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急拡大する中国ロボット産業は脅威か実態探る

 中国は世界最大の産業用ロボット市場になり、国をあげてロボット産業を育成し千社もメーカーが出来ました。独ロボット大手クーカの買収にも手を出す急拡大ぶりが脅威になるか、最近続く報道から実態を探ってみます。2015年に世界の産業用ロボット市場で売られたのは24万8000台、この内、6万7000台が中国に導入されています。中国が世界一の市場になったのは2013年からであり、2018年には15万台と2倍以上になると予測されています。世界産業用ロボット市場の推移と2015年の各国シェアをグラフで見ましょう。


 今世紀に入ってしばらく停滞していたのに2011年から世界市場が急拡大しています。2011-2012年は日米が引っ張ったのに対して2013年からは中国が躍り出ました。2015年で中国が27%を占め、今後はさらに大きな市場になっていきます。

 しかし、2015年に導入された中国のロボットは海外製品が圧倒的でした。サーチナ《中国の産業用ロボット市場は世界最大、だが市場は外資メーカーのもの》がこう伝えました。

 《15年の中国の産業用ロボット市場におけるシェアは、日本のファナックが18%、ドイツのクーカが14%、スウェーデンのABBが13.5%、安川電機が12%、中国を除くその他のメーカーが合わせて34.5%であり、中国メーカーのシェアは合計でも8%に過ぎない》

 アップルからiPhone組み立てを請け負うフォックスコンが単純労働による人海戦術で増産を凌いだ結果、多数の自殺者を出した悲劇は記憶に残っています。そのフォックスコンが従業員11万人が働く崑山工場で6万人を何千台もの産業ロボットで置き換えると5月に発表しています。製品の質を安定させるためにも、また生産年齢人口が頭を打ち減少期に入った人手不足対策としても活用され始めたのです。

 しかし、全体では好意的に見ているウォールストリートジャーナル《【寄稿】到来する中国のロボット革命 成長力と競争力に貢献か》の記述を見ても、現在のロボット導入が初歩的な段階にある点は明瞭です。

 《中国がロボット革命を支持したのは遅かった。中国では製造業労働者1万人当たりロボット台数は依然としてわずか36台だ。これに対し日本では、1万人当たり315台、韓国では同478台だ。しかし中国はこの差を縮めるべく大胆に動いている。中国政府は労働者1万人に対するロボット台数を2020年までに100台以上に引き上げる目標を設定した》

 昨年の第481回「中国の夢、技術強国化は構造的に阻まれている」で指摘したように、中国の自主ブランド自動車メーカーの多くが自前のエンジンを生産できません。ロボットで言えば、力を伝え動きを制御する高度な減速機を造れていません。形にならないアフターサービスにお金を払わない国民性も大きな妨げになるでしょう。それにもかかわらず40ものロボット工業団地が地方で相互に連絡もなく作られ、バラバラに動き出しています。中国自身には世界と戦える技術はありません。

 そんな中で中国家電大手の美的集団が今月、大手ロボットメーカー、独クーカへの株式公開買い付けで94.55%の株を獲得したのは衝撃的でした。美的集団は本社としてクーカに干渉せず、独占禁止法に関する審査を経て来年3月にも買収完了の意向だといいますが、ニューズウィーク《中国美的の独クーカ買収、自由貿易派メルケル首相のジレンマに》が伝える大問題が残っています。ドイツ政府が強力に進めたい「インダストリー4.0(第4次産業革命)」の鍵になる企業だからです。

 《ドイツは自由貿易を掲げているものの、国内の一部ビジネスリーダーは、美的によるクーカ買収計画が「インダストリー4.0」を推し進める国の努力に水を差すのではないか、と懸念している。独IT業界のある幹部は匿名を条件に、クーカの技術が「インダストリー4.0」の中核であるにもかかわらず、もっと大きな騒動になっていないことに驚いていると語った》

 例えば日本大手のファナックを中国が買収となれば黙って見過ごされるとは考えにくいと断言できます。ドイツの対外貿易法には戦略的に重要な企業を保護するための拒否権があり、今は沈黙しているメルケル政権がどう出るかは分かりません。


東電資金破綻の現実を認めぬ政府と既成メディア

 もはや電気料金しか収入が無い東電が廃炉に掛かる何兆円もの追加負担を電気料金に転嫁しないで実現する不思議な記事が日経新聞に出ました。経済産業省の言い分をそのまま書いたとは言え経済紙として杜撰に過ぎます。福島原発事故の後始末は絶望的になっており、炉心溶融した原発の石棺化が言われ始めたり、原発建屋への地下水流入を遮断する周囲1.5キロの凍土壁は完全凍結が困難になったりしています。これには福島の地元から猛反発が出ているものの、収拾費用全体に関わる負担構図が破綻している現実を国民に知らせるべきです。ところが日経に限らず在京の既成メディア各社は見て見ぬふりをするばかりです。

 7月末の記者会見で東電の数土文夫会長が廃炉に関して政府に支援を求める考えを表明しました。これまでに資金の目処を付けている2兆円程度ではとても収まらない状況が見えて来て「経営に与えるインパクトが大」と経営者として放おっておけないと考えたからでしょう。

 これに対する続報として日経新聞が《福島廃炉、公的基金で支援 東電が長期で返済 経産省検討》を掲載しました。

 《経済産業省は東京電力福島第1原子力発電所の廃炉に向けた新たな支援措置の検討に入った。原子力損害賠償・廃炉等支援機構に公的な基金をつくり、廃炉費用を一時的に援助。東京電力ホールディングス(HD)の事業者負担を原則に、長期間かけて国に資金を返す。結果的に電気料金に転嫁されないよう東電HDには徹底した経営改革を求める》

 《福島第1原発は2011年3月の東日本大震災に伴う事故で、1〜3号機の炉心溶融(メルトダウン)が発生した。溶け落ちた核燃料の取り出しなど廃炉の完了には、数十年にわたる時間と数兆円規模に上る資金が必要とされる。ただ、東電HDがこれまで資金手当てのメドをつけたのは約2兆円にとどまり、会計上も約2500億円分しか処理が済んでいない》

 廃炉費用ばかりではありません。立て替えられている巨額な除染費用だって東電に請求されています。賠償も続いています。電気料金には転嫁しない、経営改革で長期的に返済――とキレイ事が言われますが、原発事故後に資産の総整理をして吐き出した東電のどこに何兆円ものお金を生み出す余力があるのでしょうか。

 2012年に作られた東電ひとりが責任を負って費用を負担する建前を見直すべきです。当時書いた第329回「国の巨額支援でなく東電の国有化と電力改革を」でこう指摘しました。

 《もともとの枠組みが間違っています。政府は福島原発事故の収束と廃炉を東電の責任とし、発生した除染費用も立て替えた後で東電に請求するとしています。事業者責任を問う法律の建前と東電前経営陣の企業存続希望によって現在の枠組みが出来ました。しかし、1兆円を投入した「実質国有化」後、百日を経過して第三者が冷静に見れば、全く展望が無いと知ったに過ぎません。東電がこうした費用を負担し続けるならば、原資は東電管内の電気料金です。東電管内だけが止めどなく高い電気料金になっていき、国内経済が歪みます》

 原発事故を起こしたのは東電ですが、原発の安全審査をして運転にゴーサインを出したのは国です。東電だけでなく国にも大きな責任があったのに誰も原発事故の責任を取らないで済ませてしまいました。責任を取らないから費用負担も無くなりました。東電ひとりで巨額負担に耐えるという虚構には最早無理があるので、国民負担せざるを得ない部分を明確にするべきです。既に9兆円の無利子資金枠は使い果たしつつあり、10兆円かそれ以上にもなろうと考えられます。はっきりさせると国の責任を問われ、脱原発への道筋になるから政府は隠しているのです。


文科省主導の大学改革が国立大の首を絞める

 国立大に対する運営費交付金の継続的な削減が論文数・重要論文数の減少を招いている現状に、文科省主導の大学改革が決定的な打撃を与えそうです。新潟大教授が「年間研究費が3万円に激減」とブログで明かしました。独立法人化以前には研究費が40万円あり、以後やせ細りながらも昨年は10万円だったのに事務経費まで含めてこの金額では何も出来ません。毎年1%の運営費交付金削減は今年に限り見送られており、これほどの経費削減は文科省主導の改革で新学部創設が図られるからでしょう。地方の国立大は旧帝大などのように科研費が獲得できないでも、やり繰りして研究論文を生産してきたのですが、最終的に首が絞められたと言わざるを得ません。

 新潟大の三浦淳教授(ドイツ文学)が《新潟大学の話題/ ブラック化する新潟大学(その17)・・・激減する研究費と羊のごとき教員たち》でこう明かしています。

 《人文学部では教員一人あたりの研究費は3万円となった。前年度も前々年度比で激減していたわけだけど、2年続けての激減である。おさらいをすると、私が大学から1年間にもらう研究費は以下のように変遷してきている。

 2003年度まで   研究費約40万円 + 出張旅費6万円
 2004年度独法化 出張旅費を含めた研究教育費が20万円
 2015年度     同上 10万円
 2016年度     同上 3万円

 理学部の先生にうかがったところでは、理学部の教員も一人3万円だそうである。これも以前に書いたことだけど、この研究教育費には研究室で使うパソコン・プリンターのインク代など、事務的な経費も含まれている。如何ともしがたい額だ。万事に自腹を切らないとやっていけない状態になっている》

 財政難の新潟大は今年から2年間、退職する教員の補充を止めると公表しています。ところが、文科省が音頭を取っている理工系重視・社会的要請の高い分野に転換の大学改革で「創生学部」を新設すると発表しました。教育学部の文系学科を廃止し、新学部の「専任教員は、学内で再配置した10人と新規採用の8人で構成」と説明されているそうです。財政難の下での無理無茶が研究費激減を招いたと考えられます。新潟大に限った話ではなく、文科省から圧力を受けた他の国立大も一斉に学部の新設・改組に走っています。

 2年前の第435回「2016年に国立大の研究崩壊へ引き金が引かれる」、さらに1年前の第488回「国立大の2016年研究崩壊に在京メディア無理解」で心配した事態が極端な形で具現化してきました。ただでさえ疲弊しきった研究の現場には壊滅的な打撃です。


 この問題を継続的に追っていらっしゃる豊田長康さんが書いている《応用物理学会にて「日本の大学の研究競争力はなぜ弱くなったのか?」》からグラフ「人口あたり高等教育機関への公的研究資金の推移」を引用しました。「日本の高等教育機関への公的研究資金(人口あたり)は停滞し、多くの先進国との差が開いた」とのコメントが付けられています。日本より下はチェコ、スペインだけ。人口当り論文数で世界37位まで落ちたのも当然と思わせられるグラフです。


 理系論文について先進国で特異な落ち込みは知られていますが文系はどうでしょうか。文系の論文順位が出ている「主要14か国の分野別論文数の順位(その2)」も引用します。「経営・経済学や社会学でも韓国・台湾が上」とコメントされているように、人口が半分以下の韓国、5分の1の台湾に文系の研究論文数で劣っているのです。地方国立大では出張費も出ないところが多々あると聞きますから不思議ではありません。2004年の独立法人化から毎年、運営費交付金を削り続けた結果に対して文科省は危機感を見せません。世界と競える有力大学があれば良いとお考えのようですが、世界の大学ランキングから日本勢は姿を消しつつあります。


低い投票率続きでは自公政権を揺さぶれない

 参院選で民主党から党名を変えた民進に多少は復調の気配は見えましたが、自公政権に揺るぎはありません。政権交代があった2009年総選挙から国政選を並べると投票率の低下が著しく変動を起こす票が足りないのです。現政権への評価が高いのではなく、政権交代しても、ほとんど業績をあげられなかった民主党政権への失望がまだまだ尾を引いています。


 NHK調査の政党支持率と比例区での党派得票率を対比して、2009総選挙から2010参院選、2012総選挙、2013参院選、2016参院選と並べました。政党支持で目につくのは今回、無党派層が44.2%とかつて無い多さになっている点です。改憲の自民から離れる層があり、民進は民主の時代からの低迷を脱せず、維新の分裂もあって行き場がない無党派層が膨張しました。

 党派別得票率では自民35.9%・公明13.5%が3年前と変わらぬ強さを見せます。一方、民進が21.0%と前回13.8%のどん底を脱して上向き、共産は10.7%と国政選で着実に積み上げています。政党支持率以上の票積み上げに政権批判のトーンが読み取れます。

 朝日新聞の《参院選、「野党に魅力なかった」71% 朝日世論調査》は選挙結果について2択で質問し、《「安倍首相の政策が評価されたから」は15%で、「野党に魅力がなかったから」が71%に及んだ》と伝えました。この2択が適切か議論があるでしょうが、低投票率は説明されています。

 東京での復調を開票途中に『参院選速報、東京では民進党が自民党を逆転か』で伝えましたが、結局、東京の比例区得票率は自民34.4%に対して民進19.8%に終わりました。個人票で蓮舫候補の人気が高かった結果になっています。

1年半前に第461回「IMFは『失われた30年』認定、首相の強気は虚構」で紹介したようにアベノミクスは国際的には虚構に近いものです。最近の経済変動以前に馬脚は現れていました。しかし、そのアベノミクスに代わる経済政策を打ち出せない野党ではどうにもなりません。マスメディアも小手先の批判をするばかりでなく、本格的な政策提言が出来る体質に進まねばなりません。

 軍事力を捨てた戦後の日本が歩んできた科学技術立国の歩みが崩壊しつつあるのは第500回「大学ランク退潮は文科省が招いた研究低迷から」など一連の検証記事で明白にしました。この十年、知的な営みを象徴する論文数が減少し、人口当たりで見れば東欧の小国にも抜かれてどうするのかです。トップクラス大学だけ育てれば世界に勝てる――自公政権の恐るべき錯誤をマスメディアはきちんと批判できません。


参院選速報、東京では民進党が自民党を逆転か

 参院選の大勝に酔う自民党に冷水が浴びせられるかもしれません。有権者の1割がいる首都・東京でこれまでの国政選挙とはトーンが変わったのです。民主党から変わった民進党が自民を逆転したと考えられ速報します。全国区の集計には時間が掛かりますが、東京選挙区の候補者別得票を開票率99.07%の段階で主要党派別に合計して、過去の国政選での比例区党派別得票数と比較するグラフにしてみました。


 自民から民主へ政権交代があった2009年総選挙から2010年参院選、自民・公明に政権に戻る2012年総選挙、続く2013年参院選、それに今回の参院選候補者別得票計を比べています。2009総選挙での圧勝の後、民主党の東京での得票は下がり続け、2013参院選に至っては公明・共産・維新・みんなの党にも及ばぬ惨憺たる水準に落ち込みました。しかし、維新がかつての勢いを失くし、みんなの党が消える状況の中で変化が起きました。

 民進党代表代行で個人的な人気がある蓮舫候補がいるとはいえ、前回の東京選挙区で民主党候補2人を共倒れさせた状況とは明らかに違います。自民の2候補の合計票「1518043」を民進2候補の合計票「1627087」が上回っています。自民は選挙のたびに1524848全国的に議席数は伸ばしているのですが、実際の得票数はさして伸びておらず、今回は東京で減少に転じたようです。

 今回の参院選を改憲の是非、衆参「3分の2」と強引に結びつけるマスメディアの報道姿勢は私には違和感があるところです。改憲の手続きや党の姿勢には随分と差があります。有権者の反応は民進の復調に向かうとともに、得票数を増やしている与党の公明党にも改憲を阻む「平和の党」としての役割を付託しているように見えます。

 全国での状況は開票が全て終わってから試みますが、民進党の前途はそれでも楽観できません。2011年初、3月の東日本大震災の前に「『新政権を育てるのに失敗』年賀状での心配事」で警鐘を鳴らしました。《政権発足から1年以上を経過して、きちんとした政策ブレーンを形成できない民主党は叱責されるべきですが、既成メディアも自民党政権時代と違って政権批判ばかりでは駄目なことを知るべきでした》

 政権に就いたのに官僚を敵視するばかりで、官僚の使い方を知らない状況、政策ブレーンの形成不足はさほど改善されていないのではないでしょうか。安倍政権の暴走を止めるには心もとない限りです。マスメディアが政権の飼い犬化され、なすべき仕事をしていない現状では、2011年賀状の危惧は続いています。