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自主避難の根拠は放射線障害防止法の下の平等

 今村復興相が福島原発事故での自主避難者について「帰還は自己責任」と発言した問題には誤解と混乱があります。自主避難に法的根拠がある点について、発言撤回した大臣も追及のマスメディアも認識が足りないのです。1年間に被ばくする線量限度を「1ミリシーベルト(mSv)」とすると放射線障害防止法が規定しています。ところが政府は原発事故による緊急避難として「年間20ミリシーベルト」まで認める運用をしてきました。次々に出ている避難指示解除もこの路線上にあり、医療機関などにある放射線管理区域に当たる線量でも帰還して生活して良いことになっています。故郷に帰りたい高齢者ならそれでも構わないと思うでしょうが、これから子育てをする若い層が「帰れない」と思うのは当然です。避難指示解除で帰らない人も自主避難者に加わることになり「法の下の平等」が根拠である点を再認識すべきです。

 放射線障害防止法の条文をそのまま読んでも「年間1ミリシーベルト」は出てきません。この法律は放射線源施設の認証基準をそれぞれ規制していって、外にある一般社会での線量を一定以下に落とすよう出来ています。法第十二条の三「認証の基準」は文部科学大臣らに省令で定める技術基準で認証するよう求めています。それに基づく施行規則第十四条の三には「当該申請に係る使用、保管及び運搬に関する条件に従つて取り扱うとき、外部被ばく(外部放射線に被ばくすることをいう。以下同じ。)による線量が、文部科学大臣が定める線量限度以下であること」とあります。そして、文部科学省の「設計認証等に関する技術上の基準に係る細目を定める告示」で「文部科学大臣が定める線量限度は、実効線量が一年間につき一ミリシーベルトとする」となっているのです。法律である以上、国民は国や自治体に法を守るよう求める権利があります。

 福島原発事故から6年、「無理にでも復興」の動きが露骨です。昨秋の第539回「役場集落等だけ再生?福島の『復興像』に疑問」で「役場周辺集落などを重点的に除染して住民帰還させ、町復興のシンボルにする政策意図です。しかしこれでは、チェルノブイリ事故での住民の移住基準であり、放射線障害防止法で定める放射線管理区域の設定基準でもある年間5ミリシーベルトを超える地域に役場集落がぽつんと存在することになります」と、チェルノブイリと比べても異様な運用に疑問を呈しました。

 「帰れない」のは当事者の問題とするのはとんでもない誤解です。福島でも避難指示を出さなかった郡山市などの地域、関東の放射能汚染ホットスポットなどから多くの自主避難が出ています。福島県だけで2万6000人とみられています。事故当時に「最低限でも学童疎開はするべき汚染レベル」と指摘したのに、住民をつなぎとめたい国と自治体が適切に対処しなかったツケが顕在化したと考えるべきです。福島県外なら放射線管理区域では飲食も寝泊まりも禁止され、できるだけ速やかに退出するように規定があります。「気のせい」で帰れないのではありません。

役場集落等だけ再生?福島の「復興像」に疑問

 福島原発事故で放射能汚染された市町村復興に疑問符を打たざるを得ない動きが続いています。帰還困難区域の一部に拠点を設けて2022年をめどに敢えて帰還させる政府方針であり、モデル地区で森林除染する決定です。原発周辺の双葉町や大熊町などはほぼ全域が重度の汚染下にあり、事故後6年を経過しても年間線量が20ミリシーベルトまで下がらない帰還困難区域が広がっています。その中で役場周辺集落などを重点的に除染して住民帰還させ、町復興のシンボルにする政策意図です。しかしこれでは、チェルノブイリ事故での住民の移住基準であり、放射線障害防止法で定める放射線管理区域の設定基準でもある年間5ミリシーベルトを超える地域に役場集落がぽつんと存在することになります。

 朝日新聞の《帰還困難区域、22年めどに一部解除 役場周辺など限定》はこう伝えていますが、同じ町内で帰れる住民と帰れない住民の分断だけを問題としています。

 《政府は31日、東京電力福島第一原発の事故で放射線量が高くなった帰還困難区域(約2万4千人)の一部について、2022年をめどに避難指示を解除する方針を発表した。対象は役場周辺などに限定し、来年度から放射性物質の除染などを本格的に始める》《方針では、事故から5年以上たち、除染をしていなくても「区域の線量は低下している」と説明。放置したままだと風評被害が続き、福島の復興が遅れる懸念も示した。解除の対象は役場や駅、公民館の近くなど、もともと住宅が多く、帰還しやすい場所。法律で復興拠点として認定する》


 上図は《放射線量等分布マップ拡大サイト》に掲げられている昨年11月時点での地表1メートル空間線量率マップから引用です。年間20ミリシーベルトは3.8マイクロシーベルト/時に相当しますから、黄色以上の地域でまだ大きな広がりがあります。年間5ミリシーベルト相当の放射線管理区域では、福島以外なら法律によって飲食禁止であり、寝泊まりなど論外です。年間5ミリシーベルトはマップでは1マイクロシーベルト/時の濃いグリーン以上で、今なお広範囲であると知れます。放射線障害防止法が決めている公衆の被ばく限度年間1ミリシーベルト以下を満たすのは濃い青とやや濃い青の地域で、かなり原発から離れなければなりません。

 ただし《1年の間、屋外に毎日8時間、屋内に毎日16時間いると仮定した場合、木造の建屋の遮蔽係数0.4を考慮して約20ミリシーベルトになるような空間線量率は毎時3.8マイクロシーベルト(自然放射線による影響も含む。)である》と説明があるように、家屋による遮蔽が加味されて甘くなっています。2012年の『20mSvで居住可の無茶を何年も続けて良いのか』でも指摘したように、年間5ミリシーベルトを超えるような地域に「お帰りください」と勧めることは本来は法治国家として出来ないはずです。子どもを持つ家庭なら帰らないでしょう。

 また、現状でも除染作業で生じた汚染物質の貯蔵施設や処分場が決まらず、大量に野積みされているのに森林除染まで手を付けるとは愚かすぎます。NHKの《政府 森林除染のモデル地区4か所決定 秋から除染へ》は《森林の除染について、政府は、原則として住民の生活圏から20メートルの範囲などに限って行う方針でしたが、福島県などから除染地域の拡大を求める声が相次いだことから、避難指示区域とその周辺で10か所程度をモデル地区として選んで除染を行うことになりました》と報じています。

 除染の費用は政府が立替て東電に請求する建前であり、いくらでも膨らませられるかのようですが、第536回「東電資金破綻の現実を認めぬ政府と既成メディア」で明かしたように収入が電気料金しかなくなった東電に支払い能力はありません。いずれは国民負担にならざるを得ない先行きは見えており、広げたらきりがない除染にどこまでお金を掛けるのか、負担に耐えられるのか議論してから始めるべきです。相次いでいる格好を付けるばかりの「復興像」は本質的なところで間違っていると言えます。


インドでは首都に住んだら寿命が6.4年縮まる

 中国を抑えて世界最悪の大気汚染国になったインド、その首都デリーに住んだら寿命が6.4年、国民平均でも3.4年縮むとの研究が公表されました。政府の環境大臣が「為にする不当な結論」と批判する騒ぎになっています。モディ首相が米国を訪問するタイミングに合わせて出たのにカチンと来たようで、「正確に積み上げたデータに依拠していない」と否定する構えです。しかし、あまりにも観測拠点が少なくて実態を把握し切れなかったために沈黙していたインドの科学者がいよいよ動き出したと捉えるべきです。世界最大の英字紙「ザ・タイムズ・オブ・インディア」がこんな刺激的なイラストを載せています。


 7日付の「Delhi’s pollution takes 6 years from your life, says study」から引用しました。北西部にあるデリーで6.4年、以下の4州は東部で西ベンガルが6.1年、ビハールが5.7年など住民が寿命を縮めるとの表現です。息が詰まる真実だと、ガスマスクの絵をあしらっています。

 問題になっている研究はインド熱帯気象研究所の研究チームによる論文です。「Premature mortality in India due to PM2.5 and ozone exposure」です。2011年時点でPM2.5による死者数を57万人、経済損失68兆円と見込んでいます。2月にはカナダの研究で2013年にインドでの死亡者は約140万人で中国は約160万人との報道がありました。

 2月の第517回「重篤大気汚染がインド亜大陸全域で急速に拡大」ではNASA地球観測衛星による浮遊粒子状物質濃度データでの推定で悪化している状況を伝えました。今回の論文が出たのならとインド発の汚染状況データをさらに検索して、「Cause-specific premature death from ambient PM2.5 exposure in India:Estimate adjusted for baseline mortality」に詳細な汚染推定マップを見つけました。


 2000年から2010年の期間でPM2.5の年間平均値をマイクログラム/立方メートルで推定、詳細な地図にしています。日本の環境基準値「1年平均値 15μg/m3以下 かつ 1日平均値 35μg/m3以下」に照らして見て下さい。「4-15」である群青色の地域しか大丈夫なところは無く、ほとんどが東端部や南端部に限られます。ガンジス川沿いは特に酷くて、「76-90」の赤や「90以上」の焦げ茶で埋め尽くされています。これではインド旅行をしたい気持ちが薄れてしまうでしょう。

 しかもこのマップは2011年以前の推定です。第517回「重篤大気汚染がインド亜大陸全域で急速に拡大」の地図で2011年以降にずっと深刻化しているのが見て取れますから、今現在のPM2.5汚染地域はさらに拡大し、各地の汚染度も悪化しているはずです。

 インド環境相は「Pollution Report Malicious and Incorrect: Javadekar」のインタビューで論文の内容を非難する一方、対策としては環境を侵す経済活動の違反行為に新しく罰金を課す法律を作ると言ったに過ぎません。政府の当事者がこの程度の認識で環境が目覚ましく改善に向かうとは思えません。


韓国のPM2.5測定対応に疑問あり、杜撰で過小では

 韓国で大気汚染の測定や予測についてメディアから批判の声が巻き起こっています。PM2.5をめぐって中国から日本への影響をウオッチした経験から、中間にある韓国測定値は実態に合わないと疑問を提起したいと考えます。5月下旬には150マイクログラム/立方メートルを超える「非常に悪い」汚染が各地で発生、その予測が的確でなかった上に、汚染源として中国の影響をどれ位と見積もるべきかもはっきりしません。粒子状物質の成分を実測できる観測基地が少な過ぎるとの指摘もあります。しかし、測定値自体の信頼性が次に挙げるデータを比較すると揺らぎませんか。6/4の正午時点での日本気象協会(tenki.jp)のPM2.5分布予測と米国政府が測定結果をAQI指数にした汚染分布図です。



 PM2.5予測では最も汚染が酷い地域は北京付近であり、中国東北部から朝鮮半島に高い汚染域が下りてきています。ソウル周辺はかなり高い汚染と予測されています。ところが実際に測定された汚染分布を見ると健康人でも影響が出始める赤ランクの測定結果は1カ所あるだけです。AQI「161」ですからPM2.5で75マイクログラム/立方メートル相当です。

 中国・山東半島の付け根、山東省にも韓国と同じように汚染が南下しているので比べて下さい。こちらは赤がたくさんあります。予測と現実は必ずしも一致しませんが、比べれば韓国が手ぬるい感じを否めません。これまでにも中国の重篤大気汚染が日本国内に及ぼす影響を調べている際に、お隣、韓国の汚染は妙に軽いと感じたことが度々ありました。第477回「安全になれぬ韓国、手抜き勝手の国民意識が原因」で指摘したように関係各人がなすべきことをきちんとしているのか、疑われるのです。


 では次に、この汚染状況を市民はどう入手するのかです。掲げたのは韓国環境公団「エアコリア」にある6/4の13時現在のPM2.5測定分布図です。17地区の過去24時間、地域ごとの平均値でしょう。数値は低く、最高値は「42」で残りは「12」から「36」の範囲にあります。旅行者にも参照が勧められているサイトですが、局地的に急速に悪化していく場合などには気づかないで困る事態も考えられます。個人的な意見として測定値が過小である可能性を考慮しておくべきなので、韓国旅行は大気汚染に要注意です。

 中央日報の《韓国、粒子状物質リアルタイム分析可能な測定所、全国506カ所中6カ所だけ》が体制不備を厳しく指摘します。中国からの流入分を見積もれないのはこの事情も大きいです。

 《国民がそれなりに粒子状物質予報を通じて知ることのできる情報は濃度だけで、どんな成分を吸っているのかを知る術がない。2010年以降、毎年高濃度の粒子状物質現象が繰り返されているにもかかわらず、このような情報無知現象は改善されていない。環境部の粒子状物質の予報正確度が60%水準にとどまっているのも粒子状物質の成分を測定できる施設が6カ所に過ぎないことと関連があるというのが専門家たちの指摘だ》

 朝鮮日報の《的中率5割のPM2.5予報に不信感、日本気象協会のサイトで情報を得る人も》も不信感を露わにします。

 《微小粒子状物質(PM2.5)や粒子状物質(PM10)に関する韓国環境当局の不正確な予報が、国民を困らせている。濃度が「悪い」レベルに上昇したときでも前日午後5時に発表された予報は「普通」だったり、逆に「悪い」と予報されても実際には「普通」レベルの濃度だったりと、誤報が続いているのだ。「韓国政府の予報は信じられない」と日本のサイトで予報を確認する国民が増えるなど、政府への不信も深まっている》

 日本よりも中国に近く、当然ながら重篤スモッグの影響が大きいはずの韓国でPM2.5のどれだけが中国由来なのか信頼に足る数字が言えないようなのです。第517回「重篤大気汚染がインド亜大陸全域で急速に拡大」でインドやパキスタン、バングラデシュの対策立ち遅れを取り上げました。それに比べれば観測網が整備されていると見える工業国、韓国の内情がお寒いのです。

【2016/07/02追補】ハンギョレ新聞が《韓国環境部、粒子状物質の管理基準に工場排出除外》で、韓国の工場排出規制は大きな0.5ミリメートルまでの粉塵全体での排出重量の規制に過ぎず、PM2.5のような微粒子の規制に対しては「ザル法も同然だ」と伝えました。


熊本の大地震が関西にも地震を呼んだ観測結果

 震源域が東北方向にも拡大して不穏な様相の熊本地震、大学の地震観測ネットワークを参照すると遠く関西地域の地震にも影響していると分かります。地震が連鎖する構図が目で見られるケースなのでお伝えしておきます。


 この観測結果は《全国地震データ等利用系システム》のリンクを利用して、九州大と京都大の地震データにアクセス、「最近の地震活動マップ」を九州と関西、それぞれ拾ったものです。16日午後5時現在で、過去1週間分の九州地域と関西地域の地震発生状況を比較しました。

 下の発生グラフを見比べて下さい。関西地域は週半ばはしばらく平穏だったのに、14日夜の熊本地震「前震」に連動して地震発生が喚起されたと見て取れます。16日未明に熊本の「本震」が起きると再び活発になっています。

 熊本地震は《<熊本地震>異例の続発 九州の内陸部地震では過去100年で最大規模 被害甚大》で《16日発生したM7・3の地震は、熊本地震のM6・5を上回り、1995年の阪神大震災と同規模。気象庁は「14日以降の地震は前震で(今回が)本震と考えられる」との見方を示した。九州の内陸部での地震では過去100年で最大規模。同庁は「このような規模の地震が広域的に続発するのは記憶にない」としている》と報じられています。

 広域さからかなり異例なケースとされますが、そう驚いてはいられません。狭い範囲で見ても、一つの地震で蓄えられていたエネルギーが開放されると、地盤の動きが周辺地域に歪として付加されることがあり得ます。1999年に書いた第75回「大地震に備える時が来ていないか」では、雲仙普賢岳の噴火をめぐり、さらに大きな地球規模で地震火山活動の連鎖に触れています。


大津地裁仮処分は無責任化した規制委への弾劾

 運転中の高浜原発が大津地裁の運転差し止め仮処分で停止する事態になりました。これまでの経緯を知れば唐突な判断ではなく、原発再稼働の安全性に手抜きの姿勢を見せ始めた原子力規制委に対する司法からの弾劾です。今回決定と同じ山本善彦裁判長によって2014年11月、「仮処分命令は、再稼働が差し迫っているという事情が明らかでなければならない」が「規制委がいたずらに早急に、新規制基準に適合すると判断して再稼働を容認するとは到底考えがたい」との理由で仮処分却下の決定がくだされました。しかし、同じ決定要旨で「田中俊一・規制委員長は、申し立て外の発電所の再稼働に関連し、新規制基準への適合は審査したが安全だとは言わないなどとも発言しており、発言内容は、新規制基準の合理性に疑問を呈するものといえなくもない」と極めて重大な疑問符をつけていました。

 2015年4月に福井地裁が規制委審査をパスした高浜原発3、4号機の再稼働を差し止めました。第475回「司法の流れは逆流:裁判官が原発稼働を恐れる」で裁判官は《福島原発事故以前は判決で原発を止めて発生する経済損失の大きさに耐えられない思いがありましたが、事故から4年を経ても10万人以上が避難している現状を見れば、安易に稼働を許して重大事故が発生したら言い訳が出来ない思いになるはずです》と指摘した流れがあります。

 この差し止め処分に対して関電は異議を申し立て、2015年12月に福井地裁は4月の判断をひっくり返してしまいました。「司法審査の在り方」は「裁判所が原子炉施設の安全性を判断する際には、原子力規制委員会の新規制基準の内容や、規制委による新規制基準への適合性判断が合理的かどうか、という観点から厳格に判断すべきだ」と福島原発事故以前の司法に帰っています。「厳格に」と称することで国の専門家の判断に委ねてしまう逃げを打ちました。「規制委の判断に不合理な点はなく、高浜原発の安全性に欠点はない」との結論でした。

 福島原発事故以後の安全対策について、流れを知らない無知な裁判官です。大津地裁・山本裁判長は、田中規制委員長が再三言っていた「原発再稼働の前提として過酷事故時の住民避難計画が策定されなばならない」としっかり認識していたようです。『原発事故時の避難計画、具体化するほど無理目立つ』で福井の例を紹介したように困難であることをつかんでいました。2014年11月の段階で避難計画策定が遅々として進まないと見て、差し止め仮処分決定を急ぐ時期ではないと判断したのでしょう。

 ところが、規制委側は最初の再稼働になった九電・川内原発で避難計画策定が十分でないと知りながら許してしまいました。新規制基準に対応するための安全設備の追加も審査合格から5年まで延ばしました。田中委員長による「基準への適合は審査したが、安全だとは私は言わない」発言まで飛び出して、司法の側は何を根拠に安全を担保できるのか困惑して当然になっています。

 9日の大津地裁・決定理由要旨は「過酷事故対策について設計思想や、外部電源に依拠する緊急時の対応方法に関する問題点、耐震性能決定における基準地震動策定に関する問題点について危惧すべき点があり、津波対策や避難計画についても疑問が残る」とし、関電は福島原発事故を踏まえた原子力規制行政の変化や、原発の設計や運転のための規制がどう強化され、実際にどう対応したか主張・疎明を尽くすべきとしています。訴訟の当事者ではない規制委の「ぶれ」について不信の表明と考えます。

 【3/10追補】朝日新聞が伝えた《高浜原発差し止め仮処分決定の要旨》から新規制基準と規制委への批判、国に注文した部分を引用します。

 ★過酷事故対策――関電は福島第一原発の安全対策が不十分だったと主張するが、福島の事故の原因究明は建屋内での調査が進んでおらず、今なお道半ば。同様の事故を起こさないという見地から対策を講じるには徹底した原因究明が不可欠だ。この点についての関電の主張と立証は不十分で、こうした姿勢が原子力規制委員会の姿勢であるなら、そもそも新規制基準策定に向かう姿勢に非常に不安を覚える。新規制基準と各原発への設置変更許可が直ちに公共の安寧の基礎になると考えることをためらわざるを得ない。

 ★避難計画――関電の義務として直接問われるべきものではないものの、原発で事故が起きれば圧倒的な範囲に影響が広がり、その避難に大きな混乱が生じたことが福島の事故で認識された。国主導での具体的な避難計画が策定されることが必要で、避難計画を視野に入れた幅広い規制基準を策定すべき信義則上の義務が国にある。


重篤大気汚染がインド亜大陸全域で急速に拡大

 重篤なインド大気汚染は首都デリーだけでなくパキスタン、バングラデシュまで含めたインド亜大陸全域に拡大、悪化しています。NGOのリポートが大気汚染物質の平均濃度が昨年初めて中国を上回ったと報じました。グリーンピース・インディアが今月まとめた《Clean Air Action Plan: The Way Forward》がそれです。2011年以前と2011〜2015年を比較できるよう、NASA地球観測衛星「アクア」による浮遊粒子状物質濃度データを利用した汚染分布図を以下に引用します。


 2005年から中国とインドで大気汚染が進みました。中国の場合は2011年に汚染ピークがあり、重篤スモッグ問題の顕在化でそれ以降は改善に転じました。二つのマップ比較でも長江流域を中心に東部と内陸部で良くなっています。ただし、重工業が盛んで石炭消費が大きい東北部は悪化しています。これに対し、ほとんど対策が打たれなかったインドは全域が悪化の一途です。汚染がよく報道されるデリー周辺だけでなくガンジス川が海に注ぐバングラデシュまでの北部一帯、パキスタンのインダス川辺りまでの国境周辺、南インドの高原地帯にまで汚染が広がっています。

 今月半ばには《大気汚染死者は年間550万人、印中で過半数》との報道もありました。《カナダのブリティッシュコロンビア大学の研究によると、インドでの死亡者は約140万人で中国は約160万人だった。両国で全体の55%を占める計算になる》のです。

 昨年末の第509回「あの北京よりデリーはPM2.5で65%悪い大気汚染」で伝えたように《デリーの平均値はそのまま「Hazardous」と表現される厳しい重汚染であり、病弱な人に限らず健康人でも避けたい危険状況です。インドの汚染は自動車や工場からの排出ガス、違法な野焼きにラジャスタン砂漠からのダストが複合したものです》

 グリーンピース・インディアのリポートはインドの大気汚染モニター態勢があまりにも貧弱と指摘します。PM2.5のような微粒子汚染観測基地は全国23都市に39カ所しか無く、900都市に1500カ所もある中国とは比べ物になりません。結果としてインド大都市の大気汚染状況は正確には捕捉されていません。

 インド当局者の見解は少し前までは、中国のように警報を出して社会を統制するのは社会主義体制だから出来ることであり、民主主義のインドでは国民各自の責任で行動すればいいと木で鼻をくくったものでした。しかし、ヒンドスタンタイムズで今回のリポート報道を見ると、デリー科学環境センター幹部が「国の大気浄化プランが必要だ。それに基いて各都市は短期・中期・長期、そして緊急時の対策を立てねばならない。それも直ちにするべきだ」と主張しています。

 実態が知られていないから何もしてこなかったインド政府の不作為は酷すぎます。リポートが使っている衛星観測データは中国でのPM2.5測定値と強く相関しているので大きな誤りは無いはずです。パキスタン、バングラデシュまで巻き込んだ観測網整備と抜本対策が急ぎ必要です。


炉心溶融の判断根拠無いから無しと発表の愚が暴露

 福島原発事故から5年も経って恐ろしく愚かな発表が東電から出されました。大津波翌日から言われていた炉心溶融が2カ月間も政府・東電の発表から消えた理由は、東電が判断根拠を持たなかったからと明かされました。しかも、今になって調べると「社内マニュアル上では、炉心損傷割合が5%を超えていれば、炉心溶融と判定することが明記」されていたので、判断する根拠は備わっていました。大津波4日目には5%を超す損傷が確認されて法令に従った報告書が提出されていたのです。原発のマニュアルは政府の原子力安全・保安院、原子力安全委にも備わっているべきであり、発表の根拠を問う実証的な取材を怠ったマスメディアを含めて愚劣も極まります。

 東電のプレスリリース《福島第一原子力発電所事故当時における通報・報告状況について》は「新潟県技術委員会に事故当時の経緯を説明する中で、上記マニュアルを十分に確認せず、炉心溶融を判断する根拠がなかったという誤った説明をしており、深くお詫び申し上げます」としています。さらに原子力災害対策特別措置法15条で内閣総理大臣が原子力緊急事態を宣言するために報告を求められている「非常用炉心冷却装置注水不能」や「直流電源喪失(全喪失)」などの事象発生報告が遅れた点も反省事項として挙がっています。

 大津波翌日午後の政府記者会見で保安院の中村幸一郎審議官が「炉心溶融が進んでいる可能性がある」と発表したのはよく知られています。しかし、やがて中村審議官は発表の場から消えてしまい、炉心溶融は禁句の扱いになっていきました。「大本営発表報道」に傾いていたメディア各社は、燃料棒が長時間、冷却水から露出した事実を知りながら政府・東電に同調してしまいました。今回の東電発表を責めるなら、自らの愚かさも俎上に載せるべきです。

 大津波翌日の第244回「福島第一原発は既に大きく壊れている可能性」、翌々日の第245回「福島第一原発3号機も炉心溶融、後手の連続」で伝えているように、公表されていた原発敷地での放射線量をウオッチしていれば炉心溶融が無ければあり得ないほど高水準になっていました。

 5月24日に公表された《福島第一・第二原子力発電所への地震・津波の影響について》で73ページを参照してもらうと、1号機の原子炉水位は大津波翌日正午には燃料頂部から1500ミリ以上も下がった最低ラインに落ちています。冷却する水が無いのですから30分、1時間で燃料棒は溶けてしまいます。

 保安院・中村審議官が発表していた時刻には完全に炉心溶融していたのです。住民避難の観点からも安全側に倒して判断する原則が全く機能せず、判断基準が無いから炉心溶融の事実を口にしないとは、何という恐ろしい錯誤・倒錯でしょう。


あの北京よりデリーはPM2.5で65%悪い大気汚染

 北京大気汚染で初の赤色警報が出た時期を含む1週間で比較するとインドの首都デリーのPM2.5濃度は北京の65%増しと分かりました。年明けから車両の通行規制と騒がれるようになるも対策の立ち遅れが目立ちます。汚染のニュースが大きく扱われがちな北京よりもインドの実態が悪いと第391回「インド大気汚染さらに悪化、危険過ぎるPM2.5とPM10値」で伝えました。中国では目覚めた中間層が批判の声を強め、インドではあまりの酷さに富裕層が音を上げたのが実態のようです。


 デリー中心部「Mandir Marg」でPM2.5を24時間測定したグラフです。「Delhi Pollution Control Committee」のページから引用しました。大気1立方メートル当たり138〜262マイクログラムで推移しています。日本の基準からは4〜7倍にも上るのに、冬なら普通の日でこんな汚染が日常化しています。

 北京との比較を報じたのは「STAR DAILY STANDARD TIMES」の《Delhi’s air pollution one-and-a-half times worse than Beijing》です。赤色警報発令は7日から10日昼まででした。3〜9日の1週間測定でデリーは平均230.9マイクログラムもあったのに、北京は139.7マイクログラムに過ぎなかったといいます。

 どちらの数字も日本人には願い下げながら、デリーの平均値はそのまま「Hazardous」と表現される厳しい重汚染であり、病弱な人に限らず健康人でも避けたい危険状況です。インドの汚染は自動車や工場からの排出ガス、違法な野焼きにラジャスタン砂漠からのダストが複合したものです。

 デリーでは来年1月から車のナンバーが偶数か奇数かで隔日しか使えなくする通行規制が発表されました。北京が軍事パレードの時に青空を取り戻したり、赤色警報発令の際に実施した交通規制手法です。しかし、違反を見つけた現場対処できるか疑問が上がり、規制逃れから家庭の車保有台数を増やす結果になるとの危惧が出されています。北京の地下鉄は総延長442キロあるのに、デリーは193キロです。公共交通機関の整備が遅れているのに日常的に規制するのは確かに残酷です。

 赤色警報発令で北京では学校が休校になりました。インドでは一般の関心が低かったので見過ごされてきましたが、北京以上ならば子どもの健康に目を向けねばなりません。デリーでは260万人の子どもが通学し、朝の出勤時と重なるので歩きながら汚染大気を吸い込んでいます。ガーディアンなどの報道によると汚染が酷い時には休校措置が検討され始めました。実施したら頻発になり過ぎるかもしれません。

 屋外の大気汚染のほかにインドでは屋内に重大な汚染要因が隠れています。第210回「2026年インド人口世界一:牛糞が家庭燃料の国」で指摘の牛糞燃焼が微粒子を発生させて、家事を担当する主婦が大量に吸い込むのです。汚染問題を真剣に考えるなら家庭燃料の改革もしなければならないのです。しかし、共産党が独裁でもない膨大な人口の国で舵を切るのは至難です。


甲状腺がん、2巡目で明瞭な放射線影響に気付け

 福島原発事故での甲状腺がん子ども検査で悪性または悪性の疑い人数が増え続けています。福島県関係者は「放射線影響は考えにくい」と言い張るだけで素人目にも明瞭な2巡目の結果を直視するつもりがないようです。1巡目では福島県内全域で甲状腺がん発生が見られたのですが、2巡目で現在までに悪性または悪性の疑いとされた39人を地図にプロットすれば、国指定の避難区域があったり放射能汚染が酷かった市町村に集中しています。事故から時間が経過するほど放射線の影響が強く現れていると解釈すべきです。1巡目の検査では悪性または悪性の疑いとされた人数は112人にのぼりました。


 地図の赤い数字は2巡目で悪性または悪性の疑いとされた人数で、いわき市の1人を除いて白い部分にあります(原資料)。白い部分の25市町村とは国指定の避難区域等があった13市町村に、福島・郡山など放射能の雲が何度も通過して汚染が酷かった中通りの12市町村です。『この放射能の雲の下に膨大な人がいた事実に戦慄』に引用している汚染地図を参照して下さい。

 10人と最多の郡山市、8人の福島市、7人の伊達市、いずれも市街地に汚染が高濃度に広く残ったことが知られています。参照の汚染地図にあるようにグレーの34市町村の中でも、いわき市は放射能の雲が通過して関東に流れた特別な街です。

 一次検査は白の25市町村が26年度実施だったのに、グレーの34市町村は27年度実施であるために要精検者に対する二次検査が少し遅れています。二次検査受診率は白の地域で77%、グレーの地域で33%です。未受診者の中からまだ悪性が出る可能性は高いでしょうが、放射能の雲が通った地域が特異に多い傾向は覆らないでしょう。

 2巡目で甲状腺がん確定数が増えた点について報道で、福島県の有識者検討委、星北斗座長は「チェルノブイリの原発事故に比べ被ばく線量が少なく、事故当時5歳以下の発症がないことなどから、これまでと同じく放射線の影響は考えにくい」と評価したとされました。

 しかし、10月に岡山大・津田敏秀教授の研究グループが国際環境疫学会が発行する医学雑誌「Epidemiology」(インターネット版)で「甲状腺がんの多発は県関係者が言うスクリーニング効果では説明できない」とする研究を発表しています。ただ、上記の公式見解が念頭にあるマスメディアの反応は鈍く、大きくは報じられていません。

 拙稿第472回「甲状腺がんで福島事故否定する見苦しい科学者」で指摘しているように、山下俊一氏らの仮説は現実に破綻をきたしています。2巡目の新傾向についても説明できないでしょう。《「福島の子供の甲状腺がん発症率は20〜50倍」 津田敏秀氏ら論文で指摘》によれば津田教授は現状について「チェルノブイリで4年以内に観察された甲状腺がんの多発と一緒であり、チェルノブイリ同様、5〜6年目以降の大きな多発は避けがたい」と主張しています。


虚飾の青空剥がれ北京に重篤な大気汚染が戻る

 中国の北京を中心にした華北一帯が今月初めに続いて重篤な大気汚染に見舞われています。16日昼から始まって17日中は継続する見込み。国威発揚の軍事パレード向けに無理やり実現した青空は跡形もありません。人民日報は中度汚染の天気予報を出していましたが、北京中心部などで大気質指数が300を超え屋外活動中止の重汚染が広がっていると、以下に掲げる米国大使館サイトの地図から読み取れます。指数が400台に乗っている地点があり、PM2.5濃度が1立方メートル当たり200マイクログラムを超えています。


 茶色のマークが重汚染、紫色が激しい屋外活動を中止すべき中度汚染(指数201〜300)です。中度汚染の範囲は南の長江流域までも伸びています。赤色の軽度汚染は北は吉林省から中国全土に及びます。《大気汚染で白くかすむ北京の風景!全国広範囲にわたって「視界不良」に―中国》は《東部の江蘇省連雲港市では今秋最悪の濃霧が発生。わずか50メートル先までしか見えないエリアもあり、山東省でも高速道路を走る車両が速度を落とす様子が見られた》と伝えました。

 今月5、6日に重篤スモッグが発生した際には北京市当局から「黄色警報」が出され、建設・土木現場で作業が中止されました。これでは焼け石に水です。軍事パレードの青空は北京と周辺の6省市で1万の工場と4万の建設現場が操業停止に加え、全車両の半分はナンバーの奇数・偶数で隔日使用停止という強権発動で実現された付け焼き刃でした。

 これから暖房に石炭を使うシーズンに入れば、昨年の第412回「中国重篤スモッグの巨大さが分かる衛星写真」で紹介した驚異的な大気汚染が再現されるに違いありません。汚染改善は遅々として進まず、8月には《中国では大気汚染で毎日4400人が死んでいる(研究結果)》が《カリフォルニアを拠点とする気候調査団体「バークレイ・アース」によると、中国では毎年約160万人死んでいると推定した。死因は地方の大気汚染による健康被害だ》と報じています。


甲状腺がんで福島事故否定する見苦しい科学者

 福島の子どもに多発している甲状腺がんは「放射線の影響とは考えにくい」と専門家評価部会が中間報告をまとめました。彼らのボス、山下俊一氏が「もう増えない」と1年前にした予測と正反対の現実なのに唖然です。科学者が立てた仮説に現実が反していたら、仮説を疑うのが科学の大原則です。「100万人に1〜2人」とされてきた従来の甲状腺がん発生頻度に対して、事故当時ほぼ18歳以下の38万5千人を調べて、これまでに87人のがんが確定しています。これは第一次検査段階である1年前の倍増以上です。「スクリーニング効果」では抗弁し得なくなっています。

 山下氏は首相官邸の《福島県における小児甲状腺超音波検査について》で《医療界ではよく知られたスクリーニング効果(それまで検査をしていなかった方々に対して一気に幅広く検査を行うと、無症状で無自覚な病気や有所見〈正常とは異なる検査結果〉が高い頻度で見つかる事)の発生が懸念》と説明しました。

 さらに1年前の国際ワークショップ《福島の甲状腺がん「放射線影響ではない」?国際会議》報道でこう述べたとされます。《山下教授は、福島県の甲状腺健診で甲状腺がんの子どもがすでに33人手術を受けていることにについて、「5〜6年目にチェルノブイリと同じになることはない」と発言。(1)チェルノブイリと福島では放射線量が異なる、(2)スクリーニング効果が生じている、(3)ハーベストエフェクト(死亡後に発症する病気がスクリーニングによって事前に発見されること)という3つの理由から、「今後も増えるだろうとは予測していない」と結論づけた》

 昨年末の第459回「福島の甲状腺がんは原発事故原因が決定的に」では、1巡目検査で「異常なし」グループから4人が強い甲状腺がんの疑いに進んだ点を中心に取り上げました。これまで知られていなかった事実、2011年3月15日以降に事故当初よりも大量の放射性ヨウ素放出があったとNHKが報じたと指摘しました。3つの原子炉が順次、炉心溶融事故を起こし、その後からさらに多くの放出が続くとはチェルノブイリとは違いすぎていて、山下仮説で説明がつくとは考えられません。

 チェルノブイリ事故当初に使えた医療検査機器は貧弱であったと知られています。山下氏も認めているように現在の日本と検査のレベルが違うのです。日本が過剰な検査であると見るより、現実を映していると考える方が科学のアプローチとして自然です。

 今回、最も詳しく報じている朝日新聞の《福島)甲状腺検査「勧めることが望ましい」 県評価部会》は全国向けでない福島版の記事です。《部会では複数の専門家が、大部分は比較的進行がゆっくりな甲状腺がんについて健康な子どもを網羅的に検査することで、必ずしも治療しなくてもいいがんを見つける過剰診断の恐れがあると警鐘を鳴らした》と山下仮説が生きていると伝えています。それならばこれに反対する立場の専門家のコメントが必須なのにありません。他のメディアの記事にも異論がある専門家は登場しません。見苦しい科学者にマスメディア全体が同調しています。これは際立って異常な事態です。


中国大気汚染ドキュメは4億視聴も抹殺の動き

 中国の女性記者、柴静さんが自主制作した中国大気汚染ドキュメンタリーが推定4億視聴と網易教育サイトが伝えました。しかし、中国ではネットで見られなくなり、人民日報が記事削除と政府側に抹殺の動きがあります。一方で全国人民代表大会直前に清華大学長から環境保護大臣に起用された陳吉寧氏は、これまでの無能な大臣とは異なり、環境汚染に強い危機感と巨額予算の必要性を表明しました。環境保護を巡るせめぎ合いはマダラ模様で進んでいます。

 先日の第468回「中国大気汚染に女性記者がNスペ自作、視聴1億超」で紹介の「穹頂之下(Under the Dome)」が「7日から動画サイトで視聴不可」と報じたのは8日のAFP通信です。これと同時に公開当初は好意的に伝えていた中国共産党機関紙、人民日報が関連記事を削除したようで、「柴静」でサイト検索しても2月17日までの昔の記事しか現れなくなりました。人民日報日本語版でも検索すると4本の記事がヒットしますが、記事の本文は削除されて見られません。しかし、4億の閲覧は中国のネット人口が6億5000万人であることを考えれば強烈な影響を残したと言えます。

 凸凹模様と言うべきか、その記事のひとつは中国網日本語版《中国、PM2.5テーマの人気ドキュメンタリー 環境保護部「意義ある」》に転載されていて読めます。頭隠して尻隠さず状態になっています。

 《中国中央テレビ(CCTV)の元記者・柴静さんが自費製作した環境保護がテーマのドキュメンタリー「穹頂之下」(103分)が2月28日、インターネットを通して発信され、話題を呼んでいる。陳吉寧・環境保護部部長は1日午後、記者会見で、同作品を見たことを明かし、「国民の環境保護に対する意識が日に日に高まっており、環境の質の改善や健康な体を守ることに対する強い期待が感じられた。国民全体に対して環境問題に対する関心や自覚を呼びかけ、社会全体で協力して環境保護のために努力するのに意義がある」との見方を示した。人民網が報じた》《「これは、ニューメディアの時代において、政府メディアと国民がいかに触れ合えば良いかを示している。メディアを通して、環境情報を積極的に発信し、国民の環境保護業務に対する支持を得、参加に対する自覚を呼びかけるべき」と指摘した》

 とても真っ当な指摘ながら、メディアの統制は環境保護部とは全く別の共産党宣伝部門が担当しています。大気汚染ドキュメンタリーを4億人が見てしまえば、いまさら無かったことには出来ないのですが、ネット上で視聴した人から「責任は政府にある」との書き込みが氾濫していますから、官僚的な対応が発生してしまうのかもしれません。

 新しい環境保護大臣は強いメッセージを発信しています。《中国環境相「わが国の汚染物質排出強度は、史上最悪とされたドイツや日本をはるかに超えている」―中国メディア》では「人口密度や工業化による単位面積当たりの汚染物質排出量では、われわれはすでに過去最悪だったドイツ、日本を2−3倍上回っている」「われわれは人類史上いまだかつてないレベルの、発展と環境間における矛盾に直面している。環境問題は国民生活や民族の未来に関わる長期的な問題。その解決を急ぎ過ぎてはいけないが、おざなりにするのはもっといけない」と語りました。これとは別に数年で最大190兆円の投資が必要になるとも言っています。研究者だけあって、これまでの官僚とは違う取り組みが期待できるかも知れません。


中国大気汚染に女性記者がNスペ自作、視聴1億超

 深刻な中国大気汚染に欠けていた“NHKスペシャル”を中央電視台記者だった柴静さんが自主制作して公開。中国版ユーチューブでの視聴回数は1億を超え、コメントが1日で5万以上と熱狂的に迎えられています。語りや表情までNHKキャスター国谷裕子さんを連想させる細身の柴静さんが、2000万円と言われる私財を投じて作った104分のドキュメンタリーです。重篤スモッグが注目された2013年から関心を持って追っていますが、中国側にまともな報道番組が出ない不満を持っていました。あのような独裁体制の国だから出来なくて仕方がないかと思っていたところに、汚染源に当たる企業、業者までほとんど実名で登場、政府や大手国有企業も批判してしまいます。


 写真は重症患者の映像を語る柴静さんで、ユーチューブの記録ビデオ「穹頂之下」から引用しました。

 10年前、山西省の空が石炭採掘で暗く汚れていた取材経験から、現在の全国的な大気汚染状況まで語っていきます。科学的な分析を加え、微粒子PM2.5を中心にした汚染物質が体内に侵入する場面はかなり手間がかかったアニメを作っています。現場への直撃取材、専門家たちへのインタビュー、統計データや過去映像が豊富に使われ、中央電視台(CCTV)退職から1年がかりで制作したとはいえ、相当なチームを用意したと見えます。

 ビデオに中国語の字幕は付いていますが、断片的にしか分かりません。日本語で書かれた解説記事《台湾メディアが報じる柴静の「穹頂之下」から見える習近平政権の思惑》をお勧めします。

 調査を始めた動機はビデオから彼女自身の言葉です。《2013年1月の北京は、25日間「濃霧」の状態でした。当時、私は陝西省、河南省、江西省、浙江省に出張に出ていました。感じることができるのは喉だけです。それでも、空を見上げてみれば、25の都市と6億人を飲み込む大「濃霧」でした。北京に帰って来た後に、私は自分が妊娠していることを知りました。普通、女性にとって心踊る瞬間ですね。私は何も期待をしませんでした。彼女が健康で生まれてくれさえすれば、と》。《私はその後離職し、彼女を見守ることにしました。でも、帰り道、いつも怖かった。空気からは焚き火のような味がしました・・・。この「濃霧」は2カ月続きました。このことは、私にこの「濃霧」がすぐに無くなるものではないことを思い起こしました。10年前に山西省で生活していた時の空と全く同じだったのです》

 解説記事の「編集後記」は《柴静には強力な後ろ盾があるはずです。国家のトップ級だと思います。そうでなければ、インターネット系とは言え、全国配信をこれだけ長い間できるはずがありません。また、人民網に声明を載せることもできません。むしろ、すぐに捕まるでしょう。この動画の中で攻撃されている対象は、大手国有企業です。特に鉄鋼、発電、石油関連、すなわち昔から非常に力が強かった超巨大な中央系国有企業です》と指摘します。

 《画像の中に強烈な一言があります。中国石化の方がインタビュー上で、「もうどうしようもない。企業は太りすぎた。それも水ぶくれだ」と話す部分があります。当事者からこのコメントを吐かせるだけでも相当に強烈なインパクトがありますし、背景に巨大な力が動いていることが分かります》

 北京で開幕の全国両会(全国人民代表大会と全国政治協商会議)直前の時期に公開されて話題になった点も重要でしょう。昨年夏の第439回「中国の大気汚染、改善遅く改革に絶望的閉鎖性」の冒頭でこう描きました。

 《中国の大気汚染、微粒子PM2.5による重篤スモッグの改善は遅々として進まないと判明。環境保護法を改定し、門前払いだった裁判で環境訴訟を取り上げる準備はしたものの特定NPOしか訴えられぬ閉鎖的改革です。日本と同じ無過失責任の法体系をテコにして環境汚染源を封じていくには、広く国民の訴えを生かすべきなのです。ところが、民衆に自発的な行動力を発揮させるのは共産党指導部には怖くて仕方ないと見えます。官製のお仕着せ訴訟でぼつぼつ進むのでは済まないほど、空気も水も土地も汚染は深刻かつ広範囲です》

 荒療治が必要と、権力を持つ側が判断し始めた可能性があります。第465回「中国大気汚染は北京より地方省都がずっと深刻」にあるように逃げ場がない全国スモッグに国民の不満は渦巻いています。


中国大気汚染は北京より地方省都がずっと深刻

 重篤スモッグで世界から注目される北京よりも、地方の省都の方がPM2.5による被害がずっと深刻であると判明しました。北京大の調査で10万人当たりの死者数が百人を超える10市に比べ北京は79人に留まりました。2013年時点で河北省の石家庄134人、山東省の済南128人、湖南省の長沙124人など北京の西や南、さらに内陸部の方が大気汚染はひどいと示しています。新華社が伝えたランク表から22位の北京まで上位部分を以下に引用します。


 《中国初のPM2.5による死者データ発表、石家庄や済南は最も深刻》は全国31の省都・直轄市でPM2.5による死者は人口10万人当たり90人と報じました。喫煙による死者は70人、交通事故による死者は9人に過ぎませんから、健康へのリスクは非常に大きくなっていると言えます。北京の場合はこの平均値よりずっと低いのです。上海も20位ですから北京とほぼ同列です。

 昨年10月の報道で、北京のPM2.5飛来元は地方からが通年で28〜36%ながら深刻な汚染時には50%以上にのぼると北京市環保局の見解が伝えられました。昨年の「APECブルー」実現に河北省などの工場操業停止が必要だったわけです。北京市を政治、文化、国際交流、科学技術革新の中心にし、これに合わない汚染企業300社を操業停止と撤退にする方針が打ち出されましたが、安定した青空を取り戻すには全国的な改善が不可欠と見られます。

 昨年3月の第412回「中国重篤スモッグの巨大さが分かる衛星写真」でそれぞれ900キロずつ離れた北京、西安、南京3都市を覆い尽くす巨大スモッグを載せました。今回のランク上位の都市は多くがこの3都市三角形に含まれています。


越境PM2.5汚染、午前4時に観測地点の2割が基準超に

 北京で続いていた重篤な大気汚染が北西の風で拡散、越境して17日午前4時現在で全国の観測地点の2割に当たる270で、環境基準のPM2.5大気1立方メートル当たり35マイクログラムを超えました。行政の決めている注意喚起レベル85マイクログラム超えは徳島と熊本の5地点に限られていますが、16日午後11時には43地点にも達していました。


 環境省のデータを集約している《PM2.5まとめ》から汚染分布地図を引用しました。中四国と九州、それに大阪湾岸のほとんどの地域が環境基準を超えているのが見て取れます。汚染は17日の午前中はレベルが高いまま継続する見通しです。昨年2月には観測地点の半分を超える600にも達した越境汚染が起きていました。『北京の重大気汚染は16日以降、西日本に越境』を参照ください。


北京の重大気汚染は16日以降、西日本に越境

 今年に入って最も本格的な大気汚染が北京で3日間継続中です。16日には北風が吹き出して解消に向かうのですが、拡散する重篤スモッグの向かう先は西日本で、17日にかけて環境基準を超える観測地点が多発しそうです。


 北京の米国大使館が午後2時現在で公表している過去2日間の汚染状況です。北京の気象台はPM2.5が大気1立方メートル当たり200マイクログラムを超えると予想し、気温も零度を下回るようなので外出を控えるように警告していました。現実には北京中心部で400から500マイクログラムの非常に高濃度のPM2.5汚染です。


 日本の「SPRINTARS」による17日午前3時の汚染予測図です。北京付近にあるスモッグが越境して西日本を覆う状況が分かります。17日にかけて東海から西、近畿、中四国、九州・沖縄にかけて環境基準超え、さらにそのほぼ倍である注意喚起レベルも超えると予想されています。昨年2月の第411回「越境PM2.5スモッグ、広域で注意喚起レベル85超」では環境基準超えが観測地点の半分を超える600にも達したと伝えました。


福島の甲状腺がんは原発事故原因が決定的に

 福島の子どもたちに発見されている甲状腺がんが原発事故による発症である疑いが決定的になってきました。原発サイトからの放射能流出が長期に渡った点も新たに判明、原因でないと否定していた行政側見解が崩壊です。事故直後の甲状腺検査で異常なしだった子ども4人に、今年になって2巡目の検査で「がんの疑い」が報じられました。

 日経新聞の《子供4人、甲状腺がん疑い 原発事故直後「異常なし」》がこう伝えました。《今回判明したがんの疑いの4人は震災当時6〜17歳の男女。1巡目の検査で「異常なし」とされていた。4人は今年4月からの2巡目検査を受診し、1次検査で「B」と判定され、2次検査で細胞などを調べた結果「がんの疑い」と診断された。また、1巡目で、がんの診断が「確定」した子どもは8月公表時の57人から27人増え84人に、がんの「疑い」は24人(8月時点で46人)になったことも新たに判明した》


 《幻の放射性ヨウ素汚染地図を復活させる【福島県版まとめ】》から引用させていただいた汚染分布地図です。米国の航空機モニタリングが原データで福島県の東半分しか描かれていませんが、セシウム134に比べてヨウ素131の分布が南部にも西部にも厚く広がっている点が見て取れます。

 どうしてこのような差があるのか不思議でした。21日放映のNHKスペシャル「メルトダウン File.5 知られざる大量放出」が謎を解いてくれました。これまで政府事故調などが調べてこなかった2011年3月15日以降に大量放出が続いていたのです。1号機や3号機の水素爆発、2号機の格納容器破損による放射能流出は全体の25%ほどに過ぎず、15日以降こそが流出本流だったと言えます。その中にヨウ素131が特異に多い流出もあり、南に西に福島県内に広く流れたようです。地図は土壌に沈着した分だけであり、揮発性であるヨウ素は空気中に大量に拡散したでしょう。甲状腺に蓋をするべきヨウ素剤は配布されませんでしたから子どもたちは無防備のまま置かれていました。

 報告されている甲状腺がん患者の分布は福島県全域に広がっており、原発サイトから北西方向に汚染の主流がある状況と差がありましたが、この疑問も解消です。福島県はチェルノブイリ事故での甲状腺がん増加が4、5年経ってから起きたことを論拠に、福島での甲状腺がんは多数の検査をしたため普段は見つからない例が掘り起こされたもので事故とは無関係との見解でした。最初の爆発が圧倒的だったチェルノブイリに比べて、福島では放射性ヨウ素への被ばく状況は大きく違ってきました。チェルノブイリ後の再現でないから原発事故の影響でないと否定するのは非科学的です。

【12/25追補】3月15日以降の放射能放出が事故当初よりも大きいとすれば、『SPEEDIデータ隠しで乳児を犠牲にした政府』で取り上げた首都圏への汚染ルート地図を改めて見直したくなります。粉ミルク製造での混入(埼玉)や東葛地域など各地にホットスポットを作った放射能の雲はこれまで思われていたよりずっと強力だったのです。雨が少なかったので沈着しないで首都圏の巨大人口を通り抜けていった「見えない恐怖」に思いを致さざるを得ません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


毛沢東提唱の巨大送水事業、完成もママコ扱い

 建国の父、毛沢東が言い出した巨大送水事業「南水北調」の中央ルートが完成し12日に北京に向け送水を始めたのにママコ扱いです。全長1400キロの水路を通った水が使い物になるか、根本的な不安があるからでしょう。中国政府による式典もなければ、メディアも淡々と報じるだけ。昨年完成の東ルートの水は受け入れの天津市から飲用には出来ないと判断されています。実は確実に飲用になる海水淡水化プロジェクトが進行中で、渤海から270キロの送水が2019年には出来るかもしれないと人民日報が伝えています。既存の湖や運河を結んだ東ルートと違い、工費4兆円がかかり住民33万人の移転を強いた中央ルート完成を祝賀できない事情に同情します。


 中央ルートは長江の支流、漢江の丹江口ダムから北京まで1246キロを標高差100メートルを利用して自然流下させます。水路の傾斜はとても小さいので水が北京まで到着するのに15日かかるといいます。12日に送水し始めて年末に届く見込みです。水源の丹江口ダムの水質は公式には改善されたとなっていますが、まだ水処理不十分の生活廃水が流れ込んでいるとメディアは伝えています。長江下流から取水して何段もポンプアップしていく東ルートは工業地帯がある湖などを通るので条件は更に悪くなります。

 AFP=時事の《中国の水資源移動、地方軽視の中央政治》は住民からこのように取材しています。《国営メディアによると、中央ルートの建設で少なくとも河南省と湖北省の33万人が移転を余儀なくされた。このうち大半は職にも就けない状況で、雨漏りのする粗末な家に住み、補償を受け取ったという人はほとんどいない。ジア・シンロンさんたちが別の集落に移ったのは今から3年前。何世代にもわたって使われてきた家具や農具を村中で大型トラックに積み込んだ。「新天地」は300キロ以上離れた平原の中に同じ形の家がいくつも並ぶ移民用の集落だった。見た途端に泣き出す人もいたという》

 動き出したら住民の状況など顧みない中央集権政治の犠牲者だと、米国の研究者たちが指摘しています。考えるべきだった海水淡水化のオプションは最近になって現れました。

 海水淡水化プロジェクトは4月に人民日報の《北京に供給される海水 蛇口をひねるだけで飲める》が報じました。《北京の住民の水道料金は現在1トン当たり4元だ。王氏は北京への淡水供給についても、1トン約8元に抑えられると計算した。北京への淡水供給プロジェクトは、淡水化プラントと送水管の二つに分かれる。淡水化プラント1期の規模は日産100万トンに達し、総工費は70億元となる。海水淡水化費用は、1トン当たり約4.5元となる。また曹妃甸と北京を結ぶ全長270キロの水道管の総工費は100億元に達し、送水費用は1トン当たり2.5〜3.5元に達する》

 日産100万トンで北京の水使用量の10%に相当し、南水北調中央ルートの水より安いかもしれません。少なくとも追加の水処理が必要無い、きれいな水が雨季や乾季に関係なく確実に送られてくるのです。南水北調では南部で水が潤沢な時期に送水することになっており、既に東ルート取水で上海市の水道取水に塩分が増える副作用が発生しました。南部だって水が有り余っているわけではありません。第402回「南水北調は中国経済成長持続の難題を解けずか」〜大気汚染と並び未来占う鍵〜で、きれいな水と空気が足りないで膨大な数の人が生きていけるか問いかけました。


APEC中の北京スモッグ、ついに重度汚染に

 APEC首脳会議が始まった10日夜、北京市内の万寿西宮でPM2.5の濃度が150マイクログラム/Lを超えて重度汚染状態になりました。朝方は優良な大気状態でしたが南の風が内陸部の汚染を持ち込んだようです。11日の午前中までは悪化が続きそうで、その後、北の風が吹き出して改善されそうです。中国は国に威信をかけて各国首脳にスモッグを見せまいとしたのですが、本質的な大気汚染改善ではないので天候に振り回されます。


 全国都市空気質実況センターが午後9時現在で配布した汚染地図です。北京の南や東、天津や唐山は朝から重度汚染でした。首脳会議の会場ナショナルコンベンションセンターがある朝陽区でも既に中度汚染になっています。

 第451回「北風に頼る北京大気汚染、APECでの威信に不安」でクルマのナンバーが偶数か奇数かで北京乗り入れを日替わり規制するなどの対策を紹介しました。このほか行政機関や学校はAPEC期間は休みにし、汚染源と目される工場多数の操業も停止させるなど中国政府は打てるだけの手を尽くしていました。万寿西宮でのPM2.5濃度推移グラフも引用しておきます。



 【追補】PM2.5濃度推移はその後こうなり、改善されました。





勘違い知事発言の川内再稼働は大きな禍根になる

 鹿児島・川内原発の再稼働をめぐって恐るべき知事発言が飛び出しました。原発過酷事故が発生しても住民避難の必要は無いと言い切ったのです。避難計画の不備対処に注目していたら実は全くの勘違いをされていました。原子力規制委員長は当初から規制基準審査のパスと住民避難計画整備はセットになるとの認識を示しています。実効性がある住民避難計画が出来ないで再稼働は許されないと、はっきりさせるべきです。監視役のマスメディアがこれをいい加減にしている点が非常に不可解です。

 毎日新聞の《川内原発再稼働同意:「命の問題発生せず」鹿児島知事》が最も詳しく再稼働に同意する伊藤祐一郎知事の発言内容を伝えています。

 《原発事故への不安については「福島であれだけの不幸な事故が起きた。安全神話が全部崩れたのは確かだ」との認識を示しながらも、原発事故後に設けられた国の新規制基準を高く評価。原子力規制委員会の指針や九電の評価を引用し、事故が起きても原発から5.5キロの放射線量は毎時5マイクロシーベルトだとした上で「避難の必要がない。普通に生活してもいい」と述べ、「もし福島みたいなことが起きても、もう命の問題なんか発生しない」と明言した》

 毎時5マイクロシーベルトなら年間積算で50ミリシーベルトに迫りますから、避難の必要が無いとするのは極端に安全と考える専門家だけでしょう。現実にこの線量値を示されたら大多数の住民は必要無いと言われても逃げ出します。しかも原発事故の特性上、確率は低くても福島事故以上の放射能流出はないと言い切れません。どんな重大事故になっても毎時5マイクロシーベルトまでと保証できるはずがありません。防護バリアが破られる確率を低く出来ても絶対に破られないとは言えず、その時のために住民避難計画が要るのです。

 朝日新聞の《30キロ圏外へ住民9割避難、最大28時間 川内原発》はこう報じています。《鹿児島県は29日、原子力規制委員会の優先審査が進む九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)で重大事故が起きた際の住民の避難シミュレーションを公表した。30キロ圏内の21万5千人の9割が圏外に逃げる所要時間は9時間15分〜28時間45分。だが全員が圏外に避難を終えるのにかかる時間や、市町別の避難時間は試算していないとして、公表しなかった》

 避難は全員が逃げてこそ完了するとの常識が鹿児島県には欠けています。不思議な県だと思っていたら、避難する必要が無いと考えていたのですから驚きです。『原発事故時の避難計画、具体化するほど無理目立つ』で指摘したように避難計画を仕上げるのはとても困難です。川内原発が先例になって避難計画など不要となったら大変です。

 川内再稼働には火山学会からも火山噴火の予知が出来ると決めつけるのは問題とのクレームが付きました。第386回「前のめる原発再稼働:新規制基準なら万全と錯覚」にあるように政府も再稼働を求めるだけで十分な手を尽くしていません。こんな状態で地元同意の手続きが終わった、再稼働に突っ走るだけになってよいはずがありません。


北風に頼る北京大気汚染、APECでの威信に不安

 来月7日から北京で開くアジア太平洋経済協力会議首脳会合を前に10月に入って重篤スモッグが頻発しています。海外からの観光客減少も認めざるをえない状況で、ホスト国の威信守れるかは強い北風が吹くかが頼りです。26日午後2時現在、米国大使館の汚染測定グラフを下に掲げます。微粒子PM2.5濃度が日本基準の10倍はある「厳重汚染状態」が続いていたのに、一番下の「風」が吹き出した途端、一気に優良な大気に変わっています。


 この風も北風でないといけません。北京の風は明日27日の昼ごろから南風に変わっていきます。大気汚染源は中国内陸部に広がっていますから、南風は汚染物質を運んできて再びスモッグ状態に転落します。10月に入って北京では上から2番目のオレンジ警報が相次いでいます。20日には3万人参加の北京国際マラソンが重篤スモッグにもかかわらず強行されました。「参加者の半分は海外や北京以外からであり中止して混乱させられなかった」と主催側は弁明していますが、走った人にはあまりに残酷で中国国内のネットでも強い批判が噴出しました。

 12日までのAPEC期間中は北京市内の政府機関や学校などを6連休にすると発表されています。民間企業に6連休は強制されませんが、自動車ナンバー末尾が偶数か奇数かでマイカー利用を日替わりで禁止する「奥の手」が発動されます。2008年の北京五輪の際に効果を発揮しました。しかし第398回「中国政府も深刻大気汚染の底知れ無さに目覚める」でグラフを掲げて指摘したように、新車販売台数の累計を見ると2008年までが4316万台なのに、2013年には1億1099万台にも達しました。2008年の倍以上、おそらく3倍のクルマが走っているのですから半数を止める対応で済ませられる段階を過ぎています。第412回「中国重篤スモッグの巨大さが分かる衛星写真」にあるNASA写真には小手先対策の無力を感じざるを得ません。

 新華社の《中国を訪れる観光客の減少傾向止まらず 主要因は深刻な汚染―キューバメディア》は中国観光研究院の報告から《2013年に中国を訪れた観光客は延べ1億2907万7800人で、前年より2.51%減少。中国滞在に対する満足度も75.4%で、前年比11.41%のマイナスだった。その主な原因は、水や空気の質に対する満足度が下がったことにあった。入国者数の減少は12年の第1四半期から始まっており、すぐに回復する気配はない》と伝えました。


ウナギ削減のウソ、近年稀な豊漁から2割だけ

 絶滅危惧種に指定されたニホンウナギを保護するための国際協議がまとまりましたが、開いた口が塞がらない無意味な合意です。稚魚の各国養殖場投入量を昨年の3倍豊漁だった今年分から2割削減するだけなのです。水産庁は何らかの規制を打ち出さないと、一足早く絶滅危惧種になったヨーロッパウナギのように国際的な取引規制が掛かるのを恐れてアリバイ的な削減合意をしたと評さざるを得ません。それをきちんと伝えるマスメディアが無く、持続的な資源保護が可能か論じるどころか、相変わらず食べる心配が先に立ちます。6月に『絶滅危惧種指定、ウナギの食べる心配報道は異様』と批判した状況と変わっていません。


 「シラスウナギの豊漁報道の異常性」からウナギ稚魚の漁獲推移グラフを引用させていただきました。2013年には5.6トンにまで激減したのが今年は15トンほどに増えました。特に資源保護策があったわけではありませんから、全くのフロックと見るべきです。来年以降、稚魚の漁獲は減るでしょう。今回の削減規制量よりも稚魚が採れない可能性が高いのです。

 水産庁の「ウナギの国際的資源保護・管理に係る第7回非公式協議」はこう合意を伝えました。《日本、中国、韓国及びチャイニーズ・タイペイの4者間で、以下を内容とする共同声明を発出することで一致しました。(1)各国・地域はニホンウナギの池入れ量を直近の数量から20%削減し、異種ウナギについては近年(直近3カ年)の水準より増やさないための全ての可能な措置をとる》

 ニホンウナギについても「直近3カ年」が比較のベースなら少しは意味がある削減になったであろうことは、上のグラフを見れば分かります。異種ウナギとは規制をくぐり抜けた密輸のヨーロッパウナギや東南アジアのビハーラ種で「増やさない」とは大甘な規制です。


 世界のウナギ消費量の7、8割は日本人のお腹に入るとされています。養殖池に入れられるウナギの稚魚シラスウナギの資源量がどう変動したのか、グラフで生産量推移と対照しました。資源量のグラフは温帯ウナギ3種について1960〜70年代を100とした推移であり、絶対量推移ではありません。ニホンウナギは1980年には既に資源が減っていますが、ヨーロッパウナギやアメリカウナギは豊かだったのです。それが1990年に向かって奈落の底に沈んでいきます。ヨーロッパウナギは中国が安く輸入して養殖、日本のウナギ消費が価格が下がって大衆化していく過程でどっと日本市場に流れ込みました。

 こうして世界のウナギ資源を食べ尽くしてきた現実をメディアは未だに直視しないようです。国際自然保護連合から絶滅危惧種指定の次は、国際的な取引規制です。ニホンウナギ稚魚の輸入が絶たれたら国内業界には甚大な打撃です。メディアは警鐘を乱打するべき時期を失しています。


中国の大気汚染、改善遅く改革に絶望的閉鎖性

 中国の大気汚染、微粒子PM2.5による重篤スモッグの改善は遅々として進まないと判明。環境保護法を改定し、門前払いだった裁判で環境訴訟を取り上げる準備はしたものの特定NPOしか訴えられぬ閉鎖的改革です。日本と同じ無過失責任の法体系をテコにして環境汚染源を封じていくには、広く国民の訴えを生かすべきなのです。ところが、民衆に自発的な行動力を発揮させるのは共産党指導部には怖くて仕方ないと見えます。官製のお仕着せ訴訟でぼつぼつ進むのでは済まないほど、空気も水も土地も汚染は深刻かつ広範囲です。

 時事通信の《大気汚染なお高水準=上半期、オゾンが増加―中国》が22日付の中国メディアを引用して報じました。《環境保護省は今年上半期の大気中のPM2.5の平均値について、北京市と周辺地域では1立方メートル当たり100マイクログラムだったことを明らかにした。2013年通年に比べ6マイクログラム改善したが、中国の環境基準の3倍近い水準にある。一方、窒素酸化物などの光化学反応で生成されるオゾンは、前年同期比7.2%増加。全国でも上昇が見られ、PM2.5などと並ぶ主要汚染物質となっている》

 74主要都市で環境基準を満たすのは3都市しかなく、北京、天津両市や河北省では年間6割以上が重篤スモッグに覆われる惨状は変わっていないのです。夏場の今ごろは比較的軽い汚染であるものの、北京の米国大使館が出す観測指標はしばしばPM2.5が100マイクログラムを超えている「AQI150超」です。

 AFPの《中国、法改正や特別法定設置で環境対策 実施は困難伴うとアナリスト》は指し示す方向は正しいが、実現性を疑います。《3月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の閉幕にあたって行われた記者会見で、李克強首相は、「環境汚染問題に宣戦布告する」と表明。小規模の石炭火力発電施設5万か所を閉鎖することや、ガス排出量の多い古い車600万台を廃車にすると明言した。政府は4月には環境保護法を25年ぶりに改正。施行は2015年で、違反行為への罰則が強化されるほか、一部の非営利団体に環境関連の訴訟を起こすことが認められる。さらに、中国の最高人民法院(最高裁)は今月3日、環境問題に関連した訴訟を審理するための特別法廷を設置したと発表した》

 特別法廷設置を伝えた《中国最高裁、汚染に特化した特別法廷を設置》で過去の取り組み不足にこんな弁明があります。《最高人民法院の広報担当者によると新たに設置された特別法廷は、大気汚染、水質汚染、土壌汚染に関連する訴訟の他、鉱物資源や森林河川などの自然資源に関連する訴訟も取り扱う。各地の裁判所にも同様の特別法廷が設置されるという。「受理、審理、決定の実行には確かに多少問題があった」と、最高人民法院に設置された特別法廷裁判長、鄭学林氏は記者団に語った。「裁判所はいくつかの審理に積極的だったが、妨害が入り消極的になったり諦めたりせざるを得なかった」》

 インタビューした記者団が事情を知らないと思ってか、笑わせてはいけません。昨年の第346回「『がん村』放置は必然、圧殺する中国の環境司法」でこう指摘しました。《日本の科学研究費で中国人研究者が実施した研究「中国環境司法の現状に関する考察〜裁判文書を中心に〜」が2006年全国環境統計公報から推定した、環境公害紛争に対する行政と司法の圧殺ぶりは凄まじ過ぎます。環境紛争数61万6122件に対して行政手続受付済の事案数9万1616件で、司法手続受付済の事案数は何と「2418件」にすぎません。255分の1です》


 第346回で掲げたマップにある、200カ所以上と報道されている『がん村(癌症村)』の被害者も泣き寝入りしてきました。被害者が堂々と訴えるどころか、差別や圧迫にあい肩身が狭い思いをする――日本で水俣病が知られ始めた段階に見られた、水俣病患者の切ない惨状が中国全土にあると申し上げておきます。

 「一部の非営利団体に環境関連の訴訟を起こすことが認められる」と言いますが、その線引は不明朗です。対象のNPOを出来るだけ絞ろうとする動きも伝えられます。少なくとも年間で何万件、あるいは何十万件もあるかも知れぬ環境訴訟を受け止められる司法の態勢が組まれるとは全く見えません。この点が絶望的なのです。

 【参照】第412回「中国重篤スモッグの巨大さが分かる衛星写真」
     第411回「越境PM2.5スモッグ、広域で注意喚起レベル85超」
     「『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない」


絶滅危惧ウナギ、消費者視点だけが市民社会ではない

 7月29日には土用の丑の日がやって来ます。ニホンウナギ絶滅危惧種指定の後なのに、メディア論調はまだ食べられなくなる恐れに力点があります。朝日新聞WEBRONZAでタイトルの「異論あり」をリリースしました。

《国際自然保護連合がニホンウナギを絶滅危惧種に指定したニュースに見るマスメディアの鈍感ぶりを嘆く。赤道の北に産卵場があり日本列島に稚魚が回遊してくる種だけではなく、世界中のウナギを絶滅に追いやりつつある日本。古来の食文化には間違いないものの、これほど消費量が増える前、ほんの30年前までは食べ方が違っていた。いま量販している丼チェーン店や弁当店ではなく、専門店で「今日は鰻だ」と意気込んで食べた。今の消費形態がむしろ異様なのに、なぜ疑問を持たない》

 1980年代半ば以降に起きた、日本国内でのウナギの価格下落・大衆化・大量消費が、養殖に使う世界のウナギ稚魚資源を壊滅させたグラフを掲げているので、こちらにも収録します。


 世界ウナギ消費量の7、8割は日本人のお腹に入ります。養殖の急増で1980年にはまだ豊かだったヨーロッパウナギやアメリカウナギ稚魚が瞬く間に枯渇したのが見えます。ヨーロッパウナギは一足早く絶滅危惧種に指定され、足りない稚魚を求めて業者はアフリカやアジア熱帯のウナギにまで手を伸ばし、資源の維持など無頓着に密輸・密漁が現在でも横行しています。ウナギの回遊、完全養殖技術開発の現状まで含めて論じ、次のような結語にまとめています。

 《絶滅危惧種になったのを契機に、消費者の視点で伝えれば何でもオーケーといった安易な報道姿勢を改めるべきだ。ウナギをテストケースにして欲しいのに、『絶滅危惧種指定、ウナギの食べる心配報道は異様』と指摘し、第422回「幼魚豊漁で失われる水産資源、異を唱えぬ鈍感報道」と、筆者は訴えてきた。水産業ばかり見ている政府の動きも鈍いからメディアは便乗している節もある。ウナギは「晴れの日の食でいい」とまで割り切らないと持続できない――心ある専門家はそう見ている》


危惧が急拡大、中国に世界初・巨大炉を任せて

 フォーブズ誌が「中国は新たなチェルノブイリを輸出する気か」と題した刺激的な記事を公開しました。通常原発の2倍ある巨大出力炉を世界で初めて運転するのに、中国の規制当局は技術的に「めげてる」としか見えません。海外で熟れた技術を輸入して模倣、「国産化」する戦略だったのに、原子力では何を間違ったのか、最先端の第3世代炉に飛びつきました。結果として、全くの新型炉を中国が世界初で運転しなければならなくなりました。ノウハウをもらうどころか、ゼロから創出して世界に送り出さねばならない――中国原子力規制当局がその任にないと、建設が大詰めになる程に歴然としてきたのです。

 22日付のフォーブズ誌記事《Will China Export The Next Chernobyl?》は20年来、上海や香港で活動し、現在は原子力を追っているライターが書いたものです。広東省・台山原発で建設中の「EPR 欧州加圧水型炉」と呼ぶ出力160万キロワット新型炉を取り上げています。

 この炉はフランス・アレバ社が設計し、フランスとフィンランドでも建設中で、いずれも遅れがちなのに、中国だけが建設が先行しています。運転開始も迫っています。ところが、フランスの規制当局者が「中国とはフィンランドほど緊密な協力関係にない」と認めています。問いかけても応答がないのです。「協力関係が上手く進められない原因は、中国当局の能力・人的資源が足りないからだ」「彼らはoverwhelmedされているように見える」

 「overwhelmedされる」は「圧倒されている」「打ちのめされている」と訳したらいいと思いますが、いま風なら「めげてる」ではないでしょうか。


 それにもかかわらず、中国は原発機器国産化と知的財産権取得、それによる輸出には熱心なのです。上に掲げたのは台山2号機用の蒸気発生器で長さ25メートル、重さ550トンもあって、EPRはこれを4ループで4基備える巨大な炉です。早くも2号機段階で国産化に踏み切っていますが、昨年、フランスの検査官が現地で見た限りでは蒸気発生器もポンプも適性な管理状態ではなかったと言います。

 それでも原発輸出はパキスタン、トルコ、ブラジル、南アフリカなどと商談を進めています。フォーブズ記事は「何かが間違っている。近い将来、中国内か、中国のプラントが設置される場所で新たなチェルノブイリ事故が起きかねない」と警鐘を鳴らしています。

 もう一つの第3世代炉「AP1000」も含めた中国原子力の動向は第419回「新型炉ばかりの中国原発、安全確保に大きな不安」にまとめました。AP1000は幸か不幸か、メインポンプに設計上の問題が発生して2015年末まで運開が延期されました。年内にも運転されるかもしれないEPR、台山1号機の危うさが大きな焦点になってきました。サイトは香港の西160キロの海岸線です。ブルームバーグも同様の危惧を報じています。

 【参照】第433回「理系の中国ウオッチャー、メディアは急ぎ育てよ」


理系の中国ウオッチャー、メディアは急ぎ育てよ

 マスメディアで中国経済の動向には破綻懸念もあって目配りする記者は多いが、深刻化する環境汚染や無謀にも見える急拡大の原発増設などを的確に監視できる理系ウオッチャーも大至急で育てるべきだと提言します。メディアを監督・指導する「国家新聞出版ラジオ映画テレビ総局」が18日に中国の新聞やテレビ局などの記者が、所属する報道機関の同意を得ずに当局に批判的な報道をすることや、独自にウェブを立ち上げて批判することも禁じる通達を出したと伝えられました。これまで以上に中国メディアからのクリティカルな情報は貧弱にならざるを得ません。昨年から今年に掛けての大気汚染・重篤スモッグ問題で国内メディアの感度は悪く、日本へ微粒子PM2.5が越境して初めて騒ぎ出した観がありました。経済以外にも一衣帯水の位置にある中国から目が離せなくなっているのです。

 今回の通達以前に既に中国メディアの情報が劣化していると感じた例があります。国営新華社が配信した記事《世界初の「第三世代加圧水型原発」が来年にも稼働―中国》です。《中国だけでなく世界にとっても初めてとなる第三世代加圧水型原子炉AP1000型「浙江三門原発一号機」が2015年末にも稼働する。5月29日、新華網が伝えた。国家核電技術公司の王炳華董事長は「浙江三門や山東海陽など4基の第三世代自主プロジェクトAP1000は順調に建設が進んでいる。三門1号機は来年末、海陽1号機は2016年初めに稼働する予定だ」と述べた》

 別の中国語ソースが伝える真相はメインポンプ設計に問題が発生して1年半も運転開始が遅れるのです。当初は今年半ばにも運転開始予定でしたから、順調には進んでいません。おまけにこの日本語版記事に添えられた原発の写真は第三世代炉AP1000型ではなく、CPR1000型と呼ぶ改良型第二世代炉です。国営通信社のレベルが暴露されており、専門知識や時系列情報を把握した、まともな記者・編集者がいないと判断できます。運転開始が遅れると伝えられる前の事情は第419回「新型炉ばかりの中国原発、安全確保に大きな不安」にまとめてあります。

 大気、水、土壌と環境汚染は深刻ですが、PM2.5スモッグ越境以外は日本に関係ないと思われていました。心配な中国産農産物は店頭で選ばなければ済みます。ところが、小児血管の病気「川崎病」の原因物質が中国北東部の穀倉地帯から来る風に運ばれるとの推定が5月に国際研究チームから公表されました。中国側は「言いがかりだ」との態度ですが、第428回「川崎病の流行ピークと中国農業改革の節目が一致」で関係を疑わざるを得ないと指摘しました。体内に侵入した毒素が子どもの心臓血管に奇形を作り、血栓が出来やすくなって死に至ることもしばしばあります。この未発見毒素の挙動がPM2.5と似ている面があります。PM2.5の拡大写真は実に様々な像が示されており、どれかが該当するのかも知れません。

 中国の海洋進出や外交での大国主義はますます強面になっています。自国の主張を通して、他者の意見など聞く耳を持たない中国の最大の弱点は環境問題です。環境問題は石炭消費が世界の半分など資源とエネルギーの無茶苦茶な浪費で経済を拡大してきたツケですから、経済発展を制限する要因になります。第412回「中国重篤スモッグの巨大さが分かる衛星写真」に800キロの辺を持つ三角形を埋め尽くしたスモッグの写真が掲げてあります。小手先の対策が効かない深刻さを、日本メディア発で厳しく問うていくべきです。もう中国メディアからの情報横流しでは環境問題は斬れません。英語メディアや業界情報にも目が利く専門知識を備えたウオッチャーを配置して、中国現地で手に入る情報を分析できる態勢を整えて欲しいものです。

 【参照】「『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない」[BM時評]


絶滅危惧種指定、ウナギの食べる心配報道は異様

 国際自然保護連合がニホンウナギを「近い将来、絶滅する危険性が高い」として絶滅危惧種に指定しました。メディアは食べられなくなる心配とセットで報道しますが、保護に失敗した日本はむしろ歓迎すべきなのです。昨年夏に第371回「食べられぬ心配だけで保護意識が無いウナギ報道」で紹介した稚魚激減グラフを掲げます。積極的な保護策を打ち出せぬまま最盛期の50分の1まで落ち込んでしまい、はっきり言って手遅れ状態です。


 自前の稚魚が採れなくなって日本がしたことは中国・台湾からニホンウナギ、さらにヨーロッパウナギ、アメリカウナギ、最近では東南アジアのウナギの稚魚まで大量輸入して、それぞれの資源存続を危うくしただけです。水産先進国としてニホンウナギの完全養殖に近づきつつはありますが、野生資源保護には全く無策でした。

 今年はニホンウナギ稚魚がすこしだけ多めに取れました。それでマスメディアはは蒲焼きの値段が下がるとはしゃぎました。漁業資源の持続性が疑われるクロマグロの幼魚と合わせて第422回「幼魚豊漁で失われる水産資源、異を唱えぬ鈍感報道」で批判した通りです。

 報道の姿勢が読者・視聴者にベースを置くのは常識です。それが「ウナギ消費者」で良かったのは資源がこんなに細くなる前の話です。絶滅危惧種に指定された段階では、当然ながらどうやって保護していくのかを考える視点に転換すべきです。主要メディア横並びで保護を求める国際的な世論の高まりや国際的な取引規制を心配して、日本がどうすべきか論じないのはあまりに異様です。


吉田調書など証言、批判派学者に見せてこそ価値

 朝日新聞による福島原発事故・吉田調書の暴露が話題になっています。ウェブでの展開まで力が入っているのは認めつつも内容的には消化不良です。証言類は公開し原子力批判の専門家に見せてこそ値打ちが生まれます。政府に巣食っている「原子力ムラ」が公開を阻んでいるのは、公になっていない想定外のストーリーが解読されてしまうのを恐れるからでしょう。政府事故調は個人責任は問わない前提で聴取し、その後の検察の捜査も責任追及を諦めました。証言は公共の財産であり、もう隠しておく理由はありません。全てをウェブアーカイブとして国会図書館で公開すべきです。改めて申し上げたい――『福島原発事故、国家として原因不詳でよいのか』と。

 吉田調書などが闇に葬られた経緯を《原発事故調、当初は開示方針 吉田調書など全772人分》はこう伝えました。《政府事故調は聴取前の2011年7月8日に「ヒアリングは原則として非公開かつ少人数で行う。相手方が公開を了承している場合は、適宜の方法(マスコミへの公開またはこれを前提とした録画等)で行う」と申し合わせた。非公開で聴取した場合の調書の扱いについて、「供述者の特定につながる部分および供述者が非公開を希望している部分については開示しない。必要な範囲で開示する」としていた。実際には聴取も調書もすべて非公開》

 「吉田調書は全7編で構成されている。総文字数はおよそ50万字。A4判で四百数十ページに上る」中から特報シリーズはつまみ食いしています。大きな欠点は吉田所長の言い分だけを追いかけているために、津波襲来から事故が拡大して深刻な事態になった全貌が見えない点です。

 例えば最初に炉心溶融した1号機にあった、電源喪失時にも作動する非常用冷却システム「非常用復水器」についてです。《吉田氏、非常冷却で誤った対応 「思い込みがあった」》はこうです。《吉田氏の聴取を記録した「吉田調書」によると、中央制御室の運転員が11日夕にICの機能低下に気付き、冷却水不足を疑って吉田氏のいる緊急時対策室へ伝え、軽油で動くポンプで水を補給するよう促した。だが、吉田氏はICの仕組みを理解していなかったため、「水の補給」が機能低下のサインと認識できず、ICが機能している間に行う「原子炉への注水準備の継続」という指示しか出さなかった》

 事故進展の決定的大状況から外れること著しいと評すべきです。非常用復水器が作動するには原子炉からの蒸気が通る弁が開かれねばなりません。全電源喪失状況では弁を運転員が手動で開きに行かねばならないと製造元の米国で判明し、この情報は東電にも通知されたのですが、どこかで握りつぶされて現場には届きませんでした。このため現場は非常用復水器が自動的に動くと思い込んでいたのですが、3月11日夕刻、クルマからバッテリーを外して来て直流電源として接続すると弁は開いておらず、始めて弁を開きます。ここで吉田所長に中央制御室から問い合わせが行ったのです。

 交流電源が落ちても直流電源のバッテリーは8時間は維持されるはずでした。ところが、直流電源も非常用発電機と一緒に津波に襲われた建屋地下にあったために使えませんでした。夕刻まで中央制御室は原子炉のパラメーターが全く見えず、やむなくカーバッテリーを持ち込んだのでした。お粗末なことに訓練でも非常用復水器を使った経験は誰にもなく、動作に不審を持った運転員が動き出した非常用復水器の弁を間もなく閉じてしまいます。動かし続けていれば、半日程度は炉心冷却を維持できたはずであり、さらに水を補給すればもっと時間が稼げた――炉心溶融は無かったかもしれない福島原発事故最初の分岐点について、吉田調書シリーズの筆者たちは理解していないと見えます。

 新聞記者が拾い読みする程度では無理なのです。批判グループの専門家や原発の知識を持つ人たちに広く開示すべきです。「大本営発表報道」と批判されて当然だったと、当時の皮相な報道ぶり、ポイントの外れぶりが吉田調書のあちこちから見えてきます。

 【参照】インターネットで読み解く!第300回「福島事故責任は誰にあるか、判明事実から究明」


韓国で列車に乗るな:信号機の世界共通則を破る

 旅客船沈没事故で国全体が総無責任と知らしめた韓国が鉄道事故でも驚くべきポカを演じました。信号機で世界共通則を破る設定をし、毎日点検しながら4日間も発見できず――伏魔殿の国の列車に乗ってはいけません。率直な意見として沈没船に丸2日間も救助の船室侵入が出来なかったよりも、もっと恥ずかしい醜態です。聯合ニュースが配信した状況図《ソウル地下鉄2号線追突事故 当時の状況》を以下に引用します。


 トラブルで止まっていた先行列車に続く後続列車に出た信号が時間的順に「青(進行)」「青(進行)」「赤(停止)」だったために運転士の急ブレーキが間に合わなかったとの説明です。直前に青信号が並んでいたので列車自動停止装置(ATS)が作動しなかったといいます。信号機の故障なんてありがちだと思われたら世界の鉄道関係者は怒り心頭でしょう。大量輸送機関として人命を預かる要の信号システムに「何でもあり」は認められません。

 鉄道の信号は次に進む区間の信号が「赤(停止)」ならば最低でも「黄(注意)」でなければなりません。「青(進行)」が来ることは絶対に無いのです。ATSの設計側だって、この共通則が破られるなんて想像もしません。

 中央日報の《<ソウル地下鉄追突>地下鉄2号線、信号故障のまま4日間運行(1)》はこう伝えました。《ソウル市関係者らは信号機故障の理由を付け加えた。「先月29日に運転士の要求で乙支路(ウルチロ)入口駅にあるポイントレールの速度条件を変えるため連動装置のデータを修正し信号に問題が発生したものと把握されました」。当時の作業過程で信号システムと関連したデータも一緒に変わってエラーが発生し信号機に問題が生じたということだ。該当区間を通過する1日550本の列車が4日間にわたり同じ事故の危険にさらされたまま運行されたという話だ》

 《セウォル号沈没の惨事から18日目に実状を表わした大韓民国の首都ソウルのずさんな安全管理システムだ。ソウル市はセウォル号沈没の翌日である先月17日から30日まで地下鉄も特別点検をした。特に信号機は日常的な点検対象だった。しかし毎日のように行われた点検でも信号機のエラーは発見されず、4日間も故障した状態で放置され今回の事故が起きたのだ》

 俗に「お前の目は節穴か」と言いますが、このような「日常点検」をしている鉄道に完璧を期待するのは間違いです。顕在化しないだけで、どこに間違った設定が潜んでいるか、該当ケースになって事故が起きてみなければ誰にも分からないでしょう。

 旅客船セウォル号の事故でBM時評『沈没事故に見る韓国の総無責任、秩序国家は無理か』を書きました。安全軽視と聞いてはいたけれど、ケーススタディをすると、これでよく国家として成り立つと思えました。これから韓国旅行の方は交通機関への信頼は地に堕ちていると覚悟されるべきです。


福島原発廃炉は実現不能まで含めた見直しが必要

 NHKスペシャル「シリーズ廃炉への道」放映など福島原発事故の後始末が動き出すと伝えられます。始末をつける前提なのに、実は廃炉不能の可能性大です。起きる事態を予め網羅せず突っ走る愚は避けねばなりません。事故当事者の東電にすれば廃炉の工程を粛々と進めるしか考え付かない事情は分かります。しかし、炉心溶融はしても原子炉圧力容器の中で済んだ米スリーマイル島原発とは違い、格納容器に広く溶融燃料が分散してしまった福島で燃料回収処理が完了すると楽観する研究者が多いとは思えません。溶融燃料が格納容器を突き抜けている可能性すらあります。国が廃炉庁のような組織を設けて、二段構え、三段構えで想定廃炉工程が無理と判明したら方向転換する局面に備えるべきです。


 東電が4月に公表した「中長期ロードマップ進捗状況(概要版)」から1号機の状況を切り出し、引用しました。スリーマイル島原発は加圧水型でしたから制御棒は炉心上部から挿入でした。福島原発は沸騰水型のため炉心上部が使えず制御棒は圧力容器の底に穴を開けて通していました。炉心溶融が起きるとこの穴が脆くも貫通して溶融燃料(燃料デブリ)が格納容器の底に落ち、図では中央に固まって描かれていますが、どろどろになって広がったと考えられます。

 溶融燃料は現在でも崩壊熱を出し続けているために所在不明のまま注水して冷やしています。一方で1〜3号機建屋の地下から1日400トンの地下水が浸入、汚染水を増やしています。東電の廃炉計画はこの地下水を遮断する作業も重要なステップになっています。しかし、第423回「行き詰まる福島事故原発建屋の遮水壁での隔離」で紹介したように、この段階から疑義が出ています。

 計画通りならば遮水壁として半世紀も強固に維持されなければならないのに、年間数十億円もの電気代を投じて造るマイナス30度凍土による遮水壁には長期実績がありません。来月にも着工としていたのに、原子力規制委は着工を認可しない構えです。

 朝日新聞の《(耕論)廃炉の現実 山名元さん、佐藤暁さん、竜田一人さん》は「1〜3号機の原子炉内で溶けた燃料(燃料デブリ)も、6〜7年以内に取り出し始める計画です。工程表には廃炉を達成できる根拠が示されていない、という批判もあります。しかし私は技術屋として、それぐらいの時間があれば必ずできると信じています」と述べる楽観的な体制派研究者・山名元氏から始まります。しかし、詳しく聞くほどにボロが出る展開です。

 元原子炉メーカー技術者・佐藤暁氏は進められている冠水方式について「格納容器の鋼板は薄く溶接だらけで、腐食も心配です。原子炉建屋5階の高さまで水を蓄え続けるには強度が乏しく、この選択肢は早く捨てたほうがいい。冠水に成功したとしても、溶けた燃料を取り出す前に多くの炉内構造物を取り除かねばなりません」と、NHKスペシャルの冠水工程ありきに最初から疑問符です。NHKスペシャル出演の米国側経験者も日本の廃炉は非常に困難と言っています。

 「3.11」の翌日に書いた第244回「福島第一原発は既に大きく壊れている可能性」にある「原発正門付近での放射線量推移グラフ」を見ていただけば歴然です。1号機が水素爆発を起こす前の段階で放射性物質が大量に漏れていた証拠であり、冠水させようとしている格納容器は炉心溶融の熱と圧力でぼろぼろになっているはずです。東電の考えている単純路線で突っ走って代替の手段や方策なしでは大きな禍根になるでしょう。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


沈没事故に見る韓国の総無責任、秩序国家は無理か

 ローマ法王の言葉「韓国民がこの事件をきっかけに倫理的に生まれ変わることを望む」に接し、時宜にかなった至言と申し上げます。旅客船セウォル号が明かした総無責任の実態は国家基盤を危うくする無秩序ぶりです。官民を問わず誰も自分の職責に忠実でなくて、どうやって国を運営するのです。戦前の大日本帝国を追及するエネルギーの半分でも回していれば、波もない穏やかな白昼の海に修学旅行生ら300人余が飲み込まれる悲劇は起きなかったでしょう。これまでに伝えられた経緯を集約するとこんなストーリーです。

 【ザル規制すり抜け改造、無謀な操舵】

 日本のフェリー会社から購入した中古船の最上部に客室を増設した結果、重心が上がって復元力が落ちました。船の長さや幅には改造規制があったのですが、高さ方向には規制が無かったのです。復元力を考慮した積載可能トン数の4倍近い車両とコンテナを積んでいたと報じられています。政府の役人は不安定性については考えていなかったと言います。貨物は鎖やワイヤーではなく普通のロープで固定されていた上に、さらに恐ろしい情報として海が穏やかならば、その固定さえしなかったケースもあったようです。

 事故現場で経験1年もない三等航海士が5度だけ舵を切るように指示したのに、操舵士が大きく回してしまった結果、荷崩れが起きたとされています。時速40キロ近いフルスピードで突っ走っている大型客船が舵を切るのは、乗用車ならば100キロで急カーブに入るのと同じです。積んだ貨物の不安定さを知れば、まず減速してからにすべきでした。以前にも舵を切って食堂の皿が滑り落ち大騒ぎになった経験をしているのに、この危険信号は共有されませんでした。

 【避難訓練の経験がない安月給船員】

 船長が月給27万円の1年契約職だったのを始め、船員も他の船会社に比べて6、7割の安月給だった点で、船員の士気が低い事情は分かります。おまけに船会社は定期的に義務付けられている避難訓練などの安全教育を全くしていませんでした。安全運行についてのチエックは当然ながら公的機関が実施していて、積載貨物の検査も含めて官僚の天下り先にもなっている規制組織が全く働いていなかったようです。

 避難訓練の経験もなく事故マニュアルを読んだことがない船員ばかりと知らされて、管制センターとの珍妙なやり取りの意味と背後が分かりました。船が大きく傾いている段階で避難の決断をせず「救助してくれるのか」と尋ねるばかりでした。救命胴衣の着用を指示してなお「船室で待つように」と放送しています。救命胴衣を着けたら甲板に出なければなりません。浸水する船内では救命胴衣は逆に脱出の妨げになります。

 【司令塔なきアマチュア救助態勢】

 韓国政府はこのような大事故には対策本部を設置してコントロールタワーになる人物を決めるとしていたのに、これに失敗しました。2、3日の間は海洋警察も海洋水産部も軍もばらばらに行動しました。首相が現地に赴いてトップに立つ形ばかりは作ったものの、ばらばらに上がってくる情報を横流しにするだけだったようです。海難救助経験豊富な日本の海上保安庁が支援を申し入れて断られていますが、意地だ、面目だという以前に、受け入れの決断を下せる司令塔不在だったと見るべきです。残念なことに、沈没してから丸2日間も船内への突入はなりませんでした。海上保安庁の特殊救難隊なら可能性があったかも知れません。

 沈没1時間前に現場に着いていた海洋警察が船内に突入すべきだったとの声が、今になって韓国メディアに出ています。『必死でないベストは役に立たぬ:韓国船と福島原発』では福島原発事故との対比で、『沈没報道の韓国メディア、海洋警察の劣悪さ無視』では日本の海上保安部取材を経験した常識として目の前の客室に多数の乗客がいると分かっているのに、傍観はないと論じました。何の装備もなく急行したからと弁明しているようですが、船に上がって救助に使えるロープやホースなどはないかも調べてもいません。単に待って、脱出してきた80人余りを収容しただけで「大きな仕事はした、文句はあるか」と海洋警察署の課長が居直ったそうです。


沈没報道の韓国メディア、海洋警察の劣悪さ無視

 旅客船「セウォル号」をめぐる海難事故としての非常識ぶりは目に余り、韓国メディアの報道ぶりも非常識の同類です。以下に引用する朝鮮日報の写真と記事は沈没まで余裕を持って到着した海洋警察の劣悪さを無視です。

 記事のタイトルは《旅客船沈没:「体を支えるのも困難だった」乗務員供述はウソ》。木浦海洋警察署の救助艇から撮影した写真3枚を並べて乗務員のウソを非難しています。しかし、写真を見た元新聞記者のわたしは、海洋警察の無為こそテーマにすべきと考えます。1枚目を見てください。


 《海洋警察が22日に公開した写真を見ると、救助隊員1人(点線内)がセウォル号に乗り込み、手すりに沿って取り付けられた救命ボートの方に移動する様子が見える。隊員は10メートルほど離れた後ろ側の救命ボートから取り出そうとしたが、全く動かなかった。隊員が10個目の救命ボートに手を触れていたとき、「立ち入り禁止」と書かれた操舵(そうだ)室左側の出入り口から、乗務員とみられる男性が飛び出してきた》

 救助艇の舳先に漫然と立っている4人の救助隊員は何をしているのでしょうか。いち早く乗船して「乗務員はどうした。乗客を早く甲板に出せ」と叫ぶのが、日本の海上保安部取材を経験した私の常識です。ところが、次の写真では飛び出した乗務員を収容したままであり、3枚目では救命ボートは蹴飛ばしても開かなかったと嘆くのみです。無為と言わずにはいられません。

 この時に撮影の別写真を入手して素材にした『必死でないベストは役に立たぬ:韓国船と福島原発 [BM時評]』でも疑問を投げかけました。前後の写真を見ると、韓国の官民メディアともに頭を丸めて出直すべきだと考えます。


必死でないベストは役に立たぬ:韓国船と福島原発

 韓国船セウォル号沈没事故の惨状はどこかで見た光景です。大震災の夜、全電源喪失の福島原発に電源車が向かうと一切放置になりました。救助艇は沈没1時間も前に着いたのに乗客がデッキに並ばぬ異様さを疑いません。真っ先に船を離れた船長は論外として、救助当事者も必死でベストを尽くそうとしていないのは、報道された写真からも明らかです。穏やかな天候の昼間、300人が犠牲になる事故現場とはとても思えません。


 船長が離船した際とされる写真です。この高いアングルで撮影されている以上、ボートのような小舟ではなく、責任者がいる救助艇です。これだけ旅客船が傾いていて避難客がなく救命ボートも浮きも使われていない不自然さに、海事関係者なら気づかないはずがありません。海上保安部の取材経験がある私には信じられません。客は救命胴衣着用の上でデッキに出て待機が常識なのに、船内ではこの時、「動かずに救助を待つように」と放送が続いていたのです。

 謎解きは朝鮮日報の《旅客船沈没:大統領の叱責恐れもたつく官僚》にありました。《政府や与党の関係者は「今回のセウォル号沈没事故で、専門性を備えた公務員が現場で積極的に動けずにいるのは『過ちを犯せば自分が全ての責任を負わされる』と恐れているためだ」と語った。現場を訪れた与党セヌリ党の関係者は「公務員は『自分ばかりが出て行って過ちを犯せば、責任を負わされる』と考えているため消極的だ。事態が終息したら誰も責任を取らない、ということを経験的に知っている」と語った》

 「3.11」では電源車が駆け付けたものの、接続すべき電源盤が建屋の地下にあって大津波で水没していました。第347回「無傷で終わる可能性が十分あった福島原発事故」で書いた通り、当時の原子力安全委、班目春樹委員長には電源盤の位置に危惧があったのに図面で確認しませんでした。《図面と見比べて電源盤が接続不能と早く判断できれば、重量級の電源車派遣は無意味です。切れている直流電源を補うためにクルマで使うバッテリーを10個か20個、かき集めて届けるのが最も有効な早道であり、1号機でほとんど働かなかった最後の命綱装置「非常用復水器」のバルブ操作を可能にして動かせたでしょう》

 韓国メディアは「先進国の仲間入りをしたと思ったのに三流国だった」と悲憤慷慨しています。シーマンシップ、職業倫理の欠如は隠すべくもありません。福島原発事故の際はどうだったでしょうか。政府の原子力安全・保安院も東電本店も職業倫理にもとることなく必死でベストを尽くしたでしょうか。非常用復水器を誰も実際に使った経験が無かった原発の現場も含めて、韓国船事故はわらえません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


行き詰まる福島事故原発建屋の遮水壁での隔離

 福島事故で溶融した核燃料の炉心を抱えている原発建屋を周辺から隔離し、水の出入りを断つ重要ステップが行き詰まろうとしています。ぐるり取り巻く遮水壁に計画の「凍土壁」へ原子力規制委が強い疑問を投げました。海側の遮水壁は通常の鋼管矢板打設方式ですが、地下に色々と埋まっている陸側では無理があり、苦肉の策としてマイナス30度の冷却液を埋設管で循環させ凍土で壁を造る方式が政府・東電に採用されました。大規模な土木工事で短期間なら凍土化実績がある方式ながら、福島原発事故では数十年にわたって地下の壁として固定される、言わば永久使用です。壁として凍らせ続けるのに年間で何十億円もの電気代がかかり、矢板のような強度・耐久性が保証されるものでないとなれば議論にならざるを得ません。


 日経BPケンプラッツが《前代未聞「凍土遮水壁」の成算》で詳細に特集しているので、そこから福島原発での見取り図を引用しました。海側は埋め立ててオレンジ色の鋼管矢板で囲うのですが、陸側遮水壁に問題ありです。「四つの原子炉建屋周辺を延長約1500m、深さ約30m、厚さ1〜2mの凍土壁でぐるりと取り囲み、建屋内への地下水の流入を抑制する」計画で6月に着工しようとしていました。

 時事通信の《「凍土壁」に疑問続出=安全性の証明要求−規制委》が検討会での議論をこう伝えました。

 《座長役の更田豊志委員はエネ庁の安全対策の検討状況を聞き、「えいやっと決めた部分がかなりある。これだけで安全上の判断はできない」と批判した。エネ庁側は「超一級の専門家に作ってもらった」などと反論。更田委員が「根拠を示してください」と語気を強める場面もあった》《検討会メンバーで首都大学東京の橘高義典教授は「壁が水圧を受ける。地盤の安定性が心配だ」と懸念を示した。京都大の林康裕教授も「検討が十分でないところも、見込みみたいなところもあるようだ」と述べた》

 原子力規制委は着工を認可しない構えです。《規制委、「凍土遮水壁」に懸念 政府・東電推進も「安全性、有効性は未確認」》は《「日本陸水学会」(会長、熊谷道夫・立命館大教授)が昨年末、「凍土壁では放射性物質を長時間完全に封じ込めることができないだけでなく、より大きな事故を起こす可能性が高い」とする文書を内閣府原子力災害対策本部に提出していたことが判明。熊谷会長は取材に対し「総会で決めたことで、学会の総意だ」と話した》とも伝えており、異論は学界に広がっています。

 見取り図奥にある地下水バイパスは海洋放出へ地下水汲み上げが始められた井戸です。第379回「原発後背地のタンク漏洩続出で収拾計画に困難」第382回「無管理同然、汚染水漏れ疑惑タンクが一気に拡大」で示しているように、その背後に汚染水タンク群がびっしりと立ち並んでいて、度重なるタンク操作ミス・漏洩で汚染レベルが上がり、混乱し始めています。

 陸側遮水壁施工にはもうひとつ重要な問題が隠れています。遮水壁が完成すると地下水の流入が止みますから、原子炉やタービン建屋地下の高放射能汚染水よりも周辺の地下水位が下がります。毎日400トンの汚染水発生が無くなるのは結構ですが、高汚染水が建屋外部に出るのは避けられないでしょう。遮水壁がきちんと遮断してくれないと高放射能汚染の海洋を含めた広域拡大に直結します。凍土壁は冷却液をつくる凍結プラントがもしも停電になったら機能を失います。テロ攻撃や航空機墜落といった異常事態にも弱いと言わざるを得ません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


幼魚豊漁で失われる水産資源、異を唱えぬ鈍感報道

 将来に向けて持続可能性が特に疑われている水産資源クロマグロとウナギの幼魚・稚魚が豊漁との報道が今年に入って続きます。豊漁ならば自主規制してでも資源を残せとなぜ訴えないのか、鈍感マスメディアに呆れます。本気で漁業資源を守ろうとしたら漁獲の総枠を規制した上で、個別の漁業者にも漁獲枠を与えるしかありません。個別枠が無ければ早採り競争に陥って幼魚でも捕ってしまうからです。個別枠の範囲で値段が良い大型成熟魚を狙うようになったノルウェーではサバ資源が回復し、今秋から漁獲枠倍増が伝えられました。

 昨12日には《季節外れの豊漁 富山湾でメジマグロ》で「県内ではメジマグロは十二〜二月に多く揚がる。四月の水揚げ量は少なく、過去十年間平均で約四トンだが、今月は既に十四トンを上回っている」と報じられています。

 3月に水産庁がクロマグロの漁獲規制を日本独自に強化する方針を発表したばかりでした。国際会議で訴えて同調を求める方針です。関東などでメジ、関西でヨコワと呼ばれる幼魚の漁獲量を来年から2002〜04年基準の半分にする規制を前提にすれば、自分の首を絞めるも同然な「いま取れる魚は取ってしまおう」とする漁業者の言い分を記事にして、幼魚豊漁と喜んでいては困ります。昨夏の第375回「クロマグロ規制を好機に漁業資源持続へ転換を」で掲げたクロマグロ産卵海域の地図を再録します。


 ウナギについては研究者から『シラスウナギの豊漁報道の異常性』(勝川俊雄公式サイト)と問題提起されています。今年の「豊漁」は極端に不漁だった最近ではやや多かったに過ぎず、《漁業先進国の基準からすると、日本のシラスウナギは、漁獲を続けていること自体が非常識》《日本メディアは、資源が枯渇した状態を基準に、少しでも水揚げが増えたら「豊漁」とメディアが横並びで報道しています。このように、目先の漁獲量の増減に一喜一憂するということは、水産資源の持続性に対する長期的なビジョンが欠如している》と厳しい指摘です。

 マグロとウナギ、日本の漁業規制は依然として中途半端です。新たなクロマグロ幼魚規制も具体的な削減方法を漁業関係者と協議することになっていて、ノルウェーのような先進的な規制が出来るか疑わしいものです。2006年の『世界規模での漁業崩壊が見えてきた』で、「21世紀半ばにスシが食べられなくなる」国際研究チーム予測などを取り上げました。あれから時が経過して、中国の遠洋漁業進出など世界規模で乱獲はますます酷くなっています。水産国日本のマスメディアには、この大状況を頭の隅に置いてもらわねば困ります。

 【参照】第305回「必死の養殖増産で人口増を賄う水産資源は限界」


WHO報告の大気汚染700万人死亡、大多数は中印両国

 WHOがPM2.5など大気汚染での死者が2012年に推計700万人超だったとの報告を出しました。世界での数字と丸めて名指しこそ避けつつも、実は大多数が中印両国での発生と考えられるデータが添えられていました。世界一二の大人口国であると同時に大気汚染深刻国でもあり、人口当たりの大気汚染を原因とする死者数も多いのですから、どうにもならない現実が浮かび上がります。報告から屋外の大気汚染と屋内の大気汚染による地域別死者数のグラフ2つを引用します。


 WHOの地域分けは支部別になっていて少し特殊です。太平洋西部地域(Wpr)には中国を中心に日本からオーストラリアまで、南東アジア地域(Sear)にはタイ・インドネシアからインドまでが含まれます。「Wpr LMI」は太平洋西部地域の中低位所得国を指しますから日本などは除かれ、人口13億5千万人の大きさを考えるとほとんど中国です。南東アジア地域には12億2千万人のインドの他に2億4千万人のインドネシア、1億5千万人のバングラデシュと人口が大きな国がありますが、インドが7割を占めると見ればよいでしょう。

 屋外の大気汚染による死者は世界で370万人、地域別で断然トップなのは中国がほとんどと見られる「Wpr LMI」166万人です。インドが大半の「Sear」も93万人で続きます。世界の他の地域で目立つところはありません。屋内の大気汚染による死者は世界で430万人。インドが大半の「Sear」169万人とほぼ中国の「Wpr LMI」が162万人で肩を並べます。アフリカも58万人と目立つのは第210回「2026年インド人口世界一:牛糞が家庭燃料の国」で書いたインドと家庭燃料事情が似通っているからでしょう。中国での屋内汚染死者が多いのは暖房も含めた石炭系の燃料によると考えられます。

 屋内・屋外汚染の死者は重複する部分があるので両者を合わせて、ほぼ中国の「Wpr LMI」が281万人、インドが大半の「Sear」227万人と推定されました。昨年の報道による第355回「大気汚染による中国とインドの健康被害深刻」では中国の大気汚染死者数は123万人としていましたが、WHOの見直しでリスクは大幅に増えているようです。屋外汚染でみると虚血性の心疾患や卒中の4割を引き起こしているのを始め、呼吸器系疾患や肺がんなどの原因になっています。

 【参照】インターネットで読み解く!
     「『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない」
     第412回「中国重篤スモッグの巨大さが分かる衛星写真」
     第391回「インド大気汚染さらに悪化、危険過ぎるPM2.5とPM10値」


福島原発事故の無為で告発さるべきはマスメディア

 福島原発事故の3事故調の委員長らを集めた日本記者クラブ討論会の報道に大きな違和感があります。マスメディアはまるで他人事ですが、あれだけの大惨事が起きて社会を変えなかったのはメディア自身の責任なのです。本当に差し迫った炉心溶融と高レベルの放射能汚染拡散を知らせる責務を、当時の政府による「大本営発表報道」に自ら委ねて放棄したままでした。今に至っても原発再稼働の是非そのものを報道の対象にしないで原子力規制委員会の処分任せにし、地震の可能性など細かな検討事項をめぐる報道をして足れりとしています。

 時事通信の《「社会変わる気配ない」=3事故調元委員長ら―福島原発》は《東京電力福島第1原発事故から3年を迎えるのを前に、事故の原因や対応を検証した政府、国会、民間の各事故調査委員会の元委員長らを集めた討論会が10日、東京都内の日本記者クラブで開かれた。国会事故調の黒川清元委員長は「あれだけの事故が起きても日本の社会が変わる気配がない。誰も責任を取らない」と指摘した》と伝えました。

 国家として誰かの責任を問う必要もあります。それ以前に未だにどうして福島原発事故が起きたのか分かっていないことこそ不思議なのです。昨年、第381回「福島原発事故、国家として原因不詳でよいのか」でこう申し上げました。

 《いくつもの事故調が違った結論を出し、放り出されている現状は「原子力ムラ」の意志なのかもしれません》《責任者を出さないと決めていた原子力学会や原子力ムラ政府官僚がほくそ笑む展開です。これほど影響が大きい大事故ならば原因をピンポイントで究明してシステムを改善するべきところを、原子力規制委による新規制基準は事故調報告を参照もしない安全システムの大風呂敷展開でかわしています。全てが曖昧模糊になっているようでは、現代屈指のテクノロジー国家として失格だと敢えて申し上げます》

 「3.11」東日本大震災3周年を前にした時事通信の企画記事《「事故に学ぶ姿勢足りず」=新規制は「ハード偏重」−班目氏〔東日本大震災3年〕》は事故当時、無能とされた原子力安全委員長のコメントを記録しました。驚くべきことに独立組織になった原子力規制委は前任者からの聴取さえしていないのです。「規制委は私を呼んで話を聞かなくていいのか。当時のコミュニケーションがどうだったかなど、一番大切なことなのにやっていない。あれだけの事故があっても何も学ばないなら(規制を)やる資格がない」(当時の経緯:第347回「無傷で終わる可能性が十分あった福島原発事故」

 マスメディアの事故当時の報道をめぐる言い訳も第282回「原発震災報道でマスメディア側の検証は拙劣」で書いたレベルからまるで変わりません。知らぬ顔を決め込んだまま、社会が変わらないとか伝えるのはとても奇妙です。


実効ない大気汚染対策に中国学者が経済発展転換論

 北京などで丸6日も重篤スモッグが続いた後、国会に当たる全人代が開かれ李克強首相は大気汚染に宣戦布告と表明しました。しかし、粗放な経済成長のツケを正面から払うのは難しく、経済発展転換論が叫ばれています。スモッグ後の中国の報道では科学技術の専門家から「北京の空気は昨年より改善されたが気付いてもらえない」といった負け惜しみ、「海外のようにスモッグ解消に30年もかからない」とのピント外れ発言が続出して失笑モノでした。経済学者から出ている「GDP優先をやめて国民の幸福最大化」の提言が生きる時が来るのか予見できぬものの、ようやく真っ当な議論が登場と感じます。

 ウォールストリートジャーナルが「支出額に反映されない中国の環境対策――言葉では意気込み示す」で批判精神を欠く中国メディアにない視点を提供しています。

 《財務省が5日に発表した報告書によると、2013年の環境保護とエネルギー保全向けの支出は前年比9.7%減の1800億元(約3兆円)。これは昨年それら項目に割り当てられた予算のわずか86%にすぎない。2012年には、そうした項目に対する支出は予算を上回り、23%増の約2000億元だった。それに対して、政府によると、昨年は軍事支出に7200億元を投じた。李克強首相は今回、総力を挙げて環境汚染と闘う方針を表明した。5日の報告書では支出を前年から17%引き上げ、2100億元とすることも要求している》

 要するに中国政府首脳が声高に叫んでいる中国の環境汚染対策の内実はこの程度に貧しいのです。増え続ける軍事費まで含めて予算の大枠を変える気も無いのですから、劇的な改善があろうはずがありません。大気汚染の専門家は「北京の大気1立方メートル当たりPM2.5が平均400マイクログラムあった昨年1月に比べて、今年は300マイクログラムに減っている。しかし、一般人に気付いてもらうには100マイクログラム程度まで落とさなければ分からない」と言っています。

 インターネット検索をすると国家行政学院の張孝徳・経済学教授が重篤スモッグについて発言しているのが昨年来、目立ちます。「スモッグ克服と日常防護」(原文中国語)は人民日報による6日間スモッグ後の最新インタビューです。非常な長文ながらエッセンスをまとめると次のようになります。

 「都市の空気中に汚染物質は沈殿していて、風が吹かないと非常に強いスモッグとなる」「北京、上海などの大都市では、肺がんの発生率が8倍に増加したデータがある」「背景には欧米諸国からの汚染移転があり、エネルギーを使い出稼ぎ労働者の低賃金による安い製品生産で中国に汚染を残すようになった」「克服には根本的な原因を解決する必要がある。第一の問題はGDP増大の単純追求を改めること。国家のGDP最大化から国民の福利最大化に転じるべきだ」「私たちの生活はまだ米国のレベルに達していないが、多消費病に陥っている。着る服を数十着持ち、それを入れる部屋が必要になるべきではない」「1人当たり1万米ドルの年間所得ではあっても、我々は、先進国に比べて幸福になりうる。新たな目標が必要であり、いかにして最も省エネルギーで幸福と健康を最大化するかだ」

 宮本憲一さんが『環境経済学新版』(岩波書店)で、インド独立の父、ガンジーが「(人口が多い)インドが英国と同じことをすれば、地球がいくつあっても足りない」と主張し、地域に根ざしたネットワークを生かす経済発展を志向したと紹介しています。映画「ガンジー」に見る質素な衣服はそれを自ら体現していたわけです。インドよりも多い13億人の民がいる中国も、例えば年間に石炭なら世界の半分を一国で消費する資源・エネルギー浪費型の経済発展を根本から見直すべきなのです。

 第412回「中国重篤スモッグの巨大さが分かる衛星写真」は衝撃的で、非常に多数の方に見ていただきました。9百キロずつ離れた北京・南京・西安3都市間を丸呑みにした、人間の手に余る化け物ぶりに「『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない」と改めて思わざるを得ませんでした。


中国重篤スモッグの巨大さが分かる衛星写真

 2月下旬、丸6日も北京など中国主要都市を覆った重篤スモッグの衛星写真が中国網日本語版に掲載されたので、引用して紹介します。それぞれ9百キロずつ離れた北京・南京・西安3都市間を丸呑みにした巨大さが分かります。25日NASAによる撮影で、上空の雲は白く見えており、ねずみ色がスモッグです。


 オリジナルの「アジア上空を覆う濃霧 NASAが撮影」には地名が無いので、北京など3都市をプロットしました。日本の東京と博多の間も中国3都市間と同じく約900キロですから、スモッグ領域の広大さが理解できます。北京から北東に黒竜江省あたりまで伸びていますし、南はこの写真からはみ出ている重慶や成都の空も覆いました。23日の観測データとしてスモッグの領域は全部で143万平方キロと日本の陸地の4倍、特に重篤な部分が81万平方キロと伝えられました。

 微粒子PM2.5が大気1立方メートル当たり250マイクログラム以上が最上位汚染ランク「厳重汚染」になっています。20日正午に黄色警報が出て以来、PM2.5濃度は尻上がりの傾向を見せ、21日にオレンジ警報に格上げされたにもかかわらず、この写真の25日には北京は500マイクログラム前後の桁外れ汚染になっていました。結局、26日夕に北風が吹き出して今回の大気汚染は終息しました。『緊急措置効かぬ怪物スモッグが中国政府を打ちのめす』から入って全貌をご覧になってください。

 【参照】「『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない」


緊急措置効かぬ怪物スモッグが中国政府を打ちのめす

 丸6日も悪化し続けた中国の重篤スモッグについて、朝日新聞WEBRONZAで標題のリポートをリリースしました。上から2番目のオレンジ警報まで発動して立ち向かった中国政府の敗北感は計り知れないでしょう。北京の米国大使館が測定した6日間のPM2.5濃度グラフや日本への越境汚染マップを添えています。前文を以下に収録します。

 《いざとなれば打つ手はあると中国政府は身構えていたのに、モンスター級の重篤スモッグは繰り出される緊急措置を悠然と払いのけた。丸6日も続いた大気汚染、下がるどころか尻上がり上昇のPM2.5濃度で面目丸つぶれ。人工衛星で見た今回スモッグの重篤部分は81万平方キロ。東京から博多まで直線で約900キロあり、これを一辺とした正方形面積に相当した。こんな膨大な空間に汚染物質が充満したら、小手先の対策は効かない。中国がエネルギーと資源の大浪費型経済成長に突き進んできたツケが噴き出している》

 本文はWEBRONZAでお読みください。後半部分は朝日新聞有料会員でないと読めませんが、第410回「警報の効き目無い中国大気汚染、25日から日本覆う」第411回「越境PM2.5スモッグ、広域で注意喚起レベル85超」などを読まれたら補えると思います。結語に引用したWHOのくだりだけ収録します。《世界保健機関(WHO)が25日、今回の長期スモッグを憂慮して大気の改善を求める警告を出している。「簡単な解決策はなく、産業と経済の管理が必要」とのコメントが付けられている》


越境PM2.5スモッグ、広域で注意喚起レベル85超

 中国から越境してきた微粒子PM2.5スモッグが25日午後から各地に現れ、午後6時現在で環境省が設定した注意喚起レベル超えが26地点、環境基準超えは全国測定基地の4割、474地点にもなっています。注意喚起レベルはPM2.5が大気1立方メートル当たり85マイクログラム、環境基準は同35マイクログラム。85マイクログラムを超えているのは富山・石川・福井・兵庫・大阪・島根・福岡で、最高は大阪・柏原市内の147マイクログラム、2番目106マイクログラムの島根・浜田市では注意喚起レベル超えが3時から続いています。環境省のデータをグラフ化している「PM2.5まとめ」から汚染マップを引用します。


 黒が注意喚起レベル超え、赤が環境基準超えを表します。中国・北京周辺では汚染大気の移動で一時改善する予測があったのですが、逆に重汚染はますます酷くなり、24日夜からPM2.5の値が400マイクログラム前後にも上っています。第410回「警報の効き目無い中国大気汚染、25日から日本覆う」で、重篤スモッグ初のオレンジ警報が21日に発動された経緯を参照してください。中国側は27日からようやく空気が良好になると予測しています。

 【追補】注意喚起レベルを超えた新潟や大阪などの府県で、市民へ外出の自粛などが実際に呼びかけられました。注意喚起レベル地点は午後8時の34地点を最高にその後は減っていますが、環境基準超え地点は増え続けて、26日午前0時で601地点と全国測定ポイント1124の半数を超えています。26日は次の正午汚染マップが示すように東北から関東の東日本に広がりました。ひどい場所ではPM2.5が丸1日以上100マイクログラム前後を保った地点がいくつもありました。環境基準超えどころか、倍の70マイクログラム前後で1日維持の地点も珍しくなく、我が家に近い観測基地も含まれました。健康に響くほどのPM2.5越境汚染が非常に広範囲にあった点は記憶されるべきでしょう。





警報の効き目無い中国大気汚染、25日から日本覆う

 重篤スモッグが連日になっている北京市は21日、上から2番目に重いオレンジ警報を発動しました。車両ナンバーの偶数奇数で半数を強制停止する赤色警報を残していますが、緊急措置の大気汚染改善は明確でありません。赤色警報にならなかった理由は24日に冷たい空気が入って一息つける見込みがあり、3日間連続で最悪の「厳重汚染」にならないためだそうです。しかし、この空気移動で25日から日本全国が濃厚になったPM2.5スモッグに覆われそうなのですから迷惑な話です。日本のSPRINTARSチームによる25日21時の微粒子大気汚染予測図を掲げます。


 連日スモッグの原因は高気圧に覆われる中で上空1000メートル付近に空気の逆転層が出来て、対流による拡散が阻まれている要因が大きいようです。警報発動による主な対策は▼公共交通機関の輸送力を増やしてクルマからの転換を促す▼交通規制とアイドリングの停止▼道路の清掃やスプリンクラーでの水散布を大幅に増やす▼花火や野焼きを禁止、屋台の焼き肉店も閉めさせる▼北京市内のセメントや鉄鋼化学など111企業で生産停止や大幅削減――が排出源側です。市民側には学校での屋外活動停止や、外で運動しないよう呼びかけがされています。

 では室内なら安全か、法制晩報の記者が屋外でPM2.5が大気1立方メートル当たり330マイクログラムあった海淀区で、スポーツジムを訪ねて室内のPM2.5濃度を測っています。ビルの4階、20人以上が運動していた場所で91マイクログラムでした。中国の環境基準に照らしてもアウトですし、日本なら論外です。専門家が「運動不足があるとしても激しい運動は避けるべき」とコメントとしています。


 警報に青・黄・橙・赤の4段階とは第409回「中国大気汚染の緊急措置、無為・ずさんが露呈中」で紹介しました。「橙(だいだい)」になじみが薄くなっているので英語式にオレンジとしました。中旬のスモッグでは初歩的な青色警報しか出さずメディアから大ブーイングを浴びました。今回は黄色警報にして、直後にオレンジ警報まで格上げしたのですが、上に掲げた「北京AQI図」のように22日土曜夜まで「厳重汚染」(大気質指数AQI300以上:PM2.5なら250マイクログラム以上)が続いています。赤色警報でクルマの半分を止める「劇薬」がどれほど効くか試しておくべき好機だったでしょう。半分運行停止は2008年の北京五輪期間を乗り切った伝説の奥の手ながら、中国の車両台数が当時の2.5倍にも膨らんでいます。第398回「中国政府も深刻大気汚染の底知れ無さに目覚める」を参照してください。

 日本へのPM2.5スモッグ飛来は昨夏の第373回「中国大気汚染が高濃度で関東から西日本を覆う」で書いています。11月の「西日本各地でPM2.5による重汚染の異常事態」にある日中の重汚染継続も現実に起きていて、早朝・午前中のPM2.5濃度動向で判断する環境省の対応で手ぬるいことは明らかです。今回のスモッグはかなりの濃度のままで25、26日の2日間居座りそうです。期間中に雨があれば消えるのですが、期待できません。

 【参照】インターネットで読み解く!
     「『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない」
     第401回「中国大気汚染の実態:二次合成と工場が2大源」


中国大気汚染の緊急措置、無為・ずさんが露呈中

 中国政府が1月に大気汚染時の強力な緊急措置を発表しました。しかし、今月中旬の最悪レベル汚染に有効な手が打たれず、国営メディアから失望されています。さらに警報が出ても地方政府が何もしなかったケースも報道される有り様です。昨年1月からクローズアップされた重篤スモッグ、北京など北部ばかりか上海など東部地区や香港・広東など南部地区へと広がる一方です。強力な緊急措置を発動したら経済活動に打撃を与えるのは確実ながら、こんなに重篤でも発動しないのかと不満は高まるばかりです。


 人民日報には毎日のように各都市の汚染ランクがグラフで掲示されるようになりました。上には東部各都市がスモッグに覆われた12月のグラフを引用しました。微粒子PM2.5が大気1立方メートル当たり35マイクログラムが日本の環境基準ですが、上海・南京など軒並み10倍前後に達していました。

 爆竹や花火が使われる旧正月の締めくくり元宵節の14日から、北京はこれに勝るとも劣らない汚染に見舞われました。北京市環境保護監測センターの調べで16〜17日の24時間PM2.5平均濃度が432マイクログラム/立方メートルと言います。一時900マイクログラムの記録もあり、大気質指数AQIの最大値500を超えてしまう「爆表」が発生の厳重汚染状態連続でした。

 ところが、緊急措置で最も低い青色警報が発令されただけであり、ほとんど効き目は無かったようです。このため《大気汚染に措置講じず 国営TVが北京市政府を痛烈批判=中国》が次のように伝える事態になりました。

 《中国網はCCTV経済チャンネルの公式微博(ウェイボー、中国語版ツイッター)アカウントが15日に発表した2つの「つぶやき」を紹介した。1つめの「北京政府よ、霧に乗じて盲目を装うな」という「つぶやき」では、「政府は盲目であってはならない。自分の責任を負え、無恥、無為になるな。ここでは、霧を管理している人はいるのかと言いたい」とした。2つめではPM2.5で記録的な数値が出ているのにいつまでたっても車両通行制限や工場の操業停止などといった措置をとらなかったことを批判。「どんな汚染状況になったら『伝説』の緊急措置案を発動するのかわれわれには分からない」と語気を強めた》

 これが多数のメディアに転載されたのですが、検閲によってほとんど削除されています。現在、読めるのは国営英文メディアのチャイナ・デイリー《Beijing govt criticized for ongoing smog》だけのようです。

 当局の説明によると警報には青・黄・橙・赤の4段階があり、車両の半分をナンバープレートの偶数奇数で強制運行停止させる「赤」に至るには厳重汚染が3日間連続する予測が必要とされています。3日先まで見通してとは、極めて恣意的な判断になると考えられます。

 そんな中、北京の隣、河北省の保定市では13日にクルマの通行規制を伴う黄色警報が発令されたのに、交通警察など規制部門が発令に気付かなかった失態が報道されました。しかも、このようなミスは初めてではないようです。

 昨年末の第398回「中国政府も深刻大気汚染の底知れ無さに目覚める」で国営新華社通信の覚醒を伝えましたが、まだまだ道遠しです。中国メディア自身が「北京は人間が住める場所でなくなりつつある」と言い出しました。1年前の問題意識「『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない」がまだ有効であり、日本のメディアは汚染の上っ面にしか関心がないようです。


インド大気汚染、信じられないほどのPM10値継続

 年明けから大気汚染の深刻さは中国以上と伝えられているインドで、7日昼過ぎから信じられないPM10値が継続されています。大気1立方メートル当たり1985マイクログラムで測定上限の「2000」を超えている模様。デリー首都圏北西部のパンジャブ・バーグにある観測ポイントで、以下に掲げるグラフのように7日午後1時、「170」前後から一気に上昇、夜通し高水準のままです。インド環境基準の20倍にもなります。微粒子の粒が小さいPM2.5の方はせいぜい「120」程度で推移しています。PM10値は東部の交通拠点アナンド・ビハールでも7日夕に「813」に達しました。


 地元紙ザ・タイムズ・オブ・インディアが「デリーと北京、どちらの汚染が酷いか」を6日に掲載したばかりです。健康被害がより大きいPM2.5の比重が高い中国と単純比較できないものの、インドの問題は行政が放置して取り組もうとしない点だと指摘します。そうなる理由は中国と違って市民からの抗議がほとんどないからだ、というのでは困った国です。

 しかし、医療関係者は「かつて無いほど大量の呼吸器系患者が、特に子供に多く見られる。このまま汚染が進めば子どもたちの肺機能が損なわれるだろう」と警告しています。

 昨年11月に書いた第391回「インド大気汚染さらに悪化、危険過ぎるPM2.5とPM10値」ではPM2.5が「1020マイクログラム」にもなった状況を捉えています。インドと中国では汚染源や気象条件にかなりの違いがあるようです。 なお、日本大使館の「インドの大気汚染と粒子状物質(PM10及びPM2.5)について」にも中印の比較データがあります。


中国大気汚染の実態:二次合成と工場が2大源

 年末から年始にかけて中国大気汚染の実態について注目すべき報道が相次ぎました。中国科学院大気物理研の分析で微粒子PM2.5の主要汚染源は6つあり、空気中での二次合成と工場からの排出が2大汚染源でした。また、人民日報中国語版によると、2013年に北京市のPM2.5年間平均濃度は大気1立方メートル当たり89.5マイクログラムに上りました。中国の環境基準の1.5倍、日本の基準の2.5倍が年間平均ですから、人間が住む場所ではないと言えます。汚染源6つを次のグラフに示します。


 中国網の「北京のPM2.5 6つの主要汚染源が明らかに」は「北京のPM2.5には、砂塵(15%)、石炭燃焼(18%)、バイオマス燃焼(12%)、自動車排出ガス・ゴミ焼却(4%)、工業汚染・(25%)、二次無機煙霧質(26%)という、6つの重要な汚染源があることが明らかになった」と伝えています。2009年から2010年にかけて異なる季節に収集したサンプルを分析しています。2013年の資料ではありません。

 4分の1ずつを占める2大汚染源と石炭火力発電と暖房にも使う石炭燃焼が主にコントロールするべき対象だと分かります。砂塵は黄砂、バイオマス燃焼は稲わらなどを燃やす汚染です。意外にも自動車排気ガスは小さな割合ですが、空気中での微粒子二次合成に寄与しているとみるべきです。環境中に排出される化学物質の関係は第343回「中国大気汚染の絶望的な排出源構成と規制遅れ」に掲載の模式図を参照して下さい。

 北京市に隣接する河北省は鉄鋼業の大集積地です。ここからの工場ばい煙の削減を意図して、2013年後半に大幅な製鉄所の閉鎖・減産措置が取られました。ロイターの《アングル:中国の大気汚染対策、「しわ寄せ」は上海に》は「北京や河北省の都市では過去一カ月間の大気汚染は比較的改善したが、上海や東部沿岸部では汚染を示す指数が過去最悪を記録している。上海でも昨年に鉄鋼生産量は10%以上削減されたが、隣接する江蘇省などでは小規模の製鉄所が生産を拡大している。国家統計局によると、2013年末時点の鉄鋼生産量は河北省では大幅に減少した一方、上海に近い江蘇、安徽、浙江の各省では拡大した」と、生産移転で重篤スモッグが拡散した実態を伝えています。セメント産業も河北省で縮小、江蘇省で拡大しているのですから、話になりません。上海よりもずっと南の香港にも大気汚染が拡大しています。

 第398回「中国政府も深刻大気汚染の底知れ無さに目覚める」では国営新華社が上海周辺にまで重篤スモッグが拡大した事態を深刻に受け止めていると指摘しました。汚染源が明らかになっている以上、抜本的な対策は工業生産と石炭火力の縮小、自動車台数の削減しか無いはずです。即ち、経済発展を止める決断です。「『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない」と再び申し上げておきます。


原発事故時の避難計画、具体化するほど無理目立つ

 原発再稼働の前提であるはずの事故時避難計画は、対象が30キロ圏内135市町村に大幅拡大した結果、具体化するほど無理がある様相です。策定は4割もなく、大人口の長距離避難など実現可能か検証が必要です。25日に原子力規制委に出された内閣府調査から、原発集中地である福井周辺の自治体避難先地図を引用します。


 30キロ圏に全市すっぽり入ってしまう人口6万8千人の敦賀市が、隣の滋賀県や京都府を通り越して奈良県まで避難先を求めているのが目を引きます。他の自治体も大阪府や兵庫県、さらに遠く徳島県や和歌山県までも入っています。動員できるバスなど車両数の限界がある上に、重大事故発生が知らされれば道路は大混乱に陥りますから、こんな広域避難が本当に可能なのか、十分に検証しないと「絵に描いた餅」になります。

 朝日新聞の《原発避難計画、策定4割に満たず 立地30キロ圏自治体》はこう伝えました。《再稼働を目指し、電力会社が新規制基準の適合審査を規制委に申請した原発を抱える7地域のうち、避難計画がすべての自治体でそろっているのは、伊方、玄海の2地域のみだった。柏崎刈羽原発周辺では、9市町村の全てが防災計画はあるが、避難計画はまだ作られていない。福井の原発密集地域、泊、島根、川内の各原発の周辺では、ほぼ全ての市町村で年内にも、避難人口の把握や避難方法、経路の決定など基本的な作業が終わる見通し》その基本作業が上図ですから、道遠しです。

 柏崎刈羽の長岡市や島根の松江市のように人口20万人以上を避難させねばならない自治体は、避難が近距離であっても大変な難事業に直面しています。第386回「前のめる原発再稼働:新規制基準なら万全と錯覚」で指摘しているように、従来の形式的な避難訓練ではなく、大規模避難が実現できると示せる規模の訓練をしなければならないでしょう。そして、福島原発事故では避難準備区域とされる30キロ圏にも震災の翌日には高レベル放射能の雲が流れ出しました。時間の余裕はありません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


完全に破綻した福島原発汚染水の海洋流出阻止

 福島原発1号機の護岸すれすれにある観測井戸から16日、ベータ線放射性物質が1リットル当たり6万3000ベクレルも検出されました。地下水が流れこむのに強力な対策はなく海洋流出阻止は破綻したと言えます。下の地図で確認できるように、高レベル汚染検出エリアは止水剤を注入した壁で囲い込む形になっていました。地下で囲っても山側からは日々に地下水が流れ込んでいますから、汲み上げてやらないと溢れるのは当然です。


 海側の「No.0−3-2」が6万3000ベクレル検出の井戸です。13日には検出せずでした。12日に180万ベクレルを記録した「No.1-16」井戸は汲み上げを試験的に実施して13日が140万ベクレルに下がり、16日にまた増加して170万ベクレルに達しました。この分がオーバーフローして海側に出て行ったと考えるべきです。東電は汚染水を入れるタンクが足りなくなっており、汲み上げを続けられていません。

 原子炉建屋地下に流入する1日400トンの汚染水を収容する対策が基本計画になっていました。ところが、第392回「1日400トンの放射能汚染水が150トンも増える」で指摘したように、広大なタンクエリアで漏れた汚染が除去できず、雨が降るたびに汚染水が増える、お手上げ状態になっています。1日換算で150トン、4割近くも増えれば計画が破綻して当然です。

 1号機護岸から直接流れ出ている先は港湾内ですが、5、6号機が港湾内から吸い込んで使っている冷却水の放水口が外洋ですから、大量のベータ線放射性物質が外洋に出ていると考えざるを得ません。東京五輪誘致で「コントロール下にある」と言い放った国際公約はどうするのでしょう。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


中国政府も深刻大気汚染の底知れ無さに目覚める

 1月に始まった重篤スモッグ騒ぎ、師走になって中国政府もやっと大気汚染の底知れ無さを自覚したよう。国営新華社が異例の深刻ぶりを配信しました。小手先対応が無力なほど汚染源は経済発展に組み込まれています。同時に中国の新車販売が好調で今年2千万台を超えるニュースが駆け巡りました。クルマが主要汚染源であることは明らかなのに「3500万台も視野に入れる」と業界関係者がコメントする能天気に呆れます。グラフをお見せしましょう。中国で前年末まで過去10年間の新車販売累計がどう推移したか集計しました。北京市は北京五輪での青空回復を引き合いに出して「今回も乗りきれる」と主張しますが、2008年当時と比較にならない数のクルマが国内にひしめいているのです。


 2007年末まで10年間累計は4316万台でした。ところが、2012年末までの10年では1億1099万台にも上ります。2008年と2013年を比べたら2倍半以上の膨張です。クルマだけではありません。石炭消費もセメント生産も2012年に至って中国は世界の半分以上を占める規模になりました。どちらも10年で3倍になっているので5年前との比較なら2013年は2倍になっていると考えられます。北京五輪当時は市内工場の一時停止やクルマの半数を日替わりで使用禁止にして五輪本番での青空を得たのですが、現在は2倍を超える汚染源集積ですから半分を止められたとしても北京五輪当時のスッピンに戻せるだけです。その普段の北京を見て選手生命の危機を感じた有力アスリートが出場を取りやめました。

 新華社発を受けた共同通信《8億人が「呼吸困難に」 中国で大気汚染拡大 新華社が異例の論評》はこう始まります。《中国国営通信新華社は11日、今年深刻さが際立つ大気汚染を総括する異例の論評を配信、有害物質を含んだ濃霧は全国104都市に拡大し「8億人余りが呼吸すら困難となった」と振り返った。論評は「応急措置は役に立たず、濃霧発生は常態化した」とし、政府がここ1年、有効な解決策を打ち出せなかったことを示唆している》

 重篤スモッグで国際的に有名になった北京など北部に比べ、ビジネスが盛んな上海など東部地区は比較的大気汚染が少ないとされてきたのに先週は強烈なスモッグが覆いました。週明けには南部の香港までも濃いスモッグになり、もともとスモッグで知られる重慶など内陸部と合わせて全滅の様相です。ロイターは人が住む環境でなくなった点をとらえ「上海を2020年にロンドンやニューヨークと並ぶ世界経済の中心にする中国政府の野望の足かせになっている」と論評しています。

 《新華社の論評は、汚染により多くの国民が健康被害を受けたほか、小中学校の閉鎖や汚染物質の排出企業の生産停止が常態化したと指摘。12月に入り東部で深刻な有害濃霧が発生した際、多くの環境担当部門が緊急対応を試みたが「上海、南京、杭州などの地域が重度の汚染に見舞われるのを阻止できなかった」と強調した。さらに周生賢環境保護相の「発展の結果が健康な人を不健康にしてしまったのなら、皮肉なことだ」とする言葉を引用し、経済成長を最優先させてきた発展の在り方を問い直している》

 中国の経済成長率を今のまま延長して経済規模世界一が間近と見る愚かさにようやく気付いてもらえたようです。《『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない》で「起きている事象を冷静に観察すれば、根本的には打つ手がないほど環境対策を長期放置した超重度汚染であり、かつて日本が大気汚染を逆バネにして成長したほどの技術的蓄積が中国に無いのは明らかです」と早くから指摘してきました。大気汚染ばかりでなく水資源の汚染や土壌汚染も救い難いレベルに進んでいます。詳しくは「インターネットで読み解く! 環境・資源」の今年の項を参照いただきたいと思います。


PM2.5重篤スモッグが9日夜から10日、西日本へ

 先週、上海や南京で深刻な大気汚染になっていたPM2.5重篤スモッグが北西の風に押し流され、今夜から明日、西日本へ到達しそうです。正午に釜山付近でPM10値334マイクログラム/立方メートルを記録しています。SPRINTARSの10日午前零時予測図を以下に引用します。これを見ると、通常の中国からの越境汚染よりも非常に濃厚なスモッグが届きそうで不気味です。


 北京のスモッグは国際的に有名ですが、上海などビジネスが盛んな東部地区は比較的大気汚染が少ないとされてきました。しかし、この冬は大気がほとんど動かない悪条件に加え、北京など北部の石炭暖房の燃えかすが増えて広範囲でスモッグになりました。地方政府が工場へ停止や減産を命じ、学校は休校や屋外活動をやめさせる事態になっていました。昨日から強い寒気団が南下するので中国大陸はきれいになるのですが、とばっちりが韓国や日本に及びます。

 11月にも越境PM2.5が大気1立方メートル当たり200マイクログラム前後の重汚染を西日本各地で起こしており、これは『西日本各地でPM2.5による重汚染の異常事態』で伝えました。


線量限度に一国二制度、帰還住民はモルモットに

 福島原発事故の避難民帰還を迎えて法定の線量限度年間1mSvが曖昧にされようとしています。マスメディアは政府の設けた土俵で議論し、個人線量計を付けさせた帰還が法の保証が無いモルモットと見えないのです。線量計を1年間着用して例えば1mSvに収まったらそれでオーケーとの発想がそもそも異様です。線量計を付けるのは職業人の被曝対策であり、一般公衆の線量限度は普通に生活して十分クリアする環境を放射線障害防止法が整えていると解すべきです。そうでない環境に帰還させるならば、現行法体系が適用されない場所であると明確に説明すべきです。年間20mSv以下になったら帰還させる政府方針は完全に一国二制度なのです。どうしても帰りたい人はリスクを知った上で帰るしかありませんし、帰らないで移住する権利もあるとはっきり言わねばなりません。

 原子力規制委員会が20日にまとめた「帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方」は「公衆の被ばく線量限度(年間1ミリシーベルト)は、国際放射線防護委員会(ICRP)が、低線量率生涯被ばくによる年齢別年間がん死亡率の推定、及び自然から受ける放射線による年間の被ばく線量の差等を基に定めたものであり、放射線による被ばくにおける安全と危険の境界を表したものではない」とするだけで、法定線量限度である点に触れません。緊急事態後の防護の最適化では「長期的な目標として、年間1〜20ミリシーベルトの線量域の下方部分から選択すべきであるとしている。過去の経験から、この目標は、長期の事故後では年間1ミリシーベルトが適切である」と長い目で見る立場です。

 放射線障害防止法のどこを読んでも「年間1mSv」は出てきません。この法律は放射線源施設の認証基準をそれぞれ規制していって、外にある一般社会での線量を一定以下に落とすよう出来ています。法第十二条の三「認証の基準」は文部科学大臣らに省令で定める技術基準で認証するよう求めています。それに基づく施行規則第十四条の三には「当該申請に係る使用、保管及び運搬に関する条件に従つて取り扱うとき、外部被ばく(外部放射線に被ばくすることをいう。以下同じ。)による線量が、文部科学大臣が定める線量限度以下であること」とあります。そして、文部科学省の「設計認証等に関する技術上の基準に係る細目を定める告示」で「文部科学大臣が定める線量限度は、実効線量が一年間につき一ミリシーベルトとする」となっているのです。

 国際放射線防護委員会による勧告と日本国内での法定化は意味が違います。法律である以上、国民は国や自治体に法を守るよう求める権利があります。原子力規制委の帰還に向けた提言は、法が通用しない帰還地域で個人線量計を付けてもらい、被曝の評価に使うというのです。空間線量から計算した数値よりも個人線量計は低めに出るので安心できる面があり、また、帰還後の行動と線量を照らし合わせることで危険な場所が明確になるでしょう。しかし、それは帰還民をモルモットにする結果になると、なぜ気付かないのでしょうか。

 「3カ月で1.3mSv」を超える場所は放射線管理区域として規制されています。立ち入る関係者は線量計を付け、飲食は禁止で、業務が終われば速やかに退出しなければなりません。福島県外ではこのように運用されているレベルの汚染環境で、食事をし寝る日常生活が営まれる事態が帰還地域では発生するでしょう。いや、現に福島市などのホットスポットでは除染しても放射線管理区域並の場所が多く残ります。そこで生活しているのに眼をつぶってきたゴマカシがさらに広がるのです。第325回「浮かび上がる放射線棄民にマスメディア無力」(2012/10/21)で指摘したようにマスメディアも共犯関係にあります。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


1日400トンの放射能汚染水が150トンも増える

 福島原発の放射能汚染水は問題が収束するどころか破綻に向かっています。東電に汚染水のタンク漏れを抜本的に改善する能力がなく、タンクエリアに降る雨水が汚染水と化して、1日150トンも増える試算が公表です。炉心溶融を起こした原子炉3基の建屋に流れ込む地下水1日400トンをどう減らすかが焦点になっていたはずが、逆に大幅に増えるのです。タンクからの漏洩を止めてエリアをクリーンに保てれば雨水はどんどん流せば済むだけ。『汚染水流出で明らかになった東電1カ月放置の怠慢』で「怠慢」と指摘したのは間違いでした。実際は東電の「無能」でした。9月16日のタンクエリア全ベータ放射能汚染地図を再び掲げます。


 福島民報の《地下貯水長期化の恐れ 第一原発汚染雨水 漏えい不安抱え》は健全性・安全性が確認されていない地下貯水槽に汚染雨水が長期に保存される危険性を訴えています。しかし、「東電の試算では、排出基準を上回り貯蔵の必要がある汚染雨水は年間約5万5千トン。1日当たりに換算すれば150トンにも達する」点こそ、核心ニュースです。東電にはタンクエリアをクリーンにする能力が無いと自ら認めているからです。汚染水を収容するタンクは現在以上のペースで増え続け、漏洩も増え続けるのです。

 「東電は緊急対策として、全ての貯蔵タンクに雨どいを設置する方針を固めた。円柱状のタンク上部をシートで囲み、たまった雨水はせきの外に排出する。だが、タンク側面などに当たる雨は、せきに入るため効果は限定的だ」と東電側の対策が伝えられています。これは根本的に間違っています。タンクエリアの基盤は厚そうに見えても透水性のコンクリートであり、問題になるレベルの汚染水が貯まっていれば地下に浸透して放射能汚染を拡大していきます。第379回「原発後背地のタンク漏洩続出で収拾計画に困難」で指摘したように、致命傷になる恐れがあります。タンクを造るなら漏れた時の受け皿を用意するのが工学的な常識であり、それを東電が欠いていた異常さが問題を大きくしています。

 ここに至ってタンクエリアをクリーンに保てる自信が無いのならば、現在の安普請タンク群を放棄して正常に運営できる正規の構造のタンクに切り替えるしかありません。漏洩場所を早期に見つけて原因を潰していく地道な作業が東電の現場作業陣に期待できないのですから、回り道でも一番オーソドックスな安全なタンク新設と汚染水移転を急ぐべきです。最早、東電任せの時ではないと申し上げます。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


インド大気汚染さらに悪化、危険過ぎるPM2.5とPM10値

 中国と並んで大気汚染が重篤な国インドでもさらに深刻度が増しています。デリー首都圏で微粒子物質PM10が先週、大気1立方メートル当たり1940マイクログラムを記録、インド環境基準の20倍に迫る恐るべき値です。中国・ハルビンでPM2.5が1000マイクログラム記録と並ぶ凄まじい汚染です。この空気を多数の人が肺に取り込んでいると考えると空恐ろしい気分です。「1940」を記録したアナンド・ビハールの4日朝、リアルタイム大気質指標(AQI)を以下に引用します。(追補あり=5日夕、PM2.5が1020マイクログラム記録)


 アナンド・ビハールは首都圏東部の交通の要衝です。この時点の指数「999」はPM10が高濃度過ぎて「指数振り切れ状態」です。PM2.5で見ても500マイクログラム級です。右側に出ている場所も同じ重汚染の首都圏内であり、PM2.5で300〜500マイクログラムですから、北京での重篤スモッグと同等と見てよいでしょう。

 ウォールストリートジャーナルの2日付「デリーの危機的な大気汚染問題」がインド現地で書かれていて、これまでの経緯を報じています。昨年の11月も酷い汚染に見舞われてPM10は「1000」に達し、今年は首都圏に6カ所のリアルタイム観測地点が出来ました。PM10「1940」は10月31日朝に測定されました。

 深夜まで爆竹を鳴らすお祭りがあった朝方は特に酷くなる傾向です。しかし、昼間の時間帯にリアルタイム大気質指標を覗いてみても重汚染状態は同じです。増加している自動車の排気ガスが問題になっており、悪質なクルマには罰金を課しましたが、焼け石に水状態です。この季節、コメの収穫後に農民が稲わらを燃やしてしまう問題も大きいようです。抜本的な対策には至っておらず、「誰もが有害と認めるのに、誰も行動しようとしない」状況と言います。

 統治機構が中国に比べて弱いインドの状態は昨年、第313回「インドの大失速が理解できる材料が出そろう」で紹介しました。また、第355回「大気汚染による中国とインドの健康被害深刻」で2010年の研究ではインドでは外気よりも家庭空気汚染の方が健康被害に効いているとしましたが、デリー首都圏全域の汚染状況がここまで深刻化しているなら見方を変えねばなりません。

 【追補:PM2.5が1020マイクログラム】5日夕、デリー首都圏は強烈なスモッグに覆われているようです。リアルタイム大気質指標は次のようになっており、アナンド・ビハールのPM10はやはり「999」と振り切れ状態です。同地点午後8時の観測値でPM10が「1554マイクログラム」、PM2.5が「1020マイクログラム」(インド環境基準の17倍)と恐るべき数値が出ています。インディラ・ガンディー国際空港(IGI Airport)ではPM2.5が700マイクログラムもあり、ここで指標最低値が600を超えていては逃げ場がありません。指標値とマイクログラム数はこれくらい高くなるとほぼ同じとみてよいでしょう。観測網はこちらのサイトです。


 【参照】インターネットで読み解く!「インド」関連エントリー


西日本各地でPM2.5による重汚染の異常事態

 中国発の微粒子物質PM2.5が2日午後、大気1立方メートル当たり200マイクログラム前後と西日本各地で戸外活動中止すべしの「重汚染」状態を起こしています。国内の環境基準「35」超過地点も200カ所を超えています。環境省などの測定データを使っている「PM2.5まとめ」から福岡・柳川の過去24時間推移グラフを引用します。午後6時現在の環境基準超過は全国1037地点の中で関東・東北まで235カ所です。


 最も長い時間、異常なPM2.5値が継続しているのは柳川市大字今古賀の測定ポイントです。午後1時に「197」を記録、100マイクログラム超えを維持したまま午後6時に「191」となっています。午後5時に岡山・早島で「231」を記録、富山・高岡でも「117」です。「300」前後の重篤スモッグが常態化している北京ほどではないものの、「200」に迫る状態が長く持続は国内では非常に珍しい事態です。環境省は2月に、早朝に85マイクログラムを超える日は健康に影響する1日平均で70マイクログラムを超える恐れとの暫定指針をまとめましたが、今回はこの想定をはるかに超えています。第388回「PM2.5発がん性認定、お座なりの日中政府に痛撃」で指摘したように甘く見てはなりません。


中国の環境NGOが大気汚染改善に挑む最初の一歩

 悪化の報道こそあれ改善の兆しがない中国大気汚染。鈍な政府と違う立場で企業を動かそうと中国の環境NGOが取り組みを始めた報告を、当のNGOリーダーが来日したシンポで聞いたデータを加えてリポートします。10月下旬、都市集中暖房を始めた中国東北部ハルビンで微小粒子状物質PM2.5の濃度が大気1立方メートル当たり1000マイクログラムの観測上限を超えたニュースは衝撃的でした。30日、大阪でのシンポでも風がなく空気が滞留してしまう気象条件が第一にあげられましたが、根本的には自動車や工場・建設現場からの排出が経済発展とともに膨大になった点が問題です。NGO報告はセメント産業の排出量の大きさに着目しています。

 北京にある「公衆環境研究中心」がそのNGOです。2006年発足で中国内46の環境NGOと連携、先輩格として相談相手にもなっていると言います。ウェブサイトで目立つのが汚染排出源企業のデータベース化です。例えば下のマップは汚染水、排気、重金属、畜産養殖等の排出源です。各地の市民が拡大して見れば身近な汚染源を見つけられます。


 政府が色々な場所で公表している環境汚染情報をかき集めてひとつのデータベースにして見せています。発足当初は2500件に過ぎなかった情報が13万件にも膨れ上がりました。そこから下の図のようなマップが出来ます。北京市内だけ抜き出して環境汚染違反で監督を受けた企業を見つけ、それがどのような中身だったか、元の政府文書が読めます。


 データを活かす例として「公衆環境研究中心」報告のひとつ、セメント産業を取り上げた「RESPONSIBLE INVESTMENT IN THE CEMENT INDUSTRY: STILL A LONG WAY TO GO」を読んでみました。下のグラフのように世界のセメント生産の58%を中国が占めていて、セメント製造工程での砕石や加熱に使う石炭など、重篤スモッグを起こす環境汚染排出源として膨大です。セメント生産量は過去10年で3倍にもなっています。


 重篤スモッグの素になる微粒子や窒素酸化物などが製造工程のどこで出るのか、調べあげています。中国全体で見ても石炭消費量が過去10年で3倍になり、昨年は世界の半分に達しました。「公衆環境研究中心」は環境基準を守らない企業からの素材・製品を買わないよう大手企業に圧力を掛け、「グリーン度」のランキングを作って企業を環境保全に誘導しようとします。例えば米アップル社は最初は応じなかったのですが、今はランキングに好意的に変わったと言います。メディアや市民・消費者も加わって圧力をかける戦略です。

 セメント業界では大手17社を選定、過去の環境汚染例をリストアップして調べています。5月には環境NGOの連名で各社に要請を送りつけました。好意的な反応を見せたのは多国籍企業の1社だけで、他社は再度の申し入れにも逃げる姿勢です。まだまだ先は長いぞ――が現在の到達点です。東京では11月1日にもヒューマンライツ・ナウ主催シンポがありこちらが案内です。

 【参照】「インターネットで読み解く!」
     第388回「PM2.5発がん性認定、お座なりの日中政府に痛撃」
     「『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない」
     第346回「『がん村』放置は必然、圧殺する中国の環境司法」


汚染水流出で明らかになった東電1カ月放置の怠慢

 大雨で高レベルの汚染水まで溢れ出す事態になりました。発表の放射能測定レベルから騒ぎが大きくなった1カ月間、東電がタンクからの漏出対策に何ら有効な手を打っていない、放置していた怠慢が浮かび上がりました。想定外の大雨との弁解はあり得るとしても、最初に問題になったH4エリアのタンク以外にも大小の漏れがあると分かりながら漫然と時を過ごし、大雨になったらギブアップでは話になりません。9月16日付「福島第一原子力発電所各タンクエリア堰内溜まり水の全ベータ放射能分析結果(簡易測定)について」にある主なタンクエリア測定マップに、10月20日に測定されたストロンチウム90のデータを書き込んだので御覧ください。


 大雨の中で測定されたので薄まっていますが、1カ月前と各エリアの濃度対比は同じ傾向です。この間には台風26号による大雨を経ており、そこでかなり洗い流されているはずです。各エリアのタンクで漏出元の検査をして対策が取られていれば、もっとクリーンになっているべきです。漏出タンクの分解検査をしたH4エリアでも1リットル当たり12000ベクレルの高汚染ですから、いったい1カ月、何をしていたのか、外部から見て不可解としか言いようがありません。タンクエリアの地盤は透水性のコンクリートですから放射性物質はいくらでも地下にしみ込みます。

 東電には事態をドライブしていく気力すら無いように見受けられます。第379回「原発後背地のタンク漏洩続出で収拾計画に困難」で指摘しているように、タンク群がある場所は炉心溶融した原子炉の後背地で、ここまで放射能汚染を拡大させると福島原発事故の収拾計画全体が崩壊してしまいます。原子炉4基周辺だけに汚染を限定し、最終的に地下遮水壁で囲んで周囲と完全に分離してしまう必要があるのです。後背地まで放射能汚染拡大では環境への放射能流出が断ち切れません。

 第380回「五輪国際公約した以上、汚染水の安全な移転を」での提言を繰り返すしか無いようです。杜撰で今後も欠陥露見が予想されるにわか作りの現在のタンクは放棄して、正規の新設タンクに全ての汚染水を移転すべきです。途轍もない困難が予想される廃炉に向けてエネルギーを注ぐべき時に、余分なエピソードに過ぎない汚染水問題を危機にしてはいけません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


汚染水めぐり中国中央テレビが韓国番組利用し捏造報道か

 中国中央テレビが韓国公共放送の番組をつまみ食いして福島原発事故の汚染水で捏造報道した可能性が高いケース発生。韓国側は日本で食品の安全性取材をしましたが、中国側が強引に汚染水問題にすり替えたようです。問題の記事はXINHUA.JPの18日付《韓国記者が「東京五輪」開催に疑問、東京近海の汚染水調査を実施 「安倍首相の発言通りではなかった」―中国メディア》です。下に引用するテレビ画面が示すように、韓国KBSの画面を使って中国CCTVが報じた内容がソースになっています。


 最も粗雑なのは次の点です。《安倍晋三首相は五輪開催地を決定する最後のプレゼンテーションで「汚染水の影響は0.3平方キロメートルの港湾内に完全にブロックされている」と説明した。だが、KBS記者が日本の大学と共同で東京近海の7カ所で海底の泥を採取して検査した結果、いずれのサンプルからも基準値を超えるセシウムが検出された》

 東京湾・荒川河口の泥で1キロ当たり625ベクレルのセシウムを検出したと聞いても日本国内では驚きはありません。関東の河川中流域では1000ベクレルを超える場所はいくらでもあります。2011年3月の事故当初に放射能の雲が何度も関東を襲い、雨が降った場所に蓄積して今も下流に流れ出しています。しかし、現在進行している汚染水漏出問題とは何の関係もありません。

 韓国KBSが日本向けに提供している「KBS WORLD」には関連記事はありません。ネット上で検索すると《福島原発事故で明らかになった日本の二つの顔 KBS時事企画の窓15日午後10時放送》(原文:韓国語)という番組お知らせページに行き着きました。

 「現場ルポ、福島の真実」として《福島原発事故が起きてから30カ月。"時事企画の窓"の取材陣は、福島原発の8キロ点まで接近した》と始まり、東京湾7カ所での海底土調査へと続きますが、放射能の由来については正しく認識しています。取材の意図は韓国の水産物輸入禁止に関連した食品の安全性にあり、日本政府の発表を信じられないとする仮設住宅避難民の声を紹介。1067件の食品放射能測定データを独自に入手、95件で基準値を超えていて韓国政府の放射能検査網をすり抜けている場合があると指摘します。

 実際の番組で何か語られたか確認しようがありませんが、番組お知らせページには汚染水問題は全く出ていません。現地を知らない中国中央テレビの記者が東京湾の汚染は格好のネタと飛びついた可能性が高いと判断します。ネットで検索すれば汚染水漏出と関係が無いと知るのは容易だったはずです。取材の基本能力を欠いています。

 【参照】インターネットで読み解く!
     第382回「無管理同然、汚染水漏れ疑惑タンクが一気に拡大」
     第364回「『江戸前』に赤信号、ウナギ汚染をなぜ騒がぬ」



PM2.5発がん性認定、お座なりの日中政府に痛撃

 PM2.5など微粒子大気汚染に発がん性を認めたWHOの認定は、汚染源退治に成果がない中国政府のみならず、中国から越境汚染が深刻になっているのに対処しようとしない日本政府にも痛烈な警告になりました。冬場の石炭暖房が有力汚染源とされていたのに、この夏も重篤スモッグが頻発、国慶節の大連休で工場が休んでいた今月初旬にもスモッグ続きと発生源の常識が覆っています。冬に向かって心配が増すばかりです。こうした中、17日に大気汚染赤色警報発令の場合、自動車のナンバープレート末尾の偶数・奇数によって運行停止、つまりクルマの半分を動かさない強制措置が発表されました。2008年の北京五輪を乗り切った奥の手ですが、5年間の経済発展・人口集積の大きさは膨大で運行停止の有効度は下がっているでしょう。


 中国全土をカバーしている「全国都市大気実況」で今日18日午後3時の北京付近を拡大しました。北京の重度汚染マークは内陸の河北省、沿岸部の山東省にも広がっています。これより南部は比較的汚染は軽く、上海近くになると良好な空気でした。こうした南北の汚染落差はウオッチを続けていると頻繁に見られます。7月初めに米ニューヨーク・タイムズなどが伝えた「中国北部の汚染は南部に比べて深刻で、住民の平均寿命が5年半短縮する恐れがある」とした調査結果について、中国当局は「根拠に乏しい」と否定しました。もし認めたら国民への影響が計り知れないと考えたのでしょうが、発がん性を考えても疑わしさは拭えなくなりました。


 7月の第373回「中国大気汚染が高濃度で関東から西日本を覆う」で紹介した「PM2.5まとめ」による越境汚染の広がりを示すマップです。赤い点では国内の環境基準大気1立方メートル当たり35マイクログラムを超えています。この7月25日は185地点でしたが、400地点に迫る日がありました。環境省は2月に、早朝に85マイクログラムを超える日は健康に影響する1日平均で70マイクログラムを超える恐れとの暫定指針をまとめました。ところが、このシナリオ通りにならず、住民に警告を出せずに70マイクログラムを超えた日が発生しています。また、2倍を基準に取るのがおかしく、呼吸器が弱い人には環境基準レベルで注意を喚起するべきだと考えます。

 梅雨から夏の時期に中国で重篤大気汚染が続発し、その汚染大気が日本海で滞留してしまう予想外の事態が続きました。第374回「対岸の火事でないPM2.5、抜本的な浄化支援が必要」で伝えた通りで、中国の主要汚染源が世界に例を見ない膨大な石炭使用にある点は間違いありません。石炭からの汚染物質除去では並外れた環境技術を持つ日本に、最近の歪んだ日中関係から頼れなくなっている中国は哀れです。まさに「『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない」です。


最大電力供給で無視できなくなった太陽光・風力

 この夏の最大電力供給で太陽光・風力発電が果たした役割は2%、320万kwと大型原発3基分に相当しました。昨年より倍増して無視できない規模になり、大増設でピーク電力カットの主役にする計算もあり得ます。原発全廃で先を走るドイツに比べると大幅に物足りませんが、発電設備は太陽光が876万kw、風力が260万kwと合わせて1千万kwを超える規模まで伸びました。電力供給の一番の修羅場で太陽光発電の設備効率4割を見通せる状況です。総合資源エネルギー調査会・電力需給検証小委の「2013年度夏季需給検証のまとめについて」をもとに計算した太陽光・風力、それに原子力のグラフを掲げます。


 電力需給検証小委は最大電力の日に供給されたのは、太陽光が220万kw、風力は24万kwとしています。しかし、小口の家庭用太陽光発電ではエアコンなど自家消費で余った分を電力会社に売電する仕組みになっています。この資料から計算すると自家消費は76万kwあり、その分だけ最大電力需要が抑えられたのですからこれを除外するのは不公平です。合わせて320万kwあった太陽光・風力発電が、唯一動いていた原発、大飯3・4号の236万kwを圧倒しています。なお、他の再生可能エネルギーとして水力が1287万kw、地熱が27万kwありました。最大電力は16125万kwと膨大です。

 最大電力の計算は電力9社それぞれの最大日分を合計しています。太陽光発電は夜は動きませんから、設備効率は年間を通じては13%程度と言われます。それにしても晴れて暑い最大電力の日に全国平均34%の設備効率は低く感じます。ひとつには電力消費のピークが、太陽が南中している正午ごろではなく西に陰り始めた午後3時くらいに来るためでしょう。計画調整で午後5時にピークが来た九州電力で効率21%まで落ちたのもかなり響いています。中部・関西は4割台で、九州も関西なみだったなら平均は4割に迫ります。

 電力供給力を電力需給検証小委が事前に想定していますが、太陽光・風力ともとても低く見積もられていました。実際には太陽光が2倍、風力にいたっては10倍の電力を供給しました。

 ドイツでは再生可能エネルギーが発電量に占める割合は2012年で22%にもなっており、太陽光だけみても2010年から年間700万kwを超える増設を続けています。それも家庭用よりも大型な設備に比重が移っています。2012年初に書いた『原発無しの夏確実、太陽光発電でピークカットを』では5割のピークカットを見込みましたが、今回実績で九州電力のような特殊ケースが無ければ設備量の4割程度は最大電力供給の力になれると判明しました。250万kw分を増やせばピーク時で100万kw原発1基と同じ力なのです。原発再稼働が不透明なのですから政策的に設備増設を進めるべきです。


前のめる原発再稼働:新規制基準なら万全と錯覚

 原子力規制委が実施している新しい「原発安全審査」規制基準へ適合すれば万全との錯覚が広まっているように見えます。政府から年明け再稼働の希望が出るほどですが、有事避難の防災計画完備のサイトはまだ無いはず。甚だしいのは内閣府経済再生・防災担当の西村康稔副大臣で、3日にTBSの番組録画で安全審査と地元の理解を前提にしながらも「早ければ年明けに何基か動きだすことを期待したい」と述べています。そんな楽観が出来るほど防災計画を仕上げたとは聞きません。30キロ圏から外への避難が計画されているので、県外避難があちこちで必至です。各県の間を調整するのはもちろん政府です。福島原発事故の避難で起きた悲劇を忘れて、新規制基準を通れば過酷事故は起きないと誤解されては規制委も心外でしょう。

 1年前に日経新聞《防災計画なければ「原発再稼働は困難」 規制委員長》で《田中俊一委員長は24日の記者会見で、原子力発電所の周辺自治体がつくる地域防災計画について「再稼働の条件ではないが、(つくってもらわないと)再稼働はなかなか困難になる」との見解を明らかにした》はずでした。しかし、実際には安全審査は原子炉等規制法に基づくもの。地域防災計画は原子力災害対策法が仕切っており内閣府が所管ですから、この1年間で規制委の防災計画への言及トーンが下がってきていました。

 福島原発事故の避難で重病の患者まで十分なケアシステム無しに遠くに運ばれて病状が悪化、多くの死者を出しました。この失敗から避難区内であっても病院に放射線防護を備えたシェルターが造られるといいますが、看護スタッフの保護・物資補給を含めて本当に機能するのか疑問です。取り残された南相馬市役所の例が示すように、必要な医療・生活物資が運ばれてこなければシェルターに閉じこもっても難渋することになります。

 柏崎刈羽原発の30キロ圏、長岡市は25万人を避難させなくてはなりません。同市内のバスでは5%しか運べません。もし新潟県内の他市町村からもバスが応援に向かうならば、地理不案内の運転手と膨大な避難住民をうまく結びつけるだけでも気が遠くなるほどの準備が要ります。これまでの形式だけだった避難訓練ではなく、緻密で大規模な訓練をしてみないと防災計画の実効性は検証出来ないでしょう。30キロ圏で全国135自治体480万人が対象の過去に例がない大規模体制づくりの要に居る防災担当副大臣が、脳天気に年初から再稼働を口にしているのでは話になりません。

 即時避難は5キロ圏だけで、30キロ圏は避難準備区域と振り分けられていますが、福島原発事故では新たな事実が判明し、大地震・津波の翌日に25キロの地点まで高いレベルの放射能の雲が流れ出ました。この問題を第319回「福島原発の放射能早期流出、防災計画に大影響」で取り上げています。もし過酷事故が起きた際には早期に避難するしか無い――防災計画の作成を真剣に考えるなら本来ここから出発すべきです。

 【参照】インターネットで読み解く!「規制基準」関連エントリー
     「福島原発事故」関連エントリー


北京大気汚染に真正面から向き合っていない中国

 北京でまたも最悪の大気汚染が発生。実はニュースにされなかっただけで重篤なスモッグは夏場も頻発していました。5年で改善との計画は打ち出されましたが、事態の深刻さにきちんと向き合っていないと指摘します。端的な例を挙げると、人民日報電子版で北京の天気欄は「今日は天高く空気爽快」といった調子の記事ばかりです。よく見るとところどころ数日に渡り記事がありません。その期間こそスモッグが発生していたのです。スモッグは日本の研究チームによれば的確に予測できるのですから、天気欄記事は市民にスモッグ対策するよう注意を喚起する役割を果たすべきなのに、文字通り臭いものに蓋をして平然としています。北京の米国大使館が測定した今回のスモッグデータを引用しておきます。


 9月半ばの人民網日本語版《国務院:全国の大気汚染を5年で改善》によれば、北京を中心にした河北地域のPM2.5濃度を25%引き下げる計画が公表されました。《民生分野の「石炭からガスへ」、排ガス基準を満たさない車や旧式車の排除などへの政策支援を強化》が柱になっており、北京からは旧式設備の中小工場が移転させられます。しかし、《行動計画は経済・社会発展と環境汚染の改善を促進する効果を果たす。経済的にはGDP成長を2兆3900億元押し上げ、うち大気汚染対策関連の環境保護産業の生産額は1兆元以上増加する見通しだ》と経済成長に繋げているのに呆れました。

 重篤スモッグが今年なぜ顕在化したのか、《中国各都市の人口爆発、地域別の格差縮小が解決策か》を見て腑に落ちました。《北京市統計局が17日に発表したデータによると、2005年に1538万人だった北京市の定住者は12年に2069万3千人に達した。わずか7年間で530万人以上増加したことになる》

 これだけの人口が急激に増えれば環境負荷増大は絶大です。経済成長のペースはほとんど落とすつもりはないとされていますから、北京の人口増加はこの調子で続くのでしょう。7年で34%増加の実績なら、今後5年で25%前後でしょうか。PM2.5濃度を5年で25%引き下げる計画の背後で25%の人口増加があるなんて、計画目標が達成されるとは到底思えません。中国政府は人間を含めた環境・生態系のダイナミズムをナメていると申し上げておきます。この夏、第373回「中国大気汚染が高濃度で関東から西日本を覆う」で汚染大気の越境ぶりを伝えました。改善は見込めそうにありません。

 【参照】「インターネットで読み解く!」
     第374回「対岸の火事でないPM2.5、抜本的な浄化支援が必要」
     『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない
     第343回「中国大気汚染の絶望的な排出源構成と規制遅れ」
     第345回「中国で暴露、ぼろぼろの環境行政と水資源管理」


無管理同然、汚染水漏れ疑惑タンクが一気に拡大

 台風による雨水がタンクエリアの堰を越える事態になったおかげで、東電がしてきた管理は無かったも同然と判明、汚染水漏れ疑惑が一気に拡大しました。どんなに強弁してもコントロール下にあるとは認められません。読売新聞の《汚染水、1年8か月間流出の可能性…東電発表》が気になって、発表資料を探した結果、16日付け「福島第一原子力発電所各タンクエリア堰内溜まり水の全ベータ放射能分析結果(簡易測定)について」に行き着きました。主なタンクエリアの測定結果図を引用します。


 読売記事では「この計4区画のせき内の雨水には、ストロンチウムなどの放射性物質が1リットル当たり17万〜2400ベクレル含まれ、国の放出基準値(同30ベクレル)を大幅に上回っていた」とあります。しかし、実際には4区画以外にも放出できない30ベクレルを超す区画だらけで、430、200、160、140、110ベクレルが並んでいます。この図にある12区画で溜まり水に問題が無いのは3区画だけです。

 今回の漏洩騒ぎが表面化するまで、東電は漏洩の有無をタンク液量の変動だけでチェックしていたと説明しています。放射能レベルをタンクごとに一々測定するのをサボっていたわけです。それでいて区画を囲む高さ30センチの堰の排水弁は開きっぱなしにしていました。雨が降るたびに漏れた高レベル汚染水は洗い流されていたと考えられます。漏洩騒ぎで排水弁が止められ、台風の大雨で堰が越される事態になって各区画の放射能が測られたのです。

 台風が通過した16日の排水路測定データが「福島第一原子力発電所構内H4エリアのタンクにおける水漏れに関するサンプリング結果 (南放水口・排水路)」で発表されています。タンクエリアの下流部は320ベクレルなどと高いですし、排水路が外洋に出る直前の地点は130ベクレルと国の放出基準を完全に超えています。

 溜まり水のレベルが低かった区画も問題が無かったとは断定できません。漏洩が少量で多くの雨水で薄まった可能性があります。全部のタンクを真剣に測定し直すべきです。第380回「五輪国際公約した以上、汚染水の安全な移転を」で提言したように、愚劣な管理しか出来ていない現在のタンクエリアを引き払うのが正解だと考えます。原子炉建屋などの地下水問題に全力を注ぐべきなのに足を引っ張られています。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


福島原発事故、国家として原因不詳でよいのか

 予測されていた福島原発事故の不起訴処分に、国家として原因不詳でよいのか、改めて問いたいと思います。いくつもの事故調が違った結論を出し、放り出されている現状は「原子力ムラ」の意志なのかもしれません。検察は大地震、大津波ともに予見不能だったと大括りの説明ですが、どこかに事故原因を定めて責任者の追及を始めたら結論が違う事故調から異論の鑑定が出てくるのが確実では公判が維持できないと考えたでしょう。責任者を出さないと決めていた原子力学会や原子力ムラ政府官僚がほくそ笑む展開です。これほど影響が大きい大事故ならば原因をピンポイントで究明してシステムを改善するべきところを、原子力規制委による新規制基準は事故調報告を参照もしない安全システムの大風呂敷展開でかわしています。全てが曖昧模糊になっているようでは、現代屈指のテクノロジー国家として失格だと敢えて申し上げます。

 朝日新聞の《原発捜査、尽くしたか 「なぜ誰も責任問われぬ」 東電前会長・菅元首相ら全員不起訴》は次のように伝えています。

 《検察は東電幹部らへの聴取とともに、地震や津波の専門家からの聞き取りに重点を置いた。専門家数十人から聴取するなどした結果、マグニチュード(M)9・0だった東日本大震災の発生は「政府機関の予測よりエネルギーで11倍、震源域も数倍以上で、専門家らの想定を大きく超え」ており、「全く想定されていなかった」と結論づけた》《また15・7メートルの試算についても検討した。根拠となった政府機関の予測自体が「専門家らの間で精度が高いものと認識されていたとは認めがたい」とした上で、「最も過酷な条件設定での最大値」「専門家の間で一般的に予測されていたとは言い難い」と主張。「(刑事責任を問うには)漠然とした危惧感や不安感では足りず、具体的な予見可能性が必要」と説いた。通常、予見可能性が認められなければ対策をとる義務も生じない》

 ここまでは通常の刑事処分の考え方ですが、原発には全電源喪失の過酷事態になってもまだ動く最後の命綱が存在します。最初に炉心溶融した1号機なら非常用復水器だし、2、3号機には別の装置があります。『恐ろしいほどのプロ精神欠如:福島原発事故調報告』にあるように、当時の運転チームは誰ひとりとして非常用復水器を動かした経験がありませんでした。これさえ順調に運転できていたら福島原発事故は軽微なトラブルで終わった可能性があります。しかし、津波主因説の政府事故調と違い、国会事故調は地震主因を唱えていて津波襲来以前に非常用復水器に異常が発生したと考えます。

 13日付の神戸新聞《福島第一元作業員の「遺言」詳報 東電、信用できない》にある次の部分に該当です。《最初の揺れはそれほどでもなかった。だが2回目はすごかった。床にはいつくばった。配管は昔のアンカーボルトを使っているから、揺すられると隙間ができる。ああ、危ないと思ったら案の定、無数の配管やケーブルのトレーが天井からばさばさ落ちてきた。落ちてくるなんてもんじゃない。当たらなかったのが不思議。4階にいた人たちは水が大量にゴーと襲ってきたと言っていた。それが使用済み燃料プールからなのか、非常用復水器が壊れたからなのか、そのときは分からなかった》

 このような現場の証言と事故事象の推移がきちんと付き合わされることなく放置されたままです。このままでは予測できない大地震と大津波が来て大事故になったとの「外形的事実」しか残らないことになります。創造的な洞察力を欠いているのが原子力ムラ官僚である点は第334回「原発事故責任者の1人と自覚が無い安倍首相」の政府対応から察しがつきます。政府対応が大失敗だった福島原発事故から学ぶ教訓無しと、むしろ忘れたいのでしょうか。第347回「無傷で終わる可能性が十分あった福島原発事故」で班目原子力安全委員長ひとりの知恵さえ生かせなかった経過を描きました。このままでは次の危機にも失敗を繰り返す恐れが大です。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


五輪国際公約した以上、汚染水の安全な移転を

 IOC総会での安倍首相説明には嘘がある――福島原発事故をウオッチしてきた眼には明らかです。しかし、国際公約してしまった以上、安全なタンクを造って汚染水を早急に移転してしまう緊急措置が欠かせません。政府は原子炉建屋周辺を囲む遮水壁建設と汚染水浄化を打ち出しましたが、タンクについては眼をつぶっています。お手軽に作られた地盤の上にある1000基ものタンクは大きな地震には耐えられないと見られます。倒壊や配管破断があれば千トン単位で直接、海に流出するでしょう。タンク群がある原子炉後背地の汚染拡大は収拾計画全体を崩壊させる恐れがある点も合わせ、正規基準に則った安全なタンク新設と汚染水移転を急ぐべきです。これから何年もの間、問題を起こす大きな地震が来ないと考えるのは楽天的に過ぎます。

 安倍首相の「(福島第1原発の)状況はコントロールされている」説明と合わせて、菅義偉官房長官が記者会見でした現状認識にも問題があります。《【トンデモ発言】菅義偉官房長官「福島県においても年間被曝量は1ミリシーベルトの100分の1以下」「汚染水の影響は福島第一原発の湾内だけ」》が文字起こしをしています。放射線管理区域以上の汚染地域があちこちにある福島の現状を知らないかのようです。

 IOC総会プレゼンは時の方便と割り切ったのではなくて、安倍政権の首脳部は本当にこのように思い込んでいる恐れがあります。支えている官僚たちがどのような説明を上げているか、透けて見えます。現状がをシビアに伝えられていれば記録に残る形でこんな愚かな説明はしないでしょう。『福島原発事故収拾が破綻している現状に気付け』で指摘した通り、今回の汚染水騒ぎ以前から、事故の収拾体制は機能していません。

 サイエンスの世界で一目置かれている英「ネイチャー」誌が5日付で論説を掲載、それが『9月5日付けのネイチャー誌の社説「Nuclear error」を日本語にしました。』で和訳されています。タンク周辺の高レベル汚染について《単なる「異常事態」として始まったはずの漏洩が、結果的には本物の危機となってしまったわけです。日本は、ここで海外の専門家に助けを求めるべきです》と厳しい認識を示しています。

 海外に援助を求めるべき理由として、日本政府の情報公開姿勢を疑っているほか、第三者による測定などが無い現状を憂い、《国際的な協力の下で進めていくことで、一般市民の、事態の調査と危機回避に対する不信感を和らげていくことが出来るでしょう》と説いています。日本における原子力推進・批判両派の専門家による対立と、結局は場当たり主義の東電任せになっている現状についても理解されているようです。ただ、日本政府の体質として、このような開かれた対応は難しく、正規タンク新設で汚染水漏洩問題をリセットする方が現実的だと考えます。壊れた4つの原子炉の方に困難が山積しています。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


東電汚染水危機の本質は資金不足でなく管理能力

 政府は福島原発の汚染水対策で470億円(今年度予備費210億円)投入を決めました。根本的な誤解があるようです。東電に足りないのは資金ではなく、本質的に危険な原子力施設を世界標準の安全性で管理する能力です。技術的難易度が高い遮水壁などは国が資金負担で前面に立つ方針は、この間の経緯を政府が理解していなかったと証明しています。原発建屋周辺を囲む遮水壁さえ造れば一息つける段階を超えつつあると、第379回「原発後背地のタンク漏洩続出で収拾計画に困難」で指摘しましたし、次の福島民友の報道で東電管理能力の悲惨さを思い知らされました。

 8月22日の点検で線量が毎時100ミリシーベルトと発表したタンク漏洩場所を、31日には1800ミリシーベルト確認とした問題について「タンクで最大1800ミリシーベルト 計4カ所で高線量」はこう伝えます。「すでに高い線量が確認されていた2カ所のうち最大毎時1800ミリシーベルトを確認したタンクは8月22日の点検作業の際、線量は毎時100ミリシーベルトと発表。当時の線量測定機器の計測値の上限は100ミリシーベルトだったが、今回の点検では上限1万ミリシーベルトの機器で測定したところ、数値が18倍に跳ね上がった。前回調査時にも毎時1800ミリシーベルト前後だった可能性があり、東電の管理体制の在り方があらためて問われる状況だ」

 線量計が測定上限を超えた状況と報告され、「そうですか。線量は毎時100ミリシーベルトですね」と納得して報道発表する管理者が日本にいるとは信じられません。普通なら「調べ直せ」と直ちに指示します。測定担当者が記入数値に窮して「測定上限超え」の但し書きを書かずに毎時100ミリシーベルトにしたというのも、さらに信じられません。本当のところは外部からはうかがい知れませんが、東電の原発職場が危険な原子力を扱うに足る職業倫理を持っていない点だけは、明確に判断できます。福島原発事故は起きるべくして起きたとの思いを強くします。

 政府は現地事務所を設け担当者が常駐、東電や地元と連携を強める方針ですが、無意味でしょう。もう一度、過去の指摘を繰り返さざるを得ません。第377回「現状把握が出来ない東電に代わり政府廃炉本部を」で述べた通り、危険な施設を管理統括できる能力が無い東電に代わる執行機関を置いて、強力に指揮運営するしか道はありません。原発後背地のタンク漏洩では新たに最大毎時2200ミリシーベルトの放射線量を計測との報道があります。次々と想定外が現れる泥沼に陥る前に、問題点を掌握し切る必要があります。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


原発後背地のタンク漏洩続出で収拾計画に困難

 タンク漏洩は目視検査で放射能は測っていなかった――次々に現れる高汚染漏洩に唖然となると同時に、原発建屋後背地まで汚染してしまうと、建屋周辺だけ遮水壁で隔離すればよいとする収拾計画が狂い始めました。建屋の直ぐ山側で掘ったバイパス井戸の汚染レベルが上がったと伝えられ、ここから地下水を汲み上げて建屋地下への流入を減らす対策を難しくする恐れが出てきました。まだ漁業関係者などからの了解は得ていませんが、「汚染前の地下水」として海に放出することが前提になっているからです。建屋群と12あるバイパス井戸とタンク群の位置関係は下の図の通りです。


 原発建屋後背地にはびっしりと汚染水タンクが立ち並んでいます。東電が始めた放射能測定はまだ一部に過ぎません。東電の「H4エリアの漏えいに係わる汚染土壌調査・地下水モニタリング計画について」によれば、タンクの下は20センチのコンクリート層と厚さ1メートルの地盤改良層だけです。コンクリートに耐水性はなく、漏れた汚染水が地下水へ浸透する恐れが強いと考えられます。(上図はこの資料から引用)

 東電が出す資料を読んでいくと、高いレベルの放射能汚染水を絶対に漏らさないぞ、と考えてタンク群を作ったようには見えません。既に報じられている安普請はタンクの接続部を溶接しなかっただけでなく、設置している基盤や周辺部にも見られます。毎日400トン増える汚染水対策として、福島原発事故から2年半「取りあえず」を積み重ねてきただけです。後背地汚染がさらに続けば、建屋周辺で計画されているように遮水壁で大規模に隔離する事態に発展するでしょう。

 タンク外側で毎時1800ミリシーベルトの高線量検出まで進むとは信じられない思いです。第377回「現状把握が出来ない東電に代わり政府廃炉本部を」での指摘を繰り返さざるを得ません。非難さるべきはこれまで放置してきた政府です。「構内全域で放射線量の記録をする程度の実務能力にも欠けている東電に代わって、モニタリング体制の構築からやり直さなければなりません。そんな細かい実務指示までスタッフが手薄な原子力規制委に委ねるのは不可能ですから、別の執行機関が必要です」

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


現状把握が出来ない東電に代わり政府廃炉本部を

 問題は出尽くしたとの保証が無くて対策を立てる意味がありません。福島原発の放射能汚染水流出問題で、東電が現状把握すらしていない実態が明らかになったのだから政府責任で廃炉実施本部を作るしかありません。東電非難だけが続いているのは不当で、責任を放棄している政府こそ非難されるべきです。構内全域で放射線量の記録をする程度の実務能力にも欠けている東電に代わって、モニタリング体制の構築からやり直さなければなりません。そんな細かい実務指示までスタッフが手薄な原子力規制委に委ねるのは不可能ですから、別の執行機関が必要です。

 新たなタンクからの汚染水漏れと側溝からの海洋流出は、政府が8月はじめに打ち出した汚染水流出対策に含まれていない後背地で起きています。対策に入っている原子炉建屋から海に迫った場所でも、新たな高濃度大量汚染水が見つかったばかりなのにです。

 NHKの《原子力規制委員「東電は国に要望を」》を見て再び驚かされました。《更田委員は「タンクから漏れることを前提とした準備が取られていたとは思えない。異常に気付くには小さな変化も見逃せないが、そのために必要となるタンク周辺の通常の放射線量の記録などが残されていないのは点検に対する姿勢を疑わざるをえない」と東京電力の対応を批判しました》《東京電力側からは「点検を強化するには4倍の人員が要る」などと説明があったということで、これに対して更田委員は「できないことがあれば声を上げてほしい」と呼びかけた》

 重大な問題を呼ぶ異常を早く見つけるには、変化をモニターして検出しなければならないという技術常識すら東電の幹部にはありません。後背地には大量の汚染水タンクがひしめいています。安普請をして間に合わせたタンク群、これまでの安直な対策実施にどんな瑕疵があるか、分かったものではないと考えられます。きちんとした作業マニュアルを作る能力が無いと見受けられますから、廃炉実施本部にはプラントの現場が分かる専門家の動員が要ります。

 原子力に批判的な京大原子炉の小出裕章助教は《報道するラジオ「福島第一原発事故 汚染水の問題は」》で、2011年4月にあった高濃度汚染水海洋流出と漏れ口をコンクリート投入で塞いだ処置についても、根本的な疑問を投げています。

 《ピットというところがあって、海に向かってジャージャーと滝のように汚染水が流れている事が目に見えたのです》《「これは大変だ」という事で、東京電力はそこを大変な苦闘をしながら塞いだのです。その塞いだ途端にマスコミの方々は「ああ、これで汚染水の漏れは防いだ」と思ったのかもしれませんが、そんなことはある道理が無いのです。コンクリートというのはもともと水を蓄える・漏らさないという力はありませんし、福島第一原子力発電所の場合には大きな地震に襲われて、そこいら中にひび割れが生じているはずで、目に見えなくても地下で汚染水はもうダダ漏れだったのです》それならば流出放射能量はこれまでの推定よりも遥かに多いことになります。

 国際的な批判が高まってきている汚染水海洋流出です。流出を封じる本格的な遮水壁で囲うには1〜2年はかかると、のんびり構えていられるのでしょうか。判断の主体が東電でなく政府ならば、海外への説明・対応を考えても手ぬるすぎると言われるでしょう。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


全く着々とは進んでいない福島原発事故の廃炉

 原子力規制委が14日に福島第一原発の廃炉計画を認可しました。汚染水問題で四苦八苦しているのにと概要を眺めたら、するべき宿題を山積みにして見せた絵に描いた餅でした。田中俊一委員長が癇癪を起こして当然です。1〜3号機で炉心溶融して何処に行ったのか知れない核燃料の所在を探し、安全に取り出すための技術開発をしなければなりません。東電が出来るはずもなく、旧原研のスタッフを引き継ぐ日本原子力研究開発機構がするしかないでしょう。ところが、同機構所管官庁の文部科学省は高速炉もんじゅ運営に特化させる方向なのです。

 日経新聞の《規制委員長、もんじゅ切り離し要求 原子力機構改革 文科省案を批判》はこう報じました。《田中俊一委員長は14日の記者会見で、文部科学省が示した日本原子力研究開発機構の組織改革案について「これでは安全研究が立ちゆかない」などと批判し、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の運営を原子力機構から切り離すことを求めた。原子力機構は秋をメドに独自の改革案をまとめる方針だが、改革の行方は見通せなくなってきた》

 核燃料サイクルに肩入れしている日経だから、大きな状況をつかみ損ねています。『核燃料サイクルは新安全規制で事実上の凍結へ』で指摘しているように、原子力規制委は既に「核燃料サイクルは無理ですよ」と判断していると見るべきです。溶融燃料の完全回収は不可能かも知れませんが、対外的にも取り組まざるをえない福島原発廃炉計画に研究資源を集中すべきなのです。

 廃炉計画要になっている溶融燃料を扱った「 燃料デブリの取出し・廃炉」にはこう書かれています。「現時点において情報を入手できていないため,燃料デブリ等を取り出すための具体的な方策を確定することは難しい状況にある。しかし,燃料デブリを冠水させた状態で取り出す方法が作業被ばく低減等の観点から最も確実な方法の1つであると考えていることから,まずは調査装置等を開発し,格納容器の水張りに向けた調査を行ない,止水に向けた具体的な方策を構築するものとする。また,燃料デブリの取り出し技術の開発に向けて,開発した装置を用いて格納容器内の状況調査を実施する」

 状況調査の方法も既存の管を活用してやってみようとしている段階であり、調査してもは所在不明の燃料が出るのは避けらないでしょう。そもそも格納容器内に燃料は留まっていると東電は主張していますが、格納容器の底を突き破っている恐れも排除できません。水素爆発を起こす前の事故初日から放射能「だだ漏れ」だった事態を第244回「福島第一原発は既に大きく壊れている可能性」に記録してあります。高温高圧になった格納容器は1〜3号機ともに損傷しており、全体に水を張れるように止水するために高い放射線量の下で補修作業をしなければなりません。やってみるしかないけれど、実現はどれも確約は出来ない厳しい道です。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


汚染水流出に国が乗り出すも緊急対策は穴だらけ

 福島原発事故による汚染水が海に流出している問題は東電に任せておけないと、政府は緊急対策と1〜2年をかける抜本対策を打ち出しました。この緊急対策ではほとんど何も変わらないだろうと検討すれば見て取れます。海洋放射能汚染防止を国際的に説明はどうするのでしょうか。マスメディア報道は抜本対策に目が向いていますが、1年以上も先の話に注目しないで現在起きている問題点を詰めるべきです。取材相手の設定する土俵に振り回されて、自分で問題は何か考えない愚かさは相変わらずです。


 首相官邸の第31回原子力災害対策本部会議に出された経済産業省の資料です。対策ごとに設ける施設の図面があります。

 緊急対策は、地下のトレンチに溜まった高濃度汚染水を8月中旬から除去▼汚染エリアの地盤など改良と地下水の汲み上げ▼山側から降りてくる地下水を手前のバイパスラインで汲み上げて原発に近づけない――の3点です。最後の、サイト手前で地下水を汲み上げる策は魅力的ですが、大いに疑問有りです。

 経済産業省は毎日1000トンの地下水が原発サイトにやって来て、400トンが建屋地下の高濃度汚染水に流入、300トンが汚染土壌を通過して海へ、300トンが汚染がないまま海へと推定しました。地下水脈と原発の地下は完全に繋がっています。手前のバイパスラインで大量に汲み上げることは可能ながら、それをすれば地下水の水位が山側で下がり、サイト内から高濃度汚染水が逆流する事態が起き得ます。地下の汚染拡大を恐れるなら手探りで様子を見ながら加減するしかありません。

 1日400トンの建屋地下流入であっぷあっぷしている東電は汚染された海岸部で1日100トン程度の汚染地下水を汲み上げ、タンクに保管する対策を考えています。それが1日300トンにもなれば計画が破綻しますが、そもそも地下水を汲み上げれば、周囲の汚染されていない地下水が水位が低いところに集まってきます。山側での地下水ブロック量と関係するので量的に不詳ですが、どこかで汲み上げれば300トンという目安は動くはずで、300トン汲み上げたら安全と国際的に説明できる数字ではないでしょう。

 抜本対策にある原発を囲む陸側遮水壁と海岸を囲む海側遮水壁が完成すれば、地下水の流れが遮断され状況は一変します。巨額になり東電の資金力では難しいので、政府は来年度予算で補助金をつける意向です。完全な遮水壁を早く作るべきだと、原発に批判的なグループは事故直後から主張していました。今回の緊急対策だけで海洋流出が防げると自信を持って言うのは難しく、『東電任せは駄目と明白にした新たな大量汚染水』で期待した強力な司令塔には程遠く見えます。2年半近く構内の放射能汚染マップすら完備しなかった東電に任せてきたツケは大きくなりそうです。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


対岸の火事でないPM2.5、抜本的な浄化支援が必要

 7月下旬の1週間、関東以西の日本列島は微粒子PM2.5に覆われ、変動はあるもののほとんどの測定地点で環境基準を超える有様でした。汚染源の中国から聞く対策は愚かしく、強力な浄化支援で身を守るべき事態です。中国環境保護部によると、今年上半期に主要74都市で中国大気汚染基準を満たさなかった日が45%もあったといいます。しかも20%の日は中度以上の汚染という酷さ。スモッグ報道写真が印象鮮烈な北京を中心にした河北エリアは基準を満たさなかった日が69%、外出しないよう呼びかける重度汚染が観測された日が21%もありました。(人民網参照


 上に引用した国内の研究グループ「SPRINTARS」による越境汚染が酷い予測を見て、第373回「中国大気汚染が高濃度で関東から西日本を覆う」を7/25に書いています。環境省のデータを利用している「PM2.5まとめ」でウオッチするそれから1週間、常に200〜400地点で大気1立方メートルあたり35マイクログラムを超える状態が続きました。通常なら下の図のように、韓国を越えてきた汚染大気は早く拡散するのですが、この時期、日本海に梅雨前線を抱えて停滞が続きました。何日も通して環境基準超が持続という観測地点さえありました。

 健康への影響を一般の市民も感じ始めています。日経新聞が《PM2.5で市民7割が「喉の違和感」 福岡市調査》で《アンケートは、3〜5月にPM2.5の1日の平均濃度が国の環境基準値を超えた後の3回と、黄砂飛来前後の4回、メールを通じて実施。各回約1100〜約1800人の市民が回答した。このうち何らかのアレルギー症状を持つ人は56%。PM2.5の飛散後に目のかゆみを感じた人は70%、くしゃみが出た人は60%に上った。市環境保全課は「特にアレルギー症状を持つ人は、市の予測情報を活用して対策をとってほしい」としている》と伝えました。

 人民網(7/12)の《中国、煙霧対策に本腰 「大気汚染防止計画」近く発表》によれば27兆4300億円の資金を投入する計画が7月中にも発表のはずでした。《計画の中で特に注目すべき点は、今後5年以内に大気の質をある程度のレベルまで改善することを明確に示している》といいます。しかし、8月になっても進展がありません。

 未だに汚染発生源を移転して済ませる発想が以下のように見られますから、これは道遠しです。《計画の改正作業に携わった専門家は「例えば、北京・天津・河北地域では、石炭燃焼を大幅に削減するという目標が掲げられた。というのも、この地域の大気汚染は、石炭燃焼に起因するところが大きく、汚染物質の排出量が多く、受容能力を超えているのが、この地域の環境汚染の主因となっているからだ」と指摘した。また、この専門家は、「計画では、大気中の汚染物質含有量の減少を目的として、生産能力の一部を、汚染がそれほど進んでいない他の地域に移転することについても言及している」と続けた》

 中国に多い石炭火力発電などで日本が持つ環境技術を使えば、石炭からの汚染物質は中国の現状に比べ10分の1以下に封じ込められます。東京都の呼びかけを袖にした北京市は北欧のフィンランドと提携しましたが、民間レベルでの環境技術売り込みを含め隣国日本から支援を推し進めたいと考えます。最近見た中国側と初の技術協力のニュースで《微小粒子状物質:日中韓で大気汚染研究 県環境科学国際セン、越境するPM2.5調査 /埼玉》があります。期待できる実態解明研究なのでこれをテコにして、実効がある押し掛け協力に発展させたいものです。

 【参照】「インターネットで読み解く!」
     遅々として進まぬ中国の大気汚染への実効対策
     『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない
     第343回「中国大気汚染の絶望的な排出源構成と規制遅れ」
     第345回「中国で暴露、ぼろぼろの環境行政と水資源管理」


東電任せは駄目と明白にした新たな大量汚染水

 福島原発で新たに高濃度の大量汚染水が確認されました。最も驚く点は発電所構内で放射能汚染レベルを確認していない場所が存在する管理の愚劣さです。汚染マップが出来ていないのでは海洋流出防止は全く不可能です。1日には護岸近くで地中の遮水壁工事1列目が完成と伝えられました。水ガラスを地下2メートルから16メートルの深さまで注入した構造では、新たに見つかった汚染水には対応できない恐れがあります。国際的に非難される海への放射能流出は完全に止めねばなりません。政府の権限で強力な司令塔を現地に入れて、指揮を取らせるべきです。2号機取水口付近の地図を原子力規制委の資料から引用します。


 東京新聞の《福島第一 新たに大量の汚染水確認 最大9億5000万ベクレル》はこう伝えています。「最大で放射性セシウムは一リットル当たり計九億五〇〇〇万ベクレル、放射性ストロンチウムなどは五億二〇〇〇万ベクレルを検出」「汚染水が確認されたのは、いずれも直径七メートルほどの巨大な立て坑。タービン建屋に冷却用の海水を引き込むため地下二十数メートルまで掘られた配管を収容するトレンチに接続している。耐震性は非常に高いとされるが、海からは数十メートルしか離れていない」

 遮水壁工事1列目は1・2号機側の対策です。セシウム9億5000万ベクレルが検出された立て坑も1・2号機側ですが、接続しているトレンチの深さが16メートルを上回っています。しかも、海水の取水配管トレンチだというのですから、海への漏洩経路の恐れすらあります。もうひとつ見つかったセシウム3200〜3900万ベクレルの立て坑が3・4号機側です。

 第370回「セシウム日常的海洋流出を東電、福島県は認識」で指摘した通り、3号機取水口付近では、原子炉等規制法の放射性廃棄物濃度限度を超えた汚染が日常的に検出されています。福島県もこの数値を認識しているのに、感覚が麻痺しています。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


中国大気汚染が高濃度で関東から西日本を覆う

 中国で重篤スモッグを作っているPM2.5大気汚染が25日、関東から西を高濃度で覆っています。北京付近にあった空気が日本海に入って停滞し、国内基準超が200地点にも迫る従来にない事態が発生、空気の停滞は26日も継続しそうです。【追記:27日正午現在で環境基準超は298地点にも】【7/31も午後1時現在で環境基準超330地点に達し、1週間も高原状の汚染状態です】

 毎日新聞は「PM2・5:環境基準を超過 2カ月ぶり 福岡市」で《微小粒子状物質「PM2・5」の大気1立方メートルあたりの1日平均濃度が国の環境基準(35マイクログラム)を超過し、40・9マイクログラムになるとの予測を発表した。環境基準を超える予測は5月25日以来2カ月ぶり。外出時のマスク着用や、洗濯物を屋外に干さないよう呼びかけている》と伝えました。


 環境省のデータを利用している情報サイト「PM2.5まとめ」が午後4時現在で掲載している汚染地図を引用しました。35マイクログラム超の赤は185地点です。名古屋市港区港陽では午後4時に200マイクログラムと極めて高い値を記録しています。長崎などにも基準値の2倍を超す地点が現れています。

 日本付近のこれほどのPM2.5汚染は珍しいので、該当する「SPRINTARS」の予測地図を引用しておきます。中国からの汚染繋がりがよく分かります。



 【参照】「インターネットで読み解く!」
     遅々として進まぬ中国の大気汚染への実効対策
     『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない
     第343回「中国大気汚染の絶望的な排出源構成と規制遅れ」
     第345回「中国で暴露、ぼろぼろの環境行政と水資源管理」


茨城沖1000ベクレル魚、海洋汚染拡大の証拠

 地下水の高汚染が続々と明らかになっても海洋流出を否定し続ける東電に、汚染拡大の証拠が突きつけられたと言えそう。茨城沖で見つかった1000ベクレルのスズキは特異ではなく福島沖から汚染繋がりの様相です。NHKは11日に「日立市沖で採取されたスズキから、1キログラム当たり1000ベクレルを超える放射性セシウムが検出されました。おととしの原発事故直後以来の高い値」と伝えていますが、水産庁のまとめによると、国基準のセシウム合計値100ベクレル超えのスズキは隣接する福島沖で4月以降もたびたび見つかっています。


 グラフにある通り、4月以降の基準超えは9匹でした。福島沖では4月に510ベクレルと500ベクレルのスズキが揚がりました。定着している可能性が高い底魚と違って、回遊性がある中層魚のスズキですから、茨城北部沖を福島沖と区別するのは不当です。今回の1000ベクレル魚は汚染がさらに酷くなる兆しとみるべきでしょう。

 第370回「セシウム日常的海洋流出を東電、福島県は認識」では東電の公表資料で、原子炉等規制法に定める液体状放射性廃棄物の濃度限度を超えた海への放出が日常化していると指摘しました。福島原発事故の影響は収束どころではありません。

 原子力規制委が「高濃度の汚染水が地中に漏れ、海洋への拡散が起こっていることが強く疑われる」と見解を示しているように、これまでの観測では押さえられていない放射能流出経路があるはずです。井戸に土が混じったとか、過去の汚染の影響とか、その場しのぎの言い訳をする東電に任せず、全容をつかめる態勢を急ぎ構築しなければなりません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


セシウム日常的海洋流出を東電、福島県は認識

 福島原発の地下水観測用井戸でセシウム濃度大幅増加が報道される中、実は大量のセシウムが日常的に海に垂れ流されていました。福島県は「濃度限度を超えているが、これまでの変動の範囲内」と認識しています。東電と監督する側の福島県の頭は未だに事故発生時からの緊急事態で動いており、通常の法体系下に戻らなければならないとの意識が希薄です。世界が共有する海洋を安易に汚染し続けているのですから、国際的に非難されても仕方がない事態です。


 上のグラフは東電が公表している「発電所1〜4号機側取水口付近の海水」核種分析結果にある「7月5日取りまとめ分」から引用したものです。3号機から海に出た所にあるフェンス内側のセシウム137とセシウム134測定値が、原子炉等規制法に定める液体状の放射性廃棄物の濃度限度、リットル当たりセシウム137で90ベクレル(Bq)と、134で60Bqをしばしば超えていると知れます。5月18日のピークを調べるとセシウム137が230Bq/lと、134が110Bq/lと2倍にもなる数字です。

 今回、海に近い地下水観測井戸を掘ってセシウム137で22,000Bq/l、134で11,000Bq/lがたまたま検出されましたが、上のグラフを見ると大量のセシウムがたびたび海に出て行っているのは間違いありません。東電は「海での濃度変動が見られない」としていますが、原子炉等規制法を犯す10倍程度の変動を毎月のように繰り返しています。地下水位は変動するもので、水位が下がれば原子炉周辺の高汚染水が流れ込んで当然です。

 福島県原子力安全対策課が出している「プラント状況確認結果(平成25年2月26日〜3月5日)」は発電所専用港内の海水中セシウム137の測定結果(3月4日採取分)として「最小 3.8(物揚場前) 〜 最大 130(3号機スクリーン(シルトフェンス内側)) Bq/l」と限度を超えていると報告しています。しかし「周辺監視区域外の水中の濃度限度(告示濃度限度)90Bq/lを超えていますが、これまでの変動の範囲内である」と容認、珍しくもない事態であると明かしています。

 3月に『福島原発事故収拾が破綻している現状に気付け』で1キロ当たり74万ベクレルの超高汚染魚が見つかって盛り上がった議論を紹介しましたが、東電が無視して放置されたままです。海への放射能流出を防ぐ強力な地下遮水壁建設を急ぐしかありません。 8日から始まった護岸の地盤改良工事(薬液注入)程度でお茶を濁している時ではありません。

再処理工場、新規制基準は設計やり直さす大鉄槌

 核燃料サイクルの要、再処理工場について原子力規制委が2日に公表した新規制基準骨子案は事実上、設計のやり直しに等しいほど厳しい内容です。年内の完工など消し飛び、核燃料サイクルに実現大疑問の事態発生です。サイクルのもう一つの柱、高速増殖炉もんじゅは1万点の機器に点検漏れが見つかって5月末に事実上の運転禁止になり、6月下旬には新たに2300点も点検漏れが見つかる泥沼状態です。自公が政権に復帰してから核燃料サイクル推進姿勢が目立ちますが、技術的な基盤が崩壊していると指摘せざるを得ません。

 「使用済燃料再処理施設の新規制基準(重大事故対策)骨子(案)」で、新たに加わった項目として目立つのは「緊急時対策所」です。航空機落下などで発生した重大事故時に制御室を放棄した場合に、100メートルは離れた緊急時対策所が現地対策本部として機能するよう求められています。原発でも同様の施設が求められていますが、実際には数年の建設猶予が認められています。この点よりも中身の重大事故対応がはるかに深刻です。


 原子力規制委の資料「使用済燃料再処理施設の規制基準について」(2013/4/15)にある再処理主要プロセス図を掲げます。新骨子案で再三再四触れられているのが「重大事故に至るおそれのある事故」で《設計基準事故を超える事故(B―DBA)であって放射性物質の気相への大量移行(液体状の放射性物質が容器、管内又はセル内において、エアロゾル、ガス状等の外部に放出されやすい形態になること)を起こす事故》です。上図で臨界の危険があちこちで指摘されていますが、ここには無い「冷却機能の喪失による蒸発乾固」事故などが強く心配されています。

 この結果、「B−DBAに的確かつ柔軟に対処できるよう、予め手順書を整備し、訓練を行うとともに人員確保等の必要な体制を整備すること」が求められました。「全ての交流電源及び恒設直流電源系統の喪失、安全系の機器、計測器類の多重故障が、単独で、同時に又は連鎖して発生すること等を想定し、限られた時間の中で施設の状態の把握や実施すべき重大事故対策について適切な判断を行う」手順を予め整備せよとの要求です。

 1997年を当初の完工予定にして設計され、遅れに遅れている六ケ所再処理工場にこのような高度な危機対応が出来るはずがありません。高レベル放射性廃液漏れを起こした弁が軽く触れれば動く状態にあった「フェールセーフ欠如」を描く『核燃再処理工場に安全思想の設計無し!! 』をお読みください。現時点では考えられないほど遅れた安全設計思想に立脚している弱みが歴然です。

 機器の機能喪失や故障が「単独で、同時に又は連鎖して発生」など六ケ所再処理工場の設計者には考えもしない事態でしょう。どう見ても単独故障にして発生しうる事象を解析し切って設計したようにはありません。多重故障となれば組み合わせを数え上げて、対策を考える膨大な作業になります。その上で現有施設が対応しきれるのか、事故手順書を書き上げねばなりません。対応できぬケースが続出でしょう。

 本来の再処理機能を実現できずにズルズルと完工延期を繰り返してきた再処理工場。古い設計のまま操業の安定性や安全性への疑念が膨らんでいる中で、規制当局から「大鉄槌」が下されたと敢えて申し上げます。新規制基準の施行は12月です。

 【参照】『核燃料サイクルは新安全規制で事実上の凍結へ』(2013/5/6)


遅々として進まぬ中国の大気汚染への実効対策

 北京で6月28日、季節外れの重篤な大気汚染が発生しました。市当局が市民に外出しなように呼びかける惨状です。6月半ばに各種規制強化を盛った大気汚染対策10カ条が公表されましたが、実を上げていない証拠です。


 28日の汚染は北京市内各地で最悪である6級「厳重汚染」を観測。米国の北京大使館が公表しているリアルタイム大気質指標(28日18時現在)を見ても、微粒子「PM2.5」ばかりか「PM10」でも非常に高濃度な汚染があります。北京市環境保護監測センターが29日午前6時に出している観測値でも、市中心部で半数が6級を記録し、汚染は収まっていません。

 北京の重篤スモッグは市内を走る自動車の排気ガス、おとなりの河北省での石炭大量使用、天津市の石油化学工業などが汚染源として想定されています。大気汚染対策10カ条では地方政府が企業生産制限、車両使用制限などに乗り出すことも取り入れました。また、フィンランドと提携プロジェクト「美しい北京」を立ち上げて、大気汚染の主因を特定、効果的な改善策を探ることになっていますが、2014年末が報告書の目標と、気の長い計画です。

 第343回「中国大気汚染の絶望的な排出源構成と規制遅れ」で日本が考えている中国大気汚染メカニズムを紹介しました。研究者たちは実際に現地で汚染物質を採取、分析して発生源をきちんと突き止める必要があると考えています。フィンランドと組んで、地の利、環境汚染研究の質、量、経験で一番適切な提携相手である日本と組まないのは中国なりの意地でしょうが、実効対策を遅れさせる恐れがあります。


迷宮型原発事故は装置依存の新規制基準で防げず

 「世界一の厳しさ」と自称の原発の新規制基準が7月から施行されます。安全装置類でがちがちに固めた新基準の死角は、スリーマイル島事故のような迷宮型に対応していない点だと原発取材が長い立場から指摘します。もともと原発で過酷事故が起きるとすれば、熟練した運転チームでも対処しきれない迷宮型が最もあり得ると考えられてきました。福島原発事故のような全電源喪失はそうそう起きるものではないと思われていたから手抜きがあり、その穴を一気に塞ぐのが新基準です。しかし、福島原発事故によって運転チームの熟練度が考えられていたより恐ろしく低いと判明しました。

 時事通信の《原発新基準、正式決定へ=地震、津波想定を厳格化−施設対策は一部猶予・規制委》にある図を見ても、防潮堤、外部電源多重化、テロ対策でもある第2制御室、活断層判断の厳格化、電源車の高台配置などハードウエア整備ばかりが並んでいます。

 新潟県知事が「事故の検証・総括がないままハードに偏った規制基準のみ策定しても、原子力発電所の安全性について国民の信頼が得られるか疑問です」と批判しているように、原子力規制委は福島原発事故の原因を追究する作業をしませんでした。あれほどの重大事故が起きて、その原因をピンポイントで押さえて対策を明らかにするのが新しい原発安全基準であるべきでしたが、対症療法的に地震、津波、電源喪失、過酷事故への備えを並べて新しい対策としたのです。

 政府事故調と国会事故調とがきちんと原因究明を完了せず、結論が違った点に瑕疵があります。しかし、原子力規制委には最初から福島原発事故に寄り添う気は無かったとも言えます。事故の経緯をしっかりとつかんでいれば、改善すべきはハードだけでなく、人間系にも多いと分かるはずです。

 2011年末の「恐ろしいほどのプロ精神欠如:福島原発事故調報告」「東電技術力は2級品:NHKスペシャルで確認」で、いかに運転チームがお粗末な対応をしたか、まとめています。例えば原子炉への注水が出来ていない事実を知りながら、核燃料の崩壊熱で水が無くなっていく状況で水位計が誤動作して水位が上昇したのを疑問を持たずに眺めていたのです。もちろん炉心溶融を疑うしかない場面です。

 この程度の論理的思考力と判断能力しかないのであれば、スリーマイル島原発事故の状況には対処出来ません。原子炉のように内部をのぞいて確認できないプラントでは、外で得られた観測データから内部の状況を推測するしかありません。スリーマイル島事故では、それなりに能力があるチームが知恵を絞っても読み切れない迷宮型の経過をたどり炉心溶融に至りました。東電運転チームのレベルなら最初から話になりません。

 運転チームだけではありません。必要なら助言すべき当時の政府、保安院の専門家、それに政府・東電を取材していた在京マスメディアの知的レベルも恐ろしく低かったのです。第282回「原発震災報道でマスメディア側の検証は拙劣」で《朝日新聞の新聞週間特集を見て納得しました。科学医療エディター(部長)の談話として「原子炉は何時間空だきするとどうなるのかなど詳しいデータを知っていたら、もっと的確に記事を書けた」があります》と、証言を記録しています。

 重大事故での対処が問われる問題で、時事通信の《事故悪化想定の専門家養成=福島第1事故教訓に−原子力規制庁》はこう伝えています。《東京電力福島第1原発事故で、経済産業省の旧原子力安全・保安院に状況が悪化するさまざまな可能性を想定し、対策を進言できる専門家がいなかったことから、原子力規制庁は、庁内の専門家チームと各原発を担当する検査官の訓練を通じ、能力を向上させる方針を示した》

 検査官と言えば福島原発事故の現場から逃げ出した失態が指摘されています。そのレベルの人材をこれから訓練する段階です。ささいなトラブルから発展したスリーマイル島事故クラスの難題にぶつかれば間違い無くお手上げです。原発再稼働の可否を新基準だけで決めるのがいかに無謀か、少なくとも能力不足が明らかな運転チームの全面的な再教育、有事にフォローできる専門家チームの確立が絶対に欠かせません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


中国の重金属汚染食糧は日本コメ消費の1.6倍

 人民日報が伝えた重金属汚染食糧1200万トンは日本コメ消費量の1.6倍にもなる膨大な数字です。汚染の線引が大甘である恐れがある上に、廃棄できようはずがなく、食べられている土壌汚染の深刻さが浮かびます。「人民視点」と題した土壌汚染特集なのに意外に中身はすかすかでしたが、国内にはるかに充実した大阪大リポートが存在したので参照しながら紹介します。

 14日付の「人民視点」のオリジナルから一部抜粋したのが、日本語版の《重金属汚染図が作成 一部都市では放射能異常も》です。しかし、2006年当時で汚染耕地1.6億ムー(1066万ヘクタール)、汚水で灌漑の汚染耕地3250万ムー(216万ヘクタール)、固体廃棄物がある農地200万ムー(13万ヘクタール)などの汚染規模を示すデータはオリジナルにしかありません。これは日本の農地の3倍にもなります。放射能異常は明確な説明がありませんが、汚染物質としてコバルトがあがっているので、コバルト放射性同位体だろうと思われます。鉱業や化石燃料の燃焼などで発生します。

 日本語版にこんな記述がありますが、詳細は不詳です。「全国多目標区域地球化学調査プロジェクトは、局地的な土壌汚染が深刻であることを発見した。例えば長江の中流・下流の一部地域では、カドミウム、水銀、鉛、ヒ素などの含有量に異常があった。都市部・周辺地域では水銀・鉛の含有量に異常があり、一部の都市では放射能異常があった。湖沼には有害元素が多く存在し、土壌の酸化が深刻だ」

 阪大リポートは「中国の重金属汚染土壌の現状と今後の対策に向けて―日本の歴史的射程から得られた教訓と最新の技術開発の展望を踏まえて―」で、2010年の国際シンポのために用意されたようです。イタイイタイ病のケースで、日本全国でカドミウム汚染基準を超えた農地が7500ヘクタールだった点だけ比較しても、現在の中国の土壌汚染規模は尋常でない大きさです。


 中国における汚染源は鉱山と精錬業が大きな部分を占めます。上の地図は2005年以降に発生した重金属汚染事故の記録です。「2006年度を断面に捉えると、各金属の排出量は鉛が約330トン、砒素250トン、六価クロム90トン、カドミウム50トン、水銀23トンである。ここではまず、汚染事故が最も多い鉛について、定量的な分析を試みることとする。統計によれば、2006年度の中国における排水中の鉛の総量は333.1トンであり、その内訳は60%以上が非鉄鉱業起因で、金属関係産業全体では約90%の排出量を占めているのが特徴である」「日本の鉛排出量は年間20トン程度であって、その50%近くが下水起因になっており、残りの大半が金属関係となっている。中国の場合、下水起因のデータが計上されていない状況で、全体の量が日本の約15倍にあたるので、今後下水起因の量が人口比で計上されるとすれば、鉛の排出量は更に大きなものになる可能性がある」

 水銀排出などにも膨大さをあげた上で「以上のように、中国の土壌汚染の全般を重金属汚染の面から俯瞰する時、日本の経験をはるかに越えて、汚染の実態は極めて深刻な状況にあることが推察される。その上、経済の高度成長期には生産が最優先となり環境対策は事後処理的になり易いことから、このような汚染の状況は今後も進行していくものと懸念され、しかもその規模と範囲が拡大途上にあり、従来の知見では解決が困難な状況になる恐れも浮上している」と指摘しています。

 これほどの悲惨な環境汚染が司法のチェックも受けないで進行している状況は第346回「『がん村』放置は必然、圧殺する中国の環境司法」で描いた通りです。中国の環境司法は企業の無過失賠償責任の建前は取っているものの、そもそも訴訟を受け付けないのです。


『江戸前』に赤信号、ウナギ汚染をなぜ騒がぬ

 在京メディアの放射能汚染への認識力は腐っています。《東京都、基準値超セシウム検出で江戸川のウナギ出荷自粛要請》がひっそりと報じられるなんて在り得ません。東京湾汚染深刻と研究者は昨年から警告済みです。既に5月中旬に水産庁が食品基準値以上の汚染検出と発表、東京都と千葉県は3月から汚染を把握していたといいます。事なかれ主義の行政とタッグを組んだマスメディアの怠慢極まれりと指摘します。東京湾汚染は一時的なものではなく、河川から流れ込むセシウムで来年春にかけてさらに悪化が予測されているのです。福島原発事故で「江戸前」魚介に完全に赤信号が出ました。

 産経新聞の《東京都、基準値超セシウム検出で江戸川のウナギ出荷自粛要請》は全文でこれだけの短い記事です。「東京都は7日、千葉県が同県市川市の江戸川下流域で採取したウナギの放射性物質を検査したところ、食品の基準値(1キログラム当たり100ベクレル)を超える140ベクレルの放射性セシウムが検出されたことから、関係する2つの漁業協同組合に出荷自粛を要請したと発表した。釣り客らにも注意を促す」「都がこれまでに行った検査では、30ベクレル以下で、基準値を超える放射性セシウムは検出されていなかった。都によると、江戸川や荒川など周辺の計5河川では年間約11トンの水揚げがあるという」

 ところが、スポニチが5月17日に《江戸川のウナギが基準値超 4匹から放射性セシウム》を報じていました。これも短い記事です。「水産庁は17日、東京都と千葉県の境を流れる江戸川の中流で捕られたウナギ4匹から国の基準値(1キログラム当たり100ベクレル)を超す放射性セシウムを検出したと発表した。検出値は最大で158・9ベクレルだった。水産庁や東京都、千葉県は3月に把握していたが公表していなかった」「問題のウナギが捕られたのは、江戸川に架かる北総鉄道の高架下と下流500メートルの地点。近畿大学の研究者が調べたところ基準値を超えたため水産庁に通報した」「水産庁は東京都と千葉県に連絡したが『ウナギ漁は夏からで、漁期の前までは調査しない』などとして調査も公表もしなかった。このため水産庁が保存されていた検体をあらためて調べ、今回初めて結果を公表した」

 研究者から通報があっても意図的に隠していたと判断せざるを得ません。直ちに汚染状況を調べに出動するのが普通の公務員の感覚です。出荷自粛要請ではなく強制力がある出荷制限にすべきです。

 東京湾の汚染は生易しいレベルではありません。昨年5月にNHKが《東京湾 再来年4000ベクレルに》でこう伝えました。京大防災研の予測では「放射性セシウムの濃度は再来年の3月に最も高くなり、荒川の河口付近では、局地的に泥1キログラム当たり4000ベクレルに達すると推定されるということです。これは、ことし1月に福島第一原発から南に16キロの海底で検出された値とほぼ同じです。比較的濃度が高くなるとみられる東京湾の北部では、平均すると海底の泥1キログラム当たり300ベクレルから500ベクレル程度と計算された」のですから、食品基準値超過を警戒して日常的なモニタリング体制を構築するべきです。今回のウナギ汚染経緯から全く無警戒と知れます。

 福島原発事故の放射能汚染で在京マスメディアには「前科」があります。2011年5月にも第261回「在京メディアは東京の年間限度線量超過も無視」で問題にしたホットスポットの存在をなかなか認めようとしませんでした。千葉・柏のような高線量ゾーンすら「流言飛語に惑わされないように」と決めつける論調を当初あちこちで見ました。

 ウナギ汚染報道の手ぬるさ、感度の低さを知ると、「大本営発表」報道はまだ終わっていません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


巨大地震予測報道に読み手のリテラシーが必要

 政府の地震調査委が南海トラフ巨大地震の確率を30年で60〜70%としたのは衝撃的です。昨夏には中央防災会議が最大死者数32万人にも及ぶ大被害を想定したからですが、読み手は冷静になる必要があります。東日本大震災が発生したために「想定外」は避けたい思いが研究者にも強まっています。確率的に低い事象でも「起きない」との決めつけは避けるようになっています。こうなると報道の断片だけをツマミ食いして、繋ぎあわせてはいけません。


 地震調査委の「南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)概要資料」から引用した、この地域での地震歴史図です。1361年に起きた正平地震から後を主に検討しています。この年には東海地震と南海地震が時間差を置いて発生しました。図で立てに黒い棒が入っている地震は同時発生ではなく時間差があった地震です。斜体の数字は地震の間隔年数です。

 1361年以降は100から150年の間隔で地震が続いていて、1944、1946年の昭和地震は規模が小さかったので次の地震が早まる恐れがあるとみられています。30年以内に高確率で起きると考える根拠は、30年後が昭和地震から100年になるからです。一方、南海トラフの全域、東海から四国、日向灘までが連動した超巨大地震は1707年の宝永地震です。東日本大震災をも上回る規模で、これに匹敵する地震は2000年くらい前に起きた可能性が浮上していますから、頻発するものではありません。

 時事通信の《今後30年で60〜70%=南海トラフ巨大地震の確率−「切迫性高い」と政府調査委》が「従来は東海、東南海、南海のエリア別に評価してきたが、連動する可能性もあるため、南海トラフ沿いのどこかで巨大地震が起きる確率を公表した」「南海トラフ全域で地震が起きた場合、最大でM9.1と想定したが、過去に起きた証拠がなく、M9.1に限った確率は計算できなかった。ただ、大幅に低くなるという」と伝えた意味が、上の歴史図を前提にすると理解しやすくなります。当面はマグニチュード(M)8クラスの心配をし、超巨大地震も頭の隅には置いて欲しいのです。

 昨年8月の「南海トラフの巨大地震による津波高・浸水域等(第二次報告) 及び 被害想定(第一次報告)について」は被害想定が甚大で、強烈な印象を残したと思います。被災の中心地域が異なると被害規模が変わりますが、大枠では全壊と焼失の棟数が94万〜238万、死者が3万〜32万人と恐ろしい数字でした。しかし、「この『最大クラスの地震・津波』は、現在のデータの集積状況と研究レベルでは、その発生時期を予測することはできないが、その発生頻度は極めて低いものである」と明記されていた点を忘れてはいけません。

 原発のように大事故を起こしてしまうと復旧不能な施設は強力な予防策を施すべきです。しかし、市民生活のレベルでは実感できる範囲で防災策を積み上げていくしかありません。マグニチュードが「1」大きいとエネルギーは約32倍にもなります。M8級とM9級との差は非常に大きく、あまりにも巨大な被害を想定してしまうと、対策が放置される事態を恐れます。

 【参照】インターネットで読み解く!「地震」関連エントリー


進まぬ除染、見直す司令塔不在で時と金を空費

 福島原発事故発生から2年余が経過して除染が計画の5%しか進んでいないとNHKが伝えました。放射線量低減効果が疑わしいところが多く全体計画を見直すべきなのに、国には補助金で急がせる考えしかありません。除染して避難住民を帰還させる、あるいは現在の居住地を年間1ミリシーベルト以下の水準まで下げることが現実的に無理ならば、考え方を変えねばなりません。虫食い状態で高線量地域が残れば町として機能しなくなる恐れがあり、無駄に除染費用を投じるより住民の判断で移住を選択するべきです。除染を担当している環境省には戦略転換をする権限はありません。

 NHK「除染の実施地域は対象の5%以下」はこう報じています。「これまでに除染が行われたのは、国が担当する地域では235平方キロメートルのうちおよそ9平方キロメートルと、全体のおよそ4%、市町村が担当する地域では、対象の住宅38万戸余りのうち、およそ1万9000戸と、全体の5%以下にとどまっていることがNHKの調査で分かりました」

 「除染が行われても、放射線量が基準とされる値まで下がらないところが多いことが、NHKが入手した福島県内の21の市町村のデータを分析した結果、明らかになりました。データは、除染後の各住宅周辺の放射線量の平均を『地区』ごとに取りまとめたものです。それによりますと、放射線量が、基準とされる年間1ミリシーベルト、1時間当たり0.23マイクロシーベルト未満にまで下がらなかったのは、43地区のうち33地区と、77%に上っています」

 市町村が除染の計画を立てて実施に入って少なくとも1年以上は経過しています。復興庁は4月中旬、除染と道路の復旧工事を同じ業者に委託できるようにして効率化するなどの施策を発表しましたが、除染そのものの費用は2012年度予算で3721億円、13年度予算案で4978億円に過ぎません。徹底的に実施すれば数十兆円、数百兆円とも言われる膨大な費用を最初から想定していません。東電が費用を負担する建前から、民間企業として破綻させないとすれば無理です。

 2011年9月にリリースした「除染に期待が持てない福島市渡利地区調査結果」で通常の除染には期待が持てず、破壊・再建が必要になるとしました。《除染モデル事業は通学路の安全確保を意図して実施されましたが、「『除染』の前後で空間線量は平均して68%に低減したが、半分以下にもなっておらず、除染とは言えない。依然として子供らの通学路は1〜2μSv/hにあり、場所によっては 4μSv/hに達したままである。除染作業の実態としては堆積した泥を取り除いたということに尽きる模様である。アスファルトやコンクリートが汚染しており、除染するにはこれらも取り除く必要がある。また、道路に面する住宅の庭やコンクリートブロックについても除染/取り除く必要がある(これは街の破壊を意味する)」と厳しい現実を指摘しています》

 現実に実施されている除染作業は屋根や壁なら洗い流すだけであり、汚染物質が溜まりやすい雨樋すら交換することがありません。再除染を求める声が自治体から上がっていますが、同じ手法をとれば結果は変わらないでしょう。

 チェルノブイリに詳しい菅谷昭・松本市長が「政府、汚染の深刻さを未だ理解せず」でこう主張しています。「国は、除染に過度に期待しすぎていると思う。安全レベルまですべてを除染するためには、恐らく数十〜数百兆円がかかるのではないか。特に福島県は土地の7割が山林であり、その山を完全に除染するためには木を根こそぎ切り落とし、岩肌がすべて見えるほど徹底して行う必要がある。そんなことは無理だろう。さらに平地でも、政府は表土を5〜10cm取り去れば除染効果があるとしているが、それでは到底追いつかず、例え20cm削ったとしても、チェルノブイリの高汚染地域では25年経っても住めないことが分かっている」

 「除染は必要ではあるが、除染とはお金がかかる割りに効果は十分得られないということだ。中途半端に除染しても元のようには戻らず、結局、自然に放射性物質が無くなるのを数十年以上かけて待つしかない。それなのに数年で帰還させるような指示を国のトップが出すということは、やはり、政府は汚染状況がいかに深刻なのかがわかっていないのだ」

 効果が出ない除染待ちで避難住民の時間は無為に過ぎていきます。福島市や郡山市などの都市部でも放射線管理区域相当の高汚染地域に住民が住み続けています。ちょっとやそっとの除染では年間1ミリシーベルトに下げることが出来ないところが多いと判明した現在、時間と費用の空費は止め、どうすべきか考え始めるべきです。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


核燃料サイクルは新安全規制で事実上の凍結へ

 《民主党から自公両党が政権を奪い返してから、福島原発事故以降に生まれた原子力政策見直しをひっくり返しつつある。「2030年代の原発稼働ゼロ」否定と並んで核燃料サイクル全面復活が大きな柱になっているが、原子力規制委が打ち出した新安全規制が核燃料サイクル事業を事実上の凍結へ追い込もうとしている。少し事情に通じていれば見える方向性をマスメディアが見過ごしているので、再処理工場と高速増殖炉「もんじゅ」に対して重要な決定が既になされているとリポートしたい》

 WEBRONZAで6日、「核燃料サイクルは新安全規制で事実上の凍結へ」をリリースしました。上に引用した前文の通り、青森の再処理工場と高速増殖炉もんじゅが動かせなくなるはずと考えています。前半は再処理工場についてで、どなたでも読めます。もんじゅを取り上げた後半は有料会員でないと読めませんが、私のサイト第353回「高速炉もんじゅ稼働を絶望にする安全設備要求」に、核爆発を起こす最も恐ろしい「炉心崩壊事故」などを書き込んでいる内容構成です。会員でなくとも合わせて読んでいただけば論旨理解には十分かと思います。

 結語部分を引用しておきます。《茂木敏充経済産業相は衆院予算委など国会審議で、核燃料サイクル政策の継続姿勢を強調しているが、原子力規制委が打ち出している再処理工場ともんじゅへの安全の注文はクリア不能と言えるほど厳しい。北朝鮮ミサイルの脅威が再認識される昨今、再処理工場ともんじゅが標的になったとすれば、普通の原発が狙われた場合とは比較にならぬ重大事に発展することも考慮すべきだ》


福島市街地の半分は居住不適。報道されぬ不思議

 福島市の市街地の半ばが放射線障害防止法に照らせば居住不適との測定結果が出たのに、全国的に報道されません。住民を避難させたくない自治体とマスメディアが結託している暗闇状態がまだ続くのでしょうか。福島市が3月に市内全域で実施した測定結果をまとめた放射線量マップには全部で783ある測定区画の内、398区画で0.75マイクロシーベルト毎時を超えていると明記されています。これは宿泊はもちろん飲食も禁じられる「放射線管理区域」の設定基準3カ月1.3ミリシーベルトを、2割以上上回ります。

 唯一見つけられる記事は福島民友新聞の「毎時1マイクロシーベルト未満95% 福島市放射線量マップ」です。「市内全域の平均測定値は毎時0.56マイクロシーベルトと昨年3月のマップの平均値より0.21マイクロシーベルト下がり、除染計画目標値の毎時1マイクロシーベルト未満の区域が全体の95%を占めた」と、行政サイドの除染計画に沿った目線で書かれています。


 しかし、上に掲げたマップと測定データを冷静に見れば測定値が下がったと喜べる状況ではありません。500メートル四方731区画、千メートル四方52区画で、各3地点を選定し5回の測定を平均しています。たまたま得られた数字ではない、重い測定値です。黄緑色区画以上、毎時1マイクロシーベルト以上なら年間で8ミリシーベルトを超し放射線防護上、もう一般人ではなく放射線業務従事者に近くなるのに220区画と全体の28%もあります。福島民友が「5%」と報じている意味が理解出来ません。ひょっとすると分母にする面積に測定対象外の山野まで含めているのかもしれません。そうならば「ミスリードの上塗り」です。

 福島原発事故発生以来、福島県内の自治体が住民に自主避難をさせまいと動いた点は周知の事実です。逆に「全町避難だから異議が言える異常な線量基準」で指摘したように、避難した双葉町などは年間5ミリシーベルト以上の土地に住民を帰還させる政府方針に抵抗しています。ソ連チェルノブイリ事故でなら希望者には移住の権利が認められた汚染水準だからです。

 法律に定めがある放射線管理区域以上の汚染ならば、自主的な避難が認められて当然です。《「自主的避難等対象区域外からの避難者への賠償実現会見」4/17福田弁護士・避難者(内容書き出し)》が和解によって初めて実現した自主避難者の権利認定について伝えています。

 この中に次のような発言があります。《実際に私が、最後に家を出る時に測った玄関付近の線量は、0.68マイクロシーベルト/時でした。で、私が一番「これはもうここにはいられない」と思った決定的なものは、2階に子どもの部屋があるんですけれども、その子どもの部屋の2段ベットの上の段がものすごい線量だったんですね。それはもう、しばらく子どもたちをそこに寝かして生活をしてしまってから、ふと気が付いて調べようと思って、普段は通常自分が生活をする状態で調べていたんですけれども、ふと思って2段ベットの上の段に上って天井付近を調べてみたら、本当にものすごい線量でした。あの時多分最初に測った時は0.7〜8ぐらい》

 このケースが放射線管理区域基準を超える汚染です。福島ではこのような当たり前のお母さんの感覚を口にできない雰囲気があると聞きます。福島市の放射線量マップの現実を前に、マスメディアも初心に立ち返って現状の報道で本当に善しとするのか、考えてみるべきです。福島では「大本営発表報道」がまだ続いていると批判されても仕方がないでしょう。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


大気汚染による中国とインドの健康被害深刻

 4月上旬に大気汚染が深刻な中国で2010年の死因の約15%は微粒子PM2.5によるとの報道がありました。元になる研究結果が最近、国別に公表され、インドがまさに中国の状態に突き進みつつあると判明しました。微粒子大気汚染と言えば年始めの北京の重篤スモッグが連想されますが、家事で使う固形燃料などから出る煙も仲間であり、重大深刻な汚染源です。大気汚染の何割かは家庭空気汚染が漏れ出たと考えられています。各国が参加した世界疾病負荷研究(Global Disease Burden GBD2010)の国別プロフィールから、中国とインドで健康に影響している主要リスクファクターのグラフを以下に抜き出しました。


 赤字で表示した「大気微粒子汚染」と「家庭空気汚染」は微粒子汚染として扱われています。報道にあった《中国の死因14.9%死亡者123万4000人》も両者を合わせた数字のようです。この合計で中国でリスク寄与12%もある第2位の高血圧を軽く上回ってしまいます。中国の環境NGO主任、馬軍氏が毎日新聞のインタビューで、北京に「地方から来る人たちが住む都市郊外には集団暖房設備がないため、石炭ストーブで暖を取る人もまだ多いのです。他の都市も事情は似ています。農村部でも、暖房や料理のためにトウモロコシや麦の茎を燃やすことが珍しくありませんが、この黒煙も大気汚染の一因です。社会の発展と遅れた部分の両方の原因による汚染が複合して起きているのです」と答えています。GBD2010のプロフィールは「5歳未満児の主なリスクは家庭空気汚染」とします。

 インドで目立つのが家庭空気汚染の寄与率が6%を超えて第2位である点です。率そのものは中国よりやや低く、第210回「2026年インド人口世界一:牛糞が家庭燃料の国」にあるように世帯の半分以上は燃料に乾燥牛糞・薪使用世帯なので火力が弱く、石炭を使う中国より少しマイルドなのでしょうか。近年の工業化進行で大気微粒子汚染が7位に入っていて、首都があるデリー地域などは世界最悪のひとつとの報道もあります。

 サンケイビズの「インドの大気汚染問題が深刻化 10年の死者67万人超」は米国のNPO健康影響研究所による数字を見出しに取り上げています。しかし、同じ記事の中で《政府機関のインド医療研究評議会幹部は、11年の政府調査で67%の家庭が固形燃料を使用していると指摘。「屋内の空気汚染による死者数も年100万人を超えている恐れがある」と警告を発した》と伝え、上のグラフからはこの数字が妥当に見えます。

 中国やインドより貧しいバングラディシュになると、リスクファクターのトップは喫煙、ついで家庭空気汚染で寄与率5%程度となり、大気微粒子汚染は見当たりません。日本の場合ならば大気微粒子汚染は8番目で寄与率3%ほど、もちろん家庭空気汚染はランク外です。


 世界気象機関(WMO)が3月にスイスで開いたシンポジウム「WMO’s Global Atmosphere Watch Symposium〜Air Quality & Health」は、2010年には大気微粒子汚染で330万人の死者、家庭空気汚染で270万人の死者と指摘します。2005年段階でPM2.5濃度をインド、中国、北米、西欧の都市・地方で評価した上のグラフが注目です。2008北京五輪より前の時期ながら、インドの都市部は中国に近づいていますし、中国の地方部でも欧米の都市部を超える濃度になりつつあります。今年初めの深刻な事態は積み上げられた結果であり、たまたま起きた事態ではありません。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国」関連エントリー
     「インド」関連エントリー


原発新安全基準の是非は個別審査の厳格さ次第

 原子力規制委が意見公募にかけた原発の新安全基準は多層防護がうたわれているものの、個別原発でどれほど厳格な審査が実施されるかに大きく依存と読み取れます。現状と大差ない状態での再稼働まで実はあり得ます。福島原発事故の反省に立っているとは言え、津波で一気に機能を失った非常用ディーゼル発電機を分散配置や可搬式に変えれば、後は5年後に猶予して新設される「特定安全施設」の機能に頼るシナリオもあり得るからです。マスメディア報道は「電力会社がコスト増加から改修を諦めて廃炉も続出か」と伝えていますが、原子力規制委のさじ加減で実態は変わりうると見ます。なお、従来の「安全基準」ではなく「規制基準」と呼ぶようです。

 意見公募(パブリックコメント)は「原子力規制委員会設置法の一部の施行に伴う関係規則の整備等に関する規則(案)等に対する意見募集ついて」で実施されています。法令の書き換えという形式で非常に読みづらいのですが、重大事故に焦点を絞って読んでみました。「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律等に基づく原子力規制委員会の処分に係る審査基準等」が該当文書です。

 福島原発事故の特徴は1〜3号機の原子炉の底が抜けたばかりか、格納容器までも高温になった損傷で穴が開き、放射能封じ込め機能を失った点にあります。その結果、原子炉建屋にまで燃料体溶融で発生した水素ガスが漏れ出し、大きなガス爆発を生じました。格納容器の破損防止に注目すると、「(重大事故等による損傷の防止)第三十六条」は「発電用原子炉施設は、重大事故が発生した場合において、格納容器破損及び放射性物質が異常な水準で工場又は事業所の外へ放出されることを防止するために必要な措置を講じたものでなければならない」とします。原子力規制委員会が指定する格納容器破損モードがいくつも挙げられていて、最後が「溶融炉心・コンクリート相互作用」です。

 炉心溶融で原子炉の底が抜けた前提なので「格納容器の床上に落下した溶融炉心が床面を拡がり格納容器バウンダリと直接接触しないこと及び溶融炉心が適切に冷却されること」「溶融炉心による侵食によって、格納容器の構造部材の支持機能が喪失しないこと及び溶融炉心が適切に冷却されること」が指示されています。床のコンクリートは溶かしても、格納容器そのものの鋼板や構造材に影響させないように冷却せよというのです。

 新基準は従来設備に屋上屋を架す形で安全設備を加えます。典型的なのが5年間は建設が猶予された「特定安全施設」で、本体から百メートル離し「原子炉建屋への故意の大型航空機の衝突その他のテロリズムに対して重大事故等に対処するために必要な機能が損なわれない」とされています。ここにも「格納容器破損を防止するために必要な設備を設ける」が指示され、「格納容器下部に落下した溶融炉心の冷却機能(例えば、格納容器下部への注水設備)」が存在することになっています。「格納容器破損防止対策が有効に機能しなかった場合は、制御室から移動し緊急時制御室で対処することを想定」しているので、本体の機能が駄目ならここで防ぐ仕組みです。

 原発の配管は複雑怪奇です。福島原発事故でも外部からの原子炉への注水や格納容器からの排気のルートが四苦八苦しながらも作られました。実態は、東電が全配管状況を図面として把握していなかった杜撰があっただけで、きちんと設計図と工事の記録が管理されていれば、あれほど苦労することはなかったはずです。冷静になって考えれば新たな冷却ルートを既存の配管の組み合わせで作ることも可能なはずです。全く新しい冷却用配管を作れと指示されて、既存の複雑な配管や炉の機能と干渉しないように穴を開けて作る方が難しいかもしれません。出来上がった新しい安全審査の結果が額面通り新たな多層防護なのかは全く分かりません。

 第342回「大風呂敷に信頼が託しかねる原発新安全基準」で大枠について考えましたが、個別の原発審査の実情がどこまで厳格なのか、細部はこれからますます見えにくくなります。形式的にパブリックコメントをと言われても虚しい感じがします。実施段階で看板と中身に差がないと保証してくれる役割を、まさかマスメディアが果たしてくれると考える人はいないでしょう。そしてまた、福島原発事故では人間系が初動からミスを犯し続けた問題が新基準には見えていません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


放射能汚染水漏出、規制当局の眼が届かぬ点が問題

 福島第一原発で起きた地下貯水槽からの放射能汚染水漏出は2番目の貯水槽にも拡大しました。高汚染の高濃度塩水が同じなら広がらない方が不思議です。規制当局が実質的検証をせず、東電任せで丸投げした弊害です。先日の仮設配電盤故障による原子炉など冷却システム停止といい、福島原発事故で新設された原子力規制委が原発新安全基準などに追われて、終わってもいない福島事故収拾からあまりにも眼を離し過ぎている点が問題です。2番目の貯水槽でも放射性ストロンチウムが遮水シート外側の地盤で検出されました。

 毎日新聞の《クローズアップ2013:福島第1、汚染水漏れ 場当たり仮設の弊害》は「仮設設備を使い続けた弊害が出た」とのコメントを紹介した上で、その場しのぎを続ける東電側をこう伝えています。《第1原発で、貯水槽やタンクに保管されている汚染水は2日現在、約27万6000立方メートル。これに対し、保管容量は約33万立方メートルで、容量の8割強。東電は今後もタンクを増設して急場をしのぐ方針だが、事故から2年経過しても「自転車操業」は変わっていない。一方、原子力規制委員会は水漏れがあった貯水槽について法的な「使用前検査」などを実施せず、東電が作成した建設計画を事実上「追認」しただけだった。「貯水槽の建設計画を提出した段階で、規制委の承認を受けたと認識している」》


 東電発表資料にある「地下貯水槽概要」から「法面のシート構造図」を引用して、説明を追加しました。遮水シートは1.5ミリ厚のポリエチレン製で2層。一番外側のベントナイトシートは厚さ6.4ミリ、粘土質が水で膨らんで遮水する機能があります。普通の水ならば耐えられたでしょうが、高汚染の高濃度塩水にぶっつけ本番で挑むのは工学的な常識に照らして疑問があります。最初に漏洩が見つかった貯水槽では2層の遮水シート、ベントナイトともにバリアが破られていると確認済みですから、全部で7つある他の貯水槽に波及しないはずがありません。再び、「福島原発事故収拾が破綻している現状に気付け」と申し上げておきます。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


高速炉もんじゅ稼働を絶望にする安全設備要求

 原子力規制委が高速増殖炉もんじゅに対して、軽水炉に準じた多層安全設備を要求する方針です。溶融して格納容器の底に落下した炉心の冷却などを求めており、液体ナトリウムを冷却材にする高速炉では絶望的です。福島原発事故を経験した後でも核燃料サイクル維持が言われますが、安全規制で実質的に不可能になりそうです。最終的に水を掛けて冷やす手段が取れないばかりか、炉心溶融で核分裂反応の暴走が起きうる恐怖を持つ、もんじゅ稼働はほぼ消えました。

 4月3日の原子力規制委に出された「高速増殖原型炉もんじゅに係る規則等の整備について」では重大事故への対応について、こう書かれています。「高速増殖炉については炉心溶融時に即発臨界の可能性があり、この発生を防止することが非常に重要であることから」「設計基準事故より更に発生頻度は低いが結果が重大であると想定される事象が発生しても、放射性物質の放出を抑制すること」「原子炉冷却材が減少した場合において、全ての原子炉停止機能が喪失した事象が発生しても、炉心の著しい損傷を防止すること」

 さらに特定安全施設に関する要求として「軽水炉に対し特定安全施設の整備が要求されたことを踏まえ、もんじゅに対しても、炉内の溶融炉心の冷却機能、格納容器下部に落下した溶融炉心の冷却機能、格納容器内雰囲気の冷却・減圧・放射性物質低減機能、格納容器の過圧破損防止機能等を維持するための対応を求める」としています。


 原子力研究開発機構の《「もんじゅ」のプラント情報》から引用した冷却系統図です。通常の原発と違い、高温の液体ナトリウムが冷却材として流れています。液体ナトリウムは漏れれば大気やコンクリート中の水と猛烈に反応して燃え上がります。事実上、唯一の安全設備として備える中央の「空気冷却器」は核分裂停止後の崩壊熱を大気中に放出する役割ですが、実際には機能が実証されていません。この2次系設備を使う以前の問題として、1次系が破綻したら冷やす手段などありません。炉心溶融して原子炉の底が破れる想定をしたらおしまいです。漏れだす液体ナトリウムがコンクリートに触れればまず燃えます。もちろん水をかけることはタブーです。ナトリウム受けに格納容器の底を鋼板で覆う対策をとっても、原子炉の底を溶かして落ちてくる溶融炉心まで受け止められるはずがありません。

 昨年9月の第317回「原発ゼロなのに核燃サイクル維持は思考停止の戯言」で野田政権末期の迷走に触れています。そこで「もんじゅは運転自体が恐怖なのです。福島原発事故のような想定外の事態が起きれば、軽水炉と違って最後は水を掛けて冷やす手段がとれません。さらに軽水炉は炉心溶融で核分裂反応が止まりますが、もんじゅの炉心溶融は核分裂反応を暴走させる可能性が高いのです。過酷事故を起こしてしまえば、福島原発周辺以上の惨状が関西一帯に生じます」と危惧しました。原子力規制委も真っ当な心配をされているようです。


福島原発事故にまだ残る重大な失敗と教訓

 河北新報が伝えた福島原発事故の新発見・注水失敗はまだ重要な教訓が残っていると見せつけました。原子力規制委が「継続的な事故分析」を掲げて福島第一の現地調査を開始する今、改めて事故全容解明が必要です。河北新報の《福島第1原発 1号機注水9割漏出か 現場、水圧で認識》は炉心溶融や水素爆発が起きた後の2011年3月20〜22日に原子炉への海水注入が足りなかったとの報道です。この結果、放射能の雲が発生して千葉県東葛地域など首都圏と東北南部にホットスポットを作ったと見られます。

 この失敗が分かったのは東電の社内テレビ会議の録画映像公開からです。東電は海水を吸い上げた段階の量で注水量を公表してきたのに、当時の吉田所長が原子炉への途中では水圧が10分の1に落ちていると発言しました。《東北大流体科学研究所の円山重直教授(熱工学)は、原子炉の温度や圧力のデータから「1号機は20日から22日、3号機は21日から23日ごろにかけて水がほとんど入らず、空だき状態だった。入った水もすぐに蒸発した」と分析。「格納容器の破損した部分から蒸気とともに放射性物質が大量に出ていた」と指摘する》

 こうして放出された放射能の雲は3月20日には東北南部へ、21日には風向きが変わって千葉県柏市など東葛地域から東京に向かい、雨で地表に落ちて各地でホットスポットになって行きました。後日、問題化した点から言えば非常に多くの首都圏人口に影響を及ぼした、大きな注水失敗です。

 政府・国会などの事故調報告は、1〜4号機が炉心溶融や水素爆発を起こした11〜15日までに焦点が合っており、20日以降の東電の不始末は見逃されてきたと言えます。タービン建屋の消火設備ラインを通じて原子炉建屋に水を流していた途中の漏水です。もっとも考えやすいのは耐震設計の重要度ランクが低くて大震災の振動で傷み、漏れが生じた可能性です。普段は重要でなくても、この事故のような緊急時には「命綱」にも変わり得る配管の耐震性設計をどうすべきか、重要な教訓になります。

 原子力規制委はこの3月27日に会合を開いて「東京電力福島第一原子力発電所における事故分析に係る検討会」について議論しています。各種の事故調報告で「基本的なところにつきましては、ある程度共通的な整理というものがあるわけでございますが、一方で現地をなかなか見ることができない等々の理由によりまして、技術的な論点もかなり残されているという状況」「廃炉のプロセスというものが進められているということになるわけでございますが、こういった原子炉等の設備機器というものがいろいろな影響を受けてございますので、今後の安全確保という観点からも現状をしっかり把握していくということが非常に重要な課題と認識」のようです。

 原発の新安全基準が策定中なのに福島原発事故から直接、学ぶのではなく、これでもかと多層防護増設を重ねる構成なのは、第342回「大風呂敷に信頼が託しかねる原発新安全基準」で指摘しました。本来の順序と逆転していますが、精力的に現地調査をして、現場で本当に問題になった事実に立脚して、安全設備を構成しなおすべきだと考えます。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


北京市が環境汚染3年以内改善にようやく本気

 北京市が28日に環境改善プロジェクトの動員大会を開き、3年以内に大気汚染、河川汚水、ゴミ問題などの解決を誓ったそう。深刻な大気汚染を前に「北京五輪は青空」の時代錯誤から抜け、ようやく本気の構えです。プロジェクト執行と生態環境保護に関する責任追及をすると明言しているのが注目です。また、これまでは工場などから汚染物質放出が見つかっても罰金を払う方が浄化装置を稼働させるより安かったのが、罰金上限を撤廃する法改正が予定されるなど重篤スモッグ汚染改善へ実効が期待できる動きが出ています。もちろん、本格的に実施すれば経済成長に大ブレーキがかかるのは必至です。

 レコードチャイナの《大気汚染を3年以内に解決、北京市が誓約―中国》が新京報の報道としてこう伝えました。《北京市の郭金竜(グゥオ・ジンロン)書記は同大会で、「社会の力を総動員し、首都の生態文明建設を掘り下げて推進し、青い空、豊かな緑、きれいな水を北京に取り戻さなければならない」と強調。また、「現在、生態文明と都市・農村環境を建設する上で、いくつかの新たな局面に立たされている。過度の人口増加、自動車保有台数の急増、資源制約の深刻化など新たな問題が悪化しており、生態環境と公共インフラ・サービスの許容力はかなり厳しい状況に陥っている。また、多くの市民は、気象条件や北京の地理的条件など各種要因の影響による大気の品質や生態環境の問題に対して不満を抱いており、問題の大幅な改善を期待している」と指摘した》

 第348回「抜本策無しと露呈するばかりの中国環境汚染」で全国人民代表大会・全国政治協商会議の動きを集めていて、北京市当局の鈍感さには驚きました。2008年北京五輪で青空が実現した成功体験にまだ浸っていました。五輪期間中だけ工場・建設現場を止め、クルマの半数を使用停止にして乗り切ったのが実情です。全人代が閉会して10日余り、過去の成功体験では民衆を抑えられないと方向転換したと見えます。しかし、下に引用するPM2.5濃度分布地図(第350回「PM2.5汚染の全国実況表示が日中で動き出した」参照)が示すように、紫や赤表示の北京の大気汚染は内陸部と繋がっています。北京市だけで改善できるものではありません。


 環境改善プロジェクト動員大会に合わせて《北京市内を流れる「七色」の川、見るだけで吐き気=中国》(サーチナ)の報道もあります。「清河では異常に黒く濁った水が悪臭を放ちながら流れ、下水が川へ注ぐ排水口付近では水が黄色くなっていたと伝えた。また、涼水河では濃褐色の流れに乳白色の液体が流れ込んでいたこと、通恵河でも乳白色の液体が流れ、ナプキン、トイレットペーパーなどを含む生活ごみが漂っていたことを紹介した。そして、蕭太后河でも水面の色が青緑と白の混合色になり、両岸には生活ごみが堆積」と首都河川とは思えぬ惨状です。

 全国規模の法改正は人民網日本語版による《47都市で大気汚染物質の特別排出規制がスタート》で触れられています。《中国社会科学院都市発展・環境研究所の潘家華所長は「スモッグなどの緊急事態発生時に規制や操業停止を実施するだけでなく、通常時でも地域の大気環境容量に基づき、汚染物の排出量を制限することが非常に大切」としたほか、「特別排出規制値は法により保障される必要がある。現在改訂中の『大気汚染防治法』では、大気汚染事故の罰金上限が取り消される見込みだ。これにより、汚染物質規制に向けた企業の投資が促進され、企業の社会的責任の向上につながると見られる」と述べた》

 私の「インターネットで読み解く!」読者のケミカルエンジニアから中国で工場を作ろうとした経緯を伝えるメールをもらいました。《工場設立は止めになりましたが、その理由の一つは、「国営企業には汚染物質排出の枠が“無限”にあるのに、合弁企業にはほとんどなく、それも将来減らされる懸念がある」ということです》。地方政府と国営企業が結託して環境汚染を隠しているのが、これまでの中国経済大発展の裏側でした。法に基づいて市民が提訴しようにも裁判所が受け付けない実態は第346回「『がん村』放置は必然、圧殺する中国の環境司法」で描きました。1月の重篤スモッグ連日発生から2カ月半、メスを入れれば血が噴き出る場面が来つつありますが、本当にメスを入れる勇気があるでしょうか。


PM2.5汚染の全国実況表示が日中で動き出した

 微粒子PM2.5大気汚染の全国規模の実況を一覧できるシステムが日中両国で動き出しました。北京など地点情報で重篤スモッグと伝えられて、分からなかった広がりが一目で知れる上に、変動グラフが付く優れ物です。日本国内で言えば西あるいは北から汚染が拡散してくるので今後の見通しが立てやすいし、グラフがあれば一時的な高濃度か継続した事態なのかの区別が容易です。両国分ともネットで得られる画像を引用しながら紹介します。


 日本のサイト「日本全国の大気汚染粒子PM2.5情報まとめ」は公的機関ではなく、様々な便利サイトを開発している「satoru.net」が作っています。環境省の「そらまめ君」からのデータを加工しています。従来はブロック別の実況しか分かりませんでした。過去に遡れる機能があるので、上の地図は全国各地で国環境基準を上回った3月24日14時を表示しています。この時点でPM2.5濃度が空気1立方メートル当たり72マイクログラム(国基準は35)と最高だった「岡山・大高」を、ランキングからクリックすると次のように表示されます。 (なお、このサイトはブラウザを選び、インターネットエクスプローラは相性が悪く、グーグルクロームをススメます)


 ここで「詳細ページを表示する」を選べば、次のように地図付きで「岡山・大高」過去24時間、過去1週間がグラフになって現れます。ここでは26日に24日分を表示させているので、24日は一時的に高かっただけだと知れます。もちろん汚染地図から自宅など最寄りの地点をクリックして過去の動向を見ることもできます。


 中国の汚染状況は、これまで米国大使館チームが作る「北京大気汚染: PM2.5 リアルタイムの大気汚染指数」に頼って観察していました。以下が26日15時の画面です。中国は広いので各地点の関係がなかなか見えて来ません。


 中山大学のチームが新たに作った「全国都市大気実況」は、二酸化硫黄や二酸化窒素、PM10などの指標も含む総合表示板です。同じ26日15時時点で中国全土のPM2.5状況は以下のメイン地図に表されます。北京から内陸部が悪化、上海や南部は良好です。


 汚染度が高い北京や河北省周辺を拡大したのが次の地図です。石家庄市のある地点をクリックすると、グラフで24時間の内に中国の環境基準(青バー)を超えて1立方メートル当たり200マイクログラム前後を推移していると分かります。この時、北京市内も同様で中度から重度の汚染に移りつつあります。


 全国的な土壌汚染データは国家機密を名目に公開を拒んでいる現状を考えれば、大気汚染でこのような即時・全国規模の情報公開をしている事自体が信じられないほどです。1月に広範囲で発生した重篤スモッグがいかに国民の危機意識を高めたか、如実に語っていると思います。第345回「中国で暴露、ぼろぼろの環境行政と水資源管理」で指摘したように、中国政府の環境保護部はあまり騒がずに淡々と惨状を流す姿勢のようです。

 【参照】「インターネットで読み解く!」
     第348回「抜本策無しと露呈するばかりの中国環境汚染」
     『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない


福島原発事故収拾が破綻している現状に気付け

 水漏れしている木桶の目に見える穴だけふさぐ対症療法で2年を費やしてきた、福島原発事故収拾の破綻を示す警鐘が鳴らされました。海への放射能流出が続いており17兆ベクレルにも達するとの試算が出たのです。もっと根本的な問題として、政府の側に事故収拾の全体像を考える「ヘッド」が存在していません。新たに出来た原子力規制委は原発の新安全基準策定に手一杯です。第三者の警鐘が鳴っても事業者である東電にすべて任せる、東電が無視すれば警鐘の意味さえ消えてしまう現在の枠組みの異常さを、政府は自覚すべきです。

 東京新聞の《セシウム17兆ベクレル流出か 原発港湾内濃度から試算》は「汚染水の海への流出が止まったとされる2011年6月からの約1年4カ月間に、計約17兆ベクレルの放射性セシウムを含む汚染水が海に流れ込んだ恐れがあるとの試算を、東京海洋大の神田穣太教授がまとめた」と伝えました。

 原発の港から国が定めた基準値の7400倍、1キロ当たり74万ベクレルの放射性セシウムを持つ魚が採れたことを契機に盛り上がった議論です。しかし、既に昨年3月に書いた「放射能海洋流出は止まず:自分に甘い東電に任すな」で福島沖で採れる底魚アイナメのセシウム量が高止まりしている事実をグラフ化しています。流出が止まれば下がっていなければなりません。

 溶融した核燃料を冷やした汚染水が貯まっている原発建屋の地下と、地下水脈が継っている事実は東電も認めています。ところが、東電は「地下水が流入して汚染水が増えて困る」とするだけで、汚染水が地下水脈から流出する恐れを認めようとしません。新たな高汚染魚が見つかっている事実は東電の勝手な解釈を否定するものです。膨大な放射能流出継続は必ず国際的な非難を浴びることになります。海への流出を防ぐ遮水壁建設を急ぐしかありません。

 炉心溶融を起こした1〜3号機を最終的にどのように処理・処分するのかも依然として不明です。米国スリーマイル島原発事故の処理に習って溶融燃料を除去しようと考えているようですが、原子炉圧力容器内での溶融で済んだ米国と圧力容器の底が抜けた今回とは全く別物です。1〜3号機の格納容器は放射能漏出を遮断できないほど高温になったのですから、あちこちの継ぎ目に穴が開いたはずです。格納容器に水を満たして分散した溶融燃料を回収する方針そのもの見直す必要があります。汚染水が増え続けて収容タンクの増設に追われている東電に、将来を考える余裕は無いでしょう。電源盤の故障、冷却系停止の危機といい、行き当たりばったりの東電に「すべて丸投げ」の現状を変えねばなりません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


割り箸本格削減が日中の環境汚染改善を助ける

 終了した中国全人代で、中国の割り箸生産が年間800億膳にもなり自然環境への負担が大きいとの発言に注目です。中国にもともと割り箸使用はなく日本向け輸出箸の低級品が国内に流れ大量消費を招いてしまいました。日本の年間輸入221億膳の98%分を含めて、中国の森林伐採などで製造されている計算です。木を切るのは中国の勝手と割り切れない事情があります。春に中国から飛んできて悩ませられる黄砂は森林伐採で大地が裸になる結果、年々、酷くなっているからです。日中で知恵を絞って割り箸使用を本格的に削減できれば、環境汚染改善に間違いなく役立ちます。

 中国からの報道「中国で大量消費される割り箸、自然界の大きな負担に―香港紙」はこうです。《吉林森工集団(グループ)の柏広新(バイ・グアンシン)会長によれば、中国で生産される使い捨ての割り箸は年間で800億膳にものぼり、「標準的なサイズの割り箸を並べると北京市の天安門広場が360個分埋め尽くされる」とされる》《中国の国土面積に占める森林面積の割合「森林率」は20.36%で、世界139位。1人あたりの平均森林面積は0.145ヘクタールであり、世界平均の4分の1に過ぎない。柏氏は「使い捨ての割り箸による自然界への負担を解決するには1人1人が自然の浪費をやめてマイ箸を持ち歩くことと、割りばしに替わる代替製品を開発する必要がある」としている》


 「木づかい.com」のウェブ《日本の森林を育てる「国産材割り箸」》から「割り箸の輸入量・国内生産量と国内工場数の推移」グラフを引用しました。日本国内の割り箸生産は21世紀に入って縮小してしまい、中国からの輸入が大半になりました。日本国内で造る6億膳ほどは《本来は捨てられる住宅・家具等の端材(=はざい:必要な部分を切り取ったときにできる余った木片など)や間伐材を有効活用して作られるため、国産の割り箸と「森林破壊」や「はげ山」などの問題とは次元が違います》と言えます。

 ところが、中国では森林をごっそり皆伐して割り箸を造ることが多いのです。最近はロシアやモンゴルから木材を輸入するケースも増えているそうですが、そこでも違法な伐採が行われています。加えて、日本では割り箸消費が下り坂になっているのに、中国では増加の一途です。2006年は450億膳だったのに580億膳にまで消費が増えた計算です。

 「日本の割り箸使用量は、年間227億膳。莫大な数字に見えますが、年間227億膳に要する木材は、日本の年間木材利用量の0.3%にしかなりません」「年間木材利用量は、外国産材を含む木材供給量7797万立方メートル」を手がかりに中国での割り箸生産が森林伐採に占める割合を出してみます。7797万立方メートルの0.3%は23万立方メートル、800億膳分なら82万立方メートルになります。2003年の数字しか見つかりませんが、中国森林伐採量は1215万立方メートルであり、その6.7%が割り箸生産分と無視出来ない割合です。

 大気汚染・重篤スモッグの深刻化をうけて北京市が「首都青空10年行動計画」を打ち出しました。黄砂を防ぐための植林計画も含まれています。木を育てる時間の長さを思えば、木を切らない方が遥かに有効です。中国に割り箸を広めてしまった日本として、なんとか知恵を出したいものです。

 中国では森林と関係する紙資源も大きな問題です。第197回「続・失敗国家ランクと紙消費量のぴたり」で年間1人当たり紙消費量が「2008年は中国が59.1キロと、世界平均57.8キロを初めて突破した」と紹介したばかりなのに、2011年は72.4キロと経済発展で3年で22%も増やしました。人口の大きさから紙資源危機を招く恐れが強いと考えられます。


抜本策無しと露呈するばかりの中国環境汚染

 北京をはじめ中国広域でおきた大気汚染・重篤スモッグを経て日本の国会に当たる全国人民代表大会が開催されていますが、報道を見ると環境予算の12%増額が発表されただけで抜本策無しと露呈するばかりです。国民の不満が爆発するところまで経済成長の暴走列車は止められない雲行きです。《環境保護に10年で62兆円投じるも効果なし、地方政府・企業の捏造や隠蔽が元凶―中国》(Record China)と伝えられているのですから、環境予算を多少増やすことが何ほどの効果を生むか、結果は既に分かっています。市民が頼るべき環境司法がほとんど機能していない点も第346回「『がん村』放置は必然、圧殺する中国の環境司法」で紹介した通りです。

 62兆円がどのように投じられたのか不詳ですが、《企業の捏造や、一部の地方政府が国内総生産(GDP)を上げることだけに心血を注ぐ旧思考で保護主義を誘発》《多くの環境保護設備は「眠っており」、設備があっても汚水は別の管からひそかに排出したり、検査が入る時だけ設備を起動させたりするなどの裏工作もまかり通っており、検測データが本来のデータと異なってしまう》《全人代ですでに30以上の環境保護法を制定したにもかかわらず、それらが定着していない》との状況です。公徳心が国民規模で欠けていると指摘できます。

 全人代代表のひとり《「GDPと健康どっちが重要?」、このままでは数年後にガン患者が激増―中華医学会会長》(Record China)の訴えが悲痛です。「国内総生産(GDP)と健康、どちらが最も大切か。真剣にこの問題を考慮しなければならない時となっている」「以前は、環境問題はまだ先の話で、配慮を加えればそれでいいと考えられていたが、今は配慮などという悠長な問題ではなくなっている。国民の基本的な生活要素が脅かされており、環境問題は危機的な問題となっている」

 全人代と並行する全国政治協商会議でも議論は熱かったと報じられていますが、焦眉の急にあるべき北京市当局が「首都青空10年行動計画」といったのんびりした構えです。「北京五輪では何とか青空に出来た」との成功体験を会見で持ち出すのでは、記者側が怒って当然です。北京五輪期間中だけクルマの半数を使用停止にして乗り切ったのでした。あの時代に比べると自動車の保有台数は全国で倍増しています。

 経済産業研究所の《深刻化する中国における大気汚染― 露呈された「環境を犠牲にした成長戦略」の限界 ―》によると、中国政府は2006年の第6回全国環境保護会議で、経済成長一本やりを止めて環境保護重視を打ち出していたそうです。「政府のこうした強い決意にもかかわらず、環境対策は、総論賛成・各論反対という壁にぶつかり、所期の効果を上げるに至ってない」のは地方政府や企業の抵抗があるからです。「中国も、マスコミや民衆に一段と大きな自主権を与え、民間の力を環境対策にもっと生かさなければならないだろう」との主張は正当です。しかし、言論の自由を与える方が怖いと中国指導部が考えているのも間違いありません。やはり『中国は終わった』と言って、目を覚ましてあげるべきです。


無傷で終わる可能性が十分あった福島原発事故

 2年前の大震災、福島原発事故対応が後手に回り続けるのを大阪の自宅から見守り、政府の司令塔はどうした、米国なら規制委が仕切るのにと思った疑問が氷解です。頭脳の結集どころか知恵も全力も尽くしていません。原発の過酷事故を想定する体制が整っていなかった愚かさは脇に置きましょう。準備不足でも空前の危機に直面し、原子力という巨大技術に携わってきた者として個々人の知恵をしぼる、出来ることは全てやるのは当たり前です。JBpress(日本ビジネスプレス)で連載中の『元原子力安全委員会委員長、班目春樹氏の証言』に接して、勝てるはずがない戦だったと理解しました。組織も個人もこんな構えしかできないなら、いくら安全設備を増強しても次の危機にも勝てません。

 連載1回目の「班目氏が認めた事故対応の失敗」で一番のショックは、原子力安全委が福島第一原発の図面を持っていなかった点です。5ページ目に「本当に概略図しかないのです。一応、熱交換機とポンプとが線でつながっているような感じのものはあったが、知りたかったのは、例えば非常用ディーゼルがどこにあるかとか、そういうことなのです。記憶ではタービン建屋の地下だとは知っていましたが、増設したものがどこにあるのかとか、そういうことが分からない。津波でやられてますから、どの程度やられているのかという話と、どういう所に何があるかということを、しっかり押さえたかったんですよ」とあります。これ無しに適切なアドバイスは出来ません。

 原発の安全審査を担当している役所が、機器の実際の配置が分かる図面を持っていない驚愕の失態をここでは問わないとして、班目氏は実情に即した問題意識はあるものの情報不足を補うことなく首相官邸に向かいます。事故対応の中核は原子力安全・保安院で、安全委は助言役です。保安院はどうでしょうか。

 連載2回目の「誤解して抜け出せなくなった班目氏」の3ページ目です。「これは私の生の記憶ではないのです。が、絶対確かなのは、到着するなり平岡さん(注:原子力安全・保安院次長の平岡英治氏)が助けを求めに来たこと。そのあと総理執務室に連れていかれるんですよ。そして行ってはみたものの『武黒さんがもうすでにやっている』ということで『もう私の出る幕ではない』というので、さっと引っ込んだということらしいんです」

 地震と津波で全交流電源喪失の事態に、東電の石黒フェローが電源車の派遣を要請して保安院は係り切りになったようです。ところが、電源車が大震災でがたがたになった道に難渋して福島第一原発サイトに着いてから判明した手違いは、接続するべき電源盤も非常用発電機同様に海水が満ちた建屋地下にあり、使えません。保安院も機器配置が分かる図面を持っていなかったのか、事前に確認する知恵がなかったかのいずれかです。電源車を要請してきた東電本店にはさすがに図面はあったはずですから、東電には知恵は無かったと考えざるを得ません。

 かつてない危機ですから、原子力取材が長かった私は当然、以前に取材したような専門家の頭脳を集めて対処するはずと考えました。ところが、専門家の非常招集がされないばかりか、初期の段階では班目氏ひとりの頭脳さえ生さなかったのが実情です。図面と見比べて電源盤が接続不能と早く判断できれば、重量級の電源車派遣は無意味です。切れている直流電源を補うためにクルマで使うバッテリーを10個か20個、かき集めて届けるのが最も有効な早道であり、1号機でほとんど働かなかった最後の命綱装置「非常用復水器」のバルブ操作を可能にして動かせたでしょう。遠路派遣する電源車と並行実施でもよい救援措置であり、班目氏個人は直流電源は存続と誤解しつつも電池切れを心配していました。ただ、保安院に進言していません。

 政府や国会の事故調より早かった米国の報告書をもとに2011年11月に第288回「2、3号機救えた:福島原発事故の米報告解読」を書きました。1号機は救えない前提でしたが、その後、非常用復水器を起動さえしていれば冷却水の補給体制が出来ていたので長い時間使えた可能性が明らかになっています。東電の愚かさには運転員に非常用復水器の使用経験が全くなかった大ポカが加わるものの、政府の司令塔で出来ることが尽くされれば、全く違った無傷の結末になっていたのです。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


8日は黄砂込み要注意:中国重篤スモッグ来襲

 中国西部で5日、広い範囲で黄砂が大量発生しました。北京などで問題になっている大気汚染・重篤スモッグの微粒子PM2.5と一緒になって、8日には日本を襲う見込み。化学反応で有害物質になる恐れがあります。2月末のNHK「クローズアップ現代」などテレビ番組でも指摘された多環芳香族炭化水素で、発ガン性が言われています。今回は東日本にも及ぶのが特徴です。九州大の汚染予測分布動画から日本付近を引用して6日から8日の動きを作成しました。


 6日夕には北京付近にあったスモッグが、7日正午ごろは韓国ソウル一帯を覆い、8日未明には日本海を渡って来ます。これまで九州を中心にPM2.5への注意喚起があった来襲ケースよりも、かなり北に寄っています。関東甲信越に向かっている感じです。8日夕刻には本州全体が覆われてしまいます。

 黄砂の発生を伝えているサーチナの《大黄砂発生の瞬間…中国で撮影、日本には8日に到達の見込み》に写真が掲載されています。マイナビニュースの《黄砂の季節到来!PM2.5「越境大気汚染」で日本が危ない》には基本からの解説があり、東京大学大気海洋研究所地球表層圏変動研究センター長の中島映至教授がインタビューでこう答えています。

 《最近では韓国や西日本などで黄砂のシーズンになると「ぜんそくになる人」が増えていると言う報告があります。きちんとした統計データがまだないので断定はできませんけれども》《まあ普通に考えれば、これだけ中国の大気が汚染されていて、その汚染物質と同じルートを通って来る「黄砂」がその汚染物質に何も影響されていない、と考える方が不思議でしょう。もっとも10ミクロンよりもずっと小さな砂粒が影響すると言う人もいますから、複数の原因があると思います》

 少なくとも呼吸器系が弱い方はPM2.5に対処できるマスクを用意された方が良いと思われます。よく売られている花粉対策のマスクでは対応しません。東日本の人も、九州など西日本だけに影響がある問題と安易に考えない方がいいでしょう。

 【参照】「インターネットで読み解く!」
     第338回「中国の最悪大気汚染は韓国や日本へ飛来する」
     『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない
     第341回「中国発、微粒子大気汚染で国内基準超過が続出」
     第343回「中国大気汚染の絶望的な排出源構成と規制遅れ」
     第345回「中国で暴露、ぼろぼろの環境行政と水資源管理」


『がん村』放置は必然、圧殺する中国の環境司法

 中国政府の環境保護部が『がん村(癌症村)』の大量存在を公式に認めました。建前は日本と同じ公害無過失責任追及の国なのに、どうして放置されたままか――環境司法が裁判の場まで持ち込ませず封じ込めています。日本の科学研究費で中国人研究者が実施した研究「中国環境司法の現状に関する考察〜裁判文書を中心に〜」が2006年全国環境統計公報から推定した、環境公害紛争に対する行政と司法の圧殺ぶりは凄まじ過ぎます。環境紛争数61万6122件に対して行政手続受付済の事案数9万1616件で、司法手続受付済の事案数は何と「2418件」にすぎません。255分の1です。

 公害事件の企業などに無過失賠償責任を負わせる法改正は、日本では1972年に成立しました。通常の考え方「過失があるから責任が生じる」を公害に適用すると、被告企業に比べて企業内情報の入手でも裁判費用の面でも非常に弱い立場の原告が、企業側の過失を立証しなければなりません。長い公害との戦いで獲得した国内の共通認識を、法改正の前年1971年の新潟水俣病地裁判決がこう述べています。

 「化学企業が製造工程から生ずる排水を一般の河川等に放出して処理しようとする場合においては、最高の分析検知の技術を用い、排水中の有害物質の有無、その性質、程度等を調査し、これが結果に基づいて、いやしくもこれがため、生物、人体に危害を加えることのないよう万全の措置をとるべきである」「最高技術の設備をもってしてもなお人の生命、身体に危害が及ぶおそれがあるような場合には、企業の操業短縮はもちろん操業停止までが要請されることもあると解する」

 住民による血のにじむ戦いで得られた日本の法律での公害無過失責任と違って、改革開放前の中国は1980年代の水汚染防止法や大気汚染防止法で既に無過失責任を定めていました。先進国の惨状を知っていた上に、社会主義国家として成り立ちから当然といえば当然なのでしょう。しかし、理念だけの法律では生身の人間を動かせません。

 「中国環境司法の現状に関する考察」は全国規模で収集した「裁判文書に反映された法律の適用状況からすると人民法院によって受理される環境事件は水質汚染や騒音問題、近隣関係等の幾つかの種類しか確認できなかった。この傾向は、大量の環境紛争事件が未だに司法の領域に受け入れられていないことを意味し、環境司法への道のりはなお様々な凶難が待ち受けていることを意味する」と指摘、こう指弾します。「人民法院と裁判官の環境司法への保護意識が欠如し、環境保護理念が裁判官の『内心の確信』要素として定着していないため、審理水準や審理能力面において環境紛争解決に必要な対応能力が不十分であり、場合によっては環境資源事件に対する事実認定や審理手続きの運営、法律の適用等の方面においてそれぞれ異なる方向性を示す結果、当事者の裁判への不服結果を招いてしまうことになる」

 さらに1992年、最高裁が無過失責任を補強するようで、実は骨抜きにしてしまう解釈の変更をしました。「中国民事訴訟における『挙証責任』」はこう説明します。《最高人民法院の民事証拠規定は、裁判官の裁量による「挙証責任」分配の規定を設けた。すなわち同規定 7 条は「法規に具体的規定がなく、本規定及びその他の司法解釈により『挙証責任』の負担を確定するすべのない場合には、人民法院は、公平の原則及び誠実信用の原則にもとづき、当事者の挙証能力等の要素を総合して挙証責任の負担を確定することができる」と規定した》

 改革開放による経済発展が始まった時期に、「裁判官の裁量で工場操業停止にも結びつく挙証責任を被告企業に負わせなさい」と言われて、腹が据わった人物がそうそう居るはずがありません。《中国の新「不法行為法」と環境責任》は《因果関係の立証に関しては,2009年不法行為法66条の因果関係に関する証明責任の転換ルールをどのように理解するべきかにつき,理論的検討が急がれる。本論で述べたとおり,同条のルールに関しては,被告側に全面的に証明責任を負担させるべきではなく,まずは原告側に一定の負担――「初歩的な証明」――を課すべきだというのが,学説の大方の見方である》としていて、最高裁変更が経済急成長期での原告立証負担増=被害切り捨てに結びついています。


 第345回「中国で暴露、ぼろぼろの環境行政と水資源管理」で100カ所以上とした『がん村』はさらに200カ所以上とも報道されています。セントラル・ミズーリ大学のリー・リウ(Lee Liu)氏の2010年論文「Made in China: Cancer Villages」にある詳しい地図を引用しました。行政区ごとにいくつの『がん村』があるか、色分けされています。非公式報告を含めると全中国で459カ所、河北省から湖南省までの東側ベルト地帯だけで396カ所と東部に多いものの広く存在します。水俣など日本4大公害病裁判の現地がこんなにあると考えたらよいのでしょう。

 福島原発事故の半年後、サーチナが《中国各地に“癌の村”…「日本の核汚染よりひどい」=重金属問題》を伝えています。《中国では、難病の多発地域が「癌の村」、「死亡村」などと呼ばれている。ほとんどの場合、土壌や地下水の汚染が原因と考えられている。現地当局は実態をよく把握していないので、たとえ発表したとしても「漠然(ばくぜん)とした表現にとどまっている」という。住民も慣れてしまった。「対策を何度も求めても、結局は何の反応もない」からという》

 イタイイタイ病症状が広く見られる《遼寧省葫蘆島市に住む劉鳳霞さんは今年2月2日、夫を亡くした。46歳だった。劉さんは「日本で(原発事故による)核汚染が発生したとのニュースを聞いた時、だれも恐ろしいとは思わなかった。ここの汚染は、日本よりよほどひどい」と述べた》

 『がん村』の住民が浮かばれない中国環境司法の惨状が改まるには法律関係者の内面にも至る改善が必要でしょう。「人治・談合」を止めさせ法治国家の建前に立ち戻るだけでは駄目なのです。住民の訴え・運動をマスメディアやネットの市民が支援してまず裁判に持ち込ませる、さらに環境裁判の在り方まで変えて行かねばならない、気が遠くなる道のりです。中国環境保護部(省に相当)が公式文書で存在を認めた以上は放置は出来ないはずであり、無過失賠償責任を徹底するしかありません。今回の大気汚染・重篤スモッグが関係者の目を開かせてくれればと希望します。

 【参照】「インターネットで読み解く!」
     『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない
     日本への中国重篤スモッグ流入ぶり連続アニメ
     第343回「中国大気汚染の絶望的な排出源構成と規制遅れ」


中国で暴露、ぼろぼろの環境行政と水資源管理

 春節が終わって大気汚染が改善しないばかりか、中国からは環境汚染で国土も国民も悲惨なニュースが矢継ぎ早に流れてきます。権限が弱い中国環境保護部がこの際、ぼろぼろの環境行政の実態を見せたいかのようです。人間が生きていく上で空気とともに欠かせないのが水です。その水資源管理も破綻に直面しているのが現状と伝わります。どのニュースも日本ならば新聞の1面トップクラスなのに、あまりに淡々と伝えられるので価値判断が狂ってしまいます。

 強烈だったのはレコードチャイナの《中国当局、環境汚染が原因の「がん村」の存在認める=全国に100カ所以上―中国》です。有害な芳香族化合物の大量流出事件や違法な排出・廃棄が全国規模であり、規制する環境行政が後手に回っているために、取り返しがつかないほど住民被害が拡大しています。

 《中国環境保護部が発表した「化学品による環境リスク防止・制御に関する第12次5カ年計画」によると、中国政府は第12次5カ年計画(2011〜2015年)中に人体や生態環境に深刻な影響を及ぼす化学・工業汚染物質3000種以上に対し、全面的な防止・改善措置を施す予定だ》《計画によると、化学物質による環境汚染によって多くの地域で飲用水の深刻な汚染が発見されているだけでなく、がん患者が多発する「がん村」も全国に存在している。中国メディアの報道によると、その数は100カ所以上に上る。「がん村」は当初、海外からのアウトソーシング産業の発達が最も早かった東部沿海地域に集中していた。しかし、東部沿海地域の産業構造の調整や環境保護政策の強化によって環境汚染に関連する産業が内陸部へ移転し、それにともなって汚染エリアや「がん村」も内陸部へと徐々に拡大している》

 時事通信の《97%の都市で地下水汚染=高まる危機感―中国》も、日本ならとんでもない大騒ぎになるほど悪質です。化学工場や製紙工場が有害汚染水を高圧で地下に注入して、正規の廃水処理をサボっています。

 《中国の64%の都市で、地下水が深刻な汚染に見舞われていることが分かった。118都市で継続して調査したデータを基にしたもので、33%の都市も軽度の汚染があるといい「基本的に地下水が清潔な都市」は3%にとどまった。「このデータを報じた17日の中国紙・南方都市報(電子版)は「中国の地下水汚染は既に直視せざるを得ず、根本的に抑制せざるを得ない時に来ている」と危機感を訴えた。中国では水資源全体の3分の1を地下水に依存。高度経済成長により化学工場などが排出する汚水が地下に流れ込むケースが深刻化しているほか、有害物質に汚染された地下水を飲用することで健康被害も拡大しているとされる》

 水資源について調べてみると、大和総研から「中国における水環境問題〜深刻化する水質汚染問題の現状と中央政府の施策」がリリースされています。そこから「図表2 中国行政区別の一人当たり水資源量(2006年)」を以下に引用します。


 中国は長江など大河があって水は豊富でも、人口も多いために1人当たりなら豊富とは言えません。その上に広い国土で偏在しており、このグラフの通り、北京、上海、天津の重要な直轄市などは軒並み「年間1人当たり500立方メートル以下:絶対的水不足の状態」にあります。大都市は特に低く水資源量は上海154、北京142、天津96立方メートルしかありません。

 文部科学省の報告書にある、日本国内の記述と比べてください。《日本の水資源使用量は、生活用水に国民1人当たり1年間に約130立方メートル、工業用水の淡水補給量が1人当たりに換算して約110立方メートル、そして農業用水が約460立方メートルで、合計約700立方メートルになる》。北京、上海の水資源は日本で生活用水をまかなうだけの線に近いのです。

 北京では地下水に頼る割合が高く、地下水位は年々低下する一方です。他の大都市も似た状況で、地下水の工業廃液汚染は致命的です。水資源の豊富な南部の長江などから北部へ水路を造る「南水北調事業」が一方で進められていますが、工事は大幅に遅れており北京市への導水の見通しは立っていないようです。それでも人口の都市集中は止まりません。全国では3億人が飲用水に事欠く有り様とされています。

 ぎりぎりの資源が汚染の危機に瀕している中で、閣僚級である環境保護部長の2007年の発言を、大和総研のリポートが収録しています。《地方政府の幹部の環境責任を問う制度を導入した理由について、「いくつかの地方政府は区域・流域の環境許容能力が限界に近づいているにも関わらず、盲目的にGDP成長率のみを追求し、国家全体の利益や大衆の健康すら犠牲にしてまで少数(筆者注:地方政府の幹部や企業を指すと考えられる)の特定利益を保護している。このような状況を改善するためには教育や啓蒙だけでは不十分であり、強力な抑制メカニズムが不可欠である」》

 今回の重篤スモッグでも犯人の一角、自動車燃料の品質規制強化を環境保護部が求めても、最高指導部と結びついている国営大企業の壁を前にして遅々として進みません。これを好機と実情をぶちまけているのでしょうか、東京新聞の《中国、汚染通報2・6日に1件 半数は危険な化学製品》には《中国環境保護省は23日までに、同省に対して2008年から11年までの4年間に通報があった環境汚染は568件だったと発表した。平均で約2・6日に1件の通報があった計算となる。うち約半数の287件は危険な化学製品による汚染で、違法な垂れ流しや、生産過程や輸送中の事故が原因という。同省は「深刻な健康被害と社会問題を引き起こしている」と危機感を表明》とあります。環境保護部が正式で、日本政府と対応するよう「省」に変えて報道している場合があります。

 【参照】「インターネットで読み解く!」
     『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない
     日本への中国重篤スモッグ流入ぶり連続アニメ
     第343回「中国大気汚染の絶望的な排出源構成と規制遅れ」


中国の新設原発稼働、安全性に問題はないのか

 中国東北部で福島原発事故後で初の新設原発が稼働したと伝えられました。フランス製軽水炉の中国改良型と聞くだけで、大丈夫かと思ってしまうのは、かつて原子力を専門に取材した経験があるからです。欧州取材時のフリートークで、スウェーデンの原発幹部が「フランスの軽水炉なんて誰が信用するか」と斬り捨てたのを憶えています。それを、あの中国がコピーして「改良した」と称するのが百万キロワット級加圧水型炉「CPR1000」です。安手の改良品でしょう。福島事故の原発が旧式の第1世代だったのに比べれば、第2世代にはなっています。

 ロイターの《中国遼寧省の紅沿河原発が発電開始、福島事故後初めて=報道》はこう伝えました。「遼寧省にある紅沿河原子力発電所が17日、発電を開始した。18日付の同国英字紙チャイナ・デーリーが報じた。2011年の福島第1原発事故後に中国で原発が稼働するのは初めて」「これで中国では現在16基の原子炉が稼働中で、トータルの発電能力は12ギガワット超。2020年までに58ギガワットに引き上げる計画だ」


 紅沿河原発だけでさらに5基が計画、建設中で、上の航空写真(グーグルアースから)見てもかなり進行しています。紅沿河サイトは地震などの心配はないのかと言えば、渤海を隔てた唐山市が1976年に大地震に襲われ壊滅的大被害を出しました。中国では大津波は少ないとされますが、それがあてにならないことは東日本大震災で経験済みです。

 昨年書かれたブログ《中国原発「大濫造」の恐怖 数えきれない事故リスク要因》が《今年七月、中国政府は突然、国内の新規原発をウエスチングハウスの「AP1000」にまとめる方針を打ち出した。関係者によると、中国の原子力専門家自身が「CPR1000」など中国製原発の安全性に強い懸念を示したためだ。とりあえずは、不安な中国独自開発の原子炉の建設はストップされたが、中身の不安は今後も続く》と指摘しているように、危惧の念があるのは間違いありません。AP1000は第3世代に属する新型炉です。しかし、既に建設が始まっていた各地のサイトではCPR1000型が造られ続けています。

 参考になる資料として2011年の「中国の原子炉型と安全体制」をあげておきます。福島原発事故と対比しての記述もありますが、沸騰水型に比べて加圧水型が優位にあるくらいの差であり、「並の原発」であることに変わりはありません。

 【参照】インターネットで読み解く!「原発」関連エントリー
     第243回「中国の原発、無謀とも見える大増設は大丈夫か」(2011)


中国並み微粒子大気汚染は国内店舗もと禁煙学会警鐘

 北京を中心に騒がれている重篤スモッグの主成分、「PM2.5」と呼ぶ微粒子はタバコの煙にも大量に含まれます。日本禁煙学会が13日公開の文書で「禁煙でない日本の飲食店内は1月13日の北京の大気と同じレベル」と警鐘を鳴らしました。北京ではPM2.5が空気1立方メートル当たり数百マイクログラムに達しましたが、身近な場所でも分煙が不完全だった場合は容易に同レベルになるとの指摘です。北京の場合はさらに黄砂まで含む様々な化学成分が重畳していると考えられています。


 《【PM2.5問題に関する日本禁煙学会の見解と提言】日本では国内の受動喫煙が最大のPM2.5問題です》に掲げられている図です。喫茶店やパチンコ店、ファストフード店、駅の喫煙コーナーなどが危険とされる高レベルになっています。自由喫煙の居酒屋に至っては、北京の主要中心部を覆った700マイクログラムのレベルにもなります。

 参照されている《受動喫煙ファクトシート2 敷地内完全禁煙が必要な理由》によると、理想的な環境ではタバコ臭いと感じるには空気1立方メートル当たり1マイクログラム、煙で眼や鼻が刺激されるには4マイクログラムになっています。しかし、通常は他の臭いがあるために隠されがちで、この10倍程度になっている可能性があります。刺激があるとすれば、PM2.5国内大気基準「年平均15マイクログラム以下かつ1日平均35マイクログラム以下」を超えているかも知れません。

 文書は1970年代は日本国内でも数百マイクログラムだった大阪の測定例を示し、「日本では、公害をなくすための多くの方々の取り組みの結果、大気汚染問題が大きく改善されてきました。中国の大気汚染の状況が一刻も早く改善することを願っています」としています。この一方、店舗などでの汚染は客にとっては短時間の滞在で済みますが、従業員には長時間の吸引になります。「これらの人々を深刻な大気汚染公害レベルのPM2.5の中で長時間働かせてよいでしょうか?私たちは、自らの足元の空気環境の清浄化に取り組む義務があります」と主張しています。

 【参照】「インターネットで読み解く!」
     第336回「中国で突出の微小粒子汚染は環境汚染無視のツケ」
     第337回「中国の重篤スモッグは経済成長に大ブレーキ」
     第338回「中国の最悪大気汚染は韓国や日本へ飛来する」
     『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない
     日本への中国重篤スモッグ流入ぶり連続アニメ


中国大気汚染の絶望的な排出源構成と規制遅れ

 中国で発生している重篤スモッグについて表に出てきた排出源をまとめました。中国側の説明では問題の微粒子の3分の2は自動車排ガスと石炭燃焼からで、零細な対象を早期に抜本改善するのは不可能に見えます。さらにスモッグの有害さは微粒子だけに限らず、複合的な化学反応が示唆されているのですから、中国当局が手を打つとしても何が効果的か判断しかねるでしょう。そもそも経済成長優先で作り上げられた利害関係の枠組みは最高指導部と結びついており、権限が弱い環境行政の手に余ります。

 国営新華社が伝えた《北京の大気汚染、自動車の排気ガスが最大の汚染源に―中国科学院調査》が第一の資料です。《中国科学院大気物理研究所の王躍思研究員によると、北京では、自動車が微小粒子状物質「PM2.5」の最大の発生源で、その比率は約4分の1。その次は石炭業と輸送業で、それぞれ5分の1を占める》《専門家は汚染物質の成分を分析し、「中国の中東部を覆った有害濃霧は、1952年代の英国の有害濃霧事件、1940〜50年代の米国光化学スモッグ事件での汚染物の混合体に、中国独特の黄砂による大気汚染が重なったもので、排出ガスと生態系破壊によって直接的に引き起こされた結果だ」と指摘した》

 英国の有害濃霧とは平均0.3ppmもあった二酸化硫黄ガス(SO2)で4千人もが死亡した事件であり、さらに光化学スモッグに黄砂まで絡んでいると化学反応の役者が増えすぎです。日本の資源エネルギー庁の「エネルギー白書2006年版」から汚染物質発生メカニズムの図を引用、中国の状況を付加します。


 硫黄分が多い石炭を主なエネルギー源にしている中国は、世界の石炭消費量の半分に迫っています。国家環境保護計画で2006年以降は脱硫装置による削減を進め、2011年には二酸化硫黄を2217万トンまで抑制したのですが、大気中の濃度は日本の10倍以上です。窒素酸化物排出量は2011年に2404万トンと削減どころか前年比5.73%も増やしました。自動車販売台数が増加著しく、2009年から年々5割増しペースで2000万台以上に達した背景もあります。中小が多い鉄鋼業の増産は窒素酸化物を大きく増やしました。これが光化学反応で微粒子になっていきます。


 自動車の汚染物質排出では旧型車の排出が圧倒的です。「中国発:中国自動車汚染白書を読む」から排ガス基準別の排出量グラフを引用しました。「国Iは2000年、国IIは04年、国IIIは07年から全国で適用されている」「2009年、全国の保有自動車の国家排出基準適合状況は、国Iより前の排ガス基準適合車が1062.1万台で17.1%、国I排ガス基準適合車は1598.7万台で25.7%、国II排ガス基準適合車は1973.1万台で31.8%、国III及びそれ以上の排ガス基準適合車は1575.5万台で25.4%を占めた」となっていて、国I以前と国Iの計2600万台を廃棄できれば大改善になりますが、望むべくもないでしょう。北京ではさらに厳しい基準が2月1日から施行されたものの、新車に限った話で中古車の売買は自由です。

 自動車燃料そのものも国際水準からかけ離れた劣悪さです。時事通信の《自動車燃料品質、先進国並みに=大気汚染の元凶批判受け―中国》が中国政府の決定を伝えました。《新規制「国5」は欧州排ガス規制「ユーロ5」に相当。硫黄含有量の上限を10ppmまで引き下げる。現在、中国の自動車燃料基準は、北京など一部大都市が硫黄含有量を50ppm以下に抑える「国4(ユーロ4)」を導入している以外は、同150ppmまで許容する「国3(ユーロ3)」の実施にとどまっている》《日欧より15倍も緩い自動車燃料の硫黄含有量規制が大気汚染の元凶だと指摘され、負担増を嫌い規制強化に抵抗する大手石油会社が批判を浴びている》ただし《2014年末を期限に、全国で「国4」を実施。「国5」については13年6月末までに一部地域で導入し、17年末までに全国一律で完全実施する》のですから当座の役には立たないでしょう。

 一方、工場からの実際の汚染排出量が表向きの統計よりも多いのではないか、との疑惑は以前から存在します。国際的に名が知れた大手国有企業まで環境にお金を掛けるより、少額の罰金で済ませようとします。wsj.comの《【オピニオン】中国の大気汚染減らすには本物の透明性と罰則強化が不可欠》はこう指摘します。《中国で排出ガスに関するデータの報告を拒否した場合の法令に基づく罰則金の最高額はわずか5万元(約75万円)で、排出基準を上回った場合の罰則金も最高でこの2倍の10万元にとどまる》《工場がなぜ不正を行うかは容易に理解できる。すでに設置が義務付けられている排出ガス制御装置を使うよりも、基準を上回る排出量に対する罰則金を支払う方が安上がりなのだ》

 【参照】「インターネットで読み解く!」
     第336回「中国で突出の微小粒子汚染は環境汚染無視のツケ」
     第337回「中国の重篤スモッグは経済成長に大ブレーキ」
     第338回「中国の最悪大気汚染は韓国や日本へ飛来する」
     『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない
     日本への中国重篤スモッグ流入ぶり連続アニメ


大風呂敷に信頼が託しかねる原発新安全基準

 福島原発事故を経て最大の課題、原発の新安全基準案が示されて国民の意見募集が始まり、ツイッターの動向を見てもほとんど話題にならない不思議さです。改善改良策を山盛りにしただけでは、心に響かないとみます。政府事故調と国会事故調では事故の見立てそのものが違い、今回の新安全基準骨子案では事故原因を特定して新安全基準を作る普通の手法が採られていません。「深層防護の考え方の徹底」をお題目に、金に糸目は付けない多層防護増設の大風呂敷が実態です。電力会社が悲鳴をあげるのはある意味で当然です。それでも安全万全と見えぬのは、形だけに囚われているからと考えます。

 安全設備は十分に備えてある――とは従来も同様の考え方でした。それが過酷事故、シビアアクシデントで働かなかった、いや、働かせる知恵が人間側に無かったことは「恐ろしいほどのプロ精神欠如:福島原発事故調報告」などにまとめました。新安全基準(シビアアクシデント対策)骨子案は運転員の訓練や体制整備も含んでいますが、あっさりと付け加えられた14ページの最終行「(k) 発電所外部からの支援体制を構築すること。」がキーポイントだと思えます。

 福島原発事故では東電本店からも政府からも適切な助言が無く、現場はひたすら巨大システム相手に模索する有り様でした。この外部支援には当然、原子力規制委員会が含まれているはずです。現在も大飯原発は稼働していますからシビアアクシデント発生があれば、新設の原子力規制委・原子力規制庁に期待が掛かるのに、実はまだ何の準備も無いと1月に告白しています。

 時事通信の「事故悪化想定の専門家養成=福島第1事故教訓に−原子力規制庁」は1月21日、事故調査委がまとめた提言への対応状況を確認する有識者会議での答弁として「経済産業省の旧原子力安全・保安院に状況が悪化するさまざまな可能性を想定し、対策を進言できる専門家がいなかったことから、原子力規制庁は、庁内の専門家チームと各原発を担当する検査官の訓練を通じ、能力を向上させる方針を示した」と伝えました。原発から逃げ出した検査官から訓練する――これは道遠しです。

 年初の「日経が伝えた原発の新安全基準原案は無理筋か」での指摘「事故調報告不備が招いた無理な屋上屋」は変わりません。緊急時の冷却系や注水系統の追加が、現施設の機能と干渉することなく出来るのかも不明です。何よりも全てを整備するのに工事の審査から始めて何年間も掛かります。設備工事の認可さえあれば、原発再稼働オーケーと伝えられ始めていますが、骨子案のどこを見ても猶予するとは書かれていません。原発新安全基準の是非を国民に問うのなら、猶予条件などを全て明白にするべきです。膨大すぎる新安全基準は運用の実態として、移動式の非常用電源などお手軽に増やして再稼働を認めることになりかねないのです。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


中国発、微粒子大気汚染で国内基準超過が続出

 中国の重篤スモッグに起因する微粒子大気汚染が国内各地に広がり、国が定めた環境基準を超過したと福岡、大阪、香川などで報告されました。「直ちに健康に影響しない」と福島原発事故様の逃げは許されません。短時間、一時的な超過ではなく、「PM2.5」1日平均値で明らかに基準を突破しているのですから、自治体は速やかに住民に実態を知らせ、健康への影響を調べるべきです。国内への飛来予測を活用して、リスクが大きい人には外出を避けるよう助言すべきです。

 1月31日にPM2.5が国の基準を超える1日平均52.6マイクログラムを記録した福岡市は早速、観測網と情報公開を強化し、読売新聞がこう伝えました。高島市長が「5日の定例記者会見で、今夏にもPM2・5の予報を始める計画について、『健康被害が出る恐れもあり、市民に外に出ないよう警告や指示を出すことも検討する必要がある。市民を守る立場としてはシーズン(3〜6月)に対応したい』と述べた」。(福岡県の大気測定項目別日報

 空気1立方メートル当たりで「PM2.5」1年平均値が15マイクログラム以下、かつ、1日平均35マイクログラム以下が日本の大気環境基準です。四国新聞の《「PM2.5」基準値超え40日/香川県内》は次のように報じています。《県環境管理課によると、昨年12月を除くすべての月でPM2・5が環境基準を超過した日があった。昨年5月8日には国の環境基準(1日平均35マイクログラム以下)を大幅に超える70・9〜90・5マイクログラムを記録。今年に入っても測定値が高い傾向は変わらず、1月11、12日と30日〜2月1日までの計5日間、環境基準を超過した》


 「讃岐の空情報館」の「経時変化グラフ」で、観音寺市での測定値グラフを出しました。最高値は75マイクログラムにもなり、確かに1月30日からの3日間は大幅な超過があります。1日だけで済まなかった点は重症です。


 観測地点が多い大阪で2月1日午後7時の状況をマップにしたものです。この時間の最高値は75マイクログラムです。「大阪府 大気汚染常時監視のページ」でデータを得ています。この日は府内39地点の内、6地点で1日平均が35マイクログラムを超えました。マップの中央、黄色の部分とほぼ重なります。周辺の一段濃い部分は1日平均が30マイクログラム前後に相当します。大阪市南部に堺市、富田林市などを含む地域です。

 1月半ば、北京で軒並み700マイクログラムを超えて1000にも迫った中国とは比べられませんが、環境基準値を超え、しかも2倍以上や連続3日にもなるとは尋常ではありません。日本への本格的な飛来シーズンはこれからです。

 【参照】「インターネットで読み解く!」
     第336回「中国で突出の微小粒子汚染は環境汚染無視のツケ」
     第337回「中国の重篤スモッグは経済成長に大ブレーキ」
     第338回「中国の最悪大気汚染は韓国や日本へ飛来する」
     『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない
     日本への中国重篤スモッグ流入ぶり連続アニメ


中国大気汚染の防止策は大幅経済縮小しかない

 中国では春節(旧正月)の帰省ラッシュが始まったのに大気汚染、重篤スモッグは収まりません。全土がクリーンになる予測は連休になる春節直前の9日で、大幅な経済縮小しか抜本的な防止策はないと示唆しています。これまで言われてきたGDP8%成長など寝言、戯言類の話になりました。実際問題として中国当局が打ち出した対策は古い自動車18万台廃棄や緊急時の工場操業・車両運行停止などで見るべきものはなく、微粒子汚染の大きな排出源であるディーゼル燃料の環境基準強化に至っては2年後完全実施なのですから、失笑を買っています。


 米国が出している「PM2.5 リアルタイムの大気汚染指数」から北京の分(3日午後6時現在)を引用しました。過去2日分の記録で、風があった青天の日が去るとたちまち微粒子PM2.5汚染レベルが上がっていきます。指数は「277」で「ひどく汚染」です。硫黄酸化物や窒素酸化物、一酸化炭素のレベルも同調していますから、焼けるような異様な臭いがする訳です。


 この午後6時時点での九州大の汚染予測分布図を引用しました。南の内陸部から北上した濃厚な汚染大気が北京付近に掛かっているところです。一部で春節休暇が始まって工場生産規模が縮小されても、蓄積されている汚染物質は膨大でどうにもならない状況です。


 これは9日正午時点の予測です。10日からの春節直前になれば工場は止まりますから、さすがに汚染レベルは中国全土で下がります。ここまでの「荒療治」をしなければ重篤スモッグは退治できないと示しています。

 13億人の人口を抱え、新規の雇用を創出し続けなければならない国情と完全に矛盾します。新車の排ガス規制を欧米並にしたところでスモッグは全く改善されません。既存の工場・発電所・自動車に手をつける難事業を、各分野ごとの利権代表集合体になってしまった共産党政府が出来るのかです。ハイペースの経済成長を続けつつ対策実施は不可能と、《世界一になる夢を潰えさせたか中国の重篤スモッグ》を書いたのですが、無理な成長で大気汚染が解消できなくても、汚染改善のために経済を縮小したとしても、どちらも暴動頻発ものの不安定な社会にならざるを得ません。

 【参照】「インターネットで読み解く!」
     第336回「中国で突出の微小粒子汚染は環境汚染無視のツケ」
     第337回「中国の重篤スモッグは経済成長に大ブレーキ」
     第338回「中国の最悪大気汚染は韓国や日本へ飛来する」
     『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない
     第343回「中国大気汚染の絶望的な排出源構成と規制遅れ」(2/11)


天安門の皮肉な写真、高速鉄道に閃光破壊:スモッグ余聞

 中国重篤スモッグの写真集として決定版が出たので紹介します。「theatlantic.com」の「China's Toxic Sky」です。また中国高速鉄道が走行中に閃光を発して運行不能になる事故が頻発しているのもスモッグの余波です。


 「China's Toxic Sky」で最も印象的な1枚、9枚目を上に引用しました。天安門広場を訪れた観光客は茶色がかった灰色のスモッグの中ですが、中央の巨大スクリーンは皮肉なことに青空と白雲を映し出しています。本来の北京青天なら高層ビルの無い、この場所には広大な青空が広がっているはずです。それが無い悲しさが伝わります。2枚目からの4点は同じアングルでスモッグがある場合と無い場合を比較できます。画面をクリックして暫くすると変わりますから、お試し下さい。2枚目のNASA衛星写真では白い雲の下に灰色のスモッグ層が垂れ込めている感じが分かります。3枚目以降、東便門城楼など名所が台無しになっている様、スモッグの濃さが比較できます。

 一方、「XINHUA.JP」の「高速鉄道に強烈な閃光、運行不能に 正体は有害濃霧に含まれる帯電粒子―中国」は30日に京広高速鉄道で閃光を発して運行不能事故があったと伝え、次のように説明しています。《京広高速列車は開通後、信陽などの河南省の南部地域で度々「強烈な閃光」が発生している。これは有害濃霧が続いたことによるものだ。有害濃霧には帯電粒子が多く含まれ、圧力が高まる状況下では、列車に取り付けられている絶縁子が破壊され、閃光が発生する。列車の絶縁用の碍子の表面を定期的に清掃すれば、これを避けることができるという》

 スモッグ中の化学物質が走っている間に絶縁体の表面に付着、絶縁を破るほど厚くなると電極ショートを起こして列車の受電装置を破壊してしまうようです。河南省は北京から内陸部を700キロほど南下した所で、スモッグの重篤さでは話題になっている北京よりも、内陸がもっと酷い状況にあると示していると思います。

 【参照】「インターネットで読み解く!」
     第336回「中国で突出の微小粒子汚染は環境汚染無視のツケ」
     第337回「中国の重篤スモッグは経済成長に大ブレーキ」
     第338回「中国の最悪大気汚染は韓国や日本へ飛来する」
     『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない


中国の最悪大気汚染は韓国や日本へ飛来する

 中国で騒がれている重篤スモッグがお隣韓国や日本では軽視されすぎています。大気汚染に国境はないとは福島原発事故でも思い知らされた事実です。中国北部のスモッグは朝鮮半島を直撃してから西日本を覆います。国内で開発された大気微粒子の発生拡散シミュレーション計算「SPRINTARS」は、米国が北京と上海で測定している微粒子濃度「PM2.5」の数値変動実績をきれいに説明してくれ、信頼性が高そうです。中国での大気状況改善は簡単には進まないはずですから、国内への拡散予測を広く役立てるべきです。また、特に騒いでいない韓国の報道を見ると旅行には行きたくないほど深刻な汚染ぶりです。

 16日の朝鮮日報ウェブに掲載された「韓国を覆ったスモッグ、重金属は黄砂の最大26倍」は中国と同時期に韓国でもスモッグが発生していると伝えました。「直径2.5マイクロメートル以下の超微粒子(PM2.5)の濃度も、12−15日にはソウル市内の測定所で最高171マイクログラム(1立方メートル基準、以下同じ)、大田市内で225マイクログラム、ペンニョン島で183マイクログラムを記録した」とあります。韓国にはPM2.5環境基準がないのですが、日本国内基準35マイクログラムの5、6倍にもなる非常に不健康な数値です。

 九州大応用力学研究所の竹村俊彦准教授が「SPRINTARS」を使った「大気汚染微粒子および黄砂の飛来予測」ウェブを開設しています。「大気汚染粒子」予測動画から、16日に中国北部から朝鮮半島に移動したスモッグが、17日に西日本一帯に広がる所を抜き出して引用します。



 全国の大気汚染状況を提供している環境省の大気汚染物質広域監視システム「そらまめ君」で16日から17日のPM2.5測定状況を見ると、西日本各地で日付が変わる頃から環境基準35マイクログラムを上回る赤色地点が現れ始めます。夜明け頃には大多数になり、最も東は愛知県内にも広がります。今後も中国からの汚染拡散は繰り返されるでしょうから、基準値を超えて、どの程度まで悪化しているのかも早期に知らせるようにして欲しいと思います。

 米国はPM2.5測定数値を北京上海でツイッターを使って公表しています。北風が吹いて改善されていた北京の大気が17日夕刻から再び悪化し、18日零時に285マイクログラムと深刻化する流れが、竹村准教授の予測動画でよく理解できます。沿岸部は風で一時は吹き洗われても、重慶周辺などの内陸部には汚染大気が渦巻き続けています。20日頃にはまた西日本が襲われるようです。

 【参照】「インターネットで読み解く!」
     第336回「中国で突出の微小粒子汚染は環境汚染無視のツケ」
     第337回「中国の重篤スモッグは経済成長に大ブレーキ」


中国の重篤スモッグは経済成長に大ブレーキ

 肺の奥まで侵入の微小粒子が環境基準の10倍もあるスモッグ発生で中国国営メディアが厳しい当局批判です。人民日報日本語版の評論に従えば環境配慮を欠く高成長は誤りになり、大ブレーキを掛けざるを得ません。昨秋の中国共産党大会のスローガン「美しい中国」への批判まで飛び出していて、本当に中国メディアの記事を読んでいるのか、目を擦りたくなります。高成長を持続して米国を追い越し世界一になるなど、あり得ない夢になりますが、ここは率直にメディアの主張を読んでみましょう。

 人民日報は中国共産党中央委員会の機関紙です。《濃霧が警告 経済モデル転換は引き延ばしできない》はこうです。《深刻な濃霧は、中国の経済成長モデルがもはや維持できないことを改めて示している。過去30数年にわたり、中国は「高汚染、高エネルギー消費、汚染物資の高排出」という「3高」の成長モデルによりかかり、一部の地域ではGDPを無計画に追求して環境保護に配慮してこなかった。このため今になって経済成長の苦い果実を味わっている》

 石炭火力発電重用などのほかに自動車の無謀な増加も問題視します。《大躍進式の自動車産業の発展もここ数年間に大都市で汚染が加速した主な原因だ。08年までは中国の自動車生産・販売の伸びは緩やかだったが、自動車産業振興プランの影響により、09年は一気に1300万台に達し、前年比46%増加した。10年、11年はいずれも1800万台を超えた。中国汽車(自動車)工業協会は12年は少なくとも2千万台に達したと予測する》

 「900万台→1300万台→1800万台→1800万台→2000万台」の年別販売推移を環境危機の意識もなく、にんまり眺めていた為政者がいたのです。

 中国青年報は共産主義青年団系で、胡錦濤国家主席の出身母体のメディアです。《史上最悪の汚染霧で、遠くかすんだ「美しい中国」》はこう主張します。《中国青年報は15日、中国各地で連日続く深刻な大気汚染状態にかんする評論記事を掲載、昨年秋の中国共産党大会で掲げた「美しい中国」という目標が、「史上最悪」の濃霧によって遠くかすんだと論じた》《「『美しい中国』づくりは、すでに一刻の猶予も許されないのだ」と論じるとともに、「人の生存環境を代償とした発展は、全く意味のないものだ」として、施工現場での粉じん飛散防止措置や、マイカー利用の抑制など、国民一人ひとりが責任を持って「美しい中国」を作り上げるよう呼びかけた》

 これが《大気汚染に募る国民の怒り、国営メディアも当局を批判 中国》になると《中国国営の新華社(Xinhua)通信は、中国全土に広がる「汚染ベルト」が出現したとし、「茶色の空と有毒な大気の国は間違いなく美しくない。国が直面する環境問題はますます厳しくなるだろう。過度に楽観視する理由はない」と述べて「美しい中国」を築くという当局の目標は危機的状況にあると批判した》と厳しくなります。

 まずは現在ある工場・発電所や自動車など汚染源の排出改善が急がれますが、膨大な費用は経済成長にはあまり寄与しません。また、新規に造られる工場や発電所は日本並みの基準でお金を掛けたとしても環境負荷を減らす訳ではありません。《大気汚染都市ワースト10のうち、7都市は中国に》は《中国環境保護部は14日、火力発電所・製鉄工場・コンクリート生産工場に向け、二酸化硫黄と窒素酸化物の排出抑制を通達。工場排気を中心に、施工現場や自動車など大気汚染の原因撲滅に向けて注力する旨を発表した》と伝えました。

 「インターネットで読み解く!」第336回「中国で突出の微小粒子汚染は環境汚染無視のツケ」で紹介した通り、微小粒子へ数日単位の曝露で死亡率が増えると確認されていますから、超高レベル汚染の目に見えた改善が無ければ国民大衆は納得しないでしょう。たちまち今年、2千万台も自動車を売って良いものなのか、経済成長と環境汚染改善のバランスをどう取るか難しくなっています。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国」関連エントリー


中国で突出の微小粒子汚染は環境汚染無視のツケ

 中国内陸部広域で発生が伝えられる微小粒子状物質汚染は大気環境基準の10倍もの濃度に達し、深刻な健康被害が懸念されています。環境汚染を無視した経済発展と法制度を続けたツケが一気に噴出した形です。「PM2.5」と呼ばれ、粒径が2.5マイクロメートル以下の汚染物質測定を、これまで中国当局は実施していませんでした。PM10というもっと大きな粒径物質の測定しかしなかったのに、北京と上海で米国大使館、領事館が在留民向けに測定結果を独自に公表、迷惑顔だった中国当局が渋々測り始めたら、とんでもない高濃度広域汚染状況が明るみに出たのです。

 時事通信の《各地で有害物質含む濃霧=呼吸器疾患急増、交通まひ―中国》は《北京など33都市で12日、6段階の大気汚染指数で最悪の「深刻な汚染」を記録し、13日も続いている。呼吸器系疾患の患者が急増し、高速道路の通行止めや航空便の欠航が相次ぐなど、市民生活にも大きな影響が出ている》《大気汚染の主な原因は、車の排ガスや工場の煙などから出る直径2.5マイクロメートル以下の微小粒子状物質「PM2.5」。北京では12日、この物質の観測値が1立方メートル当たり75マイクログラム以下としている基準を市内全域で超え、半数の観測点で基準の10倍近くまで上昇。900マイクログラムを突破したところもあった》と報じています。


 日本の大気環境基準は「1年平均値が15マイクログラム/立方メートル以下であり、かつ、1日平均値が35マイクログラム/立方メートル以下」です。上の図(環境省資料から引用)にあるように微小粒子は肺の奥の奥、肺胞まで入り込みます。そこから呼吸器系ばかりでなく循環器系や免疫系にも影響を及ぼします。環境省の「微小粒子状物質健康影響評価検討会報告について」は「PM2.5ないしPM10への短期曝露と死亡に関するいくつかの複数都市研究において、日単位の曝露(場合によっては数日遅れで)と死亡との間に関連性がみられている」「PM2.5への長期曝露と死亡に関するいくつかのコホート研究において、PM2.5と全死亡、呼吸器・循環器死亡、肺がん死亡との間に関連性がみられている」としています。

 天津に居住している方のブログ「汚染」はこう不安を訴えます。「昼間で雲もないのに、空が夕陽のように黄色くて、太陽がスモッグの奥にかすかに見えるだけ。アメリカ大使館発表の数値を見たら、なんと12日の夜の時点で北京のPM2.5は852μg/立方メートルだそうです」「かなり控えめな中国環境保護部の数値を見ても、12日の天津は424の“重汚染”。過去1ヶ月の中でもダントツの数値です。え? どうなるの? みんな死ぬの?」

 水俣病などが契機になって公害対策基本法が国会で可決されたのが1967年でした。中国の状況はこれよりも前、水俣病患者が奇病として差別されていた段階に相当します。公害被害者が補償を求める権利を認められるどころか、泣き寝入りするしかない法制度になっています。地方から北京に出向いて、政府に直訴するケースも出ていますが、社会を乱す者として司法手続きによらない労働矯正送りになる可能性が高いようです。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国」関連エントリー


日経が伝えた原発の新安全基準原案は無理筋か

 日経新聞が9日朝刊で原子力規制委が原発に適用する新安全基準原案を伝えました。目玉は「原発が機能を失った場合に備え原子炉を冷やす施設の新設を求める」で、事故調報告不備が招いた無理な屋上屋の印象です。詳しくは11日に再開される新安全基準に関する検討チーム会合の資料を検討してから論じたいと思いますが、新たな課題になっているテロ対策も含めて、最終安全装置をもう1セット追加してしまえば、国民から納得してもらえると考えたように見えます。安全設備さえ造っておけば大丈夫とする従来の発想です。しかし、福島原発事故では現実に用意されていた最後の命綱設備が、色々な事情から働かなかったのです。

 日経の「原発に非常用冷却施設 新安全基準の原案判明 テロ対策も強化」に付いている新聞紙面の図を見ると、大津波の被害が及ばぬ高台に「非常用原子炉冷却施設」「非常用電源」「放射性物質フィルター付き排気施設」「放水銃」を新しく設けて、原子炉と接続しています。非常用ディーゼル電源の津波による喪失などで3原子炉に炉心溶融が起き、ベントのもたつきで原子炉格納容器に破壊の危機が発生、さらに水素爆発後には高放射線量になっている上空から危険を冒した冷却水投下――などの醜態をなぞって「対症療法」対策が並んでいます。

 本来ならばこのような大事故では原因の究明がしっかりなされ、それに基づいた対策として新たな安全基準が策定されるべきです。ところが、福島原発事故の出発点の段階で事故調見解が分かれました。政府事故調は大津波襲来からスタートとし、国会事故調はその前の大地震の時点から異常が始まったとしました。この差は厄介で、考えるべき対策も違ってきます。原子力規制委で原案を考えた事務局官僚が、それならば安全設備をそっくり上乗せしてしまえとしたのでしょう。残念なことに動いている原子炉はそれほど単純ではありません。危機に陥った状況によっては助っ人設備が引き継ぐのが困難な場合があり得ますし、少なくとも運転マニュアル全体を検証して書き換えなければなりません。

 本質的には「航空機の衝突やテロで原発が破壊され、通常の冷却装置が機能を失っても別の場所でシステムが働き、原子炉の暴走を止める仕組みづくり」が可能かどうか、大いに疑問があります。既存原発の設計思想と相容れないか、新設される配管や機能が干渉する恐れがあります。細部を詰めたら問題噴出でしょう。原発再稼働ありきの、とても安易な発想に見えます。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


津波の猛威と対決を選んだ浜岡原発は大丈夫か

 中部電力浜岡原発の大津波対策「防波壁」が1.6キロに及ぶ姿を現しました。報道された写真で見える薄っぺらさが話題になっており、強度について本格的な説明が公開されていない点に問題があります。津波の猛威と対決する選択をしたのは正しかったのか、津波が来てみなければ分からないのでは困ります。昨年3月の大津波を見た国民には「壁」があるから大丈夫には見えません。それなのに海抜高さ18メートルの現状をさらに4メートル嵩上げする計画変更を加えて、1500億円も投じることになります。費用は電気料金に転嫁できる仕組みだからいくらでも使えるのでしょう。



 壁の構造は上図の通りです(「津波対策30項目実現に向けた浜岡原子力発電所の今」から)。報道写真はこちらなど。地上は厚さ2メートルながら地下に7メートルの地中壁を6メートル間隔で並べています。地中壁は岩盤の中にまで根を入れてあるとの説明です。横幅12メートルの1ブロック当たり1万4千本のボルトで組み立てているのだからブロックとしての強度は高いはずですが、泣き所は岩盤を含めた強度、津波への抵抗力に全面的な信頼があるかでしょう。もともと浜岡原発の地下にある岩盤が強固かは異論があるところです。

 東洋経済オンラインの「中部電力・浜岡原発の防波壁工事、津波需要で広がる原発ビジネス」にこんな記述があります。《壁の部分は鋼材と鉄骨・鉄筋コンクリートの複合構造で、断面で見るとL字型の構造になる。「L」の左を海側に、右を陸側にすることによって、海から消波ブロックや砂丘堤防を乗り越えて津波が押し寄せた場合、倒れないで踏ん張ることができる。もし壁を乗り超えてしまっても、そこから滝のように降り注ぐ海水で地盤がえぐれ、防波壁を横倒しする「洗掘」を避けられる》

 壁が乗り越えられた際に洗掘の心配があるのならば、地中壁の間にある土壌部分の流出も恐れるべきだと考えられます。何度も襲う津波で壁外側を守る砂丘も無事ではありません。さらに取水路と放水路で原発が海と繋がっている構造上の欠陥は逃れられません。そのために防波壁が乗り越えられなくても構内は1〜2メートルの海水で溢れます。原子炉建屋周辺に防水壁をめぐらせ、建屋の密閉性を高める、屋上に空冷式のディーゼル発電機を設置するなど対策は多数で、心配の種は尽きない感じです。

 浜岡原発の本当の危険性は東海地震の震源域に位置していることです。菅政権下で運転が停止させられたのもその心配のためです。再稼働を目指して外洋の津波対策ばかり熱心なのを見ると、世間で言う「原発震災」の元祖は浜岡なのに、自覚されていないと思ってしまいます。

 【参照】インターネットで読み解く!「浜岡原発」関連エントリー


急ぐ安全指針と避難計画から透ける小手先解決

 原子力規制委員会が原発の再稼働を判断する根拠になる安全指針と防災・避難計画を巡って慌ただしく動いています。新安全指針は来年3月末まで、防災計画は年内の策定が求められ、基本から考えて網羅的に議論するには時間が足りません。どうやら事務局側は落とし所を用意してあり、小手先の解決策で済ませるつもりと見え始めています。福島原発事故の反省に立つ根本的な見直しではなくなりそうな予感がします。

 原子力規制委は31日の委員会で事故時に放射性物質の放出前に直ちに避難する予防的措置準備区域を原発から半径5キロ圏に、緊急時に避難や屋内退避ができるよう備えておく緊急防護措置計画区域を半径30キロ圏に設定しました。30キロ圏で十分か議論があるものの、従来より大幅に避難範囲が広がった結果、東海第2原発で93万人、浜岡原発74万人、島根原発44万人、柏崎刈羽原発43万人など膨大な数の住民が避難対象になりました。このほか20万人以上が5原発もあります。

 これだけ多数の住民の足を確保して避難させるには、相当に長い時間を見込まざるを得ません。ほぼ同時に安全指針検討チームに出た《原子力規制委、事故踏まえ新基準 検討チームにたたき台》(西日本新聞)を見て、気が付きました。《現行は、短時間の全交流電源喪失への対策を求めているが、素案は「一定時間の冷却確保」を求めた。「一定時間」をどの程度の長さとするかは、今後議論を続ける》とあって、電源喪失してもある程度長い時間を稼ぐことが新安全指針の骨格になりそうです。

 福島原発事故では、事故発生翌日には高まる格納容器圧力を逃がすベント操作で20キロ以上も北側に高濃度の放射能雲が流れました。これを起こした1号機のように電源喪失後の安全装置が旧式で劣っている原発は除外し、安全装置が自動起動して長期に冷却を維持できる原発だけに再稼働を認めれば、安全確保面でも防災・避難計画でも整合させられると考えている可能性が高いように感じます。もちろん非常用電源の改良なども加わります。

 従来の安全指針の考え方「安全確保の仕組みがあるから大丈夫」を、安易にぎりぎりにしていたから、もう少し安全側に振って済ませる思想と言えます。しかし、福島事故の3号機では起動していた安全装置を運転員が止めてしまいました。また、2号機で安全装置依存から海水注入に切り替える判断をすべきだったのにずるずると流されて、結局は炉心溶融に至りました。過酷事故は地震・津波だけで起きるとは限りません。小さな異常に人間系の判断ミスが加わって拡大していく方がありそうと考えられてきました。福島事故の反省に立つならばこうした人間系の見直しが欠かせないと考えますが、検討チームの議論はもっと平板なものです。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


最悪でなくも原発周辺住民を震撼さす放射能拡散

 原子力規制委員会が24日に公表した、全国各地原発での炉心溶融事故放射能「拡散シミュレーションの試算結果」は、これまで杜撰な避難計画・訓練で真実を隠されてきた周辺住民を震撼させるものでした。ただし、この試算は最悪を想定していません。福島第一原発事故での放出放射能量に、各地原発の規模に応じた掛け算をしているだけです。福島事故では原子炉3基ともに原子炉格納容器の大破は免れています。2号機が小破して最大の放出をしました。もし大破が起きれば放出放射能量は格段に増えます。


 上の地図のように、コシヒカリの最優良産地として知られる魚沼地方が、事故後1週間の内部・外部被ばくの積算線量100ミリシーベルトの範囲に入ってしまった柏崎刈羽原発周辺の衝撃が真っ先に挙げられます。原発から40キロも離れているのです。これまで同心円で10キロ圏、20キロ圏と区分けしてきた防災計画の無意味さが一気に露見しました。朝日新聞の《田んぼ持って逃げられぬ 新潟・魚沼も放射能拡散圏内》が《「田んぼは持って逃げられない。生活基盤が奪われる」。新潟県魚沼市のコメ農家の坂大貞次さん(64)は、柏崎刈羽原発の放射能拡散予測を厳しい表情で受け止めた》と伝える通りです。

 放射能の雲がどのように周辺地域を遠くまで襲うのか、福島原発事故で具体的な状況が分かっています。第319回「福島原発の放射能早期流出、防災計画に大影響」インターネットで読み解く!)で福島原発事故2日目に、双葉町から南相馬市まで駆け抜けた様子をグラフと地図で掲示しています。放射能の強さはピークで毎時1590マイクロシーベルト、外部被曝だけで公衆の年間被曝限度1ミリシーベルトを40分ほどで浴びてしまう高線量です。しかも、これは1号機で格納容器の大破を免れるために圧力を逃がす「ベント」操作をした結果に過ぎません。雲は北上して3時間20分で25キロ離れた南相馬市に到達したと見られています。南相馬の人達は全く無警戒でした。

 「放射性物質の拡散シミュレーションの試算結果について」 はシミュレーションの限界について注記しています。「地形情報を考慮しておらず、気象条件についても放出地点におけるある一方向に継続的に拡散すると仮定している」「シミュレーションの結果は個別具体的な放射性物質の拡散予測を表しているのではなく、年間を通じた気象条件などを踏まえた総体としての拡散の傾向を表したものである」などです。

 もしも炉心溶融から格納容器破壊が起きて、通常とは違う風向きならば今回、示された地域以外の住民が大量の被曝をしてしまうのです。原子力規制委員会は防災計画の見直しを優先事項に掲げていますが、これほど広い地域の住民を放射能の雲が襲う前に迅速に避難させる力は現在の自治体にはありません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


浮かび上がる放射線棄民にマスメディア無力

 放射線障害防止法に定められた一般人の年間被ばく線量限度1ミリシーベルトが、福島では長期にわたって守られない違法事態が続きそうです。さらに3カ月で1.3ミリシーベルト以上の汚染なら放射線管理区域として厳格に隔離する法体系になっているのに、福島市や郡山市など広範囲にホットスポットとしてその汚染地域が存在し、住民が住んでいます。福島原発事故直後の暫定措置はとっくに終了していなければなりませんが、最初から現行法との整合性を問わず、政府の言うまま線量問題をなし崩しにしてきたマスメディアは立ち位置を失い、報道に無力感が漂います。

 毎日新聞の《東日本大震災:福島第1原発事故 大波地区、面的除染は一進一退 実施1年、線量再上昇の場所も》はこう伝えました。《福島市東部の大波地区で市の「面的除染」が始まり18日で1年。空間放射線量は市の測定で漸減傾向だが、一般人の年間追加被ばく線量限度1ミリシーベルト(毎時0・23マイクロシーベルト)を超す数値が続く。市は2度目の除染を求めるものの、費用負担する国は応じていない。「高線量を我慢させるのか」。住民には不満が渦巻く。同市大波出張所では17日、毎時0・47マイクロシーベルトを市の測定で記録した。それでも避難指示区域ではないため、住民に公的な支援はない》

 東京新聞の《福島の子 外で遊んで、学んで 移動教室に復興予算を》は「普段、屋外活動を制限されている児童たちが、放射線を気にせずに外で遊び回」らせたいとの趣旨ですが、事故から1年半あまり、放射線管理区域なみの汚染校庭しかない学校で子どもたちが学習していること自体が問われるべきです。

 避難指示区域に指定されないために放置された多くの住民にも、本来は転居・避難する権利が認められるべきです。法で定めた限度線量を超える環境になったのは福島原発事故が原因です。もう高齢だからなどの理由で住み続けたい人まで移転させる必要はありませんが、耐えられないと思う人までが「棄民状態」になっています。《年間1mSvは法定の限度線量:遵法感覚はどうした》で仕組みを指摘しているように、いつまでも福島だけを無法状態に置いてはなりません。

 ところが政府は《住民帰還へ福島拠点に国際研究 政府検討、IAEAと》(時事通信)で「放射性物質に汚染された地域の復興や避難住民の早期帰還を目指す」方向に前のめりになるばかりです。《1年半後から避難指示解除=国と初の合意−福島県飯舘村》(時事通信)でも、住民帰還には現行法との整合が問われるはずですが、マスメディアにその視点は希薄です。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


福島原発事故の責任者究明への道が開かれた

 閉ざされていた福島原発事故の責任者究明・追及への道が、東京電力が従来の「不可抗力」「想定不能」から大津波対処責任を認めたことで開かれました。これは同時に、多数の市民から刑事告訴されている事故責任者のあぶり出しと刑事訴追も、これまで考えられていた「ほぼ不可能」と違って有力になったとみるべきです。《東電、津波対策の不備を初めて認める》などのメディア各社の記事を見て、どうして地味な扱いなのか疑問でたまりません。過失責任をめぐる刑事事件の扱い方を知っているジャーナリストなら、東電や政府の責任者訴追へ歯車が完全に回ったと認識できるはずです。

 読売新聞の記事は《東京電力は12日、原子力部門の安全対策を担う第三者委員会「原子力改革監視委員会」の初会合を開いた。東電は、福島第一原子力発電所を襲った津波の大きさを「想定できなかった」としていた従来の主張を変更し、津波対策の不備を初めて認める見解を示した》と伝えました。

 日経新聞のインタビュー《「東電、過ち大きく」「日本の規制 複雑」 クライン委員長に聞く》になると《東電の「原子力改革監視委員会」の委員長に選任された米原子力規制委員会(NRC)のデール・クライン元委員長は12日、日本経済新聞の取材に応じた。福島第1原子力発電所の事故の責任は東電にあると指摘し、「安全文化を経営トップから組織の隅々まで浸透させねばならない」と抜本的な意識改革を求めた》とします。

 さらに「過酷事故に備えが必要」の項で《NRCは2001年の米同時テロ後、原発の安全指針「B5b」を策定。日本にも導入を促したが、経産省は当時この助言を無視した。もし日本がB5bを導入していれば福島第一原発事故は防げたか、との問いに対してクライン氏は「防げた」と断言した》とまで言っています。

 政府と国会と二つの事故調が設けられながら最初に炉心溶融した1号機について、政府事故調は津波主犯説、国会事故調は地震主犯説、さらに東電の事故調は天災=不可抗力説であったために、告訴を受けた検察が事故の責任に踏み込むことは非常に難しいと考えられました。「事故調報告を逆手に取り東電会長は人災否定」といった、個人の責任はないとした居直りまで出来る構図でした。

 しかし。事業者である東電自身が福島原発事故は防げたとするなら、防ぐために取らなければならなかった措置の責任が誰にあり、予見可能性の注意義務を誰が負うべきか、総括する経営責任の所在はどうだったか、厳しく問われることになります。米国NRCからのアドバイスを断った政府官僚も同様に判断の責任を問われます。

 読売新聞によると「過去の教訓を踏まえて、抜本的な安全策を講じる方針を打ち出し、柏崎刈羽原発(新潟県)の早期再稼働につなげたい考えだ」となっています。旧の経営陣が退社したから責任が不問になるはずもありません。新しい東電の考え方は短絡的で、旧役員らを切り捨て結構とまで考えてはいないのでしょうが、結果的に事故の本質的責任を国民の期待に沿って究明するという意味で非常に役に立つ、時宜にかなった選択だと考えられます。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


住民帰還は役所都合の大義、大半は未だ帰らず

 福島原発事故で汚染され荒廃した故郷に住民が帰還するのが当然、との論調をマスメディアが維持し続けるのに異議を唱えます。「汚染度が下がり帰還しうる」と「帰って何とか生活できる」との間には大きな落差があり、さらには「昔通りに満足な生活」へのギャップは現状では超えがたく大きいのです。緊急時避難準備区域解除から1年、現地福島からの報道は避難住民に寄り添っていないと常々感じ、毎日新聞・山形からの《疎開の現在:’12夏・山形/1 賠償打ち切り 帰郷への希望しぼむ /山形》を読んで納得の思いがしました。

 1年前まで緊急時避難準備区域だった福島県南相馬市原町区から、山形市の借り上げ住宅に避難する木村勝男さん(77)に取材しています。「体力が衰えたせいか、帰郷へのかすかな希望を抱いていた昨年の夏とは考えが変わってきた。昨年は残暑の日差しの中で故郷の山河の暮らしを懐かしんだが、今ではそうした気持ちも薄れた」「福島県内では、除染作業が進んでいる。それでも、木村さんは安心して故郷に戻れないと考えている。『たとえ自宅に住めたとしても、山全体を除染することはできないだろう』と思うからだ。木村さんにとって、故郷に戻るということは野山に囲まれて暮らすこと。『それがかなわないなら、気をもんでも仕方ない。もう、あきらめるしかない』」


 この地図は福島民報の《【避難準備区域解除から1年】住民帰還進まず 除染、生活基盤課題多く 5市町村》から引用したもので、木村さんの南相馬市のほかに4市町村がいま同じ問題に直面しています。

 「全域が緊急時避難準備区域だった広野町は住宅などの除染が進む。水道などインフラも復旧し、広野小と広野中は二学期から自校での授業を再開した。しかし、町民約5500人のうち、町内に戻ったのは1割の500〜600人程度」「今年1月に帰村宣言した川内村は、住宅などの除染が年内にも完了する見通しだ。ただ、周囲の森林は手つかずの状態で、住宅の除染が済んでも放射線量が比較的高い地域があるという。人口約2800人のうち週4日以上、村内で生活しているのは現在、800人程度とみられる。住民からは『放射線を心配し、腰を落ち着けて住む人は少ない』との声も漏れる」

 満足に暮らせるどころか、何とか生活できる程度にも改善されていないのに、緊急時避難準備区域住民は8月末で東京電力からの精神的苦痛に対する賠償金(1人当たり月10万円)をうち切られています。木村さんは「裕貴恵さん夫婦が南相馬市から仕送りもしてくれる。『俺の年金と合わせて節約していけば孫と3人が暮らしていけないこともない』とは思う。一方で、『本当に”帰ってこい”と言われているようだ。避難を続けたい自分の気持ちと世間の流れは、全く逆なんだな』とつぶやく」

 放射能の恐れを別にして、この程度の住民数では生活に必要な物資を扱う商店が立ちゆかないでしょうし、クルマを運転して遠くに買い物に行けない高齢者らは生きていけません。暮らせないところに帰還させようとする政府・自治体ご都合の大義に、全町避難している大熊町と富岡町、浪江町が「5年間は帰還せず」と表明、双葉町が「全町避難だから異議が言える異常な線量基準」で指摘したように抵抗しています。それが持つ重要な意味をマスメディアは全国ニュースとして伝えようとしません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


福島原発の放射能早期流出、防災計画に大影響

 福島原発事故から1年半も経過して「事故翌日 双葉町1590マイクロシーベルト」(東京新聞)との驚くべき数字が公表されました。公衆の年間被曝限度を40分ほどで浴びてしまう高線量で、資料を見直すとさらに高濃度の放射能の雲が原発から流出したのは確実です。その範囲は25キロにも及び、今後の防災対策では30キロ圏内は事故があれば直ちに退去すべきとなるでしょう。避難人口が膨大になり、足の確保など地域の防災計画に根本的で大きな見直しが迫られます。

 震災や地震で事故当時に記録が回収できなかったモニタリングポスト25カ所について、福島県は「昨年三月十一日から同三十一日までの、放射性物質の飛散状況をモニタリングポストで観測した結果を公表した。空間放射線量の最大値は、原発から北西に約五・六キロの双葉町上羽鳥で、十二日午後三時に毎時一五九〇マイクロシーベルトを記録した」。下のグラフが上羽鳥での変化です。


 格納容器の圧力を下げる大規模な蒸気排出「ベント」が1号機で午後2時半ごろに実施され、流出した放射能の雲が襲来した結果です。午前10時にも毎時6.9マイクロシーベルトのピークがあり、こちらは中途半端なベントで失敗した時刻と一致しました。


 午後2時半ごろ実施のベントで雲はどう流れたのか、上の地図を見てください。東電が「福島第一原子力発電所事故における放射性物質の大気中への放出量の推定について」で公表しています。双葉町役場の東側を北へ流れ、浪江町を経て午後5時過ぎには南相馬市役所付近に達しました。上羽鳥モニタリングポストは双葉町役場から西に1キロ以上離れています。放射能の雲は真上を通っておらず、雲の直下はさらに高線量だったはずです。ベントでの放出量は希ガス3000兆ベクレル、ヨウ素131が500兆ベクレル、セシウム134が10兆ベクレル、セシウム137が8兆ベクレルという膨大なものでした。

 この時刻、住民の避難は原発から10キロ圏内に限られていました。20キロ圏内の立ち退きが指示されるのは午後6時25分です。ところが、今回のデータで超高線量の雲が既に20キロ圏を超えていた恐怖が判明しました。原発側で把握できていなかったのでしょうか。福島第一原発モニタリングポストの配置は以下の通りです。


 1号機の北側で生きていたモニタリングポストは「MP−4」だけで、ベントの際に毎時1050マイクロシーベルトのピークを記録しています。しかし、放出高度が120メートルと高く、真北に流れた経路から西に外れていたためにモニターしきれていません。本来は放射能の雲の線量を把握して風向きから関係自治体に警告を発すべきなのに、監視体制は全くのザル体制だったと言わざるを得ません。まさしく緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム「SPEEDI」の出番だったのです。新しくできた原子力規制委員会は「防災計画も整わなければ原発再稼働はない」と明言しています。

 【参照】「SPEEDIデータ隠しで乳児を犠牲にした政府」
   インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


全町避難だから異議が言える異常な線量基準

 福島原発事故で全町避難している双葉町が、国が設けた避難区域の線量基準に異議を唱え、町民の帰還に向けた区域再編協議を拒んでいます。年間線量が5ミリシーベルトを超えていても20ミリシーベルトまでは住民を帰す国方針では安全が確保できないと考えているからです。5ミリシーベルトはチェルノブイリ事故での移住基準であり、放射線障害防止法で定める放射線管理区域の設定基準にも相当し、健康に問題があると考えて当然です。ところが、福島市や郡山市など広い範囲が現在も5ミリシーベルト以上なのです。福島県内の自治体が住民を繋ぎ止めるためにしない異議申し立てが、全町避難の双葉町だから出来る構図になっています。今なお国に依存しているマスメディアには不思議に思う気配すらありません。

 福島民報の《国の線量基準に不満 双葉町が再編協議拒否の理由示す》はこう伝えています。《チェルノブイリ原発事故で立ち入り禁止とされた区域の放射線量と国の「居住制限区域」の線量を比較し、日本側が4倍も高いと指摘。国の基準で区域を再編した場合、町民の安全は守れないなどとしている》《国は50ミリシーベルト超を「帰還困難区域」とする一方、20ミリシーベルト超50ミリシーベルト以下は住民の帰宅や通過交通を認める「居住制限区域」、20ミリシーベルト以下は除染やインフラの整備を進め住民の早期帰還を目指す「避難指示解除準備区域」に再編する方針。町内については、この線量基準などに基づき3区域に再編する案を示しているが、町側は住民の安全確保などの観点から町内全てを帰還困難区域にするよう求めている》


 上に掲げたのは4月の「20mSvで居住可の無茶を何年も続けて良いのか」で取り上げた5年後の空間線量予測地図です。帰還困難が年間20mSv以上と限れば原発がある双葉町でも赤色とオレンジ色、黄色の部分は半分以下です。しかし、放射線管理区域の基準で見れば町全体が該当します。そこで放射線管理区域では禁じられている飲食はもちろん、寝泊まりして生活することになったらたまらない――とても正常な判断だと考えます。住民の離散を防ごうと、こんなに高い線量なのに事故直後から避難を妨げている実態がアブノーマルです。「ふくしま集団疎開裁判」の《判決前夜アクション:矢ヶ崎克馬氏の警鐘「いま、申立人の子どもたちは全員、チェルノブイリ避難基準の移住義務地域で教育を受けている」》が指摘する「年間1mSv以上で移住権利、5mSv以上が強制移住」が奇異に受け取られている福島の現状がおかしいのです。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


超高汚染魚が出現:網羅性欠く東電調査に問題

 福島原発事故が起きてから最大の超高汚染魚が現れました。「セシウム:アイナメから2.5万ベクレル 福島第1沖」(毎日新聞)などが一斉に伝えています。淡水魚にはキログラム当たり1万ベクレルを超えるケースはありましたが、海の魚として桁違いです。これまで東電が公表してきた調査を遡れば、原発周辺ほど高汚染という予断で出来た調査体制であり、網羅性を欠いています。河川の汚染が原因で、高汚染魚が原発から離れた沿岸に広く分布している恐れがあります。

 報道では「アイナメは福島県南相馬市の太田川沖合1キロ付近で2匹を採取。放射性セシウムはそれぞれ、1キロ当たり3万8000ベクレルと9300ベクレルで、両方合わせると同2万5800ベクレルとなった」「7月18日から8月1日に魚介類を採取し、放射性物質による影響を調べた。国が定める一般食品の基準値(1キロあたり100ベクレル)を超えたのはクロソイなど10種類に上った」となっています。3月の「放射能海洋流出は止まず:自分に甘い東電に任すな」で紹介しているように、アイナメの汚染は最高3000ベクレル程度でした。


 上の地図に追加記入したように、太田川は原発20キロ圏ぎりぎりで太平洋に注いでいます。原資料は東電が3月30日に発表した「福島第一原子力発電所 20km 圏内海底土中放射性物質濃度(セシウム)移行調査結果図」で、原発近くに目が行って太田川周辺まではよく調べられていません。

 地元の「放射能測定センター・南相馬 とどけ鳥」が太田川から2つ北の真野川を調べた「南相馬市5つの川の放射能マップ完成!!真野川編」があります。上流の真野ダムの土手土壌からセシウムキロ当たり5万ベクレル超が検出されるなど、川の汚染は高レベルです。太田川も上流に横川ダムを持っていて、福島原発事故で放出されたセシウムがダムの流域から集まり、海に流れ出ている恐れがあります。

 NHKのニュースによると、東電は「これまで海底の土から検出された1キログラム当たり25ベクレル前後と比較すると高いので、いわゆるホットスポットにいた餌を食べたと考えられる。来週から9月末まで、毎週、今回と同じ沖合1キロを中心に2キロ四方でアイナメと、餌になるエビやゴカイ、それに海底土を採取して原因を調べたい」としています。これでは真野川など他の川の沖に高汚染魚がいても見つかりません。調べるなら沿岸部を網羅して取り組むべきです。原因が河川汚染なのか、原発本体からの流出によるかの判別は非常に重要です。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


東電テレビ会議、問題意識ある研究者らに公開を

 東電テレビ会議映像の公開による報道が続いていますが、視聴が認められた報道陣だけでは検討し尽くすのは無理で、問題意識がある研究者らにも公開するべきです。河北新報の《「健康被害ない」と広報を 爆発直後、福島県が東電に要請か》や時事通信の《水素爆発「聞かれたら否定」=「国民騒がせる」東電会長−情報開示、消極浮き彫り》など重要な事実が公になった例は、記者の問題意識がその周辺にあったから可能になったはずです。このまままなら原子炉工学などに詳しい研究者なら分かる問題点が発掘されない恐れが大です。

 例えば、京大原子炉実験所の小出裕章さんは《東京電力 テレビ会議の分析「班目さんは官邸に居座ってる 他の安全委員の人たちが何をしていたのか一言も聞こえてこない」小出裕章8/8》で、1時間半だけ一般公開されたビデオを見て、「3月11日当日のことをまずは知りたかったのですけれども」「そのことは殆ど無かった…」「起きた時が一番その事故というのが劇的に、変化、というか、事象が進行するのです」と残念がっています。

 また、音声の大半が消され、「ピー」音でブロックされているのは犯罪的とさえ言えます。河北新報が伝えた、3号機爆発後の福島県による非常識極まる「健康被害の心配はない」文言要請も、東電以外の不祥事発言なので残されたと考えられます。プライバシーを理由にブロックされている部分に東電にとって都合が悪い発言が隠されていると考えて当然でしょう。

 特定非営利活動法人OurPlanet-TVの「東電テレビ会議映像〜全ての人に公開必須」 は「プライバシーを守る必要がある」との東電側に対し「報道機関に公開されている映像は、個人が特定できる名前などは全て音声修正がほどこされており、このまま一般に公開したとしても、プライバシーが侵害される恐れはない」と指摘しています。テレビ会議映像の復元も重要ですが、現状のままでも報道陣以外に広く公開させるべきです。

 【参照】インターネットで読み解く!「過酷事故」関連エントリー


事故調報告を逆手に取り東電会長は人災否定

 日経ビジネスの「東電・下河辺新会長、原発事故を語る」で、東電による人災が公然と否定されているのに愕然としました。法律家である新会長は「故意・過失に結びつくものにおいて」しか人災は成り立たないと主張します。真相の究明を優先して個人の責任は問わないとした政府事故調、時間が足りなくて究明しきれなかったが東電カルチャーに問題があるとした国会事故調。いずれも個人の責任まで踏み込んでいない点を逆手に取って、人災とは言えない説がまかり通っています。

 インタビューの核心部分はこうです。「基本的には、あれだけの津波が極めて残念なことに福島第1原発を襲ったのが事故の原因です。大きな津波が起きる可能性は事故以前から指摘されていましたが、津波の危険性への認識が『可能性』の域を出ず、1つの試算値としてしか受け止められないうちに3・11が来てしまった」「事故原因は、端的に(言えば)そこに尽きる。東京電力はこれまで、社内で積み重ねてきたモノの考え方や想定のなかに閉じこもっていて、外部の新たな状況や刺激を柔軟に取り込んでいくという姿勢や体質に欠けていた」

 「それが人災ということではないのですか」との質問にこう答えます。「あえてカギ括弧付きで言いますが、これを『人災』という人もいます。ただ、もともと私は弁護士であり、法律家というベースがあるので、『人災』というと帰責事由としての故意・過失に結びつくものにおいて成り立つもの(用語)という認識がある」

 個人責任に遡及できないものは人災ではないと考えているわけです。公的な二つの事故調報告が福島原発事故の究極の原因と個人の責任まで問わなかったのは怠慢と考えますが、東電側の問題点は多数指摘しています。政府事故調の場合は「個人責任を問わない」と最初から表明して、関係者の事情聴取をしやすくしました。「誰の責任」とまで言わないが、自分で考えてしかるべき処置をしなさいといった「武士の情け」的な立場と報告の構造になっています。それなのに、責任が明示されていないから個人には及ばない、だから人災ではない、との論理は不適切極まりないものです。

 外部から新会長を招くのが、実質国有化後の新生・東電の目玉人事だったのですが、とんでもなく不適切な人を選んだようです。あるいは短い時間で東電体質に同化してしまったのでしょうか。

 【参照】「事故調が責任問わぬ始末では信頼回復は難しい」
   「国会事故調は主因を津波に限らず、地震で損傷も」
   「原因は語らず懸命努力説明ばかり東電事故報告」
   「福島事故責任は誰にあるか、判明事実から究明」
   「恐ろしいほどのプロ精神欠如:福島原発事故調中間報告」
   「2、3号機救えた:福島原発事故の米報告解読」
   インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


核心曖昧な事故調報告は安全基準再建に障害

 福島原発事故をめぐる公的な二つの事故調査委員会が相次いで最終報告を公表したのに、事態は解決に向けて進むどころか、最も必要な原発の安全基準再建を始めとした諸課題がますます混迷しそうです。時間に余裕があった政府事故調が津波による電源喪失を主因としつつも全容解明を放棄した点に大きな責任があります。6カ月余りと短期決戦だった国会事故調も、政府事故調と違って地震による損傷も原因と推定をした割に根拠が不足しています。全電源喪失で3基の原子炉が炉心溶融する大規模事故に見合う事故調査態勢だったのかがそもそも疑問で、当該分野の原子力学会が全く協力する姿勢を見せない異常さもあります。政府中枢を巻き込む「原子力ムラ」が事故責任を問われないよう、曖昧な決着を望んだ疑い濃厚ですが、原発再稼働には逆効果になりそうです。

 政府事故調の釈明はこうです。「当委員会は現地調査における困難性や時間的制約等の下で、可能な限りの事実の調査・検証を行ってきたが、それらの制約のため、福島第一原発の主要施設の損傷が生じた箇所、その程度、時間的経緯を始めとする全体的な損傷状況の詳細、放射性物質の漏出経緯、原子炉建屋爆発の原因等について、いまだに解明できていない点も存在する。より早い段階で1号機及び3号機の減圧、代替注水を実施していた場合に原子炉建屋の爆発を防止し得たか否かについても、現段階で評価することは困難である」

 現地に入れないなら、津波か地震か主因が判然としないなら、シミュレーションによる事故の再現作業がなおのこと必要だったと言えます。地震による機器損傷の疑いはNHKスペシャルでも取り上げられていて、耐震レベルが低い機器が事故の収束に重要な機能を担っている可能性があります。(「再稼働へ警鐘:Nスペが過酷事故欠陥を実証」

 大飯原発の再稼働で野田政権は新安全基準は暫定であり、本格的な安全基準は秋に発足する原子力規制委員会が策定するとしました。新安全基準は過酷事故対策が欠如しているのに、過酷事故は起きない前提にした福島事故以前の考え方で再稼働を強行しました。しかし、福島事故で起きた長期の全電源喪失、それに伴う過酷事故への移行について事故調報告は、東電に全く備えがなかった点を明白にしています。命綱の安全装置停止と核燃料の損傷開始以降、福島第一原発3基の炉心溶融ストーリーは違っており、福島第二原発で事態収拾に成功した手法も加えると、検証すべき事故事象の幅は広大です。

 本来、このような事故事象を扱ってきた旧・原研のスタッフを入れないで、聞き取り調査を中心に据えた事故調査をしたことが間違っていたと考えられます。「過酷事故は起きない前提」にして現在は簡単な運転マニュアルで済ませてきました。過酷事故を前提にすると事故推移経路は複雑多岐になります。単独の事故か、複数基の同時事故かでも外部支援を含めて対策が違ってきます。どのような事故対処マニュアルを用意させるべきか、各原発ごとに特性も違います。統一した安全基準を作るのはかなりの力業になるでしょう。

 これとは別に「福島の事故原因が究明されなければ原発再稼働はしない」と主張している新潟県知事の了解を得るのにも、両事故調報告の食い違いは不都合です。両報告ともに多数の提言をしているものの、事故の核心的な原因を確定して、それを防ぐ再発防止決定策はありません。これも非常に物足りない印象を与える理由です。

 【参照】「事故調が責任問わぬ始末では信頼回復は難しい」
   「国会事故調は主因を津波に限らず、地震で損傷も」
   「原因は語らず懸命努力説明ばかり東電事故報告」
   「福島事故責任は誰にあるか、判明事実から究明」
   「恐ろしいほどのプロ精神欠如:福島原発事故調中間報告」
   「2、3号機救えた:福島原発事故の米報告解読」
   インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


本業の事故究明を怠る東電は世間をなめている

 福島原発事故で東電が「原子炉にはまだ水がある」と言っていた時、しばしば原子炉水位は核燃料の上端どころか下端までしかなかった――政府事故調の最終報告は綿密な論証をして、専門家中の専門家であるべき東電の技術的な錯誤を指摘しています。さらに問題なのは本業の原子力発電で起きた事故で「事故の再発防止に全力を挙げて率先して取り組む責務を負っているのであり、一連の事象進展の過程から新しい知見を獲得し、それを事故の再発防止と原子力発電の安全性の向上に役立てようという熱意を持つべきであるが、同社の原因解明に向けた姿勢からは、そのような熱意が認められない」と断じられる姿勢です。世の中をなめていますし、科学技術を恣意的に弄んでいます。

 最終報告の本文冒頭で、失敗学を標榜する畑村洋太郎委員長らしい各種測定機器の動作解析が延々と続きます。推理小説なら伏線部分です。そして、「総括」で「事故当時を振り返ってみても、原子炉水位計の指示値が長時間にわたって変化を示さなくなったことについて、本店及び福島第一原発関係者の中で、原子炉水位が炉側配管入口(有効燃料下端(BAF)の更に下方に位置する。)を下回っている可能性があることを指摘した者はいなかった」「事故当時もその後も、測定結果を用いて、圧力容器や格納容器の健全性を推し測り、プラント状態の正確な把握に努めようとはせず、マニュアル的に炉心損傷割合を算定して保安院に報告するのみであった」と技術屋失格が語られています。

 失敗学的な観点から、専門職掌別の縦割り組織に問題ありともされました。「自分の専門分野に関する知識は豊富であるが、一方、それとは対照的に、それ以外の分野については密接に関連する事項であっても十分な知識を有するとは言い難い。このような人材によって組織が構成されれば、一人一人の視野が狭くなり、平時には問題なく組織が動いているように見えても、今回のような緊急事態時には、そうした組織の持つ弱点が顕在化してしまう。吉田所長が、3月11日の早期から消防車による注水の検討を指示していたが、あらかじめマニュアルに定められたスキームではなかったため、各機能班、グループのいずれもが自らの所掌とは認識せず、その結果、同月12日未明まで、実質的な検討がなされていなかったという事実があるが、これなどは前記の弱点が顕在化した典型的な事例といえよう」

 過酷事故を想定した教育や訓練の不備が致命的でもありました。「東京電力の事故時運転手順書(いわゆる事象ベース及び徴候ベース)のいずれを見ても、複数号機において、スクラム停止後、全交流電源が喪失し、それが何日も続くといった事態は想定されておらず、数時間、1日と経過していけば、交流電源が復旧することを前提とした手順書となっている。しかし、交流電源はどのように復旧していくかのプロセスについては明示されていない。詳細に手順書を書き込んでいるように見えても、どこかに逃げ道が残されており、なぜその逃げ道が残っているのか根拠不明なのである」。この点に関しては国の原子力安全委も同罪でした。

 政府事故調が東電の事故解析はおかしいと指摘したら「解析の不十分さは認めたものの、再度の解析を行おうとはしていない」のですから、やる気の無さは外部から明らかに見て取れます。「原子力規制委に事故検証チーム 細野担当相が意向」(日経新聞)がこう伝えました。「『東京電力による事故原因の解明については必ずしも徹底されてないという指摘もある。そこも含めて厳しく規制機関としてやっていく態勢は不可欠だ』とも述べ、規制委内の新組織には東電側の事故検証も監視させる考えだ」

 【参照】インターネットで読み解く!「過酷事故」関連エントリー


事故調が責任問わぬ始末では信頼回復は難しい

 国会事故調に続いて公表された福島原発事故の政府事故調最終報告を見て、責任の所在が明らかにならない始末の付け方では国民の原子力発電への信頼回復は難しいと感じました。第一に、公的な両事故調の最終報告を契機に為されるべき刑事処分の可能性が消えました。新原子力規制組織を立ち上げて次の段階に進める機運も、白黒をつけないために生まれた「灰色一色」では薄汚れてしまいます。責任者に刑事罰が当然の大事故ながら、せめて責任があった関係者は新体制から確実に外して欲しいと願うのが国民感情でしょう。しかし、両事故調の提言にはそのような配慮もありません。

 先日の特集F1「国会事故調(4)責任追及がし難い日本的ずさん」で「福島事故の責任を問うなら、まず直接の引き金になった事象を確定し、その行為の責任者や回避するための注意義務を負っていた人物を、現場から経営陣、規制官庁まで含めて特定します。その上で連帯すべき責任者を列挙します。焦点は最初に爆発した1号機」と指摘しました。電源喪失後の1号機安全装置「非常用復水器(IC)」について、国会事故調は地震による損傷説に立ちましたが、政府事故調は地震説を否定し知識が足りず運転できなかったとしています。

 中間報告で「福島第一原発で事態の対応に当たっていた関係者の供述によると、訓練、検査も含めてICの作動を長年にわたって経験した者は発電所内にはおらず、わずかにかつて作動したときの経験談が運転員間で口伝されるのみであったという。さらに、ICの機能、運転操作に関する教育訓練も一応は実施されていたとのことであるが、今回の一連の対処を見る限り、これらが効果的であったとは思われない」とされた部分です。

 最終報告では「他方、発電所対策本部及び本店対策本部は、当直からの報告・相談以外にも、ICが機能不全に陥ったことに気付く機会がしばしばあったのに、これに気付かず、ICが正常に作動しているという認識を変えなかった。かかる経緯を見る限り、当直のみならず、発電所対策本部ひいては本店対策本部に至るまで、ICの機能等が十分理解されていたとは思われず、このような現状は、原子力事業者として極めて不適切であった」と上層部まで無能を拡大するだけです。

 IC運転訓練を運転員に課さなかった責任者は誰か、命綱のICが動いていないことに気付くべき注意義務を負った責任者はいないのか、ICが動いていると誤認したとしても8時間で止まるのだから代替注水の準備が遅すぎないか――答えて欲しい疑問はことごとくやり過ごされます。最後の疑問については、マニュアルにない代替注水を担当する部門がなかなか決まらなかったとの情報がある程度で責任者は誰か書かれていません。

 最終報告で明確になった点に、福島第二原発で炉心溶融を免れた聞き取りとの比較があります。例えば3号機では「高圧注水系手動停止の際に代替手段をあらかじめ準備しなかったことにより、6時間以上にわたって原子炉注水が中断した。福島第二原発では、手順の細目について相違があるものの、基本的には、次なる代替手段が実際に機能するか否かを確認の上で、注水手段の切替えを行うという対応がとられていた」と適切な手順を踏めば良かったとしています。2号機についても同様です。同じ東電の福島第二側と比較しても、福島第一原発は「待ち」の態勢で有効な措置を講じておらず、炉心溶融を招いた不作為があまりに多いのです。

 【参照】「国会事故調は主因を津波に限らず、地震で損傷も」
   「原因は語らず懸命努力説明ばかり東電事故報告」
   「福島事故責任は誰にあるか、判明事実から究明」
   「恐ろしいほどのプロ精神欠如:福島原発事故調中間報告」
   「2、3号機救えた:福島原発事故の米報告解読」
   インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


再稼働へ警鐘:Nスペが過酷事故欠陥を実証

 21日放送のNHKスペシャル「メルトダウン 連鎖の真相」は、炉心溶融に至る過酷事故対策が出来ていない問題点を露わにしました。原発再稼働を担保したストレステストは過酷事故を考慮していません。第2段階のストレステストが過酷事故を扱う計画だったのであり、実施見通しは立っていません。番組内容の深刻さを理解すれば、Nスペには再放送がつきものなのに、その日程がない点が象徴的です。大飯再稼働した政府に遠慮でしょう。

 福島原発事故では昨年、既に1号機を扱っているので、今回は続いて炉心溶融した2、3号機が中心です。特に最大量の放射性物質を放出した2号機が、格納容器大崩壊の寸前まで追い込まれ、現地の幹部たちが死を意識した状況にスポットライトが当たっていました。8個もある逃がし安全弁(SR弁)がどれも開かず、原子炉の高圧が続いて外部から注水できぬまま推移し、現在でも確認できない格納容器のどこかの小破壊で終わりました。どうしてSR弁が開かなかったのかの検討で、格納容器の圧力が上がっていれば、原子炉の命綱になっているSR弁は開かない仕組みになっていると結論されました。

 これまでの事故調査報告で初めての指摘です。過酷事故が起きた際に根本的な欠陥があるのなら、再稼働はもちろん「ノー」です。地震対応度が低い周辺装置の地震損傷で、重要機器が働かなかった恐れも出ていました。大飯原発再稼働は第303回「新安全基準は想定外を隠れ蓑にする欠陥品」で喝破した「過酷事故は想定外として棚上げする福島原発事故以前の考え方に先祖帰りしているだけ」で可能になりました。

 この番組の最後は3号機SR弁を開けるためのバッテリー補給問題でした。メルトダウンを防ぐため12ボルト蓄電池10個繋いで120ボルトにしたいのに、2ボルト蓄電池しかなく、12ボルト蓄電池は55キロ離れた備蓄基地には山積みされていました。放射能汚染地域への物資搬入がスムーズにいかなかったとしか伝えられませんでしたが、蓄電池10個はクルマ1台で運べます。全電源喪失が問題になっていた当時に、蓄電池を送る必要を考え出す能力も、犠牲的精神で持っていく胆力も、東電の後方支援組織には無かったという無惨です。

 【参照】インターネットで読み解く!「過酷事故」関連エントリー


原発何でもなし崩しに新潟知事だけが歯止め

 福島原発事故の国会事故調報告がすっきりした事故原因を打ち出せない中、大飯原発再稼働に続いて何でもなし崩しにする雰囲気が広がっていますが、泉田裕彦・新潟県知事だけが「新潟知事 原発事故原因検証を」(NHKニュース)と歯止めを掛ける姿勢を保っています。来週23日には政府事故調の報告も公表されます。ここでも納得がいく解明がされないようなら、事故の始末を付けていく見通しが立たない状況に陥ります。

 泉田知事は東電の新しい会長・社長との会談で「東京電力が原子力損害賠償支援機構と共に策定した総合特別事業計画で、柏崎刈羽原発を来年度から順次、運転再開するとしていることに関連して、『東京電力が原発事故の加害当事者としての意識を持っているのだろうかと疑わざるをえない。原発事故の原因を検証しないうちに運転再開の議論を行うことはありえない』と述べました」。さらに「原発事故の対応は基本的に妥当だったとした東京電力による事故調査報告を見直すことや、事故直後に福島第一原発と東京電力本店などとの間で行われたテレビ会議の映像を全面的に公開することなどを求めました」

 日経新聞「柏崎刈羽原発、再稼働にらみ地ならし」は「知事との会談後、記者団から「来春再稼働」の見直しについて問われた下河辺会長は自ら回答することは避けた。代弁した広瀬社長が『(再稼働の時期は)料金原価の計算などのため仮置きしただけ』と説明するにとどまった。経営再建をにらんだタイムテーブルを撤回したわけではない」と、再稼働に振れたトーンです。

 福島原発事故では、政府と東電ともに事故責任の所在も問わず、何もかも曖昧にすることが暗黙の合意であるかのごとく振る舞ってきました。大手マスメディアまで同調する気配なのには呆れます。しかし、泉田知事のように明確に異議を申し立てる存在がある限り、これだけの事故を起こしておきながら闇から闇に葬ることは出来ません。9月発足で本格的な新安全基準を作る役目を負った原子力規制委員会にとっても、事故の原因解明は前提条件のはずです。

 【参照「原因は語らず懸命努力説明ばかり東電事故報告」
   「福島事故責任は誰にあるか、判明事実から究明」
   「恐ろしいほどのプロ精神欠如:福島原発事故調報告」
   「2、3号機救えた:福島原発事故の米報告解読」
   インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


国会事故調(4)責任追及がし難い日本的ずさん

 発足時から福島原発事故の責任追及はしないと明言した政府事故調に失望していた国民は、国政調査権を後ろ盾にした国会事故調への期待大でした。ところが、公表された報告書には誰の責任でチェルノブイリに迫る規模の大惨事が引き起こされたのか、明らかにされていません。東電と規制官庁の倒錯・複合した無責任構図が描かれているだけです。既成マスメディアに問題意識は希薄でも、国内のソーシャルメディアで不満が渦巻いていますし、海外メディアから《「国民性が事故拡大」 英各紙、国会事故調報告に苦言》(sankei.jp.msn.com)でタイムズ紙のコメントとして「過ちは日本が国全体で起こしたものではなく、個人が責任を負い、彼らの不作為が罰せられるべきものだ。集団で責任を負う文化では問題を乗り越えることはできない」が伝えられました。

 107人が亡くなったJR西日本福知山線脱線事故では強制起訴とはいえ、歴代の3社長が法廷で責任を問われました。福島原発事故の場合、これから出される政府事故調報告が責任所在を打ち出す可能性は乏しいから、検察が動こうとしても「個人責任」に到達するのは無理と考えるでしょう。

 海外が長かった黒川委員長は英語版ダイジェストの冒頭で「What must be admitted ? very painfully ? is that this was a disaster “Made in Japan.” Its fundamental causes are to be found in the ingrained conventions of Japanese culture: our reflexive obedience; our reluctance to question authority; our devotion to ‘sticking with the program’; our groupism; and our insularity. 」と、日本語版に無い表現で率直に語っています。「とても苦痛ながら、これはメイドインジャパン災禍です。従順で権威に逆らわず、前例踏襲、集団主義、島国根性といった日本文化が根源にあります」

 しかし、敏腕内科医の黒川委員長を絶望的にしている過失や不作為のオンパレードを日本文化と呼ぶのは間違っています。こんな体たらくでは普通の民間企業は生きていけません。地域独占の電力業界でも、1984年にデミング賞を受賞したころの関電を取材した経験では、役員から運転員の訓練センターまで品質管理の意識が共有されていました。導入された初期加圧水型炉は不完全との認識も共有されました。

 政府の規制など、癒着しているから小手先でかわせると高をくくった「東電特有の文化」と看るべきです。報告書535ページ「長年放置された配管計装線図の不備」を読んで福島第一原発では複雑な配管の最新経路図が存在しなかったと知り、現場のエンジニア精神の腐敗、技術経営の無責任に呆れました。これまでに調べられた7割の配管で15000カ所の図面修正が必要と認識されたのに、作業はまだ終わっていませんでした。有名になった「ベント作業」がなかなか進まなかったのも、配管図に不備があったため放出経路を考え出すのに時間を要したのです。

 福島事故の責任を問うなら、まず直接の引き金になった事象を確定し、その行為の責任者や回避するための注意義務を負っていた人物を、現場から経営陣、規制官庁まで含めて特定します。その上で連帯すべき責任者を列挙します。焦点は最初に爆発した1号機で、国会事故調は地震動による小規模の冷却材喪失(LOCA)を推定し、政府事故調中間報告は最後の安全装置「非常用復水器」が運転員未熟で使えなかった点を問題視しているように見えます。実際には相当の専門家とお金を投入し、事故再現作業をしてみないと決められません。「日本的杜撰(ずさん)」は日本文化に求められるべきではなく、最初から責任特定を期さない両事故調の枠組みにあります。

 【参照】「原因は語らず懸命努力説明ばかり東電事故報告」
   「福島事故責任は誰にあるか、判明事実から究明」
   「恐ろしいほどのプロ精神欠如:福島原発事故調報告」
   「2、3号機救えた:福島原発事故の米報告解読」
   インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


国会事故調(3)官邸介入酷いが現場に肩入れ過ぎ

 国会事故調の報告書は福島原発事故発生当時の菅政権に厳しい半面、現場で悪戦苦闘した運転員らにはシンパシーを持つトーンが貫かれています。特に後者については東電の経営陣と分離して「悪条件下でよくやった」とまで言いたい様子です。この点が報告書の大きな欠陥になっていると思えます。炉心溶融まで引き起こしてしまえば取り返しがつかない傷跡を国土に残してしまう立場のプロに対し、自覚が問えない論理構成です。少なくとも私なら過酷事故に当たる「最後のブレーキの踏み方」を教えて貰わないで自動車を運転する気はありません。

 一部のマスメディアは、東電が「福島原発から全面撤退する」と言い出して菅首相がそれを止めた判断が正当かをまだ問題にしています。国会事故調の報告は字面だけなら「全面撤退の意向」は否定していますが、吉田原発所長の発言として「最後の最後は、昔から知っている10人くらいは一緒に死んでくれるかな、ということは考えた」を収録しています。炉心溶融を起こした3基の原発を10人で面倒を見きれるはずもなく、800人いた関係者を退避させる状況を世間一般の常識は全面撤退と呼ぶでしょう。この議論は無意味です。

 報告書はかなり多彩な場面で、福島原発現地と官邸・東電本店側とのやり取りを記録しています。読み進んでいる内に可笑しくて吹き出したのが次の場面です(P269)。3月14日午前11時に3号機が爆発しますから、切迫したその未明のことです。

 午前3時22分に東電本店・高橋フェローが「官邸が用意した4台の消防車を運んだはずなんだけれど、それが使えない。駄目な理由を教えていただけませんか?官邸に答えないといけないんです」と問います。2台は来ているとの原発側返事に「本当につまらない話をして申し訳ないんだけれど、官邸対応の話だけれど、早くその(オフサイトセンターの)2台現場に持って行って何か使って欲しいんだけれどさあ」と畳みかけます。吉田所長は「基本的に人がいないんですよ。物だけもらっても人がいないんですよ」と答えます。

 間違えれば言い訳が出来ない災禍をもたらす原発の運転スタッフとして、一生に一度も炉心溶融を見たくないでしょう。それが既に次々に起き、付随する水素爆発の危機に頭を抱えている現場に、指揮系統で一段上にある東電本店が投げる注文でしょうか。絶対的な危機にあっても官邸の顔色ばかり気にする東電本店にはおそれいります。このような愚かしい現場状況が隠蔽されたままで、政府による無内容な記者会見が延々とテレビで流れていたと、今になって知ります。

 運転員の教育問題では次の説明にショックを受けました(P191)。「(株)BWR運転訓練センターにおける過酷事故の教育・訓練は、直流電源が確保され中央制御室が使えるという条件であり、本事故のように直流電源まで喪失し、中央制御室の制御盤が使えない条件での過酷事故は対象にしていなかった。かつ、そこでの教育・訓練は、『過酷事故対応』の内容を『説明できる』ことが目標の机上訓練にとどまっており、実技訓練はなかった」。そうなった理由は実技には制御室外の人員との連携が必要だからであり「原子力発電事業者からのニーズがなかったことだという」

 このようなお粗末で「悲惨」な訓練しか受けていない運転員が、杜撰(ずさん)極まりない過酷事故マニュアルであの大惨事に立ち向かったのです。同情は出来ますが、開発元の米国側から伝えられる情報では米国の運転員には実技訓練があります。下請けだらけで運営されている原発ですが、唯一、中央制御室の運転チームだけは電力会社の社員で構成されます。まさに頭を持った精鋭チームなのです。何も知らなかったでは通らない、自己研鑽が課せられていると、過去に原発取材が長かった私は考えます。その前提でなければ危険な原発の運転など、国民として任せられません。

 【参照】「原因は語らず懸命努力説明ばかり東電事故報告」
   「福島事故責任は誰にあるか、判明事実から究明」
   「恐ろしいほどのプロ精神欠如:福島原発事故調報告」
   「2、3号機救えた:福島原発事故の米報告解読」
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国会事故調(2)本格解明に事故の再現作業必要

 国会事故調が打ち出した「主因を津波に限らず、地震で損傷も」には、《東電「厳しい内容」=事故調報告に対応検討》(時事通信)で東電が「福島第1原発に津波が到来する前に安全上重要な機器が地震で損傷した可能性については、社内事故調の報告書に基づき否定」と反論しています。半年間の聞き取り調査だけで原発内部の複雑な動作を追い込むのは難しく、専門家を動員した事故経過の再現作業が必要でした。調査で先行し間もなく報告をまとめる政府事故調が、その作業をしてこなかった点がそもそも異様です。

 国会事故調の報告を読む限りでは、津波襲来と電源停止時のずれなど色々な状況証拠は集められています。次のデータも有力証拠でしょう。「6)1 号機の逃がし安全弁(SR弁)に関しては、事故時、必要なときにそれが実際に作動したことを裏づける弁開閉記録が存在しない(2、3号機には存在する)。さらに、2号機の場合は、中央制御室や現場でSR弁の作動音が頻繁に聞こえたが、1号機の運転員の中に1号機のSR弁の作動音を耳にした者は一人もいないことも分かった。以上から、実は1号機のSR弁は作動しなかったのではないかという疑いが生まれる。もしそうであれば、1号機では地震動による小規模の冷却材喪失(LOCA)が起きていた可能性がある」

 1号機で最後の安全装置「非常用復水器」についてもこうしたデータの積み上げで、3月11日午後6時過ぎには水素ガスが入り込んで機能不全を起こしていたと推定します。しかし、小規模LOCAでの水素ガス発生で説明するなら、時系列をもっと詰める必要がありそうです。「未解明な部分が残っており、これについて引き続き第三者による検証が行われることを期待する」と国会事故調も求めています。

 問題の現場機器多くは高レベルの放射線下にあり、当分は現地を調べられません。国会事故調は敢えて被曝しても調べたいと申し出たようですが、東電は従業員の被曝増加を理由に断っています。公的な事故調査報告を単なる指摘に留めないためにも、政府は早急に再現作業を立ち上げるべきです。旧原研系のスタッフなど、その能力は持っているはずです。今、何をしなければならないのか、政府司令塔の判断力欠如は事故当初から依然として続いているようです。


国会事故調は主因を津波に限らず、地震で損傷も

 福島原発事故に対し国会が作った事故調査委員会(国会事故調)は5日、報告書を公表、東電が主張している津波主因説を覆し、最初に爆発した1号機では地震による機器損傷で小規模の冷却材喪失が起きて大きな役割を演じたと推定しました。機器耐震対策では大きな手抜きを指摘しており、「想定外の大津波で不可抗力」とする東電に厳しい判定になっています。また、事故全体の構図は特定の個人に責任が帰するものではなく「規制される側とする側の『逆転関係』を形成した真因である『組織的、制度的問題』がこのような『人災』を引き起こしたと考える」と、原子力安全委と原子力安全・保安院を含めて断罪しています。

 「事故の直接的原因について、『安全上重要な機器の地震による損傷はないとは確定的には言えない』、特に『1号機においては小規模の冷却材喪失(LOCA)が起きた可能性を否定できない』との結論に達した」としています。1号機にある電源喪失でも働く安全装置「非常用復水器」をめぐり、政府事故調は中間報告で運転チームが全員、作動させた経験が無い点を問題視しました。これについても、LOCAで早期に燃料被覆管が溶け、水素ガスが充満して非常用復水器は機能を失ったとみています。

 機器耐震対策での東電の手抜きと、規制官庁である保安院のずさんさは次のように指摘されています。本来ならば今回の地震の前に済んでいるべき耐震補強が先送りされていました。

 「平成18(2006)年に、耐震基準について安全委員会が旧指針を改訂し、新指針として保安院が、全国の原子力事業者に対して、耐震安全性評価(以下『耐震バックチェック』という)の実施を求めた」「東電は、最終報告の期限を平成21(2009)年6月と届けていたが、耐震バックチェックは進められず、いつしか社内では平成28(2016)年1月へと先送りされた。東電及び保安院は、新指針に適合するためには耐震補強工事が必要であることを認識していたにもかかわらず、1〜3号機については、全く工事を実施していなかった。保安院は、あくまでも事業者の自主的取り組みであるとし、大幅な遅れを黙認していた」

 規制当局が事業者に寄りかかっている例として全電源喪失への備えがあがっています。「安全委員会は、平成5(1993)年に、全電源喪失の発生の確率が低いこと、原子力プラントの全交流電源喪失に対する耐久性は十分であるとし、それ以降の、長時間にわたる全交流電源喪失を考慮する必要はないとの立場を取ってきたが、当委員会の調査の中で、この全交流電源喪失の可能性は考えなくてもよいとの理由を事業者に作文させていたことが判明した」

 「今回の事故は、これまで何回も対策を打つ機会があったにもかかわらず、歴代の規制当局及び東電経営陣が、それぞれ意図的な先送り、不作為、あるいは自己の組織に都合の良い判断を行うことによって、安全対策が取られないまま3.11を迎えたことで発生したものであった」と厳しく弾劾しています。

 【参照】「原因は語らず懸命努力説明ばかり東電事故報告」
   「福島事故責任は誰にあるか、判明事実から究明」
   「恐ろしいほどのプロ精神欠如:福島原発事故調報告」
   「2、3号機救えた:福島原発事故の米報告解読」
   インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


大飯原発再稼働と反原発の先人たち雑感

 大飯3号機の再稼働、制御棒引き抜きが始まってしまいました。東京の官邸デモに参加された方、福井の現地に行かれた方には残念の思いがあるでしょうが、脱原発を実現するにはおそらく長い時間が要ります。6月27日に京大原子炉(熊取)の原子力安全ゼミに出て、これまで高齢化していたメンバーが若返ったことに驚きました。チェルノブイリから四半世紀お付き合いしてきて、最近はある意味でろうそくの火が消えかかる状態に近く、憂慮されていたのです。

 脱原発を志されている皆さんは、これから全てが始まると思ってください。新しい安全文化と行動様式を作りながら、粘り強く原発を止めていくしかありません。新たにネット上の情報精度の問題も問われます。

 福井で孤軍奮闘、長く運動を引っ張ってこられた原発反対福井県民会議の小木曽美和子さんが、6月24日に亡くなられたニュースを象徴的に聞きました。何度もお会いした方で、若い世代に後を託すと思われたに違いありません。原発を批判しても逆風の今と全く違った時代に、全国各地の運動を叱咤激励して回った、元阪大講師の久米三四郎さんがいらっしゃいました。病気でもう言葉が出せなくなった、亡くなる直前に、見舞いに来た小木曽さんの手をただただ握りしめて後を託したように、久米さん、小木曽さんら先人からのリレーを心で受け止めてくださればと思います。

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原因は語らず懸命努力説明ばかり東電事故報告

 福島原発事故で東電は20日、「福島原子力事故調査報告書」を公表しました。膨大すぎて読み切れませんが、3基の原子炉が炉心溶融を起こすに至ったポイントに絞れば、襲ってくる難事態に東電側は懸命に努力した、とひたすら説明するものの、事故調査報告で必須である「そうなった原因は何か」に全く答えていません。

 最初に爆発した1号機について3月に書いた第300回「福島事故責任は誰にあるか、判明事実から究明」に、政府事故調の指摘を入れました。全電源喪失後に残る最後の非常冷却装置「非常用復水器」について「1号機の全運転員は非常用復水器作動の経験がなかった」です。このために非常用復水器が津波襲来後に動作していないことに遅くまで気付かず、最終的に冷却容量のごく一部しか使われなかったので炉心溶融を起こしました。

 東電報告書は「非常用復水器に関する教育については、日々の現場巡視や定例試験、OJTなどの中で行われており、その中で、その系統・機能やインターロックを把握している。また、津波襲来までは非常用復水器を用いて原子炉圧力制御を行っており、運転員は運転操作に必要な知識は有していた」と強弁します。動作が停止したのは電源喪失で自動的に弁が閉じる仕組みになっていたからであり、電源喪失下では中央制御室から弁閉鎖を発見するのは困難とします。

 1号機と同型の原子炉を運転する米国では、電源喪失時に弁閉鎖となるから運転員は手動で弁を開けに行く訓練をすることになっています。政府事故調の指摘も「電源喪失時に使ったことがあるのか」を問うているものであり、東電の「津波襲来前には使えていた」はピントはずれもいいところです。原子炉を開発した米国側が緊急時に必要としている運転員訓練を日本側に伝えないはずがなく、誰かが握りつぶしたとしか考えられません。

 誰が、どうして、そのような愚かな行為をしたのかを解明するのが東電の社内報告のはず。「交流電源、直流電源が喪失した場合の機器・系統の動きについて、非常用設備を中心に検討分析し、必要に応じて手順書や教育・訓練へ反映をすることが必要であると考えられる」という当事者意識が無い結論は噴飯ものです。原因を究明すれば責任を取らねばならない人物が出ます。それをひたすら避けているのが、福島事故全体の構図です。

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形式論理ばかりの国会事故調に解明期待は愚か

 最初から福島原発事故の責任追及をしないと公言して独自の戦いをしている政府事故調に比べて、事故真相解明の期待が持てる感じがしていた国会事故調にも暗雲が掛かってきました。最終報告一歩手前、6月9日の「現時点での論点整理」に見られるのは、石頭の形式論理ばかり。与えられた諸条件を固定的に見て、そもそも前提が間違っている可能性を考えないようですから卓見が出てくる可能性は極めて薄いでしょう。

 「論点1:今回の事故の対応においては、官邸が、オンサイト(発電所内)の事故対応に過剰な介入をしたのではないか」はメディア報道で話題です。いわゆる「東電の全面撤退」を菅首相が阻止したかどうか、の議論です。吉田所長が全電源喪失下で6基も炉がある原発を10人を残して守ると考えたのは「東京電力が残留する人数として検討・決定したものではない。したがって、今回の事故処理にあたって、菅総理が東京電力の全員撤退を阻止したと理解することはできない」と決めつけています。撤退の社長決裁文書でも残っていないと認定できない姿勢です。

 また、「原子炉が厳しい状況に陥った後も、事故対応できたのは、炉の状況を最もよく把握していた現場であった。また、最後まで持ち場を離れない、現場職員・協力会社の使命感が、今回の事故対応の重要なポイントであった」と、ほとんど現場絶賛の雰囲気です。

 事故の始まりで決定的な役割だった、電源喪失時でも動く非常用冷却装置の運用失敗について重くは考えていないようです。最初に爆発した1号機の運転チームは全員がこの装置の運転経験が無く、起動に必要な弁を開く実地訓練も受けていなかったのです。

 運転の問題について「今後考えておくべきことは、更に厳しいシビアアクシデントが起きた場合に第一義的責任を負う事業者はどのように対処するのか」との視点しかありません。今回の事故では発電所の運転スタッフの力量が明らかに不足していました。第288回「2、3号機救えた:福島原発事故の米報告解読」で整理した事故経緯からも、技術に通じた強力な司令塔を置いて現場を指揮させ、段取り良く進めれば少なくとも大幅な事故規模縮小になったはずです。

 「論点5:原子力災害における各事象が急速に進展する場合、初動の避難指示にあたっては緊急時迅速放射能環境予測ネットワークシステム(SPEEDI)の活用は困難ではないか」もいただけません。「SPEEDIは、確度の高い放出源情報と気象予測情報が得られることを前提とするシステムであり、これらの情報が得られない場合には、SPPEDIを効果的に活用することは困難である」との指摘は既に議論済みの錯誤です。放出放射能量は確かに不確かでも、風向きによってどこに流れるのかの推定は有効でした。

 11日のNHKニュース「SPEEDIで実測も非公表」は「文部科学省が福島第一原子力発電所の事故対応を検証した報告書をまとめ、事故の直後に原発の北西部に職員を派遣し、高い放射線量を測定したのは、SPEEDIという放射性物質の拡散予測を基に調査地点を選んだ結果だったことが分かりました」「原発から最も多くの放射性物質が放出された去年3月15日の対応について、文部科学省は原発から北西およそ20キロの福島県浪江町に職員を派遣し、午後9時前に最大で1時間当たり330マイクロシーベルトの高い放射線量を測定したとしています」と報じました。

 この浪江町周辺から、さらに北西の飯舘村にかけての道を多くの避難民が避難ルートに使い、あるいは途中で腰を落ち着けてしまいました。ここを避けるのには、SPEEDIが十分な情報でなくとも生かしうるケースでした。問題なのは政府側に手持ちの情報を総動員して住民を守る気持ちが、ほとんど無かった点でしょう。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


必死の養殖増産で人口増を賄う水産資源は限界

 世界や日本の漁業の行く末を心配する声を最近また聞き、昨年11月に公表された国連食糧農業機関(FAO)の「世界漁業・養殖業白書2010年」を見直してみました。世界人口が増え漁獲量が頭打ちする中、必死の養殖増産で1人当たりの年間食用魚介類供給量を維持しています。特に中国の内水面養殖は1980年代から凄まじい勢いで増加、海面養殖と合わせて2009年に3410万トンと世界養殖生産量の62%を占めました。ただし、世界の養殖は今後10年は増えるとしても伸び率は鈍化するばかりで、水産資源が人口増と購買力増加に対応しきれるか疑問です。

 中国は養殖生産量のほか漁獲量でも1490万トンと世界一です。人口の増加ペースが速く、世界と分けて見る方が実態を掴みやすいので、世界全体から「中国を除く世界」の統計を引き算して、中国分だけを出しました。2004年から2009年の養殖生産量と漁獲量の推移をグラフにしました。


 年率がかつての2桁伸びから5%台に鈍化しても、中国養殖生産は5年間で750万トンも増加し3410万トンです。中国を除く世界も570万トン増えて2100万トンになっているのですが、中国養殖の存在感、ボリューム感がグラフにある通り圧倒的です。中国養殖は内水面の割合が65%で、その他の世界の61%より多いのが特徴です。一方、漁獲量は中国が5年間で40万トンの微増だったのに、その他の世界は280万トン減の7510万トンでした。最近の中韓の漁業紛争激化に見られるように中国近海でもますます魚は獲れなくなっています。

 こんなに増産していても人口増加ぶりが半端ではないので、中国の1人当たり食用魚介類供給量は30キロ前後で横這いです。中国を除く世界も13.7キロほどで変わっていません。両者を合計してしまうと、中国人口増加の大きさに引きずられて世界規模で1人当たり量が増えて見えます。世界統計の見え方として要注意です。

 この中国や世界中から輸入して、日本の1人当たり食用魚介類消費量は世界最高の60キロ近くにもなります。《「獲れない、売れない、安い」 深刻な事態に直面する日本の漁業》はこれだけの消費を賄う上で、既に起きている水産物「買負け」現象よりさらに深刻な「買えない」事態を案じます。「日本以外の国々の購買力が高まり、日本向けの販売価格と変わらなくなってきたのです」「日本側にはすっかり主導権がなくなってきています。他国の輸入は毎年伸びていますので、ほとんどの主要水産物において、日本向けの比率は毎年減少しているのです」

 FAOの「世界の農林水産」2012年春号に所収の「漁業・養殖業の展望と水産養殖局の役割」は「2000年から2008年の間に養殖生産量は3,240万トンから5,250万トンと、その伸びは60%以上に達し、2012年には食用として消費される魚介類の50%以上が養殖生産によると予測されています」「養殖をめぐる課題も山積しており、養殖業がこれまでのような高い伸びを今後とも持続していけるとは限りません」と伝えています。

 「FAOが把握している漁業資源のうち半分はすでに十分に利用されており、これ以上の漁獲量の増加は望めません。まだ開発の余地がある資源が15%あるものの、過剰開発・枯渇あるいは枯渇からの回復状態にある資源は30%を越えています」。これが世界水産資源の現状です。

 CNNが「英皇太子がフィッシュ&チップスの未来を憂慮、持続可能な漁業訴え」で「スコットランドで開かれた世界水産学会議で講演し、英国民が愛する伝統食のフィッシュ・アンド・チップスを今後も食べ続けられるよう、持続可能な漁業の重要性を訴えた」と報じています。「北海のタラの資源が10年前の枯渇寸前の状態から回復の兆しを見せていることは特に喜ばしい」と言わねばならい、お寒い背景だからです。

 国内はもちろん水産白書に描かれているはずですが、平成22年度第1部第1章「私たちの水産資源 〜持続的な漁業・食料供給を考える〜」あたりを読むとあまり切迫感がありません。2006年の研究者による警告「スシ、刺し身が消える……」「世界規模での漁業崩壊が見えてきた」の衝撃が、養殖漁業の頑張りで薄らいだとしたら残念です。楽観的になれるほど事態は好転していません。特に周辺の好漁場を乱獲で荒らして輸入に頼る日本は、自国周辺での漁業持続性を確保しないと早い時期に干上がってしまう恐れすらあります。


福島のメディア各社は汚染隠しに手を貸すのか

 在京マスメディアの「大本営発表報道」と並んで、在福島のメディア各社には自治体と結託した放射能汚染隠しが疑われてきました。「2012年5月8日火曜日【速報】1年1ヶ月後に初めて明るみにされた郡山市内小学校のホットスポットの一端」(ふくしま集団疎開裁判)を見て、これが全国ニュースとしてきちんと伝えられなかった点だけでも、メディアの役割放棄と恣意性は十分に証明されたと言えます。

 《福島県内の小中学校など教育施設でのホットスポットの測定は3.11以来の緊急の課題であり、「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」などは昨年6月以来その実施を要求してきましたが、ずっと無視されてきました。福島県内の市町村で小中学校等のホットスポットの測定結果が公開された話はまだ聞いたことがありません。しかし、郡山市では教育委員会が、本年1月23日より、ひそかに市内の小中学校でホットスポットの測定を週1回のペースで実施していました。今回、一市民が情報開示手続によって、この事実を突き止めました》

 測定器のスケールが振り切れてしまう10マイクロシーベルト毎時以上の小学校が5校、排水溝や体躯館の裏側などで3マイクロシーベルト毎時以上の学校が多数あります。年間なら20mSvを軽く超えます。この実態が保護者に知らされず、問題視されないのは異常です。測定場所がきちんと検討して選ばれていない点もさらに大きな問題です。本来、子どもたちが長時間にわたって滞在する学校なのですから、しらみつぶしに校内汚染マップを作成すべきなのに、汚染が高そうな場所を勝手に選んでいるだけです。お話になりません。

 在福島のメディア各社はこの1年間、何をしてきたのですか。福島原発事故の地元だから汚染が酷いのは当たり前なのですか。極力、住民に県外避難をさせまいとする自治体への批判が出来ない体質は聞こえていましたが、市民が開示させた数字まで見ない振りが出来る体質は、もはやジャーナリズムではありません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


20mSvで居住可の無茶を何年も続けて良いのか

 政府は22日の「双葉地方町村と国との意見交換会」で福島原発事故での汚染状況を、20年後までの年間空間線量率予測図として公表しました。メディアは20年後も高汚染地域が残る点を主に報道しましたが、現行法の放射線管理区域に比べ4倍も高い20ミリシーベルトを居住可能としている無茶を、5年、10年と続けて良いのか、大いに疑問です。当座の緊急避難措置が終わったら、厳格に管理されている放射線管理区域(3カ月で1.3ミリシーベルト)以下の地域を居住推奨とすべきでしょう。

 毎日新聞の「放射性物質:高線量域20年後も 政府、初の予測地図公表」は「原発が立地する大熊町と双葉町の境界付近では20年後でも居住が原則制限される帰還困難区域(年間被ばく線量50ミリシーベルト超)が、両町に加えて浪江町、葛尾村では居住制限区域(同50ミリシーベルト以下20ミリシーベルト超)が残る」と伝えています。

 「資料3 空間線量率の予測」から現状と5年後の予測地図を引用します。



 政府が年間20ミリシーベルトまで居住可能としているのは、ICRP(国際放射線防護委員会)が示した範囲「事故からの復旧時は1〜20ミリシーベルト」の上限を選んでいるためです。しかし、20ミリシーベルトに5年住み続ければ100ミリシーベルトに達し、生涯の被曝はここまでに抑えたい限度になってしまいます。また、放射線管理区域との矛盾も無視できません。上の地図で水色以上の地域は、本来は放射線管理区域として扱わねばならない汚染度なのです。放射線管理区域では飲食は禁止ですし、業務が済めば速やかに退出しなければなりません。そこに住んで食事をし寝ているというのは、現行法の精神からとんでもなく逸脱しています。

 例えば地図中央上部の飯舘村は5年後には20ミリシーベルト以上の黄色地域が大幅に減りますが、村全体が依然として放射線管理区域に指定されるレベルです。どうしても元の場所に住みたいと希望する人はともかく、一般の方に「お帰りください」と勧めることは法治国家として出来ないはずです。

 福島原発事故の発生以来、場当たりの緊急避難ばかり繰り返してきた政府も1年が経過したのですから、現行法と整合するようにソフトランディングを図るべきです。放射線管理区域レベル以下を居住推奨と定義し直せば、住むことが勧められない地域は広く、避難した住民に提供する将来の選択肢を拡充して、見切って新天地を目指す人を支援しなければなりません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


愚かな核燃コスト比較:再処理試運転を止めよ

 核燃料サイクルの近未来コスト比較についての報道はあまりにお愚かです。原子力委員会の事務方が核燃料再処理路線の維持を意図して、不自然で不思議な条件設定をして試算したものだから本質が見えなくなっています。読売新聞の「核燃料の直接処分、再処理より2兆円割高」と毎日新聞の「使用済み核燃料:全量再処理は高コスト」が、同じ発表資料から書かれたとは思えないでしょう。

 東京新聞の「原発ゼロが最安7.1兆円 使用済み核燃料処理費用」にあるように、脱原発ケースのコスト計算が初めてされた点に意味があるくらいなものです。直接処分が最も安いのは世界の常識です。

 「直接処分の場合、再処理施設の廃止費用約五兆円が上乗せされているため割高感はあるが、それでも原発ゼロとすれば、処分する使用済み核燃料も少ないため、安く済むとの結果だった。逆に、原発への依存度を高めるほど費用もかさみ、直接処分と組み合わせると最も高コストとなった」

 再処理工場の建設費が2兆円あまりなのに廃止費用に5兆円も掛かる理由は、高レベル放射能で汚染された「死の空間」が出来ているからです。全て再処理するケースが比較的低いコストに抑えられている理由は、再処理工場廃止を遠い将来に先送りして廃止費用を計上しない「手品」を使っているからにすぎません。実際は再処理工場をフル稼働していけば汚染はどんどん酷くなります。

 核燃料サイクル見直しを前提にこのようなコスト論議をするなら、真っ先にするべきは青森・六ケ所核燃料再処理工場で再開された試運転を直ちに中止する措置です。残念なことに、試運転で高レベル汚染された場所が増えてきましたが、それでも現状で凍結すれば5兆円よりずっと安く済むはずです。既定路線を守る、即ち既得利権を守るために、将来、税金か電気料金で賄わねばならない廃止費用を、むざむざ膨らませている現状は犯罪的です。

 【参照】インターネットで読み解く!「核燃料再処理」関連エントリー


新安全基準は想定外を隠れ蓑にする欠陥品

 ストレステスト(1次評価)では炉心溶融のような過酷事故は考えなかったのに、にわかに出来た原発再稼働の新安全基準ではそこまで評価してあると野田政権は言っています。マスメディア報道では判りにくかった点が、発表資料原文を読んで判然としました。過酷事故は想定外として棚上げする福島原発事故以前の考え方に先祖帰りしているだけなのです。こんな欠陥品で、炉心溶融と水素ガス爆発を実際に見てしまった国民を欺いては困ります。

 3つある判断基準で騙しのポイントは「基準2」にあります。「今回の事故並みに、想定値を超えた地震・津波に襲われても、燃料損傷に至らないことの確認」が出来ることになっているから、過酷事故対策は先送りして事業者任せで良い――と能天気に構えられるのです。

 福島事故が明らかにした事故進展のポイントは、これまでは手を尽くしてある建前だったのに人間のミスや錯誤が簡単に防御の壁を乗り越えてしまう恐ろしさでした。1号機の最後の安全装置は運転員の誰も使用経験がなかったお粗末な笑い話ですが、3号機の場合は安全装置を運転員が誤って止めてしまい、2度と起動せずにメルトダウンに進みました。

 「判断基準に対する大飯発電所3、4号機の対応状況」で「基準2」部分を見ると、高台に設置した空冷式非常用発電装置からの電源供給など「これらの対策が、設計上の想定を超える地震や津波が重畳するような厳しい環境の下においても実施が可能であることを、以下のとおり現地調査を含めて確認した」と主張して、人間の錯誤などに突っ込むことなくお終いです。

 事故時対応手順書をどのように準備しようが、人間が易々とぶち壊しにしてくれた福島の教訓を、経済産業省原子力安全・保安院は学んでいません。事故以前の古い考え方に戻り、過酷事故に進む事象の経路はまず無いから「想定外」に祭りあげて構わないと見くびっています。関電も同じ構えで、ベントのフィルターや水素ガスの建屋からの排出装置設置など先のこととしています。事故や災害では想定しなかった惨事が起きることを忘れてはなりません。

 原発再稼働の新安全基準は、本来なら安全の総元締めである原子力安全委がお墨付きを与えるべきなのに、今は蚊帳の外です。しかし、安全委は昨年夏から過酷事故を扱うストレステスト2次評価が再稼働には不可欠との立場を変えていません。起きてしまった現実を見る目は保安院よりも確かなようです。「無謀・大飯原発再稼働へ4つの駄目」で指摘しているように、付け焼き刃の新基準で誤魔化せる問題ではないのです。

 【参照】インターネットで読み解く!「原発再稼働」関連エントリー


安全委を外して原発の新安全基準了承は論外

 大飯原発の再稼働をめぐり5日夜の閣僚会議で「原発の新安全基準 おおむね了承」(NHK)と伝えられています。経済産業省の原子力安全・保安院が用意した案を了承、文言は詰めるというもので、現行法で原子力安全の総元締めになっている原子力安全委が全く外されています。大事故を防げなかった保安院お手盛りの基準に説得力はありません。安全委の目さえ通っていないとは、論外です。

 《案では、▽福島第一原発を襲ったような地震や津波が来ても、全電源喪失という事態の進展を防ぐ対策が取られていること、▽ストレステストの一次評価を終えていること、さらに▽ストレステストで一層の取り組みを求められたことなどについて、電力会社が実施計画を示していること、の3つの基準を示しました。これについて、野田総理大臣と関係閣僚が協議した結果、新たな安全基準は、おおむね了承されました》

 後は国民に理解しやすい文章にするのが問題で、6日に改めて安全基準を確認するといいます。そんな表現上の問題などどうでもよいことです。原子力安全委はどこに消えてしまったのですか。

 「原子力の安全確保と原子力安全委員会の役割」はこう述べています。「原子力安全委員会の最大の責務は原子力安全確保の基本的考え方を示すことです。このため、安全審査にあたっての安全性判断の基礎として、多くの安全審査指針等を策定してきています」「原子力安全委員会は、行政庁による安全規制が原子力安全委員会の示した基本的な考え方を踏まえて適切に行われていることを確認し、さらに安全規制や事業者自身による安全確保における新たな課題に適確に対応するための調査審議を行っています」

 問題は2点あって、〆2鵑諒‥膰業事故を踏まえた「基本的考え方」を安全委が整理できていない安全委が行政庁側が適切な対応をしているか確認していない――です。,遼楹憤汰幹霆爐難しいなら暫定基準を考えるしかありません。しかし、暫定基準の作成から安全委が外され、行政庁の対応をチェックすることすらしないとは、現行法の枠組みを完全にないがしろにするものです。マスメディアは「大本営発表」のごとく平然と伝えて済ませるのですか。

 【参照】「無謀・大飯原発再稼働へ4つの駄目」


無謀・大飯原発再稼働へ4つの駄目

 大飯原発再稼働について2日の参院予算委での審議で、政府は京都・滋賀まで含めた地元意見重視を表明し慎重姿勢も見せつつありますが、無謀な決断に踏み切らないよう4つの端的に駄目な点を示しておきます。

 そもそも論としてまず問われるべきは、「安全」の総元締め原子力安全委が不十分と言っているストレステスト1次評価だけで、なぜ再稼働の根拠に出来るのか、です。「原発再稼働ストレステスト、安全委は保安院に同調せず」でこう指摘しました。《安全評価(ストレステスト)の1次評価について班目委員長の見解は「再稼働とは関係ない。2次評価まで終わらなければ、安全性の判断はできない。1次評価は安全委が要求している(安全性の)レベルに達していない」というものです》。過酷事故を扱う2次評価が必須の立場です。

 2番目は「ストレステストを自ら否定:保安院の技術知見」で電源問題を具体例に上げた通り、1次評価そのものが保安院自ら言っていることと違っています。大飯原発では《保安院の福島事故を踏まえた「技術的知見」が事故の状況を把握するまで最低「8時間」見込んでいる余裕よりも、ずっと短い5時間で外部から応援が来て必要な電源を補充してくれるとの超楽観的な想定しか、鳴り物入りのストレステストは課していないのです。当然ながら外部救援を想定する24時間まで待てる余裕などありません》

 3番目は再稼働して、もし重大事故が起きたら水素爆発対策はどうするのかです。「水素爆発には建屋にドリルで穴:保安院過酷事故対策」で伝えた通り、保安院は「福島原発事故で苦渋をなめた水素爆発には、当面は電気ドリルで穴開けに行くしかないとしています」。電気ドリル特攻隊の愚かしさには失笑を禁じ得ません。「全電源喪失で過酷重大事故が進行している混乱の最中に、誰が適切なタイミングで指示を出せるのでしょうか。行かせるタイミングを誤れば爆発させに行くことになるのです」

 最後に確認して置かねばならない点は「原発再稼働は法に基づく安全確認しかあり得ない」です。現在の法律では原発の安全は国による安全審査で担保されています。現行法に何の根拠も持たないストレステストの結果だけ示して、原発立地自治体が住民に安全と言えるはずがありません。福井県が再三求めている「暫定的な数値基準」の意味は、数字さえあればよいのではなく、何らかの法的な裏付けを設けてくれと解すべきなのです。

 【参照】インターネットで読み解く!「原発再稼働」関連エントリー


廃炉撤去は不可能、永遠のお荷物に:福島原発2号機

 東電福島第一原発2号機の内部状態がようやく実測され、8分も中にいれば死ぬ猛烈な線量と、放射線から人間を守るための水が張れない事実から2号機の廃炉作業は実施不能と判明しました。水を張るために格納容器の水漏れ場所を塞ぐ道が模索されるのでしょうが、建屋地下に漏れだしている汚染水の放射能レベルは、そこで人間が作業可能なレベルではありません。廃炉撤去することは不可能で、永遠のお荷物として付き合わねばならない覚悟をすべきです。

 読売新聞の《2号機格納容器内「被曝すれば8分で死に至る」》は「調査は26日に内視鏡を挿入した配管に、線量計を入れて測定した。壁面から50〜100センチの場所で計8か所測り、線量は毎時31〜73シーベルトだった。定期検査中の格納容器内の線量に比べ、10万倍以上高い」と報じました。致死線量10シーベルトを瞬く間に浴びてしまう死の空間でした。

 朝日新聞の《格納容器内の水位、わずか60センチ 福島第一2号機》はこう伝えました。「工業用内視鏡で調査し、水位を確認したと発表した。水位は格納容器の底から60センチの高さで推定より大幅に低かった。水温は48.5〜50度で、推定でしかなかった格納容器内の水の状態が初めて確かめられた」「東電は水位を格納容器の底から3.5〜4メートルにあると推定していた」

 廃炉は高さ30メートル以上ある格納容器を水で満たし、底が抜けている圧力容器、溶け落ちた核燃料へと順番に撤去していく作業手順です。水が張れることが決定的な重要条件です。現状で水が底部のどこから漏れだしているのか全く分かりませんし、炉心溶融で高温高圧を受けた格納容器上部の損傷ぶりも大きいと考えざるを得ません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


原発再稼働は事実上無理、夏ピーク対策に舵を

 原発再稼働に向けて政府が推進してきたストレステスト1次評価が関西電力大飯原発3、4号機について原子力安全委が了承して終わりましたが、地元からの反応、メディアの論調に厳しいものが多数あります。与党民主党の原発プロジェクトチームですら「時期尚早」とする提言を出している現状では、夏場の再稼働は事実上無理になったと考えるべきです。既に3月末になり、夏場のピーク需要対策に舵を切らないと物理的に準備が間に合わないと認識すべきです。

 毎日新聞の《大飯原発:安全評価 県や立地自治体など、国の動向注視 「問題ない」確認に /福井》が伝える地元福井はこうです。《満田誉副知事は再稼働について「福島の事故の知見を生かした安全基準など、県が国にお願いしている内容にどのような判断がされるかにかかっている」と述べた。おおい町の時岡忍町長は「ストレステストだけでは不十分。暫定的な安全基準と、これに基づく安全対策について早く答えを出してほしい。回答を得なければ前に進めない」と話した》

 地元が求めてきた暫定的な安全基準を示せていない点でアウトです。また最初から安全委は1次評価が安全を担保するとは考えていません。過酷重大事故を扱う2次評価こそ必要という立場です。京都や大阪の市長も反対です。加えて野田首相は消費税増税法案での党内調整、閣議決定で手一杯です。これまた異論が多い原発再稼働で党内取りまとめを図る余裕はありません。日経新聞などが「増税法案を国会に提出するまでは、再稼働問題で党内に波風を立てるのは得策でない」雰囲気にあると報じています。

 東電管内はこの夏が猛暑ならば最大13%の供給不足と政府は試算しています。夏の最大需要期を原発全面停止状態で乗り越えられるか、その検証を急ぐなら朝日新聞が24日朝刊で伝えた《冬の電力、余裕あった 関電、供給力を過小評価》は有意義でした。「節電要請が始まった12月19日からの3カ月間で供給力に対する電力の使用率が90%を超えたのは5日間」であり、最高でも93%に止まりました。供給力が見通しよりも300万キロワットも多い2730万キロワットあり、最大需要は見通しより87万キロワット少ない2578万キロワットでした。

 深夜の余剰電力で水を汲み上げて昼間のピーク時に発電する揚水発電が「予想より199万キロワット増えた」となっています。昨年夏に東電が意図的に非常に厳しい電力需給を公表し、それには1050万キロワットの揚水発電分が隠されていた事情と似ています。各電力会社が出している供給計画は精査しなければなりません。

 民間の自家発電や太陽光発電、コジェネなどの力も借りるべきで、その前提になる電力買い取り価格など条件整備を急がないと、時間切れで導入できずに終わりかねません。「原発無しの夏確実、太陽光発電でピークカットを」で指摘しているようにポテンシャルは十分高いのですから、政治がいま動くべきはこちらの分野です。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


自分で福島事故を究明しなかった原子力学会

 こんな逃げるばかりの専門家しかいなければ大事故も起きる――20日朝刊の原子力学会の記事を見て唖然としました。自らの専門分野で福島原発事故という超重大事故を目の前にしながら、日本原子力学会は事故経過を真剣に究明していなかったのです。福井市で始まった定期大会で身内から批判を浴びて、遅ればせながら6月末を目標に取りまとめるそうです。

 毎日新聞の《原子力学会:福島原発事故、独自調査へ 「志低い」批判で》はこう伝えます。《学会は事故を受けて調査専門委員会を設置、5月に提言としてまとめた。しかし炉心溶融や水素爆発などがどう起きたか事故の詳しい分析はしていない。大会初日のこの日、事故の特別シンポジウムが開かれ、沢田隆副会長が政府の事故調査委員会など他機関の調査と、学会の提言との比較を発表した。ところが会場から「福島第1原発で何が起きたかを学会として科学的分析をして明らかにすべきだ」と独自調査を求める声があがった》。

 専門家として事実の究明、分析なしに何を提言できるのでしょうか。「5月に提言」とは、まだ何も明らかになっていない時期です。

 事故の当初から「個人責任を追及するな」と学会声明していた点で際立っていました。《福島第一原子力発電所事故「事故調査・検討委員会」の調査における個人の責任追及に偏らない調査を求める声明》にこうあります。「日本原子力学会としては、この方針に則り、また、学術会議報告書にも述べられているとおり、結果だけをみて直接関与した個人の責任を追及するのではなく、設置者のみならず規制当局等も含めた組織要因、背景要因などについても明らかにされ、関係者間で共有されて再発防止に活かされることが重要と考える。今後の調査において、事故関係者からの証言聴取が、国際的に整合性を持った手法で、実効性を最大限高めるべく進められることを求める」

 外部に対して求める以上、自分でも個人責任追及はしないかわりに「実効性を最大限高める」事実関係の究明をすると思っていましたが、意味があることは事実上してこなかったようです。昨年11月、第288回「2、3号機救えた:福島原発事故の米報告解読」で「米国の原子力専門家組織が、福島原発事故について初めて時間を追って現場の措置・経過を詳細に記した98ページ報告書を公表」と紹介した際に国内からの事実究明が遅れていることにもどかしさを感じました。

 何ということか、日本の当該学会は事実を究明するつもりすらなかったわけです。触れたくない事実に目をそむけて科学技術の進歩はありません。一言、「恥を知れ」と申し上げます。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー

放射能海洋流出は止まず:自分に甘い東電に任すな

 福島第1原発周辺の海に放射性物質が漏れ続けている可能性を、共同通信が気象研究所の分析として伝えました。東電は流出を否定していますが、水産庁がまとめている水産物の放射性物質調査結果から底魚アイナメについて以下のようにグラフ化すると、汚染は全く収束しない状況が浮かびました。セシウム流出量が従来の東電推計の6倍に上るとの重要な報道も現れました。身勝手で自分に甘い東電に判断を委ねてはいけません。政府は適切な指導体制を構築し、地下水の遮断を急ぐべきです。


 アイナメのセシウム含有量は秋口に一時的に下がったものの、秋から年を越えて1キロ当たり1000ベクレル以上の高い水準を保っています。放射性物質の海への流出が止まれば、セシウムは魚の体内から代謝されて減って行かねばなりません。高汚染の魚が揚がり続けている以上、新たなセシウムを魚が摂取していると考えるしかありません。

 《福島原発の汚染水、依然流出か 海のセシウム濃度下がらず》は《事故後の昨年4月、海への汚染水の流出が発覚し、東電は地中に薬剤を入れて止めた。東電は「この3〜4カ月は濃度低下が緩やかだが、昨年3月より大きく下がっている。11月ごろから下がりきったところで推移しており、漏えいがあるとは考えていない」としている》と東電の反論を伝えていますが、証拠はこの通り。昨年末の「放射能海洋流出拡大なのに事故収束宣言とは」で心配した地下水と汚染水の混合からの漏出が現実になっています。

 一方、読売新聞は《セシウム流出量、東電推計の6倍…海洋研試算》で福島原発事故で「原発から海に流出した放射性セシウム137の総量は最大で5600テラ・ベクレル(1テラは1兆)に上るとの試算を、海洋研究開発機構がまとめた。東電の推計量の約6倍にあたる」と報じています。昨年5月7日までのセシウム移動経路をきちんと模擬計算した結果で、これほどの差が出ると東電への信頼性は著しく下がります。海洋へのセシウム流出量は海外の関心が高い重要事項であり放置は許されません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


福島原発事故責任の曖昧化は再発を許す道

 野田首相が外国プレスとの会見で福島原発事故は「誰の責任というよりも、誰もがその痛みは、責任は共有しなければいけない」と語り、炉心溶融を起こした刑事責任追及を退けました。みんなで責任を感じようと曖昧化して、東電も政府も誰1人として責任をとらない収拾策は事故再発を許す道です。今回は備えられた安全装置を運転員が使えませんでした。事故事象の何がポイントで大惨事にしたのか明確にし、その追及と同じ鋭さと細やかさで考えられる危機の芽を潰す安全基準を作らないなら、原発再稼働など許してはなりません。

 AFPの《野田首相、原発事故「責任は共有すべき」 外国プレスと会見》はこう伝えています。《日本の法律下での一義的な責任は運営事業者である東京電力(TEPCO)にもちろんあるとしながらも、メルトダウンに関する刑事責任については次のように述べて退けた。「政府も、事業者も、あるいは学問の世界においても、安全神話に浸りすぎていたということは総括として言えるだろうと思う。誰の責任というよりも、誰もがその痛みは、責任は共有しなければいけないんだろうと思う」》

 非常用発電機12基を津波で失って全電源喪失を起こし、圧力を逃がすベントや海水の原子炉注入も手違いから遅れてしまい、3つの原子炉がメルトダウンに至りました。しかし、実は最初に爆発した1号機に備わっていた「最後の命綱」非常用復水器の使い方を、東電の運転チームが一度も実地で訓練したことがない「過失」さえなければ、冷却は維持され何も起きなかったと考えられるのです。安全装置はあったのに人が使えなかったのです。詳しくは「福島事故責任は誰にあるか、判明事実から究明」を参照してください。

 原発事故の安全評価は起きる事象を網羅して確率をはじき出します。「想定外」として除外されていた多数の事象が今後、加えられるでしょう。さらに今回のように安全装置があるのに人間側が使えないお粗末さも評価する必要が出て来ました。明確に存在する責任を、総懺悔という曖昧なオブラートに包んでいては抜本的な改善、安全確保は進みません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー

福島事故責任は誰にあるか、判明事実から究明

 海外メディアからは福島原発事故について「誰も責任を追及されず、報告書だけ積み上がる」と揶揄されています。刑事責任を含めて免責すると決めたはずはないのに、政府事故調査・検証委の委員長が昨年6月「責任追及は目的としない」と表明した点に「原子力ムラ」体制は甘えきっているようです。政府と国会の事故調が結論を出すのはまだまだ先なので、事故1年の時点で判明している事実から大惨事にしてしまった事象の分かれ目はどこにあったのか、その責任は誰に帰すかを考えます。

 【民間事故調】

 一番新しい福島原発事故独立検証委(民間事故調)の「報告書要旨」には《事故(昨年3月11日)の直接の原因は、津波に対する備えが全く不十分で、電源喪失による多数の機器の故障が発生したことに尽きる。設計で用意された原子炉注水手段から代替注水へと、速やかに切り替えることができなかったことが決定的な要因となり、放射性物質の放出を抑制することができなかった》とニュースを調べれば小学生でも書ける、当たり障りのない結論がさも意味があるように述べられています。

 民間事故調といいながら半ばは体制派メンバーであり、ジャーナリズムの質を落としまくって国民の信頼を失った在京マスメディアが支える構図です。切れ味が良い追及が生まれようはずがありません。「決定的な要因」とする「代替注水へと、速やかに切り替え」失敗の中身こそ問われているのです。《関係者全員の「安全」に関する考え方が不十分であった》といった生ぬるい表現で済ませる問題ではありません。これでは何も言っていないのと同じです。

 【FUKUSHIMAプロジェクト】

 もう少し前に、やはり民間有志のFUKUSHIMAプロジェクト委員会がFUKUSHIMAレポート「原発事故の本質」を刊行しています。こちらの問題意識は「マスメディアが伝えてきたこととは違う」と言い切り先鋭です。「設計で用意された原子炉注水手段」を「最後の砦」と捉え、全電源喪失でも炉心溶融した1〜3号機で全て作動しており、それが有効に働いている間に海水注入に切り替えれば何の問題も起きなかったと断じます。

 当時の菅首相は事故翌日「12日早朝に『海水注入』を求めていた。しかしその場にいた東電の代表者はそれを拒む」「同席していた原子力安全・保安院、原子力安全委員会の代表者とも、東電の『不行使』に同調した」「法律によれば、菅には、それ以上の現場への介入が許されていなかった」。海水注入で塩分が入れば原子炉は二度と使えなくなり、廃炉にするしかなくなります。

 以下が責任についての結論です。「三つの原子炉とも『最後の砦』は動いて原子炉の炉心を冷やし続けた。ところが、原子炉が『制御可能』であったときに『海水注入』の意思決定はなされなかった。よって東電の経営者の『技術経営』に、重大な注意義務違反が認められる」

 【1号機非常用復水器が焦点】

 昨年末の政府事故調中間報告を見て「恐ろしいほどのプロ精神欠如:福島原発事故調報告」で驚きの新事実に触れました。《最初に爆発した1号機で電源喪失後に残る最後の安全装置「非常用復水器(IC)」について「1号機の全運転員はIC作動の経験がなかった」との報告にはまさかと思い、目が点になりました。発電所幹部はICが順調に作動していると思いこんで「1号機の海水注入が遅れた一因はICの作動状態の誤認識にある。1号機のベント(蒸気を放出して圧力を下げる措置)に時間がかかったのは、ICの作動状態の誤認に起因すると考えられる」としています》

 昨年11月、米国側の報告を読んだ「2、3号機救えた:福島原発事故の米報告解読」で「淡水注入を始めたのは翌12日午前6時前です。午前2時45分には原子炉圧力容器に穴が開いて格納容器と同じ圧力に下がったと観測されていますから、この時点で炉心溶融は起きてしまっていたとみるべきでしょう」と1号機の「最後の砦」は機能不全との認識は持っていました。しかし、最後の命綱を動かす実地訓練すらなかった運転員教育は劣悪すぎます。

 読売新聞が「炉心溶融、回避できた?冷却装置を早期復旧なら」で《2基あるICは、計16時間作動するとされており、日本原子力研究開発機構の研究チームは「その間に代替の注水手段を確保するなどしていれば、炉心溶融を防げた可能性がある」としている》と報じました。この命綱がきちんとしていれば16時間どころか数日でも炉心溶融は延ばせたのです。16時間は冷却水が切れる時間であり、東電自身の報告書が当日午後9時には水が足りなくなれば給水できる態勢を作ったとしているのです。

 給水態勢を作ったのに弁が閉じて作動していないと認識できないちぐはぐさも、使ったことがなければ当然でしょう。事故調中間報告はこう伝えます。「福島第一原発で事態の対応に当たっていた関係者の供述によると、訓練、検査も含めてICの作動を長年にわたって経験した者は発電所内にはおらず、わずかにかつて作動したときの経験談が運転員間で口伝されるのみであったという。さらに、ICの機能、運転操作に関する教育訓練も一応は実施されていたとのことであるが、今回の一連の対処を見る限り、これらが効果的であったとは思われない」

 ICの弁は電動で開く仕組みであり、電源喪失時には手動で開きに行かねばなりません。米国ではその手動操作の訓練が運転員教育に組み込まれていると後に伝えられました。沸騰水型炉の開発元で採用されている運転員訓練の情報が東電に伝えられなかった可能性はゼロでしょう。事故進展の分岐点を分けた東電の経営責任は明らかだと考えます。もちろん、運転員教育の質を監督する責任は政府にあります。

 【新規制組織への疑問】

 誰の責任かも明らかにしないまま、新たな規制組織、原子力規制庁が4月に発足します。国民からすれば事故責任がある者にはもう携わって欲しくない、少なくとも意味がある反省をした上でしか認めたくないと思うでしょうが、その担保は全くないのです。国会事故調は法律で「行政組織の在り方の見直し」を含め提言を行うことを任務としているのに、調査中に組織替えは理解不能と抗議しました。批判に対して聞く耳を持たない「原子力ムラ」体制を温存する「表紙」の付け替えにしか見えません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


最悪の結果が出た六ケ所再処理工場の目詰まり

 完成が15年も遅れる青森・六ケ所核燃料再処理工場の試運転で起きた、ガラス流下ノズルの目詰まりに最悪の結果が出ました。炉壁に使われている耐熱レンガが剥がれノズルに詰まっていたのです。何年も使っていない溶融炉をいきなり1000度以上の高温に上げて試験した技術的な油断が問題です。目詰まりは試験開始後直ぐに起きており、黒い異物の流下が観察されていました。炉内にはガラス固化体11本分もの溶融ガラスがあり、剥離レンガ片が散在していると覚悟すべきです。

 詰まったノズルをドリルで下から掘削した結果がレンガ発見でした。読売新聞の《溶融炉不具合レンガ破片原因か》は《レンガの発見を受け、「ガラス固化試験」の早期再開を危ぶむ見方も出ている。ほかにも大量のレンガの破片が炉内に存在する場合は再び詰まりを起こす恐れがある上、大きなレンガが落ちていれば、時間がかかる回収作業が必要となる可能性もあるからだ》と伝えました。

 「高温となる炉には耐熱レンガが必要。フランスの場合はレンガが壊れるのを念頭に半年で交換している」と出光一哉・九州大教授(核燃料工学)の指摘にあるように、経年変化に備えた警戒をすべきだったと言えます。

 現在入っているガラス溶液を排出しないと修理も出来ません。ガラス流下を続ければ目詰まり再発必至なのですから、袋小路もいいところです。「核燃サイクルに死亡宣告:再処理工場は完成不能の窮地」で無惨な失敗になったA系溶融炉に続いて、《長い間、使われなかった「B系」炉の内部状態を確認しないで走り出してしまった点に、相変わらず思いこんだら冷静な判断が出来ない技術的未熟さが見えます。「国策」原子力開発の低レベルぶりは改まっていません》と断じた通りでした。

 高速増殖炉「もんじゅ」も含めた核燃料サイクルは、福島原発事故をうけて推進すべきかどうか見直されることになっています。その結論が出る前に再処理工場を完成させようとする、身勝手な試運転は直ちに中止すべきです。

 【参照】インターネットで読み解く!「再処理工場」関連エントリー


事故時迷走の焦点は菅批判よりも悲惨な司令塔

 27日、日米両方から福島原発事故当時に菅直人首相がとった行動に批判が相次ぎましたが、茶飲み話もよいところで本質的な問題点から外れています。国内の司令塔である保安院や原子力安全委が、水素爆発の危険を予期できない「専門家」しか揃えていなかった悲惨さこそ問われるべきです。

 朝日新聞の《首相がベント指示、「米ではありえぬ」 元NRC委員長》は《昨年の原発事故の際、原子炉から気体を出す「ベント」を、当時の菅直人首相が指示した。メザーブ氏はこれを念頭に「米国では考えられない。大統領が決めることではない」と明言。記者会見でも「米国では電力会社が決め、NRCが許可をする。日本の政治家のほうが知識があるのかもしれない」と皮肉った》と伝えました。

 また読売新聞の《菅首相が介入、原発事故の混乱拡大…民間事故調》は《官邸の対応を「専門知識・経験を欠いた少数の政治家が中心となり、場当たり的な対応を続けた」と総括し、特に菅氏の行動について、「政府トップが現場対応に介入することに伴うリスクについては、重い教訓として共有されるべきだ」と結論付けた》としました。

 これでは首相が介入しなければ順調に進んだと言っているようなものです。政治家が迷走しないような、しっかりした司令塔だったのか、それこそが問題の本質です。

 全電源喪失で電源車を急行させても接続すべき電源盤が地下にあって水没していることに頭が回らない保安院、「軽水炉で水素爆発はない」と言い切っていた原子力安全委員長――専門家を名乗るならば冗談も休み休みお願いしますと申し上げるレベルです。これに「恐ろしいほどのプロ精神欠如:福島原発事故調報告」で描いた東電の恐るべき日常的不作為が加わるのですから救いようがありません。《最初に爆発した1号機で電源喪失後に残る最後の安全装置「非常用復水器(IC)」について「1号機の全運転員はIC作動の経験がなかった」との報告にはまさかと思い、目が点になりました》

 事故の責任を問わないことがいつの間にか当然視されています。これが事態をねじ曲げています。責任がある人、対処が駄目だった人には早急に退場していただきましょう。菅氏は既に退場している一方で、退場すべき人がごろごろ居残って指示を出しているのは醜悪です。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


原発無しの夏確実、太陽光発電でピークカットを

 組織消滅を前に原子力安全・保安院が目論んでいるストレステスト(1次評価)合格による原発の再稼働は、福井県の再検討要求安全委が同調しないためほぼ不可能になりました。夏の需要期に原発が全く運転されないのはほぼ確実で、猛暑のピーク電力をどう凌ぐかが焦点に浮上します。今からでも間に合う強力な武器は太陽光発電です。

 メディアの対策論調は火力発電であり、電力会社間の融通ですが、設備投資が半年後に間に合うはずがありません。しかし、個人住宅や企業のビル・工場の屋上に太陽光発電システムを設置することは容易です。国内では電力業界が再生可能エネルギー装置の送電網への接続を嫌って、過小評価する傾向が続いていますが、実は違うのです。1997年に書いた第22回「太陽を友に暮らそう」で、電力中央研究所の報告を紹介しています。「ピーク電力需要が特に大きい日には、蓄電池を併置しなくとも太陽光発電システムの総合設備容量の50%程度まではピーク電力需要を削減できる」と。設置件数さえ増やせば大きな力になります。同様な新しいデータもあります。

 猛暑をもたらす日差しと太陽光発電効率の向上は完全にシンクロしているから可能なのです。もちろん蓄電池を設けたきちんとしたシステムである方がベターですが、簡易なシステムを大量生産することで深刻なピーク電力を抑えられます。また、本来は原発の存在を前提にしている揚水発電所も、夜間に火力発電で水を蓄えて昼間のピーク時に発電する運用を積極的に進めなければなりません。

 ドイツは福島原発事故で脱原発を決め、原発の半分8基を停止しました。しかし、毎日新聞の「ドイツ:脱原発でも電力輸出超過 再生エネルギー増加で」が伝える通り、電力不足の原発大国フランスに電力輸出するほどになっています。「昨年秋に入ってから好天が続き、太陽光や風力など再生可能エネルギーの発電に有利な条件が整った。また、ドイツ政府が住宅の断熱化などエネルギー効率化を推進したのに加え、原油価格の高騰も手伝って、エネルギー消費量が前年比約5%減になった。このため昨年10〜12月の電力収支は輸出超過を回復。11年の通年で約4200ギガワット時の輸出超過になった」

 昨年夏のように東電や関電などに任せきりで乗り切れるはずがありません。火力発電燃料費増加による電気料金値上げも発生します。国家規模での取り組みと、国民の納得と協力をスムースに得られるよう、政府が司令塔を早急に立ち上げるべきです。原発再稼働にこだわって時機を失してはなりません。民主党政権が政治主導で官僚をドライブしていくと言うのなら、今がその時です。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


原発再稼働安全策、福井県は保安院に再検討要求

 停止中原発の再稼働で先頭になるはずの関電大飯3・4号機について、説明に訪れた原子力安全・保安院に福井県側は「国の説明が不十分。安全対策の再考を」と要求しました。朝日新聞の21日朝刊3面《原発ゼロ、再開へ攻防》が伝えました。「原発再稼働ストレステスト、安全委は保安院に同調せず」もあり、再稼働はますます難しくなりました。

 福井県の原子力安全専門委員会は「県が求める暫定的な安全基準では、数値的なものを含めた判断基準が明確になっていることが重要」と主張しました。保安院が「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見について(中間とりまとめ)」に盛り込んだ安全対策30項目について、「事故の知見は網羅されているが、どう具体化するのか改めて基準をまとめてもらう必要がある」との立場です。

 これに対して保安院側は「基準化することは4月発足の原子力規制庁の仕事になるだろう」と語っており、福井県が求める暫定基準をいつ提示できるか明言を避けています。保安院としては30項目の安全対策が福井県の求める暫定基準になるとの期待があり、「それだけに、今回の福井県の対応に、保安院の内部では戸惑いが広がる」と報じられています。

 国と地方自治体が原発推進で一致していた時代には、あうんの呼吸で受け入れられた「変化球」が全く通用しなくなった現状を保安院は理解していないのです。住民の厳しい目に晒されている今、要求そのものに答える「直球」が返ってこないと、自治体として住民へ説明が出来ません。

 まして「ストレステストを自ら否定:保安院の技術知見」で指摘したように、ストレステスト(一次評価)がオーケーを出しているのに、実は30項目の安全対策を満たしていない事実が知れ渡れば、保安院の信用は瓦解するしかありません。政治家は駄目でも優秀なテクノクラートが国を支えてくれる――その幻想がここでもまた崩れていきます。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


原発再稼働ストレステスト、安全委は保安院に同調せず

 停止している原発の再稼働をめぐり、原子力安全・保安院がストレステスト(1次評価)の審査結果で立地自治体を説得する構えだったのに、審査書を送られた原子力安全委員会は同調しない方針です。東京新聞が《班目委員長 1次評価のレベル疑問「原発再稼働と関係ない」》と伝えました。安全委に決定権はないものの自治側体が安全確認できないと判断するのは必至で、民主党政権による原発再稼働は遠のきました。

 安全評価(ストレステスト)の一次評価について班目委員長の見解は「再稼働とは関係ない。二次評価まで終わらなければ、安全性の判断はできない。一次評価は安全委が要求している(安全性の)レベルに達していない」というものです。「安全評価には、定期検査で停止中の原発の再稼働の条件となる一次評価と、全原発対象の二次評価がある。一次評価は核燃料の溶融を防ぐ対策のみ、二次評価は核燃料が溶融する深刻な事故の対策までを対象とする」と考えているためで、二次評価を提出した原発はありません。

 ストレステスト意見聴取会委員で「関西電力大飯3・4号機ストレステスト審査書提出に抗議する緊急声明」を出している後藤政志さんが《なんと! 安全委員会・班目が、保安院の「大飯原発3・4号」再稼働判断を却下!『ストレステストは「原発再稼働と関係ない」』ーー後藤政志氏が解説》で次のように述べています。

 「ストレステストの委員会の中でも、井野委員や私だけではなくて、岡本委員、司会役をやってますね、東大の岡本委員も、最初に2次評価の重要性を指摘しているんですね、委員会の中で。で、ほぼ、考え方としては委員は大体、2次評価まで要るというような、それに近いニュアンスで話しをしてきているわけです」「ところが、保安院は、1次評価だけで、判断を止めてると、こういう構造なんですね。これは一体どうしたものかと。いうことです」

 間もなく原子力規制庁が出来て組織が消えてしまう保安院が、勝手に原発再稼働に向けて独走していると、原子力安全委員会まで認めた形です。さらに、保安院自身による福島原発事故経過の反省・点検があり「ストレステストを自ら否定:保安院の技術知見」で指摘したように、ストレステストの設定を超える備えが必要であることが既に安全対策30項目として判明しています。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


ストレステストを自ら否定:保安院の技術知見

 関電大飯3・4号機は再稼働に向けストレステスト合格――として原子力安全・保安院が原子力安全委員会に審査書を送ったばかりなのに、16日に公表された福島原発事故の技術的知見に基づく30項目安全対策には明確に不合格です。昨年夏に用意したテストですから、最新の知見で否定されるのは仕方ありません。保安院は自らの見解に責任を持って再稼働不可を宣言すべきです。

 公表された東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見について(中間とりまとめ)」から、分かりやすい電源問題を取り上げましょう。福島原発事故は全交流電源喪失で主要機器が停止して冷却機能が失われ、1〜3号機がメルトダウンに至りました。事態が悪化する過程で、バッテリーに蓄えた直流電源にも重要な役割があると認識されました。最後の命綱になっている安全装置は電源無しで稼働するのですが、それを起動する弁の開閉にも電気が必要だったり、温度計や圧力計などの値を監視しないと動作状況が確認できません。

 そこで「技術的知見」は「一系統の蓄電池の蓄電容量のみで負荷の切り離しを行わずに少なくとも8時間(事態の正確な把握、冷静な判断、作業の準備・実施に必要な時間)、さらに不必要な負荷の切り離しを実施した上で少なくとも24時間(注:電源車や別途の非常用発電機など外部からの給電に時間を要する事態を考慮)、プラントの特性に応じて必要な時間の稼働を可能とするよう蓄電容量を確保することが求められる」との対策を打ち出しているのです。8時間は事態を把握するまで取り敢えずの余裕、24時間は無駄な機器を外して外部からの救援で電源補給があるまで待つ余裕です。

 大飯3号機でこれに対応する部分を見ましょう。「東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえた大飯発電所3号機の安全性に関する総合評価(一次評価)の結果について(報告)」のちょうど真ん中あたりにあります。

 「蓄電池については、その容量から約5時間の時間余裕があり、また、空冷式非常用発電装置の重油については、発電所構内にある補助ボイラ燃料タンク及び非常用ディーゼル発電機燃料貯蔵タンクの重油で補給するが、プラント外部からの支援がない場合でも、これを消費するまでには約85日間の時間余裕がある」

 しかし、この空冷式非常用発電装置は事故が発生してから取り付けると説明されているものです。福島事故を踏まえた「技術的知見」が事故の状況を把握するまで最低「8時間」見込んでいる余裕よりも、ずっと短い5時間で外部から応援が来て必要な電源を補充してくれるとの超楽観的な想定しか、鳴り物入りのストレステストは課していないのです。当然ながら24時間待てる余裕などありません。

 ストレステストが作成される段階ではこうした「技術的知見」が固まっていなかったのですから仕方がありません。これほど明確に福島事故の反省点に違反している状態で再稼働などあり得ません。保安院は自ら作成した30項目安全対策に合格していないストレステストは撤回させるべきです。

 また、原子力安全委員会への審査書送付についてはストレステスト意見聴取会委員のお二人から「関西電力大飯3・4号機ストレステスト審査書提出に抗議する緊急声明」が出され、技術的な問題点がさらに指摘されています。

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早期帰宅が困難な原発避難民に未来選択の自由を

 福島原発事故の避難区域は大半で、事故発生から2年以上経っても帰宅できない実態が判明しました。時間が掛かっても帰還を望む人はさておき、故郷を諦めて早く新しい人生に踏み出したい人には国が土地や資産を買い上げるなど、未来選択の自由を保証すべきです。

 朝日新聞が《避難区域の市町村、除染・インフラ整備に優先順位》で野田政権の具体的な復旧手順案を報じました。市町村別に汚染度に応じて5つに区分、最も汚染軽微な田村市と川内村で「除染作業を2013年度末に終えて早い時期の帰宅を目指す方針」です。次の区分「おおむね20ミリシーベルト未満」である南相馬市などになると、除染作業の一方で大津波で破壊されたインフラ整備も進めなければなりません。

 20〜50ミリシーベルトの飯舘村などは「放射線量が低い地域と比較的高い地域が混在しており、まずは地域全体を20ミリシーベルト以下にすることを目標にする」段階であり、実現できる時期のめどはありません。さらに高い汚染度の大熊町と双葉町では高汚染の除染方法を調べるモデル事業に止まります。

 河北新報の《焦点/町外避難者調査/「浪江帰還望まず」3割》が「放射能汚染で生活環境を取り戻せないと見越す人が多いためだ。町は帰還の姿勢を崩していないが、町民の3人に1人は帰還を望まない結果が示され、町の存続に影を落としている」と伝えたように、相当多数の避難民が新天地での生活を始める意向に傾いています。

 これまで福島県や地元市町村は帰還・帰宅だけを掲げて作業を進めてきました。しかし、元の生活はもう取り戻せないと考える人、限りある人生の何年もの期間、ただ待つだけに費やせないと考える人が出て当然です。政府の施策には「帰還しない」選択肢が抜け落ちています。避難区域に残した財産を事故以前の評価で買い上げるなど支援するのは、原発の安全審査でゴーサインを出した当事者である政府として当然の責任です。早急に枠組みを整えるべきです。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


インドの大気汚染は中国以上で世界最悪の報道

 北京五輪で大気汚染が懸念されたことなど中国の環境汚染は知られていますが、同じ大人口国であるインドはさらに大気汚染度が高くて世界最悪――「大気汚染、インドが世界最悪=米エール大など132カ国調査」(時事通信)と報じられています。サイロなど社会基盤整備が遅れてせっかく収穫した穀物を大量に腐らせる国ですから、行政による規制が出来ていないようです。

 「エール大などは水資源や大気、森林、農業など環境に関連する計10分野を総合的に調査し、国別番付を発表した。インドは総合ランキングでは125位だったが、大気は100点満点中3.73点で最下位。大都市の大気汚染が深刻化しているとされる中国は19.7点で128位だった」とあります。大気汚染度は著しく進んでいる訳です。

 WHOの世界調査「Exposure to outdoor air pollution」で都市別に「PM10」エアロゾル粒子の濃度を見ましょう。単位は1立方メートル当たりのマイクログラムで、インドの最高は北部パンジャーブ州のルディアナ「251」、首都デリー「198」、最大の都市ムンバイ「132」です。これに対して中国では最高がほぼ国の中央、黄河沿いの蘭州「150」、首都北京「121」、商業の中心地上海「81」で、差は歴然です。さらに、この値は先進国ではほぼ「30」以下です。

 「PM10」粒子濃度だけに限ればもっと高汚染都市は世界にあって、イラン西部のアフヴァーズ「372」、モンゴルの首都ウランバートル「279」が目立っています。しかし、10億人を超える大人口で国土も広い中印両国で環境汚染が深刻である点は大きな問題です。インドは本格的な経済発展が立ち上がったところであり、すでに一定の経済水準に達した中国ですら規制ができていないのですから無秩序状態が長引く恐れがあります。健康被害が顕在化する恐れ大です。

 中国からは今月、《都市のごみ捨て場と化した農村、「なぜわれわれの玄関先に捨てるのか…」―中国》(レコードチャイナ)といった気になる環境破壊ニュースも伝えられています。経済発展の速さにゴミ焼却施設整備が追い付かないのでしょう。「湖南省常徳市郊外の漢寿県。風光明媚な農村は今、ごみの山と汚水に悩まされている。都市部から持ち込まれた大量のごみが田んぼのあぜや道端、用水路、川などいたるところに捨てられているのだ。埋め立て処分場とされた場所には10メートルを超える高さにまでごみが積み上げられ、ビニール袋がひらひらと舞っている。夏は鼻をつく異臭が漂い、ハエが大量に発生する」

 【参照】インターネットで読み解く!「インド」関連エントリー


核燃サイクルに死亡宣告:再処理工場は完成不能の窮地

 完成が15年も遅れている青森・六ケ所核燃料再処理工場が試運転を再開したのに、事実上、完成不能の窮地に陥りました。最終ガラス固化工程で溶融ガラスが流下しない初歩的トラブルに対処する方法が無くなっているのです。2兆円以上も掛けた再処理工場が完成せず、国策である核燃料サイクル全体が死に体になってしまいました。溶融炉の構造は以下のようです。

http://www.jnfl.co.jp/press/pressj2008/080711sanko.pdf

 毎日新聞の「六ケ所村:溶融炉に不具合 核燃料再処理工場」はこう報じています。《4年前にトラブルが起きた「A系」とは別の試験使用歴のない「B系」の溶融炉を使用。24日に放射性物質を含まない試験用の「模擬廃液」とガラスを混ぜたビーズを炉で溶かし処分容器に流下させる作業を始めたところ、流下速度が徐々に落ちた。作業を3回中断して炉にかくはん棒を入れ、回復を試みたが、不具合は解消していない。流下するガラスに含まれるはずのない数ミリ大の黒い異物が混入していることも判明。いずれも原因は分からず、試験再開のめどは立っていない》

 2年間、実物大の試験装置で実験を重ねた工程改善策を試す以前のトラブルであり、「B系」炉は出来が悪い不良品だったことになります。黒い異物混入とは炉壁などの部材が剥がれ落ちていると考えるしかありません。トラブルに悩んだ「A系」は汚染されて無惨な醜態を晒しており、溶融炉にもう代替えはありません。

やはり毎日新聞が4日前に伝えた「六ケ所村の核燃再処理工場:溶融炉の熱上げ完了 今週末にも製造試験へ−−日本原燃 /青森」は《今回は、模擬廃液とガラスを混ぜた「模擬ビーズ」を固化体11本分入れて溶かし、24日午後10時50分にさらに1本分のビーズを加えて炉内のガラスを流下させ、ステンレス製の容器に入れて固化体1本を製造した》としていますから、現在の炉内は1000度以上の高温に11本分ものガラスが溶けている状態です。

 「A系」と違って本番の高放射性廃液は未使用ですから修理をしたいところです。それには溶融ガラス全部を流下させて、炉の温度を常温に戻さねばなりません。ガラスが残ったまま温度を下げたら修理は出来ません。構造図を見れば分かる通り、無理矢理に流下を続けて細いノズルになっている下部にガラスに混じった異物が落ちていけば塞がれてしまうのは目に見えています。

 4年前に書いた「青森の再処理工場は未完成に終わる運命」の段階は、廃液に含まれる白金族元素の残留物がノズルに残ってしまうトラブルでした。新規開発同然の溶融炉を、実物大の試験無しに実戦に使う無謀さが招いた結果でした。日本原燃は炉内の温度管理を周到にすれば残留物を生成させずに済むと主張して、技術開発のために完成への試運転を延期しました。今回のトラブルははるかに手前、初歩の初歩段階ですが、出来上がってから長い間、使われなかった「B系」炉の内部状態を確認しないで走り出してしまった点に、相変わらず思いこんだら冷静な判断が出来ない技術的未熟さが見えます。「国策」原子力開発の低レベルぶりは改まっていません。

 高速増殖炉「もんじゅ」も含めた核燃料サイクルは、福島原発事故をうけて推進すべきかどうか見直されることになっています。これから議論がされる最中、日本原燃が再処理工場の試運転を再開した点に独断専行の批判が出ていました。完成前に中止されたくない――その焦りが自分の首を絞める結果になったと言えるでしょう。

 【参照】インターネットで読み解く!「再処理工場」関連エントリー


原発再稼働は法に基づく安全確認しかあり得ない

 枝野幸男経済産業相がこの夏の電力需要期を原発稼働ゼロで乗り切る可能性を表明して、その可否を含めて話題になっています。再稼働に向け新たに導入されたストレステスト(耐性評価)について個別原発での評価が始まったのに、早くも行き詰まったからでしょう。現在の法律では原発の安全は国による安全審査で担保されています。福島原発事故で崩壊した安全審査の指針を早急に再構築して法律通りに運用するしかない――当初から言われていた愚直な手法に立ち戻るべきです。現行法に何の根拠も持たないストレステストの結果がどう出ても、原発立地自治体が住民に安全と言えるはずがありません。

 ロイターの《原発稼働ゼロでも「夏乗り切れる可能性」=枝野経産相》は「原発がこの夏どのくらい利用されるのかされないのかは、安全・安心という(電力需給とは)全く別次元で結論が出るので、どうなるかわからない状況だ」との談話を伝えました。

 時事ドットコムの《「国民の信頼得られず」=批判派委員が会見−ストレステスト聴取会》は「原子炉メーカーがストレステストを行い、メーカーOBが審査している。そういうやり方では国民の信頼は得られない」と、テストが信頼されない構図を指摘しています。さらに言えば、事故を食い止めることが出来なかった経済産業省原子力安全・保安院が、自らの責任を明らかにすることなくストレステストを主導していること自体が信用できぬ要因です。

 原発安全確保をめぐる政府の勘違いは、昨年6月、「原発運転再開:安全指針の担保外す政府こそ違法」で指摘しました。6月当時、原子力安全委員会は安全設計や防災対策などに関わる指針の見直しに着手すると表明していたのに、ほとんど実績が出ていません。班目春樹委員長ら有能とは思えないメンバーを刷新することなく進めているのですから、期待できようはずがありません。一方、政府の事故調査・検証委は事故の責任は追及しない独自スタンスで進行していますから、指針に盛り込むべき内容が出るかは分かりません。実務家を総動員して安全審査の改訂作業を急がないと、いつまでも待つことになるでしょう。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


サンプリングの科学性無しに結論だけ安全の愚

 朝日新聞の「福島の食事、1日4ベクレル 被曝、国基準の40分の1」の非科学性には驚きを通り越して落胆するしかありません。サンプリングした標本が母集団を代表している保証が全くないのです。このような愚かな報道を1面トップで自社調査として打ち出すとは、ジャーナリズムとして末期的症状です。正しいと言えるのか、きちんと第三者に評価してもらうべきです。

 「家庭で1日の食事に含まれる放射性セシウムの量について、福島、関東、西日本の53家族を対象に、朝日新聞社と京都大学・環境衛生研究室が共同で調査した。福島県では3食で4.01ベクレル、関東地方で0.35ベクレル、西日本でほとんど検出されない」と結論づけている根拠が次のような標本です。「調査は昨年12月4日、全国53家族から家族1人が1日に食べた食事や飲んだものをすべて提供してもらい行った。協力家族の居住地は、福島県が26、関東地方(群馬・栃木・茨城・千葉・埼玉・東京・神奈川)が16、中部(長野・愛知・岐阜・三重)、関西(大阪・京都)、九州(福岡)など西日本が11」

 一見してあまりの標本の少なさに驚かされます。「福島中通り汚染は広く深刻、国は学童疎開を」でも指摘しているように、福島県内でも原発がある浜通り、放射能の雲が広がった福島市や郡山市など、さらに山間の会津地方では汚染状況がまるで違います。それを26標本で代表させるとは異常ですし、集計グラフの3番目に汚染が高い標本が関東地区である点からも、もっと詳細な調査が必要と判断できます。北関東に高汚染ホットスポットは存在しますが、福島現地の高汚染地区と張り合うのは無理です。肝心の福島で取るべき標本を外している可能性が高いのです。これで安全宣言をされても困ります。


再処理工場再開:核燃料サイクルの即時停止を

 福島原発事故の惨事で原子力開発へ「待った」がかかった状況なのに、青森の核燃料再処理工場の建設が再開されました。当初予定の3倍にもなる建設費2兆円余りを投じて、まだ完成しないのは最終工程の高レベル放射性廃液のガラス化が出来ていないためです。この工程はA系列でさんざん失敗し尽くした後、残っているクリーンなB系列で試運転を試みる計画です。福島原発事故の放射能汚染とは桁違いな超高汚染、文字通りの「死の空間」がさらに増えることになり、核燃料サイクルを中止する場合、巨額の撤去費用と作業員の大量被曝が避けられません。

 東京新聞の「再処理工場 MOX燃料工場 批判の中 再開着々」は《核燃料サイクルをめぐっては、本紙の調べで、四十五年間に少なくとも十兆円が投じられたことが判明。電気料金の一部が主な原資となっているが、サイクルが完成するめどは立っていない。今夏をめどに決まる新政策でも、核燃料サイクルの存廃が最大の焦点だ》《再処理工場では、二つある溶融炉のうち、実際に使われて極めて高い放射能に汚染されたのは一つだけだが、今春以降はもう一方の炉も試験する予定だ。原燃は「準備が整い次第、試験を再開したいと考えていた」とコメントしている。ただ、核燃料サイクルが中止になれば、厳重な管理が必要になる高濃度の放射性廃棄物を増やすだけの結果となる》と伝えています。

 原子力委員会事務局は《「新しい政策が決まるまでは、今の政策が生きている。事業者は現政策に基づいて工事を行っている」と説明。提言を出すことは考えていないとした》と言っているのですが、電気料金と税金を原資にした事業である以上、民間業者が勝手に判断してよい案件ではありません。現在、付いている予算の問題ではなく、将来、発生する無意味な費用が膨大になる点が心配されるのです。


恐ろしいほどのプロ精神欠如:福島原発事故調報告

 福島第一原発事故について政府の事故調査・検証委が26日、中間報告書を公表しました。夕方、伝えられている情報を見る限りで一言にまとめれば「恐ろしいほどのプロ精神欠如」です。事故前の想定の甘さ、事故対応・作業の不手際を取り上げればきりがないほどであり、そこに一貫して見えるのは取り返しが付かない重大事故を起こし得る原発に対する謙虚さの欠如です。私の原発取材は関西電力がメインでしたが、伝えられる東京電力の仕事ぶりに比べればずっと真摯だった記憶があります。

 500ページを超す報告書。今のところオリジナルデータが豊富なのは中日新聞で《福島第1原発 政府事故調の中間報告(上)》《福島第1原発 政府事故調の中間報告(下)》で、ほぼ全体像がつかめます。

 最初に爆発した1号機で電源喪失後に残る最後の安全装置「非常用復水器(IC)」について「1号機の全運転員はIC作動の経験がなかった」との報告にはまさかと思い、目が点になりました。発電所幹部はICが順調に作動していると思いこんで「1号機の海水注入が遅れた一因はICの作動状態の誤認識にある。1号機のベント(蒸気を放出して圧力を下げる措置)に時間がかかったのは、ICの作動状態の誤認に起因すると考えられる」としています。しかし、最後の頼みの綱である安全装置起動が運転訓練に組み込まれていない東電の運転員養成態勢は異常すぎます。3号機で安全装置を運転員が勝手な判断で停止した件と合わせて、人災による事故拡大が確定しました。

 政府側のお粗末さも深刻です。「経済産業省の緊急時対応センター(ERC)に原災本部事務局が置かれたが、原子力安全・保安院は助言が遅れ、決定に影響を与えることはほとんどなかった。官邸地下の危機管理センターに関係省庁の局長級の緊急参集チームがいたが、菅直人首相や閣僚らが集まった官邸5階の決定を十分把握できなかった」のですから、あの危機時に専門家チームの助言無しにアマチュアが手探りで決断していたことになります。注水の応援派遣で消防庁より先に警視庁を呼ぶなど、おかしなことだらけでした。保安検査官が原発の事故現場を放棄して退避した点も問われています。

 津波の想定について保安院の対応は叱責されています。「保安院は09年8月、東電に津波評価の現状説明を求め、翌9月、東電が貞観津波の試算を説明した。保安院の審査官は対策工事の要求はせず、上司の森山善範審議官(当時、原子力安全基盤担当)らに報告もしなかった」「津波対策基準の提示は保安院の役割だが、その努力がなされた形跡はなかった」となっています。やはりプロ精神を欠く人災と結論づけられる要因でしょう。

 【参照】「東電技術力は2級品:NHKスペシャルで確認」
 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー

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東電技術力は2級品:NHKスペシャルで確認

 18日夜のNHKスペシャル「メルトダウン」を見て、改めて東電の技術力は2級品と思い知らされました。こんな東電現場チームに全電源喪失の大事故を任せてしまい、適切な専門家を緊急招集して司令塔を作らなかった政府の責任は重大です。

 まず、新しい知見として福島第一原発1号機の最後の安全装置である「非常用復水器」の弁が電源喪失とともに閉まってしまい、稼働させるためには手動で弁を開けに行かなければならない仕組みになっていたのに日本側は知らなかった点がありました。最後の頼みの綱である安全装置の作動条件を、40年間、誰も確かめなかった杜撰さには驚きました。米国では認識されて運転員の訓練に取り入れられているのです。製造元の米国との情報落差が無いように努める原子力業界の常識を、東電は守っていなかったことになります。

 1号機の運転チームが震災当日の3月11日から12日に日付が変わる時点でもメルトダウンを疑っていなかった点は愚かすぎて、開いた口が塞がりません。11日夕方、電源が一時、戻った時点で非常用復水器を起動、直ぐに停止させたのですから、崩壊熱で過熱していく原子炉を冷やす手段は電源喪失時点からほとんど取られなかったと自分で認識できます。核燃料崩壊熱の大きさを考えれば原子炉内に水が残るのがおかしい状況です。もう使える手段が無いと知れば、直ちに炉心溶融を考えるしかありません。それなのに、新たに水を補給していないのに水位計が『誤動作』で上昇するのを見ていたなんて、原発の運転員とは到底思えません。当初言われた想像力の貧困よりも、論理的思考力の欠如です。

 原子炉3基が同時に危機に陥る複合事故で、指導すべき現地対策本部は一つの炉に集中できない困難があった、と言い訳していましたが、2号機と3号機は別の安全装置が自動起動していました。もし1号機の安全装置も起動していたと誤解していたにしても、旧式の1号機は安全装置が有効な時間が最も短く半日もないのです。1号機に集中して対処しなかったのは完全に判断の誤りです。「2、3号機救えた:福島原発事故の米報告解読」で指摘したように2、3号機には対策の取りようがありました。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


放射能海洋流出拡大なのに事故収束宣言とは

 政府は16日に「発電所の事故そのものは収束に至ったと判断される」と福島原発事故の収束を宣言しました。放射性物質の外部飛散が大きく減り、敷地境界での線量が下がったことを根拠にしていますが、表に見えにくい海洋への放射能の流出はむしろ拡大している証拠があります。水産庁の「水産物の放射性物質調査の結果について〜12月16日更新〜」にある一覧表から魚種別グラフにして以下に掲げます。



 福島沖で採取された魚の1キロ当たりセシウム含有量は夏の終わりにかけて減少する傾向を見せていましたが、秋に入って反転、増加しています。特にヒラメは暫定基準の500ベクレル前後をたびたび示し、11月16日に4500ベクレルの最大ピークを記録しました。やはり底魚のアイナメも11月30日に1780ベクレル、12月14日に1940ベクレルと非常に大きな汚染値を出しています。

 1カ月前に書いた「福島原発から海へのセシウム流出が再発生か」では、原発建屋地下の汚染水と地下水が出入り自由になっている問題を指摘しました。しかし、ヒラメの汚染が春から夏のレベルを超えて進んでいる点からは、もっと深刻な事態もあり得ると考えられます。圧力容器から落ちた溶融核燃料が、東電の主張するように格納容器内に止まらず、底を突き破って地下水と接触し始めている恐れです。

 「1号機の解体撤去は絶望的に:福島原発事故」で検討したように、炉心溶融を起こして格納容器に落ちてくる際に底にどれだけ水があったかで、格納容器内に止まるか、地下に抜けるかが決まります。ここは本来は水が無い場所で、東電の推定シナリオは希望の限りの最善と見えます。

 得られている水産物観測データの検討もしないで、年内収束宣言に突き進むとは困った政府です。福島第一原発の地下で何が起きているのか、横方向のボーリングその他、取れる方法は何でも試みて検証する必要があります。いくら「冷温停止」と称しても、核燃料があるとされる格納容器底部の温度は未知なのですから。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


高放射性廃棄物は「薄めて焼却せよ」と環境省

 朝日新聞の《芝生シート高線量の小学校、セシウム9万ベクレル 杉並》には、異常なほど高放射性の廃棄物でも一般廃棄物と混ぜて希釈すれば焼却してよいと、空恐ろしいことが平然と書かれています。焼却を認めた環境省は万死に値しますが、専門家からの評価も入れずに役所の意向を記事として垂れ流すマスメディアも酷すぎます。

 杉並区立堀之内小で「4月上旬まで敷いていた芝生の養生シートを同区が調べたところ、1キログラム当たり9万600ベクレルの放射性セシウムが検出された」「国が廃棄物処理できる目安とする『1キロ当たり8千ベクレル以下』を10倍以上上回っており」「環境省は12日夜になって『シート1キロに対し他の廃棄物1トンを混ぜて焼却すれば放射性物質は十分希釈される』と回答し、焼却処分を事実上認めた。これを受け、区は焼却する方向で検討している」

 千倍に希釈すれば環境に拡散してよいとは、とんでもない解釈です。高放射性廃棄物を通常廃棄物として処理できないようにする基準は何のために作られているのでしょうか。放射性物質は半減期が長く、通常化学物質のように環境の中で無害な物に変わる可能性はありません。高い汚染が発見されたなら環境からきちんと隔離しなければならないのが常識です。今回の論理で善ければ、各地の下水処理施設で困っている高放射性汚泥なども希釈してしまえば善いと解釈できます。そんなことが許されるわけがありません。原因者である東電に最終処分場を造らせ、高放射性廃棄物はそこに持ち込んで長期の監視下に置くしかないのです。この当然の枠組みさえ政府はまだ用意していません。

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『炉心溶融』を避け世論誘導した東電の愚劣

 東電が2日に公表した「福島原子力事故調査 中間報告書」には事実関係で目新しいものはほとんどありません。しかし、「中間報告書 別冊」にある『炉心溶融』という用語を避け事故を小さく見せようと誘導した東電の愚劣ぶりは、記録しておく価値があります。マスメディアが一部で事故直後に使い始めた『炉心溶融』を見事にブロックしておきながら、今頃になって「溶融も含めてその可能性は否定していない」とはよく言います。

 「当社の記者会見発言」はこうなっています。震災翌日の3月12日、1号機は圧力容器の底が抜けて格納容器と同じ圧力に落ちた段階では「現在確認されている水位では、燃料の頂部で若干燃料の損傷の可能性は否定できない」、1号機で水素爆発が既に起きていた14日段階では「(燃料が損傷した可能性を認めるのかとの質問に対して)自然状態より高いレベルの放射能が出ているので、燃料が損傷したとみている」と小さな損傷のニュアンスで答えているのです。

 質問した記者たちがあまりにも原発についての知識を持っていなかった点はマスメディア側の著しい不備、怠慢です。しかし、水素爆発が起きる程度に燃料被覆管のジルコニウムが溶けた状態を、上記のように説明しておきながら「出来る範囲で状態をイメージできる様な平易な言葉で説明してきた」と居直ります。

 政府・経済産業省と保安院もぐるになって『炉心溶融』を避けた、決定的な事実の証言もあります。「4月10日、当社より経産大臣に1号機〜3号機が炉心溶融しているが、その程度については、評価できないと説明。その場において、経産大臣、保安院、東電の間で用語の定義が曖昧であることに関する議論を実施。その結果、『炉心溶融』という言葉を使わずに『燃料ペレットの溶融』を使うように経産大臣より指示あり」です。それ以降、5月に炉心溶融を認めるまでの記者会見のやり取りは、まるで禅問答の様相です。

 科学技術社会論学会研究大会のシンポジウムで天文学者の牧野淳一郎氏が「原子力災害と科学者、STS研究者」と題した発言をしています。バイアスがかかっていない科学者の目に事態がどう映ったのか見るには良いと思います。

 「事故直後の1週間程度、原発事故の影響がどれほどのものか、は国・東京電力の公式発表やメディア報道からはよくわからなかった(例の『ただちに健康に影響はない』しか情報がなかった)」「国・東京電力の3月頃の発表と、現在わかっている当時の原子炉の実際の状況、放射性物質の放出状況には大きなずれがあった」

 3月13日に私が書いた「福島第一原発3号機も炉心溶融、後手の連続」があります。新聞社の科学部時代に原発取材を経験したジャーナリストとして公表済みの事実関係だけでも、事態の進行は読みとれました。ところが、政府・東電が『炉心溶融』を避け続けたため、在京メディアの幹部は疑心暗鬼に陥りました。『炉心溶融』を言う記者は執筆から外されたとも聞きます。「炉心溶融認めず」が、周辺住民の避難遅れやヨウ素剤の服用せずに繋がったのですから、東電の愚劣は実質的な被害拡大に及んだのです。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


1号機の解体撤去は絶望的に:福島原発事故

 福島第一原発で事故を起こした1〜3号機の炉心状況について《溶融燃料、コンクリ床浸食=格納容器内で最大65センチ−東電が推定公表・福島第1》(時事通信)との報道がありました。炉心溶融で核燃料が圧力容器から溶け落ちたけれど、下の格納容器コンクリート床を浸食しただけで外部には出ていないと主張しているのです。しかし、東電の期待を込めた最善の推定でも、少なくとも1号機の解体撤去は絶望的に見えます。チェルノブイリ原発のように永遠の管理を強いられるでしょう。



 上の図は最も溶融が進んだ1号機の状況説明です。「1号機は『相当量』、2、3号機は一部の溶融燃料が原子炉圧力容器から格納容器に落下したと推定。床面のコンクリートを1号機では最大65センチ浸食した可能性があるが、いずれも格納容器内にとどまっており、注水で冷却されているとしている」

 東電の「福島第一原子力発電所 1〜3 号機の炉心状態について」は多くをコンピュータシュミレーションから割り出しています。格納容器内は恐ろしい高線量で現場を確認するすべがないからです。計算の前提を変えれば結果はいくらでも変わる不確かさが再三、注記されています。読んでいくと、炉心溶融を起こして格納容器に落ちてくる際、床に水があって冷やしたかどうかが分かれ目のようです。

 格納容器の床には本来は水はありません。添付資料12「コア・コンクリート反応による原子炉格納容器への影響」には、水があった説明として圧力容器の水が漏れ落ちてくるとしています。「原子炉冷却材再循環系ポンプのメカシール部には、炉水が原子炉圧力容器バウンダリ外へ流出しないようシール水が供給されている」「全交流電源の喪失に伴いシール水を供給している制御棒駆動系が停止したため、メカシール部から炉水が流出したと想定される」

 水が無ければ格納容器の底貫通まで進んでしまうと専門家はみていました。1号機の炉心溶融は早く3月12日未明ですから、シール部から漏れ出る程度で十分な水が溜まっていたかに疑問が残ります。格納容器貫通の可能性は消せません。溶融まで時間があった2、3号機では水があったとされています。

 この推定を受け入れたとしても1号機の解体撤去は非常に困難です。圧力容器の解体から始め、格納容器全体を水で満たして上部の蓋を開けなければなりません。格納容器が健全かにも疑問がありますが、圧力容器から上が撤去できても、床に食い込んだ100トンもある形状不明な核燃料溶融体を、水の中で遠隔操作で細切れに切断して運び出すのです。乱暴にやれば高汚染域が広がり、人が入れるように除染することも不可能になります。技術開発次第とは、とても言えません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー


2、3号機救えた:福島原発事故の米報告解読

 米国の原子力専門家組織が、福島原発事故について初めて時間を追って現場の措置・経過を詳細に記した98ページ報告書を公表しました。事故後8カ月も経過しながら国内に同種の報告が存在せず、どうして原子炉が3つまでも炉心溶融を起こしてしまったのか、統一した理解が出来ませんでした。報告を解読して浮かび上がるのは、どの炉でも炉心を冷やす注水の判断遅れが根底にある点です。津波襲来で全電源を失った今回事故でも自動的に冷却を続けてくれる最後の持ち時間はあり、その間に早く廃炉の覚悟をし海水注入に踏み切れば2号機、3号機は炉心溶融から救えたと読めます。東電の愚図愚図ぶりに苛立ちを覚えます。これだけの大事故の収拾にはナショナルチームであたるべきなのに、一企業の欲得がらみの対処に任せた政府の責任は大きいと考えます。

 報告は東京電力の操作員や幹部からの聞き取りと東電データ閲覧で出来ています。「Special Report on the Nuclear Accident at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Station」で、日本国内では「事故対応に追われているから」と本格的な事故経過取材に応じていない東電のダブルスタンダードに、マスメディアは怒らないのでしょうか。

 【1号機】住民避難完了を待ちベント?

 最後の持ち時間は各原子炉に備えられた緊急時対応装置によって決まります。一番短いのが旧式の1号機で非常用復水器は最大8時間しか動きません。3月11日午後4時前には津波による全電源喪失ですから、11日中に代替えの冷却を始めなければ核燃料が溶け始めると覚悟しなければなりません。夕方には消防車による炉心注水を決めますが、消防車は道路が地震で破壊されて到着が遅れ、淡水注入を始めたのは翌12日午前6時前です。午前2時45分には原子炉圧力容器に穴が開いて格納容器と同じ圧力に下がったと観測されていますから、この時点で炉心溶融は起きてしまっていたとみるべきでしょう。既に勝負は着いていました。非常用復水器はなぜか途中で運転が停止され、冷却機能は3分の1しか使われなかったと判明しています。

 1号機では格納容器の高圧破壊を防ぐための大気放出「ベント」が遅れ、被害を大きくしたとの批判があります。当時の菅首相が12日早朝に現地入りした関係で遅れたとの見方がありましたが、この報告は注目すべき東電側釈明を入れています。「6時50分、経済産業省は1号機のベントを命令」「7時11分、首相到着、討議の後、東電は住民の避難が完了したら午前9時にベントすると約束した」。この報告を紹介しているニューヨークタイムズの「Report Gives New Details of Chaos at Stricken Plant」は「この報告が示唆するところ、当初のベント遅れは原発幹部が周辺住民の避難を待つよう求めたからだ」としています。

 しかし、9時すぎ実際にベント操作を始めてみると電源があるとの前提で書かれた手順書と違って、容易に進みません。遠隔操作できないので現場に行ってバルブを操作しようとしても、放射線量が高すぎて帰ってくる作業チームも出ます。電池を持ち込んだり、空気圧縮器を導入したりして午後2時半にようやくベントが成功しました。この直後に防火用水からの淡水源が尽きてしまい、所長から海水注入に切り替える指示が出され、作業員は海辺からの中継ホースの設置に追われました。

 格納容器から外部へ放出があったのですから、穴で繋がった圧力容器から、ジルコニウム水蒸気反応で作られた水素が格納容器に流れ込みました。設計圧力の2倍もの高圧に長く晒された格納容器に隙間が出来ていた恐れは強く、原子炉建屋にも漏れだしたと見られます。正確なガス流出経路は不明ですが、午後3時36分に水素爆発が起きてしまいました。早々に炉心溶融した状態で長時間、ベントを遅らせたのが不利な条件を生んだ点は否定できないでしょう。海水注入は爆発の後で始まりました。

 【3号機】海水注入に切り替えで失敗

 2番目に爆発した3号機の緊急時対応は原子炉隔離時冷却系で20時間後の12日正午過ぎに停止し、代わって高圧注水系が自動的に起動してくれました。しかし、高圧注水系も13日午前2時過ぎには電池切れで停止しました。消火用ディーゼルポンプで注水を始めますが、圧力容器が1号機と違って高圧すぎて水が入りません。逃がし安全弁を開いて圧力を下げるべきなのですが、これも電源無しでは動きません。格納容器のベントは午前8時半ごろに成功、間もなく集めてきた電池で逃がし安全弁も開くことができ、淡水注水が始まりましたが、正午過ぎには淡水源が尽きてしまいました。

 海水注入に切り替えるべく急ぎましたが、余震発生による避難などでもたつき、炉心の水位は大きく下がってしまいました。午後1時の測定では核燃料の上端から2メートルも露出していると判明しました。海水注入が始まっても核燃料の露出はずっと収まりません。原子炉の水位や圧力は一度、変動してしまうと簡単には元に戻せません。最初から海水注入を続けていれば善かったケースでしょう。結局、丸1日、核燃料の冷却は足りず、炉心溶融から水素ガス発生に至ります。消防車の追加や自衛隊給水車の派遣を要請しても遅く、14日午前11時過ぎに原子炉建屋で水素爆発が起きました。爆風は周辺に配置されていた発電機や消防車、給水ホースなどに大きな被害を与えました。

 【2号機】60時間もの余裕を生かせず

 1号機と3号機の爆発で割を食ったのが2号機です。2号機は12日午後3時半には応援に駆けつけた電源車との接続が出来て機能回復に向かっていたのに、わずか6分後に隣の1号機が爆発し、電源車も接続ケーブルも直撃されて回復不能に陥りました。14日の3号機爆発では圧力抑制室のバルブが閉じられなくなり、海水注水用に展開した消防車や中継ホースが痛めつけられ、準備作業に支障を来しました。

 悪いことに爆発から間もない14日午後1時過ぎ、緊急時対応の原子炉隔離時冷却系が止まったと判断され、この時、原子炉水位は核燃料の上端から2.4メートルも上でした。しかし、午後4時半には核燃料の露出が始まりました。海水注入には圧力容器が高圧すぎるので逃がし安全弁を開く準備に掛かりますが、集めた電池のパワー不足で開きません。注水無しで水位は下がり続け、ジルコニウム水蒸気反応で水素ガスが発生していきました。

 午後6時には逃がし安全弁の開放に成功しましたが、圧力はなかなか下がらず、水位はどんどん下がる副作用を生んで核燃料の全面露出にまで至ります。逃がし安全弁開放で水素ガスと放射性希ガスは格納容器に流れ出しました。海水注入が可能になったのは午後7時20分でした。その後も炉心の水位回復は進まず、翌15日午前6時頃、圧力抑制室付近での小爆発による損傷で大量の放射性希ガス外部流出に至ったと考えられます。3つの原子炉で最も長い60時間以上も時間的な余裕があったのですから、原子炉隔離時冷却系が止まる前に海水注入の条件整備をしておけばと悔やまれます。

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 民間レベルで福島事故の調査活動をしている「FUKUSHIMAプロジェクト 」の委員長、山口栄一同志社大教授は「FUKUSHIMAの本質を問う【1】原発事故はなぜ起きた?」で「1号機の場合は毎時25トンの水を入れ続ければ熱暴走を防げますが、貯水タンク内の淡水では到底足りません。豊富にあるのは海水だけ。もはや、海水注入以外の選択肢はなかったのです」と指摘しています。淡水が尽きたら海水に切り替えるのは素人目には当たり前でも、今回の報告にある原子炉の思うようにならない特性を考えると、3号機のように海水注入で将来は廃炉やむなしの判断を先送りして、まず淡水を使ってみる戦術は自殺行為と評すしかありません。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー

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原発ストレステストに専門家から当然の批判続出

 停止中の原発を運転再開させるか判断する材料として導入されたストレステスト(耐性評価)に専門家から批判が続出したと、主要紙が伝えました。原発の安全を担保してきた安全審査指針が福島原発事故で崩壊したのに、それに手をつけずに別基準で安全を担保しようとするのですから、これまで原発に携わってきた専門家が納得できるはずがありません。まさしく「原発運転再開:安全指針の担保外す政府こそ違法」なのです。

 経済産業省原子力安全・保安院はストレステストについて専門家の意見聴取会を14日に初めて開きました。朝日新聞の《国がストレステストの審査開始 専門家から批判相次ぐ》は「聴取会委員の井野博満・東京大名誉教授(金属材料学)は『不備があった安全審査を見直さないまま、テストを安全性の判断に使うのは理解できない』と指摘。テスト以前に、耐震設計への安全評価の見直しや、老朽化した原発の運転をどうするかを再検討すべきだとした」と報じました。

 また、テストは2段階で、まず再稼動させるための1次評価をし、その後に厳しい条件の2次評価をすることになっています。「この点でも井野委員は『すぐに全原発を停止して、2次検査をするべきだ』と批判した。岡本孝司・東大教授(原子力工学)も『安全の本質を確認する2次評価を先にやるべきだ』と訴えた」と批判が相次いで、この日に予定されていた関電大飯原発3号機の1次評価報告書の検討には入れませんでした。

 また毎日新聞は《ストレステスト:評価手法に疑問−−有識者会合》で「出席者からは『ストレステストの有効性を検証する上でも、事故が起きた東京電力福島第1原発を対象にストレステストを実施すべきだ』など、評価の手法などに疑問や注文が相次いだ」と伝えています。

 別の角度からの異論も出ています。地震や津波など自然現象を想定するだけでは不十分で、航空機の衝突や船舶の座礁、さらにテロによる破壊活動なども考えるべきだとされました。