出している中国で、数百キロの路線全体に行き渡らせるのは至難でしょう。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国高速鉄道」関連エントリー


中国になお無償援助、国内報道しない人民日報

 もう終わっていると考えていた中国への無償援助が続いていると人民日報日本語版が伝えました。人民日報ウェブを検索すると、中国国内報道はされていません。メディアを使った詐術をいつまで続ける気でしょう。中国側でどこまで意図的に操作されているのかは知れませんが、3兆円を超える有償援助を含めた対中ODAの存在が中国国民から隠されてきたのは事実です。尖閣列島をめぐる対立が険しい中で見つけたこのケースを追ってみます。人民日報日本語版に3月15日掲載の「日本、陝西省の医療環境改善を無償援助」が問題の報道です。


 場所は西安の南300キロほどの安康市白河県、山に囲まれて袋小路になった地区にあり老朽化した茅坪中心衛生院(診療所)が援助対象です。「日本が無償で提供する11万ドル(約1058万円)の援助資金は、同衛生院の医療・技術棟建設に充てられる。完成後は、現地の医療環境が改善され、住民の医療水準が大きく向上する見込み。人民網が報じた」

 「人民網が報じた」に引っ掛かりを感じて「人民網検索ページ」に行きました。記事を見つけるのに確実な方法はピンポイントの固有名詞を使う方法です。「茅坪」を入力すると1857件がヒットしました。この中に「日本」を含む記事があるのか――43件がヒットし、無償援助プロジェクト調印の記事はありません。しかし、昨年11月に陝西省の担当者が日本大使館援助を受ける下調べに茅坪中心衛生院を訪れた記事はありました。中国国内向けに援助調印記事が存在するならば、この検索方法で発見できることを示しています。

 日本大使館援助とあるので「在中国日本国大使館」に行くと「草の根・人間の安全保障無償資金協力(概要)」がありました。2011年度分までしか実績が表示されていませんが、実は2012年度も継続中でした。外務省の対中ODA無償資金協力ページでは2009年以降は留学のための人材育成奨学計画が並んでいるだけです。外務省はどうして国内向けのページで隠しながら、こそこそ無償援助を続けるのか、疑問でなりません。

 気になって調べると、昨年3月16日付の中国網日本語版「日本、湖南省への無償援助プロジェクト調印式が挙行」もありました。しかし、これも中国国内向けは発見出来ません。たまに日本語版ニュースでだけ援助を伝えるのは日本国大使館へのサービスでしょうか?

 山奥の財政難の寒村に医療援助をするのが無駄とは言いませんが、「2011版中国の対外援助白書(全文)・付録3 中国・アフリカ協力フォーラム北京サミットで中国政府が発表した8項目の措置」などを読むともう自国のことは自分で始末しなさいと言うべきです。「アフリカのために30ヵ所の病院をつくり、3億元の無償援助を提供することで、アフリカのマラリア対策の支援に協力し、アルテミシニンの提供および 30ヵ所のマラリア対策センターの設立に用いる」

 2005年に書いた「反日デモ始末に苦渋の続きを思う」で、ある理工系知日派の対中ODAへの複雑な思いをこう伝えました。

 《1月20日付の「対中ODA議論で思うこと、『感謝』は意味あるか?」は3兆円にのぼる対中国の円借款を数年前まで知らなかったと記している。今では「北京の地下鉄に乗る時に『円借款のお陰』」とも思えるようになったが、「北京首都国際空港の玄関の前に『この空港の建設では円借款を使っていた』と書いた看板を掲げたらどういう光景になってしまうかも想像してみた。多分、この看板を見た中国人乗客は、豪華な天井から、戦争によって死んでしまった先人の悲しみ恨む目が見えてくるような感じがするかもしれない」と述べている。その上で「中国人の屈辱感」を長引かせるODAは廃止してよいと考える》

 実質的な戦後賠償として続いてきた対中ODAで、中国国民感情の融和が出来なかった以上、安易な援助継続は日本側の国民感情をさらに悪くします。中国の政治家が対中ODAに触れるケースが増えたと言われつつも、今回の人民日報のおかげで相変わらず国民一般向けには報道できない「タブー」で在り続ける実態が明らかになりました。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国」関連エントリー


『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない

 1月中旬、中国広域で発生した重篤スモッグについて国内メディアの感度の低さが目立ちます。23日になってウォール・ストリート・ジャーナル日本版に出た「中国の大気汚染対策―焼け石に水」が最良では困ります。日本マスメディアの自分では何も考えない、政府行政の発表に依存する体質が、このような場面で露骨に現れています。起きている事象を冷静に観察すれば、根本的には打つ手がないほど環境対策を長期放置した超重度汚染であり、かつて日本が大気汚染を逆バネにして成長したほどの技術的蓄積が中国に無いのは明らかです。私のように「世界一になる夢を潰えさせたか中国の重篤スモッグ」と普通は書くべきなのです。

 ウォール・ストリート・ジャーナルは採られた対策の無力さをこう指摘します。「長期にわたる猛烈なペースでの経済成長の結果としての同国の深刻な環境問題は今や、力強い経済発展の障害になる可能性があるとみられており、懸念の対象は大気や水質の汚染から化石燃料の消費増大にまで広がっている」「ここ数年、発電所と乗用車の汚染物質排出に目が向けられているが、同国の汚染問題は複雑で経済全体にまたがるものだ」「石炭の燃焼によって生じる二酸化硫黄や窒素酸化物など1次汚染物質が大気中で反応してできる2次汚染物質を減らすことに力を入れている。1次汚染物質の削減では若干の成功を収めたが、アナリストは、人体に有害なPMなど2次汚染物質の削減はまだ始まったばかりだとしている」

 大気汚染顕在化を受けた中国社会の反応として注目だったのは中国国営通信、新華社からの「中国、北京の大気汚染対応で新規則を発表へ」のエピソードです。「国内メディアは、政府当局者らが家庭でもオフィスでも高価な空気清浄設備を利用していることなどを報じ、大気汚染問題はこうした特権や格差拡大に対する国民の反発につながっている。このため、大気汚染問題は指導部にとって一段の関心事となっている」。国営、新華社だから痺れました。最近、言われている貧富格差以上に深刻化しました。言論の自由問題のように先送りは不可能です。

 もうひとつ、大気汚染問題が発言力が大きい北京周辺を中心に語られたいますが、実は日本で開発された大気微粒子発生拡散シミュレーションで見れば、広い中国内陸部から朝鮮半島、日本にかけて汚染の発生と拡散があり、反復されています。第338回「中国の最悪大気汚染は韓国や日本へ飛来する」をご覧下さい。ネットの閲覧規制が厳しい中国ですから見られないとは思いますが、もし、九州大で毎日、公開されている微粒子汚染の拡散予測が中国で見られるならば、北京や上海などの沿岸部は時々は北風が吹き抜けてクリーンになるのに、重慶などの内陸部はほぼ常時、汚染大気が渦巻いていて絶望的と判ります。この救いの無さを見せつけられたら内陸部を中心に暴動が起きるのではないかとさえ思えます。

 日本のマスメディアは中国の重篤汚染が日本にも及んで、しばしば環境基準を超える大気汚染をもたらしている現実をきちんと伝えるべきです。中国政府に国際的な迷惑ともの申せる状況です。その一方で、ヒューマニズムの観点からも中国で明かされない過酷な内陸汚染状況を中国国民に少しでも伝える手助けをするべきです。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国」関連エントリー


原発事故責任者の1人と自覚が無い安倍首相

 安倍晋三首相が原発の新増設に積極的な姿勢を示しています。福島原発事故に自分は何の責任も無かったと錯覚しておいでです。いや6年前、第1次安倍内閣で大地震で炉心溶融など検討もしていないとしました。毎日新聞の《安倍首相:「国民的な理解を得て」…原発新増設に前向き》などメディア報道は噴飯モノの極みです。公明党が新増設を渋っているとか、事態の本質ではありません。2006年の衆議院、吉井英勝議員の質問主意書安倍首相の答弁書が鮮やかに事情を語ってくれます。

 この質問主意書は福島原発事故で核心になった「大規模地震時の原発のバックアップ電源」問題を取り上げています。1981年、スウェーデンのフォルクスマルク原発の事故で「バックアップ電源が四系列あるなかで二系列で事故があったのではないか」「日本の原発の約六割はバックアップ電源が二系列ではないのか。仮に、フォルクスマルク原発1号事故と同じように、二系列で事故が発生すると、機器冷却系の電源が全く取れなくなるのではないか」「停止した後の原発では崩壊熱を除去出来なかったら、核燃料棒は焼損(バーン・アウト)するのではないのか。その場合の原発事故がどのような規模の事故になるのかについて、どういう評価を行っているか」と迫りました。

 当時の安倍首相が提出した答弁書は木で鼻をくくったも同然です。「我が国の原子炉施設は、フォルスマルク発電所一号炉とは異なる設計となっていることなどから、同発電所一号炉の事案と同様の事態が発生するとは考えられない」「地震、津波等の自然災害への対策を含めた原子炉の安全性については」「経済産業省が審査し、その審査の妥当性について原子力安全委員会が確認しているものであり、御指摘のような事態が生じないように安全の確保に万全を期しているところである」。燃料焼損と炉心溶融のような事態については「経済産業省としては、お尋ねの評価は行っておらず、原子炉の冷却ができない事態が生じないように安全の確保に万全を期しているところである」

 これを見れば、安倍首相が福島に視察に行って、まずすべきは自らの不明を詫びて土下座しての謝罪です。それがなされなかったどころか、福島から帰京したら《今後の原子力政策について「新たにつくっていく原発は、40年前の古いもの、事故を起こした(東京電力)福島第1原発のものとは全然違う。何が違うのかについて国民的な理解を得ながら、それは新規につくっていくことになるのだろう」と述べ、新増設に前向きな考えを示した》では、普通は人間性が疑われます。

 原子力専門家の安全へのチェックが甘かったのはどうしてか、政治がどうして見過ごしたのか、政治が為すべき点は無かったのか――福島原発事故の問題点を政治家の視点から見直し真摯に検証すれば、最新原発だから安全などという愚かな視点は出てきません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


リアリスト石破・自民は手強い:早々に公約凍結

 総選挙が終わってまだ首班指名をしていないのに自民党の石破幹事長が選挙公約の実質凍結を言い出しています。「軍事オタク」として有名な方だけに現実に適合するしかない外交の局面を理解しているのでしょう。夢想家タイプの安倍総裁を支えているのか、一発かましているのか真相は知れませんが、これまでの自民政権からみて奥行きが深い印象があります。少なくとも民主党政権のように、中国国家主席が日本国首相に立ち話で牽制した翌日に、尖閣国有化を「断行」するよりは知恵がありそうです。

 毎日新聞の「竹島の日:来年の式典見送りを、石破幹事長が示す」は《自民党の石破茂幹事長は20日、同党が衆院選公約集に2月22日を「竹島の日」とし、政府主催で祝う式典を開くと明記していることについて「政権を担っている間に実現に向けた雰囲気を醸成していくのが先決だ」と述べ、来年の開催を見送るべきだとの認識を示した》と伝えました。

 自民党の掲げた公約は、今度の韓国の大統領選で当選した朴槿恵氏が就任する2月25日を前にしたあまりにも悪いタイミングと知られていました。就任式直前の「竹島」日本政府式典は喧嘩を売っているようなものです。石破幹事長の理屈で自民党選挙公約の凍結がうまく収まるなら、朴氏に外交上の得点を稼がせて韓国内でのフリーハンドを持たせることになり、今後の展開を考えれば遙かに賢いのです。軍事はモノとモノとの世界ですから、この局面が空想では動かない点に理解が早いはずです。


政治から降りずパスした有権者ゲーム感覚に問題・12/17追補

 総選挙の結果は自公で3分の2、320議席を超えました。しばらく衆院再議決可能な多数体制が続きますが、本当に信任されていないのは明白です。3年前に自民を政権から追放した有権者は今回はパスしただけです。投票率が前回の69%から59%程度に下がりました。次の国政選挙で投票に足る受け皿が用意されていたら、一度下野したのに本質的な党改革・体質改善を怠っている自民が手痛い目に遭うのは確実でしょう。問題なのは、その間にも時間は経過していき、国政上の決定は取り返しが付きません。2005小泉郵政解散で小選挙区制の振れの大きさを知りゲーム感覚になっている有権者は、一度は自分が支持した政党を見届ける責任もある点をお忘れのようです。いや、支持者と党を結ぶ絆があまりに希薄でした。

 2005年の総選挙から始まった有権者の「信賞必罰」投票については、《有権者の信賞必罰投票とマスメディアの漂流》にまとめました。小泉改革への過度の期待から始まって、失望するたびに自民に叱責を加え、民主党への政権交代をもたらしました。それが失政続きで民主への叱責に変わり、自民への支持に戻ることなく民主支持放棄の形で再び政権交代です。《石破氏 “自公で過半数なら連立へ”》(NHK)で《石破氏は、今回の衆議院選挙について、「民主党に逆風は吹いているが、『自民党頑張れ』というのとは違う感じを持っている。仮に自民党が多数の議席を獲得しても、錯覚を起こしてはいけないというのが実感だ」と述べました》としている通りです。

 有権者の相当数が決して政治から降りていないのにパスした結果、今回総選挙の本来のテーマであった福島原発事故と消費税増税に、明確な判断が出なかったと見られます。来年夏の参院選で蒸し返さざるを得ないでしょう。その先にある次の総選挙も見据えながら野党側がどのような受け皿を用意できるか、与党に戻る自公に劣らず、野党側の政治日程はかなり忙しいはずです。

 【追補】なぜか「自民に票が集まった」との錯覚に陥っている方が多いようです。とんでもないことです。比例区票も小選挙区票も前回比で大きく目減りしました。毎日新聞の「衆院選:自民、比例57 前回並み」は「全国の比例得票数を集計したところ、自民党は1662万票で、05年の2588万票を大きく下回り、09年の1881万票にも及ばなかった。得票率も27.6%で09年の26.7%とほぼ変わらなかった」と伝え、支持の広がりはなかったとしています。小選挙区得票は2564万票で前回から165万票も落としています。戦後最低59.32%の投票率がもたらした票の絶対的減少の中、組織票がある自公が勝ったに過ぎません。

 【参照】インターネットで読み解く!「有権者」関連エントリー


有権者の信賞必罰投票とマスメディアの漂流

 投票日が迫る総選挙、投票率が下がって自公が大勝、政権復帰濃厚です。2005小泉郵政解散で小選挙区制の使い方を知った有権者が、2007参院選以降「信賞必罰」投票をしていると理解すれば善いでしょう。熟語の意味と少し違って「望みを託す側に入れて、失望したら外す」行動です。総選挙終盤に至って4割、5割もの有権者が投票先を決めず、投票しない人が増えるでしょう。この結果、福島原発事故と消費税増税という今回総選挙の本来テーマが霞んでしまいました。マスメディアは本来の争点をそもそも認識していなかったのですから有権者を誘導することが出来ず、選挙情勢調査結果の極端さに右往左往し、評価の切り口を見つけられずに漂流しています。

 2005年から国政選挙で起きた有権者の信賞必罰ぶりをまとめました。

 選挙   【政権側】【野党側】
 2005衆院  信賞→→→→→→→(小泉改革へ失望) 
 2007参院  必罰→→→→→→→(衆参ねじれ国会) 
 2009衆院  必罰______信賞→→(政権交代)
 2010参院  必罰
 2012衆院  必罰______信賞無し(政権交代?) 
 2013参院  必罰?

 小泉郵政解散で有権者が政治に関わる味を覚えたのは間違いありません。その年9月の《時評「勝った以上は『改革の党』にさせよう》で、最後にこう書きました。「再来年夏の参院選だって小選挙区同然です。民意の動かし方を知った有権者が失望して逆に動けば、底なしの大敗だってあります。それに今回の選挙での動き、今後求められる改革は、自民党の従来型支持基盤を壊す方向にあるのは明白です。小泉後継とも目される方たちが超大勝に慄然としているのは当たり前のことなのです」

 小泉構造改革は有権者の期待に反して、細部を丸投げする形で中途半端に終わりました。小泉氏にはシングル・イシューに単純化して訴える能力はあっても、政策を体系的に仕上げる力は無かったわけです。日本は変わると思いこんで投票した有権者の「必罰」は、2007参院選で自民に27議席減の大敗をもたらし「衆参ねじれ国会」が生まれました。この過程で小泉後継の安倍政権は既に落第になっていました。

 2009総選挙で「民主圧勝308議席、自民惨敗119議席」は必然の道筋にあったとするしかありません。《衆院選ブログ観測(4)4年前が政権交代の伏線》でも民主党への期待は記録されています。それが軽い失望に変わった点は2010参院選での「民主10議席減」で表現されました。

 そして、今回の総選挙では「自公300議席、民主70議席」程度と伝えられるのですが、自民への「信賞」が無い点が特徴的です。自民党自身の調査で追い風を感じられないのです。下野した自民に党変革は無く、民主党がこけてくれる形で得る政権復帰では、3年前に自民追放を強烈に願った有権者が来年の参院選で支持してくれる可能性は極めて低いでしょう。ブルームバーグの《安倍自民総裁:政権奪還してもはらむ「参院選リスク」−16日に衆院選》は次の指摘をします。《慶応大学大学院の曽根泰教教授は、自公政権が復活した場合の課題について「参院で法案が否決されることが多くなり、政権交代したのに決められないとか決まらないという批判は出てくる。そこを覚悟で政権運営をしないといけない」と指摘。経済評論家の上念司氏は「衆院選は勝って当たり前」とした上で、「景気の部分で腰折れすると間違いなく7月の参院選で大敗してそのまま引きずりおろされる」との見方を明らかにした》

 昨年初、《『新政権を育てるのに失敗』年賀状での心配事》で「政治とカネ」に政局話で空騒ぎするマスメディア批判を書きました。政権に厳しい有権者の信賞必罰パターンは決まっているのですから、国政選挙の間に意味がある政策的実績を残せるようにマスメディアも考えないと、不毛な政権交代が延々と繰り返されることになります。


安全性疑義封印のまま中国高速鉄道網が概成

 昨年7月に死者40人の追突事故を起こした安全性をめぐる疑義が解明されぬまま報道を禁止、中国高速鉄道の建設が急ピッチで進んで、年内に営業距離9千キロと日本の新幹線網の3倍に達します。主要都市間がほぼ結ばれて、米国NASAが公開した夜の地球写真を見てもらうと、鉄道網は街の明かりが作る点と線そのものです。安全性についての続報と合わせて、中国高速鉄道網の現時点をチェックしておきます。まず、「地上の星か 夜の地球をとらえた鮮明な写真、NASAが公開」から衛星写真を、japanese.china.org.cnからネットワーク路線図を引用します。



 年内最後の開通は《京広高速鉄道、12月26日開通へ=武漢−北京が4時間19分―中国》です。内陸部中央を南北に連なる光の点が路線をくっきりと見せてくれます。12月始めには《ハルビン―大連の高速鉄道が開業、世界初の寒冷地高速鉄道―中国》がありました。これも東北部の光の列で示されます。

 10月末時点で総延長距離が7735キロと報道されており、新たにハルビン―大連が921キロ、京広の新規開通「北京―鄭州間」も500キロを超えます。北京から広州まで2200キロ(8時間)には邯鄲、鄭州、許昌、赤壁、岳陽、汨羅、長沙など春秋戦国から三国志など戦史を彩る地名が溢れています。《「四縦四横」の高速鉄道網、ほぼ完成―中国》にある南北方向「四縦」は出来上がり、東西方向の「四横」がやや遅れているようです。追突事故があった温州は上海・寧波から福州・深センに南下する途中です。

 今年になって大事故は伝えられていませんが、鉄道路盤の安定を待つ期間や試運転・習熟期間の短さは日本国内の常識から遠いものです。3月の《中国:高速鉄道の未開通部分が崩壊、湖北省−安全懸念が再燃》のような際どいニュースが絶えません。「事故は同省の省都である武漢市と宜昌市を結ぶ漢宜高速鉄道(全長291キロメートル)の一部で9日に発生。現場は300メートルにわたって崩壊し、修復のため数百人の作業員が派遣されたという。同区間の試験運転は既に済んでおり、5月に開通予定だった」

 NHKは《中国鉄道事故から1年 教訓はいかされたのか》を制作しています。「今年、事故から1年もたたないうちに高速鉄道の建設を再開したのです」「新たに5兆円もの建設費を予算に計上し、整備の遅れを取り戻そうとしています。しかし、高速鉄道の整備が再び加速する中、事故の教訓を活かした改革が進んでいないことに専門家は警鐘を鳴らしています」として、北京交通大学教授の次のコメントを入れています。「このまま再び建設のスピードをあげれば、安全管理はおろそかになるだけです。そもそも、こんなに急ピッチで建設を進める必要があるのか、どのように安全を確保するのか、考えなければなりません」

 目視ではブレーキが間に合わない高速鉄道の命綱は自動列車制御システムです。昨年末の「再発必至、中国高速鉄道事故の無意味な政府調査結果」で「制御システムは鉄道省と関係が深い国有企業が請け負ったが、設計段階から開発管理が混乱し、システムに重大な設計上の欠陥と安全上のリスクが生じた。だが、鉄道省の入札審査や技術審査が甘く、欠陥が修正されないまま導入された」「落雷で欠陥のあるシステムに障害が起き、誤って後続列車に進行を許す青信号が発信されたことが主因」と中国政府の発表を伝えました。その欠陥が除去された保証がありません。日本や欧州からつぎはぎ導入したシステムを完全にするのは至難です。依然として中核部分はブラックボックスである可能性が高く、想定外の異常事態に正しい応答をする保証が無いはずです。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国高速鉄道」関連エントリー


全てを失うか野田首相、自民は何もせず政権復帰

 日曜のテレビ討論で安倍自民総裁が消費税増税は景気動向を見極めてからとの姿勢を示しました。内閣府が7日に発表した10月の景気動向指数は「悪化」に転じており、2段階増税の内、2014年4月分は無条件実施の思惑が崩れかかっています。公約していない増税法案を成立させ、見返りに民主惨敗になる解散・総選挙までサービスした野田首相に、唯一の仕事「消費増税」すら残らない可能性が高まってきました。その一方、政権復帰が濃厚な自民は原発問題は10年棚上げ、消費税は日和見で対処、デフレ対策は日銀におんぶ、取り立てて新しい成長戦略なし――大学ならとても単位認定してもらえない「低成績」なのです。

 共同通信発・日刊スポーツの《野田首相と安倍氏、消費税増税で火花》はこう伝えています。《首相はフジテレビ番組で、2014年4月に消費税率を引き上げるか賛否を明らかにしなかった安倍氏に対し「増税は避けられない。(民主、自民、公明)3党合意をしたのに何だ。選挙の前におびえている」と反発。安倍氏は「来年4〜6月の経済動向に関する指標を見て秋に判断する。何が何でも上げるというものではない」と景気動向を慎重に見極める考えを示した》

 景気が悪化した場合には増税実施を先延ばしすることは合意されていました。それは増税の悪影響も出る2段階目について想定されていた話で、第一段階では心配ないと思われてきました。

 ところが、ウォールストリートジャーナルの《日本が景気後退期入りの可能性―内閣府の基調判断「悪化」に》は《内閣府が基調判断を引き下げたことで、民間のエコノミストの間では、日本経済は今年初めに景気後退期入りしたとの見方が強まった》としています。《7‐9月期の実質国内総生産(GDP)は年率換算で前期比3.5%減となり、2011年3月の東日本大震災後以来、最大の下げ幅を記録した。エコノミストによると、10‐12月期もマイナス成長となる見込みだが、2013年1‐3月期には海外の景気回復に支えられて、プラスに転じる可能性がある》

 景気後退がそんなに浅くて、直ぐに景気が戻るものなのか、重症の欧州や陰っている中国の動向を見ると疑問があります。安倍総裁の「来秋に判断」は政権を持っていた場合に、来年夏の参院選での影響を最小限にしたい思惑も含んでいると見られます。攻めの政策を語っているようで、実は中身に乏しい安倍自民らしい保身策です。野に下って3年、政策を一から再構築する地道な動きなどまるで無かったのですから、前政権時代のような駆け引き政治に再び戻るのでしょう。

 【参照】インターネットで読み解く!「総選挙」関連エントリー


民自公の増税隠し奏功か:総選挙ツイート観測

 総選挙公示から一夜が明けました。選挙動向を占うツールとしてツィッターを使って観測すると、今回選の2大テーマであるべき原発と消費税増税の内、増税への言及が薄く、増税を決めた民自公3党の問題点隠しが奏功している感じです。「buzztter - Twitter のイマを切り取ったー☆」で観測されたツイート数グラフを使い、比較できるようスケールを調整しました。1日午前0時ごろから5日午前5時までの記録です。


 キーワードごとのツイート数推移を見ると「選挙」が3日深夜から伸びていて、公示が強く意識されたことが分かります。「原発 OR 原子力」は公示以前から話題になり続けており急に増えた訳ではありません。「TPP」と「消費税 OR 増税」はほぼ同じくらいで、ピーク値が「原発 OR 原子力」の17%程度です。「景気 OR 雇用」は11%位で、いずれも見やすくするために2倍スケールにしました。

 解散時に野田首相が争点として環太平洋経済連携協定(TPP)参加を持ち出したのは、与野党3党で決めた消費税増税問題から目をそらさせるためだとの観測があります。ツィッターでの言及具合を見る限り、長く国政の焦点だった消費税増税が埋没している感が否めません。反対の「日本未来の党」などが選挙戦で争点にすることが出来るか注目です。

 【参照】インターネットで読み解く!「総選挙」関連エントリー


維新の幻滅、媚びたメディアに選挙歪めた責任

 民主、自民に対抗する第三極は維新と決めつけたメディア報道が延々と続いたあげく、維新の主張する重要政策が自民と大差ないと判明。橋下氏の日々変わる言動を追い続けた無意味さに猛省を求めます。膨大な報道は維新の知名度を無用かつ歪に高めたと指摘します。2011統一地方選での大阪維新勝利以来、新聞紙面やテレビ番組内で大きく扱われる点だけを評価軸にした「駆け出し記者的無定見」が各メディア編集部門を支配していたのではありませんか。最も大事な国政選挙である総選挙が、橋下節の話題性で曇らされてしまいました。

 今回総選挙の主要テーマは福島原発事故を受けたエネルギー政策の転換であり、民自公3党で選挙の洗礼無しに決めてしまった消費税増税であることはあまりに明らかだったのに、日本未来の党が前面に打ち出すまでメディアは避けていました。毎日新聞の《2012衆院選:どこが違う、主要政党が描く未来像 政権公約、実現性は?》が「(1)原発・エネルギー(2)経済・財政(3)社会保障……」と並べているので見ましょう。

 原発に対する維新の政策は太陽との合流以来、迷走しています。「維新は脱原発を唱えていた橋下徹代表代行と脱・脱原発が持論の石原慎太郎代表が合流し、政策が曖昧になった」とあるとおりです。一方、消費税は「未来、みんなは消費増税の凍結を主張し、賛否は二分。維新は消費税を地方税化して11%とし、このうち6%を自治体間の税収格差を調整する地方共有税に」であり、維新は重要政策で「原発問題先送り・消費税10%」の自民と同じ歩調です。自民補完勢力と揶揄されても仕方がありません。

 総選挙本番を前にした維新の失速幻滅について「いい気味」と思うメディア関係者もいるかもしれませんが、読者や視聴者をここまで長く引きずり回した経緯を見ればメディアの信用も大きく傷ついたと言わざるを得ません。国政選挙に影響すると分かっている以上、くるくる変わる橋下言動など記録するべきではなかった、この国をどう変えるのか、早く姿を見せろと迫るべきだったのです。「原発と増税が総選挙本来テーマ」の基本をおさえることなく橋下氏の日々に変わる言動を追い続けたジャーナリズム精神の欠如が、日本のマスメディアの悲しい現状です。

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原発と増税が総選挙本来テーマ、未来党へ期待

 福島原発事故を受けてエネルギー政策を転換すべし、民自公で決めた消費税増税を国民は了承していない――総選挙で正面から問うべきテーマを掲げた嘉田滋賀知事ら「日本未来の党」に期待します。第三極諸党へ合流呼びかけも「生活」などかなりの広がりを持ちそうです。右に大きく振れた「維新」以外、「みんな」や社民党まで含めた協力構築が望ましいと考えます。それで衆院に大きな勢力を築ければ、増税問題を隠した民自公ペースの解散・総選挙の様相が一変します。

 時事通信の《「日本未来の党」結成表明=「卒原発」で勢力結集−嘉田滋賀知事【12衆院選】》は既にこう伝えました。《生活の東祥三幹事長は27日、都内で街頭演説し、脱原発や反消費税で一致することを念頭に「同じ主張、同じ政策ならば、共に戦おうではないか。その決断が下されるかもしれない」と述べ、合流に前向きな考えを示した。同党の小沢一郎代表は「脱原発」との合流を検討しているほか、「みどりの風」との連携も模索している。河村市長も同日の記者会見で「時間もないので嘉田さんたちと一緒に同じ政党名でやっていきたい」と語った》

 朝日新聞の《嘉田知事新党は「日本未来の党」 卒原発掲げ結成を表明》は嘉田氏発表の「びわこ宣言」にも触れています。《東日本大震災後初の国政選挙であるにもかかわらず、原発のない社会に向けての議論は不透明なままだ、と指摘。「自民党はこれまで原発の安全神話をつくり、事故への備えを怠り福島事故に対する反省は一切なく、原発推進ともとれるマニフェストを発表した」と批判した。そのうえで「多数の原発が集中立地する若狭湾(福井県)に近い滋賀県、琵琶湖をあずかる知事として、国政にメッセージを出さないことは、これまで琵琶湖を守ってきた先人に対しても、子や孫に対しても申し訳が立たない。国民の信頼を取り戻し、国民が希望を持つことができる、未来への選択肢となる新しい政治の軸を立てる」と決意を表明し、賛同を呼びかけた》

 フェースブック上では北海道大の山口二郎教授が「福島瑞穂は社民党を連れてこの動きに合流すべき。衰えたりとはいえ、社民党には地方組織がある。縁の下の力持ちになって脱原発の大義を追求すべき」と主張しています。

 数日前から始まった第三極合流の模索がどこまで広がるか、時間は今週末までしか残されていません。期待を込めて見守りましょう。

 【参照】インターネットで読み解く!「総選挙」関連エントリー


中国新指導部の今後と温家宝首相の後始末

 5年ぶりの中国共産党大会で新しい指導部が選出されました。竹のカーテンの向こう側ですから実情は知れません。しかし、中国ウオッチャーの分析を見ていると人民から望まれている体制改革の期待は薄く、そのような難題を避けるべく対外強硬姿勢に傾くのかなと思えます。もう一つ、親族による2000億円以上の巨額蓄財と報道された温家宝首相について、党として調査するだったのに後始末がありませんでした。「どうか私のことは忘れて」と首相が発言したニュースが逆にリアリティを感じさせます。

 ふるまいよしこさんの「習近平の新時代へ」(コラムニューズウィーク日本版)は中国共産党総書記就任スピーチが、10年前の胡錦濤氏と比べて極めて平易な言い回しになっていると指摘します。《中国の政府関係者のスピーチといえば、これまでずっと「これぞ中国よね!」的な語句がずらずら並び、聞く者、読む者、翻訳する者をけむにまき、結局「行間」を読んだ者勝ちというスタイルが普通だった》例えば前任者は「我々は必ず、党の全同志の重き委託と全国人民の期待や希望を裏切ることなく、小平理論の偉大な旗を高く掲げ、全面的に『3つの代表』の重要思想を貫き、真摯に第16回党大会が提起した各任務を推し進め・・・」

 《しかし、習近平のスピーチはこう始まった。「党の全同志の重き委託、全国の各民族人民の期待と希望、これらは我々がきちんと仕事を行なっていく上で心を奮い立たせるものであり、また我々の肩の上にかかった重い責任でもあります」》これで発言通りですから確かに生身の人間を感じます。でも限界は直ぐに露呈します。

 《習近平はさらに共産党内部についてもこう触れている。「新しい形勢下において、我々の党は多くの厳しい挑戦に直面しており、党内には多くの解決が急がれる問題が存在している。特に一部党員幹部の中で起こっている汚職腐敗、形式主義、官僚主義などの問題については必ず、大きな気力を持ってして解決しなければならない。党全体が意識して目をさまさなければならない」》

 新指導部の視野が党内の末端改革に止まり、体制改革には進まないと主張しているのが「十八大反省会・中央政治局常務委員編」(The Useless Journal of CHINA)です。指導部を形成する常務委員7人を分析して、《最高意思決定機関としての常務委員会は、保守に偏った分、常務委員会政策決定のルールと言われる「合意形成」(満場一致)には比較的スムーズな顔ぶれになっている》とします。《彼らに課されているのは、意見が別れそうな敏感な問題、直接的に言えば既得権益者である太子党・上海閥の逆鱗に触れる問題(急進的な民主・改革政策や、陳良宇・薄煕来クラスの双規など)に手をつけなければいいだけ。”消防隊長”の異名を持つ王岐山が鬼の紀検委を率いる理由も、腐敗防止の対象に既得権益者層を巻き込ませず、かつ末端のおイタした小役人や企業家をバシバシと斬って捨てるための布石だと考えると合点がいくのです》

 引退する党内序列2位、温首相の「どうか私のことは忘れて」(WSJ日本版)はこう見ます。《温氏が世間から消え去りたいと考えるのには一理ある。かつて自らが記録的成長に導いた中国経済が徐々に衰退・減速し、中国の奇跡も評判ほどではないのではとの臆測が流れ始めるのをこの7カ月じっと見守ってきた。そこへきて先日、親族が多額の蓄財をしていると外国メディアに報じられた。これはいかなる政治家にとってもショックな出来事だが、改革者としてのイメージを打ち出してきた温氏にとってはなおさらだ。表舞台から消え、忘れ去られたいと願うのも無理はない》

 温首相は腰が軽く各地の現場に出掛けて人民に声を掛ける『水戸黄門』的なイメージがあったのですが、「温家宝は役に立たないから」(中国という隣人)はそれも虚像だったと思わせます。首相の車を、不正な土地収用を直訴するべく土下座して止めた農民が7日間の行政拘留処分を受けたエピソードです。ネットで話題化して、結局は行政側が謝罪しました。「これは文字通り氷山の一角。運良くネットで拾い上げられるか、ネットに配信する力が必要になります。根本的な解決にはなっていない」との指弾です。指導者の「善意」に頼っていては駄目で、整備された法治国家にするしか解決策はありません。それは遠い昔、秦が統一国家を樹立できた原動力でもありました。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国」関連エントリー


野田・安倍・橋下ツイート数に見る世間注目推移

 選挙の動向を占うツールとしてツィッターが使えそうです。米大統領選でも「オバマに投票」がロムニーに差を付けました。試みに衆院解散前後から野田・安倍・橋下3氏のツイート数推移を分析します。「buzztter - Twitter のイマを切り取ったー☆」で観測されたツイート数グラフを使い、比較できるようスケールを調整しました。今回は15日夕刻から19日午後3時までの記録です。


 野田首相と安倍自民党総裁は与野党党首として解散前日、ほぼ同様の注目を集めました。橋下大阪市長は低めです。16日の野田首相「バカ正直解散」のインパクトも強く、ツイートピーク値は「925」でした。野田首相へのツイートはその後、日を追って減っていきます。18日になると安倍・橋下両氏を下回るようになります。

 コンスタントな言及を保っている安倍氏に対して、大きく振れるのが橋下氏です。太陽の党との合流協議で大注目になり、合流発表後のピーク「412」はテレビ出演によるものと思われます。河村名古屋市長の減税日本との合流は「中身の問題だ」と否定したり、石原氏を首相候補に押し上げたり、と話題づくりに事欠かない性分なのでしょう。

 ツイートの中身が好意的か批判的かは、個別に読んでいかなければ分かりません。米大統領選投票日での「voteobama」と「voteromney」のツイート数を比べるのなら簡明です。オバマの方が3割くらい多かったようです。日本国内では公選法で表現が縛られてしまいそうですが、有権者の反応をリアルタイムで知る手段に変わりありません。4年前の大統領選ではテクノラティ社のブログ記事数グラフが使えて、第167回「ブログ記事数グラフで見る米大統領選」でオバマ有利の動向を掲示しています。ブログ数が増えすぎた現在では、このグラフ化は不可能になってしまいました。


暴走発言の安倍総裁、色あせる橋下快刀乱麻

 民主党の立て直しをしないで解散した野田首相、そこまでしなくてもと思える暴走発言の安倍総裁、太陽との合流優先で快刀乱麻ぶりが色あせてしまった橋下維新――どの党も踏み外しだらけです。読売新聞の緊急世論調査《比例投票先、自民26%民主13%…第3極失速》が示しているのは、総選挙を前にした党派性への収束でしょう。ふだんは浮気をしていた有権者が本筋の政党に回帰する現象で、前回総選挙に比べて民主は激減、自民の優位は動かず、安倍総裁は敢えて政策的危うさを見せるべきではありません。

 法律で禁止になっている建設国債の日銀全額引き受けを言い出した安倍総裁は「日銀の政策金利をゼロにするか、マイナス金利にするぐらいのことをして、貸し出し圧力を強めてもらわないといけない」とまで発言しています。「暴走する安倍晋三氏」で池田信夫氏は「日銀引き受けで増えるのは政府支出であり、これは建設国債を民間が買って日銀が買いオペで吸収するのと同じだ」「財政規律が失われ、『日本政府はいよいよ市場で国債を消化できなくなった』というメッセージを世界に送って、国債バブル崩壊のきっかけになるおそれが強い」「こんな暴走を続けていると、安倍氏が恥をかくだけでなく自民党も選挙でつまずくだろう」と手厳しく批判します。

 読売緊急世論調査は衆院比例代表選の投票先がどう推移したかも掲示しています。維新の会は8、9月は16%、10月13%、11月始め12%から解散直後8%まで落ちています。太陽の党も5%に止まり、第三極に圧倒的な風が吹く状況ではありません。毎日新聞《日本維新の会:「大同団結」政策骨抜き…太陽の党と合流》が「合意した基本政策は合流を優先し、国民の関心が高い政策で骨抜きやあいまいさが目立つ。橋下氏は大阪市長として『2030年までの原発ゼロ』を表明、みんなの党との政策合意にも脱原発が盛り込まれた。ところが、基本政策には安全基準など『ルールの構築』とあるのみだ」と伝えるように、橋下氏から持ち前の歯切れの良さが失われている点が響いています。これは国政政党化したころから始まっています。

 小選挙区とブロック別比例区からなる総選挙ですが、やはり中心は300小選挙区です。ここでは前回選挙からの共闘態勢を守っている自公が圧倒的に有利です。民主は離党者続出で大量の空白区を抱え解消は無理です。資金面でも不安がある第三極が知名度のある候補者を用意するのは難しく、維新の1次公認は47人にすぎません。勝敗は見えていて民主党政権維持の算段が全くないのに解散に打って出た野田首相は自己満足できても、政権獲得に再起できないほど民主党を惨敗させる可能性があります。

 【参照】インターネットで読み解く!「民主党政権」関連エントリー


野田首相は大局観を欠いた政治的ボンクラ

 民主党大惨敗が間違いない総選挙に野田佳彦首相が打って出ます。第三極の選挙準備が整う前に、と考えたのなら大きな間違いです。この時期の総選挙は民主党に利するところはなく、自公連立政権の閉塞復活につながるだけです。野田首相が環太平洋経済連携協定(TPP)を争点にしようと言い出すなど、民主党の政治家は皆さん、自己の妄想の中にお住まいとしか見えません。しかし、本格的政権交代で踏み出された大きな政治の流れを大切にするだけの大局観は持っていなければなりません。解散時期嘘つき批判に悩み、野田降ろしを見る前に自ら解散を決めるしかなかったボンクラを、9月の代表選挙で再選した民主党は何もかも捨てることになりました。あの時、交替させるしかなかったのです。

 衆議院選挙は12月4日公示、16日投票と決められました。日経新聞が伝える岡田克也副総理の談話は愉快なほど、事の本質を隠しています。「見事なリーダーとしての決断だ」「来年度予算編成が本格化するまでに選挙するのが国益だという判断があったと思う。我が党にとって決して有利な状況ではないが、そういったことを乗り越えて信を問うということだと思う」

 実態は党内の解散反対噴出でリーダー失格に陥り、民主党政権最後の予算編成で政権の意義を訴えるチャンスも無くします。しかも、信を問う内容が次のようにTPPだとするなら、これまでの3年は何だったのかとなります。

 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版10日付の「野田首相、12月にも衆院選を検討=複数の首相側近」は《首相はTPP交渉参加を争点にすることで最大野党の自民党より多くの票を得ることを狙っている。自民党は、日本がTPPに加われば海外から安い農産物が押し寄せるのではないかと懸念する農家の反対意見に配慮してTPPには慎重だからだ。「次の選挙はTPPで勝負する。自民党はTPP支持とは言えないから、違いを出せる」と総理に近い与党議員の一人は述べた》と報じました。国民に広く訴えるほどTPPの中身を政権として議論してきたとは言えません。

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国の巨額支援でなく東電の国有化と電力改革を

 東京電力が7日に発表した国への巨額支援要請は、再建の枠組みを決めた「総合特別事業計画」が早くも破綻していると社外取締役らが認めた点に問題の本質があります。政府の責任逃れも含めて無理矢理作った計画を維持するのではなく、この機会に根本的な解決を志向するしかありません。それには東電の国有化と解体です。福島原発事故の財政的な始末を付けるために、他の電力会社にも及ぶ電力改革の開始です。

 毎日新聞の「東京電力:国に支援要請 中期経営方針を発表」は《福島第1原発事故の賠償や除染、廃炉の費用が今後、10兆円を上回る可能性があると強調。下河辺和彦会長らは国に対し新たな支援策を要請した上で、再建の大枠を定めた「総合特別事業計画」を来春にも改定する方針を示した》《社外取締役ら7人の共同記者会見では「(事故対策費用が膨らむなどし)総合計画の前提が崩れつつある」(数土文夫JFEホールディングス相談役)などの懸念を表明》と伝えました。

 もともとの枠組みが間違っています。政府は福島原発事故の収束と廃炉を東電の責任とし、発生した除染費用も立て替えた後で東電に請求するとしています。事業者責任を問う法律の建前と東電前経営陣の企業存続希望によって現在の枠組みが出来ました。しかし、1兆円を投入した「実質国有化」後、百日を経過して第三者が冷静に見れば、全く展望が無いと知ったに過ぎません。東電がこうした費用を負担し続けるならば、原資は東電管内の電気料金です。東電管内だけが止めどなく高い電気料金になっていき、国内経済が歪みます。

 翻って考えれば、福島第一原発の安全審査をしてゴーサインを出したのは政府です。事故の責任は国が東電と折半するべきです。ところが政府は事故の責任明確化を避けるばかりでなく、費用の政府負担にも口をつぐんできました。現実を直視しないために、「実質国有化」が行われたのです。

 もう虚飾は結構です。税金を含めて福島原発事故始末で負担できる、合理的な枠組みを確定しなければなりません。除染に膨大な費用が投じられようとしていますが、住民の多数は放射能不安から戻るつもりはありません。それならば長期に渡って放棄する地域を設定して、住民に新天地で新たな生活をして貰う方が安心できるし、遙かに安く済みます。河北新報が伝える《福島避難者、「20年度にゼロ」 県、総合計画に明記へ》のような自治体の錯誤に全国民が付き合う必要はありません。元に戻らないものは戻らないのです。

 国民の理解を得て税金を投入するには、東電がこれまで不当に得た膨大な利益を全て返す必要があります。送電と発電を分離して原価構造を公開し、事故処理費用の上乗せに理解を得なければなりません。東電の本当の国有化と解体をすべきです。電気料金の国内バランスを取るために、他の電力にも負担をならすべきです。国民の理解を得るためにも、電気料金の透明化は避けられません。送電と発電の分離は他電力も巻き込んで全国規模で進めるしかありません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


核開発に暴走のイラン、制裁で市民生活崩壊へ

 イランが核開発の意図を不用意に漏らしてしまったために、EUによる経済制裁が厳しさを増しており、市民生活が崩壊しかけています。イランが核兵器を持てば、対抗上、サウジアラビアや湾岸諸国は米国の核の傘に入らざるを得なくなります。複雑な中東情勢にまた厄介な要因が増えます。経済制裁を解かせるために、タンカーを座礁させて原油流出でホルムズ海峡を封鎖する計画まで立てられているのに、日本のメディアがほとんど注目していないのはどうしたことでしょうか。

 ロイターの《EUが対イラン制裁強化、銀行・輸送・産業セクターに全面制裁へ》は「EUはこれまで、一般市民への悪影響などを懸念し、制裁対象を特定の個人・企業に限定していた。だが今後は方針を転換し、銀行・輸送・産業セクターに対し全面制裁を課す」と報じました。

 ここまで踏み切らせたのはイランが軍事用ウラン濃縮を漏らしたからです。MEMRIの《軍用に90%ウラン濃縮意図を明らかにしたテヘラン ―目的の一つは原潜建造― 》がこう伝えています。「この数ヶ月、イランは要人を使った一連の声明キャンペーンを展開してきた。それは、原子力船と原子力潜水艦用のウラン濃縮意図に関する内容である」「水上船舶用には50−60%の濃縮ウランで済むが、原子力潜水艦用には90%のものが必要であり、これは核爆弾用の濃縮レベルと同じ」「この声明キャンペーンは、西側の制裁に対する反撃であった。制裁によって石油の使用が制限され、世界との結びつきを維持していくためには、通商輸送用の代替燃料を開発せざるを得ない。これが経済制裁反対のポイントであった。ところが、論述展開の過程で建前を踏みはずしたのである。勢いあまって本音がでた」

 10月に入って、イランの通貨リアルの非公式レートは1ドル35000リアルにも達しました。1年前の3倍です。インフレの進行は強烈です。2月にロイターが伝えた《イラン市民襲う経済制裁、生活困窮で「核問題よりパン」》の段階ではレートは2倍でした。10月に入って一部で暴動が起きたのも当然の成り行きです。

 それでもイラン政府は民衆に配慮するそぶりは見せません。核開発を押し止めることは難しそうです。《イラン、核兵器に使えるウラン製造に2─4カ月=米研究所》(ロイター)によれば秒読みに近い感覚です。《イランが濃度20%のウランを今後さらに製造することができた場合、予想以上に早く核兵器を保有する可能性があり、米国と同盟諸国は「イランが核保有を決定した場合には、厳しく対応できる能力を保持する」べきだと指摘した》

 食料はまだ禁輸されていませんが、インフレが極端になれば北朝鮮並みの困窮もあり得ます。既に2月の段階で、「物価は毎日上がり、暮らしにはお金がかかる。鳥肉などは月に1回しか買えない。以前は週2回は買えていたのに」と訴える状況だったからです。


保安院の劣化コピーか、原子力規制委の頑迷

 新たに発足した原子力規制委員会と事務局の原子力規制庁、その頑迷ぶりは目に余ります。「特定の主義主張を持って書かれている方」は記者会見から排除する方針に始まり、事務局の部屋には鍵を掛けて取材陣を立ち入らせない、一般市民が原発や核燃サイクルのデータを集め得る貴重な資料センターだった『原子力の図書館』廃止と続きました。標榜している「透明性確保」から遠のくばかり。露呈してくる体質は多くの職員を引き継いだ経済産業省の旧・原子力安全・保安院の劣化コピーとしか思えません。

 記者会見の取材規制は「赤旗」の《「特定の主義主張 ご遠慮いただく」原子力規制委が取材規制》で表面化し、《原子力規制委 「赤旗」の会見参加認める》で、赤旗の記者については撤回されました。しかし、フリーランスの記者参加について「どういった雑誌に、どういった記事を書いているかを見て、特定の主義主張を持って書かれている方はご遠慮いただいています」は撤回されていません。行政側にこのような選別権を与えることは隠蔽体質に直結します。

 毎日新聞が伝えた《原子力の図書館:廃止 安全委→規制庁に引き継がれず》は「透明性」の観点でもっと影響が甚大です。原子力規制委が引き継いだ組織のひとつ、旧・原子力安全委員会の重要な資料センターを潰しました。「原発を建設・運転する際に必要な設置許可申請書や安全審査書のほか、政府の議事録など資料約4万ファイルが収蔵され、福島事故直後は1日約100人の利用者があったという」「インターネットでは見られない紙資料も多数保管されており、全国の原子力施設の資料を閲覧・コピーできる利点があった」

 元安全委員長代理の住田健二・大阪大名誉教授のコメント「一般市民が原子力の情報にアクセスできる窓口は存続させるべきだ。規制庁の対応はあまりにもお粗末で、原子力の信頼回復のためにも早急に再開すべきだ」の通りだと思います。不思議に思うのは、誰がこのような原子力規制委の制度設計をし、チェックする政治家がいなかったのかです。福島原発事故の不手際で政府の信頼は地に落ちました。「規制委員の人選が原子力ムラと専門家に偏っている」と与党からも批判を浴び、国会の承認が出来なかった経緯があります。旧・保安院の官僚任せが事務局の実態ならば、マスメディアは厳しく追及する姿勢を見せるべきです。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


中国政府主導だった反日デモと愛国教育の正体

 尖閣をめぐり過去にない激しさだった反日デモが中国政府の「お達し」でぴたりと収まった後、ネット上に中国人ライターによる反日デモの体験ルポが登場しています。制服の警官が参加登録からバス移動、決起集会まで仕切る報告に、官製茶番劇とのお付き合いはもうたくさんだ――との思いがしてきます。さらに中国外に出ている中国人が冷静に語る愛国教育の実情もネットで読めます。こちらも歴史とは離れた「扇動」でしかない中身に、自分で相対化できる知識人はともかく、巨大な人口の民との相互理解は道遠しと考えざるを得ません。日本では右傾化が進み、日中ともに暗雲が覆いつつあります。

 「大陸浪人のススメ 〜迷宮旅社別館〜」の《反日デモ参加中国人「修学旅行のバス状態でした」 現地からの反日デモ・レポート 後編》は満州事変の記念日、9月18日に瀋陽でのルポです。

 ネットで知った集合場所に行くとバスが待っていて《車上には制服姿の警官が数人おり、規定の登録用紙を配られて「名前」「ID番号」「電話番号」「QQ(チャット)の番号」「住所」「家族構成」などを記入させられた》。人民解放軍瀋陽軍区・軍人クラブ内にある八一劇場で決起集会。《集会中には「理性的な愛国を」「国内外の記者がこれを見ている、破壊活動はするな」とお達し》。バスが出発、警官が敬礼。しかし日本領事館から遠ざかるコースに不満を言うと《車内で警官が「政府の方でこういう段取りになってるから」「デモバスはそれぞれルート違うから」「最後は領事館行くから」と 説明するも、車内のデモ隊は不満》で、「下ろせ」と騒ぎが起きて車内のビデオで記録されています。

 反日の根っこにあるのが愛国教育であり、「チェンマイUpdate」が《中国の反日暴動に対するタイにいる一中国女性の見方》で、バンコクでジャーナリストをしている中国女性ツァン・チーさんの見方を紹介しています。《小学校に入り、教わる歌は愛国歌ばかりである。「母国への頌歌」、「共産党なしには新中国はなかった」、「太陽は紅く、毛主席は最愛の人」などである。学校で見る映画は、革命映画ばかりである。その中で悪者は、哀れであほで邪悪な、いつも日本人か地主である。ヒーローは、赤軍兵士、共産党メンバー、農民、労働者同胞となる》

 《こういった独善的な刷り込みは大学までも続くので、私は、大学では強制的で時間を多くとるマルクス・レーニン主義のイデオロギーと共産党の主義・政策を教える「政治講義」ををスキップしたほどだ。こういったものが多く教えられる一方で、市民としての権利をいかに要求し、使うかといったことは一切教えられてこなかった。前向きな姿勢で、合理的で、平和的で、合法的なやり方でいかに価値や力を獲得すべきかも教えられない。我慢して、交渉し、妥協する方法についても教えられない。他人の利益を尊重することも教えられない。ただ教えられるのは、「敵を倒せ!」ということだけである》

 今度の事態について、レコードチャイナの《<反日デモ>ナショナリズムの操作が招いた報い、負のパワーが中国社会を覆い始めた―香港誌》は自由な香港からの視点で危機感を表明しています。

 《今回の暴動と化した反日デモは、中国の歴史上のターニングポイントに位置づけることができる。それは、この10年続いた「繁栄の時代」の終わりと動乱の時代の幕開けを意味している。社会の中の「悪」のパワーがさらに呼び起こされ、すべての人(特に都市部の中産階級)を新たな恐怖のどん底に陥れた》《もはや、どんなに立派なショッピングセンターや高級ホテルに隠れても、安心感は全く得られない。人々は否が応にも現政権の「維穏(社会安定の維持)」体制に頼らざるを得ない。だが、今後はこうした悪循環が加速することで、理性を求める声は一層出しづらくなり、一部の極端な勢力が中国社会全体を牛耳るようになっていくだろう》

 尖閣諸島をめぐる中国の軍事的な威嚇発言と行動で、日本でも日米安保体制が完全に見直され、かつ集団的自衛権行使が表面に躍り出るまでになっています。日本の政界の右傾化は避けようもなく、それが中国に跳ね返る流れにならざるを得ません。

 【追補】さらに、ニューズウイーク「中国ナルシスト愛国心の暴走」にこうあります。《とはいえ、被害者意識は中国当局が育ててきたいびつな愛国主義の一面にすぎない。それと同じくらい重要なのは、中国政府が自国民に刷り込んできた「身勝手に国益を追求する他の大国と違って、中国は国際社会で正義を実践する国だ」というイメージだ》
 《一部の外交当局者や専門家は間違いなく、状況をもっときちんと把握している。彼らは「中国の外交は正しい」というイメージに違和感を覚えているかもしれないが、それを公言することはない。政府の外交政策について民衆やエリート層が受け入れる批判は、政府が弱腰過ぎるというものだけだ》

 【参照】インターネットで読み解く!「反日」関連エントリー


原発丸投げ政府と危うい規制委、再処理工場

 福島原発事故から1年半、原子力政策を転換する大きな節目が来ているのに、開いた口がふさがらない展望の無さです。民主党政権は脱原発、2030年代の原発ゼロを掲げるエネルギー戦略を閣議で決定しませんでした。一方で建設中の3原発はそのまま続行させ、停止中の原発再稼働は新たに発足した原子力規制委員会に丸投げしました。その規制委の発足記者会見では新安全基準への道筋がまるで見えません。原発ゼロなのに維持を決めた核燃サイクルの基幹である六ケ所再処理工場がまた完工延期を決め、出来たとしても当初予定から16年遅れの体たらくです。

 東京新聞の「原発ゼロ ズルズル後退 エネ環戦略 閣議決定せず」は「原発ゼロ戦略の閣議決定を見送ったのは、脱原発を打ち出した戦略に反発を強める経団連などの経済界や原発関連施設立地の自治体、米国などに配慮し、政策の調整の余地を残すためとみられる」と伝えます。原発運転期間を40年に限ることも明記していたのですが、建設中の原発続行を経済産業相が認めたために2030年代に運転ゼロの目標も怪しくなっています。

 NHKの「姿勢問われる原子力規制委員会」は率直な疑問をいくつも投げています。「規制委員会が安全性をどのような方法で評価し運転再開を判断するのかは示されていません」。事務局である「原子力規制庁の職員の8割以上は原発事故で『専門性の欠如』や『初動の対応のまずさ』を指摘された保安院と原子力安全委員会の職員です」

 政府と国会の事故調査委が出した福島原発事故の原因は違っています。政府の従来の暫定基準と違って新安全基準には、その原因を反映させざるを得ません。原因を確定する道筋すら見えません。

 来年10月を完工と延期した六ケ所再処理工場にも、1989年に事業申請した当時とは環境が激変していると指摘せざるを得ません。例えば、本格運転が始まると使用済み核燃料棒を切り刻んで溶かすために、放射性の希ガス「クリプトン85」だけで年間33京ベクレルを環境に放出します。1京は1億の1億倍です。トリチウムなどの放出も桁はずれです。福島原発事故を経験した国民は食品1キロ当たり10ベクレル単位の放射性物質に敏感になっています。この状況で、完工したから運転ですと認められるか、大きな疑問があります。

 【参照】特集F1「核心曖昧な事故調報告は安全基準再建に障害」
   インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


尖閣対立に危険な臭い:『戦闘』すら可能性が

 中国の巡視船6隻による尖閣列島領海侵入、公船に対し実力行使が出来ず併走するしかない海上保安庁巡視船を見て、間もなく休漁期が開けて中国漁船が混じると厄介に思えました。領海に入る漁船は拿捕出来ますが、中国巡視船が割ってはいるとどうなるか。日本が実効支配している現状を崩すのが目的ならば、領海に入って操業する中国漁船を日本側に拿捕させなければよいのです。日本に備えがあるか心配なところに、台湾側がもっと危険な計画を持っていました。

 レコードチャイナの《<尖閣問題>漁船100隻超による抗議活動を計画=台湾当局が護衛―台湾》は「台湾紙・中国時報によると、台湾の海洋巡視部局は13日、漁業警備の現場をメディアに公開した。場所は尖閣諸島から45カイリ離れた地点。責任者はもし9月下旬に漁民、あるいは台湾の議員が尖閣諸島上陸を希望するならば、特殊勤務隊員を派遣して日本側の妨害を排除すると約束した」と伝えました。

 日本と台湾の公権力に属する者同士が発砲はしないにせよ、直接ぶつかって何らかの実力行使をする――『戦闘』と呼んでいい事態が危惧されます。海上保安部門が決定できる軽微な問題ではないと考えます。中国巡視船との接触や漁船拿捕への妨害も発生すれば、これに近いレベルです。

 中国本土での日系工場焼き討ちやトヨタ販売店多数の襲撃には意外な感じを持ちました。しかし、新華社の《日本車破壊の4人を逮捕 日本製品ボイコットのデモで=中国広東省》の論理を注意深く読めば、中国市民の私有財産を脅かすのは犯罪だが、中国市民が購入する前の日本製品は別と受け取れます。「市民が日本車を購入すれば、私有財産となる。市民が長い間資金を貯めて買ったものかもしれない。日本製品のボイコットは個人の考えから出発するものでも、何の理由もなしに他人の日本車を壊すことは私有財産を脅かす行為だ」

 「大陸浪人のススメ 〜迷宮旅社別館〜」の「毛沢東の肖像画まで登場した反日デモの性質をざっくり考えてみた」は「そもそも中国において、都市部で人間が百人以上集まって何かをガヤガヤとやっていたら、それは金儲けやバーゲンに関係したものでない限り、基本的にはほとんどがどこかの誰かの意を受けた政治闘争や大衆動員だと考えるべきものなのだ」とした上で、日本メディアが往々にして唱えるネットの圧力による暴走を否定します。「ネット上で『反日言論』が盛り上がっているのは事実だが、それは3.のように当局の政治的正義として反日が示されているから、ネットが活発化しているに過ぎない。ニワトリとタマゴの順番が逆である」

 これまでとは明らかに違う局面に踏み込んだ中国側に対し、日本政府は全く準備が出来ていない印象です。竹島問題であった「解決しないことをもって解決とする」合意を破って右往左往している韓国大統領と、尖閣列島での「棚上げ」原則を国有化で侵した野田首相とはほとんど同じです。実効支配している側は事を荒立てずに推移させていれば有利なのに、自分で問題を顕在化させた愚行として記憶されるでしょう。『戦闘』行為など呼び込まないよう願うのみです。


原発ゼロなのに核燃サイクル維持は思考停止の戯言(追)

 政府の新たなエネルギー・環境戦略原案の内容がメディアで一斉に伝えられています。20年以上先の2030年代に原発稼働ゼロを目指しながら核燃料サイクルを維持、「もんじゅ」も研究炉として動かす――とは「現状を固定して何も変えない」と同義です。文字面だけ見ても、原発ゼロとサイクル維持が並んでいる愚かしさに、原子力の素人政治家が原子力ムラ官僚に踊らされている様があまりに露骨です。こんな「朝三暮四」で福島原発事故の実態を見てしまった国民を騙すことは不可能でしょう。

 毎日新聞の《エネ戦略原案:政府「核燃サイクル維持」 原発ゼロも併記》は最初から切れ味が悪い表現ばかり。「2030年代の原発稼働ゼロを目指す方針を明記する一方、実現方法の見直し規定を盛り込んだ」「核燃料サイクル政策を巡っては、再処理事業を当面維持する方針を明示し、関連施設を抱える青森県などへの配慮を示す」と、各方面への「配慮」だらけだったと語っています。

 高速増殖炉「もんじゅ」(福井・敦賀)については「政策転換を図り、放射性廃棄物減量化を目指す研究炉としたうえで成果が確認されれば研究を終了する方針」ですが、高温液体ナトリウムを冷却材とするもんじゅは運転自体が恐怖なのです。福島原発事故のような想定外の事態が起きれば、軽水炉と違って最後は水を掛けて冷やす手段がとれません。さらに軽水炉は炉心溶融で核分裂反応が止まりますが、もんじゅの炉心溶融は核分裂反応を暴走させる可能性が高いのです。過酷事故を起こしてしまえば、福島原発周辺以上の惨状が関西一帯に生じます。

 昨年秋に書いた《「もんじゅ」と再処理工場の廃止に踏み出そう》で核燃料サイクル政策の見直し遅れを指摘し、「具体策検討を急がないと、判断しようにも出来ない状況に陥ります。民主党政権に官僚に指示して段取りをつける能力があるのか心配です」と危惧した通りに事態は動いています。過剰になっている大量のプルトニウム問題や国際的な調整、使用済み核燃料の最終処分問題など何も手を付けず、無手勝流で行く――字面を変えただけの現状維持路線です。

 【追補】政府は14日に新たなエネルギー・環境戦略をまとめました。2030年代の原発ゼロ目指す▼原発再稼働ありとし運転は40年▼核燃料サイクル維持▼再生可能エネルギーは30年代に3倍▼電力システム改革や地球温暖化対策は先送り――が骨子です。

 基本的に原発推進の日経新聞《「原発ゼロ」矛盾随所に 再稼働や核燃サイクル継続》からも批判が出ています。「衆院解散・総選挙もにらんだ急造の戦略は詰めの甘さが随所に目立つ。『原発稼働ゼロ』の時期や手法は明確でなく、再生可能エネルギーを2030年に10年の3倍に増やす目標も実現のめどは立たない。電気料金の上昇で家庭や企業に及ぶ負担増も不透明だ」

 そして、野田首相の発言として「あまりに確定的なことを決めるのはむしろ無責任な姿勢だ」と述べたと伝えています。首相には「戦略」の意味が理解できていません。動きがとれなくなっている隘路をどう切り開いていくかこそ、示すべきです。これでは現状固定の上に原発ゼロを乗っけただけであり、政策上の矛盾はますます深くなりました。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


政府こそ原子力ムラ:規制委人事、ゼロに難題

 政府は新たに発足する原子力規制委の委員人事について、与党内にも大異論があるのに国会の同意を得ることなく、首相の権限で任命します。原発ゼロをめぐる経済産業省の難題山積み文書といい、脱「原子力ムラ」の政策が模索されるどころか、政府こそが原子力ムラ本体であると判明しつつあります。国会は7日まで審議はでき、同意人事の採決は可能でした。福島原発事故を受けて民主党は脱原発なのですが、間もなく政権を去ることが確実な情勢では官僚を動かすことが出来ず、官僚に振り回されています。

 原子力規制委員会の人事については、8月の「原子力規制委員長にはレフェリー役の中立派を」で紹介しているように原子力の専門家や体制派ばかりの顔ぶれに与野党から疑問が噴出しました。それにもかかわらず、規制委人事差し替えが検討された形跡すらありません。その上での国会無視、強行突破です。

 東京新聞の《原発監視はや「骨抜き」 事後同意も不要論 規制委人事 国会素通り》は「国会同意人事に関し、今国会では採決せず、野田佳彦首相の権限で任命する方針を固めた。次の国会での事後同意を求めないことも検討している。規制委は政府からの独立性が高いにもかかわらず、国会のチェックを受けようとしない姿勢は政権として無責任と言われても仕方ない」と主張します。

 経済産業省が出した「エネルギー・環境戦略策定に当たっての検討事項について」は原発をゼロにすれば大変なことになるとのトーンで貫かれています。電力料金の大幅値上げや原子力安全を支える技術と人材の喪失、外交・安全保障への影響、地球温暖化対策への支障など、マイナス要素のオンパレードです。

 脱原発を実現するために知恵を絞ればこのようなシナリオがあるとの文書が存在した上でなら理解できますが、これでは「無理だからお止めなさい」と言っているも同然です。50兆円、100兆円の巨額費用が掛かると脅されて、注釈無しで伝えるマスメディアも同罪と言えるでしょう。前提の置き方でどうにでも変わる数字を確定的に扱うマスコミがどうかしています。

 原発維持と核開発の潜在能力が関係しているかの議論について、河野太郎議員が「原発と抑止力」で鋭い指摘をしています。「もしプルトニウム爆弾を作って核実験をやれば、NPT違反になるのだから、外国からの原発のウラン燃料の供給は止まる。だから、もし万が一、日本が核開発をやろうというならば、原子力への依存度をあらかじめ下げておく必要がある」

 地球温暖化についても墨守する前提が間違っていることは、昨年末の「京都議定書延長で良い子ぶる余裕は存在しない」で「東日本大震災と福島原発事故の収拾・復興へ膨大なエネルギーを投じるよう迫られている現在、冷ややかに一歩引いて対処するべきです」と述べた通りです。ニューヨークタイムズがウェブに掲示している「各国別の温暖化ガス排出量グラフ」で日本のボリュームがいかに小さいかを見てください。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


橋下維新八策と永田町・政治部独善の崩壊

 橋下徹大阪市長率いる大阪維新の会が国政進出で打ち出すマニフェスト「維新八策」の最終案が公表されました。この全文がネットで読める場所が日経新聞電子版にしかない点が、既に示唆的です。自民党を霞ませてしまう、この最終案は橋下ファンから待望されていたはずと考えていましたが、ツイッターでは批判的な意見が多いと見ました。しかし、より衝撃的だったのは橋下氏が相変わらず大阪市長のままでいて、東京には出ないと宣言した事実です。永田町の政治家とマスメディア政治部は東京中心=永田町完結政治へ回帰を待望していたのに、それは当分無くなりました。

 みんなの党の渡辺代表と会談した後、マスコミが観測記事を流していた橋下氏の国政進出はあっさり否定されました。橋下氏のツイート(8月29日)にこうあります。《渡辺さんとの会談で、僕が「国政に出る」、「市長を辞職するときのセリフももう考えた」と言い、ナンバー2にあろうことか中川議員を置き、しかも松井知事も国政に出て、大阪でまたダブル選をやると言ったのこと。ここまでの嘘は週刊誌でもあり得ない》

 ツイッターの動向が見られる「buzztter」で「維新八策」を検索すると、最終案発表後のツイートピークは44件と平凡な数字ながら、だらだらと関連発言が続いています。「駄目な自民党と民主党に代わる政党になって、世直しをして欲しい」との応援組に対して、「よく読むとかなり怖い維新八策」「新自由主義のオンパレード」「格差を改善すると『政権交代』を叫んだ民主党に騙された人々が、今度は維新の会に騙される」など批判的なツイートの方が多い印象です。

 ブログを検索しても同じ傾向です。「常夏島日記」の「橋下氏の維新八策に日銀改革が含まれない理由」は「橋下氏は、中曽根康弘―橋本龍太郎―小泉純一郎とつながる『戦後政治の総決算』路線の嫡子として認められつつあるということであり、その路線を担った人間集団の中核的な人材の少なくとも一部が橋下氏のブレーンとして参画しているのでしょう」と断じます。有名ブロガーでは「2015年の春ごろに日本消沈」(極東ブログ)が「最終案の全文が出たので読んでみたのだが、正直、皆目意味がわからなかった」「新味はなく、政権交代時の民主党のような威勢の良さだけで押すなら、現在の民主党のように躓き、政治の第三極とはならないだろう」と指摘します。ただ、それでも相当数のサイレントマジョリティは維新に付いていくと見るべきです。

 まだ国会議員5人の政党要件を満たしていない「党」のマニフェストと議員集めが全国紙各紙で大きく報じられ、日経がその全文を読めるようにするとは異例すぎます。民主党による政権交代を旧態依然「政治とカネ」追及スタイルでつつき壊し、得るべき果実は何も残せなかったメディア政治部。その結果出来る総選挙での「真空地帯」に維新が進出します。連立政権の一角に納まる可能性があるからこその過剰報道ですが、民主党と決定的に違うのは、橋下氏を永田町の政治家と政治部が囲い込めていない点です。維新八策の中身よりも、それをテコにした議員選別よりも不安にさせている要因は「東京の常識」が通じないギャップでしょう。東京都の石原知事がいかに乱暴な発言をしても永田町の飛び地での「乱」に過ぎませんが、橋下政治手法への土地勘は狂いっぱなしです。


インドの大失速が理解できる材料が出そろう

 インドの人口が十数年先で中国を抜いて世界一になるのは確実なものの、経済大国として君臨する可能性は乏しいと考えるべき背景データが出そろってきました。開発独裁の中国ですら順調に経済を拡大し続けるのは世界にある各種資源の限界からみて難しいのに、発展の準備が内側に出来ていない世界最大の民主主義国家インドは非常に厳しそうです。最近のニュースでは《インド、2012/13年度の成長率見通しを6.7%に引き下げ》ですが、象徴的なのはこの夏、6億人を巻き込んだ大停電でしょう。

 財経新聞の《インドのブラックチューズデー(大停電):2012年7月31日》は計画目標の半分しか発電設備が出来なかったと伝えます。「人口の50%を占める推計約6億人が電気の供給を断たれたこの大規模な事故は、インドの電力系統がここ10年に渡って逼迫状態であったことを明確に示しています」「送配電ロスと電力の盗難(無断使用)は依然として発電量の20%に近い割合を示し、設備発電容量の拡大は国の必要量を満たすに至っていません。過去の5カ年計画で打ち出された目標はほとんど満たされておらず、過去3期の計画容量は推計必要量を下回り、有効設備発電容量の実現率は50%に落ち込んでいます」

 実は偶発的な大停電が問題というよりも、長時間停電が日常になっています。インド南部、人口110万人の古都に嫁いでいる女性のブログ『マドゥライから』の「2011国勢調査結果からインドの現状を知る」が訴えます。「想像してみてください――日本の6月から9月に掛けて、週末も含めて、朝6時−9時▼正午−午後3時▼午後6時−6時45分▼夜8時15分−9時▼夜10時30分−11時15分▼夜中3時15分−4時――毎日これだけの停電が会社・病院・学校などで実施され、停電中は扇風機も電気も使えません。しかも、猛暑時期には、さらに停電状況は悪化するのです」「急激な発展を遂げている故の電力不足で、こんなことは今までにない状態。しかし、インドの発展のために日本を含め、さらに多くの外資系企業が南インドへ工場などを建てているため、電力需要は増すばかり」

 2011年国勢調査によれば電気が来ている世帯は全国で67%しかありません。工場を造り、商品を生産する上で重要インフラである電力供給が既に破綻しています。政府に電力供給を正常化する力は乏しいようです。緩やかな発展に慣れてきた政治家・官僚組織が、中国のような土地まで取り上げ放題の開発独裁体制ではないのに、急速発展に適応できると考える方が無理でしょう。民主主義の手続きを踏むならゆっくりと進まざるを得ません。電力ばかりでなく、穀物生産でもサイロが整備されていないので、収穫量の1割以上は腐らせてしまうと言われます。

 教育面の立ち後れから膨大な若い労働力を生かせそうにないとするのが、英フィナンシャル・タイムズの《インド株式会社は決して中国に追い付けない》です。「インドは、深刻な栄養失調状態にある世界の子供の約半分が暮らしている国だ」「一方、中等教育(質にばらつきがある)を受けているインド人はわずか23%に過ぎないが、中国ではその割合がインドの2倍を超えている。中国は大学を卒業する若者を増やそうと奮闘しているのに対して、インドはいまだに、若者が初等教育から落ちこぼれないようにするという問題に取り組んでいる」「2011年の調査では、インドの第5学年(10歳)の生徒の半分が、3歳年下の生徒向けの文章を読めなかったことが明らかになった」

 フィナンシャル・タイムズは5月にも《[FT]失速するインド経済、政府は自由化推進を(社説)》を掲げて、ルピー安がインフレに拍車を掛け、経済を落ち込ませているとしました。「インドの失墜の象徴がルピーだ。ルピーは今年、対ドルで17%以上下落し、史上最安値を記録した。通貨安は本来、少なくとも輸出の助けになるはずだ。実際には輸出は、3月に3.5%減少した工業生産とともに落ち込んだ」「ルピー安のせいで石油などの輸入品は高くなった。おかげで国内総生産(GDP)比約4%と既に憂慮すべき水準にある経常赤字は一段と拡大した。ルピー安はインフレにも不利に働く。インドのインフレはきちんと制御されたことがなく、今では再び7%台に達している」

 規制や労働環境が面倒なインドに工場を造るくらいならば、隣国バングラデシュの方が手っ取り早いとの声も聞かれます。暴動が起きたスズキのインド子会社マルチ・スズキのマネサール工場は再開されますが、少なくともインフレの進行に見合う賃上げは欠かせないはずです。見え始めた歪みだらけの全体図はどこから改善に着手すべきか判然とせず混沌としたものです。強力な改革志向政治家がもし現れたとしても、10億を超える民を動かすカリスマ性が無ければ単なる「大風呂敷」に終わります。しかも、粗衣粗食を通した独立の父ガンジーが残した言葉「インドが英国のようになれば地球がいくつあっても足りない」の先見性は21世紀の今、中国の発展まで射程に置きながら輝き出しそうなのです。

 【参照】第304回「インド国勢調査と経済大国予測のギャップ」
   第298回「インドの大気汚染は中国以上で世界最悪の報道」
   インターネットで読み解く!「インド」関連エントリー


原子力規制委員長にはレフェリー役の中立派を

 秋に発足する原子力規制委員会の人事案国会承認をめぐり、一気に批判が高まっています。民主党内から「規制委人事“差し替え検討を”」(NHKニュース)や「規制委員長人事に反対=『原発推進してきた』−小沢氏」(時事通信)、国会議員「原発ゼロの会」による「規制委人事案の撤回申し入れ=超党派議員ら、細野原発相に」(時事通信)などです。

 民主党内からの異論は極めて真っ当です。「民主党の政策調査会の合同会議で『反原発の立場の人が含まれていない』などという異論が相次ぎ、座長を務める荒井元国家戦略担当大臣は、政府側に対し委員を差し替えることができないか検討するよう要請しました」。5人の委員候補がいずれも原子力の専門家や体制派ばかりだからです。

 福島原発事故の大失態を契機にした規制体制の出直し・見直しである以上、原発批判側からもメンバーを選ぶべきですし、委員長にはレフェリー役の中立派が求められると考えます。それが元原子力委員会委員長代理の田中俊一氏では「原子力推進委員会」と受け止められます。政府は人事選考で「原子力ムラ」との関係を関係業界からの年間報酬額で割り切りましたが、原子力ムラは政府中枢にも存在しているのですから無意味です。この人事案もその原子力ムラ住民が書いたのでしょう。中立派と言える人材を例えば学術会議に推薦して貰ってもいいでしょうし、国会事故調の黒川委員長に重ねて無理をお願いする手もあります。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


必要なし説がある東電の値上げは「待った」を

 東電の電気料金値上げについて「東電値上げ幅、8.5%強へ=人件費など圧縮、19日に判断−政府」(時事通信)など拙速な動きが伝えられています。しかし、毎日新聞の「東電値上げ:5%台まで圧縮可能 有識者試算」は、やり方によっては値上げ自体が不要になると示しています。政治折衝以前の問題があるのは明白で、査定はきちんとやり直すべきです。

 内閣府消費者委の外部有識者による試算は《人件費は健康保険料の会社負担分の10%引き下げなどで0.17〜0.68%圧縮するほか、修繕費.委託費は競争入札の徹底で1.48〜2.95%、事業報酬費は計算ルールの統一で1.46〜4.66%、圧縮できる――などと指摘。圧縮率の下限だけを足しても、値上げ幅は5%台に抑えられるとした》《試算は「東電の経営に配慮」(水上弁護士)するとして、消費者庁が求めた人件費の30%削減や、原発関連費用の料金原価からの除外は含んでいない。仮に人件費30%削減などの要素を加えると、圧縮幅は9.61%となり、値上げ自体をしないことも可能という》

 平たく言えば、東電がいかに無駄が多い「殿様商売」をしてきたかを示しています。余分の金は子会社など周辺に流れているのです。また、《東電の電気料金「私物化」は過去まで遡り返済を》で指摘した、悪質な過去の清算も済んでいません。朝日新聞による「過去10年間で東電が費用を6000億円も高く見積もっていた」報道もあります。止まっている原発の減価償却問題など議論が尽くされているとは思えません。

 【参照】インターネットで読み解く!「東電 電気料金」関連エントリー


余る税金。増税への疑問が言えぬ大手メディア

 東京新聞が「6兆円余らせ なお増税 復興予算未消化問題」で、復興増税まで受け入れた国民の率直な疑問を代弁しています。これに対して日経新聞社説「余った予算を安易にばらまいていいのか」の切れ味の悪さは目を覆うばかり。消費増税まで推進した共犯関係だからやむを得ない、当然とするなら、ジャーナリズムの自殺行為です。

 東京新聞はこう主張します。「約15兆円が被災地の道路や住宅などの建設に向けられた復興予算だ。しかし、復興庁がまとめた執行額(実際に使った予算)は、約9兆円にとどまった。残る約6兆円は11年度内に使われなかった」「被災自治体の復興計画が年度内に整わないなど12年度以降に繰り越された額が約4兆8千億円あった。さらに、見逃せない点がある。復興事業が遅れたり、被害想定の見込み違いなどで『不用額』と区分された予算が、約1兆1千億円もあった」「社会保障と税の一体改革関連法案の審議が始まるが、予算の使い道がズレたまま増税ばかりを求める政府に、国民の信頼が集まるはずもない」

 日経新聞は苦しそうです。「復興予算も再検証する必要がある。政府は15年度までに総額19兆円を投じる計画を上方修正する検討に入った。11年度中に手当てした復興予算の6割しか支出されず、繰り越しや使い残しが目立つ今の時点で、早くも上積みに言及するのは理解に苦しむ」「3党は10兆円規模の復興増税を実行に移し、今度は13兆円規模の消費増税を課そうとしている。これに乗じて予算を湯水のように使うのでは、穴のあいたバケツに水を注ぎ込むのと同じだ。家計や企業に負担増を強いる以上、厳しい規律を自らに課すべきだ」

 もっと、すっきり言いましょう。「そんなに余っているのだから増税は不要ですよ」と。復興増税が実現するまでは復興予算を組まないと財務省がごねたことは、記憶に新しい事実です。あれだけ復興への取り組みを遅らせて、執行してみれば、この体たらくです。

 「hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)」の「『一体改革』はなぜ支持を広げないか@宮本太郎」が財務省の体質についてこんな指摘をしています。

 財務省は国庫にお金が入ってくることばかりを重視した「『金庫番』をやめて『社会的投資家』になるべきです。国民から預かっているお金を有効に使う。それが地域に入り、雇用を作り、地域を活性化させ、戻ってくる。それが『社会的投資』です。怪しいからカネを出さないということを言うのではなく、ちゃんと最後までお金の行く末を見届けて、それが本当に役に立っているか、そこまで見届けて欲しい」「ほんとうはそれこそ『政治主導』な政治家の務めのはずなのですが」

 復興増税に続く消費増税。増税の必要性と支出されていく先が妥当なモノなのか、マスメディアは検証する任務を負っています。最初に増税賛成を言ってしまったから任務放棄では、ジャーナリズムとして問題外です。

 【参照】第310回「民主党を政策的『死に体』にしたマスメディア」
   インターネットで読み解く!「政党支持率」関連エントリー


民主党を政策的『死に体』にしたマスメディア

 民主党から小沢グループの離脱が避けられなくなっています。過半数を割っている参院に続いて、衆院でも不安定な国会運営になるとみられます。2009年の政権交代からダムの建設中止など騒ぎは色々とありましたが、民主党が実現した変革らしい変革を数えられません。政権交代の果実が公約になかった消費税増税だけに終わる、恐ろしい結末に導くのは増税の大合唱をした既成マスメディアです。来年に予想される衆参同日選まで、『死に体』民主党政権には自公両党との社会保障協議以外に、自前のエンジンで政策を実現する力は残っていないでしょう。

 衆院を押さえていた民主党を大きく分裂させ、内閣不信任案が可決されかねないところまでボロボロにするのなら、増税よりも後世に残すべき政策はあったはずです。「難問先送りは『日本化』…やゆされ野田首相決意」(読売新聞)では野田首相が「英誌エコノミストが財政赤字削減などの難問を先送りする欧米諸国の政治状況を『日本化』とやゆする記事を掲載したことが、社会保障・税一体改革に取り組む決意を新たにした契機となったことを明らかにした」となっていて、理念に基づいた政策の選択ではなかったことをうかがわせます。

 この野田首相を後押したのが在京マスメディアでした。「赤旗」の「消費税増税 あおりにあおった末に… 巨大メディア この異常ぶり いまごろ「公約違反」批判 !?」は《全国紙をはじめとした巨大メディアは》消費税増税を後押しする社説を書き続け《法案採決までの1カ月間、連日のように法案採決をあおってきました。とくに「朝日」はこの期間に14本、「読売」も16本の社説を掲げる突出ぶりです》と指摘します。これに「毎日7本」「日経7本」が加わります。

 「2大政党時代を終わらせる首相に議員統制は無理」で、日経新聞が自らの世論調査を恣意的に扱い、有権者多数が明確に増税に反対している点は後回しにして、小沢グループの造反に焦点を当てた報道ぶりを問題にしました。こうしたご都合主義は各社とも同じでした。朝日新聞28日社説は《マニフェストについて民主党が非難されるべきなのは「約束を果たさなかったから」ではない。「果たせない約束をしたから」である》と増税は擁護して、実現不能な政策をマニフェストに持ち込んだ小沢氏を非難しました。

 マニフェストを信じた有権者の立場がない理屈の展開ぶりです。しかし、第308回「政党支持率4割連合が決める政治に正統性無し」の政党支持率推移グラフが、有権者の過半は増税合意をまとめた民自公3党から離れたと示しています。マスメディアの援護も無力だったのです。自民党は半ば与党に戻った錯覚に陥っており、分裂の民主党は漂流の度を増しそうです。政権交代への失望に輪を掛ける決定的な政治不信に手を貸したマスメディアに責任の自覚があるのか、素知らぬ顔で批判者の役回りだけ演じてはいられなくなりました。

 【参照】インターネットで読み解く!「政党支持率」関連エントリー


2大政党時代を終わらせる首相に議員統制は無理

 民自公3党合意による増税・社会保障一体改革関連法案の衆院採決で、民主党内から多数の反対・棄権が出る見込みです。消費増税と引き替えに民主党が掲げてきた旗をほぼ下ろしてしまう野田首相が所属議員を縛れると考える方が、むしろ異常です。民自2大政党時代に入って少数党から立候補しても勝てないのが常識になりました。しかし、次の総選挙で2大政党の支配は終わりそうです。選挙で落ちる恐怖が求心力にならなくなったのです。

 民主党とともに人気が落ちたのは自民党もです。第308回「政党支持率4割連合が決める政治に正統性無し」で、増税協議を進める過程で民主、自民ともに政党支持率がずるずると下がっていく様子をグラフにしました。公明と3党合わせても4割しかありません。現在は無党派層になっている広大な領域を取るのは別の党です。2大政党時代終了の引き金は引かれました。

 野田首相は不退転の決意さえ固めれば、民主党得意の「政治主導」で何でも出来ると思いこんでいるかのようです。それは在京マスメディア各社の応援のせいかも知れません。せっかく世論調査をしながら民意の在り方よりも、小沢系造反に焦点を絞る、次の日経報道が典型的です。

 25日朝刊に出た日経新聞の《小沢系造反の動き「理解できず」53% 本社世論調査》で世論調査の中身を見ると、民自公3党合意について「評価する」は36%なのに「評価しない」が52%もありました。大飯原発再稼働についても「賛成36%、反対46%」でした。これだけ民意と離れていれば国政選挙でしっぺ返しを食うのは必然です。民主の総選挙敗北を必至にした首相を、自公とマスメディアが支える奇妙な構図が浮かび上がっています。政党支持率のようにメディア支持率が調査できるならば、既成マスメディアは民自公3党と一緒に落ち込んでいるでしょう。

 【参照】インターネットで読み解く!「政党支持率」関連エントリー


政党支持率4割連合が決める政治に正統性無し

 消費税増税と社会保障改革を巡る民主・自民・公明の3党合意がなったことに全国紙は各紙社説で賛同です。長年の「決められない政治」から「決める政治」へとの評価ですが、政党支持率の推移を見ればこの3党が民意を代表していないことは明らかです。3党合計が、次にグラフを掲げるNHK政治意識月例調査で4割、「民主8%、最低を更新=内閣支持24%、不支持55%−時事世論調査」にいたっては民主8、自民13、公明4で計25%しかありません。国会の現有議席がどうあれ正統性を欠くと指摘します。


 NHK政治意識月例調査では、政党支持率の3党合計は5割を軽く超えて6割前後が常態でした。2010年半ば、鳩山内閣退陣前後に41%台まで急降下、菅首相で持ち直したものの退陣時には40%に下がりました。野田政権になって本格的な回復はなく、消費増税路線が強まった昨年12月に38%になってから4割前後に低迷したままです。原因は民主党政権の不人気だけではありません。過去のように民主が沈めば自民が浮くのではなく、自民党もいっしょに沈んでいます。

 2009年総選挙で何が語られたか、有権者は当然、記憶しています。増税問題を含めて民主党の背信行為の数々に厳しくならざるを得ません。3党による増税協議が有権者の政治不信をさらに強める構造になっています。公党間で政策を妥協し合うというより、民主党がずるずると総選挙公約を下ろし続ける形で協議は進みます。このまま進行すれば、初の本格政権交代で残されたのは消費税増税だけだった――想像もしたくない、空しい事態が目に見えるところまで来ています。

 譲歩を迫り攻める側の自公両党にも有利には働きません。持っている政策がもうこりごりと思える自公政権時代と本質的に変わりません。野に下ってから2年余り、本格的に政策を磨き直す時間は十分にあったのですが、そうする動機もやる気も無かったと、有権者は見透かしています。復調からは遠い自民の政党支持率推移がそれを語っていると思います。

 【参照】第294回「沈鬱な政治不信の連鎖:国民と政治家と官僚と」
    インターネットで読み解く!「政党支持率」関連エントリー


大飯原発再稼働へ新潟県から鋭い安全性疑義

 大飯原発再稼働に向けて野田首相が地元福井県の意向を丸飲みした記者会見をして、地元同意取り付けが可能になりました。しかし、首相会見に対してもう一つの原発大立地県新潟の泉田知事から鋭い原発安全性への疑義が提出されました。官邸ウェブにある首相の冒頭発言と、原子力発電に関する野田総理の発言に係る知事コメントは生煮えのマスメディア社説などを見るより、対比して検討しておく価値があります。

 安全性について首相の主張は次の部分に集約されています。「福島のような事故は決して起こさないということであります。福島を襲ったような地震・津波が起こっても、事故を防止できる対策と体制は整っています。これまでに得られた知見を最大限に生かし、もし万が一すべての電源が失われるような事態においても、炉心損傷に至らないことが確認をされています」「これまで1年以上の時間をかけ、IAEAや原子力安全委員会を含め、専門家による40回以上にわたる公開の議論を通じて得られた知見を慎重には慎重を重ねて積み上げ、安全性を確認した結果であります」

 泉田知事の反論は論旨明解です。「福島原発事故はいまだ収束しておらず、事故の検証も進行中であり、換言すれば、意思決定過程や組織のあり方なども含めた事故原因の特定も行われていません。事故原因が特定されなければ、対策を講じることができないことは自明の理であり、専門家である原子力安全委員会も班目委員長が安全を確認していないことを明言しています。このような状況下で専門家でもない総理が安全性を確認できるはずもありません」

 対等に討論したら、野田首相側の旗色は極めて悪くなるでしょう。専門家による討論を何回重ねようが、事故の原因について究明・集約はされておらず、新安全基準の本質は応急対策をまとめたものです。

 さらに知事の反論は「『電源が失われるような事態が起きても炉心損傷に至らないことが確認されている。』との発言についても、現実には、『電源が失われなくても、炉心冷却に失敗すれば、大惨事になる』ということが福島の教訓であることを無視した説明です」と踏み込みます。

 『電源が失われなくても、炉心冷却に失敗すれば、大惨事になる』は分かりにくいかも知れません。福島原発事故ではこの文言通りの事態は無かったからです。全電源が失われた場合でも最後の命綱である非常用冷却装置があり、それをきちんと使えば炉心溶融から爆発・放射能流出の惨事は避けられたのに、結局は炉心冷却に失敗した事実を指すと考えられます。

 5日の毎日新聞《東電事故調:非を認めず 最終報告案「状況の把握困難」》がまさにその核心部分でした。爆発を起こした1・3号機についてです。

 《政府事故調(畑村洋太郎委員長)は昨年12月に公表した中間報告書で、1号機の冷却装置「非常用冷却装置(IC)」について「認識不足や操作の習熟不足があり、全電源喪失直後に弁が閉じて機能していない状態に気付かなかった」と指摘。バッテリーで作動する3号機の冷却装置「高圧注水系(HPCI)」の操作についても「代替注水手段が確保されていないのにHPCIを手動停止したのは、バッテリーが枯渇するリスクを過小評価し、(高圧のため注水できずにいた原子炉の)減圧操作に失敗した」と批判した》

 《これに対し、社内事故調の最終報告書案は、1号機のICについて「勉強会や試験などを実施してきた。弁の動作も電源喪失のタイミングによって開閉いずれの可能性もある」「弁の状態を認識し、対応するのは現実的には困難だった」と弁明。3号機のHPCIの操作についても、「損傷する懸念があり早急に止める必要があった」「減圧操作のための弁はわずかな電力で開けることができ、操作可能と判断した」と主張した》

 1号機の運転チームは誰1人として、この非常用冷却装置を実際に動かしたことがなかったのが実情ですが、発電所幹部は動いていると思いこんでいました。3号機冷却装置の停止は発電所幹部との十分な打ち合わせもなく、次の対策である海水注入を用意する前になされて、炉心溶融の引き金になりました。

 第300回「福島事故責任は誰にあるか、判明事実から究明」で検討した「大惨事にしてしまった事象の分かれ目」を考えるにつけ、「防ぐ仕組みが用意されているから安全」とは到底言えないと知れます。現実に非常用冷却装置は用意してあったのに、東電は不可抗力で使うのに失敗したと主張しているのです。野田首相が主張している安全対策は非常に薄っぺらいと言わざるを得ません。福島事故以前の考え方「危機対策は揃っている」でしかなく、東電の失敗ぶりを全くフォローしていません。

 【参照】インターネットで読み解く!「原発再稼働」関連エントリー


大飯再稼働:3日も動けぬ野田政権は政治家未満

 大飯原発再稼働で細野原発相が地元福井県の同意が得られぬまま帰京して3日間、野田政権は動きがとれずに日を送りました。「ボールは政府の側にある」と言われた謎が解けないのです。原発相が子どもの使いだったと分かったのですから、ならば地元選出国会議員に知事の真意を聞きに行かせれば良いだけの話です。そんな手も打たないで思案投げ首しているとは、広く聞く耳を持たねばならない政治家の集まりとは到底思えません。実は「福井県の抵抗:真意は暫定基準に格下げ実質撤回か」で尽きていると考えます。

 しかし、日経新聞の《福井知事の「首相意思表明」要求に官邸困惑 大飯再稼働で》は《首相官邸が関西電力大飯原発3、4号機の再稼働を巡り、福井県の西川一誠知事が「野田佳彦首相の国民への意思表示」を求めていることに困惑している。首相は既に「私の責任で判断する」と重ねて表明しており、知事の真意を測りかねているからだ》と伝えます。

 時間が経過して一度失敗した関西広域連合側も気を取り直して、毎日新聞の報じる《大飯原発:再稼働 滋賀と京都両知事が7項目の再提言》と、またコマが回り始めました。時期限定での再稼働や、特別監視体制への参画など、福井県と利害がぶつかる項目が並びます。1週間前に局面が戻りつつあります。

 何もしないで熟し柿が落ちるのを待つケースは、仕掛けていればこそです。何の仕掛けもしないで日を送る野田政権に、何の不思議も感じていない在京マスメディア。多分、東京・霞ヶ関界隈は政官メディアみんなして「引きこもり」かリゾート気分なのでしょう。

 【参照】インターネットで読み解く!「原発再稼働」関連エントリー


福井県の抵抗:真意は暫定基準に格下げ実質撤回か

 大飯原発再稼働で福井県の同意が得られないまま細野原発相は東京に引き返す羽目になりました。西川知事に面会すれば喜んで「イエス」と言ってもらえると考えていたようですから、野田政権は「ぼんくら」の集まりと断言できます。再稼働のための新安全基準を30日、政府は関西広域連合を稼働容認に引き込むために「暫定基準」に突然格下げしました。本格安全基準として審査手続きを進めてきた地元福井県の立場が無くなったことに、まだ気付いていないとは政治家として中央官庁官僚としてレベルが低すぎます。

 4日に福井でのやり取りをもっとも詳しく伝えているのはロイターで、国内マスメディアの報道では状況が判りません。「大飯原発再稼働の必要性、首相は国民に訴えを=福井県知事」はこう報じています。

 《西川知事は「政府部内からいろいろな見解、矛盾した主張が出て県民にとって迷惑」と指摘した上で、「再稼働の必要性について首相は国民に訴えていただいて、様々な疑問に答えていただくことが国民の安心と支持につながる」と強調した。西川知事は政府側に対し「夏場だけの稼動とか大飯原発に限定した稼動に限定した一部の言い方があるが、政府がそうした考え方ではないと示して頂きたい」と要望した》《さらに西川知事は、再稼働に向けたストレステスト(耐性評価)で原子力安全・保安院の審査が終了した原発についても「新規制庁の設置を待つことなく、原子力安全委員会が責任をもって審査する立場にある」と畳みかけた》

 毎日新聞の《大飯原発再稼働:福井知事「判断のボールは国にある」》は「首相が原発の安全性に責任を負い、原発を中長期の電源に位置づける考えを明確にすることが再稼働に同意する条件になるとの考えを示した」とも伝えています。

 西川知事としては出来ることなら元の本格基準に戻して欲しいのでしょう。県原子力安全専門委の審査はそれが前提で進んでいるし、県民への説明も暫定安全基準では困ります。それが難しいなら、実質的に暫定基準格下げ撤回と受け止められる説明を、野田首相から国民に対して示して欲しいのでしょう。

 31日の「大飯再稼働の稚拙な仕掛け、橋下流の限界見た」で指摘した「安全基準を格下げすることで限定稼働が出来る、一般人には理解しにくい『腹芸』」シナリオを書いた官僚は本当に罪作りです。この十数年、当座を乗り切るため、あるいは自分の代さえ受ければ善い、と見える中央官僚のパフォーマンスがあちこちで発生しています。「騙し」で取り繕う場面でないことが「原子力ムラ」官僚には分からなかったのでしょうか。いや、元はと言えば国の安全の元締め原子力安全委が了承していない新安全基準を、野田首相以下4閣僚の政治主導で決めてしまった点に錯誤の発端があり、それを関西広域連合が突いていました。構図全体に無理があったのです。

 【参照】インターネットで読み解く!「原発再稼働」関連エントリー


大飯再稼働で福井県「ちゃぶ台返し」で粘る

 関電大飯原発再稼働に向けた細野原発相の福井県訪問が週明けの4日以降に遅れています。関西広域連合の了承を「騙し」で取り付けた野田政権には意外な展開でしょうが、福井県には「ちゃぶ台返し」をして粘りたい真っ当な理由があるのです。マスメディアは再稼働の期間限定問題が焦点と報じていても、問題の核心は土壇場になって政府が関西広域連合に妥協して新安全基準を暫定基準に格下げした点にあります。福井県原子力安全専門委員会が週明けにも「安全が確認できた」と答申するとメディアが報じた直後に、新安全基準が暫定基準におとしめられたのです。

 時系列を追うと、毎日新聞≪大飯再稼働:福井県専門委「安全」追認 知事決断へ≫など、福井県側リークらしい観測記事が出たのは5月30日の各紙朝刊でした。この日に鳥取であった関西広域連合の会合で細野原発相が原発再稼働のための新安全基準を暫定基準であると格下げし、「大飯再稼働の稚拙な仕掛け、橋下流の限界見た」で指摘したドタバタ劇が始まりました。

 政府が再稼働の新安全基準を暫定基準に格下げすると聞いて、需給逼迫の夏場限定運転を望んだ関西広域連合は稼働オーケーを出します。それを逆手にとり了承を得た点だけ吸い上げ、再稼働が動き出しました。今後の原子力規制は国会審議中の独立性が高い新規制組織に委ねられますから「先のことは新規制組織任せで、期間限定など知らない」と枝野経産相は突っぱねました。

 どうしてもこの夏を原発稼働無しで乗り切っては困る「原子力ムラ」の意向を体現している経産官僚の気持ちはわかりますが、この第一段階の「騙し」で梯子を外されたのが福井県原子力安全専門委ですし、西川知事でしょう。「新安全基準は想定外を隠れ蓑にする欠陥品」で指摘しているように、従来の原子力行政の読み方をすれば、問題点を無視できるように新安全基準は出来ています。

 福井県の専門家もその流れに乗るつもりだったはずです。ところが、「実は不完全な暫定基準だ」と突然、言われたら、専門家としてどのように県民に説明したらいいのでしょうか。霞が関周辺のご都合主義の学者と違って、住民に原発反対派が存在する福井県ではそれなりに対応してきました。「政府が言っていることだから十分です」とはとても言えない風土になっています。霞が関の原子力ムラ官僚にも、児童会役員風に言われたまま行動している細野原発相にもこの機微は理解できないようです。

 運転期間の限定など、既に枝野経産相が「13カ月フル運転だ」と公式に否定しているのですから問題ではありません。万全の安全基準との前提で審議してきた福井県側が暫定安全基準に落ちて整合性を保てるのか。政府がここで福井県側の意向に配慮しすぎれば、「橋下市長『民主政権倒す』を撤回 大飯再稼働巡り」(朝日新聞)で≪橋下徹大阪市長は、再稼働は妥当と判断した民主党政権を「倒すべきだ」とした4月の発言について、「暫定的な基準が認められ、前提事実がなくなった」として撤回する意向を示した≫とまで言っている関西側との軋轢が再燃します。

 正式基準か暫定基準かは主導権がどこにあるかに響いています。もちろん福井県には「原発地元」の範囲に滋賀県や京都府を割り込ませて、既得権益を失いたくない地域エゴも背後にあります。この際だから国に要求したい案件もあると見られます。

 もう一度最初から審議し直しを要求して引き延ばしも可能です。基準を政治駆け引きで格下げしただけで、暫定基準とするきちんとした理由や、暫定で足りない点があっても安全であるとの説明さえ政府はしていないからです。そもそも論で言えば、関西広域連合が指摘しているように、現行法で安全のお目付け役である原子力安全委が新安全基準を了承していないのです。

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大飯再稼働の稚拙な仕掛け、橋下流の限界見た

 野田政権は大飯原発再稼働をめぐり反対だった関西広域連合から容認姿勢を引き出せたことで、地元福井の了解を得て、各種世論調査に示された反対の声多数を押し切る構えです。30日に起きた逆転劇に事前のシナリオが存在したことは明らかであり、「夏だけ稼働」を仕掛けたと見られる橋下徹大阪市長の政治的駆け引きの稚拙さも見えました。

 30日の関西広域連合で細野原発相は稼働のための「新安全基準」を暫定基準であると格下げし、これを受けた首長から「暫定基準なら対策も暫定になる」との反発が出たものの、関西広域連合長の井戸敏三兵庫県知事は「安全判断は暫定的であり、再稼働は限定的なものとして(政府に)適切な判断を強く求める」との声明を発表するに至りました(読売新聞「大飯再稼働、自治体の容認受け近く決定…政府」)。安全基準を格下げすることで限定稼働が出来る、一般人には理解しにくい「腹芸」です。

 午後9時半にリリースされた時事通信の「橋下市長『限定は外せない』=大飯原発再稼働」では≪「限定ということが入らなければ、大飯以外もどんどん動かせ動かせという話になる。『限定的な』は外せない枠だ」と述べ、大飯原発再稼働は電力需給逼迫(ひっぱく)時に限るべきだとの持論を強調した≫となっているのですが、午前零時を過ぎると橋下市長の思惑は早くも崩れます。

 「新規制機関が判断=原発の『限定稼働』論で―枝野経産相」(jp.wsj.com)は夏場限定稼働ではない旨を伝えました。≪枝野幸男経済産業相は30日、関西電力大飯原発の再稼働に関連して「国会で審議中の新たな規制機関ができれば、すべての原発について(新たに策定する安全基準を既存原発にも適用する)バックフィットが求められ、判断されることになる」と述べた。関西広域連合が原発の再稼働を限定的なものとするよう求めたことに対し、行政から独立した立場として新設される原子力規制庁などが判断するとの認識を表明した発言だ≫

 国会審議中の新しい原子力規制組織がどのような形になるにせよ、原子力安全委員会が再稼働に必要と求めている過酷事故を扱うストレステスト第2段階を含めて、新安全基準を策定するのには最低でも半年以上かかるでしょう。需要期の夏場限定稼働を打ち上げた橋下市長の意向は、「稼働オーケー」だけを吸い上げられて放置されることになります。

 実は井戸知事も「『限定的』とは稼働期間の限定の意味もあり、政府の基準は規制庁ができるまでの限定的なものという意味もある」(日経新聞)と夏場限定稼働としない解説をしています。大阪府や大阪市で「お山の大将」を演じている橋下市長の限界でしょう。橋下氏の下に集まっているエネルギー専門家は原発稼働なしでもこの夏は乗り切れるとの見通しを出していたのであり、ブレーンの使い方・活かし方の点でも禍根を残す逆転劇でした。

 【参照】インターネットで読み解く!「原発再稼働」関連エントリー


暫定基準だった大飯原発再稼働「新安全基準」

 関電・大飯原発の再稼働をめぐって細野原発事故担当大臣から「大飯原発の安全を判断する国の基準は、原子力規制庁が出来るまでの間の暫定的なものだ」と認める発言が飛び出しました。暫定基準で国内の意見が二分している大問題を片付ける神経が理解不能です。

 NHKニュース「大飯原発 知事の対応分かれる」の報道です。関西広域連合の会合での発言に「大阪府の松井知事は『安全基準が暫定的だということは、それに基づく安全対策も万全ではないということなのに、運転を再開させるのか』と述べ、政府の姿勢を批判しました」。極めて真っ当な反応です。

 読売新聞の「大飯に副大臣ら常駐…原発相、広域連合に再説明」は「規制庁発足後に策定する新たな安全基準で、安全性を改めて評価すると明言した。規制庁発足までの対策としては経済産業副大臣やプラントメーカーの技術者らを現地に常駐させ、3、4号機の稼働状況を常時監視する体制を構築する考えを示した」とも伝えています。

 副大臣やプラント技術者が常駐して何の異常事態抑制効果があるのか、不思議な対策を思いつく政権です。「首長側からは京都府の山田啓二知事が『監視態勢は専門家の観点が抜け落ちている』と再稼働を不安視する声も出た」と、こちらも当然の批判です。

 「原発再稼働ストレステスト、安全委は保安院に同調せず」で「間もなく原子力規制庁が出来て組織が消えてしまう保安院が、勝手に原発再稼働に向けて独走していると、原子力安全委員会まで認めた形」と指摘した通りで、今回の「新安全基準」の枠組みには最初から無理がありました。今頃になって、「やはり暫定基準でした」「後日、見直します」と逃げを打ちつつ、電力需給が切迫しているから再稼働では、ますます首尾一貫しなくなります。福島原発事故の反省から最も遠いのは細野原発相のようです。「無謀・大飯原発再稼働へ4つの駄目」を見直していただきたいと思います。

 【参照】インターネットで読み解く!「原発再稼働」関連エントリー


原価知らずに電気料金を認可してきた経済産業省

 「東電の利益 9割は家庭など向け部門」(NHK)などの報道が一斉に東電の収益構造のいびつさを問題にしています。この一般消費者に強く大企業に弱い体質は酷いと思いますが、驚くべきは電気料金を認可してきた経済産業省が原価を把握していなかった点です。この料金でいくら利益が出るのか知らなかったとは、原価に適正な利益分を上乗せして認可する電気料金の仕組みが全く機能していなかったのです。

 「電力会社10社の電気事業からの利益は、平成22年度までの5年間の平均で、大口の企業など向けの部門が31%だったのに対し、販売電力量に占める割合が38%しかない家庭など向けの部門が69%を占めているということです。中でも東京電力は、大口向けからの利益が9%であるのに対し、家庭など向けからの利益は91%を占め、家庭など向けに利益を大きく依存していることが分かりました」

 これに対して枝野幸男経産相はフジテレビで「ようやく、この利益割合の具体的な数字が、経産省も初めてわかった。これは、さらに透明性を高めさせないと、とてもじゃないけど世の中は納得しない。わたしも納得しない」と述べたそうです。冗談ではありません。具体的な中身の数字を知らないで認可してきたとの告白ですよ。

 昨年末の「東電の電気料金『私物化』は過去まで遡り返済を」で指摘したように、朝日新聞が過去10年間で東電が6000億円も高く見積もっていたと報道し、東京新聞が発電と無関係な福利厚生費計上や社員健康保険料の2割転嫁などの不正を伝えています。こうした報道内容に相当する不正分の是正があったとも聞きません。

 東電が悪質で巧妙な操作をしていると思ってきましたが、今回分かった事情は監督する経産省が原価明細はもちろん総額もきちんと突っ込まずに電気料金認可してきただけの話でした。歴代の経産省幹部は東電と連帯して過去の不正分の弁済をすべきだと考えます。


動かぬ再処理工場に年維持費1100億円:東京新聞

 在京マスメディアが「311」以来、自分の頭で考える取材を自ら放棄している中で、権力中枢から一歩離れた東京新聞だけが真っ当な取材活動をしていると評価されています。「核燃料再処理工場 動かなくても年1100億円」も高く評価されてよいと思います。詰め方に多少の問題点を見ますが、国策事業の失敗をめぐりデータを出したがらない国や電力業界とのせめぎ合いを経験した立場からは立派な労作です。

 「使用済み核燃料の再利用に向け、試験が進む日本原燃の再処理工場(青森県六ケ所村)は、仮に稼働させなくても、維持費だけで年間千百億円もの費用がかかることが、政府の資料や日本原燃への取材で分かった」

 この再処理工場は当初の目標から既に15年も完成が遅れており、未だに完工の目処が立っていませせん。もちろん、再処理の実績もありません。それでも工場の点検や搬入された使用済み核燃料の管理(200億円)、工場の警備や放射線管理(200億円)、1500人の人件費(128億円)、福利厚生や再処理技術の研究費(172億円)、固定資産税や銀行への返済(400億円)と、巨額な年間維持費が必要と伝えています。

 これとは別に核燃料サイクル施設が青森にあるために、地元自治体が政府から92億円の交付金を得ているのです。核燃料サイクルのもうひとつの柱、高速増殖炉「もんじゅ」が年間で200億円の維持費を必要としている点はかなり知られるようになりましたが、六ケ所核燃料再処理工場についての報道は初めてです。こちらは5倍以上あり、ほとんどは電気料金から支払われています。世界的に見て割高な、国内の電気料金に隠されて見えなくなっていたのです。

 どうして15年も再処理工場完成が遅れているのか、それは第180回「敗因は何と工学知らず:六ヶ所再処理工場」で明らかにしています。日本の国策原子力開発は「もんじゅ」といい開発監理の仕方に根本的な欠陥があるのです。福島原発事故で誰も責任を取らなかったように、失敗を隠蔽して事業延命を自己目的とする体質がビルトインされています。「原子力ムラ」の体質です。

 【参照】インターネットで読み解く!「再処理」関連エントリー


電力需給検証の大雑把さには怒りたくなる

 何が第三者専門家による需給検証だろうと精度の貧しさに驚き、西日本4電力の5%節電で関西電力管内の不足を補う方針には「算数が出来ますか」と問いたくなります。野田政権が大飯原発の再稼働一辺倒でやってきたために電力不足対策の準備が遅れた点を勘案しても、まだ検証に値しない低レベルです。日本の官僚の「優秀さ」はどこに消えたのでしょうか。

 毎日新聞は「需給検証委:関電に4社融通拡大 5%節電で制限令回避へ」と伝えています。中部、北陸、中国、四国の4電力はこの夏も余力があるのだけれど、最大供給力が445万キロワット足りない関電のために「5%の節電」を上乗せして4電力計459万キロワットを生み出し、補うと言います。関電は関電で不足分(14.9%)に対応する20%節電をするべしとしています。両方同時に実施したら、計算する必要もなく余力が2倍になってしまいます。

 もともと電力各社が出した最大ピーク電力量は軒並み過去最大を上回る「超猛暑」型で、検証委ではこれに対する刈り込みはほとんど出来ませんでした。わずかに形ばかり下げただけです。このような無茶な最大ピークに対して計画節電を実施して経済活動を実際に縛る意味を考える必要があります。ピークが続くのは僅かな時間です。ピークをならす政策的な提案がされています。

 電力融通と言えば、東の50ヘルツ地域から西の60ヘルツ地域に周波数変換して流せる100万キロワット分が、今の計画から消えています。余裕がある東電からの融通は当然、考えるべきなのです。また、日本列島は東西に長いので電力ピークの時刻も東西でずれます。従来のように単一の電力会社だけで考える問題では無くなっているのに、その視点も欠けています。ピーク時にバッファーになる揚水発電の利用方法も、東電まで巻き込んで全国規模で運用を考えるべきです。関電の説明は関電管内での収支に止まっていて、全国で考えればもっと大きな余裕が生じます。

 政府としての計画決定は今週前半になるようです。それを見て改めて論評しますが、12日の「第6回 需給検証委員会」で開示された資料類を読む限りでは、事務局側は完全に消化不良です。参加した専門家たちもかなり怒っているようです。「国家戦略室」とかいう生煮えの組織ではなく、完全に独立した機関に事務局を委任すべきでした。

 【参照】インターネットで読み解く!「原発再稼働」関連エントリー


包括的な原発対処には全電力国有化しかない

 現存する原発50基が5日に止まりました。メディア各社世論調査で原発再稼働反対が賛成を圧倒している以上、「地元自治体の説得」といった局地的対応をしてきた野田政権には早期の再稼働に向けた布石が出来ていません。いや、問題の核心は再稼働ではなく、福島第一を含めてあちこちの原発を廃炉にしつつも電力供給をし、経済運営をしていく条件整備です。包括的対処には日本原電を含めた全電力会社の国有化しかないと指摘しておきます。

 大型連休を前に出された東電の事業計画にはあきれました。実質国有化されても電気料金値上げで収益を改善、廃炉費用など足りなくなれば、また国に支援を要請する枠込みです。東電だけを見ているから、このような愚かな計画が生まれるのです。東電の言いなりに電気料金を上げれば、国内で著しい料金負担の格差が生まれます。企業によっては工場を移転したいと考えるでしょう。

 どう考えても再稼働は無理な廃炉候補には運転30年を超える炉や、活断層上の原電敦賀などいくつもあります。それが浮上するたびに廃炉費用を電気料金に転嫁して、国内各地で凸凹の電気料金を実施していくのでしょうか。国内経済の運営上、狂気の沙汰に見えます。

 福島第一原発事故の始末で未だに忘れられている重大事があります。事故に結びついた安全審査の欠陥は国に帰せられ、責任の半分は国にあるのです。民主党政権はもう気付いて、責任に応じた対処に転じなければなりません。巨額資金を投じた原発本体と核燃料を諦め、核燃サイクルの始末をする事態に至った責任も、半分以上は国にあります。各電力会社に任せられるはずがありません。

 長期的、国家的視点に立ってこれから必要な資金計画を練る必要があります。国民が電気料金として負担できる分と、税金から投入する部分とを決め、全電力国有化によって負担を全国にならさねばなりません。現在のような上場企業のままで株主から賛成を得ることは不可能です。

 【参照】インターネットで読み解く!「原発再稼働」関連エントリー


「やぶ蛇」野田政権に原発再稼働の読売が呆然

 18日の読売社説「原発再稼働問題 冷静で現実的な議論が重要だ」には笑いがこらえられませんでした。野田政権があまりの「やぶ蛇」を演じてしまったために、原発再稼働推進一本やりだった読売にして「これはまずい」と深刻になっている内情が読みとれます。首相は自治体を説得できればよいと安易に考えたのですが、自治体は住民を説得しなければなりません。その結果、《原発「被害地元」を明記 京都・滋賀知事が7項目提言》(京都新聞)と”ヘビー級の宿題”が出され、野田政権には説得力がある解答を書く能力が疑われるのです。

 読売社説は「関西電力大飯原子力発電所3、4号機(福井県おおい町)の再稼働論議が迷走気味である」と始まります。京都、滋賀の両知事には「約10日間に計6回の閣僚会合で安全性を確認したのは拙速だ、との思いが強いようだ」。「関電の大株主である大阪市の橋下徹市長の度重なる再稼働反対発言も、波紋を広げている」「枝野氏の発言の『ぶれ』も、混乱に拍車をかけた。枝野氏は『再稼働』と『脱原発』のどちらに軸足を置いているのか、真意がわかりにくい」と続いて、結論だけ「枝野氏は再稼働の担当閣僚として責任を全うするべきだ」では、読売自身も事態打開の策が見えないと告白しているようなものです。

 両知事の提言は「提言は反対のための反対、賛成のための賛成をするためのものではない」となっている分、「使用済み核燃料の最終処理体制の確立に取り組み、工程を示す」「中長期的な電力確保策を示し、国民に節電の協力を求める」といった根源的な課題にまで触れています。こんな課題にさらりと答えられる政治家・官僚がいる訳がありません。「福島第1原発事故の事故原因を徹底究明し情報を公開する」――いまやっているところです、待てないから無理なお願いをしました▼「大飯原発の免震事務棟、防潮堤など恒久対策ができていない段階での安全性を説明する」――過酷事故は急には起きないと考えているわけでご勘弁……と本音で答えてしまっては身も蓋もないでしょう。「原発再稼働:落とし所を考えない野田政権の愚」で指摘したように、昨年夏から環境整備をしておかねばならなかったのです。

 国会答弁のような木で鼻をくくった作文が返ってくるしかない――両知事はそれを見越しているはずです。一方、福井県の西川知事は関西圏の説得は政府の仕事と釘を差しています。この構図では早期の原発再稼働は見えてきません。推進派読売新聞が呆然となっている心情がよく分かります。仙石氏の「集団自殺」発言といい、今回の狂言回しをしているであろう政府中枢官僚の質が悪すぎます。

 【参照】インターネットで読み解く!「原発再稼働」関連エントリー


インド国勢調査と経済大国予測のギャップ

 BRICS首脳会議に合わせた「2050年にはインドが世界一の経済大国」(CNN)の予測を見て、2011インド国勢調査の速報値を知ったばかりだったので、世帯の半分以上にトイレが無い現実とのギャップの大きさに戸惑ってしまいました。中国共産党のような開発独裁のリーダーシップが存在せず、非効率的な官僚組織が幅を利かせているインドにそのような大変貌が可能なのか――成長率の数字だけいじっている近未来予測には疑問符です。

 英ナイトフランクと米シティプライベートバンクがまとめた「世界の富の配分に関する報告書」はこうです。「中国は2020年に米国を抜いて世界最大の経済大国となる見通し。しかしインドの国内総生産(GDP)は購買力平価(PPP)ベースで2050年までに85.97兆ドルに達して中国の80.02兆ドルを上回ると予想。米国は30.07兆ドルで3位に後退するとした」「ブラジルとロシアが上位10カ国にとどまり、インドネシア、ナイジェリア、メキシコ、エジプトも上位10カ国入りを果たすと予想。日本は6.48兆ドルで9位に後退している」

 GDPが米国30兆ドルで日本6兆ドルの時に、80兆ドル台のインドと中国が存在しているとの予測なのです。宮本憲一さんの『環境経済学新版』(岩波書店)にインド独立の父、ガンジーが「インドが英国と同じことをすれば、地球がいくつあっても足りない」と主張したとの記述があります。地球規模の資源限界を超えかねない、まさにその事態でしょう。

 南インドに日本から嫁いでいる女性のブログ「2011国勢調査結果からインドの現状を知る」(マドゥライから)が統計値が見やすく興味深いと思いました。人口12億人の国の世帯別で、「住居1部屋のみ」37%、「上水道あり」32%、「電気あり」67%、「トイレあり」46%、「テレビ所有」47%、「電話(固定または携帯)」63%、「自転車」44%などなど並んだ数字を眺めると、生活インフラ整備が途轍もなく遅れていると分かります。大人口国ですから改善に要する資金とエネルギーの大きさはちょっと想像できません。


 トイレについては「東南アジアにおける衛生設備の不備がもたらす経済損失」に比較データがありました。インドの都市部81%、地方30%の家庭トイレ普及率をグラフにならべてみると、だいたいインドネシア並みです。特に地方は東南アジア2004年の平均水準の半分と遅れてます。つまり野外で用を足している訳でトイレットペーパーはほとんど使われず、自然にあるもので代替しているはず(紙資源消費参照)。

 「月収が約3万円を超えているのは人口の2.5%のみ」「月収1万円以下が、国民全体の77%」という所得水準のグラフが上記ブログに掲げられています。月収4981〜6640円と3321〜4980円の世帯が最も多く、それぞれ4000万戸を超えています。貧困からの脱出は簡単ではありません。「今の平均月収が3万円だとして、毎年10%ずつ経済成長して、月収も10%ずつ増えても、10年後にも約8万円にしかなりません。インドが順調に経済成長し続けても、彼らが、海外旅行へ行くことは、10年後でも容易では無いのです」

 英エコノミスト誌は最近、「インド経済:魔力を失いつつある国」をリリースしています。「インド経済が拡大を続けることを疑う人はいない。だが、インド経済の軌道の角度は急降下してしまった。前四半期には6.1%まで成長が減速した。政府が期待しているように成長が回復するとしても、多くの人は、トレンド成長率が7%を大きく超える可能性は低いと心配している」と、古めかしい絶望的な官僚主義が蝕んでいる現状を指摘します。

 思い出せば1年前にもジョセフ・S・ナイ・ハーバード大学教授が「インドは中国と並ぶ大国になれるのか?」(東洋経済オンライン)を書いていました。《中国国民の91%は識字能力があり、43%が都市に住んでいる。だが、インドの識字率は61%で、都市居住者は29%にすぎない。毎年インドでは、エンジニアリングやコンピュータを専攻する大学卒業生が米国の2倍生まれる。しかし、英『エコノミスト』誌によると、「ソフトウエア会社で働く能力を持つ卒業生は4・2%にすぎず、6カ月の訓練を施した後でも、17・8%しかITサービス会社で働ける水準に達しない」。これはインドの大学のレベルが低いためである》。インドのソフトウエア産業は強いと思いこみがちですが、大量養成して一部の技術者が使い物になる実態のようです。

 また、長く続いた低成長に慣れたお役所の仕事ぶりは、高度成長の歪みをフォローするどころではないようです。「インドの大気汚染は中国以上で世界最悪の報道」も最近ありました。上記ブログの女性宅には電気は来ていますが、1日に何度も何時間も停電するのが常態化しています。外国資本の導入、工場進出で停電はますます酷くなっているそうです。

 【参照】インターネットで読み解く!「インド」関連エントリー


法無視する政治主導の愚:原子力安全委は無関与

 枝野経済産業相が14日午後、福井県庁に西川知事を訪ねて大飯原発の再稼働に向けた協力を要請しました。そのやり取りで露わになったのが、民主党政権が掲げてきた「政治主導」の愚かしさです。福井県側は専門家に諮ると答えたのに、政府は現行法の枠組みを無視し4閣僚が勝手に安全だと判断しただけなのです。

 テレ朝の「大飯原発再稼働へ協力要請 福井県知事は回答保留」はこう伝えています。《福井県・西川一誠知事:「妥当性については今後、福井県としては、県が設置している県原子力安全専門委員会において、厳正にチェックを加えて参りたい」》《橋下大阪市長:「原子力安全委員会のコメントがきちんと出ないまま再稼働していくなんていうのは、本当に危険な統治のやり方。ものすごい強い怒りを覚えている」》

 西川知事が勝手な政治判断をしても、原発の安全性については県民が納得しないでしょう。だから、県原子力安全専門委に諮るのです。現行法で国の原子力安全についての総元締めは原子力安全委です。そこが「安全委を外して原発の新安全基準了承は論外」で指摘したように蚊帳の外に置かれていて、国民が納得できるはずがありません。

 毎日新聞の「大飯再稼働:関西圏の理解が必要…経産相要請に福井知事ら」はさらに《西川知事や時岡町長は現時点での判断を保留した上で、「電力消費地の理解に責任を持って対応してもらう必要がある」と述べ、大阪市など関西圏の理解が必要との認識を示した。大阪市や京都府などは政府の再稼働に向けた性急な動きに反発を強めており、国は重い課題を突きつけられた格好だ》と報じました。

 政治主導は先例主義に傾く官僚の抵抗を押し切って、新たな政策を実現するためにならば理解できます。しかし、原子力安全委を基盤に置いた現行法の枠組みを政治主導なら無視できるというのでは、法治国家ですらありません。

 【参照】「新安全基準は想定外を隠れ蓑にする欠陥品」


原発再稼働:落とし所を考えない野田政権の愚

 民主党政権が発足して以来、最後の落とし所を考えずにアドバルンだけ打ち上げる愚行が繰り返されてきました。最たるものだったのが沖縄・普天間基地移設で、全国的に影響が大きい原発再稼働問題でも新安全基準が土壇場の3日間で出来上がる拙速ぶりです。福島原発事故で放射能の大量放出を起こした水素爆発への備えさえ出来ていない現状では、立地自治体は安直に同意できないはずです。ストレステストを言い始めた昨夏から、1年先を見通して環境整備していく政治家が存在しない、恐るべき無計画政権です。

 新安全基準を決めたのは野田首相ら4閣僚で、原子力技術そのものに強いとは思えませんし、現行法で安全の総元締めである原子力安全委を完全に外した点で法律にも強いとは見えません。しかし、大飯原発の立地自治体である福井県は原子力の素人ではありません。知事は慎重姿勢で記者会見を拒んでいますが、こういう時は地元紙である福井新聞が意向を側聞していると考えるべきでしょう。

 6日付けの論説「大飯再稼働へ新基準 安全対策、それで十分か」はかなり否定的です。「今回の安全基準は実質、県の要請に答えた形で、全電源喪失事故の進展防止策など三つの基準で構成した。電源車の配備、建屋の浸水防止策など、事故後の緊急対策で実施済みの項目を盛り込み、防潮堤のかさ上げや、事故対応拠点となる免震事務棟など完成に数年かかる中長期対策も列挙。30項目の実施計画をあらためて示した格好だ」と評価しつつも「しかし、新たな知見となる活断層の連動による耐震安全性や誘発される津波の評価をはじめ、地震による道路寸断、配備された電源車、消防車の被害想定が十分なのか、オフサイトセンターの機能不全の懸念など不安材料は多い」と具体的な不安を挙げます。

 福井県が求めてきたのは暫定基準であるのに、政府は安易に「新安全基準」としている点にも懐疑的です。「炉心のメルトダウン、放射性物質の大量拡散被害という過酷事故が発生し、原発の安全性に大きな不安が渦巻いているのが現状だ。再稼働に向けたハードルは格段に上がっている。国が『新基準』として判断するのはよほど慎重を要する」。実のところ原子力安全委が全く関わらずに原発の新安全基準が出来る発想こそ、過去の経緯を見れば著しく異常です。

 長年、原発と向き合ってきた側からすれば野田政権がとった態度は、あまりにも付け焼き刃で、薄っぺらいと見えるはずです。水素爆発など中長期の事故対策を先送りして再稼働し、現実に過酷事故が起きたらどうするのか――4閣僚は責任を取ると言っていますが、国家の存立を危うくするほどの危機に切腹などして貰っても困ります。各地の原発サイトは福島事故後も実質的には何も変わっていません。机上の空論であるストレステストをしただけです。実効的な対策ありとして地元の理解を得やすくするために、欧米では常識になっている水素爆発対策換気装置だけでも突貫工事で済ませて置くなど、早くから実質的に形の見える対策を進めるべきでした。

 【参照】インターネットで読み解く!「原発再稼働」関連エントリー


計画白紙1兆円申請の東電は上場廃止、国有化に

 新聞の見出しは時にインパクトを持ちます。≪計画白紙で1兆円申請 資本注入 東電、政府管理下へ 会長人事が難航≫が今日の日経新聞の朝刊トップ見出しでした。さらに福島原発事故の賠償支払いのために8459億円の追加支援も要請しています。こんな「民間企業」が存在し得るはずがありません。直ちに上場を廃止して本格的な国有化に移すべきです。東電が存在している結果、事故処理と賠償のために架空の原資があるがごとき幻想が存在します。しかし、突き詰めれば電気料金と税金に、つまり一般国民に負担を求めるしか原資はないのです。

 日経の記事はこうです。≪東電と機構は再建に向けた「総合特別事業計画」を3月末までに枝野幸男経済産業相へ提出する予定だったが、かなめとなる勝俣恒久会長の後任人事が難航。計画の重要部分が白紙のまま資金援助だけ求める異例の事態になった≫

 これがどれだけ経済界の常識を外しているか、経営の当事者能力が無い以上、株式を上場して一般投資家を惑わせるべきではありません。

 毎日新聞の≪東京電力:公的資金を申請 厳しい「値上げ」「再稼働」 特別事業計画先送り≫は≪年明け以降、支援機構関係者が経団連会長経験者や政府の有識者会議の有力メンバーなど複数の財界人に会長就任を打診したが、いずれも固辞されたという。6月の株主総会で新経営陣を決めるには4月中に送付する総会招集通知に新会長を含む新経営陣の顔ぶれを盛り込む必要があるが、財界人でなり手がいないのが現状。このため財務省や経済産業省出身の官僚OB、学識者などの名前も候補として浮上している≫と伝え、経済人の本音として政権がいつまでもつか分からない民主党政権下で大仕事を引き受けて、はしごを外されてはたまらないとしています。

 福島原発事故の収拾をめぐって、民主党政権は東電に責任を負わせ、まるで打ち出の小づちがあるかのごとく対応しています。しかし、既に用意された原資は尽きているのです。これから先に発生する除染、廃炉などの費用は電気料金と税金に求めるしかない、その厳しい現実をこの際、はっきりさせるべきです。そう見切れば、現在の東電経営陣の愚かな判断に今後を委ねることなど出来る筈がありません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


過去の検証無しに原子力規制替えする愚かしさ

 経済産業省原子力安全・保安院と原子力安全委員会が組織替えで原子力規制庁になる直前、原子力防災強化を巡る両者の衝突が表面化しました。2006年に原発重大事故に対応するため新たな国際基準に合う予防防護措置区域を設定しようとしたら、保安院が強硬に反対、結局は見送られました。福島原発事故の過去責任を問わない政府の姿勢が全てを曖昧にしてきて、埋もれている問題は山積と疑わせます。個々の問題所在を明らかにしない原子力規制強化のため組織替えが、役に立つはずがありません。

 毎日新聞の《原発防災強化:「寝た子を起こすな」保安院》は《当時の広瀬研吉保安院長(現内閣府参与)が強化に着手した内閣府原子力安全委員会の委員に対し、「寝た子を起こすな」と反対していたことが16日、安全委への取材で分かった。保安院の組織的な関与が明らかになった》《安全委側は、原発から半径3〜5キロにPAZ(予防防護措置区域)を設定するなど、02年に国際原子力機関が定めた新たな国際基準の導入意向は変わらないと伝えた。保安院はその後、安全委事務局に対し、文書や電子メールで導入凍結を再三要求》と伝えています。

 15日に安全委がウェブ「平成18年のPAZ等に関する防災指針見直しにおける原子力安全・保安院からの申し入れ、意見等に関する経緯について」で公開している文書はかなり大量で、無念さがこもっている感じがします。

 「保安院の意見、考え方を十分に確認せず、一方的に防災指針の改訂の検討を開始したことは、原安委管理環境課の不注意と言わざるを得ず、原安委管理環境課の責任として、保安院の考え方を十分斟酌して検討すること」と申し入れされているのですが、安全委と保安院は対等の関係にあり、安全について検討を開始することまで「伺いを立てろ」とは奇異に映ります。保安院から安全委事務局に職員が出向して実務を切り盛りしている実態から、安全委を指揮下に置いていると錯覚しているのでしょう。

 過去の問題点を克服する仕組みを持たずに、新しい原子力規制の在り方がこれまでと違ってくる保証はありません。海外からも日本は規制組織の確立が出来ないと見なされています。国会でも原子力規制庁への異議が表面化しています。こうした状態ならば国会の事故調が要求しているように、夏に事故調査報告が出るまで規制組織替えを凍結すべきです。

 【参照】「福島原発事故責任の曖昧化は再発を許す道」
 インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


中国経済成長が低下する真実味と大きな影響

 中国経済の先行きに黄信号との警告論調は前々から出ていたものの、2月に入ってにわかに数字として具体化して来た観があります。気になったので、どのように語られているか、データの真実味と影響をまとめておきます。

 まずは2月上旬の国際通貨基金(IMF)による中国経済見通しでしょう。ロイターの《中国成長率、世界経済後退なら予想の半分に低下の恐れ=IMF》は《欧州債務危機により世界経済がリセション(景気後退)に陥った場合、中国の2012年成長率は予想の半分となる4%台に低下する恐れがあると警告した。IMFは1月、基本シナリオに基づく中国の2012年の成長率予想を8.2%とし、これまでの9.0%から下方修正した。これに加え、この日公表された見通しでは、世界経済の「下方」シナリオの下では、成長率がさらに8.2%から4%ポイント低下するとの予想を示した》と伝えました。

 続いて3月10日、2月の中国貿易統計が314億ドル(2兆6000億円)の巨額赤字と発表されました。実務的には春節時期の影響を除くため、1〜2月を合計して42億ドル(3485億円)の赤字が焦点です。ロイターのコラム《中国、経済構造変化で貿易赤字が日常風景に》は根深い変化が起きていると指摘します。「国内総生産(GDP)の約40%を貿易が占め、この比率は欧米の3倍だ。そしてこれまでは貿易の大半は、最終的に輸出される製品の原材料や部品が占めていた。輸入後に安い労働力でわずかの価値を付けて再輸出していたのだ。しかし中国が裕福になるにつれて労働コストは上がり、国内消費が増えている」「ほとんどすべての輸出が加工製品で占められているときには貿易黒字を維持するのはたやすい。だが、輸入経済の勢いが増して輸出貿易から離脱するようになれば、毎月の貿易統計がたびたび赤字となるのを避けるのは困難になるだろう。今回の貿易赤字は来るべき未来の前兆なのだ」

 続いて出た、The Economistの《製造業:安い中国の終焉》は「コンサルティング会社のアリックスパートナーズは、興味深い推計を示している。中国の通貨と輸送費が年間5%ずつ上昇し、人件費が年間30%上昇すると、2015年までに、北米でモノを生産するコストは、中国で生産して北米に輸送する費用と同程度になるというのだ(図参照)」と、従来の考え方による中国でのアウトソーシングが無効になる時期が迫るとしています。ただ、これだけ整備された部材のサプライチェーンは捨てがたいので、ベトナムなどに行かず製造工程を自動化しても中国に残る動きも紹介しています。

 前々から批判的な論調だった石平氏の《中国経済成長の終焉 2012年は冬の時代》は次のような厳しいデータを並べています。「成長の象徴である自動車市場の場合、10年の全国の自動車販売台数が前年比32.44%だったが、11年は2%台にまで激減した。そして今年1月の新車販売台数は前年同月比で26%減となったと中国汽車工業協会は発表」「鉄鋼業界の利益率は04年の8.11%をピークに下降し、10年は2.57%と、全国の工業各野の中で最低レベルとなり、11年にこの数値がさらに下がった。今年に入ってからも、鋼材市場は消費が伸び悩み、価格は継続的に下落する一方、在庫だけは急速に増えている」

 冒頭のIMF見通しが欧州経済の混迷を前提にしているのですから、中国経済が急減速する事態になれば、日本経済にとっても逃げ場はありません。対中輸出が減って成長のエンジンを片方もがれたようになるでしょう。米国にとっても景気に大影響があり、また中国に貿易赤字が頻出する事態は外貨準備として米国債を買ってくれていた大スポンサー消滅を意味するので一大事です。急ブレーキが掛かった時に、中国政府がリーマンショック後のような強引な浮揚策に打って出られるか、高度成長が終わってからも財政出動を繰り返して失敗した日本のようになるのか、ウオッチが欠かせません。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国経済」関連エントリー

庶民の懐具合は東京五輪以前:貯蓄なし世帯急増

 貯蓄なし世帯急増を伝える「金融資産を保有しない世帯が3割、単身世帯は4割−家計金融行動調査」(ブルームバーグ)は、庶民の懐具合が東京五輪(1964年)以前の状態に落ち込んだことを示しています。「2人以上の世帯で金融資産を保有していないという回答が28.6%と、前回10年の調査(22.3%)から大幅に増え、調査を開始した1963年以来最も高い水準となった」。相関するデータを検索すると、決定的なのは賃金水準の急速な低下です。

 まず「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](平成19年以降)」にある1963年からの長期推移をグラフにしてみました。これには近年、調査方法の手直しでデータ不連続がありトレンドとして見るように注が付いています。貯蓄がある世帯割合が調査開始の1983年を下回ったのは、前年比6.3ポイントも減らした2003年が最初でした。以後は一進一退を繰り返し、2011年に再び6.3ポイントと大きく落ち込みました。「毎月勤労統計調査 平成23年分結果確報」にある時系列表・賃金指数と時期を合わせてグラフを並べました。


 現金給与総額を示す賃金指数は2005年を100としていて、1999年から2011年までで最高の2000年「105.6」から最低の2009年「95.1」まで「10.5」ポイントもの下落です。同じ期間について貯蓄のある世帯割合をみると、1999年「87.9%」が2011年「71.4%」へと「16.5」ポイント下げています。貯蓄のある世帯の中でも「貯蓄しなかった」と答えた割合が1990年代は2割程度だったのに、2007年以降は3割にもなっています。収入減少が貯蓄に大きく響いているのは間違いありません。

 過去を遡ると1964年に東京オリンピック、1968年には国民総生産(GNP)が第2位に上り詰めて、20世紀の間は貯蓄がある世帯が9割前後を維持してきました。しかし、この20年ほどで進んだ大企業も含めた合理化・給与カット、非正規労働者の大幅な増加などで、庶民の生活基盤は根底から揺さぶられているとみてよいでしょう。弱者に向けたセーフティネットを強化しないと、このところ頻発している、周囲が気付かない内の餓死事件がさらに増えそうです。

 【参照:別の観点から】『失われた20年』見直し機運、悪くない日本未来


東電国有化に反対する財界・財務省の現状誤認

 枝野幸男経済産業相が、国が東京電力の経営権を取得することを事実上の条件として6900億円の追加支援を認定しました。《「東電国有化はとんでもない勘違い」経団連会長》(読売新聞)と反発が出ています。「国有化してきちんとした経営を行った企業は見たことがない」との主張ですが、現在の東電がきちんとしているとの認識こそ誤認そのものです。国の存続に響く大事故を招いた経営責任を誰もとらない▼膨大な資金を受け入れながら避難民への補償は遅れに遅れて出し渋っている▼合理的な説明も無しに17%もの電気料金値上げをいきなり通告▼過去の電気料金に不当な水増しがあったと判明しているのに是正しない――地域独占企業でなければ存続さえ許してもらえないケースです。

 政府内部でも財務省が反対する意向と伝えられます。毎日新聞の《社説:東電実質国有化 政府も責任を自覚せよ》は「政府が過半数の議決権を得ることに関し、財務省は原発廃炉や賠償への国の負担が増すことを理由に反対している。政府内で意見が対立し、責任負担への腰が引けているようでは、東電の経営を任せられるか心もとない」と指摘します。

 財務省にも大きな事実誤認があります。法律上の賠償の枠組みから東電に福島原発事故の責任が一本化されているのですが、原発の安全審査でゴーサインを出した国の責任は消せる物ではありません。責任の半分は国にあるのです。全てを電気料金に転嫁してまかなえないのは明らかである以上、「国の負担が増す」と逃げるなどお笑い沙汰です。

 マスメディアも当初は財務省のような不見識をうたっていましたが、資金不足の重さに《賠償と東電改革は国も一体で責任果たせ》(日経・社説)と変わってきています。「決算で判明したように、東電の財務基盤は脆弱だ。今後も廃炉費用が膨らめば、債務超過の懸念も浮上する。銀行も資金を貸しにくくなり、電力供給と賠償に支障をきたしかねない」

 電気料金の大幅な値上げはGDPにも影響します。東電経営陣の総入れ替え、人件費など経費を世間が納得する水準に是正するなど政府主導で進めるべきです。事故から間もなく1年、東電の自主性に任せては駄目だと判明しています。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


あまりに寂しいソニー社長交代人事への反響

 ソニーの没落を反映しすぎて取り上げるのを躊躇してきたほどです――4月1日にソニーのCEO(最高経営責任者)がハワード・ストリンガー氏から、平井一夫社長へ交代する人事は、一電機メーカーの人事として扱われつつあります。7年前、ストリンガー登場で「輝きが無いソニー改革人事の違和感」と書いた際に、それでもネット上でまだ期待感が残っていた状況と比べるべくもありません。

 AV WATCH「本田雅一のAVTrends」の「ユニークで、好奇心を刺激するソニーへ  PSNをもたらした平井新社長が描く“One Sony"」はそれでも率直に評価をしている方でしょう。「今回の記者会見で、平井氏に対する懐疑的な見方は和らいだようにも見えた。平井氏はありきたりの返答をしたり、余裕の表情で煙に巻くといったことをせず、ソニーの状況に関して難しい局面であることを認めつつも、自分の言葉で将来について話をしたからである」

 この10年ほど、抜かっていた問題点は明確になっています。「結論から言えば、ソニーはデジタル製品のハードウェア単体を改善することに力を注ぎ過ぎ、サービスとハードウェア、ソフトウェアを一体化するための投資を怠った。この三つを密接に関連付け、ひとつに見せることができなければ、製品に“魅力”という息吹を吹き込むことはできない」

 米国で急速に伸びるタブレット市場は、アイパッドとキンドル・ファイアーの2強に支配され掛かっていると言われます。アップルとアマゾンの広大で強固なサービス基盤があるから、その上で自分好みの生活スタイルを自然に実現できる端末として売れ、使われているのです。平井氏の“One Sony"がどのような展開を見せるか、創業者たちが演出したワクワク感がそのまま発展していたらと考えると、遅すぎるけれど最後のチャレンジなのかとも思えます。

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東電の国有化を急いで考え違いを根本から正せ

 日経新聞が《東電資本注入 経営権で詰め 政府と会社側、値上げ絡み複雑に》で、福島原発事故を起こした東電が公的資金注入を望みながら、なお独立を維持したいと主張していると伝えました。こんな甘えを許してはなりません。急いで国有化し、東電の考え違いを正すべきです。考え違いは国有化に及び腰の財務省も同罪です。

 枝野幸男経済産業相は債務超過の対策になる1兆円の公的資金注入の前提として「国が経営権を取得する」考えを示しています。これに対して「東電には国による経営関与拡大への警戒感がある。資金注入は受け入れても議決権のない種類株を中心とし、民間企業として経営権を維持したい考えだ」。財務省も「賠償や廃炉などの責任が全て国に回ってきかねない」と異論を唱えています。

 大事故を起こした経営の責任を取ろうとしない態度、遅れに遅れている被災者への賠償といい、「電気料金値上げは権利」と開き直る点も世間一般の常識にないものです。事故から10カ月が経過しているのに改まらない東電の姿勢に国民はうんざりしています。まず国有化して、筋道はきちんと通さねばなりません。また、現行法による賠償の枠組みから東電に責任を負わせていますが、原発の安全審査でオーケーを出した政府の責任が消え去っている訳ではありません。政府は「東電が、東電が」と逃げてきた経緯を反省して迅速に行動すべきです。

 「電気料金値上げ、関電の否定で東電の根拠崩壊」で指摘したように、電力業界のナンバー2である関西電力が「値上げは考えていない」状況では、拙速な値上げの根拠は無くなったと評すべきです。過去に本来認められている費用以外の多くの経費を電気料金に盛り込んで、不正に溜め込んできた資金の清算が済んでいません。値上げ前にするべき資産売却も聞こえてきません。企業向けばかりでなく家庭向けの値上げも前提にし、しかも値上げの根拠を明確に示さない非常識も経営権を握ってやり直させない限り改まりません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


原子力体制を変革するエンジン不在が問題

 毎日新聞の《この国と原発:第4部・抜け出せない構図 政官業学結ぶ原子力マネー(その1)》はマスメディアで盛んになっている「原子力お勉強企画」でも質が高いと思います。福島原発事故を経ているのに来年度予算は何も変わっていない様が浮き彫りになっています。また、原子力安全・保安院に代わる規制組織「原子力安全庁(仮称)」も代わり映えしそうにありません。原発無い社会志向を言った菅・前首相が放り投げた後、原子力推進体制を変革するエンジンが見あたらないのですから、実態が変わらなくて当然です。

 「政府は12年度予算案に、原子力関係分として4188億円を盛り込んでいる。原子力政策見直しの結果が出ていないという事情はあるものの、11年度(4236億円)に比べ1・1%減と、東京電力福島第1原発事故を経てもほとんど変わっていない」「研究開発費は前年度比13・5%の減。中でも、昨年11月に行われた提言型政策仕分けで『存続の是非を含め抜本的に見直すべきだ』とされた『もんじゅ』を中心とする高速増殖炉サイクル研究関連予算は25・4%減となった。だが、それでも300億円が計上された」

 原子力ムラを政官業学の隅々までお金を回しながら維持していく仕組みにほとんど変化はないのです。「各国のエネルギー開発費の内訳」グラフは秀逸だったので以下に引用します。原子力に世界の中で日本だけ突出してお金が注ぎ込まれてきた様子を鮮明に描いています。これを30年、40年と続けていれば、超強力なリーダーシップ無しに方向転換など出来ません。この利権に依存して生活している人が多数、存在するからです。



 起こしてしまった原発事故の重大さから、米国のような独立した強力な規制機関が求められたはずでしたが、新設間近の原子力安全庁にはがっかりさせられそうです。「河野太郎公式ブログ ごまめの歯ぎしり」の「新原子力規制組織の謎」が痛烈です。

 「あきらかに、原子力ムラの汚物の臭いがぷんぷんする」「来年度予算の中に、すでにこの新組織の予算が入っている。504億円。この組織を設置するための法案が国会に提出されていない、つまりこの新組織の内容が決まっていないのに、予算が査定され、要求されているというのは、無茶苦茶だ」

 「新組織は三条委員会として独立させるべきだという問いに、内閣官房は、しどろもどろ」「危機管理の時には政治が統括する必要があるから、三条委員会は危機管理には向かないと、政府は説明するが、今の経産大臣の下の保安院の体制で、福島原発の事故に際して、危機管理が全くできなかったことを考えれば、大臣がいる組織でなければ危機管理ができないというのは嘘だ」

 現在、今回事故の危機管理が全く出来ずに信用が地に落ちている保安院が原子力規制組織の再編を前に、原発再稼働をめぐるストレステストの是非を評価しているのも不思議の極みです。ここでも求められるのは経済産業省よりも上の段階からのリーダーシップです。消費税増税にしか目が向かない民主党政権の指導部は自分からは何も考えていないと指摘してよいでしょう。いまや利権構造を温存したい官僚の御輿に乗っているだけです。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


電気料金値上げ、関電の否定で東電の根拠崩壊

 東京電力の電気料金値上げ(大口向けに4月から17%)が既成事実であるかのように在京メディア発で報道され始めています。しかし、電力業界のナンバー2である関西電力は、21日の朝日新聞経済面によれば「値上げは考えていない。原発再稼働に努力する」と否定しました。原発の相次ぐ運転停止、その代替えの火力発電用燃料費調達を根拠にした拙速な値上げは、同業他社が「まだ待てる」と言っている以上、根拠を失ったと評すべきです。

 《東電の電気料金「私物化」は過去まで遡り返済を》で指摘したように、東電は過去に本来認められている費用以外の多くの経費を電気料金に盛り込んできました。「発電とは無関係のものが費用計上されていると新たに判明したのは、ハード面では静岡県熱海市など各地にある保養所や社員専用の飲食施設、PR施設などの維持管理費」「ソフト面では、財形貯蓄の高金利、社内のサークル活動費、一般企業より大幅に高い自社株を買う社員への補助、健康保険料の会社負担など」あまりに常軌を逸しています。さらに、民間企業である以上、料金値上げをするなら潤沢とされる人件費の圧縮や不要資産の売却を徹底して当然です。過去の不当な利益を会社と社員に温存して値上げするなど許されません。

 時事通信の「東電値上げの悪影響懸念=GDPを0.1〜0.2%押し下げ−経財相」で「さらに景気を冷え込ませたり(産業)空洞化の背中を押すようなことにならないか、大変懸念している」との大臣談話を見ると、政府は何を考えて政策を立てているのでしょうか。GDPの0.1%減少にかかわる判断を一企業に委ねるなど論外です。巨額の国費を渡して支援するだけの現状を見直し、東電国有化を直ちに断行して、国民が納得できる資産内容まで削り経済への影響を最小限度に食い止めるべきです。そして、マスメディアは値上げの根拠を過去に遡って厳しく追及すべきですが、全く動こうとしません。何らかの癒着があると、普通の市民は考えるでしょう。


『失われた20年』見直し機運、悪くない日本未来

 英銀最大手HSBCが出した2050年の予測「The world in 2050」を見て、『失われた20年』と自ら卑下する必要はあまりないのではないか、と考えるようになりました。人口が1億人まで減りながらも世界第4位の経済規模と主要先進国で最大の1人当たりGDPを持つ予想ですから、不平を言ってはばちが当たるというものです。新年になってニューヨークタイムズにも「日本の停滞は神話(The Myth of Japan's Failure)」が掲載され、本当に「失われた10年、20年」だったのか、見直される機運です。

 2050年の世界経済規模ランキング30位まで一覧表を引用します。2050年の予想GDP、2050年の1人当たりGDP、2010年の1人当たりGDP、2050人口と並んでいます。2000年の米ドル価値で表されています。

			GDP2050 2050($)	2010($)	人口
			(10億$)1人当GDP 1人当GDP (百万)	
   1 	中国		24617	17372	 2396	1417
   2 	米国		22270	55134	36354	 404
   3 	インド 		 8165	 5060	  790	1614
   4	日本		 6429	63244	39435	 102
   5	ドイツ		 3714	52683	25083	  71
   6	英国		 3576	49412	27646	  72
   7	ブラジル	 2960	13547	 4711	 219
   8	メキシコ	 2810	21793	 6217	 129
   9	フランス	 2750	40643	23881	  68
  10	カナダ		 2287	51485	26335	  44
  11	イタリア	 2194	38445	18703	  57
  12	トルコ		 2149	22063	 5088	  97
  13	韓国		 2056	46657	16463	  44
  14	スペイン	 1954	38111	15699	  51
  15	ロシア		 1878	16174	 2934	 116
  16	インドネシア	 1502	 5215	 1178	 288
  17	オーストラリア	 1480	51523	26244	  29
  18	アルゼンチン	 1477	29001	10517	  51
  19	エジプト	 1165	 8996	 3002	 130
  20	マレーシア	 1160	29247	 5224	  40
  21	サウジアラビア	 1128	25845	 9833	  44
  22	タイ		  856	11674	 2744	  73
  23	オランダ	  798	45839	26376	  17
  24	ポーランド	  786	24547	 6563	  32
  25	イラン		  732	 7547	 2138	  97
  26	コロンビア	  725	11530	 3052	  63
  27	スイス		  711	83559	38739	   9
  28	香港		  657	76153	35203	   9
  29	ベネズエラ	  558	13268	 5438	  42
  30	南アフリカ	  529	 9308	 3710	  57

 中国が首位、インドが3位に入っていますが、14億、16億の大人口ですから1人当たりGDPはそれぞれ1万7千ドル、5千ドルに止まります。日本はインドに抜かれ4位になるものの、1人当たりGDP6万3千ドルは5万ドル前後の米独英に少し差を付けています。ブラジル・メキシコなど中南米に、トルコ・韓国・インドネシアのアジア、エジプトなどアフリカ諸国も顔を出している一方、北欧諸国が姿を消しています。中国は現在の韓国並みの1人当たりGDPに達する予測ですが、「持続不能!?中国の無謀なエネルギー消費拡大」で指摘しているように成長に使える資源には限界があります。HSBC予測も地球2個分もの資源を使うことになると認めていて、実現可能かどうかには疑問が残ります。

 一方、ニューヨークタイムズは日本のバブルが崩壊した1990年から20年間の指標を挙げて、停滞は神話だったのではないかと問題提起しています。日本人の平均寿命は4.2歳伸び、アメリカ人より4.8歳も長くなっている▼インターネットの接続速度が速い世界50都市の38は日本が占め、米国はたったの3都市▼円の価値はドルに対し87%、英ポンドに対し94%も上がった▼日本の経常収支黒字は3倍増の1960億ドルに拡大したのに、米国は990億ドルの赤字を4710億ドルまで増やした――などを例示しています。1人当たりGDPの伸びで見ると、米国には過大評価があって、実は日本に後れを取っているのではないかと考え始めています。

 日銀の白川総裁が新年の講演「デレバレッジと経済成長――先進国は日本が過去に歩んだ「長く曲がりくねった道」を辿っていくのか?――」でこれに呼応する趣旨の発言をしています。《次に「失われた20年間」の後半期であるが、この時期については、人口動態の変化、より具体的には急速な高齢化の影響が大きい。日本の実質GDP成長率は確かに低下し、他の主要国と比較しても見劣りするが、過去10年の平均でみると、人口一人当たりの実質GDP成長率は他の先進国とほぼ同程度、そして、生産年齢人口一人当たりの実質GDP成長率で比較すると、日本が最も高い》。説明するグラフを以下に引用します。



 HSBC予測も日本の人口がかなり減っていくことを前提にしながら、1人当たりGDPが伸びて経済規模を維持していくと見ています。教育の機会均等や民主的な政治体制、法治能力も経済成長に影響するとされています。経済成長を考える上で人口の動向は支配的要因ですから、増減表を一部引用します。先進国でも米英加豪は増え続け、日独伊はかなり減っていきます。中国とブラジルは途中で減少に転じますが、インド、インドネシア、サウジアラビアあたりは増え続けます。中国の人口ボーナス期は終わりかけていますが、インドはこれから人口ボーナス期に入るところです。






沈鬱な政治不信の連鎖:国民と政治家と官僚と

 立命館大の上久保誠人准教授が一昨年末に《再び敢えて問う、実は国民こそ政治家から「信頼」されていないのではないか》と唱えてから1年、小泉政権の郵政解散から始まった政治不信の連鎖は止めどなく進んでしまった観があります。与野党の政治家がいかに国民の信を失っているかは、大阪ダブル選で既成政党完敗が示してくれました。大震災・原発事故の収拾と復興をめぐる官僚の無能ぶりには呆れ果てました。そして、財政再建のみをテーマにした増税に舵を切った野田首相は、国民から増税理解を得るための切り札、公務員給与引き下げに失敗する体たらくです。

 上久保さんは「(かつての)自民党・社会党が国会で強硬策に訴えるか、妥協を模索するかを、常に世論の動向を見ながら使い分けていた」「過去の事例を勉強していれば、菅政権の国会運営の困難は、与野党間にパイプがないからではなく、国民が野党の妥協を許さないからだとすぐにわかる」と指摘しました。マスメディア政治部報道では政策の本格論議より言葉尻をとらえた失言がもてはやされてきた点や、それを受けた内閣支持率調査があまりにも感情的に動いてしまうのも短命な首相を生み続けている要因でしょう。

 ブログが隆盛を迎えた2004年からブログウオッチを続けていると、2005郵政解散による劇的な勝利の後、小泉首相が盛り上げた世論を裏切って「改革」が日本を変える期待から遠いことをあからさまにした時、ネット上での政治熱は一気に冷めました。これが今日に至る不信の原点です。そして、自民党が圧倒的に支持された正統性が失われたのに、衆院の大量議席差だけを頼りに3代の首相が立ちました。従来の政治とカネの問題より政治不信は深いところで進みました。

 変えるためには既得権益を打破するとした民主党に民意が集まっていき、2009総選挙で初めて本格的な政権交代が実現しました。福島原発事故で明るみに出た「原子力村」のように、長期政権下に出来た日本の官僚制は既得権益と結びついています。その意味で民主党の「官僚外し」は正しかったのですが、代替えするスタッフを集めずに無手勝流で、つまり裸の「政務三役」が適切なアシスト無しに各省庁を切り回すドンキホーテを演じてしまいました。無惨な判断ミスがあちこちで起きました。在京メディア政治部は相変わらず政策に疎く、政局にしか関心がありません。1年前の「『新政権を育てるのに失敗』年賀状での心配事」で描いた通りです。

 官僚を使いこなす仕組みさえ整えれば打開できるかもと思い始めていた矢先に起きた東日本大震災と福島原発事故が、優秀とされた日本の官僚には非日常事態に対処する能力が無いと証明してしまいました。また、災害からの復興という難易度が低い課題が遅れに遅れている理由は、財務省官僚が所得増税が決まるまで復興財源を認めなかったからです。そして今、消費税増税では財政再建が語られるだけです。

 自民党の河野太郎議員が「消費税の引き上げについて」で「消費税を引き上げるならば、基礎年金の財源に充てるべきだ」「買い物をするたびに必ず消費税を支払うので、未納や免除は生じないので、全ての日本人が65歳になれば満額の基礎年金を受け取ることができるようになる。高齢者の生活保護も廃止できる」「専業主婦も消費税を負担するため、三号被保険者問題も解決する」と主張するような、年金制度を憂う人に響く問題意識は聞こえてきません。

 参院で野党が問責決議案を可決してしまったから閣僚を呼べないので衆院でも審議が出来ないなど、あまりに愚かしくて話になりません。これだけ誰も彼もが不信感を抱いているのですから、国会のオープンな議論の中で問題点を明らかにし、知恵を結集して国民の理解と信頼を回復するしか道はありません。この状態で総選挙に突入すれば、国民には選ぶ選択肢が無いと映るでしょう。旧政権与党の自公両党が野に下って何もしていないのに、再び自分の所にお鉢が回ってくるかのごとく構えている感じがする点に、大きな違和感を持っています。


再発必至、中国高速鉄道事故の無意味な政府調査結果

 年の瀬になってもう出ないかと思っていた中国高速鉄道事故の中国政府による調査結果が公表されましたが、これほど役に立たない事故調査報告も珍しいと思います。毎日新聞の「中国:前鉄道相ら54人処分…高速鉄道事故」は「列車制御システムの設計上の重大な欠陥と応急措置の不備など人為ミスによる事故だった」と伝えています。額面通りに受け取れば中国高速鉄道網は即刻、運行を停止して列車制御システムを一新しなければなりません。関係者の処分など二の次のはずです。

 「制御システムは鉄道省と関係が深い国有企業が請け負ったが、設計段階から開発管理が混乱し、システムに重大な設計上の欠陥と安全上のリスクが生じた。だが、鉄道省の入札審査や技術審査が甘く、欠陥が修正されないまま導入された」「落雷で欠陥のあるシステムに障害が起き、誤って後続列車に進行を許す青信号が発信されたことが主因と断定。運行を管理する上海鉄路局作業員の安全意識も低く、障害への対応の不備で事故を防ぐことができなかった」

 列車追突により死者40人の事故を起こしたのですから、再発を防ぐことが第一義であり、責任追及はその次です。ところが、事故前に汚職疑惑で解任されていた前鉄道相に罪をかぶせることが前面に出てしまっています。高速鉄道では高速すぎて人間の注意力では安全を保証できないから、通常の信号だけでなく列車同士の接近を許さない高度な列車運行制御システムも備えている意味を本当に理解しているのか疑わしくなります。

 「核心は信号の青・赤ではない:中国高速鉄道事故」で時事通信報道を引用して「CTCSと名付けられている列車運行制御システムには、中心的技術として日本の川崎重工業のものが導入されているほか、仏独など欧州各国の技術も使われている。しかし『中核のプログラムは解析すらできていない』と関係者が認めるように、つぎはぎ状態で、業界内では以前から信頼性を疑問視する声があった」と指摘しています。中核プログラムがブラックボックスでも想定問答の範囲内では入力内容と出力内容が相応しいているから使えているだけで、恐ろしいことに想定外の入力があったときにシステムがどう返答するのか、「それは運任せだ」と言っているのと同じなのです。

 制御システムがこのような悲惨な状況にあるのに、導入責任者の罪を問うたとて始まりません。急ぐべきは工学的常識の範囲に収まる検証済みのシステムを構築することです。それでなければ大量公共輸送機関とは言えません。このまま運行を続ければ必ず悲惨な事故が再発します。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国高速鉄道」関連エントリー


厚生年金積立金の枯渇まで10年ほどに見える

 12月に公表されたばかりの《平成22年度厚生年金保険・国民年金事業の概況》は、厚生年金積立金が22年度末まで4年間で25兆円も減って114兆円しかないと報告しています。23年度予算では8.4兆円を取り崩すことになっており、受給者の増加で年々増える一方です。来年度予算ではさらに消費税増税を先食いした年金交付国債分2.9兆円の取り崩しが加わります。運用での損失も膨大で、現状の無為無策で行けば積立金枯渇まで10年ほどに見えます。



 上のグラフは積立金の推移に運用利回りの利率を書き込んだものです。「運用利回りは、平成18年度3.10%、平成19年度△3.54%、平成20年度△6.83%、平成21年度7.54%、平成22年度△0.26%」とリーマンショックの激動が入って乱高下しています。この5年間で保険の実質収支は計19兆円の赤字でしたから、25兆円の積立金目減りの内、6兆円は運用損だったわけです。

 さらに年金積立金管理運用独立行政法人の「最新の運用状況ハイライト」によれば、東日本大震災で打撃を受けた今年の運用は悲惨です。第2四半期だけで3.7兆円のマイナスになっています。今年度末で100兆円を割り込んでいる恐れが大になっています。欧米の経済不安が続く来年も順調ではないでしょう。

 政府は「試算」の形で厚生年金積立金の枯渇が考えられるケースを示しています。デフレが続き、経済成長率もマイナスで名目賃金の上昇率もマイナスで行けば2031年度に枯渇するという、あり得ない例を提示していますが、目の前で起きている積立金の目減りは見通せていません。ほんの2年前に行われた「平成21年財政検証結果」は140兆円台の積立金が続くとしていました。あまりにも杜撰だったと言うべきでしょう。自公政権下の「100年安心プラン」など夢のまた夢でした。

 【参照】インターネットで読み解く!「年金」関連エントリー


東電の電気料金「私物化」は過去まで遡り返済を

 東京新聞が伝えた《東電、電気料金に上乗せ 保養所維持管理費 高利子の財形貯蓄》は、東電による電気料金「私物化」が極度に進んでいたことを示しています。記事のトーンは、経産省の有識者会議はこれからは認めない――ですが、国民に有無を言わせず払わせる公共料金をここまで私物化していた以上、過去に遡って相当額を東電と社員に返済させるべきです。

 総括原価方式で発電に必要な費用を積み上げ、それに電力会社の利益を加えて電気料金として集めてきました。「発電とは無関係のものが費用計上されていると新たに判明したのは、ハード面では静岡県熱海市など各地にある保養所や社員専用の飲食施設、PR施設などの維持管理費」「ソフト面では、財形貯蓄の高金利、社内のサークル活動費、一般企業より大幅に高い自社株を買う社員への補助、健康保険料の会社負担など」です。

 リストから社員個人に渡った部分を拾うと、「健康保険料の70%負担」とは通常は50%会社負担ですから、社員負担50%の4割に相当する20%分を電気料金に転嫁していたことになります。社員の自社株式購入奨励金(代金の10%)、年3.5%の財形貯蓄利子、年8.5%のリフレッシュ財形貯蓄の利子なども電気料金の信じがたい「私物化」です。

 こうした部分は過去に遡ってきちんと計算が可能です。社員専用の飲食施設や接待用飲食施設、サークル活動費なども電気料金に別枠計上できる「利益」から出すべきであり、東電が会社として不当に得た金です。9月にも朝日新聞が、過去10年間で東電が費用を6000億円も高く見積もっていたと報道しましたが、その際には今回ほど中身が報じられませんでした。判明した悪質ぶりは電気料金を支払った消費者には到底、納得できない内容です。国が見過ごすなら、東京電力管内の消費者は集団で不当料金の返還訴訟を起こしうるでしょう。


底は打った貿易収支、残る余裕を再建に生かせ

 年の瀬が近づいて来年はどうなるのか、東日本大震災の痛手が心配でしたが、今年の貿易・サービス収支は小さな赤字転落に止まり、来年は頑張って持ち直す見込みが語られています。資本の移動を見る所得収支は国際的に債権国としての基盤が出来て堅調です。経常収支の赤字を心配する必要は、今しばらくはありません。この余裕を経済・社会システムの再建に生かしたいものです。

 10月までの貿易収支速報値が出たのでグラフにしました。2008年のリーマン・ショックによる落ち込みから回復した直後に、東日本大震災で大打撃を受け、それでも既に底は打った状態にあることが読みとれます。



 日本貿易会の「2012年度わが国貿易収支、経常収支の見通しについて」は2011年について「貿易収支は、輸出の減少と輸入の増加により大幅に減少し、かろうじて9,420億円の黒字にとどまる。サービス収支は、旅行収支などの悪化を受けて1兆7,280億円と赤字幅が拡大。この結果、貿易・サービス収支は3 年ぶりに7,860億円の赤字に転じる。一方、所得収支は、円高や金利低下にもかかわらず、順調に伸びて黒字は14兆2,020億円に達する」としたうえで、2012年は「経常収支は、貿易・サービス収支が再び黒字に転じ、所得収支も前年度並みの黒字となることから、16兆1,940億円とほぼ2010年度の水準に復帰する」と見込んでいます。

 「溜池通信 vol.482」が1996年から経常収支の動きをまとめているので、グラフを引用します。



 2000年までの貿易収支で稼ぐ日本の姿が変貌したことが一望できます。やがて海外投資の果実を得られるようになり、2008年以降は所得収支の黒字が主役になっています。円高騒ぎは製品輸出面では不利ですが、海外企業買収などの資本投資には有利なのです。もっと長期を展望すれば経常収支の赤字がありうると指摘されはじめ、そうなれば国債の国内消化が危ぶまれるようにもなります。しかし、まだ時間はあります。「欧米の経済不安深刻化は愚かな日本を相対化」してくれていたのですが、来年は本格的な再建への議論をしなければなりません。


京都議定書延長で良い子ぶる余裕は存在しない

 地球温暖化対策を話し合う国連の会議COP17は9日、最終日を迎えて、先進国だけに温室効果ガス削減を義務づけた京都議定書を継続させ、新たな枠組みを作ることを目指すなどの合意が模索されています。はっきり言って、日本には京都議定書延長で良い子ぶる余裕は存在しなくなっています。もともとの枠組みに異常とも言える日本への不公平が存在している上に、東日本大震災と福島原発事故の収拾・復興へ膨大なエネルギーを投じるよう迫られている現在、冷ややかに一歩引いて対処するべきです。

 2005年、京都議定書発効の際に書いた「京都議定書、本当の問題点を言おう」が今でも議論として有効です。ニューヨークタイムズがウェブに掲示している「KYOTOグラフ」を見ていただきましょう。米国と中国の圧倒的な排出量が明らかです。

 当時こう指摘しました。「グラフの主題は各国別の温暖化ガス排出量(2002年あるいは2000年段階)である。1990年のレベルも添えられていて、先進国側にだけ、これに対して数%の国別削減目標がある。先進国、途上国を色分けした批准国地図も添えてある。排出が多い順位に米、中、ロ、印、日、独、ブラジル、加、英、伊が10カ国。『この10カ国の中で温暖化ガス排出削減に血の滲む努力をしなければならないのは日本だけ』と言われたら、京都議定書に対する見方が一変してしまうのではないか」

 この全体像は今でも変わりません。そして、米国と中国が温暖化対策に消極的な姿勢にも変わりはなく、新しい枠組み作りに対しても熱心どころか引いてしまっています。


「もんじゅ」と再処理工場の廃止に踏み出そう

 細野原発相が26日、高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉を含め検討と表明し、衆院決算行政監視委員会が中止を含む抜本的見直しを求める方向と伝えられるなど、もんじゅ廃止への包囲網が出来上がりつつあります。しかし、それだけでは片手落ちです。六ケ所再処理工場と巨額な無駄コンビで出来ている核燃料サイクルの『重し』を取り除き、原子力政策の転換を確かなものにしなければなりません。

 新聞の「もんじゅ廃止」社説は「脱原発」の朝日新聞が「もんじゅ―開発はあきらめる時だ」を7月に、11月に入って東京新聞、琉球日報、さらに西日本新聞、信濃毎日新聞と有力地方紙が続いています。西日本新聞の《もんじゅ 廃止が素直な結論だろう》は「もんじゅに対する風当たりが強い。長い時間と巨額の費用をかけているのに成果が乏しい。東京電力福島第1原子力発電所の事故によって国の原子力政策が見直される中、無駄遣いの象徴になった」「もんじゅ計画がなくなれば核燃料サイクルは崩れる。すると、原発の使用済み核燃料はどうするのかなど、これまでの政策のひずみや矛盾が表面化してくる」「すべてを見直すしかない。国には無駄な事業を続ける余裕はないのだから」と当然の主張しています。会計検査院の調べで、もんじゅ経費は1兆810億円と割り出されましたが、これまで発電は全くしていません。

 当初予定の3倍にもなる建設費2兆円余りを投じて、まだ完成しない核燃料再処理工場も無駄の親玉です。「2年延期でも完成は無理?六ケ所再処理工場」で焦点になっている最終工程の大幅改修について「プラントの現場は既に高レベル放射性廃液で汚染され、人間が立ち入れない『死の空間』になってしまいました。大幅改修を遠隔操作でしなければなりません。これまでの試運転でのドタバタぶりを見れば、改修が成功し、安定した運転が続けられる可能性は低い」と指摘したように、13年遅れた計画を15年遅れに延ばしても完成の保証はありません。

 もんじゅと再処理工場の決定的遅れで、核燃料サイクル政策は早くから見直さざるを得ない状態だったのに、厄介な問題が発生するからと見送ってきました。既に保有している大量のプルトニウムをどう扱うかと、使用済み核燃料を再処理しないならどう処分するか――です。とりわけ前者は国際的な問題があって厄介です。来年夏までに政府のエネルギー・環境会議が原子力政策の全体像を決めることになっていますが、こちらの具体策検討を急がないと、判断しようにも出来ない状況に陥ります。民主党政権に官僚に指示して段取りをつける能力があるのか心配です。


『この国は病んでいる』〜回復を疑う愚鈍な日本

 福島原発事故で「原発から飛び散った放射性物質は東電の所有物ではない。したがって東電は除染に責任をもたない」とする東京電力の主張を伝えた、朝日新聞の連載記事「プロメテウスの罠『無主物の責任』」が話題になっています。主張の答弁書は除染を求める福島県のゴルフ場の裁判に出されたもので、東京地裁は10月末に東電の主張をそっくりは認めぬものの、ゴルフ場の訴えを退けました。本来ならストレートニュースとして真っ正面から怒るべき東電と裁判所のやり方を、連載企画の素材としてさらりと扱うだけ。この惨憺たる構図に、深く傷ついた日本が本当に回復できるのかと疑わせる典型例を見ます。

 まず裁判所の考え方を見ておきます。「除染の方法や廃棄物の処理の具体的なあり方が確立していない現状で除染を命じると、国等の施策、法の規定、趣旨等に抵触するおそれがある」。原発訴訟で行政の裁量に委ねるとして、ほとんど実質的判断をしなかった司法の過去を今も引きずっているのです。朝日新聞は「待っていれば民間企業は倒産してしまう」と裁判所の手ぬるさに非を鳴らすのですが、驚いたことに東電の主張には何の評論もありません。無主物の理屈が通るなら、水俣病を引き起こした有機水銀もチッソの工場から遠く流れ出た無主物で賠償の必要は無かったのです。東電主張の愚かさはこの例だけで明白であり、もっと言えば重大な反社会性を指摘すべきなのです。

 東日本大震災そのものの本格復興策の遅れには民主党政権の手際の悪さに加え、国会が党利党略に走って急ぐべき審議を怠り、どうでもよい揚げ足取りに奔走している点が効いています。司法、立法、行政の三権がこの体たらくぶり。権力へのチェック機能を期待されるマスメディアは依然として「大本営発表」報道から脱せません。社会システムの機能不全には呆れるばかりです。「説明責任を果たさない政府・東電・メディア」を参照してください。

 「レコード芸術」11月号で音楽評論家吉田秀和さんの『之を楽しむ者に如かず』を読み、文化勲章受章者のこの人にして音楽が聴けなくなるほど社会認識のありようが変わったのかと、深く共感するところがありました。吉田さんには若い頃、『私の文章修業』(朝日選書)で感銘を受けたことがあります。その『之を楽しむ者に如かず』冒頭部を引用します。

 「3.11が起きてから、音楽をじっくりきいているのが、とてもむずかしくなった。心を鞭打ってCDをかけたり、近来とみに弱くなった身体を無理矢理動かした音楽会に出かけたりしないわけではないのだが、たとえそうしていても、気がつくと、いつの間にか心は音楽から逸れて、別のことを考えている。そうなると、もう一度音楽に戻るのがひどくむずかしいのに気づくばかりだ」
「熱心に私に執筆をすすめてくれる編集者、また彼の言うことを信じてよければ、私の書くものを楽しみにしておられる読者の皆さんが待っておられるのだと思うと、一層気が気でなくなるのだが、心は重く、筆は進まない。この国は重く深く大きな傷を抱えている。この国は病んでいる。それは時がたてば治るだろうと、簡単にいえないような性質のものように、私には、思える」

 吉田さんの『この国は病んでいる』認識を私なりに上に書きました。さらに見える形としては、福島第一原発の事故現場がきれいに撤去されるまで吉田さんも私も生きていないでしょう。いや、撤去できず、永遠に管理するべき『汚点』施設として残る可能性が高まっています。優秀な官僚が政府を支えているから政治家がぼんくらでも何とか国家を運営していけるという平時の幻想も、緊急事態の到来で見事にうち砕かれました。そして、最も深刻なのは、社会システムのあちこちのパーツが再建しなければ使えないほど傷んでいるのに、パーツの当事者が再建の必要性を感じないほど愚鈍になっている点です。例えば「原発震災報道でマスメディア側の検証は拙劣」のお粗末さをご覧ください。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


抗議の民衆に狙撃映像、エジプト軍部は一線越す

 ムバラク独裁政権を退陣に追い込んだエジプトで、軍部の横暴に抗議して再び民衆が立ち上がりました。既に30人を超える死者が伝えられ、CNNは治安部隊が威嚇用に空に向かって発砲するのではなく、明確に水平方向に標的を狙って射撃する映像を流しています。エジプト軍部が守るべき一線をあっさりと越えてしまったので、民政移管の流れを加速せざるを得ないでしょう。

 アルジャジーラのライブ・ブログにあるビデオ「Tahrir:November 19-22」の後半には、死亡した人の遺体を安置した映像がいくつも出ており、頭や胸に撃たれた傷口が見られます。

 しかし、民政移管は単純には進みそうにありません。イサーム・シャラフ内閣が総辞職し、軍最高評議会のタンタウィ議長が大統領選を前倒しや軍の役割を問う国民投票を実施する意向を示しても、ウォールストリートジャーナルの《エジプト軍政、大統領選前倒しを表明―デモ隊は不信感示す》は「首都カイロのタハリール広場に集まっている数万人に上るデモ隊は、この演説に対してすかさず冷笑を浴びせ不信をあらわにした。タンタウィ氏が示した誓約を、ムバラク前大統領が追放前に行ったものと同じだとする人もいた」と報じています。

 やはり問題は、2月の「エジプト人は軍部=性善説。未来は大丈夫か」で心配したように、国民を代表できる民主的な政治勢力が育っていない点です。28日に予定される総選挙で議会最大勢力になりそうなムスリム同胞団は選挙実施を優先して、大衆の抗議行動から引き揚げてしまいました。タハリール広場の映像を見ていると若い人たちが主導する草の根抗議行動で、軍部としても交渉相手を見つけるのに困っているのではないでしょうか。軍部とイスラム勢力のムスリム同胞団で仮に合意しても、タハリール広場に集る大衆には無縁です。


混迷続く企業疑惑で「闇株新聞」は貴重情報源

 大王製紙の井川意高前会長(47)が特別背任容疑で22日に逮捕され、100億円を超える金をカジノで使ったと認める声明を出しました。一方、1000億円を超える巨額損失隠しのオリンパスには、海外メディアから暴力団など闇経済への資金流出の疑いが指摘されています。オリンパス事件の立ち上がりで後れをとった国内マスメディアは相変わらず精彩を欠いています。ネットではウェブ「闇株新聞」がオリンパス事件当初から、裏事情に通じた貴重な情報源として高く評価されています。

 例えば「大王製紙・巨額の金が吸い込まれた闇  その2」は、カジノで金を巻き上げる手口を詳細に描いています。井川前会長は「最初に儲けて深みにはまった」と述べていますが、カジノ側が勝敗の行方まですべて分かって仕組んでいるのですから、文字通り赤子の手をひねるようなものです。

 「オリンパス『新たな闇』の始まり?  その2」は、国内では証券取引等監視委員会の開示検査課が担当し、悪質な案件を裁く特別調査課担当ではない点で上場廃止はないと見抜きます。そして東京地検特捜部は事前に立てた見立ての外に出るのを嫌い、世論を納得させるべくスケープゴートを何人か立てればよいとするから、「なんとなく『捜査当局』の落とし所が見えてきています。件(くだん)の『闇経済{云々(うんぬん)』については、仮に証拠が出てきているにしても『無視』の公算が強いのです」と指摘しています。


中国高速鉄道事故、システム本質欠陥を発見できずか

 7月に死者40人の追突事故を起こした中国高速鉄道事故の原因が「信号システムに問題」から「管理体制の不備」に覆ったとの報道が、中国メディアで相次いでいます。「日頃から設備の手入れをきちんと行っていれば、故障には至らなかった」とは不思議の極みです。高速すぎて人間の注意力では安全を保証できないから、通常の信号だけでなく列車同士の接近を許さない列車運行制御システムも備えています。日本などから導入、継ぎ接ぎしたシステムの本質的な欠陥を発見できなかったから、苦し紛れに人為的ミスに持ち込んだと見るべきでしょう。

 レコードチャイナの《<高速鉄道脱線事故>主因は「人と管理の問題」、従来の「信号設備の欠陥」説を覆す―中国》は事故調査専門家グループの王夢恕(ワン・モンシュー)副リーダーが「調査の結果、信号設備には何の問題もなかったと言って良い。最大の原因は人と管理の問題だった」「同じ設備は別の区間でも使っているが、故障など起こしていない。全体的な管理体制と心構えに問題があった」と述べたとしています。

 事故発生後に車両残骸や通信データなどを差し押さえ、現場近くの路線で再現実験までしているそうです。9月末には報告書を国務院に提出済みといい、後は政府の意見表明を待つ段取りです。「今後は責任の所在を明らかにするため、管理体制や事故当時の担当者に対する調査が行われる」そうです。

 7月の「核心は信号の青・赤ではない:中国高速鉄道事故」で「CTCSと名付けられている列車運行制御システムには、中心的技術として日本の川崎重工業のものが導入されているほか、仏独など欧州各国の技術も使われている。しかし『中核のプログラムは解析すらできていない』と関係者が認めるように、つぎはぎ状態で、業界内では以前から信頼性を疑問視する声があった」との報道を紹介しました。

 こうした状況では政府の専門家チームであっても欠陥の特定は難しいでしょう。当日は7分間に100回以上の記録的な落雷だったといい、通常状態で試験して異常を再現しない方が当たり前です。システムの本質的欠陥を発見できていない以上、惨事の繰り返しを防ぐことは出来ないと覚悟すべきです。


中国の富裕家庭1%ながら英独仏を数で超える

 住宅を除く可処分資産が10万ドル(約767万円)を超えるという基準で富裕家庭を定義すると《中国の富裕家庭の数、ドイツ・英国・フランスを超える―英メディア》とレコードチャイナが流しています。中国は約300万戸で「英国が約290万世帯、ドイツが約250万世帯、フランスが約270万世帯だった」からです。ただし、国全体から見ると原調査資料「BIGGEST EVER STUDY OF GLOBAL AFFLUENCE SHOWS 80% OF WORLD’S WEALTHY ARE STILL IN THE WEST」(tns)は「インドや中国では富裕家庭は1%ほどでしかない」と指摘、両国とも大富豪や富裕家庭数を増やしているが全体が富んでいるわけではないとしています。

 この富裕基準では米国は3100万戸、国内の27%にも達します。原調査の対象は24カ国・地域でしかなく、日本は含まれません。でもまだ8割の富は西側にあるというのです。

 日本の統計でこれに近い数字は金融資産でしょうか。《金融資産500万円を持っていれば、ちょうど真ん中》(Business Media 誠)は「金融資産の平均は1259万円だったが、実は全世帯の約7割が平均値よりも保有額が少なくなっている」「平均値の欠点を補うため金融広報中央委員会は、中央値を用いることで一般的な家計像を調べている。中央値とは金融資産の保有額の少ない順(または多い順)に並べると、真ん中に位置する世帯の金額だ」「今回の調査で中央値500万円を保有していれば、ちょうど半分の世帯が自分の貯蓄額よりも多く、残り半分の世帯が自分の貯蓄額より少ない」と「家計の金融行動に関する世論調査」を伝えています。

 1500兆円を超える金融資産を持つ日本ですから、中印にこの基準ではまだ負けないようです。欧州諸国は一国の規模がそれほど大きくないので、数では追い越されてしまう結果になりました。中印に抜かれるGDP問題については以下をご参照ください。

 【参照】「中国に続きインドにも抜かれるGDP推移グラフ」
    第182回「日本抜く中国GDP、矛盾する数字と未来」


中国高速鉄道は欠陥を知りながら開業していた

 朝日新聞が《中国高速鉄道、開業前に不具合把握 追突防ぐ装置》で開業1カ月前に「上海で開かれた会議で各地の鉄道局や車両メーカーの幹部らに安全上の問題点や対策について説明する中で、列車の追突を防ぐ自動列車保護装置(ATP)など、安全の根幹にかかわる装置に不具合があったことを報告した」と伝えました。「ハードもソフトも安全装置総崩れ中国高速鉄道」でも指摘していた欠陥を事前に知っていたのに、共産党創設90周年に合わせて無理矢理開業していたのです。

 ネットに出ない新聞紙面から問題の要点を拾うと、「車軸やディスクブレーキが安全基準未達成」「自動列車保護装置(ATP)が過熱により焼損」「緊急ブレーキの不具合」「車両検査員1830人のうち900人が現場経験が全くない新人」「1カ月前で試運転が出来ていたのは86編成中で完成していた39編成の一部だけ」と恐ろしい惨状です。日本国内の常識なら大幅開業延期でしょう。

 こうした欠陥を見るにつけ、7月の事故現場で追突した先頭車両を重機でぺしゃんこに潰し穴に埋めたのは、あまりな暴挙だったと思えます。上記のような項目が今度の追突事故に関係したのかを知るためにも、無傷状態での検証は是非モノだったはずです。あれだけ壊して元の状態を知り得たとは考えにくいのです。物証無しには責任を追及される側は納得しませんから、事故原因調査に時間が掛かっているのは当たり前です。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国高速鉄道」関連エントリー


低線量地域除染に支援ゼロで政府は東電を免責

 30日の緊急時避難準備区域解除を前に政府が示した除染方針は住民の帰還を阻むものです。年間線量5ミリシーベルト以上の地域は国が除染すると言う一方、5ミリシーベルト以下の地域の除染には財政支援がゼロと判明しました。自治体や住民が勝手におやりなさい――と切り捨てるのは間違っています。年間1ミリシーベルトは法律で決まっている線量限度であり、住民には住居や周辺をそれに近づけるよう求める権利があります。お金が掛かりすぎると言うのなら、費用は福島原発事故の原因を作った東電に請求すべきです。政府の方針は被害にあった住民の要求をブロックし、東電を免責する役割を果たしています。

 毎日新聞の《放射性物質:除染の線引き 説明会で反発の声相次ぐ 福島》はこう報じました。「国は市町村に対し、年間1〜20ミリシーベルトの地域について除染計画を策定するよう求めている。環境省はこのうち5〜20ミリシーベルトの地域について、家屋洗浄、表土除去、道路の路面洗浄などの『面的な除染』を国が支援する」「県内の大半を占める1〜5ミリシーベルト未満の地域については、国の支援は側溝や雨どいなどの洗浄に限り、その他は市町村の負担としている」「除染に関する国の市町村への支援枠は約1800億円。同省はこの日の説明会で『限られた予算の中で優先順位を決めた』と理解を求めた」

 緊急時避難準備区域解除の話が出始めたころから「避難民を帰すのに国は本格除染を実施しない気か」と疑っていました。年間線量5ミリシーベルト以上とは現行法で放射線管理区域を指定する基準とほぼ同じです。さすがにここまでは守るのですが、一般住民、特に子どもや妊婦がいる住民は5ミリシーベルト以下で安心して住めるはずがありません。除染にはお金がかかります。除染した土壌を長期間保管する施設、例えば厚いコンクリートの壁の内側にドラム缶で保管するとしたら、施設建設だけでも相当な費用になりますが、それを用意しないと地域で広範囲の除染は出来ないのが現実です。

 NHKニュースの《除染 低線量地域は財政支援せず》は、自治体から「一部分だけの除染では住民が安心して暮らせない。財政的な裏付けがないと地域全体の除染を進めることができない」など反発の声が相次いだと伝える一方、「政府の福島除染推進チームの森谷賢チーム長は『国の基本的な考え方はこれまでも示してきたつもりだったが、きょうの反応を聞いて、もっときめ細かく説明しておけばよかったと思っている。今後、さまざまな事態が起こることが考えられるが、国として柔軟に対応していきたい』と話していました」としています。

 この程度の手直しでは済むはずがありません。住民の大半が避難している自治体に財政的な余力があろうはずがありません。福島市や郡山市など都市部の住民にも元の環境に近づけるよう求める権利があります。惨状を起こした原因者は東電ですから、復旧費用負担も当然ながら東電――との図式で除染政策を根本から組み直すべきです。

 【10/2続報】NHKニュース「5ミリシーベルト未満でも対応」はこう伝えました。「佐藤知事は会談で『多くの県民が被害者である自分たちがなぜ除染をみずからやらねばならないのかと思っている。本来は、国、あるいは事業者が一軒一軒回ってやるべきという意識を政府でしっかり共有してもらわねばならない』と述べました。そのうえで、市町村の判断で、年間の被ばく線量が1ミリシーベルトから5ミリシーベルトの地域で行う面的な除染についても、国が財政措置を講じるよう求めました。これに対し、細野大臣は『除染は国の責任でやるべきことで、対象地域としては1から5ミリシーベルトも含んでいる。自治体から、こういう形でやりたいと示されれば財政措置や技術措置を講じることを約束したい』と述べ、5ミリシーベルト未満のところで地域一帯で行われる除染を含め、最大限、財政措置をしたいという考えを明らかにしました」。当たり前のことをようやく認めましたが、実際にどう実行するのか、注意深く監視しましょう。


中国地下鉄の追突事故、高速鉄道事故と同根?

 270人以上の負傷者を出した上海市の市営地下鉄事故について、7月の高速鉄道事故と同根の恐れがあるようです。サーチナ・上海共同の《高速鉄道と同様の信号系統、上海の地下鉄で追突事故》が「地下鉄を運行している企業の社長は記者会見で、事故のあった地下鉄が死者40人を出した7月の浙江省温州市での高速鉄道追突事故発生区間と同様の信号系統を採用と明らかにした」と伝えました。

 同じ追突事故とは言え、比べるのをためらっていました。高速鉄道と地下鉄では区間の長さが違うものの、一定の区間には1編成の列車しか入れないように制御されていれば追突は起こり得ません。FNNニュースの《中国・上海中心部を走る地下鉄で追突事故 日本人2人を含む約270人が重軽傷》は「中国中央テレビは『専門家は信号システムの故障が原因と指摘しています』と報じた。現地メディアは、信号システムが故障し、手動に切り替えたところ、事故が起こったと報じている」としています。「また、この路線では、最近、信号システムが故障し、分岐点で列車が目的地と違う方向に向かってしまう事故などが起きている」

 トラブルが起きたときに完全に止めてしまっていれば、中途半端な状況に移行したりしないはずですが、中国の鉄道管理者は止めたがらないようです。「ハードもソフトも安全装置総崩れ中国高速鉄道」で指摘したように、システムも不完全なら、それを扱う人間系の訓練もいい加減なところで妥協しているとみます。高速鉄道事故の調査報告も9月半ばに出ると言われていたのに、まだ検討中とされています。中国のネット上で批判の声が高まっています。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国高速鉄道」関連エントリー


中国に続きインドにも抜かれるGDP推移グラフ

 日経新聞の《インドGDP、購買力平価で日本抜き3位へ 現地紙報道》が「インド経済紙最大手エコノミック・タイムズは20日付の一面トップで、2011年のインドのGDP(国内総生産)が購買力平価(PPP)ベースで、日本を抜いて世界3位になる見通しだと報じた。同紙によると、10年のインドのGDPはPPPベースで4兆600億ドルで、米国、中国、日本(4兆3100億ドル)に次ぐ4位」と伝えました。「世界経済のネタ帳」を利用して、インドと日中米のGDP推移グラフを作ってみました。





 中国に抜かれたのは名目GDPでの話で、今回、インドに抜かれるのは購買力平価ベースです。「購買力平価は『為替レートは自国通貨と外国通貨の購買力の比率によって決まる』という購買力平価説を元に算出された交換比率。各国の物価の違いを修正して比較できるため、より実質的な評価・比較ができると言われている」。名目GDPでの差はグラフの通り、まだ大きく、2010年、インドの1人当たり名目GDPは1264ドルにすぎません。

 大人口国が高い成長を続ける限り、日本が追い越されるのは自然の成り行きでしょう。やはり日経の《2050年の世界GDP、アジアが52%に拡大も ADB報告書》には「アジア開発銀行(ADB)は2日、2050年までのアジア経済を展望する報告書を発表した。中国やインドが順調に成長を続けた場合、世界総生産(GDP)に占めるアジアの割合は現在の27%から52%まで拡大する。中国の割合は20%、インドは16%に達する。日本は現在の約9%から3%程度に低下するが、旺盛なアジアの需要を取り込み、1人あたりGDPは3万ドルから8万ドルに増えると予測している」ともあります。結果として悪い話ではないというのですが、この手の成長予測は資源が無尽蔵に使えると考えるので要注意です。

 【参照】インターネットで読み解く!「インド」関連エントリー
 第182回「日本抜く中国GDP、矛盾する数字と未来」


欧米の経済不安深刻化は愚かな日本を相対化

 大震災と福島原発事故の処理で四苦八苦している日本に、欧米発の経済不安が深刻な影を落として東京株式市場で株価は6日、年初来安値を更新しました。《外為・株式:欧州株が急落 ギリシャ国債利回り急上昇》(毎日新聞)は「5日の欧州株式市場は、域内の信用不安が拡大するとの警戒感が広がり、全面安の展開となった。ドイツやフランスの主要株式市場は一時、前週末比5%超も急落した。ドイツ銀行の首脳が『ユーロの財政危機は弱い銀行を破綻させる』との考えを示したことから、欧州の銀行への不安が拡大。主要銀行の株価は2年半ぶりの水準まで売り込まれた」と伝えました。愚図をやっている日本を、傍目で見ていた欧米が笑えない惨状です。

 「財政赤字問題を抱え、欧州連合(EU)などから金融支援を受けているギリシャ国債が5日、欧州市場で売り込まれ、価格が急落(利回りは急上昇)した。指標となる10年物国債の利回りは一時、前週末終値より1・7%高い19・51%をつけ、ユーロ導入以来初めて19%台に乗せた」「ギリシャのベニゼロス財務相が、国内総生産(GDP)比の財政赤字を目標の7・6%に減らすことは困難と語り、ギリシャ再建の先行きに不透明感が高まったことがきっかけ。ギリシャの2年物国債の利回りは9%以上高い55%台を推移」とも報じました。

 10年国債利率が2割に迫り、2年物国債利率55%とは冗談としか言いようがない世界です。サラ金どころか闇金融もいいところですが、国債への投資なのに元本が返ってくるのか判らない実態なのですから当たり前かも知れません。リスクヘッジの業を考えている投機家しか手を出さない「極限」の世界でしょう。下図のようにアイルランドやポルトガルの利率上昇も尋常ではありません。



 この問題に関心がある方は小川英治・一橋大教授(国際金融)の《ユーロ安定へ「離脱ルール」》を参照されることをお勧めします(日経新聞の経済教室に8月末、掲載されたもので、上のグラフを引用)。ユーロ圏諸国とIMFの金融支援のほかに民間金融機関も債務削減に応じ「11年から20年にかけて満期を迎えるギリシャ国債(1350億ユーロ相当額)の債務リストラが実施される。現行の7.5年物国債を15年物国債および30年物国債へ交換することによるモラトリアム(償還期限の延長)と、国債交換の際の20%のヘアカット(債務元本の削減)が柱だ。同時に、ユーロ圏諸国61.43%の価格で買い上げるという債務削減も実施される」と関係国と機関は身を切ることになっています。

 しかし、ユーロから離脱するルールが無い現状では、危機国が愚図愚図しても手の施しようがありません。統一通貨でなければ経済の実力に応じた為替レートの調整が出来たのに、現状では健全国が危機国を支援するしかありません。「ドイツのように健全財政にある国々の納税者は、自らの税金を使って、財政規律のない危機国を支援することには慎重である。そのため、11年末までに予定している欧州金融安定基金(EFSF)の拡充に必要とされる、ユーロ圏各国による批准が円滑に進むかどうかも懸念材料である」。さらに進めて、健全な離脱ルールを作るのも容易でありません。円高の要因にもなっているのだから困ったものです。

 世界各国金融機関のギリシャ国債保有高は4月段階でドイツが263億ドル、フランスが198億ドル、イギリス32億ドル、イタリア26億ドル、アメリカ18億ドルとされています。独仏には相当な出血になり、《幸福度:財政危機あろうとも…ギリシャ人8割「幸せ」−−欧州の世論調査》(毎日新聞)のような調査結果を腹立たしく見ているはずです。「『私の人生は幸せだ』と答えた人の割合は、福祉国家デンマークが96%で1位だったが、2位はギリシャ(80%)」「逆に欧州一の経済大国ドイツは61%と下から3番目。生活水準の高さとは逆に『悲観的』な姿が浮き彫り」だそうです。


野田新代表、何もせぬ民主党政権で終わる瀬戸際

 政権交代2年で3人目の新代表、新首相として野田佳彦財務相が選出されました。野田氏は政権運営とは雪の玉を坂道で押し上げ雪が付着していく重みに耐えるモノなのに、現状は雪の玉が坂道を転げ落ちていると厳しい認識を示しました。1月の「『新政権を育てるのに失敗』年賀状での心配事」で憂慮した何もせぬ民主党政権が、大震災・福島原発事故でもどんどん後手に回り続けて見るべき成果をあげていません。民主党政権が何も出来ずに終わってしまう瀬戸際に立った新代表と言えます。

 財務相としての仕事ぶりは財務官僚の思惑に沿った感じが強かったと思えます。民主党が掲げた『政治主導』のにおいは薄いけれど、政治主導の意味も改めて問わねばなりません。政権交代以来、根拠を示さぬ、思いつきに近い『政治主導』で官僚組織を振り回してきました。一方で長い間、違う価値観に触れる機会を持たなかった官僚組織側の質的劣化も激しく、前例があるルーチンワーク以外の仕事には役に立たなくなっています。原発事故がその好例で国の安全審査が根底から覆っているのに、経済産業省は「原発は適法に運転されている」と言い張るばかりです。そんな主張は裁判になったら通用しません。

 代表選で対抗した海江田万里経済産業相は「修羅場をくぐった自分にしか判らないことがある」と主張しましたが、全くのお笑いぐさです。官僚の「保守」的な言い分を代弁しただけです。原発全電源喪失という大事故の進展を制御するには原子力安全・保安院の官僚では力不足は明らかですから、強力な技術スタッフを即席で整備して、司令塔を造るしか道はなかったのです。

 1月には「年金・医療など社会保障、農業と貿易の問題、内需拡大と成長戦略といった緊急を要する大きな政策課題に成果を上げさせねば、政権交代の意味そのものを失わせ、長く尾を引く後遺症になると心配します」と書きました。さらに震災復興と原発事故の後始末が加わっています。これでもなお小沢元代表をめぐる軋轢から党人事の方に民主党内やマスメディアの関心は向いていますが、冗談ではないと思えます。


全面降伏した中国高速鉄道の知的財産権主張

 中国共産党機関紙「人民日報」から伝えたサーチナニュースの《わが高速鉄道に知的財産権はない 詐称を認める=共産党機関紙》は強烈でした。前後して、記者会見で「中国人民が創造した奇跡」と高らかに自主開発による知的財産権を主張した中国鉄道部・王勇平報道官の解任が報じられています。40人以上死亡の大事故は、確かに中国鉄道部が陥っていた虚妄から目を覚まさせる効果がありました。

 人民日報ウェブ版の「人民網」で該当記事を探してみました。題名を直訳すると《高速鉄道の自主開発知的財産権を全面検証:奇跡誕生と終止の真相》となる全部で4ページもある長文レポートがそうでした。

 冒頭はやはりサーチナの《高速鉄道「わが国は日本側の忠告を無視していた」=中国報道》とそっくりです。「記事はまず、『中国が高速鉄道技術の導入を決めた2004年、国内における営業運転の最高時速は160キロメートルだった』と指摘。川崎重工業の大橋社長は『急ぎすぎてはいけない』と忠告し、『まず8年間をかけて、時速200キロメートルの技術を掌握すべきだ。最高時速380キロメートルの技術を掌握するためには、さらに8年は必要だ』と述べたという」「しかし、政府・鉄道部の劉志軍部長(当時)は『最高時速は、大幅な引き上げが必要』、『(北京と上海を結ぶ)京滬高速鉄路では、最高時速380キロメートルを実現』と考え、強引に開発を進めさせた」

 「川崎重工業から技術提供を受けた中国の鉄道車両メーカー『南車』が、米国で特許を申請したことについても『日本の川崎重工業の説明は違っている』と指摘。契約書には、『日本側が供与した技術は、中国国内においてのみ、使用できる』と明記していると、日本側の主張を紹介した」。北京・上海間の「京滬高速鉄路が開業した直後の7月7日、中国鉄道部の王勇平報道官は『中国の高速鉄道は日本の新幹線の海賊版』という言い方に『奮起して反論』し、さまざまなデータを挙げながら、自国技術の優越性と信頼性を力説」などの要素も人民網レポートにも出てきます。

 人民網レポートにはインターネットメディア「新財網」からとしている部分もあるので、既出の報道や情報を集大成している感じもします。年を追って様々な動きがまとめられています。

 冒頭のサーチナ記事に戻ると、率直と言うべきか、かなり自虐的な表現があります。「人民網はエンジニアの発言を引用し『数年すれば国外の設計を元に、中国でもボギー・モーター・変圧器などの生産や、国外の核心部品を使ったコンバータや自動制御システムの組み立ては可能になるだろう。しかし、先頭車両の設計基準・原理・車体を広くすることのリスクの有無などは分からない。われわれにできるのは、塗料の塗り方や座席の素材の変更、室内装飾程度のことだ』と報じた」。原文レポートでは4ページ目に出ており、こう続きます。「さらに難しいのは(高速鉄道の衝突を防いでいる)列車自動制御システムのソフトウエアだ。核心技術を書き換えられない」

 長いレポートの最後はこうなっていました。8月9日に車両メーカー「北車」グループが技術的不調が続く高速鉄道列車のリコールを申し出たとした上で、「つぎはぎは一切無駄だった。7月23日、雨の夜に起きた惨劇が奇跡を終わらせてしまった」と結びます。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国」関連エントリー


中途半端な安全確保策は危険:中国高速鉄道

 死者少なくとも40人を出した中国浙江省の高速鉄道事故をうけて、この数日、目まぐるしく安全確保策の報道が流れています。最高速度を時速で50キロずつ下げる▽運行本数を大幅に減らす▽車両の生産停止とリコール▽事故調査チームから当事者である鉄道部幹部を外す▽新規路線開業の延期――などです。どれも決定打にならない中途半端な改善です。CNNの「中国北車、高速鉄道車両を回収へ」が伝えている「問題が管理・運用面にあることは明白であり、『真の問題に取り組まなければ、たとえ時速100キロまで速度を落としても衝突事故は起きる』との批判的な見方もある」との危惧が正しいと思います。

 運転士が目視で発見、急ブレーキで到底間に合わない高速鉄道では、自動列車制御装置が働いて危険になる前に停車させる保証が運行するための最低条件になります。「核心は信号の青・赤ではない:中国高速鉄道事故」で指摘したように、この制御が出来ていないことが明白なのですから、それに向けた対策を急ぐしかありません。システムの性質を考えると何かをちょっと追加して済むとは思えません。

 サーチナの《「完全に防げた事故だった」…中国鉄道事故の調査団長、人災を指摘》が「現段階の調査で、今回の事故はシステム設計に重大な欠陥があり設備故障を引き起こしたと同時に、故障後の応急措置や安全管理面にも問題があったことが明らかになった」としているのを見て、とても不審に感じます。

 そこまで認識しているのなら直ちに全列車の運行を停止し、欠陥を全て改めてから再開するしかありません。そこまでは中国政府のメンツが許さないのでしょうが、不用意な運行を続けていれば明日にでもまた事故は起きます。在来鉄道の事故と根本的に違う点が未だに判っていないようです。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国」関連エントリー


今度は本物、高速鉄道事故で中国メディア反乱

 無理が通って道理が引っ込む中国政府のメディア管理にとうとう穴が開きました。ウォール・ストリート・ジャーナル日本版の《中国の一部メディア、高速鉄道事故の報道規制に抵抗》や韓国・中央日報の《<中国高速鉄道事故>変化する中国メディア…党の報道指針に反発》などが伝えました。「中国のメディアは週末、中国共産党の中央宣伝部が29日夜に出した命令に不満を示した。それはメディア編集者に対し、週末は事故の報道を控えめに行い、前向きなニュースを強調するよう命じたものだった」

 多数のメディアが泣く泣く引き下がった中で、部数70万部ほどの経済観察報がかなり尖っています。救助打ち切り後に助けられた女児を念頭に置いた「温州に奇跡はない」という7面特集は既に読めませんが、1日現在でも下に引用する鉄道帽をかぶったドクロが高速鉄道を脅かすイラスト付きコメントがあって、対当局では十分に刺激的だと思えます。人命を軽んじる営利主義的あるいは拝金主義的な鉄道部の腐敗を糾弾する記事なども読めます。



 「中国という隣人」の「【温州列車追突】中国メディアがついにキレた」は「禁令が出たのが29日午後。30日分の報道も用意していた新聞は事故関連の紙面を直前差し替えるハメに。『21世紀経済報道』、『中国経営報』、『新京報』(北京)、『銭江晩報』(浙江)、『華商報』(西安)などが被害に遭っています」とし、その一方で「事故が起きた浙江省の『今日早報』だけではなく、『河南商報』(河南)、『上海青年報』(上海)『廈門商報』(福建)など一部メディアは一面を使って宣伝部に反旗を翻し、抗議する姿勢を見せています」と報じています。

 大紀元の《<中国高速鉄道事故>初七日に中宣部が箝口令 違反者への報復も始まる》はネット上に漏れだしているメディア関係者の悲痛な声を拾っています。「広州紙のベテラン編集者は、『今夜、百社の新聞が口をつぐんで記事を替えた。千人の記者が記事を消された。中国では1万の魂が行き場を失い、1億の真相が闇に葬られた。この国は無数のごろつきによって辱められている』と書き込む」

 いまネットで流れている言葉は重い意味を持ちます。強い当局批判で停職処分になった中国中央テレビ「24時間」のプロデューサーは「離れる前に同僚に8文字を送ったという。『守住底線、不惧犠牲』。(モラルの)最低基準を死守し、犠牲も恐れない、という意味だ」。そして広く流布しているという「中国そのものが雷雨の中を疾走する高速列車。あなたも私も観客ではない。我々は共に乗客なのだ」


ハードもソフトも安全装置総崩れ中国高速鉄道

 たかが雷だけで高速鉄道列車同士が追突事故を起こすはずがないと最初に思った通り、中国高速鉄道では安全装置はハードもソフトも総崩れになっていました。こんな高速鉄道システムを世界中に輸出しようとしていたなんて、品質管理思想の欠如にあきれ果てます。

 温州南駅の信号設備が青・赤反転の欠陥あり報道に続いて、NHKニュースの《中国高速鉄道 ソフトにも欠陥》は中国鉄道部が「列車運行管理センターでデータを収集する装置のプログラムソフトにも重大な欠陥があったことを初めて明らかにしました」「追突を防ぐため後ろの列車に送られるべきだった信号データが、列車運行管理センターにあるデータ収集装置のプログラムソフトの設計上の重大な欠陥によって送られなかった。このため、赤になるはずの信号が誤って青になり、後ろの列車の自動制御システムも働かなかった」と伝えました。

 日本ではATC、中国ではCTCSと略称されている、高速鉄道の命綱「自動列車制御システム」が働かなかった理由がようやく明らかにされました。先行列車を目で見つけブレーキを掛けて間に合わない高速でも安全を保証してくれる自動制御が効かなかったとは、恐怖以外の何ものでもありません。

 時事ドットコムの《寄せ集め技術の欠陥露呈=人材育成追い付かず−中国鉄道事故》は「CTCSと名付けられている列車運行制御システムには、中心的技術として日本の川崎重工業のものが導入されているほか、仏独など欧州各国の技術も使われている。しかし『中核のプログラムは解析すらできていない』と関係者が認めるように、つぎはぎ状態で、業界内では以前から信頼性を疑問視する声があった」と報じました。中身がブラックボックスのまま何となく組み合わせて使ってきた油断が惨事を呼んだと考えます。

 たかが雷なのに、開通したばかりの北京・上海間でも雷を理由にした電力設備の故障が繰り返されています。ウォール・ストリート・ジャーナル日本版の《不十分な避雷設備も要因の一つか=中国鉄道事故で専門家》は「北京にある精華大学の何金良・教授は27日、ウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで」「『少なくとも私が知る限りでは、高速鉄道網の架線をつるす柱には避雷針やサージ保護装置は設置されていない』と述べた」と伝えています。国家避雷技術基準委員会の2003年基準を鉄道部は無視しているのです。

 日本の国内法では「普通鉄道構造規則」や「新幹線鉄道構造規則」で事細かに避雷設備の設置基準が示されています。ネット上でさらに探したところ「新幹線47年の歴史を創る。テツに挑み続ける技術者達」というページを見つけました。「落雷対策が安全運行上で、非常に重要な要素になる。そこでこれから紹介するのは開業以来、新幹線向けの雷対策用トランスや保安器の開発製造を一手に引き受けている企業」とあって、1キロごとに4カ所設置されている保安器の開発史が読めます。彼我の差、こんなきめ細かい仕事が中国で出来るはずがないと思えました。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国」関連エントリー

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核心は信号の青・赤ではない:中国高速鉄道事故

 中国高速鉄道大事故の原因について、システム設計の不備から信号の青・赤が落雷の影響で逆転していたという説明が28日朝、中国政府合同調査チームの会合で報告されました。これで納得してしまうマスメディアがあるのには驚きます。信号が逆転すれば確かに衝突事故になりますが、それは時速数十キロまでの在来線の世界です。時速200キロ、300キロの高速鉄道では運転士の目視でブレーキ操作しても到底間に合わないので自動列車制御システムが設けられ、一定の距離までしか列車の接近を許しません。日本ではATC、中国ではCTCSと略称されています。

 今回の事故ではこの自動列車制御システムが働かず、高速で追突したことが最大の問題であり、信号システム設計不備で謝罪声明を出している北京全路通信信号研究設計院が高速鉄道の信号システムを独占している点を見れば、技術的な病根はとても深いのです。

 時事ドットコムの《寄せ集め技術の欠陥露呈=人材育成追い付かず−中国鉄道事故》は「CTCSと名付けられている列車運行制御システムには、中心的技術として日本の川崎重工業のものが導入されているほか、仏独など欧州各国の技術も使われている。しかし『中核のプログラムは解析すらできていない』と関係者が認めるように、つぎはぎ状態で、業界内では以前から信頼性を疑問視する声があった」と報じました。

 この説明が正しければシステムがどう書かれているのかは置いておき、中身がブラックボックスでも想定問答の範囲では入力内容と出力内容が相応しいているから使えているだけです。想定外の入力があったときにシステムがどう返答するのか、「それは運任せだ」と言っているのと同じです。中心的技術とされる川崎重工業もどう改変されたのか知らない以上、責任は持てません。

 サーチナの《高速鉄道は「大躍進」の愚行を再現、まず全面停止せよ…中国人学者》は「中欧国際工商学院(所在地・上海)の許小年教授は26日に開催されたフォーラムで、中国は高速鉄道の営業運転を即刻、停止せよと主張した」と伝えました。「関係組織と社会の力を結集して、23日の事故原因を解明することが必要と主張。原因解明の後、『では、今後はどうするか』と考えるべきで、少なくともそれまでは、全国の高速鉄道の運行を停止すべき」としています。混沌の事態に対して当たり前の主張がようやく中国でも表に出てきました。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国」関連エントリー


堪忍袋の緒が切れた? 中国政府が大事故の鉄道部に

 中国高速鉄道の大事故について、26日に入ってから中国メディアの伝えるトーンが変わったと感じます。中国政府は鉄道部をかばいきれないというより、叱責に近い感覚に変化し、敢えて言えば「堪忍袋の緒が切れた」のではないでしょうか。

 がちがちの中央政府メディアである人民日報海外版の論説「高速鉄道:安全性確保を最優先すべき」(7/16 16:49更新)が「高速鉄道の導入以来、鉄道当局の宣伝はほとんどが過度の称賛だったと言える」「今考えると、運行距離で世界首位に躍り出た中国の高速鉄道ではあるが、速度があるだけでは到底不十分だったのだ。胸に手を当てて自問しなければならない。高速鉄道の運営体制は『事の大小を問わず、少しもおろそかにしない』ものだったろうか」と指摘した上で結びの言葉としてこう主張です。「特に23日の大事故については徹底的な調査と処分を行い、的確な教訓を導き出し、高速鉄道の発展において常に安全運営を最優先するようにしなければならない。同様の悲劇を再び起こしてはならないのだ」

 「人民網日本語版」2011年7月25日の「温州の高速列車事故 ネット利用者がミニブログで一部リストを公開」にも驚かされました。事故の死者は鉄道部によると39人に止まっているのに、「事故発生後、乗客の家族がマイクロブログやテレビ、ラジオなどを通じて行方不明の家族や友人の消息を求めており、インターネット利用者も転載して情報集めに協力している」様子をビデオで流しています。あれだけの事故でこの死者数は作為的と感じている我々には納得できる対応です。

 Record Chinaの「<高速鉄道脱線事故>転落車両で遺体の再捜索―中国」は「高速鉄道の追突・脱線事故は26日の時点で犠牲者39人と発表されているが、事故現場に残された転落車両内では再び遺体の捜索が始まっている」と報じました。これで遺体が出てくれば鉄道部の面子は丸潰れになりますし、当事者能力を否定されかねません。一度は埋めてしまった追突車両運転席の掘り起こしもされました。「高速鉄道大事故でも運行停止しない中国政府」で疑問と指摘した感覚が世界標準であることに気付いてもらえたでしょうか。


高速鉄道大事故でも運行停止しない中国政府

 落雷によって停車中の高速鉄道列車に後続が追突、脱線して35人の死者を出す大事故が中国で起きました。人間が作ったものには欠陥があるもので、いずれ真相が明らかになると思いますが、中国政府が運行停止を命じないのは解せません。原因が分かっていて対処できているのならともかく、よく分からないけれど衝突してしまった状態なのにもかかわらず時速200キロ、300キロで運行を続けるとは自殺行為です。日本国内で起きていれば許されないはずです。

 NHKニュースの“落雷で故障 制御に異常か”がつぎはぎだらけの開発状況をこう伝えました。《今回の事故で停車していた車両は「CRH1」と呼ばれるカナダの企業の高速鉄道の車両をベースに製造され、追突し転落した車両は「CRH2」と呼ばれる日本の東北新幹線の「はやて」をベースに製造されたものです。そして自動制御システムについては中国が独自に開発したとしており、専門家によりますと前を走る列車との距離が7000メートルを切ると、後続の列車は信号を受信し自動制御システムが作動し次第に減速して追突を防ぐ仕組みになっているということです》

 今回、実際にはほとんど減速されていませんでした。衝突現場は上海よりも南ですが、追突列車は北京発で6月末に開業したばかりの北京・上海間を走った上でさらに南に向かっていました。北京・上海間でも制御システムは同じでしょうから、先行列車の停止を後続が感知できずに追突する恐れが大です。

 サーチナの《危険を生んだ中国高速鉄道の背景(1)「無茶な大躍進」》は、「ドイツ人が2−3カ月かけて学ぶ高速鉄道運転を中国は10日で学ばせた。ドイツ人トレーナーが『無茶だ』と言ったが、中国側は『10日で北京に返す』と話した」というエピソードを報じました。設備も人材も即席で形ばかりつければよいと鉄道部幹部が考えてきたことをうかがわせます。毛沢東の大躍進は機械力を持たなかった中国が人海戦術で乗り切ろうとした歴史です。中国高速鉄道は人手を掛けるのを惜しんでいるのですから話になりません。

 同じ中国で6月に《観光列車が衝突…落雷で故障、後続列車が追突=湖南・張家界》(サーチナ)が起きています。「現地当局は事故原因がはっきりするまでとして、同鉄道の運行停止を指示した」と、極めて真っ当な措置がとられています。「中国の高速鉄道:無理な開業で故障続発、客離れ」で「安全を何よりも最大限に追求すべき高速大量輸送機関を、政治がねじ曲げたツケをどんな形で払うことになるのか、想像できません」と指摘したばかりで起きた大事故ですが、ねじ曲げ続ければさらに大きな代償を支払う事になるでしょう。

 【追補】追突した後続列車の運転席がどう処分されたか、日本なら現場検証まで保存されると思いますが、朝日新聞の「事故車両の運転席、当局が現場の穴に埋める 中国脱線」は事故翌朝のとんでもない状況を伝えました。「空が明るくなり始めた午前6時ごろ、7台のショベルカーがすぐ横の野菜畑に穴を掘り始めた。深さ4〜5メートル、幅も約20メートルと大きい。午前7時半過ぎ、ショベルカーがアームを振り下ろし、大破した先頭車両を砕き始めた。計器が詰まっている運転席も壊した。そして残骸を、廃棄物のように穴の中に押しやってしまった」

 【参照】インターネットで読み解く!「中国」関連エントリー

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【速報】中国の高速鉄道が脱線、川に転落

 夜遅くたまたま気付きました。朝日新聞の記事です。「中国高速鉄道が脱線、2両が川に 浙江省」です。「23日午後8時34分、浙江省温州付近で脱線し、2両が橋から川に落ちた。消防隊が救助を始めている。死傷者の有無などは不明」「川に落ちて横転し、車両が分断されたり、つぶれたりしている。橋からぶら下がったままの車両もある」

 心配されていたことが起きた印象です。「中国の高速鉄道:無理な開業で故障続発、客離れ」を参照してください。

 【続報】時事通信の「高速鉄道が脱線、11人死亡=追突され高架から落下−中国浙江省」は「中国新聞社電によると、この列車は雷に打たれて動力を失い、急停車したところに、後続の列車が追突。D3115列車の最後尾の2車両が高架から落下した」と報じています。現場は上海より南です。

 【24日1時半】毎日新聞の《中国高速鉄道:中国当局に衝撃 「新幹線」に不安も》は「今回事故のあった路線は今年6月末に開業した北京−上海間のような「高速鉄道」とは異なり、在来線を利用して高速鉄道と同じ「和諧号」と呼ばれる、時速200キロ以上で走行可能な別タイプの列車を走らせていた」と伝えました。

 要するに、高速鉄道ではハードとしての高速運転だけでなく、異常時での連携などのシステム運営が重要なのに、現在の中国のレベルはそれを満たしていないようです。


中国の高速鉄道:無理な開業で故障続発、客離れ

 北京−上海間の高速鉄道が開業3週間になりましたが、《北京・上海高速鉄道で20日も故障、動けなくなり空調も停止》(サーチナ)となり、故障続発傾向が止まりません。エクスプロア上海の《勝負あり?故障がちの高速鉄道に対して航空チケットは価格上昇中》が「関係者によると京滬高速鉄道は午前発の列車に乗客が集中し、午後及び夕方の列車は利用客が少ない状態がはっきり現れているとし、夜間は航空便の独壇場になっている」と伝えるなど、故障・遅延を恐れるビジネスマンを中心に早くも客離れが始まったようです。

 一連の故障について中国政府鉄道部はいわゆる初期故障であり、直ぐに収まるとの見方を強調しています。日本の新幹線でも車台を一新した新系列に変えた際にトラブルが起きています。しかし、架線のショート、パンタグラフの故障、電力設備の故障、変圧器内部の接触不良など、原因が公表されているものだけ見ても開業前の試運転で潰せそうな項目が並んでいます。品質管理の手法に問題があると考えられます。

 さらに、サーチナの《高速鉄道:とまる列車、とまらぬ故障…施工者「工事に問題」=中国》が報じている関係者証言が事実だとすれば病根は深そうです。

 「開業を無理に早めたことが、故障多発に結びついたとの指摘もある。業界関係者の1人は匿名を条件に、『当初は完工後の施設の点検に半年、試運転に半年の時間をかけるはずだった。しかし、実際には半分以下の期間に圧縮された。工期そのものも、短縮するよう求められた。工事が間に合わず、試運転が始まってしまい。列車の走行をさまたげないよう、間を縫って作業することもあった』という」

 開業は「中国共産党設立90周年」の記念式典に間に合わせたのですが、安全を何よりも最大限に追求すべき高速大量輸送機関を、政治がねじ曲げたツケをどんな形で払うことになるのか、想像できません。


首相の原発無い社会志向、置き土産では実現不能

 菅首相が13日、随分久しぶりに首相官邸で記者会見し《菅首相「原発なくてもやれる社会実現」と表明》しました。読売新聞のこのページには首相の動画が収録されていて、福島原発事故で「原発について『これまでの安全確保の考え方だけでは、もはや律することができない技術だと痛感した』と語った」ニュアンスが生で感じられます。それを体験した首相として今回の表明に違和感はありませんが、近く辞めると表明した首相が口にした決断の実現性、責任の持ち方には多くの方が首を傾げるでしょう。

 日経新聞の《段階的に原発依存下げ 首相表明「原発ない社会めざす」》はさらにフォローして「原発依存度をいつまでに何%にするかなどの見通しは示さず、目標達成への具体策についても『何をやるべきなのかまずは計画を立てていきたい』と述べるにとどめた」と伝えました。

 さらに「定期点検で停止中の原発の再稼働については『経済産業省原子力安全・保安院の判断が国民に理解されると思えない』と強調」したのは善いのですが、自ら専門的知識がないと認めている「首相と枝野幸男官房長官、海江田万里経産相、細野豪志原発事故担当相の4人が最終的に可否を決める考えを示した」ことで国民全般、原発地元住民の理解が得られるとは思えません。「原発再稼働:政府の現状認識は全くの間違い」で指摘している通り、現在の原発の運転は福島原発事故で実質的に崩壊した安全審査指針を根拠にしている以上、すべて違法なのです。現実的に違法度合いは違っており、その事実から出発しないと、どの原発から停止し、廃炉にしていくとの筋道は見えにくいはずです。

 ただ、首相が「脱原発」総選挙・解散は考えていないと表明したのですから、今日の会見はエピソードのひとつに止まるでしょう。


原発再稼働:政府の現状認識は全くの間違い

 政府が11日、発表した定期点検中の原発再稼働に関する統一見解は基本になる現状認識が全く間違っています。「稼働中の原発は現行法令下で適法に運転が行われており、定期検査中の原発についても現行法令にのっとり安全性の確認が行われている」はずがありません。福島原発事故が起きたために、全電源喪失事象の軽視などを含む現行法で行われた安全審査は吹っ飛んだのです。

 6月のNHKニュース「原発安全指針見直し 今月にも」で、原子力安全委員会の班目春樹委員長が「地震や津波の問題だけでなく、安全設計に関する指針や防災の指針も適切でない部分があり、明らかに見直さなければならない」と述べたと伝えられています。原発を建設する際に依拠した国の安全審査指針が駄目だったと、安全の大本締めが宣言している重大さを、経済産業省は無視していることになります。

 「定期検査後の原発の再起動に関しては、保安院による安全性の確認について、理解を示す声がある一方、疑問を呈する声も多く、国民、住民の十分な理解が得られているとは言い難い状況にある」のは、現行法による原発の安全保証が崩壊しているからです。国民・地元住民が持っているのは、一時の気の迷いや単なる不安ではないのです。裁判の場に持ち出される状況を考えてみればよりはっきりします。

 今回新たに打ち出された原発再稼働のための『ストレステスト』1次評価「安全上重要な施設・機器などが設計上の想定を超える事象に対し、どの程度の安全裕度(安全余裕度)を有するかの評価を実施する」ことで原発安全指針見直しの代わりが出来ようはずがありません。土台になっている「現行法令にのっとった安全性の確認」が信用できない存在に落ちている以上、その上に何を重ねても仕方がありません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


半減だった外国人観光客が戻りつつあるよう

 震災と原発事故で3〜5月は半減状態だった訪日外国人観光客が戻る気配です。人民網の「日本旅行熱ふたたび 今月のビザ発給は先月の34倍」は上海総領事館の話として「地震発生後、中国人の日本観光ツアーの客足に急ブレーキがかかり、3-4月は団体ビザ発給件数がゼロだった」「日本ツアーは徐々に盛り返してきた。5月に同総領事館が受理した団体ビザ申請は151件に上り、6月は27日現在で5259件を受理して5月の34倍に増加した」と伝えました。

 サーチナの「【台湾ブログ】観光客が増えてきた日本、お薦めは北海道と東京近郊」にも台湾のブロガーが得た現地情報として「旅行社で話を聞いたところ、北海道へ行く観光客は4月頃から回復し、お花見や夏の花畑鑑賞を楽しみたい人が多いらしい」とあります。

 訪日観光客が激減した4月にカナダから家族旅行でやって来て、とても素晴らしい日本旅行ブログ"Off to Japan"を残してくれた旅好き女性がいます。日本に行くのを心配してくれた皆に無事を知らせ、日本旅行をためらっている旅行家に大丈夫と知らせる、ありがたい趣旨です。 右肩に記事リストが新しい順で並んでいます。

 東京を起点にし築地市場、明治神宮、浅草寺、箱根。飛騨高山を経て京都に泊まり奈良、彦根。広島・宮島。最後は東京ディズニーランドという充実ぶりです。事前のリサーチが行き届いている上に写真が上手ですから、外国人の日本旅行ぶりが判って面白いと思います。様々な食を堪能している点など、今年はじめに書いた「ディープな日本にまで入り込む外国人観光客」も合わせてどうぞ。


中国の高速鉄道時代:所得上昇に先んじ過ぎか

 6月30日に北京・上海間の高速鉄道(1318キロ)が営業運転を始めます。北京から東沿岸部を南下するこの路線の他に、内陸中央部を広州へ南下する路線と北のハルビンに向かう路線も年内開通が予定され、一気に高速鉄道時代の幕が開きます。日本の東海道新幹線だって最初は何年も赤字だったのですから積極投資が悪いとは限りませんが、所得水準の上昇にあまりに先んじて超大規模展開をしてしまった可能性があります。そして最高時速の300キロへの切り下げと安全性問題です。

 《「時速世界一やめます」スタートから4年、転機を迎えた中国高速鉄道》(KINBRICKS NOW)はこう書いています。「近年、中国高速鉄道をめぐる問題で焦点となってきたのは、その天文学的な負債。現在、中国鉄道企業の負債は1兆8000億元(約22兆5000億円)に達すると推定されている。その財務計画はきわめて楽観的な収支予測の上に成り立っているとも批判され、経営リスクが指摘されてきた」

 先行して開業した区間の列車で客がまばらなのは有名です。2007年開業で台北・高雄間345キロを結ぶ台湾新幹線が2000億円の累積赤字に苦しみ、経営再建が言われているのを見ると、その100倍の負債は、平均所得水準は台湾が中国本土より上であるだけに重荷です。

 サーチナ総合研究所(上海サーチナ)が過去に乗車経験がある3000人に調査した《利用頻度は収入に比例、出張での利用も―中国の高速鉄道》は1年間の高速鉄道利用回数について「全体のうち『1回―2回』が約半数を占めており、高速鉄道は多くの中国人にとって、まだまだ非日常の特別な乗り物であることが分かる」としています。「『5回以上』と回答した人の割合は、『月収3000元以下』の層では15.3%だけだったが、『月収9000元以上』の層では43.6%に達した。中国で月収9000元といえば、感覚的には日本で月収40―50万円ぐらいの、比較的裕福な人というイメージだ」

 北京・上海間の料金は最高時速300キロ、所用4時間48分の2等席で555元(7000円)、最高250キロ、所用7時間56分の2等席なら410元(5125円)と割に押さえ気味です。しかし、2008年の都市部労働者の平均年収は29,229元(国家統計局公表)で36万円余りだそうですから、庶民の足とは到底思えない高さです。もちろん地方からの出稼ぎ労働者には手が出ません。なお、最高のビジネスクラスは1750元(2万1875円)です。(人民網の特集ページ

 世界最高時速350キロを取りやめ300キロにしたのも、安全性問題もさることながら、少しでも安くし、多くの利用者が使いやすいダイヤ編成を目指した結果でしょう。320キロを超えると走行抵抗が急激に増え、エネルギー消費が非常に大きくなるとされています。

 高速鉄道の安全確保は確かに大変です。日本の新幹線でも関係者がもの凄いエネルギーを注いで注意を払っているから死亡事故無しなのでしょう。既に工期を前倒しして完成した点への疑問や、手抜き工事があった疑いなどが浮上しています。それでも《中国政府「北京・上海高速鉄道に安全上の問題ある。極めて危険」》(サーチナ)といった率直な危機意識が中国政府鉄道部から吐露されるのを見ると、中国も今度は本気かなと思えます。「高速鉄道の安全を脅かしているのは法律やルールを無視した周辺の動き」です。

 毎日、始発前に試運転列車を走らせ確認する、鉄道をまたぐ道路には監視カメラなどを設けて落下物があり次第、緊急連絡する――など対策はあるようです。それにしてもどんと1318キロ、さらに続々開業なのですから目を光らせる人材を間に合うよう教育、訓練していくだけでも大仕事です。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国」関連エントリー


国も福島原発事故で賠償し無責任姿勢を正せ

 福島第一原発事故は未だに収束が出来ていない上に、政府が作った損害賠償の仕組みはおかしく、エネルギー政策の見直しも進みません。事故の責任は事業者・東電だけにあるのではなく、全電源喪失の軽視などを安全審査で通した政府にも等しい責任があります。この間、ずっと動きを見ていて国の賠償責任が消えている点が、政治家と官僚、マスメディアが勘違いをする根源になっています。国も賠償に加わって無責任姿勢を正すべきなのです。

 「原子力損害賠償法」第三条に「原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる」、第四条に「前条の場合においては、同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者以外の者は、その損害を賠償する責めに任じない」とあることから、東電以外には賠償責任が無いと解釈されているのでしょう。

 しかし、損害賠償の大原則は過失があれば損害を償うのです。原子力損害賠償法は無過失であっても原子力事故の賠償をさせるために事業者は逃げられない仕組みにし、当事者間の責任のなすり合いで被害住民が取り残されることがないようにしました。だからと言って、東電だけが賠償すればよいと決めつけるのは間違いです。

 原子力安全委員長が「地震や津波の問題だけでなく、安全設計に関する指針や防災の指針も適切でない部分があり、明らかに見直さなければならない」と表明している以上、国にも大きな過失があったと認めたことになります。原子力損害賠償法も、過失を自ら認める者が自主的に賠償することまで禁じているとは読めません。

 今回の事故での賠償総額は未確定ですが、「10年間で10兆円」とか言われ始めています。東電と国が折半するなら毎年5000億円です。4千数百億円ある国の原子力予算を注ぎ込んで見合う規模です。これを官僚が真剣に考えれば、次のような安易な現状維持話は出なくなるでしょう。《核燃サイクル維持 「経済省から確認」》(朝日新聞青森版)は「三村知事は22日、県議会の一般質問で、『海江田万里経産相から核燃料サイクルは維持強化していくとの回答を得ている』と答え、六ケ所再処理工場をめぐる国の方針は変わっていないとの認識を示した。菅首相のエネルギー基本計画を『白紙』にするとの発言について、滝沢求議員(自民)に認識を問われた」と伝えました。

 事故の収束でも国は金を出さないと思っているから「東電が」「東電が」で事業者任せにし、すべて後手に回る過ちを続けました。今は地上の放射能汚染水が大きなニュースになっていますが、原子炉格納容器のバリアが1〜3号機で壊れた以上、コンクリートの建屋から地下水への漏出は間違いなく起きています。1000億円かかるという巨大地下隔壁の建設が急がれるはずなのに、遅々として進みません。取り返しがつかない汚染拡大になれば賠償は膨らむと、国も当事者として恐れるべきです。

 定検あけ原発の再稼働難航問題も、根底は欠陥がある安全審査指針を放置したまま、安全対策の付け焼き刃的な追加で誤魔化そうとしているからです。国の賠償を現実化することで官僚に痛みと責任を実感させるのが、早期の事故収束、破綻したエネルギー政策の合理的再建の近道です。その方向付けこそ民主党が掲げる「政治主導」の出番でしょう。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


原発運転再開:安全指針の担保外す政府こそ違法

 電力供給が全国的に不足する夏場を前にして、定検あけ原発の運転再開・再稼働が議論されています。「地元の理解」がポイントとされていますが、見当違いもいいところです。国による安全審査の指針が福島事故で崩壊したのが事の本質です。経済界からの「安全を確認して早く再開を」との声は無理難題に近いのです。経済産業相は原発地元の知事らに運転再開への理解を求める意向ですが、安全審査指針の担保を外して運転するのは違法と知るべきです。このピント外れぶりはマスメディアの社説などにも共通です。

 13日の原子力安全委定例会後の記者会見で班目春樹委員長が「地震や津波の問題だけでなく、安全設計に関する指針や防災の指針も適切でない部分があり、明らかに見直さなければならない」「抜本的な見直しになるが、何年もかかっては意味がない。できるところから直していきたい」と述べたと「原発安全指針見直し 今月にも」は伝えています。

 原子力安全委員長が原発建設で依拠した指針に不適切な点が多数あると言っているのに、地元の知事たちはどうやって目の前にある原発の安全を確認できるのでしょうか。事態は「過失特大の政府賠償責任が論じられぬ不思議」で指摘した通りに動いています。中央の政治家、官僚、マスメディアの能力の低さは救いようがありません。名官房長官・後藤田さんが生きていたらどう裁くか、考えてしまいます。原子力安全委にはOBの力も総動員して「暫定的な形」だけでも特急で仕上げさせたのではないでしょうか。


浜岡原発停止:やっと事態のドライブに動く首相

 福島第一原発事故発生から間もなく2カ月、菅首相が初めて自分の側から動きました。6日夜に《首相、浜岡原発の全原子炉停止を要請 防波壁完成まで》(朝日新聞)となったのですが、伝えるマスメディア側が《浜岡原発、全基停止すると夏場の供給力に不安も》(読売新聞)など疑問符を付ける雰囲気なのは解せないところです。隣には関西電力、さらに余裕がある西日本の電力各社が同じ周波数60ヘルツで並んでいます。

 「首相は同日夜、首相官邸で記者会見して明らかにし、『浜岡原発で重大な事故が発生した場合、日本社会全体におよぶ甚大な影響を併せて考慮した結果だ』と強調。停止要請を出した理由について、浜岡原発が東海地震の想定震源域上にあるとして『30年以内にマグニチュード(M)8程度の地震が発生する可能性が87%という数字も示されている』と説明。特有の事情があるとの認識を示し、浜岡以外の原発への対応については言及しなかった」「防波壁の設置など中長期の対策が完成するまでの間、すべての原子炉を停止すべきだと判断した」

 次々に起きる事態に振り回されるだけだった首相にして、この際は英断と申し上げて善いのではないでしょうか。

 例えば2006年の「原発震災の可能性を裁判所が認めた [ブログ時評52]」のように、原発震災の危険性は認められ始めていたのです。木で鼻をくくる対応だったのは殿様企業、東電ならばこそでした。浜岡にまで及ぶ今回の津波問題は「福島、女川など3原発、津波高さと対策が判明」で紹介済みです。

 しかし、同じ6日に47newsは《経産省、原発重視の方針堅持へ 安全宣言で電力確保目指す》と報じています。「原発の緊急安全対策を進めて『安全宣言』を早期に行うことで既設の原発からの電力供給を確保し、2030〜50年には『世界最高レベルの安全性に支えられた原子力』を3本柱の一つとするとした、経済産業省の今後のエネルギー政策に関する内部文書が6日、明らかになった」とは、福島の事態収拾が到底見えない折にあきれます。

 既成マスメディアに、この期に及んでも原発とエネルギーの問題をゼロベースで考え直す動きが乏しいのが気になっていました。いま自前で議論の土俵を構築しないで何時やるのですか。新聞各社とも専門家ぶった論説委員を何十人も抱えているのに……。


最悪レベル7より日経の原発『見切り』記事

 福島第一原発事故の深刻度を示す国際評価基準でチェルノブイリ級「レベル7」になったとの発表記事よりも、12日のショック記事は日経新聞の《東電の悪夢、問われる原発の合理性 吹き飛んだ2兆7000億円弱 産業部編集委員 安西巧》の方でした。ネット上で昼過ぎに知ってから日経の本紙紙面を朝刊、夕刊と探して見つからず、ようやく「ものづくり進化論 :技術×企業(日経産業新聞online)」にあることが判りました。

 事故による東電の株価大暴落で企業価値が2兆6564億円も吹っ飛んだことから始まるかなり長い記事です。結びの段落を引用します。「これほどやっかいな原発を電力会社の経営者は『国策事業』として背負い続けていくのか。株主は大事故を起こせば株価が暴落するリスクに耐えられるのか。そして危険を覚悟で事故処理に立ち向かう従業員を今後も確保できるのか――。電力会社のステークホルダーだけでなく、国民全体の電力事業への価値観が見直されるべき時期に来ている」

 反原発の思想も何もない、株式市場と経営の論理だけでもう原発依存は見切らざるを得ない指摘になっている点は説得力があるだけに新鮮です。

 スリーマイル島事故級「レベル5」でくい止められていたら、まだ釈明できる可能性があったでしょう。しかし、1カ月を経過して収拾の見通しは立たず、これからどれくらいの放射能が環境に出るのか「これから起きる深刻事を政府は想定していない」有り様です。避難した住民多数は今後の生活を考えることも出来ません。超優良株を持っていたのに暴落で大損をした株主も痛いでしょうが、個々人の人生計画を滅茶苦茶にしている痛みは遙かに重大である点を指摘します。

 放射能の放出量を計算してみたらあまりに膨大で、国際評価基準のラインよりも完全に1桁上だった――だから2段階もレベルアップせざるを得なかった政府の事態認識の甘さには、もう驚かなくなっています。


自民党組み替え予算案は政権奪取資格無し証明

 国会で実質的な予算審議が進まない中で、自民党が2011年度予算の組み替え動議案を作りました。民主党が政権を取ってから始めた主要施策をあらかた削除、増やすのは公共事業と企業減税という内容です。2年前の総選挙で敗れる前の自民政権下に戻すだけ――と酷評して差し支えないと思います。政権を取って何をするのか、どんな美辞麗句よりはっきりしているのがお金の裏付けがある国家予算です。それが新たな未来を描くのではなく、行き詰まっていた過去に戻すことでしかないとすれば、自民党に再び政権を奪取する資格は無いと断言できます。自民党はこの構図で解散・総選挙に持ち込んで、勝てると考えているのでしょうか。

 《一般会計89兆円規模に圧縮 自民、予算組み替え案》(47news)はこう伝えました。「子ども手当廃止などで5兆3100億円の財源を捻出。赤字国債を1兆8千億円分減らし、2兆2500億円を公共事業費や企業減税に充てる」「子ども手当のほか、農家への戸別所得補償や高校無償化、高速道路料金無料化をやめることで2兆6800億円、公務員人件費の削減で1兆5千億円、地方への一括交付金の見直しなどを通じ捻出する」「公共事業は地方中心に1兆4100億円増額。企業に対し、研究開発税制や減価償却制度の見直しで4300億円の実質的な減税措置を講じる。児童手当と保育所の拡充にそれぞれ1千億円、防衛費増に200億円を計上」「赤字国債を含む新規国債発行額は、44兆2900億円から42兆4900億円に縮小」

 予算の提出権は政府にしかないので、野党からは予算組み替え動議になります。与党には予算関連法案の成立が難しい膠着状態を打開するために、野党案を丸飲みするしかないとの動きまで出ていますから、「そうはさせない」と意地悪な対案を作ったのが本音でしょう。しかし、この修羅場に来て、自民党が政権を失ってから政権復帰のための本格的な政策づくりをサボってきたことが証明されてしまいました。愚かなマスメディアとタッグを組んで、「政治とカネ」の問題にひたすらのめり込んできたツケを払わねばならなくなったのです。

 政権交代を機に国会を中心にした政策論争に移行すべきなのに、無為に時を失ってきた日本の政治です。年初の「『新政権を育てるのに失敗』年賀状での心配事」で「政権交代で待望された国家戦略の転換をアシストする役割が国内の既成メディアには見えなかったと評するしかありません。年金・医療など社会保障、農業と貿易の問題、内需拡大と成長戦略といった緊急を要する大きな政策課題に成果を上げさせねば、政権交代の意味そのものを失わせ、長く尾を引く後遺症になると心配します」と書きました。混迷している民主党政権へ政治の世界が用意できる対案が自民党組み替え予算案でしかないとすれば、我々はこの2年、何をしてきたのでしょう。


リビアはエジプトとは違う部族社会で軍は貧弱

 自国の首都で反政府デモをする大衆に空から無差別に機銃掃射をしたリビアの独裁者――あまりのことに言葉を失います。アルジャジーラの《実況ブログ22日》(英語版)は、エジプト側から入国したCNN記者が「リビア側には入国管理や税関の役人もいなかった」と報告、既に政権が崩壊しつつある様を伝えています。死傷者多数の話も出てきますが、混乱、混沌のひどさが感じられるばかりで、全容はつかめません。エジプトのような都市型社会ではなく、外国特派員もいません。そして、昔ながらの部族社会だそうです。

 東京外語大の翻訳《コラム:リビア、懸念すべきシナリオ》2月20日付 al-Quds al-Arabi紙は注目すべき指摘をしています。「エジプト、チュニジアと異なり、リビアには強力な軍隊が存在しない。リビア指導者は軍を恐れていた。信頼せず自身の体制への脅威とみなしていたため、『武装部隊』という名称のものを代わりにおき軍を解散させた」「リビアに軍組織が残っていないとは言えないが、脆弱でその権限は疑わしく、情勢を決する大役を演じることはない。リビア指導者が、その子息や彼の属する部族メンバーが率いる民兵組織や私設治安部隊を強化しようとしているのはこのためである」

 軍の将校団が反旗を翻したとの報道があっても、大きな流れにはなりにくいのでしょう。当初、デモ鎮圧に出た部隊に外国人傭兵がいたとのニュースに違和感がありましたが、こういう事情のようです。部族の対立が表に出れば、国家分裂の危機すら考えられるようです。

 al-Quds al-Arabi紙は「現状でリビアには三つの選択肢がある」としています。「1:政権が去ってダメージを最小にとどめる。1969年軍事革命に直面したイドリース・アッサンヌーシー国王がしたように。同王は、在位中の資産全てを新政権に残しナセル体制下のカイロへ向かった。2:リビアを二、三の国に分割し、現体制はその一つとして残る。3:蜂起が全土にいたり、元首とその親族に脱出を迫る」

 豊富な石油資源のおかげで一人当たりの名目GDPは9500ドルとエジプトの3倍以上あるリビアですが、人口は633万人しかなく、雇用者数や失業率のデータが見あたらず相当に遅れた社会のようです。(リビア統計データ


エジプト人は軍部=性善説。未来は大丈夫か

 独裁者ムバラクは追い出したのだけれど、その独裁者が出身母体とした軍部に民主化への段取りを丸投げ――エジプトで起きている事態は歴史を知る者の常識からは目を疑うものです。行政府が倒れたなら国会に実権が移るべきですが、エジプトの国会は露骨な選挙干渉の結果、オール与党の異常さであり、国民の信頼を得られない事情があるのでしょう。憲法の規定は無視し、一夜明けて軍最高評議会は現在の内閣を暫定的に延命させ、国際間の条約、約束は維持することを明らかにしました。これにはイスラエルとの平和条約も含まれます。

 カイロにある、イスラム教徒の大半を占めるスンニ派の最高学府アズハルが出した声明「アズハルは自由と正義という原則に導かれることを求める」はこう述べます。「アズハルがエジプトの行く末を決定する立場にある者たちの賢明さに信頼を置いていること、そして軍最高評議会およびその名誉ある男たちが約束したことは(イスラム法的に)正当なものであり、それは自由で誠実な人間の約束であることを確認した」「選出された(新しい)政権への平和的な移行が行なわれること、そしてできる限り早い時期に(非常時対応の)すべての例外的な処置が取り消されることを望んでいる点についても指摘した」

 何という楽天家ぶりでしょう。しかし、この国には他に打つ手が無いのも事実です。メディアの報道を比べるとウォール・ストリート・ジャーナルの《UPDATE2:ムバラク大統領辞任、揺れる中東》が最後に何があったのか一番、要領よく説明していました。

 「米当局者が11日明らかにしたところによると、ムバラク氏の辞任発表前の48時間に政府内で共有されていた機密情報報告では、エジプト政権は『状況を正しく把握していないほか、軍部はムバラクの取り巻きに一段と我慢できなくなっていた』ことが明らかになっていたという。同当局者は『特に軍部の転換点は10日のムバラク演説のトーンだったと』と語る」

 「エジプト軍高官に近い関係者によると、危機が長引く中、タンタウィ国防相とスレイマン副大統領の関係がほころび始めた。ある軍関係者は『スレイマン氏が野党からいかなる種類のコンセンサスも得ることできないと分かると、軍部は介入を決めたようだ』と指摘。『スレイマン氏がしたことはすべて状況を悪化させただけで、デモも増えた』」「デモ隊が11日、政府の主要機関などを取り囲み、抗議行動が拡大すると、軍指導部は行動する必要があると決定した」

 国民を代表できる民主的な政治勢力を育てるには、本来は相当な時間が必要です。迫害されてきたイスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」以外には大きな政治勢力を欠いたまま民主化を進めなくてはならず、憲法の規定も無視せざるを得ない危うさは大変なものです。

 ところで、エジプトの事態を中国政府は報道統制を敷いて国民に出来るだけ知らせまいとしているようです。《エジプトは他人事でない、中国は5日に1回騒乱が勃発》(サーチナ)は「騒乱事件は全国 29省・自治区・直轄市で起きたが、43%は地元と上級の2つ以上の政府の介入でようやく鎮圧に成功している。また、事件が外部に露見するルートは、インターネット特にミニブログが大部分を占めた」「複数の政府が一時的に制圧しても、最終的にはエジプトのように大規模な火山の爆発が起こるだろう」としているのですが……。


中東に見る権力の倒し方:無血革命では困難

 チュニジアで長期独裁政権が倒れたのに続いて、エジプトで大規模な大衆抗議行動が起きています。その現場に入っている記者からの報告が核になっているせいか、マスメディアの報道は無血革命が簡単であるかのトーンです。しかし、中東で起きている現実は権力がそんなに脆いものではないことを示していると思います。この騒ぎを機会に東京外語大が中東の新聞記事を日本語訳してくれるなどデータが豊富になっていますから、状況を整理してみましょう。

 あのチュニジアがどうなったのか、急に見えなくなっていましたが、6日にCNNが「警官隊がデモ隊に発砲、2人死亡 チュニジア」と伝えました。「現場の警察署前にはデモ参加者約1000人が集結。建物に石や火炎瓶を投げ付けたり車に放火するなど暴力行為を繰り返していた。デモが実施された理由は明らかでない」「警官隊は催涙ガスや空砲で威嚇して沈静化を図ったがデモ隊が応じないため、発砲したとされる」

 1月21日には「チュニジア暫定政権が初閣議 政治グループを承認」が報じられました。「ベンアリ政権の与党・立憲民主連合(RCD)の中央委員会が解散し、所属していた全閣僚が離党した。ムバッザア暫定大統領とガンヌーシ暫定首相も18日に同党を離党。ムバッザア氏は『過去とのあらゆるつながり』を断ち切るとの方針を示したが、国民の多くはこうした対応を不十分だと考えている」「英語教師のモハメド・バシャさんは、『チュニジア国民は独裁政党の(RCD)を求めていない』『我々は真の革命を求めている。うそはもうたくさんだ。23年間だまされ続けた』と話す」

 結局は首相が暫定首相に横滑りし、野党などからも新閣僚を迎えて選挙実施を目指すことになっているのですが、独裁者を追放した抗議行動の高揚が求めたものとかなり違っています。

 人口が1000万人ほどのチュニジアと違って、エジプトは人口7600万もあるアラブの大国です。「エジプトの統計情報」を見ると一人当たりの名目GDPが2,450USドルで貧しい国とは言えず、そこそこの豊かさです。100万人が抗議に結集しようと、「物言わぬ大衆多数からの支持がある」と政権側が抗弁できる余地があります。

 東京外語大「日本語で読む中東メディア」から「エジプトの体制変革、可能性のあるプレーヤーは誰か」はムバラク大統領が去った場合の指導者リストを掲げています。国際原子力機関(IAEA)事務局長だったエルバラダイ氏や野党政治家、ノーベル化学賞受賞の研究者、ムスリム同胞団の団長と並んでいますが、いずれも国民的基盤が弱く人口7600万の国として見ればかなり貧困なリストだと思えます。30年間も非常事態宣言を敷き続け、治安警察に政敵を圧殺させてきた後遺症は大きいようです。

 ウォール・ストリート・ジャーナルは5日、「エジプト副大統領主導の政権移行を支持=クリントン米国務長官」で「スレイマン副大統領が実権をにぎる現在のエジプト政府が発表した移行プロセスを支持することが重要だ」「エジプト政権内では、ムバラク大統領が実権をスレイマン副大統領に委譲し、象徴的国家元首になる案が検討されている」と伝えました。チュニジア暫定政権とほぼ同じような形で選挙まで持っていこうというのでしょう。

 政権を揺るがす大規模抗議行動がツイッターやフェイスブックなどネットを使って引き起こされた特筆すべき事件でしたが、権力の奪取となると無血革命は容易ではありません。奪取する主体が確立しないまま権力を倒そうとしている滑稽さも見えます。ましてエジプトでは軍が政権側にいるのです。

 【参照】インターネットで読み解く!「権力」関連エントリー


『対中赤字、実は黒字』良い記事ゆえの問題点

 今週、財務省が発表の貿易統計(通関ベース速報)で日本の対中貿易赤字が焦点の一つになりました。日刊工業新聞が《昨年の対中輸出、27%増の13兆円で過去最高》で伝えます。「中国は輸出先の国・地域別シェアでも2年連続のトップ。輸入相手国としても02年から9年連続でトップとなり、世界第2位の経済大国になったとされる同国との関係が深まっている実態が浮き彫りになった」「輸出から輸入を差し引いた貿易収支は3208億円の赤字と、赤字幅が5年連続で縮小した。赤字額が1兆円を下回ったのは94年以来で、88年から続いている貿易赤字からの転換も視野に入ってきた」

 ところが朝日新聞は経済面に《対中国赤字実は「黒字」 10年貿易統計 第三国経由の輸出 表に出ず》を出しました。「日本の対中貿易は、ほんとうは黒字」(遊爺雑記帳)が全文を転載しています。「貿易の統計では、第三の国・地域を経て輸出された物品は、最終目的地ではなく経由地への輸出とみなされる。一方、輸入の場合は原産地を輸入相手とみなす。つまり第三の国・地域を経て日本から中国に入った物品は、日本の統計では『中国への輸出』にならないが、中国の統計では『日本からの輸入』になる」

 こうした構造を意識して日本貿易振興機構(ジェトロ)が相手国統計から輸出実態を把握し直し、作成した「東アジア貿易の流れ」を以下に引用します。

  《東アジア貿易の流れ=2010年統計からジェトロ作成》
      3兆1405億円(数字は矢印先国に対する黒字額)
    ┏→→→→→→→→→【韓国】
    ↑          ↓5兆8658億円
    ↑ 2兆1030億円   ↓  
   【日本】→→→→→→→【中国】
    ↓          ↑  
    ↓ 2兆5415億円   ↑6兆9995億円
    ┗→→→→→→→→→【台湾】

 3208億円の赤字ではなくて2兆1030億円の黒字が対中貿易の実態だという訳です。以前からネット上で疑問になっていた問題であり、良い視点とタイミングの記事だと思いますが、そうであるがゆえにもっと精密な書き方が要求されます。例えば「対中国赤字?」(kmoriのネタままプログラミング日記)は2009年に中国と香港への輸出額を合計するだけの操作で「日本は、ここ7年ばかり対中国貿易ではずっと貿易黒字を保っている」「赤字だったのは2001年だけ。1998〜2000年のデータも別の統計で見てみたが、それらも黒字だった。中国は日本にとってずっといいお客さんだったのである」と実証して見せます。

 東アジアの貿易について少し知っていれば、中間財・資本財を日本が大量に輸出し、それを各国が加工して輸出商品にしている構図は頭に入っているはずです。例えば「東アジアにおける製造業ネットワークの形成と日本企業のポジショニング」(21COE, University of Tokyo MMRC Discussion Paper No. 92)から「図3 東アジアの貿易構造(2004年)」を引用しましょう。


 日本から台湾と韓国に太い流れが出て、それがさらに中国に向かいます。この流れはさらに中国の巨額な対米、対EU輸出に繋がり、全体として日本に利益をもたらしていることは明白です。ジェトロの今回の試算がこの貿易構造のどのレベルまで届いているのか、書き込んでもらわないと隔靴掻痒になってしまいます。第三の国・地域を経て輸出された物品で中国の統計で「日本からの輸入」になる場合をもっとはっきりさせなければ物足りないのです。

 読者側の疑問例として挙げれば「ある40代女性の生活」さんは「中国向け輸出: 実は「黒字」だった 第3国経由を合算 部品・素材・製造装置 なぜ第三国経由?」で「なーんだ、では、『赤字』と騒いでいたけれど、実際は中国のおかげでだいぶ潤っていたのですね。でも、どうしてわざわざ第三国経由になるのでしょう?」「ジェトロのホームページに行ってみました」「上記の記事に該当するニュースリリース等を見つけることができませんでした」と消化不良のようです。

 プレスリリースの原文・原情報がネットで読めない報道がまだ相当数に上っています。このケースは記者がジェトロ内部で取材した独自ネタだから当然ですが、ならばこそ読み手の欲求を最初から満たさねばなりません。


中国軍「北」駐屯で朝鮮半島統一に楔打つ?

 朝鮮日報が15日伝えた「中国軍が北朝鮮・羅先特区に駐屯、港湾施設など警備」にはちょっとショックを受けました。中国東北部の資源を運び出す港湾施設を北朝鮮北部、ロシア国境にある羅先特別市に設け、吉林省琿春市からの高速道路や鉄道も中国が投資して造ります。中国軍が警備に当たるのですから完全に軍に守られた経済権益を持つことになります。北朝鮮で政権が崩壊するような有事の場合にも、韓国主導で半島統一はさせないぞ――と大きな楔が打たれたのではないかと思えます。

 「中国軍の北朝鮮駐屯は1994年12月に中国軍が板門店の軍事停戦委員会から撤収して以降17年ぶりとなる」「北朝鮮も中国軍の駐屯は望んではいないが、中国資本を受け入れるためには仕方がないと判断したもようだ」とし「韓国大統領府(青瓦台)関係者は14日、『中国が羅先で投資した港湾施設などを警備するため、少数の中国軍を駐屯させることを中朝が話し合ったと聞いている。中国軍が駐屯したとすれば、政治的、軍事的理由というよりも、施設警備や中国人保護が目的とみられる』と指摘した」というのですが、そうでしょうか。

 自国民保護の名目が許されれば有事に兵力増強は意のままですし、自国民が多い首都ピョンヤンに向かって進まない方がおかしいでしょう。かつて欧米列強が、義和団事件などで混乱する中国・清朝に対して取った行動が思い起こされます。東西ドイツ統一のような平和的なシナリオは朝鮮半島では難しくなった印象を持ちました。


 【参照】インターネットで読み解く!「中国」関連エントリー


『新政権を育てるのに失敗』年賀状での心配事

 年賀状で何人かの方に「マスメディアは新政権を育てるのに失敗しました。その自覚が無い点が心配です」と書きました。民主党政権の混迷ぶりには困りますが、「政治とカネ」という政治部記者が条件反射で飛びつくテーマに集中し続け、本格的な政権交代で待望された国家戦略の転換をアシストする役割が国内の既成メディアには見えなかったと評するしかありません。年金・医療など社会保障、農業と貿易の問題、内需拡大と成長戦略といった緊急を要する大きな政策課題に成果を上げさせねば、政権交代の意味そのものを失わせ、長く尾を引く後遺症になると心配します。

 年明けの新聞論調には民主、自民両党が協調して乗り切るべし――といった感じがあります。しかし、大きな政策が無いのに、ほころびを繕うだけの協調をして何になるのでしょう。また、解散総選挙というお決まりのフレーズが見られるようになりましたが、大敗北を喫する側が衆院解散に打って出るはずがありません。読者・視聴者から一定の付託を受けている既成メディアがジャーナリズムの役割を考えずに「空騒ぎ」を続けることは、メディアとしての自らの寿命を縮める結果に繋がります。

 政権発足から1年以上を経過して、きちんとした政策ブレーンを形成できない民主党は叱責されるべきですが、既成メディアも自民党政権時代と違って政権批判ばかりでは駄目なことを知るべきでした。今年1年はまだ時間を使えます。頭を使わなくて済む「政治とカネ」なんか脇に置いて、政策課題にスポットライトを当てて課題解決へのステップを具体化していかなければなりません。ジャーナリズムは市民社会のために存在しているのであり、騒ぐことそれ自体を喜んでいる現在の既成メディアは王道から外れつつあります。


北京大教授論考の衝撃:中国高成長は維持不能

 日経新聞「経済教室」21日付に黄益平・北京大教授が「中国経済の持続的成長へ 生産コストのゆがみ正せ」との論考を書いています。中国政府を気遣ってかマイルドな表現になっていますが、持続的成長とは現在より大幅に鈍化した「通常の成長段階への移行」でしかありえないと読めます。エネルギー価格を国家統制で国際価格より大幅に下げるなど「改革期の中国は国を挙げて経済活動に補助金を出してきた」わけで、庶民の懐から取り上げたお金を企業に回しているとも読めます。「同じGDP規模なのに税収は中国が日本の2.8倍」などで最近、中国について抱いていたいくつもの疑問が氷解する思いがしました。中国内に「成長路線はいずれ行き詰ると考える経済学者や政策担当者も多い」そうです。

 黄教授は高い成長を維持してきたために、土地、労働、固定資本などの生産要素に大きなゆがみが出たと指摘します。例えば労働市場については「農村住民と都市住民を区別する戸籍管理制度の下で、都市部への移住労働者の差別がいまだに続いている。移住労働者は賃金を低く抑えられるだけでなく、社会福祉など基本的なサービスすら利用できない」としています。農村部が貧しいのは開発が遅れているからだけではなく、政府が集めたお金を都市部で集中的に使い、9億人いる農村部の住民をあまり顧みていないからでしょう。

 今年はこんなデータが出されました。「中国の都市部と農村部所得格差が拡大」(化学業界の話題)から農村部と都市部の「一人当たり純所得」推移グラフを引用します。(1人民元は12.5円程度です)


 「中国国家統計局の発表では、2009年の中国の都市部の一人当たり純所得は17,175人民元($2,525)で、農村部の5,153人民元と比較し、3.33対1に広がった」「中国農務部の農村経済研究所の研究員は、国が農村開発よりも都市の拡大に注力しているため、所得格差は今後もっと拡大すると懸念している」

 3年前に書かれた「中国、戸籍制度改革へ」がまったくと言っていいほど動いていない事実が解決の難しさを表しています。「社会保険上の差別=年金、失業保険、医療保険、労災保険、生活扶養金が農民工には与えられない」だけをとっても、本来は暴動ものだと思いますが、垣根を取り払ったら農村部人口の膨大さゆえに大混乱になると中国政府は考えているのでしょう。

 農村部住民だけが損をしているのではないと、黄教授はみています。驚くべき経済成長をしているのに「過去10年間、家計の所得が国民所得に占める比率は10ポイント以上低下している」「同時期に家計の消費がGDPに占める比率も下がっている」「政府の消費刺激策にほとんど効果が出ていないのは、こうした事情からだ」。GDPに占める個人消費が6割前後ある日欧米に比べ、中国は35%しかなく、それも10年前は45%前後はあったのです。

 社会と経済が行き詰ってしまう構造的リスクを減らし、成長持続性を高めるために「生産要素市場の自由化とコストのゆがみ是正に政策の軸足を移せ」と黄教授は提言します。「このような改革を行えば生産コストは上昇し、従って経済成長は鈍化するだろう」が「内需の均衡回復、経常収支の均衡回復などをはじめ、バランスがとれた経済の回復に好ましい効果があるはずだ」とします。第232回「持続不能!?中国の無謀なエネルギー消費拡大」での危惧も市場原理が働けば是正されるでしょう。

 「中国の都市部と農村部所得格差が拡大」には富が一握りの人々に集まっているデータがあります。「中国の調査会社によると、10百万元(約150万ドル)以上の金持ちが825千人、1億元以上が51千人になった。これらの人のうち、57%は年間100〜300万元を、他の18%は300万元以上を消費している」。1人当たりGDPはまだ3800ドルしかない中国でこのように貧富の差が開き続ければ不満が蓄積し、大きな社会不安を抱え込む恐れが高まります。黄教授によると「楽観論者は、政府には深刻なリスクを抑え込んできた見事な実績があると主張」するそうです。ノーベル平和賞問題などの民主化抑制はまさにそうした対応ですが、貧富の差を覆い隠すのは不可能です。しかも建前は共産主義の国なのですから。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国」関連エントリー


持続不能!?中国の無謀なエネルギー消費拡大

 国際エネルギー機関(IEA)の調べで、2009年時点で中国がエネルギー消費量で米国を抜いて世界最大になったことを、中国政府は認めたがらないようです。しかし、2010年時点では中国自身も世界最大を認めるでしょうから、遅かれ早かれの問題です。それを確認したIEAの「World Energy Outlook 2010」が気になって眺めているうちに、中国が打ち出している、あまりに無謀なエネルギー消費拡大見通しに驚いたので、いくつかグラフを並べながらまとめておきます。この見通しを10年単位で持続しながら経済成長ができるはずもなく、早晩行き詰まると考えます。

 「NEDO海外レポート NO.1066」の「IEA: 中国が米国を超え世界最大のエネルギー消費国家に」から最初のグラフを引用します。

 2000年には米国の半分もなかったエネルギー消費の激増ぶりがよく分かります。それでも1人当たり消費量に直すと、ようやく世界平均の水準に到達したばかりです。米国に比べると3分の1以下です。「中国の一人あたりのエネルギー消費量は、今もなお、先進工業国の平均の約1/3に過ぎない。このように一人あたりのエネルギー消費量が低いことや、地球上で最も人口の多い国家であることを考慮し、IEA は『今後さらに目覚ましい伸びが見込まれる』と結論づけている」のですが、「World Energy Outlook 2010」キーグラフを見れば首を傾げたくなります。


 このグラフは各国政府が地球温暖化を考慮し、比較的抑制的な新政策をとるとして集計されました。2000〜2008年の過去実績で世界のエネルギー消費増分の半分近くを中国が占めています。同じ期間でGDPの増加シェアは2割もありませんから、エネルギー効率が非常に悪い経済成長だった訳です。2008〜2035年の未来予測になるとエネルギー効率は多少改善されるものの、石炭消費量や石油輸入量では世界で増える分の9割を中国が占める、とんでもなく無謀なシナリオが描かれています。

 各種資源が豊富で欲しいだけ買える好環境は、現在の世界にありません。需要が急増すれば売り手市場ですから価格は吊り上がります。エネルギーと並んで中国が成長のために大量に使用量を増やした鉄鉱石が良い例です。資源価格高騰を考える◆薪換枩弌‥換櫺然覆郎禿拆緇困 - JC-NET(ジェイシーネット)にある鉄鉱石価格のグラフを引用しましょう。トン当たりの値段が2003年以前に比べて5倍にもなっています。エネルギーも思い通りに買いまくれるはずがありません。


 「人民網日本語版」2010年6月21日の「エネルギー消費量、中国が米国抜き世界一に?」は「中国はまもなく世界一のエネルギー消費大国になる見込みで、年内にも米国を抜く可能性がある」と認めていますが、気になる部分があります。「中国が国内総生産(GDP)1万元(単位GDP)当たりのエネルギー消費量を5年ごとに20%削減できたとしても、2020年以降のエネルギー消費量は世界全体の30%を超えるという」

 「World Energy Outlook 2010」日本語版の表現は「中国はエネルギー需要量を2008-2035年で75%増加させる」「世界需要に占めるシェアは現在の17%から2035年には22%へ上昇」ですから、IEAに中国が提出している予測は本音よりも相当、控えめなのかも知れません。10年たてば2倍近くになってしまうのでしょう。つまり「無謀」と表現した上記シナリオを、さらに上回るエネルギー消費増加が想定されているようなのです。そんな無茶苦茶な――とだけ申し上げておきます。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国」関連エントリー


主導権を誇示幻想の北朝鮮と現実離れの暴力装置議論

 誰も相手にしてくれなくなると「主導権はこちらにある」と誇示するのが北朝鮮の毎度の行動パターンです。死傷者多数が出た韓国・延坪島への砲撃ニュースから一夜明けて、《北朝鮮「敵視しないなら核兵器開発放棄」 米紙報道》(朝日新聞)を見て、その思いを強くしました。先週、米国の専門家に新たにウラン濃縮型核開発を見せておきながら、従来のプルトニウム型核兵器製造の中止と見返りに「米朝が国交完全正常化を目指すことなどをうたった2007年10月の6者協議の合意文書の尊重を、米国が改めて表明することを求めた」そうです。

 砲撃には韓国側も砲撃で対抗し、日本の新聞で見ているとそこそこの効果があったように読めますが、北朝鮮側が一枚上手だったよう。朝鮮日報の《北朝鮮砲撃:韓国軍の対応は適切だったのか(上)》は「北朝鮮の海岸砲陣地は、岩盤に狭い穴を掘り、射撃に使う砲口だけが開いている構造で、正確に砲口やその付近を狙わなければ破壊できない」。対抗して使った「自走砲では正確な破壊が困難だ」「正確に目標を破壊するためには、同日出動したKF16、F15K戦闘機計8機から衛星利用測位システム(GPS)で誘導される統合直接攻撃弾(JDAM)や空対地ミサイルで攻撃する必要があった」と伝えました。ここで敢えて空から攻撃すれば、相手から大反撃を引き出す恐れがあり、断念したのでしょう。

 大局的には無謀な行動でも、こうした細部での駆け引きに周到なところも北朝鮮の常です。間違えればソウルが火の海になりかねない朝鮮半島でのにらみ合いの構図については、2006年の核実験の際に「北朝鮮が求めているのは誇りでないか [ブログ時評66]」に書いていますのでご参照ください。文字通り「武士は食わねど」の国ですが、突然の砲撃は朝鮮戦争停戦協定の当事者だった中国無視もいいところで、当然ながら軋轢を生むでしょう。

 このところしばらく、仙石官房長官の「自衛隊=暴力装置」発言を問題視して空転する国会やマスメディアの対応を見て、あまりに呆れ果てました。工学部出身の私でも大学時代に学んだ程度の政治学の常識です。マスコミ内部で見れば政治学や社会学、経済学、法学などの人文系出身者が多数派なのですから、よほど不勉強だったのだと思わざるを得ません。こうして近隣の国際情勢が緊迫してくると、何のために武器を備えているのかが見えるでしょうから、前の政権党である自民党とマスメディアは目を覚ますべきです。


米国住宅ローン問題の病根深く景気は戻らず

 リーマンブラザーズ破綻などの米国発、世界金融危機を引き起こした住宅サブプライムローン証券化がまた亡霊のように蘇って米国経済の首を絞めているようです。今日の日経新聞「差し押さえ住宅 米金融、売却停止広がる」での「物件の競売に際し、書類に不備のあった事例が多いとの疑いが浮上」とは単純な手違いではなく、ローン証券化とその世界規模販売による副作用で、問題物件の所有権者が判然としなくなった事態を指します。

 先週末に米銀行大手バンク・オブ・アメリカが全米で差し押さえ住宅の転売を一時やめると発表し、12日には米金融サービス会社アリー・ファイナンシャルも全米で住宅競売を一時停止しました。「全米50州の司法長官、住宅差し押さえで共同捜査着手−金融機関対象」(ブルームバーグ)は「銀行やローン回収業者が不適切な書類や署名を用いて数十万件にも上る差し押さえを正当化しなかったか、共同で捜査に乗り出す」としています。

 「Market Hack(外国株ひろば Version 2.0)」の「ロボ・サイナー問題とは何か? アメリカの不動産市場、オワタ」がこの間の事情を説明してくれます。

 「マイホームのオーナーが住宅ローンが払えなくなり、住んでいる家を銀行が差し押さえするとき、銀行の担当者が『この物件の所有権はまちがいなくわが銀行にある』という宣誓書(affidavit)に無造作にサインする」「『アンタ、これ本当にアンタの銀行の所有だって、証明できるの』そう異議を唱えたのは不動産名義保険会社(タイトル・インシュアランス・カンパニー)です」不動産登記システムが信頼できない米国で「タイトル・インシュアランス・カンパニーは誰から誰へと所有権が変わってゆく物件の歴史をしっかり追跡、記録しています。言わば『私設不動産登記所』みたいなイメージです」

 「アメリカで庶民がマイホームを購入するとき住宅ローンを銀行から借ります。銀行は殆どの場合、そのローンを第三者に転売します」「転売されたローンをひとまとめにして(証券化)さらに取引するということが行われてきました」「JPモルガンやバンク・オブ・アメリカの担当者が差し押さえを実行するにあたり『もちろん、この物件はオレのものだよ』という宣誓書にサインしたのに対し、タイトル・インシュアランス・カンパニーは『アンタ、この権利はバラバラにされて、転々と転売されてきたのに、これが本当にアンタのものだと、本当に調べたの?』と言っているわけです」「でもこれを調べ始めたらいままで輪切りにされ、転売された証券化商品の歴史をぜんぶ遡らないといけないわけで、『ヒト・ゲノムの解読作業』みたいな膨大な作業が待っているわけです」

 こう説明してもらえると事態の深刻さ、病根の深さが見えます。差し押さえ住宅の競売すらままにならない状況が続けば、住宅市場の回復などありません。景気回復が見通せなくなっているためにドル安は続くでしょう。米国で住宅価格が上がり続け、庶民は値上がり分を消費に振り向けて消費ブームを謳歌していた「昨日」が嘘のようです。

 「米国 住宅差し押さえ状況」(記録)が拾っているブルームバーグからの数字は興味深いと思います。9月に「デフォルトや競売の通告を含む差し押さえ手続き開始件数は前月比3%増の34万7420件で、これは全米で371世帯に1世帯の割合で通知を受けた計算になる」、「手続きの不備を受けた住宅差し押さえの遅れは米金融機関にとって1カ月当たり20億ドル(約1600億円)のコスト」などです。 いずれも1カ月の数字なのです。


公務員給与水準グラフが見せた、なれの果て日本

 「社会実情データ図録」の最新リリースグラフ「図録▽OECD諸国の公務員給与水準」で日本の公務員数比率とGDP比の公務員給与比率がいずれも最低と示されて、ネット上で話題になっています。「はてなブックマーク - 図録▽OECD諸国の公務員給与水準」にはショックを受けた感じのコメントも見られます。

 グラフ制作者の意図は、縦軸に公務員給与比率、横軸に公務員数比率をとって一次近似直線を引き、その直線からの乖離具合で公務員給与が高めか低めかを考えようとするものです。「日本についても、この直線より下であり、給与水準が高いとは言えない。ただし、図録5193で見たとおり、日本の公務員は高年齢化が相対的に進んでいないので、勤続年数の長い高年齢公務員が少ないせいもあって、給与水準が相対的に低く出ている可能性もある。同一年齢、同一役職で給与水準がどうかは、そのための調査をしない限り分からない」「日本の公務員が給与的に恵まれているとしたら、それでも、海外の公務員が恵まれている程度以上ではないことを示している」

 ネットを最も利用している若い世代で非正規雇用化が恐ろしい勢いで進み、半数を占めようかとしています。9月末の国税庁・民間給与実態統計調査で民間企業の平均給与が2009年は前年比5.5%も減ったことが伝えられるなどして、安定している公務員への風当たりが強まっています。しかし、今回のはてなブックマークを見ると「公務員の人数比において諸外国と比べて圧倒的に低いということは言える。これで公務員削減するの?」「これさ、“人件費”がかかってないんならじゃあどこに金がかかってるんだ?って話になるわけだよね。そこが問題の根源だよね」「これでも日本国内の価値観は『公務員=勝ち組』。とってもふしぎだね」と驚きがあります。

 疑問を感じたら出典データにあたればよいわけで、OECDの「Government at a Glance 2009」を見ましょう。まず政府・自治体のコスト内訳を示す「8.1. Production costs as a percentage of GDP (2007)」と、労働力人口に対する公務員の割合「9.1. Employment in general government as a percentage of the labour force (1995 and 2005)」のグラフを掲示します。


 政府コストの青色部分が公務員給与比率で日本は6.2%しかなく、最低です。それでもGDPに対する政府コストの割合はOECD諸国最低ではなく、赤色部分の公共事業費などが大きく積み上がっています。「図録▽OECD諸国の公務員給与水準」は下の公務員数比率(日本が最低の5.3%)とを抜き出して関係を見ていた訳です。実際の歳出合計には膨大に積み上がっている国債・地方債の償還が大きく加わります。

 ここにもうひとつ歳入構成である「2.1. Structure of general government revenues as a percentage of GDP (2006)」のグラフを加えると財政状況の見通しが良くなります。

 こちらもGDP比で描かれており、下の黒っぽい部分が社会保障関係を除いた純粋の税収です。日本は18.0%でスロバキアの17.6%に次いで下から2番目です。最高であるデンマークの48.5%など北欧、3割前後の英仏、21.5%の米国に比べても際立って低いのです。

 このような特異な国の在りようを志向して出来たのではありません。総じて言えば冷戦終結後、日本をどのような国家にするのか、本格的に議論することなく、いや議論を避けて、ずるずると公共事業だけ続けてきた、なれの果てですね。「Government at a Glance 2009」には興味深い分析グラフがまだ多いようなので時間をとって眺めてみます。

 【参照】親サイト、インターネットで読み解く!「政治・経済」分野